説明

通信機器用の金属筺体

【課題】屋外に設置される通信機器用の金属筺体において、筺本体と蓋の当接面の防水構造において、電磁波の侵入と洩れ防止の効果を高めるために、導電性防水パッキンに接する部分の防錆塗装が省略されている防水構造において、防水パッキン近傍の防錆を図る。
【解決手段】筺本体2と蓋3の互いの当接面20、30の少なくとも何れか一方の面に、筺本体2の開口を一周して周溝26を設け、該周溝に防水パッキン4を嵌め込み、筺本体2と蓋3とによって防水パッキン4を挟圧した通信機器の金属筺体において、筺本体2と蓋3の少なくとも何れか一方には、周溝26より外側位置に、筺本体2と蓋3の当接面20、30間の毛細管現象による水の移行路を途切れさせる凹み部25が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として屋外に設置される通信機器用の金属筺体に関し、防水構造に特徴を有する金属筺体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話等の移動端末の通信用基地局のように、屋外に設置される無線通信機器の外殻である金属筐体は、内部に収容した配線基板上の電子部品、電子回路を浸水から守るために防水構造になっている。
図7、図8は、その防水構造の一例を示している(特許文献1)。
金属筺体(1)は、筺本体(2)と蓋(3)とからなり、両者は互いに全周に亘ってフランジ(21)(31)を有して、フランジ(21)(31)どうしがネジ(5)によって締付け固定されている。
筺本体(2)のフランジ(21)に二重に周溝(26)(28)が開設され、外側の周溝(26)に防水パッキン(4)、内側の周溝(28)にリング状の吸水材(6)が装着されている。
両フランジ(21)(31)をネジ締めすることにより、防水パッキン(4)及び吸水材(6)を弾性変形させて、防水パッキン(4)の接触圧で水の侵入を防止する。侵入を防止しきれずに防水パッキン(4)を越えた水は吸水材(6)が吸収して、筺体(1)内への水の侵入を防止している。
【0003】
特許文献1には開示していないが、屋外設置の通信機器用の筺体には、防錆塗装が施されている。
但し、金属筺体(1)は、外部の電磁波が筺内に侵入すること及び筺内から外部へ電磁を漏らすことを防止する効果を高めるために、筺本体(2)と蓋(3)は導通する様に固定され、両者の接触面には防錆塗装は行われない。防水パッキン(4)自体も導電タイプが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−326475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
雨水などの水分は筺本体(2)と蓋(3)のフランジ(21)(31)間の隙間を毛細管現象によって侵入して防水パッキン(4)に達することがある。防水パッキン(4)は周溝(26)に収容されて水が溜まり易く、又、前記の様に、フランジ(21)(31)の防水パッキン(4)に接する部分は防錆塗装が施されていないから、防水パッキン(4)近傍にて、短期間でフランジ(21)(31)に錆が生じて防水性能が低下し、筺体(1)内に水が侵入して大きなトラブルを招来する虞れがある。
又、フランジ(21)(31)をネジ止めするために、フランジ(21)(31)の張出し長さを大きくせねばならず、筺体(1)の重量増を来す。
特許文献1の吸水材(6)は、防水パッキン(4)よりも内側に配備されているから、該吸水材(6)には、毛細管現象によって外部から防水パッキン(4)に水が侵入することを防止する役割は一切ない。即ち、吸水材(6)は防水パッキン(4)近傍の防錆防止に何ら寄与しない。
本発明は、電磁波の侵入及び洩れの性能を低下させることなく、防水パッキン近傍の防錆を図った通信機器用の金属筺体を明らかにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1は、筺本体(2)と該筺本体の開口(27)を塞ぐ蓋(3)とからなり、筺本体(2)と蓋(3)の互いの当接面(20)(30)の少なくとも何れか一方の面に、筺本体(2)の開口(27)を一周して周溝(26)を設け、該周溝に防水パッキン(4)を嵌め込み、筺本体(2)と蓋(3)とによって防水パッキン(4)を挟圧した通信機器の金属筺体において、
筺本体(2)と蓋(3)の互いの当接面(20)(30)の内、少なくとも何れか一方には、周溝(26)より外側位置に、凹み部(25)が形成されている。
【0007】
請求項2は、請求項1の通信機器用の金属筺体において、防水パッキン(4)は導電性であり、筺本体(2)及び蓋(3)の該防水パッキン(4)との接触部も導電性が維持されている。
【0008】
請求項3は、請求項1又は2に記載の通信機器用の金属筺体において、筺本体(2)と蓋(3)には互いにフランジ(21)(31)が設けられて該フランジどうしが当接し、両フランジ(21)(31)から部分的に外側に延びた突片(22)(32)どうしがネジ(5)の締め付けによつて固定されている。
【0009】
請求項4は、請求項3に記載の通信機器用の金属筺体において、ネジ(5)と防水パッキン(4)との間に凹み部(25)が設けられている、通信機器用の金属筺体。
【0010】
請求項5は、請求項3又は4の通信機器用の金属筺体において、凹み部(25)は、筺本体(2)の突片(22)上及び/又は蓋(3)の突片(22)上にてネジ(5)よりも内側に設けられ、凹み部(25)の両端は突片の外側に開口している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の通信機器用の金属筺体は、筺本体(2)と蓋(3)の互いの当接面(20)(30)間に水が侵入しても、凹み部(25)によって毛細管現象による水の移行路が途切れるから、それ以上に防水パッキン(4)側へ水が移動することを防止できる。このため、筺本体(2)と蓋(3)の当接面(20)(30)において、防水パッキン(4)と接する部分に、防錆塗装が省略されていた場合でも、当該部分の錆による防水効果の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】通信機器用の金属筺体の断面図である。
【図2】通信機器用の金属筺体の分解斜視図である。
【図3】第1実施例の防水構造(筺本体側と蓋川)の斜視図である。
【図4】同上の防水構造組立の断面図である。
【図5】第2実施例の防水構造(筺本体側)の斜視図である。
【図6】第3実施例の防水構造(筺本体側)の斜視図である。
【図7】従来例の通信機器用の金属筺体の防水構造(筺本体側と蓋川)の斜視図である。
【図8】同上の防水構造組立の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施例(図1乃至図4)]
通信機器用の金属筺体(1)は、一面を開口(27)した略直方体の筺本体(2)と蓋(3)とからなる。
筺本体(2)の開口縁と蓋(3)の外周には夫々フランジ(21)(31)が突設されており、フランジ(21)(31)どうしが当接して、筺本体(2)の開口(27)を閉じる。
【0014】
筺本体(2)のフランジ(21)の相手フランジ(31)に対する当接面(20)に、開口(27)を一周して周溝(26)が開設され、該周溝(26)にOリング等の防水パッキン(4)が周溝(26)から少はみ出して嵌め込まれている。
防水パッキン(4)は導電性を有している。
【0015】
上記フランジ(21)(31)の夫々の四隅近傍の互いの対向位置に突片(22)(32)が突設されている。
筺本体(2)のフランジ(21)上の突片(22)は、該フランジ(21)の当接面(20)よりも低く突設され、該フランジ(21)に対して間隔を存してボス(24)を突設しており、該ボス(24)の端面がフランジ(21)の当接面(20)の高さに一致している。
上記ボス(24)に突片(22)を貫通してネジ孔(23)が開設されている。
【0016】
蓋(3)のフランジ(31)上の突片(32)は、該フランジ(31)の相手フランジ(21)に対する当接面(30)に揃っている。
突片(32)には、前記筺本体(2)側の突片(22)のネジ孔(23)との対応位置にネジ挿通用の孔(33)が開設されている。
【0017】
上記筺本体(2)と蓋(3)には、防錆塗装が施されているが、防水パッキン(4)に接する部分、具体的には、筺本体(2)のフランジ(21)の周溝(26)内面、及び蓋(3)の該周溝(26)に対向する部分には、防錆塗装は省略され、導電性の防水パッキン(4)が直接に筺本体(2)と蓋(3)の金属表面に接する様になっている。
【0018】
筺本体(2)に蓋(3)を被せ、蓋(3)側の孔(33)からネジ(5)を挿入し、筺本体(2)側のボス(24)に螺合して締め付け、筺本体(2)と蓋(3)のフランジ(21)(31)によって防水パッキン(4)を弾性変形させ、防水パッキン(4)の両フランジ(21)(31)に対する接触圧によって防水を図る。
【0019】
ネジ(5)の締め付けによって、フランジ(21)(31)の当接面(20)(30)を密着させても、当接面(20)(30)間に微細隙間が生じて毛細管現象による水の侵入が起こることは排除できない。
毛細管現象は、締付け部近傍、即ち、ネジ(5)の近傍で顕著に現れる。
しかし、前記筺本体(2)のフランジ(21)と、該フランジ(21)から突き出た突片(22)上のボス(24)との空間、即ち、フランジ(21)の当接面(20)からすれば凹み部(25)が、ネジ(5)と防水パッキン(4)との間の毛細管現象による水の移行路を途切れさせる役割をなす。
【0020】
然して、筺本体(2)と蓋(3)の互いの当接面(20)(30)間に毛細管現象によって筺体(1)の外から水が侵入しても、凹み部(25)によって毛細管現象による水の移行路が途切れるから、凹み部(25)ではそれ以上に防水パッキン(4)側へ水が移動することを防止できる。このため、筺本体(2)と蓋(3)の当接面(20)(30)において、防水パッキン(4)と接する部分に、防錆塗装が省略されていた場合でも、当該部分の錆による防水効果の低下を抑えることができる。
【0021】
筺本体(2)と蓋(3)には互いにフランジ(21)(31)が設けられているから、筺本体(2)と蓋(3)の肉厚が薄くても両フランジ(21)(31)によって、筺本体(2)と蓋(3)の必要当接面積の確保及び防水パッキン(4)用の周溝(26)を設けることができる。
両フランジ(21)(31)のネジ締めは、両フランジ(21)(31)から部分的に外側に延びた突片(22)(32)どうしをネジ止めして行っているから、フランジ(21)(31)の張出し長さは、前記した防水パッキン(4)用の周溝(26)の開設及び筺本体(2)と蓋(3)の必要最少限の当接面積の確保ができる程度の最小限に抑えることができ、金属筺体(1)の軽量化に寄与できる。
【0022】
筺本体(2)と蓋(3)の夫々フランジ(21)(31)の当接面(20)(30)に生じるの毛細管現象は該両フランジに対する締付け力の強い箇所ほど顕著に現れる。即ち、両フランジ(21)(31)のネジ締め部近傍に毛細管現象は顕著に現れるが、ネジ止め部と防水パッキン(4)との間に凹み部(25)を設けて毛細管現象による水の移行移行路を遮断しているから、防水パッキン(4)への水の移動を効果的に防ぐことができる。
【0023】
筺本体(2)の突片(22)上に凹み部(25)を設けると、フランジ(21)(31)に凹み部(25)を設け場合に較べて、フランジ(21)(31)の張出し長さを短くできる。
凹み部(25)の両端がフランジ(21)(31)の外側へ開口しているから、凹み部(25)を通じて効果的に排水できる。
【0024】
[第2実施例(図5)]
第2実施例は、第1実施例と基本的には同じであるが、筺本体(2)のフランジ(21)から突出した突片(22)がフランジ(21)の当接面(20)と同じ高さで連続しており、突片(22)上のネジ孔(23)と防水パッキン(4)との間に溝状の凹み部(25)を設けた点が、第1実施例と異なる。
更に簡潔に両者の違いを言うと、第1実施例の凹み部(25)は両端が外側に開口しているのに対して、第2実施例の防水パッキン(4)と略平行に開設されて溝状の凹み部(25)は両端が閉塞している点である。
第2実施例も第1実施例と同様にして、凹み部(25)の存在によって、フランジ(21)(31)の当接面(20)(30)間に生じる毛細管現象による水の移行路を途切れさせることができる。
【0025】
[第3実施例(図6)]
第3実施例は、筺本体(2)のフランジ(21)の張出し長さを大きくし、前記防水パッキン(4)用の周溝(26)の外側に該周溝(26)を一周して環状の凹み部(25)を開設し、該環状の凹み部(25)の外側に蓋(3)を締め付け固定するためのネジ孔(23)を開設している。
防水パッキン(4)の外側に凹み部(25)を環状に開設することにより、フランジ(21)(31)の当接面(20)(30)間に生じる毛細管現象による水の移行路が、フランジ(21)の全周に亘って途切れるので、外部からの水が防水パッキン(4)へ達することを一層効果的に防止できる。
【0026】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0027】
例えば、蓋(3)のフランジ(31)に周溝(26)を開設して、該周溝(26)に防水パッキン(4)を装着することもできる。
又、筺本体(2)と蓋(3)の両方に周溝(26)を開設して、両周溝に跨って防水パッキン(4)を介装することも可能である。
【0028】
又、筺本体(2)と蓋(3)のフランジ(21)(31)の当接面(20)(30)に生じる毛細管現象による水の移行路を途切れさせるための凹み部(25)を蓋(3)のフランジ(31)に開設しても、両方のフランジ(21)(31)に開設しても前記同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0029】
1 筺体
2 筺本体
21 フランジ
22 突片
24 ボス
25 凹み部
26 周溝
3 蓋
31 フランジ
32 突片
4 防水パッキン
5 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筺本体と該筺本体の開口を塞ぐ蓋とからなり、筺本体と蓋の互いの当接面の少なくとも何れか一方の面に、筺本体の開口を一周して周溝を設け、該周溝に防水パッキンを嵌め込み、筺本体と蓋とによって防水パッキンを挟圧した通信機器の金属筺体において、
筺本体と蓋の互いの当接面の内、少なくとも何れか一方には、周溝より外側位置に、凹み部が形成されている、通信機器用の金属筺体。
【請求項2】
防水パッキンは導電性であり、筺本体及び蓋の該防水パッキンとの接触部も導電性が維持されている、請求項1に記載の通信機器用の金属筺体。
【請求項3】
筺本体と蓋には互いにフランジが設けられて該フランジどうしが当接し、両フランジから部分的に外側に延びた突片どうしがネジの締め付けによつて固定されている、請求項1又は2に記載の通信機器用の金属筺体。
【請求項4】
ネジと防水パッキンとの間に凹み部が設けられている、請求項3に記載の通信機器用の金属筺体。
【請求項5】
凹み部は、筺本体の突片上及び/又は蓋の突片上にてネジよりも内側に設けられ、凹み部の両端は突片の外側に開口している、請求項3又は4に記載の通信機器用の金属筺体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−71362(P2011−71362A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221794(P2009−221794)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】