説明

通常の漂白法に引き続きフッ素リン灰石をバイオミメティック析出させることによる、歯の表面保護剤

【課題】漂白に引き続きフッ素リン灰石をバイオミメティック析出させることにより、歯の表面を保護する手段を提供する。
【解決手段】少なくとも1のゲル形成剤A1、水または水と有機溶剤とからなる混合物A2、リン酸イオンまたはリン酸水素イオンA3、場合によりフッ化物A4、場合により少なくとも1のアミノ酸A5、場合により、4〜7のpH値のためのカルボン酸または緩衝系A6を含有する、少なくとも1の、予め調製され、厚さ50〜1000μmを有するゲルフィルムA、および少なくとも1のゲル形成剤B1、水B2、カルシウムイオンCa2+B3を含有する少なくとも1の、厚さ50μm〜5mmのゲルフィルムBを含有する保護剤を使用する。
【効果】漂白に起因する歯の脆弱化が防止され、漂白効果が持続する。漂白によって生じた細孔および亀裂は再石灰化により閉鎖され、新たな着色が低減され、知覚過敏が解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の漂白法に引き続きフッ素リン灰石をバイオミメティック析出させることにより歯の表面を保護する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の色を明るくする(漂白する)ためには、主として強い酸化剤として作用する漂白剤系が使用されている。その濃度は適用形に応じて過酸化物10〜35%である。特に濃縮された過酸化水素溶液または過酸化カルバミドが使用される。その作用様式は、沈着した着色物質を酸化により脱色することに基づいている。これらは口内粘膜に対して攻撃的な作用を有しているので、接触は必ず回避しなくてはならない。しかし強い酸化剤は、エナメル質中の構造に関連するタンパク質を分解する場合もある。歯のエナメル質中の天然高分子の含有率は、成熟度に依存し、かつ成人では約1〜2質量%である。タンパク質は有利にはエナメル質の柱状単位の表面上に存在しているが、結晶構造中に一体化されている場合もある。バイオミネラリゼーションの特徴は、無機質と有機成分(有利にはタンパク質および多糖類)とからなる複合材系であることである。この特殊な相互作用は、耐破壊性の向上につながる。有機成分が化学的に除去されると、脆化が考えられる。さらに酸化による歯の漂白の場合、処理後の、少なくとも最初の数日は不純物に対する感受性が高まるので、部分的に強く痛みを感じる場合がある。おそらく、生物学的マトリックスが酸化されることによって、以前はタンパク質で充填されていた微細な細孔系が通過可能になると思われる。このことによって痛みの刺激がより容易に歯の神経へと導かれ、望ましくない異物が内部へより容易に拡散することができる。このことにより、漂白をしばしば反復して適用しなくてはならず、かつ処理された歯が炎症に対して敏感でありうる理由が説明される。多くの漂白系は、低いpH値で作業されるが、これはさらに、脱灰につながる場合があり、歯がさらに弱くなることを意味している。漂白されたヒトの歯の局所試験によれば、自然な多孔性が認識できるほど増大していることが示された(Bitter N.C.およびSanders J.L.、The effect of four bleaching agents on the enamel surface:A scanning electron microscopic study、Quintessence Int.1993年、24号、第817〜824頁を参照のこと)。ここから、酸の攻撃に対する高い感受性が生じる。歯の硬度は漂白処置の後に測定可能な低下を示さないにもかかわらず、漂白後の歯の研究からは、微小硬さの明らかな低下および同時に進行する脱灰−再石灰化サイクルによる溶解現象の増大が示された。確かにこの効果は、フッ化物を添加することによって若干は低減されるが、しかし脆弱化は止められない(Attin T.、Kocabiyik M.、Buchalla W.、Hanning C.、Becker K.:Susceptibility of Enamel Surface to Demineralisation after Application of Fluoridated Carbamide Peroxide Gels、Caries Res. 2003年、37号、第93〜99頁を参照のこと)。別の研究によれば、エナメル質の引張強度および破損抵抗は、漂白溶液の作用後に30%まで低下することが証明されている(Cavalli、V.等、Effect of carbamide peroxide bleaching agents on tensile strength of human enamel、Dental Materials(2004年)、20号、第733〜739頁を参照のこと)。あるエナメル質の研究によれば、35%の過酸化水素溶液による処理後に、患者の2/3は中程度ないし著しい痛みを報告しており、この痛みは処置後48時間まで継続することが証明されている(Nathanson D.、Parra C.、Bleaching vital teeth:a review and clinical study、Compend.Contin.Educ. Dent.、1987年、8(7)、第490〜497頁を参照のこと)。これらの研究から、確かに髄の不可逆的な損傷に関する明らかな示唆は得られないが、しかし動物試験では生体のイヌの歯を漂白した後に、顕著な炎症、象牙質再吸収から、髄の壊死までが現れた(Nathanson D.、Vital Tooth bleachhing:Sensitivity and Pulpal considerations、JADA、128(1997年4月)、第41〜44頁を参照のこと)。通常の漂白処置のための前提は、いずれの場合でも健康な歯である。知覚過敏症の歯、露出した歯頚またはカリエスが存在する場合には、漂白によって歯の神経が不可逆的に損傷されうる。さらに、健康な歯においても、繰り返し漂白することによって損傷が蓄積されることが考えられる。
【0003】
これらの問題に対抗するために、露出したミクロ細孔をバイオミメティックな手段で再石灰化することによって充填し、さらにリン灰石の保護層を施与することが試みられた。リン灰石、および特にフッ素リン灰石はすでにpH5から熱力学的に安定したリン酸カルシウムとなるので、生理学的なpH値ではカルシウムイオンおよびリン酸イオンの存在下で有利にリン灰石が形成されることは容易に明らかである。生物学的モデルの構造性質に相応させるために、無機質化は有機ゲルの存在下で行われる。このことによって高分子がリン灰石の継ぎ目に組み込まれる。
【0004】
特許文献中には、漂白の、歯質を弱くする作用を、再石灰化により埋め合わせることを目的とした方法が記載されている。酸化剤にカルシウムイオンまたはリン酸イオンを含有する塩が添加されるか、または漂白剤自体がカルシウムイオンおよび/またはリン酸イオンを含有する過酸化物である。US6,521,251は、カルバミド以外に、リン酸カルシウムを含有する組成物を記載しており、その溶解度は、リン灰石、たとえばリン酸一カルシウム、リン酸二カルシウムまたはリン酸三カルシウムよりも若干改善されている。しかしこれらのリン酸カルシウムは全て難溶性であり、従って再石灰化作用よりもむしろ、研磨作用が予測される。実際に、US5,851,514は、特に研磨材としてのリン酸二カルシウムの添加を記載している。US6,419,905は、カリウム塩(たとえばリン酸塩)およびフッ化物を過酸化物に添加することに言及している。フッ化物は、唾液からカルシウムイオンおよびリン酸イオンを結合するために適切であり、このことによってフッ素リン灰石が析出する。それ以上イオンが供給されなくなると、CaF2の形成も観察される。フッ化カルシウム粒子は、プラーク中に貯蔵され、かつ長時間にわたってフッ化物を放出する。というのも、これはリン灰石よりも若干良好に溶解するからである。しかし専門的な漂白の前には、全ての歯を強力に洗浄してプラークが除去される。JP20000051804は、濃縮されたリン酸、濃縮されたH22およびフッ素リン灰石粉末を並行して使用することを記載している。この場合、健康な歯のエナメル質を著しく溶解しうる濃リン酸の使用が問題である。さらに、漂白溶液は著しく腐食性であり、かつ歯肉と接触することは許されないが、しかしこのことは、弱められた形で全ての酸化作用のある歯漂白剤に該当する。さらに、繰り返し適用しても、再石灰化層の増大にはつながらない。ここでも全ての場合に溶解した歯のエナメル質が再び沈着することが推測される。酸不含の適用は、US20050281759に記載されている。実質的な含有成分としてここではペルオキソリン酸カルシウムが提案されている。この思想は、1つの物質が漂白作用と、再石灰化作用とを有するという利点を有する。というのは、酸化と並行してカルシウムイオンおよびリン酸イオンの放出が開始されるからである。この塩が比較的短い作用時間において、顕著な歯の構築に役立ちうるかは不明である。US6,303,104は、可溶性のカルシウム塩およびリン酸塩からなり、漂白作用も有する、酸化剤不含の2成分系を記載している。グルコン酸ナトリウムの添加によって漂白を行う場合、これは歯のエナメル質からの着色性の金属イオン(たとえば鉄)と錯化する。成分を混合する際に、直ちに難溶性のリン酸カルシウムの析出が考えられ、かつ、とりわけ製品が、歯の表面とわずか数分接触するにすぎない歯磨き用ペーストであるので、顕著な再石灰化が生じる理由は認識することができない。さらに、脱色効果は錯化された金属イオンにまで減少し、かつおそらくはエナメル質層の最外層においてのみ作用を示すと思われる。US6,102,050は、二酸化チタン粒子を含有するデンタルフロスを記載しており、これは歯間腔隙に対して漂白作用、再石灰化作用および知覚過敏改善作用を有していると記載されている。ここでは0.1〜1.5μmの大きさの二酸化チタンミクロ粒子が、穏やかな研磨材としても作用するし、エナメル質により吸収されもし、これが漂白作用と結びついている。おそらく該粒子はいずれの場合でも機械的に適切な中空に堆積することができるが、安定した固定は約束されていない。
【0005】
これまで記載した全ての特許は、バイオミネラルが、ミクロ構造およびマクロ構造を決定する特殊な生体分子の存在下で形成されるために、その高い構造的な構成および安定性を達成するのみであることを考慮していない。WO2005/027863は、清浄作用、再石灰化作用、知覚過敏改善作用および漂白作用を有する歯の手入れ剤を記載している。再石灰化および漂白のための活性成分として、ナノスケールのリン灰石が記載されており、これはゼラチン水溶液の存在下に沈殿し、従ってポリペプチドが堆積する。この材料は、いわゆる「新石灰化(Neomineralisation)」により歯の表面上に象牙質に類似した構造の保護膜を形成し、該膜は表面平滑化をもたらし、かつ開いた象牙細管を閉鎖することができることが記載されている。この作用は驚くべきである、というのは、有利にわずか0.01〜2質量%の「ナナイト(Nanite)」(WO01/01930)が歯の手入れ剤中に含有されているにすぎないからである。活性物質の作用は、一日わずか数分にすぎない。従って顕著な無機質の堆積は期待できない。さらに、ナノスケールの粒子は無色であるので、ナナイトの堆積は色の変化につながり得ない。手入れ剤を長時間適用した場合に膜厚が連続的に増大することは観察されない。さらに、象牙質は歯を腐食性の攻撃から保護するために適切ではない。
【0006】
US20005220724およびDE1020040545847に記載されている技術は、エナメル質および象牙質に類似した構造を有する、連続的に成長するFAP層の可能性を提供している。水溶性のリン酸塩およびフッ化物塩は、緩衝されたゲルA中に、カルシウムイオンはゲルB中に混合される。場合によりイオンを含有しない保護層により分離されて、生理学的な温度で固体のゼラチン−グリセリン−ゲルは、加熱下に順次、歯の表面上に施与される。ゲルの交換サイクルに依存して、層の厚さの増大が観察される。成長速度は最大で3〜5μm/日である。歯の材料の生物学的な構造は、個別的にフッ素リン灰石により形成されているが、しかし開放された象牙細管による中空は数回の交換サイクルの後で閉鎖される。ヒトへの適用に関して、適用前にゲルを加熱しなくてはならないことは不利であることが判明した。第二および第三のゲル層を施与することにより、その下に存在する、すでに適用されたゲル層は、再び液状になり、かつ望ましくない方法でその上に存在する層と混合される。特に比較的小さい適用形は、空気に曝されると直ちに乾燥し、次いで加熱による液化はもはや容易に可能ではない。この方法では、正確に定義されたゲル量を歯の上に施与することが不可能である。さらに、厚さ3〜6mmの厚いゲル層が生じ、これは、大きなゲルレザバーのために空間を作らなくてはならないために、副子または硬膏剤のような保護系の場合に問題を生じる。
【特許文献1】US6,521,251
【特許文献2】US5,851,514
【特許文献3】US6,419,905
【特許文献4】JP20000051804
【特許文献5】US20050281759
【特許文献6】US6,303,104
【特許文献7】US6,102,050
【特許文献8】WO2005/027863
【特許文献9】WO01/01930
【特許文献10】US20005220724
【特許文献11】DE1020040545847
【非特許文献1】Bitter N.C.およびSanders J.L.、The effect of four bleaching agents on the enamel surface:A scanning electron microscopic study、Quintessence Int.1993年、24号、第817〜824頁
【非特許文献2】Attin T.、Kocabiyik M.、Buchalla W.、Hanning C.、Becker K.:Susceptibility of Enamel Surface to Demineralisation after Application of Fluoridated Carbamide Peroxide Gels、Caries Res. 2003年、37号、第93〜99頁
【非特許文献3】Cavalli、V.等、Effect of carbamide peroxide bleaching agents on tensile strength of human enamel、Dental Materials(2004年)、20号、第733〜739頁
【非特許文献4】Nathanson D.、Parra C.、Bleaching vital teeth:a review and clinical study、Compend.Contin.Educ. Dent.、1987年、8(7)、第490〜497頁
【非特許文献5】Nathanson D.、Vital Tooth bleachhing:Sensitivity and Pulpal considerations、JADA、128(1997年4月)、第41〜44頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明の課題は、特に酸化作用により漂白された歯の後処理において歯の保護または比較的小さな歯の欠陥の修復を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下では、酸化による歯の漂白の後処理として、リン灰石を歯の表面に適切にバイオミメティックにより無機質化するために、歯を保護する目的で使用することができる、本発明による方法および薬剤を記載する。この修復のための後処理は、生物有機ゲルから複合材を直接成長させることによって、漂白プロセスから生じる無機質およびタンパク質の損失ならびに高まる脆弱性を補償し、かつ漂白作用の延長を伴うことが期待される。活性な無機物の長い作用時間の結果、歯質と共に効果的に成長する、高度に配置された結晶質の層が形成されうる。酸化による侵食によって形成された細孔および亀裂は、再石灰化により閉鎖され、このことにより新たな着色が低減される。保護層が時間と共に摩耗する場合、外側のエナメル層における新たな着色の蓄積は排除される。漂白された歯の保護処理は、漂白の望ましくない副作用を回避するか、もしくは相殺し、かつ歯の安定性を改善する目的を有する本発明による薬剤と結びついている。漂白された歯の着色傾向は、低減することができる。歯が迅速にその本来の安定性を再び獲得するのみでなく、まず高められた過敏性が明らかにより迅速に消失し、かつ漂白効果は保護層によってより長時間維持されることが期待される。より小さい膜厚と結びついた、短縮されたイオン拡散経路によって、リン酸塩とカルシウム塩との再混合が低減され、かつイオン不含の保護ゲルがなくても不均質な核形成表面としての直接歯の表面の特別な利点が顕著に得られる。定義された膜厚によって、歯の上に同一のゲル量を再現可能に施与することができる。該層は、SiC研磨紙により研磨することができる。
【0009】
本発明の詳細な説明
本発明は、通常の漂白法の後に歯の表面を、フッ素リン灰石のバイオミメティックな析出によって保護するための薬剤に関し、該保護剤は、
A 少なくとも1の、厚さ50〜1000μmを有する、予め調製されたゲルフィルムAおよび
B 少なくとも1の、厚さ50μm〜5mmのゲルフィルムB
を有しており、ゲルフィルムAは、
ゲル形成剤、
水または水と有機溶剤とからなる混合物、
ゲル1リットルあたり、0.01〜2モルのリン酸イオンまたはリン酸水素イオン、
場合によりフッ化物、
場合により少なくとも1のアミノ酸、
場合によりカルボン酸または4〜7のpH値のための緩衝系
を含有し、ゲルフィルムBは、
ゲル形成剤、
水、
0.05〜3モル/lのカルシウムイオンCa2+
を含有している。
【0010】
このような薄い、予め調製されたゲルフィルムの使用は、温めて流し込まれるゲルの使用に起因するUS20005220724に記載されている欠点を補う。ゲルAの厚さは有利には150〜500μmである。リン酸塩の濃度は、有利には0.08〜0.3モルである。ゲルBの厚さは有利には200〜600μmである。ゲルBの濃度は有利には0.13〜1モル/lである。
【0011】
リン酸イオンまたはリン酸水素イオン源として、有利にはリン酸またはそのアルカリ塩が考えられる。
【0012】
意外なことに、薄いゲル層を使用することによって、ゲル中の高いイオン濃度を抑制することができ、その際、不均質な核形成の場所としての歯の表面の利点は損なわれないことが確認された。ゲル中に溶解した形でのカルシウムイオンおよびリン酸イオンの高い濃度を貯蔵するために、有利にはゼラチンにアミノ酸を添加する。アミノ酸は、無機塩と結合するその相互作用によりデポーのような働きをし、かつ無機塩の利用性を最適化する。無機質化に基づいてカルシウムおよびリン酸のイオンが局所的に欠乏した場合、アミノ酸は平衡状態のシフトによってイオンを放出することが想定される。カルシウムイオンおよびリン酸イオンを結合するためには、基本的に全てのアミノ酸が適切である。というのは、それぞれが両性の分子として、酸性の側基ならびに塩基性の側基を有しているからである。最適な効率は、pHに著しく依存する。酸性の基を有し、かつカルシウムを放出するアミノ酸は特に、石灰化前線の直接周囲において、酸を遊離するリン灰石形成に基づいて活性である。ゲルA中でのリン酸イオンの利用性は、有利には付加的な塩基性の基を有するアミノ酸の添加によって高めることができる。溶解度を高めるためにはさらに、カルシウムイオンおよびリン酸イオンの結合箇所を有し、これらのイオンを析出しない、またはヒトの器官に対して毒性に作用することない全ての物質が適切である。このような物質にはたとえばビタミン(たとえばアスコルビン酸)、オリゴペプチド、カルボン酸および特にフルーツ酸、たとえばリンゴ酸、クエン酸またはピルビン酸、または錯化剤、たとえばEDTAである。この記載は、例示したものが含まれることを意味し、その他のものを排除するわけではない。無機質化の間のpH値を一定に保つために、酢酸を使用することができる。同様に4〜7の相応する緩衝範囲で、その最大の効率を有する生理学的に認容可能な緩衝剤系は全て適切である。たとえばジカルボン酸、たとえばコハク酸、マロン酸、またはアミノ酸、たとえばグルタミン酸が適切である。この記載は、例示したものが含まれることを意味し、その他のものを排除するわけではない。
【0013】
DE1020040545847は、予め歯を0.05〜1Nの水酸化ナトリウムで濡らして処理することが、層の形態および成長速度に影響を与えることを記載している。この処置におけるわずかな逸脱でもすでに、アルカリによる異なった湿潤につながり、かつ結果は著しく影響を受けることが予測される。
【0014】
本発明によれば、アルカリに、規定の圧力での規定の作用時間の後で消滅するゼラチンを少量、有利には1〜15質量%、特に有利には5〜10質量%のゼラチンを添加する方法を記載する。このことにより、歯の表面上に極めて薄い膜が再現可能に形成され、このことにより初期石灰化が特に促進される。前処理は本発明によれば、液体を用いても、粘稠なゲルまたは適用前に加熱される硬化したゲルを用いても実施することができる。
【実施例】
【0015】
臼歯から、象牙質領域と、エナメル質領域とを有する厚さ2mmの切片を切り出した。全ての歯サンプルを研磨し、かつ1つの臼歯あたり10秒間、25%のリン酸で処理して象牙細管を露出させるか、もしくは自然なままのエナメル質構造が見えるようにした。引き続き該サンプルを流水で集中的に洗浄した。歯を8分間×4回、35%の過酸化水素ゲルで処理し、かつ引き続き水で洗浄し、かつ色の測定を行った。1つの歯は、エナメル質領域において酸化処理と関連して明らかな亀裂の形成を示した。アルカリ性の前処理のために、水酸化カルシウムで飽和された、1Nの水酸化ナトリウム溶液に5質量%のゼラチンを添加した。歯の切片に該溶液を塗布し、かつ引き続き湿分を均一に乾燥させた。
【0016】
リン酸イオンを含有するゲルのために、Na2HPO4 0.6モル/l、NaF 0.1モル/l、アスパラギン0.3モル/lおよび2N/lの酢酸330mlを含有する溶液を製造した。該溶液16mlを、グリセリン6gおよび300Bloom豚皮ゼラチン10gと共に加熱して粘稠なゲルへと加工した。ドクターナイフでなお液状のゲルから、厚さ300μmのゲルフィルムを製造し、乾燥させ、かつ引き続き適切な大きさの切片に切断した。カルシウムゲルのために、1モルの塩化カルシウム溶液を使用した。その後の加工はリン酸ゲルに相応する。
【0017】
次いで歯の切片を、1片のリン酸ゲルと、1片のカルシウムゲルとで覆う。歯の表面の形態学的な変化を明らかにするために、1つの歯の切片の半分を予め、パラフィンフィルムで覆って、半分だけが再石灰化されるようにした。サンプルを37℃および空気湿分95%の調温調湿棚に保管し、毎日洗浄し、かつ改めてゲル処理を行った。図1は、4回目の交換後の、半分成長した歯の切片の光学顕微鏡撮影を示している。象牙細管は完全に閉じられているか、もしくは研磨の痕跡はもはや見られなかった。エナメル質中の亀裂も同様に閉じられている。5回のゲル交換後に、サンプルを洗浄し、かつコーヒー中に40時間浸漬した。引き続き、流水下にブラシを用いて洗浄した。漂白されたサンプルは、あきらかに、成長後のサンプルよりも暗い色を示す。比較を可能にするために、未処理のサンプルを、コーヒー中で着色する前および着色後に比色法で想定する。
【0018】
色の変化を定量化するために、サンプルを着色前および着色後に、色および反射を測定するための、CIE L*a*bシステムによる、3mm×4SAVのアパーチャーを有する2チャンネルの分光光度計Spectraflash600Plusを用いて、白色に対して測定する。着色は全てのサンプルにおいて黒ずみおよび黄色と赤色の方向への色調変化につながった。第1表は、漂白した歯(サンプル1)、漂白し、かつ成長させた歯(サンプル2)およびもっぱら着色したサンプル(サンプル3)に関する象牙質の着色前および着色後のΔ値を示している。これらの結果は、漂白したサンプルが、未処理のサンプルよりも強く着色していること、および成長させたサンプルよりも明らかに強く着色していることを明らかに示している。このことはつまり、成長させた歯の切片は漂白したサンプルに対しても、未処理のサンプルに対しても弱い着色を示していることを意味している。
【0019】
【表1】

【0020】
図1は、ゲル処理による構造の変化を示している。これは表面の平均化により認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】歯の切片の光学顕微鏡撮影を示し、左半分は2回のゲル処理サイクルを実施し、右半分は覆われていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常の漂白法に引き続きフッ素リン灰石をバイオミメティック析出させることによる、歯の表面保護剤であって、該保護剤はAおよびBを含有する:
A 少なくとも1の、予め調製され、厚さ50〜1000μmを有するゲルフィルムA、これは
A1 少なくとも1のゲル形成剤、
A2 水または水と有機溶剤とからなる混合物、
A3 リン酸イオンまたはリン酸水素イオン、
A4 場合によりフッ化物、
A5 場合により少なくとも1のアミノ酸、
A6 場合によりカルボン酸または4〜7のpH値のための緩衝系、
を含有し、
B 少なくとも1の、厚さ50μm〜5mmのゲルフィルムB、これは
B1 少なくとも1のゲル形成剤、
B2 水
B3 カルシウムイオンCa2+
を含有する
フッ素リン灰石をバイオミメティック析出させることによる歯の表面保護剤。
【請求項2】
A3のリン酸イオンまたはリン酸水素イオンが、ゲル1リットルあたり、0.01〜2モル含有されている、請求項1記載の保護剤。
【請求項3】
B3のカルシウムイオンCa2+が、ゲル1リットルあたり、0.05〜3モル含有されている、請求項1記載の保護剤。
【請求項4】
ゲル形成剤が、ゼラチンである、請求項1記載の保護剤。
【請求項5】
AおよびB中のゼラチン濃度がそれぞれ1〜15質量%である、請求項4記載の保護剤。
【請求項6】
ゼラチン濃度が、5〜10質量%である、請求項5記載の保護剤。
【請求項7】
リン酸イオンまたはリン酸水素イオンが、解離したNa2HPO4(NH42HPO4またはK2HPO4である、請求項1から6までのいずれか1項記載の保護剤。
【請求項8】
カルシウムイオンが、解離したCaCl2として存在している、請求項1から7までのいずれか1項記載の保護剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127384(P2008−127384A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291134(P2007−291134)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】