説明

通水性山留め壁

【課題】 山留め壁の設置時には地下水流を止めておくことができ、山留め壁を設置した後の所望の時期には、設置前の水質を維持できるようにしながら、高い信頼性で通水路を開通させることができるようにする。
【解決手段】 帯水層Cに亘って埋設してある山留め壁体1の帯水層に臨む壁体部分に、山留め壁体の前後に亘って通水可能な通水路2を設けてある通水性山留め壁であって、通水路を、常温では固体で加熱により溶融可能な熱可溶性材料7で塞いで、非通水状態に維持可能に設けるとともに、熱可溶性材料の加熱溶融手段8を、地上側から加熱操作可能に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯水層に亘って埋設してある山留め壁体の前記帯水層に臨む壁体部分に、その山留め壁体の前後に亘って通水可能な通水路を設けてある通水性山留め壁に関する。
【背景技術】
【0002】
上記通水性山留め壁は、設置前の地下水流を維持できるように、山留め壁体の帯水層に臨む壁体部分に、山留め壁体の前後に亘って通水可能な通水路を設けてある。
従来の通水性山留め壁には、山留め壁を設置する際には通水路を金属板で塞いでおいて、山留め壁を設置した後の所望の時期にその金属板を電気化学的に積極的に腐食させて通水路を開通させることができるように構成したもの(例えば、特許文献1参照:以下、第1従来技術という)や、山留め壁を設置する際には、ワイヤーの操作で上下にスライド移動するゲート板で通水路を塞いでおいて、山留め壁を設置した後の所望の時期にワイヤーを操作して、ゲート板をスライド移動させることにより、通水路を開通させるように構成したもの(例えば、特許文献2参照:以下、第2従来技術という)や、通水路を透水性コンクリートで形成してある山留め壁を設置して、山留め壁を設置した際に、通水路も開通させておくもの(例えば、特許文献3参照:以下、第3従来技術という)がある。
【0003】
【特許文献1】特開2002−21080号公報
【特許文献2】特開2002−201632号公報
【特許文献3】特開平8−260453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記第1従来技術は、通水路を開通させるに伴って、金属板の腐食作用で生成された錆が地下水に混じるので、設置前の水質を維持できない欠点がある。
上記第2従来技術は、ワイヤーの操作でゲート板を機械的にスライド移動させて通水路を開通させるので、ワイヤーが絡まったり、ゲート板がガイド部材などに錆び付いたりして、ゲート板を円滑にスライド移動させることができないような事態が考えられるので、信頼性に欠ける欠点がある。
上記第3従来技術は、山留め壁を設置した際に通水路も開通しているので、建物などの地下構造物を構築するために、一時的に地下水流を止めておきたい場合には設置できない欠点がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、山留め壁の設置時には地下水流を止めておくことができ、山留め壁を設置した後の所望の時期には、設置前の水質を維持できるようにしながら、高い信頼性で通水路を開通させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、帯水層に亘って埋設してある山留め壁体の前記帯水層に臨む壁体部分に、その山留め壁体の前後に亘って通水可能な通水路を設けてある通水性山留め壁であって、前記通水路を、常温では固体で加熱により溶融可能な熱可溶性材料で塞いで、非通水状態に維持可能に設けるとともに、前記熱可溶性材料の加熱溶融手段を、地上側から加熱操作可能に設けてある点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
通水路を、常温では固体で加熱により溶融可能な熱可溶性材料で塞いで、非通水状態に維持可能に設けてあるので、山留め壁の設置時には地下水流を止めておくことができ、熱可溶性材料の加熱溶融手段を地上側から加熱操作可能に設けてあるので、山留め壁を設置した後の所望の時期には、加熱溶融手段を地上側から加熱操作して、熱可溶性材料を溶融させて除去することにより、高い信頼性で通水路を開通させることができ、また、溶融した熱可溶性材料は、帯水層に流れ出すに伴って、低温の地下水に冷却されて再度固化し易いので、地下水に溶け込みにくく、設置前の水質を維持し易い。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記山留め壁体を、平面視で、一連の略環状に埋設してある点にある。
【0008】
〔作用及び効果〕
山留め壁体を、平面視で、一連の略環状に埋設してあるので、山留め壁体の内側への地下水の流入を止め易く、建物などの地下構造物をその内側に構築し易い。
また、加熱溶融手段を地上側から加熱操作して熱可溶性材料を溶融させる際に、加熱溶融手段から供給した熱エネルギーの一部が、略環状に埋設してある山留め壁体の内面側に蓄熱されて、山留め壁体の内側に滞留している地下水が加熱膨張し、溶融した熱可溶性材料が、加熱膨張した地下水によって山留め壁から外方に押し出され、スムーズに通水路が開通されやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1,図2は、建物の地下構造物Aを構築するために、鉄筋コンクリート製の山留め壁体1を、平面視で、その地下構造物Aを囲む一連の略環状に配置して略垂直に埋設してある本発明による通水性山留め壁Bを示している。
【0010】
前記山留め壁体1は帯水層Cを左右に分断する状態で埋設してあり、その山留め壁体1の帯水層Cに臨む壁体部分に、壁周方向で複数の通水路2を山留め壁体1の前後に亘って通水可能に設けてある。
【0011】
前記通水路2は、図3に示すように、鉄筋かご3に溶接固定してある鋼製通水パイプ4を、両端開口部5が前後の壁面に臨むように、コンクリート中に鉄筋かご3とともに埋設して設けてあり、通水パイプ4の内側に砕石や多孔質材料などの充填物6を充填するとともに、充填物6どうしの隙間を埋めるように、パラフィンやゼラチンなどの常温では固体で加熱により溶融可能な熱可溶性材料7で両端開口部5を塞いで、非通水状態に維持可能に設けてある。
【0012】
また、熱可溶性材料7を加熱溶融させるため電熱ヒータなどの加熱溶融手段8を通水パイプ4の内側に環状に設けるとともに、電熱ヒータ8への通電用ケーブル9を、コンクリート中に埋め込んだ状態で地上側に延設して、電熱ヒータ8を地上側から加熱操作可能なスイッチ10を設けてある。
【0013】
そして、地下構造物Aの構築中は、通水路2を非通水状態に維持して、山留め壁Bの内側への地下水の流入を抑制し、地下構造物Aの完成時などの所望の時期には、各通水パイプ4に設けてある電熱ヒータ8を地上側から加熱操作して、熱可溶性材料7を溶融させて除去することにより、各通水路2を開通させることができるように構成してある。
【0014】
〔第2実施形態〕
図4〜図6は、本発明による通水性山留め壁Bの別実施形態を示し、複数の鋼矢板11を連結して構成してある山留め壁体2の帯水層Cに臨む壁体部分に、山留め壁体Bの前後に亘って通水可能な通水路2を設けてある。
【0015】
前記通水路2は、各鋼矢板11に多数の貫通孔12を形成するとともに、それらの貫通孔12を塞ぐためのパラフィンなどの熱可溶性材料7からなる板材13を、多数の貫通孔14を形成してある鋼製押え板15で挟み込むように固定して、非通水状態に維持可能に設けてある。
【0016】
また、パラフィン製板材13を加熱溶融させるための電熱ヒータ8を鋼矢板11と押え板15との間に設けて、その通電用ケーブル9を地上側に延設してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0017】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による通水性山留め壁は、山留め壁体を鋼管矢板で構成して、熱可溶性材料で塞いである通水路をその鋼管矢板に設けて構成してあっても良い。
2.本発明による通水性山留め壁は、通水路を、骨材と熱可溶性材料との混合物で塞いで、非通水状態に維持可能に設けてあっても良い。
3.本発明による通水性山留め壁は、山留め壁体を、その下端部が帯水層の中間位置に達するように設置してあっても良い。
4.本発明による通水性山留め壁は、スチームなどの加熱流体を通流させる配管を設けて、熱可溶性材料の加熱溶融手段を構成してあっても良い。
5.本発明による通水性山留め壁は、山留め壁体の帯水層に臨む壁体部分を熱可溶性材料や骨材入りの熱可溶性材料で形成して、その熱可溶性材料を加熱溶融手段で加熱溶融させることによって、山留め壁体の前後に亘って通水可能な通水路を設けるように構成してあっても良い。
6.本発明による通水性山留め壁は、鉄道用や道路用のトンネルを建設するために、そのトンネルに沿って設置する山留め壁であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】概略平面図
【図2】概略縦断面図
【図3】要部縦断面図
【図4】第2実施形態を示す要部水平断面図
【図5】第2実施形態を示す要部側面図
【図6】第2実施形態を示す要部縦断面図
【符号の説明】
【0019】
1 山留め壁体
2 通水路
7 熱可溶性材料
8 加熱溶融手段
C 帯水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯水層に亘って埋設してある山留め壁体の前記帯水層に臨む壁体部分に、その山留め壁体の前後に亘って通水可能な通水路を設けてある通水性山留め壁であって、
前記通水路を、常温では固体で加熱により溶融可能な熱可溶性材料で塞いで、非通水状態に維持可能に設けるとともに、
前記熱可溶性材料の加熱溶融手段を、地上側から加熱操作可能に設けてある通水性山留め壁。
【請求項2】
前記山留め壁体を、平面視で、一連の略環状に埋設してある請求項1記載の通水性山留め壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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