説明

通過時間提供装置

【課題】旅行時間を算定する区間において、突発的に異常値を示した計測旅行時間が存在した場合、区間内の計測旅行時間を補完修正することにより、提供旅行時間の精度を向上することができる通過時間提供装置を提供する。
【解決手段】この旅行時間提供装置100は、計測区間を特定車両が通過中の時間データを取得する計測旅行時間収集部38と、単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを取得する感知器情報収集部34と、旅行時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び旅行時間中の特定時点における交通密度毎の下限値と計測旅行時間収集部38により得られた時間及び感知器情報収集部30により得られた交通密度とを比較して、計測区間旅行時間に含まれる異常値を判定して除去する比較判定部32と、により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通過時間提供装置に関し、さらに詳しくは、計測区間毎に設置された検知器から得た情報に基づいて、車両が情報提供区間を通過するのに要する通過時間情報を提供する通過時間提供装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から高速道路や幹線道路等に係る渋滞情報等の交通情報を、ラジオや電話機を利用して車両運転者がリアルタイムに入手できるシステムが確立されている。この渋滞情報は、渋滞の原因、場所及び渋滞している道路区間距離に関する情報である。しかし、その渋滞情報を聞いた車両運転者は、その情報から概略の渋滞状況は把握できるが、当該渋滞場所を通過するまでにどの程度の時間を要するかについて正確に判断することが容易ではなかった。そのため、迂回ルートを探して渋滞を回避するべきか否か等の決断を適時に行うことができなかった。即ち、車両運転者が最も必要とする情報は、従来の渋滞情報と併せて、その渋滞場所を通過するまでに要する通過時間である。そこで近年、主に高速道路においては、所定の場所から主要インターまでの現時点での通過時間を提供するサービスが開始されている。しかし、このサービスは、ある区間の距離を決められた速度(例えば時速80km)で走行したと仮定して、距離を決められた速度で除算して時間を割り出す単純なものである。そのため、渋滞の状況によっては時間が大幅にずれ込み、必ずしも正確なものではない。
【0003】
それに対して、渋滞の状況に応じた通過時間(以下、旅行時間と呼ぶ)を提供するために、道路上に設置した光ビーコンと車載器(特定車両)との双方向通信による車両ID認識を利用して旅行時間を計測し、各区間を通過する車両の旅行時間を提供する旅行時間提供装置が提案されている。
【0004】
図12は従来の旅行時間提供装置により旅行時間を求める手順を示すフローチャートである。各区間に設置された光ビーコンにより得られた車載器からのデータに基づいて計測旅行時間を収集する(S30)。次に所定の時間(例えば5分)ごとに計測旅行時間が収集できたか否かをチェックして(S31)、収集できなければ計測旅行時間を推定し(S32)、収集できると各区間の計測旅行時間を合算して(S33)、その合算値より提供旅行時間を作成する(S34)。次に旅行時間の提供区間と計測区間が一致しない場合に発生する誤差を補正して(S35)、更に提供旅行時間に含まれる異常値を判定して取り除き(S36)、正規の提供旅行時間データを情報板に分配する(S37)。
【0005】
図13は図12のステップS35の補正動作を説明する図である。図13(a)は提供区間より外れた位置に光ビーコンが設置された場合の図であり、この場合の提供旅行時間は、計測区間1の計測旅行時間と計測区間2の計測旅行時間との合計時間から補正区間Bの旅行時間を引いたものとなる。即ち、計測区間1は光ビーコン50と51間であり、提供区間に計測区間1が完全に含まれる。しかし、計測区間2は光ビーコン51と53間であり、提供区間より計測区間2の方が長いことがわかる。そのため、交差点Fから光ビーコン53までの補正区間Bに要する旅行時間を推定するために、交差点Fから光ビーコン53までの距離は既知であるので、感知器52を通過する速度がわかれば交差点Fから光ビーコン53までに到達する旅行時間が推定できる。その旅行時間を合計時間から減算する。
【0006】
また図13(b)は提供区間の中と計測区間より外れた位置に光ビーコンが配設された場合の図であり、この場合の提供旅行時間は、補正区間Aの旅行時間と計測区間1の計測旅行時間と計測区間2の計測旅行時間との合計時間から、補正区間Bの旅行時間を引いたものとなる。即ち、計測区間1は光ビーコン57と58間であり、提供区間に計測区間1が完全に含まれる。しかし、計測区間2は光ビーコン58と62間であり、提供区間より計測区間2の方が長いことがわかる。そのため、交差点Fから光ビーコン62までの補正区間Bに要する旅行時間を推定するために、交差点Fから光ビーコン62までの距離は既知であるので、感知器61を通過する速度がわかれば交差点Fから光ビーコン62までに到達する旅行時間が推定できる。その旅行時間を合計時間から減算する。また、情報板55から光ビーコン57までの補正区間Aも提供区間に含まれるので、情報板55から光ビーコン57までの補正区間Aに要する旅行時間を推定するために、情報板55から光ビーコン57までの距離は既知であるので、感知器56を通過する速度がわかれば情報板55から光ビーコン57までに到達する旅行時間が推定できる。その旅行時間を合計時間に加算する。
【0007】
また従来技術として特許文献1には、実測旅行時間を区間旅行時間として算出する装置と、過去の実測旅行時間データベースを蓄積して旅行時間上限値を算出する上限値算出部と、道路データベースから旅行時間下限値を算出する下限値算出部と、該旅行時間上限値及び該旅行時間下限値を現在の実測旅行時間データと比較して該旅行時間データの異常判定を行う比較判定部とを備えた情報処理装置について開示されている。
【0008】
また特許文献2には、車両感知器情報処理装置において、通行車両の状態を計測する車両感知器によって計測された感知器情報を所定の閾値と比較することによって異常であるか否かを判定する異常判定手段と、過去のデータによる補完方法、近隣の車両感知器データによる補完方法、または、近隣の車両感知器における過去のデータによる補完方法のうち、少なくとも1以上の補完方法候補の中から異常の状態に応じて適した補完方法を選択決定する補完方法決定手段と、選択決定された補完方法によって異常データを補完修正する情報補完手段とを備えた車両感知器情報処理装置について開示されている。
【特許文献1】特開2000−259978公報
【特許文献2】特開2000−242883公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の旅行時間提供装置は、計測旅行時間を合算して提供旅行時間を作成後、その時間を補正して提供しているので、計測旅行時間に異常値が含まれていた場合に、提供旅行時間を補正しても正しい提供旅行時間が得られないといった問題がある。
また特許文献1に開示されている従来技術は、実測旅行時間データが単位時間内に一つしか取得できない状態であっても、実測旅行時間データ中の異常値を統計的手法に基づく異常判定により排除するものであるが、統計的手法による演算が複雑となるといった問題がある。
また特許文献2に開示されている従来技術は、異常値を異常の状態に応じて複数の補完方法から選択して補完するものであるが、異常値が補完方法に対応しない場合、必ずしも補完が行われるとは限らないといった問題がある。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑み、道路上に設置した光ビーコンと車載器との双方向通信による車両ID認識を利用して計測した計測旅行時間を用いて旅行時間を算定する区間において、突発的に異常値を示した計測旅行時間が存在した場合、区間内の計測旅行時間を補完修正することにより、提供旅行時間の精度を向上することができる通過時間提供装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、車両が通行する道路に設けた情報提供区間内に設定した2つの検知器と、特定車両が前記2つの検知器間に形成される計測区間を通過するのに要した計測区間通過時間に基づいて、前記特定車両が前記情報提供区間を通過するのに要する情報提供区間通過時間を判定する判定手段と、を備えた通過時間提供装置において、前記判定手段は、前記計測区間通過時間から異常値を除去して前記情報提供区間通過時間を判定することを特徴とする。
従来の通過時間提供装置においては、計測区間を通過するのに要した計測区間通過時間内に異常値が含まれていた場合、そのまま計測区間通過時間のデータに基づいて情報提供区間通過時間を判定していた。そのため、情報提供区間通過時間の精度に問題があった。そこで本発明では、判定手段が計測区間通過時間から異常値を除去して情報提供区間通過時間を判定するようにした。
【0012】
請求項2は、過去の一定期間内に前記計測区間を通過した複数の前記特定車両に関する前記計測区間通過時間に係るデータを蓄積する通過時間データベースと、前記通過時間データベースに蓄積されたデータに基づいて計算された平均通過速度、及び前記特定車両を含む車両の通過を感知する感知器から得られた単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを蓄積する交通密度データベースと、前記通過時間データベース及び交通密度データベースに夫々蓄積された各データに基づいて前記計測区間通過時間の上限値及び下限値を生成する上下限値生成手段と、前記計測区間を前記特定車両が通過中の時間データを取得する通過時間取得手段と、前記計測区間を前記特定車両が通過中に前記感知器から得られた単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを取得する交通密度取得手段と、前記上下限値生成手段により生成された前記計測区間通過時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び下限値と前記通過時間取得手段により得られた時間及び前記交通密度取得手段により得られた交通密度とを比較して、前記計測区間通過時間に含まれる異常値を判定して除去する比較判定部と、該比較判定部により前記異常値を除去した計測区間通過時間に基づいて前記情報提供区間通過時間の情報を提供する情報提供部と、を備えたことを特徴とする。
本発明の通過時間提供装置は、各検知器及び感知器により取得した過去の計測区間通過時間データと交通密度データを蓄積しておき、特定車両が情報提供区間を通過するのに要する時間情報を提供する場合、当該特定車両が計測区間を通過中の時間データとそのときの交通密度を取得し、その時間データ及び交通密度と通過時間データ及び交通密度データから得られた交通密度毎の上限値及び下限値とを比較して異常値を除去した各計測区間の通過時間を得る。そして各計測区間の通過時間を合計して提供区間の通過時間に補正して提供するものである。
【0013】
請求項3は、前記上下限値生成手段は、前記通過時間データベース及び交通密度データベースに蓄積されたデータに基づいて前記計測区間の通過時間特性を作成し、該通過時間特性に基づいて基準通過時間を算定して前記計測区間通過時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び下限値を生成することを特徴とする。
通過時間データベース及び交通密度データベースには、過去のデータが蓄積されている。これらのデータから回帰式を用いて両者の基本式を算出することにより、基準通過時間が求まる。そして計測区間通過時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び下限値を生成する。
【0014】
請求項4は、前記比較判定部は、前記通過時間提供手段により得られた通過時間の値が前記上限値より大きい場合、該通過時間の値は使用せず前記感知器から得られたデータに基づいて前記計測区間通過時間を推定することを特徴とする。
通過時間提供手段により得られた通過時間の値が上限値より大きい場合、その値は使用せず、感知器で速度を感知して速度と距離から通過時間を推定する。
【0015】
請求項5は、前記比較判定部は、前記通過時間提供手段により得られた通過時間の値が前記上限値及び下限値以内である場合、該通過時間の値を前記計測区間通過時間として使用することを特徴とする。
通過時間提供手段により得られた通過時間の値が上限値及び下限値内に入っている場合は、その値は正常と見做して計測区間通過時間として使用する。
【0016】
請求項6は、前記比較判定部は、前記通過時間提供手段により得られた通過時間が前記下限値未満である場合、該通過時間の値を前記下限値に置換して前記計測区間通過時間として使用することを特徴とする。
通過時間提供手段により得られた通過時間が下限値未満である場合、その値を下限値に置き換えて計測区間通過時間として使用する。
【0017】
請求項7は、前記交通密度をK、前記交通量をQ、前記通過時間データベースに蓄積された計測区間通過時間に基づいて計算された通過速度をVとしたとき、前記交通密度Kは、K=Q/Vにより求めることを特徴とする。
交通密度が高い場合(即ち混雑時)は、そこを通過する速度は低下する。また交通密度が低い場合は、そこを通過する速度は速くなる。そのような定性的な現象から交通密度は、交通量に比例し、通過速度に反比例することが解る。
【0018】
請求項8は、前記交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より小さい場合は、前記通過速度Vを一定速度として求め、前記交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より大きい場合は、最大交通量のときの速度係数をCm、最大交通密度であるジャム密度をKjとしたとき、前記通過速度Vを、V=Cm×ln(Kj/K)により求めることを特徴とする。
自由走行可能な最大交通密度K4は、通常1Km当たり12台といわれている。しかし、自由走行とはいえ規制速度又は道路構造の影響を受け限りなく速度を速くすることはなく、ほぼ一定の速度となる。従って、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より小さい場合は、通過速度Vを一定速度として求めても構わない。また、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より大きい場合は、最大交通量のときの速度(一般的に時速25〜35Km)に通常の交通密度と最大交通密度との比を自然対数にした値に掛けたものとなる。
【0019】
請求項9は、前記上下限値生成手段は、前記通過速度Vを基準として、前記通過時間データベースに蓄積されたデータが標準偏差の2倍となる通過速度を前記上限値及び下限値とすることを特徴とする。
請求項8により求まったV=Cm×ln(Kj/K)を基準として、2σの通過速度の値をそれぞれ上限値、下限値とすることにより、全データの95.45%のデータをカバーすることができる。
【0020】
請求項10は、前記特定車両が前記計測区間を通過する計測区間通過時間Tは、前記計測区間の区間長をL、前記通過速度をVとしたとき、T=L/Vにより求めることを特徴とする。
通過速度基準式から通過時間を求める場合は、計測区間の区間長をL、通過速度をVとしたとき、T=L/Vにより求めることができる。
【0021】
請求項11は、前記検知器は、光ビーコン又は車両番号認識器により前記特定車両のユニーク情報を取得可能に構成されていることを特徴とする。
特定車両を認識するには、上流側の光ビーコンから送信したIDを車載器が受信して記憶する。そして車載器が下流側の光ビーコンを通過するときに記憶したIDを光ビーコンに送信して、そのIDから同一車両が計測区間を通過したことを認識することができる。また光ビーコンの代わりに車両のナンバープレートの画像を読み取り、画像認識により車両番号として認識するようにしても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、各検知器及び感知器により取得した過去の計測区間通過時間データと交通密度データを蓄積しておき、特定車両が情報提供区間を通過するのに要する時間情報を提供する場合、当該特定車両が計測区間を通過中の時間データとそのときの交通密度を取得し、その時間データ及び交通密度と通過時間データ及び交通密度データから得られた交通密度毎の上限値及び下限値とを比較して異常値を除去した各計測区間の通過時間を取得し、そして各計測区間の通過時間を合計して提供区間の通過時間に補正して提供するので、現在通過中の特定車両が提供区間を通過する時間を交通密度毎に正確に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の旅行時間提供装置(通過時間提供装置)の構成を示す図である。まず、説明の前に言葉の定義をしておく。光ビーコンとの双方向通信が可能な車載器を積んだ車両を特定車両と呼び、車載器を積んでいない車両を単に車両と呼ぶ。また光ビーコンを検知器と呼び、特定車両及び車両の存在を感知するセンサを感知器と呼ぶ。また2つの検知器間を計測区間と呼び、少なくとも1つの計測区間を含み、特定車両に通過時間情報を提供する区間を情報提供区間と呼ぶ。
【0024】
この旅行時間提供装置100は、計測区間(43aと43b間)を特定車両42a、42eが通過中の旅行時間データを取得する計測旅行時間収集部(通過時間取得手段)38と、計測区間を特定車両を含む車両42a〜42eが通過中に感知器44a〜44cから得られた単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを取得する感知器情報収集部(交通密度取得手段)34と、を備えて処理1を構成している。
また後述する旅行時間上限値算出部40により生成された旅行時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び旅行時間下限値算出部37により生成された旅行時間中の特定時点における交通密度毎の下限値と計測旅行時間収集部38により得られた時間及び感知器情報収集部34により得られた交通密度とを比較して、計測区間旅行時間に含まれる異常値を判定して除去する比較判定部32により処理2を構成している。
【0025】
また、過去の一定期間内に計測区間(43aと43b間)を通過した複数の特定車両42a、42eが計測区間を旅行する時間(計測区間通過時間)に係るデータを収集する計測旅行時間収集部38と、計測旅行時間収集部38により収集したデータを蓄積する計測旅行時間データベース(以下、データベースをDBと記す)(通過時間データベース:この文言は請求項2で使用している構成要素であり、請求項との対応関係を明確にするために記載しております。)39と、計測旅行時間DB39に蓄積されたデータ及び交通密度DB36に基づいて計測旅行時間の上限値を生成する旅行時間上限値算出部(上下限値生成手段)40と、過去の一定期間内に感知器44a〜44cにより感知した特定車両を含む車両の交通量を収集する感知器情報収集部34と、感知器情報収集部34から得られた情報を蓄積する感知情報DB35と、計測旅行時間DB39に蓄積されたデータに基づいて計算された平均通過速度及び感知情報DB35から得られた単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを蓄積する交通密度DB(交通密度取得手段)36と、計測旅行時間DB39に蓄積されたデータ及び交通密度DB36に蓄積されたデータに基づいて旅行時間の下限値を生成する旅行時間下限値算出部(上下限値生成手段)37と、を備えて処理2−1を構成し、旅行時間上限値算出部40により生成された旅行時間中の特定時点における交通密度毎の上限値と、旅行時間下限値算出部37により生成された旅行時間中の特定時点における交通密度毎の下限値と、を算出する。
また比較判定部により異常値を除去した計測区間旅行時間に基づいて情報提供区間における旅行時間の情報を提供する旅行時間提供部(情報提供部)33により処理3を構成している。
【0026】
まず、処理1にて、現在の感知器情報及び計測旅行時間を収集する。次に処理2にて比較判定部32により現在収集している計測旅行時間及び感知器情報(交通密度)と処理2で静止した旅行時間上限値、下限値を判定し、異常値を除去する。ここで使用する上限値、下限値は処理2−1にて生成する。具体的には一定期間(過去)の感知器情報収集部34から得られる交通量と、計測旅行時間収集部38から得られる計測旅行時間から感知器情報DB35、交通密度DB36、計測旅行時間DB39を生成する。次に感知器情報、交通密度、計測旅行時間の変動特性を解析し、旅行時間上限値算出部40、旅行時間下限値算出部37にて当該区間特有の交通密度毎の旅行時間上限値、下限値を算出する。
また、旅行時間変動特性の解析手法として、区間内の交通量と旅行速度から交通密度と旅行速度の関係を導き、一般幹線道路における旅行時間特性を明らかにする。
また、比較判定部32は、交通密度毎の上限値・下限値以内であれば計測旅行時間としてそのまま使用する。上限値を超えた場合は計測旅行時間は異常値とし、感知器情報による推定旅行時間で代用する。下限値以下の場合には、下限値に置き換えた旅行時間で代用する。最後に、処理3にて計測旅行時間を組み合わせて旅行時間を提供する。
【0027】
図2は計測区間旅行時間に含まれる異常値の一例について説明する図である。図1の処理2において説明した異常値は、例えば図2のように車載器を備えた車両2aが、上流側光ビーコン1から下流側光ビーコン4に進行する場合、そのままストレートに行けば計測区間5の旅行時間を正確に得ることができるが、例えば、エンジンを切らずにコンビニエンスストア3に立ち寄り、買い物をして再び計測区間5に戻った場合、交通管制センタ6では、車両2aは計測区間を2a−2b−2cの時間を要して通過したと判断してしまう。即ち、実際の計測区間5を正規に通過した時間より長い時間を旅行時間と判断してしまう。これが異常値である。
【0028】
図3は本発明の旅行時間提供装置の概略動作を説明するフローチャートである。図1を参照して説明する。処理1により計測旅行時間収集部38及び感知器情報収集部34から計測旅行時間を収集する(S1)。次に比較判定部32により計測旅行時間の異常値を除去する(詳細は後述する)(S2)。計測旅行時間が正常値か否かをチェックし(S3)、正常でなければ計測旅行時間を推定する(詳細は後述する)(S4)。ステップS3にて計測旅行時間が正常値であれば各計測区間の計測旅行時間を合算する(S5)。次に合算した計測旅行時間に基づいて提供旅行時間を作成し(S6)、図13で説明したように提供旅行時間を補正して(S7)、提供旅行時間に含まれる異常値を判定する(S8)。尚、判定の方法として例えば、提供旅行時間の上限値を1時間として、上限値より大きい場合は、旅行時間を提供しない。また、提供旅行時間の下限値は区間長/規制速度×係数より求め、下限値未満は下限値に置き換える。そして、異常値を判定した後、提供旅行時間情報を情報板等に分配する(S9)。
【0029】
図4は交通密度毎に設定された計測旅行時間の異常値を除去する方法を説明する図である。縦軸は5分間単位旅行時間を表し、横軸は5分間交通密度を表す。各交通密度毎に旅行時間上限値20と旅行時間下限値22をプロットし、計測された旅行時間の値が上限値20より大きい値(領域A)の場合は、計測された旅行時間の値は使用せず、図13で説明したように感知器により旅行時間を推定する。また、計測された旅行時間の値が旅行時間上限値20と旅行時間下限値22の間(領域C)の値の場合は、計測された旅行時間の値を計測旅行時間として使用する。また、計測された旅行時間の値が下限値22より小さい値(領域B)の場合は、計測された旅行時間を下限値22に置換して計測旅行時間として使用する。
【0030】
図5は提供旅行時間を分配する場合の一例を示す図である。車載器を備えた特定車両では、交通管制センタから配信される提供旅行時間情報を受信して内部の表示器に表示或いは音声により報知できるが、車載器を備えていない一般車両は道路に設置された情報板等により知る以外に手段がない。図5の構成では、情報処理系中央装置11から簡易図形用の提供旅行情報がU型情報管理系中央装置10に配信され、そこから複数の簡易図形表示板13、14に分配される。また、情報処理系中央装置11から情報板用の提供旅行時間情報が交通情報提供系中央装置12に配信され、そこから図柄情報が情報板16に分配され、旅行時間情報が情報板15に分配される。
【0031】
図6は計測旅行時間特性を用いた異常値除去の詳細を説明するフローチャートである。計測旅行時間収集部38により収集された計測旅行時間から計測旅行速度を算出する(S11)。この算出は計測区間を計測旅行時間で割れば容易に求まる。また、感知器情報収集部34により収集された交通量から交通密度を算出する(S12)。算出方法は、交通量を計測旅行速度で割ることにより求められる。ステップS11で算出した各計測区間の計測旅行速度を集計し(S18)、その中から異常値を除去する(S19)。一方、ステップS12で算出した各計測区間の交通密度を集計し(S13)、その中から異常値を除去する(S14)。そして、異常値が除去された計測旅行速度と交通密度に基づいて各交通密度毎の計測旅行速度基本特性を生成する(詳細は後述する)(S15)。次に計測旅行速度基本特性を基準として蓄積データが標準偏差の2倍となる計測旅行速度を上限値及び下限値として生成し、これを計測旅行時間に変換して求める(S16)。更にこの計測旅行時間から異常値を除去する(S17)。
【0032】
図7は交通密度の算出を説明する図である。縦軸に5分間平均旅行速度を表し、横軸に5分間交通密度を表す。この図から解るとおり、交通密度が低くなると平均旅行速度は速くなる。即ち、道路がすいていれば当然その道路を走行する車両の速度は速くなる。図では時速約40Kmから80Kmの範囲に分散しているのがわかる。また、交通密度が高くなり、道路が渋滞すると当然平均旅行速度は遅くなり、交通密度が40台あたりから漸減しているのがわかる。即ち、交通密度をK、交通量をQ、通過時間データベースに蓄積された計測区間通過時間に基づいて計算された通過速度をVとしたとき、交通密度Kは、K=Q/Vにより求まる。
【0033】
図8は計測旅行速度の基本特性を生成する図である。図8から計測旅行速度と交通密度をもとに、区間内の交通密度と平均旅行速度の関係をモデル化する。即ち、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より小さい場合は、通過速度Vを一定速度として求め(旅行速度基本特性24のa〜b)、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より大きい場合は(旅行速度基本特性24のb〜c)、最大交通量のときの速度係数をCm、最大交通密度であるジャム密度をKjとしたとき、通過速度Vを、V=Cm×ln(Kj/K)により求めることができる。
つまり、自由走行可能な最大交通密度K4は、通常1Km当たり12台といわれている。しかし、自由走行とはいえ限りなく速度を速くすることはなく、ほぼ一定の速度となる。従って、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より小さい場合は、通過速度Vを一定速度として求めても構わない。また、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より大きい場合は、最大交通量のときの速度(一般的に時速25〜35Km)に通常の交通密度と最大交通密度との比を自然対数にした値に掛けたものとなる。
【0034】
図9は計測旅行速度の上限値及び下限値を生成する図である。即ち、図8によりモデル化した旅行速度基本特性24を基準として、2σの計測旅行速度の値をそれぞれ旅行速度上限値25、旅行速度下限値26とすることにより、全データの95.45%のデータをカバーすることができる。更に詳しく説明すると、交通密度が0のときの上限値及び下限値の旅行速度を変動させ、上限、下限全領域中の上側2.275%、下側2.275%を異常値にする。(収束計算させる)これをk4=1〜26まで算出し、旅行時間平均はずれ値が最小となるK4を旅行速度、旅行時間の上限値・下限値とする。
【0035】
図10は単位計測旅行時間の上限値及び下限値を生成する図である。縦軸に5分間単位計測旅行時間を表し、横軸に5分間交通密度を表す。特定車両が計測区間を通過する計測区間旅行時間Tは、計測区間の区間長をL、旅行速度をVとしたとき、T=L/Vにより求めることができる。即ち、旅行速度基準式から通過時間を求める場合は、計測区間の区間長をL、通過速度をVとしたとき、T=L/Vにより求めることができる。例えば、5分間交通密度が60(台/Km)のときの上限値は320秒であり、基準値は250秒であり、下限値は170秒として求めることができる。従って、5分間交通密度がわかればその時点での旅行時間の基準値、上下限値を求めることができる。
【0036】
図11(a)は感知器勢力範囲における旅行時間の推定を説明する図である。
旅行時間の推定は、感知器情報を使用して旅行時間計測区間毎に5分毎に行う。旅行時間計測区間内に設置されている感知器中で、旅行時間の推定に使用可能な感知器を抽出し、その感知器毎に勢力範囲(交通状況を表現する範囲)を設定し、その範囲ごとに旅行時間を推定する。

図11(b)は旅行時間計測区間における旅行時間の推定を説明する図である。各勢力範囲の推定旅行時間をもとに、旅行時間計測区間における推定旅行時間の算出を5分毎に行う。推定旅行時間の算出は、提供区間の最下流側勢力範囲から順に、走行軌跡を描くように勢力範囲の旅行時間を累積していくことで算出する。
【0037】
以上で説明したとおり、本発明によれば、各検知器及び感知器により取得した過去の計測区間旅行時間データと交通密度データを蓄積しておき、特定車両が情報提供区間を通過するのに要する時間情報を提供する場合、当該特定車両が計測区間を通過中の時間データとそのときの交通密度を取得し、その時間データ及び交通密度と通過時間データ及び交通密度データから得られた交通密度毎の上限値及び下限値とを比較して異常値を除去した各計測区間の旅行時間を得る。そして各計測区間の旅行時間を合計して提供区間の旅行時間に補正して提供するので、現在通過中の特定車両が提供区間を通過する時間を交通密度毎に正確に提供することができる。
また、計測旅行時間DB39及び交通密度DB36に蓄積されているデータから回帰式を用いて両者の基本式を算出することにより、基準旅行時間を求め、計測区間旅行時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び下限値を生成するので、統計的に求めた基本式から一義的に上限値及び下限値を生成することができる。
【0038】
また、処理1により得られた旅行時間の値が上限値より大きい場合、その値は使用せず、感知器で速度を感知して速度と距離から旅行時間を推定するので、異常値を除去して且つデータの母数を減らすことを防ぐことができる。
また、処理1により得られた旅行時間の値が上限値及び下限値内に入っている場合は、その値は正常と見做して計測区間旅行時間として使用するので、正しい計測区間旅行時間のデータを確実に蓄積することができる。
また、処理1により得られた旅行時間が下限値未満である場合、その値を下限値に置き換えて計測区間旅行時間として使用するので、下限値より遅い車両についても下限値のデータとして蓄積され、実質的に不都合はない。
また、交通密度は、交通量に比例し、旅行速度に反比例するように計算するので、定性的な現象とかけ離れることがなくなる。
【0039】
また、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より小さい場合は、旅行速度Vを一定速度として求め、交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より大きい場合は、最大交通量のときの速度(通常、時速40Km)に通常の交通密度と最大交通密度との比を自然対数にした値に掛けたものとして求めるので、交通密度に対応した旅行時間を精度良く求めることができる。
また、旅行速度基準式を基準として、2σの通過速度の値をそれぞれ上限値、下限値とすることにより、全データの95.45%のデータをカバーすることができる。
また、旅行速度基準式から旅行時間を求める場合は、計測区間の区間長をL、旅行速度をVとしたとき、T=L/Vにより求めるので、単純な計算により精度良く旅行時間を求めることができる。
また、検知器は、光ビーコン又は車両番号認識器により特定車両のユニーク情報を取得可能に構成されているので、車載器との双方向通信により確実に同一車両によるデータを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の旅行時間提供装置の構成を示す図である。
【図2】計測区間旅行時間に含まれる異常値の一例について説明する図である。
【図3】本発明の旅行時間提供装置の概略動作を説明するフローチャートである。
【図4】交通密度毎に設定された計測旅行時間の異常値を除去する方法を説明する図である。
【図5】提供旅行時間を分配する場合の一例を示す図である。
【図6】計測旅行時間特性を用いた異常値除去の詳細を説明するフローチャートである。
【図7】交通密度の算出を説明する図である。
【図8】計測旅行速度の基本特性を生成する図である。
【図9】計測旅行速度の上限値及び下限値を生成する図である。
【図10】単位旅行時間の上限値及び下限値を生成する図である。
【図11】(a)は感知器勢力範囲における旅行時間の推定を説明する図、(b)は旅行時間計測区間における旅行時間の推定を説明する図である。
【図12】従来の旅行時間提供装置により旅行時間を求める手順を示すフローチャートである。
【図13】(a)は提供区間より外れた位置に光ビーコンが設置された場合の図、(b)は提供区間の中と計測区間より外れた位置に光ビーコンが配設された場合の図である。
【符号の説明】
【0041】
32 比較判定部、33 旅行時間提供部、34 感知器情報収集部、35 感知情報DB、36 交通密度DB、37 旅行時間下限値算出部、38 計測旅行時間収集部、39 計測旅行時間DB、40 旅行時間上限値算出部、44a〜c 感知器、100 旅行時間提供装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が通行する道路に設けた情報提供区間内に設定した2つの検知器と、特定車両が前記2つの検知器間に形成される計測区間を通過するのに要した計測区間通過時間に基づいて、前記特定車両が前記情報提供区間を通過するのに要する情報提供区間通過時間を判定する判定手段と、を備えた通過時間提供装置において、
前記判定手段は、前記計測区間通過時間から異常値を除去して前記情報提供区間通過時間を判定することを特徴とする通過時間提供装置。
【請求項2】
過去の一定期間内に前記計測区間を通過した複数の前記特定車両に関する前記計測区間通過時間に係るデータを蓄積する通過時間データベースと、前記通過時間データベースに蓄積されたデータに基づいて計算された平均通過速度、及び前記特定車両を含む車両の通過を感知する感知器から得られた単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを蓄積する交通密度データベースと、前記通過時間データベース及び交通密度データベースに夫々蓄積された各データに基づいて前記計測区間通過時間の上限値及び下限値を生成する上下限値生成手段と、前記計測区間を前記特定車両が通過中の時間データを取得する通過時間取得手段と、前記計測区間を前記特定車両が通過中に前記感知器から得られた単位時間内における交通量に基づいて計算された交通密度に係るデータを取得する交通密度取得手段と、前記上下限値生成手段により生成された前記計測区間通過時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び下限値と前記通過時間取得手段により得られた時間及び前記交通密度取得手段により得られた交通密度とを比較して、前記計測区間通過時間に含まれる異常値を判定して除去する比較判定部と、該比較判定部により前記異常値を除去した計測区間通過時間に基づいて前記情報提供区間通過時間の情報を提供する情報提供部と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の通過時間提供装置。
【請求項3】
前記上下限値生成手段は、前記通過時間データベース及び交通密度データベースに蓄積されたデータに基づいて前記計測区間の通過時間特性を作成し、該通過時間特性に基づいて基準通過時間を算定して前記計測区間通過時間中の特定時点における交通密度毎の上限値及び下限値を生成することを特徴とする請求項2に記載の通過時間提供装置。
【請求項4】
前記比較判定部は、前記通過時間提供手段により得られた通過時間の値が前記上限値より大きい場合、該通過時間の値は使用せず前記感知器から得られたデータに基づいて前記計測区間通過時間を推定することを特徴とする請求項2に記載の通過時間提供装置。
【請求項5】
前記比較判定部は、前記通過時間提供手段により得られた通過時間の値が前記上限値及び下限値以内である場合、該通過時間の値を前記計測区間通過時間として使用することを特徴とする請求項2又は4に記載の通過時間提供装置。
【請求項6】
前記比較判定部は、前記通過時間提供手段により得られた通過時間が前記下限値未満である場合、該通過時間の値を前記下限値に置換して前記計測区間通過時間として使用することを特徴とする請求項2、4又は5に記載の通過時間提供装置。
【請求項7】
前記交通密度をK、前記交通量をQ、前記通過時間データベースに蓄積された計測区間通過時間に基づいて計算された通過速度をVとしたとき、前記交通密度Kは、K=Q/Vにより求めることを特徴とする請求項2乃至6の何れか一項に記載の通過時間提供装置。
【請求項8】
前記交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より小さい場合は、前記通過速度Vを一定速度として求め、前記交通密度Kが自由走行時の最大交通密度K4より大きい場合は、最大交通量のときの速度係数をCm、最大交通密度であるジャム密度をKjとしたとき、前記通過速度Vを、
V=Cm×ln(Kj/K)により求めることを特徴とする請求項2乃至7の何れか一項に記載の通過時間提供装置。
【請求項9】
前記上下限値生成手段は、前記通過速度Vを基準として、前記通過時間データベースに蓄積されたデータが標準偏差の2倍となる通過速度を前記上限値及び下限値とすることを特徴とする請求項2乃至8の何れか一項に記載の通過時間提供装置。
【請求項10】
前記特定車両が前記計測区間を通過する計測区間通過時間Tは、前記計測区間の区間長をL、前記通過速度をVとしたとき、T=L/Vにより求めることを特徴とする請求項2乃至9の何れか一項に記載の通過時間提供装置。
【請求項11】
前記検知器は、光ビーコン又は車両番号認識器により前記特定車両のユニーク情報を取得可能に構成されていることを特徴とする請求項2乃至10の何れか一項に記載の通過時間提供装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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