説明

速度計測装置および変位計測装置

【課題】データサイズの制限による値域の制限を有するデータを用いる場合でも、新たに定義する不定値に基づく不定性の概念を利用することにより、受信点の速度を求めることができる速度計測装置、および受信点の変位を求めることができる変位計測装置を提供する。
【解決手段】データ処理部3は、搬送波位相のデータを含む測位用データに基づいて、搬送波位相の速度成分を算出する。続いて、データ処理部3は、搬送波位相のデータに関するデータサイズまたは時間間隔に応じた搬送波位相の速度成分の不定値を算出する。続いて、データ処理部3は、搬送波位相の速度成分に不定値を加算することによって、不定性を解消した搬送波位相の速度成分を算出し、それと方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する。続いて、データ処理部3は、受信点速度を積算することによって受信点の変位を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位用衛星から受信した電波に基づく測位用データを用いて受信点の速度を計測する速度計測装置に関する。また、本発明は、受信点の変位を計測する変位計測装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、GPS(Global Positioning System)等の測位用衛星の搬送波位相を利用した速度計測が行われている。例えば特許文献1には、搬送波位相の速度成分であるドップラー周波数偏移量を用いて受信点の速度を計測することが記載されている。
【特許文献1】特開2006−105635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の速度計測では、受信機で得られた搬送波位相等の各種データを外部機器が通信により取得し、その外部機器が速度を算出していた。このような構成では、通信コストを削減するため、あるいは限られた通信速度で通信可能なサンプル数を増加して精度を向上させるため、1サンプル当たりの搬送波位相のデータサイズを縮小しなければならないときがある。
【0004】
受信機で観測された搬送波位相のデータが、上位桁を除いた下位桁に制限されたデータサイズを有するものである場合、搬送波位相データから算出した速度成分データの値域には、範囲制限が発生する。このままでは、受信点の速度の衛星方向成分が当該値域を超えた場合には、受信点の速度を求めることはできない。
【0005】
例えば、40msec間隔で観測したGPS衛星のL1搬送波位相(周波数:1575.42MHz/波長:約19cm)について、その観測データが、整数部を省略した小数部のみのデータである場合、衛星と受信点の相対速度によるL1搬送波位相の変化量(ドップラー周波数偏移)の測定範囲は、正数で表現すると0.0[km/h]から約17.1[km/h](以下の(1)式参照)までとなる。
0.19[m]/0.04[sec]=4.75[m/s]=17.1[km/h] ・・・(1)
【0006】
したがって、受信点の速度が「搬送波位相の速度成分データ」に反映されたとしても、当該速度成分データには約17.1[km/h]の範囲制限が存在することになる。よって、乗用車等の移動体において計測を行う場合、実用範囲(0〜180km/h等)の速度計測は困難となる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、値域に制限を有するデータを用いる場合でも、新たに定義する不定値に基づく不定性の概念を利用することにより、受信点の速度を求めることができる速度計測装置、および受信点の変位を求めることができる変位計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、搬送波位相のデータを含む前記測位用データに基づいて、搬送波位相の速度成分を算出する第1の速度成分算出部と、前記搬送波位相のデータに関するデータサイズまたは時間間隔に応じた前記搬送波位相の速度成分の不定値を算出する不定値算出部と、前記搬送波位相の速度成分に前記不定値を加算することによって、不定性を解消した搬送波位相の速度成分を算出する第2の速度成分算出部と、前記第2の速度成分算出部が算出した前記搬送波位相の速度成分と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部とを備えたことを特徴とする速度計測装置である。
【0009】
また、本発明の速度計測装置において、前記不定値算出部は、前記搬送波位相の速度成分と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、ドップラー周波数のデータを含む前記測位用データに基づいて、ドップラー周波数偏移を算出する第1のドップラー周波数偏移算出部と、前記ドップラー周波数のデータに関するデータサイズに応じた前記ドップラー周波数偏移の不定値を算出する不定値算出部と、前記ドップラー周波数偏移に前記不定値を加算することによって、不定性を解消したドップラー周波数偏移を算出する第2のドップラー周波数偏移算出部と、前記第2のドップラー周波数偏移算出部が算出した前記ドップラー周波数偏移と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部とを備えたことを特徴とする速度計測装置である。
【0011】
また、本発明の速度計測装置において、前記不定値算出部は、前記ドップラー周波数偏移と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、搬送波位相のデータを含む前記測位用データに基づいて、搬送波位相の速度成分を算出する第1の速度成分算出部と、前記搬送波位相のデータに関するデータサイズまたは時間間隔に応じた前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差の不定値を算出する不定値算出部と、前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差に前記不定値を加算することによって、不定性を解消した搬送波位相の速度成分の衛星間1重差を算出する第2の速度成分算出部と、前記第2の速度成分算出部が算出した前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部とを備えたことを特徴とする速度計測装置である。
【0013】
また、本発明の速度計測装置において、前記不定値算出部は、前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、ドップラー周波数のデータを含む前記測位用データに基づいて、ドップラー周波数偏移を算出する第1のドップラー周波数偏移算出部と、前記ドップラー周波数のデータに関するデータサイズに応じた前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差の不定値を算出する不定値算出部と、前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差に前記不定値を加算することによって、不定性を解消したドップラー周波数偏移の衛星間1重差を算出する第2のドップラー周波数偏移算出部と、前記第2のドップラー周波数偏移算出部が算出した前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部とを備えたことを特徴とする速度計測装置である。
【0015】
また、本発明の速度計測装置において、前記不定値算出部は、前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記の速度計測装置と、前記受信点速度算出部が算出した前記受信点の速度を積算し、受信点の変位を算出する受信点変位算出部とを備えたことを特徴とする変位計測装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の速度計測装置によれば、値域に制限を有するデータを用いる場合であっても、新たに定義する不定値に基づく不定性の概念を利用することにより、受信点の速度を求めることができるという効果が得られる。また、本発明の変位計測装置によれば、値域に制限を有するデータを用いる場合であっても、新たに定義する不定値に基づく不定性の概念を利用することにより、受信点の変位を求めることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態に適用される本発明の技術思想を説明する。前述したように、受信機で観測された搬送波位相のデータが、上位桁を除いた下位桁に制限されたデータサイズを有するものである場合、その搬送波位相データから算出した速度成分データの値域には、範囲制限が生じる。このままでは、受信点の速度の衛星方向成分が当該値域を超えた場合には、受信点の速度を求めることはできない。
【0019】
ここで、本発明者は、搬送波位相の速度成分データの値域が、搬送波位相の「データサイズ」および「使用データ時間間隔」(例えば観測時間間隔)に応じて制限されるという特性に着目し、当該特性を有する「値域の制限」を利用して本来の速度成分の値(値域に制限がないときの値)を求める方法および装置を発明した。本特性を利用した方法とは、計測対象の速度範囲、要求精度、頻度、および通信速度などの状況に応じて上記特性に基づきデータサイズや使用データ間隔を意図的に設定することにより制限した速度成分の値域の大きさ(以下、速度成分のデータ単位とする)を用い、あるいは、既存の機器構成において予め制限された速度成分の値域の大きさを用い、その一定値を1単位とする整数倍のオフセット量を各衛星毎に算出し、各衛星の元のデータ値(値域が制限された速度成分のデータ値)に加算することにより、観測した全ての衛星について、本来の速度成分の値を求め、受信点の速度を算出する、という一連の処理である。
【0020】
しかし、本発明の処理過程においては、オフセット量を算出するための整数値が不明であるため、別途、当該整数値を求める必要がある。ここで、不明な整数値を「不明整数値」と定義し、不確定な速度成分のオフセット量の値を「速度成分の不定値」と定義する。この定義を本発明の該当箇所に適用すると、“各衛星毎に不明整数値の解(整数解)を求め、「速度成分のデータ単位」と、求めた「不明整数値の解」との積による「速度成分の不定値の解」を各衛星の元のデータ値に加算することにより本来の値を求める”という具体的な解法を導くことができる。
【0021】
上記のような不定性の概念を新たに導入した本発明において、搬送波位相の速度成分についての定義式を以下に示す。まず、「搬送波位相のデータサイズに対応する量」をSとし、「使用データ時間間隔」をΔtとすると、搬送波位相の速度成分のデータ単位Uvは以下の(2)式で定義することができる。
Uv=S/Δt ・・・(2)
【0022】
以下、(2)式で定義した「速度成分のデータ単位Uv」が、値域の制限された測定範囲と一致することを説明する。例えば、前述した場合と同様に、40msec間隔で観測したGPS衛星のL1搬送波位相(周波数:1575.42MHz/波長:約19cm)について、その観測データが、整数部を省略した小数部のみのデータである場合、衛星と受信点の相対速度によるL1搬送波位相の変化量(観測量)の測定範囲は、正数で表現すると0.0[km/h]から約17.1[km/h](前述した(1)式参照)までとなる。また、半波長での正規化により、観測量の値域は±8.56[km/h]となる。
【0023】
したがって、受信点の速度が観測量に反映されたとしても、搬送波位相データの整数部が省略されているため、データサイズの単位であるL1周波数の1波長に基づき、観測量には約17.1[km/h]の制限が存在する。ここで、この「観測量の制限に基づく測定範囲」を、新たに導入した不定性の概念に基づいて「当該制限範囲を1単位とするデータ単位」とみなし、定義した(2)式を適用する。このとき、(2)式のSは約0.19[m]、Δtは0.04[sec]、Uvは17.1[km/h]となり、本定義による「速度成分のデータ単位Uv」は測定範囲と一致する。
【0024】
また、40msec間隔で観測したGPS衛星のL1搬送波位相(周波数:1575.42MHz/波長:約19cm)について、その観測データが、整数部を省略した小数部のみのデータであり、使用データ時間間隔を200msecに設定した場合、衛星と受信点の相対速度によるL1搬送波位相の変化量(観測量)の測定範囲は、正数で表現すると0.0[km/h]から約3.42[km/h](以下の(3)式参照)までとなる。また、半波長での正規化により、観測量の値域は±1.71[km/h]となる。
【0025】
したがって、受信点の速度が観測量に反映されたとしても、観測量には約3.42[km/h]の制限が存在する。ここで、この「観測量の制限に基づく測定範囲」を、前述の例と同様、新たに導入した不定性の概念に基づいて「当該制限範囲を1単位とするデータ単位」とみなし、定義した(2)式を適用する。このとき、(2)式のSは約0.19[m]、Δtは0.2[sec]、Uvは3.42[km/h]となり、本定義による「速度成分のデータ単位Uv」は測定範囲と一致する。
0.19[m]/0.2[sec]=0.95[m/s]=3.42[km/h] ・・・(3)
【0026】
さらに、不定値を加算した「搬送波位相の速度成分」は以下の(4)式で定義することができる。ここで、(Uv・Nv)が衛星iの「速度成分の不定値」である。
Φvu=Φv+(Uv・Nv) ・・・(4)
Φvu:衛星iの搬送波位相の速度成分(不定値を加算)
Φv:衛星iの搬送波位相の速度成分(値域はデータ単位の範囲)
Uv:速度成分のデータ単位
v:衛星iの不明整数値
【0027】
補足的に説明するが、一般にGPS搬送波位相による相対測位などで考慮されている「整数値不定性」(整数値アンビギュイティなどとも呼ぶ)は、システム上の特性として、当該測位における観測位相の整数波数が不確定なことを表している。したがって、その不定性の単位は1[cycle]で固定されている。また、搬送波位相のデータの「使用データ時間間隔」とは無関係である。つまり、搬送波位相の「データサイズ」および「使用データ時間間隔」を要因とした任意のデータ単位に基づく、本発明における「データ値の不定性」は、上記の一般的な「整数値不定性」とは異なる概念である。
【0028】
次に、「データサイズ」および「使用データ時間間隔」に基づくデータ値の不定性の概念を利用して、値域に制限を有する搬送波位相の速度成分のデータを用いて受信点の速度を求める方法を説明する。図1は、本実施形態による速度および変位計測装置の構成を示している。図1において、アンテナ1はGPS等の測位用衛星4a〜4dから電波を受信する。
【0029】
測位処理部2は受信機本体内に設けられており、衛星受信部2aおよび測位部2bを備えている。衛星受信部2aは、アンテナ1によって受信された電波に基づく電気信号を処理し、測位用データを測位部2bへ出力すると共に、同じく測位用データである搬送波位相(またはドップラー周波数)および航法メッセージのデータをデータ処理部3へ出力する。測位部2bは、衛星受信部2aからの各測位用データに基づいて受信点の概略位置および時刻を算出し、算出結果のデータおよび受信機クロックバイアスをデータ処理部3へ出力する。受信点の概略位置は、コード位相を用いて求められる。
【0030】
データ処理部3は受信機外部の機器内に設けられており、測位処理部2から入力された各種データに基づいて受信点の速度および変位を算出する。なお、図1では測位用衛星4a〜4dを図示しているが、3個以上であれば測位用衛星の数は問わない。
【0031】
以下、図2に示した手順に沿って、受信点速度および受信点変位の算出方法を説明する。なお、データ処理部3はデータの読み書きが可能な揮発性または不揮発性のメモリを内部に備えており、衛星受信部2aおよび測位部2bから受信した各種データをメモリに格納し、その各種データを適宜メモリから読み出して以下の演算を実行する。また、データ処理部3は、各ステップでの演算結果をメモリに格納し、それ以降のステップにおいて、以前のステップでの演算結果を適宜メモリから読み出し、演算を実行する。
【0032】
(ステップS100)
まず、データ処理部3は測位部2bから受信点の概略位置・時刻と受信機クロックバイアスのデータを受信する。
【0033】
(ステップS110)
ステップS100に続いて、データ処理部3は衛星受信部2aから搬送波位相(またはドップラー周波数)および航法メッセージのデータを受信し、以下の処理を実行する。まず、データ処理部3は受信点の概略速度および受信機の概略クロックドリフトを算出する。受信点の概略速度は、受信点の概略位置(緯度、経度、高度の3成分、あるいは地球に固定された座標系のx、y、zの3成分)の単位時間当たりの変化量から求まる。なお、測位部2bが算出した受信点の概略位置にローパスフィルタ処理が施されている場合には、そのフィルタ時定数を搬送波位相のフィルタ時定数と一致させることが望ましい。また、外部センサ(車速パルス、潮流計、磁気方位センサ、傾斜計等)の出力値から受信点の概略速度を求めてもよい。受信機の概略クロックドリフトは、受信機クロックバイアスの変化率から求まる。本実施形態では、上記の受信点の概略速度はGPS受信機の外部で算出することを想定しているが、別の形態として、GPS受信機の内部で受信点の概略速度を算出してもよい。
【0034】
(ステップS120)
ステップS110に続いて、データ処理部3は受信点の概略速度の算出結果を検定する。この検定により、概略速度の算出結果がOKまたはNGと判定される。以下のような場合、受信点の概略速度の算出が不可能または無効となり、算出結果がNGであると判定される。第1の場合は、受信点の概略位置の測定頻度が少ないことにより、搬送波位相の観測タイミングにおいて受信点の概略位置が算出されずに概略速度を求めることができない場合である。第2の場合は、受信点の概略位置に異常が発生し、概略速度の信頼性が低下して無効となる場合である。
【0035】
概略速度の信頼性は、概略速度の変化量と、同一時間における別途算出した受信点加速度の積算値との差分を所定の基準値と比較することによって判定することが可能である。受信点加速度の算出方法は後述する。ステップS120において、算出結果がOKであると判定された場合、処理はステップS140に進み、算出結果がNGであると判定された場合、処理はステップS130に進む。
【0036】
(ステップS130)
ステップS120において、算出結果がNGであると判定された場合、データ処理部3は、過去に算出した有効な受信点概略速度に対して、別途算出した受信点加速度の積算値を加算することによって、受信点概略速度の推定値を算出する。この後、処理はステップS140に進む。
【0037】
(ステップS140)
データ処理部3は搬送波位相の速度成分(観測量)を算出する。以下の(5)式および(6)式が示すように、データ処理部3は、観測時刻で取得された搬送波位相について時間差分をとることにより搬送波位相の速度成分を算出する。
Φv(t)=(Φ(t)−Φ(tk−1))/Δt ・・・(5)
Δt=t−tk−1 (k=1,2,3,・・・) ・・・(6)
Φ(t):時刻tにおいて観測した衛星iの搬送波位相
Φv(t):時刻tにおける衛星iの搬送波位相の速度成分
:搬送波位相の観測時刻
Δt:観測時間間隔
【0038】
上記において、搬送波位相の速度成分Φv(t)を定義する時刻を観測時間(時刻tk−1から時刻tまで)の最新の時刻tとしているが、観測時間の中間の時刻tm(以下の(7)式参照)としてもよい。この場合、上記の(5)式の代わりに以下の(8)式を用いる。また、誤差成分や受信点速度成分などの速度成分を算出する全ての場合において、この定義に従って速度成分を算出するものとする。
tm=(t+tk−2)/2 ・・・(7)
Φv(tm)=(Φ(t)−Φ(tk−1))/Δt ・・・(8)
Φv(tm):時刻tmにおける衛星iの搬送波位相の速度成分
【0039】
(ステップS150)
ステップS140に続いて、データ処理部3は、搬送波の伝搬時間と、航法メッセージから得られる衛星軌道情報とを用いて、観測した搬送波位相が発射されたときの衛星位置を算出する。この衛星位置と受信点の概略位置とに基づいて、データ処理部3は、以下の(9)式〜(14)式が示すように、衛星−受信機間距離の速度成分を算出する。搬送波位相の速度成分を算出する場合と同様に、データ処理部3は、衛星−受信機間距離について時間差分をとることにより衛星−受信機間距離の速度成分を算出する。また、時間差分の計算に用いる衛星−受信機間距離の2つの観測時刻は、観測量の算出で用いた時刻と同一時刻とする。さらに、衛星−受信機間距離の速度成分を算出するときに使用する受信点の概略位置Qは、2つの時刻1組(t,tk−1)においては同一の位置とする。なお、搬送波の伝搬時間は、光路差方程式から算出することが可能である。
v(t)=(D(t)−D(tk−1))/Δt ・・・(9)
(t)=|P’(t)−Q| ・・・(10)
(tk−1)=|P’(tk−1)−Q| ・・・(11)
P’(t)=P(t−τ(t)) ・・・(12)
P’(tk−1)=P(tk−1−τ(tk−1)) ・・・(13)
Δt=t−tk−1 (k=1,2,3,・・・) ・・・(14)
v(t):時刻tにおける衛星iの移動による衛星−受信機間距離の速度成分
(t):時刻tにおける衛星iと受信点の概略位置との距離
P’(t):時刻tにおいて観測した衛星iの搬送波位相が衛星iから発射されたときの衛星位置
(t):時刻tにおける衛星iの位置
τ(t):時刻tにおいて観測した衛星iの搬送波の伝搬時間
Q:受信点の概略位置
:搬送波位相の観測時刻
Δt:観測時間間隔
【0040】
さらに、データ処理部3は、衛星クロック誤差、各衛星方向の電離層遅延量、各衛星方向の対流圏遅延量を算出する。衛星クロック誤差および各衛星方向の電離層遅延量は、GPSのインターフェイス仕様ICD-GPS-200記載の方法により算出することが可能である。また、各衛星方向の対流圏遅延量については、各種モデル式により、その推定値を算出することが可能である。なお、SBAS情報を用いて、衛星位置、衛星クロック誤差、各衛星方向の電離層遅延量、各衛星方向の対流圏遅延量を補正してもよい。
【0041】
さらに、データ処理部3は、衛星クロック誤差、各衛星方向の電離層遅延量、各衛星方向の対流圏遅延量についてそれぞれ、観測量の時刻に相当する各データの生成時刻における時間差分をとることにより、衛星クロック誤差の速度成分、各衛星方向の電離層遅延量の速度成分、各衛星方向の対流圏遅延量の速度成分を算出する。これら受信点以外の速度成分である衛星−受信機間距離の速度成分、衛星クロック誤差の速度成分、各衛星方向の電離層遅延量の速度成分、各衛星方向の対流圏遅延量の速度成分を誤差成分とする。
【0042】
(ステップS160)
ステップS150に続いて、データ処理部3は、ステップS140で算出した搬送波位相の速度成分(観測量)から、ステップS150で算出した受信点以外の速度成分(誤差成分)を除去し、速度成分のデータ単位の範囲に正規化して、搬送波位相の受信点速度成分を算出する。さらに、ここでステップS110で算出した受信機の概略クロックドリフトを除去してもよい。また、相対論効果および地球の運動による影響を除去してもよい。
【0043】
(ステップS170)
ステップS160に続いて、データ処理部3は搬送波位相の受信点速度成分の不定値を算出する。以下、図3を参照しながら、この不定値の算出方法を説明する。まず、データ処理部3は、ステップS110およびS130で算出した受信点の概略速度あるいは概略速度の推定値に基づく受信点の概略速度ベクトルVについて、各衛星i(i=1,2,3,・・・)の方向に投影したベクトルV(受信点の概略速度の衛星方向成分)を求める。
【0044】
続いて、データ処理部3は、ステップS160で算出した搬送波位相の受信点速度成分Φvr(値域が制限された速度成分のデータ値)に対して、速度成分のデータ単位と不明整数値の候補値(・・・,−2,−1,0,1,2,・・・)とを乗算した値(速度成分の不定値の候補値)を加算することによって、搬送波位相の受信点速度成分の候補値300,300aを算出する。データ処理部3は、上記のようにして算出した搬送波位相の受信点速度成分の候補値300,300aの中から、上記のベクトルVの値と最も近い候補値300a(受信点速度ベクトルVを衛星iの方向に投影したベクトルの値に相当)を選択する。この候補値を算出するときに使用された不定値の候補値が不定値の解である。
【0045】
(ステップS180)
ステップS170に続いて、データ処理部3は、ステップS170で算出した不定値の解を搬送波位相の受信点速度成分に加算することによって、不定性を解消した搬送波位相の受信点速度成分を算出する。
【0046】
(ステップS190)
ステップS180あるいは後述のステップS210に続いて、データ処理部3は、受信点の概略位置および衛星位置から方向余弦を算出する。続いて、データ処理部3は、4個以上の衛星について不定性を解消した搬送波位相の受信点速度成分と方向余弦および未知数(受信点の3次元の速度および受信機クロックドリフトの4未知数)の方程式(以下の(15)式)により、受信点の速度を算出する。
Rv=H・Xv ・・・(15)
Rv:不定性を解消した搬送波位相の受信点速度成分行列
H:方向余弦行列
Xv:受信点速度および受信機クロックドリフト(未知数4個)
【0047】
衛星数が3個の場合には、過去に求めた直近の受信機クロックドリフトに、平滑化した直近の受信機クロックドリフトレートを積算し、受信機クロックドリフトの推定値を算出する。この受信機クロックドリフトの推定値を用いて、受信点速度3成分を未知数とした方程式を解くことによって、衛星が3個でも受信点速度を求めることが可能である。また、衛星数が4個以上の場合には、各衛星の搬送波位相の受信点速度成分について、上記の受信機クロックドリフトの推定値を除去した値を用いることにより、ステップS170の不定値の決定における解の信頼性を向上させることが可能である。
【0048】
(ステップS200)
ステップS190に続いて、データ処理部3は、ステップS190で算出した受信点速度の信頼性(OK/NG)を、以下の3つの方法のいずれか、あるいは複数を用いることにより判定する。
(A)各衛星について求めた不定値の解の周辺(例えば、不明整数値の解±1)において、各不定値に基づく搬送波位相の受信点速度成分の残差による指標値が最小となる不定値の組合せを求め、その組合せが、最初に求めた解の組合せと一致した場合にOKとする。
(B)各衛星について求めた不定値の解の周辺において、各不定値に基づく搬送波位相の受信点速度成分の残差による指標値が最小となる不定値の組合せの第1候補と、指標値が2番目に小さい第2候補とを求め、第1候補の組合せが最初に求めた不定値の解の組合せと一致する場合、第1候補と第2候補の指標値の比率を所定の基準値と比較することによって、信頼性を判定する。
(C)各衛星について求めた不定値の解に基づく搬送波位相の受信点速度成分の変化量と、同一時間において別途算出した搬送波位相の受信点加速度成分の積算値との差分を所定の基準値と比較することによって信頼性を判定する。
【0049】
ステップS200において、受信点速度の信頼性がOK、すなわち受信点速度が信頼できると判定された場合、処理はステップS220に進み、受信点速度の信頼性がNG、すなわち受信点速度が信頼できないと判定された場合、処理はステップS210に進む。
【0050】
(ステップS210)
ステップS200において、受信点速度の信頼性がNGであると判定された場合、データ処理部3は、受信点速度の算出で使用した全ての衛星、あるいはNGであると判定された原因である衛星について、過去に算出した有効な搬送波位相の受信点速度成分に対して、別途算出した搬送波位相の受信点加速度成分の積算値を加算することによって、搬送波位相の受信点速度成分の推定値を算出する。この後、処理はステップS190に戻る。
【0051】
(ステップS220)
ステップS210に続いて、データ処理部3は、以下の(16)式に従って受信点速度を積算することによって、受信点の変位を算出する。
【0052】
【数1】

【0053】
(ステップS230)
ステップS220に続いて、データ処理部3は、上記のようにして算出した受信点速度および受信点変位にローパスフィルタを適用し、雑音成分を除去する。上記のステップS100〜S230の処理を繰り返すことにより、データ処理部3は受信点速度および受信点変位を算出する。なお、ステップS230の処理は、適宜省略してもよい。
【0054】
次に、受信点加速度成分の算出方法を説明する。以下の(17)式が示すように、データ処理部3は、観測時刻で取得された搬送波位相について2重の時間差分をとることにより搬送波位相の加速度成分(観測量)を算出する。また、以下の(18)式が示すように、時間差分の計算に用いる搬送波位相の3つの観測時刻(t,tk−1,tk−2)の時間間隔は等しいものとする。
Φa(t)={(Φ(t)−Φ(tk−1))−(Φ(tk−1)−Φ(tk−2))}/Δt ・・・(17)
Δt=t−tk−1=tk−1−tk−2 (k=2,3,4,・・・) ・・・(18)
Φ(t):時刻tにおいて観測した衛星iの搬送波位相
Φa(t):時刻tにおける衛星iの搬送波位相の加速度成分
:搬送波位相の観測時刻
Δt:観測時間間隔
【0055】
上記において、搬送波位相の加速度成分Φa(t)を定義する時刻を観測時間(時刻tk−2から時刻tまで)の最新の時刻tとしているが、観測時間の中間の時刻tm(以下の(19)式参照)としてもよい。この場合、上記の(17)式の代わりに以下の(20)式を用いる。また、誤差成分や受信点加速度成分などの加速度成分を算出する全ての場合において、この定義に従って加速度成分を算出するものとする。
tm=(t+tk−2)/2 ・・・(19)
Φa(tm)={(Φ(t)−Φ(tk−1))−(Φ(tk−1)−Φ(tk−2))}/Δt ・・・(20)
Φa(tm):時刻tmにおける衛星iの搬送波位相の加速度成分
【0056】
続いて、データ処理部3は、観測された搬送波位相が発射されたときの衛星位置と受信点の概略位置とに基づいて、以下の(21)式〜(27)式が示すように、衛星−受信機間距離の加速度成分を算出する。搬送波位相の加速度成分を算出する場合と同様に、データ処理部3は、衛星−受信機間距離について2重の時間差分をとることにより衛星−受信機間距離の加速度成分を算出する。また、時間差分の計算に用いる衛星−受信機間距離の3つの観測時刻は、観測量の算出で用いた時刻と同一時刻とし、以下の(28)式が示すように、3つの観測時刻の時間間隔は等しいものとする。さらに、衛星−受信機間距離の加速度成分を算出するときに使用する受信点の概略位置Qは、3つの時刻1組(t,tk−1,tk−2)においては同一の位置とする。なお、搬送波の伝搬時間は、光路差方程式から算出することが可能である。
a(t)={(D(t)−D(tk−1))−(D(tk−1)−D(tk−2))}/Δt ・・・(21)
(t)=|P’(t)−Q| ・・・(22)
(tk−1)=|P’(tk−1)−Q| ・・・(23)
(tk−2)=|P’(tk−2)−Q| ・・・(24)
P’(t)=P(t−τ(t)) ・・・(25)
P’(tk−1)=P(tk−1−τ(tk−1)) ・・・(26)
P’(tk−2)=P(tk−2−τ(tk−2)) ・・・(27)
Δt=t−tk−1=tk−1−tk−2 (k=2,3,4,・・・) ・・・(28)
a(t):時刻tにおける衛星iの移動による衛星−受信機間距離の加速度成分
(t):時刻tにおける衛星iと受信点の概略位置との距離
P’(t):時刻tにおいて観測した衛星iの搬送波位相が衛星iから発射されたときの衛星位置
(t):時刻tにおける衛星iの位置
τ(t):時刻tにおいて観測した衛星iの搬送波の伝搬時間
Q:受信点の概略位置
:搬送波位相の観測時刻
Δt:観測時間間隔
【0057】
さらに、データ処理部3は、衛星クロック誤差、各衛星方向の電離層遅延量、各衛星方向の対流圏遅延量を算出する。衛星クロック誤差および各衛星方向の電離層遅延量は、GPSのインターフェイス仕様ICD-GPS-200記載の方法により算出することが可能である。また、各衛星方向の対流圏遅延量については、各種モデル式により、その推定値を算出することが可能である。なお、SBAS情報を用いて、衛星位置、衛星クロック誤差、各衛星方向の電離層遅延量、各衛星方向の対流圏遅延量を補正してもよい。
【0058】
さらに、データ処理部3は、衛星クロック誤差、各衛星方向の電離層遅延量、各衛星方向の対流圏遅延量についてそれぞれ、観測量の時刻に相当する各データの生成時刻における2重の時間差分をとることにより、衛星クロック誤差の加速度成分、各衛星方向の電離層遅延量の加速度成分、各衛星方向の対流圏遅延量の加速度成分を算出する。これら受信点以外の加速度成分である衛星−受信機間距離の加速度成分、衛星クロック誤差の加速度成分、各衛星方向の電離層遅延量の加速度成分、各衛星方向の対流圏遅延量の加速度成分を誤差成分とする。
【0059】
続いて、データ処理部3は、搬送波位相の加速度成分(観測量)から、上記のようにして算出した受信点以外の加速度成分(誤差成分)を除去し、加速度成分のデータ単位の範囲に正規化して、搬送波位相の受信点加速度成分を算出する。
【0060】
続いて、データ処理部3は、受信点の概略位置および衛星位置から方向余弦を算出する。さらに、データ処理部3は、4個以上の衛星について誤差成分を除去した搬送波位相の受信点加速度成分と方向余弦および未知数(受信点の3次元の加速度および受信機クロックドリフトレートの4未知数)の方程式(以下の(29)式)により、受信点の加速度を算出する。
Ra=H・Xa ・・・(29)
Ra:搬送波位相の受信点加速度成分行列
H:方向余弦行列
Xa:受信点の加速度および受信機クロックドリフトレート(未知数4個)
【0061】
前述した受信点速度および受信点変位の算出と並行して上記の受信点加速度の算出を行うことにより、各観測時刻における受信点速度、受信点加速度、および受信点変位を算出することが可能である。加速度計測においても、速度計測と同様に値域の制限は発生する。そこで、データサイズや使用データ時間間隔を予め適当な大きさに設定することにより、測定対象の加速度範囲に対する値域の制限に基づく測定不可能な範囲の発生を回避しておくことが可能である。ただし、実用上、加速度計測では速度計測よりも値域の制限に基づく測定不可能な範囲は発生しにくい。
【0062】
例えば、前述した場合と同様に、40msec間隔で観測したGPS衛星のL1搬送波位相(周波数:1575.42MHz/波長:約19cm)について、その観測データが、整数部を省略した小数部のみのデータである場合、加速度の値域の制限範囲の単位は約118.9[m/s](約12.1G)となる(以下の(30)式参照)。この場合、実用範囲(0〜3G等)において、値域の制限は問題にならない。
0.19[m]/0.04[sec]/0.04[sec]=118.9[m/s](約12.1G)(1G=9.80665[m/s2]) ・・・(30)
【0063】
次に、本実施形態の変形例を説明する。上記における搬送波位相の速度成分のデータ単位は、観測した全ての衛星について所定の一定値として説明しているが、各衛星で個別に異なる一定値を設定してもよい。
【0064】
また、以下で説明する搬送波位相の受信点速度成分の衛星間1重差を用いて受信点速度を算出してもよい。受信点速度成分の衛星間1重差とは、互いに独立した異なる衛星の受信点速度成分の差である。例えば、衛星iと衛星jの各受信点速度成分は、不定値を考慮して以下の(31)式および(32)式のように表現できる。ただし、衛星i,jのデータ単位Uvが等しいことを条件とする。
Φvru=Φvr+(Uv・Nv) ・・・(31)
Φvru=Φvr+(Uv・Nv) ・・・(32)
Φvru:衛星iの受信点速度成分(不定値を加算した値)
Φvru:衛星jの受信点速度成分(不定値を加算した値)
Φvr:衛星iの受信点速度成分(データ単位で正規化した値)
Φvr:衛星jの受信点速度成分(データ単位で正規化した値)
v:衛星iの速度成分の不明整数値
v:衛星jの速度成分の不明整数値
Uv:速度成分のデータ単位
【0065】
(31)式と(32)式の差をとることにより、受信点速度成分の衛星間1重差は以下の(33)式となる。
Φvru−Φvru=(Φvr−Φvr)+(Uv・(Nv−Nv)) ・・・(33)
【0066】
(33)式における差分の箇所を1重差の変数に置き換えると、以下の(34)式となる。
ΔΦjivru=ΔΦjivr+(Uv・ΔNjiv) ・・・(34)
ΔΦjivru:衛星iと衛星jによる受信点速度成分の衛星間1重差(不定値を加算した値)
ΔΦjivr:衛星iと衛星jによる受信点速度成分の衛星間1重差(データ単位で正規化した値)
ΔNjiv:衛星iと衛星jによるデータ単位に基づく不明整数値の衛星間1重差
Uv:速度成分のデータ単位
【0067】
上記の(34)式が示すように、ある1組(2個)の衛星の速度成分のデータ単位が同じ大きさの場合、受信点速度成分の衛星間1重差は、当該データ単位に基づく不定性を有する、と考えることができる。この特性を利用すると、「搬送波位相の受信点速度成分」の衛星間1重差により、受信機内部に起因する共通成分(受信機クロックドリフトなど)を相殺してから不定値の解を算出し、受信点速度を求めることが可能となる。
【0068】
以下、詳細を説明する。まず、観測量から誤差成分を除去した搬送波位相の受信点速度成分を求め、各1組の速度成分のデータ単位が等しく、かつ、互いに独立した3組以上の衛星間1重差を算出する。この「受信点速度成分の衛星間1重差」は、上記の説明のように当該データ単位に基づく不定性を有する。
【0069】
続いて、当該「受信点速度成分の衛星間1重差」で使用した衛星(例えばiとj)の方向に受信点の概略速度ベクトルVを投影したベクトルVとV(受信点概略速度の衛星方向成分)を求め、衛星間1重差Vji(概略1重差とする)を算出する。そして、不定性を有する「受信点速度成分の衛星間1重差」の候補値の中から、当該「概略1重差ΔVji」に最も近い候補値を選択し、この候補値を算出するときに使用した「衛星間1重差の不定値」を解として求める。
【0070】
さらに、不定性を解消した「搬送波位相の受信点速度成分の衛星間1重差」、方向余弦、および未知数(受信点速度の3次元成分)による、互いに独立な3個以上の方程式を解くことにより、受信点速度を求める。例えば、以下の(35)式〜(37)式のような、互いに独立な組合せによる衛星間1重差を用いた方程式を解けばよい。
ΔΦ21vrun=Δh21・Vr ・・・(35)
ΔΦ31vrun=Δh31・Vr ・・・(36)
ΔΦ41vrun=Δh41・Vr ・・・(37)
ΔΦjivrun:衛星iと衛星jによる不定性を解消した「搬送波位相の受信点速度成分の衛星間1重差」
Δhji:衛星iと衛星jによる方向余弦の衛星間1重差
Vr:受信点速度(未知数3個)
【0071】
次に、不定値の解法における本実施形態の変形例を説明する。不定値の解法において本実施形態では、各衛星について受信点速度成分の候補値の中から、概略速度ベクトルを各衛星の方向に投影したベクトルの値に最も近い候補値を選択するとして説明を行ったが、変形例として、受信点速度ベクトルを直接的に探索するための指標を新たに定義し、当該指標値に基づいて受信点速度の解を決定してもよい。
【0072】
まず、概略速度ベクトルを各衛星の方向に投影したベクトルの値について、その周辺に限定した不定値の候補に基づく複数の受信点速度ベクトルの候補(候補ベクトルとする)を算出する。ここで、候補ベクトルと概略速度ベクトルの類似度を示す指標を新たに定義する。そして、当該指標値によって最も類似度が高いと判断される候補ベクトルを解とすればよい。類似度の指標としては、例えば、3次元における候補ベクトルと概略速度ベクトルとの差分の大きさを指標として定義すると、この指標値が最小のときの候補ベクトルが受信点速度の解である。
【0073】
なお、本変形例において候補ベクトルを算出するとき、前述した「速度成分の衛星間1重差」を利用してもよい。つまり、概略速度ベクトルを各衛星の方向に投影したベクトルの値について、各衛星の組合せによる衛星間1重差を求め、その周辺に限定した「衛星間1重差の不定値の候補」に基づいて、前述した衛星間1重差の方程式により複数の候補ベクトルを算出することが可能である。
【0074】
また、本発明で定義したデータ単位に基づく不明整数値の概念および概略速度ベクトルを用いることにより、既存のGPS搬送波位相による相対測位などで用いられている各種の整数解探索手法を利用することができる。例えば、概略速度ベクトルを各衛星の方向に投影したベクトルの値あるいはその衛星間1重差に対応する、当該データ単位に基づく不明整数値の実数値を算出する。そして、既存の整数解探索手法における指標(一般にコスト関数と呼ばれる)を利用して、当該実数解から整数解(一般にfloat解およびfix解と呼ばれる)を求めることにより、不明整数値の整数解を確定して受信点速度の解を得ることができる。
【0075】
また、搬送波位相の受信点速度成分の不定値を算出する方法として、5個以上の衛星で観測を行い、要求される計測範囲を満たす不定値の全ての組合せについて、各衛星残差の平方和(あるいは残差に基づく指標値)を算出し、その値が最小になる不定値の組合せを解としてもよい。ただし、この方法では、衛星が5個以上必要であると共に、衛星数が多くなるほど不定値の組合せの数が級数的に増大し、CPU処理負荷の増大に伴って、実時間で解を求めることが困難となる。
【0076】
また、搬送波位相の速度成分および加速度成分における誤差成分の1つである「衛星の移動による成分」について、本実施形態では、衛星−受信機間距離の速度成分および加速度成分を用いて説明を行ったが、地球固定座標系における衛星位置に基づいて算出した衛星の速度および加速度の方向余弦成分を「衛星の移動による成分」として用いてもよい。
【0077】
また、上記では搬送波位相の速度成分や加速度成分を観測量としているが、これに代えて、ドップラー周波数偏移(搬送波位相の速度成分に相当)やその変化量(ドップラー周波数偏移の速度成分)を観測量としてもよい。速度成分であるドップラー周波数データを用いる場合、時間差分をとる必要がないため、速度成分のデータ単位はデータサイズのみに依存する。
【0078】
また、受信点加速度の算出においても、受信点速度の算出の場合と同様に、データ値の不定性を解決してもよい。
【0079】
上述したように、本実施形態によれば、値域に制限を有する搬送波位相の速度成分(またはドップラー周波数)のデータを用いる場合であっても、新たに定義する不定値に基づく不定性の概念を利用することにより、受信点速度および受信点変位を求めることができる。したがって、データサイズを低減することができ、受信機の外部機器で受信点速度等の算出を行う場合には、より高いサンプリング周波数で取得したデータを受信機から外部機器へ伝送することができる。その結果、従来よりも計測の追従性が向上し、また、データ数が増えることから精度も向上する。あるいは、従来と同じ頻度のデータを伝送する場合には、データサイズの低減により通信コストを削減することができる。
【0080】
また、搬送波位相を利用することにより、高精度に計測を行うことができる。さらに、連続する2時刻で搬送波位相を観測すれば受信点速度を求めることができるため、短い観測時間で計測を行うことができる。さらに、基準受信機を必要とせず、ローコストな計測システムを構成することができる。
【0081】
また、受信機クロックドリフト等の誤差成分を除去した受信点速度を算出することによって、受信点速度の積算により高精度な受信点変位を算出することができる。
【0082】
また、受信点速度成分の衛星間1重差を用いて受信点速度を算出することにより、受信機内部に起因する共通成分を相殺してから受信点速度を算出するため、高精度に受信点速度を算出することができる。また、処理過程で求める不定値の解の信頼性が向上する。
【0083】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本実施形態では、データ処理部3が受信機外部の機器内に設けられているとして説明を行ったが、データ処理部3が衛星受信部2aや測位部2bと共に受信機内部に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施形態による速度および変位計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による速度および変位計測装置が受信点速度および受信点変位を算出する手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態において、不定値の算出方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0085】
1・・・アンテナ、2・・・測位処理部、2a・・・衛星受信部、2b・・・測位部、3・・・データ処理部、4a,4b,4c,4d・・・測位用衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、
搬送波位相のデータを含む前記測位用データに基づいて、搬送波位相の速度成分を算出する第1の速度成分算出部と、
前記搬送波位相のデータに関するデータサイズまたは時間間隔に応じた前記搬送波位相の速度成分の不定値を算出する不定値算出部と、
前記搬送波位相の速度成分に前記不定値を加算することによって、不定性を解消した搬送波位相の速度成分を算出する第2の速度成分算出部と、
前記第2の速度成分算出部が算出した前記搬送波位相の速度成分と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部と、
を備えたことを特徴とする速度計測装置。
【請求項2】
前記不定値算出部は、前記搬送波位相の速度成分と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする請求項1に記載の速度計測装置。
【請求項3】
測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、
ドップラー周波数のデータを含む前記測位用データに基づいて、ドップラー周波数偏移を算出する第1のドップラー周波数偏移算出部と、
前記ドップラー周波数のデータに関するデータサイズに応じた前記ドップラー周波数偏移の不定値を算出する不定値算出部と、
前記ドップラー周波数偏移に前記不定値を加算することによって、不定性を解消したドップラー周波数偏移を算出する第2のドップラー周波数偏移算出部と、
前記第2のドップラー周波数偏移算出部が算出した前記ドップラー周波数偏移と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部と、
を備えたことを特徴とする速度計測装置。
【請求項4】
前記不定値算出部は、前記ドップラー周波数偏移と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする請求項3に記載の速度計測装置。
【請求項5】
測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、
搬送波位相のデータを含む前記測位用データに基づいて、搬送波位相の速度成分を算出する第1の速度成分算出部と、
前記搬送波位相のデータに関するデータサイズまたは時間間隔に応じた前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差の不定値を算出する不定値算出部と、
前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差に前記不定値を加算することによって、不定性を解消した搬送波位相の速度成分の衛星間1重差を算出する第2の速度成分算出部と、
前記第2の速度成分算出部が算出した前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部と、
を備えたことを特徴とする速度計測装置。
【請求項6】
前記不定値算出部は、前記搬送波位相の速度成分の衛星間1重差と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする請求項5に記載の速度計測装置。
【請求項7】
測位用衛星から電波を受信し、当該電波に基づく測位用データを取得する受信部と、
ドップラー周波数のデータを含む前記測位用データに基づいて、ドップラー周波数偏移を算出する第1のドップラー周波数偏移算出部と、
前記ドップラー周波数のデータに関するデータサイズに応じた前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差の不定値を算出する不定値算出部と、
前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差に前記不定値を加算することによって、不定性を解消したドップラー周波数偏移の衛星間1重差を算出する第2のドップラー周波数偏移算出部と、
前記第2のドップラー周波数偏移算出部が算出した前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差と方向余弦とに基づいて、受信点の速度を算出する受信点速度算出部と、
を備えたことを特徴とする速度計測装置。
【請求項8】
前記不定値算出部は、前記ドップラー周波数偏移の衛星間1重差と受信点の概略速度とに基づいて前記不定値を算出することを特徴とする請求項7に記載の速度計測装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の速度計測装置と、
前記受信点速度算出部が算出した前記受信点の速度を積算し、受信点の変位を算出する受信点変位算出部と、
を備えたことを特徴とする変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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