造血幹細胞及び該細胞による眼の血管新生性疾患の治療方法
【課題】眼において網膜血管及び神経ネットワークを救出することができる細胞集団の提供。
【解決手段】単離された、哺乳動物の、成体の骨髄に由来する、系統陰性の造血幹細胞集団(Lin−HSC)であり、眼において網膜血管及び神経ネットワークを救出することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有する。好ましくは、単離されたLin−HSCにおいて少なくとも約20%の細胞が細胞表面抗原CD31を発現する。単離されたLin−HSC集団は、ヒトトリプトファニルtRNA合成酵素の抗血管新生タンパク質断片を発現し、眼の血管疾患の治療に有用である。Lin−HSCは、成体の哺乳動物から骨髄を抽出し;複数の単球を分離し;系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で単球を標識し;複数の単球から系統表面抗原に対して陽性である単球を除去し、EPCを含有するLin−HSC集団を回収して単離される。
【解決手段】単離された、哺乳動物の、成体の骨髄に由来する、系統陰性の造血幹細胞集団(Lin−HSC)であり、眼において網膜血管及び神経ネットワークを救出することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有する。好ましくは、単離されたLin−HSCにおいて少なくとも約20%の細胞が細胞表面抗原CD31を発現する。単離されたLin−HSC集団は、ヒトトリプトファニルtRNA合成酵素の抗血管新生タンパク質断片を発現し、眼の血管疾患の治療に有用である。Lin−HSCは、成体の哺乳動物から骨髄を抽出し;複数の単球を分離し;系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で単球を標識し;複数の単球から系統表面抗原に対して陽性である単球を除去し、EPCを含有するLin−HSC集団を回収して単離される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年7月25日に出願された仮特許出願第60/398,522号及び2003年5月2日に出願された仮特許出願第60/467,051号の利益を主張する、2003年7月25日出願の、米国特許出願番号第10/628,783に対する出願の一部継続出願であり、これらは、参照により、本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に記載されている研究の一部は、National Cancer Institute(国立がん研究所)からのグラント第CA92577号及びNational Institute of Health(国立衛生研究所)からのグラント第EY11254号、EY12598号、EY125998号による補助を受けて為されたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、単離された、哺乳動物の、骨髄由来の系統陰性の造血幹細胞(Lin−HSC)集団及びその使用に関する。本発明は、とりわけ、内皮前駆細胞(EPC)を含有する、単離された、哺乳動物の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団に関する。本発明は、Lin−HSC及び形質移入されたLin−HSC集団の眼への投与による眼の血管疾患の治療にも関する。
【背景技術】
【0004】
網膜の遺伝性変性は、3500人に1人が影響を受け、完全な失明に進行することが多い、進行性の夜盲症、視野欠損、視神経萎縮、細動脈減弱、血管透過性の変化及び中央部の視力喪失を特徴とする(Heckenlively,J.R.,editor,1988;Retinitis Pigmentosa,Philadelphia:JB Lippincott Co.)。これらの疾患の分子遺伝学的解析により110種類以上の様々な遺伝子における突然変異が同定されたが、既知の罹患者においてこれらが占める割合は比較的少ない(Humphriesら、1992、Science 256:804−808;Farrarら、2002,EMBO J.21:857−864)。これらの突然変異の多くは、ロドプシン、cGMPホスホジエステラーゼ、rdsぺリフェリン及びRPE65を含む、光情報伝達機構の酵素的及び構造的成分に関連する。これらの観察にもかかわらず、これらの網膜変性疾患の進行を遅らせる、又は改善させる効果的な治療は依然として存在しない。遺伝子治療の最近の進展により、特異的な突然変異のある動物において、野生型の導入遺伝子を光受容体又は網膜色素上皮(RPE)に送達させることで、マウスにおけるrds(Aliら、2000、Nat.Genet.25:306−310)及びrd(Takahashiら、1999、J.Virol.73:7812−7816)表現型、及びイヌにおけるRPE65表現型(Aclandら、2001、Nat.Genet.28:92−95)を首尾よく改善できるようになった。
【0005】
加齢黄斑変性(ARMD)と糖尿病網膜症(DR)は先進国における主要な失明の原因であり、網膜での異常な新生血管形成の結果として発生する。網膜は、明瞭に区切られた神経細胞、グリア及び血管要素の層からなり、血管増殖や浮腫に見られるような比較的小さな障害が視覚機能の著しい損失を起こし得る。色素性網膜炎(RP)等の遺伝性の網膜変性もまた、細動脈の狭窄や血管の萎縮などの血管の異常に関連している。血管新生を促進及び阻害する因子の同定には著しい進歩があったが、眼の血管の疾患を特異的に治療する方法は現在のところ得られていない。
【0006】
以前から、幹細胞の集団が正常な成体の循環系及び骨髄に存在することが知られていた。これらの細胞の様々なサブ集団は、造血性の系統陽性(Lin+)又は系統陰性(Lin−)の系列に沿って分化することができる。さらに、近年では、系統陰性の造血幹細胞(HSC)集団が、インビトロ及びインビボで血管を形成することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有することが示されている(Asaharaら、1997,Science 275, 964−7)。これらの細胞は、肝細胞(Lagasseら、2000,Nat.Med.6,1229−34を参照。)、ミクログリア(Prillerら、2002,Nat.Med.7,1356−61を参照)、心筋細胞(Orlicら、2001,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 98,10344−9を参照。)及び上皮細胞(Lydenら、2001,Nat.Med.7,1194−1201を参照。)を含む内皮細胞以外の多様な細胞に分化するとともに、出生後の正常及び病的な血管新生に関与し得る(Lydenら、2001,Nat.Med.7,1194−201、Kalkaら、2000,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97,3422−7;及びKocherら、2001,Nat.Med.7,430−6を参照。)。これらの細胞は血管新生のいくつかの実験的モデルにおいて使用されてきたが、EPCが新生血管を標的とするメカニズムは不明であり、特定の血管構造に寄与する細胞の数を効果的に増加させる戦略は明らかとはなっていない。
【0007】
骨髄由来の造血幹細胞は現在、治療用途に一般に使用される唯一のタイプの幹細胞である。骨髄HSCは、40年以上にわたり移植に使用されてきた。現在のところ、白血病、リンパ腫及び遺伝性血液疾患の処置のための療法を開発するために、精製した幹細胞を回収する先進的な方法が研究途上にある。限られた数のヒト患者において、糖尿病及び進行性の腎臓癌の治療に対するヒトにおける幹細胞の臨床適用が研究されている。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、その細胞表面で系統表面抗原(Lin)を発現しない、つまり系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)の、単離された、哺乳動物の造血幹細胞集団(HSC)を提供する。本発明のLin−HSC集団は、眼に硝子体内注入された場合に、活性化された網膜星状細胞を選択的に標的とする、内皮プレカーサー細胞(endotherial precursor cell)としても知られている、内皮前駆細胞(EPC)を含む。本発明のLin−HSCは、好ましくは成体哺乳動物の骨髄由来であるが、成人ヒト骨髄由来であることがより好ましい。
【0009】
好ましい実施形態において、本発明のLin−HSC集団は、成体哺乳動物から骨髄を抽出することと;前記骨髄から複数の単球を分離することと;1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、前記系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、次にEPCを含有するLin−HSC集団を回収することにより単離される。好ましくは、その単球は、CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235a(グリコホリンA)からなる群より選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される。好ましくは、単離された、本発明のLin−HSC集団の細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する。
【0010】
本発明のLin−HSC集団内のEPCは発生過程にある網膜の血管に広く取り込まれ、眼の新生脈管構造に安定に取り込まれた状態となる。本発明の、単離された、Lin−HSC集団は、哺乳動物の変性した網膜脈管構造を救出し安定化させるために、神経ネットワークを救出するために、及び虚血組織の修復を促進するために使用することができる。
【0011】
ある好ましい実施形態において、本単離Lin−HSC集団の細胞は、治療上有用な遺伝子を用いてトランスフェクションされる。例えば、神経栄養性物質又は抗−血管形成剤を操作可能にコードするポリヌクレオチドを形質移入された細胞は、選択的に新生血管を標的とすることができ、細胞を用いた遺伝子治療の形式によって、すでに構築されている血管に影響を与えることなく新たな血管形成を阻害できる。ある実施形態において、本発明の、単離されたLin−HSC集団は、血管形成阻害ペプチドをコードする遺伝子を含む。血管形成阻害Lin−HSCは、ARMD、DR及び異常な脈管構造に関連するある網膜変性等の疾患における異常な血管成長を調節するのに有用である。別の好ましい実施形態において、単離された、本発明のLin−HSCは、神経栄養性ペプチドをコードする遺伝子を含む。その神経栄養性Lin−HSCは、緑内障、網膜色素変性症等の網膜神経変性に関連する眼疾患における神経救出を促進するために有用である。
【0012】
本発明の、単離されたLin−HSC集団で眼を治療することの特別な利点は、眼の硝子体内にLin−HSC処理を行った際に観察される血管栄養性及び神経栄養性の救出効果である。本発明の単離されたで治療した眼において、網膜のニューロン及び光受容体が保存され、視覚機能が維持される。本発明は、活性化網膜星状細胞を選択的に標的とする内皮前駆細胞を含有し、該単離Lin−HSCのうち少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、該単離Lin−HSCのうち少なくとも約50%が表面抗原CD117(c−kit)を発現する、骨髄由来の単離されたLin−HSC細胞を投与することを含む、網膜変性を治療するための方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、成体の哺乳動物骨髄、好ましくは成人ヒト骨髄から得られる内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を単離する方法も提供する。さらに、網膜の脈管構造の再生又は回復のための治療、ならびに網膜神経組織変性の治療又は改善に有用なヒトLin−HSCから、遺伝的に同一の細胞株(つまりクローン)を作り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
幹細胞は、典型的に、細胞表面の抗原の分布により同定される(詳細は、Stem Cells:Scientific Progress and Future Directions(National Institutes of Health,Office of Science Policyにより用意されたレポート。)、2001年6月、AppendixE:Stem Cell Markers(本明細書中に、参照により、適宜に組み込まれる。)を参照。)
造血幹細胞は、例えばB細胞、T細胞、顆粒球、血小板及び赤血球といった様々な血液細胞型に分化することができる幹細胞である。系統表面抗原は、CD2、CD3、CD11、CD11a、Mac−1(CD11b:CD18)、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、CD45RA、マウスLy−6G、マウスTER−119、CD56、CD64、CD68、CD86(B7.2)、CD66b、ヒト白血球抗原 DR(HLA−DR)及びCD235a(グリコホリンA)を含む、成熟血液細胞系列のマーカーである細胞表面タンパク質のグループである。これらの抗原を著しいレベルで発現しない造血幹細胞は、一般に系統陰性(Lin−)と呼ばれる。ヒト造血幹細胞は、一般に、CD31、CD34、CD117(c−kit)及び/又はCD133等の他の表面抗原を発現する。マウス造血幹細胞は、一般に、CD34、CD117(c−kit)、Thy−1及び/又はSca−1等の他の表面抗原を発現する。
【0015】
本発明は、その細胞表面で「系統表面抗原」(Lin)を著しいレベルで発現しない、単離された造血幹細胞を提供する。本明細書中において、このような細胞を「系統陰性」又は「Lin−」造血幹細胞と呼ぶ。とりわけ、本発明は、発生中の脈管構造に取り込まれることができ、その後血管内皮細胞になるように分化できる、内皮前駆細胞(EPC)を含む、Lin−造血幹細胞(Lin−HSC)の集団を提供する。好ましくは、単離されたLin−HSC集団は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の、培養培地中に存在する。
【0016】
本明細書中及び付属の請求項で使用される場合、骨髄に対する「成体」という用語は、胚とは対立するものとして、出生後に、つまり、若年及び成体個体から単離された骨髄を含む。「成体の哺乳動物」という用語は、若年及び完全に成熟した哺乳動物の両方を意味する。
【0017】
本発明は、内皮前駆細胞(EPC)を含有する、単離された、哺乳動物の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団を提供する。本発明の単離されたLin−HSC集団は、好ましくは、その細胞の少なくとも約20%が、一般に内皮細胞に存在する表面抗原CD31を発現する哺乳動物細胞を含有する。他の実施形態において、その細胞の少なくとも約50%がCD31を発現し、より好ましくは、少なくとも約65%が、最も好ましくは、少なくとも約75%がCD31を発現する。好ましくは、本発明のLin−HSC集団の細胞の少なくとも約50%が、インテグリンα6抗原を発現する。
【0018】
ある好ましいマウスLin−HSC集団の実施形態において、細胞の少なくとも約50%がCD31抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%がCD117(c−kit)抗原を発現する。好ましくは、Lin−HSC細胞の少なくとも約75%が表面抗原CD31を発現し、より好ましくは、その細胞の約81%が表面抗原CD31を発現する。別の好ましいマウスの実施形態において、前記細胞の少なくとも約65%が表面抗原CD117を発現し、より好ましくは、それらの細胞の約70%が表面抗原CD117を発現する。特に好ましい本発明の実施形態は、その細胞の約50%から約85%が表面抗原CD31を発現し、その細胞の約70%から約75%が表面抗原CD117を発現する、マウスLin−HSC集団である。
【0019】
別の好ましい実施形態は、その細胞がCD133陰性であり、その細胞の少なくとも約50%がCD31表面抗原を発現し、その細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6抗原を発現する、ヒトLin−HSC集団である。さらに別の好ましい実施形態は、その細胞がCD133陽性であり、その細胞の約30%未満がCD31表面抗原を発現し、その細胞の約30%未満がインテグリンα6抗原を発現するヒトLin−HSC集団である。
【0020】
本発明の単離されたLin−HSC集団は、それらの細胞を単離したマウス又はヒト等の哺乳動物種の眼に硝子体内注入された場合、星状細胞を選択的に標的とし、網膜新生血管に取り込まれる。
【0021】
本発明の単離されたLin−HSC集団は、内皮細胞に分化し、網膜内で血管構造を生じさせる内皮前駆細胞を含有する。とりわけ、本発明のLin−HSC集団は、網膜血管新生及び網膜血管変性疾患の治療及び網膜血管損傷の修復に有用である。本発明のLin−HSC細胞は、網膜における神経救出を促進し、抗アポトーシス遺伝子の上方制御を促進する。驚くべきことに、本発明の成人ヒトLin−HSC細胞が、網膜変性のある、重症複合免疫不全(SCID)マウスにおいてでさえも、網膜変性を抑制できることが分かった。従って、Lin−HSC集団は、新生仔哺乳動物の、例えば酸素誘発性網膜症又は未熟児網膜症に罹患している哺乳動物等の、眼における網膜障害を治療するために利用し得る。
【0022】
本発明はまた、哺乳動物の骨髄から内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を単離すること、及び、疾患を阻止するのに十分な数の単離された幹細胞を前記哺乳動物の眼の硝子体内に注入することを含む、哺乳動物における眼疾患を治療する方法を提供する。本方法は、新生、若年又は完全成熟哺乳動物における網膜変性疾患、網膜血管変性疾患、虚血性網膜症、血管からの出血、血管からの漏出及び脈絡膜症等の眼疾患を治療するために利用することができる。これらの疾患の例には、網膜傷害の他、加齢黄斑変性(ARMD)、糖尿病網膜症(DR)、推定眼ヒストプラスマ症(POHS)、未熟児網膜症(ROP)、鎌状赤血球貧血及び色素性網膜炎が含まれる。
【0023】
眼に注入される幹細胞数は、患者の眼の病状を抑止するのに十分な数である。例えば、細胞の数は、眼における網膜の損傷を修復し、網膜の新生脈管構造を安定化し、網膜の新生脈管構造を成熟させ、血管からの漏出や出血を防止又は修復するのに効果的な数であり得る。
【0024】
本発明のLin−HSC集団の細胞は、細胞を利用した眼の遺伝子治療で用いられる抗血管新生タンパク質をコードする遺伝子及び、神経救出効果を促進する神経栄養性物質をコードする遺伝子など、治療上有用な遺伝子を形質移入することができる。
【0025】
形質移入された細胞には、網膜障害の治療に対して治療上有用であるあらゆる遺伝子を包含させることができる。ある好ましい実施形態において、形質移入された本発明のLin−HSCは、TrpRS等のタンパク質若しくはタンパク質断片を含む抗血管新生ペプチド又は、例えばTrpRSのT1及びT2断片等のTrpRSの抗血管新生断片を操作可能にコードする遺伝子を含む。これらは共同で所有された同時係属している米国特許出願第10/080,839号に詳細に記載されており、その開示内容は、参照により、本願に組み込まれる。本発明の、抗血管形成ペプチドをコードする、形質移入されたLin−HSCは、糖尿病性網膜症等の疾患など、異常な血管発生を含む網膜疾患の治療に有用である。好ましくは、Lin−HSCは、ヒト細胞である。
【0026】
別の好ましい実施形態において、本発明の、形質移入されたLin−HSCは、神経成長因子、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、ニューロトロフィン−5、毛様体神経栄養因子、網膜色素上皮由来神経栄養因子、インスリン様成長因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子、脳由来神経栄養因子等の神経栄養性物質を操作可能にコードする遺伝子を含む。このような神経栄養性Lin−HSCは、網膜神経に対する傷害等の治療において、緑内障及び網膜色素変性症等の網膜神経変性疾患における神経救出を促進するために有用である。網膜色素変性症の治療に有用であるとして、毛様体神経栄養因子の移植が報告されている(Kirbyら、2001、Mol Ther.3(2):241−8;Farrarら、2002、EMBO Journal 21:857−864参照)。報告によると、脳由来神経栄養因子は、損傷を受けた網膜神経節において成長関連遺伝子を調節する(Fournierら、1997、J.Neurosci.Res.47:561−572参照。)。グリア細胞系列由来神経栄養因子は、報告によると、網膜色素変性症における光受容体の変性を遅らせる(McGeeら、2001、Mol Ther.4(6):622−9参照。)
本発明はまた、内皮前駆細胞を含む、哺乳動物の骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞を単離する方法も提供する。この方法は、(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出する段階と、;(b)前記骨髄から複数の単球を分離する段階と、;(c)1つ又は複数の系統表面抗原、好ましくは、CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G(マウス)、TER−119(マウス)、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86(B7.2)、CD66b、ヒト白血球抗原DR(HLA−DR)及びCD235a(グリコホリンA)からなる群より選択される系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識し;(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を回収する段階と、を伴い、好ましくはその細胞の少なくとも約20%がCD31を発現する。
【0027】
Lin−HSCが成人ヒト骨髄から単離される場合、好ましくは、単球は、系統表面抗原CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86(B7.2)及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される。Lin−HSCがマウス成体骨髄から単離される場合、好ましくは、単球は、系統表面抗原CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される。
【0028】
好ましい方法において、細胞は成人ヒト骨髄から単離され、さらにCD133系統により分離される。ヒトLin−HSCを単離する、ある好ましい方法は、単球をビオチン結合CD133抗体で標識し、CD133陽性のLin−HSC集団を回収する、さらなる段階を含む。典型的に、そのような細胞のうち約30%未満がCD31を発現し、そのような細胞のうち約30%未満がインテグリンα6を発現する。本発明の、ヒトCd133陽性、Lin−HSC集団は、血管形成が起こっていない眼に注入された場合、抹消の虚血主導の血管新生部位を標的とすることができる。
【0029】
ヒトLin−HSCを単離する、別の好ましい方法は、単球をビオチン結合CD133抗体で標識し、CD133陽性細胞を除去し、CD133陰性のLin−HSC集団を回収する、さらなる段階を含む。典型的に、そのような細胞のうち少なくとも約50%がCD31を発現し、そのような細胞のうち少なくとも約50%がインテグリンα6を発現する。本発明の、ヒトCD133陰性、Lin−HSC集団は、血管新生が起こっている眼に注入された場合、発生中の脈管構造に取り込まれ得る。
【0030】
本発明はまた、トランスフェクションした本発明のLin−HSC細胞を、その細胞の眼への硝子体内注入により投与することによる、眼の血管形成性疾患を治療するための方法を提供する。形質移入されたそのようなLin−HSC細胞には、治療上有用な遺伝子、例えば抗血管形成又は神経栄養性遺伝子産物をコードする遺伝子等を形質移入されたLin−HSCが含まれる。好ましくは、形質移入されたLin−HSC細胞は、ヒト細胞である。
【0031】
好ましくは、網膜変性疾患に罹患している哺乳動物の眼に硝子体内注入することにより、少なくとも約1x105個のLin−HSC細胞又は形質移入されたLin−HSC細胞を投与する。注入されるべき細胞数は、網膜変性の重症度、哺乳動物の年齢及び網膜疾患を治療する当業者にとって容易に考えられる他の因子に依存し得る。Lin−HSCは、治療を担当する臨床医により決定されるように、ある期間にわたり、単回投与又は複数回投与で投与し得る。
【0032】
本発明のLin−HSCは、網膜脈管構造の阻害もしくは変性、又は網膜神経変性などを含む網膜損傷及び網膜障害の治療に有用である。ヒトLin−HSCはまた、網膜脈管構造の再生又は修復治療における使用、ならびに網膜神経変性の治療又は改善のための、遺伝的に同一の細胞株、つまりクローンを作り出すためにも使用され得る。
【0033】
方法
【実施例1】
【0034】
細胞の単離と濃縮、マウスLin−HSC集団A及びBの調製。
【0035】
一般的な手順。インビボでの評価は全て、NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(実験動物の飼育と使用についてのNIHの指針)に従って行い、評価手順は全て、Scripps Research Institute (TSRI, La Jolla, CA)のAnimal Care and Use Committee(動物の飼育及び使用に関する委員会)から承認を受けた。骨髄細胞をB6.129S7−Gtrosa26、Tie−2GFP、ACTbEGFP、FVB/NJ(rd/rdマウス)又はBalb/cBYJ成体マウス(The Jackson Laboratory, ME)から抽出した。
【0036】
次いで、HISTOPAQUE(登録商標)ポリスクロース勾配(Sigma,St.Louis,MO)を用いた密度勾配分離によって単球を分離し、マウスにおいてLin−を選択するためにビオチン結合系統パネル抗体(CD45、CD3、Ly−6G、CD11、TER−119(Pharmingen,San Diego,CA))で標識した。磁気分離装置(AUTOMACSTMソーター(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)を用いて系統陽性(Lin+)細胞をLin−HSCから分離し除去した。さらにFACSTM Caliburフローサイトメーター(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を使用し、以下の抗体、すなわちPE結合Sca−1、c−kit、KDR及びCD31(Pharmingen,San Diego,CA)を用いて、内皮前駆細胞を含有する得られたLin−HSC集団の性質決定を行った。Tie−2の性質決定には、Tie−2−GFP骨髄細胞を用いた。
【0037】
成体マウス内皮細胞を採取するために、腸間膜組織をACTbEGFPマウスから外科的に取り除き、組織を消化するためにコラゲナーゼ(Worthington, Lakewood, NJ)中に置いた後、45μmフィルターを用いてろ過した。ろ液を集めEndothelial Growth Media(内皮細胞成長培地)(Clonetics,San Diego,CA)とともにインキュベートした。形態学的に敷石上の外見が観察されること、CD31mAb(Pharmingen)で染色されること及びMATRIGELTMマトリックス(Beckton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)中で培養物が管状構造を形成するか否かを試験することによって、内皮細胞の特徴を確認した。
【0038】
マウスLin−HSC集団A。骨髄細胞をACTbEGFPマウスから上記の一般的手順により抽出した。CD31、c−kit、Sca−1、Flk−1及びTie−2細胞表面抗原マーカーに対するFACSフローサイトメトリーによって、Lin−HSC細胞の性質決定を行った。結果を図1cに示す。Lin−HSCの約81%はCD31マーカーを、Lin−HSCの約70.5%はc−kitマーカーを、Lin−HSCの約4%はSca−1マーカーを、Lin−HSCの約2.2%はFlk−1マーカーを、Lin−HSC細胞の約0.91%はTie−2マーカーを提示した。これに対して、これらの骨髄細胞から単離されたLin+HSCは著しく異なる細胞マーカー特性(すなわちCD31は37.4%、c−kitは20%、Sca−1は2.8%、Flk−は0.05%)を有していた。
【0039】
マウスLin−HSC集団B。Balb/C、ACTbEGFP及びC3Hマウスから、上記の一般的手順によって骨髄細胞を抽出した。Lin−HSC細胞を細胞表面マーカー(Sca−1、KDR、c−Kit、CD34、CD31及び様々なインテグリン:α1、α2、α3、α4、α5、α6、αM、αV、αX、αIIb、β1、β4、β3、β4、β5及びβ7)の存在について解析した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【実施例2】
【0041】
マウスモデルにおける細胞の硝子体内投与
P2からP6の眼球を露出するために、鋭利な刃によって、マウスのまぶたに裂け目を入れた。次に本発明の系統陰性HSC集団A(細胞培養培地約0.5μlから約1μl中におよそ105細胞)を33ゲージ(Hamilton,Reno, NV)の針の付いたシリンジで硝子体内に注入した。
【実施例3】
【0042】
EPCトランスフェクション
製造業者のプロトコールに従い、FuGENETM6トランスフェクション試薬(Roche, Indianapolis,IN)を用いて、TrpRSのT2断片をコードしHis6タグも封入するDNA(配列番号1、図7)をマウスLin−HSC(集団A)にトランスフェクションした。Lin−HSC細胞(1mlあたり約106細胞)を幹細胞因子(PeproTech,Rocky Hill,NJ)を含有するopti−MEM(登録商標)培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)中に懸濁した。次いで、DNA(約1μg)及びFuGENE試薬(約3μl)の混合物を添加し、混合物を約37℃で約18時間インキュベーションした。インキュベーション後、細胞を洗浄し回収した。このシステムのトランスフェクション効率は、FACS解析で確認したところ、およそ17%であった。T2の産生をウエスタンブロッティングにより確認した。His6タグ付加T2−TrpRSのアミノ酸配列を配列番号2、図8に示す。
【実施例4】
【0043】
免疫組織化学及び共焦点解析
マウス網膜をさまざまな時点で採取し、ホールマウント用又は凍結切片作製用に調製した。ホールマウント用には、網膜を4%パラホルムアルデヒドで固定し、50%ウシ胎仔血清(FBS)及び20%正常ヤギ血清中において1時間周囲の室温でブロッキングした。網膜を一次抗体で処理し、二次抗体で検出した。使用した一次抗体は、抗コラーゲンIV(Chemicon,Temecula,CA)、抗β−gal(Promega,Madison,WI)、抗GFAP(Dako Cytomation,Carpenteria,CA)、抗α平滑筋アクチン(α−SMA,Dako Cytomation)であった。使用した二次抗体をAlexa488又は594蛍光マーカー(Molecular Probes,Eugene,OR)に結合させた。画像はMRC1024共焦点顕微鏡(Bio−Rad,Hercules,CA)で撮影した。ホールマウント網膜中での血管の発生について3つの異なる層を調べるために、LASERSHARP(登録商標)ソフトウェア(Bio−Rad)を用いて三次元画像を作製した。共焦点顕微鏡によって識別される、増強GFP(eGFP)マウスとGFAP/wtGFPマウスとの間のGFP画素強度の相違を利用して3D画像を作製した。
【実施例5】
【0044】
マウスにおけるインビボでの網膜の血管新生定量アッセイ
T2−TrpRS解析のために、第一及び深層の叢をマウス網膜の三次元画像から再構築した。第一叢を二つのカテゴリー、正常発生又は血管発生停止に分けた。深層での血管発生阻害についてのカテゴリーは、以下の基準を含む血管阻害の百分率に基づいて解釈した。深層叢形成の完全阻害を“Complete(完全)”と、正常血管発生(25%未満の阻害を含む)を“Normal(正常)”と、残りを“Partial(部分的)”とに分類した。rd/rdマウスの救出データを得るために、ホールマウント網膜それぞれについて、さらに深層の叢の4つの独立した領域を10Xレンズで捉えた。脈管構造の全長を各画像について計算し、まとめ、グループ間で比較した。正確な情報を得るために、Lin−HSCを一方の眼に、Lin+HSCを同じマウスのもう一方の眼に注入した。注入しない対照網膜は同じ親から生まれたマウスより得た。
【実施例6】
【0045】
成体網膜傷害マウスモデル
ダイオードレーザー(150mW、1秒、50mm)を用いて、又は27ゲージ針で機械的にマウス網膜に穴を開けることによって、レーザー及び傷跡のモデルを作製した。傷を与えてから5日後、硝子体内法を用いて細胞を注入した。更にその5日後にマウスから眼を採取した。
【実施例7】
【0046】
網膜再生の神経栄養性救出
成体のマウス骨髄由来の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)は網膜変性のマウスモデルにおいて血管栄養及び神経栄養性の救出効果を有している。10日齢マウスの右眼に本発明のLin−HSCを約105個含有する約0.5μlを硝子体内注入し、2ヶ月後、網膜の脈管構造の存在及び神経層の核数について評価した。同じマウスの左眼にほぼ同じ数のLin+HSCを対照として注入し、同様に評価した。図9に示すように、Lin−HSCで処理した眼では、網膜の脈管構造はほぼ正常なようであり、内顆粒層はほぼ正常、外顆粒層(ONL)は約3から約4の核層を有していた。対照的に、Lin+HSCで処理した反対側の眼では、網膜血管の中間層が著しく萎縮し、網膜血管の外層は完全に萎縮し、内顆粒層は著しく萎縮し、外顆粒層は完全に消失していた。これはマウス3及びマウス5で顕著に示された。マウス1では、救出効果はなく、これは注入を行ったマウスのおよそ15%で当てはまった。
【0047】
視覚機能を網膜電図(ERG)で評価すると、血管及び神経の両者が救出された場合(マウス3及び5)に陽性ERGの回復が観察された。陽性ERGは、血管又は神経の救出がない場合(マウス1)には観察されなかった。本発明のLin−HSCによる、rd/rdマウスの眼における血管性と神経栄養性の救出との間の相関は、図10の回帰分析プロットによって示される。神経(y軸)回復と血管(x軸)回復との間に見られる相関は中間の脈管型(r=0.45)及び深層の脈管型(r=0.67)で観察された。
【0048】
図11に示すように、Lin+HSCによる血管救出と神経救出との間にはいかなる統計的に有意な相関も存在しない。血管の救出を定量化し、そのデータを図12に示す。図12に示す注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)及び6ヶ月(6M)のマウスのデータによれば、本発明のLin−HSCで処理した眼(黒い棒)では、同じマウスの非処理の眼(白い棒)の血管長と比べて、特に注入後1ヶ月及び2ヶ月で、血管長が顕著に伸びたことが明らかである。Lin−HSC又はLin+HSCの注入後約2ヶ月に内顆粒層及び外顆粒層の核を数えることにより、神経栄養性の救出効果を定量化した。結果を図13及び14に示す。
【実施例8】
【0049】
ヒトLin−HSC集団
上述した一般プロトコールにより、健康な成人ヒトボランティアから骨髄細胞を抽出した。次いで、HISTOPAQUE(登録商標)ポリスクロース勾配(Sigma,St.Louis,MO)を用いた密度勾配分離によって単球を分離した。以下のビオチン結合系統パネル抗体(CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86、CD235a(Pharmingen)を用いて、磁気分離装置(AUTOMACSTMソーター(Miltenyi Biotech,Auburn,CA)によりヒト骨髄単球細胞からLin−HSC集団を単離した。
【0050】
ヒトLin−HSC集団を、CD133発現により、2つのサブ集団にさらに分離した。ビオチン結合CD133抗体でそれらの細胞を標識し、CD133陽性及びCD133陰性のサブ集団に分離した。
【実施例9】
【0051】
網膜変性に対するマウスモデルにおける、ヒト及びマウス細胞の硝子体内投与。
【0052】
網膜変性モデルとして、C3H/HeJ、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCID及びrd10マウス系列を使用した。C3H/HeJ及びC3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウス(The Jackson Laboratory,Maine)は、retinal degeneration1(rd1)突然変異に関してホモ接合性であり、早期に重度の網膜変性を起こす突然変異体である。突然変異は、桿状体光受容体 cGMPホスホジエステラーゼ βサブユニットをコードするPde6b遺伝子のエクソン7に位置する。この遺伝子における突然変異は、常染色体劣性の網膜色素変性症(RP)のヒト患者において見つかっている。C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスもまた、重症複合免疫不全症自然突然変異(Prkdc SCID)についてホモ接合であり、ヒト細胞移入実験において使用した。rd10マウスにおける網膜変性は、Pde6b遺伝子のエクソン13における突然変異により生じる。これもまた、臨床的に意義のあるRPモデルであり、発症が遅く、網膜変性の程度がrd1/rd1)よりも穏やかである。評価は全て、NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(実験動物の飼育と使用についてのNIHの指針)に従って行い、手順は全て、Scripps Research InstituteのAnimal Care and Use Committee(動物の飼育及び使用に関する委員会)から承認を受けた。
【0053】
P2からP6の眼球を露出するために、鋭利な刃によって、マウスの瞼に裂け目を入れた。次に、マウス集団A又はヒト集団Cに対する系統陰性HSC細胞(細胞培養培地 約0.5μlから約1μl中におよそ105細胞)を33ゲージ(Hamilton, Reno, NV)の針の付いたシリンジでマウスの眼に硝子体内注入した。注入されたヒト細胞を見えるようにするために、色素(Cell tracker green、CMFDA,Molecular Probes)で注入前に細胞を標識した。
【0054】
様々な時点で網膜を回収し、4% パラホルムアルデヒド(PFA)及びメタノールで固定し、次に、50% FBS/20% NGS中で室温にて1時間ブロッキングした。網膜脈管構造を染色するために、抗−CD31(Pharmingen)及び抗−コラーゲンIV(Chemicon)抗体とともに網膜をインキュベーションし、その後、Alexa 488又は594結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,Oregon)とともにインキュベーションした。ホールマウント標本を得るために、4方向に放射状に減張切開してその網膜を平らに置いた。Radiance MP2100共焦点顕微鏡及びLASERSHARP(登録商標)ソフトウェア(Biorad,Hercules,California)を用いて、中間又は深層網膜血管叢における脈管構造の像(Dorrellら、2002 Invest Ophthalmol.Vis.Sci.43:3500−3510を参照。)を得た。脈管構造の定量のために、中間及び深層血管層の中央部分から4つの別個の視野(900μmx900μm)を無作為に選択し、LASERPIX(登録商標)解析ソフトウェア(Biorad)を使用して、脈管構造の全長を測定した。同一叢におけるこれらの4視野の全長をさらなる解析に使用した。
【0055】
凍結切片用に、平らに置いた網膜を再包埋した。網膜を4%PFA中に一晩置き、その後、20%スクロースとともにインキュベーションした。最適切削温度コンパウンド(optimal cutting temperature compound)(OCT:Tissue−Tek;Sakura FineTech,Torrance,CA)にその網膜を包埋した。核色素 DAPI(Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouri)を含有するPBS中で凍結切片(10μm)を再水和した。視神経頭及び周辺部網膜全体を含む1つの切片の3つの異なる領域(280μm幅、無作為サンプリング)において、DAPI標識された核の像を共焦点顕微鏡で撮影した。1つの切片中の3つの独立した視野のONLに位置する核の数を数え、解析のために合計した。単純線形回帰分析を行い、深層叢における脈管構造の長さとONLにおける細胞核の数との間の関係を調べた。
【0056】
一晩暗順応を行った後、15μg/gm ケタミン及び7μg/gmキシラジンの腹腔内注射によりマウスを麻酔した。マウスリファレンス(mouth reference)及び尾部接地電極とともに金ループ角膜電極を用いて、瞳孔拡張(1% 硫酸アトロピン)後に、各眼の角膜表面から網膜電図(ERG)を記録した。反射率の高いGanzfeldドームの外側に取り付けられたGrass Photic Stimulator(PS33 Plus,Grass Instruments,Quincy,MA)により刺激を生じさせた。光刺激発生装置に許容される最大強度(0.668cd−s/m2)までの強度範囲にわたる短波長(Wratten 47A:λmax=470nm)の光のフラッシュに対して、桿状体の反応を記録した。反応シグナルを増幅し(CP511 AC 増幅器、Grass Instruments)、デジタル化し(PCI−1200,National Instruments,Austin,TX)、コンピューター解析を行った。各マウスを、ERGを処理及び非処理の眼の両方から記録して、それ自身の内部対照とした。最も弱いシグナルに対して、100スイープまでを平均した。非処理の眼の平均反応を処理した眼の反応からデジタル処理で差し引き、シグナルにおけるこの差を機能的救出の指標とするために使用した。
【0057】
Lin−HSC標的網膜遺伝子発現を評価するために、マイクロアレイ解析を使用した。P6 rd/rdマウスに、Lin−又はCD31−HSCのいずれかを注入した。注入後40日に、RNaseフリー培地中でこれらのマウスの網膜を切り出した(網膜脈管構造及び光受容体層の救出は、注入後この時点で明らかである。)。正常なHSC標的ならびに脈管構造及び神経保護が達成されたことを確認するために、ホールマウントにより各網膜の4分の1の部分を分析した。TRIzol(Life Technologies,Rockville,MD)、フェノール/クロロホルムRNA単離プロトコールを用いて、注入に成功した網膜由来のRNAを精製した。Affymetrix Mu74Av2チップにRNAをハイブリダイズさせ、GENESPRING(登録商標)ソフトウェア(SiliconGenetics,Redwood City,CA)を用いて遺伝子発現を解析した。精製したヒト又はマウスHSCをP6マウスに硝子体内注入した。RNAの精製及びヒト特異的U133A Affymetrix チップへのハイブリダイゼーション用に、P45に、その網膜を切り出し、1)ヒトHSC注入、救出マウス網膜、2)ヒトHSC注入、非救出マウス網膜、3)マウスHSC注入、救出マウス網膜のフラクションに分けて集めた。GENESPRING(登録商標)ソフトウェアを使用して、バックグラウンドより高く、ヒトHSC救出網膜においてより高く発現される遺伝子を同定した。次に、これらの遺伝子のそれぞれに対するプローブペアの発現特性を個々に解析し、dChipを用いて正常ヒトU133A マイクロアレイ実験のモデルと比較し、ヒト種特異的ハイブリダイゼーションを特定し、異種間のハイブリダイゼーションによる偽陽性を除いた。
【0058】
CD133陽性及びCD133陰性のLin−HSCサブ集団を、新生仔SCIDマウスの眼に硝子体内注入した場合、CD31及びインテグリンα6表面抗原の両方を発現するCD133陰性サブ集団の場合に発生中の脈管構造へ最も多く取り込まれたことが観察された(図21、下参照)。CD133陽性サブ集団は、CD31又はインテグリンα6を発現せず(図21、上)、周辺部の虚血主導の血管新生の部位を標的とすると思われるが、血管形成が起こっている最中の眼に注入した場合、そのような部位を標的としないと思われる。
【実施例10】
【0059】
酸素誘発性網膜変性に対するマウスモデルにおけるマウス細胞の硝子体内投与。
【0060】
酸素誘発性網膜変性(OIR)モデルにおいて、新生仔野生型C57B16マウスを、出生後P7からP12の間、酸素過剰状態(75%酸素)に曝露した。図22は、P0からP30における、C57B16マウスの正常な出生後の血管発生を説明する。P0において、視神経円板周囲で発芽状態の表面血管のみが観察できる。次の数日にわたり、最初の表面ネットワークが周辺部に広がり、P10までに遠く離れた周辺部に到達する。P7からP12の間に、二次(深層)叢が発生する。P17までに、広域に及ぶ表面及び深層の血管ネットワークが現れる(図22、挿入図)。その後の数日間、成体の構造がおよそP21にできるまで、血管の三次(中間)層の発生に伴い、再構築が起こる。
【0061】
一方で、OIRモデルにおいて、P7からP12に75%酸素に曝露した後、正常な一連の段階が大幅に障害される(図23)。P3に、本発明の成体マウスLin−HSC集団を、その後OIRを起こすマウスの片方の眼に硝子体内注入し、他方の眼にPBS又はCD31陰性細胞を対照として注入した。図24は、本発明のLin−HSC集団が、発生中のマウス網膜において、変性を引き起こす高酸素状態による影響に拮抗することができることを説明する。処理した眼において、P17に、完全に発生が進んだ表面及び深層の網膜脈管構造が観察されたが、一方で、対照の眼では、実質的に深層血管がない無血管エリアが広く見られた(図24)。OIRモデルにおけるマウスのおよそ100個の眼を観察した。本発明のLin−HSC集団で処理した眼の58%において正常な脈管化が観察されたが、一方、対照の眼では、正常な脈管化が観察されたのは、CD−31細胞で処理した眼のうち12%であり、PBSで処理した眼のうち3%であった。
【0062】
結果
マウス網膜血管の発生;眼の血管形成についてのモデル
マウスの眼は、ヒト等の哺乳動物の網膜血管の発生に関する研究に対する認識されたモデルを与える。マウスの網膜脈管構造が発生する時期において、虚血が引き起こした網膜血管は星状細胞と密接に関係して発生する。これらグリアの要素は、妊娠三半期のうちの最後のヒト胎児又は新生期のげっ歯類の網膜上へ視神経円板から神経節細胞層に沿って移動し、放射状に広がる。マウスの網膜脈管構造が発生するにつれて、内皮細胞は既に確立されたこの星状細胞の鋳型を利用し、網膜の血管パターンを決定する(図1a及びb参照)。図1(a及びb)は、発生過程にあるマウス網膜の概略図を表している。図1aは星状細胞の鋳型(明るい線)上に重なっている第一叢(図の左上の暗い線)の発生を表しており、図1bは網膜の血管形成の第二段階を表している。図中、GCLは神経節細胞層、IPLは内網状層、INLは内顆粒層、OPLは外網状層、ONLは外顆粒層、RPEは網膜色素上皮、ONは視神経及びPは末梢を意味する。
【0063】
出生時、網膜の脈管構造は実質的に存在しない。出生後14日(P14)までに物が見え始めるようになるのと一致して、網膜は、網膜血管の複雑な第一(表面)及び第二(深部)層を発達させる。初めに、スポーク状の乳頭周囲の血管が、末梢に向かって、すでに存在している星状細胞のネットワーク上を放射状に成長し、続いて毛細管状の叢を形成することで次第に相互に連結するようになる。これらの血管はP10まで神経線維内で単層として成長する(図1a)。P7からP8の間に側副枝がこの第一叢から出芽し始め、網膜を通り外網状層へと貫通し、そこで第二のあるいは深層の網膜叢を形成する。P21までにネットワーク全体が広範囲の再構築を行い、第三又は中間の叢が内顆粒層の内側表面に形成される(図1b)。
【0064】
新生期のマウス網膜の血管新生モデルはいくつかの理由から眼の血管新生におけるHSCの役割の研究に有用である。この生理学上意義のあるモデルにおいて、内在性の血管の出現前に大きな星状細胞の鋳型が存在し、それにより新生血管の形成過程における細胞−細胞間の標的化の役割を評価することが可能になっている。さらに、この新生期の網膜血管の一貫した再現性のある形成過程は低酸素により起こることが知られており、この点において虚血が関与することが知られる多くの網膜疾患と類似点がある。
【0065】
骨髄からの内皮前駆細胞(EPC)の濃縮
細胞表面マーカーの発現はHSCの調製物に見られるEPC集団について広く評価されてきたが、EPCを一意的に同定するマーカーはいまだ十分に定義されていない。EPCを濃縮するために、造血性の系統マーカー陽性細胞(Lin+)、すなわちBリンパ球(CD45)、Tリンパ球(CD3)、顆粒球(Ly−6G)、単球(CD11)及び赤血球(TER−119)をマウスの骨髄単核細胞から除いた。EPCをさらに濃縮するためにSca−1抗原を使用した。同数のLin−Sca−1+細胞又はLin−細胞を硝子体内に注入した後に得られた結果を比較したところ、2つのグループ間で違いは検出されなかった。実際に、Lin−Sca−1−細胞のみを注入した場合、発生過程の血管への取り込みがはるかに多いことが観察された。
【0066】
本発明のLin−HSC集団は機能アッセイに基づきEPCについて濃縮される。その上、Lin+HSC集団はLin−HSC集団とは機能的に全く異なる振る舞いをする。各画分(以前に報告されたインビトロにおける性質決定の研究に基づく。)について、EPCを同定するのに広く用いられるエピトープも評価した。Lin−画分のみに見られるマーカーはなかったが、Lin+HSC画分と比較して、Lin−HSCでは、全てのマーカーが約70から約1800%上昇していた(図1c)。図1cは骨髄由来の分離されたLin+HSC及びLin−HSC細胞に対して行ったフローサイトメトリーによる性質決定を示している。図1c上列は抗体でラベルされていない造血幹細胞のドットプロット分布を示している。R1はPE染色陽性が定量可能なようにゲーティングされた領域を表し、R2はGFP陽性を表している。Lin−HSCのドットプロットを中列に示し、Lin+HSCのドットプロットを下列に示す。C57B/6細胞をSca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPEに結合した抗体で標識した。Tie−2のデータをTie−2−GFPマウスから得た。ドットプロットの角に記載されている百分率は全Lin−又はLin+HSC集団のうち陽性に標識された細胞のパーセントを示す。興味深いことに、Flk−1/KDR、Tie−2及びSca−1のような一般に容認されているEPCマーカーはほとんど発現しておらず、このため、さらなる分画化には使用しなかった。
【0067】
硝子体内に注入されたHSC Lin−細胞は、星状細胞を標的とし、発生過程にある網膜脈管構造に取り込まれる、EPCを含有する。
【0068】
硝子体内に注入されたLin−HSCが網膜の特異的な細胞種を標的とし、星状細胞の鋳型を利用して網膜の血管新生に関与しうるか否かを調べるために、成体(GFP又はLacZトランスジェニック)マウスの骨髄から単離された本発明のLin−HSC組成物から得たおよそ105個の細胞、又は成体(GFP又はLacZトランスジェニック)マウスの骨髄から単離したLin+HSC細胞(対照、約105細胞)を出生後2日(P2)のマウスの眼に注入した。注入から4日後(P6)、GFP又はLacZトランスジェニックマウスから採取された、本発明のLin−HSC組成物から得た多くの細胞は網膜に付着し、内皮細胞が示す、特徴的な伸張した外観を有した(図2a)。図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin−細胞の移植を表している。図2aに示すように、注入後4日(P6)で硝子体内に注入されたeGFP+Lin−HSCは網膜上に接着し分化する。
【0069】
網膜の多くの領域で、GFP発現細胞はその下部に存在する星状細胞に適合するパターンで配置され、血管に類似していた。これらの蛍光細胞は内在性の発生過程にある血管ネットワークの先端に観察された(図2b)。反対に、Lin+HSC(図2c)又は成体マウスの腸管膜内皮細胞(図2d)は少数が網膜表面に接着しているにすぎなかった。注入されたLin−HSC集団由来の細胞が網膜のすでに確立している管にも接着できるか否かを調べるために、Lin−HSC組成物を成体の眼に注入した。興味深いことに、細胞は網膜に付着しておらず、確立している正常な網膜血管中に取り込まれていないことが観察された(図2e)。このことは、本発明のLin−HSC組成物が正常に発生した血管構造を妨害しないので、正常に発生した網膜で異常な血管新生を起こさないであろうことを示している。
【0070】
注入された本発明のLin−HSC組成物と網膜星状細胞との関係を調べるために、グリア線維酸性タンパク質(GFAP、星状細胞のマーカー)及びプロモーター誘導緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニックマウスを使用した。eGFPトランスジェニックマウスから得たLin−HSCを注入した、これらのGFAP−GFPトランスジェニックマウスの網膜を調べたところ、注入されたeGFP EPCと既存の星状細胞とが同じ場所に局在していた(図2f−h、矢印)。eGFP+Lin−HSCの突起は、その下に位置する星状細胞ネットワークに一致していることが観察された(矢印、図2g)。これらの眼の試験から、注入された標識細胞のみが星状細胞に接着することが示された。P6マウスの網膜では、網膜の末梢はまだ内因性の血管を有さないが、注入された細胞はこれらのまだ血管形成されていない領域の星状細胞に付着することが観察された。驚くべきことに、注入された標識細胞は網膜のさらに深い層の正しい場所(そこには後に正常な網膜の管が形成される)で観察された(図2i、矢印)。
【0071】
注入された本発明のLin−HSCが発生過程にある網膜脈管構造中に安定に取り込まれるか否かを調べるために、その後、複数の時点で網膜の血管を調べた。早くもP9(注入後7日)には、Lin−HSCはCD31+構造中に取り込まれた(図2j)。P16(注入後14日)までには、既に細胞は網膜の血管様構造中に広く取り込まれていた(図2k)。動物を屠殺する前に(機能的な網膜血管を同定するため)ローダミン−デキストランを硝子体内に注入すると、Lin−HSCの大部分は開通した血管に沿って整列していた(図2l)。標識細胞の分布には2つのパターンが観察された。(1)一方のパターンでは、細胞は標識されていない内皮細胞の間を血管に沿って点在していた。(2)もう一方のパターンでは血管は専ら標識細胞で構成されていた。注入された細胞はまた深層の血管叢の管にも取り込まれていた(図2m)。Lin−HSC由来のEPCが新生血管へ散在するように取り込まれることは以前より報告されていたが、血管ネットワークが専らこれらの細胞で構成されることについてはこれが初めての報告である。このことは、硝子体内に注入された本発明の骨髄由来のLin−HSC集団由来の細胞が形成過程にある網膜血管叢のいずれの層にも効率よく取り込まれ得ることを示している。
【0072】
網膜以外の組織(例えば、脳、肝臓、心臓、肺、骨髄)の組織学的な試験からは、硝子体内注入から5日後又は10日後まではGFP陽性細胞の存在は示されなかった。このことは、Lin−HSC画分内の細胞のサブ集団が網膜星状細胞を選択的に標的とし、発生過程にある網膜脈管構造中に安定に取り込まれることを示している。これらの細胞は内皮細胞の多くの特徴を有している(網膜星状細胞との結合、伸張した形態、開通した管への安定した取り込み及び血管外に存在しないこと)ので、これらの細胞はLin−HSC集団に存在するEPCであることを意味している。標的とされた星状細胞は、多くの低酸素網膜症で観察されるものと同じタイプである。グリア細胞が、DRや他の形式の網膜損傷で観察される、葉状の新生血管の主な構成要素であることはよく知られている。反応性グリオーシス及び虚血により誘導される新生血管形成時には、ヒトを含む多くの哺乳動物種で新生期に網膜血管の鋳型が形成される際に観察されるものと同様に、活性化された星状細胞が増殖し、サイトカインを産生し、GFAPを上方制御する。
【0073】
本発明のLin−HSC集団が新生期の眼におけるのと同様に成体マウスの眼でも活性化された星状細胞を標的とするか否かを調べるために、光凝固(図3a)又は針先(図3b)で網膜に損傷を与えた成体の眼に、Lin−HSC細胞を注入した。両モデルにおいて、顕著にGFAP染色された細胞集団が損傷部位周辺でのみ観察された(図3a及びb)。注入されたLin−HSC組成物由来の細胞は損傷部位に局在し、GFAP陽性星状細胞と特異的に結合したままであった(図3a及びb)。これらの部位では、新生期における深層の網膜脈管構造の形成時に見られるのと同様のレベルまで、Lin−HSC細胞が網膜のより深い層に移動するのも観察された。損傷を与えなかった網膜部分には、正常で損傷のない成体網膜にLin−HSCを注入したときに観察されるのと同様に、Lin−HSC細胞は含有されていなかった(図2e)。これらのデータは、血管形成している新生期の網膜と同様に、損傷を与えた成体網膜においてもグリオーシスにより活性化したグリア細胞を、Lin−HSC組成物が選択的に標的としうることを示している。
【0074】
硝子体内に注入されたLin−HSCは変性している脈管構造を救出し安定化できる
硝子体内に注入されたLin−HSC組成物は星状細胞を標的とし正常な網膜脈管構造中に取り込まれるから、これらの細胞はグリオーシス及び血管の変性を伴う虚血性又は変性網膜疾患に見られる変性した脈管構造も安定化する。rd/rdマウスは、出生後1ヶ月までに光受容体及び網膜血管層に甚大な変性を示す網膜変性のモデルである。これらマウスの網膜脈管構造は、より深部の血管叢が退行するP16までは正常に発生し、ほとんどのマウスでP30までに深層及び中間の叢がほぼ完全に変性する。
【0075】
HSCが退行した血管を救出できるか否かを調べるために、Lin+又はLin−HSC(Balb/cマウスから得た。)をP6にrd/rdマウスの硝子体内に注入した。Lin+細胞注入後、P33までに、網膜の最も深い層の血管はほぼ完全に消失した(図4a及びb)。対照的に、Lin−HSCを注入したほとんどの網膜はP33までにきちんと形成された3層の平行した血管層を備えたほぼ正常な網膜脈管構造を有するようになった(図4a及び4d)。この効果を定量化したところ、Lin−を注入されたrd/rdの眼の深層血管叢における血管の平均の長さは、未処理又はLin+細胞処理の眼に比べてほぼ3倍長いことが明らかとなった(図4e)。驚くべきことに、rd/rd成体マウス(FVB/N)の骨髄に由来するLin−HSC組成物の注入も、rd/rd新生期マウスの変性している網膜脈管構造を救出した(図4f)。rd/rdマウスの眼における脈管構造の変性は、早くも出生後2−3週には観察された。P15という遅い時期にLin−HSCを注入しても、少なくとも1ヶ月間はrd/rdマウスの変性している脈管構造は部分的に安定化された(図4g及び4h)。
【0076】
さらに若い(例えば、P2)rd/rdマウスに注入したLin−HSC組成物も、発生している表面の脈管構造中に取り込まれた。P11までに、これらの細胞が血管叢の深層レベルに移動し、野生型の外網膜血管層で見られるものと同じパターンを形成することが観察された(図5a)。注入したLin−HSC組成物由来の細胞がrd/rdマウスの変性している網膜脈管構造に取り込まれ、これを安定化する様子をより明確に説明するために、Balb/cマウス由来のLin−HSC組成物をTie−2−GFP FVBマウスの眼に注入した。FVBマウスはrd/rd遺伝型を有しており、Tie−2−GFP融合タンパク質を発現しているのですべての内因性の血管は蛍光を有している。
【0077】
Lin−HSC組成物由来の未標識細胞が新生期のTie−2−GFP FVBの眼に注入され、続いて発生過程にある脈管構造に取り込まれる場合、注入され、組み込まれた非標識Lin−HSCに対応する非標識の間隙が内因性のTie−2−GFP標識された血管に存在するはずである。続いて他の血管マーカー(例えば、CD−31)で染色することにより血管全体の輪郭を描けば、非内因性の内皮細胞が脈管構造の一部であるか否かを明らかにすることができる。注入から2ヵ月後、CD31陽性Tie−2−GFP陰性の血管がLin−HSC組成物を注入された眼の網膜で観察された(図5b)。興味深いことに、救出された血管の大部分はTie−2−GFP陽性細胞を含んでいた(図5c)。平滑筋アクチンの染色によって調べたところ、周皮細胞の分布は、血管の救出があるか否かにかかわらず、Lin−HSCの注入によっては変化しなかった(図5d)。これらのデータは明らかに、硝子体内に注入された本発明のLin−HSC組成物が、網膜へと移動し、正常な網膜血管の形成に関与し、遺伝的に欠損のあるマウスにおいて内因性の変性した脈管構造を安定化することを示している。
【0078】
トランスフェクションしたLin−HSC由来の細胞による網膜血管新生の阻害
網膜血管の疾患の大部分は変性よりもむしろ異常な血管増殖を伴う。星状細胞を標的とするトランスジェニック細胞は抗血管新生タンパク質を輸送し血管新生を阻害するのに使用することができる。Lin−HSC組成物由来の細胞にT2−トリプトファニル−tRNAシンテターゼ(T2−TrpRS)をトランスフェクションした。T2−TrpRSは、網膜の血管新生を強く阻害するTrpRSの43kD断片である(図6a)。対照プラスミドをトランスフェクションしたLin−HSC組成物(T2−TrpRS遺伝子を有さない。)をP2に注入した眼の網膜は、P12において正常な第一(図6c)及び第二(図6d)の網膜血管叢を有していた。T2−TrpRSをトランスフェクションした本発明のLin−HSC組成物をP2の眼に注入し10日後に評価すると、第一ネットワークは著しい異常を有し(図6e)、深層の網膜脈管構造の形成はほぼ完全に阻害された(図6f)。これらの眼で観察された少数の血管は、血管の間に大きな間隙を伴い、著しく減衰していた。T2−TrpRSを分泌しているLin−HSCによって阻害される程度を表2に詳述する。
【0079】
T2−TrpRSはLin−HSC組成物中の細胞によってインビトロで産生されて分泌されるが、これらのトランスフェクションを行った細胞を硝子体内に注入したところ、T2−TrpRSの30kD断片が網膜で観察された(図6b)。この30kD断片は本発明のトランスフェクションを行ったLin−HSCを注入した網膜でのみ特異的に観察され、組換体又はインビトロ合成されたタンパク質と比較してこのように明らかに分子量が低いのは、インビボでのT2−TrpRSのプロセシング又は分解によるものであり得る。これらのデータは、Lin−HSC組成物が、活性化された星状細胞を標的とすることにより網膜脈管構造へと、血管新生抑制分子を発現する遺伝子のような機能的に活性のある遺伝子を輸送するのに使用できることを示している。観察された血管新生抑制効果は、細胞が介在する活性によるものである可能性もあるが、T2トランスフェクションを行っていない同一のLin−HSC組成物で処理した眼は正常な網膜血管構造を有していることから、この可能性は非常に低い。
【0080】
【表2】
【0081】
硝子体内に注入されたLin−HSC集団は網膜の星状細胞に局在し、血管に組み込まれ、多くの網膜疾患の治療に有用であり得る。注入されたHSC組成物由来のほとんどの細胞が星状細胞の鋳型に付着する一方、少数の細胞は網膜の深層へと移動し、後に深層血管ネットワークが発生する領域に定着する。出生後42日より前にこの領域にGFAP陽性星状細胞が観察されなかったとしても、GFAP陰性のグリア細胞がすでに存在しLin−HSCの局在のためのシグナルを提供している可能性は排除されない。以前の研究により多くの疾患が反応性グリオーシスと関連があることが明らかとなっている。特にDRでは、グリア細胞とその細胞外マトリックスが病的な血管新生と関連している。
【0082】
損傷の種類に関わらず、注入されたLin−HSC組成物由来の細胞は特異的にGFAP発現グリア細胞に接着したので、本発明のLin−HSC組成物は網膜に血管新生が起こる前の損傷部位を標的とするために使用することができる。例えば糖尿病のような虚血性網膜症では、新生血管は低酸素への応答によるものである。Lin−HSC組成物を病的な新生血管部位へ誘導することにより、発生過程にある新生脈管構造を安定化することができ、(DRに関連する失明の原因である)出血又は浮腫などの新生血管の異常を防止し、新生血管生成を本来刺激していた低酸素状態を緩和できる可能性がある。異常な血管を正常な状態に回復することができる。さらに、トランスフェクションを行ったLin−HSC組成物の使用及びレーザーで誘発される星状細胞の活性化により、T2−TrpRSのような血管新生抑制タンパク質を病的な血管新生部位へと輸送することができる。レーザー光凝固は臨床眼科学で広く使用されており、このアプローチは多くの網膜疾患に適用がある。細胞を利用したこのようなアプローチは癌治療において探求されてきたが、眼内注入によれば多数の細胞を直接疾患部位に輸送することが可能であることから、目の疾患にこれらを使用することはより多くの利点を有している。
【0083】
Lin−HSCによる神経栄養及び血管栄養性の救出
上述のように、増強緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein)(eGFP)、C3H(rd/rd)、FVB(rd/rd)マウスの骨髄からLin−HSCを分離するためにMACSを用いた。これらのマウス由来のEPCを含有するLin−HSCをP6のC3H又はFVBマウスの眼の硝子体内に注入した。注入後の様々な時点(1ヶ月、2ヶ月及び6ヶ月)で網膜を回収した。CD31に対する抗体で染色した後、走査型レーザー共焦点顕微鏡で、また、DAPIによる核染色後に網膜を組織学的に脈管構造を解析した。様々な時点における網膜由来のmRNAのマイクロアレイ遺伝子発現解析を、この効果に関与している可能性のある遺伝子を同定するためにも用いた。
【0084】
rd/rdマウスの眼はP21までに神経感覚の網膜及び網膜脈管構造の両者に甚大な変性を有するようになった。P6にLin−HSCで処理したrd/rdマウスの眼は、6ヶ月間にわたり正常な網膜脈管構造を維持した。全ての時点(1M、2M及び6M)において、対照と比較すると、深層及び中間層の両者が著しく改善していた(図12参照)。さらに、Lin−HSCで処理した網膜は、対照としてLin+HSCで処理した眼と比較して、より厚くもなり(1Mで1.2倍、2Mで1.3倍、6Mで1.4倍)、外顆粒層により多くの細胞を有していた(1Mで2.2倍、2Mで3.7倍、6Mで5.7倍)ことが観察された。対照(未処理又は非Lin−処理)と比較して「救出された」(例えば、Lin−HSC)rd/rd網膜について大規模なゲノム解析をしたところ、図20のパネルA及びBに列挙されたタンパク質をコードする遺伝子を含む、sHSPs(小分子熱ショックタンパク質)及び血管及び神経の救出に相関する特異的な成長因子をコードする遺伝子の顕著な上方制御が明らかとなった。
【0085】
本発明の骨髄由来Lin−HSC集団は、rd/rdマウスにおいて、顕著にかつ再現性よく正常な脈管構造の維持を誘導し、劇的に光受容体及び他の神経細胞層を増加させた。この神経栄養の救出効果は小分子熱ショックタンパク質及び成長因子の著しい上方制御に相関しており、現在治療できない網膜変性疾患に対する治療上のアプローチに対する手がかりを与える。
【0086】
rd1/rd1マウス網膜は、重度の血管及び神経変性を示す。
【0087】
マウスにおける正常の出生後網膜血管及び神経発生は、詳しく記載されており、妊娠第三期のヒト胎児において見られる変化と類似している(Dorrellら、2002、Invest.Ophthamol.Vis.Sci.43:3500−3510)。rd1遺伝子に対するマウスホモ接合体は、ヒト網膜変性の特徴と共通する特徴が多く(Frassonら、1999、Nat.Med.5:1183−1187)、PR cGMPホスホジエステラーゼをコードする遺伝子における突然変異の結果としての重度の血管萎縮を伴う、急速な光受容体(PR)の損失を示す(Bowesら、1990、Nature 347:677−680)。網膜発生及びその後の変性中の脈管構造を調べるために、コラーゲンIV(CIV)抗体、成熟脈管構造の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質に対する抗体及び内皮細胞に対するマーカーであるCD31(PECAM−1)に対する抗体を使用した(図15)。rd1/rd1(C3H/HeJ)の網膜は、光受容体含有外顆粒層(ONL)の変性が始まる、ほぼ出生後(P)8日まで正常に発生した。ONLは、急速に変性し、アポトーシスにより細胞死が起こり、P20までには、核の単層のみが残った状態となった。CIV及びCD31両者に対する抗体を用いたホールマウント網膜の二重染色により、他の研究者により述べられているものと同様のrd1/rd1マウスにおける血管変性の詳細が明らかになった(Blanksら、1986,J.Comp.Neurol.254:543−553)。第一の及び深部網膜血管層は、P12まで正常に発生すると思われるが、この後、CD31染色がなくなることにより分かるように、内皮細胞が急速に失われる。CD31陽性内皮細胞は、P12まで正常な分布を示すが、その後急速に消失した。興味深いことに、CIV陽性染色は、調べた時点全てで残っており、このことから、血管及び関連するECMは正常に形成されることが示唆されるが、P13までにCD31陽性細胞は見られなくなり、P13の後にはマトリックスのみが残ることが観察された。(図15、中央パネル)。P21の後、中間血管叢も変性するが、その進行は深層叢で見られた速度よりも遅かった(図15、上部パネル)。rd1/rd1マウスと比較するために、正常マウスの網膜血管及び神経細胞層を示す(右パネル、図15)。
【0088】
rd1/rd1マウスにおける骨髄由来Lin−HSCの神経保護効果。
【0089】
硝子体内注入されたLin−HSCは、3つの血管叢全ての内部網膜脈管構造に取り入れられ、血管の変性を防御する。興味深いことに、注入された細胞は、外顆粒層では実質的に観察されない。これらの細胞は、形成中の網膜血管に取り入れられるか、又はこれらの血管の近接近部で観察される。変性の発症直前であるP6に、マウスLin−HSC(C3H/HeJ由来)をC3H/HeJ(rd1/rd1)マウスの眼に硝子体内注入した。P30までに、対照細胞(CD31−)を注入した眼は、典型的なrd1/rd1表現型を示し、つまり、調べた網膜全てにおいて深層血管叢及びONLがほぼ完全に変性していることが観察された。Lin−HSCを注入した眼は、正常と思われる中間及び深層血管叢を維持した。驚くべきことに、Lin−HSCを注入した眼の核間層(internuclear layer)(INL)及びONLにおいて、対照細胞を注入した眼よりも顕著に多くの細胞が見られた(図16A)。Lin−HSCのこの救出効果は、注入後2ヶ月において(図16B)観察することができ、注入後6ヶ月という長い期間にわたり観察された(図16C)。救出された眼と非救出の眼を比較した場合、Lin−HSC注入した眼の中間及び深層叢の脈管構造、ならびに神経細胞含有INL及びONLにおける差は、測定した全ての時点で有意であった(図16B及びC)。脈管構造の全長を測定し(図16D)、ONLで見られるDAPI−陽性細胞核の数を数える(図16E)ことにより、これらの効果を定量した。全ての時点のデータに対して単純線形回帰分析を行った。
【0090】
Lin−HSC注入した眼において、P30(p<0.024)及びP60(P<0.034)で、血管救出と神経(例えば、ONLの厚さ)救出との間に統計学的に有意な相関が見られた(図16F)。Lin−HSC注入した網膜を対照細胞を注入した網膜と比較した場合、P180において、相関性は依然として高かったが、統計学的に有意ではなかった(p<0.14)(図16F)。一方、対照細胞を注入した網膜は、あらゆる時点において、脈管構造とONLの保存との間に有意な相関がなかった(図16F)。これらのデータから、Lin−HSCの硝子体内注入の結果、rd1/rd1マウスの網膜において、網膜血管及び神経の両方が共に救出されることが示される。注入した細胞は、ONLにおいて、又は網膜血管内もしくはその非常に近い部分以外のあらゆる箇所において観察されなかった。
【0091】
Lin−HSC注入rd/rd網膜の機能的救出
対照細胞又はマウスLin−HSCの注入から2ヶ月後のマウスにおいて、網膜電図(ERG)を調べた(図17)。ERG記録後、血管及び神経救出が起こったことを確認するために、各眼について、免疫組織的及び顕微鏡分析を行った。処置を行い救出された眼、及び対照、非救出の眼からの代表的なERG記録から、救出された眼において、デジタル処理で差し引いたシグナル(処置−非処置の眼)が、8マイクロボルトから10マイクロボルトのオーダーの振幅で明瞭に検出可能なシグナルを生じたことが示される(図17)。明らかに、両方の眼からのシグナルは著しく異常である。しかし、Lin−HSC処理した眼から、一貫した検出可能なERGが記録可能であった。全ての場合において、対照眼からのERGは検出不可能であった。救出された眼におけるシグナルの振幅が正常よりも著しく低い一方で、組織学的な救出があり、それが遺伝子を利用した他の救出実験により報告されたものの規模のオーダーである場合は必ず、シグナルが一貫して観察された。全体的なこれらの結果から、本発明のLin−HSCで処置した眼において機能的な救出がある程度起こることが示される。
【0092】
ヒト骨髄(hBM)由来Lin−HSCも変性網膜を救出する。
【0093】
ヒト骨髄から単離されたLin−HSCは、マウスLin−HSCと同様に作用する。ヒト提供者から骨髄を回収し、Lin+HSCを消耗させ、ヒトLin−HSC(hLin−HSC)の集団を調製した。エクスビボにおいて、蛍光色素でこれらの細胞を標識し、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスの眼に注入した。注入したhLin−HSCは、マウスLin−HSCを注入した場合に観察されたものと同一のようにして網膜血管形成部位に移動し、この部位を標的とした(図18A)。血管標的化に加えて、ヒトLin−HSCはまた、rd1/rd1マウスの血管及び神経細胞層両方に強力な救出効果を与えた(図18B及び18C)。この観察から、ヒト骨髄において、網膜脈管構造を標的とし、網膜変性を防ぐことができる細胞の存在が確認される。
【0094】
Lin−HSCは、rd10/rd10マウスにおいて血管栄養及び神経栄養性効果を有する。
【0095】
rd1/rd1マウスは、最も広く使用され、特性が最も良く分かっている網膜変性のモデルである(Changら、2002、Vision Res.42:517−525)一方、その変性は非常に速く、この点で、ヒトの疾患で見られる、通常の、もっと速度の遅い経時変化とは異なっている。この系列において、光受容体細胞変性は、網膜脈管構造がまだ急速に広がっているP8の前後で始まる(図15)。中間叢が依然として形成中である間にも、次の深層網膜脈管構造の変性が起こり、従って、この疾患に罹患しているヒトの大多数で観察されるものとは異なり、rd1/rd1マウスの網膜は、完全に発生が完了することはない。変性が比較的ゆっくりと進行し、ヒトの網膜変性条件とより近い、rd10マウスモデルを使用して、Lin−HSCが介在する血管救出を調べた。rd10マウスにおいて、光受容体細胞変性はP21前後で始まり、血管変性がその少し後から始まる。
【0096】
正常な神経感覚の網膜発生はP21までにほぼ完了するので、網膜が分化を完了した後、変性の開始が観察されるが、これは、rd1/rd1マウスモデルよりも、ヒト網膜変性により近い。Lin−HSC又はrd10マウス由来の対照細胞をP6の眼に注入し、様々な時点でその網膜を評価した。P21において、Lin−HSC及び対照細胞注入した眼由来の網膜は両者とも、全血管層が完全に発達し、INL及びONLが正常に発達しており、正常であると思われた(図18D及び18H)。P21前後において網膜変性が始まり、時間とともに進行した。P30までに、対照細胞注入網膜は、重度の血管及び神経変性を示し(図18I)、一方で、Lin−HSC注入網膜は、ほぼ正常な血管層及び光受容体細胞を維持した(図18E)。救出された眼と非救出の眼との間の差は、さらに後の時点でさらに顕著となった(図18Fと18Gを18J及び18Kと比較。)。対照処置した眼において、CD31及びコラーゲンIVに対する免疫組織化学染色により血管変性の進行が非常に明らかに観察された(図18I−K)。対照処置した眼は、CD31についてはほぼ完全に陰性であり、一方コラーゲンIV陽性血管の「痕跡」がまだ明らかに残っており、このことから、不完全な血管形成というよりむしろ血管退化が起こったことが示される。一方、Lin−HSC処置眼には、正常な野生型の眼と非常に近いと思われるCD31及びコラーゲンIV陽性血管の両方があった(図18F及び18Iを比較)。
【0097】
Lin−HSC処置後のrd/rdマウス網膜の遺伝子発現解析
大規模ゲノミクス(マイクロアレイ分析)を使用して、神経栄養性救出を介在すると推定される介在物を同定するために、救出及び非救出網膜を分析した。Lin−HSCで処置したrd1/rd1マウス網膜における遺伝子発現を、非注入網膜ならびに対照細胞(CD31−)を注入した網膜と比較した。これらの比較は、それぞれについて3回繰り返して行った。存在するとみなすためには、遺伝子が3回の測定全てにおいてバックグラウンドレベルよりも少なくとも2倍高い発現レベルを有することを必要とした。対照細胞注入及び非注入rd/rdマウス網膜と比較して、Lin−HSC保護網膜において3倍上方制御された遺伝子を図20のパネルA及びBに示す。MAD及びYing Yang−1(YY−1)を含む、著しく上方制御された遺伝子の多くは、アポトーシスからの細胞保護に関連する機能を有するタンパク質をコードする。ストレスから細胞を保護することに関連する既知の熱ショックタンパク質と配列ホモロジー及び同様の機能を有するクリスタリン遺伝子の多くも、Lin−HSC処置網膜により上方制御されていた。α−クリスタリンの発現は、免疫組織化学解析によると、ONLに局在していた(図19)。
【0098】
ヒトLin−HSCで救出したrd1/rd1マウス網膜由来のメッセンジャーRNAをヒト特異的Affymetrix U133Aマイクロアレイチップにハイブリダイズさせた。ストリンジェンシーの高い解析の後、多くの遺伝子が、そのmRNA発現がヒト特異的であり、バックグラウンドより強く、マウスLin−HSC救出網膜及びヒト対照細胞を注入した非救出網膜と比較してヒトLin−HSC救出網膜において著しく高いことが分かった(図20、パネルC)。未発達の、及び新しく分化したCD34+造血幹細胞の表面で発現する細胞接着分子であるCD6及び、造血幹細胞により発現されるまた別の遺伝子であるインターフェロンα13共々、マイクロアレイバイオインフォマティクスにより見出され、このことから評価プロトコールが有効であることが分かる。さらに、いくつかの成長因子及び神経栄養因子がヒトLin−HSC救出マウス網膜試料により、バックグラウンドよりも強く発現されていた(図20、パネルD)。
【0099】
考察
系統に関連する造血細胞に対するマーカーを使用して、陰性であるものをEPCを含有する骨髄由来のLin−HSC集団として選択した。EPCとして働くことができる骨髄由来Lin−HSCのサブ集団は、一般に用いられる細胞表面マーカーよって特徴づけることができないが、発生過程の、又は損傷を受けた網膜脈管構造におけるこれらの細胞の挙動は、Lin+又は成体の内皮細胞集団で観察される挙動とは全く異なっている。これらの細胞は、網膜の血管新生部位を選択的に標的とし、開通血管の形成に寄与する。
【0100】
遺伝性の網膜変性疾患は網膜の脈管構造の消失を伴って起こることが多い。これらの疾患の効果的な治療では、複雑な組織の構造を維持することと同様に、機能の回復が必要とされる。最近のいくつかの研究では、栄養性因子を細胞を利用して輸送すること、又は幹細胞それ自身を使用することについて研究が行われてきたが、両者を何らかの形で組み合わせる必要があろう。例えば、網膜変性疾患を治療するために成長因子療法を使用した場合、結果として血管の無秩序な過剰増殖を引き起こし、正常な網膜組織の構造を著しく破壊することとなった。網膜変性疾患を治療するために神経又は網膜幹細胞を使用すると、神経機能を再構成し得るが、網膜機能を完全な状態に保つためには、機能的な脈管構造も必要となるであろう。本発明のLin−HSC由来の細胞がrd/rdマウス網膜の血管に取り込まれると、網膜の構造を破壊することなく、変性した脈管構造が安定化された。この救出効果は細胞をP15のrd/rdマウスに注入した場合にも観察された。血管の変性はrd/rdマウスにおいてP16から始まるので、この観察結果により、効果的なLin−HSC処理による治療時機が広がる。本発明のLin−HSCを注入した眼において、網膜のニューロン及び光受容体が保護され、視覚機能が維持される。
【0101】
成体骨髄由来Lin−HSCは、網膜変性疾患マウスに硝子体内注入されると、顕著な血管及び神経栄養性効果をもたらす。この救出効果は、最高で処置後6ヶ月続き、完全に網膜が変性する前にLin−HSCを注入した場合に最大の効果が得られる(通常、生後30日までに完全な網膜変性を示すマウスの場合、生後16日まで。)。この救出は、2種類の網膜変性マウスモデルにおいて観察され、レシピエントが網膜変性のある免疫不全げっ歯類(例えば、SCIDマウス)である場合、又は、ドナーが網膜変性マウスである場合、成人ヒト骨髄由来HSCで顕著に達成され得る。いくつかの最近の報告によれば、網膜変性のあるマウス又はイヌにおいて、野生型遺伝子によるウイルスを利用した遺伝子レスキュー後に、ある程度の表現型救出が起こる(Aliら、2000、Nat Genet 25:306−310;Takahashiら、1999、J.Virol.73:7812−7816;Aclandら、2001、Nat.Genet.28:92−95)という一方、本発明は、血管救出により達成された、一般的な細胞を利用した治療効果を示す最初のものである。従って、100以上の既知の関連突然変異による疾患(例えば網膜色素変性症)群の治療において、このような潜在能力のあるアプローチを利用することは、既知の突然変異それぞれに対する個々の遺伝子治療を行うよりも現実的である。
【0102】
神経栄養性救出効果の分子レベルの正確な原理は分かっていないが、血管安定/救出が相伴う場合のみ観察される。注入した幹細胞の存在それ自体は、神経栄養的な救出を行うには十分ではなく、外顆粒層に幹細胞由来のニューロンが明らかに存在しないことにより、注入された細胞が光受容体に形質転換されるという可能性は除外される。マイクロアレイ遺伝子発現分析により得られたデータから、抗アポトーシス効果を有することが知られている遺伝子が顕著に上方制御されることが示された。網膜変性において見られる神経細胞死のほとんどがアポトーシスによるものであるため、これらの疾患において、そのような保護効果は、視覚機能に重要な光受容体及び他のニューロンの寿命を延長する上で大きな治療的有用性を与え得る。C−mycは、様々な下流のアポトーシス誘発因子を上方制御することによりアポトーシスに関与する転写因子である。rd/rdマウスにおいて、C−myc発現が野生型よりも4.5倍増加していることから、rd1/rd1マウスにおいて見られる光受容体変性における関与の可能性が示される。Lin−HSCで保護された網膜において顕著に上方制御される(図20、パネルA)Mad1及びYY−1の2つの遺伝子は、c−mycの活性を抑制し、従ってc−myc誘発性アポトーシスを抑制することが知られている。Mad1の過剰発現により、また、別の不可欠なアポトーシス経路のコンポーネントであるカスパーゼ8のFas誘発性活性が抑制されることも示されている。これらの2種類の分子の上方制御は、rd/rdマウスにおいて通常変性へと導くアポトーシスの開始を防御することにより、血管及び神経変性から網膜を保護することに関与し得る。
【0103】
Lin−HSC保護された網膜において著しく上方制御される他の一連の遺伝子には、クリスタリンファミリーのメンバーが含まれる(図20、パネルB)。熱ショックタンパク質及び他のストレスにより誘発されるタンパク質と同様に、クリスタリンは、網膜ストレスにより活性化され、アポトーシスに対する保護効果を与え得る。αA−クリスタリンの発現が異常に低いことは、網膜萎縮のラットモデルにおける光受容体の損失と相関しており、rd/rdマウスにおける網膜の最近のプロテオミクス分析から、網膜変性に反応してクリスタリンの上方制御が誘発されることが示された。発明者らのEPC−救出rd/rdマウス網膜のマイクロアレイデータに基づくと、クリスタリンの上方制御は、EPC介在網膜神経保護において重要な役割を果たすと考えられる。
【0104】
c−myc、Mad1、Yx−1及びクリスタリンなどの遺伝子は、神経救出の下流の介在因子であると思われる。発明者らの、マウス幹細胞により救出された網膜のマイクロアレイ分析では、既知の神経栄養因子のレベル上昇の誘導が示されなかったが、神経栄養性物質は、抗アポトーシス遺伝子発現を調節することができる。一方、ヒト特異的なチップを用いたヒト骨髄由来幹細胞介在救出の分析から、複数の成長因子遺伝子の発現が、低いが顕著に上昇することが示される。
【0105】
上方制御される遺伝子には、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのいくつかのメンバー及びオトフェリン(Otoferlin)が含まれる。オトフェリン遺伝子における突然変異は、聴覚神経障害による難聴を引き起こす遺伝性疾患に関与する。注入したLin−HSCによるオトフェリン産生が、同様に網膜神経障害の予防にも寄与する可能性がある。組織学的に、網膜変性のある患者及び動物における血管の変化が、光受容体が死んだ際の代謝要求低下後の二次的なものであると長い間推測されてきた。今回のデータから、少なくとも遺伝性網膜変性のマウスに関しては、正常な脈管構造を保持することにより、同様に外顆粒層のコンポーネントの維持が促進され得ることが示される。最近の文献における報告により、組織特異的脈管構造が血管「栄養」を単純に与えることから予想されるものを超える栄養作用を有するという概念が支持されるであろう。例えば、生きている内皮細胞が、肝臓の損傷に際して、VEGFR1活性化後に、肝細胞の再生及び維持に不可欠な成長因子を産生するように誘導され得る(LeCouterら、2003、Science 299:890−893)。
【0106】
血管内皮細胞と近接した肝実質細胞との間で起こり得る同様の相互作用は、報告によると、機能的な血管形成のかなり前に肝臓器官形成に関与する。網膜変性のある個体の内因性の網膜脈管構造は救出をそれ程劇的に促進しないが、骨髄造血幹細胞集団由来の内皮前駆細胞によりこの脈管構造が強化される場合、それらにより、脈管構造が変性に対してより耐性を持つようになり、同時に、網膜神経細胞、ならびに血管の生き残りが促進され得る。網膜変性を有するヒトにおいて、完全な網膜変性の開始を遅らせることにより、失明に至るまでの時間を遅らせ得る。本発明のLin−HSCで処置した動物は、顕著にERGを維持し、それは、視力をサポートするのに十分であり得る。
【0107】
臨床的に、依然として機能的な視力を維持していながらも、光受容体及び他のニューロンがかなり失われているということが広く認められている。いくつかのポイントにおいて、重要な閾値が妨害され、視力が失われる。ヒト遺伝性網膜変性のほぼ全てが早期に始まるが、速度は遅いので、網膜変性を有する個人を同定し、自家骨髄幹細胞移植物を硝子体内注入して治療し、視力喪失を伴う網膜変性を遅らせることが可能であり得る。これらの幹細胞の標的化及び取り込みを促進するために、活性化された星状細胞が存在することが望ましい。関連するグリオーシスがある場合の早期治療により、又は、活性化星状細胞の局所的な増殖を刺激するためのレーザーの使用により、これを達成することができる。
【0108】
本発明のLin−HSC集団は、反応性星状細胞を標的とすることによって血管新生を促進でき、網膜構造を破壊することなく確立された鋳型に取り込まれ得るEPC集団を含有する。本発明のLin−HSCはまた網膜変性に罹患している眼において驚くべき長期間にわたり神経栄養性の救出効果を与える。さらに、遺伝的に修飾された、EPCを含有する自己由来のLin−HSC組成物は、虚血性の眼又は異常な血管形成が起きた眼に移植することが可能であり、新たな血管に安定に取り込まれて、局所的に長期間にわたり継続して治療のための分子を送達することができる。このように、生理学的に意味のある用量で薬理活性を示す物質を発現する遺伝子の局所的送達により、現在治療できない眼の疾患を治療するための新たな理論的枠組が得られる。
【0109】
本発明の新規特性の精神及び範囲から逸脱することなく、上述した実施形態の数多くの変更及び変形がなされ得る。本明細書中で説明した特定の実施形態は、非限定的なものであり、非限定的であると解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を示す。(a)第一叢の発生。(b)網膜での血管形成の第2段階。GCL、神経節細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;OPL、外網状層;ONL、外顆粒層;RPE、網膜色素上皮;ON、視神経;P、末梢。図1cは骨髄に由来するLin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーによる性質決定を表す。上列:抗体で標識されていない細胞のドットプロット分布。その中で、R1はPE染色陽性の定量可能なゲート領域を表しており、R2はGFP陽性を示している。中列:Lin−HSC(C57B/6)及び下列:Lin+HSC(C57B/6)細胞、それぞれの細胞系列は、PE結合した、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対する抗体で標識した。Tie−2のデータはTie−2−GFPマウスより得た。百分率は全Lin−HSC又はLin+HSC集団中における標識された陽性細胞の割合を示す。
【図1−1】図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を示す。(a)第一叢の発生。(b)網膜での血管形成の第2段階。GCL、神経節細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;OPL、外網状層;ONL、外顆粒層;RPE、網膜色素上皮;ON、視神経;P、末梢。図1cは骨髄に由来するLin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーによる性質決定を表す。上列:抗体で標識されていない細胞のドットプロット分布。その中で、R1はPE染色陽性の定量可能なゲート領域を表しており、R2はGFP陽性を示している。中列:Lin−HSC(C57B/6)及び下列:Lin+HSC(C57B/6)細胞、それぞれの細胞系列は、PE結合した、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対する抗体で標識した。Tie−2のデータはTie−2−GFPマウスより得た。百分率は全Lin−HSC又はLin+HSC集団中でにおける標識された陽性細胞の割合を示す。
【図2】図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin−HSCの移植を表す。(a)注入4日後(P6)において、硝子体内に注入されたeGFP+Lin−HSC細胞は網膜上に接着し分化する。(b)Lin−HSC(B6.129S7−Gtrosa26マウス、β−gal抗体で染色。)はコラーゲンIV抗体で染色される脈管構造の先端に定着する(星印は脈管構造の先端を示す)。(c)Lin+HSC細胞(eGFP+)の大部分は注入4日後(P6)の時点では分化できなかった。(d)注入4日後(P6)のeGFP+マウス腸間膜EC。(e)成体マウスの眼に注入されたLin−HSC(eGFP+)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスにおいて、すでに存在している星状細胞の鋳型に定着しそれに沿って分化しているeGFP+Lin−HSC(矢印)を低倍率で示す。(g)Lin−細胞(eGFP)とその下に存在する星状細胞(矢印)の関係を高倍率で示す。(h)対照となる非注入GFAP−GFPトランスジェニックマウス。(i)注入4日後(P6)、eGFP+Lin−HSCは、将来の深層叢となる領域に移動し分化する。左図はホールマウントの網膜におけるLin−HSC細胞の動きを捕らえている。右図は網膜(上は硝子体側、下は強膜側)内でのLin−細胞(矢印)の局在を示す。(j)αCD31−PE及びαGFP−alexa488抗体による二重染色。注入から7日後、注入されたLin−HSC(eGFP、赤)は血管構造(CD31)中に取り込まれた。矢印は取り込まれた領域を示している。(k)eGFP+Lin−HSC細胞は注入14日後(P17)に血管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心腔内注入により、第一叢(l)及び深層叢(m)の両者で血管が完全であり機能的であることが示される。
【図2−1】図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin−HSCの移植を表す。(a)注入4日後(P6)において、硝子体内に注入されたeGFP+Lin−HSC細胞は網膜上に接着し分化する。(b)Lin−HSC(B6.129S7−Gtrosa26マウス、β−gal抗体で染色。)はコラーゲンIV抗体で染色される脈管構造の先端に定着する(星印は脈管構造の先端を示す)。(c)Lin+HSC細胞(eGFP+)の大部分は注入4日後(P6)の時点では分化できなかった。(d)注入4日後(P6)のeGFP+マウス腸間膜EC。(e)成体マウスの眼に注入されたLin−HSC(eGFP+)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスにおいて、すでに存在している星状細胞の鋳型に定着しそれに沿って分化しているeGFP+Lin−HSC(矢印)を低倍率で示す。(g)Lin−細胞(eGFP)とその下に存在する星状細胞(矢印)の関係を高倍率で示す。(h)対照となる非注入GFAP−GFPトランスジェニックマウス。(i)注入4日後(P6)、eGFP+Lin−HSCは、将来の深層叢となる領域に移動し分化する。左図はホールマウントの網膜におけるLin−HSC細胞の動きを捕らえている。右図は網膜(上は硝子体側、下は強膜側)内でのLin−細胞(矢印)の局在を示す。(j)αCD31−PE及びαGFP−alexa488抗体による二重染色。注入から7日後、注入されたLin−HSC(eGFP、赤)は血管構造(CD31)中に取り込まれた。矢印は取り込まれた領域を示している。(k)eGFP+Lin−HSC細胞は注入14日後(P17)に血管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心腔内注入により、第一叢(l)及び深層叢(m)の両者で血管が完全であり機能的であることが示される。
【図3】図3(a及びb)は、レーザー(a)及び機械的方法(b)で成体網膜に誘発した傷害(*は傷害部位を示している。)によって誘導されるグリオーシス(GFAP発現星状細胞によって示される、最も左の像)にeGFP+Lin−HSC細胞が定着することを示す。最も右の画像はさらに高倍率であり、Lin−HSCと星状細胞との密接な関係を示している。目盛は20μMを示す。
【図4】図4は、網膜変性マウスにおいてLin−HSC細胞が脈管構造を救出することを示している。(a−d)コラーゲンIV染色した、注入から27日後(P33)の網膜。(a)及び(b)、Lin+HSC細胞(Balb/c)を注入された網膜の血管構造は正常FVBマウスと比較して相違がなかった;(c)及び(d)、Lin−HSC(Balb/c)を注入した網膜は野生型マウスに類似する密な血管ネットワークを示した;(a)及び(c)、DAPI染色したホールマウントの網膜(上は硝子体側、下は強膜側)の凍結切片;(b)及び(d)、ホールマウントの網膜の深層叢;(e)棒グラフは、深層の血管叢における血管分布の増加がLin−HSC細胞を注入された網膜(n=6)で起きたことを示している。深層網膜血管新生の程度はそれぞれの画像内での血管の全長を計算することにより定量化した。Lin−HSC、Lin+HSC又は対照の網膜について、高倍率の視野(μ単位)での血管の全長の平均を比較した。(f)rd/rdマウスから得たLin−HSC(R、右眼)又はLin+HSC(L、左眼)細胞を注入した後の深層血管叢の長さの比較。別個の6匹のマウスの結果を示す(各マウスごとに異なる色で表している)。(g)及び(h)Lin−HSC細胞(Balb/c)は、P15の眼に注入した場合でもrd/rdの脈管構造を救出した。Lin−HSC(G)又はLin+HSC(H)細胞を注入した網膜(注入後1ヶ月)の中間及び深層血管叢を示す。
【図5】図5はマウス網膜組織の顕微鏡写真を示す。(a)eGFP+Lin−HSC(灰色)を注入してから5日後(P11)の、ホールマウント試料の網膜(rd/rdマウス)の深層。(b)及び(c)P6にBalb/c Lin−細胞(b)又はLin+HSC細胞(c)を注入したTie−2−GFP(rd/rd)マウスのP60における網膜脈管構造。(b)及び(c)の左パネルにおいて、内因性の内皮細胞(GFP染色)のみが見られる。(b)及び(c)の中央のパネルは、CD31抗体で染色されており;矢印はCD31で染色されたがGFPでは染色されなかった血管を示し、(b)及び(c)の右パネルは、GFP及びCD31の両方による染色を示す。(d)Lin−HSCを注入された網膜(左パネル)及び対照網膜(右パネル)のαSMA染色。
【図6】図6は、T2−TrpRSトランスフェクションされたLin−HSCがマウス網膜脈管構造の発生を阻害することを示す。(a)ヒトTrpRS、T2−TrpRS及びアミノ末端にIgkシグナル配列を有するT2−TrpRSの概略図。(b)T2−TrpRSをトランスフェクションしたLin−HSC注入網膜は、インビボでT2−TrpRSタンパク質を発現する。(1)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(2)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(3)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(4)対照の網膜;(5)Lin−HSC+pSecTag2A(ベクターのみ)を注入した網膜;(6)Lin−HSC+pKLe135(pSecTag内にIgk−T2−TrpRSを有する。)を注入した網膜。(a)内因性TrpRS。(b)組み換えT2−TrpRS。(c)Lin−HSCを注入された網膜のT2−TrpRS。(c−f)注入7日後の注入網膜における、典型的な第一(表面上)及び第二(深層)叢。(c)及び(d)空のプラスミドをトランスフェクションしたLin−HSCを注入した眼は正常に発生した;(e)及び(f)T2−TrpRSをトランスフェクションしたLin−HSCを注入した眼の大部分では深層叢の阻害が見られた;(c)及び(e)第一(表面上)叢;(d)及び(f)第二(深層)叢。(f)で観察されるぼやけた血管の輪郭は、(e)で示される第一叢ネットワークの血管の「滲み出し(bleed−through)」像である。
【図7】図7はHis6−タグ付加T2−TrpRSをコードするDNA配列(配列番号1)を示す。
【図7−1】図7はHis6−タグ付加T2−TrpRSをコードするDNA配列(配列番号1)を示す。
【図8】図8はHis6−タグ付加T2−TrpRSのアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図9】図9は、本発明のLin−HSC及びLin+HSC(対照)を眼に注入したマウスから採取した網膜の顕微鏡写真及び網膜電図(ERG)を示す。
【図10】図10は、Lin−HSCで処理したrd/rdマウス眼の中間(Int.)及び深層の血管層における、神経の救出(y軸)と血管の救出(x軸)との間の相関を示す、統計プロットである。
【図11】図11は、Lin+HSCで処理したrd/rdマウス眼の神経の救出(y軸)と血管の救出(x軸)の間には相関が見られないことを示す、統計プロットである。
【図12】図12は、注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)時点における、Lin−HSC処理(黒い棒)及び未処理(白い棒)のrd/rdマウスの眼について、血管長(y軸)を任意の比較単位で表した棒グラフである。
【図13】図13は、注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)におけるrd/rdマウス外脳層(ONR)の核数を表す3つの棒グラフであり、Lin+HSC(白い棒)で処理した対照の眼と比較してLin−HSC(黒い棒)で処理した眼における核数が顕著に増加していることを示している。
【図14】図14は、左眼(L、Lin+HSCで処理した対照の眼)に対して、右眼(R、Lin−HSCで処理)を、(注入後)1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)の時点で比較し、個々のrd/rdマウスについて外脳層の核数をプロットしたものである。プロット中のそれぞれの線は個々のマウスの眼に対するものである。
【図15】図15は、rd1/rd1(CH3/HeJ、左パネル)又は野生型マウス(C57BL/6、右パネル)における、網膜の脈管構造及び神経細胞の変化を示す。同じ網膜の、ホールマウント網膜(赤:コラーゲンIV、緑:CD31)及び切片(赤:DAPI、緑:CD31、下方のパネル)における、中間(上方のパネル)又は深層(中央のパネル)血管叢の網膜脈管構造を示す(P:出生後日数)。(GCL:神経節細胞層、INL:核間層(inter nuclear layer)、ONL:外顆粒層)。
【図16】図16は、Lin−HSC注入が、rd1/rd1マウスにおいて神経細胞の変性を救出することを示す。A、B及びC:中間(int.)又は深層叢の網膜脈管構造及び、P30(A)、P60(B)及びP180(C)における、Lin−HSC注入した眼(右パネル)及び反対側の対照細胞を(CD31−)注入した眼(左パネル)の切片。D:P30(左、n=10)、P60(中央、n=10)及びP180(右、n=6)での、Lin−HSC注入又は対照細胞(CD31−)注入網膜における、脈管構造の平均全長(+又は−は平均の標準誤差)。中間(int.)及び深層叢のデータは別々に示す(Y軸:脈管構造の相対的長さ)。E、対照細胞(CD31−)又はLin−HSC注入網膜の、P30(左、n=10)、P60(中央、n=10)又はP180(右、n=6)におけるONLでの平均細胞核数(Y軸:ONLにおける相対的細胞核数)。F、P30(左)、P60(中央)又はP180(右)におけるLin−HSC注入又は対照細胞注入網膜の、脈管構造の長さ(X軸)とONLでの細胞核数(Y軸)との間の線形相関。
【図17】図17は、網膜機能がLin−HSC注入により救出されることを示している。網膜電図検査(ERG)記録を用いて、Lin−HSC又は対照細胞(CD31−)注入網膜の機能を測定した。A及びB、注入から2ヶ月後の、網膜が救出された場合及び救出されなかった場合の代表例。同一動物での、Lin−HSC注入した右目(A)及びCD31−対照細胞を注入した左目(B)の網膜切片を示す(緑:CD31染色脈管構造、赤:DAPI染色された核)。C、ERGは、A及びBで示された同一動物からの結果である。
【図18】図18は、ヒト骨髄細胞集団が、rd1マウスにおいて変性網膜を救出できることを示す(A−C)。網膜変性の別のモデル、rd10においても救出が観察される(D−K)。A、緑色の色素で標識したヒトLin−HSC(hLin−HSC)は、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスに硝子体注入された後、網膜の血管細胞に分化することができる。B及びC、注入から1.5ヶ月後の、hLin−HSC注入された眼(B)又は反対側の対照の眼(C)における、網膜脈管構造(左パネル;上部:中間叢、下方:深層叢)及び神経細胞(右パネル)。D−K、Lin−HSC(P6に注入)によるrd10マウスの救出。P21(D:Lin−HSC、H:対照細胞)、P30(E:Lin−HSC、I:対照細胞)、P60(F:Lin−HSC、J:対照細胞)及びP105(G:Lin−HSC、K:対照細胞)における代表的な網膜を示す(処理及び対照眼は、各時点の同一動物由来である。)。網膜脈管構造(各パネルの上方の像は、中間叢であり;各パネルの中央の像は、深層叢である。)を、CD31(緑)及びコラーゲンIV(赤)で染色した。各パネルの下方の像は、同じ網膜の横断面を示す(赤:DAPI、緑:CD31)。
【図19】図19は、Lin−HSCによる処置後、救出された外顆粒層細胞において、クリスタリンαAが上方制御されるが、対照細胞で処置した反対側の眼では上方制御が見られないことを示す。左パネル;救出された網膜におけるIgG対照、中央のパネル;救出された網膜におけるクリスタリンαA、右パネル;非救出網膜におけるクリスタリンαA。
【図20】図20は、本発明のLin−HSCで処置したマウス網膜において上方制御される遺伝子の表を含む。(A)マウスLin−HSCで処置したマウス網膜において発現が3倍上昇する遺伝子。(B)マウスLin−HSCで処置したマウス網膜において上方制御されるクリスタリン遺伝子。(C)ヒトLin−HSCで処置したマウス網膜において発現が2倍上昇する遺伝子。(D)ヒトLin−HSCで処置したマウス網膜において発現が上方制御される神経栄養因子又は成長因子の遺伝子。
【図21】図21は、CD133陽性(DC133+)及びCD133陰性(DC133−)の、本発明ヒトLin−HSC集団における、CD31及びインテグリンα6表面抗原の分布を説明する。
【図22】図22は、正常酸素レベル(normoxia)で飼育した野生型C57/B16マウスにおける、出生後P0からP30までの、出生後の網膜発生を説明する。
【図23】図23は、P7からP12の間、高酸素レベル(hyperoxia;75%酸素)で飼育し、その後、P12−P17は正常酸素レベルで飼育したC57/B16マウスにおける、酸素誘発性網膜症モデルを説明する。
【図24】図24は、酸素誘発性網膜症モデルにおける、本発明のLin−HSC集団を用いた治療による血管救出を示す。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年7月25日に出願された仮特許出願第60/398,522号及び2003年5月2日に出願された仮特許出願第60/467,051号の利益を主張する、2003年7月25日出願の、米国特許出願番号第10/628,783に対する出願の一部継続出願であり、これらは、参照により、本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に記載されている研究の一部は、National Cancer Institute(国立がん研究所)からのグラント第CA92577号及びNational Institute of Health(国立衛生研究所)からのグラント第EY11254号、EY12598号、EY125998号による補助を受けて為されたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、単離された、哺乳動物の、骨髄由来の系統陰性の造血幹細胞(Lin−HSC)集団及びその使用に関する。本発明は、とりわけ、内皮前駆細胞(EPC)を含有する、単離された、哺乳動物の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団に関する。本発明は、Lin−HSC及び形質移入されたLin−HSC集団の眼への投与による眼の血管疾患の治療にも関する。
【背景技術】
【0004】
網膜の遺伝性変性は、3500人に1人が影響を受け、完全な失明に進行することが多い、進行性の夜盲症、視野欠損、視神経萎縮、細動脈減弱、血管透過性の変化及び中央部の視力喪失を特徴とする(Heckenlively,J.R.,editor,1988;Retinitis Pigmentosa,Philadelphia:JB Lippincott Co.)。これらの疾患の分子遺伝学的解析により110種類以上の様々な遺伝子における突然変異が同定されたが、既知の罹患者においてこれらが占める割合は比較的少ない(Humphriesら、1992、Science 256:804−808;Farrarら、2002,EMBO J.21:857−864)。これらの突然変異の多くは、ロドプシン、cGMPホスホジエステラーゼ、rdsぺリフェリン及びRPE65を含む、光情報伝達機構の酵素的及び構造的成分に関連する。これらの観察にもかかわらず、これらの網膜変性疾患の進行を遅らせる、又は改善させる効果的な治療は依然として存在しない。遺伝子治療の最近の進展により、特異的な突然変異のある動物において、野生型の導入遺伝子を光受容体又は網膜色素上皮(RPE)に送達させることで、マウスにおけるrds(Aliら、2000、Nat.Genet.25:306−310)及びrd(Takahashiら、1999、J.Virol.73:7812−7816)表現型、及びイヌにおけるRPE65表現型(Aclandら、2001、Nat.Genet.28:92−95)を首尾よく改善できるようになった。
【0005】
加齢黄斑変性(ARMD)と糖尿病網膜症(DR)は先進国における主要な失明の原因であり、網膜での異常な新生血管形成の結果として発生する。網膜は、明瞭に区切られた神経細胞、グリア及び血管要素の層からなり、血管増殖や浮腫に見られるような比較的小さな障害が視覚機能の著しい損失を起こし得る。色素性網膜炎(RP)等の遺伝性の網膜変性もまた、細動脈の狭窄や血管の萎縮などの血管の異常に関連している。血管新生を促進及び阻害する因子の同定には著しい進歩があったが、眼の血管の疾患を特異的に治療する方法は現在のところ得られていない。
【0006】
以前から、幹細胞の集団が正常な成体の循環系及び骨髄に存在することが知られていた。これらの細胞の様々なサブ集団は、造血性の系統陽性(Lin+)又は系統陰性(Lin−)の系列に沿って分化することができる。さらに、近年では、系統陰性の造血幹細胞(HSC)集団が、インビトロ及びインビボで血管を形成することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有することが示されている(Asaharaら、1997,Science 275, 964−7)。これらの細胞は、肝細胞(Lagasseら、2000,Nat.Med.6,1229−34を参照。)、ミクログリア(Prillerら、2002,Nat.Med.7,1356−61を参照)、心筋細胞(Orlicら、2001,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 98,10344−9を参照。)及び上皮細胞(Lydenら、2001,Nat.Med.7,1194−1201を参照。)を含む内皮細胞以外の多様な細胞に分化するとともに、出生後の正常及び病的な血管新生に関与し得る(Lydenら、2001,Nat.Med.7,1194−201、Kalkaら、2000,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97,3422−7;及びKocherら、2001,Nat.Med.7,430−6を参照。)。これらの細胞は血管新生のいくつかの実験的モデルにおいて使用されてきたが、EPCが新生血管を標的とするメカニズムは不明であり、特定の血管構造に寄与する細胞の数を効果的に増加させる戦略は明らかとはなっていない。
【0007】
骨髄由来の造血幹細胞は現在、治療用途に一般に使用される唯一のタイプの幹細胞である。骨髄HSCは、40年以上にわたり移植に使用されてきた。現在のところ、白血病、リンパ腫及び遺伝性血液疾患の処置のための療法を開発するために、精製した幹細胞を回収する先進的な方法が研究途上にある。限られた数のヒト患者において、糖尿病及び進行性の腎臓癌の治療に対するヒトにおける幹細胞の臨床適用が研究されている。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、その細胞表面で系統表面抗原(Lin)を発現しない、つまり系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)の、単離された、哺乳動物の造血幹細胞集団(HSC)を提供する。本発明のLin−HSC集団は、眼に硝子体内注入された場合に、活性化された網膜星状細胞を選択的に標的とする、内皮プレカーサー細胞(endotherial precursor cell)としても知られている、内皮前駆細胞(EPC)を含む。本発明のLin−HSCは、好ましくは成体哺乳動物の骨髄由来であるが、成人ヒト骨髄由来であることがより好ましい。
【0009】
好ましい実施形態において、本発明のLin−HSC集団は、成体哺乳動物から骨髄を抽出することと;前記骨髄から複数の単球を分離することと;1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、前記系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、次にEPCを含有するLin−HSC集団を回収することにより単離される。好ましくは、その単球は、CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235a(グリコホリンA)からなる群より選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される。好ましくは、単離された、本発明のLin−HSC集団の細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する。
【0010】
本発明のLin−HSC集団内のEPCは発生過程にある網膜の血管に広く取り込まれ、眼の新生脈管構造に安定に取り込まれた状態となる。本発明の、単離された、Lin−HSC集団は、哺乳動物の変性した網膜脈管構造を救出し安定化させるために、神経ネットワークを救出するために、及び虚血組織の修復を促進するために使用することができる。
【0011】
ある好ましい実施形態において、本単離Lin−HSC集団の細胞は、治療上有用な遺伝子を用いてトランスフェクションされる。例えば、神経栄養性物質又は抗−血管形成剤を操作可能にコードするポリヌクレオチドを形質移入された細胞は、選択的に新生血管を標的とすることができ、細胞を用いた遺伝子治療の形式によって、すでに構築されている血管に影響を与えることなく新たな血管形成を阻害できる。ある実施形態において、本発明の、単離されたLin−HSC集団は、血管形成阻害ペプチドをコードする遺伝子を含む。血管形成阻害Lin−HSCは、ARMD、DR及び異常な脈管構造に関連するある網膜変性等の疾患における異常な血管成長を調節するのに有用である。別の好ましい実施形態において、単離された、本発明のLin−HSCは、神経栄養性ペプチドをコードする遺伝子を含む。その神経栄養性Lin−HSCは、緑内障、網膜色素変性症等の網膜神経変性に関連する眼疾患における神経救出を促進するために有用である。
【0012】
本発明の、単離されたLin−HSC集団で眼を治療することの特別な利点は、眼の硝子体内にLin−HSC処理を行った際に観察される血管栄養性及び神経栄養性の救出効果である。本発明の単離されたで治療した眼において、網膜のニューロン及び光受容体が保存され、視覚機能が維持される。本発明は、活性化網膜星状細胞を選択的に標的とする内皮前駆細胞を含有し、該単離Lin−HSCのうち少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、該単離Lin−HSCのうち少なくとも約50%が表面抗原CD117(c−kit)を発現する、骨髄由来の単離されたLin−HSC細胞を投与することを含む、網膜変性を治療するための方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、成体の哺乳動物骨髄、好ましくは成人ヒト骨髄から得られる内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を単離する方法も提供する。さらに、網膜の脈管構造の再生又は回復のための治療、ならびに網膜神経組織変性の治療又は改善に有用なヒトLin−HSCから、遺伝的に同一の細胞株(つまりクローン)を作り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
幹細胞は、典型的に、細胞表面の抗原の分布により同定される(詳細は、Stem Cells:Scientific Progress and Future Directions(National Institutes of Health,Office of Science Policyにより用意されたレポート。)、2001年6月、AppendixE:Stem Cell Markers(本明細書中に、参照により、適宜に組み込まれる。)を参照。)
造血幹細胞は、例えばB細胞、T細胞、顆粒球、血小板及び赤血球といった様々な血液細胞型に分化することができる幹細胞である。系統表面抗原は、CD2、CD3、CD11、CD11a、Mac−1(CD11b:CD18)、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、CD45RA、マウスLy−6G、マウスTER−119、CD56、CD64、CD68、CD86(B7.2)、CD66b、ヒト白血球抗原 DR(HLA−DR)及びCD235a(グリコホリンA)を含む、成熟血液細胞系列のマーカーである細胞表面タンパク質のグループである。これらの抗原を著しいレベルで発現しない造血幹細胞は、一般に系統陰性(Lin−)と呼ばれる。ヒト造血幹細胞は、一般に、CD31、CD34、CD117(c−kit)及び/又はCD133等の他の表面抗原を発現する。マウス造血幹細胞は、一般に、CD34、CD117(c−kit)、Thy−1及び/又はSca−1等の他の表面抗原を発現する。
【0015】
本発明は、その細胞表面で「系統表面抗原」(Lin)を著しいレベルで発現しない、単離された造血幹細胞を提供する。本明細書中において、このような細胞を「系統陰性」又は「Lin−」造血幹細胞と呼ぶ。とりわけ、本発明は、発生中の脈管構造に取り込まれることができ、その後血管内皮細胞になるように分化できる、内皮前駆細胞(EPC)を含む、Lin−造血幹細胞(Lin−HSC)の集団を提供する。好ましくは、単離されたLin−HSC集団は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の、培養培地中に存在する。
【0016】
本明細書中及び付属の請求項で使用される場合、骨髄に対する「成体」という用語は、胚とは対立するものとして、出生後に、つまり、若年及び成体個体から単離された骨髄を含む。「成体の哺乳動物」という用語は、若年及び完全に成熟した哺乳動物の両方を意味する。
【0017】
本発明は、内皮前駆細胞(EPC)を含有する、単離された、哺乳動物の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団を提供する。本発明の単離されたLin−HSC集団は、好ましくは、その細胞の少なくとも約20%が、一般に内皮細胞に存在する表面抗原CD31を発現する哺乳動物細胞を含有する。他の実施形態において、その細胞の少なくとも約50%がCD31を発現し、より好ましくは、少なくとも約65%が、最も好ましくは、少なくとも約75%がCD31を発現する。好ましくは、本発明のLin−HSC集団の細胞の少なくとも約50%が、インテグリンα6抗原を発現する。
【0018】
ある好ましいマウスLin−HSC集団の実施形態において、細胞の少なくとも約50%がCD31抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%がCD117(c−kit)抗原を発現する。好ましくは、Lin−HSC細胞の少なくとも約75%が表面抗原CD31を発現し、より好ましくは、その細胞の約81%が表面抗原CD31を発現する。別の好ましいマウスの実施形態において、前記細胞の少なくとも約65%が表面抗原CD117を発現し、より好ましくは、それらの細胞の約70%が表面抗原CD117を発現する。特に好ましい本発明の実施形態は、その細胞の約50%から約85%が表面抗原CD31を発現し、その細胞の約70%から約75%が表面抗原CD117を発現する、マウスLin−HSC集団である。
【0019】
別の好ましい実施形態は、その細胞がCD133陰性であり、その細胞の少なくとも約50%がCD31表面抗原を発現し、その細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6抗原を発現する、ヒトLin−HSC集団である。さらに別の好ましい実施形態は、その細胞がCD133陽性であり、その細胞の約30%未満がCD31表面抗原を発現し、その細胞の約30%未満がインテグリンα6抗原を発現するヒトLin−HSC集団である。
【0020】
本発明の単離されたLin−HSC集団は、それらの細胞を単離したマウス又はヒト等の哺乳動物種の眼に硝子体内注入された場合、星状細胞を選択的に標的とし、網膜新生血管に取り込まれる。
【0021】
本発明の単離されたLin−HSC集団は、内皮細胞に分化し、網膜内で血管構造を生じさせる内皮前駆細胞を含有する。とりわけ、本発明のLin−HSC集団は、網膜血管新生及び網膜血管変性疾患の治療及び網膜血管損傷の修復に有用である。本発明のLin−HSC細胞は、網膜における神経救出を促進し、抗アポトーシス遺伝子の上方制御を促進する。驚くべきことに、本発明の成人ヒトLin−HSC細胞が、網膜変性のある、重症複合免疫不全(SCID)マウスにおいてでさえも、網膜変性を抑制できることが分かった。従って、Lin−HSC集団は、新生仔哺乳動物の、例えば酸素誘発性網膜症又は未熟児網膜症に罹患している哺乳動物等の、眼における網膜障害を治療するために利用し得る。
【0022】
本発明はまた、哺乳動物の骨髄から内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を単離すること、及び、疾患を阻止するのに十分な数の単離された幹細胞を前記哺乳動物の眼の硝子体内に注入することを含む、哺乳動物における眼疾患を治療する方法を提供する。本方法は、新生、若年又は完全成熟哺乳動物における網膜変性疾患、網膜血管変性疾患、虚血性網膜症、血管からの出血、血管からの漏出及び脈絡膜症等の眼疾患を治療するために利用することができる。これらの疾患の例には、網膜傷害の他、加齢黄斑変性(ARMD)、糖尿病網膜症(DR)、推定眼ヒストプラスマ症(POHS)、未熟児網膜症(ROP)、鎌状赤血球貧血及び色素性網膜炎が含まれる。
【0023】
眼に注入される幹細胞数は、患者の眼の病状を抑止するのに十分な数である。例えば、細胞の数は、眼における網膜の損傷を修復し、網膜の新生脈管構造を安定化し、網膜の新生脈管構造を成熟させ、血管からの漏出や出血を防止又は修復するのに効果的な数であり得る。
【0024】
本発明のLin−HSC集団の細胞は、細胞を利用した眼の遺伝子治療で用いられる抗血管新生タンパク質をコードする遺伝子及び、神経救出効果を促進する神経栄養性物質をコードする遺伝子など、治療上有用な遺伝子を形質移入することができる。
【0025】
形質移入された細胞には、網膜障害の治療に対して治療上有用であるあらゆる遺伝子を包含させることができる。ある好ましい実施形態において、形質移入された本発明のLin−HSCは、TrpRS等のタンパク質若しくはタンパク質断片を含む抗血管新生ペプチド又は、例えばTrpRSのT1及びT2断片等のTrpRSの抗血管新生断片を操作可能にコードする遺伝子を含む。これらは共同で所有された同時係属している米国特許出願第10/080,839号に詳細に記載されており、その開示内容は、参照により、本願に組み込まれる。本発明の、抗血管形成ペプチドをコードする、形質移入されたLin−HSCは、糖尿病性網膜症等の疾患など、異常な血管発生を含む網膜疾患の治療に有用である。好ましくは、Lin−HSCは、ヒト細胞である。
【0026】
別の好ましい実施形態において、本発明の、形質移入されたLin−HSCは、神経成長因子、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、ニューロトロフィン−5、毛様体神経栄養因子、網膜色素上皮由来神経栄養因子、インスリン様成長因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子、脳由来神経栄養因子等の神経栄養性物質を操作可能にコードする遺伝子を含む。このような神経栄養性Lin−HSCは、網膜神経に対する傷害等の治療において、緑内障及び網膜色素変性症等の網膜神経変性疾患における神経救出を促進するために有用である。網膜色素変性症の治療に有用であるとして、毛様体神経栄養因子の移植が報告されている(Kirbyら、2001、Mol Ther.3(2):241−8;Farrarら、2002、EMBO Journal 21:857−864参照)。報告によると、脳由来神経栄養因子は、損傷を受けた網膜神経節において成長関連遺伝子を調節する(Fournierら、1997、J.Neurosci.Res.47:561−572参照。)。グリア細胞系列由来神経栄養因子は、報告によると、網膜色素変性症における光受容体の変性を遅らせる(McGeeら、2001、Mol Ther.4(6):622−9参照。)
本発明はまた、内皮前駆細胞を含む、哺乳動物の骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞を単離する方法も提供する。この方法は、(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出する段階と、;(b)前記骨髄から複数の単球を分離する段階と、;(c)1つ又は複数の系統表面抗原、好ましくは、CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G(マウス)、TER−119(マウス)、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86(B7.2)、CD66b、ヒト白血球抗原DR(HLA−DR)及びCD235a(グリコホリンA)からなる群より選択される系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識し;(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を回収する段階と、を伴い、好ましくはその細胞の少なくとも約20%がCD31を発現する。
【0027】
Lin−HSCが成人ヒト骨髄から単離される場合、好ましくは、単球は、系統表面抗原CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86(B7.2)及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される。Lin−HSCがマウス成体骨髄から単離される場合、好ましくは、単球は、系統表面抗原CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される。
【0028】
好ましい方法において、細胞は成人ヒト骨髄から単離され、さらにCD133系統により分離される。ヒトLin−HSCを単離する、ある好ましい方法は、単球をビオチン結合CD133抗体で標識し、CD133陽性のLin−HSC集団を回収する、さらなる段階を含む。典型的に、そのような細胞のうち約30%未満がCD31を発現し、そのような細胞のうち約30%未満がインテグリンα6を発現する。本発明の、ヒトCd133陽性、Lin−HSC集団は、血管形成が起こっていない眼に注入された場合、抹消の虚血主導の血管新生部位を標的とすることができる。
【0029】
ヒトLin−HSCを単離する、別の好ましい方法は、単球をビオチン結合CD133抗体で標識し、CD133陽性細胞を除去し、CD133陰性のLin−HSC集団を回収する、さらなる段階を含む。典型的に、そのような細胞のうち少なくとも約50%がCD31を発現し、そのような細胞のうち少なくとも約50%がインテグリンα6を発現する。本発明の、ヒトCD133陰性、Lin−HSC集団は、血管新生が起こっている眼に注入された場合、発生中の脈管構造に取り込まれ得る。
【0030】
本発明はまた、トランスフェクションした本発明のLin−HSC細胞を、その細胞の眼への硝子体内注入により投与することによる、眼の血管形成性疾患を治療するための方法を提供する。形質移入されたそのようなLin−HSC細胞には、治療上有用な遺伝子、例えば抗血管形成又は神経栄養性遺伝子産物をコードする遺伝子等を形質移入されたLin−HSCが含まれる。好ましくは、形質移入されたLin−HSC細胞は、ヒト細胞である。
【0031】
好ましくは、網膜変性疾患に罹患している哺乳動物の眼に硝子体内注入することにより、少なくとも約1x105個のLin−HSC細胞又は形質移入されたLin−HSC細胞を投与する。注入されるべき細胞数は、網膜変性の重症度、哺乳動物の年齢及び網膜疾患を治療する当業者にとって容易に考えられる他の因子に依存し得る。Lin−HSCは、治療を担当する臨床医により決定されるように、ある期間にわたり、単回投与又は複数回投与で投与し得る。
【0032】
本発明のLin−HSCは、網膜脈管構造の阻害もしくは変性、又は網膜神経変性などを含む網膜損傷及び網膜障害の治療に有用である。ヒトLin−HSCはまた、網膜脈管構造の再生又は修復治療における使用、ならびに網膜神経変性の治療又は改善のための、遺伝的に同一の細胞株、つまりクローンを作り出すためにも使用され得る。
【0033】
方法
【実施例1】
【0034】
細胞の単離と濃縮、マウスLin−HSC集団A及びBの調製。
【0035】
一般的な手順。インビボでの評価は全て、NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(実験動物の飼育と使用についてのNIHの指針)に従って行い、評価手順は全て、Scripps Research Institute (TSRI, La Jolla, CA)のAnimal Care and Use Committee(動物の飼育及び使用に関する委員会)から承認を受けた。骨髄細胞をB6.129S7−Gtrosa26、Tie−2GFP、ACTbEGFP、FVB/NJ(rd/rdマウス)又はBalb/cBYJ成体マウス(The Jackson Laboratory, ME)から抽出した。
【0036】
次いで、HISTOPAQUE(登録商標)ポリスクロース勾配(Sigma,St.Louis,MO)を用いた密度勾配分離によって単球を分離し、マウスにおいてLin−を選択するためにビオチン結合系統パネル抗体(CD45、CD3、Ly−6G、CD11、TER−119(Pharmingen,San Diego,CA))で標識した。磁気分離装置(AUTOMACSTMソーター(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)を用いて系統陽性(Lin+)細胞をLin−HSCから分離し除去した。さらにFACSTM Caliburフローサイトメーター(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を使用し、以下の抗体、すなわちPE結合Sca−1、c−kit、KDR及びCD31(Pharmingen,San Diego,CA)を用いて、内皮前駆細胞を含有する得られたLin−HSC集団の性質決定を行った。Tie−2の性質決定には、Tie−2−GFP骨髄細胞を用いた。
【0037】
成体マウス内皮細胞を採取するために、腸間膜組織をACTbEGFPマウスから外科的に取り除き、組織を消化するためにコラゲナーゼ(Worthington, Lakewood, NJ)中に置いた後、45μmフィルターを用いてろ過した。ろ液を集めEndothelial Growth Media(内皮細胞成長培地)(Clonetics,San Diego,CA)とともにインキュベートした。形態学的に敷石上の外見が観察されること、CD31mAb(Pharmingen)で染色されること及びMATRIGELTMマトリックス(Beckton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)中で培養物が管状構造を形成するか否かを試験することによって、内皮細胞の特徴を確認した。
【0038】
マウスLin−HSC集団A。骨髄細胞をACTbEGFPマウスから上記の一般的手順により抽出した。CD31、c−kit、Sca−1、Flk−1及びTie−2細胞表面抗原マーカーに対するFACSフローサイトメトリーによって、Lin−HSC細胞の性質決定を行った。結果を図1cに示す。Lin−HSCの約81%はCD31マーカーを、Lin−HSCの約70.5%はc−kitマーカーを、Lin−HSCの約4%はSca−1マーカーを、Lin−HSCの約2.2%はFlk−1マーカーを、Lin−HSC細胞の約0.91%はTie−2マーカーを提示した。これに対して、これらの骨髄細胞から単離されたLin+HSCは著しく異なる細胞マーカー特性(すなわちCD31は37.4%、c−kitは20%、Sca−1は2.8%、Flk−は0.05%)を有していた。
【0039】
マウスLin−HSC集団B。Balb/C、ACTbEGFP及びC3Hマウスから、上記の一般的手順によって骨髄細胞を抽出した。Lin−HSC細胞を細胞表面マーカー(Sca−1、KDR、c−Kit、CD34、CD31及び様々なインテグリン:α1、α2、α3、α4、α5、α6、αM、αV、αX、αIIb、β1、β4、β3、β4、β5及びβ7)の存在について解析した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【実施例2】
【0041】
マウスモデルにおける細胞の硝子体内投与
P2からP6の眼球を露出するために、鋭利な刃によって、マウスのまぶたに裂け目を入れた。次に本発明の系統陰性HSC集団A(細胞培養培地約0.5μlから約1μl中におよそ105細胞)を33ゲージ(Hamilton,Reno, NV)の針の付いたシリンジで硝子体内に注入した。
【実施例3】
【0042】
EPCトランスフェクション
製造業者のプロトコールに従い、FuGENETM6トランスフェクション試薬(Roche, Indianapolis,IN)を用いて、TrpRSのT2断片をコードしHis6タグも封入するDNA(配列番号1、図7)をマウスLin−HSC(集団A)にトランスフェクションした。Lin−HSC細胞(1mlあたり約106細胞)を幹細胞因子(PeproTech,Rocky Hill,NJ)を含有するopti−MEM(登録商標)培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)中に懸濁した。次いで、DNA(約1μg)及びFuGENE試薬(約3μl)の混合物を添加し、混合物を約37℃で約18時間インキュベーションした。インキュベーション後、細胞を洗浄し回収した。このシステムのトランスフェクション効率は、FACS解析で確認したところ、およそ17%であった。T2の産生をウエスタンブロッティングにより確認した。His6タグ付加T2−TrpRSのアミノ酸配列を配列番号2、図8に示す。
【実施例4】
【0043】
免疫組織化学及び共焦点解析
マウス網膜をさまざまな時点で採取し、ホールマウント用又は凍結切片作製用に調製した。ホールマウント用には、網膜を4%パラホルムアルデヒドで固定し、50%ウシ胎仔血清(FBS)及び20%正常ヤギ血清中において1時間周囲の室温でブロッキングした。網膜を一次抗体で処理し、二次抗体で検出した。使用した一次抗体は、抗コラーゲンIV(Chemicon,Temecula,CA)、抗β−gal(Promega,Madison,WI)、抗GFAP(Dako Cytomation,Carpenteria,CA)、抗α平滑筋アクチン(α−SMA,Dako Cytomation)であった。使用した二次抗体をAlexa488又は594蛍光マーカー(Molecular Probes,Eugene,OR)に結合させた。画像はMRC1024共焦点顕微鏡(Bio−Rad,Hercules,CA)で撮影した。ホールマウント網膜中での血管の発生について3つの異なる層を調べるために、LASERSHARP(登録商標)ソフトウェア(Bio−Rad)を用いて三次元画像を作製した。共焦点顕微鏡によって識別される、増強GFP(eGFP)マウスとGFAP/wtGFPマウスとの間のGFP画素強度の相違を利用して3D画像を作製した。
【実施例5】
【0044】
マウスにおけるインビボでの網膜の血管新生定量アッセイ
T2−TrpRS解析のために、第一及び深層の叢をマウス網膜の三次元画像から再構築した。第一叢を二つのカテゴリー、正常発生又は血管発生停止に分けた。深層での血管発生阻害についてのカテゴリーは、以下の基準を含む血管阻害の百分率に基づいて解釈した。深層叢形成の完全阻害を“Complete(完全)”と、正常血管発生(25%未満の阻害を含む)を“Normal(正常)”と、残りを“Partial(部分的)”とに分類した。rd/rdマウスの救出データを得るために、ホールマウント網膜それぞれについて、さらに深層の叢の4つの独立した領域を10Xレンズで捉えた。脈管構造の全長を各画像について計算し、まとめ、グループ間で比較した。正確な情報を得るために、Lin−HSCを一方の眼に、Lin+HSCを同じマウスのもう一方の眼に注入した。注入しない対照網膜は同じ親から生まれたマウスより得た。
【実施例6】
【0045】
成体網膜傷害マウスモデル
ダイオードレーザー(150mW、1秒、50mm)を用いて、又は27ゲージ針で機械的にマウス網膜に穴を開けることによって、レーザー及び傷跡のモデルを作製した。傷を与えてから5日後、硝子体内法を用いて細胞を注入した。更にその5日後にマウスから眼を採取した。
【実施例7】
【0046】
網膜再生の神経栄養性救出
成体のマウス骨髄由来の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)は網膜変性のマウスモデルにおいて血管栄養及び神経栄養性の救出効果を有している。10日齢マウスの右眼に本発明のLin−HSCを約105個含有する約0.5μlを硝子体内注入し、2ヶ月後、網膜の脈管構造の存在及び神経層の核数について評価した。同じマウスの左眼にほぼ同じ数のLin+HSCを対照として注入し、同様に評価した。図9に示すように、Lin−HSCで処理した眼では、網膜の脈管構造はほぼ正常なようであり、内顆粒層はほぼ正常、外顆粒層(ONL)は約3から約4の核層を有していた。対照的に、Lin+HSCで処理した反対側の眼では、網膜血管の中間層が著しく萎縮し、網膜血管の外層は完全に萎縮し、内顆粒層は著しく萎縮し、外顆粒層は完全に消失していた。これはマウス3及びマウス5で顕著に示された。マウス1では、救出効果はなく、これは注入を行ったマウスのおよそ15%で当てはまった。
【0047】
視覚機能を網膜電図(ERG)で評価すると、血管及び神経の両者が救出された場合(マウス3及び5)に陽性ERGの回復が観察された。陽性ERGは、血管又は神経の救出がない場合(マウス1)には観察されなかった。本発明のLin−HSCによる、rd/rdマウスの眼における血管性と神経栄養性の救出との間の相関は、図10の回帰分析プロットによって示される。神経(y軸)回復と血管(x軸)回復との間に見られる相関は中間の脈管型(r=0.45)及び深層の脈管型(r=0.67)で観察された。
【0048】
図11に示すように、Lin+HSCによる血管救出と神経救出との間にはいかなる統計的に有意な相関も存在しない。血管の救出を定量化し、そのデータを図12に示す。図12に示す注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)及び6ヶ月(6M)のマウスのデータによれば、本発明のLin−HSCで処理した眼(黒い棒)では、同じマウスの非処理の眼(白い棒)の血管長と比べて、特に注入後1ヶ月及び2ヶ月で、血管長が顕著に伸びたことが明らかである。Lin−HSC又はLin+HSCの注入後約2ヶ月に内顆粒層及び外顆粒層の核を数えることにより、神経栄養性の救出効果を定量化した。結果を図13及び14に示す。
【実施例8】
【0049】
ヒトLin−HSC集団
上述した一般プロトコールにより、健康な成人ヒトボランティアから骨髄細胞を抽出した。次いで、HISTOPAQUE(登録商標)ポリスクロース勾配(Sigma,St.Louis,MO)を用いた密度勾配分離によって単球を分離した。以下のビオチン結合系統パネル抗体(CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86、CD235a(Pharmingen)を用いて、磁気分離装置(AUTOMACSTMソーター(Miltenyi Biotech,Auburn,CA)によりヒト骨髄単球細胞からLin−HSC集団を単離した。
【0050】
ヒトLin−HSC集団を、CD133発現により、2つのサブ集団にさらに分離した。ビオチン結合CD133抗体でそれらの細胞を標識し、CD133陽性及びCD133陰性のサブ集団に分離した。
【実施例9】
【0051】
網膜変性に対するマウスモデルにおける、ヒト及びマウス細胞の硝子体内投与。
【0052】
網膜変性モデルとして、C3H/HeJ、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCID及びrd10マウス系列を使用した。C3H/HeJ及びC3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウス(The Jackson Laboratory,Maine)は、retinal degeneration1(rd1)突然変異に関してホモ接合性であり、早期に重度の網膜変性を起こす突然変異体である。突然変異は、桿状体光受容体 cGMPホスホジエステラーゼ βサブユニットをコードするPde6b遺伝子のエクソン7に位置する。この遺伝子における突然変異は、常染色体劣性の網膜色素変性症(RP)のヒト患者において見つかっている。C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスもまた、重症複合免疫不全症自然突然変異(Prkdc SCID)についてホモ接合であり、ヒト細胞移入実験において使用した。rd10マウスにおける網膜変性は、Pde6b遺伝子のエクソン13における突然変異により生じる。これもまた、臨床的に意義のあるRPモデルであり、発症が遅く、網膜変性の程度がrd1/rd1)よりも穏やかである。評価は全て、NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(実験動物の飼育と使用についてのNIHの指針)に従って行い、手順は全て、Scripps Research InstituteのAnimal Care and Use Committee(動物の飼育及び使用に関する委員会)から承認を受けた。
【0053】
P2からP6の眼球を露出するために、鋭利な刃によって、マウスの瞼に裂け目を入れた。次に、マウス集団A又はヒト集団Cに対する系統陰性HSC細胞(細胞培養培地 約0.5μlから約1μl中におよそ105細胞)を33ゲージ(Hamilton, Reno, NV)の針の付いたシリンジでマウスの眼に硝子体内注入した。注入されたヒト細胞を見えるようにするために、色素(Cell tracker green、CMFDA,Molecular Probes)で注入前に細胞を標識した。
【0054】
様々な時点で網膜を回収し、4% パラホルムアルデヒド(PFA)及びメタノールで固定し、次に、50% FBS/20% NGS中で室温にて1時間ブロッキングした。網膜脈管構造を染色するために、抗−CD31(Pharmingen)及び抗−コラーゲンIV(Chemicon)抗体とともに網膜をインキュベーションし、その後、Alexa 488又は594結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,Oregon)とともにインキュベーションした。ホールマウント標本を得るために、4方向に放射状に減張切開してその網膜を平らに置いた。Radiance MP2100共焦点顕微鏡及びLASERSHARP(登録商標)ソフトウェア(Biorad,Hercules,California)を用いて、中間又は深層網膜血管叢における脈管構造の像(Dorrellら、2002 Invest Ophthalmol.Vis.Sci.43:3500−3510を参照。)を得た。脈管構造の定量のために、中間及び深層血管層の中央部分から4つの別個の視野(900μmx900μm)を無作為に選択し、LASERPIX(登録商標)解析ソフトウェア(Biorad)を使用して、脈管構造の全長を測定した。同一叢におけるこれらの4視野の全長をさらなる解析に使用した。
【0055】
凍結切片用に、平らに置いた網膜を再包埋した。網膜を4%PFA中に一晩置き、その後、20%スクロースとともにインキュベーションした。最適切削温度コンパウンド(optimal cutting temperature compound)(OCT:Tissue−Tek;Sakura FineTech,Torrance,CA)にその網膜を包埋した。核色素 DAPI(Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouri)を含有するPBS中で凍結切片(10μm)を再水和した。視神経頭及び周辺部網膜全体を含む1つの切片の3つの異なる領域(280μm幅、無作為サンプリング)において、DAPI標識された核の像を共焦点顕微鏡で撮影した。1つの切片中の3つの独立した視野のONLに位置する核の数を数え、解析のために合計した。単純線形回帰分析を行い、深層叢における脈管構造の長さとONLにおける細胞核の数との間の関係を調べた。
【0056】
一晩暗順応を行った後、15μg/gm ケタミン及び7μg/gmキシラジンの腹腔内注射によりマウスを麻酔した。マウスリファレンス(mouth reference)及び尾部接地電極とともに金ループ角膜電極を用いて、瞳孔拡張(1% 硫酸アトロピン)後に、各眼の角膜表面から網膜電図(ERG)を記録した。反射率の高いGanzfeldドームの外側に取り付けられたGrass Photic Stimulator(PS33 Plus,Grass Instruments,Quincy,MA)により刺激を生じさせた。光刺激発生装置に許容される最大強度(0.668cd−s/m2)までの強度範囲にわたる短波長(Wratten 47A:λmax=470nm)の光のフラッシュに対して、桿状体の反応を記録した。反応シグナルを増幅し(CP511 AC 増幅器、Grass Instruments)、デジタル化し(PCI−1200,National Instruments,Austin,TX)、コンピューター解析を行った。各マウスを、ERGを処理及び非処理の眼の両方から記録して、それ自身の内部対照とした。最も弱いシグナルに対して、100スイープまでを平均した。非処理の眼の平均反応を処理した眼の反応からデジタル処理で差し引き、シグナルにおけるこの差を機能的救出の指標とするために使用した。
【0057】
Lin−HSC標的網膜遺伝子発現を評価するために、マイクロアレイ解析を使用した。P6 rd/rdマウスに、Lin−又はCD31−HSCのいずれかを注入した。注入後40日に、RNaseフリー培地中でこれらのマウスの網膜を切り出した(網膜脈管構造及び光受容体層の救出は、注入後この時点で明らかである。)。正常なHSC標的ならびに脈管構造及び神経保護が達成されたことを確認するために、ホールマウントにより各網膜の4分の1の部分を分析した。TRIzol(Life Technologies,Rockville,MD)、フェノール/クロロホルムRNA単離プロトコールを用いて、注入に成功した網膜由来のRNAを精製した。Affymetrix Mu74Av2チップにRNAをハイブリダイズさせ、GENESPRING(登録商標)ソフトウェア(SiliconGenetics,Redwood City,CA)を用いて遺伝子発現を解析した。精製したヒト又はマウスHSCをP6マウスに硝子体内注入した。RNAの精製及びヒト特異的U133A Affymetrix チップへのハイブリダイゼーション用に、P45に、その網膜を切り出し、1)ヒトHSC注入、救出マウス網膜、2)ヒトHSC注入、非救出マウス網膜、3)マウスHSC注入、救出マウス網膜のフラクションに分けて集めた。GENESPRING(登録商標)ソフトウェアを使用して、バックグラウンドより高く、ヒトHSC救出網膜においてより高く発現される遺伝子を同定した。次に、これらの遺伝子のそれぞれに対するプローブペアの発現特性を個々に解析し、dChipを用いて正常ヒトU133A マイクロアレイ実験のモデルと比較し、ヒト種特異的ハイブリダイゼーションを特定し、異種間のハイブリダイゼーションによる偽陽性を除いた。
【0058】
CD133陽性及びCD133陰性のLin−HSCサブ集団を、新生仔SCIDマウスの眼に硝子体内注入した場合、CD31及びインテグリンα6表面抗原の両方を発現するCD133陰性サブ集団の場合に発生中の脈管構造へ最も多く取り込まれたことが観察された(図21、下参照)。CD133陽性サブ集団は、CD31又はインテグリンα6を発現せず(図21、上)、周辺部の虚血主導の血管新生の部位を標的とすると思われるが、血管形成が起こっている最中の眼に注入した場合、そのような部位を標的としないと思われる。
【実施例10】
【0059】
酸素誘発性網膜変性に対するマウスモデルにおけるマウス細胞の硝子体内投与。
【0060】
酸素誘発性網膜変性(OIR)モデルにおいて、新生仔野生型C57B16マウスを、出生後P7からP12の間、酸素過剰状態(75%酸素)に曝露した。図22は、P0からP30における、C57B16マウスの正常な出生後の血管発生を説明する。P0において、視神経円板周囲で発芽状態の表面血管のみが観察できる。次の数日にわたり、最初の表面ネットワークが周辺部に広がり、P10までに遠く離れた周辺部に到達する。P7からP12の間に、二次(深層)叢が発生する。P17までに、広域に及ぶ表面及び深層の血管ネットワークが現れる(図22、挿入図)。その後の数日間、成体の構造がおよそP21にできるまで、血管の三次(中間)層の発生に伴い、再構築が起こる。
【0061】
一方で、OIRモデルにおいて、P7からP12に75%酸素に曝露した後、正常な一連の段階が大幅に障害される(図23)。P3に、本発明の成体マウスLin−HSC集団を、その後OIRを起こすマウスの片方の眼に硝子体内注入し、他方の眼にPBS又はCD31陰性細胞を対照として注入した。図24は、本発明のLin−HSC集団が、発生中のマウス網膜において、変性を引き起こす高酸素状態による影響に拮抗することができることを説明する。処理した眼において、P17に、完全に発生が進んだ表面及び深層の網膜脈管構造が観察されたが、一方で、対照の眼では、実質的に深層血管がない無血管エリアが広く見られた(図24)。OIRモデルにおけるマウスのおよそ100個の眼を観察した。本発明のLin−HSC集団で処理した眼の58%において正常な脈管化が観察されたが、一方、対照の眼では、正常な脈管化が観察されたのは、CD−31細胞で処理した眼のうち12%であり、PBSで処理した眼のうち3%であった。
【0062】
結果
マウス網膜血管の発生;眼の血管形成についてのモデル
マウスの眼は、ヒト等の哺乳動物の網膜血管の発生に関する研究に対する認識されたモデルを与える。マウスの網膜脈管構造が発生する時期において、虚血が引き起こした網膜血管は星状細胞と密接に関係して発生する。これらグリアの要素は、妊娠三半期のうちの最後のヒト胎児又は新生期のげっ歯類の網膜上へ視神経円板から神経節細胞層に沿って移動し、放射状に広がる。マウスの網膜脈管構造が発生するにつれて、内皮細胞は既に確立されたこの星状細胞の鋳型を利用し、網膜の血管パターンを決定する(図1a及びb参照)。図1(a及びb)は、発生過程にあるマウス網膜の概略図を表している。図1aは星状細胞の鋳型(明るい線)上に重なっている第一叢(図の左上の暗い線)の発生を表しており、図1bは網膜の血管形成の第二段階を表している。図中、GCLは神経節細胞層、IPLは内網状層、INLは内顆粒層、OPLは外網状層、ONLは外顆粒層、RPEは網膜色素上皮、ONは視神経及びPは末梢を意味する。
【0063】
出生時、網膜の脈管構造は実質的に存在しない。出生後14日(P14)までに物が見え始めるようになるのと一致して、網膜は、網膜血管の複雑な第一(表面)及び第二(深部)層を発達させる。初めに、スポーク状の乳頭周囲の血管が、末梢に向かって、すでに存在している星状細胞のネットワーク上を放射状に成長し、続いて毛細管状の叢を形成することで次第に相互に連結するようになる。これらの血管はP10まで神経線維内で単層として成長する(図1a)。P7からP8の間に側副枝がこの第一叢から出芽し始め、網膜を通り外網状層へと貫通し、そこで第二のあるいは深層の網膜叢を形成する。P21までにネットワーク全体が広範囲の再構築を行い、第三又は中間の叢が内顆粒層の内側表面に形成される(図1b)。
【0064】
新生期のマウス網膜の血管新生モデルはいくつかの理由から眼の血管新生におけるHSCの役割の研究に有用である。この生理学上意義のあるモデルにおいて、内在性の血管の出現前に大きな星状細胞の鋳型が存在し、それにより新生血管の形成過程における細胞−細胞間の標的化の役割を評価することが可能になっている。さらに、この新生期の網膜血管の一貫した再現性のある形成過程は低酸素により起こることが知られており、この点において虚血が関与することが知られる多くの網膜疾患と類似点がある。
【0065】
骨髄からの内皮前駆細胞(EPC)の濃縮
細胞表面マーカーの発現はHSCの調製物に見られるEPC集団について広く評価されてきたが、EPCを一意的に同定するマーカーはいまだ十分に定義されていない。EPCを濃縮するために、造血性の系統マーカー陽性細胞(Lin+)、すなわちBリンパ球(CD45)、Tリンパ球(CD3)、顆粒球(Ly−6G)、単球(CD11)及び赤血球(TER−119)をマウスの骨髄単核細胞から除いた。EPCをさらに濃縮するためにSca−1抗原を使用した。同数のLin−Sca−1+細胞又はLin−細胞を硝子体内に注入した後に得られた結果を比較したところ、2つのグループ間で違いは検出されなかった。実際に、Lin−Sca−1−細胞のみを注入した場合、発生過程の血管への取り込みがはるかに多いことが観察された。
【0066】
本発明のLin−HSC集団は機能アッセイに基づきEPCについて濃縮される。その上、Lin+HSC集団はLin−HSC集団とは機能的に全く異なる振る舞いをする。各画分(以前に報告されたインビトロにおける性質決定の研究に基づく。)について、EPCを同定するのに広く用いられるエピトープも評価した。Lin−画分のみに見られるマーカーはなかったが、Lin+HSC画分と比較して、Lin−HSCでは、全てのマーカーが約70から約1800%上昇していた(図1c)。図1cは骨髄由来の分離されたLin+HSC及びLin−HSC細胞に対して行ったフローサイトメトリーによる性質決定を示している。図1c上列は抗体でラベルされていない造血幹細胞のドットプロット分布を示している。R1はPE染色陽性が定量可能なようにゲーティングされた領域を表し、R2はGFP陽性を表している。Lin−HSCのドットプロットを中列に示し、Lin+HSCのドットプロットを下列に示す。C57B/6細胞をSca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPEに結合した抗体で標識した。Tie−2のデータをTie−2−GFPマウスから得た。ドットプロットの角に記載されている百分率は全Lin−又はLin+HSC集団のうち陽性に標識された細胞のパーセントを示す。興味深いことに、Flk−1/KDR、Tie−2及びSca−1のような一般に容認されているEPCマーカーはほとんど発現しておらず、このため、さらなる分画化には使用しなかった。
【0067】
硝子体内に注入されたHSC Lin−細胞は、星状細胞を標的とし、発生過程にある網膜脈管構造に取り込まれる、EPCを含有する。
【0068】
硝子体内に注入されたLin−HSCが網膜の特異的な細胞種を標的とし、星状細胞の鋳型を利用して網膜の血管新生に関与しうるか否かを調べるために、成体(GFP又はLacZトランスジェニック)マウスの骨髄から単離された本発明のLin−HSC組成物から得たおよそ105個の細胞、又は成体(GFP又はLacZトランスジェニック)マウスの骨髄から単離したLin+HSC細胞(対照、約105細胞)を出生後2日(P2)のマウスの眼に注入した。注入から4日後(P6)、GFP又はLacZトランスジェニックマウスから採取された、本発明のLin−HSC組成物から得た多くの細胞は網膜に付着し、内皮細胞が示す、特徴的な伸張した外観を有した(図2a)。図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin−細胞の移植を表している。図2aに示すように、注入後4日(P6)で硝子体内に注入されたeGFP+Lin−HSCは網膜上に接着し分化する。
【0069】
網膜の多くの領域で、GFP発現細胞はその下部に存在する星状細胞に適合するパターンで配置され、血管に類似していた。これらの蛍光細胞は内在性の発生過程にある血管ネットワークの先端に観察された(図2b)。反対に、Lin+HSC(図2c)又は成体マウスの腸管膜内皮細胞(図2d)は少数が網膜表面に接着しているにすぎなかった。注入されたLin−HSC集団由来の細胞が網膜のすでに確立している管にも接着できるか否かを調べるために、Lin−HSC組成物を成体の眼に注入した。興味深いことに、細胞は網膜に付着しておらず、確立している正常な網膜血管中に取り込まれていないことが観察された(図2e)。このことは、本発明のLin−HSC組成物が正常に発生した血管構造を妨害しないので、正常に発生した網膜で異常な血管新生を起こさないであろうことを示している。
【0070】
注入された本発明のLin−HSC組成物と網膜星状細胞との関係を調べるために、グリア線維酸性タンパク質(GFAP、星状細胞のマーカー)及びプロモーター誘導緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニックマウスを使用した。eGFPトランスジェニックマウスから得たLin−HSCを注入した、これらのGFAP−GFPトランスジェニックマウスの網膜を調べたところ、注入されたeGFP EPCと既存の星状細胞とが同じ場所に局在していた(図2f−h、矢印)。eGFP+Lin−HSCの突起は、その下に位置する星状細胞ネットワークに一致していることが観察された(矢印、図2g)。これらの眼の試験から、注入された標識細胞のみが星状細胞に接着することが示された。P6マウスの網膜では、網膜の末梢はまだ内因性の血管を有さないが、注入された細胞はこれらのまだ血管形成されていない領域の星状細胞に付着することが観察された。驚くべきことに、注入された標識細胞は網膜のさらに深い層の正しい場所(そこには後に正常な網膜の管が形成される)で観察された(図2i、矢印)。
【0071】
注入された本発明のLin−HSCが発生過程にある網膜脈管構造中に安定に取り込まれるか否かを調べるために、その後、複数の時点で網膜の血管を調べた。早くもP9(注入後7日)には、Lin−HSCはCD31+構造中に取り込まれた(図2j)。P16(注入後14日)までには、既に細胞は網膜の血管様構造中に広く取り込まれていた(図2k)。動物を屠殺する前に(機能的な網膜血管を同定するため)ローダミン−デキストランを硝子体内に注入すると、Lin−HSCの大部分は開通した血管に沿って整列していた(図2l)。標識細胞の分布には2つのパターンが観察された。(1)一方のパターンでは、細胞は標識されていない内皮細胞の間を血管に沿って点在していた。(2)もう一方のパターンでは血管は専ら標識細胞で構成されていた。注入された細胞はまた深層の血管叢の管にも取り込まれていた(図2m)。Lin−HSC由来のEPCが新生血管へ散在するように取り込まれることは以前より報告されていたが、血管ネットワークが専らこれらの細胞で構成されることについてはこれが初めての報告である。このことは、硝子体内に注入された本発明の骨髄由来のLin−HSC集団由来の細胞が形成過程にある網膜血管叢のいずれの層にも効率よく取り込まれ得ることを示している。
【0072】
網膜以外の組織(例えば、脳、肝臓、心臓、肺、骨髄)の組織学的な試験からは、硝子体内注入から5日後又は10日後まではGFP陽性細胞の存在は示されなかった。このことは、Lin−HSC画分内の細胞のサブ集団が網膜星状細胞を選択的に標的とし、発生過程にある網膜脈管構造中に安定に取り込まれることを示している。これらの細胞は内皮細胞の多くの特徴を有している(網膜星状細胞との結合、伸張した形態、開通した管への安定した取り込み及び血管外に存在しないこと)ので、これらの細胞はLin−HSC集団に存在するEPCであることを意味している。標的とされた星状細胞は、多くの低酸素網膜症で観察されるものと同じタイプである。グリア細胞が、DRや他の形式の網膜損傷で観察される、葉状の新生血管の主な構成要素であることはよく知られている。反応性グリオーシス及び虚血により誘導される新生血管形成時には、ヒトを含む多くの哺乳動物種で新生期に網膜血管の鋳型が形成される際に観察されるものと同様に、活性化された星状細胞が増殖し、サイトカインを産生し、GFAPを上方制御する。
【0073】
本発明のLin−HSC集団が新生期の眼におけるのと同様に成体マウスの眼でも活性化された星状細胞を標的とするか否かを調べるために、光凝固(図3a)又は針先(図3b)で網膜に損傷を与えた成体の眼に、Lin−HSC細胞を注入した。両モデルにおいて、顕著にGFAP染色された細胞集団が損傷部位周辺でのみ観察された(図3a及びb)。注入されたLin−HSC組成物由来の細胞は損傷部位に局在し、GFAP陽性星状細胞と特異的に結合したままであった(図3a及びb)。これらの部位では、新生期における深層の網膜脈管構造の形成時に見られるのと同様のレベルまで、Lin−HSC細胞が網膜のより深い層に移動するのも観察された。損傷を与えなかった網膜部分には、正常で損傷のない成体網膜にLin−HSCを注入したときに観察されるのと同様に、Lin−HSC細胞は含有されていなかった(図2e)。これらのデータは、血管形成している新生期の網膜と同様に、損傷を与えた成体網膜においてもグリオーシスにより活性化したグリア細胞を、Lin−HSC組成物が選択的に標的としうることを示している。
【0074】
硝子体内に注入されたLin−HSCは変性している脈管構造を救出し安定化できる
硝子体内に注入されたLin−HSC組成物は星状細胞を標的とし正常な網膜脈管構造中に取り込まれるから、これらの細胞はグリオーシス及び血管の変性を伴う虚血性又は変性網膜疾患に見られる変性した脈管構造も安定化する。rd/rdマウスは、出生後1ヶ月までに光受容体及び網膜血管層に甚大な変性を示す網膜変性のモデルである。これらマウスの網膜脈管構造は、より深部の血管叢が退行するP16までは正常に発生し、ほとんどのマウスでP30までに深層及び中間の叢がほぼ完全に変性する。
【0075】
HSCが退行した血管を救出できるか否かを調べるために、Lin+又はLin−HSC(Balb/cマウスから得た。)をP6にrd/rdマウスの硝子体内に注入した。Lin+細胞注入後、P33までに、網膜の最も深い層の血管はほぼ完全に消失した(図4a及びb)。対照的に、Lin−HSCを注入したほとんどの網膜はP33までにきちんと形成された3層の平行した血管層を備えたほぼ正常な網膜脈管構造を有するようになった(図4a及び4d)。この効果を定量化したところ、Lin−を注入されたrd/rdの眼の深層血管叢における血管の平均の長さは、未処理又はLin+細胞処理の眼に比べてほぼ3倍長いことが明らかとなった(図4e)。驚くべきことに、rd/rd成体マウス(FVB/N)の骨髄に由来するLin−HSC組成物の注入も、rd/rd新生期マウスの変性している網膜脈管構造を救出した(図4f)。rd/rdマウスの眼における脈管構造の変性は、早くも出生後2−3週には観察された。P15という遅い時期にLin−HSCを注入しても、少なくとも1ヶ月間はrd/rdマウスの変性している脈管構造は部分的に安定化された(図4g及び4h)。
【0076】
さらに若い(例えば、P2)rd/rdマウスに注入したLin−HSC組成物も、発生している表面の脈管構造中に取り込まれた。P11までに、これらの細胞が血管叢の深層レベルに移動し、野生型の外網膜血管層で見られるものと同じパターンを形成することが観察された(図5a)。注入したLin−HSC組成物由来の細胞がrd/rdマウスの変性している網膜脈管構造に取り込まれ、これを安定化する様子をより明確に説明するために、Balb/cマウス由来のLin−HSC組成物をTie−2−GFP FVBマウスの眼に注入した。FVBマウスはrd/rd遺伝型を有しており、Tie−2−GFP融合タンパク質を発現しているのですべての内因性の血管は蛍光を有している。
【0077】
Lin−HSC組成物由来の未標識細胞が新生期のTie−2−GFP FVBの眼に注入され、続いて発生過程にある脈管構造に取り込まれる場合、注入され、組み込まれた非標識Lin−HSCに対応する非標識の間隙が内因性のTie−2−GFP標識された血管に存在するはずである。続いて他の血管マーカー(例えば、CD−31)で染色することにより血管全体の輪郭を描けば、非内因性の内皮細胞が脈管構造の一部であるか否かを明らかにすることができる。注入から2ヵ月後、CD31陽性Tie−2−GFP陰性の血管がLin−HSC組成物を注入された眼の網膜で観察された(図5b)。興味深いことに、救出された血管の大部分はTie−2−GFP陽性細胞を含んでいた(図5c)。平滑筋アクチンの染色によって調べたところ、周皮細胞の分布は、血管の救出があるか否かにかかわらず、Lin−HSCの注入によっては変化しなかった(図5d)。これらのデータは明らかに、硝子体内に注入された本発明のLin−HSC組成物が、網膜へと移動し、正常な網膜血管の形成に関与し、遺伝的に欠損のあるマウスにおいて内因性の変性した脈管構造を安定化することを示している。
【0078】
トランスフェクションしたLin−HSC由来の細胞による網膜血管新生の阻害
網膜血管の疾患の大部分は変性よりもむしろ異常な血管増殖を伴う。星状細胞を標的とするトランスジェニック細胞は抗血管新生タンパク質を輸送し血管新生を阻害するのに使用することができる。Lin−HSC組成物由来の細胞にT2−トリプトファニル−tRNAシンテターゼ(T2−TrpRS)をトランスフェクションした。T2−TrpRSは、網膜の血管新生を強く阻害するTrpRSの43kD断片である(図6a)。対照プラスミドをトランスフェクションしたLin−HSC組成物(T2−TrpRS遺伝子を有さない。)をP2に注入した眼の網膜は、P12において正常な第一(図6c)及び第二(図6d)の網膜血管叢を有していた。T2−TrpRSをトランスフェクションした本発明のLin−HSC組成物をP2の眼に注入し10日後に評価すると、第一ネットワークは著しい異常を有し(図6e)、深層の網膜脈管構造の形成はほぼ完全に阻害された(図6f)。これらの眼で観察された少数の血管は、血管の間に大きな間隙を伴い、著しく減衰していた。T2−TrpRSを分泌しているLin−HSCによって阻害される程度を表2に詳述する。
【0079】
T2−TrpRSはLin−HSC組成物中の細胞によってインビトロで産生されて分泌されるが、これらのトランスフェクションを行った細胞を硝子体内に注入したところ、T2−TrpRSの30kD断片が網膜で観察された(図6b)。この30kD断片は本発明のトランスフェクションを行ったLin−HSCを注入した網膜でのみ特異的に観察され、組換体又はインビトロ合成されたタンパク質と比較してこのように明らかに分子量が低いのは、インビボでのT2−TrpRSのプロセシング又は分解によるものであり得る。これらのデータは、Lin−HSC組成物が、活性化された星状細胞を標的とすることにより網膜脈管構造へと、血管新生抑制分子を発現する遺伝子のような機能的に活性のある遺伝子を輸送するのに使用できることを示している。観察された血管新生抑制効果は、細胞が介在する活性によるものである可能性もあるが、T2トランスフェクションを行っていない同一のLin−HSC組成物で処理した眼は正常な網膜血管構造を有していることから、この可能性は非常に低い。
【0080】
【表2】
【0081】
硝子体内に注入されたLin−HSC集団は網膜の星状細胞に局在し、血管に組み込まれ、多くの網膜疾患の治療に有用であり得る。注入されたHSC組成物由来のほとんどの細胞が星状細胞の鋳型に付着する一方、少数の細胞は網膜の深層へと移動し、後に深層血管ネットワークが発生する領域に定着する。出生後42日より前にこの領域にGFAP陽性星状細胞が観察されなかったとしても、GFAP陰性のグリア細胞がすでに存在しLin−HSCの局在のためのシグナルを提供している可能性は排除されない。以前の研究により多くの疾患が反応性グリオーシスと関連があることが明らかとなっている。特にDRでは、グリア細胞とその細胞外マトリックスが病的な血管新生と関連している。
【0082】
損傷の種類に関わらず、注入されたLin−HSC組成物由来の細胞は特異的にGFAP発現グリア細胞に接着したので、本発明のLin−HSC組成物は網膜に血管新生が起こる前の損傷部位を標的とするために使用することができる。例えば糖尿病のような虚血性網膜症では、新生血管は低酸素への応答によるものである。Lin−HSC組成物を病的な新生血管部位へ誘導することにより、発生過程にある新生脈管構造を安定化することができ、(DRに関連する失明の原因である)出血又は浮腫などの新生血管の異常を防止し、新生血管生成を本来刺激していた低酸素状態を緩和できる可能性がある。異常な血管を正常な状態に回復することができる。さらに、トランスフェクションを行ったLin−HSC組成物の使用及びレーザーで誘発される星状細胞の活性化により、T2−TrpRSのような血管新生抑制タンパク質を病的な血管新生部位へと輸送することができる。レーザー光凝固は臨床眼科学で広く使用されており、このアプローチは多くの網膜疾患に適用がある。細胞を利用したこのようなアプローチは癌治療において探求されてきたが、眼内注入によれば多数の細胞を直接疾患部位に輸送することが可能であることから、目の疾患にこれらを使用することはより多くの利点を有している。
【0083】
Lin−HSCによる神経栄養及び血管栄養性の救出
上述のように、増強緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein)(eGFP)、C3H(rd/rd)、FVB(rd/rd)マウスの骨髄からLin−HSCを分離するためにMACSを用いた。これらのマウス由来のEPCを含有するLin−HSCをP6のC3H又はFVBマウスの眼の硝子体内に注入した。注入後の様々な時点(1ヶ月、2ヶ月及び6ヶ月)で網膜を回収した。CD31に対する抗体で染色した後、走査型レーザー共焦点顕微鏡で、また、DAPIによる核染色後に網膜を組織学的に脈管構造を解析した。様々な時点における網膜由来のmRNAのマイクロアレイ遺伝子発現解析を、この効果に関与している可能性のある遺伝子を同定するためにも用いた。
【0084】
rd/rdマウスの眼はP21までに神経感覚の網膜及び網膜脈管構造の両者に甚大な変性を有するようになった。P6にLin−HSCで処理したrd/rdマウスの眼は、6ヶ月間にわたり正常な網膜脈管構造を維持した。全ての時点(1M、2M及び6M)において、対照と比較すると、深層及び中間層の両者が著しく改善していた(図12参照)。さらに、Lin−HSCで処理した網膜は、対照としてLin+HSCで処理した眼と比較して、より厚くもなり(1Mで1.2倍、2Mで1.3倍、6Mで1.4倍)、外顆粒層により多くの細胞を有していた(1Mで2.2倍、2Mで3.7倍、6Mで5.7倍)ことが観察された。対照(未処理又は非Lin−処理)と比較して「救出された」(例えば、Lin−HSC)rd/rd網膜について大規模なゲノム解析をしたところ、図20のパネルA及びBに列挙されたタンパク質をコードする遺伝子を含む、sHSPs(小分子熱ショックタンパク質)及び血管及び神経の救出に相関する特異的な成長因子をコードする遺伝子の顕著な上方制御が明らかとなった。
【0085】
本発明の骨髄由来Lin−HSC集団は、rd/rdマウスにおいて、顕著にかつ再現性よく正常な脈管構造の維持を誘導し、劇的に光受容体及び他の神経細胞層を増加させた。この神経栄養の救出効果は小分子熱ショックタンパク質及び成長因子の著しい上方制御に相関しており、現在治療できない網膜変性疾患に対する治療上のアプローチに対する手がかりを与える。
【0086】
rd1/rd1マウス網膜は、重度の血管及び神経変性を示す。
【0087】
マウスにおける正常の出生後網膜血管及び神経発生は、詳しく記載されており、妊娠第三期のヒト胎児において見られる変化と類似している(Dorrellら、2002、Invest.Ophthamol.Vis.Sci.43:3500−3510)。rd1遺伝子に対するマウスホモ接合体は、ヒト網膜変性の特徴と共通する特徴が多く(Frassonら、1999、Nat.Med.5:1183−1187)、PR cGMPホスホジエステラーゼをコードする遺伝子における突然変異の結果としての重度の血管萎縮を伴う、急速な光受容体(PR)の損失を示す(Bowesら、1990、Nature 347:677−680)。網膜発生及びその後の変性中の脈管構造を調べるために、コラーゲンIV(CIV)抗体、成熟脈管構造の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質に対する抗体及び内皮細胞に対するマーカーであるCD31(PECAM−1)に対する抗体を使用した(図15)。rd1/rd1(C3H/HeJ)の網膜は、光受容体含有外顆粒層(ONL)の変性が始まる、ほぼ出生後(P)8日まで正常に発生した。ONLは、急速に変性し、アポトーシスにより細胞死が起こり、P20までには、核の単層のみが残った状態となった。CIV及びCD31両者に対する抗体を用いたホールマウント網膜の二重染色により、他の研究者により述べられているものと同様のrd1/rd1マウスにおける血管変性の詳細が明らかになった(Blanksら、1986,J.Comp.Neurol.254:543−553)。第一の及び深部網膜血管層は、P12まで正常に発生すると思われるが、この後、CD31染色がなくなることにより分かるように、内皮細胞が急速に失われる。CD31陽性内皮細胞は、P12まで正常な分布を示すが、その後急速に消失した。興味深いことに、CIV陽性染色は、調べた時点全てで残っており、このことから、血管及び関連するECMは正常に形成されることが示唆されるが、P13までにCD31陽性細胞は見られなくなり、P13の後にはマトリックスのみが残ることが観察された。(図15、中央パネル)。P21の後、中間血管叢も変性するが、その進行は深層叢で見られた速度よりも遅かった(図15、上部パネル)。rd1/rd1マウスと比較するために、正常マウスの網膜血管及び神経細胞層を示す(右パネル、図15)。
【0088】
rd1/rd1マウスにおける骨髄由来Lin−HSCの神経保護効果。
【0089】
硝子体内注入されたLin−HSCは、3つの血管叢全ての内部網膜脈管構造に取り入れられ、血管の変性を防御する。興味深いことに、注入された細胞は、外顆粒層では実質的に観察されない。これらの細胞は、形成中の網膜血管に取り入れられるか、又はこれらの血管の近接近部で観察される。変性の発症直前であるP6に、マウスLin−HSC(C3H/HeJ由来)をC3H/HeJ(rd1/rd1)マウスの眼に硝子体内注入した。P30までに、対照細胞(CD31−)を注入した眼は、典型的なrd1/rd1表現型を示し、つまり、調べた網膜全てにおいて深層血管叢及びONLがほぼ完全に変性していることが観察された。Lin−HSCを注入した眼は、正常と思われる中間及び深層血管叢を維持した。驚くべきことに、Lin−HSCを注入した眼の核間層(internuclear layer)(INL)及びONLにおいて、対照細胞を注入した眼よりも顕著に多くの細胞が見られた(図16A)。Lin−HSCのこの救出効果は、注入後2ヶ月において(図16B)観察することができ、注入後6ヶ月という長い期間にわたり観察された(図16C)。救出された眼と非救出の眼を比較した場合、Lin−HSC注入した眼の中間及び深層叢の脈管構造、ならびに神経細胞含有INL及びONLにおける差は、測定した全ての時点で有意であった(図16B及びC)。脈管構造の全長を測定し(図16D)、ONLで見られるDAPI−陽性細胞核の数を数える(図16E)ことにより、これらの効果を定量した。全ての時点のデータに対して単純線形回帰分析を行った。
【0090】
Lin−HSC注入した眼において、P30(p<0.024)及びP60(P<0.034)で、血管救出と神経(例えば、ONLの厚さ)救出との間に統計学的に有意な相関が見られた(図16F)。Lin−HSC注入した網膜を対照細胞を注入した網膜と比較した場合、P180において、相関性は依然として高かったが、統計学的に有意ではなかった(p<0.14)(図16F)。一方、対照細胞を注入した網膜は、あらゆる時点において、脈管構造とONLの保存との間に有意な相関がなかった(図16F)。これらのデータから、Lin−HSCの硝子体内注入の結果、rd1/rd1マウスの網膜において、網膜血管及び神経の両方が共に救出されることが示される。注入した細胞は、ONLにおいて、又は網膜血管内もしくはその非常に近い部分以外のあらゆる箇所において観察されなかった。
【0091】
Lin−HSC注入rd/rd網膜の機能的救出
対照細胞又はマウスLin−HSCの注入から2ヶ月後のマウスにおいて、網膜電図(ERG)を調べた(図17)。ERG記録後、血管及び神経救出が起こったことを確認するために、各眼について、免疫組織的及び顕微鏡分析を行った。処置を行い救出された眼、及び対照、非救出の眼からの代表的なERG記録から、救出された眼において、デジタル処理で差し引いたシグナル(処置−非処置の眼)が、8マイクロボルトから10マイクロボルトのオーダーの振幅で明瞭に検出可能なシグナルを生じたことが示される(図17)。明らかに、両方の眼からのシグナルは著しく異常である。しかし、Lin−HSC処理した眼から、一貫した検出可能なERGが記録可能であった。全ての場合において、対照眼からのERGは検出不可能であった。救出された眼におけるシグナルの振幅が正常よりも著しく低い一方で、組織学的な救出があり、それが遺伝子を利用した他の救出実験により報告されたものの規模のオーダーである場合は必ず、シグナルが一貫して観察された。全体的なこれらの結果から、本発明のLin−HSCで処置した眼において機能的な救出がある程度起こることが示される。
【0092】
ヒト骨髄(hBM)由来Lin−HSCも変性網膜を救出する。
【0093】
ヒト骨髄から単離されたLin−HSCは、マウスLin−HSCと同様に作用する。ヒト提供者から骨髄を回収し、Lin+HSCを消耗させ、ヒトLin−HSC(hLin−HSC)の集団を調製した。エクスビボにおいて、蛍光色素でこれらの細胞を標識し、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスの眼に注入した。注入したhLin−HSCは、マウスLin−HSCを注入した場合に観察されたものと同一のようにして網膜血管形成部位に移動し、この部位を標的とした(図18A)。血管標的化に加えて、ヒトLin−HSCはまた、rd1/rd1マウスの血管及び神経細胞層両方に強力な救出効果を与えた(図18B及び18C)。この観察から、ヒト骨髄において、網膜脈管構造を標的とし、網膜変性を防ぐことができる細胞の存在が確認される。
【0094】
Lin−HSCは、rd10/rd10マウスにおいて血管栄養及び神経栄養性効果を有する。
【0095】
rd1/rd1マウスは、最も広く使用され、特性が最も良く分かっている網膜変性のモデルである(Changら、2002、Vision Res.42:517−525)一方、その変性は非常に速く、この点で、ヒトの疾患で見られる、通常の、もっと速度の遅い経時変化とは異なっている。この系列において、光受容体細胞変性は、網膜脈管構造がまだ急速に広がっているP8の前後で始まる(図15)。中間叢が依然として形成中である間にも、次の深層網膜脈管構造の変性が起こり、従って、この疾患に罹患しているヒトの大多数で観察されるものとは異なり、rd1/rd1マウスの網膜は、完全に発生が完了することはない。変性が比較的ゆっくりと進行し、ヒトの網膜変性条件とより近い、rd10マウスモデルを使用して、Lin−HSCが介在する血管救出を調べた。rd10マウスにおいて、光受容体細胞変性はP21前後で始まり、血管変性がその少し後から始まる。
【0096】
正常な神経感覚の網膜発生はP21までにほぼ完了するので、網膜が分化を完了した後、変性の開始が観察されるが、これは、rd1/rd1マウスモデルよりも、ヒト網膜変性により近い。Lin−HSC又はrd10マウス由来の対照細胞をP6の眼に注入し、様々な時点でその網膜を評価した。P21において、Lin−HSC及び対照細胞注入した眼由来の網膜は両者とも、全血管層が完全に発達し、INL及びONLが正常に発達しており、正常であると思われた(図18D及び18H)。P21前後において網膜変性が始まり、時間とともに進行した。P30までに、対照細胞注入網膜は、重度の血管及び神経変性を示し(図18I)、一方で、Lin−HSC注入網膜は、ほぼ正常な血管層及び光受容体細胞を維持した(図18E)。救出された眼と非救出の眼との間の差は、さらに後の時点でさらに顕著となった(図18Fと18Gを18J及び18Kと比較。)。対照処置した眼において、CD31及びコラーゲンIVに対する免疫組織化学染色により血管変性の進行が非常に明らかに観察された(図18I−K)。対照処置した眼は、CD31についてはほぼ完全に陰性であり、一方コラーゲンIV陽性血管の「痕跡」がまだ明らかに残っており、このことから、不完全な血管形成というよりむしろ血管退化が起こったことが示される。一方、Lin−HSC処置眼には、正常な野生型の眼と非常に近いと思われるCD31及びコラーゲンIV陽性血管の両方があった(図18F及び18Iを比較)。
【0097】
Lin−HSC処置後のrd/rdマウス網膜の遺伝子発現解析
大規模ゲノミクス(マイクロアレイ分析)を使用して、神経栄養性救出を介在すると推定される介在物を同定するために、救出及び非救出網膜を分析した。Lin−HSCで処置したrd1/rd1マウス網膜における遺伝子発現を、非注入網膜ならびに対照細胞(CD31−)を注入した網膜と比較した。これらの比較は、それぞれについて3回繰り返して行った。存在するとみなすためには、遺伝子が3回の測定全てにおいてバックグラウンドレベルよりも少なくとも2倍高い発現レベルを有することを必要とした。対照細胞注入及び非注入rd/rdマウス網膜と比較して、Lin−HSC保護網膜において3倍上方制御された遺伝子を図20のパネルA及びBに示す。MAD及びYing Yang−1(YY−1)を含む、著しく上方制御された遺伝子の多くは、アポトーシスからの細胞保護に関連する機能を有するタンパク質をコードする。ストレスから細胞を保護することに関連する既知の熱ショックタンパク質と配列ホモロジー及び同様の機能を有するクリスタリン遺伝子の多くも、Lin−HSC処置網膜により上方制御されていた。α−クリスタリンの発現は、免疫組織化学解析によると、ONLに局在していた(図19)。
【0098】
ヒトLin−HSCで救出したrd1/rd1マウス網膜由来のメッセンジャーRNAをヒト特異的Affymetrix U133Aマイクロアレイチップにハイブリダイズさせた。ストリンジェンシーの高い解析の後、多くの遺伝子が、そのmRNA発現がヒト特異的であり、バックグラウンドより強く、マウスLin−HSC救出網膜及びヒト対照細胞を注入した非救出網膜と比較してヒトLin−HSC救出網膜において著しく高いことが分かった(図20、パネルC)。未発達の、及び新しく分化したCD34+造血幹細胞の表面で発現する細胞接着分子であるCD6及び、造血幹細胞により発現されるまた別の遺伝子であるインターフェロンα13共々、マイクロアレイバイオインフォマティクスにより見出され、このことから評価プロトコールが有効であることが分かる。さらに、いくつかの成長因子及び神経栄養因子がヒトLin−HSC救出マウス網膜試料により、バックグラウンドよりも強く発現されていた(図20、パネルD)。
【0099】
考察
系統に関連する造血細胞に対するマーカーを使用して、陰性であるものをEPCを含有する骨髄由来のLin−HSC集団として選択した。EPCとして働くことができる骨髄由来Lin−HSCのサブ集団は、一般に用いられる細胞表面マーカーよって特徴づけることができないが、発生過程の、又は損傷を受けた網膜脈管構造におけるこれらの細胞の挙動は、Lin+又は成体の内皮細胞集団で観察される挙動とは全く異なっている。これらの細胞は、網膜の血管新生部位を選択的に標的とし、開通血管の形成に寄与する。
【0100】
遺伝性の網膜変性疾患は網膜の脈管構造の消失を伴って起こることが多い。これらの疾患の効果的な治療では、複雑な組織の構造を維持することと同様に、機能の回復が必要とされる。最近のいくつかの研究では、栄養性因子を細胞を利用して輸送すること、又は幹細胞それ自身を使用することについて研究が行われてきたが、両者を何らかの形で組み合わせる必要があろう。例えば、網膜変性疾患を治療するために成長因子療法を使用した場合、結果として血管の無秩序な過剰増殖を引き起こし、正常な網膜組織の構造を著しく破壊することとなった。網膜変性疾患を治療するために神経又は網膜幹細胞を使用すると、神経機能を再構成し得るが、網膜機能を完全な状態に保つためには、機能的な脈管構造も必要となるであろう。本発明のLin−HSC由来の細胞がrd/rdマウス網膜の血管に取り込まれると、網膜の構造を破壊することなく、変性した脈管構造が安定化された。この救出効果は細胞をP15のrd/rdマウスに注入した場合にも観察された。血管の変性はrd/rdマウスにおいてP16から始まるので、この観察結果により、効果的なLin−HSC処理による治療時機が広がる。本発明のLin−HSCを注入した眼において、網膜のニューロン及び光受容体が保護され、視覚機能が維持される。
【0101】
成体骨髄由来Lin−HSCは、網膜変性疾患マウスに硝子体内注入されると、顕著な血管及び神経栄養性効果をもたらす。この救出効果は、最高で処置後6ヶ月続き、完全に網膜が変性する前にLin−HSCを注入した場合に最大の効果が得られる(通常、生後30日までに完全な網膜変性を示すマウスの場合、生後16日まで。)。この救出は、2種類の網膜変性マウスモデルにおいて観察され、レシピエントが網膜変性のある免疫不全げっ歯類(例えば、SCIDマウス)である場合、又は、ドナーが網膜変性マウスである場合、成人ヒト骨髄由来HSCで顕著に達成され得る。いくつかの最近の報告によれば、網膜変性のあるマウス又はイヌにおいて、野生型遺伝子によるウイルスを利用した遺伝子レスキュー後に、ある程度の表現型救出が起こる(Aliら、2000、Nat Genet 25:306−310;Takahashiら、1999、J.Virol.73:7812−7816;Aclandら、2001、Nat.Genet.28:92−95)という一方、本発明は、血管救出により達成された、一般的な細胞を利用した治療効果を示す最初のものである。従って、100以上の既知の関連突然変異による疾患(例えば網膜色素変性症)群の治療において、このような潜在能力のあるアプローチを利用することは、既知の突然変異それぞれに対する個々の遺伝子治療を行うよりも現実的である。
【0102】
神経栄養性救出効果の分子レベルの正確な原理は分かっていないが、血管安定/救出が相伴う場合のみ観察される。注入した幹細胞の存在それ自体は、神経栄養的な救出を行うには十分ではなく、外顆粒層に幹細胞由来のニューロンが明らかに存在しないことにより、注入された細胞が光受容体に形質転換されるという可能性は除外される。マイクロアレイ遺伝子発現分析により得られたデータから、抗アポトーシス効果を有することが知られている遺伝子が顕著に上方制御されることが示された。網膜変性において見られる神経細胞死のほとんどがアポトーシスによるものであるため、これらの疾患において、そのような保護効果は、視覚機能に重要な光受容体及び他のニューロンの寿命を延長する上で大きな治療的有用性を与え得る。C−mycは、様々な下流のアポトーシス誘発因子を上方制御することによりアポトーシスに関与する転写因子である。rd/rdマウスにおいて、C−myc発現が野生型よりも4.5倍増加していることから、rd1/rd1マウスにおいて見られる光受容体変性における関与の可能性が示される。Lin−HSCで保護された網膜において顕著に上方制御される(図20、パネルA)Mad1及びYY−1の2つの遺伝子は、c−mycの活性を抑制し、従ってc−myc誘発性アポトーシスを抑制することが知られている。Mad1の過剰発現により、また、別の不可欠なアポトーシス経路のコンポーネントであるカスパーゼ8のFas誘発性活性が抑制されることも示されている。これらの2種類の分子の上方制御は、rd/rdマウスにおいて通常変性へと導くアポトーシスの開始を防御することにより、血管及び神経変性から網膜を保護することに関与し得る。
【0103】
Lin−HSC保護された網膜において著しく上方制御される他の一連の遺伝子には、クリスタリンファミリーのメンバーが含まれる(図20、パネルB)。熱ショックタンパク質及び他のストレスにより誘発されるタンパク質と同様に、クリスタリンは、網膜ストレスにより活性化され、アポトーシスに対する保護効果を与え得る。αA−クリスタリンの発現が異常に低いことは、網膜萎縮のラットモデルにおける光受容体の損失と相関しており、rd/rdマウスにおける網膜の最近のプロテオミクス分析から、網膜変性に反応してクリスタリンの上方制御が誘発されることが示された。発明者らのEPC−救出rd/rdマウス網膜のマイクロアレイデータに基づくと、クリスタリンの上方制御は、EPC介在網膜神経保護において重要な役割を果たすと考えられる。
【0104】
c−myc、Mad1、Yx−1及びクリスタリンなどの遺伝子は、神経救出の下流の介在因子であると思われる。発明者らの、マウス幹細胞により救出された網膜のマイクロアレイ分析では、既知の神経栄養因子のレベル上昇の誘導が示されなかったが、神経栄養性物質は、抗アポトーシス遺伝子発現を調節することができる。一方、ヒト特異的なチップを用いたヒト骨髄由来幹細胞介在救出の分析から、複数の成長因子遺伝子の発現が、低いが顕著に上昇することが示される。
【0105】
上方制御される遺伝子には、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのいくつかのメンバー及びオトフェリン(Otoferlin)が含まれる。オトフェリン遺伝子における突然変異は、聴覚神経障害による難聴を引き起こす遺伝性疾患に関与する。注入したLin−HSCによるオトフェリン産生が、同様に網膜神経障害の予防にも寄与する可能性がある。組織学的に、網膜変性のある患者及び動物における血管の変化が、光受容体が死んだ際の代謝要求低下後の二次的なものであると長い間推測されてきた。今回のデータから、少なくとも遺伝性網膜変性のマウスに関しては、正常な脈管構造を保持することにより、同様に外顆粒層のコンポーネントの維持が促進され得ることが示される。最近の文献における報告により、組織特異的脈管構造が血管「栄養」を単純に与えることから予想されるものを超える栄養作用を有するという概念が支持されるであろう。例えば、生きている内皮細胞が、肝臓の損傷に際して、VEGFR1活性化後に、肝細胞の再生及び維持に不可欠な成長因子を産生するように誘導され得る(LeCouterら、2003、Science 299:890−893)。
【0106】
血管内皮細胞と近接した肝実質細胞との間で起こり得る同様の相互作用は、報告によると、機能的な血管形成のかなり前に肝臓器官形成に関与する。網膜変性のある個体の内因性の網膜脈管構造は救出をそれ程劇的に促進しないが、骨髄造血幹細胞集団由来の内皮前駆細胞によりこの脈管構造が強化される場合、それらにより、脈管構造が変性に対してより耐性を持つようになり、同時に、網膜神経細胞、ならびに血管の生き残りが促進され得る。網膜変性を有するヒトにおいて、完全な網膜変性の開始を遅らせることにより、失明に至るまでの時間を遅らせ得る。本発明のLin−HSCで処置した動物は、顕著にERGを維持し、それは、視力をサポートするのに十分であり得る。
【0107】
臨床的に、依然として機能的な視力を維持していながらも、光受容体及び他のニューロンがかなり失われているということが広く認められている。いくつかのポイントにおいて、重要な閾値が妨害され、視力が失われる。ヒト遺伝性網膜変性のほぼ全てが早期に始まるが、速度は遅いので、網膜変性を有する個人を同定し、自家骨髄幹細胞移植物を硝子体内注入して治療し、視力喪失を伴う網膜変性を遅らせることが可能であり得る。これらの幹細胞の標的化及び取り込みを促進するために、活性化された星状細胞が存在することが望ましい。関連するグリオーシスがある場合の早期治療により、又は、活性化星状細胞の局所的な増殖を刺激するためのレーザーの使用により、これを達成することができる。
【0108】
本発明のLin−HSC集団は、反応性星状細胞を標的とすることによって血管新生を促進でき、網膜構造を破壊することなく確立された鋳型に取り込まれ得るEPC集団を含有する。本発明のLin−HSCはまた網膜変性に罹患している眼において驚くべき長期間にわたり神経栄養性の救出効果を与える。さらに、遺伝的に修飾された、EPCを含有する自己由来のLin−HSC組成物は、虚血性の眼又は異常な血管形成が起きた眼に移植することが可能であり、新たな血管に安定に取り込まれて、局所的に長期間にわたり継続して治療のための分子を送達することができる。このように、生理学的に意味のある用量で薬理活性を示す物質を発現する遺伝子の局所的送達により、現在治療できない眼の疾患を治療するための新たな理論的枠組が得られる。
【0109】
本発明の新規特性の精神及び範囲から逸脱することなく、上述した実施形態の数多くの変更及び変形がなされ得る。本明細書中で説明した特定の実施形態は、非限定的なものであり、非限定的であると解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を示す。(a)第一叢の発生。(b)網膜での血管形成の第2段階。GCL、神経節細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;OPL、外網状層;ONL、外顆粒層;RPE、網膜色素上皮;ON、視神経;P、末梢。図1cは骨髄に由来するLin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーによる性質決定を表す。上列:抗体で標識されていない細胞のドットプロット分布。その中で、R1はPE染色陽性の定量可能なゲート領域を表しており、R2はGFP陽性を示している。中列:Lin−HSC(C57B/6)及び下列:Lin+HSC(C57B/6)細胞、それぞれの細胞系列は、PE結合した、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対する抗体で標識した。Tie−2のデータはTie−2−GFPマウスより得た。百分率は全Lin−HSC又はLin+HSC集団中における標識された陽性細胞の割合を示す。
【図1−1】図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を示す。(a)第一叢の発生。(b)網膜での血管形成の第2段階。GCL、神経節細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;OPL、外網状層;ONL、外顆粒層;RPE、網膜色素上皮;ON、視神経;P、末梢。図1cは骨髄に由来するLin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーによる性質決定を表す。上列:抗体で標識されていない細胞のドットプロット分布。その中で、R1はPE染色陽性の定量可能なゲート領域を表しており、R2はGFP陽性を示している。中列:Lin−HSC(C57B/6)及び下列:Lin+HSC(C57B/6)細胞、それぞれの細胞系列は、PE結合した、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対する抗体で標識した。Tie−2のデータはTie−2−GFPマウスより得た。百分率は全Lin−HSC又はLin+HSC集団中でにおける標識された陽性細胞の割合を示す。
【図2】図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin−HSCの移植を表す。(a)注入4日後(P6)において、硝子体内に注入されたeGFP+Lin−HSC細胞は網膜上に接着し分化する。(b)Lin−HSC(B6.129S7−Gtrosa26マウス、β−gal抗体で染色。)はコラーゲンIV抗体で染色される脈管構造の先端に定着する(星印は脈管構造の先端を示す)。(c)Lin+HSC細胞(eGFP+)の大部分は注入4日後(P6)の時点では分化できなかった。(d)注入4日後(P6)のeGFP+マウス腸間膜EC。(e)成体マウスの眼に注入されたLin−HSC(eGFP+)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスにおいて、すでに存在している星状細胞の鋳型に定着しそれに沿って分化しているeGFP+Lin−HSC(矢印)を低倍率で示す。(g)Lin−細胞(eGFP)とその下に存在する星状細胞(矢印)の関係を高倍率で示す。(h)対照となる非注入GFAP−GFPトランスジェニックマウス。(i)注入4日後(P6)、eGFP+Lin−HSCは、将来の深層叢となる領域に移動し分化する。左図はホールマウントの網膜におけるLin−HSC細胞の動きを捕らえている。右図は網膜(上は硝子体側、下は強膜側)内でのLin−細胞(矢印)の局在を示す。(j)αCD31−PE及びαGFP−alexa488抗体による二重染色。注入から7日後、注入されたLin−HSC(eGFP、赤)は血管構造(CD31)中に取り込まれた。矢印は取り込まれた領域を示している。(k)eGFP+Lin−HSC細胞は注入14日後(P17)に血管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心腔内注入により、第一叢(l)及び深層叢(m)の両者で血管が完全であり機能的であることが示される。
【図2−1】図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin−HSCの移植を表す。(a)注入4日後(P6)において、硝子体内に注入されたeGFP+Lin−HSC細胞は網膜上に接着し分化する。(b)Lin−HSC(B6.129S7−Gtrosa26マウス、β−gal抗体で染色。)はコラーゲンIV抗体で染色される脈管構造の先端に定着する(星印は脈管構造の先端を示す)。(c)Lin+HSC細胞(eGFP+)の大部分は注入4日後(P6)の時点では分化できなかった。(d)注入4日後(P6)のeGFP+マウス腸間膜EC。(e)成体マウスの眼に注入されたLin−HSC(eGFP+)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスにおいて、すでに存在している星状細胞の鋳型に定着しそれに沿って分化しているeGFP+Lin−HSC(矢印)を低倍率で示す。(g)Lin−細胞(eGFP)とその下に存在する星状細胞(矢印)の関係を高倍率で示す。(h)対照となる非注入GFAP−GFPトランスジェニックマウス。(i)注入4日後(P6)、eGFP+Lin−HSCは、将来の深層叢となる領域に移動し分化する。左図はホールマウントの網膜におけるLin−HSC細胞の動きを捕らえている。右図は網膜(上は硝子体側、下は強膜側)内でのLin−細胞(矢印)の局在を示す。(j)αCD31−PE及びαGFP−alexa488抗体による二重染色。注入から7日後、注入されたLin−HSC(eGFP、赤)は血管構造(CD31)中に取り込まれた。矢印は取り込まれた領域を示している。(k)eGFP+Lin−HSC細胞は注入14日後(P17)に血管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心腔内注入により、第一叢(l)及び深層叢(m)の両者で血管が完全であり機能的であることが示される。
【図3】図3(a及びb)は、レーザー(a)及び機械的方法(b)で成体網膜に誘発した傷害(*は傷害部位を示している。)によって誘導されるグリオーシス(GFAP発現星状細胞によって示される、最も左の像)にeGFP+Lin−HSC細胞が定着することを示す。最も右の画像はさらに高倍率であり、Lin−HSCと星状細胞との密接な関係を示している。目盛は20μMを示す。
【図4】図4は、網膜変性マウスにおいてLin−HSC細胞が脈管構造を救出することを示している。(a−d)コラーゲンIV染色した、注入から27日後(P33)の網膜。(a)及び(b)、Lin+HSC細胞(Balb/c)を注入された網膜の血管構造は正常FVBマウスと比較して相違がなかった;(c)及び(d)、Lin−HSC(Balb/c)を注入した網膜は野生型マウスに類似する密な血管ネットワークを示した;(a)及び(c)、DAPI染色したホールマウントの網膜(上は硝子体側、下は強膜側)の凍結切片;(b)及び(d)、ホールマウントの網膜の深層叢;(e)棒グラフは、深層の血管叢における血管分布の増加がLin−HSC細胞を注入された網膜(n=6)で起きたことを示している。深層網膜血管新生の程度はそれぞれの画像内での血管の全長を計算することにより定量化した。Lin−HSC、Lin+HSC又は対照の網膜について、高倍率の視野(μ単位)での血管の全長の平均を比較した。(f)rd/rdマウスから得たLin−HSC(R、右眼)又はLin+HSC(L、左眼)細胞を注入した後の深層血管叢の長さの比較。別個の6匹のマウスの結果を示す(各マウスごとに異なる色で表している)。(g)及び(h)Lin−HSC細胞(Balb/c)は、P15の眼に注入した場合でもrd/rdの脈管構造を救出した。Lin−HSC(G)又はLin+HSC(H)細胞を注入した網膜(注入後1ヶ月)の中間及び深層血管叢を示す。
【図5】図5はマウス網膜組織の顕微鏡写真を示す。(a)eGFP+Lin−HSC(灰色)を注入してから5日後(P11)の、ホールマウント試料の網膜(rd/rdマウス)の深層。(b)及び(c)P6にBalb/c Lin−細胞(b)又はLin+HSC細胞(c)を注入したTie−2−GFP(rd/rd)マウスのP60における網膜脈管構造。(b)及び(c)の左パネルにおいて、内因性の内皮細胞(GFP染色)のみが見られる。(b)及び(c)の中央のパネルは、CD31抗体で染色されており;矢印はCD31で染色されたがGFPでは染色されなかった血管を示し、(b)及び(c)の右パネルは、GFP及びCD31の両方による染色を示す。(d)Lin−HSCを注入された網膜(左パネル)及び対照網膜(右パネル)のαSMA染色。
【図6】図6は、T2−TrpRSトランスフェクションされたLin−HSCがマウス網膜脈管構造の発生を阻害することを示す。(a)ヒトTrpRS、T2−TrpRS及びアミノ末端にIgkシグナル配列を有するT2−TrpRSの概略図。(b)T2−TrpRSをトランスフェクションしたLin−HSC注入網膜は、インビボでT2−TrpRSタンパク質を発現する。(1)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(2)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(3)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(4)対照の網膜;(5)Lin−HSC+pSecTag2A(ベクターのみ)を注入した網膜;(6)Lin−HSC+pKLe135(pSecTag内にIgk−T2−TrpRSを有する。)を注入した網膜。(a)内因性TrpRS。(b)組み換えT2−TrpRS。(c)Lin−HSCを注入された網膜のT2−TrpRS。(c−f)注入7日後の注入網膜における、典型的な第一(表面上)及び第二(深層)叢。(c)及び(d)空のプラスミドをトランスフェクションしたLin−HSCを注入した眼は正常に発生した;(e)及び(f)T2−TrpRSをトランスフェクションしたLin−HSCを注入した眼の大部分では深層叢の阻害が見られた;(c)及び(e)第一(表面上)叢;(d)及び(f)第二(深層)叢。(f)で観察されるぼやけた血管の輪郭は、(e)で示される第一叢ネットワークの血管の「滲み出し(bleed−through)」像である。
【図7】図7はHis6−タグ付加T2−TrpRSをコードするDNA配列(配列番号1)を示す。
【図7−1】図7はHis6−タグ付加T2−TrpRSをコードするDNA配列(配列番号1)を示す。
【図8】図8はHis6−タグ付加T2−TrpRSのアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図9】図9は、本発明のLin−HSC及びLin+HSC(対照)を眼に注入したマウスから採取した網膜の顕微鏡写真及び網膜電図(ERG)を示す。
【図10】図10は、Lin−HSCで処理したrd/rdマウス眼の中間(Int.)及び深層の血管層における、神経の救出(y軸)と血管の救出(x軸)との間の相関を示す、統計プロットである。
【図11】図11は、Lin+HSCで処理したrd/rdマウス眼の神経の救出(y軸)と血管の救出(x軸)の間には相関が見られないことを示す、統計プロットである。
【図12】図12は、注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)時点における、Lin−HSC処理(黒い棒)及び未処理(白い棒)のrd/rdマウスの眼について、血管長(y軸)を任意の比較単位で表した棒グラフである。
【図13】図13は、注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)におけるrd/rdマウス外脳層(ONR)の核数を表す3つの棒グラフであり、Lin+HSC(白い棒)で処理した対照の眼と比較してLin−HSC(黒い棒)で処理した眼における核数が顕著に増加していることを示している。
【図14】図14は、左眼(L、Lin+HSCで処理した対照の眼)に対して、右眼(R、Lin−HSCで処理)を、(注入後)1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)の時点で比較し、個々のrd/rdマウスについて外脳層の核数をプロットしたものである。プロット中のそれぞれの線は個々のマウスの眼に対するものである。
【図15】図15は、rd1/rd1(CH3/HeJ、左パネル)又は野生型マウス(C57BL/6、右パネル)における、網膜の脈管構造及び神経細胞の変化を示す。同じ網膜の、ホールマウント網膜(赤:コラーゲンIV、緑:CD31)及び切片(赤:DAPI、緑:CD31、下方のパネル)における、中間(上方のパネル)又は深層(中央のパネル)血管叢の網膜脈管構造を示す(P:出生後日数)。(GCL:神経節細胞層、INL:核間層(inter nuclear layer)、ONL:外顆粒層)。
【図16】図16は、Lin−HSC注入が、rd1/rd1マウスにおいて神経細胞の変性を救出することを示す。A、B及びC:中間(int.)又は深層叢の網膜脈管構造及び、P30(A)、P60(B)及びP180(C)における、Lin−HSC注入した眼(右パネル)及び反対側の対照細胞を(CD31−)注入した眼(左パネル)の切片。D:P30(左、n=10)、P60(中央、n=10)及びP180(右、n=6)での、Lin−HSC注入又は対照細胞(CD31−)注入網膜における、脈管構造の平均全長(+又は−は平均の標準誤差)。中間(int.)及び深層叢のデータは別々に示す(Y軸:脈管構造の相対的長さ)。E、対照細胞(CD31−)又はLin−HSC注入網膜の、P30(左、n=10)、P60(中央、n=10)又はP180(右、n=6)におけるONLでの平均細胞核数(Y軸:ONLにおける相対的細胞核数)。F、P30(左)、P60(中央)又はP180(右)におけるLin−HSC注入又は対照細胞注入網膜の、脈管構造の長さ(X軸)とONLでの細胞核数(Y軸)との間の線形相関。
【図17】図17は、網膜機能がLin−HSC注入により救出されることを示している。網膜電図検査(ERG)記録を用いて、Lin−HSC又は対照細胞(CD31−)注入網膜の機能を測定した。A及びB、注入から2ヶ月後の、網膜が救出された場合及び救出されなかった場合の代表例。同一動物での、Lin−HSC注入した右目(A)及びCD31−対照細胞を注入した左目(B)の網膜切片を示す(緑:CD31染色脈管構造、赤:DAPI染色された核)。C、ERGは、A及びBで示された同一動物からの結果である。
【図18】図18は、ヒト骨髄細胞集団が、rd1マウスにおいて変性網膜を救出できることを示す(A−C)。網膜変性の別のモデル、rd10においても救出が観察される(D−K)。A、緑色の色素で標識したヒトLin−HSC(hLin−HSC)は、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスに硝子体注入された後、網膜の血管細胞に分化することができる。B及びC、注入から1.5ヶ月後の、hLin−HSC注入された眼(B)又は反対側の対照の眼(C)における、網膜脈管構造(左パネル;上部:中間叢、下方:深層叢)及び神経細胞(右パネル)。D−K、Lin−HSC(P6に注入)によるrd10マウスの救出。P21(D:Lin−HSC、H:対照細胞)、P30(E:Lin−HSC、I:対照細胞)、P60(F:Lin−HSC、J:対照細胞)及びP105(G:Lin−HSC、K:対照細胞)における代表的な網膜を示す(処理及び対照眼は、各時点の同一動物由来である。)。網膜脈管構造(各パネルの上方の像は、中間叢であり;各パネルの中央の像は、深層叢である。)を、CD31(緑)及びコラーゲンIV(赤)で染色した。各パネルの下方の像は、同じ網膜の横断面を示す(赤:DAPI、緑:CD31)。
【図19】図19は、Lin−HSCによる処置後、救出された外顆粒層細胞において、クリスタリンαAが上方制御されるが、対照細胞で処置した反対側の眼では上方制御が見られないことを示す。左パネル;救出された網膜におけるIgG対照、中央のパネル;救出された網膜におけるクリスタリンαA、右パネル;非救出網膜におけるクリスタリンαA。
【図20】図20は、本発明のLin−HSCで処置したマウス網膜において上方制御される遺伝子の表を含む。(A)マウスLin−HSCで処置したマウス網膜において発現が3倍上昇する遺伝子。(B)マウスLin−HSCで処置したマウス網膜において上方制御されるクリスタリン遺伝子。(C)ヒトLin−HSCで処置したマウス網膜において発現が2倍上昇する遺伝子。(D)ヒトLin−HSCで処置したマウス網膜において発現が上方制御される神経栄養因子又は成長因子の遺伝子。
【図21】図21は、CD133陽性(DC133+)及びCD133陰性(DC133−)の、本発明ヒトLin−HSC集団における、CD31及びインテグリンα6表面抗原の分布を説明する。
【図22】図22は、正常酸素レベル(normoxia)で飼育した野生型C57/B16マウスにおける、出生後P0からP30までの、出生後の網膜発生を説明する。
【図23】図23は、P7からP12の間、高酸素レベル(hyperoxia;75%酸素)で飼育し、その後、P12−P17は正常酸素レベルで飼育したC57/B16マウスにおける、酸素誘発性網膜症モデルを説明する。
【図24】図24は、酸素誘発性網膜症モデルにおける、本発明のLin−HSC集団を用いた治療による血管救出を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞と内皮前駆細胞とを包含する、単離された、哺乳動物の、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項2】
前記細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項3】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項4】
前記細胞の少なくとも約75%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項5】
前記細胞の少なくとも約50%が、インテグリンα6に対する表面抗原を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項6】
前記細胞が、成体骨髄由来である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項7】
前記細胞が、マウスの細胞である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項8】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD117を発現する、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項9】
前記細胞の少なくとも約65%が表面抗原CD117を発現する、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項10】
前記細胞の少なくとも約80%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約70%が表面抗原CD117を発現する、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項11】
前記細胞がヒトの細胞である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項12】
前記細胞がCD133陰性であり、前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項11に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項13】
前記細胞がCD133陽性であり、前記細胞の約30%未満がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の約30%未満が表面抗原CD31を発現する、請求項11に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項14】
細胞培養培地をさらに含む、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項15】
(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出する段階と、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離する段階と、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識する段階と、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収する段階と、
を含む、内皮前駆細胞を含有する、成体骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞集団を単離する方法。
【請求項16】
前記哺乳動物がマウスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物がマウスであり、前記単球が、段階(c)で、CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物がヒトである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳動物がヒトであり、前記単球が、段階(c)で、CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物がヒトであり、前記方法が、ビオチン結合CD133抗体で前記単球を標識する段階と、CD133陽性、系統陰性造血幹細胞の集団を回収する段階とをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記哺乳動物がヒトであり、前記方法が、ビオチン結合CD133抗体で前記単球を標識する段階と、CD133陽性細胞を除去する段階と、CD133陰性の系統陰性造血幹細胞の集団を回収する段階とをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、
によって得られ、内皮前駆細胞を含有し、前記細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する、単離された、哺乳動物の、成体骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項23】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項24】
前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項25】
前記哺乳動物がマウスであり、前記細胞の少なくとも約80%が表面抗原CD31細胞マーカーを発現し、前記細胞の少なくとも約70%が表面抗原CD117を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項26】
前記哺乳動物がマウスであり、前記細胞の少なくとも約50%から約85%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の約70%から約75%が表面抗原CD117を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項27】
前記哺乳動物がヒトであり、前記細胞がCD133陰性であり、前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項28】
前記哺乳動物がヒトであり、前記細胞がCD133陽性であり、前記細胞の約30%未満がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の約30%未満が表面抗原CD31を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項29】
前記細胞がマウス細胞であり、前記単球が、段階(c)で、CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項30】
前記細胞がヒト細胞であり、前記単球が、段階(c)で、CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項31】
眼に注入される細胞の種と同じ種の哺乳動物の骨髄から幹細胞を得て、網膜の新生血管形成が必要である哺乳動物の眼の中に、請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を硝子体内注入することを含む、哺乳動物の網膜の新生血管形成を促進する方法。
【請求項32】
前記幹細胞が、該幹細胞を眼に注入される哺乳動物の個体と同じ個体の骨髄由来である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳動物がマウスである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物がヒトである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
(a)眼疾患に罹患している哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を分離して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、により、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を前記哺乳動物の骨髄から単離することと、
続いて前記疾患の影響を改善するのに十分な数の前記単離された幹細胞を前記哺乳動物の眼の硝子体内に注入することと、を含む、哺乳動物における眼疾患を治療する方法。
【請求項36】
幹細胞の数が、前記哺乳動物の眼の網膜の損傷を修復するのに効果的である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
幹細胞の数が、前記哺乳動物の眼の網膜の新生脈管構造を安定化するのに効果的である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
幹細胞の数が、前記哺乳動物の眼の網膜の新生脈管構造を成熟させるのに効果的である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記疾患が網膜変性疾患である、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記疾患が網膜血管変性疾患である、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記疾患が虚血性網膜症である、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記疾患が血管からの出血である、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記疾患が血管からの漏出である、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
前記疾患が脈絡膜症である、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
前記疾患が加齢黄斑変性である、請求項35に記載の方法。
【請求項46】
前記疾患が糖尿病性網膜症である、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
前記疾患が推定眼ヒストプラスマ症である、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
前記哺乳動物が、新生児期の哺乳動物である、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
前記疾患が未熟児の網膜症である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記疾患が鎌状赤血球貧血である、請求項35に記載の方法。
【請求項51】
前記疾患が網膜色素変性症である、請求項35に記載の方法。
【請求項52】
治療上有用なペプチドを操作可能にコードする遺伝子を形質移入された、請求項1に記載の幹細胞集団を含む、形質移入された、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項53】
前記治療上有用なペプチドが抗血管新生ペプチドである、請求項52に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項54】
前記抗血管新生ペプチドがタンパク質断片である、請求項52に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項55】
前記タンパク質断片がTrpRSの抗血管新生断片である、請求項54に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項56】
前記TrpRSの断片がT2−TrpRSである、請求項45に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項57】
前記治療上有用なペプチドが、神経栄養性物質である、請求項52に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項58】
前記神経栄養性物質が、神経成長因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、ニューロトロフィン5、毛様体神経栄養因子、網膜色素上皮由来神経栄養因子、インスリン様成長因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子及び脳由来神経栄養因子からなる群から選択される、請求項57に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項59】
請求項53に記載の形質移入された幹細胞集団を前記哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において網膜の血管新生を阻害する方法。
【請求項60】
請求項57に記載の形質移入された幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において網膜神経変性を阻害する方法。
【請求項61】
(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を分離して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、
(e)段階(d)で回収された系統陰性造血幹細胞に、治療上有用なペプチドを操作可能にコードするポリヌクレオチドを形質移入することと、により調製される、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項62】
前記治療上有用なペプチドが、抗血管新生ペプチドである、請求項61に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項63】
前記治療上有用なペプチドが、神経栄養性物質である、請求項61に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項64】
請求項52に記載の形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の網膜脈管構造に導入遺伝子を送達する方法。
【請求項65】
請求項61に記載の形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の網膜脈管構造に導入遺伝子を送達する方法。
【請求項66】
形質移入された請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において神経ネットワークを救出する方法。
【請求項67】
形質移入された請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において血管を救出する方法。
【請求項68】
請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において抗アポトーシス遺伝子の上方制御を刺激する方法。
【請求項69】
請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において虚血組織を修復する方法。
【請求項70】
請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼における星状細胞を標的として、幹細胞を送達する方法。
【請求項71】
請求項52に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、哺乳動物の眼における星状細胞を標的として、導入遺伝子を送達する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞及び内皮前駆細胞の幹細胞集団を包み、前記幹細胞集団から得られる細胞が、治療上有用な、ヒトトリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)の抗血管新生タンパク質断片を発現する、形質移入された、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項2】
前記TrpRSの断片が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択される、請求項1に記載の、形質移入された幹細胞集団。
【請求項3】
前記細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項4】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項5】
前記細胞の少なくとも約75%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項6】
前記細胞の少なくとも約50%が、インテグリンα6に対する表面抗原を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項7】
前記細胞が、成体骨髄由来である、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項8】
前記細胞が、マウスの細胞である、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項9】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD117を発現する、請求項8に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項10】
前記細胞の少なくとも約65%が表面抗原CD117を発現する、請求項8に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項11】
前記細胞の少なくとも約80%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約70%が表面抗原CD117を発現する、請求項8に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項12】
前記細胞がヒトの細胞である、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項13】
前記細胞がCD133陰性であり、前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項12に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項14】
前記細胞がCD133陽性であり、前記細胞の約30%未満がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の約30%未満が表面抗原CD31を発現する、請求項12に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項15】
細胞培養培地をさらに含む、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項16】
前記細胞集団が、神経栄養性物質を操作可能にコードするDNAでさらに形質移入されている、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項17】
前記神経栄養性物質が、神経成長因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、ニューロトロフィン5、毛様体神経栄養因子、網膜色素上皮由来神経栄養因子、インスリン様成長因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子及び脳由来神経栄養因子からなる群から選択される、請求項16に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項18】
(a)眼疾患に罹患している哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を分離して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、
(e)段階(d)の回収された細胞集団に、ヒトトリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)の抗血管新生タンパク質断片を操作可能にコードする遺伝子を形質移入することと、及び
(f)続いて前記疾患の影響を改善するのに十分な量の、前記形質移入された細胞集団から得られる前記細胞を前記哺乳動物の眼の硝子体内に注入することと、
によって、内皮前駆細胞を含む、系統陰性の造血幹細胞集団を、前記哺乳動物の骨髄から単離することを含む、前記哺乳動物における眼疾患を治療する方法。
【請求項19】
前記TrpRSの断片が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患が、網膜変性疾患、網膜血管変性疾患、虚血性網膜症、血管からの出血、血管からの漏出、脈絡膜症、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、推定眼ヒストプラスマ症、未熟児網膜症、鎌状赤血球貧血及び色素性網膜炎からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の網膜脈管構造に導入遺伝子を送達する方法。
【請求項22】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において神経ネットワークを救出する方法。
【請求項24】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において血管を救出する方法。
【請求項26】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)、T2−TrpRS−GD(配列番号4)、ミニ−TrpRS(配列番号5)及びT1−TrpRS(配列番号6)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1に記載の、系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において抗アポトーシス遺伝子の上方制御を刺激する方法。
【請求項28】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1に記載の、系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼における星状細胞を標的として、TrpRSの抗血管新生タンパク質断片を送達する方法。
【請求項30】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項29に記載の方法。
【請求項1】
造血幹細胞と内皮前駆細胞とを包含する、単離された、哺乳動物の、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項2】
前記細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項3】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項4】
前記細胞の少なくとも約75%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項5】
前記細胞の少なくとも約50%が、インテグリンα6に対する表面抗原を発現する、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項6】
前記細胞が、成体骨髄由来である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項7】
前記細胞が、マウスの細胞である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項8】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD117を発現する、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項9】
前記細胞の少なくとも約65%が表面抗原CD117を発現する、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項10】
前記細胞の少なくとも約80%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約70%が表面抗原CD117を発現する、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項11】
前記細胞がヒトの細胞である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項12】
前記細胞がCD133陰性であり、前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項11に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項13】
前記細胞がCD133陽性であり、前記細胞の約30%未満がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の約30%未満が表面抗原CD31を発現する、請求項11に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項14】
細胞培養培地をさらに含む、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項15】
(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出する段階と、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離する段階と、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識する段階と、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収する段階と、
を含む、内皮前駆細胞を含有する、成体骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞集団を単離する方法。
【請求項16】
前記哺乳動物がマウスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物がマウスであり、前記単球が、段階(c)で、CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物がヒトである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳動物がヒトであり、前記単球が、段階(c)で、CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物がヒトであり、前記方法が、ビオチン結合CD133抗体で前記単球を標識する段階と、CD133陽性、系統陰性造血幹細胞の集団を回収する段階とをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記哺乳動物がヒトであり、前記方法が、ビオチン結合CD133抗体で前記単球を標識する段階と、CD133陽性細胞を除去する段階と、CD133陰性の系統陰性造血幹細胞の集団を回収する段階とをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、
によって得られ、内皮前駆細胞を含有し、前記細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する、単離された、哺乳動物の、成体骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項23】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項24】
前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項25】
前記哺乳動物がマウスであり、前記細胞の少なくとも約80%が表面抗原CD31細胞マーカーを発現し、前記細胞の少なくとも約70%が表面抗原CD117を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項26】
前記哺乳動物がマウスであり、前記細胞の少なくとも約50%から約85%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の約70%から約75%が表面抗原CD117を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項27】
前記哺乳動物がヒトであり、前記細胞がCD133陰性であり、前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項28】
前記哺乳動物がヒトであり、前記細胞がCD133陽性であり、前記細胞の約30%未満がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の約30%未満が表面抗原CD31を発現する、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項29】
前記細胞がマウス細胞であり、前記単球が、段階(c)で、CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項30】
前記細胞がヒト細胞であり、前記単球が、段階(c)で、CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で標識される、請求項22に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項31】
眼に注入される細胞の種と同じ種の哺乳動物の骨髄から幹細胞を得て、網膜の新生血管形成が必要である哺乳動物の眼の中に、請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を硝子体内注入することを含む、哺乳動物の網膜の新生血管形成を促進する方法。
【請求項32】
前記幹細胞が、該幹細胞を眼に注入される哺乳動物の個体と同じ個体の骨髄由来である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳動物がマウスである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物がヒトである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
(a)眼疾患に罹患している哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を分離して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、により、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を前記哺乳動物の骨髄から単離することと、
続いて前記疾患の影響を改善するのに十分な数の前記単離された幹細胞を前記哺乳動物の眼の硝子体内に注入することと、を含む、哺乳動物における眼疾患を治療する方法。
【請求項36】
幹細胞の数が、前記哺乳動物の眼の網膜の損傷を修復するのに効果的である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
幹細胞の数が、前記哺乳動物の眼の網膜の新生脈管構造を安定化するのに効果的である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
幹細胞の数が、前記哺乳動物の眼の網膜の新生脈管構造を成熟させるのに効果的である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記疾患が網膜変性疾患である、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記疾患が網膜血管変性疾患である、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記疾患が虚血性網膜症である、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記疾患が血管からの出血である、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記疾患が血管からの漏出である、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
前記疾患が脈絡膜症である、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
前記疾患が加齢黄斑変性である、請求項35に記載の方法。
【請求項46】
前記疾患が糖尿病性網膜症である、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
前記疾患が推定眼ヒストプラスマ症である、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
前記哺乳動物が、新生児期の哺乳動物である、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
前記疾患が未熟児の網膜症である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記疾患が鎌状赤血球貧血である、請求項35に記載の方法。
【請求項51】
前記疾患が網膜色素変性症である、請求項35に記載の方法。
【請求項52】
治療上有用なペプチドを操作可能にコードする遺伝子を形質移入された、請求項1に記載の幹細胞集団を含む、形質移入された、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項53】
前記治療上有用なペプチドが抗血管新生ペプチドである、請求項52に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項54】
前記抗血管新生ペプチドがタンパク質断片である、請求項52に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項55】
前記タンパク質断片がTrpRSの抗血管新生断片である、請求項54に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項56】
前記TrpRSの断片がT2−TrpRSである、請求項45に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項57】
前記治療上有用なペプチドが、神経栄養性物質である、請求項52に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項58】
前記神経栄養性物質が、神経成長因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、ニューロトロフィン5、毛様体神経栄養因子、網膜色素上皮由来神経栄養因子、インスリン様成長因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子及び脳由来神経栄養因子からなる群から選択される、請求項57に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項59】
請求項53に記載の形質移入された幹細胞集団を前記哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において網膜の血管新生を阻害する方法。
【請求項60】
請求項57に記載の形質移入された幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において網膜神経変性を阻害する方法。
【請求項61】
(a)成体哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を分離して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、
(e)段階(d)で回収された系統陰性造血幹細胞に、治療上有用なペプチドを操作可能にコードするポリヌクレオチドを形質移入することと、により調製される、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項62】
前記治療上有用なペプチドが、抗血管新生ペプチドである、請求項61に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項63】
前記治療上有用なペプチドが、神経栄養性物質である、請求項61に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項64】
請求項52に記載の形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の網膜脈管構造に導入遺伝子を送達する方法。
【請求項65】
請求項61に記載の形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の網膜脈管構造に導入遺伝子を送達する方法。
【請求項66】
形質移入された請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において神経ネットワークを救出する方法。
【請求項67】
形質移入された請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において血管を救出する方法。
【請求項68】
請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において抗アポトーシス遺伝子の上方制御を刺激する方法。
【請求項69】
請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において虚血組織を修復する方法。
【請求項70】
請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼における星状細胞を標的として、幹細胞を送達する方法。
【請求項71】
請求項52に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、哺乳動物の眼における星状細胞を標的として、導入遺伝子を送達する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞及び内皮前駆細胞の幹細胞集団を包み、前記幹細胞集団から得られる細胞が、治療上有用な、ヒトトリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)の抗血管新生タンパク質断片を発現する、形質移入された、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項2】
前記TrpRSの断片が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択される、請求項1に記載の、形質移入された幹細胞集団。
【請求項3】
前記細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項4】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項5】
前記細胞の少なくとも約75%が表面抗原CD31を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項6】
前記細胞の少なくとも約50%が、インテグリンα6に対する表面抗原を発現する、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項7】
前記細胞が、成体骨髄由来である、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項8】
前記細胞が、マウスの細胞である、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項9】
前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD117を発現する、請求項8に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項10】
前記細胞の少なくとも約65%が表面抗原CD117を発現する、請求項8に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項11】
前記細胞の少なくとも約80%が表面抗原CD31を発現し、前記細胞の少なくとも約70%が表面抗原CD117を発現する、請求項8に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項12】
前記細胞がヒトの細胞である、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項13】
前記細胞がCD133陰性であり、前記細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現する、請求項12に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項14】
前記細胞がCD133陽性であり、前記細胞の約30%未満がインテグリンα6に対する表面抗原を発現し、前記細胞の約30%未満が表面抗原CD31を発現する、請求項12に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項15】
細胞培養培地をさらに含む、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項16】
前記細胞集団が、神経栄養性物質を操作可能にコードするDNAでさらに形質移入されている、請求項1に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項17】
前記神経栄養性物質が、神経成長因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、ニューロトロフィン5、毛様体神経栄養因子、網膜色素上皮由来神経栄養因子、インスリン様成長因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子及び脳由来神経栄養因子からなる群から選択される、請求項16に記載の形質移入された幹細胞集団。
【請求項18】
(a)眼疾患に罹患している哺乳動物から骨髄を抽出することと、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離することと、
(c)CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235aからなる群から選択される1つ又は複数の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識することと、
(d)前記複数の単球から前記1つ又は複数の系統表面抗原に対して陽性である単球を分離して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を回収することと、
(e)段階(d)の回収された細胞集団に、ヒトトリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)の抗血管新生タンパク質断片を操作可能にコードする遺伝子を形質移入することと、及び
(f)続いて前記疾患の影響を改善するのに十分な量の、前記形質移入された細胞集団から得られる前記細胞を前記哺乳動物の眼の硝子体内に注入することと、
によって、内皮前駆細胞を含む、系統陰性の造血幹細胞集団を、前記哺乳動物の骨髄から単離することを含む、前記哺乳動物における眼疾患を治療する方法。
【請求項19】
前記TrpRSの断片が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患が、網膜変性疾患、網膜血管変性疾患、虚血性網膜症、血管からの出血、血管からの漏出、脈絡膜症、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、推定眼ヒストプラスマ症、未熟児網膜症、鎌状赤血球貧血及び色素性網膜炎からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の網膜脈管構造に導入遺伝子を送達する方法。
【請求項22】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において神経ネットワークを救出する方法。
【請求項24】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の、形質移入された系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において血管を救出する方法。
【請求項26】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)、T2−TrpRS−GD(配列番号4)、ミニ−TrpRS(配列番号5)及びT1−TrpRS(配列番号6)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1に記載の、系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼において抗アポトーシス遺伝子の上方制御を刺激する方法。
【請求項28】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1に記載の、系統陰性の造血幹細胞集団を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む、前記哺乳動物の眼における星状細胞を標的として、TrpRSの抗血管新生タンパク質断片を送達する方法。
【請求項30】
前記形質移入された幹細胞集団が、T2−TrpRS(配列番号3)及びT2−TrpRS−GD(配列番号4)からなる群から選択されるTrpRSの断片を発現する、請求項29に記載の方法。
【図1】
【図1−1】
【図2】
【図2−1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7−1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図1−1】
【図2】
【図2−1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7−1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2006−166918(P2006−166918A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373996(P2005−373996)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【分割の表示】特願2006−513372(P2006−513372)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【分割の表示】特願2006−513372(P2006−513372)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】
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