説明

造血系疾患の治療用製剤

本発明は、滑膜細胞蛋白質として単離が報告されているシノビリオンおよびその遺伝子を有効成分とした造血系疾患の治療用製剤および当該蛋白質またはポリヌクレオチドを投与することを含む治療方法等を提供する。さらには、本発明は、シノビオリンをホモで欠損した動物および該動物由来の細胞を造血系疾患のモデルとして提供するとともに、本モデルを用いた造血系疾患治療剤のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、滑膜細胞蛋白質として単離されたシノビリオンおよびその遺伝子の利用に関し、具体的には造血系疾患の治療用製剤および治療方法等への利用に関する。
【背景技術】
小胞体(ER)における蛋白質の品質管理、および核における蛋白質量の転写調節は、細胞の恒常性を維持する重要な過程である(Hampton,R.Y.2002.ER−associated degradation in protein quality control and cellular regulation.Curr.Opin.Cell Biol.14:476−482.)。真核細胞では、新たに合成される蛋白質はERに輸送され、そこで正しくフォールディングされる。しかし、大量の蛋白質がERに流入するなどの様々な環境条件により、この問題を克服するため、蛋白質のアンフォールディング応答(URP)と称される細胞応答が引き起こされる(Welihinda,A.A.,Tirasophon,W.,and Kaufman,R.J.1999.The cellular response to protein misfolding in the endoplasmic reticulum.Gene Expr.7:293−300.)。URP応答中は、真核生物開始因子(eIF)2αの不活化により新たな蛋白質の合成が全体的に阻害されて、ERではミスフォールディングした蛋白質のさらなる蓄積が減少し、またBip/Grp78およびGrp94を含むERシャペロン蛋白質をコードする遺伝子が上方制御されて、ミスフォールディングした蛋白質が正しくリフォールディングされる(Ron,D.2002.Translational control in the endoplasmic reticulum stress response.J.Clin.Invest.110:1383−1388.)。URPにもかかわらず、ミスフォールディングした蛋白質の量が蛋白質のフォールディング能力を超える場合には、ミスフォールディングした蛋白質は、ER関連分解(ERAD)として知られるユビキチンおよびプロテアソーム依存性分解過程により除去されなければならない(前掲Hampton,2002)。ER内のミスフォールディングした蛋白質はサイトゾルに移行し、そこでユビキチンリガーゼ酵素により26Sプロテアソームの標的とされる。哺乳動物細胞のERAD系においては、CHIP(Hsc70のC末端相互作用蛋白質)(Ballinger,C.A.,Connell,P.,Wu,Y.,Hu,Z.,Thompson,L.J.,Yin,L.Y.,and Patterson,C.1999.Identification of CHIP,a novel tetratricopeptide repeat−containing protein that interacts with heat shock proteins and negatively regulates chaperone functions.Mol.Cell Biol.19:4535−4545.;Meacham,G.C.,Patterson,C.,Zhang,W.,Younger,J.M.,and Cyr,D.M.2001.The Hsc70 co−chaperone CHIP targets immature CFTR for proteasomal degradation.Nat.Cell Biol.3:100−105.;Imai,Y.,Soda,M.,Inoue,H.,Hattori,N.,Mizuno,Y.,and Takahashi,R.2001.An Unfolded Putative Transmembrane Polypeptide,which Can Lead Endoplasmic Reticulum Stress,Is a Substrate of Parkin.Cell 105:891−902)、パーキン(Im Imai,Y.,Soda,M.,Hatakeyama,S.,Akagi,T.,Hashikawa,T.,Nakayama,K.I.,and Takahashi,R.2002.CHIP is associated with Parkin,a gene responsible for familial Parkinson’s disease,and enhances its ubiquitin ligase activity.Mol.Cell 10:55−67)、gp78/AMFR(Shimizu,K.,Tani,M.,Watanabe,H.,Nagamachi,Y.,Niinaka,Y.,Shiroishi,T.,Ohwada,S.,Raz,A.,and Yokota,J.1999.The autocrine motility factor receptor gene encodes a novel type of seven transmembrane protein.FEBS Lett.456:295−300.;Fang,S.,Ferrone,M.,Yang,C.,Jensen,J.P.,Tiwari,S.,and Weissman,A.M.2001.The tumor autocrine motility factor receptor,gp78,is a ubiquitin protein ligase implicated in degradation from the endoplasmic reticulum.Proc.Natl.Acad Sci.U.S.A.98:14422−14427)、およびFbx2/FBG1/NFB42(Yoshida,Y.,Chiba,T.,Tokunaga,F.,Kawasaki,H.,Iwai,K.,Suzuki,T.,Ito,Y.,Matsuoka,K.,Yoshida,M.,Tanaka,K.,and Tai,T.2002.E3 ubiquitin ligase that recognizes sugar chains.Nature 418:438−442)を含む様々なユビキチンリガーゼが報告されており、ERにおいてERAD系を制御する正確な機構を決定するため現在詳細な研究が行われている。
ERAD系は、産生されるミスフォールディングした蛋白質の量を除去するため、細胞増殖中、恒常的に機能することが報告されている (Travers,K.J.,Patil,C.K.,Wodicka,L.,Lockhart,D.J.,Weissman,J.S.,and Walter,P.2000.Functional and genomic analyses reveal an essential coordination between the unfolded protein response and ER−associated degradation.Cell 101:249−258.)。最近の研究により、UPRおよび/またはERAD系の機能破壊が、ERにおける適切な蛋白質フォールディングを妨げることが知られている(Lee,A.S.2001.The glucose−regulated proteins:stress induction and clinical applications.Trends Biochem.Sci.26:504−510.)あるERストレス誘導性化学物質で処理した細胞のカスパーゼ依存性アポトーシスを亢進し得ることが示された(Nakagawa,T.,Zhu,H.,Morishima,N.,Li,E.,Xu,J.,Yankner,B.A.,and Yuan,J.2000.Caspase−12 mediates endoplasmic−reticulum−specific apoptosis and cytotoxicity by amyloid−beta.Nature 403:98−103.)。これらの結果は、ERAD系の破壊に起因するある種のヒト疾患の分子論的病原機構を説明し得る。例えば、伸長したポリグルタミンの産生によりある遺伝性神経変性障害が生じ(Jana,N.R.,Zemskov,E.A.,Wang,G.h.,and Nukina,N.2001.Altered proteasomal function due to the expression of polyglutamineexpanded truncated N−terminal huntingtin induces apoptosis by caspase activation through mitochondrial cytochrome c release.Hum.Mol.Genet.10:1049−1059.;Bence,N.F.,Sampat,R.M.,and Kopito,R.R.2001.Impairment of the ubiquitin−proteasome system by protein aggregation.Science 292:1552−1555.;Hirabayashi,M., Inoue,K.,Tanaka,K.,Nakadate,K.,Ohsawa,Y.,Kamei,Y.,Popiel,A.H.,Sinohara,A.,Iwamatsu,A.,Kimura,Y.,Uchiyama,Y.,Hori,S.,and Kakizuka,A.2001.VCP/p97 in abnormal protein aggregates,cytoplasmic vacuoles,and cell death,phenotypes relevant to neurodegeneration.Cell Death.Differ.8:977−984.)、またはERAD系の有名なユビキチンリガーゼ蛋白質であるパーキン遺伝子の変異は、常染色体劣性若年性パーキンソニズム(AR−JP)を有する患者において黒質の神経細胞死を生じると考えられている(Imai,Y.,Soda,M.,and Takahashi,R.2000.Parkin suppresses unfolded protein stress−induced cell death through its E3 ubiquitin−protein ligase activity.J.Biol.Chem.275:35661−35664.)。これらの知見は、生理的および病的状態での細胞生存におけるERAD系の重要性を強調するものである。
最近、我々は、抗滑膜細胞抗体を用いた免疫スクリーニングにより、RING−H2モチーフを有するER常在性膜蛋白質である酵母ユビキチンリガーゼ(E3)Hrd1p/Del3(Bays,N.W.,Gardner,R.G.,Seelig,L.P.,Joazeiro,C.A.,and Hampton,R.Y.2001.Hrd1p/Der3p is a membrane−anchored ubiquitin ligase required for ER−associated degradation.Nat.Cell Biol.3:24−29.)のヒト相同体であるシノビオリン/HRD1(以下、略して「シノビオリン」という)をクローニングした。
上述の通り抗滑膜細胞抗体を用いた免疫スクリーニングから得られたということは、シノビオリンが関節リウマチ(以下、「RA」と略す)の発症に深く関与することを示唆するものである。また、実際に変形性関節症患者の滑膜組織ではシノビオリンはほとんど発現していないにもかかわらず、RA患者の滑膜組織では強く発現していることが明らかとなっている。また、このシノビオリン遺伝子を過剰発現させたマウスでは滑膜増生、骨・軟骨破壊を伴うリウマチ様症状を呈することも報告されており、シノビオリンとRAの関与を裏付ける結果となっている。
一方、シノビオリンのyeast homologのHrd1pは、虚血、低酸素、熱ショック、アミノ酸飢餓、ウイルス感染、小胞体内腔のカルシウム濃度低下などといったストレスにより小胞体内で生じ蓄積した異常構造蛋白質を除去し、小胞体の破綻を回避する分子の1つとして知られている。この小胞体ストレス応答機構としては、▲1▼小胞体内シャペロン分子やフォールディング酵素の転写誘導、▲2▼蛋白質の翻訳抑制、▲3▼ユビキチン・プロテアソーム系による異常蛋白質の積極的分解の3つがあり、通常▲1▼▲2▼をあわせてUPR(unfolded protein response)、▲3▼をERAD(endoplasmic reticulum−associated degradation)と呼び、yeast Hrd1pは▲3▼のERADに関与する。このような危機管理機構であるUPRやERADをもっても対処できない過度のストレスを受けると、細胞は自らアポトーシスを選ぶこととなり、またERADの破綻も同様にしてアポトーシスを誘導する結果となる。
同様にシノビオリンは、E3活性を持つこと、また細胞内においてはERで発現がみられることから、yeast Hrd1pと同様にERADに関与し小胞体ストレス応答機構の一端を担っている。
【発明の開示】
本願発明者らは上述のように小胞体ストレス応答機構のうちERADに関与し、品質管理リガーゼとして機能していると考えられているシノビオリンのノックアウトマウスを作成し、その生体内における機能を解明することを試みた。
解析の結果、シノビオリンノックアウトマウスはE12.5−E13.5で胎生致死となった。この原因を探るために胎仔の組織を詳細に調べたところ、肝臓でのアポトーシスが亢進し、これにより細胞密度低下が起こっていることが明らかとなった。数多く存在するユビキチンリガーゼの1つであるシノビオリンの機能を欠損させることが、マウスの発生段階における致死性をもたらしたことは非常に驚くべきことであり、このことはこれまでに予期することのなかった全く新しい知見となった。そこで、このシノビオリンノックアウトマウスについてさらなる検討を進めた結果、このマウスでは造血系において異常が認められ、またマクロファージが活性化され血球貪食が増加していることが明らかとなった。つまり、シノビオリンノックアウトマウスで亢進したアポトーシスは、その結果の1つとして赤芽球分化異常をもたらし、これにより増加した異常な赤芽球を排除するためにマクロファージが活性化され、血球数の減少により貧血を引き起こし、この時期に致死となることが証明された。またこのアポトーシスの亢進は胎仔由来の線維芽細胞(以下「MEFs」と略す)を用いた検討から、予測した通り小胞体ストレスによって誘導されたものであることも明らかとなっている。この結果は、換言すればマウスの発生において小胞体ストレスが二次造血の場で強く負荷されていることを示唆するものであり、またERADの破綻がマウスへの致死性をもたらすというこれまでにない全く新しい知見となっている。また先に述べたように、ERADにおいてはユビキチンリガーゼのなかでもこのシノビオリンという因子が特に重要な役割を果たすことが本研究によりはじめて明らかとなった。
これまでに我々はRAの発症にシノビオリンが関与するという報告もしており、ERADにおいて主要な役割を担っているシノビオリンの機能を標的とすることで、この疾患への治療が可能になるものと考えられる。また造血系疾患およびRAのみならず、小胞体ストレス誘導性のアポトーシスに関連した疾患への治療などといった効果も予測され、本研究が新たな創薬開発への足がかりとなることが期待される。
上記知見に基づき本発明は、以下に示す造血系疾患の治療用薬剤および治療方法、さらには造血系疾患の治療用薬剤のスクリーニング方法を提供する。
[1]以下の(a)−(d)からなる群から選択されるいずれかの蛋白質またはそれをコードするポリヌクレオチドを投与する工程を含む、造血系疾患の治療方法。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
[2]造血系疾患が、赤芽球の分化異常に起因する疾患である上記[1]に記載の方法。
[3]前記ポリヌクレオチドを発現可能に保持したベクターを、造血幹細胞に導入する工程を含む、上記[1]に記載の方法。
[4]造血幹細胞において、以下の(a)−(d)からなる群から選択されるいずれかの蛋白質を発現させる工程を含む、赤芽球を分化させるための方法。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
[5]以下の(a)−(d)からなる群から選択されるいずれかの蛋白質またはそれをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含有する、造血系疾患の治療用医薬製剤。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
[6]前記ポリヌクレオチドを発現可能に保持した造血幹細胞である、上記[5]に記載の医薬製剤。
[7]配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の活性増強剤を投与する工程を含む、造血系疾患の治療方法。
[8]配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の活性増強剤を有効成分として含有する、造血系疾患の治療剤。
[9]シノビオリン遺伝子機能が欠損している、造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
[10]非ヒト動物がげっ歯目動物である、上記[9]記載の造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
[11]げっ歯目動物がマウスである、上記[10]記載の造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
[12]13.5日齢以前の胎仔である、上記[11]記載の造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
[13]造血系疾患が赤芽球の分化異常に起因する疾患である、上記[9]記載の造血系疾患モデル非ヒト動物。
[14]上記[9]から[13]のいずれかに記載の造血系疾患モデル動物胎仔由来の造血系疾患モデル細胞。
[15]線維芽細胞である、上記[14]記載の造血系疾患モデル細胞。
[16]シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔に被験物質を投与し、該非ヒト動物胎仔における赤芽球の状態を評価する、造血系疾患の治療剤のスクリーニング方法。
[17]以下(a)から(c)の工程を含む、造血系疾患の治療剤のスクリーニング方法。
(a)シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔または当該胎仔由来細胞にERストレス誘導剤を投与または接触させる工程、
(b)上記(a)工程の前後又は同時に前記シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔または前記胎仔由来細胞に被験物質を投与または接触させる工程、
(c)前記非ヒト動物胎仔または胎仔由来細胞におけるアポトーシスが誘導された細胞を測定する工程
[18]以下(a)から(c)の工程を含む、ERストレス除去剤のスクリーニング方法。
(a)内在シノビオリン遺伝子機能が欠損している細胞にERストレス誘導剤を作用させる工程、
(b)上記(a)工程の前後又は同時に前記細胞に被験物質を接触させる工程、
(c)前記細胞におけるアポトーシスが誘導された細胞を測定する
本発明は第一に、シノビオリン蛋白質またはそれをコードしたポリヌクレオチドを利用した造血系疾患の治療方法を提供する。シノビオリンノックアウトマウスを用いた研究からシノビオリンが造血、特に赤芽球の分化過程に関与することが示されている。そのため本発明の方法は、造血系疾患、特に赤芽球の分化過程の異常が原因となる疾患、例えば、貧血の有効な治療方法となり得る。
本発明の方法に用いることができるシノビオリン蛋白質として、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質を先ず挙げることができる。この蛋白質は、配列番号:1に示す塩基配列の蛋白質コード領域にコードされる。シノビオリンをコードするポリヌクレオチドは、公知の方法によりクローニングすることができる(Nucleic Acid Res.16:7583−7600,1988)。シノビオリンはRA患者の滑膜細胞において強く発現していることを本願発明者が見出していることから、RA患者の関節炎を発症した組織に由来する滑膜細胞から抽出したmRNAをもとに得られたcDNAライブラリーから(Nucleic Acid Research,16,7583,1988)、配列番号:1に示した塩基配列に基づいて設定したプローブを用いて、ハイブリダイズするクローンをスクリーニングすることによってシノビオリン遺伝子を単離することができる。シノビオリン蛋白質は、RA患者の滑膜細胞からシノビオリン抗体やリガンド(SL(S1−5)など)などのシノビオリンと親和性を有する物質(Lecka−Czernik,B.et al.,Mol.Cell.Biol.15,120−128,1995;Heon,E.et al.,Arch.Ophthalmol.114,193−198,1996;Ikegawa,S.et al.,Genomics 35,590−592,1996;Katsanis,N.et al.,Hum.Genet.106,66−72,2000;Giltay,R.et al.,Matrix Biol.18,469−480,1999;Stone,E.M.et al.,Nat.Genet.22,199−202,1999)を用いて単離・精製してもよく、また、配列番号1記載の塩基配列を発現ベクターなどに接続し、適当な宿主細胞内で発現させることにより合成してもよい。
また、本発明では上述した配列番号2に記載の配列からなるシノビリオン蛋白質に限定されず、これと機能的に同等な蛋白質も含まれる。シノビオリン蛋白質の機能として、本発明ではERストレスによる造血系細胞のアポトーシスを回避させ得る機能を有していればよい。
シノビオリンと機能的に同等な蛋白質としては、(1)上述した配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する蛋白質、(2)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされた蛋白質、(3)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされた蛋白質、が挙げられる。
これらシノビオリンと機能的に同等な蛋白質と配列番号2に記載のシノビオリン蛋白質との間の非相同なアミノ酸の数は、一般的には50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1アミノ酸)であると考えられる。
シノビオリンと機能的に同等な蛋白質を得るためにアミノ酸を人為的に置換する場合、性質の似たアミノ酸に置換すれば、もとの蛋白質の活性が維持されやすいと考えられる。保存的置換は、蛋白質の活性に重要なドメインのアミノ酸を置換する場合などにおいて重要であると考えられる。このようなアミノ酸の保存的置換は、当業者にはよく知られている。
保存的置換に相当するアミノ酸のグループとしては、例えば、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族アミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などが挙げられる。
また、非保存的置換により蛋白質の活性などをより上昇(例えば恒常的活性化型蛋白質などを含む)または下降させることも考えられる。活性が低下しても造血系細胞におけるアポトーシスをレスキューし得る活性を有する限り、機能的に同等な蛋白質に含まれる。
シノビオリンと機能的に同等な蛋白質を得る方法として、ハイブリダイゼーションを利用する方法を挙げることができる。すなわち、配列番号:1に示すような本発明によるシノビオリンをコードするポリヌクレオチド、あるいはその断片をプローブとし、これとハイブリダイズするポリヌクレオチドを単離する。ハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で実施すれば、塩基配列としては相同性の高いポリヌクレオチドが選択され、その結果として単離される蛋白質にはシノビオリンと機能的に同等な蛋白質が含まれる可能性が高まる。相同性の高い塩基配列とは、たとえば70%以上、望ましくは90%以上の同一性を示すことができる。
上記ストリンジェントな条件とは、具体的には例えば6×SSC、40%ホルムアミド、25℃でのハイブリダイゼーションと、1×SSC、55℃での洗浄といった条件を示すことができる。ストリンジェンシーは、塩濃度、ホルムアミドの濃度、あるいは温度といった条件に左右されるが、当業者であればこれらの条件を必要なストリンジェンシーを得られるように設定することは自明である。
ハイブリダイゼーションを利用することによって、たとえばヒト以外の動物種におけるシノビオリンのホモログをコードするポリヌクレオチドの単離が可能である。ヒト以外の動物種、すなわちマウス、ラット、ウサギ、ブタ、あるいはヤギ等の動物種から得ることができるポリヌクレオチドがコードするシノビオリンのホモログは、本発明における機能的に同等な蛋白質を構成する。
実際に本発明者らは、本発明のシノビオリン遺伝子を複数の個体からクローニングし、その塩基配列を決定することによって、1アミノ酸を欠失したクローンを得ている。このようなアミノ酸配列に変異を含む蛋白質、並びにそれをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドは、本発明にシノビオリンと機能的に同等な蛋白質またはこれをコードしたポリヌクレオチドに含まれる。なお、本発明者らが確認した1アミノ酸を欠失したクローンの塩基配列を配列番号:3に、そしてこの塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号:4に示した。配列番号:3の塩基配列は、配列番号:1における1293−1295に相当するgcaを欠損している。その結果、配列番号:4に記載のアミノ酸配列は、配列番号:2における412位のAlaを欠損している。
ヒトシノビオリン(配列番号:2)に変異を導入して得た蛋白質や、上記のようなハイブリダイゼーション技術等を利用して単離されるポリヌクレオチドがコードする蛋白質は、通常、ヒトシノビオリン(配列番号:2)とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を指す。塩基配列やアミノ酸配列の同一性は、インターネットを利用したホモロジー検索サイトを利用して行うことができる[例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)において、FASTA、BLAST、PSI−BLAST、およびSSEARCH等の相同性検索が利用できる[例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)のウェブサイトの相同性検索(Search and Analysis)のページ;http://www.ddbj.nig.ac.jp/E−mail/homology−j.html]。また、National Center for Biotechnology Information(NCBI)において、BLASTを用いた検索を行うことができる(例えばNCBIのホームページのウェブサイトのBLASTのページ;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/;Altschul,S.F.et al.,J.Mol.Biol.,1990,215(3):403−10;Altschul,S.F.& Gish,W.,Meth.Enzymol.,1996,266:460−480;Altschul,S.F.et al.,Nucleic Acids Res.,1997,25:3389−3402)]。
例えばAdvanced BLAST2.1におけるアミノ酸配列の同一性の算出は、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、およびLambda ratioをそれぞれ11、1、0.85(デフォルト値)に設定して検索を行い、同一性(identity)の値(%)を得ることができる(Karlin,S.and S.F.Altschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−68;Karlin,S.and S.F.Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−7)。
上述したシノビオリンと機能的に同等な蛋白質が、実際にシノビオリンと同等な機能を有するかを確認する方法としては、本願実施例に示す相補実験が挙げられる。具体的には、シノビオリンホモノックアウト胎仔由来のMEFsをERストレス剤で処理し、上述した機能的に同等な蛋白質をコードするDNAを投与し、ERストレス剤によるアポトーシス誘導が抑制されるかを指標として、機能的に同等であるかを確認することができる。
本発明の造血系疾患の治療方法では、シノビオリンまたはこれと機能的に同等な蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを用いることができる。ポリヌクレオチドは、その由来を問わない。すなわち、cDNA、ゲノムDNAのほか、合成によって得ることもできる。上記ポリヌクレオチドを治療に用いる場合、遺伝子治療用ベクター、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどに組み込んでもよい。
これらの蛋白質またはポリヌクレオチドを用いて造血系疾患の治療を行う場合、上記蛋白質またはポリヌクレオチドを直接患者に投与しもよいが、好ましくはポリヌクレオチドを造血幹細胞へ導入し、ポリヌクレオチドを安定に保持した造血幹細胞を選択して患者に移植することである。造血幹細胞へのポリヌクレオチドの導入の際、ポリヌクレオチドは上述のように遺伝子治療用ベクターなどに保持させてもよい。
また、これら蛋白質またはポリヌクレオチドを用いて造血系疾患の治療を行う場合、上記蛋白質またはポリヌクレオチドをそのまま用いる他、公知の製剤学的方法により製剤化して医薬製剤として用いもよい。
医薬製剤化の際、上述したポリヌクレオチドや蛋白質などの有効成分以外に適宜他の溶質や溶媒と組み合わせることができる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。本発明の医薬組成物は、水溶液、錠剤、カプセル、トローチ、バッカル錠、エリキシル、懸濁液、シロップ、点鼻液、または吸入液などの形態であり得る。化合物の含有率は適宜決定すればよい。患者への投与は、一般的には、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、経口投与、関節内注入、その他の当業者に公知の方法により行いうる。
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法、症状などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。一般的な投与量は、薬剤の有効血中濃度や代謝時間により異なるが、1日の維持量として約0.1mg/kg〜約1.0g/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg〜約1.0mg/kgであると考えられる。投与は1回から数回に分けて行うことができる。
また、上述したシノビオリンまたはこれと機能的に同等な蛋白質をコードしたポリヌクレオチドが導入された造血幹細胞を医薬製剤としてもよい。造血幹細胞を得るには、骨髄または他の造血源から多能性のヒト幹細胞を単離することが必要である。まず、骨髄細胞は骨髄源、例えば腸骨稜、脛骨、大腿骨、脊椎または他の骨腔(bone cavity)から得ることができる。造血幹細胞の他の入手源は胚卵黄包、胎児肝臓、胎児及び成人の脾臓、成人末梢血液及び臍帯血をはじめとする血液を包含する。
これらの組織からの造血幹細胞の取得は、Herzenberg,L.A.「Weir’s Handbook of Experimental Immunology,5th edition」,Blackwell Science Inc.1997に従い実施することができる。すなわち、抗CD34抗体、抗CD33抗体、抗CD38抗体などを用いて免疫学的に染色し、セルソーターを用いてこれらの抗体の染色性により分離することができる。
造血幹細胞が単離されたら、それらは次のようにして増殖させることができる。すなわち、骨髄細胞、胎仔胸腺または胎仔肝臓から得られるストローマ細胞との共存培養により幹細胞維持と関連する成長因子が提供され、造血幹細胞を増殖させることができる。
造血幹細胞または造血前駆細胞に治療用遺伝子を導入するには、通常動物細胞の遺伝子導入に用いられる方法、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、HIVベクター等のウイルス由来の遺伝子治療に用いられる動物細胞用ベクターを用いる方法、リン酸カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等を用いることができる。
上記医療方法または医療製剤によれば、患者の体内にシノビオリンは補足され、これによりERストレス誘導性アポトーシスが抑制され赤芽球の分化異常などが解消または低減されることになる。その結果、造血過程の異常、例えば赤芽球の分化異常が起因した疾患の治療が期待される。
本発明はまた、シノビオリンの活性を増強し得る物質を利用した造血系疾患の治療方法および治療用製剤に関する。本願発明者らにより天然シオノビオリンリガンド(SL)が単離されている。SLは、S1−5と呼ばれる公知の遺伝子(Lecka−Czernik,B.et al.,Molecular and Cellular Biology,15,120−128,1995)と、DNAの部分配列のみならず遺伝子の大きさ、発現産物の分子量などがほぼ同じであり、同一の蛋白質である可能性が高い。他のSLとしてはaccession number AAA65590(nucleotide accession U03877)、I38449、NP_061489(nucleotide accession NM_018894)、NP_004096(nucleotide accession NM_004105)、またはそれらに類似したタンパク質であってヒトシノビオリンタンパク質(配列番号:2)に結合する活性を有するタンパク質を用いることができる(Lecka−Czernik,B.et al.,Mol.Cell.Biol.15,120−128,1995;Heon,E.et al.,Arch.Ophthalmol.114,193−198,1996;Ikegawa,S.et al.,Genomics 35,590−592,1996;Katsanis,N.et al.,Hum.Genet.106,66−72,2000;Giltay,R.et al.,Matrix Biol.18,469−480,1999;Stone,E.M.et al.,Nat.Genet.22,199−202,1999)。
このようなシノビオリンリガンドまたはこれをコードしたポリヌクレオチドなどのシノビオリンの活性を刺激し得るシノビオリン活性増強剤は、シノビオリンの低下した機能に起因した造血系疾患の治療方法に利用し得る。
こうしたシノビオリンリガンドを医薬製剤とする場合、SL蛋白質やこれをコードするポリヌクレオチドなどもまた、上述のように有効成分以外に適宜他の溶質や溶媒と組み合わせることができる。また、SLをコードしたポリヌクレオチドが導入された造血幹細胞を医薬製剤としてもよい。
上記発明によれば、シノビオリンリガンドの投与により、シノビオリンの発現または活性の向上が図られる。その結果、シノビオリンの発現または活性低下が関与する造血系疾患の治療が期待される。
本発明は、シノビオリンを利用した赤芽球を分化させるための方法に関する。上述したようにシノビオリンをホモで欠損した胎仔では赤芽球の分化異常が観察されている。そのため、シノビオリンならびにこれと機能的に同等な蛋白質およびこれらをコードしたポリヌクレオチドは赤芽球を分化させるための試薬および方法に利用し得る。
赤芽球を分化させるための方法は、造血幹細胞に上述したシノビリオンまたはこれと機能的に同等な蛋白質を投与するか、細胞内で発現させることにより実施し得る。シノビリオンまたはこれと機能的に同等な蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを発現ベクターに担持させ、これを造血幹細胞に導入する。造血幹細胞の単離、使用し得る発現ベクターの種類、導入方法などは上述したとおりである。シノビリオン等をコードしたポリヌクレオチドを導入した後、細胞を培養し、形態を観察して赤芽球に分化した細胞を採取する。また、シノビオリンとともに他の赤芽球を分化誘導し得る物質を組み合わせて用いてもよい。例えばエリスロポエチンを赤芽球分化誘導剤として単独で用いた場合CFU−Eに分化することが知られており、エリスロポエチンにSCFを組合せて用いるとBFU−Eに分化することが知られている。このように他の誘導剤と組合せることにより単独で用いた場合と異なる細胞を分化誘導し得る可能性がある。
上述したように上記シノビリオンまたはこれと機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド、またはこれを担持した発現ベクターは赤芽球の分化誘導剤など試薬として応用し得る。
本発明はシノビオリン遺伝子機能が欠損した、造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔に関する。シノビリオンの機能解析のためにノックアウトマウスの作成を試みたが、シノビオリンをホモで欠損させると13.5日齢程度で胎生致死となる。致死に至る以前の胎仔を用いた解析では、アポトーシスが亢進し、赤芽球の分化異常が観察され、この異常細胞によりマクロファージが活性化、血球貪食も観察された。したがって、シノビオリンホモノックアウト胎仔は、造血系疾患、とりわけ赤芽球の分化異常が起因する疾患のモデル胎仔となり得る。また、この赤芽球の分化異常は、ERストレス誘導性アポトーシスが主要因と考えられることから、シノビオリンホモノックアウト胎仔はERストレス誘導性アポトーシスが起因した疾患のモデルにもなり得る。
本発明のモデル非ヒト動物としては、哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ならびにウシ等)が好ましく、特にげっ歯類、例えばマウスまたはラットなどを用いることが好適である。
シノビオリン遺伝子機能が欠損した非ヒト動物は、例えば、ジーンターゲティングにより製造することができる。このようなモデル非ヒト動物を作製するには、例えば本発明のDNAの一部または全部を置換、欠失、付加および/または挿入等により欠損させたターゲティングベクターを胚性幹(ES)細胞に導入し、染色体DNAと相同組み換えを起した細胞を選択する。相同組み換え体の選択のためには公知のポジティブ・ネガティブ選択を行うことができる。ポジティブ選択用マーカーとしては、ネオマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子、ネガティブ選択用マーカーとしては、ジフテリア毒素(DT)−A遺伝子やHSV−tk遺伝子などが挙げられる。サザンブロッティングやPCR等により、正しく組み換えられた細胞を選択することができる。得られた細胞は、8細胞期程度の受精卵または胚盤胞の胚盤胞腔などに注入し、輸精管結紮雄と交配させて作製した偽妊娠メス個体の子宮内に移植する。産仔のゲノムDNA解析は後述する実施例に基づいて実施することができる。産仔より血液または組織などの試料を得、この取り出した試料を基にDNA解析を行う。このDNA解析から、ヘテロノックアウトマウスであるか否かを同定し得る。
ホモノックアウトマウスを得るためには、ヘテロノックアウトマウス同士を交配させる。上記と同様に交配の結果として得られた胎仔のDNA解析を行い、ホモノックアウトマウスを同定する。なお、マウスの場合には、ホモノックアウト型は13.5日齢頃に致死となった。そのため、生存しているマウス胎仔を得るためには、それ以前に子宮より摘出する。
シノビオリン機能欠損動物の創生は、シノビオリン遺伝子をノックアウトするだけでなく、このノックアウトと共に他の遺伝子をノックインすることもできる。ノックインする遺伝子に特に制限はない。例えばlacZ遺伝子等のマーカー遺伝子が挙げられる。
また、シノビリオンの機能を欠損させる手段としては、ジーンターゲッティンの他にも、アンチセンス法、リボザイム法またはiRNA法などにより、染色体DNA上のシノビオリン遺伝子を改変させずに、転写後の発現を阻害することで機能をオフさせる手段を用いてもよい。アンチセンス法においては、本発明の蛋白質をコードするDNAの転写産物に相補的なRNAをコードするDNAを含むベクターを、また、リボザイム法においては、例えば本発明の蛋白質をコードするDNAの転写産物を切断するRNAをコードするDNAを含むベクターを、上記と同様に哺乳動物の胚性幹細胞に導入し、これを哺乳動物の胚に注入し、該胚から個体を得ればよい。
また、iRNA法は、シノビリオン蛋白質をコードするDNA、例えば、配列番号1に記載の配列からなる転写産物に相補的なアンチセンスRNAおよびこのアンチセンスRNAと相補するセンスRNAとが対合した二重鎖RNAを発現するベクターを、上記と同様に哺乳動物の胚性幹細胞に導入し、これを哺乳動物の胚に注入し、該胚から個体を得ればよい。
上記の通り、シノビリオンの機能を欠損した胎仔は、赤芽球の分化異常という性質を呈する。このような性質の発現は、10.5日齢以降である。そのため、10.5日齢以降であって致死に至る13.5日齢以前の胎仔は、造血系疾患、とりわけ赤芽球の分化異常に起因した疾患のモデルとなる。また、胎仔そのものだけではなく、胎仔由来の細胞もまた、モデル細胞として利用し得る。胎仔由来の細胞として好適な例は、MEFsなどである。これらモデル動物胎仔やこれに由来する細胞は、造血系疾患、特に赤芽球分化異常に起因した疾患に対する医薬候補化合物を含む種々の化合物の試験またはスクリーニングを行うことができる。本発明のモデル動物胎仔を利用した試験またはスクリーニングの方法としては、以下の方法が挙げられる。
本発明の造血系疾患用治療剤のスクリーニング方法は、シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔もしくは母体に被験物質を投与し、該非ヒト動物胎仔における赤芽球の状態を評価する。赤芽球が野生型と比較して同等程度に正常に分化しているか、あるいはホモノックアウト胎仔と比較して分化異常を示す数が低減している場合に、被検物質は造血系疾患の治療剤の候補となる。
また、別の態様のスクリーニング方法としては、以下(a)から(c)の工程を含む、スクリーニング方法が挙げられる。
(a)シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔または当該胎仔由来細胞にERストレス誘導剤を投与または接触させる工程
(b)上記(a)工程の前もしくは後又は同時に前記シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔または前記胎仔由来細胞に被験物質を投与または接触させる工程
(c)前記非ヒト動物胎仔または胎仔由来細胞におけるアポトーシスが誘導された細胞を測定する工程
上記スクリーニング方法における造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔は、上述したシノビリオンの機能を欠損させたモデル胎仔を用いることができる。胎仔由来の細胞は、モデル胎仔から採取した細胞、好適には、MEFsを用いることができる。
これらモデル胎仔または胎児由来の細胞に作用させるERストレス剤は、例えば、ツニカマイシン、タプシガルギン、その他のERストレスを誘導し得る薬剤を用いることができる。これらERストレス剤により胎仔または胎仔由来の細胞にERストレスを加える。
ERストレス剤によりストレス誘導は、胎仔に直接投与するか、胎仔を生育しているカルチャー内に投与することにより実施し得る。また、胎仔由来の細胞へのストレス誘導は、細胞を培養しているカルチャー内にERストレス剤を添加することにより実施し得る。
上記ERストレス誘導工程の前もしくは後又は同時に、前記モデル胎仔または前記胎仔由来細胞に被験物質を投与または接触させる。この被験物質投与・接触方法は、被験物質の種類などにより、適宜選択することができる。胎仔への投与は、例えば胎仔を生育させるカルチャー内に添加してもよく、直接、体内に注入してもよい。細胞の場合には、被験化合物は例えば培地中に添加される。または、マイクロインジェクション等により細胞内に注入されてもよい。被験物質が遺伝子である場合は、naked DNAとして、所望のトランスフェクション試薬と組み合わせて、あるいは公知の発現ベクターに組み込んで細胞に遺伝子を導入することができる。
上記被験物質を作用させた後、非ヒト動物胎仔または胎仔由来細胞におけるアポトーシスが誘導された細胞を測定する。アポトーシス細胞の測定は、実施例に示したTUNELアッセイにより行うことができる。TUNELアッセイは市販のキットなどを用いて実施し得る。アポトーシス細胞の測定後、被験物質を作用させた群と、作用させていない群とのアポトーシス細胞数を比較する。ここで被験物質を作用させた群において、アポトーシス細胞数の有意な減少が見られたとき、当該被験物質はERストレス誘導を抑制する活性を有し、赤芽球の正常な分化を誘導し得るものと判定される。
なお、上記スクリーニングに用いる被験化合物は特に制限はなく、無機化合物、有機化合物、ペプチド、蛋白質、天然または合成低分子化合物、天然または合成高分子化合物、組織または細胞抽出液、微生物の培養上清や、植物、海洋生物由来の天然成分などが挙げられるがこれらに制限されない。遺伝子ライブラリーの発現産物または発現cDNAライブラリーなどを用いることもできる。
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、シノビオリン遺伝子の標的破壊を示す図および写真である。図1(A)は、シノビオリン野生型アレル、ターゲティングベクター、ターゲティングされたアレルの構造、およびターゲティング前後の遺伝子の部分的な制限酵素地図を示す図である。遺伝子のエキソンは黒四角で示し、β−ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Neo)、ジフテリア毒素A遺伝子(DT)、およびpBluescript II(BSK)は白四角で示した。用いた制限酵素部位を以下のように示す:B、BglII;P、PstI;E、EcoRI;X、XhoI;N、NcoI。図1(B)は、ターゲティングしたESクローンおよびヘテロノックアウト(以下「syno+/−」と表示する)マウス同士の交配により生じた胎児クローンのサザンブロット解析を示す写真である。野生型(以下、「syno+/+」と表示する)TT2 ES細胞(WT)および相同的ターゲティングされたESクローン(クローン−1、クローン−2)のゲノムDNAをBglIIで消化し、外側プローブでハイブリダイズした。syno+/+およびsyno+/−アレルでは、それぞれ7.4−kbおよび11.7−kb断片を生じた。また、syno+/−マウスの交配により生じたE13.0胎仔から単離した染色体DNAをPstIで消化し、上記と同じプローブでハイブリダイズした。図1(C)は、ノーザンブロット解析を示す写真である。syno+/−を用いた交配により生じたE13.0胎仔から単離した20μgのトータルRNAを、シノビオリンプローブまたはグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)プローブでハイブリダイゼーションした。図1(D)は、E13.0胎仔から蛋白質を単離し、SES−PAGEで分離した(50μg蛋白質/レーン)結果を示す写真である。蛋白質をメンブレンにトランスファーした後、抗シノビオリン抗体と反応させた。
図2は、E13.5ホモノックアウト(以下「syno−/−と表示する)胎仔の表現型を示す写真である。図2(A)は、syno+/+、syno+/−およびsyno−/−E13.5マウス胎仔の外観を示す。変異胎仔はsyno+/+と比較して同じ大きさであり、正常な発達を示す。図2(B)は、ヘマトキシリン・エオシンで染色したsyno+/+syno+/−およびsyno−/−E13.5マウス胎仔の組織切片を示す写真である(×10)。
図3は、E13.5胎仔より採取した肝臓の組織像を示す写真である。syno+/+、syno+/−およびsyno−/−E13.5の肝臓切片の詳細を示す(×400)。syno−/−胎仔における細胞密度が低いことが観察された。
図4は、syno−/−胎仔由来肝臓細胞におけるアポトーシス細胞割合を解析した結果を示す写真である。(A)syno+/+およびsyno−/−胎児由来の肝臓組織のTUNEL解析結果を示す(×200)。TUNEL陽性率はsyno+/+では1%であったのに対し、syno−/−では25%と高値を示した。このように肝臓で観察された違いはsyno−/−全身にわたって観察された。(B)syno+/+およびホモノックアウトsyno−/−胎仔におけるヘマトキシン・エオシン染色結果を示す(×200)。
図5は、E10.5syno−/−胎仔の造血を示す写真である。メイグリュンワルド・ギムザで染色した、E10.5syno+/+syno+/−およびsyno−/−胎仔から単離した末梢血のサイトスピン標本を示す。syno−/−胎仔は、赤芽球形成の減少およびアポトーシスの亢進を示した(矢印)。
図6は、E12.5syno−/−胎仔の造血を示す写真である。上段は生存E12.5胎仔の末梢血のサイトスピン標本解析結果を示す。syno+/+胎仔と比較して、syno−/−胎仔では異常な赤芽球、核の断片化、およびハウエル・ジョリー小体が増加していた(矢印)。下段はメイグリュンワルド・ギムザで染色したE12.5syno+/+およびsyno−/−胎仔の肝臓サイトスピン標本の解析結果を示す。syno−/−胎仔において、血球貪食が明らかに増加していた(矢印)。
図7は、12.5日齢のsyno+/+およびホモノックアウト型syno−/−胎仔由来の肝臓におけるβグロビンの発現を免疫組織染色(×200)により解析した結果を示す写真である。βグロビンの発現はsyno−/−胎仔では、syno+/+に比して減少していることが示されている(syno+/+:4.60%,syno−/−:0.90%、矢印で示す)。
図8は、syno−/−MEFsはERストレスに対する感受性の増加を示す写真およびグラフである。図8(A)は、syno+/+およびsyno−/−マウス由来のMEFsを、低濃度の血清(1%FCS)培地中で、抗Fasモノクローナル抗体(1μg/mlで48時間)、X線照射(6Gyで72時間)、タプシガルギン(1μMで48時間)、およびツニカマイシン(10ng/mlで48時間)を含む様々なアポトーシス刺激で処理するか、または未処理(−)のままにした結果を示す写真である。TUNEL解析によりアポトーシス細胞を検出した。図8(B)は、syno+/+よびsyno−/−MEFsを、示した用量の刺激で処理した結果を示すグラフである。細胞死検出ELISA法(Boehringer Mannheim)を用いてDNAの断片化を定量することにより、アポトーシスを測定した。P<0.01。アポトーシスsyno−/−MEFsの数は、タプシガルギンおよびツニカマイシンで処理したものにおいて、それぞれのsyno+/+MEFsと比較して高かった。図8(C)は、LacZ(−)またはシノビオリン遺伝子(+)を有するアデノウイルスベクター(100moi)をsyno+/+およびsyno−/−MEFsに感染させた後、前述と同じ薬剤で処理した結果を示すグラフである。syno−/−MEFsにおいて、ERストレスに誘導されるアポトーシスはシノビオリンの発現によりレスキューされた。
図9は、シノビオリンはERAD系を介して抗アポトーシス蛋白質として作用することを示す図である。シノビオリンの「機能喪失」は、ERAD系の破綻を介して全身性のアポトーシスもたらす。この過程により、細胞密度の低下および造血の異常が生じ、ひいては胎仔が死亡する。一方、シノビオリンの「機能獲得」は、シノビオリンの抗アポトーシス効果を介して関節症の自然発症をもたらす。さらに、syno+/−マウスは、関節炎に関連する実験で頻繁に用いられるモデルであるコラーゲン誘導関節炎(CIA)に耐性である。まとめて考えると、シノビオリンはERAD系を介して「細胞機能の維持」において重要な役割を担う。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本願発明をより詳細に説明するが、本願発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1] シノビオリン遺伝子のノックアウトマウスの作製
マウスシノビオリン遺伝子を破壊するため、ターゲティングベクターを構築した(図1)。ベクター構築のため、C57BL/6ゲノムライブラリーよりシノビオリンcDNAをクローニングした。遺伝子の翻訳開始コドンの位置にNcoI部位を作出した後、遺伝子のNcoI/BanHI断片をLacZカセットで置換した(Saga,Y.,Yagi,T.,Ikawa,Y.,Sakakura,T.,and Aizawa,S.1992.Mice develop normally without tenascin. Genes Dev.6:1821−1831.)。pMC1neo由来のネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(Neo)遺伝子カセット(Strategene、カリフォルニア州、ラ・ホーヤ)をLacZ遺伝子の下流に配置した。シノビオリン遺伝子の1.85−kbのEcoRI/NcoI断片および8.5−kbのSalI/XhoI断片を、これらのカセットのそれぞれ上流および下流に含めた。DT−Aカセットでの負の選択は、以前に記載されている(Yagi,T.,Nada,S.,Watanabe,N.,Tamemoto,H.,Kohmura,N.,Ikawa,Y.,and Aizawa,S.1993.A novel negative selection for homologous recombinants using diphtheria toxin A fragment gene.Anal.Biochem.214:77−86)。
C57BL/6マウスとCBAマウスのF1胎仔由来のTT2 ES細胞を、以前に記載されているようにフィーダー細胞上で培養した(Yagi,T.,Tokunaga,T.,Furuta,Y.,Nada,S.,Yoshida,M.,Tsukada,T.,Saga,Y.,Takeda,N.,Ikawa,Y.,and Aizawa,S.1993.A novel ES cell line,TT2,with high germlinedifferentiating potency.Anal.Biochem.214:70−76.)。このTT2 ES細胞に上記ターゲティングベクターをエレクトロポレーションにより導入した。導入後、ベクターと内在のシノビオリン座位との間で相同的組換えが生じた場合、シノビオリン座位にはATG翻訳開始部位にインフレームのlacZレポーター遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子が挿入される。lacZカセットはポリ(A)付加配列を含むため、シノビオリン融合蛋白質の翻訳は妨げられると考えられる。
エレクトロポレーション後、薬剤G418で選択し、neo耐性TT2 ESクローンを単離した。単離されたクローンから染色体DNAを回収し、制限酵素BglIIで消化した。この制限酵素消化産物を電気泳動で分離後、図1Aに示されたプローブを用いてサザンブロット解析を行い、遺伝子型を同定した。上記相同組換体は、サザンブロット解析により確認した(図1B左)。
2つの独立したsyno+/−ESクローンをICRの8細胞期胚に注入した(Yagi,T.,Nada,S.,Watanabe,N.,Tamemoto,H.,Kohmura,N.,Ikawa,Y.,and Aizawa,S.1993.A novel negative selection for homologous recombinants using diphtheria toxin A fragment gene.Anal.Biochem.214:77−86.)。80%を超えるアグーチ色の毛色を有するキメラ雄をC57BL/6またはDBA1雌と交配し、尾部由来および卵黄嚢(yolk sac)由来ゲノムDNAをサザンブロット解析またはPCR解析することにより、変異アレルのジャームライントランスミッションを同定した(図1B左)。遺伝子型同定には、以下のプライマーを用いた;

これらのプライマーを用いてPCRを実施した。PCRは、96℃2分間、96℃30秒間、60℃30秒間、72℃3分間のサイクルを35サイクル、最終サイクルの後の72℃10分間の伸長反応、その後4℃で冷却という条件で行った。このPCR解析により、変異および野生型アレルからそれぞれ6.9kbおよび2.6kbのフラグメントが生成される。
上記2つの独立したsyno+/−ESクローンをICR−8細胞期に注入した結果、ジェームライントランスミッションを起こした(図1B左)。変異に関してヘテロ接合性であるsyno+/−F1マウスは生存可能、繁殖可能であり、明らかな表現型の異常は認められなかった(データは示さず)。syno−/−マウスを作出するためにsyno+/−マウスを交配させ、新生子孫の遺伝子型を同定したが、syno−/−マウスは同定されなかった。このことからシノビオリンの欠損は胎生致死をもたらす可能性が考えられた。そこで様々な発生段階での胎仔の解析を行ったところ、およそ13.5日齢までに致死となっていることが明らかとなった(表1)。

このターゲティングされたシノビオリン変異体の性質を判定するため、いずれも13日齢のsyno+/+胎仔、syno+/−胎仔およびsyno−/−胎仔からゲノムDNA、トータルRNAおよび蛋白質を調製し、それぞれサザンブロッティング、ノーザンブロッティングおよびウェスタンブロッティングにより解析した。
なお、RNA単離はチオシアン酸グアニンジンフェノールクロロホルム抽出法(Chomczynski,P.,and Sacchi,N.1987.Single−step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate−phenol−chloroform extraction.Anal.Biochem.162:156−159.)に基づくIsogen(Nippon Gene)を用いて実施し、E13.0胎仔からトータルRNAを単離した。次に20μgのトータルRNAをグリオキサールで変性させ、電気泳動により分離し、ナイロンメンブレンにトランスファーした。クローニングしたシノビオリンcDNAフラグメントにおける1235−3028塩基に相当するDNAプローブでメンブレンをハイブリダイズした。
図1B右、CおよびDに示すように、syno−/−胎仔ではシノビオリン遺伝子が欠損し、またシノビオリンmRNAも蛋白質も検出されなかった。したがって、syno/−胎仔はシノビオリン転写産物も蛋白質も発現していないことが確認された。
[実施例2] syno−/−胎仔におけるアポトーシス細胞死
シノビオリン変異が致死となる胎仔発生の段階を同定するため、E10.5〜E18.5の胎仔を解析した。解析のため、子宮から胎仔を摘出した。遺伝子型同定のために卵黄嚢を回収した。次に胎仔の組織学的解析を行うために、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の4%パラホルムアルデヒド中で胎仔を一晩固定してパラフィンに包埋し、4μm切片を切り出しヘマトキシリン・エオシンで染色し、何枚かの切片はTUNELアッセイに使用した。サイトスピン標本のために、50%FCSおよび10mM EDTAを含むPBS中に末梢血を回収した。E12.5胎仔の胎仔肝を同じ培地1ml中で25ゲージ針を用いて破壊し、約7μlを200μlの培地に希釈し、サイトスピンした。末梢血および胎仔肝のスライドをメイグリュンワルド・ギムザで染色した。
E11.5ではsyno−/−胎仔の大多数(88.9%)が生存可能であったが、E13.5ではごくわずかなsyno−/−胎仔しか生存していることが認められなかった(表1)。E13.5の胎仔を形態学的に解析したところ、syno−/−胎仔、syno+/−胎仔およびsyno+/+同腹仔の間に外見上の顕著な変異は認められなかった(図2A)。また、また組織学的な検討からもsyno−/−胎仔において、主要な臓器が欠失しているなどといった重篤な変異は認められなかった(図2B)。
しかし、syno−/−胎仔の肝臓組織像を狭画にて検討した結果、syno+/+胎仔やsyno+/−胎仔に比べsyno−/−胎仔では全身で細胞密度が低下していることが確認された(図3)。我々は、細胞密度の低さはsyno−/−胎仔でのアポトーシス細胞死の亢進によるものと想定した。
シノビオリンの喪失によって誘導されるアポトーシス細胞死の程度を測定するため、各段階の胎仔でTUNEL解析を実施した。詳細には、肝臓組織および切片は上述の方法で調製した。これら標本をTUNEL解析に供した。TUNEL解析は製造業者(MEBSTAINアポトーシスキットII、Medical & Biological Laboratories,Nagoya,Japan).により提供されたプロトコールにしたがって実施した。異なる3領域における細胞1000個当たりのTUNEL陽性細胞数をカウントし、TUNEL陽性細胞割合を算出した。
E12.5ではアポトーシス細胞死はとりわけ肝臓において顕著に検出された。またアポトーシス細胞の数はsyno+/+胎仔(1%)と比較してsyno−/−胎仔(25%)において有意に増加していた(図4A)。この段階の胎仔では、シノビオリンは造血細胞を含めて偏在的に発現されている(データは示さず)。
[実施例3] syno−/−胎仔の造血における異常なアポトーシス
マウス胎仔の正常な発生過程では、造血の主要器官はE11.5〜E12.5頃に卵黄嚢から胎仔肝に移行する(Zon,L.I.1995.Developmental biology of hematopoiesis.Blood 86:2876−2891.)。Null突然変異マウスの様々な遺伝子の解析に基づくいくつかの研究から、造血機能障害はこの発生段階での致死と関連する場合が多いと結論づけられている(Nuez,B.,Michalovich,D.,Bygrave,A.,Ploemacher,R.,and Grosveld,F.1995.Defective haematopoiesis in fetal liver resulting from inactivation of the EKLF gene.Nature 375:316−318.;Okuda,T.,vanDeursen,J.,Hiebert,S.W.,Grosveld,G.,and Downing,J.R.1996.AML1,the target of multiple chromosomal translocations in human leukemia,is essential for normal fetal liver hematopoiesis.Cell 84:321−330,;Kieran,M.W.,Perkins,A.C.,Orkin,S.H.,and Zon,L.I.1996.Thrombopoietin rescues in vitro erythroid colony formation from mouse embryos lacking the erythropoietin receptor.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:9126−9131.;Wang,Q.,Stacy,T.,Miller,J.D.,Lewis,A.F.,Gu,T.L.,Huang,X.,Bushweller,J.H.,Bories,J.C.,Alt,F.W.,Ryan,G.,Liu,P.P.,Wynshaw−Boris,A.,Binder,M.,Marin−Padilla,M.,Sharpe,A.H,,and Speck,N.A.1996.The CBFbeta subunit is essential for CBFalpha2(AML1)function in vivo.Cell 87:697−708.;Tamura,K.,Sudo,T.,Senftleben,U.,Dadak,A.M.,Johnson,R.,and Karin,M.2000.Requirement for p38alpha in erythropoietin expression:a role for stress kinases in erythropoiesis.Cell 102:221−231.;Spyropoulos,D.D.,Pharr,P.N.,Lavenburg,K.R.,Jackers,P.,Papas,T.S.,Ogawa,M.,and Watson,D.K.2000.Hemorrhage,impaired hematopoiesis,and lethality in mouse embryos carrying a targeted disruption of the Fli1 transcription factor.Mol.Cell Biol.20:5643−5652.;Kawane,K.,Fukuyama,H.,Kondoh,G.,Takeda,J.,Ohsawa,Y.,Uchiyama,Y.,and Nagata,S.2001.Requirement of DNase II for definitive erythropoiesis in the mouse fetal liver.Science 292:1546−1549.)。そこで、syno−/−胎仔における造血の状態を検討するため、E10.5、E12.5の末梢血およびE12.5の胎仔肝のサイトスピン標本を調べた。
先ず、一次造血の状態を解析するために、E10.5から得られた末梢血試料を染色し、syno+/+およびsyno+/−の同腹仔の赤芽球形成(3.0±0.66×10細胞)を比較した(図5)。syno−/−胎仔では、syno+/+およびsyno+/−胎仔と比較して、その減少(8.3±0.46×10細胞)が示された。さらに、syno+/+赤芽球ではアポトーシスは観察されなかったのに対して、syno−/−赤血球ではアポトーシスが認められた(図示せず)。
次に、二次造血が行われている12.5日齢の末梢血のギムザ染色を行った。ここでは先程の一次造血によって形成された赤芽球よりもさらに分化の段階が進んだ赤芽球が観察され、また脱核が起こった成熟赤血球も認められる。E12.5の末梢血試料の染色では、syno+/+(4.0±0.18×10細胞)と比較してsyno−/−胎仔では赤芽球数の減少(18.0±0.19×10細胞)が示された(図6)。さらに、syno−/−胎仔では、ハウエル・ジョリー小体、核の断片化を起こしている赤芽球、二分葉の核を持つ赤芽球等の異常な赤芽球の比率が、syno+/+同腹仔では1.8%であるのに対して10.5%と顕著に高かった(表2、異常な赤芽球を図6上段矢印で示す)。

上記観察において、syno−/−胎仔で一次造血の際に認められた赤芽球でのアポトーシスは、E12.5の時点ではほとんど認められなかった。この理由を検討するために肝臓のギムザ染色を行った。ギムザ染色の結果(図6下段)、マクロファージによる赤芽球の貪食、すなわちhemophagocytosisの像(図6下段矢印で示す)は、syno+/+やsyno+/−ではほとんど見られないのに対し、syno−/−では100マクロファージ細胞中22個と有意に増加していることが確認された(表3)。このことから、10.5日齢で見られたようなアポトーシスを起こした赤芽球は造血の場である肝臓においてマクロファージにより貪食・排除され、その結果、E12.5由来の末梢血ではアポトーシスを起こした赤芽球が認められないということが予測される。

この現象は、syno−/−胎仔肝の組織学的切片においても認められた(図3)。これらの結果から、マクロファージが活性化され、異常な赤芽球を貪食したことが示唆された。総合して考えると、これらの知見から、シノビオリンの欠如はアポトーシスの亢進に起因する異常な赤血球分化に関連することが示唆され、syno−/−胎仔は循環する赤芽球数が減少した結果として貧血で死ぬと考えられる。
さらに本願発明者らは、シノビオリンの造血への関与を研究するために、二次造血のマーカーであるβ−グロビンの発現を免疫組織染色法により検討した。
免疫組織染色は以前に報告されている通りの手法で実施した(Kawahara et al.,1999)。切片は抗β−グロビン抗体で一晩インキュベートした。抗原−抗体の特異的な反応はジアミノベンジン基質クロモジェンシステム(diaminobenzidine substrate chromogen system、Vector Laboratories,Burlingame,CA)を用い、添付のマニュアルに従って実施した。異なる3つの領域中の細胞を1000個数え、陽性細胞率を計算した。
その結果、β−グロビンの発現がsyno−/−ではsyno+/+マウスに比べ顕著に減少していることが明らかとなった(図7)。この結果は造血、とりわけ二次造血においてシノビオリンが重要な役割を果たしていることを示している。
[実施例4] syno−/−マウス胎仔線維芽細胞は、ERストレスに選択的に影響を受けやすい
アポトーシスは、いくつかの経路を介して誘導され得る。シノビオリンの関与を説明するアポトーシス経路を同定するため、syno−/−およびsyno+/+胎仔からMEFsを単離した。MEFsは、10.5日齢のsyno−/−およびsyno+/+胎仔の頭部および臓器を除去した後、これらの胎仔をトリプシン消化することにより単離した。単離した細胞を、20%ウシ胎仔血清(FCS)を含むダルベッコ変法イーグル培地で培養した。このMEFsに対して以下の4つのアポトーシス刺激をインビトロで加えた;モノクローナル抗Fas抗体(Ab),γ照射、ツニカマイシン(N−グリコシル化阻害剤)、およびタプシガルギン(Ca−ATPase阻害剤)。
対照条件下では、syno−/−MEFsアポトーシス細胞の比率はsyno+/+MEFs(6±2%)よりも高かった(16±4%、図8A)。Fas刺激またはγ照射では、アポトーシスsyno−/−MEFsおよびsyno+/+MEFsの数は変化しなかった(Fas:syno−/−、45±2%、syno+/+43±4%;γ照射:syno−/−34±6%、syno+/+31±2%、図8A)。一方、ERストレス誘導剤であるツニカマイシンおよびタプシガルギンでは、TUNEL陽性syno−/−MEFsの数がsyno+/+MEFsと比較してそれぞれ1.7倍および2.4倍に増加した(33±7%に対して56±3%;38±7%に対して90±1%、図8A)。さらに、ERストレス誘導剤に対する感受性は、用量依存的な様式で増加した(図8B)。
上記syno−/−MEFsに与えられたアポトーシス刺激による影響が外来からシノビオリン遺伝子を導入することにより低減または消失するかを検討した。Adeno−X(商標)発現系により、製造業者の説明に従い(Clontech Laboratories Inc.カリフォルニア州、パロアルト)、Flagタグ化シノビオリンまたはLacZの遺伝子を含むアデノウイルスベクターを調製した。HEK293細胞でend−point dilutionアッセイを行うことにより、ウイルス調製物の力価を測定した。細胞当たりのウイルス粒子数(プラーク形成単位:PFUで測定される)を、moiとして表した。感染MEFsに標的遺伝子を48時間発現させた後、表示の試薬で処理した。
syno−/−MEFsにおいて、Fasを介したアポトーシスおよびγ照射によって誘導されたアポトーシスは、アデノウイルスを用いたシノビオリンの発現によりレスキューされなかったのに対し、ERストレスによって誘導されたアポトーシスはレスキューされた(図8C)。総合して考えると、これらの結果から、シノビオリンはERストレスにより誘導されるアポトーシスからMEFsをレスキューするが、Fasまたはγ照射により誘導されるアポトーシスからは救出されないことが示唆される。さらに、CHOP/Gadd153、ATF−6、カスパーゼ−12等のERストレス誘導性蛋白質の発現をウェスタンブロッティングにより解析したが、syno−/−MEFsにおいてこれらの蛋白質は誘導されていることが認められた(データは示さず)。
上記syno−/−MEFsにおいて、データには示さないがCHOP/Gadd153およびATF−6を含むERストレス誘導性蛋白質の発現が誘導された。これらの蛋白質は、ERストレスに対抗するURPに関与すると考えられている。したがって、syno−/−MEFsでは、アポトーシスは、ERストレスに応答したUPR系を介してではなく、ERAD系の破綻によって誘導されるように思われる。すなわち、ERAD系は蛋白質の品質管理に主に関与しているようであり、それは同時に特に胎仔形成過程における「生命の維持」に不可欠である。CHIP、gp78/AMFR、パーキン、およびFbx2/FBG1/NFB42等のいくつかのユビキチンリガーゼ(E3)が、ERAD系に関与することが報告されている。しかし、シノビオリンの「機能喪失」は、代替機能がないことから、胎仔形成過程において致死となるのであろう。我々の研究は、他のユビキチンリガーゼ(E3)の中でも特にシノビオリンが、ERAD系において極めて重要な役割を果たすことを明らかに示唆するものである。
産業上の利用の可能性
ERAD系のユビキチンリガーゼ(E3)の中で中心的役割を担うと考えられている酵母Hrd1p/Del3(Bays,N.W.,Gardner,R.G.,Seelig,L.P.,Joazeiro,C.A.,and Hampton,R.Y.2001.Hrd1p/Der3p is amembrane−anchored ubiquitin ligase required for ER−associated degradation.Nat,Cell Biol.3:24−29.)のヒト相同体であるシノビオリンの機能を解析するため、本研究において我々は、インビボでのERAD系の機能を明らかにする手段としてES細胞を用いてシノビオリンを欠損したマウスを作製した。
上記において詳述した通り、syno−/−マウスはE12.5〜E13.5までに子宮内で死亡した。syno−/−胎仔では、過度のアポトーシスによりいくつかの器官で明らかに低い細胞密度を示し、造血系においてもアポトーシスの異常が認められた。このことから、syno−/−胎仔は造血系疾患、とりわけ、ERストレス誘導性アポトーシスが起因した赤芽球の分化異常に関わる疾患の研究あるいは治療剤開発のためのモデルとして利用し得る。このように13.5日齢付近で胎生致死となるKOマウスは他にも報告されているが(表4)、本願発明のモデルはこれら報告されているものとは別個の遺伝子であるシノビオリンがノックアウトされている。したがって、本発明のモデルは、エリスロポエチン(EPO)などを欠損したモデルでは解析できない造血系疾患のモデルとして、さらには造血系疾患治療薬の探索に役立つことが期待される。

本願発明者らはまた、syno−/−胎仔における造血系細胞の低下を裏付けた実験としてsyno−/−胎仔由来のMEFsを用いた実験を示した。ここではインビトロでERストレスに対して高く選択的な感受性を示し、syno−/−胎仔におけるアポトーシス細胞死はERストレスによって誘導され得ると考えられる。この実験より、syno/−胎仔由来のMEFsが、ERストレス誘導性アポトーシスを研究するためのモデル細胞となること、さらには、このアポトーシスを回避または抑制するための薬剤のスクリーニング用の細胞として利用し得ることを示している。
また、本発明のシノビオリン等を有効成分とする造血系疾患の医薬製剤は、遺伝的な要因でまたは後発的な環境的要因からシノビオリンの機能低下または発現低下が起因して造血系疾患を発症している患者の治療剤として有効になると期待される。
【配列表】



























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)−(d)からなる群から選択されるいずれかの蛋白質またはそれをコードするポリヌクレオチドを投与する工程を含む、造血系疾患の治療方法。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
【請求項2】
造血系疾患が、赤芽球の分化異常に起因する疾患である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドを発現可能に保持したベクターを、造血幹細胞に導入する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
造血幹細胞において、以下の(a)−(d)からなる群から選択されるいずれかの蛋白質を発現させる工程を含む、赤芽球を分化させるための方法。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
【請求項5】
以下の(a)−(d)からなる群から選択されるいずれかの蛋白質またはそれをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含有する、造血系疾患の治療用医薬製剤。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドを発現可能に保持した造血幹細胞である、請求項5に記載の医薬製剤。
【請求項7】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の活性増強剤を投与する工程を含む、造血系疾患の治療方法。
【請求項8】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の活性増強剤を有効成分として含有する、造血系疾患の治療剤。
【請求項9】
シノビオリン遺伝子機能が欠損している、造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
【請求項10】
非ヒト動物がげっ歯目動物である、請求項9記載の造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
【請求項11】
げっ歯目動物がマウスである、請求項10記載の造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
【請求項12】
13.5日齢以前の胎仔である、請求項11記載の造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔。
【請求項13】
造血系疾患が赤芽球の分化異常に起因する疾患である、請求項9記載の造血系疾患モデル非ヒト動物。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかに記載の造血系疾患モデル動物胎仔由来の造血系疾患モデル細胞。
【請求項15】
線維芽細胞である、請求項14記載の造血系疾患モデル細胞。
【請求項16】
シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔に被験物質を投与し、該非ヒト動物胎仔における赤芽球の状態を評価する、造血系疾患の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項17】
以下(a)から(c)の工程を含む、造血系疾患の治療剤のスクリーニング方法。
(a)シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔または当該胎仔由来細胞にERストレス誘導剤を投与または接触させる工程、
(b)上記(a)工程の前後又は同時に前記シノビオリン遺伝子機能が欠損している造血系疾患モデル非ヒト動物胎仔または前記胎仔由来細胞に被験物質を投与または接触させる工程、
(c)前記非ヒト動物胎仔または胎仔由来細胞におけるアポトーシスが誘導された細胞を測定する工程
【請求項18】
以下(a)から(c)の工程を含む、ERストレス除去剤のスクリーニング方法。
(a)内在シノビオリン遺伝子機能が欠損している細胞にERストレス誘導剤を作用させる工程、
(b)上記(a)工程の前後又は同時に前記細胞に被験物質を接触させる工程、
(c)前記細胞におけるアポトーシスが誘導された細胞を測定する工程

【国際公開番号】WO2005/016367
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513218(P2005−513218)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011951
【国際出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(301050902)株式会社ロコモジェン (15)
【Fターム(参考)】