説明

連結金物

【課題】
柱の側面に対して交角を有する方向に延在する棟木を柱に締結するための連結金物を提供すること。
【解決手段】
屈曲部20を有し且つ柱41の二側面に接触する当接板12と、屈曲部20から当接板12の反対方向に延在し且つ棟木31の端面に加工された縦溝33に差し込まれる差込板17と、から構成される連結金物11を用いて、当接板12には、釘48を打ち込むための取付孔15を設けて、また差込板17には、固定ピン38を挿通するためのピン孔18を設ける。この連結金物11の当接板12を釘48で柱41に固定した後、差込板17に棟木31を固定することで、所定の交角を有する状態で棟木31を柱41に締結できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造軸組工法において、垂直に敷設された柱と、屋根を支持する棟木を締結する際に用いる連結金物に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の施工方法は様々だが、国内では、柱や梁などの棒状の木材を組み合わせて骨格を構築する木造軸組工法が広く普及している。この木造軸組工法は、隣接する部材同士を強固に締結する必要があり、部材の端部にホゾなどの仕口を加工して、締結部の剛性を確保している。しかしホゾなどの伝統的な仕口は、断面欠損によって強度が低下するなどの問題があり、近年は仕口の代用として各種金物を介在させることも多くなっている。
【0003】
このような金物は、使用箇所や目的に応じて様々な種類が普及しており、下記特許文献のような特殊用途向けのものも提案されている。特許文献1は、土台などの横架材と柱を締結するために用いられる締結具であり、丸棒状の外観で、横架材と柱の境界を貫通するように埋め込まれる。この締結具は、中央を境として上下が自在に回動可能な構造になっており、横架材の側面と柱の側面が平行ではない場合でも、締結具の上半分または下半分を回動させることで、横架材と柱との交角に影響を受けることなく双方を一体化できる。また特許文献2は、交角を有する二本の部材を締結するための部材接合具であり、枝部材に差し込まれる羽板を揺動可能な構造としており、交角に依存することなく二つの部材を締結できることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163662号公報
【特許文献2】特開2008−240447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6は、本発明による連結金物の使用箇所を示すもので、図6(A)は一般的な木造住宅の例である。この建物は二階建てだが、一階と二階で床面積が異なっており、そのため屋根は、二階の上だけではなく、一階の上にも構築されることになる。二階の上の屋根は、中央の大棟を境として二方向に傾斜している単純な構成だが、一階の上の屋根は、傾斜方向が異なる二面構成となっているため、この二面が接する箇所に尾根筋が形成される。この尾根筋は隅棟と呼ばれており、屋根の強度を確保する上で重要な箇所であるため、内部に棟木が配置されている。
【0006】
図6(A)の一点鎖線円で囲まれた箇所では、隅棟に沿って延びる棟木の上端面が柱の側面に接触しており、棟木が柱によって支持されている。ここで棟木は図6(B)のように、柱の側面に対して交角を有するように配置されるため、棟木の上端面にV字状の切欠を加工して、双方が面接触できるようになっており、図6(C)のように、棟木の側面に釘を打ち込むことで双方を一体化している。この釘は、棟木の側面に対して交角を有する状態で打ち込む必要があり、作業性が悪く精度の確保も困難で、しかも所定の強度を確保するには、使用する釘の本数を増やす必要があるなど、作業性と強度の両面で課題を抱えている。なお先に挙げた特許文献も、このような箇所での使用は想定しておらず、転用は困難である。
【0007】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、柱の側面に対して交角を有する方向に延在する棟木を柱に締結するための連結金物の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、柱の側面に対して交角を有する方向に延在する棟木を柱に締結するために用いられ、屈曲部を有し且つ柱の二側面に接触する当接板と、前記屈曲部から前記当接板の反対方向に延在し且つ棟木の端面に形成された縦溝に差し込まれる差込板と、から構成され、前記当接板には、柱に向けて釘等を挿通するための取付孔を備え、また差込板には、棟木の側面に打ち込まれる固定ピンを挿通するためのピン孔を備えていることを特徴とする連結金物である。
【0009】
本発明は、屋根の尾根筋に沿って配置される棟木の端面を柱に締結するために使用されるが、棟木は柱の側面方向に沿って延在するのではなく、側面に対して所定の交角を有する方向に延在することを前提とする。したがって棟木の端面を単に平面状に切断しただけでは、棟木の端面を柱の側面に面接触させることができず、棟木の端面にV字状の切欠を設けることで、初めて面接触が可能になる。また本発明は、図6のような隅棟での使用を想定しており、棟木が水平に配置されることはなく、屋根の傾斜に応じて斜方向に配置されることを前提とする。
【0010】
当接板は、柱の側面に密着する部位であり、金属製の平板を折り曲げたもので、この折り曲げによる屈曲部を境として二つの平面が形成される。したがって当接板は、柱の側面の角部に面接触でき、当接板から柱に向けて釘を打ち込むと、連結金物が柱と一体化する。なお釘については、所定の強度や耐久性が確保できるならば、平頭釘やネジ釘などを自在に選択可能であり、さらに荷重条件が厳しい場合には、釘ではなくボルトを使用することもある。
【0011】
当接板の表面には、釘等を円滑に打ち込めるよう取付孔が形成されている。当接板は前記のように、屈曲部を挟んで二つの面から構成されるが、取付孔は、このいずれの面にも形成する必要があり、しかも釘同士が柱の中で接触することを避けるため、一方の面と他方の面で取付孔の高さを変えることが好ましい。また強度を確保するため、各面について、複数の取付孔を設ける必要がある。
【0012】
差込板は、当接板の屈曲部から突出する金属製の一枚の板だが、当接板に挟み込まれるように配置される訳ではなく、当接板から遠ざかる方向に配置される。したがって差込板と当接板によってY字状の外観が形成され、当接板を柱の側面に密着させると、差込板は、柱から遠ざかる方向に延在する。差込板は、棟木の端面に加工された縦溝の中に差し込まれた後、棟木と差込板を貫通する固定ピンによって、棟木と一体化される。そのため差込板には、固定ピンを挿通するためのピン孔を形成する必要がある。なお当接板と差込板との接合角度は、柱と棟木との位置関係に応じて都度決まるものである。
【0013】
このように、折れ曲がった当接板と、この屈曲部から延在する差込板で構成される連結金物を用いて、当接板を柱の側面の角部に密着させた上、棟木の縦溝に差込板を差し込んだ後、双方を貫通する固定ピンを打ち込むことで、棟木が柱の側面に対して交角を有する場合でも、従来の汎用金物と同様の手順で棟木を柱に締結することができる。したがって不自然な方向に釘を打ち込む必要がなく、また連結金物の形状精度が確保されていれば、棟木の据え付け精度も必然的に向上する。
【0014】
請求項2記載の発明は、当接板の形状に関するもので、当接板には、その側端面から屈曲部に向けて切り欠かれた凹部を有することを特徴とする。請求項1に記載した連結金物は、釘等によって柱と一体化されるため、釘には、垂直荷重によるせん断荷重が作用する。このせん断荷重を軽減するため、柱の側面に、当接板を埋め込むことのできる段差部を設けて、この段差部の底面に当接板の下面を接触させて、垂直荷重を伝達させる対策を講じることがある。
【0015】
請求項2記載の発明は、この対策を発展させたもので、当接板に凹部を設けることで、当接板の下面のほか、凹部の天面も柱に接触させることが可能になり、垂直荷重をより広範囲に分散して伝達できることを特徴としている。凹部は、当接板の側端面の上下両端を除く中間部分から、屈曲部に向けて切り抜かれた部位であり、したがって当接板は側部が削られた目の粗い櫛状になる。なお凹部の形状は自在だが、その天面は水平に形成して、柱と確実に接触できるようにする。さらに柱の側面には、凹部の配置に応じた段差部を加工して、凹部の天面の大半が、柱と接触できるようにする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明のように、柱の側面の角部に密着できるよう、屈曲部を有する当接板と、この当接板の屈曲部から延在して棟木に差し込まれる差込板と、で構成される連結金物を用いることで、棟木が柱の側面に対して交角を有する方向に延在する場合でも、一般の金物と同様な方法で棟木を柱に締結できる。したがって施工の際、釘を斜めに打ち込むといった手間の掛かる作業が不要で、時間短縮などが実現するほか、固定ピンと複数の釘を用いるため、締結部の強度も向上する。しかも連結金物の形状精度や、棟木に形成される縦溝などの加工精度を確保できれば、必然的に棟木の据え付け精度も良好になる。
【0017】
請求項2記載の発明のように、当接板に凹部を設けて、この凹部の天面も柱に接触させることで、垂直荷重が広範囲に分散していき、釘に作用するせん断荷重が一段と軽減される。そのため、より過大な荷重に耐えることができ、締結部の信頼性が一段と向上する。また釘を打ち込む前の段階でも、連結金物を安定した状態で柱に仮置きできるため、作業性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による連結金物の使用形態を示す斜視図である。
【図2(A)(B)】図1に示す各構成要素を組み上げていく過程を示す斜視図であり、(A)は連結金物を柱に固定した状態で、(B)は柱と棟木を締結した状態である。
【図3】本発明による連結金物の平面図と正面図と左側面図と右側面図である。
【図4】当接板の側端面に凹部を設けた連結金物の平面図と正面図と左側面図である。
【図5(A)(B)】本発明による連結金物を棟木の下端部で使用する形態を示す斜視図であり、(A)は構成要素を組み上げる前で、(B)は構成要素を組み上げた後である。
【図6(A)(B)(C)】従来技術を示す斜視図であり、(A)は一般的な木造住宅の例で、(B)は柱と棟木の外観で、(C)は柱と棟木を締結した状態である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明による連結金物11の使用形態を示している。連結金物11は、柱41と棟木31を締結するために特化した形状になっており、連結金物11と柱41は、釘48によって一体化され、連結金物11と棟木31は、固定ピン38によって一体化される。連結金物11は、当接板12と差込板17で構成されており、当接板12は、柱41の側面の角部に密着できるよう、中央の屈曲部20で直角に折り曲げられている。なお当接板12については、屈曲部20を境として図の右下側を一方側13、この反対側を他方側14と称することとする。連結金物11は、釘48によって柱41に取り付けられるため、当接板12の一方側13と他方側14のいずれも、上下に三個の取付孔15が形成されている。なお打ち込まれた釘48が柱41の中で接触することを防止するため、一方側13と他方側14で取付孔15の高さを変えている。
【0020】
当接板12の屈曲部20からは、当接板12から遠ざかる方向に差込板17が延在している。差込板17は、棟木31の傾斜角度に応じて上下面が傾斜しており、また側面には固定ピン38を差し込むため上下に三個のピン孔18が形成されているほか、差込板17の上面を切り欠いたピン溝19も形成されている。なお当接板12と差込板17は、いずれも金属板を素材としており、双方は溶接によって強固に一体化しており、当接板12と差込板17の取り付け角度は、柱41と棟木31の位置関係に基づいて決められる。
【0021】
柱41の側面には、当接板12が接触する全範囲について、当接板12の厚さ分だけ削り込んだ段差部42があらかじめ加工されている。段差部42を設けることで、施工後、連結金物11全体が柱41や棟木31によって覆い隠され、結露などの点で優れている。また段差部42の底面43に当接板12の下面21を接触させることで、連結金物11から柱41に垂直荷重が伝達していき、釘48に作用するせん断荷重を軽減できる。
【0022】
棟木31は、その上端面が柱41の側面と密着できるよう、V字状の切欠32が加工されており、柱41の角部を挟み込むような状態で棟木31が柱41に接触する。さらに切欠32の奥には、差込板17を挟み込むため、棟木31の長手方向に沿って延在する縦溝33が加工されている。この縦溝33は、棟木31の上下面を貫通しており、差込板17全体を収容できる奥行きが確保されている。また棟木31の側面には、反対面に貫通する横孔34が加工されている。この横孔34は、棟木31と連結金物11を一体化する固定ピン38を打ち込むためのもので、差込板17のピン孔18およびピン溝19に応じた位置に加工されている。
【0023】
図のように横孔34は、計四個加工されているが、一番上のものには、施工に先立って固定ピン38を打ち込んでおく。この固定ピン38が、連結金物11のピン溝19で受け止めることで、棟木31を所定の位置に仮置きすることができる。
【0024】
図2は、図1に示す各構成要素を組み上げていく過程を示しており、図2(A)は連結金物11を柱41に固定した状態で、図2(B)は柱41と棟木31を締結した状態である。柱41と棟木31を締結する際は、まず図2(A)のように、柱41の側面に連結金物11を取り付ける必要があり、柱41に加工された段差部42の中に当接板12を収容した上、当接板12の表面から柱41に向けて釘48を打ち込む。なお当接板12の下面21は、段差部42の底面43に接触しており、この接触を介して垂直荷重が柱41に伝達していく。
【0025】
図2(A)の状態で、連結金物11の上方に棟木31を吊り上げた後、棟木31を徐々に下降させていくと、一番上の横孔34に打ち込まれた固定ピン38が差込板17のピン溝19で受け止められ、棟木31が仮置きされた状態になる。その後、残りの横孔34に固定ピン38を打ち込むと、図2(B)のように柱41と棟木31の締結が完了する。
【0026】
図3は、本発明による連結金物11の詳細形状を示している。平面から見て、当接板12は中央で直角に折れ曲がっており、この屈曲部20を境として、一方側13と他方側14の二つの領域に区画されている。施工時は、屈曲部20の内側を柱41の角部に合わせることで、一方側13と他方側14が柱41の側面に密着可能で、釘48を打ち込むと柱41と一体化する。なお柱41の内部で釘48が接触することを避けるため、左右側面図のように、一方側13と他方側14で取付孔15の高さを変えている。また差込板17は、当接板12の屈曲部20を起点として柱41から遠ざかる方向に延在しており、当接板12と差込板17によって、平面図のようにY字状の外観が形成される。
【0027】
図4は、当接板12の側端面に凹部22を設けた連結金物11の形状を示している。図2に示すように、柱41の側面に段差部42を加工して、当接板12の下面21を段差部42の底面43に接触させることで、釘48を介することなく垂直荷重を柱41に伝達できる。本図による連結金物11は、当接板12に凹部22を設けて、この凹部22の天面23も柱41に接触させることで、垂直荷重の伝達が広範囲に分散され、釘48に作用するせん断荷重が一段と軽減して、締結部の信頼性が一段と向上する。
【0028】
凹部22は、当接板12の側端面から中心に向けて水平に延びる切り抜き部分であり、この凹部22の上端面にあたる天面23は、当接板12の下面21と同様、垂直荷重の伝達を担うことができる。なお天面23が垂直荷重の伝達に寄与できるよう、柱41の側面には、あえて段差部42の加工を行わない半島部44を設ける必要がある。当然ながら半島部44は、連結金物11の凹部22に応じて加工位置を決める必要がある。そのほか本図では、当接板12の一方側13と他方側14のそれぞれに二箇所の凹部22を設けているが、この配置については自在である。
【0029】
図5は、本発明による連結金物11を棟木31の下端部で使用する形態を示しており、図5(A)は構成要素を組み上げる前で、図5(B)は構成要素を組み上げた後である。本発明による連結金物11は、図1のように棟木31の上端部を柱41に締結する場合だけではなく、本図のように下端部を締結する場合にも使用できる。ただし図5(A)のように、連結金物11の差込板17の上下面は、屈曲部20から遠ざかるに連れて上向きの勾配になっており、図1に示すものとは形状が異なる。また固定ピン38を受け止めるピン溝19は、上下両方に形成されており、連結金物11を上下反転して使用することもできる。
【0030】
棟木31の端面は、原則として図1のようにV字状の切欠32を加工して、柱41の側面に面接触させるが、荷重条件や他の部材との関係などで、本図のように切欠32を省略することがある。この場合、図5(B)のように、棟木31の端面と柱41の側面が離れてしまうが、連結金物11によって所定の強度は確保できる。
【符号の説明】
【0031】
11 連結金物
12 当接板
13 一方側(当接板の)
14 他方側(当接板の)
15 取付孔
17 差込板
18 ピン孔
19 ピン溝
20 屈曲部
21 下面
22 凹部
23 天面
31 棟木
32 切欠
33 縦溝
34 横孔
38 固定ピン
41 柱
42 段差部
43 底面
44 半島部
48 釘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱(41)の側面に対して交角を有する方向に延在する棟木(31)を柱(41)に締結するために用いられ、
屈曲部(20)を有し且つ柱(41)の二側面に接触する当接板(12)と、前記屈曲部(20)から前記当接板(12)の反対方向に延在し且つ棟木(31)の端面に形成された縦溝(33)に差し込まれる差込板(17)と、から構成され、前記当接板(12)には、柱(41)に向けて釘(48)等を挿通するための取付孔(15)を備え、また差込板(17)には、棟木(31)の側面に打ち込まれる固定ピン(38)を挿通するためのピン孔(18)を備えていることを特徴とする連結金物。
【請求項2】
前記当接板(12)には、その側端面から屈曲部(20)に向けて切り欠かれた凹部(22)を有することを特徴とする請求項1記載の連結金物。

【図1】
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【図2(A)(B)】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)(B)】
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【図6(A)(B)(C)】
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【公開番号】特開2010−270452(P2010−270452A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121093(P2009−121093)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(501138161)
【Fターム(参考)】