説明

連続多相反応及び分離のためのシステム、並びに方法

【課題】連続多相反応/分離に適しているスラリー反応器システム、並びにスラリー反応器システム中で多相反応を連続反応/分離させるための方法を提供すること。
【解決手段】このシステムは、反応容器、分離チャンバー及びフィルター要素を有している分離装置、さらには撹拌装置を具備する。フィルター要素はフィルターを有し、これは反応容器中でスラリーと接触しており、この表面上にスラリーからの固体物質が反応容器中でフィルターケイキを形成する。撹拌装置は反応容器中にスラリーの流れを発生させる。反応容器中のスラリーから、フィルターを越えて分離チャンバーの中への液体生成物のフラックスが、中断がない長期間の連続反応/分離のために実質的に一定のレベルで維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続多相反応/分離に適しているスラリー反応器システムに関する。本発明はまた、スラリー反応器システム中における多相反応の連続的な反応/分離のための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
スラリー反応器は、気体・液体・固体の三相反応用に設計された一般的なタイプの反応器である。これらのスラリー反応器は、通常、反応物(及び生成物)を収容するため大容積を有し、高発熱性の触媒反応で発生する熱を効果的に除去して、安定な運転を確保することができる。
【0003】
スラリー反応器中の固体相は、多くの場合、その関連する反応で使われている触媒粒子から構成される。触媒粒子の分散の不均一性を最小限にするため、また触媒と反応物と間の接触面積を大きくするために、粒子サイズが小さい、例えば、数十μm程度、又はより小さい触媒を用いることが望ましい。サイズが小さい触媒は、しかしながら、それらを液体生成物から分離させるのに問題を生じる。反応容器内でのスラリー相からの触媒の効率的な連続分離は、スラリー反応器設計の挑戦的な課題である。
【0004】
反応器外部の分離ユニットを用いて液体生成物をスラリー相から分離するための方法が広く用いられている。この方法は、固体触媒を含有しているスラリーを反応器から輸送するための、またより高い濃度の固体触媒を含有しているスラリーを反応器に送り返すための特殊なスラリーポンプを必要とする。触媒は壊れ易いものであり、また外部スラリー循環ループに具備されているポンプ、バルブ、さらにパイプはこの固体触媒内容物(多くの場合金属化合物である)によって容易に磨耗されるものである。これらが、大規模工業生産には重要である長期間連続運転の目標を達成する際の障害である。
【0005】
Mohedasらの米国特許第6929754号(’754特許)明細書(特許文献1)には、フィッシャー・トロプシュ反応器に用いられている、液体生成物をスラリーから取り出すための方法並びに装置が記載されている。この’754特許には、スラリーチャンバー中においてフィルター媒体を越えて液体生成物を吸い込むことによる液体生成物のスラリーからの分離が開示されているが、このスラリーチャンバーは反応器の外部に配置され、反応器からこのスラリーチャンバーへ、そして元の反応器へとスラリーを誘導するパイプ、バルブ及びポンプを介して反応器と連結されている。これらの循環送達要素は触媒(これは多くの場合金属化合物である)による磨耗を受けることがあり、定期的なクリーニング又は交換が必要となり得る。また、フィルター媒体の基体上に堆積した触媒を除去するためには分離工程の間欠的な停止が必要となる。
【0006】
内部濾過ユニットを用いた既存の液体/固体分離法では、濾過ユニット上に堆積した触媒粒子は時間の経過と共に目詰まりを引き起こす。濾過ユニットは、堆積した触媒粒子の一部を除去するために定期的にクリーニングする必要があり、それゆえ、連続反応/分離が中断される。例えば、Degeorgeらの米国特許第7008966号(’966特許)明細書(特許文献2)には、スラリー液を固体粒子から分離・濾過するための取り外し式フィルターが開示されている。この’966特許に開示されているシステムは、一般的な問題であるフィルター上への触媒堆積を防ぐための機構がないのでバッチ式のプロセスにのみ適している。触媒堆積を除去するためには逆洗浄サイクル(フィルター上への触媒粒子の目詰まりを除去するための)が必要であり、フィルターは定期的に反応容器から取り出す必要がある。
【0007】
Rytterらの国際公開第94/016807号パンフレット(特許文献3)には、処理ゾーンを画定している容器、さらにはこの処理ゾーンを部分的に包囲している濾過セクションを具備する固体/液体スラリー反応/分離装置が開示されている。フィルター上への固体粒子の蓄積(すなわち、濾過ケイキ)は、スラリーの乱流動きによって撹拌装置を用いることなく防止されている。この「セルフ・クリーニング」効果を得るためには、しかしながら、処理ゾーン中のスラリーと濾過セクション間の圧力差がフィルターの目詰まりを防ぐよう維持される必要がある(典型的には6ミリバール以下)。そうでなければ、濾過セクションから処理ゾーンへの液体逆噴流が必要とされる。低い圧力差は、分離効率、したがってシステムの生産性に制限を課すだろう。
【0008】
撹拌装置なしのスラリー反応器は、ガス反応物の均一な分散が容易に達成され得るフィッシャー・トロプシュ型反応に適していると思われる。フィッシャー・トロプシュ型反応では、反応物はガスであり、生成物は液体である。したがって、フィッシャー・トロプシュ型反応で必要とされる大量の反応物ガスは、スラリー中でガス、液体及び固体の混合を維持するのに十分なものである。しかしながら、ガス反応物及び液体反応物のいずれもが関与する固体触媒反応には、通常、連続運転用の固定床反応器を用いるのが好ましい。触媒は所定位置に保持されて動くことはなく、さらに反応は、ガス及び液体反応物が触媒を通り抜けるときには完了している。しかしながら、固定床反応器は物質移動性及び熱伝達性に乏しく、反応温度を制御又は安定化させるのが難しい。これは過度に高い反応温度をもたらし得、これは次には反応物か生成物の重合をもたらす。このようにして生成された重合体は触媒粒子内部並びに触媒粒子間の細孔を目詰まりさせ得る。高い温度は、また、触媒の結晶構造に変化をもたらすことがあり、その活性寿命を短くする。スラリー床が用いられる場合は、ガス及び液体反応物の混合は撹拌装置なしには容易に達成されない。さらに、激しい撹拌は、スラリー全体の温度を均一に維持するのに役立つ、つまりより大きな量のスラリーの効率的な分離並びにより高い生産性を可能にする。
【0009】
触媒粒子は触媒粉末に崩壊するので、連続反応運転中のスラリー反応器における液体生成物のスラリーからの連続分離は大きな課題を提起してきた。これは、触媒粉末による液体生成物分離装置の目詰まりをもたらすことがあることであり、時間の経過と共に分離効率を低下させ、又は触媒粉末は分離装置を透過して液体生成物と一緒に回収されるのでスラリー系中の触媒が徐々に喪失する。反応容器中に液体/固体分離装置を含めることは反応に利用可能な体積を減少させる、つまりシステムの生産性を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6929754号明細書
【特許文献2】米国特許第7008966号明細書
【特許文献3】国際公開第94/016807号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、既存のシステム並びに方法の欠点を回避して、高生産性のための長期間安定で且つ中断がない運転をもたらすスラリー反応器中での連続多相反応/分離のためのシステム、並びに方法を開発しようとする、未だ満たされていないニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様により、反応容器中のスラリーから液体生成物を連続分離するための方法が提供される。この方法は、以下:
(a)反応容器、分離装置、及び撹拌装置を備えるシステムであって、この分離装置が分離チャンバー及びフィルター要素を有し、このフィルター要素がフィルターを有し、このフィルターが反応容器中でスラリーと接触しており、スラリーからの固体物質が反応容器中でフィルターの表面上にフィルターケイキを形成する、前記システムを提供する段階;
(b)撹拌装置を用いて反応容器中にスラリーの流れを発生させる段階;及び
(c)液体生成物のフラックスを反応容器中のスラリーからフィルターを越えて分離チャンバーの中へと実質的に一定のレベルで維持すること;
を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、この方法の分離装置は、複数のフィルター要素を有している。特定の実施形態では、この複数のフィルター要素は連結されている。
【0014】
いくつかの実施形態では、フラックスは少なくとも6ヶ月間維持される。他の実施形態では、フラックスは0.05〜0.5m/(h・m)に維持される。
【0015】
一実施形態では、この方法にはフィルターケイキの厚みを制御することがさらに含まれる。例えば、フィルターケイキの厚みは実質的に一定に維持され得る。一部の実施形態では、このフィルターケイキの厚みは、少なくとも6ヶ月間は5〜50mmの範囲内で実質的に一定に維持され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、この方法は、反応容器と分離チャンバーとの間の圧力差を実質的に一定に維持することをさらに含む。圧力差は、0.1〜3バールの範囲内、さらに好ましくは0.2〜2バールの範囲内であり得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、この固体物質は、直径が1〜250μmの平均粒子サイズを有している触媒である。
【0018】
本発明のもう1つの態様により、反応容器中のスラリーから液体生成物を連続分離するためのシステムが提供される。このシステムは、以下:
(a)液体生成物及び固体物質を含むスラリーが存在している反応容器;
(b)分離チャンバー及びフィルター要素を備える分離装置であって、フィルター要素がフィルターを有し、このフィルターが反応容器中でスラリーと接触しており、固体物質が反応容器中でフィルターの表面上にフィルターケイキを形成する、前記分離装置;及び
(c)撹拌装置であって、この撹拌装置が反応容器中にスラリーの流れを発生させ、液体生成物のフラックスが反応容器からフィルターを越えて分離チャンバーの中へと実質的に一定のレベルで維持される、前記撹拌装置;
を備えている。
【0019】
いくつかの実施形態では、このシステムはさらに反応容器と分離チャンバーとの間の圧力差を実質的に一定に維持するための手段を具備している。
【0020】
一部の実施形態では、フィルターケイキの厚みは5〜50mmの範囲内にある。
【0021】
いくつかの実施形態では、このシステムの分離装置は、複数のフィルター要素を具備している。特定の実施形態では、この複数のフィルター要素は連結されている。
【0022】
本発明の他の特徴及び利点は、以下にある図面、詳細な説明、さらには特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による例示的な工程構成を示す図である。
【図2A】本発明の一部の実施形態に従って液体生成物をスラリーから分離するための分離装置の構造を示す図であって、その分離装置の上面図である。
【図2B】本発明の一部の実施形態に従って液体生成物をスラリーから分離するための分離装置の構造を示す図であって、図2Aの対応する側面図である。
【図2C】反応容器中に配置された複数の分離装置の上面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、連続多相反応・分離のためのシステム並びに方法を提供するものである。分離は、反応容器中に収容されている1又は複数の分離装置を用いて達成される。それぞれの分離装置はフィルター要素を具備し、これはさらにフィルターを具備し、これは反応容器中でスラリーと接触している。分離装置はさらに分離チャンバーを具備している。反応容器から分離チャンバーの中へと抜けるスラリーのフラックスは所望のレベルで長期間維持され得るので、中断のない工業用途に適している。本発明によってもたらされるこれら及び他の利点及び効果は当業者には本明細書にある記載に基づいてまた図面及び実施例を参照することによって容易に明らかであろう。
【0025】
本発明の連続反応/分離反応器システムを模式的に表したものを図1に示す。ある量のスラリーを収容するための反応容器100が設けられている。スラリーが表面110を形成しているが、これは動的なものであり、反応容器中のスラリーの動きと共に変動し得るものである。反応容器100は、場合により、反応系の過剰の熱を除去するための、又は反応温度を維持するために付加的な熱を供給するための、熱伝達目的のためのジャケット120によって部分的に包囲されている。
【0026】
本発明の反応システムは、1又は2種のガスが反応して液体生成物を生成するフィッシャー・トロプシュ型反応に適しているのみならず、複数反応物のうちの1つが液体である反応にも適している。前者のケースでは、合成ガスは、好ましくは反応容器の底近くに配置された、反応容器中にあるガス分散器130に導入され得る。後者のケースでは、ガス反応物は上記と同じくガス分散器130に導入され得、また液体反応物の収容器140からの液体反応物は、液体反応物送達ポンプ150を通って導入され得る。未使用の触媒は触媒収容器160から導入され得る。触媒は連続反応/分離の間に徐々にその活性を喪失することがあり、そしてその失活した触媒は、反応容器の出口から使用済み触媒収容器170へと反応/分離の連続工程を中断することなく除去され得る。
【0027】
反応容器中のスラリーから液体生成物を連続的に分離・抜き出しするための分離装置210が設けられている。一実施形態では、この分離装置は、フィルター要素及び分離チャンバーを具備している。このフィルター要素は、反応チャンバー中のスラリーと接触しており、濾過機能を有するフィルターを備えている。このフィルターは、平均細孔サイズが1ミリメーター以下程度、より好ましくは平均細孔サイズが100μm以下、さらにより好ましくは平均細孔サイズが10μm以下の微多孔質基体であり得る。フィルター部材は、限定するものではないが、焼結された金属メッシュ、焼結された金属粉末、微多孔質金属膜、焼結された金属線維微多孔質材、微多孔質セラミック、セラミック製メンブレン、さらにはこれらの任意の混合材を含む、各種の材質から選択され得る。フィルター要素は、限定するものではないが、細長いスラブ又はシリンダーを含む、さまざまな形状を取り得る。フィルター部材は、フィルター要素の内側にある空洞部を囲む、所定厚みを有する壁を形成していてもよい。あるいは、フィルター要素は、実質的にフィルター部材で満たされていてもよい。フィルター要素が、軸方向長さ/直径比が高い円筒形状をとる場合は、実用的には、濾過抵抗がより低くなるよう、また分離効率が改善されるように、内部空洞部が相対的に大きく、フィルター部材からなる相対的に薄い壁を有しているのが好ましい。
【0028】
分離チャンバーとは、本明細書で使われる場合、濾過液体を収容するための分離装置中にある空間部をいい、この空間部は反応容器中のスラリーからはフィルターによって離隔されている。この分離チャンバーはフィルター要素の内側又は外側であり得る。例えば、フィルター部材が、フィルター要素内部の空洞部を包囲している、所定厚みを有する壁を形成する場合は、フィルター要素内側の空洞部が分離チャンバーを構成する。あるいは、フィルター要素が実質的にフィルター部材で満たされている場合は、分離チャンバーは、フィルター要素の外側、例えば、分離装置から濾過液体を取り出すために用いられている管路の中に形成されているとみなされ得る。
【0029】
反応容器中のスラリーが分離装置に取り出されるときに、固体内容物(主に触媒粒子)はフィルターによって遮断されるのに対して、スラリー中の液体はフィルターを越えて分離チャンバーの中へと透過し、濾液となる。いくらかの触媒粒子はフィルター上に堆積し得るが、残りの触媒粒子はスラリー相に戻る。濾液はこのあと分離チャンバーの出口から外部凝縮器220に抜き出され得る(パイプ等の管路を経て)。ガス反応物もフィルターを越えて透過し、濾過液体と一緒に凝縮器220へと抜き出され得るので、凝縮器220は液体及びガスを分離するために妥当な温度及び妥当な圧力に維持され得る。複数反応物のうちの1つが反応条件下において液体状態である場合は、分離された濾過液体は液体生成物に加えて液体反応物を含み得る。そのような複数液体の混合物はさらなる分離に付され得る。
【0030】
濾過工程は、反応容器と分離チャンバー内側との間に圧力差をつくることによって促進され得る(反応容器中の圧力が分離チャンバー中の圧力よりも高いものとする)。この圧力差は、反応容器中のスラリー表面の上のガス相の圧力と分離チャンバー中のガス圧との差によって調節され得る。したがって、濾液のフラックス(すなわち、単位時間中にフィルターの単位面積を透過する濾過液体の量)は、この圧力差を調整することによって少なくとも部分的には調節され得る。反応容器中のガス圧は、ガス分散器におけるガス放出速度を変えることによって、又はスラリー表面110の上のガス圧を調整することによって調整され得る。さらに、スラリー表面110の上のガス相は、ガス圧調整機構を具備する外部凝縮器230に流体連通で連結され得る。そのようなケースでは、凝縮器230中のガス相圧力及び反応容器100中のガス相圧力をそれぞれ測定する圧力計240及び250は実質的に同じ値を示すだろう。同様に、分離チャンバー中のガス圧は、分離チャンバーと流体連通にある凝縮器220中にある機構によって調整され得る。そのようなケースでは、圧力計260によって読み取られる凝縮器220のガス圧は、分離チャンバー中の濾過液体のガス圧に等しい。
【0031】
本明細書に図示されているシステムは、圧力差、例えば、0.1〜3バール、さらに好ましくは0.2〜2バールを維持するよう構成され得る。より高い圧力差は、フィルターを越えての濾液のより大きいフラックスを促進するので、より高い生産性がもたらされる。注意すべきこととして、適用できる圧力差は、用いられているその特定のフィルター部材及び/又はフィルター要素の構造特性によって制限されることがあり、さらには過度に高い圧力差はフィルター要素の損傷及び分離工程の不安定性を引き起こし得る。安定で長期間の連続運転には、反応容器と分離チャンバー間の圧力差が実質的に一定に維持されることが好ましい。
【0032】
濾過工程が続行されると共に反応系中の固体粒子(例えば、触媒粒子)からなるフィルターケイキがフィルターの表面に蓄積(又はフィルター要素の中に浸透)することがある。フィルターケイキを形成するそのような堆積物はフィルターを目詰まりさせ、濾過抵抗を大きくし、濾過効率を下げ、最終的には反応工程を停止して分離装置を清掃又は交換することが必要となることがある。しかしながら、フィルターケイキは、同時に、小さい触媒粒子(フィルター部材の細孔サイズよりも小さい)がフィルターを通り抜けることを防止することができ、これによって濾液の質が改善され(すなわち、より低い固形分含量)、触媒の再利用も促進される。反応/分離工程の生産性を決める、分離チャンバーの中へ浸透していく液体のフラックスは、先に述べた圧力差だけでなく、フィルター部材の特性(例えば、平均細孔サイズ)及びフィルターケイキの特性(例えば、厚み、一体性、圧縮度、他)によっても左右される。フィルターケイキの一貫した特性を維持することは液体/固体分離の効率と反応系の総合生産性との間の最適なバランスを達成するためには望ましいことである。
【0033】
本発明は、フィルターケイキの特性を調節することによって諸欠点を回避するという効果的な方法を提供するものである。反応容器内部でスラリーの流れを発生させて分離チャンバーの中へ透過していく濾過液体の安定したフラックスを維持するのに役立つ撹拌装置が具備されている。いかなる特定の理論にも縛られるものではないが、撹拌装置によって発生されるスラリーの流れパターンがフィルターケイキの特性を調節することについての鍵を握っていると考えられる。ある種の流れパターンはフィルターケイキの一部を浸食又は崩壊させるのにより効果的であり得、さらにはその蓄積と崩壊により、フィルターケイキの特性(厚み等)が実質的に一定に維持され得るような均衡状態に到達し得る。そのようなパターンには軸方向成分と半径方向成分(円筒状反応容器の軸に対して)のいずれもが含まれ得る。フィルター要素が実質的に垂直に設置されるケース(軸方向と平行に大きな表面積を生じる)では、軸方向に相次ぐ流れの速度が分離装置近傍で大きければ大きいほど、フィルターケイキはより効果的に崩壊され得る。一方、半径方向に相次ぐ流れ(すなわち、フィルター表面に垂直である流れ)は、スラリー中の液体成分が分離チャンバー中に透過していくのにさらなる推進力を与えるものであり、これによってフラックスが増大され、分離効率も改善される。
【0034】
そのような調節効果を達成するための撹拌装置は撹拌要素310を含み得、好ましくは据付モーター330の回転シャフト320の下部末端に取り付けられる。撹拌要素310は、分離装置210の表面を下から上にかするような軸方向成分をかなり有する、矢印340によって図示されている流れパターンを生じさせる。撹拌要素310はインペラー(羽根車)であってよく、例えば船舶タイプのViscoprop、あるいは任意の他の適しているタイプ、例えば、低〜中粘度を有するスラリー中で十分に強力な軸方向流れ(すなわち、底部から上部への動きを特徴とする流れ)をつくることができるISOJETである。撹拌装置の動力は、スラリーのかする動きが分離装置210上に堆積したフィルターケイキの特性(厚み等)を制御することができるレベルに調整され得る。
【0035】
撹拌装置は、さらにインペラー装置310の上に配置された第2の撹拌要素350を含み得る。この第2の撹拌要素350はガスジェットインペラーであり得る。ガスジェットインペラーはスラリー表面110の上から真空シャフトの中へガス相を引き入れ、そのガスを回転ブレードの先端から噴出するものであり、これによってスラリー中に強力な剪断力がつくられ、強力な半径方向成分を有する流れパターンをつくるのに役立つ。
【0036】
第2の撹拌要素350は、反応にガス反応物及び液体反応物のいずれもが関与する場合は、第2の撹拌要素によってつくられる細かいガスバブルがガス反応物と液体反応物間の接触面積をさらに大きくしてそれらの反応を促進するので特に有用である。これは、第1の撹拌要素を動かすのと同じモーター330によって動かされ得る。
【0037】
分離装置210には複数のフィルター要素211が具備されていてもよく、図2A(上面図)及び図2B(側面図)に図示されているように、すべて液体回収チャンバー212と流体連通で連結されている。そのようなケースでは、分離装置の分離チャンバーは液体回収チャンバーと接続又は合流されている。図2B中の矢印は、スラリー中の液体がフィルター要素211を透過し、液体回収チャンバー212に入り、さらにはその後に外部凝縮器220(図示されていない)に輸送される方向を図示するものである。この複数のフィルター要素はそれぞれ互いに実質的に平行に配置することによってその充填密度を大きくすることができ、また好ましくは実質的に垂直(又は撹拌装置の回転シャフト320と平行)に配置する。これらは保持手段213(図2B)で固定してもよく、これは各フィルター要素間の所望の間隔及び構造的安定性を維持するのに役立つ。
【0038】
さらには、反応容器中には、例えば、図2Cに図示されているように、その周囲に沿って複数の分離装置を配置することもできる。1つの分離装置に多数のフィルター及び/又は1つの反応容器中に多数の分離装置を用いると分離装置の有効処理面積がさらに大きくなり、分離効率も改善される。
【0039】
本発明に適している触媒は、直径が1〜250μmの固体粒子の形態であり得、重量濃度をスラリー相の5〜50%とすることができる。乱流スラリー中では触媒はさらなる破壊を受けることがあり、最初に反応系に供給された触媒粒子よりも小さい触媒粒子をもたらし得る。
【0040】
上述した反応/分離システム並びに方法は所望生産性レベルでの長期間の安定な運転を可能にするものである。例えば、圧力差及び撹拌装置のスピードを調節することにより、フィルターを越える分離チャンバーへの濾過液体のフラックスは実質的に一定のレベル、例えば、0.05〜0.5m/(h・m)の範囲、さらには好ましくは0.08〜0.33m/(h・m)に維持され得る。ここで留意すべきは実質的に一定のフラックスは反応物も反応容器の中に実質的に一定のレベルで供給されることを強いるであろうということで、その結果反応容器中のスラリーの量は連続安定反応のために維持される。この実質的に一定のフラックスは、少なくとも6ヶ月間、好ましくは少なくとも12ヶ月間、フィルターを逆洗浄する必要なしに、又はフィルターを交換又はクリーニングするために反応を停止することなしに維持され得る。フィルターケイキの厚みは、5〜50mm、好ましくは20〜30mmの範囲内で、少なくとも6ヶ月間、好ましくは少なくとも12ヶ月間は実質的に一定に維持され得る。フィルターケイキの厚みは時間と共に変動することがあるが、圧力差を調整することによって分離装置に抜ける濾液の実質的なフラックスを維持することができる。
【0041】
本明細書で使われている「実質的な」又は「実質的に」という用語は、量を修飾する場合、量の偏差が望まれている又は予め決められている値の10%より多くは超えないということを意味する。望まれている又は予め決められている値が与えられていない場合は、この用語は、同じ量の複数測定の標準偏差が複数測定結果の平均の10%を超えないということを意味する。方向又は平行性を修飾する場合は、この用語は、方向又は平行性の偏差が、望まれている又は予め決められている方向又は平行性から10度は越えないということを意味する。
【実施例】
【0042】
以下の実施例は単に本発明のいくつかの実施形態の一部の態様を説明するものである。本発明の範囲は、本明細書に例示されている実施形態によっては決して限定されるものではない。
【0043】
(実施例1:ソルビトール水素添加)
この実施例は、反応物にソルビトール及び水素ガスが含まれるソルビトール水素添加のための連続反応/分離で用いられた本発明のいくつかの実施形態の結果を説明するものである。3つの実験設定、すなわち、実験室スケール、中間スケール、さらには製造スケールでソルビトール水素添加を行うための条件及び結果が以下の表1に記載されている。製造スケールでは、ソルビトール水素添加は、中断することなしに6ヶ月間運転され、この間反応系の温度は安定に維持され、さらには分離装置の効率の低下も観察されることはなかった。圧力差は、実質的に一定に維持され、平均触媒活性及び選択性も実質的に一定に維持された。
【0044】
(表1:ソルビトール水素添加のための諸条件)
【表1】

【0045】
(実施例2:混合ポリオール水素添加)
この実施例では、反応容器の容積が7mで、フィルターの総表面積が16.2mである中間スケールの実験設定を採用した。反応/分離は連続的に132日間行われたが、3つの段階で行った。最初の40日では、反応物はソルビトール及び水素ガスであった。41日から80日までは、液体反応物を、ソルビトール及びグリセロール、並びにそれらの二量体、三量体及び四量体も含んでいる混合ポリオールに変えた。81日の日に、液体反応物を元の純粋ソルビトールに切り換え、さらに反応を132日の終りまで続けた。この132日間の過程においては、分離装置に抜けるフラックスは2.45m/時の一定値に維持されたが、圧力差は0.20バール〜0.40バールの範囲内で動的に調節し、一定のフラックスを維持するのに役立てた。この一定フラックスは、各関連段階の液体反応物のフィード量にだいたい対応するものであった。
【0046】
本出願で言及された全特許の開示内容は本明細書にその全体が参照により組み込まれる。
【符号の説明】
【0047】
100 反応容器
110 表面
120 ジャケット
130 ガス分散器
140 液体反応物収容器
150 液体反応物送達ポンプ
160 触媒収容器
170 使用済み触媒収容器
210 分離装置
220 凝縮器
230 外部凝縮器
240 圧力計
250 圧力計
260 圧力計
310 撹拌要素
320 回転シャフト
330 据付モーター
340 矢印
350 第2の撹拌要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器中のスラリーから液体生成物を連続分離するための方法であって、
(a)反応容器、分離装置、及び撹拌装置を備えるシステムであって、該分離装置が分離チャンバー及びフィルター要素を有し、該フィルター要素がフィルターを有し、該フィルターが反応容器中でスラリーと接触しており、スラリーからの固体物質が反応容器中でフィルターの表面上にフィルターケイキを形成する、前記システムを提供する段階;
(b)撹拌装置を用いて反応容器中にスラリーの流れを発生させる段階;及び
(c)液体生成物のフラックスを、反応容器中のスラリーからフィルターを越えて分離チャンバーの中へと実質的に一定のレベルで維持する段階;
を含む前記方法。
【請求項2】
フラックスが、少なくとも6ヶ月間維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フラックスが、0.05〜0.5m/(h・m)の範囲内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分離装置が、複数のフィルター要素を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
複数のフィルター要素が連結されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、フィルターケイキの厚みを制御する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
フィルターケイキの厚みが実質的に一定に維持される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
フィルターケイキの厚みが、5〜50mmの範囲内に少なくとも6ヶ月間維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに、反応容器と分離チャンバーとの間の圧力差を実質的に一定に維持する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
圧力差が0.1〜3バールの範囲内にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
圧力差が0.2〜2バールの範囲内にある、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
固体物質が、直径が1〜250μmの平均粒子サイズを有する触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
(a)液体生成物及び固体物質を含むスラリーが存在している反応容器;
(b)分離チャンバー及びフィルター要素を有する分離装置であって、該フィルター要素がフィルターを有し、該フィルターが反応容器中でスラリーと接触しており、固体物質が反応容器中でフィルターの表面上にフィルターケイキを形成する、前記分離装置;及び
(c)撹拌装置であって、該撹拌装置は反応容器中にスラリーの流れを発生させ、液体生成物のフラックスが、反応容器からフィルターを越えて分離チャンバーの中へと実質的に一定のレベルで維持される、前記撹拌装置;
を備える、反応容器中のスラリーから液体生成物を連続分離するためのシステム。
【請求項14】
さらに、反応容器と分離チャンバーとの間の圧力差を実質的に一定に維持するための手段を備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
フィルターケイキの厚みが5〜50mmの範囲内にある、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
分離装置が、複数のフィルター要素を有している、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
複数のフィルター要素が連結されている、請求項16に記載のシステム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公開番号】特開2010−89086(P2010−89086A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−231141(P2009−231141)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(509277350)グローバル バイオ−ケム テクノロジー グループ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】