説明

連続成膜装置及び連続成膜方法

【課題】高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することができる連続成膜装置を提供する。
【解決手段】連続成膜装置は、第2の蒸着室214と、それに繋げられた第3の蒸着室215と、第2の蒸着室内から第3の蒸着室内へ基板10を搬送する搬送機構と、第2の蒸着室内に配置され、前記基板の搬送方向に並べて配置された複数の第3の蒸着源14と、第3の蒸着室内に配置され、前記搬送方向に交互に並べて配置された第4の蒸着源15a〜15c及び第5の蒸着源16a,16bと、を具備し、第3の蒸着室において最も第2の蒸着室側に配置される蒸着源は第4の蒸着源15aであり、第4の蒸着源は、ホスト材料を有し、第5の蒸着源は、ドーパント材料を有し、第3の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位は、前記ホスト材料のHOMO準位に揃えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着源を用いた連続成膜装置及び連続成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の発光素子の作製装置にはインライン型連続成膜装置がある(例えば、特許文献1)。インライン型連続成膜装置は、一列に並べて配置され互いに繋げられた複数の蒸着室と、複数の蒸着室の内部で基板を搬送する搬送機構を有している。複数の蒸着室それぞれは基板の搬送方向に一列に並べて配置された複数の線状蒸着源を有しており、複数の線状蒸着源それぞれの長手方向は基板の搬送方向に対して垂直に且つ互いに平行に配置されている。このようなインライン型連続成膜装置では、複数の蒸着室内で基板を搬送しながら、基板に設けられた陽極上に、複数の蒸着源によってEL層を連続的に形成することができる。なお、EL層は少なくとも発光層を含み、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等を必要に応じて積層して構成することができる。
【0003】
発光層は、発光物質であるドーパント材料をホスト材料に混合させた構成が発光効率を高める上で好ましい。ホスト材料としては、ドーパント材料(または可視光を発する発光物質)の最高被占有軌道(HOMO:Hightest Occupied Molecular Orbital)準位(以下、「HOMO準位」という。)よりも深いHOMO準位を備える材料が好適である。なお、ドーパント材料とホスト材料は物性が異なり、その混合比率を適宜調整して発光層を作製するには、それぞれの蒸着源を独立して制御する必要がある。このため、上記のインライン型連続成膜装置では、ドーパント材料の線状蒸着源とホスト材料の線状蒸着源を交互に配置して隣り合う線状蒸着源によってホスト材料にドーパント材料を混合させながら成膜される。
【0004】
一方、陽極に用いる材料としては、有機化合物に比べて高い導電性を備える金属や金属酸化物などが好適である。電力の損失を抑えることができるからである。しかし、金属や金属酸化物などの仕事関数は、発光層に含まれる材料のHOMO準位に比べて浅く、その差は陽極から発光層に含まれる材料いずれについてもホールを流し込むことを困難にしてしまう。
【0005】
そこで、陽極の仕事関数より深く且つ発光層に含まれる材料よりも浅いHOMO準位を有する材料を用いて、陽極と発光層の間にホール輸送層を形成し、陽極の仕事関数と発光層に含まれる材料のHOMO準位の不一致を緩和する構成が知られている。ホール輸送層を設けることにより、発光層に含まれる比較的HOMO準位が浅い材料(例えば、発光物質)を介して、陽極からホールが発光層に流れやすくなる。
【0006】
しかし、インライン型連続成膜装置では、ホール輸送層と発光層の界面にドーパント材料である発光物質のみを含む単独層、あるいは発光層に含まれる材料のうちHOMO準位が最も深いホスト材料のみを含む単独層が形成されやすい。発光物質のみを含む単独層が形成されると、発光物質が濃度消光を起こしてしまう。また、ホール輸送層を形成する材料のHOMO準位とホスト材料のHOMO準位との差が大きい場合、ホスト材料のみを含む単独層が形成されると、ホール輸送層から発光層にホールが流れにくくなる。したがって、単独層が形成されると発光素子の駆動電圧の上昇や発光効率の低下を招く。なお、本明細書において、「単独層」とは、単一の材料からなる層を指す。
【0007】
特に、発光素子を量産する場合には、発光素子を効率的に作製することが求められるため、線状蒸着源による蒸着速度及び基板の搬送速度は高速に設定され、高速で成膜が行われる。しかし一方で、このように成膜速度を高速化すると、ホール輸送層と発光層の界面に上記の単独層が特に形成されやすくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−261109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様は、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することを課題とする。また、本発明の一態様は、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様では、ホール輸送層と発光層との間に形成される単独層が、発光層のホスト材料からなる。発光層のホスト材料のHOMO準位は、ホール輸送層の材料のHOMO準位と揃えられている。このように、敢えてホスト材料の単独層をホール輸送層と発光層との間に形成することにより、発光物質の単独層が形成されるのを防ぎ、発光素子の発光効率が低下することを抑制する(濃度消光を抑制する)ことができる。さらに、ホスト材料の単独層が形成されても、該ホスト材料のHOMO準位は、ホール輸送層の材料のHOMO準位と揃えられているため、ホールは発光層に潤滑に輸送され、発光素子の駆動電圧の上昇や発光効率の低下を抑制することができる。
【0011】
本発明の一態様は、第1の蒸着室と、前記第1の蒸着室に繋げられた第2の蒸着室と、前記第1の蒸着室内から前記第2の蒸着室内へ基板を搬送する搬送機構と、前記第1の蒸着室内に配置された第1の蒸着源と、前記第2の蒸着室内に配置され、前記搬送方向に並べて配置された第2の蒸着源及び第3の蒸着源と、を具備し、前記第2の蒸着室において最も前記第1の蒸着室側に配置される蒸着源は前記第2の蒸着源であり、前記第2の蒸着源が有する材料のHOMO準位は、前記第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位に揃えられており、前記第3の蒸着源が有する材料のHOMO準位は、前記第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位と揃えられていないことを特徴とする連続成膜装置である。
【0012】
また、本発明の一態様において、前記第2の蒸着源及び前記第3の蒸着源は交互に配置されており、前記第2の蒸着源が有する材料はホスト材料であり、前記第3の蒸着源が有する材料はドーパント材料であるとよい。
【0013】
また、本発明の一態様において、前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内で搬送しながら、前記基板上に前記第1の蒸着源によって第1の蒸着層を成膜し、前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内から前記第2の蒸着室内に搬送しながら、前記第1の蒸着層上に前記第2の蒸着源によってホスト材料層を成膜し、前記ホスト材料層上に前記第2の蒸着源及び前記第3の蒸着源によって前記ホスト材料に前記ドーパント材料が混合された第2の蒸着層を成膜するとよい。
【0014】
上記の本発明の一態様によれば、第2の蒸着源が有する材料のHOMO準位が第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位に揃えられているため、第1の蒸着層と第2の蒸着層との間に形成される単独層に含まれるホスト材料のHOMO準位を、第1の蒸着層の材料のHOMO準位と揃えることができる。
【0015】
また、本発明の一態様において、前記第1の蒸着源の蒸着材料は、ホール輸送層を形成する材料であり、前記ホスト材料に前記ドーパント材料を混合した材料は、発光層を形成する材料であるとよい。
【0016】
上記の本発明の一態様によれば、ホール輸送層を形成する材料のHOMO準位をホスト材料のHOMO準位に揃えることができるため、高速成膜で発光層を成膜しても、発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の一態様において、前記第2の蒸着室内には、前記搬送方向に並べて前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び第4の蒸着源が配置され、前記第2の蒸着室には、前記第2の蒸着源の隣に前記第3の蒸着源または前記第4の蒸着源が配置され、前記第3または前記第4の蒸着源の一方は、ホスト材料を有し、前記第3または前記第4の蒸着源の他方は、ドーパント材料を有し、前記第2の蒸着源が有する材料は、補助ドーパント材料であるとよい。
【0018】
また、本発明の一態様において、前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内で搬送しながら、前記基板上に前記第1の蒸着源によって第1の蒸着層を成膜し、前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内から前記第2の蒸着室内に搬送しながら、前記第1の蒸着層上に前記第2の蒸着源によって補助ドーパント材料層を成膜し、前記補助ドーパント材料層上に前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び前記第4の蒸着源によって前記ホスト材料に前記ドーパント材料及び前記補助ドーパント材料が混合された第2の蒸着層を成膜するとよい。
【0019】
上記の本発明の一態様によれば、第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位が補助ドーパント材料のHOMO準位に揃えられているため、ホールが第1の蒸着層から第1の蒸着層と第2の蒸着層との間に形成される単一の材料を含む単独層である補助ドーパント材料層に流れやすくなる。
【0020】
また、本発明の一態様において、前記第1の蒸着源の蒸着材料は、ホール輸送層を形成する材料であり、前記ホスト材料に前記ドーパント材料及び前記補助ドーパント材料を混合した材料は、発光層を形成する材料であることが好ましい。
【0021】
上記の本発明の一態様によれば、高速成膜で発光層を成膜しても、ホール輸送層を形成する材料のHOMO準位を補助ドーパント材料のHOMO準位に揃えることができるため、発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0022】
本発明の一態様は、基板上に第1の蒸着源によって第1の蒸着層を成膜し、前記第1の蒸着層上に第2の蒸着源によって第2の蒸着層を成膜し、前記第2の蒸着層上に前記第2の蒸着源及び第3の蒸着源によって前記第2の蒸着源が有する材料に前記第3の蒸着源が有する材料が混合された第3の蒸着層を成膜する方法であって、前記第2の蒸着源が有する材料のHOMO準位は、前記第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位に揃えられていることを特徴とする連続成膜方法である。
【0023】
また、本発明の一態様において、前記第2の蒸着源が有する材料はホスト材料であり、前記第2の蒸着層はホスト材料層であり、前記第3の蒸着源が有する材料はドーパント材料であり、前記第3の蒸着層は前記ホスト材料に前記ドーパント材料が混合された層であるとよい。
【0024】
上記の本発明の一態様によれば、第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位は、ホスト材料のHOMO準位に揃えられているため、第1の蒸着層と第2の蒸着層との間に形成される単独層に含まれるホスト材料のHOMO準位を、第1の蒸着層を形成する材料のHOMO準位に揃えることができる。
【0025】
また、本発明の一態様において、前記第1の蒸着層、前記第2の蒸着層及び前記第3の蒸着層は、前記基板を第1の蒸着室内から第2の蒸着室内へ搬送しながら成膜され、前記第1の蒸着室は、前記第1の蒸着源を有し、前記第2の蒸着室は、前記搬送方向に交互に並べて配置された前記第2の蒸着源及び前記第3の蒸着源を有し、前記第2の蒸着室において最も前記第1の蒸着室側に配置される蒸着源は前記第2の蒸着源であるとよい。
【0026】
また、本発明の一態様において、前記第2の蒸着源が有する材料は補助ドーパント材料であり、前記第2の蒸着層は補助ドーパント材料層であり、前記第3の蒸着層を成膜する際は、前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び第4の蒸着源によって成膜され、前記第3の蒸着源が有する材料はドーパント材料であり、前記第4の蒸着源が有する材料はホスト材料であり、前記第3の蒸着層は、前記ホスト材料に前記ドーパント材料及び前記補助ドーパント材料が混合された層であるとよい。
【0027】
上記の本発明の一態様によれば、第1の蒸着源の蒸着材料のHOMO準位は、補助ドーパント材料のHOMO準位に揃えられているため、第1の蒸着層と第2の蒸着層との間に形成される単一の材料を含む単独層である補助ドーパント材料層を、第1の蒸着層を形成する材料のHOMO準位に揃えることができる。
【0028】
また、本発明の一態様において、前記第1の蒸着層、前記第2の蒸着層及び前記第3の蒸着層は、前記基板を第1の蒸着室内から第2の蒸着室内へ搬送しながら成膜され、前記第1の蒸着室は前記第1の蒸着源を有し、前記第2の蒸着室は、前記搬送方向に並べて配置された前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び前記第4の蒸着源を有し、前記第2の蒸着室において最も前記第1の蒸着室側に配置される蒸着源は前記第2の蒸着源であるとよい。
【0029】
また、本発明の一態様において、前記第1の蒸着層は、ホール輸送層であり、前記第3の蒸着層は、発光層であるとよい。
【0030】
上記の本発明の一態様によれば、ホール輸送層を形成する材料のHOMO準位をホスト材料のHOMO準位に揃えることができるため、高速成膜で発光層を成膜しても、発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【0031】
また、上記の本発明の一態様によれば、高速成膜で発光層を成膜しても、ホール輸送層を形成する材料のHOMO準位を補助ドーパント材料のHOMO準位に揃えることができるため、発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0032】
また、本発明の一態様において、前記第1の蒸着層を成膜する前の前記基板上には電極が形成されているとよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一態様を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【0034】
また、本発明の一態様を適用することで、第1の蒸着層と第2の蒸着層との間に形成される単一の材料を含む単独層を形成する材料のHOMO準位を、第1の蒸着層を形成する材料のHOMO準位に揃え、且つ当該材料を第2の蒸着層に混合することにより、ホールを単独層から発光層に流れやすくすることができる。
【0035】
また、本発明の一態様を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(A)は本発明の一態様に係るインライン型連続成膜装置の全体構成を模式的に示す平面図、(B)は(A)に示すインライン型連続成膜装置の一部の上面図、(C)は(B)に示すインライン型連続成膜装置の一部の側面図、(D)は(C)に示す蒸着室215で発光層が成膜される様子を示す断面図。
【図2】図1に示すインライン型連続成膜装置により成膜される膜の構成を示す断面図。
【図3】図1(D)に示すホール輸送層22、ホスト材料層23及び混合材料層24に含まれる材料のHOMO準位を示す模式図。
【図4】(A)は本発明の一態様に係るインライン型連続成膜装置の全体構成を模式的に示す平面図、(B)は(A)に示すインライン型連続成膜装置の一部の上面図、(C)は(B)に示すインライン型連続成膜装置の一部の側面図、(D)は(C)に示す蒸着室215で発光層が成膜される様子を示す断面図。
【図5】図4に示すインライン型連続成膜装置により成膜される膜の構成を示す断面図。
【図6】図4(D)に示すホール輸送層22、補助ドーパント材料層23a及び混合材料層24に含まれる材料のHOMO準位を示す模式図。
【図7】(A)および(B)は本発明の一態様に係る発光素子の構成例1を模式的に示す断面図、(C)は本発明の一態様に係る発光素子の構成例2を模式的に示す断面図。
【図8】(A)および(B)は本発明の一態様に係る発光素子の構成例3を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0038】
(実施の形態1)
本実施の形態で例示する発光素子の作製装置であるインライン型連続成膜装置の全景は図1(A)に示すとおりである。インライン型連続成膜装置200は、前処理部212、第1の蒸着室213、第2の蒸着室214、第3の蒸着室215、第4の蒸着室216、第5の蒸着室217、第6の蒸着室218、並びに後処理部219を備える。
【0039】
前処理部212はローダ部212aと前処理室212bを備える。ローダ部212aは大気圧で搬入される複数の基板10を蓄え、図示されない排気手段により蒸着可能な圧力まで減圧するための部屋である。なお、本実施の形態では、予め第1の電極11が形成されている基板10を用いる場合について説明する。前処理室212bでは、前処理により基板10に付着した不純物を除去する。前処理としては、例えば真空加熱処理やUV照射処理などをその例に挙げることができる。
【0040】
後処理部219は受け渡し室219a、封止室219b並びにアンローダ部219cを備える。受け渡し室219aは、減圧された環境に置かれている基板10を大気圧に移送するための部屋であり、図示されない排気手段と高純度の不活性ガスの充填手段を有する。封止室219bは基板10上に成膜した蒸着膜を覆う封止材を設ける部屋であり、封止材は蒸着膜を大気から保護する。
【0041】
第1乃至第6の蒸着室213〜218それぞれは、相互間に緩衝部213a〜218aを備え、緩衝部213a〜218aを介して隣接する蒸着室と接続されている。緩衝部を設けることにより、蒸着中の膜に隣接する蒸着室から飛来する蒸着物質が混入してしまう現象を防ぐことができる。なお、第1乃至第6の蒸着室213〜218それぞれは図示されない基板の搬送手段と、排気手段を備える。
【0042】
第1の蒸着室213から、第5の蒸着室217はいずれも線状蒸着源を備える。また、第6の蒸着室218は線状蒸着源を備えていても、ポイントソース型の蒸着源を備えていても、スパッタリング方式の成膜装置を備えていてもよい。
【0043】
線状蒸着源は蒸着材料を加熱して気化する蒸着源であり、一方向に長い。線状蒸着源を備える蒸着室の上面図を図1(B)に、側面図を図1(C)に示す。本実施の形態で例示する線状蒸着源は、その長手方向が基板の搬送方向に直交し、基板の幅(基板の搬送方向と直交する方向の基板の長さ)以上の長さを備える。蒸着源をこのような構成とすることにより、蒸着源から蒸着材料を基板の長手方向に比べて幅方向に拡げて気化することが可能となり、且つ基板を一方向に搬送することで基板の全面に蒸着膜を形成できる。
【0044】
以下に詳細に説明する。
第1の蒸着室213内には、第1及び第2の蒸着源12,13が基板10の搬送方向(矢印の方向)に交互に並べて配置されている(図1(A))。第2の蒸着室214内には、複数の第3の蒸着源14が基板10の搬送方向に並べて配置されている(図1(A)〜(C))。第3の蒸着室215内には、第4の蒸着源15a〜15c及び第5の蒸着源16a,16bが基板10の搬送方向に交互に並べて配置されている(図1(A)〜(C))。第4の蒸着室216内には、複数の第7の蒸着源17が基板10の搬送方向に並べて配置されている(図1(A))。第5の蒸着室217内には、複数の第8の蒸着源18が基板10の搬送方向に並べて配置されている(図1(A))。
【0045】
本実施の形態で例示するインライン型連続成膜装置により成膜される膜の構成について図2を参照しつつ説明する。特に、単一の材料のみを含む膜を成膜する場合と、複数の材料を含む膜を成膜する場合について説明する。
【0046】
また、インライン型連続成膜装置の側面図(図1(C))と、基板の断面図(図1(D))を用いて、単一の材料のみを含む膜を第2の蒸着室214において成膜し、ホスト材料とドーパント材料を含む膜を第3の蒸着室215において成膜する場合については詳細に説明する。
【0047】
例示する第1の蒸着室213内に前処理室212bから基板10が搬送され、第1及び第2の蒸着源12,13によって基板10上に予め形成されている第1の電極11上にホール注入層21が成膜される(図2,図1(D))。本実施の形態において、第1の蒸着源12は、モリブデン酸化物をアクセプタ性の材料として備え、第2の蒸着源13は、ホール輸送性に優れた材料を備える。
【0048】
本発明の一態様では、ホール輸送層22を形成する材料のHOMO準位をホスト材料のHOMO準位に揃えるため、ホール輸送層22から発光層26へのホール輸送は潤滑であるが、一方で、陽極からホール輸送層22へはホールが輸送されにくくなる場合がある。このとき、本実施の形態で示すように、ホール注入層21として、アクセプタ性の材料及びホール輸送性に優れた材料の複合材料を用いることが好ましい。該複合材料を用いることで、発光素子を、陽極からホール輸送層22にホールが輸送されやすい構成とすることができる。
【0049】
次に、例示する第2の蒸着室214は5つの第3の蒸着源14を備え、いずれも同じ蒸着材料であるホール輸送層用材料の蒸着源である。また、基板10は図中の左手側から右手側に向かって搬送手段により搬送され、ホール注入層21上にはホール輸送層22が成膜される。このような構成の第2の蒸着室214では、一定の組成の蒸着膜を成膜でき、その厚みはそれぞれの蒸着源14の蒸着速度に比例し、基板10の移動速度に反比例して決まる。
【0050】
次に、例示する第3の蒸着室215は5つの線状蒸着源を備える。本実施の形態では、3つの第4の蒸着源15a〜15cにホスト材料の蒸着源を備え、2つの第5の蒸着源16a,16bに発光物質であるドーパント材料の蒸着源を備える。第4の蒸着源15a〜15cそれぞれのホスト材料のHOMO準位は、第3の蒸着源14のホール輸送層用材料のHOMO準位に揃えられている。さらに、ホスト材料のHOMO準位は、ホール注入層21に含まれるホール輸送性に優れた材料のHOMO準位に揃えられていると、発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができるため好ましい。また、図中の左手側から右手側に向かって、搬送手段が基板10を搬送する。
【0051】
このような構成を有する第3の蒸着室215では、基板10上にホスト材料とドーパント材料が混合された組成を有する発光層26を成膜できる。成膜される発光層26の組成は、ホスト材料の蒸着源15a〜15cの蒸着速度とドーパント材料の蒸着源16a,16bの蒸着速度の比率によって決まる。なお、異なる蒸着源から異なる材料を蒸着して一つの膜を成膜する当該蒸着法は、共蒸着法の一態様である。
【0052】
第3の蒸着室215の第4の蒸着源15a〜15cと第5の蒸着源16a,16bによって成膜する発光層26の構造を、図1(D)を用いて説明する。第4の蒸着源15a〜15cと第5の蒸着源16a,16bは異なる蒸着材料の蒸着源であるため、その位置を同一にすることができない。その結果、二つの蒸着材料を完全に均一に混合することができない場所が生じる。特に、第3の蒸着室215の基板10が搬入される側の先頭に配置された第4の蒸着源15aは、その基板10が搬入される側には他の蒸着源が配置されていない。その結果、その第4の蒸着源15aは、搬入されてくる基板10に第4の蒸着源15aの蒸着材料(ホスト材料)のみを含む膜を成膜することになる。
【0053】
詳細には、第3の蒸着室215では、第2の蒸着室214において蒸着された膜(例えばホール輸送層22)に接して、第4の蒸着源15aがホスト材料のみを含むホスト材料層23を成膜する。
【0054】
そして基板10が第3の蒸着室215の奥にさらに進行すると、第5の蒸着源16aがドーパント材料を成膜する。ホスト材料の蒸着源である第4の蒸着源15aと第4の蒸着源15bに第5の蒸着源16aは挟まれているため、ホスト材料とドーパント材料が混合された混合材料層24が主として成膜される。なお、第4の蒸着源15aと第5の蒸着源16aとの間隔、第5の蒸着源16aと第4の蒸着源15bとの間隔、第4の蒸着源15bと第5の蒸着源16bとの間隔、第5の蒸着源16bと第4の蒸着源15cとの間隔それぞれによっては、混合材料層24の他にドーパント材料層25が成膜されることもある。このようにしてホール輸送層22上にはホスト材料層23が成膜され、ホスト材料層23上には混合材料層24が成膜される(図2,図1(D))。
【0055】
次に、例示する第4の蒸着室216内に第3の蒸着室215から基板10が搬送され、第7の蒸着源17によって発光層26上には電子輸送層27が成膜される(図2)。
【0056】
次に、例示する第5の蒸着室217内に第4の蒸着室216から基板10が搬送され、第8の蒸着源18によって電子輸送層27上には電子注入層28が成膜される(図2)。
【0057】
次に、例示する第6の蒸着室218内において、電子注入層28上には第2の電極29が成膜される。
【0058】
図3は、図1(D)に示すホール輸送層22、ホスト材料層23及び混合材料層24に含まれる材料のHOMO準位を示す模式図である。
本実施の形態によれば、第3の蒸着室215において川上側に第4の蒸着源15aを配置することで、ホール輸送層22と混合材料層24との間にホスト材料層23を成膜することができ、高速成膜(例えば成膜速度3nm/sec、成膜時間10sec/層)をしても、ホール輸送層22と混合材料層24との間に発光物質のみを含む単独層(ドーパント材料層)が成膜されることを抑制することができる。そして、第4の蒸着源15a〜15cそれぞれのホスト材料のHOMO準位が第3の蒸着源14のホール輸送層用材料のHOMO準位に揃えられている結果、ホール輸送層22から発光層26へホールが注入されやすくなり、発光層26の発光効率の低下を抑制することができる。
【0059】
なお、本明細書において、ホスト材料のHOMO準位がホール輸送層用材料のHOMO準位に揃えられているという場合の「揃える」の定義は、HOMO準位が完全に一致する場合だけではなく、ホール輸送層22から発光層26へホールが注入されやすくなる程度に揃えられている場合を含む。具体的にはホスト材料のHOMO準位とホール輸送層用材料のHOMO準位の差の絶対値が0.2eV以内、好ましくは0.1eV以内である場合を含む。
【0060】
(実施の形態2)
本実施の形態は、図4〜図6を参照しつつ説明するが、図1〜図3と同一部分については同一符号を付し、同一部分の説明は省略する。
【0061】
本実施の形態で例示する発光素子の作製装置であるインライン型連続成膜装置の全景は図4(A)に示すとおりである。線状蒸着源を備える蒸着室の上面図を図4(B)に、側面図を図4(C)示す。
【0062】
第3の蒸着室215内には、第4の蒸着源19、第5の蒸着源15及び第6の蒸着源16が基板10の搬送方向にこの順で並べて且つ繰り返して配置されている(図4(A)〜(C))。
【0063】
本実施の形態で例示するインライン型連続成膜装置により成膜される膜の構成について図5を参照しつつ説明する。特に、単一の材料のみを含む膜を成膜する場合と、複数の材料を含む膜を成膜する場合について説明する。
【0064】
また、インライン型連続成膜装置の側面図(図4(C))と、基板の断面図(図4(D))を用いて、単一の材料のみを含む膜を第2の蒸着室214において成膜し、ホスト材料と補助ドーパント材料とドーパント材料を含む膜を第3の蒸着室215において成膜する場合については詳細に説明する。
【0065】
例示する第1の蒸着室213内に前処理室212bから基板10が搬送され、第1及び第2の蒸着源12,13によって基板10に予め形成されている第1の電極11上にホール注入層21が成膜される(図5,図4(D))。本実施の形態においては、第1の蒸着源12は酸化モリブデンをアクセプタ性の材料として備え、第2の蒸着源13はホール輸送性に優れた材料を備える。第1の蒸着源12と第2の蒸着源13を用いて成膜した混合層は、ホール注入層として用いることができる。
【0066】
次に、例示する第2の蒸着室214は5つの第3の蒸着源14を備え、いずれも同じ蒸着材料であるホール輸送層用材料の蒸着源である。また、基板10は図中の左手側から右手側に向かって搬送手段により搬送され、ホール注入層21上にはホール輸送層22が成膜される。
【0067】
次に、例示する第3の蒸着室215は少なくとも6つの線状蒸着源を備える。本実施の形態では、2つの第4の蒸着源19に補助ドーパント材料の蒸着源を備え、2つの第5の蒸着源15に発光物質であるドーパント材料の蒸着源を備え、2つの第6の蒸着源16にホスト材料の蒸着源を備える。第4の蒸着源19それぞれの補助ドーパント材料のHOMO準位は、第3の蒸着源14のホール輸送層用材料のHOMO準位に揃えられている。また、図中の左手側から右手側に向かって、搬送手段が基板10を搬送する。
【0068】
このような構成を有する第3の蒸着室215では、基板10に形成したホール輸送層22上にホスト材料と補助ドーパント材料とドーパント材料が混合された組成を有する発光層を成膜できる。成膜される発光層の組成は、ホスト材料の蒸着源16の蒸着速度とドーパント材料の蒸着源15の蒸着速度と補助ドーパント材料の蒸着源19の比率によって決まる。
【0069】
第3の蒸着室215の第4の蒸着源19と第5の蒸着源15と第6の蒸着源16によって成膜する発光層26の構造を、図4(D)を用いて説明する。第4の蒸着源19と第5の蒸着源15と第6の蒸着源16は異なる蒸着材料の蒸着源であるため、その位置を同一にすることができない。その結果、三つの蒸着材料を完全に均一に混合することができない場所が生じる。特に、第3の蒸着室215の基板10が搬入される側の先頭に配置された第4の蒸着源19は、その基板10が搬入される側には他の蒸着源が配置されていない。その結果、その第4の蒸着源19は、搬入されてくる基板10に第4の蒸着源19の蒸着材料(補助ドーパント材料)のみを含む膜を成膜することになる。
【0070】
詳細には、第3の蒸着室215では、第2の蒸着室214において蒸着された膜(例えばホール輸送層22)に接して、第4の蒸着源19が補助ドーパント材料のみを含む補助ドーパント材料層23aを成膜する。
【0071】
そして基板10が第3の蒸着室215の奥にさらに進行すると、第5の蒸着源15及び第6の蒸着源16がドーパント材料及びホスト材料を成膜する。補助ドーパント材料の蒸着源である第4の蒸着源19とドーパント材料の蒸着源である第5の蒸着源15とホスト材料の蒸着源である第6の蒸着源16は並べて配置されているため、ホスト材料と補助ドーパント材料とドーパント材料が混合された混合材料層24が主として成膜される。なお、第4の蒸着源19と第5の蒸着源15との間隔、第5の蒸着源15と第6の蒸着源16との間隔それぞれによっては、混合材料層24の他にドーパント材料層25が成膜されることもある。このようにしてホール輸送層22上には補助ドーパント材料層23aが成膜され、補助ドーパント材料層23a上には混合材料層24が成膜される(図5,図4(D))。
【0072】
次に、実施の形態1と同様に、第3の蒸着室215から第4の蒸着室216、第5の蒸着室217、第6の蒸着室218の順に基板10が搬送され、第7の蒸着源17によって発光層26上には電子輸送層27が成膜され、第8の蒸着源18によって電子輸送層27上には電子注入層28が成膜され、電子注入層28上には第2の電極29が成膜される(図5)。
【0073】
図6は、図4(D)に示すホール輸送層22、補助ドーパント材料層23a及び混合材料層24に含まれる材料のHOMO準位を示す模式図である。
本実施の形態によれば、発光層を成膜する第3の蒸着室215において川上側に補助ドーパントを備えた第4の蒸着源19を配置することで、ホール輸送層22と混合材料層24との間に補助ドーパント材料層23aを成膜することができ、高速成膜(例えば成膜速度3nm/sec、成膜時間10sec/層)をしても、ホール輸送層22と混合材料層24との間にホスト材料のみを含む単独層(ホスト材料層)が成膜されることを抑制することができる。そして、第4の蒸着源19の補助ドーパント材料のHOMO準位が第3の蒸着源14のホール注入層用材料のHOMO準位に揃えられているため、ホール輸送層22と補助ドーパント材料層23aのHOMO準位を揃えることができる。その結果、ホール輸送性に優れた補助ドーパント材料層23aが形成され、発光層26に混合された補助ドーパントがそのHOMO準位に由来するホール受容性の準位を発光層中に形成されることでホール輸送層22から発光層26へホールが注入されやすくなり、発光層26の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0074】
なお、本明細書において、補助ドーパント材料のHOMO準位がホール注入層用材料のHOMO準位に揃えられているという場合の「揃える」の定義は、HOMO準位が完全に一致する場合だけではなく、ホール輸送層22から発光層26へホールが注入されやすくなる程度に揃えられている場合を含む。具体的には補助ドーパント材料のHOMO準位とホール注入層用材料のHOMO準位の差の絶対値が0.2eV以内、好ましくは0.1eV以内である場合を含む。
【0075】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の連続成膜装置を用いて作製できる発光素子の構成の一例について図7及び図8を参照して説明する。いずれの構成の発光素子においても、本発明の一態様(例えば実施の形態1)を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。また、いずれの構成の発光素子においても、本発明の一態様(例えば実施の形態2)を適用することで、第1の蒸着層と第2の蒸着層との間に形成される単一の材料を含む単独層を形成する材料のHOMO準位を、第1の蒸着層を形成する材料のHOMO準位に揃え、且つ当該材料を第2の蒸着層に混合することにより、ホールを単独層から発光層に流れやすくすることができる。また、本発明の一態様(例えば実施の形態2)を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。また、本発明の一態様(例えば実施の形態2)を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【0076】
なお、連続成膜装置の蒸着室の数および蒸着源の構成は、作製する発光素子のEL層の数に合わせて適宜設ければよい。
【0077】
本実施の形態で例示する発光素子は、第1の電極、第2の電極、並びにEL層を備える。基板上に形成された第1の電極は陽極として機能し、第2の電極が陰極として機能する。EL層は第1の電極と第2の電極の間に設けられ、該EL層の構成は第1の電極と第2の電極の材質に合わせて適宜選択すればよい。以下に発光素子の構成の一例を例示するが、発光素子の構成がこれに限定されないことはいうまでもない。
【0078】
<発光素子の構成例1.>
発光素子の構成の一例を図7(A)に示す。図7(A)に示す発光素子は、陽極1101と陰極1102の間にEL層1103が挟まれている。
【0079】
陽極1101と陰極1102の間に、発光素子の閾値電圧より高い電圧を印加すると、EL層1103に陽極1101の側からホールが注入され、陰極1102の側から電子が注入される。注入された電子とホールはEL層1103において再結合し、EL層1103に含まれる発光物質が発光する。
【0080】
EL層1103は、少なくとも発光物質を含む発光層を備えていればよく、発光層以外の層と積層された構造であっても良い。発光層以外の層としては、例えばホール注入性の高い物質、ホール輸送性の高い物質、ホール輸送性に乏しい(ブロッキングする)物質、電子輸送性の高い物質、電子注入性の高い物質、並びにバイポーラ性(電子及びホールの輸送性の高い)の物質等を含む層が挙げられる。
【0081】
EL層1103の具体的な構成の一例を図7(B)に示す。図7(B)に示すEL層1103は、ホール注入層1113、ホール輸送層1114、発光層1115、電子輸送層1116、並びに電子注入層1117が陽極1101側からこの順に積層されている。
【0082】
<発光素子の構成例2.>
発光素子の構成の他の一例を図7(C)に示す。図7(C)に例示する発光素子は、陽極1101と陰極1102の間にEL層1103が挟まれている。さらに、陰極1102とEL層1103との間には中間層1104が設けられている。なお、当該発光素子の構成例2のEL層1103には、上述の発光素子の構成例1と同様の構成が適用可能であり、詳細については、発光素子の構成例1の記載を参酌できる。
【0083】
中間層1104は少なくとも電荷発生領域を含んで形成されていればよく、電荷発生領域以外の層と積層された構成であってもよい。例えば、第1の電荷発生領域1104c、電子リレー層1104b、及び電子注入バッファー1104aが陰極1102側から順次積層された構造を適用することができる。
【0084】
中間層1104における電子とホールの挙動について説明する。陽極1101と陰極1102の間に、発光素子の閾値電圧より高い電圧を印加すると、第1の電荷発生領域1104cにおいて、ホールと電子が発生し、ホールは陰極1102へ移動し、電子は電子リレー層1104bへ移動する。電子リレー層1104bは電子輸送性が高く、第1の電荷発生領域1104cで生じた電子を電子注入バッファー1104aに速やかに受け渡す。電子注入バッファー1104aはEL層1103に電子を注入する障壁を緩和し、EL層1103への電子注入効率を高める。従って、第1の電荷発生領域1104cで発生した電子は、電子リレー層1104bと電子注入バッファー1104aを経て、EL層1103の最低空軌道(LUMO:Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位に注入される。
【0085】
また、電子リレー層1104bは、第1の電荷発生領域1104cを構成する物質と電子注入バッファー1104aを構成する物質が界面で反応し、互いの機能が損なわれてしまう等の相互作用を防ぐことができる。
【0086】
<発光素子の構成例3.>
発光素子の構成の他の一例を図8(A)に示す。図8(A)に例示する発光素子は、陽極1101と陰極1102の間にEL層が2つ設けられている。さらに、EL層1103aと、EL層1103bとの間には中間層1104が設けられている。
【0087】
なお、陽極と陰極の間に設けるEL層は二つに限定されない。図8(B)に例示する発光素子は、EL層1103が複数積層された構造、所謂、積層型素子の構成を備える。但し、例えば陽極と陰極の間にn(nは2以上の自然数)層のEL層1103を設ける場合には、m(mは自然数、1以上(n−1)以下)番目のEL層と、(m+1)番目のEL層との間に、それぞれ中間層1104を設ける構成とする。
【0088】
また、当該発光素子の構成例3のEL層1103には、上述の発光素子の構成例1と同様の構成を適用することが可能であり、また当該発光素子の構成例3の中間層1104には、上述の発光素子の構成例2と同様の構成が適用可能である。よって、詳細については、発光素子の構成例1、または発光素子の構成例2の記載を参酌できる。
【0089】
EL層の間に設けられた中間層1104における電子とホールの挙動について説明する。陽極1101と陰極1102の間に、発光素子の閾値電圧より高い電圧を印加すると、中間層1104においてホールと電子が発生し、ホールは陰極1102側に設けられたEL層へ移動し、電子は陽極側に設けられたEL層へ移動する。陰極側に設けられたEL層に注入されたホールは、陰極側から注入された電子と再結合し、当該EL層に含まれる発光物質が発光する。また、陽極側に設けられたEL層に注入された電子は、陽極側から注入されたホールと再結合し、当該EL層に含まれる発光物質が発光する。依って、中間層1104において発生したホールと電子は、それぞれ異なるEL層において発光に至る。
【0090】
なお、EL層同士を接して設けることで、両者の間に中間層と同じ構成が形成される場合は、EL層同士を接して設けることができる。具体的には、EL層の一方の面に電荷発生領域が形成されていると、当該電荷発生領域は中間層の第1の電荷発生領域として機能するため、EL層同士を接して設けることができる。
【0091】
発光素子の構成例1乃至構成3は、互いに組み合わせて用いることができる。例えば、発光素子の構成例3の陰極とEL層の間に中間層を設けることもできる。
【0092】
<発光素子の具体例1.>
次に、本発明の一態様(例えば実施の形態1)の連続成膜装置を用いて作製することができる発光素子の一例について説明する。該素子に用いる材料の化学式を以下に示す。
【0093】
【化1】

【0094】
以下で説明する発光素子は、基板上に順に形成された、第1の電極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、第1の電子輸送層、第2の電子輸送層、電子注入層、及び第2の電極を有する。
【0095】
第1の電極は、膜厚110nmの、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)からなる。
【0096】
ホール注入層は、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)と、酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することで形成する。ホール注入層の膜厚は70nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)の比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節する。
【0097】
ホール輸送層は、膜厚30nmの、PCzPAからなる。
【0098】
発光層は、9−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzPA)と、4−(10−フェニル−9−アントリル)−4'−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBAPA)とを共蒸着することで形成する。発光層の膜厚は20nmとし、CzPAとPCBAPAの比率は、重量比で1:0.05(=CzPA:PCBAPA)となるように調節する。
【0099】
このとき、蒸着室において、基板が搬入される側の先頭には、CzPAを有する蒸着源が配置されている。したがって、該蒸着室では、まず、該蒸着源によって、ホスト材料であるCzPAのみを含むホスト材料層が、ホール輸送層に接して成膜される。
【0100】
そして、基板が該蒸着室の奥にさらに進行すると、ホスト材料であるCzPAとドーパント材料であるPCBAPAが混合された混合材料層が主として成膜される。
【0101】
第1の電子輸送層は、膜厚10nmの、CzPAからなる。
【0102】
第2の電子輸送層は、膜厚15nmの、バソフェナントロリン(略称:BPhen)からなる。
【0103】
電子注入層は、膜厚1nmの、フッ化リチウム(LiF)からなる。
【0104】
第2の電極は、膜厚200nmのアルミニウムからなる。
【0105】
上記の発光素子を本発明の一態様の連続成膜装置を用いて作製すると、ホール輸送層と発光層の間に、単一の材料を含む単独層(前述のホスト材料層に相当)が形成される。ホール輸送層は、HOMO準位が−5.79eVのPCzPAを含む。また、単独層は、HOMO準位が−5.79eVのCzPAを含む。また、発光層もホスト材料としてCzPAを含む構成となる。従って、単一の材料を含む単独層を形成する材料(CzPA)のHOMO準位がホール輸送層を形成する材料(PCzPA)のHOMO準位に揃えられている。
【0106】
このように、本発明の一態様を適用することで、発光層のホスト材料の単独層を、ホール輸送層と発光層との間に形成することにより、発光物質の単独層が形成されることを防ぐことで、発光素子の発光効率が低下することを抑制する(濃度消光を抑制する)ことができる。さらに、ホスト材料の単独層が形成されても、該ホスト材料のHOMO準位は、ホール輸送層の材料のHOMO準位と揃えられているため、ホールは発光層に潤滑に輸送され、発光素子の駆動電圧の上昇や発光効率の低下を抑制することができる。以上示したように、本発明の一態様を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【0107】
<発光素子の具体例2.>
次に、本発明の一態様(例えば実施の形態2)の連続成膜装置を用いて作製することができる発光素子の一例について説明する。該素子に用いる材料の化学式を以下に示す。
【0108】
【化2】

【0109】
以下で説明する発光素子は、基板上に順に形成された、第1の電極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、及び第2の電極を有する。
【0110】
第1の電極は、膜厚110nmの、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)からなる。
【0111】
ホール注入層は、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)と、酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することで形成する。ホール注入層の膜厚は50nmとし、NPBと酸化モリブデン(VI)の比率は、重量比で4:1(=NPB:酸化モリブデン)となるように調節する。
【0112】
ホール輸送層は、膜厚10nmのNPBからなる。
【0113】
発光層は、補助ドーパント材料としてNPBと、ホスト材料としてビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BAlq)と、ドーパント材料として(アセチルアセトナト)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(tppr)(acac))を共蒸着することで形成する。発光層の膜厚は50nmとし、NPBとBAlqとIr(tppr)(acac)の比率は、重量比で0.1:1:0.06(=NPB:BAlq:Ir(tppr)(acac))となるように調節する。
【0114】
このとき、蒸着室において、基板が搬入される側の先頭には、NPBを有する蒸着源が配置されている。したがって、該蒸着室では、まず、該蒸着源によって、補助ドーパント材料であるNPBのみを含む補助ドーパント材料層が、ホール輸送層に接して成膜される。
【0115】
そして、基板が該蒸着室の奥にさらに進行すると、ホスト材料であるBAlqとドーパント材料であるIr(tppr)(acac)が混合された混合材料層が主として成膜される。
【0116】
電子輸送層は、膜厚10nmの、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)からなる。
【0117】
電子注入層は、Alqとリチウム(Li)を共蒸着することで形成する。電子注入層の膜厚は20nmとし、AlqとLiの比率は、重量比で1:0.01(=Alq:Li)となるように調整する。
【0118】
第2の電極は、膜厚200nmのアルミニウムからなる。
【0119】
上記の発光素子を本発明の一態様の連続成膜装置を用いて作製すると、ホール輸送層と発光層の間に単一の材料を含む単独層が形成される。ホール輸送層と単独層はいずれもHOMO準位が−5.38eVのNPBを含む。また、発光層も補助ドーパント材料としてNPBを含む構成となる。従って、単一の材料を含む単独層を形成する材料(NPB)のHOMO準位が、ホール輸送層を形成する材料(NPB)のHOMO準位に揃えられ、且つ当該材料(NPB)を第2の蒸着層に混合することにより、ホールを単独層から発光層に流れやすくすることができる。また、本発明の一態様を適用することで、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。または、高速成膜で発光層を成膜しても発光素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0120】
10 基板
11 第1の電極
12 第1の蒸着源
13 第2の蒸着源
14 第3の蒸着源
15a〜15c 第4の蒸着源
15,16a,16b 第5の蒸着源
16 第6の蒸着源
17 第7の蒸着源
18 第8の蒸着源
19 第4の蒸着源
21 ホール注入層
22 ホール輸送層
23 ホスト材料層
23a 補助ドーパント材料層
24 混合材料層
25 ドーパント材料層
26 発光層
27 電子輸送層
28 電子注入層
29 第2の電極
200 インライン型連続成膜装置
212 前処理部
212a ローダ部
212b 前処理室
213 第1の蒸着室
213a〜218a 緩衝部
214 第2の蒸着室
215 第3の蒸着室
216 第4の蒸着室
217 第5の蒸着室
218 第6の蒸着室
219 後処理部
219a 受け渡し室
219b 封止室
219c アンローダ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の蒸着室と、
前記第1の蒸着室に繋げられた第2の蒸着室と、
前記第1の蒸着室内から前記第2の蒸着室内へ基板を搬送する搬送機構と、
前記第1の蒸着室内に配置された第1の蒸着源と、
前記第2の蒸着室内に配置され、前記搬送方向に並べて配置された第2の蒸着源及び第3の蒸着源と、を具備し、
前記第2の蒸着室において最も前記第1の蒸着室側に配置される蒸着源は前記第2の蒸着源であり、
前記第2の蒸着源が有する材料の最高被占有軌道準位は、前記第1の蒸着源の蒸着材料の最高被占有軌道準位に揃えられており、
前記第3の蒸着源が有する材料の最高被占有軌道準位は、前記第1の蒸着源の蒸着材料の最高被占有軌道準位と揃えられていないことを特徴とする連続成膜装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の蒸着源及び前記第3の蒸着源は交互に配置されており、
前記第2の蒸着源が有する材料はホスト材料であり、
前記第3の蒸着源が有する材料はドーパント材料であることを特徴とする連続成膜装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内で搬送しながら、前記基板上に前記第1の蒸着源によって第1の蒸着層を成膜し、
前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内から前記第2の蒸着室内に搬送しながら、前記第1の蒸着層上に前記第2の蒸着源によってホスト材料層を成膜し、前記ホスト材料層上に前記第2の蒸着源及び前記第3の蒸着源によって前記ホスト材料に前記ドーパント材料が混合された第2の蒸着層を成膜することを特徴とする連続成膜装置。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記第1の蒸着源の蒸着材料は、ホール輸送層を形成する材料であり、
前記ホスト材料に前記ドーパント材料を混合した材料は、発光層を形成する材料であることを特徴とする連続成膜装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記第2の蒸着室内には、前記搬送方向に並べて前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び第4の蒸着源が配置され、
前記第2の蒸着室には、前記第2の蒸着源の隣に前記第3の蒸着源または前記第4の蒸着源が配置され、
前記第3または前記第4の蒸着源の一方は、ホスト材料を有し、
前記第3または前記第4の蒸着源の他方は、ドーパント材料を有し、
前記第2の蒸着源が有する材料は、補助ドーパント材料であることを特徴とする連続成膜装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内で搬送しながら、前記基板上に前記第1の蒸着源によって第1の蒸着層を成膜し、
前記搬送機構によって前記基板を前記第1の蒸着室内から前記第2の蒸着室内に搬送しながら、前記第1の蒸着層上に前記第2の蒸着源によって補助ドーパント材料層を成膜し、前記補助ドーパント材料層上に前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び前記第4の蒸着源によって前記ホスト材料に前記ドーパント材料及び前記補助ドーパント材料が混合された第2の蒸着層を成膜することを特徴とする連続成膜装置。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記第1の蒸着源の蒸着材料は、ホール輸送層を形成する材料であり、
前記ホスト材料に前記ドーパント材料及び前記補助ドーパント材料を混合した材料は、発光層を形成する材料であることを特徴とする連続成膜装置。
【請求項8】
基板上に第1の蒸着源によって第1の蒸着層を成膜し、
前記第1の蒸着層上に第2の蒸着源によって第2の蒸着層を成膜し、
前記第2の蒸着層上に前記第2の蒸着源及び第3の蒸着源によって前記第2の蒸着源が有する材料に前記第3の蒸着源が有する材料が混合された第3の蒸着層を成膜する方法であって、
前記第2の蒸着源が有する材料の最高被占有軌道準位は、前記第1の蒸着源の蒸着材料の最高被占有軌道準位に揃えられていることを特徴とする連続成膜方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記第2の蒸着源が有する材料はホスト材料であり、
前記第2の蒸着層はホスト材料層であり、
前記第3の蒸着源が有する材料はドーパント材料であり、
前記第3の蒸着層は前記ホスト材料に前記ドーパント材料が混合された層であることを特徴とする連続成膜方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記第1の蒸着層、前記第2の蒸着層及び前記第3の蒸着層は、前記基板を第1の蒸着室内から第2の蒸着室内へ搬送しながら成膜され、
前記第1の蒸着室は、前記第1の蒸着源を有し、
前記第2の蒸着室は、前記搬送方向に交互に並べて配置された前記第2の蒸着源及び前記第3の蒸着源を有し、
前記第2の蒸着室において最も前記第1の蒸着室側に配置される蒸着源は前記第2の蒸着源であることを特徴とする連続成膜方法。
【請求項11】
請求項8において、
前記第2の蒸着源が有する材料は補助ドーパント材料であり、
前記第2の蒸着層は補助ドーパント材料層であり、
前記第3の蒸着層を成膜する際は、前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び第4の蒸着源によって成膜され、
前記第3の蒸着源が有する材料はドーパント材料であり、
前記第4の蒸着源が有する材料はホスト材料であり、
前記第3の蒸着層は、前記ホスト材料に前記ドーパント材料及び前記補助ドーパント材料が混合された層であることを特徴とする連続成膜方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1の蒸着層、前記第2の蒸着層及び前記第3の蒸着層は、前記基板を第1の蒸着室内から第2の蒸着室内へ搬送しながら成膜され、
前記第1の蒸着室は、前記第1の蒸着源を有し、
前記第2の蒸着室は、前記搬送方向に並べて配置された前記第2の蒸着源、前記第3の蒸着源及び前記第4の蒸着源を有し、
前記第2の蒸着室において最も前記第1の蒸着室側に配置される蒸着源は前記第2の蒸着源であることを特徴とする連続成膜方法。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれか一項において、
前記第1の蒸着層は、ホール輸送層であり、
前記第3の蒸着層は、発光層であることを特徴とする連続成膜方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記第1の蒸着層を成膜する前の前記基板上には電極が形成されていることを特徴とする連続成膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−207304(P2012−207304A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54342(P2012−54342)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】