説明

連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法

【課題】連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法において、C :0.0014〜0.0025%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有するP添加極低炭BH鋼に発生するスリ疵を消滅させることのできる連続焼鈍方法を提供する。
【解決手段】加熱帯、均熱帯、1次冷却帯、過時効帯、2次冷却帯をこの順序で有する連続焼鈍炉において、低炭アルミキルド鋼とP添加極低炭BH鋼2種を含む複数品種の鋼板を連続して焼鈍し、過時効帯の出側温度は、低炭アルミキルド鋼焼鈍時においては250〜300℃の範囲とし、P添加極低炭BH鋼焼鈍時においては300℃を超える温度とすることを特徴とする鋼板の連続焼鈍方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延を行った鋼板は、そのままでは加工硬化して加工性が極めて悪いので、焼鈍工程を経て良好な加工性を実現している。このような冷延鋼板の焼鈍方法として、バッチ焼鈍方法と連続焼鈍方法が用いられる。本発明は連続焼鈍炉を用いた連続焼鈍方法を対象とする。
【0003】
連続焼鈍方法においては、コイルから巻き戻された冷延帯鋼が連続焼鈍炉を通過するときに焼鈍され、さらに通常は、コイル冷却後、調質圧延、検査精製まで連続して結合され、焼鈍後の帯鋼がコイルに巻き取られる。図1に示すように、連続焼鈍炉1においては、帯鋼は加熱帯5、均熱帯6、1次冷却帯7、過時効帯8、2次冷却帯9をこの順序で通過し、熱処理を施される。設備の入側において、2基のペイオフリール2、溶接機3、入側ルーパ4が設置され、1本のコイルからの帯鋼の巻き戻しが終了すると、別のコイルからの帯鋼が巻き戻され、溶接機3によって2枚の帯鋼が接合され、当該別のコイルが連続的に連続焼鈍炉1に送り込まれる。
【0004】
連続焼鈍装置においては、ペイオフリール2から巻き取りリール12までの帯鋼長さが2000mに近いものとなるので、正常に通板させるため、ロールの水平、直交心の調整、ロール形状とロールクラウン量の選定、自動位置制御装置の導入などが行われている。過時効帯などの炉内には、自動位置制御装置として、中間ガイド方式ステアリング装置などのセンタポジションコントロール(CPC)が設置されている(非特許文献1第654頁)。
【0005】
連続焼鈍においては、多品種の鋼板が次々と送り込まれ、順次連続焼鈍が行われる。連続焼鈍に供される代表的な品種として、低炭アルミキルド鋼、極低炭アルミキルド鋼が挙げられ、極低炭アルミキルド鋼はさらに、Ti添加極低炭アルミキルド鋼、Nb−Ti添加極低炭アルミキルド鋼などに分けることができる。連続焼鈍炉の加熱帯における加熱速度、均熱帯における焼鈍温度については、品種毎に最適な焼鈍条件が設定される。
【0006】
加熱帯5、均熱帯6において再結晶および結晶粒成長させた後、1次冷却帯7における急速冷却と過時効帯8における過時効処理が行われ、過飽和固溶Cを析出させる。即ち、加熱・均熱の後で1次冷却帯7において500℃以下まで急冷処理により固溶Cの過飽和固溶状態を作り、析出のための駆動力を与える。ついで、過時効帯8において所定の温度と時間で加熱保持を行い、固溶Cをほぼ完全に析出させる(非特許文献1第638頁)。
【0007】
図2には、連続焼鈍炉の1次冷却帯7から過時効帯8を経て2次冷却帯9に至る設備の概要を示している。1次冷却帯における鋼帯温度が1次冷却帯温度計22によって計測され、過時効帯出側における鋼帯温度が過時効帯出側温度計21によって計測される。鋼帯の自動位置制御のため、CPCが2箇所(20a、20b)に設置されている。
【0008】
低炭アルミキルド鋼においては、最も効率的な過時効処理を可能とする板温、即ち、過時効帯入側温度を380〜460℃、過時効帯出側温度を250〜300℃の範囲として過時効処理が行われる。一方、極低炭アルミキルド鋼については、過時効帯における温度は特段に指定されることがない。
【0009】
前述のとおり、連続焼鈍においては、種々の品種が次々に連続焼鈍炉に送り込まれる。過時効帯については、温度範囲が指定されるのは上記のとおり低炭アルミキルド鋼であり、極低炭アルミキルド鋼については特段の指定がない。そこで、過時効帯の温度設定としては、低炭アルミキルド鋼に要求される温度設定としておき、極低炭アルミキルド鋼を焼鈍処理するに際しても同じ温度設定が用いられる。
【0010】
特許文献1には、塗装焼付硬化性(BH性)、常温遅時効性、成形性を兼ね備えた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。質量%で、C:0.0014〜0.0025%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを、所定条件で熱間圧延・冷間圧延を施し、連続焼鈍ラインにて650℃〜Ac3変態点で焼鈍後に調質圧延を施して、一旦、焼鈍済み冷延鋼板を製造し、引き続き、連続溶融亜鉛めっきラインにて亜鉛めっき浴温度まで加熱してめっきした後、所定条件で合金化熱処理を行い、その後、再度調質圧延を施すものである。焼鈍済み冷延鋼板を用いて、これを急速昇温して、めっき浸漬後に合金化熱処理することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する、新しいめっき鋼板製造プロセスによって、強度と加工性を兼ね備え、更にBH性と常温遅時効性をも兼ね備えた、塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することができる。以下、当該成分を有する鋼を「P添加極低炭BH鋼」と呼ぶ。
【0011】
連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法については、冷間圧延と連続焼鈍とを直結して行うことも可能である。特許文献2においては、連続冷間圧延設備と連続焼鈍設備を直結した連続冷延鋼板製造設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−249715号公報
【特許文献2】特公平2−47282号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】社団法人日本鉄鋼協会編「第3版鉄鋼便覧III(1)圧延基礎・鋼板」昭和55年5月、丸善株式会社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
連続焼鈍炉において、低炭アルミキルド鋼、極低炭アルミキルド鋼を含む品種について連続焼鈍を行ったところ、極低炭アルミキルド鋼のうちの前記P添加極低炭BH鋼に特有の現象として、連続焼鈍終了後の帯鋼表面にスリ疵が発生するという症状が見られた。帯鋼の幅端部付近の表面に、帯鋼の長手方向から数十°程度傾斜し、長さが1mm未満のスリ疵が発生する。このようなスリ疵の発生は、P添加極低炭BH鋼のみに見られる現象であった。
【0015】
本発明は、連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法において、P添加極低炭BH鋼に発生するスリ疵を消滅させることのできる連続焼鈍方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)加熱帯、均熱帯、1次冷却帯、過時効帯、2次冷却帯をこの順序で有する連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法であって、
質量%で、C:0.03〜0.05%、Si≦0.02%、Mn:0.1〜0.2%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼(以下「低炭アルミキルド鋼」という。)、
質量%で、C :0.0014〜0.0025%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼(以下「P添加極低炭BH鋼」という。)の2種を含む複数品種の鋼板を連続して焼鈍し、
前記過時効帯の出側温度は、前記低炭アルミキルド鋼焼鈍時においては250〜300℃の範囲とし、前記P添加極低炭BH鋼焼鈍時においては300℃を超える温度とすることを特徴とする鋼板の連続焼鈍方法。
(2)前記P添加極低炭BH鋼は、質量%で、C :0.0014〜0.0030%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、さらにTi:0.002〜0.015%およびNb:0.002〜0.015%のうち1種または2種をTi+Nb=0.002〜0.015%となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする上記(1)に記載の鋼板の連続焼鈍方法。
(3)前記P添加極低炭BH鋼は、さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鋼板の連続焼鈍方法。
(4)前記低炭アルミキルド鋼が、更に、質量%で、B:0.0020〜0.0035%を含有することを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の鋼板の連続焼鈍方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法において、過時効帯の温度パターンを品種によって変化させ、過時効帯の出側温度を、低炭アルミキルド鋼焼鈍時においては250〜300℃の範囲とし、P添加極低炭BH鋼焼鈍時においては300℃を超える温度とすることにより、P添加極低炭BH鋼において発生していたスリ疵を大幅に減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】連続焼鈍装置の概念図である。
【図2】連続焼鈍炉の過時効帯を示す概念図である。
【図3−1】Nb−Ti添加極低炭素鋼について、温度毎に応力−歪線図を示す図である。
【図3−2】P添加極低炭BH鋼について、温度毎に応力−歪線図を示す図である。
【図3−3】低炭アルミキルド鋼について、温度毎に応力−歪線図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述のとおり、連続焼鈍炉内の温度パターンのうち、過時効帯における温度パターンが指定されるのは低炭アルミキルド鋼のみであり、極低炭アルミキルド鋼については特段に指定されることがない。極低炭アルミキルド鋼の一種であるP添加極低炭BH鋼も同様である。
【0020】
本発明においてP添加極低炭BH鋼とは、第1に、質量%で、C :0.0014〜0.0025%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼をいう。第2に、質量%で、C :0.0014〜0.0030%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、さらにTi:0.002〜0.015%およびNb:0.002〜0.015%のうち1種または2種をTi+Nb=0.002〜0.015%となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼をいう。第3に、さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有する。C含有量を第1の範囲とすることにより、十分なBH性と常温非時効性を確保する。Ti、Nbを含有する場合はC含有量を第2の範囲まで拡張できる。Si含有量を表記範囲とすることにより、プレス成形性が良好となる。Mn含有量を表記範囲とすることにより、Sによる耳割れを防止するとともに好適な強度を確保する。Pを表記範囲で含有することにより、強度上昇と加工性向上を実現する。P含有量下限を0.045質量%とするとより好ましい。Alは脱酸及びNの固定に使用する。Ti、NbはN、C、Sの一部を固定することにより、常温遅時効性を確保する役割を有する。Bは2次加工脆化の防止に有効であるほか、再結晶温度を低くする効果を有する。
【0021】
本発明において低炭アルミキルド鋼とは、質量%で、C;0.03〜0.05%、Si≦0.02%、Mn:0.1〜0.2%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を意味する。このような成分を有する低炭アルミキルド鋼においては、過時効帯入側温度を380〜460℃、過時効帯出側温度を250〜300℃の範囲として過時効処理が行われる。即ち、最も効率的な過時効処理を可能とする板温としている。
【0022】
一方、前記規定された成分を有するP添加極低炭BH鋼については、過時効帯における温度パターンが指定されない。特許文献1の段落[0033]に「熱処理条件」と記載されているのが過時効帯における温度条件であり、同段落に記載のとおり、特別に限定するものではない。
【0023】
連続焼鈍においては、上記低炭アルミキルド鋼、P添加極低炭BH鋼、左記品種以外の極低炭アルミキルド鋼などの多くの品種の鋼板を順次供給して焼鈍が行われる。このうち、過時効帯における温度パターンが規定されるのは低炭アルミキルド鋼のみであり、その他の品種は特段の指定がされていないので、過時効帯の温度パターンとしては、低炭アルミキルド鋼で規定される温度パターンに固定し、いずれの品種においても同じ温度パターンを用いることとしていた。
【0024】
ここにおいて、前述のとおり、P添加極低炭BH鋼に特有の現象として、連続焼鈍終了後の帯鋼表面にスリ疵が発生するという症状が見られた。帯鋼の幅端部付近の表面に、帯鋼の長手方向から数十°程度傾斜し、長さが1mm未満のスリ疵が発生する。このようなスリ疵の発生は、P添加極低炭BH鋼のみに見られる現象であった。また、連続焼鈍炉の過時効帯内部に設けられたセンタポジションコントロール(CPC)の動作量が、P添加極低炭BH鋼において特に大きいことがわかった。さらに、P添加極低炭BH鋼の処理において、CPCの動作量が大きいほど、スリ疵の発生程度が大きくなるという傾向も見られた。
【0025】
そこで、P添加極低炭BH鋼について、過時効帯の温度領域における応力−歪挙動の評価を行った。低炭アルミキルド鋼及びNb−Ti添加極低炭素鋼の挙動と対比を行った。評価に用いた鋼の成分は表1に示すとおりである。
【0026】
【表1】

【0027】
応力−歪挙動の評価は、150℃〜400℃の温度範囲において、50℃きざみで温度を設定し、各温度において0〜15%の歪を付与して応力の挙動を評価した。歪を一定速度で増大させ、応力と歪の関係について評価した。通常、歪が増大するにしたがって、応力も単調に増大する。ところが、特定の温度における応力−歪測定において、歪を一定速度で増大していく際、応力が時間の経過と共に増大と減少を繰り返す現象として観察されることがある。動的歪時効(セレーション)によるものである。そこで図3においては、各品種において、室温から400℃までの各温度において、応力−歪線図としてグラフ化した。
【0028】
その結果、図3に示すように、P添加極低炭BH鋼に特有の現象として、300℃付近の温度域で動的歪時効(セレーション)が観察されることがわかった。動的歪時効が観察される温度域において連続焼鈍炉の過時効帯を通過させると、炉内において帯鋼に不均一伸びが発生し、帯鋼が偏りやすく、その偏りを修正するためにCPCを動作させる際に帯鋼がロールとの間でミクロスリップを発生させ、最終的に特有のスリ疵発生に至ると推定される。
【0029】
以上の観察結果から、P添加極低炭BH鋼を連続焼鈍するに際しては、過時効帯における温度パターンとして、動的歪時効が発生する温度域を回避することが有効であることが判明した。ここにおいて、過時効帯における温度パターンとして、動的歪時効が発生する温度域を高温側に回避するのか、低温側に回避するのかという選択が必要となる。
【0030】
図3から明らかなように、P添加極低炭BH鋼の高温特性として、動的歪時効が発生することに加え、高温強度が非常に高いという特徴が見られた。Nb−Ti添加極低炭鋼と対比すると、350℃付近における差が一番大きく、P添加極低炭BH鋼の方が約2倍の強度を有している。連続焼鈍炉の過時効帯内部におけるロールと帯鋼との接触について検討すると、当該過時効帯の温度域における帯鋼の強度が高いほど、帯鋼とロールとの間の摩擦係数が小さくなり、結果として帯鋼がロールの一方の側に偏りやすくなり、その偏りを修正するためにCPCを動作させる際に帯鋼がロールとの間でミクロスリップを発生させ、最終的に特有のスリ疵発生に至ると推定される。P添加極低炭BH鋼の高温強度が高いこととあいまって、過時効帯の温度パターンとして動的歪時効が発生する温度域を低温側に回避しようとすると、高温強度が増してスリ疵発生を助長させる可能性がある。
【0031】
連続焼鈍炉の過時効帯における帯鋼の蛇行防止のための方策として、ロールのサーマルクラウンが積極的に利用されている。ロールを軸方向に見たとき、ロールの中央部は高温の帯鋼が常時通過するので温度が上昇して熱膨張し、ロールの両端部は帯鋼が通過しないので温度上昇が少なく熱膨張も少ない。その結果、連続焼鈍に使用中のロールは常温時に比較して中央部の径が両端部に比較して増大しており、クラウンを形成した形となる。このような現象をサーマルクラウンと称している。ロールのサーマルクラウンが発生していることにより、帯鋼の蛇行発生が軽減されている。これに対して、過時効帯の温度パターンとして動的歪時効が発生する温度域を低温側に回避しようとすると、ロール温度が低下してサーマルクラウンが減少し、帯鋼の蛇行防止効果が低下する可能性がある。
【0032】
以上のような状況から、P添加極低炭BH鋼を連続焼鈍するに際して、過時効帯における温度パターンとして、動的歪時効が発生する温度域を高温側に回避することが有効であると判断することができる。そして、過時効帯の出側温度を、P添加極低炭BH鋼焼鈍時においては300℃を超える温度とすることにより、スリ疵の発生を防止することが可能となる。過時効帯において鋼帯の温度は上流から下流に向けて順次下がっていくので、過時効帯出側温度を300℃超とすれば、過時効帯の全域において鋼帯温度を300℃超とすることができる。ここで過時効帯出側温度とは、2次冷却帯入側温度を意味する。具体的には、図2に示す過時効帯出側温度計21の測温結果をもって過時効帯出側温度とする。
【0033】
一方、低炭アルミキルド鋼においては、過時効帯出側温度を250〜300℃とすることが必要である。また、低炭アルミキルド鋼とP添加極低炭BH鋼以外の品種については、過時効帯の温度パターンが特段に指定されない。
【0034】
そこで本発明においては、連続焼鈍炉における過時効帯の出側温度パターンとして、低炭アルミキルド鋼焼鈍時においては250〜300℃の範囲とし、P添加極低炭BH鋼焼鈍時においては300℃を超える温度とするように温度を制御する。
【0035】
通常の連続焼鈍炉の温度制御において、過時効帯出側温度を250℃から300℃に昇温する時間は90分程度、300℃から250℃に降温するのに要する時間は90分程度である。そこで、連続焼鈍炉に供給するコイルの順番として、低炭アルミキルド鋼とP添加極低炭BH鋼とを隣り合わせとすることをせず、両者の間にそれ以外の品種(以下「緩衝材」ともいう。)を挿入することとすると好ましい。緩衝材の帯鋼が過時効帯を通過している間に昇温あるいは降温を行うこととする。緩衝材については、過時効帯の温度パターンが特に限定されないので、緩衝材が過時効帯を通過している任意の時間帯に昇温又は降温を行うことができる。
【0036】
本発明は、冷間圧延が終了した冷延鋼帯からなるコイルを用い、当該コイルから冷延鋼帯を巻き戻して連続焼鈍炉で焼鈍を行う方法のほか、冷間圧延と連続焼鈍とを直結して行う場合にも適用することができる。
【実施例】
【0037】
加熱帯、均熱帯、1次冷却帯、過時効帯、2次冷却帯をこの順序で有する連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍において、本発明を適用した。処理する品種は、低炭アルミキルド鋼、P添加極低炭BH鋼、その他の極低炭素鋼(Ti添加極低炭アルミキルド鋼、Nb−Ti添加極低炭アルミキルド鋼など)である。
【0038】
過時効帯における温度パターンとして、従来例では、すべての品種に共通の温度パターンを採用していた。低炭アルミキルド鋼において必要とされる温度パターンである。1次冷却帯出側温度を430℃とし、過時効帯のヒーターをオフとし、過時効帯出側温度を270℃とした。
【0039】
これに対し本発明例では、低炭アルミキルド鋼の処理時には従来例と同じ温度パターンとし、P添加極低炭BH鋼の処理時には1次冷却帯出側温度を460℃に上昇し、過時効帯のヒーターをオンとし、過時効帯出側温度を305℃とした。低炭アルミキルド鋼とP添加極低炭BH鋼との間には必ずそれ以外の材料(Ti添加極低炭アルミキルド鋼、Nb−Ti添加極低炭アルミキルド鋼など)を緩衝材として挿入した。低炭アルミキルド鋼とP添加極低炭BH鋼とが入れ替わる際には、両者の間に挿入された緩衝材の処理時間中に過時効帯の温度を変更し、昇温速度40℃/時間での昇温、または降温速度40℃/時間での降温を行った。
【0040】
P添加極低炭BH鋼及び比較材としてNb−Ti極低炭鋼を処理する際における過時効帯のCPC偏差量について調査した。CPC偏差量とは、過時効帯の最終段直前のトップハースロールに配置されたCPCロールの出側のセンターからの板偏差量を意味する。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2から明らかなように、P添加極低炭BH鋼のCPC偏差量は、平均値と標準偏差がともに、従来例に対して本発明例は大幅に改善され、比較材であるNb−Ti極低炭鋼に匹敵する値となった。
【0043】
次に、P添加極低炭BH鋼について、焼鈍処理後の鋼板スリ疵発生レベル比較を行った。スリ疵の程度を、スリ疵の深さで評価し、深さ5μm以下を「小」、5〜10μmを「中」、10〜15μmを「大」とした。スリ疵「小」または「なし」を合格とする。従来例においては「中」「大」が合計で80%発生していたが、本発明例はスリ疵「中」「大」の発生がなくなり、「小」が70%、「なし」が30%となり、合格率が大幅に向上した。
【符号の説明】
【0044】
1 連続焼鈍炉
2 ペイオフリール
3 溶接機
4 入側ルーパ
5 加熱帯
6 均熱帯
7 1次冷却帯
8 過時効帯
9 2次冷却帯
10 出側ルーパ
11 調質圧延機
12 巻き取りリール
20 CPC
21 過時効帯出側温度計
22 1次冷却帯温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱帯、均熱帯、1次冷却帯、過時効帯、2次冷却帯をこの順序で有する連続焼鈍炉を用いた鋼板の連続焼鈍方法であって、
質量%で、C:0.03〜0.05%、Si≦0.02%、Mn:0.1〜0.2%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼(以下「低炭アルミキルド鋼」という。)、
質量%で、C :0.0014〜0.0025%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼(以下「P添加極低炭BH鋼」という。)の2種を含む複数品種の鋼板を連続して焼鈍し、
前記過時効帯の出側温度は、前記低炭アルミキルド鋼焼鈍時においては250〜300℃の範囲とし、前記P添加極低炭BH鋼焼鈍時においては300℃を超える温度とすることを特徴とする鋼板の連続焼鈍方法。
【請求項2】
前記P添加極低炭BH鋼は、質量%で、C :0.0014〜0.0030%、Si≦0.5%、Mn:0.03〜1.0%、P:0.01〜0.15%、S≦0.015%、Al:0.005〜0.1%、N≦0.0040%を含有し、さらにTi:0.002〜0.015%およびNb:0.002〜0.015%のうち1種または2種をTi+Nb=0.002〜0.015%となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の連続焼鈍方法。
【請求項3】
前記P添加極低炭BH鋼は、さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板の連続焼鈍方法。
【請求項4】
前記低炭アルミキルド鋼が、更に、質量%で、B:0.0020〜0.0035%を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼板の連続焼鈍方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate


【公開番号】特開2012−36412(P2012−36412A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174637(P2010−174637)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】