説明

連続発酵による化学品の製造方法および連続発酵装置

【課題】簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持することができる連続発酵法による化学品の製造方法とその製造装置を提供する。
【解決手段】発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物である化学品を回収するとともに、未濾過液を発酵培養液に保持または還流する連続発酵による化学品の製造方法であって、その分離膜として高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい多孔性膜を用い、低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで発酵による化学品の生産効率を著しく向上させることが可能な連続発酵による化学品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物または細胞の培養方法の改良およびそれに用いられる培養装置に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、培養を行いながら、微生物または培養細胞の発酵培養液から、目詰まりが生じにくい多孔性分離膜を通して生産物を含む液を効率よく濾過・回収することおよび未濾過液を発酵培養液に戻すことにより、発酵に関与する微生物濃度を向上させて高い生産性を得ることができる連続発酵による化学品の製造方法およびそれに用いられる連続発酵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)バッチ発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と(2)連続発酵法に分類することができる。
【0003】
上記(1)のバッチ発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し、雑菌汚染による被害が少ないという利点がある。しかしながら、時間経過とともに培養液中の生産物濃度が高くなり、浸透圧あるいは生産物阻害等の影響により生産性および収率が低下してくる。そのため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持するのが困難である。
【0004】
一方、上記(2)の連続発酵法は、発酵槽内で目的物質が高濃度に蓄積するのを回避することによって、長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できるという特徴がある。L−グルタミン酸やL−リジンの発酵について、このような連続培養法が開示されている(非特許文献1参照。)。しかしながら、これらの例では、培養液へ原料の連続的な供給を行うと共に、微生物や細胞を含んだ培養液を抜き出すために、培養液中の微生物や細胞が希釈されることから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0005】
このことから、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。
【0006】
例えば、セラミックス膜を用いた連続発酵装置において、連続発酵する技術が提案されている(特許文献1、特許文献2および特許文献3参照。)が、これらの提案では、分離膜の目詰りによる濾過流量や濾過効率の低下に問題があり、目詰まり防止のために、逆洗浄等を行っている。また、分離膜を用いたコハク酸の製造方法が提案されている(特許文献4参照。)。しかしながら、この提案では、膜分離において高い濾過圧(約200kPa)が採用されている。高い濾過圧は、コスト的にも不利であるばかりでなく、濾過処理において微生物や細胞が圧力によって物理的なダメージをうけることから、微生物や細胞を連続的に発酵培養液に戻す連続発酵法においては適切ではない。
【0007】
このように、従来の連続発酵法には様々な問題があり、産業的応用が難しかった。
【0008】
すなわち、連続発酵法において、微生物や細胞を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や細胞を発酵培養液に還流させ、発酵培養液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かつ、高く維持させることで高い物質生産性を得ることは、依然として困難であり、技術の革新が望まれていた。
【特許文献1】特開平5−95778号公報
【特許文献2】特開昭62−138184号公報
【特許文献3】特開平10−174594号公報
【特許文献4】特開2005−333886号公報
【非特許文献1】Toshihiko Hirao et. al.(ヒラノ・トシヒコ ら)、 Appl. Microbiol. Biotechnol.(アプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー),32,269−273(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、簡便な操作方法で、長時間にわたり安定して高生産性を維持することができる連続発酵による化学品の製造方法と、その製造方法に用いられる連続発酵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、微生物や培養細胞の分離膜内への侵入が少なく、微生物や培養細胞を膜間差圧が低い条件で濾過した場合に、分離膜の目詰まりが著しく抑制されることを見出し、課題であった高濃度の微生物や培養細胞の濾過が長期間安定に維持できることを可能とし、本発明に到達したのである。
【0011】
すなわち、本発明は、微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵による化学品の製造方法であって、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法である。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜の純水透過係数は、2×10-9/m/s/pa以上6×10-7/m/s/pa以下である。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜の平均細孔径は0.01μm以上0.2μm未満の範囲内にあり、その平均細孔径の標準偏差は0.1μm以下であり、そして、その膜表面粗さは0.1μm以下である。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、前記の多孔性膜は多孔質樹脂層を含む多孔性膜であり、その多孔質樹脂層は好ましくはポリフッ化ビニリデン等の有機高分子化合物からなるものである。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、前記の微生物または培養細胞の発酵培養液および発酵原料が、糖類を含むことである。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、前記の化学品は、乳酸等の有機酸またはエタノール等のアルコールである。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、前記の微生物は酵母等の真核細胞であり、その好適な酵母は、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母とサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母である。
【0018】
また、本発明の連続発酵装置は、微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵による化学品の製造装置であって、微生物もしくは培養細胞を発酵培養させるための発酵反応槽と、該発酵反応槽に発酵培養液循環手段を介して接続され内部に分離膜を備えた発酵培養液を濾過するための膜分離槽と、分離膜の膜間差圧を0.1から20kPaの範囲に制御する手段からなり、該分離膜が平均細孔径0.01μm以上1μm未満の多孔性膜であることを特徴とする連続発酵装置である。
【0019】
本発明の連続発酵装置の好ましい態様によれば、前記の分離膜の膜間差圧は、水頭差制御装置による発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差で制御することができる。
【0020】
本発明の連続発酵装置の好ましい態様によれば、前記の分離膜の膜間差圧は、加圧ポンプまたは/および吸引ポンプで制御することができる。
【0021】
本発明の連続発酵装置の好ましい態様によれば、前記の分離膜の膜間差圧は、気体または液体の圧力で制御することができる。
【0022】
本発明の連続発酵装置の好ましい態様によれば、前記の発酵培養液循環手段は、循環ポンプである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、分離膜として高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい多孔性膜を用い、低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで発酵生産効率を著しく向上させることができる。また、本発明によれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を発酵培養液に追加する連続発酵において、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とするものである。
【0025】
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、発酵に使用される微生物や培養細胞による目詰まりが起こりにくく、そして、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましい。そのため、本発明で使用される多孔性膜は、平均細孔径が、0.01μm以上1μm未満であることが重要である。
【0026】
本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について説明する。本発明における多孔性膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものである。多孔性膜は、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。
【0027】
多孔質基材の材質は、有機材料および/または無機材料等からなり、中でも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布等である。中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
【0028】
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂等が挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物からなるものであってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。中でも、多孔質樹脂層を構成する膜素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく用いられる。膜素材には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
【0029】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましいが、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0030】
本発明で用いられる多孔性膜の作成法の概要を説明する。まず、前記の多孔質基材の表面に、前記の樹脂と溶媒を含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を多孔質基材に含浸させる。その後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液に、さらに非溶媒を含ませることもできる。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、15〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。
【0031】
ここで、原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することにより、平均細孔径の大きさの制御することができる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
【0032】
また、溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。このような溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMFおよびDMSOが好ましく用いられる。
【0033】
さらに、原液には、非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水やメタノールおよびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、価格の点から水やメタノールが好ましい。非溶媒は、これらの混合物であってもよい。
【0034】
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
【0035】
上述のように、本発明で用いられる分離膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜であることが望ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
【0036】
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することが好ましい。
【0037】
分離膜の平均細孔径が上記のように0.01μm以上1μm未満の範囲内にあると、菌体や汚泥などがリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。微生物として細菌類を用いた場合、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
【0038】
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
【0039】
上記の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができる。発酵運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が望ましい。
【0040】
平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
【0041】
【数1】

【0042】
本発明で用いられる多孔性膜においては、発酵培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましい。純水透過係数が2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましい純水透過係数は、2×10−9/m/s/pa以上1×10−7/m/s/pa以下である。
【0043】
本発明で用いられる多孔性膜の膜表面粗さは、分離膜の目詰まりに影響を与える因子である。膜表面粗さが好ましくは0.1μm以下のときに、分離膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で連続発酵が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることにより、安定した連続発酵が可能になることから、表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
【0044】
また、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることにより、微生物や培養細胞の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物や培養細胞の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
【0045】
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の装置と条件で測定することができる。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm 四方(気中測定)
5μm、10μm 四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製 測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、ろ過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いてろ過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
【0046】
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
【0047】
【数2】

【0048】
本発明で使用される微生物や培養細胞の発酵原料は、発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。
【0049】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、サトウキビ搾汁、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0050】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0051】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
【0052】
本発明で使用される微生物や培養細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加使用することができる。
【0053】
本発明において、発酵培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更することができる。
【0054】
本発明では、発酵培養液中の糖類濃度は5g/l以下に保持されるようにすることが好ましい。その理由は、発酵培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。そのため、糖類の濃度は可能な限り小さいことが望ましい。
【0055】
微生物の発酵培養は、通常、pHが4〜8で温度が20〜40℃の範囲で行われることが多い。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【0056】
培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を好適には21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0057】
本発明においては、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から、原料培養液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は、必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。原料培養液には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。
【0058】
発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、発酵培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率的でよい生産性を得る上で好ましい態様である。一例として、濃度を、乾燥重量として5g/L以上に維持することにより良好な生産効率が得られる。連続発酵装置の運転上の不具合や生産効率の低下を招かなければ、発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度の上限は特に限定されない。
【0059】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続発酵培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。その場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
【0060】
本発明においては、微生物や培養細胞を発酵反応槽に維持したままで、発酵反応槽からの発酵培養液の連続的かつ効率的な抜き出しが可能である。そのため、微生物や細胞を連続的に発酵培養し、十分な増殖を確保した後に発酵原料液組成を変更し、目的とする化学品を効率よく製造することも可能である。
【0061】
本発明で使用される微生物や培養細胞としては、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0062】
本発明において好適な酵母としては、例えば、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母とサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母が挙げられる。
【0063】
本発明における化学品は、上記の微生物や細胞が発酵培養液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸、核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質、組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、カダベリン、グリセロール等が挙げられる、また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
【0064】
本発明において、微生物や培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0065】
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることができる。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の発酵培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。上記の範囲に膜間差圧を制御する手段としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができる、また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0066】
また、本発明において使用される多孔性膜は、濾過処理する膜間差圧として、0.1kPa以上20kPa以下の範囲で濾過処理することができる性能を有することが好ましい。
【0067】
次に、本発明の連続発酵による化学品の製造方法を具体的に実施し、本発明を完成させる手段として使用される、発酵反応層の外部に分離膜エレメントが設置された連続発酵装置の代表的な一例を
1172031386281_0
1に示す。図1は、本発明の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
【0068】
図1において、膜分離型の連続発酵装置は、微生物もしくは培養細胞を発酵培養させる発酵反応槽1と、その発酵反応槽1に発酵培養液循環ポンプ11を介して接続され内部に分離膜エレメント2を備えた膜分離槽12と、発酵反応槽1内の発酵培養液の量を制御するための水頭差制御装置3で基本的に構成されている。ここで、分離膜エレメント2には分離膜である多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている膜を使用することが好適である。
【0069】
図1において、培地供給ポンプ7によって培地を発酵反応槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4によって供給することができる。また、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵培養液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
【0070】
さらに、装置内の発酵培養液は、発酵培養液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を循環する。発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜エレメント2によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。
【0071】
また、濾過・分離された微生物は、装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜を備えた分離膜エレメント2による発酵培養液の濾過・分離は、膜分離槽12の水面との水頭差圧によって行うことができ、特別な動力は必要ない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および水頭差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の発酵培養液量を適当に調節することができる。
【0072】
上記のように、図1では分離膜エレメント2を膜分離槽12外に設置する形態を例示したが、分離膜エレメント2を発酵反応槽1内に設置することができる。分離膜エレメント2を発酵反応槽1内に設置した場合は、膜分離槽12、発酵培養液循環ポンプ11およびそれに付帯する設備を省略することができる。また、分離膜エレメント2を発酵反応槽1内に設置した場合における分離膜エレメント2による濾過・分離は、発酵反応槽1との水頭差圧によって行うことができ、特別な動力は必要ない。
【0073】
上記のように、分離膜エレメント2による濾過・分離は、水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプや気体・液体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。このような手段により、膜間差圧を制御することができる。
【0074】
本発明で用いられる分離膜エレメント2の好適な形態の例である国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを、以下、図面を用いてその概略を説明する。図2は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
【0075】
分離膜エレメントは、図2に示すように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と分離膜15とをこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。分離膜15は発酵培養液を濾過する。流路材14は、分離膜15で濾過された透過水を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた発酵生成物を含む透過液は、支持板13の凹部16を通り、排出手段である集水パイプ17を介して連続発酵装置外部に取り出される。ここで、上述の水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を透過水を取り出すための動力として用いることができる。
【0076】
本発明に従って連続発酵を行った場合、従来のバッチ発酵と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続発酵培養における生産速度は、次の式(3)で計算される。
・発酵生産速度(g/L/hr)=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵培養液抜き取り速度(L/hr)÷装置の運転液量(L) ・・・・(式3)
また、バッチ培養での発酵生産速度は、原料炭素源をすべて消費した時点の生産物量(g)を、炭素源の消費に要した時間(h)とその時点の発酵培養液量(L)で除して求められる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の連続発酵による化学品の製造方法をさらに詳細に説明するために、上記の発酵生産物としてL−乳酸を選定し、図1に示す連続発酵装置を用いて連続的なL−乳酸の発酵生産について、実施例を挙げて説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0078】
ここで、L−乳酸を生産させる微生物には、酵母サッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisae)を用いた。サッカロミセス・セレビセは、本来L−乳酸発酵を持たないが、L−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子をサッカロミセス・セレビセに導入することによりL−乳酸発酵能力をもつサッカロミセス・セレビセ株を造成し実施した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することにより、L−乳酸発酵能力を持つ酵母株を造成して使用した。
【0079】
[参考例1]乳酸生産能力を持つ酵母株の作製
乳酸生産能力を持つ酵母株を、下記のように造成した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することにより、L−乳酸生産能力を持つ酵母株を造成する。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La−Taq(宝酒造社製)あるいはKOD-Plus-polymerase(東洋紡社製)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
【0080】
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを、続くPCRの増幅鋳型とした。
【0081】
上記の操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたKOD-Plus-polymeraseによるPCRにより、L−ldh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。
【0082】
ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより、各種L−ldh遺伝子(配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−ldh遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11(図3)のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにして、ヒト由来L−ldh遺伝子発現プラスミドpL−ldh5(L−ldh遺伝子)を得た。ヒト由来のL−ldh遺伝子発現ベクターである上記pL−ldh5は、プラスミド単独で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)にFERMAP−20421として寄託した(寄託日:平成17年2月21日)。
【0083】
ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、1.3kbのヒト由来LDH遺伝子およびサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を、1.5%アガロースゲル電気泳動により分離し、常法に従い精製した。
【0084】
ここで得られた1.3kb断片と1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子およびTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を、常法に従い調整した。この2.5kbのDNA断片で、出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
【0085】
得られた形質転換細胞が、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のようにして行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより、0.7kbの増幅DNA断片が得られることにより確認した。
【0086】
また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS 2000 EDITION、 CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを、下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することにより確認した。
・カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
・移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
・反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
・検出方法:電気伝導度
・温度:45℃。
【0087】
また、L−乳酸の光学純度測定は、下記の条件でHPLC法により測定した。
・カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
・移動相 :1mM 硫酸銅水溶液
・流速:1.0ml/min
・検出方法 :UV254nm
・温度 :30℃。
【0088】
また、L−乳酸の光学純度は、次式で計算される。
・光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)。
【0089】
ここで、LはL−乳酸の濃度であり、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0090】
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことが確認された。得られた形質転換細胞を、酵母SW−1株として、後の実施例で用いた。
【0091】
[参考例2]多孔性膜の作製(その1)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%
次に、上記原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性膜を得た。
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜(多孔性膜)を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記分離膜について純水透水透過係数を評価したところ、50×10-93/m2/s/Paであった。純水透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差は0.035μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
【0092】
[参考例3]多孔性膜の作製(その2)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、開孔剤として分子量が約20,000のポリエチレングリコール(PEG)を、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を、そして非溶媒として純水をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
・PVDF:13.0重量%
・PEG : 5.5重量%
・DMAc:78.0重量%
・純水 : 3.5重量%
次に、上記原液を25℃の温度に冷却した後、密度が0.48g/cm3 で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、塗布後、直ちに25℃の温度の純水中に5分間浸漬し、さらに80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcおよびPEGを洗い出し、分離膜(多孔性膜)を得た。この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.02μmであった。この分離膜について純水透過係数を評価したところ、2×10-93/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差は0.0055μmで、膜表面粗さは0.1μmであった。
【0093】
[参考例4]多孔性膜の作製(その3)
次に示す組成の原液を用いた他は、参考例2と同様にして分離膜を得た。
・PVDF:13.0重量%
・PEG : 5.5重量%
・DMAc:81.5重量%
この分離膜の原液を塗布した側における、多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.19μmであり、この分離膜について純水透過係数を評価したところ、100×10-93/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.060μmで、膜表面粗さは0.08μmであった。
【0094】
[参考例5] 多孔性膜の作製(その4)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
・PVDF:15.0重量%
・DMAc:85.0重量%
次に、上記原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性膜を得た。
・水 :100.0重量%
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.008μmであった。次に、上記分離膜について純水透過係数を評価したところ、0.3×10-93/m2・s・Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.002μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
【0095】
[実施例1]連続発酵によるL−乳酸の製造(その1)
図1の膜分離型の連続発酵装置を稼働させることにより、L−乳酸連続発酵系が得られるかどうかを調べるため、表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、この装置の連続発酵試験を行った。図1の膜分離型の連続発酵装置は、本発明の一実施の形態を示すものであり、本発明はその形態になんら限定されるものではない。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例2で作製した多孔性膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、下記のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:60平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.2(L/min)
・膜分離槽通気量:0.3(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:400(rpm)
・pH調整:0.5N NaOHによりpH5に調整
・ 発酵培養液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・ 膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(膜間差圧として2 kPa以下に制御した。)。
【0096】
微生物として前記の参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用いた。生産物であるL−乳酸の濃度の評価には、前記の参考例1に示したHPLCを用い、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
【0097】
【表1】

【0098】
まず、試験管中で5mlの乳酸発酵培地を用いSW−1株を一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコ中で24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示した膜分離型の連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって400rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度調整およびpH調整を行った。発酵培養液循環ポンプ11を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させた。前培養時の運転条件に加え、膜分離槽2を通気し、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型の連続発酵装置の発酵培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、膜分離槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることによって行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたL−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、該L−乳酸およびグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出された該L−乳酸対糖収率と乳酸生産速度を、表3に示した。264時間の発酵試験を行った結果、図1の膜分離型の連続発酵装置を用いることにより、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることが確認できた。
【0099】
[実施例2]連続発酵によるL−乳酸の製造(その2)
図1の膜分離型の連続発酵装置を稼働させることにより、L−乳酸連続発酵系が得られるかどうかを調べるため、表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、この装置の連続発酵試験を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例2で作製した多孔性膜を用いた。実施例2における運転条件は、特に断らない限り、次のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:60平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
・膜分離槽通気量:0.3(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:100(rpm)
・pH調整:1N NaOHによりpH5に調整
・乳酸発酵培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
・発酵培養液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御。
【0100】
(連続発酵開始後〜100時間:膜間差圧0.1kPa以上5kPa以下で制御
100時間〜200時間:膜間差圧0.1kPa以上2kPa以下で制御
200時間〜300時間:膜間差圧0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0101】
微生物として前記の参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用いた。生産物であるL−乳酸の濃度の評価には、参考例1に示したHPLCを用い、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
【0102】
まず、試験管中で5mlの乳酸発酵培地を用いSW−1株を一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコ中で24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示した膜分離型の連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度調整およびpH調整を行った。発酵液循環ポンプ11を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、発酵液循環ポンプ11を稼働させた。前培養時の運転条件に加え、膜分離槽12を通気し、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型の連続発酵装置の発酵培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産された乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。300時間の連続発酵試験を行った結果、を表3に示す。その結果、この膜分離型の連続発酵装置を用いることにより、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。連続発酵の期間中の膜間差圧は、2kPa以下0.1以上で推移した。
【0103】
[実施例3]連続発酵によるL−乳酸の製造(その3)
分離膜として前記の参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例2と同様のL−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を、表3に示す。その結果、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
【0104】
[実施例4]連続発酵によるL−乳酸の製造(その4)
分離膜として前記の参考例4で作製した多孔性膜を用い、実施例2と同様のL−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を、表3に示す。その結果、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
【0105】
[実施例5]連続発酵によるエタノールの製造(その1)
図1の膜分離型の連続発酵装置を稼働させることにより、エタノール連続発酵系が得られるかどうかを調べるため、表2に示す組成のエタノール発酵培地を用い、この装置の連続発酵試験を行った。該エタノール発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜には、前記の参考例2で作製した多孔性膜を用いた。実施例5における運転条件は、特に断らない限り、次のとおりである。
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:60平方cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
・膜分離槽通気量:0.3(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:100(rpm)
・pH調整:1N NaOHによりpH5に調整
・エタノール発酵培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
・発酵培養液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続発酵開始後〜100時間:膜間差圧0.1kPa以上5kPa以下で制御
100時間〜200時間:膜間差圧0.1kPa以上2kPa以下で制御
200時間〜300時間:膜間差圧0.1kPa以上20kPa以下で制御)
微生物としてNBRC10505株を用い、培地として表2に示す組成のエタノール発酵培地を用いた。生産物であるエタノール濃度は、ガスクロマトグラフ法により定量した。Shimadzu GC-2010キャピラリーGC TC-1(GL science) 15 meter L.*0.53 mm I.D., df=1.5 μmを用いて、水素炎イオン化検出器により検出・算出して、エタノール生産量を評価した。また、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
【0106】
【表2】

【0107】
まず、試験管中で5mlのエタノール発酵培地を用いNBRC10505株を一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮なエタノール発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコ中で24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示した膜分離型の連続発酵装置の1.5Lのエタノール発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって100rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度調整およびpH調整を行い、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後、直ちに、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させた。前培養時の運転条件に加え、膜分離槽12を通気し、エタノール発酵培地の連続供給を行い、膜分離型の連続発酵装置の発酵液量を2Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるエタノールの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により水頭差を膜間差圧として測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたエタノール濃度および残存グルコース濃度を測定した。300時間の発酵試験を行った結果を表4に示す。その結果、この膜分離型の連続発酵装置を用いることにより、安定したエタノールの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。連続発酵の期間中の膜間差圧は、2kPa以下0.1kPa以上で推移した。
【0108】
[実施例6]連続発酵によるエタノールの製造(その2)
分離膜には前記の参考例3で作製した多孔性膜を用い、実施例2と同様のエタノール連続発酵試験を行った。その結果を、表4に示す。その結果、安定したエタノールの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
【0109】
[実施例7]連続発酵によるエタノールの製造(その3)
分離膜には前記の参考例4で作製した多孔性膜を用い、実施例2と同様のエタノール連続発酵試験を行った。その結果を、表4に示す。その結果、安定したエタノールの連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。
【0110】
[比較例1]回分発酵によるL−乳酸の製造(その1)
図1に示す膜分離型の連続発酵装置を用いることによりL−乳酸発酵生産性が向上するかどうかを調べるため、微生物を用いた発酵形態として最も典型的な回分発酵を行い、その乳酸生産性を評価した。表1に示す乳酸発酵培地を用い、図1の膜分離型の連続発酵装置の発酵反応槽1のみを用いた回分発酵試験を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。比較例1でも、微生物として前記の参考例1で造成した酵母SW−1株を用いた。生産物であるL−乳酸の濃度は、前記の参考例1に示したHPLCを用いて評価し、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。比較例1の運転条件を次に示す。
・発酵反応槽容量(乳酸発酵培地量):1(L)
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.2(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:400(rpm)
・pH調整:0.5N NaOHによりpH5に調整。
【0111】
まず、試験管中で5mlの乳酸発酵培地を用いSW−1株を一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコ中で24時間振とう培養した(前培養)。前培養液を膜分離型連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5で400rpmで攪拌し、発酵反応槽1を通気した。温度調整とpH調整を行い、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させることなく、回分発酵培養を行った。このときの菌体増殖量は、600nmでの吸光度で15であった。回分発酵の結果を、実施例1の連続発酵試験で得られたL―乳酸発酵生産性と比較して表3に示す。
【0112】
これら比較の結果、図1の膜分離型の連続発酵装置を用いることにより、L−乳酸の生産速度が大幅に向上することを明らかにすることができた。すなわち、本発明によって開示された多孔性膜を組み込んだ膜分離型の連続発酵装置を用い、膜間差圧を制御することにより、発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物を回収すると共に、未濾過液を発酵培養液に戻す連続発酵方法を可能とし、微生物量を高く維持しながら、連続発酵によるL―乳酸等の化学品の製造が可能であることが明らかとなった。
【0113】
[比較例2]回分発酵によるL−乳酸の製造(その2)
図1に示す膜分離型の連続発酵装置を用いることによりL−乳酸発酵生産性が向上するかどうかを調べるため、微生物を用いた発酵形態として最も典型的な回分発酵を行い、その乳酸生産性を評価した。表1に示す乳酸発酵培地を用い、図1の膜分離型の連続発酵装置の発酵反応槽1のみを用いた回分発酵試験を行った。該乳酸発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。比較例2でも、微生物として前記の参考例1で造成した酵母SW−1株を用いた。生産物であるL−乳酸の濃度は、参考例1に示したHPLCを用いて評価し、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬)を用いた。比較例2の運転条件を以下に示す。
・発酵反応槽容量(乳酸発酵培地量):1(L)
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:100(rpm)
・pH調整:1N NaOHによりpH5に調整。
【0114】
まず、試験管中で5mlの乳酸発酵培地を用いSW−1株を一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコ中で24時間振とう培養した(前培養)。前培養液を膜分離型の連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5で100rpmで攪拌し、発酵反応槽1を通気した。温度調整とpH調整を行い、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させることなく、回分発酵培養を行った。このときの菌体増殖量は、600nmでの吸光度で14であった。回分発酵の結果を、実施例2、3および4の連続発酵試験で得られたL―乳酸発酵生産性と比較して表3に示す。これら比較の結果、図1の膜分離型の連続発酵装置を用いることにより、L−乳酸の生産速度が大幅に向上することを明らかにすることができた。すなわち、本発明によって開示された多孔性膜を組み込んだ膜分離型の連続発酵装置を用い、膜間差圧を制御することにより、発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物を回収すると共に、未濾過液を発酵培養液に戻す連続発酵方法を可能とし、微生物量を高く維持しながら、連続発酵によるL―乳酸等の化学品の製造が可能であることが明らかとなった。
【0115】
[比較例3]回分発酵によるエタノールの製造
図1に示す膜分離型の連続発酵装置を用いることによりエタノール発酵生産性が向上するかどうかを調べるため、微生物を用いた発酵形態として最も典型的な回分発酵を行い、そのエタノール生産性を評価した。表2に示すエタノール発酵培地を用い、図1の膜分離型の連続発酵装置の発酵反応槽1のみを用いた回分発酵試験を行った。該エタノール発酵培地は、121℃の温度で15分間、高圧蒸気滅菌して用いた。比較例3でも、微生物としてNBRC10505株を用いた。生産物であるエタノールの濃度は、実施例5に示したHPLCを用いて評価し、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)を用いた。比較例3の運転条件を次に示す。
・反応槽容量(エタノール発酵培地量):1(L)
・温度調整:30(℃)
・反応槽通気量:0.05(L/min)
・反応槽攪拌速度:100(rpm)
・pH調整:1N NaOHによりpH5に調整。
【0116】
まず、試験管中で5mlのエタノール発酵培地を用いNBRC10505株を一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮なエタノール発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコ中で24時間振とう培養した(前培養)。前培養液を膜分離型の連続発酵装置の1.5Lのエタノール発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5で100rpmで攪拌し、発酵反応槽1を通気した。温度調整とpH調整を行い、発酵液循環ポンプ11を稼働させることなく、回分発酵培養を行った。このときの菌体増殖量は、600nmでの吸光度で18であった。回分発酵の結果を、実施例5の連続発酵試験で得られたL―エタノール発酵生産性と比較して表4示す。これら比較の結果、図1の膜分離型の連続発酵装置を用いることにより、エタノールの生産速度が大幅に向上することを明らかにすることができた。すなわち、本発明によって開示された多孔性膜を組み込んだ膜分離型連続発酵装置を用い、膜間差圧を制御することで、発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物を回収するとともに、未濾過液を発酵培養液に戻す連続発酵方法を可能とし、微生物量を高く維持しながら、連続発酵によるエタノール等の化学品の製造が可能であることが明らかとなった。
【0117】
[比較例4]連続発酵によるL−乳酸の製造
細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、図1の膜分離型連続発酵装置を稼働させることにより、L−乳酸連続発酵系が得られるかどうかを調べるため、表1に示す組成の酵母乳酸発酵培地を用い、この装置による連続発酵試験を行った。比較例4は、分離膜としては参考例5で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(連続発酵全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、その他試験条件は実施例2と同様に行った。その結果、培養開始後80時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、連続発酵を停止した。このことから、本発明の連続発酵による化学品の製造方法と連続発酵装置には、参考例5で作製した多孔性膜は不適であることが明らかになった。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の連続発酵による化学品の製造方法は、分離膜として高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい多孔性膜を用い、低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで発酵生産効率を著しく向上させることができる。また、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、本発明の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
【図3】図3は、実施例で用いた酵母用発現ベクターpTRS11のフィジカルマップを示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1 発酵反応槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 温度調節器
11 発酵培養液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 分離膜
16 凹部
17 集水パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵による化学品の製造方法であって、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項2】
多孔性膜の純水透過係数が、2×10-9/m/s/pa以上6×10-7/m/s/pa以下であることを特徴とする請求項1記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項3】
多孔性膜の平均細孔径が、0.01μm以上0.2μm未満の範囲内にあり、かつ、該平均細孔径の標準偏差が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項4】
多孔性膜の膜表面粗さが0.1μm以下の多孔性膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項5】
多孔性膜が多孔質樹脂層を含む多孔性膜である請求項1から4のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項6】
多孔性膜の膜素材がポリフッ化ビニリデンを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項7】
微生物または培養細胞の発酵培養液および発酵原料が、糖類を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項8】
化学品が有機酸またはアルコールであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項9】
微生物が真核細胞であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項10】
真核細胞が酵母であることを特徴とする請求項9記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項11】
微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵による化学品の製造装置であって、微生物もしくは培養細胞を発酵培養させるための発酵反応槽と、該発酵反応槽に発酵培養液循環手段を介して接続され内部に分離膜を備えた発酵培養液を濾過するための膜分離槽と、分離膜の膜間差圧を0.1から20kPaの範囲に制御する手段からなり、該分離膜が平均細孔径0.01μm以上1μm未満の多孔性膜であることを特徴とする連続発酵装置。
【請求項12】
分離膜の膜間差圧を、水頭差制御装置による発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差で制御することを特徴とする請求項11記載の連続発酵装置。
【請求項13】
分離膜の膜間差圧を、加圧ポンプまたは/および吸引ポンプで制御することを特徴とする請求項11または12記載の連続発酵装置。
【請求項14】
分離膜の膜間差圧を、気体または液体の圧力で制御することを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の連続発酵装置。
【請求項15】
発酵培養液循環手段が、循環ポンプであることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の連続発酵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−252367(P2007−252367A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40518(P2007−40518)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】