説明

連続鋳造方法

【課題】極低炭素鋼などを鋳造する際に、浸漬ノズルの詰まりがなく、品質の良好な鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造方法の提供。
【解決手段】溶鋼中に不活性ガスを1.0〜2.5Nリットル/溶鋼tonの流量で吹き込み、かつ、鋳型の2つの長辺の外側に鋳型を挟んで対向する組を1対とする静磁場の溶鋼流動制動装置をメニスカス近傍(磁場強度B1)、浸漬ノズルの吐出孔の近傍(磁場強度B2)および鋳型の下端近傍(磁場強度B3)に各1対を設け、磁場強度B1、B2およびB3が、B2を基準として下記(A)式を満足するように電磁力を作用させる方法。B1:B2:B3=0〜1:1:1〜3・・・(A) ここで、500(Gauss)≦B2≦1000(Gauss)、B2の磁場印加方向:B1およびB3と反対方向。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋳造時のノズル詰まりがなく、表面品質の良好な鋳片が得られる極低炭素鋼の連続鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】表面欠陥が少なく、かつ成形性に優れていることが要求される鋼板、たとえば、自動車の外装用鋼板には、極低炭素鋼が用いられている。真空下での脱炭処理後にAlによる脱酸処理を行った極低炭素鋼の取鍋内において、その後の連続鋳造が終了するまでの間に、溶鋼中のAlとスラグ中のFeOやMnOなどの低級酸化物とが反応し、Alの酸化物(Al2 3 )が生成しやすい。
【0003】このAlの酸化物は、連続鋳造中に浸漬ノズルが閉塞する原因となったり、また、連続鋳造中のタンデイッシュ内や鋳型内の溶鋼から除去されずに鋳片表層部にAl2 3 系の非金属介在物として残存し、鋼板の表面欠陥の原因となったりする。
【0004】浸漬ノズルの閉塞を防止するために、タンディッシュの溶鋼出口から浸漬ノズルの吐出孔までの間で不活性ガスを溶鋼中に吹き込むことが一般的に行われている。たとえば、特開平2−37948号公報では、浸漬ノズルを通過する溶鋼中に、鋳造速度に応じた吹き込み流量で、Arガスを吹き込む方法が提案されている。また、特開平9−192803号公報では、吹き込んだ不活性ガスの鋳型内の溶鋼中での浮上量が、浸漬ノズルを挟んで両側で同じになるように、鋳型の外側に配置した移動磁場印加装置を用いて溶鋼の流動を制御することが提案されている。いずれの方法でも、吹き込む不活性ガスの流量が、3〜5リットル/溶鋼ton程度と多く、浸漬ノズルの閉塞の防止には効果があるが、鋳片表層部に気泡性欠陥が発生する場合がある。
【0005】一方、鋳片表層部での非金属介在物の集積や気泡性欠陥の発生の防止、また、高速鋳造時のブレークアウトの発生防止などを目的に、鋳型内の溶鋼の流動を制動する手段が採られている。たとえば、特開平11−10290号公報では、鋳型の高さ方向の上段、中段および下段の3段の位置に静磁場印加装置を配置し、各段の電磁力の強度を調整して、鋳型内の溶鋼の流動を制動する方法が提案されている。
【0006】しかし、この特開平11−10290号公報の方法では、吹き込む不活性ガスの流量によっては、メニスカス近傍の溶鋼の流動が変化することが考慮されていない。つまり、鋳型の短辺から浸漬ノズルの方向に向かうメニスカス近傍の溶鋼の流れに作用させる静磁場の強度が強く、さらにこのとき、浸漬ノズルを通過する溶鋼中に多くの流量で不活性ガスを吹き込むと、不活性ガスの気泡による溶鋼の流れが形成され、そのために、メニスカス近傍の溶鋼の流れが部分的に停滞したり、溶鋼の湯面が波立ったりする場合がある。
【0007】メニスカス近傍の溶鋼の流れが停滞すると、鋳片表層部に非金属介在物が集積しやすくなったり、また、停滞した部分の溶鋼温度が低下するため、溶融スラグ(溶融したモールドパウダー)の流れ込みが不均一になり、そのため、鋳片表面に割れが発生する場合がある。また、溶鋼の湯面が波立つと、溶融スラグや未溶融のモールドパウダーが鋳型内の溶鋼中に巻き込まれ、鋳片表層部にパウダー性欠陥が発生しやすくなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、不活性ガスの吹き込み流量が適正でない場合には、浸漬ノズルの閉塞を防止できなかったり、浸漬ノズルの閉塞は防止できても、鋳片表層部にパウダー性欠陥、気泡性欠陥などが発生しやすくなる。また、鋳型内の溶鋼に上段、中段および下段の3段の静磁場の電磁力を印加して、溶鋼の流動を制動する方法においても、不活性ガスの吹き込み流量および静磁場の磁場強度を適正にしないと、鋳片表層部に非金属介在物の集積やパウダー性欠陥の発生、また、鋳片表面に割れの発生などが起こりやすくなる。
【0009】本発明は、極低炭素鋼などを鋳造する際に、浸漬ノズルに詰まりが発生することもなく、安定した鋳造作業が可能で、また、鋳片表層部にモールドパウダーを巻き込んだパウダー性欠陥や不活性ガスの気泡を捕捉した気泡性欠陥などがなく、Al2 3 などの非金属介在物の集積のない、さらに、鋳片表面に割れなどのない、品質の良好な鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、つぎの(a)〜(d)を特徴とする連続鋳造方法にある。
【0011】(a)矩形断面鋳片用の鋳型および浸漬ノズルを用いる溶鋼の連続鋳造方法であること。
【0012】(b)タンディッシュの溶鋼出口から浸漬ノズルの吐出孔までの間で、溶鋼中に不活性ガスを1.0〜2.5Nリットル/溶鋼tonの流量で吹き込むこと。
【0013】(c)鋳型の2つの長辺の外側に鋳型を挟んで対向する組を1対とする静磁場の溶鋼流動制動装置を、浸漬ノズルを挟んでメニスカス近傍、鋳型の両短辺方向に開口する浸漬ノズルの各吐出孔から流れ出た直後の吐出流の近傍(以下、吐出孔の近傍と記す)および浸漬ノズルの延長線を挟んで鋳型の下端近傍に各1対をそれぞれ設けること。
【0014】(d)メニスカス近傍、吐出孔の近傍および鋳型の下端近傍のそれぞれの溶鋼流動制動装置の磁場強度を、それぞれB1、B2およびB3とし、これらの磁場強度B1、B2およびB3が、B2を基準として下記(A)式を満足するように電磁力を作用させること。
【0015】
B1:B2:B3=0〜1:1:1〜3 ・・・(A)
ここで、500(Gauss)≦B2≦1000(Gauss)
B2の磁場印加方向:B1およびB3と反対方向本発明者らは、前述する本発明の課題を、下記の■、■の知見をもとに、■および■の対策を採ることによって解決した。なお、本発明の方法では、吐出孔が2孔で、それぞれの吐出流が鋳型の短辺方向に向いている浸漬ノズルを用いる。吐出孔の角度は、とくにこだわらない。一般的な下向き角度30〜45°のものでよい。
【0016】■メニスカス近傍の溶鋼の流れは、吐出流の影響によって、鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう流れとなる。ただし、浸漬ノズルを通過する溶鋼に不活性ガスを吹き込んでいる場合には、不活性ガスによって形成されるメニスカス近傍の溶鋼の流れを考慮する必要がある。すなわち、浸漬ノズルを通過する溶鋼中に吹き込まれ不活性ガスの気泡の一部は、吐出孔近傍から、すぐに溶鋼中を浮上する。この浮上する気泡によって、メニスカス近傍において浸漬ノズル周辺から鋳型の短辺方向に向かう溶鋼の流れが形成される。
【0017】■したがって、浸漬ノズルなどを通過する溶鋼に不活性ガスを吹き込む場合で、かつ、メニスカス近傍の溶鋼に静磁場の電磁力を作用させる場合には、吹き込む不活性ガスの流量および磁場強度を同時に適正な条件の範囲とする必要がある。すなわち、不活性ガスの吹き込み流量を考慮せずに、鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れを制動するように静磁場の電磁力を作用させるとき、不活性ガスによって形成された溶鋼の流れによる減衰効果に加え、鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れが過度に制動される場合がある。鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れが過度に制動されると、凝固殻の溶鋼側の面に付着する気泡や酸化物を洗い流す効果が減少し、鋳片表層部に気泡性欠陥が発生したり、非金属介在物が集積する。
【0018】■本発明の方法では、タンディッシュの溶鋼出口から浸漬ノズルの吐出孔までの間で、溶鋼中に不活性ガスを1.0〜2.5Nリットル/溶鋼tonの流量で吹き込む条件下で、鋳型の高さ方向の上段、中段、下段に配置した静磁場の溶鋼流動制動装置の各磁場強度を前述する(A)式を満足するように作用させる。これによって、メニスカス近傍の鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れを適正に制動できる。そのため、鋳片表層部の気泡性欠陥やパウダー性欠陥の発生、非金属介在物の集積および鋳片表面の割れの発生をそれぞれ防止できる。
【0019】■また、本発明の方法では、溶鋼中に吹き込む不活性ガスの流量の下限を1.0Nリットル/溶鋼tonとするので、浸漬ノズルの詰まりを防止できる。
【0020】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の方法を実施する場合の装置の例を模式的に示す図である。溶鋼12は、タンディッシュ1から鋳型への注入口である上ノズル耐火物2、溶鋼の流量制御用のスライディングプレート3(図1では3層プレートの場合で示す)、浸漬ノズル4(通常用いられる2孔のノズルを示す)を経て、吐出孔5から鋳型内に注入される。
【0021】図1では、溶鋼の流量制御用にスライディングプレートを用いる例を示しているが、ロッドタイプのストッパーを用いてもよい。また、上ノズル耐火物2、スライディングプレート3または浸漬ノズル4に配置した多孔質耐火物や鋼製の細管などからなる不活性ガスの吹き込み口10から不活性ガスを溶鋼中に吹き込むのがよい。図1では、スライディングプレート3−1から吹き込む例を示す。
【0022】図2は、図1の各位置での水平断面を示す図である。図2(a)、図2(b)、図2(c)は、それぞれ図1のA1−A2、B1−B2、C1−C2の各線における水平断面を模式的に示す。鋳型の長辺の外側には、鋳型を挟んで対向する組を1対とする静磁場の溶鋼流動制動装置9を、浸漬ノズルを挟んでメニスカス近傍に9−1、鋳型の両短辺方向に開口する浸漬ノズルの各吐出孔の近傍に9−2、浸漬ノズルの延長線を挟んで鋳型の下端近傍に9−3の各1対を、それぞれ配置する。
【0023】図3は、鋳型内の溶鋼の流動を模式的に示す図である。吐出流6、6は、短辺側の凝固殻11に衝突後、上昇流7−1、7−1および下降流7−2、7−2に分岐する。上昇流は、溶鋼表面に達した後、鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れ7−3、7−3となる。一方、吹き込まれた不活性ガスの気泡の一部は、吐出孔近傍から、すぐに溶鋼中を浮上し、その浮上する気泡によって、溶鋼表面では、浸漬ノズルから鋳型の短辺方向に向かう溶鋼の流れ8、8が形成される。また、鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れ7−3、7−3は浸漬ノズルの手前で、溶鋼中に潜り込み、循環流を形成する。これらの溶鋼の流れは、浸漬ノズルを挟んで左右に形成される。
【0024】本発明の方法では、鋳型の上段に配置する静磁場の溶鋼流動制動装置9−1を用いて作用させる電磁力により、吐出流が鋳片の短辺と衝突した後の上昇流が溶鋼表面に達して生成した鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流れ7−3、7−3が制動される。鋳型の中段に配置する静磁場の溶鋼流動制動装置9−2を用いて作用させる電磁力によって、吐出流6、6の流速が制動される。鋳型の下段に配置する静磁場の溶鋼流動制動装置9−3を用いて作用させる電磁力によって、吐出流が鋳片の短辺と衝突した後の下降流7−2、7−2が制動される。
【0025】本発明の方法では、タンディッシュの溶鋼出口から浸漬ノズルの吐出孔までの間で、溶鋼中に不活性ガスを1.0〜2.5Nリットル/溶鋼tonの流量で吹き込む。2.5を超えると、鋳型内の湯面がボイリング(湯面が不活性ガス湧出によって泡だつ状態)し、溶融スラグや未溶融のモールドパウダーを溶鋼中に巻き込みやすくなる。1.0未満では、浸漬ノズルの閉塞防止の効果が少ない。
【0026】一方、静磁場の電磁力を作用させない場合には、4.0Nリットル/溶鋼tonを超えると、鋳片表層部に気泡性欠陥が発生しやすい。また、1.0Nリットル/溶鋼ton未満では、鋳片表層部に非金属介在物が集積しやすい。このように、静磁場の電磁力を作用させることにより、適正な不活性ガスの吹き込み流量の範囲を広くすることができる。
【0027】本発明の方法では、上段、中段および下段の静磁場の各溶鋼流動制動装置の磁場強度B1、B2およびB3を、B2を基準として、前述する(A)式を満足する磁場強度の比とする。なお、本発明の方法でいう静磁場の磁場強度とは、各溶鋼流動制動装置の各コイルの高さ位置におけるコイル幅の中心位置で、かつ、鋳型の厚み中心部の位置における磁場強度を意味する。
【0028】浸漬ノズルの吐出孔近傍の溶鋼に作用させる磁場強度B2は500〜1000Gaussとする。この範囲の磁場強度が、吐出流の流速の制動、浸漬ノズルを挟んだ左右の吐出流の流れの方向や流速の均等化にもっとも効果的である。1000Gaussを超えると、吐出流の流速が遅くなり、鋳片の短辺に衝突した後の上昇流の流速が遅すぎる。したがって、鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流れの速度も遅すぎる。そのため、凝固殻を洗浄する効果が少なくなり、鋳片表層部に気泡性欠陥が発生したり、非金属介在物などが集積しやすくなる。また、500Gauss未満では、吐出流の流速を制動する効果が小さい。したがって、磁場強度B2は500〜1000Gaussとする。
【0029】メニスカス近傍の溶鋼に作用させる磁場強度B1は、磁場強度B2を1とするとき、指数0〜1とする。
【0030】前述するように、溶鋼中に吹き込まれた不活性ガスの気泡によって形成されるメニスカス近傍の溶鋼の流れは、メニスカス近傍の溶鋼に作用させる磁場強度と同じ効果を有する。
【0031】そこで、たとえば1800mm程度以上の広幅の鋳型の場合には、鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流れの流速は遅い。このとき、上述のように不活性ガスの気泡によって形成された溶鋼の流れがあるため、磁場強度B1の指数は0または0近傍とする。鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流れを過度に制動しないためである。
【0032】また、たとえば1600mm程度以下の狭幅の鋳型の場合には、鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流れの流速は速い。したがって、上述のように不活性ガスの気泡によって形成された溶鋼の流れがあっても、磁場強度B1の指数を1またはそれ以下で1近傍とする。鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流れを強く制動するためである。
【0033】したがって、鋳造する鋳型幅の条件から、磁場強度B1は指数0〜1とする。いずれの場合にも、鋳型の短辺から鋳型長辺の1/4で、鋳型の長辺から短辺厚みの1/2の位置での、鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れの流速は30cm/秒程度とするのが望ましい。
【0034】浸漬ノズルの延長線を挟んで鋳型の下端近傍の溶鋼に作用させる磁場強度B3は、磁場強度B2を1とするとき、指数1〜3する。磁場強度B3を作用させるのは、溶鋼の下方への流れを抑制することにより、相対的に鋳型の上方への溶鋼の流れを増やすためである。これにより、溶鋼中の酸化物の浮上を促進できるし、また、溶鋼表面の温度を高温に保持できる。指数1未満では、溶鋼の下方への流れを抑制する効果が少ない。また、指数3を超えると、溶鋼の下方への流れを過度に制動するため、鋳型内で偏流が生じやすく、鋳型の長辺方向での凝固殻の厚みが不均一になり、鋳片表面に割れが発生したり、鋳片表層部に局部的に非金属介在物が集積しやすくなる。したがって、磁場強度B3は指数1〜3とする。
【0035】本発明の方法では、吹き込む不活性ガスの流量および静磁場の磁場強度を同時に適正な条件の範囲とすることにより、鋳片表面から厚み方向に10mmまでの鋳片表層部の50μm以上の非金属介在物の個数を、鋼1kg当たり20個以下となるような鋳造条件を選ぶのが望ましい。20個以下とすることにより、この鋳片を素材とする鋼板の表面欠陥の発生を効果的に防止できる。
【0036】本発明の方法は、浸漬ノズル内の溶鋼のスループット(単位時間当たりの溶鋼通過量)が6.5ton/分程度までの範囲で適用すると特に効果的である。
【0037】
【実施例】垂直曲げ型連続鋳造機を用いて、断面形状が厚み270mm、幅1500mmの鋳片を鋳造した。用いた鋼は炭素含有率が0.004重量%の極低炭素鋼で、1.5m/分の速度で鋳造した。このときの浸漬ノズルのスループットは約4.3ton/分である。各試験では3ヒートの連々鋳を行った。各ヒートの溶鋼量は約250tonである。
【0038】タンディッシュから鋳型への溶鋼の流量制御用装置には、図1に示す3層のスライディングプレートを用いた。また、3層のスライディングプレートの最上部のプレートに配置した鋼製の細管から、不活性ガスを吹き込んだ。内径が1mmである細管を耐火物に10個埋め込んだものを用いた。不活性ガスの吹き込み流量は0〜5Nリットル/溶鋼tonの範囲内とした。また、浸漬ノズルはアルミナグラファイト製で、吐出孔が通常の2孔で、吐出孔の角度は、下向き角度30゜のものを用いた。
【0039】鋳型の長辺の外側には、鋳型を挟んで対向する組を1対とする静磁場の溶鋼流動制動装置を、浸漬ノズルを挟んでメニスカス近傍に各1対、鋳型の短辺方向に開口する浸漬ノズルの吐出孔の近傍に各1対、浸漬ノズルの延長線を挟んで鋳型の下端近傍に各1対をそれぞれ配置した。これら上段、中段、下段の静磁場の溶鋼流動制動装置の磁場強度B1、B2、B3を変化させて試験した。
【0040】鋳造中には、カルマン渦流式流速計を用いて、鋳型の短辺から鋳型長辺の1/4で、鋳型の長辺から短辺の厚みの1/2の位置での鋳型の短辺から浸漬ノズル向かう溶鋼の流速を随時測定した。また、浸漬ノズルに詰まりが発生するかどうか観察した。また、各試験毎に6ヒートの連々鋳の各ヒートから定常状態で鋳造された鋳片(10m長さ)を各1個採取した。
【0041】採取した鋳片については、まず最初に、鋳片表層部のパウダー性欠陥の発生個数を目視で調査した。次に、鋳片の長辺側の表面を全面にわたって、3mm溶削した後、目視観察により直径1mm以上の気泡性欠陥の発生個数を調査した。さらに、鋳片表面の割れの発生状況を目視で観察した。
【0042】パウダー性欠陥または気泡性欠陥の発生個数については、各ヒートの鋳片毎に発生個数を調査し、その値の平均値を、その試験のパウダー性欠陥または気泡性欠陥の発生個数とし、その発生個数から次のような指数1、2および3に区分した。
【0043】すなわち、パウダー性欠陥発生指数または気泡性欠陥発生指数の指数1は、これらの欠陥が発生していないか、発生していても軽微で手入れの必要が無い程度のものを意味する。指数2は、手入れが必要な程度のこれらの欠陥が発生しており、もし、手入れしない鋳片を熱間圧延した場合には、製品に表面欠陥が若干発生する程度のものを意味する。また、指数3は、これらの欠陥の発生が著しく、もし鋳片を手入れせずに熱間圧延した場合には、製品が屑になる程度の表面欠陥が発生するものを意味する。
【0044】非金属介在物の集積状況については、鋳片横断面で、鋳片長辺の幅の1/4、1/2、3/4の各位置の鋳片表面から厚み10mm、幅90mmで鋳造方向に120mm(約0.85kg)のサンプルを採取し、電解法(スライム抽出法)により非金属介在物を抽出し、50μm以上の大きさの非金属介在物の個数を調査した。鋳片1kg当たりの非金属介在物の個数に換算して、非金属介在物の発生状況を評価した。表1に、試験条件および試験結果を示す。
【0045】
【表1】


【0046】本発明例の試験No.1〜No.4では、本発明の方法で規定する条件の範囲内の流量でArガスを溶鋼中に吹き込み、かつ、本発明の方法で規定する条件の範囲内の静磁場の電磁力を作用させて、鋳型内の溶鋼の流動を制動した。鋳造中に浸漬ノズルが詰まることはなく、鋳片表層部にパウダー性欠陥または気泡性欠陥の発生はなく、また、非金属介在物量は14〜19個/kgしかなく、非金属介在物の集積は発生しなかった。さらに、鋳片表面に割れの発生もなかった。これら試験No.1〜No.4では、鋳型内の溶鋼の流速は、30〜35cm/秒であった。
【0047】比較例の試験No.5では、Arガスを吹き込まなかったが、静磁場の電磁力は3段とも作用させ、本発明の方法で規定する条件の範囲内の静磁場の磁場強度とした。鋳片表層部の品質は問題なかったが、Arガスを吹き込まなかったために、鋳造の後半には浸漬ノズルの詰まりが発生した。
【0048】比較例の試験No.6では、Arガスを、本発明の方法で規定する範囲を超える流量の4.65Nリットル/溶鋼tonで吹き込み、また、静磁場の電磁力は3段とも作用させ、本発明の方法で規定する条件の範囲内の静磁場の磁場強度として試験した。鋳型内の湯面にボイリングが発生したため、指数3の著しいパウダー性欠陥が発生した。
【0049】比較例の試験No.7では、Arガスを、本発明の方法で規定する範囲内の流量の1.16Nリットル/溶鋼tonで吹き込んだが、静磁場の電磁力は作用させなかった。メニスカス近傍の溶鋼表面が、鋳型の短辺から浸漬ノズルの方向の溶鋼の流れによって、時々波立つ現象が見られた。そのため、鋳片表層部には、指数3の著しいパウダー性欠陥が発生した。また、下段の静磁場の電磁力を作用させなかったため、メニスカス近傍の溶鋼の温度が低下し、そのため、溶鋼中の酸化物の浮上が阻害され、鋳片表層部に非金属介在物量が80個/kg程度存在し、鋳片品質は不良であった。
【0050】比較例の試験No.8〜No.11では、Arガスを、本発明の方法で規定する範囲内の流量の1.16Nリットル/溶鋼tonで吹き込み、静磁場の磁場強度は、本発明の方法で規定する条件を外して試験した。
【0051】中段の1段のみ静磁場の電磁力を作用させた試験No.8では、下段の静磁場の電磁力を作用させなかったため、メニスカス近傍の溶鋼の温度が低下し、そのため、溶鋼中の酸化物の浮上が阻害され、鋳片表層部の非金属介在物量が75個/kgと悪かった。
【0052】上段と中段の2段の静磁場の電磁力を作用させ、かつ上段の静磁場の磁場強度を中段の2倍とした試験No.9では、メニスカスの溶鋼の流速が12cm/秒に低下し、鋳型内の凝固殻を洗浄する効果が小さくなったため、指数3の著しい気泡性欠陥が発生するとともに、鋳片表層部の非金属介在物量も85個/kgと悪かった。
【0053】中段と下段の2段の静磁場の電磁力を作用させ、かつ下段の静磁場の磁場強度を中段の4倍とした試験No.10では、鋳片表面に割れが発生した。鋳型内の溶鋼の流れに偏流が発生し、鋳型の幅方向での凝固殻の厚みが不均一になったためである。また、鋳片表層部に、部分的に非金属介在物が集積しやすくなったために、非金属介在物量も40個/kgと悪かった。
【0054】上段、中段、下段の3段の静磁場の電磁力を作用させ、かつ上段の静磁場の磁場強度を中段の2倍とし、下段の静磁場の磁場強度を中段の4倍とした試験No.11では、試験No.9に比べ、メニスカス近傍の溶鋼の流速が20cm/秒にまで増加したが、鋳型内の溶鋼の流れに偏流が発生しやすくなり、溶鋼の流れの滞留部において、指数3の著しい気泡性欠陥が発生するとともに、鋳片表層部の非金属介在物量の個数も45個/kgと悪かった。
【0055】
【発明の効果】本発明の方法を適用することにより、極低炭素鋼などを鋳造する際に、浸漬ノズルの詰まりが発生することもなく安定した鋳造作業が可能で、鋳片表層部にモールドパウダーの巻き込みや気泡性欠陥や割れの発生がなく、かつ、Al2 3などの非金属介在物の集積のない、品質の良好な鋳片を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を実施する場合の装置の例を模式的に示す図である。
【図2】図1の各位置での水平断面を示す図である。
【図3】鋳型内の溶鋼の流動を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1:タンディッシュ 2:上ノズル耐火物
3:スライディングプレート 4:浸漬ノズル
5:吐出孔 6:吐出流
7−1:上昇流 7−2:下降流
7−3:鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かう溶鋼の流れ
8:浸漬ノズルから鋳型の短辺に向かう溶鋼の流れ
9:溶鋼流動制動装置 10:不活性ガスの吹き込み口
11:凝固殻 12:溶鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】矩形断面鋳片用の鋳型および浸漬ノズルを用いる溶鋼の連続鋳造方法であって、タンディッシュの溶鋼出口から浸漬ノズルの吐出孔までの間で、溶鋼中に不活性ガスを1.0〜2.5Nリットル/溶鋼tonの流量で吹き込み、かつ、鋳型の2つの長辺の外側に鋳型を挟んで対向する組を1対とする静磁場の溶鋼流動制動装置を、浸漬ノズルを挟んでメニスカス近傍、鋳型の両短辺方向に開口する浸漬ノズルの各吐出孔から流れ出た直後の吐出流の近傍および浸漬ノズルの延長線を挟んで鋳型の下端近傍に各1対をそれぞれ設け、メニスカス近傍、吐出流の近傍および鋳型の下端近傍のそれぞれの溶鋼流動制動装置の磁場強度を、それぞれB1、B2およびB3とし、これらの磁場強度B1、B2およびB3が、B2を基準として下記(A)式を満足するように電磁力を作用させることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
B1:B2:B3=0〜1:1:1〜3 ・・・(A)
ここで、500(Gauss)≦B2≦1000(Gauss)
B2の磁場印加方向:B1およびB3と反対方向

【図1】
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【図2】
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【図3】
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