説明

連続鋳造用ノズル

【課題】ノズルの内周部に内筒3としてマグネシアライム系耐火物を用い、外周部に外筒2としてアルミナグラファイト耐火物を用いる連続鋳造用ノズルにおいて、内筒3の熱膨張に起因するノズルの割れを防止し、内筒3と外筒2との接触による耐火物溶損を防止することのできる連続鋳造用ノズルを提供する。
【解決手段】内筒3と外筒2とを有する連続鋳造用ノズルであって、ノズル下端部側の溶湯浸漬部22において内筒3と外筒2との間には非反応質層5が充填され(充填部20)、それ以外の上端側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5と空間6とが配置(空隙部21)されてなることを特徴とする連続鋳造用ノズルである。空間6に替えて燃焼性材質層7としてもよい。これにより、ノズルの周方向・軸方向いずれも熱応力を緩和しつつ内筒と外筒との接触による溶損を防止し、ノズル内への介在物付着のない連続鋳造を可能にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の連続鋳造において溶湯を注入するために用いる連続鋳造用ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の連続鋳造においては、溶融金属を取鍋からタンディッシュに注入し、さらにタンディッシュから鋳型内に注入する。鋳型内おいて、溶融金属と鋳型との接触部において凝固シェルが成長し、凝固シェルは下方に引き抜かれつつさらに凝固が進行し、最終的に凝固が完了して鋳片となり、引き出される。
【0003】
スラブ及び大断面ブルーム連続鋳造においては、タンディッシュの注入口下部に浸漬ノズルと呼ばれる連続鋳造用ノズルを設け、この浸漬ノズル先端の溶融金属吐出孔を鋳型内の溶融金属中に浸漬しつつ溶融金属の注入を行うことにより、注入溶融金属を酸化雰囲気に接触させずに鋳型内に注入することを可能にしている。浸漬ノズルの材質としては、溶融石英あるいはアルミナグラファイト耐火物が用いられる。アルミナグラファイト耐火物製ノズルは、アルミナの高耐火性とグラファイトの低い溶鋼濡れ性とを組み合わせた特徴があり、溶鋼に対する耐食性が強く、溶融石英質ノズルに比較して耐食性に優れているので、現在では溶鋼の連続鋳造用浸漬ノズルとして最も広く用いられている。
【0004】
アルミナグラファイト耐火物製浸漬ノズルにおいては、溶融金属が流通するノズル内周部の溶融金属流通部に溶融金属中のアルミナ介在物等が付着しやすいという性質を有している。介在物の付着は、特に非浸漬部のノズル内壁の温度勾配の大きな部分および吐出孔付近の溶融金属流速の低下する部分に多く、付着物によって鋳造作業が困難になることがある。また、鋳造中に付着物を除去する作業を行う必要があり、ここで除去された付着物は鋳片中に取り込まれて大型介在物となり、鋳片品質を悪化させる原因となる。付着する介在物の主成分はαAl23であり、脱酸生成物として溶融金属中に含まれているAl23がノズル内壁に析出して堆積するものと考えられる。浸漬ノズル内壁への介在物付着は、特にアルミキルド鋼の連続鋳造において顕著に観察される。
【0005】
浸漬ノズルを内筒と外筒との二重構造とし、外筒には従来通りアルミナグラファイト耐火物を用い、内筒にアルミナ介在物等が付着しにくい難付着性材質を配置する方法が知られている。難付着性材質として、マグネシアライム系耐火物、ライム、あるいはカルシウムジルコネート耐火物のように、CaOを含有する材質が挙げられる。Al23介在物がCaOを含有する耐火物に付着すると、Al23とCaOとが反応して低融点化合物を生成し、溶融金属流とともに流出するためにノズル詰まりが発生しにくいと考えられる。
【0006】
特許文献1には、ノズル内周面にマグネシアライム含有耐火物を配置し、ノズル外周側にはアルミナグラファイト耐火物を配置した連続鋳造用ノズルが記載されている。吐出孔の開口部を含めて溶融金属と接触する面がマグネシアライム含有耐火物で形成されているため、ノズル内周面への介在物の付着を防止することができる。
【0007】
特許文献2には、鋳造用ノズルの内周側に鋳造用CaOノズルを配置し、CaOノズルの外側に母材ノズルを外装し、鋳造用CaOノズルと母材ノズルとの間にCaOノズルの熱膨張代に相当した間隙を設けた鋳造ノズルが記載されている。間隙に充填剤を充填しないことにより、ノズル予熱時にノズルの外面からの加熱と吐出孔より入ったフレームによる内面からの加熱を併用した場合においても、ノズルの割れを防止できるとしている。同文献の図1によると、CaOノズルは母材ノズルの長手方向中間部に配置され、溶融金属流が流出する吐出孔にはCaOノズルが配置されていない。
【0008】
特許文献3には、マグネシア煉瓦などの高膨張性煉瓦を積んで炉を形成する築炉方法が記載されており、高膨張性煉瓦の隣接面間の間隙が煉瓦膨張代の1.25〜2.0倍の間隔となるように築造し、間隙に目地材を充填する。高膨張性煉瓦が高温で膨張しても、目地材が緩衝材として圧縮されるのみで高膨張性煉瓦に大きな応力がかからないので、高膨張性煉瓦が割れたり脱落したりすることがないとしている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−50288号公報
【特許文献2】特開平7−232249号公報
【特許文献3】特開平9−42856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のように、浸漬ノズルの内周部に内筒としてマグネシアライム系耐火物を用い、外周部に外筒としてアルミナグラファイト耐火物を用いる場合、以下の2つの問題を解決する必要があった。
【0011】
第1の問題として、マグネシアを含有する耐火物はアルミナグラファイト耐火物と比較して熱膨張率が高いので、浸漬ノズル内周側と外周側の両耐火物が密着して接合されていると、高温加熱時に外周側のアルミナグラファイト耐火物に引っ張りの熱応力が発生し、耐火物が破損するという問題がある。
【0012】
特許文献2に記載のように、外筒と内筒との間に膨張代を考慮した間隙を設け、間隙に充填剤を充填しない方法が考えられる。しかし、特許文献2の図1に記載のように、連続鋳造用ノズル下部の吐出孔部分に内筒が配置されていないのでは、吐出孔付近への介在物付着を有効に防止することができない。また、吐出孔を含む領域まで内筒を配置した場合、吐出孔部分に露出する外筒と内筒との空隙に溶融金属が流入することとなり、好ましくない。
【0013】
そこで、内筒と外筒との間に空隙を設け、この空隙に充填材を充填することによって内筒の熱膨張代を吸収することを試みた。しかし、空隙に充填材を充填したのみでは、鋳造中の連続鋳造用ノズルに図8(d)に示すような割れが発生し、十分なノズル寿命を維持することができなかった。
【0014】
第2の問題として、マグネシアライム系耐火物のようにライムを含有する耐火物とアルミナグラファイト耐火物のようにアルミナを含有する耐火物とが直接接触すると、ライム含有耐火物中のCaOとアルミナ含有耐火物中のAl23とが反応して低融点化合物を形成し、接触部の耐火物が溶損するという問題がある。特許文献2に記載のように内筒と外筒との間に空隙を設け充填材を充填しない場合においても、鋳造中の高温時には内筒の熱膨張によって内筒と外筒とが接触するので、接触部の耐火物溶損は発生する。
【0015】
本発明は、ノズルの内周部に内筒としてマグネシアライム系耐火物を用い、外周部に外筒としてアルミナグラファイト耐火物を用いる連続鋳造用ノズルにおいて、内筒の熱膨張に起因するノズルの割れを防止し、内筒と外筒との接触による耐火物溶損を防止することのできる連続鋳造用ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)内筒3と外筒2とを有する連続鋳造用ノズルであって、ノズルの一方の端部(以下「下端部25」という。)は溶湯浸漬部22であり、ノズル下端部の側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5が充填され(以下この部位を「充填部20」という。)、それ以外の上端側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5と空間6とが配置(以下この部位を「空隙部21」という。)されてなることを特徴とする連続鋳造用ノズル。
(2)内筒3と外筒2とを有する連続鋳造用ノズルであって、ノズルの一方の端部(下端部25)は溶湯浸漬部22であり、ノズル下端部の側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5が充填され(以下この部位を「充填部20」という。)、それ以外の上端側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5と燃焼性材質層7とが配置(以下この部位をも「空隙部21」という。)されてなることを特徴とする連続鋳造用ノズル。
(3)空隙部21の一部において、内筒3と外筒2との間を非反応質層5で支える支持部8を有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の連続鋳造用ノズル。
(4)空隙部21において、空隙部21における内筒3の外面表面積に占める支持部8の面積比率が3%以下であることを特徴とする上記(3)に記載の連続鋳造用ノズル。
(5)内筒3がマグネシアライム系耐火物で形成され、外筒2の一部又は全部がアルミナグラファイト系耐火物で形成されてなることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の連続鋳造用ノズル。
(6)ノズル上端部26においてノズル内周側は内筒3とは異なる材質の耐火物10からなり、上端内周側耐火物10と内筒2との間に高気孔率の耐火物11を充填してなることを特徴とする上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の連続鋳造用ノズル。
【0017】
マグネシア系の耐火物は、CaOを含有する耐火物と接触しても低融点化合物を形成しない。このようにCaO含有耐火物と接触しても低融点化合物を形成しない材料を、ここでは「非反応質」材料と呼ぶ。そして上記本発明のように、内筒3と外筒2との間に非反応質層5を配置すれば、たとえ外筒2がアルミナグラファイト耐火物であり内筒3がマグネシアライム系耐火物であったとしても、内筒3と外筒2とは直接接触せず、内筒3と直接接触する非反応質層5は低融点化合物を形成しないので、内筒3と外筒2との接触部の耐火物溶損という問題を解決することができる。
【0018】
また、内筒3と外筒2との間に配置する非反応質層5として気孔率が高い耐火物を用いることとすれば、高温加熱時に内筒側が膨張した際にこの非反応質層5が収縮することによって熱応力発生を低減することも可能となる。
【0019】
外筒2の熱膨張率に比較して内筒3の熱膨張率が大きいような連続鋳造用ノズルの場合、高温加熱時に耐火物を破損させる熱応力としては、ノズルの周方向に働く熱応力とノズルの軸方向に働く熱応力とに分けて検討する必要がある。
【0020】
ノズルの周方向に働く熱応力(ノズル径方向の熱膨張量差に起因する)について、さらに連続鋳造用ノズルの長手方向を、溶湯に浸漬する側の下端部側の溶湯浸漬部22と溶湯に浸漬しない領域とに分け、図2に基づいて考える。溶湯浸漬部22については、ノズルの外周側は浸漬する溶湯に接触して温度が上昇し、内周側も筒内を通過する溶湯に接触して温度が上昇するため、径方向における外筒の熱膨張量と内筒の熱膨張量との差はさほど大きくないので、本発明のように、内筒3と外筒2との間に設けた間隙に非反応質層5を充填したとしても、充填した非反応質層5の収縮によって十分に熱膨張を吸収することができる。この領域を図2に示すように「充填部20」と呼ぶ。
【0021】
一方、連続鋳造ノズルのうち溶湯に浸漬しない上方部については、外筒2は溶湯と接触しないので温度が上昇しないため径方向の膨張量が小さく、それに対して内筒3は筒内を通過する溶湯と接触しているために径方向の膨張量が大きく、結果として内筒3と外筒2との間隙に非反応質層5を充填したのでは熱膨張を十分に吸収することができない。そこで本発明は、この領域については、外筒2と内筒3との空隙を非反応質層で充填するのではなく、非反応質層5と空間6とを有する領域とする。この領域を図2に示すように「空隙部21」と呼ぶ。高温加熱時にはこの空間が内筒の膨張を受け止めることができるので、径方向の熱膨張を吸収して周方向熱応力を低減し、耐火物の割れを防止することができる。
【0022】
ノズルの軸方向に働く熱応力については、外筒と内筒との空隙が非反応質層で充填されていた場合、内筒と外筒との軸方向熱膨張量が異なっている場合でも両者は非反応質層で拘束されているためにお互いに軸方向に滑ることができず、結局軸方向熱応力によって耐火物に割れが入ることとなる。これに対し、本発明のように連続鋳造ノズルの上端側に外筒2と内筒3との間に空間6を有する空隙部21を設けることとすると、この空間6の存在により、内筒3と外筒2との軸方向熱膨張量が異なっていた場合に両者は拘束されずに伸延することが可能となり、熱応力の発生を減少させ、耐火物の割れを防止することができるのである。
【0023】
本発明の連続鋳造用ノズルは、図2に示すように、ノズル上端側の空隙部21において、連続鋳造用ノズルが完成した段階で内筒3と外筒2との間に非反応質層5と空間6とが配置されたノズルとする場合の他、図3に示すように、ノズル完成時には内筒3と外筒2との間に非反応質層5と燃焼性材質層7とが配置され、ノズル使用直前の予備加熱時に燃焼性材質層7が燃焼して空間6が形成されるようなノズルとすることもできる。
【0024】
連続鋳造鋳型内に浸漬する連続鋳造用ノズルにおいては、ノズル下端部の溶湯浸漬部22に吐出孔4が設けられ、内筒3と外筒2との近接部がこの吐出孔内において露出する。本発明の連続鋳造用ノズルにおいて、ノズル下端部の溶湯浸漬部22は内筒3と外筒2との間が非反応質層5で充填されているので、吐出孔内に露出する部位から内筒と外筒との間隙に溶湯が浸入する事態を防ぐことができる。また、連続鋳造用ノズルの端部の充填部20で内筒3と外筒2とが強固に接続されるので、ノズル全体の剛性を強固に保持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の内筒と外筒とを有する連続鋳造用ノズルは、遅くとも連続鋳造用ノズルを使用する際には、ノズル下端部の側において内筒と外筒との間には非反応質層が充填され、それ以外の上端側において内筒と外筒との間には非反応質層と空間とが配置されていることにより、内筒がマグネシアライム系耐火物で形成され、外筒の一部又は全部がアルミナグラファイト系耐火物で形成されてなる場合であっても、ノズルの周方向・軸方向いずれも熱応力を緩和しつつ内筒と外筒との接触による溶損を防止し、ノズル内への介在物付着のない連続鋳造を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の連続鋳造用ノズルについて、図1〜7に基づき、連続鋳造鋳型内の溶湯中に浸漬する浸漬ノズルを例にとって説明する。
【0027】
浸漬ノズルは、ノズルの下端部が溶湯浸漬部22であり、通常は有底円筒状で、溶湯浸漬部22の側壁に2個の吐出孔4が開口される。底部にスリットが形成され、スリットは両方の吐出孔まで及ぶ形状とすることもある。
【0028】
本発明の連続鋳造用ノズルに用いる内筒3と外筒2とは、ともに有底円筒状とする場合が多く、外筒2の上部から外筒内に内筒3を挿入して一体化することができる。内筒3の外径は外筒2の内径よりも小さい値とし、外筒内に挿入した内筒3は、外筒2との間に間隙を形成する。
【0029】
本発明の連続鋳造用ノズルは、図2に示すように、ノズル下端部25の側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5が充填され(充填部20)、それ以外の上端側において内筒3と外筒2との間には非反応質層5と空間6とが配置(空隙部21)されてなる。
【0030】
非反応質とは、CaOを含有する耐火物と接触しても低融点化合物を形成しない性質をいい、具体的には、マグネシアやジルコニアやC等を骨材とする目地材が挙げられる。非反応質層5とは、このような非反応質の材料で形成された層をいう。
【0031】
連続鋳造用ノズルの上記充填部20においては、内筒3と外筒2との間の間隙が非反応質層5で充填されている。そのため、内筒3と外筒2とは強固に結合されることとなる。内筒3と接触するのは非反応質層5であるため、たとえ内筒3がCaOを含有する耐火物であっても、接触部で低融点化合物を形成することがない。また、充填部20は溶湯浸漬部22に位置するため、内筒3の熱膨張係数が外筒3のそれよりも大きい場合であっても、連続鋳造中の径方向熱膨張量差はそれほど大きくはならず、非反応質層5の有する変形能によって十分に熱膨張量差を吸収することができる。さらに、溶湯浸漬部22において連続鋳造用ノズルは吐出孔4を有しており、吐出孔部において内筒3と外筒2との接近面が露出しているが、この部分で内筒3と外筒2との間隙には非反応質層5が充填しているので、吐出孔4から内筒3と外筒2との間に溶湯が浸入する事態を防止することができる。
【0032】
連続鋳造用ノズルの充填部20より上側、即ち空隙部21においては、内筒3と外筒2との間には非反応質層5と空間6とが配置されている。連続鋳造用ノズルの空隙部21は、ノズルの外面が溶湯に浸漬せずに露出する部分であり、ノズル外周側は温度が上がらないので熱膨張量が小さく、充填部20に比較すると外筒2と内筒3との熱膨張量の差が大きくなる部位であるが、空隙部21は上記のように外筒2と内筒3との間に空間6を有しているので、内筒3の熱膨張がこの空間6で吸収され、連続鋳造中においても外筒2と内筒3との間の周方向熱応力が大きくならない。また、外筒2と内筒3との間の軸方向熱膨張差に起因する熱応力についても、空間6が存在するので内筒3は外筒2に拘束されずに軸方向に膨張することが可能であり、軸方向熱応力を小さくして耐火物の破損を防止することができる。
【0033】
連続鋳造ノズルの空隙部21で外筒2と内筒3との間に設ける非反応質層5は、内筒側に配置しても外筒側に配置してもいずれでも良い。非反応質層5を外筒側に配置する場合は、内筒3の表面に空間6と同じ厚さの詰め物を貼りつけた上で外筒2の内部に挿入し、詰め物と外筒2との間に非反応質層5を充填し、連続鋳造開始までの間にこの詰め物を消失させて空間を形成することができるので、好ましい。
【0034】
空間6を形成するために用いる詰め物としては、例えばワックスを用いることができる。ワックスを詰め物として非反応質層5を用いて外筒2と内筒3とを結合した場合、その後のノズル乾燥段階でワックスが消失するので、図2に示すように、連続鋳造ノズルが完成した時点では空隙部21の空間6はすでに形成されている。
【0035】
空間6を形成するために用いる詰め物として、燃焼性材質を用いることができる。燃焼性材質とは、紙、ポリエチレン、ビニールなどの可撓性のある樹脂、布、不織布等のように、高温に加熱すると燃焼して消失する材質をいう。燃焼性材質を詰め物として非反応質層を用いて外筒と内筒とを結合した場合、ノズル製造工程の乾燥段階では燃焼性材質は燃焼性材質層7として存在し消失しないので、図3に示すように、連続鋳造用ノズルが完成した時点では空隙部21は非反応質層5と燃焼性材質層7とが配置された形となる。その後、連続鋳造用ノズルとして使用する直前には高温に予熱するので、この段階で燃焼性材質層7が燃焼して消失し、消失した跡に空間6が形成されることとなる。
【0036】
連続鋳造用ノズルの長手方向に占める充填部20の長さとしては、連続鋳造用ノズルが溶湯に浸漬する溶湯浸漬部22の範囲内とすると好ましい。溶湯浸漬部22の長さがノズル全体の長さの1/5以上ある場合においては、溶湯浸漬部22の長さによらず、充填部20の長さをノズル全体の長さの1/5程度確保すれば、外筒2と内筒3との間を強固に結合する上で十分である。一方、充填部20の長さが溶湯浸漬部22の長さよりも長い場合であっても、充填部20の長さのうち溶湯浸漬部22の長さを超える部分が、ノズル全体の長さの1/5程度であれば、ノズル割れを発生させることなく使用することが可能である。
【0037】
充填部20、空隙部21いずれも、非反応質層5の材質としてマグネシアやジルコニアやC等の内筒3および外筒2と反応性が低いものを骨材とする目地材を用いることができる。また、非反応質層5を多孔質とすることにより、内筒3の熱膨張を吸収することができる。非反応質層5の気孔率を10〜70%とすると良い。10%未満では、非反応質層5の収縮代が十分ではなく、充填部20における内筒3の熱膨張を吸収しきれない場合がある。また70%を超えると、耐火物としての耐久性が低減し、吐出孔内に露出する非反応質層5において耐火物の溶損が進行し、溶湯が浸入する可能性が出てくる。
【0038】
充填部20において、非反応質層5の厚さは、外筒2と内筒3の強度や弾性率を考慮した上で、外筒2の内周と内筒3の外周の膨張量の差と非反応質層5の収縮量によって決められる。非反応質層5の厚さは、外筒2の内周と内筒3の外周の膨張量の差が非反応質層5の収縮量を超えないように設定されるのが好ましい。外筒2の内周と内筒3の外周の膨張量の差が非反応質層5の収縮量を下回っても、発生応力が外筒の強度限界を超えなければ問題は発生しないが、非反応質層5の厚さが0.1mm以下では、内筒3を外筒2にセットする際、非反応質層5の充填が均一とならず、内筒3を外筒2の接触や溶湯の浸入による溶損の恐れがある。
【0039】
また、非反応質層5の厚さを非反応質層5の収縮量以上に設定すると非反応質層5の緻密度が損なわれて溶湯の浸入による溶損の恐れがある。
【0040】
空隙部21における、空間6あるいは燃焼性材質層7の厚さおよび非反応質層5の厚さも、充填部20の非反応質層5の厚さと同様、外筒2と内筒3の強度や弾性率を考慮した上で、外筒2の内周と内筒3の外周の膨張量の差と非反応質層5の収縮量によって決まるものである。
【0041】
例えば、内筒材質の使用温度での膨張率をσ%とすると、空間6あるいは燃焼性材質層7の厚さは、内筒径の0.5σ%〜2.0σ%程度が好ましい。0.5σ%未満では、空隙部21における外筒2と内筒3との膨張量差を十分にできない場合があり、2.0σ%を超えると非反応質層5の緻密度が損なわれて溶湯の浸入による溶損や、受湯中の振動による内筒3の破壊の恐れがある。
【0042】
空隙部21の空間6あるいは燃焼性材質層7については、図2、3に示すように、空隙部21の全長にわたって内筒3と外筒2とが非反応質層5を介して接触する部分が全く存在しないこととしても良い。一方、図4、5に示すように、空隙部21の一部において、内筒3と外筒2との間を非反応質層5で支える支持部8を有することとしても良い。支持部8は、空隙部21の内筒外周全表面積のうちの一部のみを占め、支持部8において内筒3と外筒2との間が非反応質層5を介して接触している。
【0043】
空隙部21における支持部8の存在形態としては、図6に示すように、円形等の形状を有する支持部8が内筒3の外周表面に点在する形としても良いし、あるいはノズルの軸方向に長く、周方向に狭い幅を有する支持部を配置することとしても良い。径方向と軸方向の両方で熱膨張に起因する耐火物割れを十分に防止するためには、円形等の形状を有する小さな支持部が点在する形が好ましい。
【0044】
空隙部21において、空隙部21における内筒3の外面表面積に占める支持部8の面積比率が3%以下であると好ましい。3%以下であれば、ノズル使用中における耐火物の破損を防止し、支持部8が全く存在しない場合と同等の耐火物寿命を維持することができる。
【0045】
本発明の連続鋳造用ノズルは、内筒3がマグネシアライム系耐火物で形成され、外筒2の一部又は全部がアルミナグラファイト系耐火物で形成されている場合に、最も良好な結果を得ることができる。
【0046】
内筒3のマグネシアライム系耐火物はCaOを含有し、外筒2のアルミナグラファイト系耐火物と接触すると、このCaOがアルミナグラファイト系耐火物中のAl23と反応して低融点化合物を形成するが、本発明は外筒2と内筒3との間に非反応質層5が形成されているので、外筒2と内筒3との接触を防止して低融点化合物形成を阻止することができる。
【0047】
また、内筒3のマグネシアライム系耐火物はMgOを含有し、高い熱膨張率を有するので、連続鋳造中の熱膨張量の差によって外筒2を破壊しようとする力が働くが、充填部20については充填された非反応質層5が収縮することによって熱膨張を吸収し、空隙部21については空間6の存在によって熱膨張を吸収し、耐火物の破壊を阻止することができる。
【0048】
外筒2については、図1に示すように、特に連続鋳造中に鋳型内の溶融パウダーと接する部分(パウダーライン)については、例えばジルコニアグラファイト耐火物を用いることとし(図1の2Z)、その他の部分をアルミナグラファイト系耐火物(図2の2A)としても良い。これにより、アルミナグラファイト系耐火物に比較して、パウダーライン付近の溶損量を低減することができる。
【0049】
本発明において、マグネシアライム系耐火物(以下「MC系耐火物」ともいう。)とは、CaO、MgOを含有し、さらに好ましくはCを含有する耐火物であり、その組成は、0.03≦MgO/CaO≦32、かつCaO+MgO+Cの合計が90質量%以上であると好ましい。
【0050】
マグネシアライム系耐火物の結晶構造は、CaO相とMgO相が混在したものであり、CはCaOとMgOとが共存する結晶粒の粒子間に板状に充填される形で存在している。ノズル内周面の材質がマグネシアライム系耐火物であるとAl23介在物の付着が少ない理由は、溶融金属中Al23介在物がノズル内周面に付着したとき、耐火物中のCaO相と付着Al23とが反応して低融点物質を生成し、そのために付着した介在物が再度溶融金属中に浮遊していくためであると考えられる。従って、ノズル内周面を形成する耐火物中にCaO相が存在すれば、介在物付着を防止する能力を有する。マグネシアライム系耐火物中のMgO/CaOが32以下であれば、耐火物中に確実にCaO相を存在させることができ、介在物付着防止効果を発揮することができる。MgO/CaO比が低いほどCaO相の存在比率が増大するので、介在物付着防止効果を向上させることができる。MgO/CaO≦1であるとより好ましい。MgO/CaO≦0.72であるとさらに好ましい。
【0051】
マグネシアライム系耐火物中のMgO相は、溶融金属中のAl23と比較的融点の高い反応生成物をつくるため、ノズル内面耐火物の溶損を抑制するという機能を有する。この機能を発揮させるためには、MgO/CaO≧0.03とすることが必要である。MgO/CaO≧0.2であるとより好ましい。MgO/CaO≧0.42であるとさらに好ましい。
【0052】
マグネシアライム系耐火物を製造するに際し、耐火物中のCaO−MgO源として通常はドロマイトを用いる。ドロマイト中のCaCO3とMgCO3の比率が生産地によって異なるので、ドロマイトを用いて製造した耐火物中のMgO/CaO比は0.49〜1の範囲に存在することになる。この範囲であれば上記好ましいMgO/CaO比を実現することができる。
【0053】
マグネシアライム系耐火物においては、CaO+MgO+Cの合計を90質量%以上とする。不純物の含有量が10%超となると、耐火性が低下するとともに、耐火物の主要物質との低融点物質を形成し易くなるため本発明の内孔体としての特性が得られなくなるためである。
【0054】
本発明において、アルミナグラファイト耐火物とは、化学的に安定なアルミナを骨材とし、その耐スポール性を黒鉛で補った材質である。
【0055】
本発明の連続鋳造用ノズルの上端部において、外筒と内筒との間には空間が存在する。また、外筒と内筒との間に軸方向の熱膨張量の差が存在するため、ノズルの上端部26においては、図7(b)に示すように、熱膨張量の差を吸収するための間隙23を設けることが必要である。この間隙23が外筒2と内筒3との間の空間6と連結してしまうと、ノズル内部を流通する溶湯がこの空間内に浸入することとなり、好ましくない。
【0056】
本発明は、図7(a)に示すように、ノズル上端部26においてノズル内周側は内筒3とは異なる材質の耐火物(上端内周側耐火物10)からなり、上端内周側耐火物10と内筒3との間に高気孔率の耐火物11を充填してなることとすると好ましい。耐火物10を高気孔率とすることにより、内筒3と外筒2との間の軸方向熱膨張量の差を吸収することが可能となる。耐火物11の気孔率は70〜90%とすると好ましい。70%未満では収縮性が不十分であって熱膨張量差を十分に吸収することができない。一方、90%を超えると、耐火物11の耐溶損性が不足し、連続鋳造中に耐火物11が溶損することとなる。
【0057】
耐火物11のノズル軸方向の厚み(間隙23のノズル軸方向の間隔)は、使用温度において、(内筒3の膨張量)/2≦(耐火物11の収縮量)となるように設定すると良い。
【実施例】
【0058】
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造装置に用いる連続鋳造用ノズルとして本発明を適用した。連続鋳造装置の鋳型サイズは幅1500mm、厚さ240mmであり、1ヒートの溶鋼量は315トンである。
【0059】
連続鋳造用ノズルは外筒2と内筒3とからなり、図1に示すように、外筒2の上部と下部はアルミナグラファイト耐火物製(2A)であり、中間のパウダーラインはジルコニアグラファイト耐火物製(2Z)とした。内筒3はマグネシアライム系耐火物とした。外筒2の外径は160mm、内径は108mm、内筒3の外径は103mm、内径は70mmである。外筒2と内筒3の間には2.5mmの空隙がある。連続鋳造用ノズルの全長は700mmであり、下端部25の直上の溶湯浸漬部22に2個の吐出孔4が開口している。
【0060】
非反応質層5としてマグネシアモルタルを用いた。施工後の気孔率は10%である。下端部25から長さ160mmの範囲については充填部20とし、外筒2と内筒3との間の空隙は非反応質層5によって充填されている。充填部20より上側を空隙部21とした。本発明例については、空隙部21において内筒3の側に厚さ0.5mmの空間6を形成し、外筒2の側に厚さ2.0mmの非反応質層5を形成する。比較例については、連続鋳造用ノズルの全長にわたって、外筒2と内筒3との間の間隙を非反応質層5で充填した。
【0061】
本発明例については更に、空隙部21に支持部8を有しない本発明例1、支持部8を有する本発明例2〜6を用意した。支持部8の形状と配置状況は図6に示すとおりであり、空隙部における内筒の外面表面積に占める支持部の面積比率(以下「支持部面積率」という。)を、本発明例2〜6のそれぞれで1、3、5、20、45%とした。
【0062】
これらの連続鋳造用ノズルについて、初期受湯時の熱負荷を再現する目的で、溶射バーナーを用いたノズル内孔急加熱処理を実施するものとし、処理後のノズル亀裂発生状況を調査した。
【0063】
本発明例1〜3(支持部面積率3%以下)については、図8(a)に示すように亀裂発生が全くなかった。本発明例4(支持部面積率5%)については、3個中2個について吐出孔付近に図8(b)に示すような小さな割れが発生した。本発明例5(支持部面積率20%)については、加熱後9〜10分経過した段階、本発明例6(支持部面積率45%)については、加熱後6〜7分経過した段階において、それぞれ図8(c)に示すような亀裂が発生した。
【0064】
比較例(連続鋳造用ノズルの全長にわたって外筒と内筒との空隙を非反応質層で充填)については、加熱後約5分経過した段階で、図8(d)に示すような亀裂が発生した。ノズルの周方向と軸方向のいずれも、熱応力が過大となって耐火物の破壊に至った状況が明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の連続鋳造用ノズルを示す図であり、(a)は全体断面図、(b)〜(d)は部分拡大断面図である。
【図2】本発明の連続鋳造用ノズルを示す図であり、(a)は全体断面図、(b)(c)は部分拡大断面図である。
【図3】本発明の連続鋳造用ノズルを示す図であり、(a)は全体断面図、(b)(c)は部分拡大断面図である。
【図4】本発明の連続鋳造用ノズルを示す図であり、(a)は全体断面図、(b)〜(d)は部分拡大断面図である。
【図5】本発明の連続鋳造用ノズルを示す図であり、(a)は全体断面図、(b)〜(d)は部分拡大断面図である。
【図6】内筒の外周側に配置される支持部の配置状況を示す斜視図である。
【図7】本発明の連続鋳造用ノズルの上端部付近を示す部分断面図である。
【図8】連続鋳造用ノズルの割れ発生状況を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
2 外筒
2A 外筒(アルミナグラファイト耐火物部)
2Z 外筒(ジルコニアグラファイト耐火物部)
3 内筒
4 吐出孔
5 非反応質層
6 空間
7 燃焼性材質層
8 支持部
10 上端内周側耐火物
11 耐火物
20 充填部
21 空隙部
22 溶湯浸漬部
23 間隙
25 下端部
26 上端部
27 割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒と外筒とを有する連続鋳造用ノズルであって、ノズルの一方の端部(以下「下端部」という。)は溶湯浸漬部であり、ノズル下端部の側において内筒と外筒との間には非反応質層が充填され(以下この部位を「充填部」という。)、それ以外の上端側において内筒と外筒との間には非反応質層と空間とが配置(以下この部位を「空隙部」という。)されてなることを特徴とする連続鋳造用ノズル。
【請求項2】
内筒と外筒とを有する連続鋳造用ノズルであって、ノズルの一方の端部(下端部)は溶湯浸漬部であり、ノズル下端部の側において内筒と外筒との間には非反応質層が充填され(以下この部位を「充填部」という。)、それ以外の上端側において内筒と外筒との間には非反応質層と燃焼性材質層とが配置(以下この部位をも「空隙部」という。)されてなることを特徴とする連続鋳造用ノズル。
【請求項3】
前記空隙部の一部において、内筒と外筒との間を非反応質層で支える支持部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の連続鋳造用ノズル。
【請求項4】
前記空隙部において、空隙部における内筒の外面表面積に占める支持部の面積比率が3%以下であることを特徴とする請求項3に記載の連続鋳造用ノズル。
【請求項5】
内筒がマグネシアライム系耐火物で形成され、外筒の一部又は全部がアルミナグラファイト系耐火物で形成されてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の連続鋳造用ノズル。
【請求項6】
ノズル上端部においてノズル内周側は前記内筒とは異なる材質の耐火物からなり、該上端内周側耐火物と内筒との間に高気孔率の耐火物を充填してなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の連続鋳造用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−229798(P2007−229798A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57918(P2006−57918)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】