説明

連続鋳造用パウダーの製造方法及び鋼の連続鋳造方法

【課題】Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼を連続鋳造するに際し、拘束性ブレークアウトの予知信号発生を少なくすることのできる連続鋳造用パウダー製造方法及びその連続鋳造用パウダーを用いた鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】パウダー原料を溶融して凝固するに際し、水を使用することなく空気を吹き付けることによって冷却、破砕させることを特徴とする連続鋳造用パウダーの製造方法である。本発明の方法で製造された連続鋳造用パウダーを用いた連続鋳造においては、Al含有量が少ないSiキルド鋼の連続鋳造においてパウダーフィルムへの気泡発生を低減し、凝固殻から鋳型壁への抜熱量を増大し、結果として拘束性ブレークアウトの予知信号発生頻度を低減できるので、鋳造速度変動による品質非定常部の発生頻度を低減し、ブレークアウト発生頻度をも低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において鋳型内に添加する連続鋳造用パウダーの製造方法及びその連続鋳造用パウダーを用いた鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型内に連続鋳造用パウダーが添加される。連続鋳造用パウダーは鋳型内の溶鋼表面において溶融し、鋳型壁と凝固シェルとの間に潤滑膜を形成する。連続鋳造用パウダーはスラブおよび大断面ブルームにおいてはほとんどすべて採用されている。このパウダーは、鋳型内溶鋼表面の酸化防止、鋳型と鋳片の間の潤滑、浮上した介在物の捕捉、鋳型内溶鋼表面の保温といった役割を果たす。パウダーはその溶融速度、粘性、融点、アルミナ吸収能などの多くの管理要因があり、鋼種、鋳造速度、鋳片断面形状などによって最適パウダーは異なるため、その選択が極めて重要である。
【0003】
パウダーの性状に関しては、従来の粉末状にかわる顆粒状のパウダーが開発され、これにより作業環境の改善はもとより、品質的にも縦割れ、のろかみの減少が可能となったといわれており、その採用も一般化してきている(非特許文献1)。また、鋳片の縦割れ対策等には、パウダーの均一溶融性が重要であり、原料混合物を予め電気炉やキュポラ等で溶融し、急冷ガラス化で均質化を図ったプリメルト基材を用いるパウダーも開発されている(特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
プリメルト基材を製造する際には、珪石、石灰石、蛍石などのモールドパウダー用基材の原料を溶融した後、これを固化させる必要がある。固化の方法として、高圧水を吹きつけ、飛散させて冷却すると共に粒状化する方法(水砕法)が一般的に用いられている。固化した基材の回収が容易であること、次工程の粉砕工程に適した粒度が得られること、CaO−SiO2系などの化合物を生成させず、均質なガラス化した基材が得られることなどの利点から、水砕法が最適だからである。
【0005】
顆粒状パウダーを製造するに際しては、粉末原料に水を加えてスラリーとし、噴霧乾燥装置を用いて噴霧造粒して中空顆粒を製造する方法や、粉末原料に水加えて混練し、押し出し造粒、攪拌造粒、または転動造粒した後乾燥して中実顆粒を製造する方法がある(特許文献2)。
【0006】
連続鋳造で製造される鋼は通常はキルド鋼であり、主にAlを0.015質量%以上添加することによって脱酸が行われる。これに対し、Al含有量が0.015質量%未満であり、Si含有量を0.05質量%以上としてSi脱酸を用いた鋼を連続鋳造することがある。これはAl含有量を低減することでオーステナイト結晶粒径を大きくして、高温での粒界破壊を予防することが主な目的である。以下このような鋼をSiキルド鋼ということもある。
【0007】
拘束性ブレークアウトは、メニスカス近傍で凝固殻が鋳型壁に固着して破断し、凝固殻の破断部が鋳造の進行とともに下方に移動し、最終的に破断部が鋳型下端に達してブレークアウトに到るものである。鋳型壁に温度測定端を設置しておけば、凝固殻の破断部が鋳型の下方に移動するに際してこの温度測定部を通過するときに温度が非定常に上昇するので、ブレークアウトの発生を予知することができる。予知信号が発生したときに鋳造速度を急減速すれば、凝固殻の破断部を修復してブレークアウト発生を防止することができる。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−27753号公報
【特許文献2】特開平9−57407号公報
【非特許文献1】第3版鉄鋼便覧II製銑・製鋼、昭和54年10月、丸善株式会社発行(12・4・2)
【非特許文献2】第4版鉄鋼便覧、平成14年7月、社団法人日本鉄鋼協会発行(12・4・2+)
【非特許文献3】第3版鉄鋼便覧I基礎、昭和54年10月、丸善株式会社発行(第157〜158頁)
【非特許文献4】J.N.Pontorie et.al., Rev. de Metall. Janvier, (2000), p.35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼を連続鋳造するに際し、拘束性ブレークアウトの予知信号が多発するという現象が見られた。Al含有量が0.010質量%以下となるとさらに発生頻度が増大する。ブレークアウトの発生には到らないものの、予知信号が発せられる度に鋳造速度を急減速する必要があるので、鋳造の生産性が低下すると同時に、凝固速度急減速部は非定常部位となって品質が低下する原因にもなる。連続鋳造用パウダーの選定に当たっては、プリメルト基材を用いた顆粒状のパウダーを用い、さらにパウダーフィルムの流入性を優先して塩基度の高くないパウダー(塩基度Bが1.0〜1.2程度)を選定しているが、それでもブレークアウト予知信号の発生は頻発している。
【0010】
メニスカス近傍における鋳型温度を測定したところ、Al含有量が0.015質量%以上のAlキルド鋼やAl−Siキルド鋼に比較し、Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼においては鋳型温度が低くなっていることが判明した。メニスカス近傍における凝固シェルから鋳型への抜熱量において、Siキルド鋼は抜熱量が低くなっていることを意味する。また、鋳型全体の抜熱量についても、Siキルド鋼はそれ以外の品種に比較して抜熱量が低くなっていることがわかった。抜熱を緩冷却化するような高塩基度パウダーを用いていないにもかかわらず抜熱が低く、結果として拘束性ブレークアウト予知信号の多発という結果を招いている。
【0011】
本発明は、Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼を連続鋳造するに際し、拘束性ブレークアウトの予知信号発生を少なくすることのできる連続鋳造用パウダー製造方法及びその連続鋳造用パウダーを用いた鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のとおり、Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼を連続鋳造するに際し、メニスカス近傍における凝固シェルから鋳型への抜熱量が他の品種に比較して低くなっている。それが拘束性ブレークアウト予知信号多発の原因と推定される。
【0013】
そこで、鋳造後に鋳型に付着したパウダーフィルム(メニスカスから50mm下の部位)を回収し、フィルムの断面観察を行った。その結果、Al含有量が少ない鋼を鋳造した際にはフィルム断面に気泡の発生が見られ、鋳造する品種のAl含有量が少なくなるほど気泡発生量が増大することが判明した。特に鋼中のAl含有量が0.010質量%以下の場合、気泡によるパウダーフィルムの空隙率が10%を超えることもある。このことから、Siキルド鋼においては、鋳造中のパウダーフィルムに気泡が発生して断熱性が増大し、特にメニスカス近傍で凝固殻から鋳型壁への抜熱量が減少し、拘束性ブレークアウト予知信号多発につながっているものと考えられる。
【0014】
パウダーフィルム中の気泡中に含まれる気体の種類を特定したところ、水素の含有量が多く、気泡成分には水素ガスあるいは水蒸気ガスが含まれることが判明した。溶融パウダーフィルム中に溶解している水素又は水分の濃度が飽和溶解度以上となったときに、パウダーフィルム中で水蒸気となって気泡が生成するものと考えられる。
【0015】
塩基性パウダーにおいては、溶融パウダーに水蒸気が溶解するとOH-として存在する。パウダーフィルムと接する溶鋼中にAlが含有されていると、パウダー中のOH-と鋼中のAlが反応し、水素成分は鋼中に移動するので、パウダー中のOH-濃度が減少する。そのため、パウダーフィルム中への気泡発生が少ない。一方、Al含有量が少ないSiキルド鋼の場合には、パウダー中のOH-濃度が減少することがなく、高い濃度に維持される。そのため、パウダーフィルム中に多くの気泡が発生することとなる。
【0016】
以上のような仮説が成り立つとすると、もしパウダーフィルム中の水蒸気溶解量を低減することができれば、たとえAl含有量の少ないSiキルド鋼を鋳造する場合においても、バウダーフィルムへの気泡発生を低減させられるはずである。
【0017】
そこで、Al含有量の少ないSiキルド鋼の連続鋳造において、パウダー製造工程において水分が混入するチャンスの少ない製造方法を用いてパウダー製造を行ったところ、パウダーフィルム中への気泡発生量が減少し、凝固殻から鋳型壁への抜熱量が増大し、結果としてブレークアウト予知信号発生頻度を低減できることが判明した。
【0018】
さらに、パウダーフィルムの水蒸気飽和溶解度を増大させることができたら、パウダーフィルムの気泡発生をより一層低減できるはずである。そして、塩基度が1以上の組成においては塩基度が高くなるほど、塩基度が1未満の組成においては塩基度が低くなるほど、パウダーフィルム中への水蒸気溶解度が高くなることが知られている。
【0019】
そこで、Al含有量の少ないSiキルド鋼の連続鋳造において、従来よりも高い塩基度を有するパウダーを用いて鋳造を行ったところ、バウダーフィルム中への気泡発生量が減少し、凝固殻から鋳型壁への抜熱量が増大し、結果としてブレークアウト予知信号発生頻度を低減できることが判明した。
【0020】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)Al含有量が0.015質量%未満の鋼の連続鋳造に用いるための連続鋳造用パウダーの製造方法であって、パウダー原料を溶融して凝固するに際し、水を使用することなく空気を吹き付けることによって冷却、破砕させることを特徴とする連続鋳造用パウダーの製造方法。
(2)下記(1)式で示す塩基度Bが1.4以上であることを特徴とする上記(1)に記載の連続鋳造用パウダーの製造方法。
B=T.CaO/SiO2 (1)
ここで、T.CaOはパウダー中のCaがすべてCaOであるとしたときのCaO含有量(質量%)、SiO2はパウダー中のSiO2含有量(質量%)を表す。
(3)Al含有量が0.015質量%未満の鋼を連続鋳造するに際し、上記(1)又は(2)に記載の方法で製造した連続鋳造用パウダーを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法で製造された連続鋳造用パウダーを用いた連続鋳造においては、Al含有量が少ないSiキルド鋼の連続鋳造においてパウダーフィルムへの気泡発生を低減し、凝固殻から鋳型壁への抜熱量を増大し、結果として拘束性ブレークアウトの予知信号発生頻度を低減できるので、鋳造速度変動による品質非定常部の発生頻度を低減し、ブレークアウト発生頻度をも低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の連続鋳造用パウダーが対象とするのは、Al含有量が0.015質量%以下の鋼の連続鋳造である。脱炭精錬によって溶鋼中に残存する溶存酸素を脱酸するためにSiを0.05質量%以上含有させるので、ここでは対象とする鋼をSiキルド鋼と呼ぶ。鋼の炭素濃度は特に規定しないが、0.01〜0.08質量%程度の低炭素鋼が主な対象となり、0.09〜0.40質量%程度の中炭素鋼についても鋳造される。また、鋳造する鋳片については特に限定しないが、スラブ連続鋳造が主要な対象となる。なお、本明細書において、鋼中Al含有量はトータルAlを意味する。
【0023】
上記Siキルド鋼を連続鋳造するに際し、連続鋳造用パウダーとしては最も一般的なパウダーが用いられていた。溶融滓化速度を一定にし、均質な溶融スラグプールを得るため、プリメルト基材が用いられることが多く、また溶鋼表面の保温性を良くするため顆粒状パウダーが用いられていた。特に縦割れが発生しやすい品種でもないので、パウダーフィルムの流入性向上を主眼とし、塩基度1.0〜1.2程度のものが使用されていた。
【0024】
なお、本発明において、塩基度Bは下記(1)式のように定める。
B=T.CaO/SiO2 (1)
ここで、T.CaOはパウダー中のCaがすべてCaOであるとしたときのCaO含有量(質量%)、SiO2はパウダー中のSiO2含有量(質量%)を表す。
【0025】
連続鋳造に際しては、拘束性ブレークアウト発生を防止するため、鋳型壁内に熱電対を埋め込み、ブレークアウト予知信号を発生させている。拘束性ブレークアウトの原因となる凝固殻の破断部が鋳型の下方に移動するに際し、破断部がこの熱電対設置部を通過するときに温度が非定常に上昇するので、ブレークアウトの発生を予知することができる。予知信号が発生したときに鋳造速度を急減速すれば、凝固殻の破断部を修復してブレークアウト発生を防止することができる。
【0026】
ブレークアウト予知信号の発生頻度を、鋼のAl含有量レベル毎に比較してみた。いずれも鋼のSi含有量は0.05質量%以上であり、Al含有量が0.015質量%以上についてはAl−Siキルド鋼と呼ぶことができ、Al含有量が0.015質量%未満についてはSiキルド鋼と呼ぶことができる。図1は、横軸をAl含有量、縦軸をブレークアウト予知信号発生頻度とした図である。図1から明らかなように、鋼中Al含有量が少なくなるほど、ブレークアウト予知信号の発生頻度が増大しており、Al含有量0.015質量%未満で特に顕著である。
【0027】
ブレークアウト予知信号発生が頻発する品種においては、ブレークアウト発生を防止する対応が間に合わずにブレークアウトが発生してしまうこともある。Al含有量が0.015質量%以上のAl−Siキルド鋼ではブレークアウトが全く発生しないのに対し、Al含有量が0.010質量%以下の品種ではブレークアウト発生率が1.7%程度となっていた。
【0028】
そこで、鋳型内での凝固殻と鋳型壁との間の熱伝達状況について、鋼のAl含有量毎に調査を行った。調査は3つの観点から行った。第1は、鋳型長辺面全体の冷却水温度上昇代を測定し、これから鋳型長辺面全体における抜熱量を比較した。第2は、鋳型内の鋳造方向複数箇所に埋め込まれた熱電対の温度を測定し、鋳造方向での温度分布について比較した。第3は、鋳片断面の表面近傍における二次デンドライトアーム間隔に着目し、このアーム間隔から鋳造方向複数箇所における抜熱量の推定を行った。鋳造を行った品種は、Al含有量0.008質量%(低Al品種)、0.017質量%(中Al品種)、0.036質量%(高Al品種)であり、Si含有量は低Al品種では0.05質量%以上、中Al品種と高Al品種では0.006〜0.01質量%である。使用した連続鋳造用パウダーはプリメルト基材を用いた顆粒状パウダーであり、その塩基度は1.1〜1.2程度であった。
【0029】
鋳型長辺面の冷却水温度上昇代に基づいて長辺面全体の面平均熱流束を求めた。鋳造速度は1.5m/min程度とした。その結果、中Al品種、高Al品種では面平均熱流束が1500kW/m2・sec程度であったのに対し、低Al品種では1100kW/m2・sec程度と低い面平均熱流束を示した。
【0030】
鋳型壁中には、鋳造方向に120mmピッチで4箇所に熱電対が埋め込まれている。最上段の熱電対はメニスカスから65mmの位置にある。鋳型壁表面から熱電対先端までの距離は5mm程度である。低Al品種と中Al品種について熱電対温度を測定したところ、図2に示す結果が得られた。鋳造方向2〜4段目の熱電対温度は品種によってあまり変化しないが、メニスカス近傍に設置した熱電対温度については、中Al品種が160℃程度であるのに対して低Al品種は110℃程度と大幅に低い温度が観察された。これより、低Al品種においては、特にメニスカス近傍において凝固殻から鋳型壁への抜熱が低下していることが明らかである。
【0031】
鋳片断面の表面近傍における二次デンドライトアーム間隔を測定し、これから鋳片各部位の冷却速度CR(℃/min)を計算した。冷却速度CRとは、液相線温度から固相線温度までの間の平均冷却速度を意味する。冷却速度CRの計算には下記(2)式を用いた。
CR=(λ2/770)(-1/0.41) (2)
λ2:二次デンドライトアーム間隔(mm)
【0032】
結果を図3に示す。図3(a)において、表面から2mm深さでの二次デンドライトアーム間隔に基づいてメニスカス近傍における冷却速度を推定した。図3(b)において、表面から15mm深さでの二次デンドライトアーム間隔に基づいて鋳型中位から下部にかけての冷却速度を推定した。図から明らかなように、表面から15mm深さでの二次デンドライトアーム間隔から計算した冷却速度は鋼のAl含有量による差が見られないが、表面から2mm、即ちメニスカス近傍における計算した冷却速度は鋼のAl含有量の影響を受け、Al含有量が0.008質量%の品種は、それ以外の品種と比較して冷却速度が低下していることがわかる。
【0033】
以上の結果から、同じ連続鋳造用パウダーを用いて鋳造しているにもかかわらず、低Al品種においては、中Al品種・高Al品種と対比してメニスカス近傍における凝固殻から鋳型壁への抜熱量が大幅に低下していることが判明した。品種別に、凝固殻と鋳型壁との間に存在するパウダーフィルム厚が変化している傾向は見られなかったので、抜熱量の差はパウダーフィルム厚の差ではない。また、パウダーフィルムの結晶化率についても、品種毎に結晶化率が変化する傾向は見られなかったので、抜熱量の差は結晶化率の差でもない。
【0034】
そこで、鋳造が完了した鋳型の壁面に残存しているパウダーフィルムを採取し、調査を行った。メニスカス近傍の抜熱挙動に大きな影響を与えるメニスカスから50mm程度の位置からパウダーフィルムを採取した。
【0035】
図4に、低Al品種を鋳造した後に回収したパウダーフィルムの断面写真を示す。写真中に見られる黒い丸は空隙である。フィルム断面の空隙は、低Al品種鋳造後のフィルムで最も激しく、中Al品種の場合はより少なく、高Al品種鋳造後のフィルムではほとんど観察されなかった。断面写真に基づいてパウダーフィルムの空隙率を算出し、鋼中Al含有量と空隙率との関係をプロットしたのが図5である。図5からも明らかなように、低Al品種では格段に空隙率が高い値を示している。鋼中のAl含有量が低くなるほど、凝固殻と鋳型壁との間に存在するパウダーフィルム中に気泡が多量に存在していることが明らかである。
【0036】
以上の結果から、低Al品種の連続鋳造でメニスカス近傍の抜熱量が低下する原因は、パウダーフィルム中に気泡が多発して空隙率が高くなることが原因であると推定されるに到った。
【0037】
次に、パウダーフィルム中の気泡に含まれる気体のガス分析を行い、質量数別スペクトル積算強度比率によって求めた。その結果、最も多く含まれるガスは窒素あるいは一酸化炭素であるものの、いずれのサンプルにも水素ガスが7〜16%の割合で含まれていることが特徴であった。水素ガスが検出されたことから、溶融スラグと水蒸気との間の相互作用が、パウダーフィルム中の気泡の発生と関係しているものと推定される。
【0038】
非特許文献3によると、溶融スラグの水蒸気溶解度は、温度及びスラグ組成一定の条件下では水蒸気分圧の平方根に比例する。また、塩基度が1以上の塩基性スラグにおいては、水蒸気はスラグ中でOH-イオンの形で溶解すると考えられている。また、塩基度が1以上の領域において、塩基度が大きくなるほど溶融スラグ中への水蒸気溶解度が大きくなる。一方、塩基度が1以下の酸性スラグにおいては、スラグ中で水蒸気は酸素を放出してSi−O−Si結合を切断する形態で溶解すると考えられている。また、塩基度が1以下の領域において、塩基度が低くなるほど溶融スラグ中への水蒸気溶解度が大きくなる。
【0039】
非特許文献4によると、溶融スラグと溶鋼とが接触している界面において、溶鋼中のHがスラグ中に移行してOH-イオンとなる反応と、溶融スラグ中のOH-イオンが溶鋼中の含有Alと反応し溶鋼中にHとして移行する反応の2種類が考えられている。これから、低Al品種鋳造時には溶鋼との反応でパウダーフィルム中のOH-イオンが増大する傾向にあるのに対し、中・高Al品種鋳造時にはパウダーフィルム中のOH-イオンがそれほどは増大しないかあるいは減少する傾向にあることが推定される。
【0040】
パウダーフィルム中の気泡が、中・高Al品種では観察されずに低Al品種で観察される事実、気泡中には水素が観察される事実、及び上記非特許文献3、4に記載の事実を組み合わせると、以下のような推論を組み立てることができる。即ち、中・高Al品種においては、溶鋼中のAlが溶融プールのパウダーと反応してパウダー中のOH-イオン濃度を低下させるので気泡が発生しないのに対し、低Al品種においては溶鋼中のAlが少ないのでパウダー中のOH-イオン濃度を低下させる程度が低く、OH-イオンが高い濃度でパウダー中に残存する。その結果、低Al品種ではOH-イオン濃度がパウダーフィルムの溶解濃度を超え、多量の気泡としてパウダーフィルム中に取り込まれることとなる。
【0041】
以上のような推論に立つと、パウダーフィルム中の水蒸気溶解量を低減することができれば、たとえ低Al品種であってもパウダーフィルムからの水蒸気の発生を防ぐことができ、気泡発生を抑えられる可能性がある。
【0042】
ところで、前述のとおり、プリメルトパウダーのプリメルト基材を製造する際には、原料を溶解した後、高圧水を吹きつけ、飛散させて冷却すると共に粒状化する水砕法が一般的に用いられている。この水砕に際して、プリメルト基材中に水蒸気が多く含まれる可能性がある。
【0043】
そこで、プリメルト基材の製造に際し、溶融状体の基材に高圧空気を吹き付け、飛散させて冷却すると共に粒状化する方法(風砕法)による製造方法を適用した。
【0044】
その上で、Al含有量が0.004〜0.010質量%であるSiキルド鋼を対象とし、風砕法(本発明法)と水砕法(従来法)で製造したパウダーを用いて連続鋳造を行い、結果について比較を行った。Al含有量が0.017質量%のAlキルド鋼の連続鋳造に水砕法で製造したパウダーを用いた連続鋳造も併せて行った。
【0045】
図6には、パウダー製造方法・鋳造品種とパウダーフィルム空隙率との関係を、図7にはパウダー製造方法・鋳造品種と鋳型熱電対温度との関係を示す。いずれも、横軸はパウダーの塩基度とした。図7の鋳型熱電対温度については、メニスカスから65mm位置にある1段目の熱電対温度と、さらに120mm下に位置する2段目熱電対温度との差を表示している。鋳造速度は1.5〜1.7m/minの範囲であった。
【0046】
水砕法によって急冷、破砕されたプリメルト基材を用いて製造した顆粒状パウダーを使って鋳造したSiキルド鋼の場合(図中○)、パウダーフィルムに多数の空隙が観察されたのに対して、風砕法によって破砕したプリメルト基材を用いて製造した顆粒状パウダーを使って鋳造したSiキルド鋼の場合(図中□)、いずれのパウダー塩基度においても、パウダーフィルム内の空隙率が低かった(図6)。そのため前者では鋳型熱電対温度が特に湯面に相当する位置で低く、異常な緩冷却となったのに対し、後者では湯面位置での熱電対温度は高くなった(図7)。
【0047】
この結果として、後述の通り拘束性ブレークアウトの予知信号発生頻度を低減できるので、鋳造速度変動による品質非定常部の発生頻度を低減し、ブレークアウト発生頻度をも低減することができる。
【0048】
さらに、パウダーフィルムの水蒸気溶解度を増大させることができれば、たとえ低Al品種であってもパウダーフィルムからの水蒸気の発生を防ぐことができ、気泡発生を抑えられる可能性がある。そして、非特許文献3にも記載のとおり、塩基度が1以上のスラグであれば塩基度が高くなるほど、水蒸気溶解度が増大することが知られているので、パウダーの塩基度を高くすることにより、低Al品種であってもパウダーフィルム中への気泡発生を抑えられる可能性があることを見出した。
【0049】
そこで前述の図6、7に示すように、本発明方法で製造した水分含有量の少ないパウダーを用い、Al含有量が0.004〜0.010質量%であるSiキルド鋼を対象とし、塩基度の値を1.0〜2.22の範囲で種々変更したパウダーを準備し、Siキルド鋼でのスラブ連続鋳造状況がパウダーの塩基度によってどのように変化するのかを評価した。
【0050】
塩基度の低いパウダーでは、パウダーフィルム中に空隙が多く、これにともなう抜熱の低下でメニスカス部の熱電対温度が低くなる。一方、塩基度の高いパウダーを用いると、パウダーフィル中の空隙は少なくなり、メニスカス部の熱電対温度も高く、Alキルド鋼と同様の安定鋳造ができる。
【0051】
即ち、Al含有量が0.015質量%未満の鋼の連続鋳造に際しては、本発明方法で製造したパウダーであって、かつ上記(1)式で示す塩基度Bが1.4以上の連続鋳造用パウダーを用いることにより、パウダーフィルム中の気泡発生を抑え、凝固殻から鋳型壁への抜熱量を確保できることを明らかにした。この結果として、後述の通り拘束性ブレークアウトの予知信号発生頻度を低減できるので、鋳造速度変動による品質非定常部の発生頻度を低減し、ブレークアウト発生頻度をも低減することができる。パウダーの塩基度が1.8以上であればより好ましい。一方、パウダー塩基度が高すぎるとパウダーフィルム凝固温度が高くなり液体スラグによる鋳片潤滑機能を著しく損なうという問題が生じるが、パウダー塩基度が2.3以下であればそのような問題は生じないので好ましい。
【0052】
なお、Al含有量が0.010質量%以下の鋼においては改善効果がより顕著となる。また、スラブ連続鋳造において効果が顕著に表れる。
【実施例】
【0053】
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造装置による連続鋳造において、連続鋳造用パウダーとして本発明パウダー及び従来パウダーを用いて連続鋳造を行い、ブレークアウト予知信号の発生頻度を、鋼のAl含有量レベル毎に比較してみた。いずれも鋼のSi含有量は0.05質量%以上である。図8は、横軸をAl含有量、縦軸をブレークアウト予知信号発生頻度とした図である。
【0054】
本発明パウダー(パウダー2、3)は、パウダー製造工程にてパウダー原料をキュポラ炉にて溶融し、炉から出湯したスラグに高圧空気を吹き付け風砕したプリメルト基材をもとに製造した連続鋳造用パウダーである。また従来パウダー(パウダー1)は、炉から出湯したスラグに水を吹き付け水砕したプリメルト基材を使用したパウダーである。パウダー1、2は同一組成の基材を用い、塩基度がともに1.2である。パウダー3は塩基度が1.8である。
【0055】
図8から明らかなように、Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼において、パウダー1(●)を用いた場合はブレークアウト予知信号発生頻度が極めて高頻度であるのに対し、パウダー2(○)はパウダー1と同一成分であるにもかかわらずブレークアウト予知信号発生頻度が激減していることがわかる。特に、Al含有量が0.010質量%以下の品種において効果が顕著である。さらに塩基度の高いパウダー3(◎)ではより大きな改善が見られる。
【0056】
ブレークアウト発生頻度についても、Al含有量が0.010質量%以下でパウダー1を用いた場合には1.7%程度のブレークアウト発生頻度であったのに対し、パウダー2、3を用いた場合には、どのAl含有量レベルであってもブレークアウトは一切発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】鋼中Al含有量とブレークアウト予知信号発生率の関係を示す図である。
【図2】鋼中Al含有量と鋳造方向別鋳型内熱電対温度との関係を示す図である。
【図3】鋼中Al含有量と鋳片の冷却速度との関係を示す図であり、(a)は表面から2mm深さでの二次デンドライトアーム間隔による値、(b)は表面から15mm深さでの二次デンドライトアーム間隔による値である。
【図4】低Al品種鋳造後のパウダーフィルムの断面写真を示す図である。
【図5】鋼中Al含有量とパウダーフィルム中空隙率との関係を示す図である。
【図6】パウダー製造方法、鋳造品種、パウダー塩基度とパウダーフィルム空隙率との関係を示す図である。
【図7】パウダー製造方法、鋳造品種、パウダー塩基度と鋳型熱電対温度との関係を示す図である。
【図8】鋼中Al含有量別に、本発明によるブレークアウト予知信号発生率の改善状況を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al含有量が0.015質量%未満の鋼の連続鋳造に用いるための連続鋳造用パウダーの製造方法であって、パウダー原料を溶融して凝固するに際し、水を使用することなく空気を吹き付けることによって冷却、破砕させることを特徴とする連続鋳造用パウダーの製造方法。
【請求項2】
下記(1)式で示す塩基度Bが1.4以上であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用パウダーの製造方法。
B=T.CaO/SiO2 (1)
ここで、T.CaOはパウダー中のCaがすべてCaOであるとしたときのCaO含有量(質量%)、SiO2はパウダー中のSiO2含有量(質量%)を表す。
【請求項3】
Al含有量が0.015質量%未満の鋼を連続鋳造するに際し、請求項1又は2に記載の方法で製造した連続鋳造用パウダーを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−270247(P2007−270247A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96955(P2006−96955)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】