説明

連続電気メッキ装置

【課題】 FPCやTABテープの材料となる金属被覆基板を製造する際の電気メッキ工程において、搬送中のフィルム状導体の蛇行およびそれに伴う皺の発生や微細な凹凸の発生を抑制し、メッキ外観の優れた基板を製造できる連続電気メッキ装置を提供する。
【解決手段】 給電ローラーと少なくとも1つのニップローラーとの間に長尺のフィルム状導体を挟持するとともに、該フィルム状導体に前記給電ローラーより給電して連続的に電気メッキを施すメッキ装置において、前記ニッフ゜ローラーを直接あるいは間接に振動させるための振動発生器が配設されていることを特徴とするものであり、また前記ニッフ゜ローラーと前記振動発生器との間にバックアップローラーを介在せしめて該ニッフ゜ローラーを間接に振動させるか、または前記ニッフ゜ローラーを一対として設け、該一対のニッフ゜ローラーと前記振動発生器との間に単一のバックアップローラーを介在せしめて該一対のニッフ゜ローラーを間接に振動させるよう構成し、さらに前記ニッフ゜ローラーは、その長さが前記フィルム状導体の幅を超えないものであることを特微とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、長尺のフィルム状導体上に連続的に電気メッキを施すメッキ装置に関し、具体的には前記フィルム状導体をその間で挟持する給電ローラーとニップローラーの構造を改良した連続電気メッキ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器の高性能化に伴い使用される電子部品も高性能化が要求されるようになってきている。このような電子部品としてはFPC(フレキシブル・プリント配線板)やTAB(テープ・オートメーテッド・ボンディング)テープがある。これらFPCやTABテープを製造するために用いられる基板には、例えば絶縁フィルムと金属箔とを接着剤で張り合わせた3層基板と、絶縁フィルムの表面に直接導電層を設けた2層基板とがあるが、接着剤がないこと、および導電層の厚さを任意に変え得ることから部品の高性能化に対応できる2層基板が次第に多用されるようになってきた。なおこの2層基板とは、例えば絶縁フィルム上にスパッタリング法や真空蒸着法あるいは無電解メッキ法により極めて薄い金属皮膜を形成してフィルム状導体とし、その後電気メッキにより前記金属皮膜を所定の厚みまで厚くした基板である。
【0003】この2層基板を製造する際の電気メッキ工程においては、通常長尺のフィルム状導体をその長手方向に搬送張力を加えつつリール・ツー・リール方式で搬送し、メッキ液槽外で給電ローラーと接触させて給電しながら前記メッキ液槽内で該フィルム状導体上に電気メッキを施す連続電気メッキ装置が用いられている。ところで現在この基板の寸法安定性(メッキ前後の製品の伸縮度)としてIPC−TM650−2.2.4(method B)の評価基準で±0.1%以下であることが要求されている。そしてその基準を満足させるために電気メッキ工程においては搬送張力によってフィルム状導体が引き伸ばされないよう低張力で搬送されている。しかし搬送張力が低いとフィルム状導体と給電ローラー間の接触圧が低下して電気抵抗が増大する。そこで給電ローラー上にニップローラーを配置して、両ローラー間でフィルム状導体を挟持し該フイルム状導体と給電ローラーとの接触圧を高くすることによって電気抵抗を低く保つような工夫がなされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】さて前記した搬送張力はフィルム状導体の蛇行防止のために加えられるものであるが、上記理由により搬送張力を低くしているために蛇行防止効果が低下していることに加えて、ニップロ−ラーを配置して接触圧を大きくしているので一層蛇行し易くなってしまうという問題がある。すなわちフィルム状導体の蛇行は、給電ローラーの中心軸がフィルム状導体の搬送方向に対して正確に直角に位置していない場合に、このローラーによってフィルム状導体の進行方向が曲げられることに主として起因するが、ニップローラーを設けてフィルム状導体との接触圧を大きくすると、フィルム状導体の進行方向を曲げる力も大きくなるので蛇行を助長するからである。この蛇行が顕著になるとフィルム状導体に皺などが発生し、この皺自体がメッキ表面の外観不良として問題となる。また蛇行が顕著になると給電ローラーとフィルム状導体間でスパークが発生してメッキ表面に微細な凹凸が生ずるか、あるいは給電ローラーの外周面に金属粉などが析出してそれがメッキ表面に転写され、結果としてメッキ表面の外観が一層低下するなどの問題も生じる。
【0005】本発明は上記の実情に鑑みなされたもので、FPCやTABテープの材料となる金属被覆基板を製造する際の電気メッキ工程において、搬送中のフィルム状導体の蛇行およびそれに伴う皺の発生や微細な凹凸の発生を抑制し、メッキ外観の優れた基板を製造できる連続電気メッキ装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明に係る連続電気メッキ装置は、給電ローラーと少なくとも1つのニップローラーとの間に長尺のフィルム状導体を挟持するとともに、該フィルム状導体に前記給電ローラーより給電して連続的に電気メッキを施すメッキ装置において、前記ニップローラーを直接あるいは間接に振動させるための振動発生器が配設されていることを特徴とするものであり、また前記ニップローラーと前記振動発生器との間にバックアップローラーを介在せしめて該ニップローラーを間接に振動させるか、または前記ニップローラーを一対として設け、該一対のニップローラーと前記振動発生器との間に単一のバックアップローラーを介在せしめて該一対のニップローラーを間接に振動させるよう構成し、さらに前記ニップローラーは、その長さが前記フィルム状導体の幅を超えないものであることを特微とする。
【0007】
【発明の実施の形態】つぎに本発明を添付図面に基いて説明する。図1ないし3は本発明に係る連続電気メッキ装置の各実施例を示す全体概略図、図4は同じく本発明に係る実施例の部分拡大図である。本発明において1はフィルム状導体、2は給電ローラー、3はニップローラー、4はメッキ槽、5はシンクローラー、6は送り出し装置、7は巻き取リ装置、8はバックアップローラー、9は振動発生器、10はメッキ用アノード、11はメッキ液である。
【0008】本発明においてはフィルム状導体1は送り出し装置6より送り出され、メッキ槽4外に設けられた給電ローラー2とニップローラー3とからなる給電部において両ローラー2、3間に挟持され前記給電ローラー2より給電を受けながらメッキ槽4内に送られ、該メッキ槽4内で電気メッキが施される。そしてメッキされたフィルム状導体1は巻き取り装置7によって巻き取られる。なおメッキ槽4内でフィルム状導体1の搬送方向を変えるため該メッキ槽4内にシンクローラー5が設けられている。
【0009】通常、連続電気メッキ装置において給電ローラー2とニップローラー3とはフィルム状導体1の搬送方向に対して各ローラー2、3の中心軸が直角になるように配置されるが、必ずしも正確に直角に位置しているとは限らない。多くの場合、直角から僅かなずれが生じており、これに対して寸法公差を設けて一定範囲内のずれを許容している。そのためフィルム状導体1はこれらのローラー2、3により進行方向を変えられて蛇行することがある。ここでフィルム状導体1の搬送張力が高ければフィルム状導体1は本来の進行方向を保とうとする力が強く働くために蛇行は回避されるが、搬送張力が低いと蛇行回避の力が弱いために蛇行が発生し易くなる。またニップローラー3は給電ローラー2とフィルム状導体1の接触圧を大きくするために設けられているが、同時にフィルム状導体1の進行方向を曲げる力も大きくなるので蛇行を助長する。換言すると、発生した蛇行に対しフィルム状導体1が本来の進行方向へ戻ろうとして幅方向へ移動するのをニップローラー3が拘束するためにこの蛇行を解消され難くしているともいえる。
【0010】そこで本発明では、図1に示すようにフィルム状導体1の蛇行およびそれが原因で発生する皺などの発生などを防止するために、ニップローラ−3を振動させるために該ニップローラー3に接して振動発生器9が配設されている。すなわちフィルム状導体1には低いとはいえ搬送張力が加えられているため、本来の進行方向を保とうとする力は常に働いている。ここでフィルム状導体1に振動が加えられると瞬間的に給電ローラー2とニップローラー3による拘束が解かれるためにフィルム状導体1はその幅方向に動き易くなり、この幅方向への移動は蛇行を解消させるものである。このようにして常時ニップローラー3に振動が付加されることによりフィルム状導体1は搬送張力により常に本来の進行方向が保たれる。またフィルム状導体1と給電ローラー2あるいはニップローラー3間にメッキ液その他の液が付着して液膜が存在していると蛇行はさらに発生し難くなる。その理由はフィルム状導体1と給電ローラー2あるいはニップローラー3間に存在する前記液膜が両ローラー2、3とフィルム状導体1間の摩擦抵抗を小さくするので該フィルム状導体1が幅方向にさらに移動し易くなるためと考えられる。
【0011】したがってフィルム状導体1の幅方向の移動の容易性を配慮すると、ニップローラー3の少なくとも表面部の材質は、電気絶縁性があり、水濡れ性が低く、摩擦係数の小さいもの、例えばポリフッ化エチレン系樹脂などとすることが好ましい。そして振動発生器9により付加する振動の周期、振幅などはフィルム状導体1の蛇行あるいは皺などの発生状況により適宜設定する必要があるが、少なくともニップローラー3がフィルム状導体1から浮き上がりフィルム状導体1と給電ローラー2が離れてスパークを発生しメッキ表面に微細な凹凸が発生するような振動付加条件は避けなければならない。なお振動発生器9については、その振動発生機構について特に限定するものではない。
【0012】さらに振動付加時にニップローラー3の浮き上がりを防止する有効な手段は、図2に示す通りニップローラ−3と振動発生器9との間にバックアップローラ−8を介在して配設することである。図2に示す実施例によれば、振動発生器9によりバックアップローラー8を振動させ、このバックアップローラー8の振動により間接にニップローラー3が振動することになる。このようにするとニップローラー3はバックアップローラー8により押圧されるのでフィルム状導体1からの浮き上がりは効果的に防止される。ところでニップローラー3はフィルム状導体1を給電ローラー2に押しつけるものであるからフィルム状導体1の幅より長いのが一般的である。しかし振動付加時にフィルム状導体1が幅方向に移動し易くするために、本発明ではフィルム状導体1の幅を超えない長さのニップローラー3を用いることが有効である。このような寸法のニップローラー3を用いると、フィルム状導体1が蛇行しようとして幅方向に移動しても移動先がニップローラー3により拘束されていないので、搬送張力により本来の進行方向に戻され易いという効果がある。
【0013】またニップローラー3は本来、搬送張力が低くいフィルム状導体1と給電ローラー2との間の接触圧を高くすることによって電気抵抗を低く保つために設けられているものである。この接触圧が低いと電気抵抗を低く保つことができず、反対に接触圧を高くするとフィルム状導体1の蛇行の問題が発生する。このような相矛盾する問題を解決するために、本発明では図3に示すように接触圧が低くても電気抵抗を低く保つための手段として一対からなるニップローラー3、3′を設けた。この場合、バックアップローラー8は各ニップローラー3、3′に接触するよう一対設けてもよいが、一対のニップローラー3、3′に接触する単一のバックアップローラー8を配設することが好ましい。
【0014】図1および図2のようにニップローラー3が単一の場合、接触圧が高められる部分(この部分を有効通電部とすると)は給電ローラー2とニップローラー3が接する1本の線A(図4(a)参照)上である。一方ニップローラー3、3′を図3のように一対設けると有効通電部は2本の線BとC(図4(b)参照)上となり、さらに2本の線BとCの間でも一対のニップローラー3、3′によりフィルム状導体1が前後に引っ張られるために線BとC上ほどではないが接触圧が高められて有効通電部となるのである。
【0015】本発明者は、一対のニップローラー3、3′を設けた場合には、各ニップローラ−の接触圧は低下させなければニップローラー全体としての接触圧が上昇して蛇行が発生し、また線BとCの間も接触圧が上昇するためにニップローラー1つの接触圧はさらに低下させなければならず、一方接触圧を低下させると電気抵抗が上昇するのではないかという点に危惧を持っていた。しかしながら、実際に実験してみるとその理由は定かではないが、一対のニップローラ−3、3′の接触圧を低下させてフィルム状導体1の蛇行を防止しても電気抵抗を低く保てることが判明した。このように本発明によれば一対のニップローラー3、3′を設け、各ニップローラーの接触圧を低く制御することによって全体としての接触圧を上昇することなく、すなわち蛇行の発生を防止しつつ、電気抵抗を低く保つことが可能となった。なお本発明に係る連続電気メッキ装置は薄い銅板やニッケル板などの金属板の表面にメッキを施したり、表面処理をする際にも有効に使用できることはいうまでもない。
【0016】
【実施例】[実施例1]片面に厚み0.1μmの銅皮膜を設けた厚さ25μm、幅514mmの銅被覆ポリイミドフィルムの該銅皮膜上に、層厚が8μmとなるように図1に示した連続電気メッキ装置を用いて銅の電気メッキを行った。この際、給電ローラーは直径100mm、長さ800mm、ニップローラーは直径25mm、長さ800mmのものであり、ニップローラーの上に振動発生器としてタタキバイブEV279型(松下電工(株)製:商品名)を取り付けた。なお各ローラーはその表面がポリフッ化エチレン系樹脂で被覆したものを用いた。なおフィルム搬送速度は60m/hr、搬送張力は送出し装置側で2kgf、巻取り装置側で6kgfとし、用いたメッキ液の組成とメッキ条件は下記する表1の通りである。
【0017】
【表1】(メッキ液組成)
硫酸銅 80g/リットル硫酸 180g/リットル塩素イオン 50mg/リットル(メッキ条件)
温度 25℃陰極電流密度 2A/dm時間 90分間
【0018】以上のメッキ装置およびメッキ条件にて電気メッキを行った結果を下記する表2に示す。
【0019】[実施例2]図2に示したように実施例1と同様なニップローラーと振動発生器の間に直径50mm、長さ800mmのバックアップローラーを介在させた以外は実施例1と同様なメッキ装置およびメッキ条件にて電気メッキを行った。その結果を下記する表2に併せて示す。
【0020】[実施例3]図3に示したように実施例1と同様なニップローラーを一対設け、各ニップローラーと振動発生器の間に直径50mm、長さ800mmのバックアップローラーを介在させた以外は実施例1と同様なメッキ装置およびメッキ条件にて電気メッキを行った。その結果を表2に併せて示す。
【0021】[実施例4]ニップローラーの長さを銅被覆ポリイミドフィルムの幅より短い500mmとした以外は実施例1と同様なメッキ装置およびメッキ条件にて電気メッキを行った。その結果を表2に併せて示す。
【0022】[比較例1]振動発生器を用いなかった以外は実施例1と同様なメッキ装置およびメッキ条件にて電気メッキを行った。その結果を表2に併せて示す。
【0023】
【表2】
最大蛇行幅 メッキ面 メッキ面の表面粗さ (mm) の皺 (Rmax)(μm)
実施例1 4 無し 2.3 実施例2 4 無し 1.1 実施例3 4 無し 0.2 実施例4 3 無し 0.1 比較例1 10 多数有り 10.3
【0024】*目視で観察できるほどの微細な凹凸有り。
なお表2には、搬送中のフィルム状導体に観察された最大蛇行幅、蛇行が原因で発生した皺がメッキ後まで皺として残存した不良の有無、およびスパークあるいは金属粉の析出などにより微細な凹凸を有するメッキ面の表面粗さを示したものである。
【0025】表2より分かる通り、本発明である実施例1〜4はいずれも蛇行が抑制されたためにメッキ面の皺不良の発生は認められず、またスパークや金属粉の析出が発生し難くなっているために比較例と比べでメッキ面が非常に平滑になっていた。なお実施例1〜4および比較例によるメッキではIPC−TM−650−2.2.4(method B)による寸法安定性評価結果はいずれも±0.1%以下で品質基準を満足していた。
【0026】
【発明の効果】以上述べたとおり本発明によれば、ニップローラーを周期的に振動させるために、長尺のフィルム状導体上に連続的に電気メッキを施すに際して、低張力で該フィルム状導体を搬送させても蛇行が防止できメッキ表面に欠陥のない電気メッキが可能となり、したがって高い生産性を達成できる連続電気メッキ装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る連続電気メッキ装置の一実施例を示す全体概略図である。
【図2】本発明に係る連続電気メッキ装置の他の実施例を示す全体概略図である。
【図3】本発明に係る連続電気メッキ装置のさらに別の実施例を示す全体概略図である。
【図4】本発明に係る実施例を示す部分拡大図で、(a)は図2の実施例の部分拡大図、(b)は図3の実施例の部分拡大図である。
【符号の説明】
1 フィルム状導体
2 給電ローラー
3、3′ ニップローラー
4 メッキ槽
5 シンクローラー
6 送り出し装置
7 巻き取り装置
8 バックアップローラー
9 振動発生器
10 メッキ用アノード
11 メッキ液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 給電ローラーと少なくとも1つのニップローラーとの間に長尺のフィルム状導体を挟持するとともに、該フィルム状導体に前記給電ローラーより給電して連続的に電気メッキを施すメッキ装置において、前記ニップローラーを直接あるいは間接に振動させるための振動発生器が配設されていることを特徴とする連続電気メッキ装置。
【請求項2】 前記ニップローラーと前記振動発生器との間にバックアップローラーを介在せしめて該ニップローラーを間接に振動させることを特徴とする請求項1記載の連続電気メッキ装置。
【請求項3】 前記ニップローラーを一対として設け、該一対のニップローラーと前記振動発生器との間に単一のバックアップローラーを介在せしめて該一対のニップローラーを間接に振動させることを特徴とする請求項1記載の連続電気メッキ装置。
【請求項4】 前記ニップローラーは、その長さが前記フィルム状導体の幅を超えないものであることを特微とする請求項1〜3のいずれか1項記載の連続電気メッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2000−192289(P2000−192289A)
【公開日】平成12年7月11日(2000.7.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−366861
【出願日】平成10年12月24日(1998.12.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】