説明

運転者の疲労推定装置及び疲労推定方法

【課題】運転者の疲労状態をより正確に推定可能とする。
【解決手段】疲労推定手段106は、硬さ推定手段102が推定する硬さの状態と、推定値算出手段105が求める推定値とに基づき、運転者の疲労状態を推定する。疲労推定手段106は、上記推定値算出手段105から推定した複数の推定値について、その複数の推定値の各特性と、硬さ推定手段102の硬さの状態特性(周波数特性)とを比較して、硬さの状態特性に最も近似した特性の推定値を選択する。疲労推定手段106は、選択した推定値から運転者の疲労状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を運転する運転者の疲労状態を推定する疲労推定の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操作反力を調整して運転者の疲労を低減するステアリング操作反力調整装置が記載されている。この装置では、シートスライド位置、シートバック角度、シートクッション角度、ステアリング操作角から、ステアリング装置に対する運転者の肩関節位置、肘関節位置を演算して運転者の姿勢(運転者の状態)を検出する。その検出した運転者の姿勢から、運転者が現在上肢を保持するために必要とされる筋力、つまり現在の上肢の各筋の負荷を求める。そして、運転者が感じる操作感(負荷)が一定となるようにステアリング装置の操作反力を調整する。
【0003】
上記筋力(各筋の負荷)の検出は、人体骨格標本の寸法(肘関節の角度や肩関節から肘関節までの距離など)を利用した筋骨格モデルに基づき検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−301136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、筋骨格モデルは、骨格モデルの自由度に対しその運動を制御する筋の数が多いことから、一意に筋力が定まらないという冗長問題がある。このため、一般には、予め設定した境界条件で最適化をして筋力を推定しているが、必ずしも生理学的に妥当な筋力となるか保証がない。
【0006】
例えば、上記従来技術では、筋骨格モデルに運転操作時の操作反力を入力しているが、運転者の内部で相殺される力は操作反力に反映されないため、疲労状態を精度良く推定できないおそれがある。具体的には、操作反力が1Nであっても、拮抗する筋肉間の筋力差が1Nで各筋が働いているということであって、拮抗する筋肉(例えば上腕三頭筋と上腕二頭筋)の一方の筋肉で負担している筋力が不明であるために、疲労状態の推定精度が悪くなる。
【0007】
本発明は、上記のような点に着目したもので、運転者の疲労状態をより正確に推定可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、操作子を操作する際に使用される運転者の筋骨格部の疲労状態を筋骨格モデルに基づき推定する際に、別に推定した上記筋骨格部全体の硬さ状態を利用することで、推定する疲労状態の精度を向上する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象とする筋骨格部の硬さ状態を推定することで、筋骨格モデルによって推定する推定値の妥当性判断、若しくは筋骨格モデルで推定値を推定する際に適切な絞り込みが可能となる。この結果、推定値の精度が向上し、もって運転者の疲労状態をより正確に推定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る疲労推定装置の概念図である。
【図2】筋骨格モデルの例を示す図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る運転者の疲労推定装置の説明図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係る運転者の疲労推定装置の説明図である。
【図5】本発明に基づく第1実施形態に係る運転者の疲労推定装置の説明図である。
【図6】本発明に基づく第1実施形態に係る運転者の疲労推定装置のシステム図である。
【図7】外乱トルクAを説明する図である。
【図8】外乱トルクBを説明する図である。
【図9】インピーダンス計測のブロック図である。
【図10】インピーダンスの周波数特性を示す図である。
【図11】筋骨格モデルのモデルを求める概念図である。
【図12】筋モデルを説明する図である。
【図13】長さ変化と力の関係を示す図である。
【図14】収縮速度と力の関係を示す図である。
【図15】収縮要素の刺激と活性化関係の経時変化を示す図である。
【図16】収縮要素の力と長さの関係を示す図である。
【図17】並列弾性要素の力と長さの関係を示す図である。
【図18】数式を示す図である。
【図19】腕の粘弾性のモデルを示す図である。
【図20】筋骨格モデルを利用した粘性、弾性、慣性の算出のイメージ図である。
【図21】筋骨格モデルの概念図である。
【図22】筋力推定値の決定(選択)の手順を示す図である。
【図23】ステアリングホイールに対する把持の関係を示す図である。
【図24】掌の位置とインピーダンスの関係を示す図である。
【図25】掌の位置と弾性等との関係を説明する図である。
【図26】本発明に基づく第1実施形態に係る疲労推定装置の処理を説明する図である。
【図27】筋力と持続時間の関係を示す図である。
【図28】疲労判定の処理を説明する図である。
【図29】本発明に基づく第1実施形態に係る動作等を説明する図である。
【図30】インピーダンスの計測を説明する図である。
【図31】本発明に基づく第2実施形態に係る疲労推定装置の処理を説明する図である。
【図32】腕のモデルを示す図である。
【図33】インピーダンス計測に基づく境界条件を説明する図である。
【図34】筋骨格モデルの推定結果における主導筋と拮抗筋の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「第1実施形態」
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(疲労推定装置の概念)
図1は、本実施形態の概念図である。
ここで、操作子100は、運転者が操作することで、車両に運転指示を与えるためのものである。
【0012】
本実施形態の運転者の疲労推定装置は、外乱トルク付与手段101、硬さ推定手段102、操作反力取得手段103、姿勢取得手段104、推定値算出手段105、及び疲労推定手段を備える。
上記外乱トルク付与手段101は、操作子100に目的の反力を付与する。外乱トルク付与手段101は必ずしも必要でない。操作子100に所要の外乱が入力する場合には、その外乱を反力として使用することができる。
【0013】
硬さ推定手段102は、操作子100を操作する際に使用される運転者の筋骨格部の硬さ状態を推定する。本実施形態の硬さ推定手段102は、具体的には、上記操作子100に反力が入力されたときの筋骨格部全体の筋肉による抵抗(抑え込み)状態の特性を硬さ状態として取得する。上記特性は、本実施形態では周波数特性とする。硬さ推定手段102は、推定した硬さ状態の情報を疲労推定手段に出力する。
【0014】
本実施形態の硬さ推定手段102は、外乱トルク検出手段102Aと抵抗特性検出手段102Bとを備える。外乱トルク検出手段102Aは、上記操作子100に入力する外乱トルクを検出する。抵抗特性検出手段102Bは、上記外乱トルク検出手段102Aが検出する外乱トルクに対する上記筋骨格部の抵抗特性であるインピーダンスを上記硬さ状態として検出する。
【0015】
操作反力取得手段103は、運転者が操作子100を操作するときに受ける操作反力を取得する。
姿勢取得手段104は、上記操作子100を操作する際に主に使用される運転者の筋骨格部の骨格姿勢の情報を取得する。姿勢取得手段104は、例えば車両に取り付けられた1又は2以上のカメラ104A(撮像手段)、及びカメラ104Aが撮像した画像を画像処理する画像処理部104Bと、からなる。操作子100がステアリングホイールの場合には、主として肩から手までの筋骨格部が対象となる。そして、カメラ104Aが、運転者の対象とする筋骨格部を撮像する。画像処理部104Bは、カメラが撮像した画像を画像処理することで、対象とする筋骨格部を構成する各関節の角度及び位置、さらには、関節間の距離などの姿勢を特定する姿勢情報を演算する。画像処理部104Bは、演算した姿勢情報を推定値算出手段105に出力する。
【0016】
推定値算出手段105は、姿勢取得手段104が演算した姿勢情報と操作反力取得手段103が取得した操作反力を入力値として、筋骨格モデルによる運転方程式から、対象とする筋骨格部の筋力値に関わる推定値を求める。
【0017】
筋骨格モデルは、図2に示すような、剛体からなる複数の骨格をリンク構造で連結した骨格モデルと、その骨格モデルの骨格上に張られた筋・腱・靱帯系ワイヤモデル(単に筋モデルと呼ぶ)とからなる。筋モデルは、筋肉を収縮力を発揮するアクチュエータとしてモデル化したものである。そして、上記筋骨モデルを表現する運転方程式を計算することで、各筋の筋力値に関わる推定値を求めることが出来る。筋力値に関わる推定値は、筋力値、筋の粘性、弾性、慣性に関する値でもよい。ただし、冗長性があるので、境界条件として、何らかの評価関数や拘束条件を設定する必要がある。
【0018】
また、筋骨格モデル用のデータベースを備える。データベースには、例えば、対象とする筋骨格部の各筋の特性(標準の最大筋力値など)や、姿勢に応じた筋負担比などの運動方程式で使用するデータが格納されている。
【0019】
上記推定値算出手段105は、例えば、姿勢取得手段104が演算した姿勢情報に基づいて、対象とする筋骨格部の骨格モデルの関節位置を特定して、操作反力に対する各関節部の関節トルクを求め、また、上記姿勢情報から、各筋の長さなどから各筋の筋力の発生可能な範囲とか、各筋の負担比率である筋力比を推定し、運動方程式に基づき逆動力学計算を実施して推定値を演算する。このとき、不定要素のある冗長度のある計算となる。本実施形態では、最適化を行うことなく、複数の妥当と思われる推定値を演算する。
【0020】
疲労推定手段106は、硬さ推定手段102が推定する硬さの状態と、推定値算出手段105が求める推定値とに基づき、運転者の疲労状態を推定する。本実施形態の疲労推定手段106は、上記推定値算出手段105から推定した複数の推定値について、その複数の推定値の各特性と、上記硬さ推定手段102の硬さの状態特性(本実施形態では周波数特性)とを比較して、硬さの状態特性に最も近似した特性の推定値を選択する。そして本実施形態の疲労推定手段106は、選択した推定値から運転者の疲労状態を推定する。
【0021】
(具体的構成)
次に、具体的な構成を例示して本実施形態を説明する。
【0022】
以下の実施形態では、操作子100としてステアリングホイール7を例に挙げて説明する。対象とする操作子100は、ステアリングホイール7に限定されず、ブレーキペダルやシフトレバーなどであっても良い。要は、運転する際に操作する操作子100であって、運転者に操作反力が発生する操作子100であれば適用可能である。
【0023】
また、本実施形態では、主として肩部から手までの身体部分が、対象とする筋骨格部となる。
なお、疲労度の指標は、筋力そのもの、もしくは、筋の粘性、弾性、慣性でもよい。また疲労度の指標として、筋の粘性、弾性、慣性を利用できる。
【0024】
図3は、車両に搭載された本実施形態の疲労推定装置を説明するための全体図である。
符号1はステアリングギヤ機構である。ステアリングギヤ機構1は、ステアリングの回転をラック/ピニオン機構などによって車幅方向(横方向)の動きに変換する装置である。
【0025】
符号2及び3は転舵輪である。転舵輪2,3のタイヤは、一般的なセダンタイプに取り付けられるタイヤであれば種類(扁平率、タイヤ径、ラジアル/スタッドレス、等)を問わない。
符号4は反力装置モータ角センサである。反力装置モータ角センサ4は、ステアリングコラムシャフトと操舵反力用アクチュエータ5の間に設置されたモータ角センサであって、回転するステアリングの現在の角度を検出して出力する。
【0026】
符号5は、外乱付与手段を構成する操舵反力用アクチュエータである。操舵反力用アクチュエータ5は、ステアリングコラムに設置されたモータである。操舵反力用アクチュエータ5は、運転者がステアリングを回転するのに要する力を増幅してアシストしたり、タイヤ側から入ってくる不要な外乱を減少したりするに利用可能な装置である。操舵反力用アクチュエータ5は、コントローラ6からの指令に応じた制御電流を入力することにより、目的とする反力を発生できる。
【0027】
符号6は操舵反力装置用コントローラ(操舵反力制御手段)である。操舵反力装置用コントローラ6は、目標とする操舵反力&操舵角に応じた制御電流を出力する。操舵反力装置用コントローラは、上記アクチュエータ5を駆動するため制御装置である。
符号7は、運転者が操作する操作子100としてのステアリングホイール(操舵手段)である。ステアリングホイール7はステアリングを介してステアリングギヤ機構1に連結する。
【0028】
符号8は操作反力取得手段103を構成するステアリングリンク部内蔵型トルクセンサである。トルクセンサ8は、運転者がステアリングホイール7を操作することで発生する力を計測するためのセンサである。
符号9は操舵情報伝送ハーネスである。操舵情報伝送ハーネス9は、操舵反力用アクチュエータ5から、筋力計算/指示装置利用判定装置10まで、操舵力、操舵角、外乱トルク信号を伝送するためのケーブルからなる。
【0029】
符号10は筋力計算/指示装置利用判定装置である。筋力計算/指示装置利用判定装置10は、運転者の上肢身体(対象とする筋骨格部)の筋力を推定するための演算装置である。
符号11は運転者用カメラである。運転者用カメラ11は、運転者の姿勢を検出するための撮像デバイスである。カメラとしては、CCDカメラやCMOSカメラなどが例示出来る。
【0030】
符号12はタイヤ横力検出センサである。タイヤ横力検出センサ12は、タイヤに働く横力を計測するセンサである。
符号13は指示装置である。この指示装置13は、運転者が疲労状態あるいは今後疲労につながりそうな状態であることを検出したら、例えば、運転者に休憩するように促す、もしくは、車線維持支援装置を使用するように促すための指示装置である。
【0031】
図4は、筋力計算/指示装置利用判定装置の構成を説明する図である。図5はその概念図である。
符号14は外乱トルク検出手段102Aを構成する外乱トルク信号検出部である。外乱トルク信号検出部14は、過去一定時間の実測トルク信号、および、セルフアライニングトルクと路面外乱、横風外乱によってタイヤに働く力の信号(タイヤ発生トルク信号)から、つまり、タイヤ発生トルク信号と実測トルクの履歴から、運転者のインピーダンス計測に利用できる所定の外乱トルクを検出する。タイヤ発生トルク信号の車両信号はタイヤ発生トルク信号検出部15から取得する。
【0032】
計測に利用するタイヤ発生トルク信号、及び、実測トルクの検出条件は以下の通りとする。
すなわち、1Hz〜100Hzの周波数において、実測トルクとのコヒーレンスが0.9以上で、セルフアライニングトルクの方が位相が早い場合を検出条件とする。
【0033】
この検出条件を満たさない場合は、外乱トルク付与手段101は、事前に準備した所定の外乱トルク信号を利用する。すなわち、外乱トルク付与手段101は、操舵反力用アクチュエータ5を利用して、所定の外乱トルクをステアリングホイール7に伝達する。
【0034】
符号15はタイヤ発生トルク信号検出部である。タイヤ発生トルク信号検出部15において、セルフアライニングトルクを推定する。推定方法は、タイヤ横力とキャスタトレールの積から、転舵輪である前輪に発生しているセルフアライニングトルクを推定する。
符号16は姿勢取得手段104を構成する姿勢検出部である。姿勢検出部16は、運転者用カメラ11が撮像した画像を画像処理することで、身体(主に腕)の関節位置と関節角度を検出する。
【0035】
符号17は、推定値算出手段105を構成する筋個別の粘弾性推定部である。筋個別の粘弾性推定部17は、車内の計算機に登録されている筋骨格モデル、若しくは、車外に設置されたサーバに登録されている筋骨格モデルをネットワーク経由で参照して、腕の所定の部位に発生する筋単体の粘性、弾性、慣性を推定する。粘弾性推定部105は、運転者の関節位置、関節角度、及び操舵角、実測トルクを入力信号とし、演算結果として、粘性、弾性、慣性を出力する。ここで、求まる筋個別の粘性、弾性、慣性は複数解となる。例えば、2つの筋で構成される関節がある場合、関節にかかる回転モーメントを逆力学的計算により2つの筋に配分する場合、配分の組み合わせは複数存在する
【0036】
符号18は、硬さ推定手段102を構成し、対象とする筋骨格部における筋全体のインピーダンス計測部である。インピーダンス計測部18は、筋全体のインピーダンスを計測する。ここで、インピーダンス計測には幾つか手法がある。本実施形態のインピーダンス計測部18は、外乱トルクを用いた腕の周波数特性を求める手法を用いる。すなわち、インピーダンス計測部18は、操舵角、実測トルク、外乱トルクを入力信号として、外乱トルクをステアリングに加えながら、実測トルクと操舵角を計測する。もしくは、タイヤ発生トルク信号検出部15の処理を実行しながら、実測トルクと操舵角を計測する。同時刻に得られた、つまり対応関係にある外乱トルク、実測トルク、操舵角の信号に基づき、インピーダンスを計算する。ここで、外乱トルクTaと実測トルクTbのクロススペクトルを、外乱トルクと操舵角のクロススペクトルで除した値を、インピーダンスとする。すなわち、下記式によって、インピーダンスを計算する。
【0037】
インピーダンス計算式:
Hnms=−STaTb/STax [Nm*Nm/Nm*deg]
【0038】
符号19は推定値算出手段105を構成する伝達関数算出部である。伝達関数算出部19は、腕を構成する複数の筋の伝達関数を一つに統合した伝達関数において、その伝達関数と、筋個別の粘弾性推定部で求めた粘性、弾性、慣性の解を基に、腕の伝達関数を算出する。ここで、上記算出する伝達関数は、筋個別の粘弾性推定部で求めた解の数だけ存在する。この伝達関数が推定値を構成する。
【0039】
符号20は疲労推定手段106を構成する周波数特性比較部である。周波数特性比較部20は、伝達関数算出部19で求めた各伝達関数の周波数特性(ゲイン特性、位相特性)についてインピーダンス計測部で計測したインピーダンスのゲイン特性、位相特性とを比較する。この比較結果は、粘弾性推定部17で求めた解(推定値)の数だけ存在するが、インピーダンス計測部18で求めたインピーダンスのゲイン特性と位相特性に最も近しい解を最適解とする。なお、比較は少なくともゲイン特性を使用して比較すればよい。
【0040】
符号21は疲労推定手段106を構成する筋個別の筋力計算部である。筋力計算部21は、周波数特性比較部で求めた粘性、弾性、慣性、筋個別の状態(筋の長さ、筋の収縮速度など)から、筋力を求める。筋の長さと収縮速度は、予め設定した所定の値を用いる。
【0041】
符号22は掌状態補正部22である。掌状態補正部22は、ステアリングホイール7に対する腕の位置や向きに応じて、筋力計算部の筋力推定値、もしくは、インピーダンス計測部のインピーダンス、周波数特性比較部20の周波数特性を補正する。掌状態補正部22は、腕の位置がステアリングの下側にある場合には、腕が体幹に支えられるためインピーダンス計測部のインピーダンスは、腕に力を入れていなくても大きくなるという影響を減らす方向に補正する。
【0042】
符号23は、疲労推定手段106を構成する指示装置利用の判定部である。指示装置利用の判定部23は、筋単体もしくは複数の筋肉における疲労状態あるいは今後疲労につながりそうな状態を検出する。
【0043】
図6は、疲労推定装置を説明するためのシステム構成図である。
上記疲労推定装置は、機能的には、インピーダンス取得処理A、筋骨格モデルを用いた筋力推定値取得処理B、疲労度指標値決定処理Cを備える。
【0044】
インピーダンス取得処理Aは、硬さ推定手段102に対応し、上記外乱トルク信号検出部14、タイヤ発生トルク信号検出部15、インピーダンス計測部18での処理に相当する。
【0045】
インピーダンス取得処理Aは、次のように実施される。
まず、運転者の対象とする筋骨格部位置における身体の硬さ状態(インピーダンス)の特性を示す、周波数特性(ゲイン特性、位相特性)を得る。
【0046】
具体的には、外乱トルクをステアリングホイール7に加えながら、実測トルクと操舵角を計測する。もしくは、タイヤ発生トルク信号検出部15の処理を実行しながら、実測トルクと操舵角を計測する。次に、同時刻に得られた外乱トルク、実測トルク、操舵角の信号に基づき、インピーダンスを計算する。その計算では、外乱トルクと実測トルクのクロススペクトルを、外乱トルクと操舵角のクロススペクトルで除した値を、インピーダンスとする。
【0047】
ここで、インピーダンスの算出方法は、次の1)〜3)に3つに分類される。
下記1)と2)は、粘性、弾性、慣性を求めた後、2次の伝達関数に代入して、その周波数特性を求めることでインピーダンスが決まるため、粘性、弾性、慣性の求め方のみ記す。また、3)は、粘性、弾性、慣性を求めず、直接、周波数特性を求める手法である。
【0048】
(インピーダンス算出方法)
1)連立方程式による算出方法
予め設定した所定の時間間隔で計測した実測トルクから粘性、弾性、慣性を変数とする連立方程式を解くことでインピーダンスを算出する。
2)粘性、弾性、慣性を個別に測ってインピーダンスを算出する方法
ここで、弾性は、ステアリングホイール7にステップ状の外乱トルクを加えて計測する。粘性は、一定速度でステアリングホイール7を回転させて計測する。慣性は、腕の重さ、体積を参考値として求める。
【0049】
3)外乱トルクをステアリングホイール7に加えながら、実測トルクと操舵角を計測することでインピーダンスを算出する方法
3−1)外乱トルクを運転者が操作する操作子に加える。
3−2)ステアリングホイール7に発生する実測トルクと操舵角の変移量を計測する。
3−1)と3−2)の周波数特性の比較から、運転者の身体のインピーダンス情報を得る。
【0050】
上述のインピーダンス算出方法のうちでは3)が最も精度よく、インピーダンスを計測できる。これに基づき、本実施形態では、3)の方法によってインピーダンスを計測(算出)する。このインピーダンス算出方法は、ステアリングホイール7に伝達される外乱トルクを利用する。
【0051】
ここで、対象とする外乱トルクとしては次のものを採用すればよい。
A)予め設定した所定の信号:0〜100Hzの周波数帯による正弦波を位相をずらして畳み込んだ擬似M系列、スイープ波形、ホワイトノイズ、など(図7参照)
B)車両の走行データから得た外乱トルク
この外乱トルクBは、例えば、タイヤからステアリングに伝わる力、若しくは、ステアリングからタイヤに伝わる力の時系列データをメモリに記録する。そして時系列データの波形が予め設定した所定の形状、所定のスペクトルになるとき、外乱トルクとして利用する(図8参照)。
【0052】
図9は、運転者が操作部であるステアリングホイール7を握っている状態で、ステアリングホイール7に繋がっているアクチュエータ5で外乱トルクを加えた場合の模式図である。
この模式図中
Ta:外乱トルク
Tb:実測トルク
Tc:外乱トルクと実測トルクの差分値(=Ta−Tb)
x:操舵角
である。
【0053】
このとき、運転者のインピーダンスは、「−STaTb/STax(外乱トルクと実測トルクのクロススペクトルを、外乱トルクと操舵角のクロススペクトルで除した値)」から求めることが出来る。図10にインピーダンス計測結果の例を示す。この左下図から、腕に入っている力の状態、つまり筋骨格部の硬さの状態を推定することが出来る。例えば、ステアリングを握る力が増すと1Hz以下の周波数帯域でインピーダンスが上がることが確認できる。
【0054】
ここで、上述の外乱トルクAとしてのホワイトノイズの与え方について補足する。
粘性と弾性がインピーダンスに及ぼす影響は低周波側に限定されるが、慣性の影響は比較的に高周波まで影響する。
このため、精度よく乗員のインピーダンスを測る場合には、下記の仕様でホワイトノズルとしての外乱トルクを発生する。
【0055】
・周波数帯:0Hzの低周波から100Hzの高周波まで
・波の種類:正弦波、三角波、方形波
・トルク:ステアリングホイール7が動き出すレベルを下限値、乗員がオーバーライドできる限界を上限値とする。この範囲であれば、乗員のインピーダンスを計測できると推定される。
・ステアリングホイール7の回転させ方については、外乱トルクを生成する途中で、異なる波の信号を位相をずらすか、ずらさないかによって、回転のさせ方は違う。
【0056】
位相をずらす場合には、0〜2piの間で位相をランダムにふる。位相をずらす場合には、長時間計測になりがちであるので、計測は直進時、一定保舵時のみに行うことが好ましい。
【0057】
一方、位相をずらさない場合には、同位相で信号を重ね合わせる。位相をずらさない場合には、短時間計測が可能であるので、計測時の走行シーンは、位相をずらす場合よりも緩やかとなる。
ここで、簡易に乗員のインピーダンスを測る場合には、次のように実施すればよい。
【0058】
すなわち、所定の周波数以上の値だけを用い、乗員の全周波数帯のインピーダンスを計測する。腕の位置は連続的にしか変化しないため、予め決めた周波数以上の信号だけを用いて、全周波数帯のインピーダンスを計測することができる。たとえば、乗員は共振周波数以下でステアリング操作をすることがほとんどである。そして、共振周波数は1Hz近辺に現れることが多い。したがって、1Hz以上の信号だけを使って0〜100Hzのインピーダンスを計測できる。1Hz以上の反力の変化は乗員が気付き難いため計測による不快感は少ない。また、高周波成分だけを用いると計測時間が短くてすむ。
【0059】
なお、外乱トルクは、ステップ応答やスイープ波形で付与しても良い。
また、筋骨格モデルを用いた筋力推定値取得処理Bは、姿勢取得手段104を構成する姿勢検出部16と、推定値算出手段105を構成する粘弾性推定部17及び伝達関数算出部19での処理に相当する。
【0060】
筋力推定値取得処理Bは、次のように実施される。
まず、運転操作時の操作反力、運転者の関節角度、関節位置を取得して筋骨格モデルに入力して、運転者の筋個別の粘性、弾性、慣性を得る。すなわち、図11(a)のように、車室内に設置されたカメラよって、運転風景を撮影する。次に、図11(b)のように、運転風景から運転者の関節位置と関節角度を検出する。そして、図11(c)のように、運転者の関節位置と関節角度、および、車両の操作量から筋骨格モデルを用いて、筋個別の粘性、弾性、慣性を推定する。
【0061】
ここで、筋骨格モデルによる各筋の筋力の計算、及び各筋の筋力の粘性、弾性、慣性の算出例について説明する。筋個別の粘性、弾性、慣性の推定は、これに限定されず、公知の手法を採用すればよい。
【0062】
筋モデルとして、図12で示すモデルを想定する。この筋モデルは、筋単体の筋力を計算するためのものである。また、収縮要素CCは粘性に、総合の弾性要素は弾性に対応する。またどの筋をモデル化したかによって慣性が決定する。
【0063】
そして、筋毎に、時間ステップΔt毎に次のような演算を行う。
まず対象とする筋肉に対して、収縮要素と直列要素の筋パラメータを得る。また、筋長と刺激入力を得る。次に、収縮要素の活性化レベルと長さを前の時間ステップから得る。また、直列弾性要素の長さと張力の前の時間ステップから得る。
【0064】
次に、筋モデルのサブルーチンを呼び出し、次の1〜4の処理を行うことで、筋個別の粘性、弾性、慣性を求める。
【0065】
1.直列弾性要素張力=f(直列弾性要素長)
これは図13のような関係にある。
収縮要素の力 =直列弾性要素張力
2.収縮要素の活性化レベル=f(刺激)
3.収縮要素速度=f(収縮要素の力、活性化レベル、長さ)
4.収縮要素長=∫収縮要素速度dt
【0066】
上記2〜4は、図14〜図17の関係にある。
図18に基となる関係式を示す。
次に、腕を構成する複数の筋の伝達関数を一つに統合した伝達関数において、その伝達関数と筋個別に求めた粘性、弾性、慣性の解とを基に、腕の伝達関数を算出する。続いて、その算出した腕の伝達関数についての周波数特性(ゲイン特性、位相特性)を得る。
【0067】
ここで、腕の粘弾性の式及び伝達関数について説明する。
腕の関節は2次系のシステムであり、図19(a)に示すようなマスバネモデルで表現することが出来る。
すなわち、このマスバネモデルは、図19(b)に示すような、粘性と弾性を有する。なお、腕の質量を慣性とする。
【0068】
そして、乗員が目標角αに対しハンドル角θで腕を動かすとき、下記のような(式1)で表現できる。なお、2次系のシステム以外でも、粘性、慣性、弾性相当のパラメータを近似的に求めることが可能であれば、厳密に(式1)に従わなくても構わない。
【0069】
【数1】

【0070】
この(式1)に対応する伝達関数は、下記の(式2)で表すことが出来る。なお、ゲインG0、減衰比ζ、共振周波数ωn2は、乗員の粘性・弾性・慣性のパラメータを含む。
【0071】
【数2】

【0072】
ここで、筋骨格モデルとは、筋骨格の力学的特性(腕の重さ、筋力、速度)を数式モデル化したものである。コンピュータによる解析では、測定可能な情報から測定が困難な物理量を推定するのに利用する。図20に筋骨格モデルを利用した粘性、弾性、慣性の算出のイメージ図を示す。筋力を求めるには、入力情報として筋骨格モデルに作用する力(手に作用する外力)、筋骨格の幾何形状(長さ、角度)、筋骨格の運動情報(位置、速度)が必要である。また、図21に示す様な事前に知りたい身体の部位の少なくとも一部を筋骨格モデルとしてコンピュータ内に定義しておく必要がある。
【0073】
また、疲労度指標値決定処理Cは、疲労推定手段106に対応し、周波数特性比較部20及び筋力計算部21での処理に相当する。
疲労度指標値決定処理Cは、次のように実施される。
【0074】
インピーダンス取得処理Aで求めたインピーダンスと、筋力推定値取得処理Bで求めた、各推定値に対応する腕の伝達関数の周波数特性(複数解)とを比較することで、筋個別の粘性、弾性、慣性を決定し、その結果に基づき、疲労状態を推定する。上記比較は、筋力推定値取得処理Bで求まる解の数だけ実施する。そして、特性(少なくともゲイン特性を比較する)が最も近似していると推定される筋力推定値取得処理Bで求めた解を最適解として選択する。最適解は、例えば、2つの周波数特異性の差分が最小化、もしくは、比(筋力推定値取得処理Bの結果/インピーダンス取得処理Aの結果)が最大となる値とする。
【0075】
最適解が求まったら、その粘性、弾性、慣性の数値を基に、筋力を推定する。そして、この推定した筋力から運転者の疲労状態を推定する。
上記周波数特性の比較方法を図22に示す。すなわち、先ずステップ1で筋力推定値取得処理Bが、筋骨格モデルに基づき、複数の解を求める。ステップ2で筋力推定値取得処理Bが、上記求めた複数の解毎に、上腕全体の2次伝達関数を求める。ステップ3でインピーダンス取得処理Aが、インピーダンスを示す周波数特性を算出する。ステップS4で疲労度指標値決定処理Cが、周波数特性を比較して最適解を選択する。
【0076】
次に、上述の掌状態補正部22の処理について説明する。
腕の位置(主に掌の位置)がステアリングホイール7の中心よりも下側にある場合(図23参照)には、腕が体幹に支えられる度合いが高くなる。このため、インピーダンス取得処理Aで計測したインピーダンスが、腕に力をいれていなくても大きくなる傾向となる。
【0077】
このような掌の位置がインピーダンスに及ぼす影響を減らすために、掌状態補正部22は、図24に示すように、掌の位置が下側にあるほど、ゲイン特性を小さくする方向に、インピーダンス取得処理Aで求めたインピーダンスを補正する。
また、掌の位置の替わりに慣性を用いて判断することもできる。すなわち、図25に示すように、慣性が増加し、弾性が変化するような場合は、掌の位置が変化したものと考えることができ、掌状態補正部22は、同様にインピーダンスを小さくする様に補正をかける。
【0078】
ここで、上腕の2次伝達関数は、例えば下記式のように表すことが出来る。
【0079】
【数3】

【0080】
なお、状況に応じて(掌がステアリングの下側にあっても、脇が開いており、腕が体幹で支えられてない場合など)、インピーダンスを補正しないという条件を加えても良い。
【0081】
次に、疲労推定装置の処理を、図26のフローチャートを参照して説明する。
まずインピーダンス計測に必要な外乱トルクを生成するために、ステップS1では、運転者の操作量を計測する。そしてステップS2に進む。
ステップS2では、メモリに操作量を記録し、所定の時間だけ保持する。続いて、ステップS3では、予め設定した所定の時間の操作量を周波数解析する。
【0082】
次にステップS4では、予め設定した所定の周波数帯域において、インピーダンス計測に足るパワー&位相特性を有すると判断できるか否かを判定し、判断できると判定した場合にはステップS6に移行する。一方、不十分と判定した場合には、操作量の計測であるステップS1に戻る。
【0083】
ステップS6では、上述の手法によって、運転者のインピーダンス(硬さの状態)を計測する。そして、ステップS14に移行する。
また上記の処理と併行してステップS7〜S13が実施される。
ステップS7では、カメラなどの撮像手段を用い運転者の運転風景を撮影する。そして、その撮影した画像に基づき、運転者の関節位置(もしくは、関節長さ)と角度を算出する。
【0084】
次に、ステップS8では、筋骨格モデルで筋力を求めるために、姿勢と寸法を決める。
次に、ステップS9では、筋骨格モデルで筋力を求めるために、外力値を計測する。
次に、ステップS10では、外力値と姿勢、寸法を入力とし、筋骨格モデルを用いて、各筋の粘弾性を算出する。
ここで、一つの筋の粘弾性の解は、筋骨格モデルで定義された筋と腱の数に依存して決まり、基本的には複数解となる。
【0085】
次に、ステップS11では、ステップS10で求めた複数解のうち、予め決めた所定の組み合わせを用い、腕全体の粘弾性を算出する。
次に、ステップS12では、運転者の腕の系を、ステアリングと同じ2次系と仮定して、算出した腕全体の粘弾性から2次の伝達関数を算出する。
次に、ステップS13では、ステップS12で算出した伝達関数のボード線図を求める。そしてステップS14に移行する。
【0086】
ステップS14では、インピーダンス計測結果とボード線図の比較する。続いて、 ステップS15では、上述の所定の組み合わせの結果は、インピーダンス計測結果に最も近しいかを判断する。判断結果が最も近しい場合にはステップS17に移行する。一方、判断結果が近しくない場合は、ステップS11に移行して、別の組み合わせで再度、ステップS12〜S16の計算を行う。
【0087】
ステップS17では、近しい値(最適値)における粘弾性の組み合わせから1又は2以上の筋肉の筋力値を算出する。
次に、ステップS18では、ステアリングホイール7の下側に掌が位置するほど、筋力値を小さくする。上述のように、このステップS18の補正処理はステップS6の後、若しくは、ステップS17の前に実施しても良い。
【0088】
次に、ステップS19では、単一の筋若しくは複数の筋群の筋力推定値の履歴に基づいて疲労の兆候があると判定すると、運転者に報知する。報知は、例えば音声やシートへの振動付与などによって行うことで、運転者の運転支援を行う。
ここで、疲労度の指標である筋力推定値に基づく、疲労推定手段106を構成する判定部23における、運転者の疲労推定の処理方法について説明する。
【0089】
一般に、筋力(瞬時値)の持続時間とは、図27に示すような関係がある。したがって、筋力が大きいと筋肉が力を出し続けられる持続時間が短い。逆に、筋力が小さいと筋肉が力を出し続けられる持続時間が長い。そして、上記図27のように、筋力が大きいほど、持続時間は指数関数的に減少する関係にある。
これに基づき、疲労推定の方法としては、例えば下記の方策1と方策2を例示出来る。
【0090】
(疲労推定の方策1)
筋力の瞬時値の頻度から疲労を判定する。すなわち、上記図27の関係(疲労曲線)より瞬時値の継続時間に基づき、どの程度の疲労状態か、また運転者に報知すべき疲労状態かを推定する。
【0091】
上記推定には統計的知見に基づく認識処理を実施すればよい。統計的処理は、例えば、ベイズ推定、ファジー推定、サポートベクターマシン、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワーク、などが例示出来る。
【0092】
(疲労推定の方策2)
筋力の瞬時値が予め設定した閾値を超えたか否かによってどの程度の疲労状態か、また運転者に報知すべき疲労状態かを推定する。閾値は1つでも良いし、何段階か複数持っていても良い。
【0093】
ここで、筋肉は100%以上の力を出すとツルという現象を生じる。したがって、その極限状態を基準にして閾値を設定する。
次に、上記方策1を採用した疲労推定の処理について図28を参照して説明する。
まず、前処理として、筋力計算、筋力と時間のヒストグラムを算出する。
【0094】
次に、特徴抽出では、ヒストグラムの面積や大きさなどを特徴量とする。
次に、後処置では、特徴量の平均、中央値、最頻値を算出、もしくは、異なる複数の特徴量をもとに特徴空間を作成する。
次の判別では、予め設定した数値、もしくは、特徴空間の予め設定した所定範囲にある値(閾値を超える値)か否かを判別する。この判別を満足しない場合には、前処理に戻って処理を繰り返す。一方、この判別を満足する場合には、運転者への疲労に対する報知が必要と判定して処理を終了する。
【0095】
(動作その他)
操作子100であるステアリングホイール7に働く反力(操作反力)と、姿勢情報である関節位置から筋骨格モデルに基づき推定する場合には、筋力を正確に推定できないおそれがある。
【0096】
例えば、図29の(a)と(b)とでは各筋肉の筋力が異なっていても、同じ操作反力である「1(N)」がステアリングホイール7に付加される。このとき、図29のように、筋Aの筋力が2Nの場合と10Nの場合とでは、筋Bに発生している筋力は異なるはずである。しかしながら、このような腕の内部で相殺される力は、筋骨格モデルからは求めることが出来ない。
【0097】
通常は予め設定した境界状態を適用して、筋推定値を演算しているが、上述のように、筋推定値の精度が悪い恐れがある。
これに対し、本実施形態では、この問題を解決するためには、腕の内部で相殺される力を、インピーダンス計測から推定して、より適切な筋推定値を得るようにしている。
【0098】
インピーダンス計測は、図30のように、入力する外乱トルク回転しようとするステアリングホイール7の動きに拮抗する腕のインピーダンス(硬さ状態)を計測する。ここで、対象とする筋骨格部(身体)が硬い状態の場合には、操作子100に外力が入力されても操作子100は、入力した外力通りに動かない。これに基づき、操作子100に入力する力と当該操作子100の動き(位置や実際に発生した力など)から、運転者の身体の硬さ状態を計測することが可能である。
【0099】
計測したインピーダンスは、外乱トルクに抵抗する身体部分(対処とする筋骨格部)の全体の筋力の状態であるので、対処とする筋骨格部における腕の内部力の情報を反映している。また、実際の筋力の実際の特性を示している。
【0100】
これに基づき、この計測したインピーダンスの特性に近い筋推定値を選択することで、すなわち、筋骨格モデルとあわせることで、内部力も加味したより正確な筋推定値を推定できる。この結果、内部力の情報を含め、筋力を精度よく推定できるため、より正確に疲労推定を行うことが可能となる。
【0101】
(本実施形態の効果)
(1)硬さ推定手段102は、車両に運転指示を与えるための操作子100を操作する際に使用される運転者の筋骨格部の硬さ状態を推定する。操作反力取得手段103は、上記運転者が上記操作子100を操作するときの操作反力を取得する。姿勢取得手段104は、運転者の上記筋骨格部の骨格姿勢の情報を取得する。推定値算出手段105は、上記操作反力及び上記骨格姿勢の情報に基づき、筋骨格モデルから、上記筋骨格部の筋力に関わる推定値を求める。疲労推定手段106は、上記硬さ推定手段102が推定する硬さ状態と、上記推定値算出手段105が求める推定値とに基づき、運転者の疲労状態を推定する。
運転者の内部で相殺される力も加味して、疲労状態を推定することで、より精度良く疲労状態を推定できる。
【0102】
(2)上記推定値算出手段105は、筋骨格モデルに基づき複数の推定値を求める。上記疲労推定手段106は、上記推定値算出手段105が求めた複数の推定値のうち、上記硬さ推定手段102で推定した硬さ状態の特性に最も近い推定値を選択し、その選択した推定値に基づき疲労状態を推定する。
筋骨格モデルから求める推定値は、運転操作時の操作反力を入力しているが、運転者の内部で相殺される力は操作反力上に反映されない。これに対し、実際の硬さ状態の特性に最も近い推定値を選択することで、より精度がよい推定値を選択できることから、より精度良く疲労状態を推定できる。
【0103】
(3)外乱トルク検出手段102Aは、上記操作子100に入力する外乱トルクを検出する。抵抗特性検出手段102Bは、上記外乱トルク検出手段102Aが検出する外乱トルクに対する上記筋骨格部の抵抗特性を上記硬さ状態として検出する。
これによって、硬さ状態を検出することが出来る。
【0104】
(4)上記硬さ推定手段102は、操作子100に外乱トルクを付与する外乱トルク付与手段101を備える。
これによって、フラットな路面を走行中など操作子100に外乱が入力しないような走行状態であっても、安定して硬さ状態を推定可能となる。
【0105】
(5)上記外乱トルクは、路面からステアリングホイール7に伝達されるトルクである。
これによって、外乱トルク付与手段101が無くても硬さ状態を推定可能となる。例えば悪路を走行中に推定可能となる。
(6)上記硬さ推定手段102が推定する硬さ状態を、運転者のステアリングホールの把持状態によって補正する。
操作子100と身体の相対的な位置・向きの関係を反映することで、より精度良く疲労推定が可能となる。
【0106】
(変形例)
(1)上記実施形態では、操作子100としてステアリングホイール7を対象とした場合で説明した。適用対象となる操作子100としては、例えばシフトレバー、アクセルペダル、ブレーキペダルであっても良い。但し、運転者による操作量や操作時間が大きい操作子100を選択することが好ましい。
【0107】
「第2実施形態」
次に第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、上記実施形態と同様な装置については同一の符号を付して説明する。
【0108】
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。
ただし、上記第1実施形態では、筋骨格モデルを使用して求めた複数の推定値(解)のうち、インピーダンスに特性が一番近い推定値を最適値とし、その最適値を疲労度の指標として疲労状態を推定した。
【0109】
これに対し、第2実施形態では、インピーダンスによって筋骨格モデルの境界条件を決めて推定値を求め、その推定値から疲労度の指標としての最適な推定値を推定する。
【0110】
すなわち、第1実施形態では、境界条件を設定しないか境界条件を緩く設定することで、筋骨格モデルから複数の筋力推定値の組み合わせ(解)を求める。そして、その筋骨格モデルから求まる全ての筋力推定値の組み合わせについてインピーダンス計測結果と特性を比較する。従って、この比較のための計算回数が多くなる傾向にある。
【0111】
これに対し、第2実施形態では、筋骨格モデルで筋力を計算する過程で、インピーダンス計測結果に基づく境界条件を予め設定する。これによって、第1実施形態に比べて、計算回数を少なくすることが可能となる。
【0112】
ここで、本実施形態の説明を簡単にするため、動作は肘関節が伸展状態とし、筋肉は肘関節に付着する上腕二頭筋と上腕三頭筋に着目して説明する。ただし、以下の説明では、上腕二頭筋や上腕三頭筋との単語を使用せず、上腕二頭筋を所定の動作に主として働く筋肉を主導筋と表記し、上腕三頭筋は、主導筋に拮抗して働く拮抗筋、とする。
本実施形態の疲労推定装置の処理を、図31を参照して説明する。
【0113】
まず、ステップS100で、対象とする筋骨格部全体(腕全体)のインピーダンス(硬さ状態)を計測する。
次に、ステップS110で、計測された腕全体のインピーダンス計測結果に基づき、主導筋及び拮抗筋の共収縮のレベル(筋肉の分配条件)を算出する。
すなわち、計測したインピーダンスは、腕全体に発生する力の状態を示すとみなされる。つまり、インピーダンスを、主導筋と拮抗筋の筋力の和に応じた値として、腕全体の筋力のレベルを求めることが出来る(=共収縮のレベルを決める)。
このインピーダンス計測結果を筋骨格モデルにおける境界条件とする。
【0114】
次に、ステップS120で、筋骨格モデルに基づき筋力推定値を計算する。
次に、ステップS130で、ステップS120で計算した筋力推定値から共収縮のバランスを算出する。
具体的には、操作子100に対する操作反力から、操作子100の操作で使われる主導筋と拮抗筋の筋力のバランスを決める(=共収縮のバランスを決める)。
【0115】
筋骨格モデルから求めた筋力推定値は、主導筋と拮抗筋の筋力の差、つまり共収縮のバランスの状態を示している。
【0116】
次に、ステップS140で、ステップS110で求めた腕全体の筋力のレベル(分配条件)と、S130で求めた共収縮のバランスとの両方を満足する筋力推定値を決定(選択)する。
次に、ステップS150では、ステップS140で決定した筋力推定値に基づき、第1実施形態で説明した方法によって、疲労推定を行う。
【0117】
(作用その他)
(1)インピーダンス計測結果に基づく境界条件の設定について
腕全体は、図32のようなモデルで示すことができ、粘性B、弾性K、慣性Iと変位量(角度or位置)xから、下式に基づき、腕全体の筋力(orトルク)Fを算出することが出来る。
【0118】
F=Ix″+Bx′+Kx
【0119】
ここで、腕全体の筋力の最大値をMとすると、F≦Mの関係があり、Fは、単純に主導筋筋力と拮抗筋筋力の和で現すことが出来る。そして、主導筋筋力と拮抗筋筋力の差が例えば「1(N)」の場合、各筋の筋力は以下の様になる。これが分配条件となる。
【0120】
(主導筋筋力、拮抗筋筋力) = (F、0)
(F−1、1)
(F−2、2)
・・・
(0、F)
すなわち、図33のような関係(分配条件)で表すことが出来る。
なお、筋骨格モデルや筋の情報を参考にし、Fを精度よく分解すればするほど、この境界条件の精度はよくなる。
【0121】
(2)筋骨格モデルによる筋力推定について
筋力の最大値Mとし、例えば筋力の差が「1(N)」である場合、主導筋に働いている筋力と拮抗筋に働いている筋力は以下のような関係にある。すなわち、筋骨格モデルからこのような筋力推定値を推定することが出来る。なお、この筋力の差は操作反力に対応する。
【0122】
(主導筋筋力、拮抗筋筋力) =(1,0)
(2,1)
(3,2)
・・・
(M,M−1)
すなわち、図26のような関係で表すことが出来る。
【0123】
(2)筋力推定値の決定について
したがって、インピーダンス計測結果に基づく境界条件(共収縮のレベル)と、主導筋と拮抗筋の筋力のバランス共収縮のバランスとの交点(図34における実線と破線の交点)から、2つの筋肉の筋力推定値を決定することが出来る。
【0124】
これは筋肉の数が増えても、主導筋に相当する複数の筋群と、拮抗筋に相当する複数の筋群とを定義すれば同様の手法で筋力を推定できる。
ここで、上記の主導筋と拮抗筋の筋力のバランスの情報は、操作子100の操作力から求まる関節まわりの回転モーメントを筋力に分配するときの分配係数(分配条件)としても利用可能であり、筋の不静定問題を解く際の手がかかりとしても使える。
【0125】
また、操作状態(操作反力、関節位置、関節角度)と筋骨格モデルより筋力を計測し、操作状態とインピーダンス計測結果との対応関係をデータベース化すれば、筋骨格モデルを用いて筋力を毎回計算しなくても、操作状態とインピーダンス計測結果だけから、筋力を推定することができる。
【0126】
(本実施形態の効果)
(1)上記硬さ推定手段102が推定した硬さ状態に基づき、上記筋骨格モデルに基づき推定値を求める際の筋力の分配条件を求め、その求めた分配条件によって、推定値算出手段105が推定する推定値の最適値を決定し、その最適値に基づき疲労状態を推定する。
【0127】
これによって、全ての推定値と硬さ状態の特性との比較が不要とないので、その分だけ短時間で疲労状態が算出できる。
【符号の説明】
【0128】
4 反力装置モータ角センサ
5 操舵反力用アクチュエータ(外乱トルク付与手段)
6 操舵反力装置用コントローラ
7 ステアリングホイール(操作子)
8 トルクセンサ(操作反力取得手段)
10 指示装置利用判定装置
11 運転者用カメラ(姿勢取得手段)
12 タイヤ横力検出センサ
13 指示装置
14 外乱トルク信号検出部(外乱トルク検出手段)
15 タイヤ発生トルク信号検出部
16 姿勢検出部(姿勢取得手段)
17 粘弾性推定部(推定値算出手段)
18 インピーダンス計測部(硬さ推定手段)
19 伝達関数算出部(推定値算出手段)
20 周波数特性比較部(疲労推定手段)
21 筋力計算部(疲労推定手段)
22 掌状態補正部
23 判定部(疲労推定手段)
100 操作子
101 外乱トルク付与手段
102 推定手段
102A 外乱トルク検出手段
102B 抵抗特性検出手段
103 操作反力取得手段
104 姿勢取得手段
104A カメラ
104B 画像処理部
105 推定値算出手段
106 疲労推定手段
A インピーダンス取得処理
B 筋力推定値取得処理
C 疲労度指標値決定処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に運転指示を与えるための操作子を操作する際に使用される運転者の筋骨格部の硬さ状態を推定する硬さ推定手段と、
上記運転者が上記操作子を操作するときの操作反力を取得する操作反力取得手段と、
運転者の上記筋骨格部の骨格姿勢の情報を取得する姿勢取得手段と、
上記操作反力及び上記骨格姿勢の情報に基づき、筋骨格モデルから、上記筋骨格部の筋力に関わる推定値を求める推定値算出手段と、
上記硬さ推定手段が推定する硬さ状態と、上記推定値算出手段が求める推定値とに基づき、運転者の疲労状態を推定する疲労推定手段と、を特徴とする運転者の疲労推定装置。
【請求項2】
上記推定値算出手段は、筋骨格モデルに基づき複数の推定値を求め、
上記疲労推定手段は、上記推定値算出手段が求めた複数の推定値のうち、上記硬さ推定手段で推定した硬さ状態の特性に最も近い推定値を選択し、その選択した推定値に基づき疲労状態を推定することを特徴とする請求項1に記載した運転者の疲労推定装置。
【請求項3】
上記硬さ推定手段が推定した硬さ状態に基づき、上記筋骨格モデルに基づき推定値を求める際の筋力の分配条件を求め、その求めた分配条件によって、推定値算出手段が推定する推定値の最適値を決定し、その最適値に基づき疲労状態を推定することを特徴とする請求項1に記載した運転者の疲労推定装置。
【請求項4】
上記硬さ推定手段は、
上記操作子に入力する外乱トルクを検出する外乱トルク検出手段と、
上記外乱トルク検出手段が検出する外乱トルクに対する上記筋骨格部の抵抗特性を上記硬さ状態として検出する抵抗特性検出手段と、を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した運転者の疲労推定装置。
【請求項5】
上記硬さ推定手段は、操作子に外乱トルクを付与する外乱トルク付与手段を備えることを特徴とする請求項4に記載した運転者の疲労推定装置。
【請求項6】
上記操作子は、ステアリングホイールであり、
上記外乱トルクは、路面からステアリングホイールに伝達されるトルクであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載した運転者の疲労推定装置。
【請求項7】
上記操作子は、ステアリングホイールであり、
上記硬さ推定手段が推定する硬さ状態を、運転者のステアリングホールの把持状態によって補正することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載した運転者の疲労推定装置。
【請求項8】
車両に運転指示を与えるための操作子を操作する際に使用される運転者の筋骨格部の硬さ状態を推定し、
上記運転者が上記操作子を操作するときの操作反力、及び運転者の上記筋骨格部の骨格姿勢に基づき、筋骨格モデルから、上記筋骨格部の筋力に関わる推定値を求めて、
上記硬さ状態と上記推定値とに基づき、運転者の疲労状態を推定することを特徴とする疲労推定手段と、を特徴とする運転者の疲労推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2012−34829(P2012−34829A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177361(P2010−177361)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】