説明

過塩基性カルボン酸金属塩前駆体および製造方法

炭化水素液体、ポリオールおよびアルコールの存在下でアルカリ土類金属塩基とカルボン酸を反応させることにより、過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体が調製される。得られた過塩基性アルカリ土類金属塩は、少なくとも約14.5%のアルカリ土類金属含有量および少なくとも約95%の不揮発物含有量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この国際特許出願は、2008年4月21日に申請された米国特許出願第12/106,358号に対する優先権を請求する。
【0002】
本発明は、脂肪酸のアルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体およびこの液体の調製方法に関する。より詳細には、本発明は、過塩基性カルボン酸アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性前駆体およびこの前駆体の調製方法に関する。さらに詳細には、本発明は、過塩基性カルボン酸カルシウムの長期保存可能な流動性前駆体およびこの前駆体の調製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
カルボン酸、アルキルフェノールおよびスルホン酸の過塩基性カルシウムまたはバリウム塩の調製は以下の米国特許第2,616,904号;第2,760,970号;第2,767,164号;第2,798,852号;第2,802,816号;第3,027,325号;第3,031,284号;第3,342,733号;第3,533,975号;第3,773,664号;および第3,779,922号に開示されている。ハロゲン含有有機ポリマーにこれらの過塩基性金属塩を使用することが、以下の米国特許第4,159,973号;第4,252,698号;および第3,194,823号に記載されている。近年、安定剤配合物への過塩基性バリウム塩の使用が増えている。これは、主として、過塩基性バリウム塩が中性バリウム塩に対して性能上有利な点を有するという事実によるものである。過塩基性バリウム塩に付随する性能上有利な点は、低いプレートアウト、優れた色彩保持、十分な長期熱安定性性能、安定剤成分との十分な相容性などである。残念なことに、大部分の過塩基性バリウム塩は色が暗色であり、これら暗色の過塩基性バリウム塩はハロゲン含有有機ポリマーの効果的な安定剤であるが、暗色が最終生産物を変色させる。この特徴により、淡色のポリマー製品が望まれる用途において暗色の過塩基性バリウム塩を使用することが実質的に禁止される。
【0004】
米国特許第4,665,117号の教示によれば、アルキルフェノールを促進剤として用いて、淡色のアルカリまたはアルカリ土類金属塩が調製される。しかし、アルキルフェノールもまた、最終製品に色を発現させる主要な原因である。この問題は、酸化プロピレンの使用によって克服される。酸化プロピレンは、フェノール性ヒドロキシル基の水素を置換することにより着色化学種の生成を制限する。しかし、主に酸化プロピレンの有毒性のために、この方法には欠点がある。酸化プロピレンは発癌性物質の可能性があるものとして分類され、実験動物に吸入させる研究により癌との関連性の証拠が見出されている。酸化プロピレンは激しい目の刺激剤としても挙げられており、酸化プロピレン蒸気に長期間さらされると目に永久損傷をもたらす恐れがある。さらに、酸化プロピレンは、一定の条件下で本質的に著しく可燃性かつ爆発性である。酸化プロピレンは94°Fで沸騰し、−20°Fで引火する。その結果、プラントサイトで酸化プロピレンを扱うには最大限の注意が必要である。酸化プロピレンには特別の保管装置が必要であり、その他の安全施設も必要である。米国特許第4,665,117号には、酸化プロピレンを150°Cで使用することが記載されている。この温度では、酸化プロピレンは気相にある。この運転条件下では、酸化プロピレンが反応混合物から漏れるので、反応を完了させるには理論量を超える酸化プロピレンが必要であり、このために過剰の酸化プロピレンを取り扱う必要性が生じる。
【0005】
過塩基性カルボン酸金属塩の液体はグリースの調製にも使用される。特に、グリースの製造には、特性を向上させるために多段階製造法および多数の添加剤が含まれており、これらは特製グリース、食品用グリースおよび生物由来グリースの配合者に対してますます大きな課題を提示している。得られるグリース性能は、温度、圧力、滞在時間、およびけん化の化学量論量などの加工条件にも大きく左右される。
【0006】
腐食防止特性を有し、例えば自動車やトラック車体の下塗りなどの様々な用途ならびに様々な他の目的に有用な、揺変性グリースまたはグリース状過塩基性カルボン酸金属塩もしくは他の過塩基性金属含有組成物が当技術分野で知られている。こうしたグリースまたはグリース状組成物はそれ自体でまたは他の成分と混合してかなり広範囲で使用されており、様々な環境で使用される組成物が製造されている。さらに、一般に、これらは、かなり優れた超高圧および耐摩耗性、高い滴点、かなり優れた耐機械的破壊性、塩水噴霧および耐水腐食性、高温熱安定性、ならびに他の望ましい特性を特徴とする。
【発明の概要】
【0007】
過塩基性カルボン酸金属塩の液体を、ハロゲン含有有機ポリマーに使用する場合も、あるいはグリースの調製に使用する場合も、この過塩基性カルボン酸金属塩の揮発性成分(揮発性有機化合物(VOC)を含む)は、健康、安全および環境上の理由からできるだけ低くするべきである。
【0008】
本明細書に記載された技術的現状にもかかわらず、ハロゲン含有有機ポリマーに使用するには、およびグリースの調製に使用するには、脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の調製にさらなる改良が必要である。すなわち、この過塩基性アルカリ土類金属塩は、最終製品の揮発性成分のレベルが大幅に低下しているような改良が必要である。
【0009】
一般に、本発明の一態様は、脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な液体を提供することである。このアルカリ土類金属塩では、アルカリ土類金属の含有量は少なくとも約14.5%であり、不揮発物の含有量は少なくとも約95%である。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体が提供される。この液体は、少なくとも1種の炭化水素液体と、ポリオールと、少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールと、脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩とを含み、このアルカリ土類金属塩は、少なくとも約14.5%のアルカリ土類金属含有量および少なくとも約95%の不揮発物含有量を有する。
【0011】
本発明の別の態様では、脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体を調製する方法が提供される。この方法は、
(a)脂肪酸であるカルボン酸、少なくとも1種の炭化水素液体、ポリオール、および少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールを含む前駆体混合物を調製するステップと、
(b)初期量のアルカリ土類金属塩基で前記カルボン酸を中和してカルボン酸アルカリ土類金属塩の前駆体混合物を形成するステップと、
(c)前記カルボン酸アルカリ土類金属塩の前駆体混合物を加熱するステップと、
(d)前記カルボン酸アルカリ土類金属塩の前駆体混合物に追加量のアルカリ土類金属塩基を加えるステップと、
(e)前記前駆体混合物を炭酸塩化して中性にするステップと、
(f)前記前駆体混合物を濾過するステップと、
(g)少なくとも約14.5%のアルカリ土類金属含有量と少なくとも約95%の不揮発物含有量が得られるまで前記前駆体混合物を蒸留するステップとを含む。
【0012】
本発明の上記および他の利点ならびに新規な特徴は、これを例示した実施形態の詳細とともに、以下の説明からより完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体の熱重量分析のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の一実施形態では、前駆体から調製された脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体は、アルカリ土類金属炭酸塩、脂肪酸のカルボン酸アルカリ土類金属塩、液化炭化水素、および少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールを含み、この液体のアルカリ土類金属含有量は少なくとも約14.5%であり、不揮発物含有量は少なくとも約95%である。
【0015】
脂肪酸前駆体の過塩基性アルカリ土類金属塩のアルカリ土類金属は、カルシウム、バリウム、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選択することができる。これらの金属は、金属酸化物および水酸化物に由来するものでよく、場合によっては、金属硫化物および水硫化物に由来するものでもよい。例えば、アルカリ土類金属塩としてはカルボン酸カルシウムを挙げることができる。
【0016】
過塩基性アルカリ土類金属塩前駆体のカルボン酸部分としては、単独でまたは互いに組み合わせて8〜30個の炭素原子からなるC〜C30飽和および不飽和カルボン酸を含む、あるいはカルボン酸の反応性等価物を含む、脂肪酸を挙げることができる。有用なカルボン酸および脂肪酸の例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノール酸、アラキジン酸、ガドレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸、およびこれらの酸の任意の混合物が挙げられるが、それだけに限らない。
【0017】
本発明の脂肪酸前駆体の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体は、さらに過塩基性カルボン酸アルカリ土類金属塩の生成を促進するアルコールを含むことができる。アルコールとしては、少なくとも8個の炭素原子を含有する脂肪族アルコールが挙げられる。一例においては、約8個〜約18個の範囲の炭素原子を有する脂肪族アルコールを使用することができる。こうした脂肪族アルコールの例としては、イソデカノール、ドデカノール、オクタノール、トリデカノール、テトラデカノールまたはこれらの混合物が挙げられる。過塩基性製品の製造に高級脂肪族アルコールを使用すると、促進剤としてのフェノールを反応から除外することができることがわかった。
【0018】
本発明の脂肪酸前駆体の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な液体は、さらにポリオールを含むことができる。ポリオールは、グリコールまたはグリコールエーテルとすることができる。グリコールまたはグリコールエーテルは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(butyl Carbitol(登録商標))、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0019】
本発明の別の実施形態では、液状の基油も過塩基性前駆体材料を調製するのに用いることができる。この基油は、一般に任意の炭化水素希釈剤を含む炭化水素液体とすることができる。最も一般には、この液化炭化水素は、炭化水素油、ミネラルスピリット、非芳香族炭化水素およびポリアルファオレフィン(PAO)からなる群から選択される。本発明の一実施形態では、好適な炭化水素液体としては、Shell Chemicalから市販のSHELLSOL(商標)D70およびD80が挙げられる。さらに別の実施形態では、過塩基性前駆体材料の調製に好適な液化炭化水素として、PAOを、単独でまたは他の液化炭化水素と組み合わせて用いる。何故ならば、PAOは、そのポリマー骨格鎖の炭素1つおきにフレキシブルな分枝状アルキル基を有するからである。これらのアルキル基は、多くの形態をとることができ、高分子が整然と並ぶことを極めて困難にする。さらに、多くのPAOはより高い温度で比較的安定しており、通常、PAOは油状粘稠液のままの状態で存在することができるので、より低い温度で結晶しないまたは凝固しない傾向がある。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態では、脂肪酸前駆体の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な液体を調製する方法は、アルカリ土類金属塩基と脂肪酸とを、少なくとも1種の液化炭化水素、アルコールおよびグリコールエーテルの存在下、金属塩基と脂肪酸の当量比が1:1を超える状態で反応させるステップを含む。この混合物を酸性化かつ炭酸塩化して、混合物内に非晶質のアルカリ土類金属炭酸塩を生成することができる。炭酸塩化中に、アルカリ土類金属塩基、液化炭化水素および少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールを含む分散液の相対量を制御された塩基添加速度で添加して、安定なヘーズのない液体反応生成物を生成することができる。この反応中に、反応生成物から水が除去されて、長期保存可能な流動性液状過塩基性アルカリ土類金属塩が生成する。一般に、全プロセスを遊離酸素がない状態で行うことができ、この目的のために、窒素環境を使用することができる。
【0021】
本明細書および特許請求の範囲の全体にわたって、アルカリ土類金属塩に適用される「塩基性」または「過塩基性」という用語は、金属組成物に含まれる全金属と脂肪酸部分との比が中性金属塩の化学量論比より大きい金属組成物を指すために用いられる。すなわち、金属当量数は脂肪酸の当量数より大きい。場合により、過剰金属が塩基性金属塩中に存在する程度を「金属比」と記述する。本明細書で用いる金属比とは、油溶性組成物中の全アルカリ土類金属と脂肪酸または有機部分の当量数との比を示す。塩基性金属塩は、塩基性成分の過剰の存在を示すために、当技術分野では、しばしば「過塩基性」または「超塩基性」と称する。
【0022】
炭酸塩化中に、金属塩基、液化炭化水素および脂肪族アルコールからなる分散液の相対量を制御された速度で加えて安定な反応生成物を生成することが重要であることがわかった。安定な液体の生成に寄与すると考えられるいくつかの理由がある。この安定な液体は、後で濾過して不純物および反応の副生物を除去することができる。こうした結果は、炭酸塩化中に塩基の分散液またはスラリーを連続的に添加することによって達成可能であることが明らかになった。金属塩基スラリーは、所望の過塩基性金属塩中の望ましくない炭酸カルシウム結晶または副生物の生成を妨げると考えられる。これらの望ましくない成分は、濾過可能な安定した生成物の生成を妨げる。したがって、金属塩基スラリーは、所望の生成物を生成する反応の速度を超えない制御された速度で加えられる。金属塩基(例えば石灰)を反応させて副生物を生成させてしまうのに対して、この反応は、カルシウムイオンが所望の反応に直ちに利用可能になるように、金属塩基を連続的にまたは少しずつ添加することによって制御される。炭酸カルシウムでコーティングされた過剰の副生物または石灰が液体生成物を濾過不能にすると考えられる。この方法を用いて反応中のpHを制御する。これにより、脂肪酸が中和され、引き続き塩基を添加することによりpHが約7〜10に上昇して溶解した金属イオンを生成する。この金属イオンが炭酸塩化中にCOと反応して所望の生成物を生成する。反応速度を制御しないと、かつ塩基を溶解しないと、固体塩基は炭酸カルシウムと反応するかこれによりコーティングされて、望ましくない副生物を形成する。望ましくない反応副生物が生成すると最終製品は不安定かつ濾過不能なものになる。
【0023】
上に詳しく説明したように、本方法の特徴の1つは、炭酸塩化中に、アルカリ土類金属塩基、ポリオール、液化炭化水素、および少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールからなる分散液を制御された塩基添加速度で加えて、安定な流動性液体を生成するステップである。液化炭化水素および脂肪族アルコールに塩基を分散させたものを添加すると塩基が保護または不動態化され、これにより安定な流動性液状反応生成物の生成が可能になることが明らかになった。塩基の保護または不動態化によって、炭酸塩化が進行して非晶質のアルカリ土類金属炭酸塩を生成する。意外にも、この反応は反応中に水を除去する必要なしに進行し、長期保存可能な液状反応生成物が得られる。
【0024】
塩基性塩の調製に使用されるアルカリ土類金属塩基の量は、脂肪酸または有機成分1当量当たり塩基1当量を超える量である。より一般には、この量は、酸1当量当たり金属塩基少なくとも3当量を供給するのに十分な量である。より多い量を使用するとより塩基性の高い化合物を生成することができ、包含される金属塩基の量は、製品中の金属の割合を上昇させるのにもはや有効でない量までの任意の量とすることができる。混合物を調製する場合、混合物に含まれる脂肪酸とアルコールの量は、塩基性生成物を形成するために1:1より大きくすることが望ましい。より一般には、同等物の比は少なくとも3:1である。
【0025】
本発明の一実施形態では、炭化水素油とアルコール(ドデカノール)の比は約2:1〜約4:1である。グリコールエーテルは、最終製品の約1〜15%で用いることができる。
【0026】
反応中にオレイン酸に加えられる石灰スラリーは、石灰約40〜50%、炭化水素油約25〜40%、ドデカノール約10〜25%、およびプロピレングリコール約0〜10%からなる一般的な組成を有するポンプ輸送可能な混合物として調合される。ポンプ輸送可能なスラリーの製造に必要なプロピレングリコールの量は、スラリー中の石灰の割合が上昇にするにつれて増加する。
【0027】
長期保存可能な流動性過塩基性カルボン酸カルシウム前駆体を調製する方法は、アルカリ土類金属塩基とカルボン酸を、液化炭化水素、脂肪族アルコール、およびグリコールエーテルの存在下で、金属塩基とカルボン酸の当量比が1:1より大きい状態で反応させて、カルボン酸アルカリ土類金属塩混合物を生成するステップを含む。一実施形態では、カルボン酸は脂肪酸であり(この脂肪酸はオレイン酸である)、液化炭化水素はSHELLSOL(商標) D80であり、アルコールはドデカノールであり、グリコールエーテルはプロピレングリコールである。この混合物は、炭酸塩化プロセスによって酸性化されて、非晶質のアルカリ土類金属炭酸塩、例えば炭酸カルシウムを生成する。炭酸塩化のステップは、フェノールフタレインを用いて滴定可能な塩基度を求めるまで、遊離酸素がない状態で上記の混合物を酸性ガスで処理するステップを含む。一般に、この滴定可能な塩基度は約10未満の塩基価まで下げる。これらの混合および炭酸塩化のステップは、遊離酸素を排除すること以外は特別な運転条件を必要としない。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲で用いられる用語「酸性ガス」とは、水と反応して酸を生成するガスを意味する。したがって、二酸化硫黄、三酸化硫黄、二酸化炭素、二硫化炭素、硫化水素などのガスは、開示される過塩基性カルボン酸金属塩の調製に有用な酸性ガスとして代表的なものである。二酸化炭素を用いると、アルカリ土類炭酸塩が形成される。硫黄ガスを用いると、硫酸塩、硫化物および亜硫酸塩が形成される。
【0029】
炭酸塩化中に、アルカリ土類金属塩基、ポリオール、液化炭化水素およびアルコールの相対量を、制御された塩基添加速度で加えることができる。本発明の一実施形態では、炭酸塩化プロセス中の混合を促進するために、乾燥アルカリ土類金属塩基、ポリオール、液化炭化水素およびアルコールをスラリーにすることができる。反応生成物から水を除去して、脂肪酸のアルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体を生成する。一般に、このプロセスは遊離酸素がない状態で行われ、この目的のために窒素環境が用いられる。
【0030】
炭酸塩化中、この混合物は、混合物に含まれている水、すなわち塩基とカルボン酸の反応中に生成し過塩基性化反応中保持されている水の一部を飛ばすのに十分な温度に加熱することができる。二酸化炭素を用いた混合物の処理は高温で行うことが好ましく、このステップに用いられる温度の範囲は、約75℃(約165°F)〜約200℃(約390°F)の範囲の、周囲温度を超える任意の温度とすることができる。250℃(約480°F)などのより高い温度を用いることもできるが、こうした高い温度を用いる明らかな利点はない。通常、約80℃(約175°F)〜150℃(約300°F)の温度で十分である。
【0031】
この方法の他の特徴としては、10分当たり少なくとも約300mlの生成物濾過速度で反応生成物を濾過して長期保存可能な液体前駆物質を生成するステップが挙げられる。本発明の一実施形態では、生成される生成物を濾過して不要な副生物を除去し、過塩基性液体の保存性を高めることができる。例えば、約25〜30インチHgの真空下でブフナー漏斗を用い、ワットマンNo.1濾紙と珪藻土濾過助剤とを用いて、生成物を十分な速度で濾過することができる。こうして、濾過することにより、シリカ、酸化鉄および他の金属種、未反応水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ならびに安定性の欠如をもたらす恐れがある他の酸化物を含む望ましくない不純物が除去される。
【0032】
本発明の別の態様では、脂肪酸前駆体の液状過塩基性アルカリ土類塩は、熱力学的に安定したマイクロエマルジョンであると考えられる。このマイクロエマルジョンはミセルと連続相を有する。このミセルは、アルカリ土類金属炭酸塩と脂肪酸のカルボン酸アルカリ土類金属塩からなる。マイクロエマルジョンの連続相は、液化炭化水素およびアルコールからなる。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態では、アルカリ土類金属塩基、脂肪酸、ポリオール、液化炭化水素およびアルコールの前駆体から水を除去した後、前駆体は、反応生成物の揮発性成分を除去するために、約165℃(約330°F)までの温度で蒸留または真空ストリッピングする。蒸留用語において「ストリッピング」とは、より揮発性の低い物質から揮発性成分を除去することである。真空ストリッピングは、最終製品のアルカリ土類金属含有量測定値が少なくとも約14.5%になり、不揮発物含有量が少なくとも約95%になるまで行う。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態では、前駆体の真空ストリッピングは予期しない結果をもたらした。特に、脂肪酸の液状過塩基性アルカリ土類塩の安定なマイクロエマルジョンを維持するためには、連続相の液化炭化水素とアルコール成分の両方が最終反応生成物に必要であると以前は考えられていた。しかしながら、前駆体を真空ストリッピングすると、意外にも以下のことが観察された。すなわち、最終製品は長期保存可能で流動性の液状特性を維持しただけでなく、最終製品は少なくとも95%の最終不揮発物含有量を有し、かつ93℃(約200°F)を超える引火点を有することが明らかになった。
【0035】
スラリーを加えて二酸化炭素で炭酸塩化した後かつ真空ストリッピングした後の過塩基性オレイン酸カルシウム用の反応混合物は、以下の組成範囲を有する:
オレイン酸カルシウム 約15〜40重量%
炭酸カルシウム 約9〜35重量%
炭化水素油 約25〜35重量%
ドデカノール(共界面活性剤) 約5重量%未満
プロピレングリコール 約1重量%未満
【0036】
過塩基性塩のカルシウムをマグネシウム、ストロンチウム、またはバリウムにより置換するには、金属水酸化物の当量ベースで行う。真空ストリッピング前の最終反応混合物をベースとして、以下の量を用いることができる:
Ca(OH)(石灰) 約15〜35重量%
Mg(OH) 約12〜24重量%
Sr(OH) 約25〜50重量%
Ba(OH) 約35〜50重量%
【0037】
以下の実施例は、本発明の方法による過塩基性塩の長期保存可能なヘーズのない液体の調製を例示するものであるが、これらの実施例は本発明の範囲を限定していると見なすべきではない。本明細書の以下の実施例およびその他ならびに特許請求の範囲において別段の指示がなければ、すべての部および百分率は重量部および重量%であり、すべての温度は華氏度である。
【実施例1】
【0038】
過塩基性オレイン酸カルシウム前駆体Iの生成
15%過塩基性オレイン酸カルシウム/炭酸カルシウムをこの実施例に従って調製した。オレイン酸約274.3g、D−80約270.0g、ドデカノール約140.3g、プロピレングリコール約50.0g、および水約25.0gの混合物を、窒素雰囲気下で撹拌しながら約88℃(約190°F)に加熱した。撹拌された混合物に、D−80約140.4g、ドデカノール約85.0g、プロピレングリコール約25.0g、および石灰約276.7gからなる分散液を約50分間連続的に加え、混合物中にオレイン酸カルシウムの溶液を生成した。反応のこの時点で、混合物をフェノールフタレインで試験した結果は塩基性であった(pH約10〜12)。次いで、撹拌した混合物に、約3時間にわたって、1.5SCFH、約93℃(約200°F)の二酸化炭素を連続的に添加して、混合物を二酸化炭素で処理した。反応の塩基度をチェックして反応中の塩基度を維持した。反応混合物がフェノールフタレインで試験した結果がほぼ中性になったとき、二酸化炭素の添加を中止した。次いで、反応混合物を約149℃(約300°F)に加熱し、合計85.2gの水をディーン・スタークトラップを介して除去した。得られた生成物混合物を撹拌し、濾過助剤(珪藻土)24.00gを加えた。明細書に上記したように、10分当たり500mlを超える生成物混合物を吸引濾過して、過塩基性オレイン酸カルシウム/炭酸カルシウムの長期保存可能な流動性液状濾液を得た。この濾液は、室温に冷却しても長期保存可能であった。
【実施例2】
【0039】
過塩基性オレイン酸カルシウム前駆体Iの真空ストリッピング
250mlの三つ口丸底フラスコに、実施例1で得られた前駆体を投入した。次いで、この三つ口丸底フラスコには、混合物に吹き込む窒素の導入口をフラスコの1つの口に、温度プローブをフラスコの別の口に、真空ラインをフラスコのもう1つの口に取り付けた。窒素ガスを毎時6立方フィート(SCFH)の速度で供給しながら、約149℃(約300°F)〜約163℃(約325°F)の温度で真空濾過を行った。留出物合計約678.6gが回収され、約84.2%の不揮発物含有量が得られた。また、濾液を分析した結果約14.8重量%のカルシウムが含まれていた。この混合物に約50.0gの6.0センチストークスのPAOを添加した後、上記のようにしてさらなる真空濾過を行った。さらに3時間濾過した後、この混合物の不揮発物含有量は約99.4%であり、濾液を分析した結果約15.7重量%のカルシウムが含まれていることが明らかになった。最終製品は以下の物理的性質を有していた:
引火点−>200℃(約392°F)
比重−約1.162
1ガロン当たりの重量−9.68
揮発分−<1体積%
揮発分−<1重量%
図1に見るように、真空度ストリッピングされた最終製品の熱重量分析(TGA)のグラフが提供される。この分析はセイコー5200 TG/DTAを用いて行われた。試料は、10℃/分の速度で約30℃(約86°F)から約550℃(約1022°F)まで評価した。最終製品のサーモグラム(TG%)により温度の関数としての最終製品の分解が明らかになる。最終製品のTG%曲線上の変曲点で示された減量プロフィールは、298.2℃(約568°F)で86.3%、436.9℃(約819°F)で56.99%、および496.0℃(約925°F)で38.6%であることがわかった。変曲点は、グラフの湾曲が最終製品の様々な成分(存在する場合は、方解石、バテライト、および/またはあられ石を含む炭酸カルシウムの様々な形態を含む)の分解時に符号を変える曲線上の点または温度を表す。変曲点は、一次導関数曲線(DTG%/分)によって表される。これらの結果は、200℃(約392°F)で測定した場合、脂肪酸の長期保存可能な流動性過塩基性アルカリ土類塩の真空ストリッピングされた最終製品が95%を超える不揮発物含有量を有していることを示唆するものである。
【実施例3】
【0040】
過塩基性オレイン酸カルシウム前駆体IIの生成
15%過塩基性オレイン酸カルシウム/炭酸カルシウムをこの実施例に従って調製した。オレイン酸約274.3g、D−80約270.0g、ドデカノール約140.3g、プロピレングリコール約50.0g、6.0センチストークスのPAO約100.0g、および水約25.0gの混合物を、窒素雰囲気下で撹拌しながら約88℃(約190°F)に加熱した。撹拌された混合物に、D−80約140.4g、ドデカノール約85.0g、プロピレングリコール約25.0g、6.0センチストークスのPAO約50.0g、および石灰約277.0gからなる分散液を約50分間連続的に加え、混合物中にオレイン酸カルシウムの溶液を生成した。反応のこの時点で、混合物をフェノールフタレインで試験した結果は塩基性であった(pH約10〜12)。次いで、撹拌した混合物に、約3時間にわたって、1.5SCFH、約93℃(約200°F)の二酸化炭素を連続的に添加して、混合物を二酸化炭素で処理した。反応の塩基度をチェックして反応中の塩基度を維持した。反応混合物をフェノールフタレインで試験した結果がほぼ中性になったとき、二酸化炭素の添加を中止した。次いで、反応混合物を約149℃(約300°F)に加熱し、合計110.0gの水をディーン・スタークトラップを介して除去した。得られた生成物混合物を撹拌し、濾過助剤(珪藻土)26.00gを加えた。明細書に上記したように、約5.5分で約1000mlおよび約7分で約1225mlの生成物混合物を吸引濾過して、過塩基性オレイン酸カルシウム/炭酸カルシウムの長期保存可能な流動性液状濾液を得た。この濾液は、室温に冷却しても長期保存可能であった。
【実施例4】
【0041】
過塩基性オレイン酸カルシウム前駆体IIの真空ストリッピング
実施例3の処理を繰り返し、両方の処理からの濾液(合計約2,032gの生成物が得られた)を合わせて、真空ストリッピング用に調製した。三つ口丸底フラスコに、実施例3の2つの調製で得られた前駆体材料を投入した。次いで、この三つ口丸底フラスコには、混合物に吹き込む窒素の導入口をフラスコの1つの口に、温度プローブをフラスコの別の口に、真空ラインをフラスコのもう1つの口に取り付けた。窒素ガスを毎時6立方フィート(SCFH)の速度で供給しながら、約149℃(約300°F)〜約163℃(約325°F)の温度で真空濾過を行った。試料の真空ストリッピングから約7.5時間経過して、不揮発物の含有量は約95.3%であることがわかった。また、濾液を分析した結果約15.7重量%のカルシウムが含まれていた。この混合物に約25.0gの6.0センチストークスのポリアルファオレフィン(PAO)を添加した後、上記のようにしてさらなる真空濾過を行った。さらに4時間濾過した後、この混合物の不揮発物含有量は約98.2%であり、濾液を分析した結果約15.7重量%のカルシウムが含まれていることが明らかになった。最終カルシウム含有量の測定値をカルシウム約15.3重量%に調節するために、この混合物に6.0センチストークスのPAO約45.0gをさらに加えた。最終製品は以下の物理的性質を有していた:
引火点−>200℃(約392°F)
比重−約1.144
1ガロン当たりの重量−9.53
揮発分−<1体積%
揮発分−<1重量%
【0042】
上記の開示に基づき、本明細書に記載した脂肪酸のアルカリ土類金属塩の過塩基性長期保存可能流動性液体およびこの液体の調製方法により上述の目的が達成されることがここに明らかになった。したがって、どんな明白な変更も請求された本発明の範囲内に入ること、したがって特定の構成要素の選択は本明細書に開示され説明された本発明の精神から逸脱することなく決定することができることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体であって、
少なくとも1種の炭化水素液体と、
ポリオールと、
少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールと、
脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩とを含み、
前記アルカリ土類金属塩が、少なくとも約14.5%のアルカリ土類金属含有量および少なくとも約95%の不揮発物含有量を有する液体。
【請求項2】
前記脂肪酸がC12〜C22脂肪酸である、請求項1に記載の液体。
【請求項3】
前記脂肪酸がオレイン酸である、請求項2に記載の液体。
【請求項4】
前記過塩基性アルカリ土類金属塩のアルカリ土類金属が、カルシウム、バリウム、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選択される、請求項1に記載の液体。
【請求項5】
前記過塩基性アルカリ土類金属塩がオレイン酸カルシウムである、請求項1に記載の液体。
【請求項6】
前記アルコールが少なくとも14個の炭素原子からなる脂肪族アルコールである、請求項1に記載の液体。
【請求項7】
前記ポリオールが、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、およびこれらの混合物からなる群から選択されるグリコールまたはグリコールエーテルである、請求項1に記載の液体。
【請求項8】
脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体を調製する方法であって、
(a)脂肪酸であるカルボン酸、少なくとも1種の炭化水素液体、ポリオール、および少なくとも8個の炭素原子を有するアルコールを含む前駆体混合物を調製するステップと、
(b)初期量のアルカリ土類金属塩基で前記カルボン酸を中和してカルボン酸アルカリ土類金属塩前駆体混合物を形成するステップと、
(c)前記カルボン酸アルカリ土類金属塩の前駆体混合物を加熱するステップと、
(d)前記カルボン酸アルカリ土類金属塩の前駆体混合物に追加量のアルカリ土類金属塩基を加えるステップと、
(e)前記前駆体混合物を炭酸塩化して中性にするステップと、
(f)前記前駆体混合物を濾過するステップと、
(g)少なくとも約14.5%のアルカリ土類金属含有量と少なくとも約95%の不揮発分含有量が得られるまで前記前駆体混合物を蒸留するステップとを含む方法。
【請求項9】
前記脂肪酸がC12〜C22脂肪酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脂肪酸がオレイン酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ土類金属が、カルシウム、バリウム、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記カルボン酸アルカリ土類金属塩の前駆体混合物がオレイン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記アルコールが少なくとも12個の炭素原子からなる脂肪族アルコールである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリオールが、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、およびこれらの混合物からなる群から選択されるグリコールまたはグリコールエーテルである、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記前駆体混合物が真空ストリッピングで蒸留される、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
脂肪酸の過塩基性アルカリ土類金属塩の長期保存可能な流動性液体であって、
少なくとも1種の炭化水素液体と、
プロピレングリコールと、
ドデカノールと、
過塩基性オレイン酸カルシウムとを含み、
前記過塩基性オレイン酸カルシウムが、少なくとも約14.5%のアルカリ土類金属含有量および少なくとも約95%の不揮発物含有量を有する液体。
【請求項17】
前記少なくとも1種の液化炭化水素液体が、炭化水素油、ミネラルスピリット、非芳香族炭化水素およびポリアルファオレフィン(PAO)からなる群から選択される、請求項16に記載の液体。
【請求項18】
前記過塩基性オレイン酸カルシウムのアルカリ土類金属含有量が少なくともカルシウム約15.0重量%である、請求項16に記載の液体。
【請求項19】
前記液体の不揮発物含有量が少なくとも約97%である、請求項16に記載の液体。
【請求項20】
前記液体が、方解石、バテライトおよびあられ石からなる群から選択される炭酸カルシウムの形態を含む、請求項16に記載の液体。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2011−518245(P2011−518245A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504996(P2011−504996)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/082724
【国際公開番号】WO2009/131599
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510267878)オーエムジー、アメリカズ、インク (3)
【Fターム(参考)】