説明

過敏性大腸症候群及び神経性胃炎の治療用組成物及び方法

【課題】過敏性大腸症候群及び神経性胃炎の治療。
【解決手段】下記式(I)の化合物を投与する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過敏性大腸症候群及び神経性胃炎の治療用組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過敏性大腸症候群(IBS)は生活の質へ著しい影響を与える一般的な腸の機能障害である。この症候群は、腸運動調節の変容、慢性腹部痛又は不快感、及び腸パターンの変化を特徴とする。上記腸パターンの変化は、下痢気味又は便通頻度の増加、下痢、及び/又は便秘として発現する。IBSは、主症状が腹部痛、下痢、便秘、便秘と下痢の繰り返しであるかにより、4種のサブカテゴリーに分類される。
【0003】
米国の大人の約15%はIBSと診断される症状を訴えている。それにも拘わらず、IBS患者の25パーセントのみが医学的処置を求めると見積もられる。研究により、IBSの治療を求める人々は又、治療を求めない人々に比べ、行動障害及び精神的問題を伴いやすいことが明らかになった。更に、IBSと診断された患者では、線維筋肉痛(fibromyalgia)及び間質性膀胱炎等の、他の非胃腸性機能障害の危険が増加する。
IBSは、女性は男性の三倍の罹患率であることが示された。この差異が女性における実際の圧倒的多数の障害を反映しているのか、単に女性はより医学的処置を受ける傾向があるためかは不明である。
【0004】
IBSは、米国の胃腸病専門医により最も一般的に診断され、初診患者の12%に達する。米国内で年間約80億ドルの直接的医療費用及び薬250億ドルの間接的費用が、IBSの診断及び治療に費やされている。従って、IBSは、米国の年間の健康管理費用の大きな割合を占める。
研究資料のまとめは、IBSが胃腸の運動及び上皮機能の調整の変容の結果であり、内蔵(腹腔)内容物知覚の変容の結果に起因することを示した。Mayerら、Digestive Diseases、19:212-218、2001参照。腸運動の変容、内蔵(内容物)知覚過敏、心理的要因、神経伝達物質のアンバランス、及び感染も又、IBSの発現に寄与することが示された。Horwitz Bら、New Engl J Med、344:24、2001参照。
【0005】
IBSの現在の治療法として、内蔵機能知覚を増加するための運動の改良及び訓練、食事の改良、及び止瀉薬(例えば、ロペラミド)、抗けいれん薬又は抗コリン作用薬での治療が挙げられる。しかし、これら治療法のいずれもIBSの複数の症状の長期間の緩和には効果がない。
5−HTセロトニンレセプターの部分的アゴニストであるゼルノーム(商標)は、女性IBS患者の腹部痛、鼓張及び便秘の短期間治療に効果がある。しかし、この医薬品は男性には効き目が無く、下痢症状を示す女性IBS患者にも効き目が無い。又、ゼルノーム(商標)の長期間の使用の安全性について疑問がある。DeNoon Dら、WebMD Medical News、October 29、2002参照。
【0006】
神経性胃炎(NUD)は別の一般的な腸の機能障害である。NUDは、別の器質的要因の存在無しに、3月以上持続する慢性又は再発性上部腹部痛又は不快感として定義される。NUD症状は、時間の25パーセント以上で存在する。Fisher RS、Parkman HP、New Engl J Med 1998;339:1376-1381参照。NUDは又、「患者の症状を構造的又は生化学的に説明ことのできない持続性又は再発性上部腹部痛又は不快感」として特徴付けられる。Locke GR、Mayo Clin Proc 1999;74:1011-15参照。NUDに伴う別の症状として、鼓張、吐き気、早期満腹感、おくび及び胸焼けが挙げられる。
NUDは、IBSと多くの類似点がある。実際、突発性胃腸痛を訴える患者は、NUD及びIBSを含む機能性胃腸性障害の集団に含まれる。Freidman LS、New Engl J Med 1998;339:1928-30参照。NUD及びIBSは、患者の訴える腹部痛が異常な腸挙動を伴うか否かを決定することにより、通常区別される。この挙動を伴う場合、病状はNUDではなくIBSであると診断される。
【0007】
IBSと同様、NUDの病因はよくわかっていない。NUDは、消化管から生じる感覚の知覚変容により引き起こされるらしい。NUDの他の可能な理由も研究されており、例えば、ヘリコバクターピロリ感染等が挙げられる。しかし、H.ピロリ感染の治療とNUDの改善との間に明らかな関係は確立されていない。胃機能の変容も又、NUDと関連する。例えば、約25−50%のNUD患者は、胃からの排出の遅れを示し、それは食事後の症状発現の増加を部分的に説明する。
NUDの現在の治療法として、低脂肪食又は、食事後に発現する症状を減少させるためより頻度を高くして少ない食事を取る等の食事の改良が挙げられる。他の治療法として、胃酸減少剤、胃内容物排出促進剤(腸管ぜん動促進剤)又はH.ピロリ感染治療用抗生物質の投与が挙げられる。IBS用に記載された止瀉薬及び抗けいれん薬も又、NUD治療用に使用できる。しかし、IBSと同様に、これら治療法はいずれもNUD患者の全ての症状を非常に改善するものではない。
【0008】
チアネプチン、体系的名称は7−[(3−クロロ−6,11−ジヒドロ−6−メチル−ジベンゾ[c,f][1,2]チアゼピン−11−イル)アミノ]ヘプタン酸−S,S−ジオキシド、は、ジベンゾチアゼピン型の三環状抗うつ剤である。チアネプチンは、精神刺激性、抗うつ性、鎮痛性、鎮咳性、抗ヒスタミン性及び胃酸抗分泌性を有する薬として知られている。例えば、Malenらによる米国特許第3758528号参照。チアネプチンはセロトニン再摂取促進剤として作用し、セロトニンのシナプス前部取り込みを増加させる。チアネプチンのナトリウム塩は、欧州でスタブロン(商標)として一般的に薬局で市販されている。チアネプチンは、うつ病の神経症性又は反応性段階、消化器系障害等の身体因性病訴を伴う仮面うつ病(angiodepressive)段階、アルコール依存症患者の治療期間に見られる仮面うつ病段階、及び喘息の治療に使用できる。チアネプチンの化学式を下記に示す:
【0009】
【化1】

チアネプチン
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
IBS及びNUDの治療に効果的な医薬品が求められている。特に、IBS及びNUDの治療及び予防に長期間使用するのに適切で、これら障害の複数の症状又は発現を治療する医薬品が求められている。
【特許文献1】米国特許第3758528号明細書
【非特許文献1】Mayerら、Digestive Diseases、19:212-218、2001
【非特許文献2】Horwitz Bら、New Engl J Med、344:24、2001
【非特許文献3】DeNoon Dら、WebMD Medical News、October 29、2002
【非特許文献4】Fisher RS、Parkman HP、New Engl J Med 1998;339:1376-1381
【非特許文献5】Locke GR、Mayo Clin Proc 1999;74:1011-15
【非特許文献6】Freidman LS、New Engl J Med 1998;339:1928-30
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のまとめ
式(I)の化合物は、IBS又はNUDの症状を予防又は緩和できる。従って、IBS又はNUDの治療方法は、有効量の少なくとも1の式(I)の化合物又はその医薬的に適用可能な塩を、これら治療を必要とする患者へ投与することを含む。式(I)は下記の通りである。
【化2】

但し:Aは下記基から選ばれる架橋基であり:−(CH−、−CH=CH−、−(CH−O−、−(CH−S−、−(CH−SO−、−(CH−NR−及び−SO−NR−:但し、mは1〜3の整数(限界値を含む)であり;pは1及び2から選ばれる整数であり;Rは水素及びC−Cアルキルの群から選ばれ;並びにRはC−Cアルキルであり;
X及びYは独立して水素及びハロゲンの群から選ばれ;
R及びR’は独立して水素及びC−Cアルキルの群から選ばれ;
nは1〜12の整数(限界値を含む)であり、好ましくは2〜10(限界値を含む)、更に好ましくは4〜8(限界値を含む);並びに
*は不斉炭素を示し、
【化3】

で表される結合は、不斉炭素へ結合する4個の基全てが非同一の場合のみ、不斉炭素に関する絶対配置が(R)又は(S)のいずれかであることを示す。
【0012】
本発明の好ましい一例では、Aは、好ましくは−SO−NR−であり、及び/又はR及びR’は水素である。
本発明は又、IBS又はNUDの治療用医薬品製造のための式(I)の化合物若しくはその医薬的に適用可能な塩の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
定義
用語「アルキル」は、それ自身又は別の置換基の一部として、直鎖状、分岐状又は環状鎖炭化水素基を意味し、表示された炭素原子数(即ちC−Cは1〜5炭素原子を意味する。)を有する二価又は多価基が挙げられる。アルキル基として直鎖状鎖、分岐状鎖又は環状基が挙げられ、直鎖状基が好ましい。例えば:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチルが挙げられる。
用語「ハロゲン」はヨウ素、フッ素、塩素及び臭素原子を意味する。好ましいハロゲンは、フッ素、塩素及び臭素原子である。
【0014】
ここで使用される「光学活性」は、物質が平面偏光面を回転させるような性質を意味する。光学活性な化合物は、その鏡像とは重ならない。ここで使用されるように、対象物のその鏡像とは重ならない性質を、キラリティと言う。キラリティを生成する最も一般的な構造的形態は、不斉炭素原子、即ちそこへ結合した4個の互いに異なる基を有する炭素原子である。
ここで使用される「エナンチオマー」は、光学活性である純粋な化合物の2種の重ならないそれぞれの異性体を意味する。単一のエナンチオマーは、不斉炭素へ結合している4個の基の優先順位を決定する公知の規則であるCahn−Ingold−Prelogシステムに従って表される。March、Advanced Organic Chemistry、4th Ed.、(1992)、p.109をここで資料として使用する。分子の不斉炭素へ結合している4個の基の優先順位が決定されたら、分子は観察者から最も低い優先順位の基が観察者から離れるように(紙面の裏側を向くように)配置される。残りの基の優先順位の下がる順番が時計回りになる場合、分子は(R)で表示される。残りの基の優先順位の下がる順番が反時計回りになる場合、分子は(S)で表示される。下記例では、Cahn−Ingold−Prelog優先順位はA>B>C>Dである。最も低い順位の原子Dは、観察者から離れて配置される。
【0015】
【化4】

【0016】
本発明で使用される「ラセミ体」又は「ラセミ化合物」は、混合物が平面偏光を回転させないような、2種のエナンチオマーの50/50混合物を言う。
「(S)−エナンチオマーから実質的にフリーな(R)−エナンチオマー」とは、80重量%以上の(R)エナンチオマーを含有し、同時に20%以下の(S)エナンチオマーを不純物として含有する化合物を意味する。
「(R)−エナンチオマーから実質的にフリーな(S)−エナンチオマー」とは、80重量%以上の(S)エナンチオマーを含有し、同時に20%以下の(R)エナンチオマーを不純物として含有する化合物を意味する。
【0017】
本発明の詳細な説明
式(I)の化合物は、容易に当業者により調製できる。適切な合成的方法は例えば、Malenらの米国特許第4766114号、3758528号及び3821249号、Blanchardらの米国特許第6441165号に記載されており、それらの全ての開示を資料として使用する。
チアネプチン(下式(II)、参照)等の所定の式(I)の化合物は、不斉炭素を有する。不斉炭素の位置は式(I)中のアスタリスク(*)により示される;この炭素により非対称となるためには、その炭素に結合しているそれぞれの4個の基は非同一でなくてはならない。当業者は、式(I)の化合物が不斉炭素を有することを容易に決定できる。
【0018】
この不斉炭素を有するこれら式(I)の化合物は、(R)及び(S)エナンチオマーの両方として存在できる。例えば、所定の式(I)の化合物の(R)及び(S)エナンチオマーは、ラセミ体として存在する。本発明の実施において、式(I)の化合物のラセミ体及び個々の(R)又は(S)エナンチオマーの両方共、IBS又はNUDの治療用に使用できる。本発明の一例では、式(I)の化合物の(R)−エナンチオマーは対応する(S)−エナンチオマーから実質的にフリーであり、式(I)の化合物の(S)−エナンチオマーは対応する(R)−エナンチオマーから実質的にフリーであり、いずれもIBS又はNUDの治療用に使用できる。
【0019】
式(I)の化合物の個々の(R)−及び(S)−エナンチオマーを単離するために、この化合物のラセミ体は分割される必要がある。この分割は式(I)のラセミ性化合物を一対のジアテレオマーへ転換することにより達成でき、例えば光学活性成分への共有結合によるか、光学活性塩基又は酸を使用した塩形成による。いずれの方法も第二のキラル中心を有する分子を提供し、その結果一対のジアテレオマーを形成する。そしてジアテレオマー対は、次に結晶化又はクロマトグラフィー等の従来法により分割できる。
例えば、式(I)のラセミ化合物は、SS及びRS配置のジアステレオマー性混合物である(S)−ジベンゾイル酒石酸塩へ転換できる。1対のジアステレオマー(R,S)及び(S、S)は、異なる物性(例えば、異なる溶解性)を有し、従来の分割方法の使用が可能となる。適切な溶媒からのジアステレオマー性塩のフラクショナル結晶化は、このような分割方法の一つである。
【0020】
式(I)のラセミ性化合物は、例えばクロマトグラフィー(例えば、HPLC)カラムのキラル固定化相上への識別的吸収により、ジアテレオマー形成なしにエナンチオマーへ分離できる。広い範囲の分離応用に適した種々の充填材料を備えたジアテレオマー分離に適切な分取用HPLCカラムが、市場で入手可能である。式(I)のラセミ性化合物の分割に適切な固定化相の例として下記が挙げられる:
(i)3個のポケット又は空孔を囲む18個のキラル中心を含有するシリカ−結合したバンコマイシン等の大環状グリコペプチド;
(ii)キラルα−酸糖蛋白質;
(iii)ヒト血清アルブミン;及び
(iv)セロビオヒドロラーゼ(CBH)。
【0021】
キラルα−酸糖蛋白質は、球状シリカ粒子上に固定化された非常に安定した蛋白質であり、高濃度の有機溶媒、高pH又は低pH、及び高温に耐える。ヒト血清アルブミンは、弱酸及び強酸、両性イオン性及び非プロトン性化合物の分割に特に適しているが、塩基性(basic)化合物を光学分割するためにも使用される。CBHは非常に安定した酵素であり、通常球状シリカ粒子上に固定化されており、多くの化合物種からの塩基性薬のエナンチオマーの分割に好ましく使用されている。
【0022】
式(I)のラセミ性化合物の分割に適切な他のクロマトグラフィー性技術として、米国特許第6080736号に記載された大環状グリコペプチドを「キロバイオティックV」(登録商標)カラム(ASTEAC、Whippany、NJ)上の固定化相として使用したキラルクロマトグラフィーが挙げられ(それらの全ての開示を資料として使用する)、Fitosら、J.Chromatogr.、1995、709:265に記載された、キラルα−酸グリコプロテインを「キラル−AGP」(登録商標)カラム(ChromTech、Cheshire、UK)上の固定化相として使用したキラルクロマトグラフィーが挙げられる(それらの全ての開示を資料として使用する)。
【0023】
本発明の方法に使用できる好ましい式(I)の化合物は、チアネプチン又はそれらの医薬的に適用可能な塩である。チアネプチンの構造は、式(II)に示される:
【化5】

但し:*は不斉炭素を示し、
【化6】

で表される結合は、不斉炭素に関する絶対配置が(R)又は(S)のいずれかであることを示す。
チアネプチンは、例えば上記記載の合成的技術により容易に当業者により得られる。チアネプチンは又、スタブロン(商標)として市販されている。
チアネプチンの(R)又は(S)エナンチオマーは、例えば上記技術により単離出来る。従って、本発明で好ましくは、対応する(S)−エナンチオマーから実質的にフリーなチアネプチンの(R)−エナンチオマー又は、対応する(R)−エナンチオマーから実質的にフリーなチアネプチンの(S)−エナンチオマーが、本発明の方法で使用される。
【0024】
本発明の実施で、上記式(I)の化合物は、医薬的に適用可能な塩の形を有することができる。用語「塩」とは、通常アルカリ金属塩を形成するか遊離酸又は遊離塩基の付加塩を形成するために使用される塩を含む。
例えば、医薬的に適用可能な酸付加塩は、無機酸又は有機酸から調製できる。適切な無機酸として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸及びリン酸が挙げられる。適切な有機酸は、脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族、芳香脂肪族(araliphatic)、複素環状、カルボン酸及び有機酸のスルホン酸の種から選ばれ、それらの例としてギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、サリチル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、embonic(パモ)酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸(algenic)、β−ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸及びガラクツロン酸が挙げられる。
【0025】
適切な医薬的に適用可能な式(I)の化合物の塩基付加塩として、例えばカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛から構成される金属塩、又は、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)及びプロカインから構成される有機的塩が挙げられる。これら塩の全ては、例えば、適切な酸又は塩基を式(I)の化合物と反応させることにより、従来法により対応する式(I)の化合物から調製できる。
【0026】
式(I)の化合物、特にチアネプチンは、いずれかの障害を有すると診断された患者のIBS又はNUDを治療するために使用できる。ここで使用される「患者」は、ヒト及び非ヒトほ乳類をいう。非ヒトほ乳類として、ウシ、羊、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、及びげっ歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット及びウサギ)が挙げられる。好ましくは、患者はヒトである。
【0027】
IBSの診断は当分野で通常行われている。例えば、IBSは変形「Rome診断基準」を基礎にして診断できる。変形Rome診断基準は下記の通りである:
(A)12月前からの少なくとも12週間(継続的である必要はない)の構造的又は生化学的異常性としては説明できない腹部不快感又は痛みの存在;並びに
(B)下記三症状の内少なくとも2つの症状:(1)排便で軽減される痛み;(2)それが発現するとき便通頻度の変化(下痢又は便秘)を伴う痛み;及び、それが発現するとき大便形状の変化(軟便、水様性、又は糞粒)を伴う痛み。
【0028】
NUDの診断も、又当分野で通常行われている。例えば、NUDの診断基準として、3月間を超える期間の、明らかな器官的要因のない慢性又は再発性上部腹部痛又は不快感の存在が挙げられる。これら症状は、時間の25パーセント以上で発現する。鼓張、吐き気、早期満腹感、おくび及び胸焼けも又存在する場合がある。Fisher RS、Parkman HP、New Engl J Med 1998;339:1376-1381及びLocke GR、Mayo Clin Proc 1999;74:1011-15を参照し、それらの全ての開示を資料として使用する。NUDは、患者の訴える腹部痛が異常な腸挙動を伴うか否かを決定することによりIBSと区別される。この挙動を伴う場合、病状はNUDではなくIBSであると診断される。Freidman LS、New Engl J Med 1998;339:1928-30を参照し、それらの全ての開示を資料として使用する。
【0029】
本発明の実施で、IBS又はNUDは、有効量の少なくとも1の式(I)の化合物をこれら治療を必要とする患者へIBS又はNUDの症状を軽減するように投与されて治療される。
ここで使用される、IBS治療に使用される式(I)の化合物の「有効量」とは、IBSの1以上の症状を予防又は緩和する化合物の量をいう。臨床医は、IBSの症状が予防又は緩和される時を、例えば治療コース中の、患者の臨床的観察を通して、又は患者の訴える症状を通して容易に決定できる。同様に、NUD治療に使用される式(I)の化合物の「有効量」とは、NUDの症状を予防又は緩和する化合物の量をいう。同様に、臨床医は、NUDの症状が予防又は緩和される時を、例えば治療コース中の、患者の臨床的観察を通して、又は患者の訴える症状を通して容易に決定できる。
【0030】
当業者は、投与する式(I)の化合物の有効量を、患者の体格、体重、年齢及び性別、病気の進出又は持続性及び症状の重篤度の範囲、並びに投与経路等の因子を考慮して容易に決定できる。一般的に、患者へ投与される式(I)の化合物の有効量は、約2〜約100mg/kg/day、好ましくは約5〜約60mg/kg/day、更に好ましくは約30mg/kg/dayである。より多い又は少ない投与量も又本発明の範囲内である。
【0031】
式(I)の化合物は、例えば経腸(例えば、経口、直腸投与、鼻腔内、等)及び非経口(腸管外)投与のいずれかの経路により患者へ投与できる。非経口投与として、例えば静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、膣内、膀胱腔内(例えば膀胱中)、皮内、局所的又は皮下投与が挙げられる。同様に本発明の範囲内と考えられるのは、例えばその時間中又はその後に化合物の全身的又は局部的放出を起こすように放出制御した配合組成で、式(I)の化合物を患者の体内へ注入することである。好ましくは、式(I)の化合物はデポ中に局在化され、循環系へ又は胃腸管等の局部的部位へ制御放出がなされてもよい。
【0032】
本発明の方法の実施では、式(I)の化合物は、少なくとも1の式(I)の化合物及び医薬的に適用可能なキャリアを含む医薬組成物の形で投与してもよい。本発明の医薬的配合には、少なくとも1の式(I)の化合物が0.1〜99.99重量%含まれてもよい。本発明の医薬的組成物は、医薬製造分野の標準的手法に従って配合調製できる。Alphonso Gennaro編、Remington's Pharmaceutical Sciences、18thEd.、(1990)Mack Publishing Co.、Easton、PA参照。適切な剤形として、例えば錠剤、カプセル、溶液、輸液、トローチ、座薬又は懸濁液が挙げられる。
「医薬的に適用可能なキャリア」とは、他の配合成分と親和性があり、レシピエントに有毒でない、希釈剤又は賦形剤を意味する。医薬的に適用可能なキャリアは、標準的医薬的手法に従い、目的とする投与経路に応じて選択できる。
【0033】
本発明の非経口投与用組成物は、水溶液又は非水溶液、分散体、懸濁液又はエマルジョンの形状をとることができる。本発明の非経口投与用の医薬的組成物の調製において、少なくとも1の式(I)の化合物は、水、油(好ましくは植物油)、エタノール、生理食塩水(例えば、正常生理食塩水)、デキストロース(グルコース)水溶液及び関連する糖質輸液剤、グリセロール、又はプロピレングリコール又はポリエチレングリコール等のグリコール等の適切な医薬的に適用可能なキャリアと混合することができる。本発明の非経口投与用の医薬的組成物は、好ましくは少なくとも1の式(I)の化合物の水溶性塩を含有する。安定化剤、抗酸化剤及び保存剤も又、非経口投与用の医薬的組成物へ添加できる。適切な抗酸化剤として、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸及びその塩、並びにナトリウムEDTAが挙げられる。適切な保存剤として、塩化ベンズアルコニウム、メチル−又はプロピル−パラベン、及びクロロブタノールが挙げられる。
【0034】
本発明の経口投与用の医薬的組成物の調製において、少なくとも1の式(I)の化合物は、1以上の固体又は液体不活性成分と組み合わせて、錠剤、カプセル、丸剤、粉剤、顆粒剤又は他の適切な経口剤形を形成してもよい。例えば、少なくとも1の式(I)の化合物は、溶媒、充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収強化剤、加湿剤吸着剤又は潤滑剤等の少なくとも1の医薬的に適用可能なキャリアと組み合わせることができる。例えば、少なくとも1の式(I)の化合物はカルシウムカルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール及びスターチと組み合わされ、次に従来の錠剤製造法により錠剤へ形成される。好ましくは、チアネプチンは、セルロース及びカルシウム塩を含有する錠剤として配合でき、これらは米国特許第5888542号に記載されており、それらの全ての開示を資料として使用する。
【0035】
本発明の医薬的組成物は又、患者へ組成物を投与する時に少なくとも1の式(I)の化合物の制御放出を達成するために配合できる。好ましくは、本発明の制御放出医薬的組成物は、少なくとも1の式(I)の化合物を患者中へ目的の速度割合で放出して、所定期間内で実質的に一定の薬理学的活性を保持することができる。
本発明の制御放出医薬的組成物の配合は、当分野で通常行われている。本発明での使用に適した制御放出配合は、例えば、米国特許第5674533号(液体剤形)、5059595号(耐胃液錠剤)、5591767号(液体貯蔵経皮性パッチ)、5120548号(膨潤可能ポリマーを含む装置)、5073543号(ガングリオシド−リポソーム賦形剤)、5639476号(疎水性アクリル系ポリマーで被膜された安定した固体配合)に記載され、それらの全ての開示を資料として使用する。
【0036】
生物分解性マイクロ粒子も又、本発明の使用に適切な制御放出医薬的組成物を配合するために使用できることが、例えば米国特許第5354566及び5733566号に記載されており、それらの全ての開示を資料として使用する。
例えば、本発明の制御放出医薬的組成物は、少なくとも1の式(I)の化合物及び制御放出成分を含有する。ここで使用される「制御放出成分」は、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、リポソーム及び/又はミクロスフェア等の化合物であり、所定の生理学的化合物又は環境に曝された場合に患者への式(I)の化合物の制御放出を促進するものを意味する。例えば、制御放出成分は生物分解性であり、所定のpH若しくは温度へ曝され、水性環境へ曝され、又は酵素へ曝されることにより活性化される。所定の温度へ曝されて活性化される制御放出成分の例として、ゾル−ゲルが挙げられる。この場合、少なくとも1の式(I)の化合物が、室温で固体のゾル−ゲルマトリックス中へ組み込まれる。このゾル−ゲルマトリックスは、ゾル−ゲルマトリックスのゲル形成を誘起するために充分高い体温を有する患者の体内に埋め込まれ、その結果患者内へ活性成分を放出する。
【実施例】
【0037】
本発明の実施を下記に具体的に示すが本発明を限定するものではない。
実施例1:マウスの結腸部ぜん動研究
本発明の研究で使用されたモデルでは、IBSで発生する腸内容物排出(ぜん動)の変容の治療に使用できる医薬品を予測できる。このモデルは、ぜん動運動活性への阻害的効果を発生する試験化合物には感受性があるが、結腸部ぜん動運動性を増加する試験化合物には感受性がない。従って、このモデルは、マウス結腸を通過するガラスビーズの移動を測定することにより結腸部ぜん動の直接的指標を提供する。ガラスビーズが排出される速度を遅延させる試験化合物は、IBSの治療に使用できると予測される。
本発明の研究で使用されたモデルは又、便秘を引き起こす試験化合物が止瀉薬活性を有するか、選択的な内臓抗侵害的活性を有するかを評価できる。従って、このモデルは、IBSと同様NUDの治療用試験化合物の評価にも有用である。
【0038】
本発明の研究用に、メス48頭、6週齢スイスウェブスターマウス(18〜30g)を下記試験群に分けた。3個の治療群は、それぞれ、10mg/kgチアネプチン(n=9)、30mg/kgチアネプチン(n=10)、及び60mg/kgチアネプチン(n=9)を摂取した;1のコントロール群は10mg/kgの止瀉薬ロペラミド(n=9)を摂取した;そして1のコントロール群は賦形剤(vehicle)(n=10)のみを摂取した。それぞれの動物は、チアネプチン、ロペラミド又は賦形剤のいずれかを経口で、適切に投与された。
投与30分後、3mmガラスビーズをガラス棒を使用してそれぞれの動物の肛門から遠位結腸中へ深さ2cmで挿入した。動物のビーズ排出を観察し、排出時間を記録した。ビーズ挿入後60分の締め切り時間内にビーズを排出しなかった動物を犠牲にし、結腸管腔内のビーズ位置を確認した。それぞれの群の排出時間について平均及び平均の標準誤差(SEM)を算出した。結果を下記表1にまとめた。
【0039】
又、投与後60〜90分間隔で動物の全体毒性及び/又は行動変化の徴候を観察した。これら観察は、皮膚及び毛皮、目及び粘膜、呼吸系、循環系、自律神経系及び中枢神経系、身体性運動活性並びに行動パターンの全体評価を含む。震え、けいれん、唾液分泌、下痢、睡眠及び昏睡の観察を特に注意した。全体的な毒性又は行動変化の徴候はいずれも観察されなかった。
【0040】
【表1】

【0041】
上記結果は、チアネプチンは投薬に関連した結腸部ぜん動の抑制を生じることを示す。30mg/kgチアネプチン投与は、効果において10mg/kgロペラミド投与と等価であった。従って、式(I)の化合物、特にチアネプチンは、IBS及びNUDの治療に有用である。
【0042】
上記全ての文献資料の開示を資料として使用する。本発明は、本発明の範囲内において他の特定の態様でも表され、本発明の範囲内で上記文献資料は従属項、明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過敏性大腸症候群又は神経性胃炎の治療用医薬品製造のための、式(I)の化合物又はその医薬的に適用可能な塩の使用;
【化1】

・・(I)
但し:Aは下記基から選ばれる架橋基であり:−(CH2m−、−CH=CH−、−(CH2p−O−、−(CH2p−S−、−(CH2p−SO2−、−(CH2p−NR1−及び−SO2−NR2−:但し、mは1〜3の整数(限界値を含む)であり;pは1及び2から選ばれる整数であり;R1は水素及びC1−C5アルキルの群から選ばれ;並びにR2はC1−C5アルキルであり;
X及びYは独立して水素及びハロゲンの群から選ばれ;
R及びR’は独立して水素及びC1−C5アルキルの群から選ばれ;
nは1〜12の整数(限界値を含む)であり;並びに
*は不斉炭素を示し、
【化2】

で表される結合は不斉炭素へ結合する4個の基全てが非同一の場合のみ、不斉炭素に関する絶対配置が(R)又は(S)のいずれかであることを示す。
【請求項2】
上記Aは−SO2−NR2−である請求項1の化合物の使用。
【請求項3】
上記R及びR’は水素である請求項2の化合物の使用。
【請求項4】
式(I)の化合物はチアネプチン又はそれらの医薬的に適用可能な塩である請求項3の化合物の使用。
【請求項5】
上記化合物は対応する(S)−エナンチオマーから実質的にフリーな(R)−チアネプチンである請求項4の化合物の使用。
【請求項6】
上記化合物は対応する(R)−エナンチオマーから実質的にフリーな(S)−チアネプチンである請求項4の化合物の使用。
【請求項7】
過敏性大腸症候群の治療用医薬品製造のための請求項1〜6いずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項8】
神経性胃炎の治療用医薬品製造のための請求項1〜6いずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項9】
治療を必要とする患者の過敏性大腸症候群又は神経性胃炎の治療方法であり、患者への少なくとも1の式(I)の化合物又はその医薬的に適用可能な塩の有効量投与を含む方法:
【化3】

但し:Aは下記基から選ばれる架橋基であり:−(CH2m−、−CH=CH−、−(CH2p−O−、−(CH2p−S−、−(CH2p−SO2−、−(CH2p−NR1−及び−SO2−NR2−:但し、mは1〜3の整数(限界値を含む)であり;pは1及び2から選ばれる整数であり;R1は水素及びC1−C5アルキルの群から選ばれ;並びにR2はC1−C5アルキルであり;
X及びYは独立して水素及びハロゲンの群から選ばれ;
R及びR’は独立して水素及びC1−C5アルキルの群から選ばれ;
nは1〜12の整数(限界値を含む)であり;並びに
*は不斉炭素を示し、
【化4】

で表される結合は不斉炭素へ結合する4個の基全てが非同一の場合のみ、不斉炭素に関する絶対配置が(R)又は(S)のいずれかであることを示す。
【請求項10】
上記Aは−SO2−NR2−である請求項9の方法。
【請求項11】
上記R及びR’は水素である請求項10の方法。
【請求項12】
式(I)の化合物はチアネプチン又はその医薬的に適用可能な塩である請求項11の方法。
【請求項13】
上記化合物は対応する(S)−エナンチオマーから実質的にフリーな(R)−チアネプチン、又はその医薬的に適用可能な塩である請求項12の方法。
【請求項14】
上記化合物は対応する(R)−エナンチオマーから実質的にフリーな(S)−チアネプチン、又はその医薬的に適用可能な塩である請求項12の方法。
【請求項15】
上記患者はヒトである請求項9〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
上記患者へ投与される少なくとも1の式(I)の化合物の有効量は約2〜約100mg/kg/dayである請求項9〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項17】
上記患者へ投与される少なくとも1の式(I)の化合物の有効量は約5〜約60mg/kg/dayである請求項16の方法。
【請求項18】
上記患者へ投与される少なくとも1の式(I)の化合物の有効量は約30mg/kg/dayである請求項17の方法。
【請求項19】
少なくとも1の式(I)の化合物は経腸投与経路で投与される請求項9〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1の式(I)の化合物は非経口投与経路で投与される請求項9〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項21】
上記非経口投与経路は、患者の体内への、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、膣内、膀胱腔内、皮内、局所的、皮下又は皮下での投与群から選ばれる請求項20の方法。
【請求項22】
少なくとも1の式(I)の化合物は医薬的組成物として患者へ投与される請求項9〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項23】
上記医薬的組成物は放出制御医薬的組成物を含有する請求項22の方法。
【請求項24】
過敏性大腸症候群が治療される請求項9〜14いずれか1項記載の方法。
【請求項25】
神経性胃炎症候群が治療される請求項9〜14いずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2006−516643(P2006−516643A)
【公表日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503254(P2006−503254)
【出願日】平成16年2月2日(2004.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/002931
【国際公開番号】WO2004/069188
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505205384)ヴェラ ファーマスーティカルズ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】