説明

過敏症治療

【課題】喘息を含む過敏症反応に関係した障害を治療または予防するための組成物および方法の提供
【解決手段】過敏症反応の患者に投与される組成物は、免疫抑制剤とともに有効量のシャペロニン10を含み、該シャペロニン10はToll様受容体からのシグナル伝達を調節する真核生物由来のものである組成物である。該免疫抑制剤は抗炎症性化合物および気管支拡張性化合物を含む群より選ばれ、好ましくはBまたはTリンパ球に対し特異的な抗体である。さらに過敏症を抑制して治療し、または予防する方法として、該組成物の有効量を投与することを含む方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療上有効量の真核生物シャペロニン10(Cpn10)を投与することによる過敏
症の治療に関し、特に本発明は、喘息を含めた過敏症に伴うアレルギー状態の治療のための、真核生物Cpn10の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
個人の特定の抗原もしくは抗原の組み合わせへの感作は、次回の曝露では、すぐに激しいアレルギー反応を起こし、有害になり得るし致死的にさえなり得る。適応性の免疫反応が過大なもしくは不適切な形で起こった時、その反応を経験している個人は過敏であるといわれる。
【0003】
過敏症反応は不適切に作用する免疫応答の結果であり、多くの抗原により誘発され得る。過敏症の一つの形態は、花粉またはホコリダニのような無害な環境抗原に対してIgE応
答が向けられた時に起こる。その結果としてIgEに感作したマスト細胞による薬理学的メ
ディエーターの放出により、喘息や鼻炎のような症状を伴う急性炎症反応が起こる。
【0004】
本発明は、真核生物のCpn10が喘息を含めた過敏症反応を抑制することができるという
驚くべき発見を反映している。
【発明の開示】
【0005】
要約
本発明の第一の側面からは、患者の過敏症反応を抑制する方法であって、有効量の真核生物のシャペロニン10を投与することを含む方法が提供される。
【0006】
本発明の第二の側面からは、患者の過敏症反応に結びついた障害を治療または予防する方法であって、その患者に有効量の真核生物のシャペロニン10を投与することを含み、該シャペロニン10はToll様(Toll-like)受容体からのシグナル伝達を調節する方法が提供さ
れる。
【0007】
本発明の第三の側面からは、患者の過敏症反応に結びついた障害を治療または予防するための組成物であって、少なくとも一つの併用治療と併せ、有効量の真核生物のシャペロニン10を含む組成物が提供される。
【0008】
本発明の第四の側面からは、患者の過敏症反応に結びついた障害を治療または予防する方法であって、発明の第三の側面の組成物の有効量を投与することを含む方法が提供される。
【0009】
過敏症反応は好塩基球、好酸球、マスト細胞、好中球およびリンパ球の活性化を伴うことがあり、Toll様受容体(TLR)のシグナル伝達の活性化を含むこともある。過敏症反応は
、高レベルの好酸球およびイムノグロブリンEを反映するかも知れない。
【0010】
過敏症反応の一例として炎症性反応がある。より具体的には、過敏症反応の例として、食物アレルギー、皮膚炎、アレルギー性結膜炎、鼻炎、湿疹、アナフィラキシーおよび気道炎症に関わる呼吸器疾患が挙げられる。これらの呼吸器疾患の例として、アレルギー性喘息、内因性喘息および職業喘息のような喘息が挙げられる。
【0011】
TLRの活性化は、ARDS(急性呼吸困難症候群)から喘息およびCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に
までわたる炎症性肺疾患の病因論において重要な役割を果たす。Toll様受容体は、TLR1,TLR2,TLR3,TLR4,TLR5,TLR6,TLR7,TLR8,TLR9およびTLR10を含む群より選ばれよう。
【0012】
真核生物のシャペロニン10は、天然由来、組換えにより産生され、あるいは合成により産生されたシャペロニン10であってもよい。真核生物のシャペロニン10は哺乳動物起源であってもよい。シャペロニン10はヒトシャペロニン10であってもよい。
【0013】
シャペロニン10は、配列ID番号1,2,3,4,7,9,11,13,15または17で示されるポリペプチド配列を含んでもよい。シャペロニン10はアセチル化されていてもいなくてもよい。シャペロニン10は、タンパク質折り畳み(folding)活性を欠損し、または実質的に欠損してい
てもよい。
【0014】
真核生物のシャペロニン10は、シャペロニン10をコードするポリヌクレオチドの形で投与されてもよい。シャペロニン10をコードするポリヌクレオチドは、プロモーターに作動可能に結合した状態で遺伝子構築物中に存在してもよい。
【0015】
真核生物のシャペロニン10は、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18で示される配列
を含み得るポリヌクレオチドによりコードされてもよい。
前記方法はさらに少なくとも一つの追加的な薬剤を投与することを含んでもよい。その薬剤は免疫調節剤であってもよい。該免疫調節剤はIFNαまたはIFNβのようなI型インタ
ーフェロンであってもよい。
【0016】
前記の併用治療は、抗炎症性化合物、気管支拡張性化合物または免疫抑制剤、またはこれらの組み合わせのような薬剤の投与を含んでもよい。
上記免疫抑制剤は、免疫抑制薬、あるいはBリンパ球もしくはTリンパ球に対する特異的抗体、サイトカイン、たとえばIL-3, IL-5, IL-13, GM-CSFに対する抗体、またはIgEおよびFcイプシロン受容体を含め、それらの活性化を仲介する表面受容体に対する抗体であってもよい。
【0017】
前記免疫抑制薬はクロモグリク酸塩(chromoglycalates)、テオフィリン、ロイコトリエンアンタゴニスト、抗ヒスタミン剤またはこれらの組み合わせであってもよい。
第三の側面の組成物は、さらに副腎皮質ステロイドを含んでもよい。
【0018】
上記の諸側面および実施態様は、完完全長のシャペロニン10ポリペプチドおよび免疫調節活性を保持したその断片もしくはその誘導体だけでなく、野生型および修飾型の形態の真核生物のシャペロニン10、哺乳類のシャペロニン10、たとえばヒトシャペロニン10を含めた真核生物のシャペロニン10の使用を意図している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
定義
本明細書において、「含む(comprising)」という用語は「主に含むが、必ずしもそれだけではない」ということを意味する。さらに、その単語「含む(comprising)」の変化形態、たとえば「含む(comprise)」および「含む(comprises)」は、対応して変化し
た意味を有する。
【0020】
本明細書で使用される「治療(treatment)」、「治療すること(treating)」という
用語およびその変化形は、どんなものであれ、疾患の状態または症状を治療し、疾患の成立を予防し、あるいはその他何らかの方法で疾患または他の望ましくない症状の進行を予防し、妨害し、遅延させ、または逆転させるもののいずれかまたはすべての使用を指す。
【0021】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、その意味の中に、薬剤もしくは化合物の、毒性はない量であるが所望の治療的もしくは予防的な効果を発揮するのに十分な量ということを含む。必要とされる正確な量は、治療を受ける人種、患者の年齢および一般的な状態、治療を受ける症状の重篤度、投与される具体的な薬剤および投与様式などの要因に依存して、患者によって変わるであろう。したがって、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかしながらいずれの場合であっても適切な「有効量」は、当業者が通常の試みだけを行うことによって決定され得るものである。
【0022】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって互いに結合したアミノ酸からなるポリマーを意味する。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本発明の目的からいえば「ポリペプチド」は完全長のタンパク質の一部を構成するかもしれないが、本明細書においては互いに交換可能なように使用される。
【0023】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドのベース、または公知のアナログもしくは天然のヌクレオチド、またはそれらの混合物の一本鎖もしくは二本鎖ポリマーを指す。
【0024】
本明細書で使用される「調節する(modulating)」および「調節する(modulates)」
という用語およびその変化形は、調節性の分子もしくは薬剤の存在しない場合の分子の活性、産生、分泌もしくは他の機能発現のレベルに比べて、本発明の特定の調節分子もしくは調節薬剤が存在する場合に、分子の活性、産生、分泌もしくは機能発現のレベルが増加もしくは減少することを言及する。これらの用語は増加または減少の量を示すのではない。調節は所望する結果を生むのであればどのような規模でもよく、また直接的でも間接的でもよい。
【0025】
本明細書で使用される「免疫調節剤」という用語は、1種以上の細胞により分泌され、免疫応答の活性化、維持、成熟、阻害、抑制もしくは増強において役割を果たす分子メディエーターを指す。
好ましい態様の詳細な説明
過敏症反応は不適切に作用する免疫応答の結果であり、多くの抗原により誘発され得る。過敏症の一つの形態は、花粉やホコリダニのような無害な環境抗原に対してIgE応答が
向けられた時に起こる。その結果起こるIgEに感作したマスト細胞による薬理学メディエ
ーターの放出により、喘息や鼻炎のような症状を伴う急性炎症反応が起きる。
【0026】
気道炎症は喘息発症の中核をなし、好酸球、マスト細胞、好中球およびリンパ球の肺組織及び気管支肺胞空間への集中および活性化を伴う(Busseら, 2001)。チリダニ抗原はヒ
トにアレルギー性喘息を起こす最も一般的なアレルゲンであり、感作した個人は特異的なIgE およびIgG体液性応答を起こすことが示されている(Roche ら 1997)。喘息の適切な動物モデルは、ヒトの疾患に対して直接の関連性をもって行われる、明確で統制された検討を可能とするであろう。
【0027】
本発明はヒツジの喘息モデルにおいて、Cpn10の調節効果を評価することで例証される
。しかしながら、その概念は他のタイプの過敏症反応障害にも適用可能であると認識されるであろう。
【0028】
以前のヒツジの喘息モデルは、線形動物(nematodeアスカリス属)アレルゲンに感作した動物と、有望な抗喘息薬の生理学的及び薬学的効果の評価へ外挿される結果とに基づいている。チリダニをアレルゲンとして使用し、ヒトのアレルギー疾患に直接の関連性を有する、ヒツジのアレルギー性肺炎症モデルが近年確立された。このモデルにおいて、感作したヒツジはアレルゲン特異的IgE応答を起こし、好中球、好酸球および活性化リンパ球が
肺組織およびBALに、HDMアレルゲンに曝露したヒトに類似した作動様式で集中する(Bischofら 2003)。
【0029】
本発明は患者の過敏症反応を抑制する方法であって、有効量の真核生物のシャペロニン10を投与することを含む方法を提供する。
Cpn10
本発明の諸局面および実施態様によれば、治療を必要とする患者は、有効量の、真核生物、たとえばヒトの、熱ショックタンパク質10kDa (Hsp10)としても知られているCpn10を投与される。例えば、治療を受ける患者がヒトであり、したがってCpn10ポリペプチドが
ヒトCpn10ポリペプチドである。当業者は、本発明に使用されるCpn10の正確な同一性は、様々な要因、たとえば治療される人種によって変わり、よって該Cpn10は治療を受ける人
種に由来するように選択されてもよいと理解するだろう。
【0030】
典型的には、Cpn10は組換えCpn10である。Mortonら, 2000 (Immunol Cell Biol 78:603-607), Ryanら, 1995 (J Biol Chem 270:22037-22043)およびJohnsonら, 2005 (J Biol Chem 280:4037-4047)に記載された方法は、組換えCpn10タンパク質の好適な製造方法の諸
例であるが、精通した読者は、本発明は使用される精製方法および製造方法に限定されず、他のあらゆる方法も本発明の方法及び組成物に使用するCpn10の製造に使用され得ると
認識するであろう。
【0031】
本発明に従って使用される、真核生物のCpn10ポリペプチドおよびペプチド断片は、標
準的な組換え核酸技術により得てもよく、あるいは、例えば従来の液相合成もしくは固相合成の技術を用いて合成されてもよい。Cpn10ペプチドは、endoLys-C, endoArg-C, endoGlu-Cおよびブドウ球菌V8プロテアーゼのようなタンパク質分解酵素の一種類以上を用いて、ポリペプチドを消化することにより製造されてもよい。消化されたペプチド断片は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術により精製することができる。
【0032】
また、本発明の実施態様は真核生物のCpn10をコードするポリヌクレオチドの投与も意
図している。そのような状況では、前記ポリヌクレオチドは典型的には、患者にポリヌクレオチドが投与された後に適切なポリペプチド配列が産生されるように、プロモーターに作動可能に連結される。前記ポリヌクレオチドは患者にベクターの形で投与されてもよい。該ベクターはプラスミドベクターでも、ウイルスベクターでも、あるいは他の適切な担体であってもよい。いずれも外来配列の挿入、真核細胞へのその導入及び導入された配列の発現に適応したものである。典型的には、前記ベクターは真核細胞発現ベクターであり、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナルおよび転写終結配列のような発現制御およびプロセッシング配列を含んでいてもよい。投与される核酸構築物は裸のDNAを含んでもよく、一つ以上の製薬学的に受容可能なキャリアを一緒
に含む組成物の形であってもよい。
【0033】
真核生物のCpn10ポリペプチドは、配列ID番号1,2,3,4,7,9,11,13,15または17に示され
るアミノ酸配列を有していてもよい。Cpn10をコードするポリヌクレオチドの核酸配列は
、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18に示される配列であってもよく、あるいはそれ
らと十分な配列同一性を示し、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18の配列とハイブリ
ダイズするものであってもよい。もう一つの実施態様では、前記ポリヌクレオチドの核酸配列は、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18に示される配列と、少なくとも40%,50%,60%,70%,80%,85%,90%,96%,97%,98%または99%の同一性を有し得る。
【0034】
本明細書で使用する「ポリペプチド」および「ポリヌクレオチド」という用語の範囲に含まれるのは、それらの断片およびバリアントである。例だけとして、WO 95/15338およ
びPCT/AU2006/001278(これらの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載
されたCpn10のペプチド断片は、本発明の側面および実施態様に従って使用され得る。
【0035】
「断片(fragment)」という用語は、完全長のCpn10の構成部分をコードする核酸配列、
または完全長のCpn10タンパク質の構成部分であるポリペプチド配列を指す。ポリペプチ
ドとして該断片は、完全長のタンパク質と共通する性質としての生物活性を有している。本発明で使用される生物学的に活性なCpn10断片は、典型的には対応する完全長のタンパ
ク質の免疫調節活性の少なくとも約50%、特に典型的にはその活性の少なくとも約60%、より典型的にはその活性の少なくとも約70%、さらにより典型的にはその活性の少なくとも
約80%、もっと典型的にはその活性の少なくとも約90%、とりわけ典型的にはその活性の少なくとも約95%を有している。
【0036】
本明細書でさらに説明するように、本発明者らはCpn10のN末端にグリシン残基を付加すると免疫調節活性が増加することも実証した。アセチル基の存在、またはアラニン残基やグリシン残基のような、アセチル基と構造的相同性を与えるアミノ酸の存在は、Cpn10の
免疫調節活性を増加させると想定される。
【0037】
本明細書で使用される「バリアント(variant)」という用語は、実質的に類似の分子を
指す。一般的に、核酸配列のバリアントは共通の定性的生物活性を有するポリペプチドをコードする。また一般的にポリペプチド配列のバリアントもまた、共通する性質としての生物活性を有する。さらにこれらのポリペプチド配列のバリアントは、少なくとも40%,50%,55%,60%,65%,70%,75%,80%,82%,85%,90%,95%,96%,97%,98%または99%の配列同一性と、70%,75%,80%,82%,85%,90%,95%,96%,97%,98%または99%の配列類似性を有し得る。
【0038】
さらに、バリアントポリペプチドにはアナログが含まれてもよく、その「アナログ」という用語はCpn10の誘導体であるポリペプチドを意味し、その誘導体は、該ポリペプチド
が天然Cpn10と実質的に同じ機能を保持するような、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、
置換を含む。いくつかのアミノ酸は、ポリペプチド中で、そのポリペプチドの活性を変更することなく変わり得ることが技術的によく知られている(同類置換(conservative substitution))。「同類アミノ酸置換」という用語は、ポリペプチド鎖内における、一つの
アミノ酸を、類似の特性を有する別のアミノ酸へ置換または交換することを指す(タンパク質の一次配列)。例えば、荷電アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)の、同様に荷電した
アミノ酸であるアスパラギン酸(Asp)への置換は同類アミノ酸置換であろう。アミノ酸付
加は、Cpn10ポリペプチドもしくはそれの断片と、ポリヒスチジンタグのような二次ポリ
ペプチドもしくはペプチドとの融合、マルトース結合タンパク質融合、グルタチオンSト
ランスフェラーゼ融合、緑色蛍光タンパク質融合またはFLAGもしくはc-mycのような抗原
決定基タグの付加の結果、生じ得る。たとえば、野生型ヒトCpn10ポリペプチドは、N末端に付加GSMトリペプチド残基を含んでもよく(配列ID番号2; 例えばWO 95/15338を参照、これの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)、N末端に付加アラニン(A)残基を含
んでもよく(配列ID番号3; WO 2004/041300、これの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)、あるいは配列ID番号4でN末端に付加グリシン(G)を含んでもよい(たとえばPCT
/AU2006/001278を参照)。 野生型のCpn10ポリペプチドはN末端に開始メチオニンを含ん
でも含まなくてもよい。野生型のCpn10ポリペプチドはN末端またはC末端が、一つ以上の
アミノ酸残基の付加、欠失または置換によって修飾されていてもよい。
【0039】
もう一つの例においては、野生型ヒトCpn10ポリペプチドは可動性ループを欠いてもよ
く(配列ID番号7)、ベータヘアピンルーフループ(Beta-hairpin roof loop)を欠いても
よく(配列ID番号9)、または両方を欠いてもよく(配列ID番号11)、これらは、たとえばPCT/AU2006/001278に見られ、これの開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。さらに、野生型ヒトCpn10ポリペプチドは、配列ID番号13,15または17に示されるように、前記可動性ループにおいてトリペプチド欠失があってもよい(たとえばPCT/AU2006/001278を参
照、これの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。本発明はまた、そのような修飾型Cpn10をコードするポリヌクレオチドの使用をも意図している。
【0040】
Cpn10バリアントは、当業者によく知られた方法を用いてランダム変異導入もしくは部
位特異的変異導入などにより、Cpn10タンパク質への変異導入もしくはコードする核酸へ
の変異導入により作ることができる。そのような方法は、たとえばCurrent Protocols In
Molecular Biology (Chapter 9), Ausubelら, 1994, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkに見出され、これの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。また、バリアントおよびアナログは、他の化学残基、融合タンパク質と複合化したポリペプチドを含み、そのほか遷移後(post-transitionally)に修飾されたポリペプチドをも包含する。好適な
修飾例は国際出願番号PCT/AU2005/000041に記載されており、これの開示内容は参照によ
り本明細書に組み込まれる。
【0041】
さらに、Cpn10ポリペプチドまたはその断片は翻訳後修飾を有していてもよく、それに
は、たとえばアセチル化、アミジン化、カルバモイル化、還元的アルキル化及び当業者に知られた、他の修飾のような側鎖の修飾が含まれる。
【0042】
シャペロニン10バリアントのさらなる例は、タンパク質折り畳み(folding)活性を欠
くまたは実質的に欠くものであり、そのような修飾の例は国際(PCT)特許出願番号 PCT/AU2006/001278に記載されており、それの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
Cpn10の製造
本発明によれば、Cpn10ポリペプチドは当業者によく知られた、標準的組換え DNA技術
及び分子生物学的技術を使用して製造することができる。指針は、たとえば、Sambrookら, Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York, 1989 およびAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc, and Wiley-Intersciences, 1992から得てもよい。Mortonら, 2000 (Immunol Cell Biol 78:603-607), Ryanら, 1995 (J Biol Chem 270: 22037-22043) およびJohnsonら, 2005 (J Biol
Chem 280:4037-4047)に記載された方法は、Cpn10ポリペプチドの好適な精製方法の例で
あるが、精通した読者は、本発明が使用する精製方法もしくは製造方法によって限定されることはなく、他のあらゆる方法もまた、本発明の方法及び組成物に基づいて使用されるCpn10を製造するのに用い得ると認識するだろう。Cpn10ペプチドは、ポリペプチドを、endoLys-C, endoArg-C, endoGlu-Cおよびブドウ球菌V8-プロテアーゼなどの一つ以上のタンパク質分解酵素で消化することにより製造され得る。消化されたペプチド断片は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC) 技術により精製することができる。
【0043】
本発明のCpn10ポリペプチドの精製は、大規模生産の目的でスケールアップしてもよい
。例えば、本明細書で説明するように本発明者らは、大腸菌におけるバッチ発酵によって、大量(グラム)の、非常に純度の高い、臨床等級のCpn10ポリペプチドを製造するため
のバイオプロセスを開発した。
【0044】
また、本発明のCpn10ポリペプチドは、その断片およびバリアントと同様に、当業者に
よく知られた標準的な液相もしくは固相の化学的方法により合成してもよい。たとえばそのような分子は、Steward および Youngの固相化学方法に従って合成され得る(Steward, J. M. & Young, J. D., Solid Phase Peptide Synthesis. (2nd Edn.) Pierce Chemical Co., Illinois, USA (1984)。
【0045】
一般的に、そのような合成方法は、伸長するペプチド鎖に対し、一つ以上のアミノ酸または適切に保護されたアミノ酸の逐次的付加を含む。典型的には、最初のアミノ酸のアミノ基またはカルボキシル基は適切な保護基により保護される。保護されたアミノ酸はその後、不活性な固体担体に結合させられるか、適切に保護された相補的な(アミノまたはカ
ルボキシル)基を有する配列上に次のアミノ酸を、アミド結合を形成するのに適した条件下で添加することにより、溶液中で使用される。この保護基はその後、この新たに付加されたアミノ酸残基から除去され、次の(保護された)アミノ酸が付加される、といった具合である。最終的には望みのアミノ酸が全部結合した後に、残った保護基、および必要であれば固体担体がいずれも連続的にもしくは同時に除去されて、最終的なポリペプチドが製造される。
【0046】
Cpn10ポリペプチドにおけるアミノ酸の変更は、関連する技術に精通した者によく知ら
れた技術により実施され得る。例えば、アミノ酸の変更は、ヌクレオチドの付加、削除または置換を含むヌクレオチド置換技術(同類および/または非同類)により実施され得る、ただし、適切なリーディングフレームが維持されるとしてのことである。技術の例としてランダム変異導入、部位特異的変異導入、オリゴヌクレオチド介在性もしくはポリヌクレオチド介在性の変異導入、既存の、または設計された制限酵素部位を使用することによる選定領域の削除、およびポリメラーゼ連鎖反応が挙げられる。
【0047】
本発明のCpn10ポリペプチドによる免疫調節活性の発現は、Cpn10ポリペプチドの7量体の形成を伴うかもしれない。本発明目的のための免疫調節活性の検証は、当業者に知られた多数の技術のいずれによってもよい。本明細書で例示されるように、 Cpn10ポリペプチドの免疫調節活性は、Toll様受容体TLR4からのシグナル伝達を調節するポリペプチドの能力を、たとえばルシフェラーゼバイオアッセイを、通常はリポ多糖類のようなTLR4アゴニストの存在下に使用して測定することにより決定することができる。その代りに、またはそれに加えて、免疫調節活性は、たとえばNF-κBの産生または末梢血液単核球のような細胞におけるサイトカイン産生の測定を使用した、インビトロ、生体外または生体内での他のアッセイを使用して決定することができる。
組成物および投与経路
一般的に、本発明の方法に使用するのに好適な組成物は、当業者に知られた方法及び手順に従って調製してもよく、したがって薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤及び/またはアジュバントを含んでいてもよい。
【0048】
本発明によれば、Cpn10組成物はCpn10のみを含むもの、または製薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントおよび/または希釈剤を含む医薬組成物として調製してもよい。あるいは、Cpn10組成物はさらに免疫抑制剤を含んでもよい。
【0049】
前記免疫抑制剤は、免疫抑制薬または、BもしくはTリンパ球に対する抗体、またはそれらの活性化を仲介する表面受容体に対する特異的抗体であってもよい。例えば、前記免疫抑制薬はシクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキセート、クロモグリク酸塩(chromoglycalates)、テオフィリン、ロイコトリエン アンタゴニストまたは抗ヒスタミン剤、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0050】
それに加えて、発明に使用する医薬組成物は、さらに副腎皮質ステロイドのようなステロイドを含んでもよい。
組成物は標準的な経路で投与し得る。一般的に、該組成物は非経口的(たとえば、静脈内、脊髄内、皮下または筋肉内)、経口的又は局所的な経路で投与され得る。投与は全身的、領域的(regional)または局所的であってもよい。どのような状況においても使用される特定の投与経路は、治療を受ける症状の特質、症状の重篤度及び程度、送達される特定化合物の必要な所要量および該化合物の潜在的副作用を含めた多くの要因によって決まるだろう。
【0051】
一般的には、適切な組成物は当業者に知られた方法に従って調製することができ、薬学的に受容可能な希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤を含んでもよい。前記の希釈
剤、アジュバントおよび賦形剤は、該組成物の他の成分と共存性があるという意味において「受容可能」でなければならず、その受容者(recipient)に有害であってはならない。
【0052】
製薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤の例として、ミネラルを除去した水もしくは蒸留水;生理食塩水;ピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、および、ピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油またはヤシ油のようなゴマ油のような野菜由来の油;シリコーン油、これに
はメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリソルポキサン(methylphenyl polysolpoxane)のようなポリシロキサンが含まれる;揮発性シリコー
ン;流動パラフィン、軟パラフィンまたはスクワラン(squalane)のような鉱油;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体;低級
アルカノール、たとえばエタノールまたはイソプロパノール;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールまたはグリセリン;パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロ
ピルまたはオレイン酸エチルのような脂肪酸エステル;ポリビニルピリドン;寒天;カラギ
ーナン;トラガントガムまたはアカシアガム、およびワセリンである。典型的には、キャ
リアもしくは複数のキャリアは組成物の10重量%〜99.9重量%を占めるだろう。
【0053】
本発明の組成物は、注射による投与に適した剤形、経口摂取に適した剤形の形態(たと
えばカプセル剤、錠剤、カプレット剤、エリキシル剤など)、局所投与に適した軟膏、ク
リームもしくはローションの形態、点眼剤としての送達に適した形態、吸入、たとえば鼻腔内吸入または経口吸入のような吸入による投与に適したエアロゾルの形態(液体または
粉末状など)、非経口投与、すなわち皮下、筋肉内もしくは静脈内注射に適した形態であ
ってもよい。
【0054】
注射可能な溶液または懸濁液としての投与において、毒性のない非経口的に受容可能な希釈剤またはキャリアとしては、リンゲル液、等張の食塩水、リン酸緩衝食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールが挙げられる。
【0055】
経口使用に適したキャリア、希釈剤、賦形剤およびアジュバントのいくつかの例としては、ピーナッツ油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アカシアガム、トラガントガム、ブドウ糖、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが挙げられる。加えて、これらの経口製剤は適切な香味剤および着色剤を含んでもよい。カプセルの形態で使用される場合には、該カプセルは、崩壊を遅らせるモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルのような化合物で被覆されていてもよい。
【0056】
アジュバントは典型的には皮膚軟化剤、乳化剤、増粘剤、保存剤、殺菌剤および緩衝剤を含む。
経口投与の固体の形態は、ヒト医薬学および獣医薬学の実地において受容可能なバインダー、甘味料、崩壊剤、希釈剤、香味料、被覆剤、保存剤、滑沢剤および/または時間遅延剤を含んでもよい。好適なバインダーとしては、アカシアガム、ゼラチン、トウモロコシデンプン、トラガントガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースまたはポリエチレングリコールが挙げられる。好適な甘味料としては、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが挙げられる。好適な崩壊剤としては、トウモロコシデンプン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天が挙げられる。好適な希釈剤としては、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、カオリン、セルロース、炭酸カ
ルシウム、ケイ酸カルシウムまたはリン酸二カルシウムが挙げられる。好適な香味剤としては、ハッカ油、冬緑油、チェリー、オレンジもしくはラズベリーの香味剤が挙げられる。好適な被覆剤としては、アクリル酸および/またはメタクリル酸および/またはそれらのエステルのポリマーもしくはコポリマー、ワックス、脂肪アルコール、ゼイン、シェラックまたはグルテンが挙げられる。好適な保存剤としては、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、アルファ-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。好適な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが挙げられる。好適な時間遅延剤としては、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが挙げられる。
【0057】
経口投与の液体の形態は、上記の製剤に加えて、液体キャリアを含んでいてもよい。好適な液体キャリアとしては、水、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ひまわり油、ベニバナ油、ラッカセイ油、ヤシ油のようなオイル、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリドまたはこれらの混合物が挙げられる。
【0058】
経口投与の懸濁剤はさらに、分散剤及び/または懸濁剤を含んでもよい。好適な懸濁剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはアセチルアルコールが挙げられる。好適な分散剤としては、レシチン、ステアリン酸のような脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールのモノ-もしくはジ-オレイン酸、ステアリン酸もしくはラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンのモノ-もしくはジ-オレイン酸、ステアリン酸もしくはラウリン酸エステルなどが挙げられる。
【0059】
経口投与の乳濁剤はさらに、一つ以上の乳化剤を含んでもよい。好適な乳化剤としては、上記で例示した分散剤またはグアーガム、アカシアガムもしくはトラガントガムなどの天然ゴムが挙げられる。
【0060】
非経口的に投与可能な組成物の調製方法は当業者にとって明らかであり、たとえばRemington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.,
に、より詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
本発明の局所用製剤は、一つ以上の受容可能なキャリアとともに、活性成分および任意的な他の治療成分を含んでいる。局所投与に適した製剤としては、皮膚を通して浸透し、治療が必要な場所に行くのに適した液状もしくは半液状の製剤、たとえばリニメント剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤またはペースト剤、および、眼、耳または鼻への投与に適した滴下剤が挙げられる。
【0062】
本発明の滴下剤は、無菌の水性もしくは油性の溶液または懸濁液を含んでもよい。これらは、活性成分を殺菌剤および/または殺真菌剤および/または他の好適な保存剤、さらに任意の成分として界面活性剤を含む水溶液に溶解させることにより調製し得る。得られる溶液はその後ろ過により清澄化し、適当な容器に移して滅菌してもよい。滅菌はオートクレーブもしくは90℃-100℃で30分間維持し、またはろ過し、続いて無菌技術で容器に移すことにより実施してもよい。滴下剤に含有させるのに好適な殺菌剤および殺真菌剤の例は、硝酸もしくは酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)および酢
酸クロルヘキシジン(0.01%)である。油性溶液の調製に好適な溶媒として、グリセロール
、希釈されたアルコールおよびプロピレングリコールが挙げられる。
【0063】
本発明のローション剤は皮膚または眼に適用するのに適したものを含んでいる。眼のローション剤は、殺菌剤を含んでもよい無菌の水溶液を含有し、滴下剤の調製に関連して上記のものと同様の方法で調製し得る。また皮膚に適用するローション剤またはリニメント剤は、乾燥を速め、皮膚を冷ます薬剤、たとえばアルコールまたはアセトン、および/またはグリセロールのような保湿剤、またはトウゴマ油もしくはラッカセイ油のようなオイルを含んでもよい。
【0064】
本発明のクリーム剤、軟膏剤またはペースト剤は、外用のために活性成分の半固形状製剤である。それらは、よく微粉化したもしくは粉末状の活性成分を、単独、溶液中または水性もしくは非水性の液体の懸濁液中で、油状もしくは油状でない基剤と混合することにより作製し得る。前記基剤は、プロピレングリコールまたはマクロゴール(macrogol)のようなアルコールと一緒に、硬、軟もしくは流動パラフィンのような炭化水素、グリセロール、蜜ろう、金属せっけん;粘液(mucilage);アーモンド、トウモロコシ、ラッカセイ、トウゴマもしくはオリーブ油のような天然起源のオイル;ヒツジ毛脂もしくはその誘導体
、またはステアリン酸もしくはオレイン酸のような脂肪酸を含んでもよい。
【0065】
組成物には、アニオン性、カチオン性、または、ソルビタンエステルもしくはそのポリオキシエチレン誘導体などの非イオン性界面活性剤といった好適な界面活性剤のいずれを配合してもよい。天然ゴム、セルロース誘導体またはケイ質シリカ(silicaceous silicas)のような無機物質のような懸濁剤、およびラノリンのような他の成分も含まれていて
もよい。
【0066】
また組成物はリポソームの形態で投与されてもよい。リポソームは一般にリン脂質またはほかの脂質物質に由来し、水性媒体に分散した単層または複層の水和脂質結晶により形成される。リポソームを形成することができる、非毒性の生理学的に受容可能で代謝され得るいずれの脂質も使用することができる。リポソーム形態の組成物は、安定化剤、保存剤、賦形剤などを含んでもよい。好ましい脂質はリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)、天然および合成の両方である。リポソームを形成する方法は技術的に知られており、これに関連する特定の参考文献としてPrescott, Ed., Methods in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N. Y. (1976), p. 33 et seq.,が挙げられ、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。
用量
本発明の目的のためには、分子や薬剤は治療的または予防的のいずれかで、組成物として患者に投与してもよい。治療的な投与においては、組成物は、すでに疾患に罹患している患者に、該疾患及びその合併症を治癒させるまたは少なくとも部分的に抑止するのに十分な量を投与される。該組成物は患者を効果的に治療するのに十分な量の分子または薬剤を供給すべきである。
【0067】
いずれの特定患者の治療に有効な用量のレベルは様々な要因によって決まり、その要因としては、治療を受けている障害および該障害の重篤度;使用する分子または薬剤の活性;使用する組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康、性別および食事;投与時間;投与経路;分子または薬剤の分解速度;治療期間;治療と組み合わせて、または同時に使用される薬剤、およびその他の医薬分野においてよく知られた関連要因がある。
【0068】
当業者は通常の試みにより、適用可能な疾患を治療するのに必要な薬剤または化合物の、非毒性の有効量を決定することができるだろう。
一般的に、有効用量は、約0.0001mg〜約1000mg/kg体重/24時間;典型的には、約0.001mg〜約750mg/kg体重/24時間;約0.01mg〜約500mg/kg体重/24時間;約0.1mg〜約500mg/kg体重/24時間;約0.1mg〜約250mg/kg体重/24時間;約1.0mg〜約250mg/kg体重/24時間
の範囲にあると予想される。より典型的には、有効用量の範囲は約1.0mg〜約200mg/kg体重/24時間;約1.0mg〜約100mg/kg体重/24時間;約1.0mg〜約50mg/kg体重/24時間;約1.0mg〜約25mg/kg体重/24時間;約5.0mg〜約50mg/kg体重/24時間;約5.0mg〜約20mg/kg
体重/24時間;約5.0mg〜約15mg/kg体重/24時間の範囲にあると予想される。
【0069】
あるいは、有効量は約500mg/m2以下かもしれない。一般的に、有効である量は約25〜約500mg/m2、好ましくは約25〜約350mg/m2、より好ましくは約25〜約300mg/m2、さらに好ましくは約25〜約250mg/m2、さらにより好ましくは約50〜約250mg/m2、そしてさらにより好ましくは約75〜約150mg/m2の範囲にあると予想される。.
典型的には、治療への適用において、治療は疾患状態の持続の間行われるであろう。
【0070】
更に、個人の最適な用量および間隔は、治療を受けている疾患状態の性質及び程度、投与剤形、経路及び場所、そして治療を受けている特定の個人の性質により決定されることが当業者には明らかであろう。また、そのような最適の条件は従来の技術により決定することができる。
【0071】
また、定められた日数の間、一日当たり与えられる組成物の投与回数などの最適の治療過程は、慣行的な治療過程確定検査(conventional course of treatment determination
tests)を使用する当業者が確認することができることは、当業者に明らかであろう。
Cpn10アゴニストおよびアンタゴニスト
本発明はまた、Cpn10のアゴニストおよびアンタゴニストの使用、ならびにそのような
アゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングし、および製造する方法をも意図している。
【0072】
Cpn10アゴニストおよびアンタゴニストは、それらのTLRシグナル伝達および免疫調節物質の分泌に対する効果に従って具体的に設計または選別し得る。
抗体は、Cpn10またはその断片もしくはアナログのアゴニストもしくはアンタゴニスト
として機能するかもしれない。好ましくは、好適な抗体はCpn10ポリペプチドの個別の領
域または断片、特にプロテアーゼ活性の付与および/またはパートナーもしくは基質の結合に関与するものから調製される。抗原性Cpn10ポリペプチドは少なくとも5程度、好ましくは少なくとも10程度のアミノ酸を含む。
【0073】
好適な抗体の産生方法は当業者に容易に理解されるだろう。例えば、抗Cpn10モノクロ
ーナル抗体は、典型的にはFab部分を含んでいるが、Antibodies-A Laboratory Manual, Harlow and Lane, eds., Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y. (1988)に記載されたハイブリドーマ技術を用いて調製し得る。
【0074】
本質的に、Cpn10またはその断片もしくはアナログに対するモノクローナル抗体の調製
において、培地における連続細胞株系による抗体分子の産生を提供するあらゆる技術が使用し得る。これらは、トリオーマ技術に加え、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor ら,
1983, Immunology Today, 4:72)およびヒトモノクローナル抗体を製造するEBVハイブリ
ドーマ技術(Coleら, in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, pp. 77- 96, Alan
R. Liss, Inc., (1985)) だけでなく、Kohlerら, 1975, Nature, 256:495-497により最
初に開発されたハイブリドーマ技術も含む。不死の抗体産生細胞系を、融合以外の技術、たとえば発がん性DNAを用いるBリンパ球の直接形質転換、またはEpstein-Barrウイルスによる形質移入により創り出すことができる。たとえば、M. Schreierら "Hybridoma Techniques" (1980); Hammerling ら, "Monoclonal Antibodies and T-cell Hybridomas"(1981); Kennett ら "Monoclonal Antibodies" (1980)を参照。
【0075】
要約すると、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを製造する手段、骨髄腫ま
たは他の自己不滅化細胞株系はリンパ球と融合するが、そのリンパ球は、その認識因子の結合部位、または認識因子、又はその起源特異的DNA結合部位で過免疫化された哺乳類の
脾臓から得られたものである。この発明の実施に有用なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、現出認識因子(present recognition factors)と免疫反応する能力及
び標的細胞における特異的転写活性を阻害する能力で同定される。
【0076】
本発明を実施するのに有用なモノクローナル抗体は、適切な抗原特異性を有する抗体分子を分泌するハイブリドーマを含む栄養培養液からなるモノクローナルハイブリドーマ培養を始めることにより産生することができる。その培養は、ハイブリドーマが培養液中に抗体分子を分泌するのに十分な条件及び期間で行われる。その後、抗体を含む培養液は回収される。次いで抗体分子はよく知られた技術により単離できる。
【0077】
同様に、ポリクローナル抗体の産生に使用できる、当業界で公知の様々な方法がある。抗Cpn10ポリクローナル抗体の産生のために、ウサギ、ニワトリ、マウス、ラット、ヒツ
ジ、ヤギなどを含むが、これらに限定されない様々な宿主動物を、Cpn10、またはその断
片もしくはアナログを注射することにより、免疫化することができる。さらに、Cpn10ポ
リペプチドまたはその断片もしくはアナログは、免疫原性のキャリア、たとえば牛血清アルブミン(BSA)またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と複合化することができる。また、フロイントアジュバント(完全型及び不完全型)、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチン、プルロニックポリオール(pluronic polyols)等の界面活性物質、ポリアニオン、ペプチド、油乳化剤、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(bacilleカルメットゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium purvum)などの潜在的に有用なヒトのアジュバントを含むが、これらに限定されない様々なアジュバントを、免疫学的応答を増強させるのに使用してもよい。
【0078】
また、所望する抗体の選別は、当業界で公知の様々な技術により行うことができる。抗体の免疫特異的結合のアッセイとして、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合性免疫
吸着測定法)、サンドイッチイムノアッセイ、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、インサイツイムノアッセイ、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫蛍光測定、プロテインAアッセイおよび免疫電気泳動アッ
セイなどが挙げられるが、これらに限定されない(たとえば、 Ausubelら eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照)。抗体の結合は、一次抗体上の検出可能なラベルにより検出し得る。あるいは、抗
体は、適切に標識されたその二次抗体もしくは反応剤との結合の手段により検出し得る。当業界では、イムノアッセイにおける結合を検出するための様々な方法が知られており、それらは本発明の範囲内である。
【0079】
Cpn10またはその断片もしくはアナログに対して産生された抗体(またはその断片)は
、Cpn10への結合親和性を有する。好ましくは、前記抗体(またはその断片)は、約105M-1を超える、より好ましくは約106M-1を超える、さらに好ましくは107M-1を超える、そし
て最も好ましくは108M-1を超える結合親和性もしくは結合活性を有している。
【0080】
本発明により抗体を適切な量、得る観点からは、当業者は血清フリーの培養液での回分発酵(batch fermentation)を用いて抗体を製造し得る。発酵後、抗体はクロマトグラフィーおよびウイルスの不活化/除去工程を取り入れた多段階の工程により精製することができよう。例えば、抗体は最初プロテインAアフィニティークロマトグラフィーで分離され
、その後脂質エンベロープを有するウイルスを不活化するために溶媒/界面活性剤で処理してもよい。さらなる精製として、典型的には陰イオンおよび陽イオン交換クロマトグラフィーを使用して、残りの残存タンパク質、溶媒/界面活性剤および核酸を除去してもよ
い。精製された抗体をさらに、ゲルろ過カラムを使用して精製し、0.9%食塩水の製剤としてもよい。製剤とされた大量調製剤はその後滅菌およびウイルスろ過され、分注され得る。
【0081】
抗体以外のアゴニストおよびアンタゴニストも意図されている。候補のアゴニストまたはアンタゴニストは、1つ以上のTLRと、および/またはアゴニストとしてのそれらのア
ダプター分子と分子複合体を形成する能力により同定され得る。さらに、候補のアンタゴニストは、Cpn10、および1つ以上のTLRおよび/またはアンタゴニストとして機能するそれらのアダプター分子を含む分子複合体の形成を妨げるか、または破壊する能力により同定し得る。
【0082】
アゴニストおよびアンタゴニストを同定及び産生するための技術及び方法は当業者によく知られており、それにはコンビナトリアルライブラリーなどの合成化学ライブラリーなどの分子ライブラリーのスクリーニング、構造データベースのコンピュータ支援スクリーニング、コンピュータ支援のモデリングおよび/または設計、あるいは分子の結合相互作用を検出するより伝統的な生物物理学的技術が含まれる。
【0083】
以下本発明を、具体例をもって記述するが、それによって本発明の範囲がいかようにも制限されると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0084】
実施例1:ヒツジのチリダニ喘息モデルにおけるCpn10の有効性テスト
気道炎症は喘息の病因の中心であり、好酸球、マスト細胞、好中球およびリンパ球の肺組織及び気管支肺胞空間への集中および活性化を伴う(Busseら 2001)。チリダニはヒトにおけるアレルギー性喘息を起こす最も一般的なアレルゲンであり、感作した個人は特異的なIgEおよびIgG体液性応答を引き起こすことが示されている(Roche ら 1997)。適切な喘
息の動物モデルにより、ヒトの疾患と直接の関連性をもって行われるように明確かつ統括された検討ができるであろう。
【0085】
以前のヒツジ喘息モデルは、線形動物(アスカリス属)アレルゲンに感作した動物と、有望な抗喘息薬の生理学的及び薬理学的効果の評価に外挿された結果とに基づいている。ヒトのアレルギー性疾患と直接の関連性を持つ、アレルゲンとしてチリダニを用いた、アレルギー性肺炎症モデルがヒツジにおいて最近確立された。このモデルにおいて、感作したヒツジはアレルゲン特異的なIgE応答を起こし、好中球、好酸球および活性化したリン
パ球が肺組織およびBALに、HDMアレルゲンに曝露したヒトと類似した動力学的態様で集中することを伴う(Bischofら 2003)。
【0086】
以下に記載する実験では、Cpn10を静脈内注射または肺に直接注入することにより、感
作したヒツジにおいてチリダニ曝露へのアレルギー性応答の臨床的及び免疫学的症状に影響を与えることができるかどうかを検討した。
材料及び方法
ヒツジ(n=10)を可溶化チリダニ抽出物で免疫化し、強いアレルゲン特異的IgE応答を示
すものおよび気管支肺胞洗浄液(BAL)中の好酸球増加を示すものを選別した。動物はその
後、Cpn10 (0,5, 4,または16 mg)または溶媒のいずれかで処理され(n=5)、これらは静脈
内注射で送達されるか、あるいは肺の片側に直接送達されて肺の他の側へは溶媒が直接送達されたが、これらは光ファイバーの気管支鏡検査を使用してHDMを曝露する前に行われ
た。分画細胞カウント(differential cell counts)を数え、BALのサイトカインを定量
し、血清IgEを定量するために、HDM曝露から6および48時間ならびに7日後に、気管支肺胞洗浄液および血液サンプルが採取された。またBAL細胞はRNA分離培地(Trizol)に保管され、次にRT-PCR分析をするために凍結された。
結果
概して、以下に示される結果は、Cpn10がヒツジの喘息モデルにおけるアレルギー性炎
症に対して劇的で用量反応性の効果を有していることを示す。
Cpn10の静脈内送達
Cpn10の静脈内投与の結果は、用量依存的に、6時間の時点でBALの好中球が減少すると
いうものだった。Cpn10処理を行わず2度目のHDM曝露のみで、それから6時間後においてBALに存在する好中球の数は、静脈内投与グループの6頭のヒツジすべてで平均34%だった。
グループの平均として表わされた好中球のパーセンテージは、Cpn10の用量が増えるにつ
れて減った。6時間の時点において、0.5 mg, 4 mgおよび16 mgの用量のCpn10はそれぞれ
、BAL液中において15%, 12%および8%の好中球という結果になった。
【0087】
Cpn10の静脈内投与の結果は、用量依存的に、48時間の時点におけるBALの好酸球が減少するというものだった。Cpn10処理を行わず2度目のHDM曝露のみで、それから48時間後に
おいて存在する好酸球の数は、静脈内投与グループの6頭のヒツジすべてで31%だった。グループの平均として表わされた好酸球のパーセンテージは、ほとんどの場合Cpn10の用量
が増えるにつれて減った。48時間の時点において、0.5 mg, 4 mgおよび16 mgの用量のCpn10はそれぞれ、BAL 液中において15%, 16%および11%の好酸球という結果になった。
Cpn10の肺内送達
6および48時間の時点におけるBALの好中球のパーセンテージは、ほとんどの処理を通じて、個々のヒツジの右肺および左肺の間で異なっていた。しかしながら、左肺(Cpn10処理)および右の肺(溶媒処理)の間で一貫した傾向はなかった。また、6および48時間の時点におけるBALの好酸球のパーセンテージも、ほとんどの処理を通じて個々のヒツジの右肺お
よび左肺の間で異なっていた。曝露48時間後における4 mg のCpn10投与量を例外として、概して左肺(Cpn10処理)および右肺(溶媒処理)の間で一貫した傾向はなかった。それぞれ
のヒツジにおいて、HDM曝露および左の肺に4 mg(総量)のCpn10を投与してから48時間後の左肺におけるBALの好酸球のパーセンテージは、右の対照の肺と比べて低かった。肺内投
与(i.l.)グループにおけるすべてのヒツジのデータを平均したところ、4 mgのCpn10を
左の肺に局所注入すると、その肺における好酸球レベルが右の肺(対照、溶媒処理)の50%
にまで減少したことがわかった。
IgE応答基線
図5に示すように、HDM曝露の前(d0)および7日後(d7)に、それぞれ血清IgEレベルを評
価した。Cpn10がない場合には(1度目および2度目のHDM曝露)、血清IgEレベルは、気道をHDMに曝露した後に明らかに上昇した。ヒツジ#23は、最初のHDM曝露後に高いIgE応答を示
さなかった唯一のヒツジであった。1度目のHDM曝露前における基線のIgEレベルに比べて
、2度目および3度目のHDM曝露前のd0におけるIgEレベルのわずかな上昇が注目された;そ
れぞれの場合においてこれは、2週間前のHDM曝露から基線へゆっくりと戻ることを反映しているかもしれない。
Cpn10存在下におけるHDM曝露に対するIgE応答
用量または送達様式に関係なく、Cpn10は、HDM曝露7日後に評価したHDM特異的血清IgE
応答に対して顕著な効果を有していた。Cpn10投与の結果は、血清IgE応答を抑え、基線レベルの近くに維持するというものであり、特に4度目および5度目のHDM曝露において明ら
かであった。
気管支肺胞洗浄液の好酸球
基線(0時間)、気道へのHDM曝露および薬物処理6時間後および48時間後に、BALを採取し、好酸球の数を数えた。今までの結果は、図1に、HDM曝露48時間後に採取した洗浄液中の総細胞数についての好酸球パーセントとして図示されている。
【0088】
HDM曝露前に投与されたCpn10の静脈内注射の結果は、曝露48時間後の好酸球動員のピークにおけるBALの好酸球が15倍減少するというものである。
光ファイバーの気管支鏡を用いてCpn10を左の肺片側に投与し、溶媒のみを右(対照)
の肺に投与すると、対照の肺に対してCpn10処理した肺のBAL における好酸球のパーセン
テージが4倍減少することが示される。
HDM曝露に対する血清イムノグロブリンの応答
溶媒またはCpn10の投与およびHDM曝露から0日および7日に血清を採取した。その後血清を検査し、HDM特異的IgEレベルを、Bischofら 2003に詳述されているようにELISAを用い
て評価した、結果は本明細書に図2として表わされている。データは、それぞれ溶媒対照
投与のHDM曝露後、ならびに4 mgのCpn10およびHDM曝露後のHDM特異的IgEの血清における
レベルを示している。
気道上皮、杯細胞および気管支腺の変化
杯細胞
杯細胞の過形成は、アレルギー性の気道炎症により引き起こされる喘息の病態の主な特徴である。アレルゲンの吸入誘発後、気道上皮の単位長さ当たりの杯細胞の数が増加することが知られている。数の増加と併せて、杯細胞はサイズも大きくなり、PAS/アルシアンブルー組織学的染色をした場合に、大きな多色の細胞質を見せる。PAS/アルシアンブルー染色の組織学スライド上にて、気道上皮、杯細胞および気管支腺の分析を行った。この分析は、直径が1800〜3300 μmの、軟骨性及び腺性の気管支気道について行われた。
【0089】
HDM曝露したヒツジに対するCpn10の肺内投与:気道基底膜mmあたりの杯細胞数の平均は
、肺内にCpn10を投与したヒツジ(n=4のヒツジ)の左および肺の両方において33だった。杯細胞は大きく、青及び赤に染まった顆粒でいっぱいだった(図5)。
【0090】
HDM 曝露したヒツジに対するCpn10の静脈内投与:肺内送達グループに比べて、i.v.経路によりCpn10、4mgで処理されたヒツジの気管支上皮内の杯細胞は少なかった。i.v. でCpn10を投与されたヒツジ(n=6のヒツジ)において、気道基底膜mmあたりの杯細胞の数の平均
は16だった。これは、溶媒処理された肺内グループの杯細胞の数(気道基底膜mm あたり33の杯細胞)の半分よりも少ない。i.v. Cpn10グループの杯細胞は概して、より小さい、よ
り立方状である、そして細胞質の染色が少ないという点においてより未熟だった。
上皮
気道を裏打ちする上皮は、風媒性外来物質に対する第一線の障壁を形成するので、喘息症状における重要な組織要素であることが知られている。
【0091】
HDM曝露したヒツジに対するCpn10の肺内投与:溶媒およびCpn10の肺内投与の両グループで、気道上皮はより円柱状であり、いくつかの気道では過形成であった(図5)。
HDM曝露したヒツジに対するCpn10の静脈内投与:肺内グループとは対照的に、気道上皮
はより立方状であった(図6)。
気管支腺
気管支気道に結びつく腺はアレルゲンの吸入誘発後、刺激されて腺腔に粘液を分泌することができる。PAS/アルシアンブルー組織染料で染色された場合には、粘液は赤(中性の
ムチンを示す)または青(酸性のムチンを示す)に染色し得る。
【0092】
HDM曝露したヒツジにCpn10の肺内投与:PAS/アルシアンブルー染色した組織学スライド
を分析したところ、肺内処理されたヒツジの両方のグループの気管支腺が、HDM曝露およ
びCpn10/溶媒処理48時間後に粘液を分泌していたことがわかった(図5)。二頭のヒツジの
粘液はPASで赤く染色され(図5)、一方、他の二頭のヒツジでは、粘液は主に青であった。それぞれのヒツジの記録可能なすべての気管支腺の系統的分析は、平均して、溶媒で処理された肺では気管支腺腔は23%粘液で閉塞され、Cpn10で処理された肺では27%閉塞されて
いたことを示した(n=4のヒツジ)。
【0093】
HDM曝露したヒツジへのCpn10の静脈内投与: i.v.処理したヒツジの腺腔に存在する粘液は、肺内グループで観察されたのに比べて非常に少なかった(図6)。PAS/アルシアンブル
ー染色された組織学スライドを分析したところ、i.v.処理されたヒツジの気管支腺の管腔粘液量は、HDM曝露およびi.v. Cpn10処理48時間後には少ないことがわかった。中にある
粘液の色は主に青であった(たとえば図6)。i.v.処理されたヒツジの記録できるすべての
気管支腺の系統的な分析は、平均して、気管支腺腔は4.8%粘液で閉塞していることを示した (n=6のヒツジ)。
考察
この試験のデータは明らかに、全身に送達されたCpn10が喘息の病原生理学の基礎とな
るアレルギー性炎症を寛解させる能力を有していることを示している。好中球、好酸球およびIgE抗体はすべて、喘息に伴う炎症の重要な成分であることが知られている。この試
験は、Cpn10が、HDM曝露後の、BAL中の好酸球増加及び好中球増加、および血清中のHDM特異的IgEのレベルに対して顕著な抑制効果を有していることを示している。
【0094】
ヒトの喘息に関係した、喘息を起こすアレルゲンに感作したヒツジへのCpn10投与の評
価は、抗原曝露48時間後の気管支肺胞空間に蓄積する好酸球を用量反応的に減少させることを実証した。HDM曝露したヒツジのBAL中の好酸球増加は、ヒト喘息患者に見られる好酸球のレベルと類似している(Metzgerら 1987)。この実験で使用されたモデルのもう一つの特徴は、HDMで局所的に曝露された場合には、アレルギーでないおよび対照のヒツジと比
べて上昇して長くBALの好酸球増加を起こしている個人と、高い特異的IgE血清力価を示すヒツジ(すなわちアレルギーのヒツジ)とが相互に関連することである(Bischof, 2003)。
【0095】
Cpn10の静脈内投与は、明らかに用量依存的なアレルギー性炎症の減弱効果を有してい
る。高用量(16mg)のCpn10は、BALの好中球および好酸球のパーセンテージを減らすのに最も効果的であった。また用量16mgのCpn10は、曝露24および48時間後の血中好酸球レベル
を、用量4mgで二度目のHDMのみの曝露試験について同じ時点で計数した好酸球と比べて、著しく抑える効果も有していた。
【0096】
Cpn10は試験を通し、ヒツジに対して有害な効果を有していないようだった。試験の期
間全体にわたってそれらの主な臨床的症状は通常の生理的範囲内のままだったからである。これは、Cpn10送達がi.v.またはi.l.経路であるかにかかわらず、使用されたすべての
用量においてヒツジによく許容されたことを示している。
【0097】
死後の動物の組織学的分析の結果、ある興味深い観察が得られた。4mgのCpn10のi.v.投与は、アレルギー性炎症に伴う多くの病理学的パラメーターを顕著に低下させる結果となった。ほとんどの場合、i.v.処理されたヒツジでは気道壁内への炎症性細胞の浸潤が少なく、成熟した杯細胞が少なくまた杯細胞が未熟であり、気管支腺腔における粘液量が少なかった。溶媒(対照)およびCpn10を注入された肺の間で、症状の程度にはほとんど違い
がないようだった。概して、肺内曝露されたヒツジはHDM曝露されただけの動物でみられ
たのと同様な症状を示した。
【0098】
要約すると、この試験は、全身送達されたCpn10は喘息の鍵としての位置を占める炎症
成分を抑制する能力を有していることを、明らかに実証している。
実施例2:治療のための組成物
本明細書で提供される本発明を実施する最良の形態に従って、以下に特定の好ましい組成物の概要を述べる。以下は組成物を単に説明するための具体例であって、何ら本発明の範囲を限定するものではないと解釈される。
実施例2(A):非経口投与のための組成物
非経口注射のための組成物は、10 ml〜2Lの1%カルボキシメチルセルロースに、本明細
書で開示される適切な薬剤または化合物を0.05mg〜5g含有させて調製することができた。
【0099】
同様に、静脈内注入のための組成物は、250 mlの無菌のリンゲル液および0.05mg〜5gの
本明細書で開示される適切な薬剤もしくは化合物を含んでもよい。
実施例2(B):経口投与のための組成物
カプセル形態にした適切な薬剤もしくは化合物の組成物は、標準のツーピース・ゼラチン硬カプセルに、粉末形態の500mgの薬剤もしくは化合物、100mgのラクトース、35mgのタルク及び10mgのステアリン酸マグネシウムを詰めることで調製し得る。
参考文献
Busse WW, Lemanske RF Jr. Asthma. N Engl J Med 2001; 344:350-62.
Roche N, Chinet TC, Huchon GJ. Allergic and nonallergic interactions between house dust mite allergens and airway mucosa. Eur Respir J 1997; 10:719-26.
Bischof RJ, Snibson K, Shaw R, Meeusen ENT. Induction of allergic inflammation in the lungs of sensitized sheep after local challenge with house dust mite. Clin
Exp Allergy 2003; 33:367-75.
Metzger WJ, Zavala D, Richerson HB ら Local allergen challenge and bronchoalveolar lavabe of allergic asthmatic lungs. Description of the model and local airway
inflammation. Am Rev Respir Dis 1987; 135:433-40。
配列表:
野生型ヒトCpn10(GenBank Accession No. X75821)のアミノ酸配列が配列ID番号1に示されている。Cpn10のN-末端に付加されたアミノ酸残基を有する二つの修飾形態のアミノ酸
配列が、配列ID番号2,3および4に示されている。それらをコードするヌクレオチド配列が配列ID番号5および6に示されている。野生型ヒトCpn10のもう一つの修飾形態は、配列ID
番号7に示されるように、可動性ループの欠失を含む。それをコードするヌクレオチド配
列が配列ID番号8に示されている。これにさらに、野生型ヒトCpn10の他の修飾形態は、配列ID番号13,15および17に示すように、可動性ループ内の欠失を含む。それらをコードす
るヌクレオチド配列が配列ID番号14,16および18に示されている。野生型ヒトCpn10のさらなる修飾形は、ベータヘアピンルーフループ(Beta hairpin roof loop)の欠失(配列ID
番号9)または可動性ループおよびベータヘアピンルーフループの両方の欠失を含む(配列ID番号11)。それらをコードするヌクレオチド配列が配列ID番号10および12に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】静注により投与される溶媒、0.5, 4または16mgのCpn10で処理され(A)、または肺の左葉に直接溶媒、0.5または4mgのCpn10が投与され、かつ肺右葉に溶媒が投与され(B)、続いてチリダニ(HDM)に曝露されたヒツジ(グループあたりn=5)の気管支肺胞洗浄液(BAL)中での計数された全細胞に対する好酸球パーセント。洗浄液サンプルはHDM曝露48時間後に採取された。
【図2】A. 4mgのCpn10を投与した静注グループの、HDM曝露の前(d0)および後(d7)におけるHDM特異的IgEレベル。 B. 4mgのCpn10を投与した肺内グループの、HDM曝露の前(d0) および後(d7) における血清IgEレベル。
【図3】チリダニ(HDM)曝露48時間後、ヒツジ2頭に由来するそれぞれの細気管支気道。ヒツジは肺内注入で溶媒を投与されるか(1)、またはHDM曝露前に静脈注射で単回、4mgのCpn10を投与された(2)。浸潤する炎症性細胞が、溶媒対照のヒツジにおいては気道を完全に囲み(矢印)、HDM曝露前にIV Cpn10を投与されたヒツジの気道にはほとんどないことに注目(x100 H&E)。
【図4】チリダニ(HDM)曝露48時間後、ヒツジ2頭に由来するそれぞれの末端細気管支。ヒツジは肺内注入で溶媒を投与されるか(1)、またはHDM曝露前に単回、静脈内注射で4mgのCpn10を投与された(2)。浸潤する炎症性細胞が溶媒対照のヒツジにおいては気道を囲み(矢印)、HDM曝露前にIV Cpn10を投与されたヒツジの気道にはほとんどいないことに注目(x100 H&E)。
【図5】HDM曝露および肺内への溶媒投与(対照)48時間後のヒツジ#6の気管支気道の強出力顕微鏡写真。気管支腺腔を完全に閉塞させている、PAS染色された赤い粘液(矢印)に注目。また杯細胞および上皮細胞の過形成と、気道腔を裏打ちする粘液にも注目(x400 アルシアンブルー PAS 染色)。
【図6】HDM曝露および4mgのCpn10を静脈注射してから48時間後のヒツジ#44の気管支気道の顕微鏡写真。該腺の左側にある青い粘液の小さな領域(矢印)から離れた気管支腺腔にはほとんど粘液がないことに注目。また気道腔を裏打ちする杯細胞および上皮細胞は曝露されていない動物の、より特有のものであることにも注目 (x250 アルシアンブルー PAS染色)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の過敏症反応を抑制する方法であって、有効量の真核生物のシャペロニン10を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記過敏症反応が、好塩基球、好酸球、マスト細胞、好中球およびリンパ球を含む群より選ばれる細胞の活性化を伴う請求項1の方法。
【請求項3】
前記過敏症反応がToll様受容体(TLR)のシグナル伝達の活性化を伴う請求項1の方法。
【請求項4】
前記過敏症反応が高レベルの好酸球およびイムノグロブリンEを伴う請求項1〜3のいず
れかの方法。
【請求項5】
前記過敏症反応が炎症反応である請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項6】
前記過敏症反応が、食物アレルギー、皮膚炎、アレルギー性結膜炎、鼻炎、湿疹、アナフィラキシーおよび気道炎症に伴う呼吸器疾患を含む群より選ばれる請求項5の方法。
【請求項7】
前記呼吸器疾患が、喘息、アレルギー性喘息、内因性喘息、職業喘息、ARDS(急性呼吸
困難症候群)およびCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を含む群より選ばれる請求項6の方法。
【請求項8】
前記真核生物のシャペロニン10が、配列ID番号1,2,3,4,7,9,11,13,15または17を含む群より選ばれるポリペプチド配列を含む請求項1〜7のいずれかの方法。
【請求項9】
前記ポリペプチド配列が、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18を含む群より選ばれ
るポリヌクレオチド配列によりコードされる請求項8の方法。
【請求項10】
患者の過敏症反応に結びついた障害を治療または予防する方法であって、患者に有効量のシャペロニン10を投与することを含み、該シャペロニン10はToll様受容体からのシグナル伝達を調節する方法。
【請求項11】
前記Toll様受容体が、TLR1,TLR2,TLR3,TLR4,TLR5,TLR6,TLR7,TLR8,TLR9およびTLR10を
含む群より選ばれる請求項10の方法。
【請求項12】
前記真核生物のシャペロニン10が、配列ID番号1,2,3,4,7,9,11,13,15または17を含む群より選ばれるポリペプチド配列を含む請求項10または11の方法。
【請求項13】
前記ポリペプチド配列が、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18を含む群より選ばれ
るポリヌクレオチド配列によりコードされる請求項12の方法。
【請求項14】
前記方法が、さらに少なくとも一つの追加的な薬剤を投与することを含む請求項1〜13
のいずれかの方法。
【請求項14】
前記薬剤が免疫調節剤である請求項13の方法。
【請求項15】
前記免疫調節剤がI型インターフェロンである請求項14の方法。
【請求項16】
前記インターフェロンがIFNαまたはIFNβである請求項15の方法。
【請求項17】
患者の過敏症反応に結びついた障害を治療または予防するための組成物であって、免疫
抑制剤とともに有効量のシャペロニン10を含む組成物。
【請求項18】
前記免疫抑制剤が、抗炎症性化合物および気管支拡張性化合物を含む群より選ばれる請求項17の組成物。
【請求項19】
前記免疫抑制剤が、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、クロモグリク酸塩、テオフィリン、ロイコトリエンアンタゴニストおよび抗ヒスタミン剤、またはこれらの組み合わせを含む群より選ばれる請求項17の組成物。
【請求項20】
前記免疫抑制剤が、BまたはTリンパ球に対し特異的な抗体である請求項17〜19のいずれかの組成物。
【請求項21】
前記免疫抑制剤が、自身の活性化を媒介するBもしくはTリンパ球表面受容体に対し特異的な抗体である請求項17〜20のいずれかの組成物。
【請求項22】
前記組成物がさらにステロイドを含む請求項17〜21のいずれかの組成物。
【請求項23】
患者の過敏症反応に結びついた障害を治療または予防する方法であって、請求項17〜22のいずれかの組成物の有効量を投与することを含む方法。
【請求項24】
前記真核生物のシャペロニン10が、配列ID番号1,2,3,4,7,9,11,13,15または17を含む群より選ばれるポリペプチド配列を含む請求項17〜23のいずれかの組成物。
【請求項25】
前記ポリペプチド配列が、配列ID番号5,6,8,10,12,14,16または18を含む群より選ばれ
るポリヌクレオチド配列によりコードされる請求項24の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−511610(P2009−511610A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535851(P2008−535851)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【国際出願番号】PCT/AU2006/001566
【国際公開番号】WO2007/045046
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(508122150)シービーアイオー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】