説明

過熱蒸気炊飯器

【課題】従来の炊飯器では、鍋底付近のご飯を焦がしすぎることなく、炊き上がったご飯から、香ばしい匂いを増加させることが困難であった。さらににおい全体を調整して、ご飯のにおいを向上させることも困難であった。
【解決手段】鍋の温度を測定する鍋温度測定手段5と蒸気を発生する蒸気発生手段6と、蒸気発生手段6から発生した蒸気を加熱する蒸気加熱手段14と、蒸気の温度を測定する蒸気温度測定手段21を有し、むらし工程において、鍋の上部空間の酸素濃度が所定濃度以下のときに、130℃より高い温度で制御した蒸気を、所定の時間、鍋内部に投入することを可能にした過熱蒸気炊飯器とすることで、鍋底が焦げることなく、においのバランスも調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過熱蒸気を用いた過熱蒸気炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好の多様化により、炊きあがりのおいしさに対する要求はさまざまなものがあり、炊きあがりの硬さ(弾力)や粘りといった物性を使用者の好みに炊き上げることができる炊飯器がある。
【0003】
通常、浸水工程(前炊き工程)、炊き上げ工程、蒸らし工程が順次行われており、浸水工程に特徴をもたせることで、このような近年の動向に対応している炊飯器もある。
【0004】
例えば、使用者の好みの甘さに炊き上げるため、浸水工程の温度を設定できるようにした炊飯器が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、還元糖の生成を高めて、表面の崩れが少なく、張りのあるご飯を炊き上げるため、浸水工程を40℃以上60℃未満の工程と61℃以上70℃未満の2段階で加熱制御できるようにした炊飯器が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3538971号公報
【特許文献2】特開2001−46224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成の炊飯中の温度制御だけでは、さらに高度化した消費者の嗜好に十分に応えることはできない。
【0007】
炊き上がりのご飯のおいしさに関与する食味項目のなかには、食べたときの甘みや硬さだけでなく、炊き上がったご飯から発生するにおいも重要な項目として挙げられる。
【0008】
さらに昔ながらの竃を彷彿とさせる、適度に焦げたご飯の香ばしいにおいに対するニーズの存在は、一般によく知られている。しかし、前記従来の技術で、香ばしい匂いを発生させるのには、鍋底付近のご飯を焦がさなければならない。鍋底付近のご飯を焦がすことは、鍋へのこびりつきが発生しやすくなり、使い勝手が悪くなる。また、焦げすぎたご飯そのものは、食味的には好ましくない。
【0009】
以上のように、従来の技術では、鍋底付近のご飯を焦がしすぎることなく、炊き上がったご飯から、十分な香ばしいにおいを発生させることが困難であった。さらににおい全体を調整して、ご飯のにおいを向上させることも困難であった。つまり、前記従来の構成では、鍋底付近のご飯を焦がすことなく、香ばしいにおいを発生させ、またにおいの調整を行うことはできない。
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、むらし工程において、鍋上部空間の酸素濃度が所定濃度以下のときに、130℃より高い温度で制御した過熱蒸気を炊飯器鍋内部に投入することにより、鍋底付近のご飯を焦がしすぎることなく、香ばしい匂いを発生させることができるようになり、さらににおいのバランスを調整することもできる過熱蒸気炊飯器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明の過熱蒸気炊飯器は、上面が開口した本体と、前記本体内に着脱自在に収納される鍋と、前記本体を開閉自在に覆う蓋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、蒸気を発生する蒸気発生手段と、前記蒸気発生手段から発生した蒸気を加熱する蒸気加熱手段と、蒸気の温度を測定する蒸気温度測定手段を有し、むらし工程において、前記鍋の上部空間の酸素濃度が所定濃度以下のときに、130℃より高い温度で制御した過熱蒸気を、所定の時間、鍋内部に投入することを可能にした過熱蒸気炊飯器とする。
【0012】
これによって、本発明の過熱蒸気炊飯器は、炊飯器鍋の上部空間の酸素濃度により、所定の温度で制御した蒸気を、所定の時間、鍋上部から鍋内に投入することができるので、鍋底が焦げることなく、香ばしい匂いを発生させたり、匂いのバランスを調整することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の過熱蒸気炊飯器は、酸素濃度が所定濃度以下のときに、所定の温度の過熱蒸気を所定の時間、炊飯器上部から鍋内に投入することができるので、鍋底が焦げることなく、においのバランスも調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1における炊飯器の断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の発明は、上面が開口した本体と、本体内に着脱自在に収納される鍋と、本体を開閉自在に覆う蓋と、鍋を加熱する加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、蒸気を発生する蒸気発生手段と、蒸気発生手段から発生した蒸気を加熱する蒸気加熱手段と、蒸気の温度を測定する蒸気温度測定手段を有し、むらし工程において、鍋の上部空間の酸素濃度が所定濃度以下のときに、130℃より高い温度で制御した蒸気を、所定の時間、鍋内部に投入することを可能にした過熱蒸気炊飯器とすることで、鍋底が焦げることなく、においのバランスも調整することができる。
【0016】
第2の発明は、特に第1の発明において、所定の酸素濃度が5%より低いことにより、炊飯工程中の適切なタイミングで効率よく過熱蒸気を炊飯器内部に投入することができる。
【0017】
第3の発明は、特に第1または2の発明において、酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段を有することにより、過熱蒸気投入のタイミングを精度よく酸素濃度値で決めることができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における過熱蒸気炊飯器の断面図を示したものである。
【0020】
実施の形態1の過熱蒸気炊飯器は、大気圧でご飯を炊く過熱蒸気炊飯器である。図1において、1は過熱蒸気炊飯器の本体を示し、着脱自在の鍋2を内装する。本体1には、その上面を覆う蓋3が開閉自在に設置されている。
【0021】
本体1は、鍋2を誘導加熱する鍋加熱手段4(誘導加熱コイルである)、鍋2の温度を検知する鍋温度検知手段5、蒸気を発生する蒸気発生手段6及び制御手段7を有する。
【0022】
蓋3は、蓋カバー8、蒸気発生手段6が発生した蒸気を鍋2の内部に供給するための蒸気経路9、加熱板10、加熱板加熱手段11、加熱板温度検知手段12、蒸気筒13及び蒸気加熱手段14を有する。
【0023】
加熱板10は、蓋3の下面を構成する蓋カバー8に着脱可能に取り付けられる。蓋3を本体1に対して閉めた状態において、鍋2と加熱板10との隙間は、加熱板10に取り付けられたループ状のパッキン15(第1のパッキン)で封止される。加熱板加熱手段11は、蓋カバー8に取り付けられ、加熱板10を誘導加熱する誘導加熱コイルである。加熱板温度検知手段12は、加熱板10の温度を検知する。蒸気筒13は、鍋2内の不要な蒸気を排出する。
【0024】
蒸気発生手段6は、水タンク16と水タンク加熱手段17とを有する。水タンク加熱手段17は、水タンク16を誘導加熱する誘導加熱コイルである。水タンク16の外側に、水タンク16の温度を検知する水タンク温度検知手段18が圧接される。
【0025】
蓋3を本体1に対して閉めた状態において、発生した蒸気を鍋2に供給する蒸気経路9が水タンク16の上方に位置する。蒸気経路9と水タンク16との間の隙間は、蒸気経路9に取り付けられているループ状のパッキン19(第2のパッキン)で封止されている。
【0026】
蓋を閉めた状態において水タンク16と鍋2とは蒸気経路9を通じてのみ連通する。水タンク16で発生した蒸気は、蒸気経路9を通って鍋2内に投入され、余分の蒸気は蒸気筒13を通じて外部に排出される。蒸気経路9を加熱する加熱手段(例えば誘導加熱コイル)を更に設けても良い。
【0027】
制御手段7は、回路基板(図示しない)に搭載されたマイクロコンピュータを有する。制御手段7(マイクロコンピュータ)はソフトウエアにより、ユーザが操作パネル(図示しない)を介して入力する操作指令、鍋温度検知手段5、水タンク温度検知手段18、加熱板温度検知手段12およびケース温度検知手段28から入力される信号に基づき、あらかじめマイクロコンピュータに記憶された炊飯プログラムにより、鍋2、加熱板10、水タンク16、蒸気流路23の加熱制御を行う。制御手段7は、鍋加熱手段4、水タンク加熱手段17、加熱板加熱手段11、ヒータ22の加熱量を、各加熱手段の通電率及び/又は通電量によって制御する。
【0028】
ここで、精白米3合(450g)を鍋2に収納した場合を例にとって、本実施の形態1における過熱蒸気炊飯器の炊飯工程を説明する。まず、鍋2に米と、米に対応した重量の水を収容し、さらに水タンク16に所定量の水を入れ、図には示していないが、炊飯器筐体の一部に設けた炊飯開始ボタンを押すことにより炊飯が開始される。
【0029】
すなわち、鍋温度検知手段5で測定した鍋2の温度に基づいて、浸水工程、炊き上げ・むらし工程が順次実行される。
【0030】
まず浸水工程においては、水は、常温より高い温度に維持され、米への十分な吸水が行われる。炊き上げ工程においては、鍋2の温度が所定値(100℃)になるまで鍋加熱手段4によって鍋2を所定の熱量で加熱する。最後にむらし工程においては、加熱(追い炊き)と加熱の停止(休止)を繰り返し、蒸気発生手段6から発生した蒸気を、蒸気温度測定手段21で検知された蒸気の温度をもとに、蒸気加熱手段14で加熱を制御し、鍋2内へ過熱蒸気として供給する。
【0031】
つまり炊き上げ工程終了後、水タンク加熱手段17に通電が行われ、沸騰した蒸気が、蒸気経路9に導入、鍋2内に供給され、酸素濃度測定手段20により、鍋2上部の空間の酸素濃度が従来の炊飯器の酸素濃度である5%より低くくなったことが検知された時点で、蒸気温度測定手段21が、従来の炊飯器の温度である130℃より高い温度、本実施の形態1では200℃を検知するまで蒸気加熱手段14にて蒸気が加熱され、200℃に加熱された蒸気が、所定の時間、本実施の形態1では3分間、鍋2内の上部から供給される。
【0032】
ユーザは、炊飯開始前に炊飯器の操作パネル(図示しない)にて、炊飯する米の香ばしさの強さを選択できる。選択された香ばしさの強度によって、むらし工程における過熱蒸気の投入時間と温度とが制御される。過熱蒸気の温度は、ヒータ22の通電率及び/又は通電量によって制御し、実施の形態1で、ユーザが選択した香ばしさの強さは、過熱蒸気の温度は200℃、投入時間3分で制御されることで実現できる。
【0033】
(表1)は、炊き上がったご飯の官能評価に関するデータである。
【0034】
【表1】

【0035】
(表1)に示したように、本実施の形態1の過熱蒸気炊飯器では、従来の炊飯器と比較すると酸化臭が少なく、従来の炊飯器よりにおいが好ましくなっていた。これは、次の理由によるものである。
【0036】
(表2)は、炊き上がったご飯のヘキサナール量に関するデータである。
【0037】
【表2】

【0038】
ヘキサナールは、ご飯の酸化臭の代表的な成分であり、脂肪を構成する不飽和脂肪酸の酸化により生成される成分で、炊飯したご飯から生じるにおい成分の代表的なものである。実施の形態1の過熱蒸気炊飯器では、従来の炊飯器の酸素濃度5%より低い濃度で制御することにより、炊飯中の酸化が抑制され、(表2)に示したように、本実施の形態1の過熱蒸気炊飯器のヘキサナール量は200ppbであり、従来のご飯のヘキサナール量300ppbと比較すると低減され、よって好ましくないにおいが減少したと考えられる。実際に、本実施の形態1の過熱蒸気炊飯器の上部空間の酸素濃度は2%であったのに対し、従来の炊飯器では、酸素濃度5%と、本実施の形態1では酸素濃度が低かった。
【0039】
【表3】

【0040】
また、(表3)に示したように、本実施の形態1の過熱蒸気炊飯器では、従来の炊飯器と比較すると香ばしいにおいが多く、従来の炊飯器よりにおいが好ましくなっていた。(表3)は、炊き上がったご飯の官能評価に関するデータである。
【0041】
これは、次の理由によるものである。
【0042】
ご飯の加熱香気には、メイラード反応が強く関与していることは一般に知られている。
このメイラード反応は、米中の蛋白質のアミノ基と澱粉(糖)のカルボニル基の加熱による反応で、ピラジンは、この反応の主要生成物の一つで、香ばしいにおいを有する。
【0043】
実施の形態1では、蒸気の温度が従来の炊飯器の130℃より高い温度である200℃であることから、このメイラード反応が促進され、結果、(表4)にあるように、本実施の形態1の過熱蒸気炊飯器のピラジン量は0.017ppbであり、従来のご飯のピラジン量は0.016ppbと比較するとピラジンの生成量が増加していた。このとき、好ましくない臭いであるヘキサナールが低減しているので、においバランスとしても香ばしいにおいをかなり強く感じることができる。また、実施の形態1で、ユーザがさらに、香ばしいにおいをさらに強くしたときは、別の香り大のコースを選択することで、過熱蒸気の温度が260℃になり、(表4)にあるようにピラジン量がさらに0.048ppbと増加し、(表5)にあるように、さらに香ばしいにおいが強く感じられるご飯を得ることができる。(表4)は、炊き上がったご飯のピラジン量に関するデータであり、(表5)は、炊き上がったご飯の官能評価に関するデータである。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
また、このときの高温加熱は、鍋上部から投入される過熱蒸気で行われることから、鍋底が焦げることなく、さらに蒸気による加熱であることから、ご飯の表面だけでなく、ご飯の隙間にも熱が浸透することにより、鍋内のご飯全体のメイラード反応が促進され、結果香ばしいにおい濃度、バランスが増加したと考えられる。
【0047】
以上述べたところから明らかなように、本実施の形態1の過熱蒸気炊飯器は、上面が開口した本体と、本体内に着脱自在に収納される鍋と、本体を開閉自在に覆う蓋と、鍋を加熱する加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、蒸気を発生する蒸気発生手段と、蒸気発生手段から発生した蒸気を加熱する蒸気加熱手段と、蒸気の温度を測定する蒸気温度測定手段を有し、むらし工程において、鍋の上部空間の酸素濃度が所定濃度以下のときに、130℃より高い温度で制御した蒸気を、所定の時間、鍋内部に投入することを可能にした過熱蒸気炊飯器とすることで、鍋底が焦げることなく、においのバランスも調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる過熱蒸気炊飯器は、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える電力を制御する制御手段を備えることにより、食品以外の有機物を加熱するとき、反応に応じて、加熱温度や時間を変えることができ、さらに蒸気生成手段と鍋内に蒸気を投入する蒸気投入手段を備えることにより、蒸気を投入しながら加熱反応を行う用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 本体
2 鍋
3 蓋
4 鍋加熱手段
5 鍋温度検知手段
6 蒸気発生手段
7 制御手段
8 蓋カバー
9 蒸気経路
10 加熱板
11 加熱板加熱手段
12 加熱板温度検知手段
13 蒸気筒
14 蒸気加熱手段
15 パッキン(第1のパッキン)
16 水タンク
17 水タンク加熱手段
18 水タンク温度検知手段
19 パッキン(第2のパッキン)
20 酸素濃度測定手段
21 蒸気温度測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口した本体と、
前記本体内に着脱自在に収納される鍋と、
前記本体を開閉自在に覆う蓋と、
前記鍋を加熱する加熱手段と、
前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と蒸気を発生する蒸気発生手段と、
前記蒸気発生手段から発生した蒸気を加熱する蒸気加熱手段と、
蒸気の温度を測定する蒸気温度測定手段を有し、
むらし工程において、前記鍋の上部空間の酸素濃度が所定濃度以下のときに、前記蒸気温度測定手段により検知した温度情報をもとに130℃より高い温度で制御した蒸気を、所定の時間、鍋内部に投入することを可能にした過熱蒸気炊飯器。
【請求項2】
所定の酸素濃度が5%より低いものである請求項1に記載の過熱蒸気炊飯器。
【請求項3】
酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段を有する請求項1または2に記載の過熱蒸気炊飯器。

【図1】
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