説明

過酸化物硬化性ハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマーの製造方法

本発明は、高モルパーセントのマルチオレフィンを有するハロゲン化ブチルポリマーを、少なくとも1種の窒素および/またはリン系の求核剤と反応させることにより製造される、過酸化物硬化性ハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマーの製造方法に関する。得られるハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマーは、約2〜10mol%のマルチオレフィンを含有する。本発明は、また、ハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高モルパーセントのマルチオレフィンを有するハロゲン化ブチルポリマーを、少なくとも1種の窒素および/またはリン系の求核剤と反応させることにより製造される、過酸化物硬化性ブチルアイオノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(イソブチレン−co−イソプレン)すなわちIIRは、1940年代以来、イソブチレンと少量のイソプレンとのランダムカチオン共重合により製造されてきた、一般にブチルゴムとして知られる合成エラストマーである。商業的に入手できる、そうしたIIR(以下、ノンハイマルチオレフィンIIRと称する)は、マルチオレフィン含有率が1〜2mol%である。そのような分子構造を反映して、ノンハイマルチオレフィン含有IIRは、優れた空気不透過性、高い損失弾性率、酸化安定性、および良好な耐疲労性を有している((非特許文献1)を参照)。
【0003】
歴史的には、ノンハイマルチオレフィンIIRの低い不飽和分含有量は、タイヤ内部のチューブ用としては十分な加硫活性をサポートするものであるが、タイヤ内部のライナーへの適用を目的とする場合には不十分である。このため、ハロゲン化してエラストマー内部に反応性アリルハライド官能基を生成することにより、ノンハイマルチオレフィンIIRの加硫速度を加速しなければならない。ハロゲン化すれば、ノンハイマルチオレフィン含有XIIRは、これらのポリマーに結合したアリルハライドとの求核アルキル化反応を可能にするアリルハライド官能基を有することになる。
【0004】
最近、ノンハイマルチオレフィン臭素化ブチルゴムを、固相で、窒素および/またはリン系の求核剤によって処理することにより、興味深い物理的特性および化学的特性を有するノンハイマルチオレフィンのブチルをベースとするアイオノマーが生成されることが示された((非特許文献2)、(非特許文献3)、(非特許文献4)を参照されたい)。そこに開示されているように、窒素および/またはリン系の求核剤で処理するのに適したノンハイマルチオレフィンブチルゴムは、マルチオレフィン(イソプレン)の含有率が0.05〜0.4モルパーセントである。
【0005】
過酸化物硬化性ゴムコンパウンドは、従来の加硫(硫黄硬化)系に比べていくつかの利点を有している。典型的には、これらのコンパウンドは、極めて速い硬化速度を示し、得られる硬化体は優れた耐熱性を有する傾向がある。さらに、過酸化物硬化性配合物は、抽出可能な無機不純物(例えば硫黄)を含有しないという点で「クリーン」であると考えられる。したがって、このクリーンなゴム物品は、例えばコンデンサーのキャップ、生物医学器具、医薬用器具(薬剤含有バイアルのストッパー、シリンジのプランジャー)、そして恐らく燃料電池のシールに使用することができる。
【0006】
ポリイソブチレンおよびノンハイマルチオレフィンブチルゴムが、有機過酸化物の作用によって分解することは広く認められている。さらに、(特許文献1)および(特許文献2)には、C〜Cのイソモノオレフィンと10重量%までのイソプレンまたは20重量%までのパラ−アルキルスチレンとのコポリマーは、高剪断混合を受けると分子量が低下することが開示されている。この効果は、過酸化物などのフリーラジカル開始剤の存在下に促進される。最近、新規なグレードのハイイソプレン(IP)ブチルゴムを用いるブチル系の過酸化物硬化性コンパウンドを、連続プロセスで製造することが示された。具体的には、(特許文献3)に、イソプレン含有率が3〜8mol%のブチルゴムの連続的製造が記載されている。今や入手可能となったこれらのイソプレン高含有率のものを使用すれば、驚くべきことに、アリルハライド官能基を3〜8mol%含有するハロゲン化ブチルゴム類似体を製造することができる。存在するアリルハライド官能基を利用することにより、ブチル系のアイオノマー種を製造することができ、そして最終的に残留マルチオレフィンの含有率を最適化し、これにより、この材料をベースとする配合物の過酸化物硬化を促進することが可能となる。
【特許文献1】米国特許第3,862,265号明細書
【特許文献2】米国特許第4,749,505号明細書
【特許文献3】CA2,418,884号明細書
【非特許文献1】チュー,C.Y.(Chu,C.Y.)およびフーコフ,R.(Vukov,R.)、「マクロモルキュールズ(Macromolecules)」、1985年、第18号、1423−1430頁
【非特許文献2】ペアレント,J.S.(Parent,J.S.);リスコバ,A.(Liskova,A.);ホイットニー,R.A.(Whitney,R.A.);リーセンズ,R.(Resendes,R.)、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス、パートA:ポリマー・ケミストリー(Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry)」(2005年7月26日受理)
【非特許文献3】ペアレント,J.S.(Parent,J.S.);リスコバ,A.(Liskova,A.);リーセンズ,R.(Resendes,R.)、「ポリマー(Polymer)」、2004年、第45号、8091−8096頁
【非特許文献4】ペアレント,J.S.(Parent,J.S.);ペンシュー,A.(Penciu,A.);ギレン−カステラノス,S.A.(Guillen−Castellanos,S.A.);リスコバ,A(Liskova,A.);ホイットニー,R.A.(Whitney,R.A.)、「マクロモルキュールズ(Macromolecules)」、2004年、第37号、7477−7483頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、新規なグレードのハイマルチオレフィン含有ハロゲン化ブチルゴムから、過酸化物硬化性のブチルをベースとするアイオノマーを製造する方法に関する。したがって、本発明は、(a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、場合によりさらに他の重合性モノマーとを、この重合プロセスを開始させることができるAlCl並びにプロトン源および/またはカチオン源と、少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤の存在下に重合させて、ハイマルチオレフィンブチルポリマーを製造し、その後(b)ハイマルチオレフィンブチルポリマーをハロゲン化し、そして(c)ハイマルチオレフィンハロブチルポリマーを少なくとも1種の窒素および/またはリン系の求核剤と反応させることによって、ブチルアイオノマーを製造する方法を提供するものである。
【0008】
この方法で製造されるブチルアイオノマーは、ハロブチルポリマー中に存在する元のアルキル化されていないアリルハライドの位置に、窒素および/またはリンのアルキル化アリルハライド(別名、アイオノマー部分として知られている)を有する。したがって、本発明は、また、約0.05〜2.0mol%のアイオノマー部分および2〜10mol%のマルチオレフィンを含有するブチルアイオノマーも提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔ハイマルチオレフィンブチルポリマーの調製〕
本発明のブチルアイオノマーの製造に有用なハイマルチオレフィンブチルポリマーは、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、場合によりさらに他の共重合性モノマーとから誘導される。
【0010】
本発明は特定のイソオレフィンに限定されるものではない。しかしながら、4〜16個の炭素原子、好ましくは4〜7個の炭素原子を有するイソオレフィン、たとえば、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテンおよびこれらの混合物など、が好ましい。より好ましくは、イソブテンである。
【0011】
本発明は特定のマルチオレフィンに限定するものではない。イソオレフィンと共重合可能な、当業者に公知のマルチオレフィンは全て使用することができる。しかしながら、4〜14個の炭素原子を有するマルチオレフィン、例えば、イソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリレン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエンおよびこれらの混合物、好ましくは共役ジエン、が使用される。イソプレンの使用がより好ましい。
【0012】
本発明においては、イソオレフィンのコモノマーとしてβ−ピネンも使用することができる。
【0013】
場合により使用されるモノマーとしては、イソオレフィンおよび/またはジエンと共重合可能なモノマーとして当業者に知られているものであればいかなるものも使用することができる。α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン、およびメチルシクロペンタジエンが好適に使用される。本発明においては、インデンおよび他のスチレン誘導体も使用することができる。
【0014】
ハイマルチオレフィンブチルポリマーを製造するためのモノマー混合物は、80重量%〜95重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、4.0重量%〜20重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーおよび/またはβ−ピネンと、0.01重量%〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含有することが好ましい。モノマー混合物は、83重量%〜94重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、5.0重量%〜17重量%の範囲のマルチオレフィンモノマーまたはβ−ピネンと、0.01重量%〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含有することがより好ましい。モノマー混合物は、85重量%〜93重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、6.0重量%〜15重量%の範囲の、β−ピネンを含む少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、0.01重量%〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を含有することがさらに好ましい。
【0015】
ハイマルチオレフィンブチルポリマーの重量平均分子量(M)は、240kg/molより大きいことが好ましく、300kg/molより大きいことがより好ましく、500kg/molより大きいことがさらに好ましく、600kg/molより大きいことが特に好ましい。
【0016】
ハイマルチオレフィンブチルポリマーのゲル含有率は、10重量%未満であることが好ましく、5重量%未満であることがより好ましく、3重量%未満であることがさらに好ましく、1重量%未満であることが特に好ましい。本発明に関し、用語「ゲル」は、還流下で沸騰しているシクロヘキサン中に60分間不溶なポリマー部分を意味すると理解される。
【0017】
ハイマルチオレフィンブチルポリマーの重合は、重合プロセスを開始させることができる、AlCl並びにプロトン源および/またはカチオン源の存在下に行われる。本発明に適したプロトン源としては、AlClまたはAlCl含有組成物に添加したときにプロトンを発生するあらゆる化合物が挙げられる。プロトンは、AlClと、水、アルコールまたはフェノールなどのプロトン源との反応により発生し、プロトンと、対応する副生物を生成する。プロトン源とプロトン化された添加剤との反応が、プロトン源とモノマーとの反応に比べて速いような反応が、結果的には好ましい。他のプロトン生成反応物質としては、チオール類、カルボン酸類などが挙げられる。本発明において、低分子量のハイマルチオレフィンブチルポリマーを所望する場合は、脂肪族または芳香族アルコールが好ましい。特に好ましいプロトン源は水である。AlClと水との好ましい比は、重量で5:1〜100:1である。AlClを誘導可能な触媒系、塩化ジエチルアルミニウム、塩化エチルアルミニウム、四塩化チタン、四塩化錫、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、またはメチルアルモキサンをさらに加えると有利でありうる。
【0018】
プロトン源に加えて、またはプロトン源の代わりに、重合プロセスを開始させることができるカチオン源を使用することができる。適切なカチオン源としては、存在する条件下でカルボカチオンを生成するあらゆる化合物が挙げられる。カチオン源の好ましい群としては、次式で示されるカルボカチオン化合物が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
上記式中、R、R、およびRは、R、R、およびRのうちの1つのみが水素であってよいという条件の下で、独立して水素または直鎖状、分岐状もしくは環状の芳香族もしくは脂肪族の基である。R、R、およびRは、独立してC〜C20の芳香族または脂肪族の基であることが好ましい。適切な芳香族の基は、例えばフェニル、トリル、キシリル、およびビフェニルから選択されるが、これらに限定されるものではない。適切な脂肪族の基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、3−メチルペンチル、および3,5,5−トリメチルヘキシルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
別の好ましいカチオン源の群としては、次式で示される置換シリリウムカチオン化合物が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
上記式中で、R、R、およびRは、R、R、およびRのうちの1つのみが水素であってよいという条件の下で、独立して、水素、または直鎖状、分岐状もしくは環状の芳香族もしくは脂肪族の基である。好ましくは、R、R、およびRのいずれも水素ではない。R、R、およびRは、独立してC〜C20の芳香族または脂肪族の基であることが好ましい。R、R、およびRは、独立してC〜Cのアルキル基であることがより好ましい。有用な芳香族基は、例えば、フェニル、トリル、キシリルおよびビフェニルから選ばれる。有用な脂肪族基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、3−メチルペンチルおよび3,5,5−トリメチルヘキシルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。反応性置換シリリウムカチオンの好ましい群には、トリメチルシリリウム、トリエチルシリリウム、およびベンジルジメチルシリリウムが含まれる。そのようなカチオンは、例えば、RSi−Hのヒドリド基をPhC+B(pfp)-などの非配位性アニオン(non-coordinating anion (NCA))で交換し、適切な溶剤中でカチオンを与えるRSiB(pfp)などの組成物を得ることによって作ることができる。
【0024】
本発明によれば、Ab-はアニオンを意味する。好ましいアニオンとしては、荷電した金属または半金属のコアを有する単座配位錯体を含有するものが挙げられる。この錯体は、2つの成分が結合するとき形成される、活性触媒種上の電荷がバランスをとるために必要な程度の負の電荷を有している。Ab-は、一般式[MQ4]-(式中、
Mは、+3の形式酸化状態にある、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、またはインジウムであり;そして
Qは、独立して、ヒドリド、ジアルキルアミド、ハライド、ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキサイド、ハロ置換ヒドロカルビル、ハロ置換ヒドロカルビルオキサイド、およびハロ置換シリルヒドロカルビル基から選択される)
で示される化合物に相当することがより好ましい。
【0025】
本発明の方法においては、有機ニトロ化合物または遷移金属は使用しないことが好ましい。
【0026】
ハイマルチオレフィン含有ブチルポリマーの製造に使用される反応混合物は、さらに、マルチオレフィン架橋剤を含有する。架橋剤という用語は当業者には知られており、主鎖に付加するモノマーではなく、ポリマー鎖の間に化学的な架橋を生じさせる化合物を意味すると理解される。ある化合物がモノマーとして作用するか、または架橋剤として作用するかは、いくつかの簡単な予備試験で明らかになる。架橋剤の選択に制限はない。架橋剤はマルチオレフィン炭化水素化合物を含むことが好ましい。これらの例としては、ノルボルナジエン、2−イソプロペニルノルボルネン、2−ビニル−ノルボルネン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、およびこれらのC〜C20のアルキル置換誘導体が挙げられる。マルチオレフィン架橋剤は、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、およびこれらのC〜C20のアルキル置換誘導体、並びに、これらの化合物の混合物であることがより好ましい。特に好ましくは、マルチオレフィン架橋剤には、ジビニルベンゼンおよびジイソプロペニルベンゼンが含まれる。
【0027】
ハイマルチオレフィン含有ブチルポリマーの重合は、米国特許第5,417,930号明細書に記載されているように、クロロアルカンなどの適当な希釈剤中、スラリー(懸濁液)の状態で連続プロセスにより行われる。
【0028】
モノマーは、一般に、カチオン的に、好ましくは、−120℃〜+20℃の範囲、好ましくは−100℃〜−20℃の範囲の温度および0.1〜4barの範囲の圧力で重合される。
【0029】
バッチ式反応器ではなく連続式反応器を使用すると、プロセスにプラスの効果をもたらすようである。本プロセスは、0.1m〜100m、より好ましくは1m〜10mの容積を有する、少なくとも1つの連続式反応器中で行われることが好ましい。
【0030】
ブチル重合技術の当業者に知られている不活性な溶剤または希釈剤は、ここでの溶剤または希釈剤(反応媒体)として考えられる。このようなものとしては、アルカン、クロロアルカン、シクロアルカン、または芳香族化合物が挙げられ、これらもまた、しばしば、ハロゲンで一置換または多置換されている。ヘキサン/クロロアルカン混合物、塩化メチル、ジクロロメタン、またはこれらの混合物が好ましい。本発明の方法においては、クロロアルカンを使用することが好ましい。
【0031】
重合は連続式で行うことが好ましい。本プロセスは、次の3つの原料流を用いて行うことが好ましい。
I)溶剤/希釈剤+イソオレフィン(好ましくはイソブテン)+マルチオレフィン(好ましくはジエン、イソプレン)
II)開始剤システム
III)マルチオレフィン架橋剤
マルチオレフィン架橋剤は、イソオレフィンおよびマルチオレフィンと同じ原料流中に加えることもできることに注意すべきである。
【0032】
〔ハイマルチオレフィンハロブチルの製造〕
得られたハイマルチオレフィンブチルポリマーは、次に、ハイマルチオレフィンハロブチルポリマーを製造するために、ハロゲン化プロセスに供することができる。臭素化または塩素化は、クリューワー・アカデミック・パブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)発行の、モーリス・モートン(Maurice Moron)編「ラバー・テクノロジー(Rubber Technology)」、第3版の297−300頁、およびこの文献に引用されている参考文献に記載されている方法など、当業者に知られた方法で行うことができる。
【0033】
得られたハイマルチオレフィンハロブチルポリマーは、0.05〜2.0mol%、より好ましくは0.2〜1.0mol%、さらに好ましくは0.5〜0.8mol%の合計アリルハライド含有率を有するのがよい。ハイマルチオレフィンハロブチルポリマーは、また、2〜10mol%、より好ましくは3〜8mol%、さらに好ましくは4〜7.5mol%の濃度範囲の残留マルチオレフィンを含有するのがよい。
【0034】
〔ハイマルチオレフィンブチルアイオノマーの製造〕
本発明の方法においては、その後、ハイマルチオレフィンハロブチルポリマーを、次式で示される、少なくとも1種の窒素および/またはリンを含有する求核剤と反応させることができる。
【0035】
【化3】

【0036】
上記式中、Aは窒素またはリンであり、
、R、およびRは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C18のアルキル置換基、単環もしくは縮合したC〜C環からなるアリール置換基、および/または、ヘテロ原子、例えばB、N、O、Si、P、およびSから選択されるヘテロ原子、からなる群より選択される。
【0037】
一般に、適当な求核剤は、求核置換反応に関与するために電子的にも立体的にも接近可能な孤立電子対を有する、少なくとも1個の中性の窒素またはリン中心を含む。適切な求核剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびトリフェニルホスフィンが挙げられる。
【0038】
本発明によれば、ハイマルチオレフィンブチルゴムと反応させる求核剤の量は、ハイマルチオレフィンハロブチルポリマー中に存在するアリルハライドの全モル量に対して、1〜5モル当量、より好ましくは1.5〜4モル当量、さらに好ましくは2〜3モル当量の範囲である。
【0039】
ハイマルチオレフィンハロブチルポリマーと求核剤は、約10〜90分間、好ましくは15〜60分間、より好ましくは20〜30分間、80〜200℃、好ましくは90〜160℃、より好ましくは100〜140℃の範囲の温度で反応させることができる。
【0040】
得られたハイマルチオレフィンハロブチルをベースとするアイオノマーは、0.05〜2.0mol%、より好ましくは0.2〜1.0mol%、さらに好ましくは0.5〜0.8mol%のアイオノマー部分、および2〜10mol%、より好ましくは3〜8mol%、さらに好ましくは4〜7.5mol%のマルチオレフィンを有していることが好ましい。
【0041】
本発明によれば、得られたアイオノマーは、ポリマーに結合したアイオノマー部分とアリルハライドの混合物であることもでき、その場合、アイオノマー部分とアリルハライド官能基の全モル量が、0.05〜2.0mol%、より好ましくは0.2〜1.0mol%、さらに好ましくは0.5〜0.8mol%の範囲で存在するとともに、残留マルチオレフィンが、0.2〜1.0mol%、より好ましくは0.5〜0.8mol%の範囲で存在するようにする。
【0042】
以下の実施例により、本発明を説明する。
【0043】
[実施例]
装置:ブルーカDRX500(Bruker DRX500)スペクトロメータ(500.13MHz H)を使用して、CDCl中でH NMRスペクトルを記録した。ケミカルシフトはテトラメチルシランを参照した。
【0044】
材料:全ての試薬は、別に特に記載がなければ、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)(オークビル(Oakville)、オンタリオ(Ontario)、カナダ(Canada))から入手したものをそのまま使用した。BIIR(BB2030)はランクセス・インコーポレーティッド(LANXESS Inc.)から供給されたものをそのまま使用した。エポキシ化大豆油(L.V.ロマス(L.V.Lomas))およびイルガノックス 1076(Irganox 1076)(チバ・カナダ・リミティッド(CIBA Canada Ltd.))は、それぞれの供給業者から入手したままの状態で使用した。
【0045】
〔実施例1:ハイイソプレンBIIRの製造〕
CA2,418,884号明細書の実施例2に従い、95Lの反応器内で高速で攪拌しながら31.8kgのヘキサンおよび2.31kgの水中で製造した1,4ハイイソプレンブチルポリマーの6.5mol%溶液7kgに、110mlの元素状臭素を加えた。5分後、76gのNaOHを1Lの水に溶解した苛性溶液を加えることによって反応を停止させた。さらに10分間の攪拌の後、500mLのヘキサン中の21.0gのエポキシ化大豆油および0.25gのイルガノックス(登録商標)1076(Irganox(登録商標)1076)の安定剤溶液と、500mLのヘキサン中の47.0gのエポキシ化大豆油および105gのステアリン酸カルシウムの安定剤溶液とを、反応混合物に加えた。さらに1時間攪拌した後、ハイマルチオレフィンブチルポリマーを水蒸気凝集により分離した。100℃で稼動している二本ロールの10インチ×20インチミルを用いて、最終物質を一定重量になるまで乾燥した。得られた物質のミクロ組成を表1に示す。
【0046】
〔実施例2:ハイイソプレンIIRアイオノマーの製造〕
100℃および60RPMのローター速度で稼動しているブラベンダー(Brabender)内部ミキサー(容量75g)に、48gの実施例1と4.7g(実施例1のアリルブロミド含有率に対して3モル当量)のトリフェニルホスフィンとを加えた。混合は、合計で60分間行った。H NMRで最終生成物を分析したところ、実施例1の全てのアリルブロミド部位が対応するアイオノマー種に完全に変換されていることが確認された。得られた物質は、また、約4.20mol%の1,4−イソプレンを有していることがわかった。
【0047】
【表1】

【0048】
上述した実施例からわかるように、臭素化ブチルポリマーのハイイソプレン類似体(実施例1)を中性のリン系求核剤で処理すると、対応するハイイソプレンブチルアイオノマー(実施例2)が形成される。実施例2に記載した方法は、一般的に適用できるものであり、ハイイソプレン臭素化ポリマーと中性のリンおよび/または窒素系の求核剤とから、ハイイソプレンの過酸化物硬化性ブチルアイオノマーを作るために使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマーの製造方法であって、
少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、場合によりさらに他の共重合性モノマーとを、この重合プロセスを開始させることができるAlCl並びにプロトン源および/またはカチオン源と、少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤の存在下に重合させて、ハイマルチオレフィンブチルポリマーを製造する工程、その後
(b)前記ハイマルチオレフィンブチルポリマーをハロゲン化する工程、および
(c)前記ハイマルチオレフィンハロブチルポリマーを少なくとも1種の窒素および/またはリン系の求核剤と反応させる工程
を含む方法。
【請求項2】
前記求核剤が、一般式:
【化1】

(式中、Aは窒素またはリンであり、R、RおよびRは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C18のアルキル置換基、単環もしくは縮合したC〜C環からなるアリール置換基、および/または、ヘテロ原子、例えばB、N、O、Si、PおよびSから選択されるヘテロ原子、からなる群より選択される)
で示されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー混合物が、80重量%〜95重量%の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、4.0重量%〜20重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーおよび/またはβ−ピネン、並びに、0.01重量%〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノマー混合物が、83重量%〜94重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、5.0重量%〜17重量%の範囲のマルチオレフィンモノマーまたはβ−ピネン、並びに、0.01重量%〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー混合物が、85重量%〜93重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、6.0重量%〜15重量%の範囲の、β−ピネンを含む少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー、並びに、0.01重量%〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記イソオレフィンが、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテンおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記マルチオレフィンが、イソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリレン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエンおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記架橋剤が、ノルボルナジエン、2−イソプロペニルノルボルネン、2−ビニル−ノルボルネン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレンおよびこれらのC〜C20のアルキル置換誘導体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ハイマルチオレフィンブチルポリマーが臭素または塩素でハロゲン化される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記求核剤が、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ハイマルチオレフィンブチルアイオノマーが約2〜10mol%のマルチオレフィンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ハイマルチオレフィンブチルアイオノマーが約4〜7.5mol%のマルチオレフィンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法により製造されたハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマー。
【請求項14】
前記アイオノマーが2〜10mol%のマルチオレフィンを含む、請求項13に記載のハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマー。
【請求項15】
前記アイオノマーが約4〜7.5mol%のマルチオレフィンを含む、請求項14に記載のハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマー。
【請求項16】
前記マルチオレフィンが、イソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリレン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエンおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項15に記載のハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマー。
【請求項17】
前記マルチオレフィンがイソプレンである、請求項15に記載のハイマルチオレフィンハロブチルアイオノマー。

【公表番号】特表2009−506138(P2009−506138A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527276(P2008−527276)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001342
【国際公開番号】WO2007/022618
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(506241042)ランクセス・インコーポレーテッド (20)
【Fターム(参考)】