説明

過電流保護素子及びその製造方法

【課題】 室温抵抗値のバラツキを少なくすることができる過電流保護素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 高分子マトリクス1に導電性粒子2を混合した導電性の組成物3と、組成物3を挟持する一対の金属箔4とを備え、高分子マトリクス1に導電性粒子2を混合する場合に、高分子マトリクス1を形成する2種類以上の複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子2を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合し、導電性粒子2の分散混合した各熱可塑性樹脂を所定の混合割合により再度分散混合することにより、組成物3を形成する。製造時に、複数の熱可塑性樹脂について融点別に導電性粒子を分散させ、その後に再度混合するので、抵抗値の分布が製造工程の相違により悪影響を受けることがなく、融点の低い熱可塑性樹脂が高温度下に晒されてしまうことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電子電気機器の回路、電池、部品等を保護する過電流保護素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過電流保護素子は、図示しないが、高分子マトリクスである樹脂に導電性粒子を含有した導電性の組成物が一対の金属箔間に挟持されることにより構成され、温度に依存して電気抵抗値を増加させる特性(PTC特性ともいう)を有する素子であり、過電流・過熱保護素子、自己制御型発熱体、温度センサー等として利用されている(特許文献1、2参照)。抵抗値の増大は、結晶性高分子が融解に伴って膨張し、導電性粒子の導電経路を切断するためと考えられている。
【0003】
ところで、過電流保護素子は、上記の中で過電流・加熱保護素子として利用される場合には、製品として出荷される個数が多く、出荷段階の指針となる室温での抵抗値のバラツキの小さいことが特性として求められる。この場合、高分子マトリクス中に導電性粒子を均一に良分散させる必要があるので、高分子マトリクス粒子中に導電性粒子を高せん断分散機を使用して分散させる方法が一般的である。
【特許文献1】米国特許第3243753号公報
【特許文献2】米国特許第3351882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各樹脂メーカから支給される樹脂の融点は様々であるので、良好に溶融分散させるためには、バッチ式の分散方法の場合には、分散のために長時間に及ぶ分散、又連続式押出型分散機による分散方法の場合には、突出量を極端に減らし、分散のための滞留時間を増やすか、数回に渡る分散工程を繰り返し行う等の手法が必要となる。さらに、安定的な溶融状態を得るためには、高分子マトリクスの温度を常時高温に保つ等の手法が必要となる。
【0005】
しかし、係る手法を採用すると、融点の低い樹脂であっても、高温度下に晒されてしまうため、低融点の樹脂においては樹脂の分解、変質等が発生し、過電流保護素子として安定的な配合を得ることがきわめて困難になる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、室温抵抗値のバラツキを少なくすることができる過電流保護素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、高分子マトリクスに導電性粒子を混合した導電性の組成物を複数の導電体間に挟んだものであって、
高分子マトリクスに導電性粒子を混合する場合に、高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合し、導電性粒子の分散混合した各熱可塑性樹脂を所定の混合割合により再度分散混合することにより形成したことを特徴としている。
【0008】
なお、高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する際の温度を、熱可塑性樹脂の融点+10〜50℃の範囲とすることが好ましい。
また、高分子マトリクスを2種以上の熱可塑性樹脂により形成し、導電性粒子をカーボン粒子とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明においては上記課題を解決するため、高分子マトリクスに導電性粒子を混合した導電性の組成物を複数の導電体間に挟んで使用するものの製造方法であって、
高分子マトリクスに導電性粒子を混合する場合に、高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する工程と、導電性粒子の分散混合した各熱可塑性樹脂を所定の混合割合により再度分散混合する工程とを含んでなることを特徴としている。
【0010】
なお、高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する際の温度を、熱可塑性樹脂の融点+10〜50℃の範囲とすることが好ましい。
また、高分子マトリクスを2種以上の熱可塑性樹脂により形成し、導電性粒子をカーボン粒子とすることが好ましい。
【0011】
ここで、特許請求の範囲における高分子マトリクスは、相異なる2種類以上の熱可塑性樹脂からなることが好ましい。本発明に係る過電流保護素子は、少なくとも一次電池、二次電池、携帯電話の充電電池、自動車のモータ、スピーカ、コンピュータ回路の保護等に使用される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、室温抵抗値のバラツキを少なくすることができるという効果がある。
また、導電性粒子を安価なカーボン粒子としたので、優れた耐候性や量産性等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における過電流保護素子及びその製造方法は、図1に示すように、高分子マトリクス1に導電性粒子2を混合した導電性の組成物3と、この薄いシートに成形された組成物3を挟持してリード端子として機能する一対の金属箔4とを備え、第1段階として、高分子マトリクス1に導電性粒子2を混合する場合に、高分子マトリクス1を形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子2を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合し、第2段階として、導電性粒子2の分散混合した熱可塑性樹脂を所定の混合割合により再度分散混合することにより、組成物3を形成するようにしている。
【0014】
高分子マトリクス1は、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンやエチレン‐メタクリル酸共重合体等からなり、2種以上の熱可塑性樹脂が複数使用される。高分子マトリクス1を形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子2を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する際の温度は、熱可塑性樹脂の融点+10〜50℃の範囲、好ましくは熱可塑性樹脂の融点+40〜50℃の範囲が良い。
【0015】
導電性粒子2は、特に限定されるものではなく、例えばカーボン、グラファイト、膨張黒鉛、金や銀等からなる金属微粒子、ポリアニリンやポリアセチレン等からなる導電性ポリマー等が使用される。但し、耐候性等に優れる安価なカーボン粒子の使用が最適である。
【0016】
金属箔4は、圧延された銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、ステンレス、鉄、金、銀、ニッケル等からなり、組成物3に接触する接触面が凹凸に粗面化処理される。この金属箔4の材料は、特に限定されるものではないが、不導体皮膜が形成されにくく、導電性に優れる安価なニッケル等が最適である。
【0017】
上記によれば、過電流保護素子の製造時に、原材料となる複数の熱可塑性樹脂について融点別に導電性粒子を分散させ、その後に再度混合するので、抵抗値の分布が製造工程の相違により悪影響を受けることがなく、融点の低い熱可塑性樹脂が高温度下に晒されてしまうことがない。したがって、低融点の熱可塑性樹脂に分解や変質等が生じることがなく、過電流保護素子としてきわめて安定な配合を得ることができ、過電流保護素子の抵抗値のバラツキが少なくなり、良好な分布を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
実施例‐1
先ず、高分子マトリクスの熱可塑性樹脂と導電性粒子からなる導電材料とを表1に示す配合組成とした。熱可塑性樹脂(1)、(2)については、メーカから支給されたペレットをジェットミルにより16〜100meshの粒度に調整し、樹脂毎に導電材料が50wt%(重量%)になるように配合した。樹脂(1)については、165℃(融点+約40℃)に温度調整された加圧ニーダで20分間分散し、混練物(1)を得た。
【0019】
樹脂(2)については、115℃(融点+約40℃)に温度調整された加圧ニーダで20分間分散し、混練物(2)を得た。この混練物を各々ジェットミルにより16〜100meshの粒度に調整して表1に示す配合組成とし、スーパーミキサ((株)カワタ製)により混合後、170℃に温度調整された加圧ニーダで20分間分散し、混練物を得た。こうして混練物を得たら、この混練物をカレンダー加工機にセットしてシーティングし、厚さ200μmのシートを成形した。
【0020】
次いで、シートの両面に粗面化処理した金属箔をそれぞれサンドイッチしてプレス成形機にセットし、加熱(250℃)、加圧(5kgf/cm2=0.49MPa)して高分子と金属箔を溶融接着させ、総厚400μmのラミネート物を形成した。形成したラミネート物に対して30MRadの電子線を電子線架橋装置により照射し、高分子配合物を架橋させた後、5mm×12mmの大きさに裁断して過電流保護素子を製造した。
【0021】
比較例‐1
先ず、高分子マトリクスの熱可塑性樹脂と導電性粒子からなる導電材料とを表1に示す配合組成とし、熱可塑性樹脂(1)、(2)について、メーカから支給されたペレットをジェットミルにより16〜100meshの粒度に調整した。調整した熱可塑性樹脂の粉末と導電材料とをスーパーミキサ(上記と同様)により混合後、170℃に温度調整された加圧ニーダで40分間分散し、混練物を得た。その他の部分については、実施例‐1と同様とした。
【0022】
比較例‐2
先ず、高分子マトリクスの熱可塑性樹脂と導電性粒子からなる導電材料とを表1に示す配合組成とした。熱可塑性樹脂(1)、(2)については、メーカから支給されたペレットをジェットミルにより16〜100meshの粒度に調整し、樹脂毎に導電材料が50wt%になるように配合した。樹脂(1)については、165℃(融点+約40℃)に温度調整された加圧ニーダで20分間分散し、混練物(1)を得た。
【0023】
樹脂(2)については、165℃(融点+約80℃)に温度調整された加圧ニーダで20分間分散し、混練物(2)を得た。この混練物を各々ジェットミルにより16〜100meshの粒度に調整して表1に示す配合組成とし、スーパーミキサ(上記と同様)により混合後、170℃に温度調整された加圧ニーダで20分間分散し、混練物を形成した。その他の部分については、実施例‐1と同様とした。
【0024】
【表1】

【0025】
特性の測定
実施例、比較例の過電流保護素子をそれぞれ製造したら、これらの抵抗値を測定した。測定に際しては、過電流保護素子に電線を接合してもう一方の端部を抵抗測定器に接続し、抵抗値を測定して表2に、比較例、実施例の初期抵抗(室温23℃での抵抗値)の平均値、及び標準偏差をそれぞれまとめた。また、図2〜図7に実施例、比較例の各ヒストグラムを示した。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例-1の過電流保護素子の場合には、抵抗値の分布が狭く、安定した製品であることが判明した。
これに対し、比較例‐1、‐2の過電流保護素子の場合には、分散状態が不十分なので、抵抗値が広がり、安定した製品を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の実施例‐1を示すヒストグラムの表である。
【図3】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の実施例‐1を示すヒストグラムのグラフである。
【図4】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の比較例‐1を示すヒストグラムの表である。
【図5】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の比較例‐1を示すヒストグラムのグラフである。
【図6】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の比較例‐2を示すヒストグラムの表である。
【図7】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の比較例‐2を示すヒストグラムのグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 高分子マトリクス(熱可塑性樹脂)
2 導電性粒子
3 組成物
4 金属箔(導電体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスに導電性粒子を混合した導電性の組成物を複数の導電体間に挟んだ過電流保護素子であって、
高分子マトリクスに導電性粒子を混合する場合に、高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合し、導電性粒子の分散混合した各熱可塑性樹脂を所定の混合割合により再度分散混合することにより形成したことを特徴とする過電流保護素子。
【請求項2】
高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する際の温度を、熱可塑性樹脂の融点+10〜50℃の範囲とした請求項1記載の過電流保護素子。
【請求項3】
高分子マトリクスを2種以上の熱可塑性樹脂により形成し、導電性粒子をカーボン粒子とした請求項1又は2記載の過電流保護素子。
【請求項4】
高分子マトリクスに導電性粒子を混合した導電性の組成物を複数の導電体間に挟んで使用する過電流保護素子の製造方法であって、
高分子マトリクスに導電性粒子を混合する場合に、高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する工程と、導電性粒子の分散混合した各熱可塑性樹脂を所定の混合割合により再度分散混合する工程とを含んでなることを特徴とする過電流保護素子の製造方法。
【請求項5】
高分子マトリクスを形成する複数の熱可塑性樹脂に導電性粒子を総濃度に対応するようそれぞれ分散混合する際の温度を、熱可塑性樹脂の融点+10〜50℃の範囲とする請求項4記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項6】
高分子マトリクスを2種以上の熱可塑性樹脂により形成し、導電性粒子をカーボン粒子とする請求項4又は5記載の過電流保護素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−216902(P2006−216902A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30661(P2005−30661)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】