説明

遠心圧縮機、及び冷凍装置

【課題】低流量域にも運転範囲の拡大が可能な遠心圧縮機及びこのような遠心圧縮機を備えた冷凍装置を提供する
【解決手段】冷媒を吸入し、圧縮する第2圧縮機構2bであって、翼125a、125bを有するインペラ121と、ケーシング122とを備える。ケーシング122には、インペラ121の回転により吸入される冷媒のメイン流路120と、インペラ121が配置された空間120bに吸い込まれた冷媒の一部を吸入側空間120aに戻す戻り流路124と、冷媒をメイン流路120とは別にケーシング122内に導入するインジェクション導入口123とが形成されている。インジェクション導入口123は、戻り流路124内に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機、及び冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転するインペラにより流体を加速させ圧縮する遠心圧縮機が、冷凍装置等に用いられてきたが、遠心圧縮機には、低流量域での運転に問題がある。即ち、低流量域では、サージングと呼ばれる、インペラの翼の周りに生じる渦、流体の剥離により、流体が失速するという問題がある。そこで、この問題を克服し、低流量域にも運転範囲を拡大する技術の開発が試みられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平5−60097号公報)では、インペラを収容するケーシングに吸入された流体の一部がインペラの途中からインペラの吸入側の空間へ還流する流路を形成することにより、サージングの発生する流量容量を減少させる技術が提案されている。当該従来技術について図5を用いてもう少し具体的に説明すると、ケーシング202の側壁内部に、チャンバ203と呼ばれる空間が設けられており、当該チャンバ203に通じる入口203aとチャンバ203からの出口203bとが、それぞれ側壁のインペラ201に面する位置と、インペラ201の吸入側空間200aに面する位置とに設けられている。インペラ201の回転により吸入される流体の一部は、インペラ201の吐出側空間(デフューザ200b)へ流れる途中で入口203aからチャンバ203内に流入し、出口203bを通ってインペラ201の吸入側空間200aに戻る循環流を形成する。これにより、インペラ201による吸引領域において発生した失速流れを循環流路内へ引き込み、サージングの発生を抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術は、上述の通り流体の循環流を形成させることによりサージングの発生を抑制するものであるが、当該技術では、チャンバ203への流体の引き込み力が弱く、サージングの抑制に十分な循環流を形成させることができない。したがって、今でも、サージングを抑制し、遠心圧縮機の運転範囲を低流量域にも拡大可能にする技術の登場が切望されている。
【0005】
そこで、本発明の課題は、低流量域にも運転範囲の拡大が可能な遠心圧縮機及びこのような遠心圧縮機を備えた冷凍装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る遠心圧縮機は、流体を吸入し、圧縮する遠心圧縮機であって、翼を有するインペラと、ケーシングとを備える。ケーシングには、メイン流路と、戻り流路と、インジェクション導入口とが形成されている。メイン流路は、インペラの回転によって吸入される流体の流路である。戻り流路は、インペラが配置される空間に吸入された冷媒の一部をインペラの吸入側空間に戻す。インジェクション導入口は、メイン流路とは別にケーシング内に流体を導入する。インジェクション導入口は、戻り流路内に形成される。
【0007】
本発明の第1観点に係る遠心圧縮機では、そのケーシングには、ガス状冷媒等の流体のメイン流路と、インペラ配置空間からインペラ吸入側空間へ流体を戻す戻り流路と、メイン流路とは別に流体を導入するインジェクション導入口とが形成されている。インジェクション導入口は、当該戻り流路内に形成されている。その結果、インジェクション導入口から導入される流体の流れによって当該流れ周辺の流体が戻り流路へ吸い込まれる。これにより、流体を戻り流路へ吸い込む力が増し、流体の循環率が向上する。したがって、サージングの発生が抑制され、遠心圧縮機の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となる。
【0008】
本発明の第2観点に係る遠心圧縮機は、第1観点に係る遠心圧縮機であって、インジェクション導入口は、戻り流路内に負圧空間が生成されるように形成される。
【0009】
本発明の第2観点に係る遠心圧縮機では、戻り流路内に負圧空間ができるようにインジェクション導入口が戻り流路内に形成されている。当該負圧により、流体を戻り流路へ吸い込む力が増し、流体の循環率が向上する。したがって、サージングの発生が抑制され、遠心圧縮機の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となる。
【0010】
本発明の第3観点に係る遠心圧縮機は、第2観点に係る遠心圧縮機であって、戻り流路の入口は、インペラが配置される空間に面するケーシングの部位に形成される。インジェクション導入口は、戻り流路の入口の近傍に形成される。
【0011】
本発明の第3観点に係る遠心圧縮機では、インジェクション導入口及び戻り流路の入口が互いに近い場所に形成されている。これにより、戻り流路の入口近傍に負圧空間が生成され、入口に流体が吸い込まれる。その結果、流体の循環率を向上することができる。したがって、サージングの発生が抑制され、遠心圧縮機の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となる。
【0012】
本発明の第4観点に係る冷凍装置は、第1の遠心圧縮機と、第2の遠心圧縮機と、放熱器と、減圧器と、蒸発器とを備える。第1の遠心圧縮機は、流体を吸入し、圧縮して吐出する。第2の遠心圧縮機は、第1の遠心圧縮機が吐出した流体を吸入し、さらに圧縮して吐出する。第2の遠心圧縮機は、本発明の第1観点から第3観点のいずれかに係る遠心圧縮機である。放熱器は、流体の熱を放熱するためのものである。減圧器は、流体の圧力を下げるためのものである。蒸発器は、流体を加熱するためのものである。流体の一部は、インジェクション導入口を介して第2の遠心圧縮機に導入される。
【0013】
本発明の第4観点に係る冷凍装置では、流体の一部がインジェクション導入口を介して第2の遠心圧縮機の戻り流路内に導入される。流体の一部とは、放熱器から減圧器に向かう途中の高圧の流体の一部を分岐させた後、中間圧にまで減圧した流体である。これにより、戻り流路を介した流体の循環率を向上することができ、サージングの発生が抑制される。したがって、運転範囲を低流量域に拡大が可能な遠心圧縮機を備えた冷凍装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1観点から第3観点に係る遠心圧縮機では、サージングの発生が抑制され、遠心圧縮機の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となる。
【0015】
本発明の第4観点に係る冷凍装置では、運転範囲を低流量域に拡大が可能な遠心圧縮機を備えた冷凍装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る遠心圧縮機が採用された冷凍装置1の概略構成図。
【図2】二段遠心圧縮機2の概略断面図。
【図3】図2の一部分の拡大図。
【図4】変形例1Aにかかる冷凍装置300の概略構成図。
【図5】従来技術に係る遠心圧縮機の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)冷凍装置1の全体構成
図1は、本発明に係る遠心圧縮機の一例である二段遠心圧縮機2が採用された冷凍装置1の概略構成図である。冷凍装置1は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルによって空調等を行なう装置である。冷凍装置1は、主として、二段遠心圧縮機2、熱源側熱交換器3、エコノマイザ回路7、膨張機構4、利用側熱交換器5を有しており、これらの機器が接続されることによって流体、即ち気体、液体、或いはこれらの混合である冷媒が循環する冷媒回路を構成している。図中の矢印は、当該回路内の冷媒の流れ方向を示している。ここでは、冷媒として二酸化炭素が使用されている。なお、冷媒回路は、主冷媒回路と、エコノマイザ回路7とによって構成されている。
【0018】
(1−1)二段遠心圧縮機2の概略構成
二段遠心圧縮機2は、本実施形態では、第1圧縮機構2aと第2圧縮機構2bとが互いに直列に接続されて冷媒を段階的に圧縮するように構成されている。第1圧縮機構2aの吸入口(図1の点A)には、利用側熱交換器5から流れ出た冷媒を吸入できるように吸入管11aが接続されている。第1圧縮機構2aの吐出口と第2圧縮機構2bの吸入口(図1の点B)とは、中間連結流路11bによって接続されている。第2圧縮機構2bの吐出口には、吐出管11cが接続されており、第2圧縮機構2bにより圧縮された冷媒は、当該吐出管11cを介して熱源側熱交換器3に向けて吐出される。
【0019】
(1−2)熱源側熱交換器3
熱源側熱交換器3は、二段遠心圧縮機2によって圧縮された高圧の冷媒の熱を放熱させる放熱器である。熱源側熱交換器3では、冷却源としての空気と、熱源側熱交換器3内を流れる冷媒との間で熱交換が行われる。なお、熱源側熱交換器3を通過する空気流れは、図示しないファンによって生成される。熱源側熱交換器3の一端には、第1高圧冷媒管12a及び吐出管11cを介して、二段遠心圧縮機2に接続されている。第1高圧冷媒管12aは、熱源側熱交換器3の入口と、吐出管11cとに接続される冷媒管である。熱源側熱交換器3の他端、即ち出口には、第2高圧冷媒管12bが接続されている。第2高圧冷媒管12bの先には、後述するエコノマイザ熱交換器6が接続されている。また、第2高圧冷媒管12bの途中には、エコノマイザ回路分岐管7aが接続されており、主冷媒回路から後述するエコノマイザ回路7に分岐している。
【0020】
(1−3)エコノマイザ回路7
エコノマイザ回路7は、主に、前述のエコノマイザ回路分岐管7a、膨張弁7b、中間圧冷媒管7c、及びエコノマイザ熱交換器6から構成されている。
【0021】
エコノマイザ回路分岐管7aは、前述のとおり、第2高圧冷媒管12bから冷媒を分岐させ、膨張弁7bと接続する。
【0022】
膨張弁7bは、開度制御が可能な戻し弁として機能する電動膨張弁である。膨張弁7bの開度制御は、冷媒回路に設けられた各種センサ(図示せず)から得られるデータに基づいてマイコン(図示せず)によって行われる。膨張弁7bにより、第2高圧冷媒管12bから分岐した高圧の冷媒の圧力が中間圧にまで減圧される。減圧された冷媒は、気液二相状態となり、膨張弁7bに接続された中間圧冷媒管7c内を通ってエコノマイザ熱交換器6に向けて流れる。なお、中間圧とは、第2高圧冷媒管12b内を流れる冷媒の圧力よりは低く、後述する第1低圧冷媒管14a内を流れる冷媒の圧力よりは高い圧力である。
【0023】
エコノマイザ熱交換器6では、熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる主冷媒回路の高圧の冷媒が、エコノマイザ回路7の中間圧冷媒管7c内を流れる中間圧の冷媒との熱交換によって冷却される。中間圧冷媒管7c内を流れる中間圧の冷媒は、一時的に気液二相状態で流れながら、熱源側熱交換器6から膨張機構4に送られる主冷媒回路の高圧の冷媒との熱交換によって加熱されて蒸発する。蒸発した中間圧の冷媒は、後述する第2圧縮機構2bに形成されたインジェクション導入口123に接続されたインジェクション管22内を通って第2圧縮機構2bに導入される。
【0024】
(1−4)膨張機構4
膨張機構4は、例えば、電動膨張弁であり、熱源側熱交換器3及びエコノマイザ熱交換器6において冷却された高圧の冷媒を、利用側熱交換器5に送る前に、冷凍サイクルにおける低圧付近まで減圧する減圧器として機能する。膨張機構4の一端は、第3高圧冷媒管12cを介して、エコノマイザ熱交換器6に接続されている。膨張機構4は、第1低圧冷媒管14aを介して、利用側熱交換器5に接続されている。
【0025】
(1−5)利用側熱交換器5
利用側熱交換器5は、膨張機構4によって減圧された低圧の冷媒を加熱して蒸発させる蒸発器である。利用側熱交換器5は、冷却対象としての空気と、利用側熱交換器5内を流れる冷媒との間で熱交換をさせる。なお、利用側熱交換器5を通過する空気流れは、図示しないファンによって生成される。利用側熱交換器5を通った冷媒は、第2低圧冷媒管14b、及び、吸入管11aを介して、二段遠心圧縮機2へ流れる。
【0026】
(2)二段遠心圧縮機2の詳細構成
図2は、二段遠心圧縮機2の概略断面図である。二段遠心圧縮機2は、前述のとおり互いに直列に接続された第1圧縮機構2a及び第2圧縮機構2bのほか、各圧縮機構に設けられた後述するインペラ111、121の回転軸101、および回転軸101を回転駆動する図示しないモータを主に有する。なお、図2においてインペラの回転中心をO、回転軸線をO−Oとし、回転軸線O−Oに沿う方向を軸方向又は前後方向とする。そして、図に示すとおり吸入側を前とし、その反対側を後とする。即ち、第1圧縮機構2aは、第2圧縮機構2bの前に位置し、第2圧縮機構2bは、第1圧縮機構2aの後に位置する。
【0027】
第1圧縮機構2aは、主として、ケーシング112及び翼115を有するインペラ111を有する。第2圧縮機構2bは、主として、ケーシング122及び翼125a、125bを有するインペラ121を有する。以下、第1圧縮機構2aと第2圧縮機構2bとは、主に後述するインジェクション導入口123の有無が異なるほかは同様の構成を有するので、第2圧縮機構2bについて説明することとし、第1圧縮機構2aの説明は、省略する。
【0028】
(2−1)インペラ121
インペラ121は、ケーシング122により覆われた空間内に配置されており、主として、ハブ121aと、ハブ121aの前面側でかつ径方向外側に配置された複数の主翼125a、及び主翼125aよりも小さい補助翼125bを有しており、ハブ121aの前後方向に延びる回転軸101を軸心として回転する。なお、主翼125aおよび補助翼125bをまとめて指す場合は、翼125a、125bと呼ぶことにする。
【0029】
ハブ121aは、その前方から後方に向けて拡径する略円錐形状を有しており、回転軸101と一体回転するように回転軸101に軸支されている。
【0030】
インペラ121は、モータが駆動することで、回転し、二酸化炭素冷媒を中間連結流路11bから吸入し、圧縮して高圧とした後、吐出管11c(図1参照)に向けて吐出する。この際、各翼125a、125bの前方でかつ径方向外側の部分は、インペラ121が回転することにより、ケーシング122の対向面の近傍を沿うように移動する。これにより、冷媒の流速が増した状態で吐出され、デフューザと呼ばれる吐出側空間120cにおいて速度エネルギが圧力のエネルギに変換されることにより高圧冷媒となる。
【0031】
(2−2)ケーシング122
ケーシング122には、主として、メイン流路120、戻り流路124、及びインジェクション導入口123が形成されている。
【0032】
(2−2−1)メイン流路120
図3は、図2の第2圧縮機構2bの部分を拡大した図である。メイン流路120は、中間連結流路11bの出口と接合する吸入口Bから第2圧縮機構2bへ吸入された冷媒が主に通る流路であり、インペラ121の吸入側にあるインフューザと呼ばれる吸入側空間120aからインペラ121が配置された空間(以下、インペラ配置空間120bとする)を通って、インペラ121の吐出側にあるデフューザと呼ばれる吐出側空間120cへと通じている。即ち、冷媒は、吸入側空間120aから図3の矢印D1方向へ流れ、インペラ配置空間120bを通過し、吐出側空間120cに向けて矢印D2方向へ流れる。吐出側空間120cの先には、冷媒を整流するためのスクロール室120dが設けられている。
【0033】
(2−2−2)戻り流路124
戻り流路124は、インペラ配置空間120bに吸入された冷媒の一部を吸入側空間120aに戻す流路である。戻り流路124は、図2における前後方向に長く延びるように形成されており、その前後方向に沿った断面(縦断面)は、図2に示されているように略長方形の形状をしている。戻り流路124の入口124aは、インペラ配置空間120bに面するケーシング122の側壁に形成されている。具体的には、当該入口124aは、側壁のインペラ121の補助翼125bの頭(図2の破線)、即ち最も前方に位置する補助翼125bの端部、に対向する位置に形成されている。当該入口124aの位置は、略長方形をした戻り流路124の縦断面の後側の短辺S2近傍でもある。戻り流路124は、冷媒が当該入口124aからケーシング122の側壁内部を前に向けて、即ち吸入側空間120aを流れる冷媒とは逆の方向(図3の矢印D4方向)に流れるように形成され、その出口124bは、略長方形をした戻り流路124の縦断面の前側の短辺S1近傍からケーシング122の側壁の吸入側空間120aに面する部位に開口するように形成されている。
【0034】
なお、図2において、第1圧縮機構2aのケーシング112には、戻り流路124が図示されていないが、ケーシング122と同様にケーシング112に戻り流路を設けてもよい。
【0035】
(2−2−3)インジェクション導入口123
インジェクション導入口123は、第2高圧冷媒管12bの途中において主冷媒回路からエコノマイザ回路7へ分岐した冷媒が、インジェクション管22を介して、第2圧縮機構2bのケーシング122内へ導入される導入口である。インジェクション導入口123は、戻り流路124内に形成されている。したがって、冷媒は、インジェクション導入口123から戻り流路124に流入し、戻り流路124の出口124bから吸入側空間120aへ出る。つまり、エコノマイザ回路7へ分岐した冷媒は、中間連結流路11bからメイン流路120へ吸入される主冷媒回路の冷媒とは別にケーシング122内に導入される。
【0036】
インジェクション導入口123は、インジェクション導入口123から導入される冷媒の流れにより、戻り流路124内の入口124a近傍に負圧空間Vができるように形成されている。具体的には、インジェクション導入口123は、略長方形をした戻り流路124の縦断面の後側の短辺S2に、前側の短辺S1に対向するように、即ち図3に示す矢印D6のようになるべく角度を付けずに冷媒がインジェクション導入口123から当該前側の短辺S1に向けて流れるように形成されている。したがって、インジェクション導入口123から導入された冷媒は、スムーズに出口124bのある前に向けて矢印D6方向に流れ、周辺の冷媒が当該流れに引き込まれる。これにより、戻り流路124内のインジェクション導入口123近傍に負圧空間Vが形成される。インジェクション導入口123は、戻り流路124の入口124aに近い位置にあるから、当該負圧空間は、入口124a近傍に形成される。その結果、インペラ121により吸い込まれ、インペラ121とインペラ配置空間120bに面したケーシング122の側壁との間を流れる冷媒の一部は、戻り流路124の入口124aへ矢印D3方向に吸い込まれる。
【0037】
(3)冷媒の流れ
以下、第2圧縮機構2bにおける冷媒の流れについて説明する。
【0038】
第1圧縮機構2aにより中間圧に圧縮された冷媒は、中間連結流路11bを通って、第2圧縮機構2bの吸入口Bからケーシング122内に吸入される。冷媒は、インペラ121の吸入側にある吸入側空間120aからインペラ121の回転により矢印D1方向へ吸入され、インペラ配置空間120bを通って、矢印D2方向にインペラ121の吐出側にある吐出側空間120cへ流速が増した状態で流れ出る。流れ出た冷媒は、前述したとおり高圧に圧縮され高圧冷媒となる。
【0039】
インペラ配置空間120bを通る冷媒の一部は、矢印D3方向に入口124aから戻り流路124へ流入する。戻り流路124へ流入した冷媒は、戻り流路124内を矢印D4方向へ流れ、出口124bから矢印D5方向に吸入側空間120aへ流れ出、再びインペラ121の回転によりインペラ配置空間120bへ吸入される。
【0040】
また、中間連結流路11bの出口、即ち吸入口Bから吐出側空間120cへと続くメイン流路120とは別に、エコノマイザ回路7へ分岐した中間圧の冷媒がインジェクション導入口123から戻り流路124へ流入する。インジェクション導入口123から流入した冷媒は、戻り流路124内を矢印D6方向に出口124bへ向かって流れ、出口124bから吸入側空間120aへ出る。そして、冷媒は、インペラ121の回転によりインペラ配置空間120bへ吸入される。
【0041】
ここで、インジェクション導入口123から流入し、戻り流路124内を出口124bへ向かって流れる冷媒の矢印D6方向への流れにより、当該流れ近傍に存在する冷媒が当該流れに引き込まれる。その結果、戻り流路124内のインジェクション導入口123近傍に負圧空間Vが生じる。インジェクション導入口123は、戻り流路124の入口124a近傍に形成されているから、当該負圧空間Vは、入口124a近傍に生じる。入口124a近傍に負圧空間が生じることにより、メイン流路120を流れる冷媒が、矢印D3方向に入口124aへ吸い込まれ易くなる。その結果、戻り流路124を流れる冷媒の量が増加する、即ち、戻り流路124を介した冷媒の循環率が向上する。前述したとおり冷媒の循環により、インペラ121の翼125a、125bの途中、即ち翼125a、125bの頭より後方に生じる渦、剥離、即ちサージング、による失速領域の除去が促進されるから、第2圧縮機構2b、即ち二段遠心圧縮機2の運転範囲をより低流量側へ拡大することが可能となる。また、冷媒の一部を戻り流路124へ分岐させると、分岐させない場合と比べて成績係数(COP)が低下することになるが、インジェクション導入口123から冷媒を導入することによりCOPが向上することが期待できる。さらに、インジェクション導入口123から導入される冷媒が飽和状態であっても、戻り流路124を介して循環する冷媒と混合されることで、インジェクション導入口123から導入される冷媒に過熱をつけることが可能になり、インジェクション導入口123から導入される冷媒の湿りによるインペラ121の破壊を防止できるという効果もある。
【0042】
なお、戻り流路124を流れる冷媒の量を調節するには、即ち冷媒の循環率を調節するには、膨張弁7bの開度を調節し、インジェクション導入口123から導入される冷媒の流量を調節すれば良い。インジェクション導入口123の大きさは、固定であるから、インジェクション導入口123から導入される冷媒の流量を増やせば、当該冷媒の流速が増し、当該冷媒の流れによる周辺の冷媒を吸込む力を増すことが出来る。
【0043】
(4)特徴
(4−1)
上記実施形態では、二段遠心圧縮機2の第2圧縮機構2bは、翼125a、125bを有するインペラ121と、ケーシング122とを備える。ケーシング122には、インペラ121の回転により吸入される冷媒のメイン流路120と、インペラ配置空間120bに吸い込まれた冷媒の一部を吸入側空間120aに戻す戻り流路124と、エコノマイザ回路7に分岐した中間圧の冷媒をメイン流路120とは別にケーシング122内に導入するインジェクション導入口123とが形成されている。インジェクション導入口123は、戻り流路124内に形成されている。
【0044】
これにより、上記実施形態では、インジェクション導入口123から戻り流路124内へ流れ込む冷媒の流れに引き込まれることにより、冷媒が戻り流路124内へ吸い込まれ易くなり、戻り流路124への冷媒の吸込力が増し、冷媒の循環率が向上する。その結果、サージングの発生が抑制され、二段遠心圧縮機2の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となっている。
【0045】
(4−2)
また、上記実施形態では、インジェクション導入口123は、戻り流路124内において、略長方形をした戻り流路124の縦断面の後側短辺S2に、前側短辺S1に対向するように形成されている。即ち、インジェクション導入口123から戻り流路124内に流れる冷媒が、図3の矢印D6で示すように、当該略長方形の前側短辺S1に向けて、角度をなるべく付けずにスムーズに流れるように形成されている。これにより、インジェクション導入口123からの冷媒の矢印D6方向への流れに当該流れ周辺の冷媒が吸い込まれ、戻り流路124内に負圧空間Vが形成されるようになっている。よって、より多くの冷媒が戻り流路124内へ吸い込まれ、冷媒の循環率が向上するようになっている。その結果、サージングの発生が抑制され、二段遠心圧縮機2の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となっている。
【0046】
(4−3)
また、上記実施形態では、インジェクション導入口123は、戻り流路124内において、戻り流路124の入口124a近傍に形成されている。これにより、戻り流路124の入口124a近傍に負圧空間Vが生成され、入口124aに冷媒が吸い込まれ易くなる。よって、冷媒の循環率を向上することができる。その結果、サージングの発生が抑制され、二段遠心圧縮機2の運転範囲を低流量域に拡大することが可能となっている。
【0047】
(4−4)
また、上記実施形態では、サージングの発生が抑制され、運転範囲を低流量域に拡大することが可能な二段式遠心圧縮機2を備えた冷凍装置1を提供することが可能となっている。
【0048】
(5)変形例
(5−1)変形例1A
上記実施形態においては、冷凍装置1の冷媒回路は、冷房或いは冷却時の冷媒の流れを示しているが、他の実施形態においては、本発明に係る遠心圧縮機及び冷凍装置を暖房或いは加熱に適用しても良い。例えば、冷凍装置1を図4に示す冷凍装置300のように変形し、冷房及び暖房の両方が可能なようにしても良い。
【0049】
冷凍装置300は、冷凍装置1と同様に、二段式遠心圧縮機2、熱源側熱交換器303、エコノマイザ熱交換器306を含むエコノマイザ回路307、膨張機構304、及び利用側熱交換器305を備えている。冷凍装置300は、このほか、四路切換弁310a及び四路切換弁310bを備えている。
【0050】
四路切換弁310aは、二段式遠心圧縮機2、熱源側熱交換器303、及び利用側熱交換器305間の接続を切り替える。即ち、冷房時には、四路切換弁310aは、二段式遠心圧縮機2の吐出口と熱源側熱交換器303とを、冷媒管311c及び冷媒管312aを介して接続する。また、二段式遠心圧縮機2の吸入口Aと利用側熱交換器305とを、冷媒管311a及び冷媒管314bを介して接続する。一方、暖房時には、四路切換弁310aは、二段式遠心圧縮機2の吐出口と利用側熱交換器305とを、冷媒管311c及び冷媒管314bを介して接続する。また、二段式遠心圧縮機2の吸入口Aと熱源側熱交換器303とを、冷媒管311a及び冷媒管312aを介して接続する。
【0051】
四路切換弁310bは、膨張機構304、熱源側熱交換器303、及び利用側熱交換器305間の接続を切り替える。即ち、冷房時には、四路切換弁310bは、熱源側熱交換器303と膨張機構304の入口とを、冷媒管312b、冷媒管312c、エコノマイザ熱交換器306、及び冷媒管312dを介して接続する。また、膨張機構304の出口と利用側熱交換器305とを、冷媒管313、及び冷媒管314aを介して接続する。一方、暖房時には、四路切換弁310bは、利用側熱交換器305と膨張機構304の入口とを、冷媒管314a、冷媒管312c、エコノマイザ熱交換器306、及び冷媒管312dを介して接続する。また、膨張機構304の出口と熱源側熱交換器303とを、冷媒管313、及び冷媒管312bを介して接続する。
【0052】
次に、冷凍装置300における冷媒の流れを、図4を参照しながら説明する。図4において四路切換弁310a及び310b中の実線は、冷房時の冷媒の流れを示している。冷凍装置300における冷房時の冷媒の流れは、冷凍装置1と同様であり、上記実施形態において既に説明しているから、説明を省略する。以下では、四路切換弁310a及び310b中の点線で示された暖房時の冷媒の流れを説明する。
【0053】
暖房時には、二段式遠心圧縮機2にて高圧に圧縮された冷媒は、二段式遠心圧縮機2の吐出口から冷媒管311c、四路切換弁310a、及び冷媒管314bを介して利用側熱交換器305へ流れる。利用側熱交換器305では、高圧冷媒と空気との間で熱交換が行われ、高圧冷媒の熱が放熱される。この際、高圧冷媒は、凝縮され液体となる。なお、利用側熱交換器305を通過する空気の流れは、図示しないファンにより生成される。
【0054】
利用側熱交換器305を出た高圧冷媒は、冷媒管314a、四路切換弁310b、及び冷媒管312cを介してエコノマイザ熱交換器306へ流れる。冷媒管312cを流れる冷媒の一部は、途中でエコノマイザ回路307へ分岐する。エコノマイザ回路307へ分岐した冷媒は、膨張弁307bにより中間圧にまで減圧され、冷媒管307cを介してエコノマイザ熱交換器306へ流れる。エコノマイザ熱交換器306では、冷媒管312cから流入した高圧冷媒と、冷媒管307cから流入した中間圧の冷媒との間で熱交換される。その後、冷媒管307cから流入した中間圧の冷媒は、インジェクション管322を介して、二段式遠心圧縮機2のインジェクション導入口123へ流れる。冷媒管312cから流入した高圧冷媒は、冷媒管312dを介して膨張機構304へ流れる。
【0055】
膨張機構304では、高圧冷媒が冷凍サイクルの低圧付近まで減圧される。減圧された低圧冷媒は、冷媒管313、四路切換弁310b、及び冷媒管312bを介して熱源側熱交換器303へ流れる。
【0056】
熱源側熱交換器303では、低圧冷媒と空気との間で熱交換が行われ、低圧冷媒が加熱され蒸発する。熱源側熱交換器303を通過する空気の流れは、図示しないファンにより生成される。低圧の気体となった冷媒は、熱源側熱交換器303を出て、冷媒管312a、四路切換弁310a、及び冷媒管311aを介して二段式遠心圧縮機2の吸入口Aへ流れる。
【0057】
(5−2)変形例1B
上記実施形態においては、第1圧縮機構2aのケーシング112には、戻り流路が形成されていないが、他の実施形態においては、ケーシング112に戻り流路が形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る遠心圧縮機及び冷凍装置は、冷媒の低流量範囲で運転する冷凍装置において特に有用である。
【符号の説明】
【0059】
1、300 冷凍装置
2 二段遠心圧縮機
2a 第1圧縮機構(第1の遠心圧縮機)
2b 第2圧縮機構(第2の遠心圧縮機)
3、303 熱源側熱交換器(放熱器、蒸発器)
4、304 膨張機構(減圧器)
5、305 利用側熱交換器(蒸発器、放熱器)
120 メイン流路
120a 吸入側空間
120b インペラ配置空間
121 インペラ
122 ケーシング
123 インジェクション導入口
124 戻り流路
124a 入口
125a、125b 翼
V 負圧空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特開平5−60097号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吸入し、圧縮する遠心圧縮機(2b)であって、
翼を有するインペラ(121)と、
ケーシング(122)と、
を備え、
前記ケーシング(122)には、
前記インペラ(121)の回転によって吸入される前記流体の流路であるメイン流路(120)と、
前記インペラ(121)が配置される空間(120b)に吸入された前記冷媒の一部を前記インペラ(121)の吸入側空間(120a)に戻す戻り流路(124)と、
前記メイン流路(120)とは別に前記ケーシング(122)内に前記流体を導入するインジェクション導入口(123)と、
が形成され、
前記インジェクション導入口(123)が、前記戻り流路(124)内に形成された、
遠心圧縮機(2b)。
【請求項2】
前記インジェクション導入口(123)は、前記戻り流路(124)内に負圧空間(V)が生成されるように形成された、
請求項1に記載の遠心圧縮機(2b)。
【請求項3】
前記戻り流路(124)の入口(124a)は、前記インペラ(121)が配置される空間(120b)に面する前記ケーシング(122)の部位に形成され、
前記インジェクション導入口(123)は、前記戻り流路(124)の入口(124a)の近傍に形成された、
請求項2に記載の遠心圧縮機(2b)。
【請求項4】
流体を吸入し、圧縮して吐出する第1の遠心圧縮機(2a)と、
前記第1の遠心圧縮機が吐出した前記流体を吸入し、さらに圧縮して吐出する請求項1〜3のいずれかに記載の遠心圧縮機である第2の遠心圧縮機(2b)と、
前記流体の熱を放熱するための放熱器と、
前記流体の圧力を下げる減圧器(4、304)と、
前記流体を加熱するための蒸発器と、
を備え、
前記流体の一部が前記インジェクション導入口(123)を介して前記第2の遠心圧縮機(2b)に導入される、
冷凍装置(1、300)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76389(P2013−76389A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218010(P2011−218010)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】