説明

遠心圧縮機におけるディフューザの構造

【課題】シュラウド壁の流路面側に生じる圧縮流体の逆流を効果的に抑制することのできる遠心圧縮機のディフューザの構成を提供する。
【解決手段】遠心圧縮機におけるディフューザの構造であって、シュラウド壁9とハブ壁11との間に形成されたディフューザ流路7の前記シュラウド壁9側の入口付近における流体の逆流を抑制するために、前記シュラウド壁9におけるディフューザ流路7の入口部分に前記ディフューザ流路7を急絞りするための凸状の絞り曲面31を備え、この絞り曲面31と前記シュラウド壁9における平面部13との接続部29における前記絞り曲面31の径方向の接線は、前記シュラウド壁9の平面部13とほぼ一致してあり、前記絞り曲面31の断面形状は、円弧状を呈する曲面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心圧縮機におけるディフューザの構造に係り、さらに詳細には、ディフューザ流路のシュラウド壁側の入口付近における流体の逆流を効果的に抑制することのできるディフューザの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を圧縮するための遠心圧縮機として、例えばターボチャージャーにおけるコンプレッサ等が知られている。この種の遠心圧縮機は、よく知られているように、ハウジング(ケーシング)内には、複数の羽根を備えたインペラが回転自在に備えられており、前記インペラの周囲のケーシングには、当該インペラの回転によって放射外方向へ流動される圧縮流体の動圧を静圧に変換するディフューザ流路が備えられている。このディフューザ流路は、前記ケーシングに備えられたシュラウド壁面とハブ壁面との間に形成されている。前記シュラウド壁面とハブ壁面との対向面は環状であってかつ平面に形成してあるのが一般的である。
【0003】
上記構成において、前記インペラを回転して圧縮流体を前記ディフューザ流路に導入するとき、ディフューザ流路の入口付近であってシュラウド壁面には圧縮流体の流れに逆流が生じやすく、またシュラウド壁面からの圧縮流体の剥離が生じやすいことが知られている。そこで、上記剥離を抑制するために、前記ディフューザ流路の入口にテーパ状の絞りを形成し、圧縮流体を増速して前記剥離を抑制することが行われている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開昭56−60899号公報
【特許文献2】特開平5−340396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1,2に記載の構成においては、前記テーパ状の絞りの面は、断面形状で見ると直線を呈するものである。したがって、前記ディフューザ流路へ導入される圧縮流体を、ディフューザ流路の入口付近において増速し整流して、シュラウド壁面からの圧縮流体の剥離を抑制する効果がある。しかし、前記ディフューザ流路は前記インペラから放射方向に拡大する流路であるから、前記テーパ状の絞り面は、放射外方向ほどディフューザに対向する面積が大きくなるものであり、大きな絞り効果を得るには、テーパ状の絞り面の傾斜を急勾配にする必要がある。しかし、絞り面を急勾配に形成すると、ディフューザ流路を形成するシュラウド壁面,ハブ壁面と前記絞り面との接続部に不連続が生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述のごとき問題に鑑みてなされたもので、遠心圧縮機におけるディフューザの構造であって、シュラウド壁とハブ壁との間に形成されたディフューザ流路の前記シュラウド壁側の入口付近における流体の逆流を抑制するために、前記シュラウド壁におけるディフューザ流路の入口部分に前記ディフューザ流路を急絞りするための凸状の絞り曲面を備え、この絞り曲面と前記シュラウド壁における平面部との接続部における前記絞り曲面の径方向の接線は、前記シュラウド壁の平面部とほぼ一致してあることを特徴とするものである。
【0006】
また、前記遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面の断面形状は、円弧状を呈する曲面であることを特徴とするものである。
【0007】
また、前記遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面の断面形状は、前記ディフューザ流路の入口側の曲率よりも前記シュラウド壁の平面部との接続部側の曲率が小さいことを特徴とするものである。
【0008】
また、前記遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面は複数の平面を連続的に接続した構成であって、全体として凸状の曲面に形成してあることを特徴とするものである。
【0009】
また、前記遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面の断面形状において当該絞り曲面の始点と終点とを結ぶ直線から前記絞り曲面までの距離が最大である部分は、前記直線の中間点よりも前記ディフューザ流路の入口側である前記始点側に偏在した位置にあることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記ディフューザ流路高さが羽根車出口翼高さ比で0.5〜1.0であり、ディフューザ平行壁の開始位置が羽根車外径比で1.05〜1.5であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インペラの回転によって放射外方向へ流動されてディフューザ流路内へ流入する圧縮流体は、ディフューザ流路の入口部分に備えた凸状の絞り曲面によって急激に絞られて増速し整流されるのでシュラウド壁面においての圧縮流体の逆流を効果的に抑制することができるものである。すなわち、凸状の絞り曲面であることにより、従来のテーパ状の絞り面に比較して絞りが急激に行われるものである。そして、凸状の絞り曲面とシュラウド壁面の平面部は連続した接続であるから、圧縮されて高速の流体の流れに悪影響を与えるようなことがなく、前記逆流をより効果的に抑制することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。例えばターボチャージャーにおけるコンプレッサ等として知られる遠心圧縮機の全体的構成は公知であるから、遠心圧縮機の全体的構成についての説明は省略して、主要部の構成について説明する。
【0013】
図1を参照するに、遠心圧縮機(全体的構成は図示省略)におけるケーシング(ハウジング)1内には、複数の羽根3を備えたインペラ5が回転自在に備えられている。なお、インペラ5の構成は従来の遠心圧縮機におけるインペラの構成と同様の構成であるから、インペラ5の構成についての詳細な説明は省略する。このインペラ5の周囲の前記ケーシング1には、当該インペラ5の回転によって放射外方向へ流動される圧縮流体の動圧を静圧に変換するディフューザ流路7が備えられている。
【0014】
このディフューザ流路7は放射方向に拡大する流路であって、前記ケーシング1に備えたシュラウド壁9とハブ壁11との間に形成されている。前記シュラウド壁9とハブ壁11とが互いに対向したそれぞれの流路面13,15はそれぞれ環状の平面に形成してあり、かつ互いに平行な平面である。そして、上記流路面13,15の間に前記ディフューザ流路7が形成されている。
【0015】
前記ハブ壁11における前記流路面15は、前記インペラ5における円板状の心板17の内面17Fとほぼ同一平面に形成してある。したがって、前記インペラ5の回転によって前記内面17Fに沿って放射外方向へ流動される圧縮流体は、前記ハブ壁11の流路面15に沿って円滑に流動するものである。
【0016】
前記シュラウド壁9において前記羽根3に対向した羽根対向面19は羽根3の先端辺21の曲線に倣った曲面に形成してあり、この羽根対向面19と羽根3との間には微小間隙23が形成してある。そして、前記羽根対向面19の外周縁は前記羽根3の出口先端部25に対応した先端部対応位置27に一致しており、この先端部対応位置27と前記シュラウド壁9における流路面13の内周縁29との間には凸状の絞り曲面31が形成してある。
【0017】
前記絞り曲面31は、前記羽根3の出口先端部25付近から放射外方向に拡大した前記ディフューザ流路7を急激に絞る機能を奏するものである。この絞り曲面31は、断面形状で示すと、図1に示すように、前記先端部対応位置27側を始点とし、前記内周縁29側を終点とした場合に、上記始点と終点とを結ぶ直線L(テーパ面)よりも内方向(ディフューザ流路7を絞る方向)へ突出した凸状の曲面に形成してある。
【0018】
そして、図1に示す実施形態においては、前記絞り曲面31は半径が一定の円弧状の凸曲面で表わしてあり、この絞り曲面31と前記シュラウド壁13の流路面(平面)13との接続部である前記内周縁29においての、絞り曲面31の放射方向の接線は前記流路面13とほぼ一致してある。
【0019】
既に理解されるように、前記ディフューザ流路7の流路高さH1(シュラウド壁9の流路面13とハブ壁11の流路面15との間隔高さ)は、羽根車出口翼高さH2(羽根3における出口先端部25の高さ)以下であり、その比は0.5〜1.0の範囲に設定してある。また、前記シュラウド壁9における流路面13の内周縁29の位置は、インペラ5の外径比で1.05〜1.5の間に設定してある。
【0020】
ところで、前記流路高さH1と羽根車高さH2との比が「1」の場合は、前記微小間隙23の分を急絞りする構成となる。
【0021】
以上のごとき構成において、前記インペラ5を回転すると、圧縮流体が放射外方向に流動されて前記ディフューザ流路7に流入することになる。この際、インペラ5に備えた羽根3の先端辺21とシュラウド壁9における羽根対向面19との間には微小間隙23が存在するので、この微小間隙23内の流体は、羽根3の回転によって放射外方向に流動される圧縮流体の流動に対して遅れる流動であって、圧縮流体の全体的な流動方向に見て相対的に逆流した流れとなり損失の原因になる。
【0022】
そこで、前記逆流を制御するには、ディフューザ流路7の入口部に絞り流路を形成して、圧縮流体を絞って増速することが行われている。特にディフューザ流路7の入口部のシュラウド壁9側近傍の流れを局所的に大きく増速することが行われている。ここで、絞り流路の構成が前記直線Lで示されるテーパ面の場合と、絞り流路の構成が前記絞り曲面31で示される構成の場合とについて流れを計算し、速度分布をシュミレーションした結果は、図2(A),(B)に示すとおりであった。図中、矢印の方向は流体の流れ方向を示し、長さは流速を示す。インペラ5に備えた羽根3の出口先端部25の位置に至るまでは、図2(A),(B)に示すように、微小間隙23に相当する部分においては圧縮流体の逆流が同様に生じている。
【0023】
ここで、図2(B)より明らかなように、絞り曲面31の部分においては、ディフューザ流路7が急激に絞られて圧縮流体の流速が増速されて整流されるので、前記出口先端部25の位置から寸法Aの短い範囲において前記逆流が速やかに抑制されている。これに対し、図2(A)より明らかなように、前記直線Lで示されるテーパ面による絞り流路の場合には、ディフューザ流路7の入口の絞りは、前記絞り曲面31の場合に比較して緩やかであり、前記逆流が抑制されるには、前記出口先端部25の位置から寸法Bであって、前記寸法Aよりもかなり大きな寸法である。
【0024】
上記構成により、ディフューザ流路7内においてシュラウド壁9の流路面13に生じる圧縮流体の相対的な逆流を速やかに抑制するには、断面形状で直線Lで表わされる場合よりも凸状の絞り曲面31で表わされる場合の方が効果的であることがわかる。したがって、絞り流路が図2(A)で示されるテーパ面の場合よりも、図2(B)で示される絞り曲面31の場合の方が損失が小さくなるものである。なお、絞り曲面31の曲率は、圧縮流体の流量変化や流速変化などの条件によって異なるもので、使用条件によって適正な曲率を実験的に選択することが望ましいものである。
【0025】
図3は第2の実施形態を示すもので、この実施形態においては、前記絞り曲面31の断面形状は、前記ディフューザ流路7の入口側の曲面31Aの曲率よりも、前記シュラウド壁9の前記流路面(平面部)13との接続部側の曲面31Bの曲率を小さく設定してある。この構成においては、前記曲面31Aによってディフューザ流路7の入口部分が急激に絞られるので、前述した実施形態と同様の効果を奏し得るものである。既に理解されるように、絞り曲面31の構成としては、曲率の異なる複数の曲面を連続的に接続した構成としてもよいものである。
【0026】
図4は第3の実施形態を示すもので、前記絞り曲面31の構成として、複数の平面を連続的に接続した構成であって全体として凸状の曲面に形成してある。この構成においても、前記ディフューザ流路7の入口部分が急激に絞られるように、形成してあり、前述した実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0027】
ところで、図1に示した構成においては、始点としての先端部対応位置27と終点としての内周縁29とを結ぶ直線Lから前記絞り曲面31までの距離が最大である部分は、前記先端部対応位置27と内周縁29との中間点の位置である。しかし、図3,図4に示した実施形態においては、ディフューザ流路7の入口側の曲面の曲率を、シュラウド壁9の流路面13側の曲面の曲率より大きく設定してあるので、前記距離が最大である部分は、前記先端部対応位置27と前記内周縁29との中間位置よりも、ディフューザ流路7の入口側、すなわち前記先端部対応位置27側に偏在しているものである。したがって、図3,図4に示す実施形態においては、図1に示した実施形態の場合よりもディフューザ流路7の入口の絞りがより急激であり、前記逆流の抑制がより効果的に行われ得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係るディフューザの構成を示す断面説明図である。
【図2】圧縮流体の流れをシュミレーションによって示した逆流抑制の説明図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るディフューザの構成を示す断面説明図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るディフューザの構成を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0029】
3 羽根
5 インペラ
7 ディフューザ流路
9 シュラウド壁
11 ハブ壁
13,15 流路面
31 絞り曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心圧縮機におけるディフューザの構造であって、シュラウド壁とハブ壁との間に形成されたディフューザ流路の前記シュラウド壁側の入口付近における流体の逆流を抑制するために、前記シュラウド壁におけるディフューザ流路の入口部分に前記ディフューザ流路を急絞りするための凸状の絞り曲面を備え、この絞り曲面と前記シュラウド壁における平面部との接続部における前記絞り曲面の径方向の接線は、前記シュラウド壁の平面部とほぼ一致してあることを特徴とする遠心圧縮機におけるディフューザの構造。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面の断面形状は、円弧状を呈する曲面であることを特徴とする遠心圧縮機におけるディフューザの構造。
【請求項3】
請求項1に記載の遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面の断面形状は、前記ディフューザ流路の入口側の曲率よりも前記シュラウド壁の平面部との接続部側の曲率が小さいことを特徴とする遠心圧縮機におけるディフューザの構造。
【請求項4】
請求項1に記載の遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面は複数の平面を連続的に接続した構成であって、全体として凸状の曲面に形成してあることを特徴とする遠心圧縮機におけるディフューザの構造。
【請求項5】
請求項1,3又は4に記載の遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記絞り曲面の断面形状において当該絞り曲面の始点と終点とを結ぶ直線から前記絞り曲面までの距離が最大である部分は、前記直線の中間点よりも前記ディフューザ流路の入口側である前記始点側に偏在した位置にあることを特徴とする遠心圧縮機におけるディフューザの構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の遠心圧縮機におけるディフューザの構造において、前記ディフューザ流路高さが羽根車出口翼高さ比で0.5〜1.0であり、ディフューザ平行壁の開始位置が羽根車外径比で1.05〜1.5であることを特徴とする遠心圧縮機におけるディフューザの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−138626(P2008−138626A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327245(P2006−327245)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】