説明

遠心成形コンクリート製品の製造方法

【課題】製造時間の影響を受けにくく、品質の安定した遠心成型コンクリートを作業性良く製造できる方法を提供する。
【解決手段】式(1)で表される単量体由来の構成単位を70重量%以上含む構成単位からなる重合体(A)と、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(B)と、水硬性粉体と、水とを含有するコンクリートを0.5G以上の遠心力で締め固めして、遠心成形コンクリート製品を得る。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力で締め固めをする工程を有する遠心成形コンクリート製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートの高耐久化指向が強まってきており、例えば、遠心成形コンクリート製品に使用される水量を低減して高強度化することが行われており、この傾向は今後も増加するものと予測される。かかるコンクリートは水量が低く、相対的にコンクリート中の水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が低くなるため、遠心成形時に必要な可塑性と締め固め性、及び、遠心成形体として内面平滑性を改善することが技術課題とされてきた。
【0003】
特許文献1には、高強度遠心力コンクリート成形体の製造方法として、早強セメントとポリカルボン酸系混和剤を成形し、常圧蒸気養生する成形体の製造方法が提案されている。更に、特許文献2には、特定のリン酸エステル系重合体を含有する遠心成形コンクリートを0.5G以上の遠心力で締め固めする工程を有する遠心成形コンクリート製品の製造方法が提案されている。また、特許文献3には分散剤としてナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩を用いた遠心成形硬化体の製造方法が提案されている。
【0004】
また、遠心成形コンクリートの製造において、作業性を向上する目的でグルコン酸等の遅延剤が併用されるが、遅延剤の併用により早期強度が低下する傾向がある。特許文献4には、遠心締固めコンクリートを含むコンクリートやモルタルの流動性の低下を防止し、施工性や作業性の改善を目的として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のセメント分散剤と、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合物とを必須成分とするスランプ防止型セメント分散剤が提案されている。しかしながら、近年のコンクリートの高耐久化に対応するために、より水/水硬性粉体比が低い領域でも作業性に優れる遠心成形コンクリートの製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2887561号公報
【特許文献2】特開2007−137734号公報
【特許文献3】特開2008−7351号公報
【特許文献4】特開昭63−161365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遠心成形コンクリート製品を得るにあたっては、製品(パイル等)の大型化、季節ごとの温度の変動などを考慮して、製造時間(練り上がりから打設まで)を調整することが行われるが、その場合でも、作業性や品質(成形性、強度等)を一定に維持できることが望まれる。
【0007】
本発明の課題は、製造時間の影響を受けにくく、品質の安定した遠心成型コンクリートを作業性良く製造できる遠心成形コンクリート製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記式(1)で表される単量体由来の構成単位を70重量%以上含む構成単位からなる重合体(A)〔以下、(A)成分という〕と、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(B)〔以下、(B)成分という〕と、水硬性粉体と、水とを含有するコンクリートを、0.5G以上の遠心力で締め固めする工程を有する、遠心成形コンクリート製品の製造方法に関する。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造時間の影響を受けにくく、品質の安定した遠心成型コンクリートを作業性良く製造できる、遠心成形コンクリート製品の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(A)成分>
(A)成分は、コンクリートの製造時間の経過による流動性低下抑制に寄与する。(A)成分は、構成単位の70重量%以上が上記式(1)で表される単量体〔以下、単量体(1)という〕由来の構成単位である重合体である。(A)成分は、コンクリートの製造時間の経過による流動性低下を抑制する観点から、構成単位の75重量%以上、更に80重量%以上、更に85重量%以上、より更に90重量%以上が単量体(1)由来の構成単位であることが好ましい。構成単位中の単量体(1)由来の構成単位の割合がこの範囲にある(A)成分を(B)成分と併用することで、製造時間の影響を受けにくく、品質の安定した遠心成形コンクリートを作業性良く製造することができる。なお、(A)成分の構成単位中に中和された酸又は塩基の塩がある場合は、その構成単位は、中和前の酸型又は塩基型の重量で換算して、式(1)で表される単量体由来の構成単位の重量%を計算する。
【0011】
(A)成分の重量平均分子量は、製造時間の経過に対する遠心成形コンクリートの品質安定性の観点から、1000〜100000が好ましく、より好ましくは3000〜80000であり、さらに好ましくは5000〜60000である。(A)成分の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)を使用し、RI検出器並びに検量物質としてポリスチレンを使用することにより測定されたものである。測定条件は後述の合成例1の通りである。
【0012】
(A)成分は公知の重合方法で得ることができ、工業的な観点から重合濃度10重量%以上であることが好ましい。重合方法は、ラジカル重合、リビングラジカル重合、イオン重合等の方法で行うことが可能であり、好ましくはラジカル重合する方法である。重合溶媒としては、モノマーが可溶であれば限定されないが、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0013】
重合開始剤としてはアゾ系開始剤、パーオキシド系開始剤、マクロ開始剤、レドックス系開始剤等の公知の開始剤を使用してよい。水を含む重合溶媒の場合、重合開始剤としては、過硫酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩あるいは過酸化水素、2、2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート等の水溶性アゾ化合物が挙げられる。水を含まない重合溶媒の場合、重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物等が挙げられる。
【0014】
さらに必要に応じて分子量調整剤等の目的で連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤等が挙げられ、チオール系連鎖移動剤が好ましい。
【0015】
チオール系連鎖移動剤としては、−SH基を有するものが好ましく、更に、一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR’または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、単量体1〜3を含む共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤としては、四塩化炭素、四臭化炭素などが挙げられる。
【0017】
その他の連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、2−アミノプロパン−1−オールなどを挙げることができる。連鎖移動剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
重合温度については限定されないが、好ましくは重合溶媒の沸点までの領域で制御すればよい。
【0019】
(A)成分は、単量体(1)以外の単量体を構成単量体とすることができる。例えば、(i)(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸が挙げられる。さらに、例えば、(ii)マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、又はその酸無水物が挙げられる。これらの中でも好ましくは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、更に好ましくは(メタ)アクリル酸である。上記の酸又は酸無水物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2〜8)アンモニウム塩等の塩型又は単量体(1)以外のアクリル酸エステル、あるいはメタクリル酸エステル等のエステルとなっていてもよい。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の意味である(以下同様)。
【0020】
<(B)成分>
(B)成分は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物であり、混練直後のコンクリートの流動性の向上に寄与する。(B)成分は、セメントの分散性の観点から、重量平均分子量は200000以下が好ましく、100000以下がより好ましく、80000以下が更に好ましく、50000以下がより好ましい。また、重量平均分子量は1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、4000以上がさらに好ましく、5000以上がより好ましい。したがって、1000〜200000が好ましく、3000〜100000がより好ましく、4000〜80000が更に好ましく、5000〜50000がより更に好ましい。(B)成分のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は酸の状態あるいは中和物であってもよい。
【0021】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の製造方法は、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行っても良い。また、中和で副生する水不溶解物を除去しても良い。具体的には、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2〜1.4モルを用い、150〜165℃で2〜5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.95〜0.99モルとなるようにホルマリンを85〜95℃で、3〜6時間かけて滴下し、滴下後95〜105℃で縮合反応を行う。要すれば縮合物に、水と中和剤を加え、80〜95℃で中和工程を行う。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0〜1.1モル倍添加することが好ましい。また中和による生じる水不溶解物を除去、好ましくは濾過により分離しても良い。これらの工程によって、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩の水溶液が得られる。この水溶液はそのまま或いは他の成分を適宜添加して(B)成分して使用することができる。該水溶液の固形分濃度は用途にもよるが、(B)成分としては、30〜45重量%が好ましい。更に必要に応じて該水溶液を乾燥、粉末化して粉末状のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩を得ることができ、これを粉末状の(B)成分として用いてもよい。乾燥、粉末化は、噴霧乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥等により行うことができる。
【0022】
本発明のコンクリート製品の製造方法では、(A)成分と(B)成分と水硬性粉体と水とを含有するコンクリートを用いる。該コンクリート中、(A)成分の含有量は、水硬性粉体100重量部に対して、0.01〜0.5重量部が好ましく、更に0.02〜0.45重量部、より更に0.05〜0.4重量部がコンクリートのスランプ保持性の観点から好ましい。また、該コンクリート中、(B)成分の含有量は、水硬性粉体100重量部に対して、0.1〜4.0重量部が好ましく、更に0.2〜3.5重量部、より更に0.4〜3.0重量部がセメントの分散性の観点から好ましい。
【0023】
また、(A)成分は、(A)成分と(B)成分の合計に対して、(A)/〔(A)+(B)〕=0.01〜0.43、更に0.02〜0.25、より更に0.03〜0.11の重量比で用いることが、セメントの分散性とコンクリートのスランプ保持性の観点から好ましい。
【0024】
また、この他にも、(A)成分、(B)成分以外の構造を有する分散剤を併用してもよい。該分散剤としては、グルコン酸ナトリウム等のオキシカルボン酸もしくはその塩、メラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、ポリカルボン酸もしくはそのエステルもしくはその塩、精製リグニンスルホン酸もしくはその塩、ポリスチレンスルホン酸塩、フェノール骨格を有するセメント分散剤(例えば、フェノールスルホン酸と共重合可能な他の単量体とのホルムアルデヒド共縮合物)、アニリンスルホン酸を主成分とするセメント分散剤(例えば、アニリンスルホン酸と共縮合可能な他の単量体とのホルムアルデヒド共縮合物)など、従来コンクリート用混和剤又は減水剤と称されるものが好ましく、メラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物が、フレッシュコンクリートの気泡安定性の観点からより好ましく使用される。
【0025】
また、特開平11−139855号公報の特許請求の範囲に記載されているような、エチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合してなる重合体を用いることもできる。
【0026】
また、本発明の遠心成形コンクリートの製造方法では、充填性及び作業性の向上の観点から界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、下記化合物(イ)〜(ハ)が挙げられ、なかでも、下記化合物(イ)が好ましい。
化合物(イ):ジアルキルスルホコハク酸塩
化合物(ロ):炭素数8以下の脂肪族炭化水素基又は炭素数18以下の芳香族炭化水素基を有し、且つカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基及びリン酸基から選ばれる1種以上の極性基を有し、該極性基の対イオンが水素イオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる対イオンである、アニオン性化合物〔化合物(イ)を除く〕
化合物(ハ):炭素数1〜8のアルキル基と、平均付加モル数10未満のオキシアルキレン基とを有し、デイビスのHLBが7〜9である、ノニオン性化合物
【0027】
界面活性剤の含有量は、フレッシュコンクリートのワーカビリティーの観点から、本発明に用いる(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対し、0.1〜20重量部がより好ましく、0.5〜15重量部が更に好ましく、1〜10重量部がより更に好ましい。
【0028】
なかでも、本発明の遠心成形コンクリートの製造方法では、化合物(イ)のジアルキルスルホコハク酸塩を併用することが好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩を併用することで、成形性の良好な硬化体が得られるスランプ値の範囲を広げることが可能となる。ジアルキルスルホコハク酸塩としては、炭素数4〜12、好ましくは炭素数6〜10、より好ましくは炭素数8〜10のアルキル基を有するジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられ、水硬性組成物の分散性が向上し、コンクリート粘性が低下することにより成形性の良好な硬化体が得られるスランプ値の範囲を広げる観点から、好ましくはジオクチルスルホコハク酸塩、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸塩であり、より好ましくはジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸塩である。塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましく、更にナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩についての含有量は、(A)成分と(B)成分と水硬性粉体と水とを含有するコンクリート中、水硬性粉体100重量部に対して、0.01〜0.5重量部が好ましく、更に0.05〜0.3重量部が好ましい。
【0029】
また、本発明の遠心成形コンクリートの製造方法では、消泡剤を併用することができる。消泡剤としては、(1)メタノール、エタノール等の低級アルコール系、(2)ジメチルシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル等のシリコーン系、(3)鉱物油と界面活性剤の配合品等の鉱物油系、(4)リン酸トリブチル等のトリアルキルリン酸エステル系、(5)オレイン酸、ソルビタンオレイン酸モノエステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸又は脂肪酸エステル系、(6)ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系が挙げられる。消泡剤の含有量は、強度の観点から、本発明に用いる(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対し、0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜5重量部が更に好ましく、0.1〜3重量部がより更に好ましい。
【0030】
また、本発明の遠心成形コンクリートの製造方法では、前記界面活性剤及び消泡剤以外に、公知の添加剤(材)を併用することができる。一例を挙げれば、AE剤、流動化剤、遅延剤、早強剤、促進剤、起泡剤、保水剤、増粘剤、防水剤、収縮低減剤、膨張材、水溶性高分子、珪石粉末、石膏、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム等が挙げられる。
【0031】
<遠心成形コンクリート製品の製造方法>
本発明の遠心成形コンクリートの製造方法では、(A)成分、(B)成分、水硬性粉体、水等を含有するコンクリート(以下、遠心成形コンクリートということもある)を用いる。
【0032】
水硬性粉体とは、水と反応して硬化する性質をもつ粉体及び単一物質では硬化性を有しないが、2種以上を組合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する粉体をいう。水硬性粉体として、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、混合セメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)等の各種セメントが挙げられる。遠心成形コンクリートには、セメント以外の水硬性粉体として、石膏、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよい。
【0033】
また、遠心成形コンクリートは骨材を含有してもよい。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0034】
さらに、遠心成形コンクリートを構成する細骨材として特定の粒度分布を有するものを使用すると、低W/Pの遠心成形コンクリートの粘性がさらに低減できる。
【0035】
即ち、遠心成形コンクリートの細骨材として、粒度分布が、JIS A 1102で用いられる呼び寸法0.3mmのふるいの通過率(以下、0.3mm通過率という)が1重量%以上10重量%未満で、かつ、粗粒率が2.5〜3.5である細骨材(以下、細骨材Aという)を用いることが好ましい。
【0036】
細骨材Aは、より好ましくは、0.3mmを超えるふるい呼び寸法における通過率が標準粒度分布の範囲内にあることである。
【0037】
本発明において、細骨材Aの0.3mm通過率は、遠心成形コンクリートの流動性の観点から、10%未満が好ましく、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは7%以下である。遠心成形コンクリートの材料分離抵抗性の点から、0.3mm通過率は1%以上が好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上である。
【0038】
従って、流動性保持と材料分離抵抗性の観点から、0.3mm通過率は1%以上10%未満が好ましく、より好ましくは3%以上9%以下、更に好ましくは5%以上7%以下である。
【0039】
以上の要件に加え、細骨材Aは、粗粒率(JIS A0203-3019)が2.5〜3.5であることが好ましく、より好ましくは2.6〜3.3で、更に好ましくは2.7〜3.1である。粗粒率が2.5以上では、コンクリートの粘性が低減され、粗粒率が3.5以下では、材料分離抵抗性も良好となる。
【0040】
さらに、細骨材AのJIS A 1102で用いられる呼び寸法0.3mmを超えるふるいの通過率が、JIS A 5308付属書1表1の砂の標準粒度の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、呼び寸法0.15mmのふるいの通過率が2重量%未満であり、更に好ましくは1.5重量%未満である。ただし、材料分離抵抗性の観点から、0.5重量%以上であることが好ましい。呼び寸法0.3mmを超えるふるいについては、1つ以上の呼び寸法で、通過率が標準粒度の範囲内にあればよいが、好ましくは全部について標準粒度の範囲内にあることである。
【0041】
細骨材Aとしては、上記の粒度分布と粗粒率を満たす限り、砂、砕砂等、公知のものを適宜組み合わせて使用できる。本発明に使用できる細骨材としては、中国福建省ミン江等、特定地域の川砂が挙げられる。細孔が少なく、吸水性が低く、同じ流動性を付与するのに少量の水でよい点から、海砂よりも川砂、山砂、砕砂が好ましい。また、細骨材Aは、絶乾比重(JIS A 0203:番号3015)が2.56以上であることが好ましい。
【0042】
本発明に用いられるコンクリートでは、細骨材率(s/a)が30〜45体積%、更に35〜40体積%であることが好ましい。s/aは、細骨材(S)と粗骨材(G)の体積に基づき、s/a=〔S/(S+G)〕×100(体積%)で算出されるものである。
【0043】
本発明に用いられるコンクリートは、細骨材と粗骨材とを含有することが好ましい。細骨材は、未硬化の水硬性組成物(フレッシュ状態の水硬性組成物)1m3に対して、450〜950kg、更に550〜750kg含有することが好ましい。また、粗骨材は、未硬化の水硬性組成物(フレッシュ状態の水硬性組成物)1m3に対して、1000〜1200kg、更に1050〜1150kg含有することが好ましい。
【0044】
遠心成形コンクリートの水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記されることがある。〕は、10〜60重量%、更に10〜50重量%、更に10〜40重量%、より更に10〜35重量%であってもよい。W/Pの値が小さいほど、遠心成形コンクリートが有する低い粘性特性が顕著になるため、締め固め性の効果も顕著となる。
【0045】
本発明では、遠心成形コンクリートを、0.5G以上、好ましくは0.5G〜30G、より好ましくは0.5G〜25G、更に好ましくは0.5G〜20Gの遠心力で締め固めする工程を有する。(A)成分及び(B)成分を含有することで、製造時間の制約が大幅に低減することが可能となる。エネルギーコスト低減面と成形性の面から、少なくとも1分以上、遠心力を15G〜30G、更に15〜25G、より更に15〜20Gの範囲(高遠心力ともいう)に保持することが好ましい。
【0046】
遠心力での締め固めは、例えば0.5〜30Gの遠心力で5〜40分、更に7〜40分、より更に9〜40分間行なうことが好ましい。成形体を平滑に締め固める観点から、高遠心力の保持による締め固めは1〜10分、更に3〜10分、より更に5〜10分間行なうことが好ましい。
【0047】
遠心力での締め固めは、段階に分けて行うことができ、成形性の観点から、(1)初速が0.5G以上2G未満の遠心力で1〜10分間、(2)二速が2G〜10G未満の遠心力で1〜10分間、(3)三速が10G〜20G未満の遠心力で1〜10分間、(4)四速が20G〜30Gの遠心力で1〜10分間行うことが好ましい。
【0048】
また、遠心成形終了後に養生することが好ましい。養生条件としては、室温に1〜4時間放置し、蒸気養生を行なうことが好ましい。具体的な養生条件は、昇温速度は、1時間当たり、10〜30℃、60〜85℃に昇温して2〜6時間保持し、次いで、自然冷却して、成形体を脱型する。好ましい条件の一例を挙げれば、室温に2時間放置し、昇温速度18℃/時間、65℃で4時間保持し、次いで、自然冷却して、20時間後に成形体を脱型する方法が挙げられる。また、更に180℃のオートクレーブ養生を行なう事も可能である。
【0049】
<遠心成形コンクリート製品>
本発明の製造方法により得られる遠心成形コンクリート製品として、パイル、ポール、ヒューム管等が挙げられる。本発明の製造方法により得られる遠心成形コンクリート製品は、締め固めに優れることから、当該製品の外面・内面ともに凹凸が少なく、表面美観に優れるとともに、更に製品内面が平滑に仕上がることから、パイル打ち込み、中堀工法時の切削機の障害が改善される。
【実施例】
【0050】
〔(A)成分〕
(A)成分として以下の合成例の重合体を用いた。
【0051】
<合成原料>
・ヒドロキシエチルアクリレート:Aldrich(有効分96%)〔単量体(1)〕
・アクリル酸:Aldrich(有効分99%)
・メルカプトプロピオン酸:Aldrich
・ペルオキソ二硫酸アンモニウム:和光純薬工業(株)
【0052】
<合成例>
合成例1
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水84.2gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。アクリル酸(以下、AAと表記する)20.2gとヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAと表記する)83.5gを混合し、単量体液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.3gをイオン交換水26.4gに溶解し開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸2.6gをイオン交換水25gに溶解し連鎖移動剤水溶液を調製した。反応容器を80℃にして単量体液、開始剤水溶液(1)及び連鎖移動剤水溶液を同時に90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.3gをイオン交換水6.6gに溶解した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に80℃で60分間反応させた。反応終了後に常温にして、48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH5の重合体A−1の水溶液を得た。
仕込み組成比:
AA/HEA=19.5/80.5(重量比)(HEA80.5重量%)
AA/HEA=28.0/72.0(モル比)
重量平均分子量:34500
AA:反応率97%(HPLC)
HEA:反応率98%(HPLC)
分子量の測定は以下のGPC条件で行った。
[GPC条件]
標準物質:ポリスチレン換算
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0053】
合成例2
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水85.6gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。AA11.7gとHEA92.1gを混合し、単量体液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.3gをイオン交換水25.2gに溶解し開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸2.5gをイオン交換水25gに溶解し連鎖移動剤水溶液を調製した。反応容器を80℃にして単量体液、開始剤水溶液(1)及び連鎖移動剤水溶液を同時に90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.3gをイオン交換水6.3gに溶解した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に80℃で60分間反応させた。反応終了後に常温にして、48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH5の重合体A−2の水溶液を得た。
仕込み組成比:
AA/HEA=11.3/88.7(重量比)(HEA88.7重量%)
AA/HEA=17.0/83.0(モル比)
重量平均分子量:30600
AA:反応率97%(HPLC)
HEA:反応率98%(HPLC)
GPCの測定条件は合成例1と同様である。
【0054】
合成例3
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水224.5gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。ペルオキソ二硫酸アンモニウム4.4gをイオン交換水90gに溶解し開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸10.2gをイオン交換水80gに溶解した連鎖移動剤水溶液を調製した。反応容器を80℃にしてHEA280gの単量体液、開始剤水溶液(1)及び連鎖移動剤水溶液を同時に90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.6gをイオン交換水10gに溶解した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に80℃で60分間反応させた。反応終了後に常温にして、48%水酸化ナトリウム水溶液で攪拌しながら中和した。pH5の重合体A−3の水溶液を得た。
仕込み組成比:HEA100モル%(100重量%)
重量平均分子量:14200
HEA:反応率96%(HPLC)
GPCの測定条件は合成例1と同様である。
【0055】
〔(B)成分〕
(B)成分として、マイテイ150〔ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物系混和剤、花王(株)製〕を用いた。これをB−1とした。
【0056】
実施例1〜5及び比較例1〜3
上記で得られた重合体〔(A)成分〕及び(B)成分等を用いて表2の分散剤を調製し、以下の配合の遠心成形コンクリートに対する評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(1)遠心成形コンクリートの成分及び配合量
【0058】
【表1】

【0059】
上記配合における成分は以下の通りである。
W:水道水
C:早強セメント(太平洋セメント)、密度=3.14(g/cm3
SF:シリカフューム、密度=2.25(g/cm3
S:土山産砕砂、密度=2.65(g/cm3)、粗粒率=3.01
G:兵庫県家島産砕石、密度=2.63(g/cm3
W/P=〔W/(C+SF)〕×100(重量%)
W/C=(W/C)×100(重量%)
s/a=〔S/(S+G)〕×100(体積%)
【0060】
(2)遠心成形コンクリートの調製方法
コンクリート配合材料を強制二軸ミキサーで3.5分間混練りして、スランプを2.0〜4.0cmに調整した。消泡剤として、重合体の総量に対して、フォームレックス797(日華化学社製)を0.1重量%添加した。すなわち、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.1重量部添加した。コンクリート温度は35℃とした。
【0061】
(3)スランプの経時変化
コンクリートをミキサーから排出し、調製直後、30分後、60分後、90分後の各時間のスランプをJIS A 1101に従い測定した。
【0062】
(4)成形性
コンクリート15kgを遠心成形型枠(φ20cm×高さ30cm)にいれて、初速0.7G×3分間、二速5G×4分間、三速15G×2分間、四速25G×3分間の遠心締め固めを行い、前置き20℃×3hr、昇温18℃/hr、保持80℃×8hr、以後放冷の蒸気養生を行った。脱型後、硬化体の上部と下部のコンクリート厚み(mm)を各4ヶ所(計8ヶ所)測定し、以下の基準で評価した。
A:8ヶ所の厚みの最大値と最小値の差が3mm未満
B:8ヶ所の厚みの最大値と最小値の差が3mm以上5mm以下
C:8ヶ所の厚みの最大値と最小値の差が5mm超
【0063】
(5)圧縮強度
成形性の評価に用いた硬化体厚みの平均値から圧縮面積を求め、JIS A 1108に従い圧縮応力を測定し、圧縮応力/圧縮面積=圧縮強度を求めた。
【0064】
【表2】

【0065】
(注)分散剤の添加量は、水硬性粉体100重量部に対する有効分換算の重量部である(以下同様)。また、X−1、X−2は、以下のものであり、比較例2、3では、これらを(A)成分として重量比、添加量を示した。また、実施例6及び比較例4は、(B)成分の添加量を増やし、スランプ値(直後)を実施例1等よりも大きくしたものを用いた。
*X−1:「ウルトラジンNa」(ボレガード社製、リグニン系混和剤)
*X−2:グルコン酸ナトリウム
【0066】
実施例7、8及び比較例5
上記で得られた重合体〔(A)成分〕、(B)成分を用いた分散剤に、界面活性剤〔(C)成分とする〕を混合して、実施例1等と同様に、遠心成形コンクリートの調製、評価を行った。結果を表3に示す。なお、遠心成形コンクリートは、(B)成分の添加量を増やし、スランプ値(直後)を実施例1等よりも大きくしたものを用いた。
【0067】
【表3】

【0068】
(注)表中、C−1は、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムである。また、(C)成分の添加量は、水硬性粉体100重量部に対する有効分換算の重量部である。
【0069】
通常、遠心成形コンクリートの初期スランプ値を大きくすると成形性が低下する傾向にあるが、表2の実施例6と表3の実施例8の対比により、(C)成分を添加することで、実施例1等よりもスランプ値を大きくしても成形性が優れた状態に維持できることがわかる。従って、(A)成分、(B)成分に、(C)成分を併用することで、遠心成形コンクリート製品を製造する際、スランプ値を幅広い範囲で設定することができる。すなわち、セメントや骨材の製造ロットの違い等によりコンクリートの流動性が変化しても、(C)成分を併用することで得られる製品の物性等の変動を少なくすることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される単量体由来の構成単位を70重量%以上含む構成単位からなる重合体(A)〔以下、(A)成分という〕と、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(B)〔以下、(B)成分という〕と、水硬性粉体と、水とを含有するコンクリートを、0.5G以上の遠心力で締め固めする工程を有する、遠心成形コンクリート製品の製造方法。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)
【請求項2】
前記コンクリートが、さらに、細骨材と粗骨材とを含有し、且つ水/水硬性粉体比が10〜60重量%である、請求項1記載の遠心成形コンクリート製品の製造方法。
【請求項3】
初速が0.5G以上2G未満の遠心力で1〜10分間遠心力で締め固めする工程を有する、請求項1又は2記載の遠心成形コンクリート製品の製造方法。
【請求項4】
前記コンクリートにおける(A)成分の(A)成分と(B)成分の合計に対する重量比が、(A)/〔(A)+(B)〕=0.01〜0.43である、請求項1〜3の何れか1項記載の遠心成形コンクリート製品の製造方法。
【請求項5】
前記コンクリートにおける(A)成分の含有量が水硬性粉体100重量部に対して0.01〜0.5重量部である請求項1〜4の何れか1項記載の遠心成形コンクリート製品の製造方法。
【請求項6】
前記コンクリートが、さらに、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有する請求項1〜5の何れか1項記載の遠心成形コンクリート製品の製造方法。

【公開番号】特開2010−47467(P2010−47467A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173074(P2009−173074)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】