説明

遠心用ローター

生体分子を単離及び/又は精製する遠心器用の装置(10)は、該遠心器の回転軸の周囲に回転可能に登載されるローター体(12)を有する。本発明によれば、このローター体(12)はさらに、サンプル液を通流するための少なくとも一つのチャンネル(14)を有する。チャンネル(14)の、ローター体(12)との一体化は、単離及び/又は精製方法を単純化し、サンプルを分離するのに比較的長い通路が使用可能であることは、分離の向上をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子を単離及び/又は精製するための装置、適切な遠心器、及びサンプル液を遠心するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子の単離及び/又は精製、例えば、核酸の精製、さらに一般的には、液体成分の分離においては、適切な装置及び方法が使用される。
【0003】
生体分子を単離又は精製するための方法は良く知られている。種々様々な単一工程及び複数工程方法が存在する。これらは、適切な訓練を受けた専門家によってあらかじめ厳密に定義された手順にしたがって手動で実行されるか、又は、適切なシステムを用いて自動的に行われる。多くの方法において、少なくとも一つの方法工程において遠心器が利用される。
【0004】
そのような遠心器の一例として、DE 20 2005 006273 U1に記載されるローターを備えた実験用遠心器がある。中心に配置されるローターハブの周りを回転することが可能なこのローターは、ローター蓋、及び、ハブ軸からある距離のところに、上面に容器のための開口を持つスロットを有する。スロットの中に収容された容器は、分離されるべき液体によって満たすことが可能である。分離は遠心によって実現される。
【0005】
公知の手動方法の場合の欠点は、手間だけでなく時間もかかること、且つ、ある場合、方法を正確に実行しなければならないという高度の要求が、操作技師に大きな負担を課すことである。これらの欠点は、自動化システムの場合には部分的に相当緩和されるけれども、しかしながらこれらのシステムは、きわめて複雑で且つ高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生体分子を単離及び/又は精製するための装置、適切な遠心器、及びサンプル液を遠心するための方法であって、自動化システムの複雑性及びコストに至ることなく、手動方法の実行手順を相当程度単純化し、同時に、単離及び/精製において改善をもたらす装置、遠心器、及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、本発明によれば、請求項1の特徴を有する装置、請求項13の特徴を有する遠心器、及びさらに、請求項14の特徴を有する方法によって達成される。本発明の有利なデザインは、従属請求項に具体的に記述される。
【0008】
生体分子を単離及び/又は精製するための本発明による装置−これはまた、核酸の精製にも好適に使用が可能である−は、遠心器に回転可能に登載されるローター体を有する。本発明によれば、このローター体は、サンプル液を流通するための少なくとも一つのチャンネルを有する。
【0009】
本発明の文脈において、ローター体とは、遠心のための分離ローター、及び、既存の遠心器のローターに、例えば挿入によって、恒久的に、又は脱着可能的に接続させることが可能な付属体の両方を意味する。
【0010】
サンプル液用チャンネルをローター体と一体化することは、手動操作を単純化する。このチャンネルが、方法にとって好適な、分離、単離、又は精製母体(matrix)によって、さらにサンプル液によって負荷されたならば、その後の処理操作は遠心器において自ずから進行する。
【0011】
本発明によるローター体設計のために、分離のために利用される通路は、遠心ローターに適合する容器のサイズによってもはや限定されない。チャンネルの比較的長い利用可能通路は、より優れた分離を可能とする。なぜなら、サンプル液−これはガスクロマトグラフィーと対比することが可能である−は、少なくとも一つのチャンネルを介して、比較的長い通路を邪魔されずにカバーするからである。この優れた分離は複数分画の遠心を不要とするから、作業負荷の軽減をもたらす。分離を妨げるかもしれない多数の障害なしに、チャンネルは連続的に設計することが可能であり、したがって、特に事実上一定な断面の中を通る、妨害されることのない、連続流が可能となる。サンプル液の移動通路は、従来方法と比べて延長可能であるから、分離の質及び選択性は、例えば、ゲルろ過などの一工程方法でははっきりと向上させることが可能である。
【0012】
ローターは、複数のサンプルを一工程で同時に分離することを可能とする、複数チャンネルを有するように設計することが可能である。チャンネルは、ローター体そのものによって形成することが可能である。チャンネルを負荷するための流入口は、マルチチャンネルピペットによる処理を可能とするよう、互いに隣接させてグループとなるように、より具体的には、8グループとなるように配置することが可能である。
【0013】
ローターは、1回切り使用のつもりで設計し、プラスチック射出成形によって製造することが可能である。比較的複雑なチャンネル通路のコスト効率的な製造のために、ローターはさらに、二つ以上のシェルであって、該シェルの間にチャンネルを形成することが可能なシェルとして設計することが可能である。
【0014】
好ましい実施態様では、少なくとも一つのチャンネルに接続される、充填用中心開口が設けられる。この開口は、ローター体の回転軸の領域に配置される。この充填開口を、液体、例えば、核酸精製用分離母体で充填することは、該液体による、複数チャンネルの、時間節約的充填を可能とする。この充填開口が充填された後、遠心器を短時間スイッチオンすることによって、分離母体をチャンネルの中に遠心導入することが可能であり、その結果、これらのチャンネルを均一に同時に充填することが可能である。この充填開口の中に、遠心器の回転軸−その周囲にローター体が回転するように(in a rotary manner)登載される−にそって動くローターハブを設計することが可能である。充填開口における液体は、ローターハブの周囲に円形形状を取ることが可能である。特に使用が可能な分離母体は、ゲルろ過材料、又は、例えば、RNAを選択的に保持するための、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)材料である。
【0015】
ローターのチャンネルは、好ましくは、サンプル液を導入するためのアクセス開口を有することが可能である。このアクセス開口は、特に、ピペット先端を収容するような形状を取ることが可能である。このアクセス開口は、液体による、より具体的には、例えば、核酸又はタンパク質を含むサンプル液による、チャンネルの個別的充填を可能とする。ピペット先端を収容するためのアクセス開口の特別設計は、充填を容易にし、かつサンプル液だけが、各チャンネルに到達することを確実なものとする。
【0016】
アクセス開口は、中心充填開口の外側に放射状に配置可能であると好都合である。したがって、チャンネルは、例えば、内側から外側に放射状に動くことが可能である。したがって、全てのチャンネルは、上述のように、中心充填開口を使用することによって、例えば、分離母体で同時に充填することが可能であり、次いで、各チャンネルは、その独自のサンプル液で負荷することが可能である。それに続く遠心によって、サンプル液は、チャンネル及びその中に配置される母体の中を通過して外方に移動させられ、したがって分離される。
【0017】
上記少なくとも一つのチャンネルは、少なくとも一つの流出口を有することが好ましい。この開口は、アクセス開口の外側に放射状に配置されると好都合である。チャンネル内容の部分は、チャンネルの通過後、流出口を介して外部に取り出すことが可能である。
【0018】
さらに、流出口は、小型サンプルフラスコ用固定用デバイスを有することが可能であると好都合である。この小型サンプルフラスコはさらに、マルチチャンネルピペットによる処理を可能とするために、互いに隣接させてグループとなるように、より具体的には、8グループとなるように配置させることが可能である。さらに、チャンネルからのサンプル液の個別的収集は必要とされず、及び/又は、遠心筐体の汚染だけを回避すればよいだけであるならば、ローター体に円形収集容器を固定することも可能である。さらに、本発明によるローター体の設計は、一つ以上のチャンネルの閉鎖を可能とする。
【0019】
本発明のある特定設計では、上記少なくとも一つのチャンネルは、フリットを収容するように設計される。このフリットは、ローターのチャンネルの中に既に恒久的に取り込むことが可能であり、その場合改めて別に挿入する必要はない。別の実施態様では、フリットの挿入のために、追加の挿入開口が設けられる。さらに、フリットは、アクセス開口又は流出口の中に挿入することも可能であり、もしもフリットがアクセス開口を介して挿入されるのであれば、ローター体は、フリットがチャンネルの流出口へ輸送されるように、回転される。その時だけ分離母体は添加され、ローター体を短時間回転させることによって適切な位置へ送り込まれる。フリットは、分離母体が、流出口を介して脱出することがないようにする。
【0020】
フリットの挿入は、サンプル液が真っ直ぐフリットを貫いて遠心移動することを可能とする。利点は、各チャンネルのために個別のフリットを使用できるという可能性である。フリットを貫いて遠心移動される液体は、各チャンネル毎に別々に小型サンプルフラスコに収集されて、さらなる検査に備える。フリット−分離母体をサポートする−は、例えば、不要の産物を保持することが可能で有り、所望の産物は溶出液中に存在するか、或いは、その逆である。
【0021】
ローターのある好ましい実施態様では、チャンネルは、少なくとも部分的に、放射方向に対し比例的に横断的となる(proportionally transverse)ように設計される通路を有する。この実施態様は、例えば、螺旋形及び/又は蛇行形チャンネル通路の形成を可能とする。これは、液体の分離に利用が可能なチャンネル通路の延長をもたらす。これは、サンプルの反復的分画処理を不要とすることが可能であるから、必要工程数の低下をもたらす。この実施態様はさらに、サンプルに合わせて、チャンネルを、個別的に、適切な材料でコートすること、及び/または、そのような材料で裏打ちすることを可能とする。
【0022】
チャンネルは、チューブ、例えば、シリコーンチューブによって形成することが可能である。チューブによるチャンネルの形成は、ローターの比較的単純な構造を可能とする。なぜなら、後者は単にチューブを保持するだけで、シールされるように設計する必要がもはや無くなるからである。ローター体は、チューブを固定するための突出バーを持つように設計することが可能である。ローター体は、チューブを納めることが可能な陥凹部を有することも、それと同等に可能である。
【0023】
構成において、装置は、それ自体知られた遠心器のローターに付設させるのに好適となるように設計することが可能である。これは、高価な専門家用装置、例えば、完全自動化システム、より具体的には、核酸精製用自動化システムに対する資本消費を不要とすることが可能であり、さらに、比較的小さい実験室のために核酸のコスト効率的な精製を可能とする。多くの場合もう既に存在していることの多い実験用遠心器を使用することを通じて、本発明による利点を、これといった大きな資本消費を全く要すること無しに、享受することが可能である。
【0024】
本発明はさらに、例えば、核酸を精製するためにサンプル液を遠心するための方法に関する。先ず、上述のように設計され、且つさらに発展する可能性のある装置が提供される。ローターのチャンネルは、少なくとも部分的に分離母体によって濡らされ、サンプル液によって充填される。ローターの回転によって、サンプル液は少なくとも部分的に分離される。
【0025】
このようにして、上述の装置のものとまったく同様の、本発明による利点が実現され、さらに改善された分離が実現される。
【0026】
好ましくは、方法実行中、例えば、少なくとも一つのチャンネルを分離母体で濡らす前に、該チャンネルに、アクセス開口又は流出口を介してフリットを挿入することが可能であり、且つ、フリットがアクセス開口を介して挿入される場合、フリットが該チャンネルの流出口へ向けて輸送されるよう、ローター体を回転させる。フリットの選択は、各サンプルに合わせることが可能である。この場合、その時だけ、サンプル液の少量供給(wetting)及び分離が実行される。
【0027】
構成として、少なくとも一つのチャンネルの、分離母体による部分的供給は、分離母体物質を中心充填開口に導入し、次いで装置を回転することによって実行される。
【0028】
要すれば、この方法は、少なくとも部分的に分離される液体について少なくとも1回繰り返すことが可能である。
【0029】
本発明は、添付の図面を参照しながら、好ましい例示実施態様に基づいて、下記にさらに詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】遠心器用ローターの形を取る、本発明による装置の模式図である。
【図2】第2実施態様における本発明による装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に描かれる、本発明による装置10は、遠心器用ローターから成り、詳細は記述されないそれ自体知られた遠心器に回転可能に登載するためのローター体12を含む。ローター体12は、その中心に、充填開口16を有し、その中に、遠心器の回転軸にそって動く、その周囲にローター体12が回転可能に登載されるローターハブ28が形成される。ローター体12は、サンプル液、例えば、分解産物液を通流するための複数チャンネル14を有する。充填開口16は、分離母体を受容するために使用され、分離母体は、短時間の遠心操作によって、充填開口16から真っ直ぐに開口18を介して個々のチャンネル14に分配される。サンプルは、アクセス開口20を介して、分離母体によって濡らされたチャンネル14の中に導入される。サンプルを分離するために使用されるフリットは、各チャンネルの、チャンネル14の外側に配置される流出口22を介して、挿入口26を介して、又は、アクセス開口20を介して挿入され、一番最後に言及したケースでは、分離母体を充填する前に短時間遠心することによって、チャンネル14の外方へ移動させられる。
【0032】
ローター体12は、図2において例示的に描かれるように、サンプルを分離するのに利用することが可能な通路を延長するため蛇行されるように設計されるチャンネル14を有する。流出口22の一つにおいて、例示として、小型のサンプルフラスコ24が描かれる。これは、遠心中、サンプル液を受容することが可能である。マルチチャンネルピペットによるさらなる処理のために、複数の小型サンプルフラスコ24は、屈曲性ストリップにおいて互いに隣接付設させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を単離及び/又は精製するための装置(10)であって、
遠心器に回転可能に登載されるローター体(12)を含み、
該ローター体(12)が、サンプル液を通流するための少なくとも一つのチャンネル(14)を有することを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)に接続され、前記ローター体(12)の回転軸領域に配置される中心充填開口(16)が設けられることを特徴とする、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)が、前記サンプル液を導入するためのアクセス開口(20)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記アクセス開口(20)が、前記中心充填開口(16)の外側に放射状に配置されることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の装置(10)。
【請求項5】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)が、少なくとも一つの流出口(22)を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の装置(10)。
【請求項6】
前記流出口(22)が、アクセス開口(20)の外側に放射状に配置されることを特徴とする、請求項5に記載の装置(10)。
【請求項7】
前記流出口(22)が、小型サンプルフラスコ(24)のための固定用デバイスであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置(10)。
【請求項8】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)がフリットを収容するように設計されることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の装置(10)。
【請求項9】
前記フリットが、アクセス開口(20) の中、又は流出口(22)の中に挿入することが可能であることを特徴とする、請求項8に記載の装置(10)。
【請求項10】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)が、少なくとも部分的に、放射方向に対し比例的に横断的となるように設計されるチャンネル通路を有し、したがって該チャンネル(14)が、少なくとも部分的に螺旋形及び/又は蛇行形となるように設計されることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の装置(10)。
【請求項11】
前記チャンネル(14)が、チューブか、又はシリコーンチューブであるように設計されることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の装置(10)。
【請求項12】
前記ローター体(12)が、それ自体知られた遠心器のローターに付設されるように設計されることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の装置(10)。
【請求項13】
生体分子を単離及び/又は精製するための遠心器であって、請求項1から12のいずれかに記載の装置(10)を有する遠心器。
【請求項14】
サンプル液を遠心するための方法であって:
請求項1から12のいずれかに記載の装置(10)、又は請求項13に記載の遠心器を準備すること、
少なくとも一つのチャンネル(14)を、分離母体によって少なくとも部分的に濡らすこと、
該少なくとも一つの湿潤化チャンネル(14)の中に該サンプル液を導入すること、
該サンプル液を少なくとも部分的に分離するために、該装置(10)を回転すること、
を含む方法。
【請求項15】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)を前記分離母体によって濡らす前に、アクセス開口(20)又は流出口(22)を介してフリットが該チャンネル(14)の中に挿入され;且つ、
該フリットが該アクセス開口(20)を介して挿入される場合、該フリットを該チャンネル(14)の流出口(22)に向けて輸送するために、ローター体(12)が回転されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一つのチャンネル(14)の、前記分離母体による部分的湿潤化は、該分離母体物質を中心充填開口(16)の中に導入し、次いで、前記装置(10)を回転することによって実行されることを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、既に少なくとも部分的に分離されるサンプル液について少なくとも1回繰り返されることを特徴とする、請求項14から16のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−505738(P2012−505738A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531468(P2011−531468)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063322
【国際公開番号】WO2010/043605
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】