説明

遠心薄膜式蒸発装置

【課題】複雑な構造を必要とすることなく、遠心薄膜式蒸発装置の有する特徴を効率よく発揮することが可能で、コストの増大を抑制しつつ、大型化を図ることが可能な遠心薄膜式蒸発装置を提供する。
【解決手段】原料液を遠心力により筒状回転体の内周面に押し付けて液膜状にし、内周面から液膜状の原料液への伝熱により蒸発濃縮を行う。
筒状回転体の内周面が、軸方向に段階的に内径の異なる複数の内周面領域を備え、かつ、内径の異なる複数の内周面領域が、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように配設されている構成とする。
原料液供給ラインを、筒状回転体の底部近傍に原料液を供給することができるようにし、濃縮液抜き出しラインを、筒状回転体の上方の内径が最も大きい内周面領域において蒸発濃縮が行われた濃縮液を抜き出すことができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、薄膜式蒸発装置に関し、詳しくは、回転羽根や回転ブラシなどを必要とせずに、遠心力により被蒸発物質を含む原料液を液膜状にして、効率よく蒸発を行わせるようにした遠心薄膜式蒸発装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸発装置の一つに、被蒸発物質を含む原料液を、加熱管内面で薄い液膜状にし、この液膜状の原料液を加熱して被蒸発物質を蒸発させるようにした薄膜式蒸発装置がある。
この薄膜式蒸発装置には、一般的に、上昇式薄膜式蒸発装置や、下降式薄膜式蒸発装置のように、強制撹拌を伴わないタイプの薄膜式蒸発装置や、加熱管内で回転羽根を回転させることにより液膜を形成、および更新するようにした強制攪拌式薄膜式蒸発装置などがある。
【0003】
ところで、強制攪拌式薄膜式蒸発装置においては、羽根と伝熱面との狭い隙間に形成される薄膜に対して、周囲の伝熱面から伝熱が行われることから、高い伝熱性能を有しており、短い滞留時間と狭い濃縮スペースで蒸発濃縮を行うことができるという特徴を有している。
【0004】
しかしながら、強制攪拌式薄膜式蒸発装置においては、
(1)対応可能な液の種類(液性)が限られ、例えば、発泡性の強い液の濃縮には適していない、
(2)回転羽根を有しているため、動バランスの保持構造やシール構造、軸受け構造などが複雑で、保守、管理に手間や費用がかかる
という問題点がある。
【0005】
また、発泡性の強い液の濃縮を効率的に行うことが可能な蒸発装置として、遠心力を利用して、液を薄膜状にして蒸発操作を行う遠心式薄膜真空蒸発装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
この遠心式薄膜真空蒸発装置は、図5に示すように、外殻部材51の内部に、水平の回転軸52を有する横置き型の中空円錐状の回転体53が配設されている。また、回転体53の内周側には蒸発面54が形成されているとともに、蒸発面54の回転軸52付近には、飛散防止板Sを備えた原料液供給パイプ55の先端が配設されており、蒸発面54の最外周部付近には濃縮液排出用のペアリングチューブ56が配設されている。
この遠心式薄膜真空蒸発装置においては、原料液供給パイプ55から供給された原料液が、円錐状の回転体53の小径部から大径部に移動する間に所望の蒸発が行われる。
【0007】
そして、この遠心式薄膜真空蒸発装置によれば、発泡性の強い原料液を原料液供給パイプ55から供給しても、発泡した原料は飛散防止板Sに遮られて飛散せず、蒸留液側に原料液が混じることを防止することが可能になるため、発泡性の強い原料液の濃縮を効率的に行うことができるとされている。
【0008】
しかしながら、この遠心式薄膜真空蒸発装置の場合、
(1)横置き型の中空円錐状の回転体を用いるようにした構造上、装置の大型化を招くことなく大きな伝熱面積を確保することが困難である、
(2)横置き型の中空円錐状の回転体を回転させる構造のため、装置設計が複雑になりやすく、設計コストおよび製作コストの増大を招きやすい
というような問題点がある。
【特許文献1】実開平6−29601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、複雑な構造を必要とすることなく、遠心薄膜式蒸発装置の有する特徴を効率よく発揮することが可能で、コストの増大を抑制しつつ、大型化を図ることが可能な遠心薄膜式蒸発装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)の遠心薄膜式蒸発装置は、
略円筒状で内周面が伝熱面となるように構成され、軸方向が鉛直方向と略平行になるように配設されて軸回りに回転し、蒸発させるべき物質である被蒸発物質を含む原料液を遠心力により内周面に押し付けて液膜状にするとともに、前記内周面から液膜状の原料液に伝わる熱により、原料液から被蒸発物質を蒸発させる筒状回転体と、
前記筒状回転体を回転させる回転手段と、
前記筒状回転体を加熱する加熱手段と、
前記筒状回転体内に原料液を供給する原料液供給ラインと、
前記筒状回転体内で蒸発濃縮された濃縮液を、前記筒状回転体から外部に抜き出す濃縮液抜き出しラインと
を具備することを特徴としている。
【0011】
また、請求項2の遠心薄膜式蒸発装置は、請求項1記載の発明の構成において、
前記筒状回転体の内周面が、軸方向に段階的に内径の異なる複数の内周面領域を備え、かつ、前記内径の異なる複数の内周面領域が、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように配設されているとともに、
遠心力により前記筒状回転体の内周面に押し付けられた液膜状の原料液が、遠心力によって下方の内径の小さい内周面領域から上方の内径の大きい内周面領域に上昇・移動しながら蒸発濃縮が行われるように構成されていること
を特徴としている。
【0012】
また、請求項3の遠心薄膜式蒸発装置は、請求項2記載の発明の構成において、
前記筒状回転体内に原料液を供給する前記原料液供給ラインが、前記筒状回転体の底部近傍に原料液を供給することができるように構成されており、
前記筒状回転体内で蒸発濃縮された濃縮液を抜き出す前記濃縮液抜き出しラインが、前記筒状回転体の上方の内径が最も大きい内周面領域において蒸発濃縮が行われた濃縮液を抜き出すことができるように構成されていること
を特徴としている。
【0013】
また、請求項4の遠心薄膜式蒸発装置は、請求項2または3記載の発明の構成において、
上方に向かって段階的に内径が大きくなるように構成された前記筒状回転体の、各内周面領域の上端部には、遠心力により各内周面領域に押し付けられた液膜状の原料液を各内周面領域に保持するとともに、液膜状の原料液の膜厚を規定するための堰が設けられており、かつ、
最も上方の内周面領域の上端部に設けられた堰を越えた濃縮液が前記濃縮液抜き出しラインから抜き出されるように構成されていること
を特徴としている。
【0014】
また、請求項5の遠心薄膜式蒸発装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明の構成において、
前記加熱手段が、前記筒状回転体を覆うように配設され、前記筒状回転体とともに回転する加熱蒸気ジャケットであって、内部に蒸気を供給することにより前記筒状回転体が加熱されるように構成されており、かつ、前記加熱蒸気ジャケットは、下部から上部に向かって直径が小さくなるテーパ形状を有しているとともに、
前記筒状回転体を加熱することに使用された蒸気が凝縮することにより生じたドレンが、遠心力により前記加熱蒸気ジャケットの底部周辺近傍に集められ、該底部周辺近傍からドレン排出ラインを経て外部に排出されるように構成されていること
を特徴としている。
【0015】
また、請求項6の遠心薄膜式蒸発装置は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明の構成において、前記筒状回転体における蒸発操作が真空下または加圧下で行われるように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明(請求項1)の遠心薄膜式蒸発装置は、略円筒状で内周面が伝熱面となるように構成され、軸方向が鉛直方向と略平行になるように配設されて軸回りに回転し、蒸発させるべき物質である被蒸発物質を含む原料液を遠心力により内周面に押し付けて液膜状にするとともに、内周面から液膜状の原料液に伝わる熱により、原料液から被蒸発物質を蒸発させる筒状回転体と、筒状回転体を回転させる回転手段と、筒状回転体を加熱する加熱手段と、筒状回転体内に原料液を供給する原料液供給ラインと、筒状回転体内で蒸発濃縮された濃縮液を、筒状回転体から外部に抜き出す濃縮液抜き出しラインとを具備しているので、複雑な構造を必要とすることなく、短い滞留時間、短い熱履歴で、蒸発濃縮を行うことが可能になる。
【0017】
また、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置においては、筒状回転体(略鉛直円筒状である伝熱面それ自体)が回転することによって、生み出される遠心力により液体を伝熱面に押し付ける力と、薄膜を形成しながら上方へ上昇していく力とを得ることが可能になり、液膜を筒状回転体の内周面(伝熱面)に押し付けながら蒸発濃縮を行うことができるため、起泡性物質に対する十分な抑泡効果を得ることが可能になる。なお、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置においては、一般に、筒状回転体の回転数が上昇するに伴って、起泡性物質に対する抑泡効果が向上する傾向がある。
【0018】
また、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置においては、遠心力により薄い液膜を形成するようにしているので、回転羽根、攪拌翼、あるいはスクレーパーなどによって機械的に薄膜を形成する場合のように、液に大きな剪断力を与えることがない。
したがって、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置を用いることにより、熱履歴に敏感な物質を含む液、発泡性の強い物質を含む液、剪断力に敏感な物質を含む液など、従来の蒸発装置では対応することが容易ではなかった液の蒸発濃縮に十分に対応することが可能になる。
【0019】
また、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置は、原料液との接液部分に回転羽根などがなく、また、部材の接合による隙間などが存在しない装置であることから、撹拌羽根などの異物質との接触や残液などによる汚染がないという特徴を有している。
【0020】
また、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置は上述のように複雑な構造を必要としないことから、コストの増大を抑制しつつ、大型化を図ることが可能で、実用性に優れた遠心薄膜式蒸発装置を提供することができる。
【0021】
また、請求項2の遠心薄膜式蒸発装置のように、筒状回転体の内周面が、軸方向に段階的に内径の異なる複数の内周面領域を備えた構成とし、かつ、内径の異なる複数の内周面領域を、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように配設することにより、遠心力により筒状回転体の内周面に押し付けられた液膜状の原料液を、遠心力によって下方の内径の小さい内周面領域から上方の内径の大きい内周面領域に上昇・移動させながら蒸発濃縮を行わせることが可能になる。
【0022】
すなわち、遠心力によって、液膜状の原料液を、下方の内径の小さい内周面領域から、上方の内径の大きい内周面領域に上昇・移動させながら蒸発を行わせることにより、一つの筒状回転体内で段階的に蒸発を行わせて、効率のよい蒸発濃縮を行うことが可能になる。
【0023】
また、上方に向かって段階的に内径を大きくすることにより、上方の内径の大きい内周面領域では、遠心力を大きくすることが可能になり、上方の内径の大きい内周面領域を、発泡抑制効果や脱泡効果の大きい領域とすることが可能になる。
【0024】
また、請求項3の遠心薄膜式蒸発装置のように、原料液供給ラインから原料液を筒状回転体の底部近傍に供給するとともに、筒状回転体の上方の内径が最も大きい内周面領域において蒸発濃縮が行われた濃縮液を濃縮液抜き出しラインから抜き出すようにした場合、遠心力により筒状回転体の内周面に押し付けられた液膜状の原料液を、遠心力によって下方の内径の小さい内周面領域から上方の内径の大きい内周面領域に、確実に上昇させながら蒸発濃縮を行わせ、かつ、内径が最も大きい内周面領域において蒸発濃縮が行われた濃縮液を抜き出すことが可能になり、濃縮液側に原料液が混じることを防止して、効率のよい蒸発濃縮を行うことが可能になる。
【0025】
また、請求項4の遠心薄膜式蒸発装置のように、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように構成された筒状回転体の、各内径を有する内周面領域の上端部に、遠心力により各内周面領域に押し付けられた液膜状の原料液を各内周面領域に保持するとともに、液膜状の原料液の膜厚を規定するための堰を設け、最も上方の内周面領域の上端部に設けられた堰を越えた濃縮液を濃縮液抜き出しラインから抜き出すようにした場合、濃縮液側に原料液が混じることを防止して、効率のよい蒸発濃縮をより確実に行うことが可能になる。
【0026】
また、請求項5の遠心薄膜式蒸発装置のように、加熱手段として、筒状回転体を覆うように配設され、筒状回転体とともに回転する加熱蒸気ジャケットを用いるとともに、加熱蒸気ジャケットの形状を、下部から上部に向かって直径が小さくなるテーパ形状とすることにより、筒状回転体を加熱することに使用された蒸気が凝縮することにより生じるドレンを、遠心力により加熱蒸気ジャケットの底部周辺近傍に集めて、ドレン排出ラインから効率よく外部に排出することが可能になる。
【0027】
また、請求項6の遠心薄膜式蒸発装置のように、筒状回転体における蒸発操作を真空下で行うことができるようにした場合、低温での蒸発濃縮を行うことが可能になるため、例えば、熱履歴に敏感な物質を含む液を効率よく蒸発濃縮することができるようになり、また、筒状回転体における蒸発操作を加圧下で行うことができるようにした場合、高温で操作することが必要な液の蒸発に対応したり、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置を多重効用の蒸発濃縮システムに用いるような場合において、種々の圧力条件に広く対応したりすることが可能になり、本願発明をさらに実効あらしめることが可能になる。
なお、蒸発操作を加圧下で行う場合、通常は、0.3MPa程度の圧力までであれば、大幅な装置の複雑化を招くことなく、加圧下での蒸発操作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は本願発明の一実施例にかかる遠心薄膜式蒸発装置の主要部の構成を示す図、図2は濃縮液抜き出しラインの配設態様を示す要部拡大断面図、図3は濃縮液抜き出しラインの配設態様を示す要部拡大正面図、図4は加熱蒸気ジャケットの底部周辺近傍に集められたドレンを排出するためのドレン排出ラインの配設態様を示す図である。
【0030】
この実施例の遠心薄膜式蒸発装置は、図1〜4に示すように、略円筒状で内周面1が伝熱面となるように構成された筒状回転体3と、筒状回転体3を回転させる回転手段4と、筒状回転体3を加熱する加熱手段5と、筒状回転体3内に原料液2を供給する原料液供給ライン6と、筒状回転体3内で蒸発濃縮された濃縮液12を、筒状回転体3から外部に抜き出す濃縮液抜き出しライン7とを具備している。
【0031】
上記筒状回転体3は、軸方向(X方向)が鉛直方向と略平行になるように配設されて軸回りに回転するように構成されており、蒸発させるべき物質である被蒸発物質を含む原料液2を遠心力により内周面1に押し付けて液膜状にするとともに、内周面1から液膜状の原料液2に伝わる熱により、原料液2から被蒸発物質を蒸発させるように構成されている。
【0032】
また、筒状回転体3の内周面1は、軸方向に段階的に内径の異なる3つの内周面領域R1,R2,R3を備えており、内径の異なる内周面領域R1,R2,R3は、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように配設されている。すなわち、この実施例の遠心薄膜式蒸発装置においては、遠心力により筒状回転体3の内周面に押し付けられた液膜状の原料液2が、遠心力によって下方の内径の小さい内周面領域R1から、内周面領域R2を経て、上方の内径の最も大きい内周面領域R3に上昇・移動しながら蒸発濃縮が行われるように構成されている。
なお、筒状回転体3を回転させる回転手段4としては、電動モータなど、公知の種々の駆動手段を用いた任意の構成のものを用いることが可能である。
【0033】
また、この実施例の遠心薄膜式蒸発装置においては、原料液2を、遠心力によって下方の内径の小さい内周面領域R1から、中間の内周面領域R2を経て、上方の内径の最も大きい内周面領域R3に、確実に上昇させながら蒸発濃縮を行わせることができるように、原料液2が原料液供給ライン6を経て、筒状回転体3の底部近傍3aに供給されるように構成されている。
【0034】
また、筒状回転体3の、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように配設された各内周面領域R1,R2,R3の上端部には、遠心力により各内周面領域R1,R2,R3に押し付けられた液膜状の原料液2の膜厚を規定し、所定の膜厚を保持した状態で各内周面領域R1,R2,R3に原料液2を保持するための所定の高さ(液膜状の原料液を堰き止めて膜厚を規定する堰高さ)Hを有する堰8(8a,8b,8c)が設けられている。
なお、各内周面領域R1,R2,R3の内径と高さtの関係や、各内周面領域R1,R2,R3の堰8(8a,8b,8c)の高さHについては、処理液量、滞留時間などの条件を考慮して、任意に設定することが可能である。
【0035】
そして、図2および3に示すように、内径が最も大きい最上方の内周面領域R3の上端に設けられた堰8(8c)を越えた位置に形成された溝9に、濃縮液抜き出しライン7の端部が配設されており、最も内径の大きい最上方の内周面領域R3における蒸発濃縮が行われた後の濃縮液が抜き出されるように構成されている。
【0036】
上述のように、原料液2を原料液供給ライン6から、筒状回転体3の底部近傍3aに供給し、最上方の内周面領域R3の上端に設けられた堰8(8c)を越えた位置から濃縮液を抜き出すことにより、濃縮液と原料液が混じることを防止して、効率のよい蒸発濃縮をより確実に行うことが可能になる。
【0037】
また、図4に示すように、筒状回転体3を加熱する加熱手段5としては、蒸気により筒状回転体3を加熱するように構成された加熱蒸気ジャケットが用いられている。この加熱蒸気ジャケット(加熱手段)5は、筒状回転体3を覆うように配設され、筒状回転体とともに回転し、蒸気供給ライン13から内部に蒸気を供給することにより筒状回転体3が加熱されるように構成されている。また、加熱蒸気ジャケット5は、下部から上部に向かって直径が小さくなるテーパ形状を有しており、筒状回転体3を加熱することにより蒸気が凝縮して生じるドレンが、遠心力により加熱蒸気ジャケット5の底部周辺近傍5aに集められ、ドレン排出ライン10を経て外部に排出されるように構成されている。
【0038】
また、この実施例の遠心薄膜式蒸発装置においては、加熱手段5を備えた筒状回転体3などの各構成部材が真空容器11(図1)中に収容され、所定の真空下(減圧下)で蒸発操作を行うことができるように構成されている。
【0039】
なお、原料液供給ライン6及び濃縮液抜き出しライン7は、真空容器11の上部から内部に導入されており、ドレン排出ライン10及び蒸気供給ライン13は、真空容器11の底部中央から内部に導入されている。また、筒状回転体3で蒸発した蒸気は、真空容器11の胴部11aから外部に排出されるように構成されている。
【0040】
上述のように構成された遠心薄膜式蒸発装置を用いて蒸発濃縮を行うにあたって、原料液供給ライン6から原料液が、所定の回転速度で回転する筒状回転体3の底部近傍3aに供給され、円筒状回転体3の回転によって生み出される遠心力により、原料液2に対して、内周面領域(伝熱面)R1に押し付けられる力と、薄膜を形成しながら上方の内周面領域(伝熱面)R2,R3へと順に上昇・移動していく力とが与えられる。
【0041】
その結果、短い滞留時間、短い熱履歴で、蒸発濃縮を行うことが可能になるとともに、原料液の液膜が遠心力により内周面領域(伝熱面)に押し付けられながら蒸発が行われるため、起泡性物質に対する十分な抑泡効果を得ることが可能になる。
したがって、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置を用いることにより、熱履歴に敏感な物質や発泡性を有する物質を含む液の蒸発濃縮を効率よく行うことが可能になる。
また、筒状回転体における蒸発操作を真空下で行うことができるようにしているので、特に熱履歴に敏感な物質を含む液を蒸発濃縮する場合に好適である。
【0042】
さらに、遠心力により液膜(薄膜)を形成するようにしているので、回転羽根などにより機械的に薄膜を形成する場合のように、液に大きな剪断力を与えることがなく、剪断力に敏感な物質を含む液の蒸発濃縮にも特に問題なく適用することができる。
【0043】
なお、上記実施例では、筒状回転体3が、内径の異なる3つの内周面領域R1,R2,R3を備えている場合を例にとって説明したが、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置において、内径の異なる内周面領域の数に特別の制約はなく、場合によっては1つの内周面領域のみを備えた構成とすることも可能であり、また、2つの内周面領域を備えた構成としたり、4つ以上の内周面領域を備えた構成としたりすることも可能である。
また、筒状回転体に関しては、内径と高さの関係などについても、処理液量、滞留時間などの条件を考慮して、任意に設定することが可能である。
【0044】
また、上記実施例では、加熱手段5として、上方に向かって径が小さくなるテーパ形状の加熱蒸気ジャケットを用いているが、加熱手段の具体的な形状や構造に特別の制約はなく、種々の応用、変形を加えることが可能である。また、加熱手段5としては、蒸気を熱源とするものに限らず、場合によっては、電気ヒータなどを用いることも可能である。
【0045】
また、筒状回転体内に原料液を供給する原料液供給ラインや、筒状回転体内で蒸発濃縮された濃縮液を、筒状回転体から外部に抜き出す濃縮液抜き出しラインの配設態様についても、上記実施例に限定されるものではなく、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0046】
なお、上記実施例では、真空下で操作される遠心薄膜式蒸発装置を例にとって説明したが、本願発明は、常圧下、あるいは加圧下で操作される遠心薄膜式蒸発装置にも適用することが可能である。
【0047】
本願発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
上述のように、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置は、原料液を遠心力により筒状回転体の内周面に押し付けて液膜状にし、内周面から液膜状の原料液への伝熱により蒸発濃縮を行うようにしているので、熱履歴に敏感な物質を含む液、発泡性の強い物質を含む液、剪断力に敏感な物質を含む液など、従来の蒸発装置では対応することが容易ではなかった液の蒸発濃縮に十分に対応することが可能になる。
【0049】
それゆえ、本願発明の遠心薄膜式蒸発装置は、ファインケミカル、医薬、食品などの産業分野における、起泡性物質を含む液の濃縮操作が必要な分野、剪断力などの機械的作用に脆弱な物質の濃縮や蒸留操作を必要とする分野、撹拌羽根などの異物質との接触を極力避けたい物質の濃縮や蒸留操作を必要とする分野、熱による劣化を避けたい物質の濃縮や蒸留操作が必要な分野に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本願発明の一実施例にかかる遠心薄膜式蒸発装置の主要部の構成を示す図である。
【図2】本願発明の一実施例にかかる遠心薄膜式蒸発装置における濃縮液抜き出しラインの配設態様を示す要部拡大断面図である。
【図3】本願発明の一実施例にかかる遠心薄膜式蒸発装置における濃縮液抜き出しラインの配設態様を示す要部拡大正面図である。
【図4】本願発明の一実施例にかかる遠心薄膜式蒸発装置において、加熱蒸気ジャケットの底部周辺近傍に集められたドレンを排出するためのドレン排出ラインの配設態様を示す図である。
【図5】従来の遠心式薄膜真空蒸発装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 内周面
2 原料液
3 筒状回転体
3a 筒状回転体の底部近傍
4 回転手段
5 加熱手段(加熱蒸気ジャケット)
5a 加熱蒸気ジャケットの底部周辺近傍
6 原料液供給ライン
7 濃縮液抜き出しライン
8(8a,8b,8c) 堰
9 溝
10 ドレン排出ライン
11 真空容器
11a 真空容器の胴部
12 濃縮液
13 蒸気供給ライン
R1,R2,R3 内周面領域
t 内周面領域の高さ
H 堰の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状で内周面が伝熱面となるように構成され、軸方向が鉛直方向と略平行になるように配設されて軸回りに回転し、蒸発させるべき物質である被蒸発物質を含む原料液を遠心力により内周面に押し付けて液膜状にするとともに、前記内周面から液膜状の原料液に伝わる熱により、原料液から被蒸発物質を蒸発させる筒状回転体と、
前記筒状回転体を回転させる回転手段と、
前記筒状回転体を加熱する加熱手段と、
前記筒状回転体内に原料液を供給する原料液供給ラインと、
前記筒状回転体内で蒸発濃縮された濃縮液を、前記筒状回転体から外部に抜き出す濃縮液抜き出しラインと
を具備することを特徴とする遠心薄膜式蒸発装置。
【請求項2】
前記筒状回転体の内周面が、軸方向に段階的に内径の異なる複数の内周面領域を備え、かつ、前記内径の異なる複数の内周面領域が、上方に向かって段階的に内径が大きくなるように配設されているとともに、
遠心力により前記筒状回転体の内周面に押し付けられた液膜状の原料液が、遠心力によって下方の内径の小さい内周面領域から上方の内径の大きい内周面領域に上昇・移動しながら蒸発濃縮が行われるように構成されていること
を特徴とする請求項1記載の遠心薄膜式蒸発装置。
【請求項3】
前記筒状回転体内に原料液を供給する前記原料液供給ラインが、前記筒状回転体の底部近傍に原料液を供給することができるように構成されており、
前記筒状回転体内で蒸発濃縮された濃縮液を抜き出す前記濃縮液抜き出しラインが、前記筒状回転体の上方の内径が最も大きい内周面領域において蒸発濃縮が行われた濃縮液を抜き出すことができるように構成されていること
を特徴とする請求項2記載の遠心薄膜式蒸発装置。
【請求項4】
上方に向かって段階的に内径が大きくなるように構成された前記筒状回転体の、各内周面領域の上端部には、遠心力により各内周面領域に押し付けられた液膜状の原料液を各内周面領域に保持するとともに、液膜状の原料液の膜厚を規定するための堰が設けられており、かつ、
最も上方の内周面領域の上端部に設けられた堰を越えた濃縮液が前記濃縮液抜き出しラインから抜き出されるように構成されていること
を特徴とする請求項2または3記載の遠心薄膜式蒸発装置。
【請求項5】
前記加熱手段が、前記筒状回転体を覆うように配設され、前記筒状回転体とともに回転する加熱蒸気ジャケットであって、内部に蒸気を供給することにより前記筒状回転体が加熱されるように構成されており、かつ、前記加熱蒸気ジャケットは、下部から上部に向かって直径が小さくなるテーパ形状を有しているとともに、
前記筒状回転体を加熱することに使用された蒸気が凝縮することにより生じたドレンが、遠心力により前記加熱蒸気ジャケットの底部周辺近傍に集められ、該底部周辺近傍からドレン排出ラインを経て外部に排出されるように構成されていること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遠心薄膜式蒸発装置。
【請求項6】
前記筒状回転体における蒸発操作が真空下または加圧下で行われるように構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遠心薄膜式蒸発装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−223947(P2006−223947A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38245(P2005−38245)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(390036663)木村化工機株式会社 (27)
【Fターム(参考)】