説明

遠赤外線遮蔽性布帛およびその製造方法

【課題】 日陰や曇天下、低温雰囲気下でも十分な保温性を有し、かつ摩耗や屈曲に対する保温耐久性を有し、着用快適性にも優れる遠赤外線遮蔽性布帛を得る。
【解決手段】遠赤外線反射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有した繊維を主体とし、熱板法による遠赤外線遮蔽指数が5.0以上である遠赤外線遮蔽布帛。遠赤外線反射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有したアルカリ難溶成分を芯部に配するとともに、アルカリ易溶成分を鞘部に配し、かつ芯鞘比率が質量比で芯/鞘=6/4〜9/1である芯鞘型複合繊維を主体とした布帛を作成し、その後に、前記布帛にアルカリ減量処理を施すことにより、前記繊維の表面部に遠赤外線反射性無機粒子を顕在化させて製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠赤外線遮蔽性布帛およびその製造方法に関し、特に、主として保温性が要求されるウインタースポーツ用ウエアや防寒衣料、インテリア用品、寝具などに適した、遠赤外線遮蔽性布帛およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠赤外線とは4〜1000μmの波長を持つ光のことで、地球上に存在する多くの物質固有の吸収波長領域を含んでいる。そのため、物質に遠赤外線が照射されると、共鳴吸収現象により分子の伸縮振動、変角振動が激しくなり、その振動によって摩擦が増大し摩擦熱が生じるため、遠赤外線のエネルギーが熱に変換される。人体に遠赤外線が照射されると、身体の内部にまで働いて熱エネルギーに変わるため、体内を芯から暖める効果がある。そのため、衣服、寝具等の繊維製品においても遠赤外線を利用した保温素材が多く考案されている。
【0003】
遠赤外線を放射する物質を利用した素材として、特許文献1〜3には、遠赤外線放射性物質を含有した繊維が開示されている。しかし、これらの文献に記載のものは、遠赤外線放射量が微小であり、また保温性が必要とされる20℃以下の低温雰囲気下になると遠赤外線の放射量が減少するため、十分な保温効果を発揮できない。
【0004】
特許文献4〜6には、芯部に遠赤外線放射性物質を含有した芯鞘構造の繊維が開示されている。しかし、これらは遠赤外線放射量が微小であり、また保温性が必要とされる20℃以下の低温雰囲気下になると遠赤外線の放射量が減少することに加え、繊維の鞘部を構成するポリマーに遠赤外線が吸収されるため、保温性が不十分である。
【0005】
特許文献7および8では、遷移金属炭化物や酸化アンチモンをドーピングした酸化第二錫等を繊維中に含有させることにより、太陽光エネルギーを吸収し、吸収した熱エネルギーを遠赤外線に変換して放射する保温性布帛が提案されている。しかし、これらの太陽光を利用した保温性布帛は、太陽光の照射下では十分な保温性を有するが、非照射時や日陰では十分な保温性を得ることは困難である。
【0006】
特許文献9および10では、バインダーを用いたり物理蒸着を行ったりすることにより遠赤外線放射性粒子を付着させた布帛が開示されている。しかし、これらは遠赤外線放射性粒子から放射される遠赤外線量が微小であり、保温性が必要とされる20℃以下の低温雰囲気下になると遠赤外線の放射量が減少することに加え、バインダー等による布帛の硬化や付着面の粗面感により、着用快適性が不十分である。
【0007】
一方、人体から放射されている遠赤外線量は、上記各特許文献において用いられているような遠赤外線放射性物質から放射される遠赤外線量と比較すると格段に多く、また低温雰囲気下においても放射量の減少が少ないため、人体から放射される遠赤外線を反射させ衣服内に遮蔽する性能を有した保温素材も提案されている。特許文献11には、アルミニウムなどの金属を蒸着した布帛を裏地として用いることにより、人体からの遠赤外線を衣服の裏地表面で反射させ、それにより衣服の外へ逃げる熱を減少させることで、保温効果を高めるようにした技術について記載されている。しかし、この場合は、蒸着加工にともなうコストアップが発生する。また蒸着加工前の準備工程における布帛の微妙な取り扱いにより蒸着斑が発生しやすく、また着用時あるいは洗濯時の屈曲や磨耗に起因する蒸着金属の脱落により、保温性が低下しやすいという問題がある。
【特許文献1】特開昭62−238811号公報
【特許文献2】特開平2−300313号公報
【特許文献3】特開平3−190990号公報
【特許文献4】特開昭62−238823号公報
【特許文献5】特開昭63−92720号公報
【特許文献6】特開平3−51301号公報
【特許文献7】特公平3−9202号公報
【特許文献8】特公平4−40456号公報
【特許文献9】特開平2−182968号公報
【特許文献10】特開平11−269761号公報
【特許文献11】特開昭59−156743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、日陰や曇天下、低温雰囲気下でも十分な保温性を有し、かつ摩耗や屈曲に対する保温耐久性を有し、着用快適性にも優れる遠赤外線遮蔽性布帛およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、遠赤外線反射性無機粒子を繊維の表面部に含有させることにより、人体等から放射される遠赤外線を効率よく衣服内または室内等で遮蔽でき、このため優れた保温性を発揮し、かつ摩耗や屈曲に対する保温性の耐久性が優れるようにすることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
1. 遠赤外線反射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有した繊維を主体とし、下記(1)式で示される熱板法による遠赤外線遮蔽指数が5.0以上であることを特徴とする遠赤外線遮蔽性布帛。
【0011】
遠赤外線遮蔽指数=
(熱板表面温度−布帛表面温度A)/(熱板表面温度−布帛表面温度B) (1)
但し、布帛表面温度Aは、前記遠赤外線反射性無機粒子を含む繊維を主体とした布帛の表面温度である。布帛表面温度Bは、JIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布の表面温度であって、このポリエステル標準白布は、経糸84dtex、緯糸84dtex、経密度210本/2.54cm、緯密度191本/2.54cm、目付70g/mの織物である。
【0012】
2. 遠赤外線反射性無機粒子を含有した繊維が、繊維の軸方向に対して垂直方向に切断した断面形状において繊維表面に3個以上の突起部を有するものであることを特徴とする上記1.の遠赤外線遮蔽性布帛。
【0013】
3. 遠赤外線反射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有したアルカリ難溶成分を芯部に配するとともに、アルカリ易溶成分を鞘部に配し、かつ芯鞘比率が質量比で芯/鞘=6/4〜9/1である芯鞘型複合繊維を主体とした布帛を作成し、その後に、前記布帛にアルカリ減量処理を施すことにより、前記繊維の表面部に遠赤外線反射性無機粒子を顕在化させることを特徴とする遠赤外線遮蔽性布帛の製造方法。
【0014】
4.芯鞘型複合繊維の芯部を、この芯部の軸方向に対して垂直方向に切断した断面形状においてその表面に3個以上の突起部を有する形状とすることを特徴とする上記3.の遠赤外線遮蔽性布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遠赤外線遮蔽性布帛は、以上のような構成により、人体等から放射される遠赤外線を効率良く衣服内、室内、寝具内で遮蔽させることができ、かつ保温の耐久性や着用快適性に優れたものであり、このため優れた保温性が要求されるウインタースポーツ用ウエアや防寒衣料、インテリア用品、寝具などに好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の遠赤外線遮蔽性布帛は、少なくとも繊維の表面部に遠赤外線反射性無機微粒子を0.5〜5.0質量%含有した遠赤外線反射性繊維を主体とする布帛である。
【0017】
この繊維を構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、アクリル等から選択される。なかでも、特に、ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミドや、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステルが好ましい。
【0018】
本発明の繊維が含有する遠赤外線反射性無機粒子としては、炭化ジルコニウム微粒子、チタン系微粒子、アルミ系微粒子等が挙げられ、遠赤外線反射効果を有していれば特に限定されるものではない。
【0019】
ただし、上述のように、このような無機粒子を少なくとも繊維の表面部において0.5〜5.0質量%含有したものであることが必要である。0.7〜4.0質量%含有していることが好ましい。無機粒子の含有割合が0.5質量%未満である場合は、十分な遠赤外線遮蔽効果すなわち反射効果が発現できなくなる。無機粒子の含有量が5.0質量%を超える場合は、遠赤外線反射効果が飽和に達することに加え、紡糸時の昇圧が発生しやすくなり操業性が悪化する。また、無機粒子が繊維の表面部に含有されていないと、人体等から放射された遠赤外線が繊維を構成するポリマーに吸収されるために、遠赤外線反射効率が低下し、結果として保温性が不十分になる。
【0020】
無機粒子を繊維表面に含有させる方法としては、芯部に遠赤外線放射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有するアルカリ難溶成分を使用し、この芯部を鞘部としてのアルカリ易溶成分で完全に覆った芯鞘型複合繊維を用いて布帛を作成後、アルカリ減量処理により鞘部を除去して、繊維の表面部に遠赤外線反射性無機粒子を顕在化させる方法が好ましい。
【0021】
図1は、本発明の繊維を得るためのアルカリ減量処理前の繊維断面形状を示した横断面図であり、10は芯部、12は鞘部である。布帛を作成する前に無機粒子が繊維表面に露出した状態になると、接触する紡糸機、延伸機、編機、織機等の金属やガイド類を著しく磨耗損傷し、操業性および品位を低下させることがある。このため、遠赤外線放射性無機粒子を含有する芯部10を同無機粒子を含有しない鞘部12で覆った状態で紡糸等を行い布帛を製造する。そして、その後に、鞘部を取り除いて、繊維の表面部に遠赤外線反射性無機粒子を顕在化させる。
【0022】
芯部10に用いるアルカリ難溶成分としては、アルカリ難溶性であれば特に限定されず、先に述べた繊維構成ポリマーと同様でよい。鞘部12に用いるアルカリ易溶成分は、アルカリ水溶液に対する溶解速度が、芯部10のアルカリ難溶成分の溶解速度よりも5倍以上速いポリマーであることが好ましい。アルカリ水溶液に対する溶解速度が芯部10のアルカリ難溶成分の溶解速度の5倍以下である場合は、アルカリ易溶成分を完全溶解させると、それと同時に芯部10のアルカリ難溶成分も減量されるため好ましくない。このようなアルカリ易溶成分としては、例えば、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸、スルフォン酸金属塩、比較的高分子量のポリアルキレングリコール等を共重合させた共重合ポリエステルが好ましい。
【0023】
上記芯鞘型複合繊維の芯鞘比率は、質量比率で、芯/鞘=6/4〜9/1であることが好ましい。芯鞘比率が6/4未満になる程度に鞘部の比率が高いと、アルカリ易溶成分が多くなって、アルカリ減量処理後の布帛における繊維間の空隙が多くなり、遠赤外線遮蔽効果が悪化するため好ましくない。また、芯鞘比率が9/1を超える程度に芯部10の比率が高いと、鞘部12の厚みが薄くなりすぎるため、芯部10に含有される無機粒子の一部が繊維表面に突出し、そのため繊維が接触する紡糸機、延伸機、編機、織機等の金属やガイド類を磨耗損傷しやすく、操業性および製品品位を低下させることがあるため好ましくない。
【0024】
本発明の遠赤外線遮蔽性布帛は、所要の赤外線遮蔽効果を発揮するために、熱板法による遠赤外線遮蔽指数が5.0以上であることが必要である。ここでいう熱板法とは、20℃×65%RH雰囲気中においた恒温板をサーモグラフィーで30℃に設定し、その恒温熱板上に測定試料を置き、試料が熱平衡に達したときの試料表面温度をサーモグラフィーにて測定する方法である。サーモグラフィーにより熱板に比べ試料部の温度が低いほど、遠赤外線遮蔽効果が高いと言える。遠赤外線遮蔽指数とは、下記(1)式で示されるものをいう。
【0025】
遠赤外線遮蔽指数=
(熱板表面温度−布帛表面温度A)/(熱板表面温度−布帛表面温度B) (1)
但し、布帛表面温度Aは、試料としての、遠赤外線反射性無機粒子を含む繊維を主体とした布帛の表面温度、布帛表面温度Bは、JIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布の表面温度である。ここで、ポリエステル標準白布とは、経糸84dtex、緯糸84dtex、経密度210本/2.54cm、緯密度191本/2.54cm、目付70g/mの織物であり、(1)式の計算の際には遠赤外線反射性無機粒子を含む繊維を主体とした布帛と同様の染色加工を施したものを用いる。
遠赤外線遮蔽指数が5.0未満の場合は、保温性が不十分である。
【0026】
本発明の布帛を構成する繊維の断面形状については、特に限定しないが、繊維の軸方向に対して垂直方向に切断した断面において繊維の外周に3個以上の突起部を有することが好ましい。この場合において、その繊維が、図1に示すように芯部10にアルカリ難溶成分を用い鞘部12にアルカリ易溶成分を用いた芯鞘型複合繊維であるときには、芯部10が、上記した繊維の軸方向に対して垂直方向に切断した断面において繊維の外周に3個以上の突起部を有した断面形状となる。このような断面形状にすることにより、丸断面に比べて繊維の表面積が増大し、遠赤外線反射効果が高くなり、保温性に優れた布帛を得ることが可能となる。また、このような断面形状であることによって吸水拡散性が向上するため、裏地や肌着等に適するものとなる。
【0027】
このような表面積の増大効果をさらに向上させるために、上記した突起部の数は、10〜35個であることが好ましい。35個を超えると、突起部が多すぎてその形成が困難となりやすく、したがってコストが高くなったり、所定の繊維断面形状を得ることが困難となったりしやすい。また一つの突起部の大きさが小さくなることから繊維表面積の増大効果が小さくなり、このため保温性の向上効果が十分でなくなりやすい。
【0028】
突起部の断面形状はほぼ台形であることが好ましく、これにより突起部と突起部との間にU字形の溝が存在することが好ましい。以下、このような形状について図面を用いて説明する。図2は本発明の布帛を構成する繊維の一実施態様を示す模式断面図である。ここで、繊維1は横断面形状がほぼ台形の突起部2を繊維表面の周方向に沿って20個有し、突起部2と突起部2の間に、横断面がU字形である繊維の軸方向の溝3を有する。すなわち、繊維1は歯車形の断面形状を有し、それによって突起部2の形状が安定したものとなって、上記したような表面積の増大効果を安定して得ることが可能となる。
【0029】
上記した遠赤外線反射性繊維は、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよく、フィラメントとしてはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。また、原糸でも、仮撚加工やニットデニット、流体噴出加工等が施された加工糸でもよく、ダブルツイスターやイタリー式撚糸機、リング撚糸機等を用いた撚り係数1000〜30000程度の撚糸として用いてもよく、本発明の効果を損なわない範囲内で他繊維と混繊したものでもよい。また、必要に応じて他の添加剤、例えば耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、艶消剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤、着色剤、難燃剤、強化剤、静電防止剤、耐光剤、熱安定剤等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加したものでもよい。
【0030】
本発明の遠赤外線遮蔽性布帛は、上記遠赤外線反射性繊維を主体として用い、織物、編物、不織布にしたものである。この布帛は、上記遠赤外線反射性繊維単独で構成したものでもよく、またポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維、レーヨン、リヨセル、アセテート等の再生繊維、綿、麻、絹、ウール等の天然繊維から選ばれた少なくとも1種以上の繊維を、本発明の効果を損なわない範囲で混紡もしくは交編織してもよい。遠赤外線遮蔽性をより高めるためには、遠赤外線反射性繊維を二重組織織編物の裏糸として用いることが好ましい。
【0031】
本発明の布帛を得るためには、上記芯鞘型複合繊維を主体とした布帛にアルカリ減量処理を施す。アルカリ減量処理処理に使用するアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)等が挙げられ、オリナックスAM−85(明成化学工業社製)、センカバッファー85(センカ社製)のような複合アルカリ剤でも良い。
【0032】
アルカリ減量処理の温度は、80〜100℃が好ましい。80℃以下の温度では、アルカリ易溶成分の減量速度が遅くなり、アルカリ減量処理に長い時間を要する。また、温度が100℃以上になるとアルカリ難溶成分の減量を招く。
【0033】
本発明においては、必要に応じて、アルカリ減量処理後に、染色を行ったり、本発明の効果を損なわない範囲において後加工により帯電防止剤、柔軟剤、撥水剤、防汚剤、深色化剤、吸水剤、抗菌剤、消臭剤等を付与したりしても良い。
【0034】
本発明の遠赤外線遮蔽性布帛は、赤外線を反射させる効果も有するため、赤外線を放射するビデオカメラ等により、本発明の布帛を用いた水着や下着着用者を撮影した場合でも、本発明の布帛により赤外線が水着等の内側の身体に達するのを阻止できるため、近年問題となっている透撮を防止する効果も有する。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例等によって限定されるものではない。
以下の実施例等における測定、評価は、下記の方法で行った。
【0036】
(遠赤外線遮蔽指数)
後述の方法で得られた遠赤外線遮蔽性織物と、前述のJIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布とを10cm×10cmにカットして測定試料とした。そして、20℃×65%RH雰囲気中においたステンレス製恒温板をサーモグラフィーで30℃に設定し、その恒温熱板上に測定試料を置き、試料が熱平衡に達したときの試料表面温度をサーモグラフィーにて測定し、下記(1)式により遠赤外線遮蔽指数を算出した。
【0037】
遠赤外線遮蔽指数=
(熱板表面温度−布帛表面温度A)/(熱板表面温度−布帛表面温度B) (1)
ただし、布帛表面温度Aは遠赤外線遮蔽性織物の表面温度であり、布帛表面温度BはJIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布の表面温度である。
【0038】
(紡糸性)
24時間紡糸をした際の切糸回数を測定して、下記の基準により紡糸性の評価を行った。
【0039】
○:切糸回数2回未満で紡糸性良好
△:切糸回数2回以上5回未満で紡糸性やや劣る
×:切糸回数5回以上で紡糸性不良
【0040】
(洗濯耐久性)
JIS−L0217 103法により連続30回の洗濯を行い、その後に上記の遠赤外線遮蔽指数を算出することで、洗濯耐久性の評価を行った。
【0041】
(実施例1)
アルカリ難溶成分として、相対粘度が1.38のポリエチレンテレフタレートに、遠赤外線反射性無機粒子としての平均粒径1.0μmの炭化ジルコニウム(ZrC)粉末1.2質量%を添加したものを使用した。またアルカリ易溶成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸2.0モル%と、分子量6000のエチレングリコール6.0質量%とを共重合した、相対粘度1.44のポリエチレンテレフタレートを使用した。
【0042】
これらのアルカリ難溶成分と易溶成分とが質量比率で難溶成分/易溶成分=8/2となるように調整し、紡糸温度290℃、吐出量43g/分、紡糸速度3500m/分で、48孔のノズルプレートを使用して紡糸して、アルカリ難溶成分が芯部に配されるとともにアルカリ易溶成分が鞘部に配され、かつ芯部の横断面が円形である芯鞘構造の半延伸糸を捲き取った。続いて、得られた半延伸糸を延伸し、84dtex48フィラメントの延伸糸を得た。
【0043】
この延伸糸を用い、経糸密度148本/2.54cm、緯糸密度100本/2.54cmの平織物をウォータージェットルーム織機で製織した。この織物を、ジェットスチームソーパー(内外特殊エンジニアリング社製)により95℃にて精練を行った後、液流染色機を用い、苛性ソーダ10g/リットル、90℃、30分のアルカリ減量処理を行った。アルカリの残留が無くなるまで水洗し、150℃で乾燥した後、180℃×1分のプレセットを行った。さらに、液流染色機中にて下記の処方1で130℃、30分間染色し、続いて下記の処方2で80℃、20分間還元洗浄を行った後、150℃で乾燥し、170℃×1分のファイナルセットを行うことで、実施例1の遠赤外線遮蔽性織物を得た。得られた織物は、経糸密度156本/2.54cm、緯糸密度105本/2.54cmであった。
【0044】
また、遠赤外線遮蔽指数の評価に用いるために、前述のJIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布を用い、この白布に対し、上記の遠赤外線遮蔽性織物の場合と同様に、液流染色機中にて下記の処方1で130℃、30分間染色し、続いて下記の処方2で80℃、20分間還元洗浄を行った後、150℃で乾燥し、170℃×1分のファイナルセットを行った。
【0045】
処方1
分散染料:Dianix Black HG−FS(200%) 4%omf
(ダイスタージャパン社製)
分散剤:ニッカサンソルト SN−130 0.5g/リットル
(日華化学社製)
酢酸(48%) 0.2cc/リットル
【0046】
処方2
苛性ソーダ 1g/リットル
ハイドロサルファイト 1g/リットル
サンモールFL(日華化学社製、ノニオン系活性剤) 1g/リットル
【0047】
(実施例2)
芯部の繊維の断面形状を図1に示されるような突起部と細溝部が交互に分布した20葉断面に変更した。そして、それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2の織物を得た。
【0048】
(比較例1)
炭化ジルコニウム(ZrC)の添加量を0.3質量%に変更した。そして、それ以外は実施例1と同様にして、比較例1の織物を得た。
【0049】
(比較例2)
炭化ジルコニウム(ZrC)の添加量を7.0質量%に変更した。そして、それ以外は実施例1と同様に処理した。
【0050】
(比較例3)
芯鞘比率を質量比で芯/鞘=5/5に変更した。そして、それ以外は実施例1と同様にして、比較例3の織物を得た。
【0051】
(比較例4)
芯鞘比率を質量比で芯/鞘=9.5/0.5に変更した。そして、それ以外は実施例1と同様に処理した。
【0052】
(比較例5)
炭化ジルコニウム(ZrC)の添加量を0.3質量%に変更した。そして、それ以外は実施例2と同様にして、比較例5の織物を得た。
【0053】
(比較例6)
炭化ジルコニウム(ZrC)の添加量を7.0質量%に変更した。そして、それ以外は実施例2と同様に処理した。
【0054】
(比較例7)
芯鞘比率を質量比で芯/鞘=5/5に変更した。そして、それ以外は実施例2と同様にして、比較例7の織物を得た。
【0055】
(比較例8)
芯鞘比率を質量比で芯/鞘=9.5/0.5に変更した。そして、それ以外は実施例2と同様に処理した。
【0056】
(比較例9)
実施例1において遠赤外線遮蔽指数の評価のために作成した、JIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布に処方等を施した織物に、170℃×50kPaの圧力でカレンダー加工を行った。続いてアルミ蒸着装置を用い、減圧下で微粒子蒸気化させたアルミニウム金属を上記織物に厚み10μmになるように蒸着させる加工を行い、比較例5の織物を得た。
【0057】
上記した実施例、比較例について、その特性等を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1および実施例2で得られた織物は、高い遠赤外線遮蔽性を有した織物であった。
【0060】
一方、比較例1および比較例3の織物は、遠赤外線反射性無機粒子の含有率が低過ぎたため、十分な遠赤外線遮蔽性が得られなかった。
【0061】
比較例2および比較例6は遠赤外線反射性粒子の含有量が高過ぎたため、また比較例4および比較例8は鞘部の質量比が低過ぎたため、いずれも、繊維表面にZrCが露出し、このため紡糸時に糸切れが多発して糸条を採取できず、織物を作成できなかった。
【0062】
比較例3および比較例7は、アルカリ易溶成分にて形成された鞘部の質量比が高すぎたため、その後のアルカリ減量処理により鞘部を溶解させて得られた織物の繊維間の空隙が大くなり、このため十分な遠赤外線遮蔽性が得られなかった。
【0063】
比較例9の織物は、洗濯により蒸着したアルミが脱落し、そのため洗濯後に遠赤外線遮蔽性が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の布帛を得るためのアルカリ減量処理前の繊維断面形状を示す横断面図である。
【図2】本発明の布帛を構成する繊維の一実施態様を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 繊維
2 突起部
3 溝
10 芯部
12 鞘部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線反射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有した繊維を主体とし、下記(1)式で示される熱板法による遠赤外線遮蔽指数が5.0以上であることを特徴とする遠赤外線遮蔽性布帛。
遠赤外線遮蔽指数=
(熱板表面温度−布帛表面温度A)/(熱板表面温度−布帛表面温度B) (1)
但し、布帛表面温度Aは、前記遠赤外線反射性無機粒子を含む繊維を主体とした布帛の表面温度である。布帛表面温度Bは、JIS L 0803に準拠したポリエステル標準白布の表面温度であって、このポリエステル標準白布は、経糸84dtex、緯糸84dtex、経密度210本/2.54cm、緯密度191本/2.54cm、目付70g/mの織物である。
【請求項2】
遠赤外線反射性無機粒子を含有した繊維が、繊維の軸方向に対して垂直方向に切断した断面形状において繊維表面に3個以上の突起部を有するものであることを特徴とする請求項1記載の遠赤外線遮蔽性布帛。
【請求項3】
遠赤外線反射性無機粒子を0.5〜5.0質量%含有したアルカリ難溶成分を芯部に配するとともに、アルカリ易溶成分を鞘部に配し、かつ芯鞘比率が質量比で芯/鞘=6/4〜9/1である芯鞘型複合繊維を主体とした布帛を作成し、その後に、前記布帛にアルカリ減量処理を施すことにより、前記繊維の表面部に遠赤外線反射性無機粒子を顕在化させることを特徴とする遠赤外線遮蔽性布帛の製造方法。
【請求項4】
芯鞘型複合繊維の芯部を、この芯部の軸方向に対して垂直方向に切断した断面形状においてその表面に3個以上の突起部を有する形状とすることを特徴とする請求項3記載の遠赤外線遮蔽性布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−46181(P2007−46181A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230188(P2005−230188)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】