説明

遮光性に優れたFRP成形品及びその成形方法

【課題】従来の技術を改良し、より遮光性に優れたFRP成形品を提供すること。
【解決手段】一方向配列炭素繊維からなる繊維強化材とマトリックス樹脂とからなるFRP成形品であって、該マトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックが、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合されている遮光性に優れたFRP成形品と、かかるFRP成形品のRTM成形法又はプリプレグ法による成形方法。マトリックス樹脂としてはビニルエステル樹脂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光性に優れたFRP成形品とその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、PPS、PEEK等の熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維強化材からなるものであり、軽量で且つ強度特性に優れるため、近年、航空宇宙産業から一般産業分野に至るまで、幅広い分野において色々な用途に利用されている。そして、繊維強化材として炭素繊維を用いた、例えば、カメラ用シャッター、プロジェクターの遮光板、X線カセッテ用フロント板等の遮光性を必要とする部材への応用もその一つである。
【0003】
そして、遮光性のFRPを得るためには、従来、炭素繊維の一方向配列繊維からなる、いわゆるノンクリンプファブリック(NCF)を基材として用い、マトリックス樹脂としては樹脂にカーボンブラックを混合して遮光性を高めることが行われてきた(例えば、特許文献1参照)。カーボンブラックとしては、平均粒子径が10〜500nmのものを、樹脂成分液に対しし3〜15重量%程度混入するが普通である。しかしながら、カーボンブラックと樹脂との相溶性は必ずしも十分ではなく、樹脂とカーボンブラックを単純に混合しただけでは、優れた遮光性を有するFRPを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−301158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来の技術を改良し、より遮光性に優れたFRP成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、炭素繊維の多軸織物等の一方向配列炭素繊維を基材とし、マトリックス樹脂として、特定の粒度範囲のカーボンブラックを特定量混合した特定の樹脂を選択することによって、遮光性が非常に優れたFRP成形品を得ることに成功した。
【0007】
本発明は、一方向配列炭素繊維からなる繊維強化材とマトリックス樹脂とからなるFRP成形品であって、該マトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックが、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合されていることを特徴とする遮光性に優れたFRP成形品である。
【0008】
そして、本発明の他の態様は、前記FRP成形品を製造するための方法であって、一方向配列炭素繊維からなる繊維強化材とマトリックス樹脂とからRTM成形方法により遮光性に優れたFRP成形品を成形するに際し、該マトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックを、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合することを特徴とする遮光性に優れたFRP成形品のRTM成形方法である。
【0009】
更に、本発明のもう一つの態様は、一方向配列炭素繊維を繊維強化材としたプリプレグを用いて遮光性に優れたFRP成形品を成形するに際し、該プリプレグのマトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックを、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合することを特徴とする遮光性に優れたFRP成形品の成形方法である。
【0010】
本発明においてカーボンブラックの粒径(粒子径)とは、カーボンブラックの凝集体を構成する小さな球状(微結晶による輪郭を有し、分離できない)成分を、電子顕微鏡により測定、算出した平均直径を意味する。これを単一粒子と見なした粒子径は、通常、グレードにより異なるが10〜500nmの範囲にあるものが多い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、軽量で且つ耐衝撃性に優れ、かつ、遮光性にも非常に優れたFRP成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、一方向配列炭素繊維からなる繊維強化材とマトリックス樹脂とからなるFRP成形品である。一方向配列炭素繊維を繊維強化材とは、炭素繊維束(ストランド)を平行に一方向に引き揃えたシート状のものだけでなく、これを直角方向にステッチ糸で縫合した一軸織物、更に、一方向に引き揃えたシート状物を角度を変えて複数積層し、これを直角方向にステッチ糸で縫合した多軸織物も含まれる。炭素繊維束としては、1K〜24Kの束が適当である。繊維強化材とマトリックス樹脂の割合は、繊維強化材が全体の10〜90重量%であるものが好ましく、20〜60重量%であるものがより好ましい。
【0013】
マトリックス樹脂に配合されるカーボンブラックは、粒径が1〜30nm、好ましくは10〜25nmのものであり、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%、好ましくは1〜2重量%配合される。粒径が1nm未満の場合はマトリックス樹脂への混合が困難であり、30nmを超える場合は遮光性が不十分となる。また、配合量が0.1重量%未満の場合は遮光性が不十分となり、2重量%を超える場合はマトリックス樹脂の取扱いが困難となる。
【0014】
本発明において用いられる繊維強化材としては、無機繊維、有機繊維、金属繊維又はそれらの混合からなる繊維がある。具体的には、無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維を挙げることが出来る。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維が挙げられる。好ましいのは、炭素繊維とアラミド繊維である。
【0015】
一方向配列炭素繊維を繊維強化材に用いられるステッチ糸の種類・材質は、特に制限されるものではなく、例えば、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸、ポリベンゾオキサゾール繊維糸、アラミド繊維糸等が挙げられる。シート状物の目付は、100〜1000g/mが好ましく、200〜800g/mがより好ましい。1層(1枚)当たりの厚みは、0.1〜2mmが好ましい。本発明の繊維強化材としては、多軸織物が好ましく、具体的には、積層角度が、〔30/−30〕、〔−30/30〕、〔45/−45〕、〔−45/45〕、〔60/−60〕、〔−60/60〕、〔45/−45/−45/45〕〔−45/45/45/−45〕等の多軸織物を挙げることができる。
【0016】
本発明において、前記繊維強化材に含浸させるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂がある。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、マレイミド樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂から選ばれる樹脂がある。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドがある。これらの樹脂は、2種以上併用しても良い。これらの樹脂のうち、本発明においては、特に優れた遮光性を発揮するためにビニルエステル樹脂が特に好ましい。
【0017】
本発明のFRP成形品は、RTM成形方法により製造することができる。RTM成形方法
(樹脂トランスファー成形法)は、上型と下型からなる金型(成形型)内部に、繊維強化材を成形品形状に賦形したプリフォーム又はシート状の繊維強化材を配置し、金型を型締めした後、上型と下型が形成するキャビティ内を、金型の排出口から排出用ホースを介して排気し、一方、金型の注入口から注入用ホースを介してマトリックス樹脂をキャビティ内に注入して繊維強化材に含浸せしめ、そして必要なら加熱、加圧して硬化させる方法がとられる。本発明においては、かかるマトリックス樹脂中に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックが、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合される。
【0018】
あるいはまた、本発明のFRP成形品は、一方向配列炭素繊維を繊維強化材としたプリプレグを用いて製造することができる。プリプレグは、繊維強基材にマトリックス樹脂が含浸されたシート状の中間基材であり、これを積層し、賦形し、その後、加熱及び加圧により樹脂組成物を硬化させる方法が一般的であった。本発明においては、かかるプリプレグのマトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックが、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合される。プリプレグを積層して繊維強化複合材料を成形する場合は、プレス機と金型を使用して、加熱・加圧・圧縮により繊維強化複合材料を成形する方法、あるいは、成形型を用いて、オートクレーブや硬化炉で加圧・加熱する方法が用いられる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を詳述する。
【0020】
[実施例1]
強化繊維として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)HTA−12Kを用い、0度/90度方向に400g/mとなるように所定の本数を配した。これらをポリエステル糸にて縫合して(ステッチ糸の縫い目が積層基材の長手方向に平行になるように)バイアスステッチ基材を得た。
【0021】
得られたバイアスステッチ基材を、RTM用金型内に4ply面対象に積層配置し、50℃で下記のビニルエステル樹脂組成物を注入含浸した後、1分間に2℃ずつ120℃まで昇温して120℃で1時間硬化することにより、コンポジット平板を得た。この平板を3500Lmのプロジェクターのレンズ部に接触させ、光を強射させてその平板面から光が漏洩するか否かを視覚的に判定した。その結果、光の漏洩は認められなかった。
【0022】
前記で使用したビニルエステル樹脂組成物は、成分(A)として、リポキシM−7250(ビスフェノール系ビニルエステル樹脂[昭和高分子株式会社製])を100重量部と、成分(B)として、重合禁止剤M−7250用(パラベンゾキノン−メタクリル酸メチル溶液[昭和高分子株式会社製])を2重量部、硬化剤(C)として、キュアゾール1.2DMZ[四国化成工業株式会社製]を4重量部、硬化剤(D)として、アンカミンK−54[PTI・JAPAN株式会社製]を1.5重量部、硬化促進剤(E)としてトリゴノックス121−50E[化薬アクゾ株式会社製]を1.5重量部含むものである。そして、成形に際しては、成分(A)と(B)の混合物に、カーボンブラック(F)として、24nmのMA100(カーボンブラック[三菱化学社製])1重量部を先ず混合し、次に成分(C)(D)(E)を加えて混練したものを用いた。
【0023】
[実施例2]
実施例1のビニルエステル樹脂組成物(カーボンブラックを含む)を、ナイフコーターを用いて、所定重量となるように離型紙上でフィルム化し、樹脂フィルムを作製した。実施例1で得られたバイアスステッチ基材の上下両面に上記樹脂フィルムを重ね、50℃に加熱したプレスで面圧0.1MPaで1分間加圧し、樹脂含有率36重量%のプリプレグを得た。このとき、樹脂フィルムの目付は、113g/mであった。
【0024】
前記のようにして得られたプリブレグを、4ply面対象に積層し、オートクレーブを用い、120℃にて1時間加熱することによりコンポジット平板を得た。この平板を3500Lmのプロジェクターのレンズ部に接触させ、光を強射させてその平板面から光が漏洩するか否かを視覚的に判定した。その結果、光の漏洩は認められなかった。
【0025】
[実施例3]
上下分割型の金型を用い、下型に、実施例2と同様にして作成したプリプレグを4ply面対象に積層配置した。
【0026】
その後、金型を型締めしながら、面圧50〜100kg/cmで、120℃で60分加熱・圧縮成形した。成形後、金型を冷却して脱型し、コンポジット平板を得た。この平板を実施例1と同様の光漏洩試験を行った結果、光の漏洩は認められなかった。
【0027】
[比較例1]
ビニルエステル樹脂組成物のカーボンブラック(F)として、55nmの旭#55(カーボンブラック[旭カーボン社製])1重量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で平板を作成した。得られた平板を実施例1と同様の光漏洩試験を行った結果、光の漏洩が認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向配列炭素繊維からなる繊維強化材とマトリックス樹脂とからなるFRP成形品であって、該マトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックが、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合されていることを特徴とする遮光性に優れたFRP成形品。
【請求項2】
マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項1記載の遮光性に優れたFRP成形品。
【請求項3】
一方向配列炭素繊維からなる繊維強化材とマトリックス樹脂とからRTM成形方法により遮光性に優れたFRP成形品を成形するに際し、該マトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックを、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合することを特徴とする遮光性に優れたFRP成形品のRTM成形方法。
【請求項4】
マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項3記載の遮光性に優れたFRP成形品のRTM成形方法。
【請求項5】
一方向配列炭素繊維を繊維強化材としたプリプレグを用いて遮光性に優れたFRP成形品を成形するに際し、該プリプレグのマトリックス樹脂に、粒径が1〜30nmのカーボンブラックを、マトリックス樹脂に対し0.1〜2重量%配合することを特徴とする遮光性に優れたFRP成形品の成形方法。
【請求項6】
マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項5記載の遮光性に優れたFRP成形品の成形方法。


【公開番号】特開2011−195723(P2011−195723A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64618(P2010−64618)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】