説明

遮水シートのための保護マットの敷設方法

【課題】遮水シートのための複数の保護マット同士を容易に接合できるようにして、その敷設作業を簡単に行えるようにする。
【解決手段】廃棄物処理場などの設置対象場所に設置される遮水シートの片面または両面に沿って敷設されることでこの遮水シートを保護するための保護マットの敷設方法である。保護マット4を、芯成分とこの芯成分よりも低融点の鞘成分とを備えた断面構造の芯鞘複合繊維を含んだ構成とする。遮水シートに沿って複数枚の保護マットを配置するとともに、隣り合う保護マット4、4の端部同士を、鞘成分を溶融させることにより熱接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮水シートのための保護マットの敷設方法に関し、特に廃棄物処分場における地下水の汚染防止のためなどに用いられる遮水シートのための保護マットの敷設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処分場には、同処分場における地下水の汚染を防止するために、水を通さない遮水シートが用いられる。遮水シートの素材としては、エチレン・プロピレンジエンモノマーなどの合成ゴム系の材料や、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどの合成樹脂系の材料や、アスファルト系の材料や、ベントナイト系の材料などが用いられている。
【0003】
この遮水シートを突起物や紫外線などによる損傷から守る目的で、この遮水シートの表裏両面あるいはいずれか一方を保護マットで覆うことがなされている。すなわち、この保護マットを遮水シートと地面との間に設置して地面の突起物から遮水シートを保護したり、この保護マットを遮水シートの上側に被せることで太陽光に含まれる紫外線から遮水シートを保護したりすることが行われている。
【0004】
保護マットには、一般に、長繊維不織布や短繊維不織布が用いられている。その不織布を構成する素材としては、ポリエステルおよびポリプロピレンが殆どを占めている。そして保護マットは一定の大きさに形成されているため、廃棄物処分場に敷設する際には、複数枚の保護マットを互いに接合して一体化することが必要になる。
【0005】
その接合のための手段として、特許文献1には、隣り合う保護マットの端部同士を互いに重ね合わせるとともに、その重ね合わせ部を面ファスナーで接合することが記載されている。同様の面ファスナーを利用するものとして、特許文献2には、保護マットと遮水シートとを面ファスナーで接合するものが開示されている。ただし、特許文献2では、保護マット同士の接合手段については記載がない。
【特許文献1】特開2000−144686号公報
【特許文献2】特開2003−1215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このように面ファスナーを用いるものでは、保護シートに面ファスナーを接着するなどして両者を互いに接合した後でなければ、使用することができない。このための接合作業にかなりの手間を要する。
【0007】
一般に面ファスナーは、一方の面に多数のフックを形成するとともに、他方の面に多数のループを形成して、これらのフックとループとを互いに引っ掛けることにより接合を行わせるものである。このため不織布にて形成された保護マットにループの機能を発揮させれば、フックだけを一方の保護マットに接合するのみで機能させることができるが、その場合でも接合作業が半分になるだけであって、依然として接合作業の手間は解消されない。
【0008】
そこで本発明は、このような課題を解決して、遮水シートのための複数の保護マット同士を容易に接合できるようにして、その敷設作業を簡単に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、本発明の、廃棄物処理場などの設置対象場所に設置される遮水シートの片面または両面に沿って敷設されることでこの遮水シートを保護するための保護マットの敷設方法は、前記保護マットを、芯成分とこの芯成分よりも低融点の鞘成分とを備えた断面構造の芯鞘複合繊維を含んだ構成とし、遮水シートに沿って複数枚の保護マットを配置するとともに、隣り合う保護マットの端部同士を、前記鞘成分を溶融させることにより熱接着することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の、上記の敷設方法に用いられる保護マットは、芯成分とこの芯成分よりも低融点の鞘成分とを備えた断面構造の芯鞘複合繊維を含んだ構成であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、上記保護マットが、芯鞘複合長繊維を構成繊維として含むとともに、構成繊維同士が互いに三次元的に交絡されることによりマット状に形成されているものであることが好適である。
【0012】
また本発明によれば、上記保護マットにおいて、芯成分がポリエステルであるとともに鞘成分がポリエチレンであることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保護マットの敷設現場において、隣り合う保護マットの端部同士を、保護マットに含まれる芯鞘複合繊維の鞘成分を熱コテや熱風発生装置などを用いて溶融させることにより熱接着して容易に接合することができるため、その作業を簡単に行うことができる。このとき、芯鞘複合繊維は、鞘成分が芯成分よりも低融点であるために、鞘成分のみを溶融させるとともに、芯成分は繊維形態を保った状態とすることができ、したがって、接着部において保護マットの機能を維持したまま確実な熱接着を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、廃棄物処理場における処理池の断面構造の一例を示す。ここで、1は土砂で、たとえば地表からこの土砂を掘り下げることによって処理池2が形成されている。処理池2の底部や法面には、遮水シート3が設置されている。そして、遮水シート3の裏面側すなわち遮水シート3と土砂1の表面との間には、保護マット4が敷設されている。このような構成によれば、遮水シート3を設置することによって、処理池2の内部の液5が土砂1の内部にしみ込んで地下水を汚染することが防止される。保護マット4を敷設したことで、土砂1の表面に岩石の先端などの突起物が存在する場合でも、それによる遮水シート3の損傷を防止することができる。
【0015】
図1において仮想線で示すように、保護マット4は、遮水シート3の表面を覆うように敷設することもできる。このようにすると、遮水シート3を、太陽光に含まれる紫外線が照射されることにもとづく損傷の発生から保護することができる。また、廃棄物の突起によって遮水シート3が損傷することを防ぐこともできる。
【0016】
遮水シート3は、漏水の防止のために、大きな面積の一枚物か、あるいは複数枚を防水シール状態で接合することにより一枚物と同等の状態にしたものが用いられる。これに対し保護マット4は、製造性や運搬性や取扱い性の観点から、所定サイズのものを複数枚敷設する。隣り合う保護マット4、4同士の接合部の構成は、たとえば図2に示されるものとすることができる。すなわち、図示のように隣り合う保護マット4、4の端部同士を互いに重ね合わせ、その重ね合わせ部6を熱接着することにより両者を一体化させることができる。7はその熱接着部である。熱接着は、熱コテを用いたり、熱風ドライヤなどの熱風発生装置を用いたりして、行うことができる。図示の態様のほかにも、たとえば保護マット4、4どうしを突き合わせ、その突き合わせ部に保護マットをテープ状に形成した当て部材を重ね、その重ね合わせ部を熱接着することなどによっても、両者を接合することができる。
【0017】
遮水シート3は、上述のように、エチレン・プロピレンジエンモノマーなどの合成ゴム系の材料や、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどの合成樹脂系の材料や、アスファルト系の材料や、ベントナイト系の材料などによって形成されている。
【0018】
保護マット4は、繊維を用いてマット状に形成されたものである。たとえば、短繊維や長繊維をニードルパンチ処理などによって三次元的に交絡させることによって、保護マット4に適したマットを形成することができる。
【0019】
本発明においては、保護マット4を構成する繊維は、芯成分とこの芯成分よりも低融点の鞘成分とを備えた断面構造の芯鞘複合繊維を含んだ構成とされている。芯成分と鞘成分とを構成するポリマーとしては、一般的に繊維に利用されるポリマーを用いることができ、特に限定されない。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルや、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドなどを、好ましく用いることができる。
【0020】
上記のように鞘成分は芯成分よりも低融点であることが必要である。鞘成分を熱接着成分として確実に機能させるとともに、芯成分を繊維形態保持成分として確実に機能させるためである。このためには、両者の融点差が20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。融点差が小さいと、鞘成分を熱により溶融させて熱接着を行う際に、芯成分までもが溶融してしまい、その繊維形態が失われて保護マットに欠陥が発生する原因となる。
【0021】
芯成分と鞘成分との組み合わせの代表例として、芯成分をポリエステルたとえばポリエチレンテレフタレートとするとともに、鞘成分をポリエチレンとしたものを挙げることができる。この場合は、芯成分と鞘成分との融点差をたとえば100℃以上に設定することができ、しかも芯成分のポリエチレンテレフタレートはポリマーのなかでも強度が高いものであるため、熱接着成分としての鞘成分を十分に溶融させても、芯成分は溶融せずに所要の強度の繊維形態を確実に維持することができる。
【0022】
芯成分と鞘成分との配合割合は、体積比で、芯成分:鞘成分=30:70〜70:30が適当である。この範囲であることにより、所要の接着性能と繊維形態の維持性能とを兼備することができる。
【0023】
保護マットには、芯鞘複合繊維のほかに、単相やその他の断面形態の繊維を含ませることができる。その混繊の割合は、芯鞘複合繊維の鞘成分の溶融による熱接着の機能を阻害しない程度とすることが必要である。また、たとえば単相の繊維を含ませる場合は、その繊維を構成するポリマーの融点は、芯鞘複合繊維の鞘成分の融点よりも高いことが必要である。熱接着の際にその繊維が溶融して繊維形態を失ってしまうことを防止するためである。
【0024】
上述したニードルパンチ処理によって保護マットを得る場合には、この保護マットを構成する繊維の繊維長は30mmを超えたものであることが適当である。30mm以下であると、ニードルパンチ処理によってマット状に形成することが困難になりやすい。繊維径は、10〜100μmであることが適当である。繊維径がこの範囲を外れると、ニードルパンチ処理を施しにくくなって、強度が不足するなど保護マットの性能に支障をきたす場合がある。
【0025】
保護マット4を構成する芯鞘複合繊維やその他の繊維は、公知の溶融紡糸法によって得ることができる。得られた繊維をウェブ状とし、これにたとえばニードルパンチ処理を施すことにより、繊維同士を三次元的に交絡させてマット状の形態とすることができる。ウェブの形態を保持するために樹脂接着や熱接着によって繊維同士を仮止めすれば、ニードルパンチ処理を良好に施すことが可能となる。
【0026】
熱コテや熱風発生装置を用いて保護マット4同士を熱接着するときには、保護マット4を構成する芯鞘複合繊維の鞘成分が溶融し芯成分は溶融しない温度条件や処理時間などを設定すればよい。このときに、場合によっては、保護マット4と遮水シート3とを重ねた状態で熱接着を行うことで、保護マット4同士を熱接着することと同時に、保護マット4と遮水シート3とを熱接着して一体化することもできる。そうすることで、施工性および設置状態の安定性を格段に向上させることができる。
【0027】
これにより得られる保護マットは、保護マットとして良好に機能するためには、単位面積あたりの質量が300g/m以上であり、かつ貫入抵抗が400N以上であることが好ましい。貫入抵抗は、500N以上であることが、より好ましい。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。
なお、以下の実施例および比較例において、熱接着試験は、次のようにして行った。すなわち、ハンディタイプの熱風溶接機(ライスター社製)を用い、その吹出し口の温度を、保護マットを構成する繊維における溶融させようとする部分の融点以上の適宜の温度に設定し、熱風の速度を1〜2m/分とするとともに被加熱部との距離を10〜20cmとして、保護マットの表面を溶融させて接着を行い、そのときの状況を観察した。
【0029】
貫入抵抗は、ASTM D4833 に準じて測定した。押し棒としては、直径8mm、先端面取り0.8mm×斜角45度のものを用いた。
【0030】
(実施例1)
芯成分に融点255℃のポリエチレンテレフタレートを用いるとともに、鞘成分に融点125℃のポリエチレンを用い、長繊維不織布の製法として公知であるスパンボンド法により芯鞘複合長繊維不織布を作成した。この不織布を構成する芯鞘複合繊維は、芯成分と鞘成分との複合比を体積比で1:1とし、繊維径を25μmとした。また、次工程のニードルパンチに適するよう、熱エンボスロールによる繊維同士の接着を軽度に調整し、物理的衝撃により繊維同士の接着が外れ易い状態とした。
【0031】
次いで、上記の芯鞘複合長繊維不織布にニードルパンチを施し、単位面積当たりの質量が600g/m、貫入抵抗が800Nの保護マットを得た。ニードルパンチ条件は、FOSTER社製の40番手の針を用い、パンチ密度を60P/平方インチとし、針深度を9mmとした。
【0032】
得られた保護マットについて熱接着試験を行ったところ、200℃の熱風を用いた試験において、接着不良や溶融破れなどの不具合がなく、良好な接着状態を作ることが可能であった。
【0033】
(実施例2)
芯成分に融点255℃のポリエチレンテレフタレートを用いるとともに、鞘成分に融点125℃のポリエチレンを用い、既知の溶融紡糸方法によって芯鞘複合短繊維を作成した。この短繊維における芯成分と鞘成分との複合比は体積比で1:1とし、繊維径は25μmとし、繊維長は51mmとし、クリンプ数は12個/2.5cmとした。
【0034】
次いで、上記の芯鞘複合短繊維をカード機に供給して、単位面積当たりの質量が約800g/mのウェブを作成した。このウェブは芯鞘複合短繊維100%で作成し、他素材の短繊維は混合しなかった。
【0035】
得られたウェブに実施例1と同様の条件でニードルパンチを施し、単位面積当たりの質量が800g/m、貫入抵抗が950Nの保護マットを得た。
得られた保護マットについて熱接着試験を行ったところ、200℃の熱風を用いた試験において、接着不良や溶融破れなどの不具合がなく、良好な接着状態を作ることが可能であった。
【0036】
(実施例3)
実施例2で得られた芯鞘複合短繊維70質量部と、繊維径20μm、繊維長76mm、クリンプ数13個/2.5cmのポリエチレンテレフタレート短繊維30質量部とを混繊して、単位面積当たり質量が800g/m、貫入抵抗が700Nの保護マットを得た。
【0037】
得られた保護マットについて200℃の熱風を用いた熱接着試験を行ったところ、実施例1および2と同等の接着性能を示した。
【0038】
(実施例4)
実施例1の保護マットを用い、高密度ポリエチレン製の遮水シートとの熱接着試験を行った。すなわち、保護マットと遮水シートとを重ねるとともに、保護マットと遮水シートとのうちの一方の端縁部をめくり上げて、そのめくり上げた部分に180℃の熱風を供給した。これにより保護マットと遮水シートとの両方を溶融させて、接着を試みたところ、接着状態は良好で、保護マットに破れなどが発生することもなかった。
【0039】
(比較例1)
実施例1の芯鞘複合長繊維の代わりに、融点255℃のポリエチレンテレフタレート単体からなる繊維径25μmの長繊維を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、単位面積当たり質量が600g/m、貫入抵抗が900Nの保護マットを作成した。
【0040】
得られた保護マットは、熱接着試験を行ったところ、150〜230℃では接着が出来ず、270℃以上で接着を行うと、マットにおいて部分的に穴が開き易いなど、取り扱いづらい物であった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態の遮水シートのための保護マットの敷設方法の概略を示す図である。
【図2】図1における保護マット同士の熱接着部を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
4 保護マット
6 重ね合わせ部
7 熱接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物処理場などの設置対象場所に設置される遮水シートの片面または両面に沿って敷設されることでこの遮水シートを保護するための保護マットの敷設方法であって、
前記保護マットを、芯成分とこの芯成分よりも低融点の鞘成分とを備えた断面構造の芯鞘複合繊維を含んだ構成とし、
遮水シートに沿って複数枚の保護マットを配置するとともに、隣り合う保護マットの端部同士を、前記鞘成分を溶融させることにより熱接着することを特徴とする遮水シートのための保護マットの敷設方法。
【請求項2】
請求項1に記載の敷設方法に用いられる保護マットであって、芯成分とこの芯成分よりも低融点の鞘成分とを備えた断面構造の芯鞘複合繊維を含んでいることを特徴とする遮水シートのための保護マット。
【請求項3】
芯鞘複合長繊維を構成繊維として含むとともに、構成繊維同士が互いに三次元的に交絡されることによりマット状に形成されていることを特徴とする請求項2記載の遮水シートのための保護マット。
【請求項4】
芯成分がポリエステルであるとともに、鞘成分がポリエチレンであることを特徴とする請求項2または3記載の遮水シートのための保護マット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−221052(P2008−221052A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59300(P2007−59300)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】