説明

遮水層の損傷検知システム及び損傷検知方法、並びに貯水構造物

【課題】遮水層の損傷を検出することが可能な損傷検知システム及び損傷検知方法を提供する。
【解決手段】廃棄物処分場10の損傷検知システム12は、遮水層20内に設置され、遮水層20内の温度分布を測定するための光ファイバケーブル13と、光ファイバケーブル13に沿った位置の温度分布を測定する周知の温度測定手段22と、遮水層20内の温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水層の損傷検知システム及び損傷検知方法に関し、特に、遮水層の損傷を漏水による温度分布の変化にて検知する場合についての損傷検知システム及び損傷検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処分場等の遮水工として使用されている合成樹脂や合成ゴム製の遮水シートが損傷を受けた場合には、廃棄物処分場のピット内に貯留されている水が損傷箇所を通じて地盤内に浸透し、地下水を汚染する可能性がある。したがって、廃棄物処分場等から地盤への漏水を厳しく管理する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、廃棄物処分場からの漏水を検知する方法として、例えば、廃棄物処分場のピット内の底面地盤に敷設された遮水シートの下方に土質材料(例えば砂質土)や不織布等の中層材を介在させるとともに、この中層材中に複数配置された測定電極により、遮水シートの損傷箇所を介して漏洩する漏洩電流を検知し、遮水シートの損傷箇所を検知する方法が一般的に用いられている。
【特許文献1】特願昭63−758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、遮水シートの下方に測定電極を配置し、漏洩電流を検知する方法では、遮水シートの損傷は検知できるが、遮水シートの下の遮水層の損傷は検知できないという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、遮水層の損傷を検出することが可能な損傷検知システム及び損傷検知方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の損傷検知システムは、遮水層の損傷を検知する損傷検知システムであって、前記遮水層内に設置された光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする(第1の発明)。
本発明による損傷検知システムによれば、遮水層内に光ファイバケーブルを設置しているので、遮水層内の温度分布を連続して測定し、遮水層内の温度分布を観察することができる。したがって、廃棄物処分場や貯水池等のピット内の水又は周囲の地盤の地下水が損傷箇所から遮水層内に浸入することによって生じる遮水層内の温度分布の変化を検知して、遮水層の損傷を検出することができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記光ファイバケーブルは、前記遮水層の面内方向に、二次元的に拡がるように設置されることを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、光ファイバケーブルは、前記遮水層の層方向に、二次元的に拡がるように設置されるので、遮水層を狭い間隔で広い範囲の温度分布を測定することができる。
【0008】
第3の発明は、第1の発明において、前記光ファイバケーブルは、前記遮水層の上下方向に繰り返し向きを変えるように屈曲しながら、前記遮水層の面内方向に、二次元的に拡がるように設置されることを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、光ファイバケーブルは、前記遮水層の上下方向に設置されるので、遮水層を狭い間隔で広い範囲の温度分布を測定することができる。
【0009】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、前記温度測定手段で測定した前記遮水層内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、温度測定手段で測定した遮水層内の温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を備えるので、遮水層の損傷を素早く把握することができる。
【0010】
第5の発明は、第4の発明において、前記温度分布の変化の度合いが最も大きい位置を損傷箇所として検出することを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、温度測定手段で測定した遮水層内の温度分布の変化の度合いが最も大きい位置を損傷箇所とするので、損傷箇所を容易に検出することができる。
【0011】
第6の発明は、第1〜5のいずれかの発明において、前記遮水層は、廃棄物処分場や貯水池等の地盤上に敷設されることを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、廃棄物処分場や貯水池等の地盤上に敷設された遮水層の損傷を検知することができる。
【0012】
第7の発明は、第6の発明において、前記温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも高い温度分布が測定された場合は、前記遮水層の上部側が損傷したとすることを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、遮水層内の温度分布を測定して、遮水層内の温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも高い温度分布が測定された場合は、廃棄物処分場等のピット内の廃棄物により発生した熱で温められた水が遮水層内に浸入したことによるものとして、遮水層の上部側の損傷を検知することができる。
【0013】
第8の発明は、第6の発明において、前記温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも低い温度分布が測定された場合は、前記遮水層の下部側が損傷したとすることを特徴とする。
本発明による損傷検知システムによれば、遮水層内の温度分布を測定して、遮水層内の温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも低い温度分布が測定された場合は、廃棄物処分場等の周囲の地盤内の低温の地下水が遮水層内に浸入したことによるものとして、遮水層の下部側の損傷を検知することができる。
【0014】
第9の発明の損傷検知方法は、遮水層の損傷を検知する損傷検知方法において、前記遮水層内に設置された光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備えた損傷検知システムを用い、前記遮水層内の温度分布を測定して、前記遮水層内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると損傷が生じているとすることを特徴とする。
本発明による損傷検知方法によれば、遮水層内に光ファイバケーブルを設置しているので、遮水層内の温度分布を連続して測定し、遮水層内の温度分布を観察することができる。したがって、廃棄物処分場や貯水池等のピット内の水又は周囲の地盤の地下水が損傷箇所から遮水層内に浸入することによって生じる遮水層内の温度分布の変化を検知して、遮水層の損傷を検出することができる。
【0015】
第10の発明は、第9の発明において、前記遮水層内における前記温度分布の変化の度合いが最も大きい位置を損傷箇所として検出することを特徴とする。
本発明による損傷検知方法によれば、温度測定手段で測定した遮水層内の温度分布の変化の度合いが最も大きい位置を損傷箇所とするので、損傷箇所を容易に検出することができる。
【0016】
第11の発明は、第9又は10の発明において、前記遮水層を廃棄物処分場や貯水池等の地盤上に敷設することを特徴とする。
本発明による損傷検知方法によれば、廃棄物処分場や貯水池等の地盤上に敷設された遮水層の損傷を検知することができる。
【0017】
第12の発明は、第11の発明において、前記温度分布の変化の度合いが、前記所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲の温度分布よりも高い温度分布が測定された場合には、前記遮水層の上部側が損傷したとすることを特徴とする。
本発明による損傷検知方法によれば、遮水層内の通常の温度分布よりも高い温度分布が測定された場合は、廃棄物処分場や貯水池等のピット内の廃棄物により発生した熱で温められた水が損傷箇所から遮水層内に浸入したことによるものとして、遮水層の上部側の損傷を検出することができる。
【0018】
第13の発明は、第11の発明において、前記温度分布の変化の度合いが、前記所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲の温度分布よりも低い温度分布が測定された場合には、前記遮水層の下部側が損傷したとすることを特徴とする。
本発明による損傷検知方法によれば、遮水層内の温度分布を測定して、遮水層内の温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも低い温度分布が測定された場合は、廃棄物処分場等の周囲の地盤内の低温の地下水が遮水層内に浸入したことによるものとして、遮水層の下部側の損傷を検知することができる。
【0019】
第14の発明の貯水構造物は、廃棄物処分場や貯水池等の貯水機能を有する貯水構造物であって、遮水層内に設置された光ファイバケーブルと前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とから構成された遮水層の損傷を検知する検知手段を備えることを特徴とする。
【0020】
第15の発明は、第14の発明において、前記温度測定手段で測定した前記遮水層内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、廃棄物処分場や貯水池等の貯水構造物内に敷設された遮水層の損傷を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る損傷検知システム及び損傷検知方法の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、廃棄物処分場に適用した場合について説明するが、廃棄物処分場に限定されるものではなく、貯水場等の貯水機能を有する貯水構造物に適用可能である。
【0023】
図1は、本発明の第一実施形態に係る廃棄物処分場10の損傷検知システム12を示す概略図である。
図1に示すように、廃棄物処分場10は、例えば、山間部の広範な谷間や、掘削土工により、周囲地盤11の底面とその左右に二段の傾斜地からなる凹地に造成し、その底面及び傾斜面に遮水工18を敷設して損傷検知システム12を設置したものである。
遮水工18は、廃棄物処分場10の底部及び傾斜面を平坦にした基礎地盤16の上に敷設された遮水層20と、その上に配置された遮水シート19とから構成され、この遮水層20内に光ファイバケーブル13が設置されている。
光ファイバケーブル13は、底面上や傾斜面上に所定の間隔、例えば、4m間隔で、遮水層20の面内方向に、二次元的に拡がるように配置されている。
【0024】
図2は、本実施形態に係る廃棄物処分場10の底部を拡大して示す概略図である。
図2に示すように、遮水層20は、例えば、厚さは50cm、透水係数は10nm/秒以下となるようにベントナイト、粘土等から形成されている。
光ファイバケーブル13は、遮水層20の中央部に設置されている。
遮水シート19の上には、遮水シート19を保護するための砂等からなる保護層15が設けられている。
【0025】
また、図1に示すように、地上部には、光ファイバケーブル13に沿った位置の温度分布を測定する周知の温度測定手段22が管理棟23内に設置されている。廃棄物処分場10内の底部及び傾斜面に配置された光ファイバケーブル13a〜13dは地上まで延設されて、その両端はそれぞれ温度測定手段22に接続され、遮水層20内の温度分布が常時、あるいは所定の時間間隔で測定される。
【0026】
なお、本実施形態においては、光ファイバケーブル13の両端を温度測定手段22に接続する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、温度測定手段22の構成によっては、一端のみを温度測定手段22に接続すればよい場合もある。
【0027】
また、本実施形態においては、温度測定精度±0.1℃、温度測定距離間隔25cm、温度測定時間60秒にて温度分布測定を行った。ただし、これらの測定条件は、各現場によって異なり、設計等により決定される。
【0028】
温度測定手段22は、測定した遮水層20内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置24に接続されている。本実施形態においては、所定の度合いは、温度分布の変化量(℃)で、例えば、3.0℃とし、遮水工18内の通常時の温度分布よりも3.0℃以上上昇又は低下した温度分布が測定されると、警報装置24が作動するように設定した。ただし、この温度分布の変化量は、各現場によって異なり、設計等により決定される。
【0029】
なお、本実施形態においては、所定の度合いとして温度分布の変化量(℃)を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、所定の度合いとして、例えば、温度分布の変化率(ΔT/T、ここで、ΔT:遮水工18の通常時の温度分布からの温度分布の変化量(℃)、T:遮水工18内の通常時の温度分布(℃))や、温度勾配(ΔT/Δt、ここで、ΔT:遮水工18の通常時の温度分布からの温度分布の変化量(℃)、Δt:温度測定時間間隔(秒))を用いてもよい。
【0030】
以下に、損傷検知システム12を用いた損傷箇所の検知方法について説明する。
図3は、本実施形態における遮水シート19の一部及び遮水層20の上部がそれぞれ損傷した状態を示す概略図である。
【0031】
図3に示すように、遮水工18の遮水シート19に損傷が生じた場合には、廃棄物処分場10のピット内の廃棄物により発生した熱で温められた水が、損傷箇所A1を通過して遮水シート19と遮水層20の表面との間に浸入する。
遮水層20は透水性が低いので、遮水シート19と遮水層20の表面との間に存在する水は遮水層20内にほとんど浸透することなく、損傷箇所A1を中心に遮水層20の表面上を拡散し、損傷箇所A2から遮水層20内に浸入する。この水の浸入により、損傷箇所A2の周辺の温度分布が上昇する。
なお、本実施形態においては、遮水シート19の損傷箇所A1と遮水層20の損傷箇所A2とが異なる位置に存在する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、同じ位置であってもよい。
【0032】
図4は、本実施形態における廃棄物により発生した熱で温められた水が、損傷箇所A2から遮水層20内に浸入したときの遮水層20内の温度分布を示すコンター図である。
図4に示すように、熱で温められた水が損傷箇所A2から遮水層20内に浸入すると、損傷箇所A2の存在する位置の温度分布が最も高く、その周囲が徐々に低くなっている。
遮水層20内の温度分布を所定の時間間隔で長期間測定し、特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上上昇した場合は、遮水層20の上部が損傷して、廃棄物中の水が浸入していることによるものとして、その温度分布の変化率が最も大きい箇所を損傷が生じた位置として検出する。
【0033】
図5は、本実施形態における遮水層20の下部が損傷した状態を示す概略図である。
図5に示すように、遮水工18の遮水層20の下部に損傷箇所B1が存在すると、廃棄物処分場10の基礎地盤16内の地下水が損傷箇所B1から遮水層20内に浸入する。遮水層20は透水性が低いので、基礎地盤16内の地下水は遮水層20内にほとんど浸透することはないが、損傷箇所B1が存在するとその損傷箇所B1から遮水層20内に浸入する。地下水は遮水層20内の温度分布よりも低温なので、地下水が浸入した損傷箇所B1の周辺の温度分布が低下する。
【0034】
図6は、本実施形態における地下水が、損傷箇所B1から遮水層20内に浸入したときの遮水層20内の温度分布を示すコンター図である。
図6に示すように、地下水が損傷箇所B1から遮水層20内に浸入すると、損傷箇所B1の存在する位置の温度分布が最も低く、その周囲が徐々に高くなっている。
遮水層20内の温度分布を所定の時間間隔で長期間測定し、特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上低下した場合は、遮水層20の下部が損傷して、地下水が浸入していることによるものとして、その温度分布の変化率が最も大きい箇所を損傷が生じた位置として検知する。
【0035】
以上説明した本実施形態における廃棄物処分場10の損傷検知システム12によれば、遮水層20内に温度測定用の光ファイバケーブル13を二次元的に拡がりを持つように設置しているので、遮水層20内の広い範囲の温度分布を細かく測定することができる。そして、遮水層20内の温度分布を所定の時間間隔で長期間測定し、遮水層20内の温度分布の時間変化を観察することにより、廃棄物処分場10のピット内の水又は基礎地盤16内の地下水が遮水層20内に浸入することによって生じる遮水層20内の温度分布の変化を検知して、遮水層20の損傷及び損傷箇所A2、B1を検出することができる。
【0036】
遮水層20内の温度分布を測定して、特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上上昇した場合は、廃棄物処分場10のピット内の廃棄物により発生した熱で温められた水が損傷箇所A2から遮水層20内に浸入したことによるものとして、遮水層20の上部側の損傷及び損傷箇所を検出することができる。
【0037】
また、遮水層20内の特定箇所の温度分布が、通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上低下した場合は、廃棄物処分場10の基礎地盤16内の低温の地下水が損傷箇所B1から遮水層20内に浸入したことによるものとして、遮水層20の下部側の損傷及び損傷箇所を検出することができる。
【0038】
さらに、温度測定手段22で測定した遮水層20内の温度分布の変化が3.0℃以上になると光、音等で警告を発する警報装置24を備えているので、遮水層20の損傷を素早く把握することができる。
【0039】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。下記に示す説明において、第一実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して、説明を省略し、主に相違点について説明する。第二実施形態の損傷検知システム32においては、遮水層20内に光ファイバケーブル13を複数段設置したものである。
【0040】
図7は、本発明の第二実施形態に係る損傷検知システム32を廃棄物処分場10に設置した状態を示し、特に底部のみを示す概略図で、図8は、本実施形態における遮水層20の上部が損傷した状態を示す概略図である。
【0041】
図7及び図8に示すように、遮水層20内には、1本の光ファイバケーブル13が上下方向に所定の間隔で複数段となるように配置されている。ここで、説明の便宜上、上段に配置された光ファイバケーブルを13a、下段に配置された光ファイバケーブルを13bとする。これらの光ファイバケーブル13a、13bにて遮水層20内の温度分布を所定の時間間隔で測定する。なお、本実施形態においては、1本の光ファイバケーブル13を上段及び下段に配置した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、別々の光ファイバケーブル13を用いてもよい。
【0042】
遮水層20の上部に損傷箇所A3が存在すると、第一実施形態と同様に、廃棄物処分場10のピット内の水が損傷箇所A3から遮水層20内に浸入する。
その損傷箇所A3の損傷範囲が遮水層20の上部だけの場合には、水は遮水層20の上部にだけ浸入し、下部まで浸入しない。この水の浸入により、上段の光ファイバケーブル13a付近の温度分布は上昇するが、下段の光ファイバケーブル13b付近の温度分布は通常時の温度分布状態のままである。
また、損傷箇所A4の損傷範囲が遮水層20の上部から下部まで達している(下面までは達していない)場合には、水は遮水層20の上部から浸入して下部に到達する。この水の浸入より、まず、上段の光ファイバケーブル13a付近の温度分布が上昇し、次に、下段の光ファイバケーブル13b付近の温度分布が上昇する。
【0043】
図9は、本実施形態における遮水層20の下部が損傷した状態を示す概略図である。
図9に示すように、遮水層20の下部に損傷箇所B2が存在すると、第一実施形態と同様に、基礎地盤16内の地下水が損傷箇所B2から遮水層20内に浸入する。
その損傷箇所B2の損傷範囲が遮水層20の下部だけの場合には、地下水は遮水層20の下部にだけ浸入し、上部まで浸入しない。この地下水の浸入により、下段の光ファイバケーブル13b付近の温度分布は低下するが、上段の光ファイバケーブル13a付近の温度分布は通常時の温度分布状態のままである。
また、損傷箇所B3の損傷範囲が遮水層20の下部から上部まで達している(上面までは達していない)場合には、地下水は遮水層20の下部から浸入して上部まで到達する。この地下水の浸入により、まず、下段の光ファイバケーブル13b付近の温度分布が低下し、次に、上段の光ファイバケーブル13a付近の温度分布が低下する。
【0044】
以上説明した本実施形態における廃棄物処分場10の損傷検知システム32によれば、遮水層20内に光ファイバケーブル13a、13bを上下方向に複数段設置しているので、遮水層20内の上下方向の温度分布を細かく測定することができる。また、それぞれの設置高さにおける温度分布の変化の有無を検出することにより、上下方向の損傷範囲、例えば、遮水層20の上部付近のみ、遮水層20の下部付近のみ、遮水層20の上部から下部まで等を把握できる。
【0045】
さらに、光ファイバケーブル13a、13bで温度分布を測定し、それぞれの設置高さにおける温度分布の変化の生じた時間差を検出することにより、遮水層20内の水の流れる向き、例えば、上方から下方への流れ、下方から上方への流れ等を把握できる。
【0046】
なお、上述した各実施形態においては、遮水層20は、透水係数が10nm/秒以下で、ベントナイト、粘土等から形成されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、透水係数が1nm/秒以下で、アスファルト、コンクリート等から形成してもよい。
【0047】
なお、上述した各実施形態においては、層方向に拡がるように光ファイバケーブル13、13a、13bを一段又は多段に設置した場合について説明したが、この敷設方法に限定されるものではなく、例えば、図10に示すように、遮水層20の上下方向に繰り返し向きを変えるように屈曲しながら、遮水層20の面内方向に、二次元的に拡がるように敷設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第一実施形態に係る廃棄物処分場の全体を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る廃棄物処分場の損傷検知システムを示す概略図である。
【図3】本実施形態における遮水シートの一部及び遮水層の上部がそれぞれ損傷した状態を示す概略図である。
【図4】本実施形態における廃棄物により発生した熱で温められた水が、損傷箇所から遮水層内に浸入したときの遮水層内の温度分布を示すコンター図である。
【図5】本実施形態における遮水層の下部が損傷した状態を示す概略図である。
【図6】本実施形態における地下水が、損傷箇所から遮水層内に浸入したときの遮水層内の温度分布を示すコンター図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る損傷検知システムを廃棄物処分場に設置した状態を示し、特に底部のみを示す概略図である。
【図8】本実施形態における遮水層の上部が損傷した状態を示す概略図である。
【図9】本実施形態における遮水層の下部が損傷した状態を示す概略図である。
【図10】光ファイバケーブルの他の設置方法を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 廃棄物処分場
11 周囲地盤
12、32 損傷検知システム
13 光ファイバケーブル
15 保護層
16 基礎地盤
18 遮水工
19 遮水シート
20 遮水層
22 温度測定手段
23 管理棟
24 警報装置
A1、A2、A3、A4、B1、B2、B3 損傷箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮水層の損傷を検知する損傷検知システムであって、
前記遮水層内に設置された光ファイバケーブルと、
前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする損傷検知システム。
【請求項2】
前記光ファイバケーブルは、前記遮水層の面内方向に、二次元的に拡がるように設置されることを特徴とする請求項1に記載の損傷検知システム。
【請求項3】
前記光ファイバケーブルは、前記遮水層の上下方向に繰り返し向きを変えるように屈曲しながら、前記遮水層の面内方向に、二次元的に拡がるように設置されることを特徴とする請求項1に記載の損傷検知システム。
【請求項4】
前記温度測定手段で測定した前記遮水層内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の損傷検知システム。
【請求項5】
前記遮水層内における前記温度分布の変化の度合いが最も大きい位置を損傷箇所として検出することを特徴とする請求項4に記載の検知システム。
【請求項6】
前記遮水層は、廃棄物処分場や貯水池等の地盤上に敷設されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の損傷検知システム。
【請求項7】
前記温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも高い温度分布が測定された場合は、前記遮水層の上部側が損傷したとすることを特徴とする請求項6に記載の損傷検知システム。
【請求項8】
前記温度分布の変化の度合いが、所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲よりも低い温度分布が測定された場合は、前記遮水層の下部側が損傷したとすることを特徴とする請求項6に記載の損傷検知システム。
【請求項9】
遮水層の損傷を検知する損傷検知方法において、
前記遮水層内に設置された光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備えた損傷検知システムを用い、
前記遮水層内の温度分布を測定して、前記遮水層内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると損傷が生じているとすることを特徴とする損傷検知方法。
【請求項10】
前記遮水層内における前記温度分布の変化の度合いが最も大きい位置を損傷箇所とすることを特徴とする請求項9に記載の損傷検知方法。
【請求項11】
前記遮水層を廃棄物処分場や貯水池等の地盤上に敷設することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の損傷検知方法。
【請求項12】
前記温度分布の変化の度合いが、前記所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲の温度分布よりも高い温度分布が測定された場合には、前記遮水層の上部側が損傷したとすることを特徴とする請求項11に記載の損傷検知方法。
【請求項13】
前記温度分布の変化の度合いが、前記所定の度合いよりも大きく、かつ、周囲の温度分布よりも低い温度分布が測定された場合には、前記遮水層の下部側が損傷したとすることを特徴とする請求項11に記載の損傷検知方法。
【請求項14】
廃棄物処分場や貯水池等の貯水機能を有する貯水構造物であって、
遮水層内に設置された光ファイバケーブルと前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とから構成された遮水層の損傷を検知する検知手段を備えることを特徴とする貯水構造物。
【請求項15】
前記温度測定手段で測定した前記遮水層内の温度分布の変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする請求項14に記載の貯水構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate