説明

遷移金属副生成物を含む反応溶液から遷移金属を除去する方法

第一の溶液から遷移金属錯体の濃度を減少させる方法であって、第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物を加え、そして第一の溶液を第二の溶液で抽出することにより行われる前記方法。
前記溶解度向上化合物は、式Aの化合物:


A
(式中、
Ra は、SH、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である)
またはその塩もしくは活性体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、溶液から金属錯体の濃度を減少させる方法に関し、前記方法は、第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物(solubility-enhancing compound)を加え、そして前記錯体を含む溶液を前記第二の溶液で抽出することにより行われる。溶解度向上化合物は、下記式Aの化合物:

A
(式中、
Ra は、SH、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である)
またはその塩もしくは活性体(activated form)である。
【背景技術】
【0002】
背景技術
有機反応における金属錯体の汎用性にも関わらず、それを除去するための簡便な方法が未だ発見されていない。残念ながら、多くの場合、残留金属を反応混合物から除去しなくてはならず、それは、その後の変換と干渉し得、そして保存期間および最終製品の使用に問題をもたらし得るためである。
金属錯体を除去するための現在の方法は、反応物混合物を数多くのカラムを通すこと、または他の同様に厳しい精製手段を伴う。面倒であることに加え、これらの手順は時間を消費し、重労働である。金属錯体の使用が増えるにつれて、それを除去するための単純かつ手軽な方法がより必要とされ、かつ所望されている。
【0003】
US 6.376,690は、溶解度向上化合物を加えることによって溶液から残留金属を除去する方法を開示し、この方法においては、第一の溶液中の金属錯体が、該第一の溶液と混和しない第二の溶液中に移動するように、二つの溶液間の相対的溶解度が調整される。従って、第二の溶液を除去すると、反応混合物から同時に金属錯体も除去される。
US 6.376,690は、有用な溶解度向上化合物としてホスフィンを推奨する。しかしながら、この発明において開示される実施例は、特殊な水溶性ホスフィン(即ちトリスヒドロキシメチルホスフィン(THP))をトリエチルアミンと組み合わせて使用すると、様々な単純なエーテルおよびエステル製品のルテニウム含量を減らし得ることを示しているに過ぎない。より高度に官能化された有機化合物のラージスケール合成に関して、THP溶液による処理は所望しない副反応を引き起こし得る。これらの副反応は、市販の水性テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩(TKC)のアルカリ脱ホルミル化によるラージスケール操作において最も容易に入手可能なTHP溶液中に存在するホルムアルデヒドに起因するものであり得る。
【0004】
さらには、ラージスケールにおける商業的使用の可能性に着目すると、ホスフィンは一般に酸化に対して感受性が強いという欠点を示す。これは、これらの空気感受性および/または発熱性化合物の酸素との接触から保護し、それによりその所望の能力を保証するために特別な手段を講じなければならないことを意味する。そのため、これらのリン化合物は不活性環境下において別々の容器内に現場で開放され、その結果これらラージスケール操作の複雑さが増大される。加えて、ホスフィンは毒性を有するため、これらの化合物を含むいかなる製品も厳しく回避されなければならず、食品または医薬産業において有用ではない。
【0005】
驚いたことに、下記式Aの化合物またはその塩もしくは活性体の使用によりこれらの落とし穴が回避されることが発見された。

A
(式中、
Ra は、SH、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明は、概して、金属錯体の溶解度が式Aの化合物

A
(式中、
Ra は、SH、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である)
またはその塩もしくは活性体を加えることにより容易に操作し得るという発明に関する。
本発明の1つの実施態様においては、第一の溶液(典型的には反応混合物)中の金属錯体が、一般に該第一の溶液と混和しない第二の溶液中に移動するように、二つの溶液間の相対的溶解度が調整される。従って、第二の溶液を除去すると、反応混合物から同時に金属錯体も除去される。この実施態様は、反応混合物から金属錯体を分離するために特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
発明の詳細な説明
本発明は、概して、金属錯体の溶解度が、1または2以上の溶解度向上化合物を加えることによって容易に操作し得るという発見に関する。この溶解度の向上により、正確な定量分析のため、および、1または2以上の金属錯体を含む反応混合物からの所望の生成物の手軽な精製のための適切なサンプルを調製することが可能となる。
最も一般的な意味において、本発明は、溶液への金属錯体(または複数の金属錯体の組み合わせ)の溶解度を、前記溶液に1または2以上の溶解度向上化合物を加えることによって向上させる方法に関する。
【0008】
使用される用語および定義
本明細書に具体的に定義されない用語は、開示および文脈を考慮して当業者がそれに対して与えるであろう意味が与えられるべきである。しかしながら、本明細書に使用されるように、逆に特定されない限り、以下の用語は示された意味を有し、かつ、以下の約束事が守られる。
本明細書に使用されるように、“金属錯体”の用語は、金属化合物そのもの(例えば Cu、Mg、Ru、Os、等)、そのイオン、および金属含有もしくは金属付随(metal associated)化合物(共有結合を介して、または他の分子間力(例えばキレート化)を介してのいずれでもよい)を含む。本発明の実施を通してその溶解度が向上し得る金属錯体の例示的な具体例としては、以下に示すものの錯体が挙げられるが、これらに限定されない:カドミウム、クロム、コバルト、銅、金、イリジウム、鉄、マグネシウム、マンガン、水銀、モリブデン、ニッケル、オスミウム、パラジウム、白金、レニウム、ロジウム、ルテニウム、銀、テクネチウム、タングステン、および亜鉛。
【0009】
本明細書に使用されるように、“溶解度向上化合物(solubility-enhancing compounds)”は、金属または遷移錯体と相互作用して、所望の溶液における錯体の溶解度を向上させる化合物である。溶解度向上化合物は、第二の化合物により活性化されてもよい。例えば、クエン酸は、有機塩基により活性化され得る。適切な有機塩基は、ジメチルアミノピリジン、ピリジン、第三級アミン、即ちトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンまたはDBU(ジアザビシクロウンデセン)である。
本明細書に使用されるように、“溶解度向上化合物の活性体(activated forms)”は、所望の溶液における溶解度向上化合物の溶解度を向上させるために加えられた第二の化合物と相互作用する溶解度向上化合物である。例えば、所望の溶液が極性および/またはプロトン性溶液の場合、酸機能を含む化合物の溶解度は、塩基を加えることによって向上させることができる、即ち、クエン酸は、有機塩基によって活性化され得る。適切な有機塩基は、ジメチルアミノピリジン、ピリジン、第三級アミン、即ちトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンまたは DBU(ジアザビシクロウンデセン)である。
【0010】
本明細書に使用されるように、“保護基”の用語は、ヒドロキシ官能基の保護に使用される官能基を含む。ヒドロキシ官能基を保護するためには、保護基がヒドロキシ基の水素原子を置換し、ヒドロキシ基を脱保護するためには、穏和な条件下におけるOH 基の再形成(reformation)の際の基-酸素結合の切断が可能である。
本発明に使用されるように、“適切な脱離基”の用語は、ヒドロキシ基の水素原子を置換する官能基を含む。次いで、その基は、結合する電子と共に、安定な化学種として移動する。典型的には、脱離基は、元のヒドロキシ基の酸素と共に、アニオンとして脱離する。脱離基が良いほど、それは離れ易い。
【0011】
脱離基は、基を処理(despatch)するための反応によっては保護基と同じであってもよい。適切な脱離基または保護基の例は以下である:2.4.6-トリメチルベンゾアート、2.4-ジニトロフェニル、2.4-ジニトロフェニルスルフェナート、2-クロロベンゾアート、2-トリフルオロメチルベンジル、2-トリメチルシリルエチル、3.4-ジメトキシベンジル、3.4-ジメトキシベンジル、3-フェニルプロピオナート、4-ブロモベンゾアート、4-ニトロベンゾアート、9-アントリル、9-フルオレニルメチル、α-ナフトアート、アセタート、アリル、アリルスルホナート、ベンゾイルホルマート、ベンジル、ベンジルオキシメチル、ベンジルスルホナート、ブロシラート(brosylate)、クロロアセタート、クロロジフェニルアセタート、ジクロロアセタート、ジエチルイソプロピルシリル、ジメチルイソプロピルシリル、ジフェニルアセタート、ジフェニルメチル、エチル、イソブチル、イソブチラート、メントキシメチル、メタンスルホナート、メトキシアセタート、メトキシメチル、メチル、モノスクシノアート(monosuccinoate)、ニトロベンジル、ニトロフェニル、N-フェニルカルバマート、p-アシルアミノベンジル、p-クロロフェニル、p-シアノベンジル、p-ハロベンジル、フェノキシアセタート、フェニルアセタート、p-メトキシベンジル、p-メトキシフェニル、p-フェニルベンゾアート、プロパルギル、t-ブチル、トシラート、トリベンジルシリル、トリクロロアセタート、トリエチルシリル、トリフルオロアセタート、トリイソプロピルシリル、トリメチルシリル、トリフェニルメチル、トリフェニルシリル、トリス(トリメチルシリル)シリル、ビニル。
【0012】
好ましい実施態様
本発明の1つの実施態様は、第二の溶液を加えることによって、遷移金属錯体を含む第一の溶液から前記錯体の濃度を減少させる方法であり、前記方法は:
・第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物を加える工程;
・第一の溶液を第二の溶液と合わせる工程、ここで、第二の溶液は第一の溶液と混和しない;
・第一の溶液と第二の溶液を一緒に混合する工程;および、
・第二の溶液を第一の溶液から除去する工程;
を含み、ここで、前記溶解度向上化合物は式Aの化合物:

A
(式中、
Ra は、SH、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である)
またはその塩もしくは活性体である。
【0013】
好ましいのは、式中、
Ra は、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である、
式Aの化合物が使用される方法である。
同じく好ましいのは、式中、
Ra は、SH または OHであり;
Rb は、SH または OHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH または OHであり;
Rd は、Hであり;
n は、1、2、3 または 4である、
式Aの化合物が使用される方法である。
【0014】
同じくさらに好ましいのは、式中、
Ra は、SHであり;
Rb は、SHであり;
Rc は、それぞれ独立に H または OHであり;
Rd は、H であり;
n は、1 または 2である、
式Aの化合物が使用される方法である。
同じく好ましいのは、式中、
Ra は、SH または OHであり;
Rb は、SH または OHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH または OHであり;
Rd は、Hであり;
n は、1 または 2である、
式Aの化合物が使用される方法である。
【0015】
同じく好ましいのは、式中、
Ra は、COOHであり;
Rb は、COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3 または 4である、
式Aの化合物が、式 N(R5)3の活性化化合物(式中、R5 は C1-6-アルキルである)の存在下で使用される方法である。
同じく好ましいのは、式中、
Ra は、OH または COOHであり;
Rb は、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H または OHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1 または 2である、
式Aの化合物が、式 N(R5)3の活性化化合物(式中、R5 は C1-6-アルキルである)の存在下で使用される方法である。
【0016】
好ましいのは、下記式 A1の化合物である。

A1
(式中、Ra、Rb、Rc、Rd および n は、Aに対して与えられた意味を有する。)
【0017】
最も好ましいのは、溶解度向上化合物が、以下からなる群より選択される方法である:ジチオエリトロール(dithioerytrol)、2,3-ジメルカプトプロパン-1-スルホン酸、2,3-ジメルカプトコハク酸、クエン酸、または、有機塩基(ジメチルアミノピリジン、ピリジン、トリエチルアミンおよびジイソプロピルエチルアミンの群より選択される)と組み合わせたクエン酸。
好ましいのは、除去された遷移金属が、Cu、Ru、Os、Cd、Cr、Co、Ag、Ir、Fe、Mn、Hg、Mo、Ni、Pd、Pt、Re、Rh、Ag、Te、W または Zn からなる群より選択される方法である。
より好ましいのは、除去された遷移金属が、Cu、Ru、Fe、Ni、Pd、Pt、Rh または W、好ましくは Ru、Pd または Rhからなる群より選択される、特に好ましくは Ruである方法である。
【0018】
最も好ましいのは、水性溶液を加えることによって、Ru、Rh または Pd 錯体を含む第一の溶液から前記錯体の濃度を減少させる方法であり、前記方法は:
・水性溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物を加える工程;
・第一の溶液を水性溶液と合わせる工程、ここで、水性溶液は第一の溶液と混和しない;
・第一の溶液と水性溶液を一緒に混合する工程;および、
・第一の溶液から水性溶液を除去する工程;
を含み、ここで、前記溶解度向上化合物は以下からなる群より選択される:ジチオエリトロール、クエン酸、または、有機塩基(ジメチルアミノピリジン、ピリジン、トリエチルアミンおよびジイソプロピルエチルアミンの群より選択される)と組み合わせたクエン酸。
上記方法の好ましい変種においては、第二の溶液を除去した後に吸着剤が加えられる。この方法は、以下の工程を含む:
・第一の溶液に吸着剤、好ましくは木炭粉末を加える工程;
・第一の溶液からすべての固体残留物を除去する工程。
【0019】
従って、好ましいのは、水性溶液を加えることによって、Ru、Rh または Pd錯体を含む第一の溶液から前記錯体の濃度を減少させる方法であり、前記方法は:
・水性溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物を加える工程;ここで、場合により吸着剤を加えてもよい;
・第一の溶液を水性溶液と合わせる工程、ここで、水性溶液は第一の溶液と混和しない;
・第一の溶液と水性溶液を一緒に混合する工程;および、
・第一の溶液から水性溶液を除去する工程;
・必要により、第一の溶液からの有機溶媒を変更する工程、
・有機溶液に木炭粉末を加える工程;
・有機溶液からすべての固体残留物を除去する工程、
を含み、ここで、前記溶解度向上化合物は以下からなる群より選択される:ジチオエリトロール、クエン酸、または、有機塩基(ジメチルアミノピリジン、ピリジン、トリエチルアミンおよびジイソプロピルエチルアミンの群より選択される)と組み合わされたクエン酸。
【0020】
本発明の別の実施態様は、遷移金属錯体を含む反応混合物から前記錯体の濃度を減少させる方法であり、前記方法は以下の工程を含む:
a) 式Aの化合物(式中、Ra、Rb、Rc、Rd および n は、請求項1〜6に定義される通りである)またはその塩もしくは活性体を加えることにより、第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる工程;
b) 得られた混合物を20〜720分間撹拌する工程;
c) 第一の溶液を、第二の水性溶液で抽出する工程。
好ましいのは、遷移金属と溶解度向上化合物とのモル比が、1:10〜1:600、好ましくは1:10〜1:300、より好ましくは1:25〜1:100、最も好ましくは約1:50である方法である。
好ましいのは、工程 b) が、得られた混合物を60〜600分間、好ましくは180〜480分間、より好ましくは300〜420分間、最も好ましくは320〜340分間撹拌することを含む方法である。
好ましいのは、工程 c) が:
・第一の溶液を、水または1〜15% NaHCO3 水溶液、好ましくは水または2〜10% NaHCO3 水溶液、最も好ましくは水または3〜8% NaHCO3 水溶液で、1回、2回、3回、または4回以上抽出することを含む方法である。
【0021】
従って、好ましいのは、Ru、Rh または Pd錯体を含む反応混合物から前記錯体の濃度を減少させる方法であり、前記方法は以下の工程を含む:
a) 第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物として、ジチオエリトロール、クエン酸、または、トリエチルアミンと組み合わせたクエン酸からなる群より選択される化合物を加える工程;
b) 得られた混合物を120分間撹拌する工程;
c) 第一の溶液を水で2回抽出する工程。
好ましいのは、工程b、または工程aとbが、0〜100°、好ましくは0〜60℃、最も好ましくは室温で行われる方法である。
同じく好ましいのは、工程 a-c の後の遷移金属の残留濃度が、1000 ppm以下、< 900 ppm、< 800 ppm、好ましくは < 700 ppm、< 600 ppm、< 500 ppm、特に < 400 ppm、< 300 ppm、< 200 ppm、< 100 ppm、< 50 ppm、< 10 ppm または < 5 ppmである方法である。
【0022】
好ましいのは、工程 c) の後に以下の工程 e-h が行われる方法である:
e) 固体吸着剤を加える工程;
f) 混合物を20〜100℃に加熱する工程
g) 得られた混合物を10〜500分間撹拌する工程;
h) 固体残留物を除去する工程。
好ましいのは、固体吸着剤が木炭粉末である方法である。
好ましいのは、工程 f) が、第一の溶液を30〜80℃、好ましくは35〜70℃、より好ましくは40〜60℃、最も好ましくは45〜55℃に加熱することを含む方法である。
好ましいのは、工程 g) が、得られた混合物を20〜200分間、好ましくは60〜180分間、より好ましくは100〜140分間、最も好ましくは110〜130分間撹拌することを含む方法である。
【0023】
従って、好ましいのは、Ru、Rh または Pd 錯体を含む反応混合物から前記錯体の濃度を減少させる方法であり、前記方法は以下の工程を含む:
a) 第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物として、ジチオエリトロール、クエン酸、または、トリエチルアミンと組み合わせたクエン酸からなる群より選択される化合物を加える工程;
b) 得られた混合物を120分間撹拌する工程;
c) 第一の溶液を水で2回抽出する工程;
e) 木炭粉末を加える工程;
f) 混合物を50℃に加熱する工程
g) 得られた混合物を120分間撹拌する工程;
h) 固体残留物を濾過除去する工程。
同じく好ましいのは、工程 a-h の後の遷移金属の残留濃度が、500 ppm以下、< 400 ppm、好ましくは < 300 ppm、< 200 ppm、特に < 100 ppm、< 50 ppm、< 10 ppm または < 5 ppmである方法である。
【0024】
同じく好ましいのは、第一の溶液が、下記一般式3の化合物

3
(式中、
R1 は、H、COR3、COOR3、CO-NHR3、NH-COR3、NH-COOR3であり;
R2 は、OR3、NHR3、NH-COR3、NH-CONHR3、NH-COOR3であり;
R3 は、H、C1-6-アルキル、C3-8-シクロアルキル、アリール、het または hetarylであり;
R4 は、H、C1-6-アルキル、C3-8-シクロアルキル、OH、SH、NH2、CN、ハロゲンであり;
RLG は、H または適切な脱離基もしくは保護基であり;
D は、C5-10-アルケニレン、C5-10-アルキニレン(両者とも場合によりO、S、NR3から選択されるヘテロ原子を1個、2個または3個含んでもよい)である)
を含むメタセシス反応のクルード生成物の溶液であり、かつ、
前記遷移金属錯体の源はメタセシス反応に有用なルテニウム触媒である方法である。
【0025】
より好ましいのは、メタセシス反応の生成物が下記一般式3aの化合物である方法である:

3a
(式中、R1、R2、R3、R4 および D は上に定義した通りであり、RLG は適切な脱離基である。)
【0026】
最も好ましいのは、メタセシス反応の生成物が下記一般式3bの化合物である方法である:

3b
(式中、RLG は適切な脱離基であり、
R1 は、H、COR3、COOR3であり;
R2 は、NH-COR3、NH-CONHR3、NH-COOR3であり;
R3 は、H、C1-6-アルキル、C3-8-シクロアルキルである)
【0027】
本発明の別の実施態様は、下記式1の化合物:

1
(式中、R6 は H または CH3 であり、m は 0 または 1である)
を製造する方法であり、前記方法は以下の工程を含む:
I) 有用なルテニウム触媒の存在下における、式2の化合物の閉環メタセシス反応;

2
II) 反応の後に、前述の方法の1つに従ってルテニウム濃度を減少させる工程;
III) 得られた式3の化合物を式4の化合物(式中、R6 と m は上に定義した通りである)と反応させる工程;

3c

4
IV) 得られた式5の化合物(式中、R6 と m は上に定義した通りである)のけん化。

5
【0028】
好ましいのは、化合物3cを製造するための方法であり、前記方法は、有用なルテニウム触媒の存在下における化合物2の閉環メタセシス反応;

2
および、反応の後に、前述の方法の1つに従ってルテニウム含有物を除去する工程を含む。
この方法は、ルテニウム錯体、特にメタラ-複素環を含むルテニウム錯体、より好ましくはメタセシス反応(好ましくは閉環メタセシス反応、開環メタセシス反応またはクロスメタセシス反応)を触媒するのに有用なメタラ-複素環を含むルテニウム錯体、の濃度を減少させるのに特に有効である。
【0029】
好ましいルテニウム錯体は、下記式6または7の化合物である。

6


7
(式中、
X と X' は、アニオン性リガンド、好ましくは F、Cl、Br、I、最も好ましくはClであり;
L1 は、中性リガンド、好ましくは PCy3 または

であり;
L2 は、中性リガンド、好ましくは P(-C1-6-アルキル)3、P(-C1-6-シクロアルキル)3 または PPh3、最も好ましくは PCy3であり、
R7 は、C1-6-アルキル、C1-6-ハロアルキル、C3-8-シクロアルキルまたは C7-13-アラルキル;好ましくは C1-6-アルキル、最も好ましくはイソ-プロピルであり;
R8 は、H、C1-6-アルキル、C2-6-アルケニル、C2-6-アルキニルまたはフェニル、最も好ましくは Hであり;
R9 は、それぞれ独立に C1-6-アルキル、C1-6-アルコキシ、フェニル、F、Cl、NO2、CN、CF3、OCF3であり;
n は、0、1、2、3、4 または 5であり;
かつ、Cy はシクロヘキシルの意味を有し、Mes はメシチルの意味を有する。)
【0030】
最も好ましいのは、下記式6a、6b および 6cのルテニウム錯体である:

6a

6b

6c
【0031】
先の実施態様と同様に、溶解度向上化合物は、第一の溶液または第二の溶液、あるいは合わされた溶液に加えることができる。しかしながら、一般に、第一の溶液を第二の溶液と合わせる前に、第一の溶液に溶解度向上化合物を加えることが好ましい。
実施例および好ましい実施態様の参照により本発明を説明してきたものの、上記の説明は単に例証を目的としたものであり、本発明の範囲をいかなる様式によっても限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0032】
実験の部
実施例1

機械式撹拌機、濃縮器、窒素注入口、滴下漏斗および加熱ジャケットを備えたフラスコ内にトルエン(2l)を周囲温度において加えた。溶媒を窒素でフラッシュし、80℃に加熱し、トルエン中の 2 の36.3%溶液(38.8g)を反応器に加えた。15分後、固体Hoveyda触媒6aの第一の部分(0.136g)を加え、そして2回繰り返した(60分後と120分後);従って、最終的なHoveyda触媒の総量は0.408gである。
HPLC-分析を行うと、出発物質の >97% の変換を示し、反応器内容物を周囲温度に冷却することにより反応を停止させた。実施例1による3回のメタセシスのバッチを組み合わせ、さらに金属スカベンジング実験に使用した。
【0033】
実施例2
機械式撹拌機、濃縮器および加熱ジャケットを備えたフラスコ内に、実施例1からの透明なメタセシス溶液(500ml、約6.6 mmole の 3 を含む)を加えた。内容物を25℃において撹拌し、適切な金属スカベンジャー(表1を参照されたい)を加え、そして、得られた混合物を表1に示される時間撹拌した。その後、溶液を水で抽出し、ここで抽出操作は、実験A、B、Cについては0.5N NaHCO3 水溶液(1 x 80ml)と水(2 x 100ml)からなり、実験Dについては水(1 x 175ml)と5% NaHCO3 水溶液(2 x 90ml)からなる。
得られた有機相は、その後の単離操作において使用される。
実施例3
実施例2による水様性抽出の後のメタシセス生成物3のトルエン溶液(約100mL)を、乾燥するまで蒸発させた(ロータリーエバポレーター)。残渣について、そのルテニウム含有量を分析した。結果を表1のV3(B-D)の下に要約する。
実施例4
実施例2による水様性抽出の後のメタシセス生成物3のトルエン溶液(400ml)を、乾燥するまで濃縮した。残渣をメタノール(80ml)と水(9ml)に溶解した。混合物に木炭粉末(1.0g、Acticarbon LS)を加え、そして混合物を25℃で120分間撹拌した。木炭粉末を濾過除去し、メタノール(20 ml)で洗浄した。組み合わせた有機相の溶媒を蒸留除去し、残渣を酢酸エチル / メチルシクロヘキサン混合物(1:25)から結晶化させた。単離されたメタセシス生成物 3(白色固体)の収量は2.28〜2.51g(70〜77%)であった。メタセシス生成物のルテニウム含有量は、表1のV4の下に記載される。
【0034】
表1:金属スカベンジング実験の実験条件および結果



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二の溶液を加えることによって、遷移金属錯体を含む第一の溶液から前記錯体の濃度を減少させる方法であって、
・第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる溶解度向上化合物を加える工程;
・第一の溶液を第二の溶液と合わせる工程、ここで、第二の溶液は第一の溶液と混和しない;
・第一の溶液と第二の溶液を一緒に混合する工程;および、
・第一の溶液から第二の溶液を除去する工程;
を含み、前記溶解度向上化合物は、下記式Aの化合物:

A
(式中、
Ra は、SH、SO3H、OH または COOHであり;
Rb は、SH、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1、2、3、4 または 5である)
またはその塩もしくは活性体である方法。
【請求項2】
式中、
Ra は、SH または OHであり;
Rb は、SH または OHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、SH または OHであり;
Rd は、H であり;
n は、1、2、3 または 4である、
式Aの化合物が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式中、
Ra は、SHであり;
Rb は、SHであり;
Rc は、それぞれ独立に H または OHであり;
Rd は、H であり;
n は、1 または 2である、
式Aの化合物が使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式中、
Ra は、COOHであり;
Rb は、COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H、OH または COOHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1 、3 または 4である、
式Aの化合物が、式 N(R5)3 の活性化化合物(式中、R5 はC1-6-アルキルである)の存在下で使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
式中、
Ra は、OH または COOHであり;
Rb は、OH または COOHであり;
Rc は、それぞれ独立に H または OHであり;
Rd は、それぞれ独立に H または COOHであり;
n は、1 または 2である、
式Aの化合物が、式 N(R5)3 の活性化化合物(式中、R5 はC1-6-アルキルである)の存在下で使用される、請求項1または4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属錯体の金属が、Cu、Ru、Fe、Ni、Pd、Pt、Rh または Wからなる群より選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第一の溶液から第二の溶液を除去する工程の後に、
・第一の溶液に木炭粉末を加える工程;
・第一の溶液からすべての固体残留物を除去する工程、
をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遷移金属と溶解度向上化合物とのモル比が1:10〜1:600である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
工程 b) が、得られた混合物を300〜420分間撹拌することを含む、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程 c) が:
・第一の溶液を5% NaHCO3 水溶液で抽出すること;および
・第一の溶液を水で少なくとも2回抽出すること、
を含む、請求項6から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程 a-c の後の遷移金属の残留濃度が1000 ppm未満である、請求項6から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程 c) の後に以下の工程 e-h:
e) 固体吸着剤を加える工程;
f) 混合物を20〜100℃に加熱する工程
g) 得られた混合物を10-500分間撹拌する工程;
h) 固体残留物を除去する工程、
が行われる、請求項6から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
固体吸着剤が木炭粉末である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程 f) が、第一の溶液を45〜55℃に加熱することを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
工程 g) が、得られた混合物を100〜140分間撹拌することを含む、請求項12から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程 a-h の後の遷移金属の残留濃度が500 ppm未満である、請求項6から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
遷移金属錯体およびメタセシス反応の生成物を含む第一の溶液から、前記錯体の濃度を減少させる方法であって:
a) 式Aの化合物(式中、Ra、Rb、Rc、Rd および n は請求項1〜6で定義された通りである)またはその塩もしくは活性体を第一の溶液に加えることにより、第一の溶液と混和しない第二の溶液における前記錯体の溶解度を向上させる工程;
b) 得られた混合物を60〜600分間撹拌する工程;
c) 反応混合物を第二の水性溶液で抽出する工程、
を含む方法。
【請求項18】
第一の溶液が、下記一般式3の化合物

3
(式中、
R1 は、H、COR3、COOR3、CO-NHR3、NH-COR3、NH-COOR3であり;
R2 は、OR3、NHR3、NH-COR3、NH-CONHR3、NH-COOR3であり;
R3 は、H、C1-6-アルキル、C3-8-シクロアルキル、アリール、het または hetarylであり;
R4 は、H、C1-6-アルキル、C3-8-シクロアルキル、OH、SH、NH2、CN、ハロゲンであり;
RLG は、H または適切な脱離基もしくは保護基であり;
D は、C5-10-アルケニレン、C5-10-アルキニレン(両者とも場合によりO、S、NR3から選択されるヘテロ原子を1個、2個または3個含んでもよい)である)
を含むメタセシス反応のクルード生成物の溶液であり、かつ、前記遷移金属錯体はメタセシス反応に有用なルテニウム触媒である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
メタセシス反応の生成物が下記一般式3aの化合物である、請求項18に記載の方法。

3a
(式中、R1、R2、R3、R4、および D は請求項19に定義される通りであり;
RLG は、適切な脱離基である。)
【請求項20】
メタセシス反応の生成物が下記一般式3bの化合物である、請求項18または19に記載の方法。

3b
(式中、
R1 は、H、COR3、COOR3であり;
R2 は、NH-COR3、NH-CONHR3、NH-COOR3であり;
R3 は、H、C1-6-アルキル、C3-8-シクロアルキルであり;
RLG は、適切な脱離基である。)
【請求項21】
下記式1の化合物:

1
(式中、R6 は H または CH3 であり、m は 0 または 1である)
の製造方法であって、
I) 有用なルテニウム触媒の存在下における、式2の化合物の閉環メタセシス反応;

2
II) 反応の後に、請求項1〜17のいずれかに従ってルテニウム含有量を減少させる工程;
III) 得られた化合物3を式4の化合物(式中、R6 および m は上に定義した通りである)と反応させる工程;

3c

4
IV) 得られた下記式5の化合物(式中、R6 および m は上に定義した通りである)のけん化;

5
を含む製造方法。

【公表番号】特表2008−502591(P2008−502591A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550059(P2006−550059)
【出願日】平成17年1月22日(2005.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000606
【国際公開番号】WO2005/075502
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】