説明

遷移金属触媒の存在下におけるシアノアクリレートエステルの製造方法

本発明は、シアノアクリレートエステルの製造方法に関する。本方法は、実質的にエステル交換反応に基づき、ここで、エステル交換反応を、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成させた少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノアクリル酸エステルの製造方法に関する。本方法は、実質的に、エステル交換反応に基づき、ここで、エステル交換反応は、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と、少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成させた、少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下で行われる。
【背景技術】
【0002】
シアノアクリル酸エステルに基づく重合性接着剤組成物は、その使い易さ、迅速な硬化および得られる接着結合の強度が高いために、工業用途および医療用途の両方において幅広く使用される。単量体型のシアノアクリレートは極めて反応性であり、空気中に含まれる水分または表面上に存在する水分を含めた、微量の重合開始剤の存在下でさえ、すばやく重合する。重合は、アニオン、フリーラジカル、双性イオンまたはイオン対により開始される。いったん重合が開始すると、硬化速度は極めて早くあり得る。したがって、シアノアクリル酸エステルに基づく重合性接着剤組成物は、例えばプラスチック、ゴム、ガラス、金属、木材ならびに生体組織を結合するための、興味深い解決手段であることが分かっている。
【0003】
米国特許第6,667,031号に開示されるように、モノシアノアクリル酸エステルの従来の合成はクネーフェナーゲル縮合に基づき、その合成では、シアノアセテートをホルムアルデヒドと反応させる。形成されたプレポリマーは、150〜200℃以上の高温で、熱分解により解重合され、ここで、通常、形成されたモノマーを蒸留により反応溶液から分離する。記載された反応条件下で形成されたモノマーのラジカル重合およびアニオン再重合を防ぐことができる安定剤または安定剤の混合物の存在下で処理が行われる場合にのみ、熱解重合がうまくいく。
【0004】
アニオン再重合を防ぐ安定剤は、何ら限定されないが、通常はルイス酸、例えば二酸化硫黄、一酸化窒素または三フッ化ホウ素、または無機または有機ブレンステッド酸、例えば硫酸、リン酸または有機スルホン酸である。
【0005】
高濃度の安定剤を処理に使用すると、モノマーを反応溶液から蒸留によって分離する際に、一部の安定剤の移動を引き起こすことが多く、その結果、蒸留したシアノアクリレートモノマー中の安定剤の残留濃度が高くなり得る。特に、立体要求性のシアノアクリル酸エステルの場合、これは、モノマーの望ましくない過度の安定化をもたらし得、モノマーの重合速度の減少を引き起こす。
【0006】
ビス−シアノアクリレートの製造も、長きにわたり既知であり、次の方法で行うことができる。
【0007】
ホルムアルデヒドおよびビス−シアノアセテートを、上記のクネーフェナーゲル縮合と同様の方法で反応させる。その結果、ほとんど熱解重合する可能性がない架橋重合体となる。
【0008】
ビス−シアノアクリレートを、逆ディールスアルダー反応で製造することもできる。米国特許第3,975,422号に記載されるように、例えば、単官能シアノアクリレートをまずジエンでブロックする。ブロックした単官能シアノアクリレートを、ケン化し、遊離の酸を形成させる。次いで、対応する酸塩化物とジオールからエステルを生成させる。続いてビス−シアノアクリレートを無水マレイン酸と交換し、ベンゼンからの再結晶を繰り返した後に、最終的に、純粋なビス−シアノアクリレートが得られる。この製造手段は5つの段階を含むため不経済である。
【0009】
ビス−シアノアクリレートを製造し得る別の方法は、欧州特許第0764148号明細書に教示されている。
【0010】
ビス−シアノアクリレートは、2−シアノアクリル酸またはそのアルキルエステルをジオールと反応させることにより得られ、上記反応を、溶液中で、触媒としてのスルホン酸の存在下で行うことが好ましい。次いで、分別晶出によりビス−シアノアクリレートを単離する。
【0011】
有効なエステル化反応またはエステル交換反応を達成するために、比較的に大量のスルホン酸を使用せねばならないことが、この方法の欠点であることが分かっている。得られた生成物からスルホン酸を完全に分離することは、しばしば困難であり、これは、上記のスルホン酸がアニオン重合防止剤として作用するために、特に立体要求性のビス−シアノアクリレートの場合に、個々のモノマーの重合速度の著しい減少が見られることを意味する。
【0012】
記載された均一触媒法に加えて、不均一触媒の存在下で進行するエステル交換法も従来技術において既知である。
【0013】
X. Ma、S. Wang、J. Gong、X. YangおよびG. Xu(Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 222(2004)、第183〜187頁)は、例えばTiO−、TiO/SiO−、TiO/Al−およびTiO/MgO−に基づく触媒の製造およびシュウ酸ジメチルのエステル交換反応における不均一触媒系としての効果的な使用を記載する。
【0014】
D. Srinivas、R. SrivastavaおよびP. Ratnasamy(Catalysis Today 96(2004)、第127〜133頁)は、同様の触媒系の製造を記載し、エチルアセトネート、マロン酸ジメチルおよび環状プロピレンカーボネートのエステル交換反応における不均一触媒系としての効果的な使用を記載する。
【0015】
欧州特許第0574632号は、調製した遷移金属オリゴマーと表面にヒドロキシル基を有する固体基材とを反応させて得た触媒を用いる、カルボン酸エステルの製造方法を教示する。
【0016】
上記の文献は、いずれも、シアノアクリル酸エステルのエステル交換反応における不均一触媒の使用について開示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6,667,031号明細書
【特許文献2】米国特許第3,975,422号明細書
【特許文献3】欧州特許第0574632号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】X. Ma、S. Wang、J. Gong、X. YangおよびG. Xu著、Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 222(2004)、第183〜187頁
【非特許文献2】D. Srinivas、R. SrivastavaおよびP. Ratnasamy著、Catalysis Today 96(2004)、第127〜133頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、上記のエステルを、アニオン重合防止剤の残留濃度をできるだけ低くし、高純度で製造することができる、シアノアクリル酸エステルの新規な製造方法を開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の解決手段は、請求項から確認することができる。それは、実質的に、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成させた少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下での、シアノアクリル酸エステルと1価および/または多価アルコールとのエステル交換からなる。
【0021】
少なくとも1種の遷移金属触媒は、ブレンステッド酸を追加しない場合でさえ、本発明の方法のエステル交換反応が高い収率で行われることを可能にし、その結果、アニオン重合防止剤の極めて低い残留濃度を有する、高純度かつ高反応性のエステル交換生成物となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
したがって、本発明は、一般式(I):
【化1】

で示される少なくとも1種のシアノアクリル酸エステルの製造方法であって、次の工程:
a)一般式(II):
【化2】

[式中、Rは、1〜6個のC原子を有する分枝状または非分枝状アルキル基である]
で示される少なくとも1種の2−シアノアクリル酸エステルと、一般式(III):
【化3】

で示される少なくとも1種のアルコールとの、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成させた少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下でのエステル交換、および
b)工程a)で得た一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルの単離
[式中、nは1〜6の整数であり、Rは1〜100個のC原子を含むn価の基である]
を含む製造方法を提供する。
【0023】
本発明の方法はエステル交換反応であるため、基RおよびRは同一でなくてよい。特に、基Rが、基Rよりも少なくとも1個多いC原子、特に少なくとも2個多いC原子を有することが好ましい。
【0024】
少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と、少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成され、本発明の方法で行われるエステル交換反応において触媒活性を有する全ての化合物が、本発明の意味する範囲において、遷移金属触媒として適当である。
【0025】
本発明の意味する範囲において、用語「遷移金属」は、Bulletin de la Societe Chimique de France no.1(1966年、1月)に追録の周期表のIb、IIb、IIIa(ランタノイドを含む)、IVa、Va、VIa、VIIaおよびVIII族から選択される金属元素を意味する。言い換えると、原子番号が21〜30までの間、39〜48までの間、57〜80までの間の元素である。
【0026】
本発明の意味する範囲において、n価の基Rは、一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルまたは一般式(III)で示されるアルコールから出発してn個の炭素−酸素結合のホモリシス開裂によって形式的に形成される、1〜100個のC原子を有するn価の有機基であると理解される。
【0027】
n価の基の概念を、3価アルコールトリメチロールプロパン(TMP;n=3)を例として参照することにより以下により詳細に記載する:
【化4】


【0028】
本発明の意味する範囲において、TMP分子中の3個のC−OH結合の形式的なホモリシス開裂は、結果として、3価の有機基となる。
【0029】
本発明の方法によって、使用するアルコールに応じて、モノシアノアクリル酸エステル、および、より多価のシアノアクリル酸エステルの両方を製造することができる。
【0030】
したがって、本発明の方法の好ましい態様において、一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルを、一般式(Ia):
【化5】

で示されるモノシアノアクリル酸エステルから、
および/または一般式(Ib):
【化6】

で示されるビス−シアノアクリル酸エステルから、
および/または一般式(Ic):
【化7】

で示されるトリス−シアノアクリル酸エステルから
[式中、基Rは上記で定義したものである]
選択する。
【0031】
本発明の方法は、特に一般式(Ib)で示されるビス−シアノアクリル酸エステルおよび/または一般式(Ic)で示されるトリス−シアノアクリル酸エステルの製造に適当である。使用する遷移金属触媒の反応性が高いために、前記のシアノアクリル酸エステルをきわめて高い純度で調製することができる。本発明のエステル交換方法において、エステル交換触媒としてのブレンステッド酸は完全にまたはほぼ完全に除かれるため、上記の分子は、同時に、対応する重合反応における極めて高い反応性を有する。
【0032】
本発明の方法の好ましい態様において、式(I)、式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)および/または式(III)における基Rは、少なくとも1個の酸素原子で遮られている、C〜C100の鎖、好ましくはC〜C70の鎖、特にC10〜C50の鎖を含む。基Rは、直鎖状、分枝状または環状の形状を有してよい。
【0033】
基Rが、少なくとも1個のポリエチレングリコール単位および/または少なくとも1個のポリプロピレングリコール単位を有することが特に好ましい。
【0034】
本発明の方法の好ましい態様において、式(I)、式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)および/または式(III)における基Rは、3〜18、特に4、8、10および/または12個の直接に結合したC原子を含む。基Rは、同様に、直鎖状、分枝状または環状の形状を有することができる。
【0035】
基Rは、芳香族基をさらに含有することができ、または、例えばハロゲン原子、酸素原子および/または窒素原子から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を、水素および炭素原子に加えて含むこともできる。
【0036】
一般式(III):
【化8】

で示されるアルコールは、一価〜六価のアルコール(n=1〜6)であり、一価、二価および/または三価のアルコールが好ましい。上に示した、一般式(Ia)で示されるモノシアノアクリル酸エステル、一般式(Ib)で示されるビス−シアノアクリル酸エステルおよび一般式(Ic)で示されるトリス−シアノアクリル酸エステルを、これらのアルコールを用いて簡単に調製することができる。
【0037】
本発明の方法で使用するアルコールは、第1級または第2級アルコールであることが好ましく、第1級アルコールが、エステル交換反応におけるより高い反応性を有するため、好ましい。異なるアルコールのいずれの混合物も、通常、使用することができる。
【0038】
適当なアルコールを、例えばエタノール、クロロエタノール、シアノエタノール、n−プロパノール、sec−プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、イソアミルアルコール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール、イソデカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、オルト−、メタ−およびパラ−メトキシベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、フェニルエチルアルコール、トリフェニルエチルアルコール、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、ペンタエリスリトール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシレノール、ビスフェノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、約4000以下の分子量を好ましくは有するポリオキシエチレングリコールまたはポリオキシプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブトキシエタノール、ブチレングリコールモノブチルエーテル、ジペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリグリセロールなどから選択することができる。
【0039】
本発明の好ましい態様において、本発明の方法で使用する一般式(III)で示されるアルコールを、一般式(IIIa):
【化9】

[式中、RCOは、12〜22個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アシル基を表し、mは5〜30、好ましくは15〜25の数を表す]
で示される化合物からも選択する。その代表例は、エチレンオキシドと、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルモレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、エイコサン酸、ガドレイン酸、ドコサン酸およびエルカ酸およびそれらの工業的混合物(例えば、天然油脂および油の加圧開裂、レーレンオキソ合成からのアルデヒドの還元によって形成されるもの)との付加生成物である。エチレンオキシドと16〜18個の炭素原子を有する脂肪酸との付加生成物を使用することが好ましい。
【0040】
本発明の方法によれば、式(III)で示されるアルコールを、一般式(II):
【化10】

[式中、Rは1〜6個のC原子を有する分枝状または非分枝状アルキル基である]
で示される少なくとも1種の2−シアノアクリル酸エステルと反応させる。
【0041】
エステル交換反応において形成されるアルコール、メタノールまたはエタノールは容易に除去することができるため、本発明の意味する範囲において、メチル−2−シアノアクリレートまたはエチル−2−シアノアクリレートが、好ましい2-シアノアクリル酸エステルである。異なる2-シアノアクリル酸エステルの混合物を使用することもでき、メチル−2−シアノアクリレートまたはエチル−2−シアノアクリレートの混合物が好ましい。
【0042】
本発明の方法において、一般式(II)で示される少なくとも1種の2−シアノアクリル酸エステルを過剰に使用することが好ましい。2-シアノアクリル酸エステル:一般式(III)で示されるアルコールのモル比は、20:1〜1:1、好ましくは10:1〜1.5:1の範囲である。
【0043】
本発明の方法のエステル交換(工程a)を、少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下で行い、上記の遷移金属触媒を、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と、一般式(IV):
【化11】

[式中、aは3、4または5を表し、uは0、1または2のいずれかであり、Mは遷移金属を表し、Rは直鎖状または分枝状の任意に置換されたC1−20アルキル基または任意に置換されたC6−12アリール基であり、Rは直鎖状または分枝状の任意に置換されたC1−4アルキル基を表す]
で示される遷移金属アルコキシドから好ましくは選択される少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成させる。
【0044】
本発明の方法において使用する遷移金属触媒は、反応混合物中に実質的に不溶性であるという特徴を有することが好ましい。
【0045】
用語「反応混合物」は、一般式(I)で示される少なくとも1種のシアノアクリル酸エステルおよび一般式(III)で示される少なくとも1種のアルコールおよび任意にさらなる溶媒(例えば有機溶媒)を含む混合物であると理解される。
【0046】
本発明の意味する範囲において、用語「実質的に不溶性」とは、選択した反応条件下で、初めに使用した遷移金属触媒の全ての遷移金属原子の20mol%未満、好ましくは10mol%未満、特に好ましくは5mol%未満、特に1mol%未満が、反応混合物中に検出できることを意味すると理解されることが好ましい。検出は、例えば原子発光分析法(AES)により行うことができる。
【0047】
本発明のエステル交換反応は、不均一に触媒された方法である。このような方法は、反応混合物から遷移金属触媒を容易に分離することができ、方法における生成物が、上記触媒の極めて低い残留濃度しか有さないため、有利である。
【0048】
特定の態様において、遷移金属触媒中の少なくとも1つの遷移金属、特に式(IV)中の遷移金属Mは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、鉄、亜鉛またはバナジウムから選択され、チタンが特に好ましい。
【0049】
前記のアルキル基および/またはアリール基は、置換基として1以上のハロゲン原子および/またはヘテロ原子を有することができ、ヘテロ原子は、例えば第1級および第2級アミン、アミド、ウレタン、アルコール、エーテル、エステル、チオール、チオエーテルおよびスルホンから選択される官能基の構成要素である。
【0050】
メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、2−エチルヘキシルオキシ、n−デシルオキシ、トリデシルオキシおよびフェノキシ基が、特に、1〜20個のC原子を有するアルコキシ基ORとして好ましく、特に、1〜4個のC原子を有する、好ましくは2、3または4個のC原子を有するアルキル基を、アルコキシ基ORとして使用することができる。
【0051】
uが1の値である場合、Rをメチル、エチル、プロピルおよびイソプロピル基から選択することが好ましい。
【0052】
本発明の遷移金属アルコキシドは、特に、チタンテトラアルコキシド、例えば、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−イソプロピルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネートおよびテトラベンジルチタネートまたはトリアルコキシモノアルキルチタン化合物である。
【0053】
ヒドロキシル基を含有する支持物質との反応前および/または反応中に、一般式(IV)で示される遷移金属アルコキシドを、部分加水分解によって、遷移金属オリゴマーにさらに変換することができる。
【0054】
本発明の意味する範囲において、遷移金属オリゴマーは、特に、個々の遷移金属原子が酸素原子を架橋することによって結合している、10〜10,000個の遷移金属原子を含む化合物であると理解される。
【0055】
所望するオリゴマー化度の程度に応じて、水の量を広い範囲で変化させてよい。形成させる酸素架橋の1モルごとに、1モルの水が必要である。直鎖状および分枝状オリゴマーの両方が、部分加水分解の間に形成される。遷移金属アルコキシドが可溶性で、かつ、安定な、いずれの有機溶媒中でも、部分加水分解を行うことができる。しかしながら、通常は、遷移金属アルコキシドのアルコールに相当するアルコール中で行う。水は、等しく純粋であるか希釈されていてよい。遷移金属アルコキシドを溶解するために使用した溶媒で希釈されている場合も多い。水または水溶液は、通常、滴下添加され、温度、圧力および添加速度は、個々の遷移金属アルコキシドの反応性に対して調整される。反応後に、溶媒を除去する必要はない。ヒドロキシル基を含有する支持物質との反応のために、溶媒を除去し、異なる溶媒で置き換えることが、好都合であり得る。
【0056】
別の態様において、遷移金属アルコキシド、特に一般式(IV)で示される遷移金属アルコキシドと、ヒドロキシル基を含有する支持物質との反応を、無水条件下で行う。この方法において、オリゴマー化する傾向が最小化されるため、異なる反応性を有する他の遷移金属触媒が得られる。
【0057】
ヒドロキシル基を含有する支持物質は、本発明の意味する範囲において、その構造およびその化学組成において特に限定されないが、ただし、少なくとも1種の適当な遷移金属アルコキシドの結合(固定)を、特に共有結合を可能にする。
【0058】
多数のヒドロキシル基を表面に有する例が、ヒドロキシル基を含有する支持物質として、従来どおり使用される。
【0059】
ヒドロキシル基を含有する支持物質は、天然または合成のいずれかであってよい。例えば、炭水化物に基づくポリマー、シクロデキストリン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、石英粉塵、シリカゲル、粘土(例えばカオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、クロライトおよびマイカ類)、ゼオライト、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化トリウム、酸化マグネシウム、アルミン酸塩、カーボンブラック、ケイ素の合成無機酸化物、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、およびそれらの混合物などである。
【0060】
ヒドロキシル基を含有する支持物質を、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびそれらの混合物から選択することが好ましい。加えて、ヒドロキシル基を有する有機ポリマーを使用することもできる。ケイ素およびアルミニウムの酸化物が、好ましいヒドロキシル基を含有する支持物質である。
【0061】
本発明の遷移金属触媒の適当な製造方法は、例えば、前述のX. Ma、S. Wang、J. Gong、X. YangおよびG. Xu(Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 222(2004)、第183〜187頁)およびD. Srinivas、R. SrivastavaおよびP. Ratnasamy(Catalysis Today 96(2004)、第127〜133頁)による文献を例にすることができる。
【0062】
特定の態様において、本発明の遷移金属触媒を、本発明の方法で使用する前に焼成させる、言い換えると、酸素の存在下で一定時間、高温にさらす。
【0063】
したがって、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させた後、反応生成物を、酸素の存在下で、150℃〜800℃の温度にさらすことによって、適当な遷移金属触媒を得ることもできる。好ましい温度は、300℃〜700℃、特に400℃〜600℃である。
【0064】
適当な酸素源は、特に、種々の気体の混合物であり、ここで、酸素含量は少なくとも10重量%である。特に空気の存在下で、焼成を行うことができる。
【0065】
遷移金属触媒の化学構造は、焼成によって決定的に変性され、その結果、多くの場合に触媒活性が増加し、あるいは、特定のエステル交換反応に特有の要件に対して触媒活性を調整することができる。
【0066】
本発明に関して、種々の遷移金属触媒のいずれの混合物も当然に使用することができる。
【0067】
個々の反応物質の反応性および選択した反応条件に応じて、少なくとも1種の遷移金属触媒を、それぞれの場合に、一般式(II)で示される2−シアノアクリル酸エステルの総量に対して、0.01〜10重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%、特に1〜3重量%の量で使用することが好ましい。
【0068】
本発明の方法を、少なくとも1種のラジカル重合防止剤の存在下で行うことが好ましい。ラジカル重合防止剤は、使用するシアノアクリル酸エステルの、早期の重合を防ぐ。必要な量は、当業者が容易に決定することができる。適当なラジカル重合防止剤は、例えばフェノール化合物、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、t−ブチルカテコール、ピロカテキンおよびp−メトキシフェノールなどである。上記のラジカル重合防止剤の混合物も同様に使用してよい。本発明の意味する範囲において、特に好ましいラジカル重合防止剤は、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)および/またはヒドロキノンモノメチルエーテルである。
【0069】
さらに、本発明の方法を、22℃で気体の酸、特にルイス酸の存在下で行うことが好ましく、上記の酸は、例えば二酸化硫黄および/または三フッ化ホウ素から選択される。上記の酸は、シアノアクリル酸エステルを安定化する。
【0070】
本発明のエステル交換反応を、常圧下で行うことができるが、0.001〜200barの減圧または加圧下で行うこともできる。エステル交換反応中に開裂したアルコールを、連続的にまたは反応終了後に留去することが好ましく、ここで、反応を、例えばトルエン、キシレンまたはトルエン/キシレン混合物などの適用な溶媒中で行ってよい。本発明の方法を、高い分離効率を有する蒸留装置を用いて行うことが好ましい。
【0071】
特定の態様において、エステル交換反応(本発明の方法の工程a)は、少なくとも1種の本発明の遷移金属触媒の存在下、反応器中で、反応混合物を加熱することにより行われ、上記の反応混合物は、一般式(II)で示される少なくとも1種のシアノアクリル酸エステルおよび一般式(III)で示される少なくとも1種のアルコールを反応物質として含み、電磁誘導によって加熱可能な、反応器内に配置された、誘導子を用いて電磁誘導により加熱される固体熱媒体と接触する。
【0072】
エステル交換反応を行うための熱エネルギーを、例えば反応器壁、加熱コイル、伝熱板または類似のもの等の表面を介して反応混合物に導入するのではなく、反応する物体中に直接生じさせることが有利である。反応混合物の量に対する加熱される表面積の割合は、熱伝導する表面を介して加熱する場合よりも、著しく大きくなり得る。加えて、加熱能力に対する電流効率が改善される。誘導子のスイッチを入れることにより、極めて大きな表面積で反応混合物と接触する固体熱媒体の全体に熱を生じさせることができる。誘導子のスイッチをきると、さらなる熱の導入が非常にすばやく停止する。このため、非常に的を絞った反応制御が可能となり、反応に関与する本発明の遷移金属触媒の熱負荷が最小限となる。熱的に不安定な遷移金属触媒は、特に、このような方法で長い時間にわたり、その触媒活性が維持されるため、本発明のエステル交換反応において、比較的により高い反応収率を可能にすることができる。
【0073】
熱媒体は、交流電磁場の作用により加熱される導電性材料からなる。熱媒体を、その体積に対して非常に大きな表面積を有する物質から選択することが好ましい。例えば、熱媒体を、導電性チップ、ワイヤー、メッシュ、ウール、メンブレン、多孔質フリット、フィラー、例えば顆粒、ラシヒリングから選択することができ、特に、好ましくは1mm以下の平均直径を有する粒子から選択する。電磁誘導により加熱され得るため、熱媒体は、導電性、例えば金属(反磁性であってよい)であるか、または、反磁性と比較して高い磁場との相互作用を有し、特に強磁性、フェリ磁性、常磁性または超常磁性である。熱媒体が本質的に有機であるか無機であるか、または、熱媒体が無機成分および有機成分の両方を含有するかどうかは、重要ではない。
【0074】
好ましい態様において、熱媒体を、導電性および/または磁化可能な固体の粒子から選択し、ここで、上記の粒子は、1〜1000、特に10〜500nmの範囲の平均粒度を有する。平均粒度および必要であれば粒度分布は、例えば、光散乱により測定することができる。磁性粒子、例えば強磁性粒子または超常磁性粒子を、できる限り低い残留磁気または残留磁化を有するものから選択することが好ましい。これは、粒子が互いに付着しないという利点を有する。磁性粒子は、例えば「磁性流体」の形態で、言い換えると強磁性粒子をナノサイズの規模で分散させた液体で、存在することができる。磁性流体の液体相は、その後、反応混合物にもなる。
【0075】
所望の特性を有する磁化可能な粒子、特に強磁性粒子は、当業者に既知であり、市販されている。市販されている磁性流体を、例を挙げて述べる。本発明の方法に関して使用可能な磁性ナノ粒子の製品例は、Lu、SalabasおよびSchuethによる文献:「Magnetische nano-Partikel:Synthese, Stabilisierung, Funktionalisierung und Anwendung」、Angew. Chem. 2007年、119、第1242〜1266頁から得ることができる。
【0076】
適当な磁性ナノ粒子は、異なる組成物および相で既知である。その例は、以下が挙げられる:Fe、CoおよびNiなどの純金属、Feおよびγ-Feなどの酸化物、MgFe、MnFeおよびCoFeなどのスピネル様の強磁性体およびCoPtおよびFePtなどの合金。磁性ナノ粒子は、均一構造またはコア−シェル構造を有することができる。後者の場合において、コアおよびシェルは、異なる強磁性または反強磁性物質からなることができる。しかしながら、例えば強磁性、反強磁性、常磁性または超常磁性であり得る磁化可能なコアが、非磁性の物質で囲まれている態様も可能である。この物質は、例えば、有機ポリマーであり得る。この種のコーティングは、反応混合物と磁性粒子の物質自体との化学的な相互作用を防ぐことができる。さらに、磁化可能なコアが官能化する成分と相互作用することなく、シェル物質の表面を官能化することができる。
【0077】
超常磁性物質のナノスケール粒子は、アルミニウム、コバルト、鉄、ニッケルまたはそれらの合金、n−磁赤鉄鉱型(γ−Fe)の金属酸化物、n−磁鉄鉱(Fe)またはMeFe型のフェライトから選択され、ここで、Meは、マンガン、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、マグネシウム、カルシウムまたはカドミウムから選択される2価の金属であり、例えば熱媒体として用いることができる。これらの粒子は、好ましくは、≦100nm、好ましくは≦51nm、特に好ましくは≦30nmの平均粒度を有する。
【0078】
例えばWO 03/054102から知られるようなナノスケールのフェライトを、熱媒体として使用することができる。これらのフェライトは、(M1−x−yFeII)FeIIIの組成を有し、式中、
は、Mn、Co、Ni、Mg、Ca、Cu、Zn、YおよびVから選択され、
は、ZnおよびCdから選択され、
xは、0.05〜0.95、好ましくは0.01〜0.8を表し、
yは、0〜0.95を表し、
xおよびyの合計は、最大で1である。
【0079】
電磁誘導によって加熱させることが可能な粒子は、さらなる添加剤なしに、熱媒体を構成することができる。しかしながら、電磁誘導により加熱することができる粒子と、電磁誘導により加熱することができない他の粒子とを混合することもできる。砂が1つの例である。したがって、誘導加熱することができる粒子を、誘導加熱することができない粒子で希釈することができる。このようにして、温度制御の改善を達成することができる。
【0080】
電磁誘導により加熱することができるナノスケール粒子を、より粗い、電磁誘導により加熱することができない粒子と混合する場合、熱媒体の充填密度の減少がもたらされ得る。このため、熱媒体からなる充填物中を通って反応媒体が流れる態様において、媒体が流れる反応器における圧力損失の望ましい減少がもたらされ得る。
【0081】
固体熱媒体の表面を、触媒的に活性な物質で被覆してよい。例えば一般式(IV)で示される遷移金属アルコキシドを、熱媒体の表面上に固定することができ、本発明の意味する範囲において、それは同様に遷移金属触媒となる。
【0082】
したがって、本発明の特定の態様において、熱媒体の表面はヒドロキシル基を含有する層を有し、それを一般式(IV)で示される遷移金属アルコキシドを結合するために用いることができる。あるいは、ヒドロキシル基を含有する層に結合する前および/または結合中に、一般式(IV)で示される遷移金属アルコキシドを、部分加水分解によって遷移金属オリゴマーに変換することができる(用語「遷移金属オリゴマー」は上記に定義したものである)。
【0083】
ヒドロキシル基を含有する層として、加水分解されていないまたは部分加水分解された遷移金属アルコキシドの共有結合のために使用することができるSiO層を表面に有するナノスケール粒子は、熱媒体として特に好ましい。
【0084】
原則として、エステル交換反応(本発明の方法の工程a)を、連続的にまたは回分式で行うことができる。反応を回分式で行う場合、反応混合物および誘導加熱した固体熱媒体を、反応の間、互いに対して移動させることが好ましい。微粒子の熱媒体を使用する場合、これは、特に、反応混合物を熱媒体と共に撹拌することによって、または、反応混合物中で熱媒体を渦流させることによって行うことができる。例えば糸状の熱媒体のメッシュまたはウールを使用する場合、反応混合物および熱媒体を含有する反応容器を、例えば振り動かすことができる。
【0085】
回分式で行われるエステル交換反応の好ましい態様は、反応容器中に反応混合物を熱媒体の粒子と共に入れること、および、反応混合物中に配置させた可動要素によってそれを移動させることからなり、上記の可動要素は誘導子として作られ、それによって、熱媒体の粒子が電磁誘導により加熱される。したがって、この態様において、誘導子は反応混合物の内部に位置する。可動要素は、例えば撹拌機または垂直可動プランジャーの形を取ることもできる。
【0086】
さらに、化学反応中に、反応器を外部から冷却することも行ってよい。これは、回分操作において、特に、上記に述べたように誘導子が反応混合物中に浸漬している場合に可能である。その場合、反応器中への交流電磁場の導入は、冷却装置によって阻害されない。
【0087】
冷却コイルもしくは熱交換器を介して内部的に、または、好ましくは外部的に、反応器を冷却することができる。例えば、任意に予備冷却した水または温度が0℃未満である冷却混合物を、冷却に使用することができる。このような冷却混合物の例は、氷/食塩混合物、メタノール/ドライアイスまたは液体窒素である。冷却のために、反応器壁と誘導加熱させた熱媒体との間に温度勾配が生じる。これは特に、0℃よりはるかに低い温度の冷却混合物(例えばメタノール/ドライアイスまたは液体窒素)を用いる場合に顕著である。次いで、誘導加熱させた熱媒体により加熱させた反応混合物を、外部的に再び冷却する。したがって、本発明のエステル交換反応は、好ましくは、反応物が熱媒体と接触するか、または、少なくともそのすぐ近くにある場合にのみ行われる。反応混合物の熱媒体に対する移動のために、反応中に形成される一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルは、反応混合物のより冷却された領域にすばやく移動し、そのため、さらなる熱反応が妨げられる。
【0088】
別の態様において、本発明のエステル交換反応は、少なくとも部分的に固体熱媒体で充填された連続流通反応器中で連続的に行われるため、それは、電磁誘導により加熱することができる少なくとも1つの加熱区域を有し、反応混合物は連続流通反応器中を連続的に流動し、誘導子は反応器の外に配置される。連続流通反応器を、管型流通反応器として設計することが好ましい。この場合において、誘導子が反応器を完全にまたは少なくとも部分的に取り囲むことができる。その後、誘導子により生じる交流電磁場を、全ての面に、または、少なくともいくつかの点で、反応器中に導入する。
【0089】
連続流通反応器中でのこの連続処理方式において、反応器が、いくつかの加熱区域を有することが可能である。例えば、異なる加熱区域を、異なる範囲で加熱してよい。これは、連続流通反応器中に異なる熱媒体を配置すること、または、反応器に沿って異なるように形成させた誘導子を用いることの、いずれかにより達成することができる。
【0090】
加熱区域を出た後に、副生成物または不純物を反応混合物から除去する吸収体物質と接触させるようにすることもできる。
【0091】
遷移金属触媒および用いる反応物の反応性に応じて、固体熱媒体を通って流れた反応混合物の少なくとも一部を戻し、再び固体熱媒体に流すことにより、生成物収率を任意に増加させることができる。不純物、副生成物または所望の主生成物を、反応混合物から、固体熱媒体を通過後に、毎回、取り除くこともできる。あらゆる既知の分離法が、この目的に適当であり、例えば、吸収体物質での吸収、冷却による沈殿または蒸留による分離である。このようにして、反応物の完全反応が最終的に達成され得る。
【0092】
都合に応じて選択される、反応混合物と誘導加熱させた熱媒体との総接触時間は、本発明のエステル交換反応の速度論によって決まる。エステル交換反応がより遅いと、選択すべき接触時間がより長くなる。これは、個々の場合において、実験的に調整すべきである。基準として、反応混合物を、反応混合物と誘導加熱させた熱媒体との総接触時間が約1秒〜約2時間の範囲になるような速度で、管型流通反応器中を1回以上通過させることが好ましい。より短い接触時間が考えられるが、制御がより困難である。特に遅い本発明のエステル交換反応に、より長い接触時間が必要であるが、それは、本発明の方法の費用対効果を徐々に減少させる。
【0093】
本発明のエステル交換反応が、回分式で行われるか、または、連続流通反応器中で連続的に行われるかにかかわらず、反応器を圧力反応器として設計することができ、エステル交換反応を1013mbarより高い、好ましくは少なくとも1.5barの圧力で、行うことができる。
【0094】
本発明の方法の特定の態様において、熱媒体は強磁性であり、約40〜約250℃の範囲のキュリー点を有し、キュリー点が、選択した反応温度と20℃以下で、好ましくは10℃以下で異なるように熱媒体を選択する。これは、意図しない過熱に対する固有保護装置となる。熱媒体は、電磁誘導により、そのキュリー点までのみ加熱することができるが、より高い温度では、熱媒体は交流電磁場によりもはや加熱されない。誘導子が正常に作動しない場合でさえ、このようにして、反応混合物の温度が、熱媒体のキュリー点をかなり上回る値まで、意図せずに上昇することを防ぐことができる。熱媒体の温度が再びそのキュリー点より低く下がる場合、電磁誘導により熱媒体を再加熱することができる。これは、キュリー点付近における熱媒体の温度の自己制御となり、そのため、熱的に不安定なエステル交換反応触媒でさえ、その分解温度が熱媒体のキュリー点よりも低いならば、高いプロセス安全性で使用できる。
【0095】
反応混合物を所望の方法で加熱できるように、熱媒体の性質と誘導子の設計が互いに適合せねばならないことは、言うまでもない。ここで、重要な変数は、ワットで表される誘導子の発電量および誘導子によって生じる交流電場の周波数である。原則として、誘導加熱させる熱媒体の量がより多くなるにつれて、選択する発電量をより高くすべきである。実際には、特に誘導子の供給に必要な発電機を冷却する実現性により、達成できる電力は限られる。
【0096】
約1〜約100kHzの範囲、特に約10〜約30kHzの範囲の周波数を有する交流電場を生じる誘導子が、特に適当である。このような誘導子および付随する発電機は、例えば、ドイツ、イスマニングのIFF GmbHから市販されている。
【0097】
エステル交換反応(工程a)の終了時に、遷移金属触媒を反応混合物から分離することが有利である。分離は、当業者によく知られているいずれの方法によって行ってもよく、ろ過による分離および/または遠心分離による分離が特に好ましい。
【0098】
遷移金属触媒を迅速に分離できるため、本発明の方法で得た一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルを、高純度な形で単離することができ、特に蒸留または結晶化によって、98%より高い生成物純度が達成できる。
【0099】
このようにして製造したシアノアクリル酸エステルを、部品の結合用、特に電気部品および/または電子部品の結合用、および外科的に切断した、または、外傷的に裂かれた組織を処置するための医療用接着剤の製造用に使用することができる。
【0100】
以下の実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、それに限定されるものではない。
【実施例】
【0101】
〔用いた物質〕
テトライソプロピルチタネートおよびメチルリチウムを、Sigma Aldrichから取り寄せ、さらに精製することなく使用した。1−デカノールをMerckから取り寄せ、さらに精製することなく使用した。使用前に、銅の上で四塩化チタンを蒸留した。シリカゲル(シリカ60、0.04〜0.063mm、230〜400メッシュ、比表面積500m/g)を、Macherey-Nagelから取り寄せた。メチル−2−シアノアクリレート[CAS 137-05-3]は市販されており、本発明の方法で使用する前に、蒸留により精製することができる。
【0102】
〔1.メチルトリイソプロピルチタネートの製造〕
100mlのシュレンクフラスコ中で、TiCl(1.10ml、10.0mmol)を、乾燥ジエチルエーテル(5ml)中のTi(Oi-Pr)(8.98ml、30.0mmol)へ、0℃でゆっくりと添加し、得られた混合物を0℃で10分間撹拌した。22℃で30分間撹拌した後、乾燥ジエチルエーテル(15ml)を添加し、混合液を−40℃まで冷却した。次いで、MeLiの溶液(EtO中1.6M、25.0ml、40.0mmol)を滴下添加した。得られた黄色混合物を−40℃で10分間撹拌した後、次いで、45分以内で0℃まで加熱した。減圧下で蒸留することにより、メチルトリイソプロピルチタネート(MeTi(Oi-Pr))を単離することができた。
【0103】
〔2.金属触媒1の製造〕
シリカゲル(6.00g、真空下、150℃で20時間、予備乾燥したもの)の無水トルエン(30ml)中の懸濁液を、MeTi(Oi-Pr)(1.44g、6.00mmol)の無水トルエン(80ml)中の懸濁液と混合した。得られた反応混合物を、22℃で16時間、振り動かした。次いで、得られた金属触媒1をろ過により分離し、トルエンで洗浄し、真空下に24時間おいて乾燥させた。
【0104】
〔3.エステル交換反応〕
例としての反応装置は、次の文献を参照することができる:Angew. Chem. 2008、120、第9083〜9086頁。
【0105】
〔概略実験操作〕
ガラス反応器(長さ14cm×内径9mm)に、鋼球および金属触媒1(1.8g)を満たした。反応器を無水トルエン(10ml、流速:0.5ml/分)で洗浄した後、メチル−2−シアノアクリレート(MCA)(1.01ml、10.0mmol、10当量)、1−デカノール(0.19ml、1.00mmol、1当量)およびヒドロキノン(0.005当量/MCA)の溶液、および、無水トルエン(10ml)中のトリフルオロメタンスルホン酸(0.001当量/MCA)を、反応器(流速0.1〜1.0ml/分)を通させ注入した、ここで、誘導加熱装置(フィールド周波数20kHz、310パーミル)を用いて反応器を約90℃に加熱した。次いで、無水トルエン(0.2ml/分で5ml、その後、0.4ml/分で10ml)で反応器を洗浄し、得られた溶液を真空下で濃縮した。反応器の生産量を、NMR分光法を用いて分析した。
【0106】
本発明の方法により、デシル-2-シアノアクリレートを、良好な収率で単離することができ、ここで、得られた生成物は、ごく少量の割合の副生成物しか含有しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

で示される少なくとも1種のシアノアクリル酸エステルの製造方法であって、次の工程:
a)一般式(II):
【化2】

[式中、Rは、1〜6個のC原子を有する分枝状または非分枝状アルキル基である]
で示される少なくとも1種の2−シアノアクリル酸エステルと、一般式(III):
【化3】

で示される少なくとも1種のアルコールとの、少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させることにより形成させた少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下でのエステル交換、および
b)工程a)で得た一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルの単離
[nは1〜6の整数であり、Rは1〜100個のC原子を含むn価の基である]
を含む製造方法。
【請求項2】
一般式(I)で示されるシアノアクリル酸エステルを、一般式(Ia):
【化4】

で示されるモノシアノアクリル酸エステルから、
および/または一般式(Ib):
【化5】

で示されるビス−シアノアクリル酸エステルから、
および/または一般式(Ic):
【化6】

で示されるトリス−シアノアクリル酸エステルから
[式中、基Rは1〜100個のC原子を含む]
選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)、式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)および/または式(III)における基Rが、少なくとも1個の酸素原子で遮られたC〜C100の鎖を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式(I)、式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)および/または式(III)における基Rが、直接に結合した3〜18個のC原子を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
一般式(II)で示される2−シアノアクリル酸エステルを、メチル−2−シアノアクリレートおよびエチル−2−シアノアクリレートから選択する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヒドロキシル基を含有する支持物質を、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、石英粉塵、シリカゲル、粘土、ゼオライト、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化トリウムまたは酸化マグネシウムから選択する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
遷移金属アルコキシドを、一般式(IV):
【化7】

[式中、aは3、4または5を表し、uは0、1または2のいずれかであり、Mは遷移金属を表し、Rは直鎖状または分枝状の任意に置換されたC1−20アルキル基または任意に置換されたC6−12アリール基であり、Rは直鎖状または分枝状の任意に置換されたC1−4アルキル基を表す]
で示される化合物から選択する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
遷移金属アルコキシド中の少なくとも1種の遷移金属を、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、鉄、亜鉛またはバナジウムから選択する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
遷移金属アルコキシドをチタンアルコキシド類から選択する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種のヒドロキシル基を含有する支持物質と少なくとも1種の遷移金属アルコキシドとを反応させた後、反応生成物を酸素の存在下で150℃〜800℃の温度にさらすことにより遷移金属触媒を得る、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の遷移金属触媒が、一般式(II)で示される2−シアノアクリル酸エステルの総量に対して0.01〜10重量%の量で存在する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種のラジカル重合防止剤および/または少なくとも1種の気体の酸の存在下で該方法を行う、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
エステル交換反応(工程a)を、請求項1に記載の少なくとも1種の遷移金属触媒の存在下、反応器中で、反応混合物を加熱することにより行う方法であって、該反応混合物は、一般式(II)で示される少なくとも1種のシアノアクリル酸エステルおよび一般式(III)で示される少なくとも1種のアルコールを含み、電磁誘導により加熱可能な、反応器内に配置された、誘導子を用いて電磁誘導により加熱される固体熱媒体と接触する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
熱媒体を、チップ、ワイヤー、メッシュ、ウール、メンブレン、フリット、フィラーおよび粒子から選択する、好ましくは導電性および/または磁化可能な固体の粒子から選択し、該粒子が1〜1000nmの範囲の平均粒度を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
熱媒体を磁化可能な固体の粒子から選択し、個々の粒子が非磁性物質により覆われた磁化可能な物質のコアを含有する、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2012−532835(P2012−532835A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518886(P2012−518886)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059155
【国際公開番号】WO2011/003768
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】