説明

選択吸着性活性炭、トルエンとα―ピネンとを共に含む混合気体からトルエンを選択的に吸着する選択吸着性活性炭の製造方法、および、空気浄化剤、消臭芳香剤

【課題】テルペン類などによる芳香性を維持しつつ、分子径が小さくシックハウス症候群や悪臭等の原因となるようなトルエンなどの揮発性有機物を選択的に吸着、除去することができる活性炭を提供する。
【解決手段】スリット幅L1が0.8nm以下のスリット形状の開口11aを有するスリット状ミクロ細孔11を備えた活性炭であって、該スリット幅L1の分布が、窒素吸着によるt−プロット法による測定で実質的に0.4nm〜0.6nmのみにピークを有し、全細孔の比表面積が、炭素化物の質量に対して400m2/g以上であり、スリット状ミクロ細孔の比表面積の割合が、全細孔の比表面積に対して85%以上である活性炭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエンなどのシックハウス症候群や悪臭等の心身ストレスの原因となる揮発性有機物を選択的に吸着して除去することができる選択吸着性活性炭、選択吸着性活性炭の製造方法、および、この選択吸着性活性炭を利用した空気浄化剤、消臭芳香剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、もみ殻、おが粉、おから等の有機廃棄物を有効に利用できるようにするため、これらの有機廃棄物を焼成し、炭素化および賦活をさせて活性炭にし、この活性炭を、例えばトルエンなどの有害で悪臭の原因となる揮発性有機物の除去剤として再生して利用する方法が提案されていた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3272182号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したような発明にあっては、再生された活性炭が、トルエンなどのシックハウス症候群や悪臭の原因となる揮発性有機物を吸着するだけではなく、他の様々な有用な物質をも吸着、除去してしまい、例えば、住宅内においてこの活性炭を使用した場合には、建材に使用するスギやヒノキなどの芳香性を有する物質までをも吸着、除去してしまうという問題点があった。
【0004】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、スリット幅が0.8nm以下のスリット形状の開口を有するスリット状ミクロ細孔を備えた選択吸着性活性炭であって、前記スリット幅の分布が、窒素吸着によるt−プロット法による測定で実質的に0.4nm〜0.6nmの範囲のみにピークを有し、全細孔の比表面積が、炭素化物の質量に対して400m2/g以上であり、前記スリット状ミクロ細孔の比表面積の割合が、前記全細孔の比表面積に対して85%以上である選択吸着性活性炭である。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の選択吸着性活性炭において、スリット状ミクロ細孔と相通する孔径が0.5μm以上のマクロ細孔を備え、このマクロ細孔の前記孔径の分布が、水銀圧入法による測定で0.5μm〜50μmにピークを有し、前記マクロ細孔の容積が、炭素化物の質量に対して1.0cm3/g以上であるものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、木質系材料を粉砕した木質系粉砕物に、この木質系粉砕物に含有する水分の割合が、40〜50質量%になるように水分を添加し又は添加せずに調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物を不活性ガス雰囲気中において、500〜800℃で、20分〜60分間加熱して前記木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させる選択吸着性活性炭の製造方法である。
【0008】
請求項4に係る発明は、木質系材料を粉砕した木質系粉砕物に、この木質系粉砕物に含有する水分の割合が、40〜50質量%になるように水分を添加し又は添加せずに調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物100質量部に対してベントナイトを含む無機質粘結剤20〜30質量部を添加して混練し、この混練物を酸化性雰囲気中において、800〜850℃で、20〜30分間加熱して前記木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させる選択吸着性活性炭の製造方法である。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項1または2記載の選択吸着性活性炭を含有する空気浄化剤である。
【0010】
請求項6に係る発明は、請求項1または2記載の選択吸着性活性炭と、テルペン類とを含有する消臭芳香剤である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の選択吸着性活性炭によれば、スリット幅が0.8nm以下のスリット形状の開口を有するスリット状ミクロ細孔を備えた選択吸着性活性炭であって、前記スリット幅の分布が、窒素吸着によるt−プロット法による測定で実質的に0.4nm〜0.6nmの範囲のみにピークを有し、全細孔の比表面積が、炭素化物の質量に対して400m2/g以上であり、前記スリット状ミクロ細孔の比表面積の割合が、前記全細孔の比表面積に対して85%以上であるため、スリット形状の開口を介して、スリット幅以下の分子径を有する気体分子をスリット状ミクロ細孔内に取り込んで吸着させつつ、スリット幅よりも大きい分子径を有する気体分子については前述の開口を通過させないで吸着するのを抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の選択吸着性活性炭によれば、請求項1に記載の選択吸着性活性炭の効果に加え、スリット状ミクロ細孔と相通する孔径が0.5μm以上のマクロ細孔を備え、このマクロ細孔の前記孔径の分布が、水銀圧入法による測定で0.5μm〜50μmにピークを有し、前記マクロ細孔の容積が、炭素化物の質量に対して1.0cm3/g以上であるため、吸着する気体分子を、スリット状ミクロ細孔に比べて孔径が格段に大きいマクロ細孔を介して拡散させて選択吸着性活性炭の深部のスリット状ミクロ細孔に至るまで迅速に到達させ、より広い吸着面に効率良く気体分子を吸着させることができる。
【0013】
請求項3に記載の選択吸着性活性炭の製造方法によれば、木質系粉砕物を不活性ガス雰囲気中において加熱するため、木質系粉砕物を熱分解により炭素化させることができると共に、木質系粉砕物に含有する水分の割合が、40〜50質量%になるように水分を添加し又は添加せずに調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物を不活性ガス雰囲気中において、500〜800℃で、20分〜60分間加熱するため、生成した炭素化物を木質系粉砕物中に含有する水分や木質系粉砕物から発生した熱分解ガスにより賦活させつつ、賦活が進行し過ぎてスリット状ミクロ細孔のスリット幅が大きくなり過ぎるのを抑制することでき、所望のスリット形状の開口を有するスリット状ミクロ細孔を備えた選択吸着性活性炭を得ることができる。
【0014】
請求項4に記載の選択吸着性活性炭の製造方法によれば、木質系材料を粉砕した木質系粉砕物に、この木質系粉砕物に含有する水分の割合が、40〜50質量%になるように水分を添加し又は添加せずに調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物100質量部に対してベントナイトを含む無機質粘結剤20〜30質量部を添加して混練し、この混練物を酸化性雰囲気中において、800〜850℃で、20〜30分間加熱するため、混練により木質系粉砕物の表面に被着した無機質粘結剤が酸化性雰囲気と木質系粉砕物との接触を遮断し、酸化性雰囲気中であっても簡便に木質系粉砕物の燃焼による焼失を防いで炭素化させることができると共に、生成した炭素化物を木質系粉砕物中に含有する水分や木質系粉砕物から発生した熱分解ガスにより賦活させつつ、賦活が進行し過ぎてスリット状ミクロ細孔のスリット幅が大きくなり過ぎるのを抑制することができ、酸化性雰囲気中で簡便に所望のスリット形状の開口を有するスリット状ミクロ細孔を備えた選択吸着性活性炭を得ることができる。
【0015】
請求項5に記載の空気浄化剤によれば、請求項1または2記載の選択吸着性活性炭を含有するため、この選択吸着性活性炭によりスリット形状の開口を介して、分子径の小さな気体分子(例えば、シックハウス症候群や悪臭等の心身ストレスの原因となるトルエンなど)を選択的に取り込んで吸着させつつ、分子径の大きな気体分子(例えば、芳香性を有するテルペン類など)については殆ど吸着することなく、その効果(テルペン類による芳香性など)を維持することができる。
【0016】
請求項6に記載の消臭芳香剤によれば、請求項1または2記載の選択吸着性活性炭と、テルペン類とを含有するため、この選択吸着性活性炭によりスリット形状の開口を介して、分子径の小さな気体分子(例えば、シックハウス症候群や悪臭等の心身ストレスの原因となるトルエンなど)を選択的に取り込んで吸着させつつ、分子径の大きなテルペン類の気体分子については殆ど吸着することなく、このテルペン類の有する芳香性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の選択吸着性活性炭の一実施例を、図1、図2に基づき説明する。図1においてAは本発明に係る選択吸着性活性炭であり、この選択吸着性活性炭Aは、図1(b)、(c)に示したように、スリット状ミクロ細孔11を備えており、スリット状ミクロ細孔11は、スリット幅L1(図1(c)参照)が0.8nm以下のスリット形状の開口11aを有し、スリット幅L1の分布が、窒素吸着によるt−プロット法による測定で実質的に0.4nm〜0.6nmの範囲のみにピークを有し、全細孔の比表面積が、炭素化物の質量に対して400m2/g以上であり、スリット状ミクロ細孔11の比表面積の割合が、全細孔の比表面積に対して85%以上であるものである。
【0018】
ここで、スリット状ミクロ細孔11は、選択吸着性活性炭Aを構成する隣接するミクログラファイトの隣り合う二の炭素六角網平面の間隙において、この間隙の開口の形状がスリット形状となっている微細な細孔をいい、このスリット形状の開口11aを通過できた気体分子がスリット状ミクロ細孔11内において吸着されるものと考えられる。
【0019】
このスリット状ミクロ細孔11のスリット幅L1の分布は、公知技術である窒素吸着によるt−プロット法(温度77Kにおける窒素吸着等温線データのt−プロット解析によるスリット状細孔径分布の算出)により測定したものである。
【0020】
また、選択吸着性活性炭Aは、スリット幅L1が0.8nm以下のスリット形状の開口11aを有するスリット状ミクロ細孔11を備え、かつ、スリット幅L1の分布が、窒素吸着によるt−プロット法による測定で実質的に0.4nm〜0.6nmの範囲のみにピークを有するものであるが、このように細孔の開口をスリット形状としたのは、細孔への侵入における実効的な分子径が小さい気体分子を、開口11aを介して取り込んでスリット状ミクロ細孔11内に吸着させつつ、嵩高く大きい分子径を有する気体分子は吸着させない、つまり、活性炭に吸着する気体の分子形状に対する選択吸着性を持たせるためである。また、実質的に0.4nm〜0.6nmの範囲のみにピークを有するものとしたのは、吸着のメカニズムについては明らかでない点はあるが、この範囲以外にもピークを有するものは、大きい分子径を有する気体分子をも吸着してしまうからである。
【0021】
上述した選択吸着性を利用して、例えば、小さい分子径を有する気体分子であって有害なものを吸着、除去しつつ、大きい分子径を有する気体分子であって有用なものについては吸着せずにその効果を維持させることができる。
【0022】
ここで、選択吸着性活性炭Aにより選択的に吸着され易く有害(例えば、悪臭など)で小さな分子径の気体としては、例えば、酢酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチルなどの直鎖状エステルや、アンモニア、硫化水素などの化合物、図2(a)、(b)に図示したようなトルエンや、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ベンゼンなどの扁平な分子形状の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0023】
また、選択吸着性活性炭Aに吸着され難く有用(例えば、芳香性など)で大きな分子径の気体としては、例えば、図2(c)、(d)に図示したような嵩高い分子形状を持つα−ピネンや、ピノカルベオール、ピノカルボン、β−ピネン、ミルテノール、ミルテナール、ベルベノール、ベルベノン、カンフェン、ボルネオール、カンファー、カンフェノン、フェンキルアルコール、フェンコン、α−フェンケン、カレン、サビネン、α−ツエン、サビネンヒドレート、α−ツヤオール、α−ツヨンなどの双環式モノテルペンや、1、8−シネオール、1、4−シネオール、マタタビエーテル、ミントラクトン、メントフラン、ディルフランなどのモノテルペン、ベルガモテン、カンフェレノール、サンタレン、サンタロール、セスキシネオールなどのセスキテルペン、あるいは、これらに類する気体分子構造を有するものが挙げられる。
【0024】
また、選択吸着性活性炭Aの全細孔の比表面積を、この選択吸着性活性炭A中の炭素化物の質量に対して400m2/g以上としたのは、この比表面積が400m2/g未満であると、気体分子を吸着する吸着面の面積が小さくなり、活性炭単位質量当たりの気体分子の吸着量が低下し、実用的ではないからである。ここで、全細孔とは、スリット状ミクロ細孔11や、その他の開口形状あるいは孔径を有する全てのものを含み、選択吸着性活性炭Aの内部に存在する全ての孔をいう。
【0025】
また、スリット状ミクロ細孔11の比表面積の割合を、全細孔の比表面積に対して85%以上としたのは、この値が85%よりも小さいと、芳香性を有するテルペン類の気体分子がスリット状ミクロ細孔11以外の細孔において吸着する割合が大きくなるため、小さな分子径を有する気体分子を選択的に吸着、除去するという作用効果が小さくなるからである。なお、比表面積は、窒素吸着によるt−プロット法(温度77Kにおける窒素吸着等温線データのt−プロット解析による比表面積の算出)により測定したものであり、スリット状ミクロ細孔11の比表面積と他の細孔の比表面積とはこの測定法により区別したものである。
【0026】
ところで、前述の選択吸着性活性炭Aは、図1(c)に示したように、スリット状ミクロ細孔11と相通する孔径L2が0.5μm以上のマクロ細孔12を備え、このマクロ細孔12の孔径L2の分布が、公知技術の水銀圧入法による測定で0.5μm〜50μmにピークを有し、マクロ細孔12の容積が、1.0cm3/g以上であるのが好ましい。
【0027】
このマクロ細孔12は、主として選択吸着性活性炭Aの外部から取り込んだ気体分子を内部に万遍なく拡散させる作用を有し、スリット状ミクロ細孔11に比べて孔径L2が格段に大きいため(L2>>L1)、吸着される気体分子がマクロ細孔12を介して選択吸着性活性炭Aの深部のスリット状ミクロ細孔11に至るまで迅速に到達し、より広い吸着面に効率良く気体分子を吸着させることができる。ここで、マクロ細孔12の孔径L2を0.5μm以上とし、孔径L2の分布が、水銀圧入法による測定で0.5μm〜50μmにピークを有するものとしたのは、原料となる木質系材料の細胞組織構造をそのまま活用することができ、マクロ細孔12の形成のための追加的な成形工程を必要としないためであり、マクロ細孔12の容積を1.0cm3/g以上としたのは、この値よりも小さいと、選択吸着性活性炭Aを取り扱いの容易な顆粒状のまま使用した場合に、この選択吸着性活性炭Aの内部において吸着させる気体分子の拡散が遅延し、前述の効果が得られ難くなるからである。
【0028】
次に、上述した選択吸着性活性炭Aの製造方法について、図3、図4に基づき説明する。まず、図3は本発明に係る選択吸着性活性炭Aの製造方法の一実施例を示しており、バッチ処理により製造する例である。
【0029】
この選択吸着性活性炭Aの製造方法にあっては、まず、スギやヒノキなどの木質系材料を数mm〜10mm角程度の大きさに粉砕した木質系粉砕物bを用い(ステップS11)、この木質系粉砕物bの水分含有率を公知の測定法、例えば、JIS Z2101−1994「木材の試験方法」3.2含水率に規定の測定法により測定し、木質系粉砕物bに含有する水分の割合(水分含有率)が、40〜50質量%なるように水分を添加し又は添加せずに調整する。この水分含有率が40質量%よりも少ないときは、例えば、スプレーにより水分を噴霧して添加し、水分含有率が50質量%よりも多いときには、例えば、乾燥炉中で前述の水分含有率になるよう調整する(ステップS12)。なお、木質系粉砕物bの水分含有率が当初から40〜50質量%の範囲にあるときには水分を添加しなくてもよい。
【0030】
その後、この水分を調整した木質系粉砕物bを、例えば、電気炉などのバッチ処理が可能な加熱炉に入れ、この加熱炉に窒素などの不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気中において、500〜800℃で、20分〜60分間加熱する(ステップS13)。
【0031】
このとき、木質系粉砕物bは、不活性ガス雰囲気中において加熱されるため、燃焼して焼失することはなく、木質系粉砕物bの熱分解により炭素化されて炭素化物が生成する。
【0032】
そして、生成した炭素化物は、木質系粉砕物b中に含有する水分や木質系粉砕物bから発生した熱分解ガスなどにより賦活され、吸着活性な選択吸着性活性炭Aが形成される。
【0033】
ここで、加熱温度を500〜800℃としたのは、500℃よりも低いと、炭素化および賦活によるスリット状ミクロ細孔11の形成が不十分となって分子径の小さな気体分子の吸着性能が十分に得られないためであり、800℃よりも高いと、賦活が進行し過ぎてしまい、スリット幅L1が大きくなりすぎて分子径の大きな気体分子をも吸着してしまうためである(図1(c)参照)。また、加熱時間を20分〜60分としたのは、20分よりも短いと炭素化および賦活によるスリット状ミクロ細孔11の形成が不十分となって分子径の小さな気体分子の吸着性能が十分に得られないためであり、60分よりも長いと賦活が進行しすぎてスリット幅L1の大きい細孔の割合が多くなってしまうためである。
【0034】
次に、酸化性雰囲気中(大気中)で選択吸着性活性炭Aを製造する選択吸着性活性炭の製造方法について、大気開放型ロータリーキルン炉を用いる場合を例にとって、図4に基づき説明する。なお、酸化性雰囲気中で選択吸着性活性炭Aを製造する場合であっても、木質系粉砕物bの水分含有率の調整は前述のバッチ処理の場合と同じであるため、詳細な説明は省略する。なお、大気開放型ロータリーキルン炉は、公知技術のものが用いられる。
【0035】
この選択吸着性活性炭Aの製造方法にあっては、木質系粉砕物bに無機質粘結剤を被覆して加熱するもので、前述のバッチ処理による製造方法のように水分含有率が40〜50質量%になるように調整された木質系粉砕物bを用い(ステップS21、22)、この水分を調整した木質系粉砕物b100質量部に対してベントナイトを含む無機質粘結剤20〜30質量部を添加(ステップS23)して混練(ステップS24)し、この混練物を大気開放型のロータリーキルン炉で酸化性雰囲気中(大気中)において、800〜850℃で、20〜30分間加熱する(ステップS25)。
【0036】
このとき、木質系粉砕物bは、無機質粘結剤との混練により該木質系粉砕物bの表面に無機質粘結剤が被着しているため、大気中の酸素(酸化性雰囲気)と木質系粉砕物bとの接触が遮断され、大気中であっても簡便に木質系粉砕物の燃焼による焼失を防いで炭素化させ、炭素化物を生成することができる。
【0037】
そして、生成した炭素化物は、木質系粉砕物b中に含有する水分や木質系粉砕物bから発生した熱分解ガスなどにより賦活され、吸着活性な選択吸着性活性炭Aが形成される。
【0038】
ここで、ベントナイトを含む無機質粘結剤を木質系粉砕物bの100質量部に対して20〜30質量部添加したのは、無機質粘結剤の割合が20質量部よりも少ないと木質系粉砕物bの無機質粘結剤による被覆が不十分となって大気中の酸素による燃焼により焼失してしまうためであり、上限を30質量部としたのは、30質量部より多くしたとしても被覆の度合いに大きな差はないばかりか、比重の高い無機質粘結剤の割合が増すことで、得られる活性炭の単位質量あたりの比表面積が減少し、かえって吸着剤としての性能を低下させてしまうためである。また、加熱温度を800〜850℃としたのは、800℃よりも低いと木質系粉砕物bの炭素化および賦活によるスリット状ミクロ細孔11の形成が不十分となって分子径の小さな気体分子の吸着性能が十分に得られないためであり、850℃よりも高いと、賦活が進行し過ぎてしまい、スリット幅L1が大きくなりすぎて分子径の大きな気体分子をも吸着してしまうためである(図1(c)参照)。さらに、加熱時間を20分〜30分としたのは、20分よりも短いと炭素化および賦活によるスリット状ミクロ細孔11の形成が不十分となって分子径の小さな気体分子の吸着性能が十分に得られないためであり、30分よりも長いと賦活が進行しすぎてスリット幅L1の大きい細孔の割合が多くなってしまうためである。
【0039】
以下に、本発明の選択吸着性活性炭Aの一例(実施例)を比較例と共に示した。
【0040】
[実施例1]
木質系粉砕物bとしてヒノキを用い、水分含有率を42質量%に調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物を電気炉で窒素雰囲気中において、700℃で、60分間加熱して木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させて選択吸着性活性炭Aを得た。
【0041】
[実施例2]
木質系粉砕物bとしてヒノキを用い、水分含有率を35質量%に調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物100質量部に対してベントナイトを含む無機質粘結剤20質量部を添加して混練し、混練物を大気開放型のロータリーキルン炉中(酸化性雰囲気中)において、850℃で、20分間加熱して木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させて選択吸着性活性炭Aを得た。
【0042】
[比較例1](実施例1の温度を変更)
木質系粉砕物bとしてヒノキを用い、水分含有率を42質量%に調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物を電気炉で窒素雰囲気中において、900℃で、60分間加熱して木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させて活性炭を得た。
【0043】
[比較例2](実施例1の温度を変更)
木質系粉砕物bとしてヒノキを用い、水分含有率を42質量%に調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物を電気炉で窒素雰囲気中において、1100℃で、60分間加熱して木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させて活性炭を得た。
【0044】
表1は、上述した実施例1、2および比較例1、2の製造条件で得られた活性炭を用い、テルペン類(芳香成分)の一つであって大きな分子径を有するα−ピネンと、悪臭等の原因物質であって扁平で厚さが薄い分子形状のトルエンとの共存下における各気体分子の吸着特性を示している。なお、吸着特性については、α−ピネンとトルエン各10ppmの混合気体3リットル中に活性炭の試料20mgを静置し、24時間後の各気体の濃度をGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)により測定して各気体の除去率により判定した。
【0045】
なお、物性値および特性の測定には、以下の測定機器を用いた。
・スリット状ミクロ細孔のスリット幅および比表面積の測定(窒素吸着によるt− プロット法による測定)
高精度全自動ガス吸着装置:BELSORP18(日本ベル株式会社製)
・マクロ細孔の測定(水銀圧入法による測定)
細孔分布測定装置:Pore Sizer9310
(Micromeritics社製)
・α−ピネンおよびトルエンの吸着特性
ガスクロマトグラフ質量分析計:Clarus500 GC/MS
(Perkin−Elmer、Inc社製)
【表1】

表1の吸着特性において、「○」は除去率が95%以上(吸着試験24時間後の空試験補正データから算出)、すなわち吸着し易いことを、「×」は除去率が30%以下(吸着試験24時間後の空試験補正データから算出)で飽和に達する、すなわち吸着し難いことをそれぞれ示しているが、比較例1、2の活性炭の吸着特性にあっては、α―ピネンおよびトルエンのいずれも95%以上吸着、除去してしまうのに対し、実施例1、2のものは、トルエンについては吸着するものの、α−ピネンについては吸着が殆どみられず、有害で悪臭等の原因となるトルエンを選択的に除去しつつ、α−ピネンの芳香性は維持できる結果であった。
【0046】
ところで、上述した選択吸着性活性炭Aは、その選択吸着性を利用して、選択吸着性活性炭Aを含有する空気浄化剤として用いることができる。この空気浄化剤にあっては、選択吸着性活性炭Aによりスリット形状の開口を介して、小さい分子径の気体分子をスリット状ミクロ細孔11内に選択的に取り込んで吸着させることができ、例えば、新築住宅などにあっては、シックハウス症候群の代表的な原因物質であって扁平で厚さが薄い分子形状を有するトルエン(図2(a)、(b)参照)を選択的に吸着、除去しつつ、住宅建材に使用するスギやヒノキなどに含まれる芳香成分であって大きな分子径を有するテルペン類(一例として、図2(c)、(d)のα−ピネンを参照)については、選択吸着性活性炭Aに殆ど吸着されることなく、このテルペン類による芳香性を維持することができる。
【0047】
さらに、選択吸着性活性炭Aをテルペン類と共に用い、選択吸着性活性炭Aと、テルペン類とを含有する消臭芳香剤としてもよい。この消臭芳香剤にあっては、例えば、選択吸着性活性炭Aと、スギやヒノキ、ユーカリなどのテルペン類を含んだ木材チップや精油、あるいは、テルペン類を担持した顆粒状の多孔質体や包摂材とを混合または併用して用いるものである。このとき、芳香成分となるテルペン類は、その芳香性を発揮するため、選択吸着性活性炭Aの炭素化物の100gに対して少なくとも0.5質量%以上含んでいることが好ましい。なお、選択吸着性活性炭Aを予めテルペン類の蒸気に暴露しておくのが好ましい。
【0048】
ここで、上述の消臭芳香剤に使用するテルペン類としては、嵩高い分子形状を持つ、例えば、α−ピネン、ピノカルベオール、ピノカルボン、β−ピネン、ミルテノール、ミルテナール、ベルベノール、ベルベノン、カンフェン、ボルネオール、カンファー、カンフェノン、フェンキルアルコール、フェンコン、α−フェンケン、カレン、サビネン、α−ツエン、サビネンヒドレート、α−ツヤオール、α−ツヨンなどの双環式モノテルペンや、1、8−シネオール、1、4−シネオール、マタタビエーテル、ミントラクトン、メントフラン、ディルフランなどのモノテルペン、ベルガモテン、カンフェレノール、サンタレン、サンタロール、セスキシネオールなどのセスキテルペン、あるいは、これらに類する気体分子構造を有するものなどがある。
【0049】
このように、選択吸着性活性炭Aとテルペン類とを含んだ消臭芳香剤とすることで、分子径の小さな気体分子(例えば、扁平で厚さが薄い分子形状を有するトルエンや球状に近い分子形状でも分子径の小さいアンモニアのような有害な物質など)を選択的に吸着、除去しつつ、消臭芳香剤に含まれる芳香成分であるテルペン類については、選択吸着性活性炭Aに殆ど吸着されることなく、このテルペン類による芳香性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の活性炭の構成を示した図であり、図1(a)は活性炭の斜視図(略図)を、図1(b)は図1(a)のK部を拡大した斜視図(略図)を、図1(c)は図1(b)のX−X線で切断した断面の模式図をそれぞれ示している。
【図2】気体分子の形状を示した模式図であり、図2(a)はトルエンを横から見た図を、図2(b)は図2(a)のトルエンを正面から見た図を、図2(c)はα−ピネンを横から見た図を、図2(d)は図2(c)のα−ピネンを正面から見た図をそれぞれ示している。
【図3】本発明の選択吸着性活性炭の製造方法の一実施例に係る工程図である。
【図4】本発明の選択吸着性活性炭の製造方法の他の実施例に係る工程図である。
【符号の説明】
【0051】
A 選択吸着性活性炭
b 木質系粉砕物
m1 トルエンの気体分子
m2 α−ピネンの気体分子
11 スリット状ミクロ細孔
11a 開口
12 マクロ細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット幅が0.8nm以下のスリット形状の開口を有するスリット状ミクロ細孔を備えた選択吸着性活性炭であって、
前記スリット幅の分布が、窒素吸着によるt−プロット法による測定で実質的に0.4nm〜0.6nmの範囲のみにピークを有し、
全細孔の比表面積が、炭素化物の質量に対して400m2/g以上であり、
前記スリット状ミクロ細孔の比表面積の割合が、前記全細孔の比表面積に対して85%以上であることを特徴とする選択吸着性活性炭。
【請求項2】
スリット状ミクロ細孔と相通する孔径が0.5μm以上のマクロ細孔を備え、このマクロ細孔の前記孔径の分布が、水銀圧入法による測定で0.5μm〜50μmにピークを有し、
前記マクロ細孔の容積が、炭素化物の質量に対して1.0cm3/g以上であることを特徴とする請求項1記載の選択吸着性活性炭。
【請求項3】
木質系材料を粉砕した木質系粉砕物に、この木質系粉砕物に含有する水分の割合が、40〜50質量%になるように水分を添加し又は添加せずに調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物を不活性ガス雰囲気中において、500〜800℃で、20分〜60分間加熱して前記木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させることを特徴とする選択吸着性活性炭の製造方法。
【請求項4】
木質系材料を粉砕した木質系粉砕物に、この木質系粉砕物に含有する水分の割合が、40〜50質量%になるように水分を添加し又は添加せずに調整した後、この水分を調整した木質系粉砕物100質量部に対してベントナイトを含む無機質粘結剤20〜30質量部を添加して混練し、この混練物を酸化性雰囲気中において、800〜850℃で、20〜30分間加熱して前記木質系粉砕物を炭素化させると共に賦活させることを特徴とする選択吸着性活性炭の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の選択吸着性活性炭を含有することを特徴とする空気浄化剤。
【請求項6】
請求項1または2記載の選択吸着性活性炭と、テルペン類とを含有することを特徴とする消臭芳香剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−155146(P2009−155146A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333652(P2007−333652)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【特許番号】特許第4231900号(P4231900)
【特許公報発行日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月8日〜10日 日本木材学会主催の「第57回日本木材学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(504405110)株式会社アスカム (2)
【Fターム(参考)】