説明

遺伝子導入剤、核酸複合体及び遺伝子導入材料

【課題】遺伝子導入効率が高い遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合鎖を有しており、該共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数がアニオン性モノマー由来の単位成分の数よりも多く、該アニオン性モノマー由来の単位成分は酸性官能基を有した側鎖を有することを特徴とする遺伝子導入剤。ポリマー材料は、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにアクリル系モノマーと、4−ビニル安息香酸などの酸性官能基を有したアニオン性モノマーをランダム共重合させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤と、この遺伝子導入剤を用いた核酸複合体及び遺伝子導入材料とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
DNAを細胞中に運搬するための非ウイルス系ベクターとして、カチオン性のスター型ポリマーがWO2004/092388及び特開2007−70579に記載されている。
【特許文献1】WO2004/092388
【特許文献2】特開2007−70579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで合成ベクターは遺伝子の搭載量、細胞内への透過性などをパラメターとして遺伝子導入活性の向上を目指して研究開発されてきた。しかしながら、合成ベクターの細胞内への遺伝子の運搬量はウイルスよりもはるかに多いが、実際の遺伝子発現量はウイルスよりも低いことが分かり、単純に細胞内への透過性を向上させるだけでは遺伝子導入効率の向上が望めない、と言われ始めている。この理由は次の(1)〜(4)の通りである。
【0005】
(1) カチオン性高分子(本発明の遺伝子導入剤はアニオン性モノマー由来の単位成分を有するが、アニオン性モノマー由来の単位成分よりもカチオン性モノマー由来の単位成分の方が多いので、全体ではポリカチオンとなっている)はDNA(リン酸残基に由来するアニオン性高分子である)と水溶液中で混合することでイオン複合体を形成する。このイオン複合体は、実使用時の濃度範囲においては約100nm〜200nmのカチオン性の微粒子(カチオン/アニオン比=5〜20に、陽電荷リッチに混合するため)として安定して分散している。
(2) 一方、動物細胞の細胞膜は負に帯電しているので、カチオン性の微粒子は静電的に細胞膜へ吸着される。この時、微粒子の粒子径が100nm〜200nmとウイルスのサイズに近似しているため、細胞はこれを細胞内へ取り込み、消化器官にて無毒化を狙う。消化器官はエンドソームと呼ばれ、強酸性の環境にある。
(3) エンドソーム内に取り込まれたカチオン性の微粒子は、ポリマー側鎖のアミンに由来する陽電荷を持つものである場合、このアミンの中和のために大量のプロトンがエンドソーム内へ浸透し、結果、エンドソーム内圧が上がりエンドソームが破壊されるとされている。この現象はプロトンスポンジ効果と呼ばれている。エンドソームから脱出する際、微粒子は強酸性下でDNAとのイオン結合が解れ、DNAとカチオン性高分子の混合物となっている。解離したDNAはリボソームへ移行し、RNAへ転写され、タンパクへ翻訳される。
(4) 細胞の細胞膜やエンドソーム膜は2重リン脂質を主成分に形成されており、疎水性物質は細胞膜を溶解するようにして膜を透過する性質がある。市販の遺伝子導入ベクターであるリポフェクトアミン2000などに代表されるカチオン性脂質(水溶液中でDNAと混合することでミセル内に取り込んだ微粒子となる)は、細胞の細胞膜と融合するようにして細胞膜を透過し、細胞内へ遺伝子を運搬する。この疎水性物質の高い細胞膜透過のメカニズムは遺伝子発現効率向上の戦略に利用できるが、解決しなければならない課題もある。まず、細胞膜へ脂質を融合する行為(細胞膜を穿孔する)自体は細胞へ大きなダメージを与える。また、疎水性の微粒子は水中では凝集してマクロサイズの粒子となり沈殿してしまう。
【0006】
本発明は、遺伝子導入効率が高い遺伝子導入剤と、この遺伝子導入剤を用いた核酸複合体及び遺伝子導入材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合鎖を有しており、該共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数がアニオン性モノマー由来の単位成分の数よりも多く、該アニオン性モノマー由来の単位成分は酸性官能基を有した側鎖を有することを特徴とするものである。
【0008】
なお、本発明でいうポリマーとは、モノマーの2量体などのオリゴマーも包含するものとする。
【0009】
この酸性官能基としてはカルボキシル基が好適であり、側鎖のpkaは1〜6程度であることが好ましく、3〜5程度であることがより好ましい(請求項2)。
【0010】
前記アニオン性モノマーとしては、芳香族カルボン酸又はその誘導体(請求項3)が好ましく、ビニルベンゼンカルボン酸又はその誘導体(請求項4)がより好ましい。
【0011】
また、前記共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数は、アニオン性モノマー由来の単位成分の数の10〜100倍であることが好ましい(請求項5)。
【0012】
本発明のポリマー材料の分子量は、3,000〜600,000であることが好ましい(請求項6)。
【0013】
本発明の遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにカチオン性モノマーと、酸性官能基を有したアニオン性モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい(請求項7)。
【0014】
このN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることが好ましい(請求項8)。
【0015】
アニオン性モノマーとしては、4−ビニル安息香酸が好適である(請求項9)。カチオン性モノマーはアクリル系モノマーが好適である(請求項10)。
【0016】
このアクリル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び/又は2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい(請求項11)。
【0017】
本発明(請求項12)の核酸複合体は、かかる本発明の遺伝子導入剤と核酸との複合体よりなるものである。
【0018】
本発明(請求項13)の遺伝子導入剤は、この核酸複合体を基材に担持させたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の遺伝子導入剤は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合鎖を有しており、この共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数がアニオン性モノマー由来の単位成分の数よりも多く、全体としてカチオン性を示すため、アニオン性のDNAとイオン複合体を形成して、これを運搬する。
【0020】
特に、このアニオン性モノマー由来の単位成分が、ビニルベンゼンカルボン酸、好ましくは4−ビニル安息香酸由来の単位成分の場合、細胞培養の条件(生理的pH=7.4の環境下)ではNa型で親水性であるが、酸性下ではH型となってベンゼン環の疎水性の性質が強く現れる。よって、細胞膜透過時(細胞培養の条件下)にはあくまでも親水性であり(透過性は上記の通り従来のものでも十分にあり、細胞膜へ脂質融合しないので細胞毒性は弱くてすむ)、細胞内のエンドソームへ取り込まれた後に(強酸性の環境下で)初めて疎水性となり、エンドソーム膜を効率良く、脂質融合するように透過して核へ外来遺伝子を運搬する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該分岐鎖は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合鎖を有しており、該共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数がアニオン性モノマー由来の単位成分の数よりも多く、該アニオン性モノマー由来の単位成分は酸性官能基を有した側鎖を有するものである。
【0023】
上記のポリマー材料としては、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともカチオン性モノマーと酸性官能基を有したアニオン性モノマーとを光照射リビング重合させた分岐型重合体が好適である。
【0024】
本発明に係るポリマー材料において、分岐鎖は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーのブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよいが、好ましくは、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーのランダム共重合体である。
【0025】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0026】
イニファターとなるN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0027】
なお、以下においては、イニファターとして上述のような分岐鎖を有するものを用いて光照射リビング重合を行う場合を例示して、本発明の遺伝子導入剤の製造方法を説明するが、本発明は何らこの方法に限定されるものではない。
【0028】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
【0029】
このイニファターに重合させるカチオン性モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、特に、耐加水分解性に優れることから、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。カチオン性モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
酸性官能基としてはカルボキシル基が好適であり、酸性官能基を有したアニオン性モノマーとしては、ビニル基を有する芳香族カルボン酸が好適であり、特に4−ビニル安息香酸(4−カルボキシスチレン)又は3,4−ジカルボキシスチレンなどのビニルベンゼンカルボン酸が好適である。なお、ビニルベンゼンカルボン酸はその他の置換基を有していてもよい。
【0031】
本発明の一態様では、前述のイニファターに対し、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとをランダム共重合させる。
【0032】
イニファターと上記各モノマーとをランダム共重合させるには、イニファター及び各モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射する。この溶液の溶媒としては、アルカン、アルケン、アロマチック、ハロゲン化炭化水素が好適であり、具体的にはベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンが挙げられ、中でもトルエン又はクロロホルムが好適である。
【0033】
カチオン性モノマー及びアニオン性モノマーの該原料溶液中の濃度はカチオン性モノマーが0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適で、アニオン性モノマーが0.01M以上、例えば0.1〜1.0Mが好適である。イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0034】
照射する光の波長は300〜400nmが好適であり、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0035】
このようにして、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーのランダム共重合体部分を有した分岐型ランダム共重合体よりなる遺伝子導入剤が合成される。
【0036】
このようにして得られる遺伝子導入剤としての分岐型ランダム共重合体の分子量は、分岐鎖の鎖数にもよるが、3,000〜600,000、特に3,000〜150,000程度であることが好ましい。
【0037】
また、この分岐型重合体は、カチオン性モノマー由来の単位成分の数(「カチオンユニット数」と称す場合がある。)が50〜1,000であり、アニオン性モノマー由来の単位成分の数が5〜500(「アニオンユニット数」と称す場合がある。)であり、カチオン性モノマー由来の単位成分の数がカチオン性モノマー由来の単位成分の数の10〜100倍であることが好ましい。
【0038】
本発明の別の一態様では、イニファターに対し、まずカチオン性モノマーを重合させてカチオン性ホモポリマーを得、これに酸性官能基を有したアニオン性モノマーをブロック共重合させる。
【0039】
この場合、カチオン性ポリマーブロックの重合度はアニオン性ポリマーブロックの重合度よりも大きく、好ましくは、カチオン性ポリマーブロックの重合度はアニオン性ポリマーブロックの重合度の3〜100倍である。
【0040】
イニファターと上記カチオン性モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。この溶液の溶媒としては、アルカン、アルケン、アロマチック、ハロゲン化炭化水素が好適であり、具体的にはベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンが挙げられ、中でもトルエン又はクロロホルムが好適である。
【0041】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適である。イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0042】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0043】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0044】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0045】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0046】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。
【0047】
このカチオン性ホモポリマーの分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0048】
このようにして生成した分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対し、酸性官能基を有したアニオン性モノマーをブロック共重合させて目的とするポリマー材料とする。
【0049】
酸性官能基を有したアニオン性モノマーをブロック共重合させるには、上記のようにして合成したカチオン性分岐型重合体(ホモポリマー)をメタノール等の溶媒に溶解させ、これにアニオン性モノマーを混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中におけるカチオン性分岐型ホモポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、アニオン性モノマーの濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0050】
本発明のさらに別の一態様では、上記イニファターに対し、まず酸性官能基を有したアニオン性モノマーを重合させてアニオン性ホモポリマーを形成し、その後、このアニオン性ホモポリマーに上記ビニル系モノマーなどのカチオン性モノマーをブロック共重合させて遺伝子導入剤を得るようにしてもよい。
【0051】
本発明のさらに別の一態様では、モノマーとして、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーと、非イオン性モノマーとを用いる。イニファターに対する重合の順序は、任意である。即ち、1つの分岐鎖を構成するカチオン性モノマー、アニオン性モノマー、非イオン性モノマーの配列形態や順序は任意であり、この場合においても、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0052】
非イオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。非イオン性ポリマーブロックの分子量は、2,000〜500,000が好適である。
【0053】
このブロック共重合体(ポリマー材料)の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0054】
このように、本発明のポリマー材料よりなる遺伝子導入剤は、好ましくはpKa=1〜6程度、より好ましくはpKa=3〜5程度のカルボキシル基などの酸性官能基を側鎖に有するアニオン性モノマー、好ましくは4−ビニル安息香酸とカチオン性モノマーを、ランダム共重合又はブロック共重合した共重合鎖を分岐鎖として有するものである。
【0055】
このようにして得られる本発明の遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0056】
特に、アニオン性モノマーとして、ビニルベンゼンカルボン酸を用いた場合、細胞培養の条件(生理的pH=7.4の環境下)ではNa型で親水性であるが、酸性下ではH型となってベンゼン環の疎水性の性質が強く現れる。これによって、細胞膜透過時(細胞培養の条件下)にはあくまでも親水性であり(透過性は上記の通り従来のものでも十分にあり、細胞膜へ脂質融合しないので細胞毒性は弱くてすむ)、細胞内のエンドソームへ取り込まれた後に(強酸性の環境下で)初めて疎水性となり、エンドソーム膜を効率良く、脂質融合するように透過して核へ外来遺伝子を運搬する。
【0057】
本発明の遺伝子導入剤(ベクター)と核酸とを複合させるには、このベクターの濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対してベクターを過剰量添加し、ベクターを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0058】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0059】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。また、上記のようなDNAの導入、遺伝子発現のみならず、細胞内のmRNAを破壊するRNA干渉をsiRNAの導入で行うことも可能である。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0060】
核酸含有複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、核酸含有複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0061】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0062】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0063】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0064】
本発明のベクターを用いた核酸含有複合体は任意の方法で生体に投与することができる。
【0065】
当該投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0066】
この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0067】
また、この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0068】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0069】
この核酸含有複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【0070】
また、この核酸を複合した遺伝子導入剤の水溶液を基材に塗布などにより付着させ、必要に応じ乾燥させることにより、核酸を担持したポリマーのコーティング等が形成される。
【0071】
上記の核酸複合遺伝子導入剤を基材に付着させる場合、基材としてはシート状のものが好適である。このシート状基材の厚さは0.05〜10mm程度であることが好ましく、シート面の大きさは、方形の場合、一辺が1〜20mmであり他辺が1〜20mmであり、円形又は楕円形の場合、径は1〜20mm程度が好ましい。基材の材料としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、シリコン樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂が好適である。この基材は多孔質であってもよい。
【0072】
この基材に対する核酸複合遺伝子導入剤の付着量は、基材表面1cm当り0.001〜10mg程度が好ましい。
【0073】
核酸複合遺伝子導入剤を担持させた基材よりなる遺伝子導入材料は、皮下組織、心筋組織、病変組織、病変血管を包囲するようにシート状基材を配置したり、カバードステントのフィルムへ塗布することによって生体内に配置したり、生体外面に粘着テープを用いて貼り付けたりするようにして用いられる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0075】
<実施例1〜3、参考例1,2、比較例1>
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0076】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ投入して30分間攪拌して濾過した。この操作を繰り返して合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0077】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0078】
【化1】

【0079】
ii) 4分岐型スター型重合体よりなる(カチオン/アニオン)ランダム共重合体の光重合による合成
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性モノマーとして用い、エステルモノマーとして4−ビニル安息香酸を用い、以下の反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−4−カルボキシスチレン−メチル]ベンゼンよりなるカチオン/エステルランダム共重合体の合成を行った。
【0080】
上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下「3−N,N−DMAPAAm」と略記する場合がある。)及び4−ビニル安息香酸を加えて混合し、全量をクロロホルムで50mLに調整した。終濃度でモノマー混合物のモル濃度が1.0Mとなるように調整し、3−N,N−DMAPAAm:4−VBA(以下「4−VBA」と略記する場合がある。)の混合比は、モル比で、99.5:0.5、99:1、95:5、90:10、80:20、70:30の6条件(それぞれ実施例1、実施例2、実施例3、参考例1、参考例2、比較例1)で調製して重合を行った。50mLのモノマー溶液を3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガス(毎分2リットル)で10分間パージして残留酸素ガスを除去した後に300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm〜400nmの混合紫外線を30分間照射した。
【0081】
照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで再沈殿させ、減圧条件下でジエチルエーテル及びクロロホルムを除去した。残存する3−N,N−DMAPAAmにより湿潤塊となった固形分を0.1N 水酸化ナトリウム溶液へ溶解し、0.1N 水酸化ナトリウム溶液で72時間透析を行い、残留したモノマー成分を除去した。さらに水で48時間透析して水酸化ナトリムを除去した。この溶液を0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型(3−N,N−DMAPAAm)/(4−VBA)よりなるカチオン/アニオンランダム共重合体を得た(重合率:20〜30%)。共重合比はNMRの解析により、実施例1、実施例2、実施例3、参考例1、参考例2、比較例1でそれぞれ、3−N,N−DMAPAAm由来の単位成分/4−VBA由来の単位成分(モル比)=100:2.0、100:5.4、100:8.1、100:17、100:21、100:2000となった。比較例1では4−VBAのホモポリマー様の重合物が得られた。モノマー混合物中の4−VBA比率と共重合体の中のVBAユニット比率の関係は図1の通りであった。
【0082】
【化2】

【0083】
なお、上記一般式中のDは次の通りである。
【0084】
【化3】

【0085】
iii)4分岐型スター型重合体よりなるカチオン/アニオンランダム共重合体のpH応答性
ii)で合成した4分岐型スター型重合体よりなるカチオン/アニオンランダム共重合体(実施例1のカチオン/アニオンランダム共重合体)約0.1グラムを水に溶解し、塩酸でpH=2に調整した。この溶液の水を対照とする660nmでの透過率が10〜20となるよう水で希釈した。この溶液30mLへ4N水酸化ナトリウム溶液を30μLづつ滴下し、pH=10となるまでの溶液のpH及びOD値(660nmでの透過率)を測定した。その結果、図2に示すように、安息香酸の側鎖カルボキシル基のpKaである約4にて急激に溶液が白濁して光透過性を失った。これより、ii)で合成した4分岐型スター型重合体よりなるカチオン/アニオンランダム共重合体はpHに応答して親水性/疎水性の性質が変わる機能を有していることが分かった。
【0086】
iv)遺伝子導入実験
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLに調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
上記ii)にて合成した実施例1〜3及び参考例1,2の4分岐型カチオン/アニオンランダム共重合体と比較例1の近似的アニオン性ホモポリマーを遺伝子導入剤として使用した。遺伝子導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数は共重合体中のアニオンユニット数とカチオンユニット数から計算して求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列マップによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この遺伝子導入剤をDNAと150μLのOPTI−MEM中で30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の5倍となるように調整し、0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように溶液を調整し、培養細胞へ加えた。トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。結果を図3に示す。
【0087】
図3より明らかなように、アニオンユニットの導入量が多いと、DNAと遺伝子導入剤とのイオン結合凝縮によるポリプレックス形成が妨げられるか、負電荷が細胞膜との結合を妨げるのかなどの理由で、遺伝子導入活性の発現はほとんど確認されなかった。
【0088】
v)細胞毒性試験
細胞毒性試験をWST8法(同仁堂)によって行った。
COS-1細胞を96Well培養プレートへ5000個/Wellの密度で播種した。24時間培養し、iv)の遺伝子導入実験で調製した時と同様にDNA複合体を形成させて細胞へ3時間作用させ、PBSで洗浄後に完全培地で24時間培養した。各Wellへ10μLのWST8試薬を滴下し、2時間培養した後、450nmでの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。その結果、比較例1、実施例1〜3及び参考例1,2ともに細胞毒性に有意差は認められず、4分岐型スター型重合体よりなるカチオン/アニオンランダム共重合体は、中性領域ではあくまでも親水性を呈し、疎水性物質のように細胞膜へ融合するようなことがなく、細胞毒性を発現しなかったものと考えられる。
【0089】
<比較例2>
上記実施例1のi)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)7.88gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した以外は、ii)と同様の手法で光照射重合を行った。得られた重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率40%)。このものの分子量はGPCにより、46,000(Mw/Mn=1.37)と測定された。
【0090】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0091】
得られたカチオン性ホモポリマーについて、実施例1のiv)と同様にして、遺伝子導入実験を行い、結果を図3に示した。
図3より、カチオンユニット数がアニオンユニット数よりも多いカチオン/アニオンランダム共重合体は、遺伝子導入活性に優れることが分かる。
【0092】
<実施例4>
i)イニファターの合成
前記実施例1のi)の反応式と同様に、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0093】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0094】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0095】
ii)光重合による4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0096】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)7.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm−400nmの混合紫外線を20分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.500mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより40,000(Mw/Mn=1.3)と測定された。
【0097】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0098】
【化4】

【0099】
iii)カチオン性ホモポリマーへの4−ビニル安息香酸のブロック共重合によるポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pCS)の合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(4−カルボキシスチレン)−ブロック−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAm−b−pCSと記すことがある。)の合成を行った。
【0100】
即ち、上記ii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマー4.8mgを約50mLのメタノールへ溶解した。ガラス容器中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、同様に高純度窒素ガスでパージを行ったメタノールにて全量を48mLに調整した。溶液を3.5mL分取し、4−ビニル安息香酸1.0gを7mLのメタノールへ溶解した溶液3.5mLと混合した。ii)と同様の手法で光照射重合を行い、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿処理を行い、15mLの水へ溶解した後に水酸化ナトリウム0.1グラムを加えて3日間透析して精製し、テトラキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(4−カルボキシルスチレン)−ブロック−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル}ベンゼン(4分岐型pDMAPAAm−pCSブロックポリマー)を得た(重合率38%)。
【0101】
GPCによる分子量測定は、両イオン性の高分子化合物であることによってイオン排除・イオン吸着作用により正確には測定できなかった。示差屈折率計−紫外可視分光光度計のタンデム式検出システムにて、ポリマー分子の強いUV吸収が確認され、芳香環が導入されたことが示唆された。ブロック化前の溶出曲線において、吸光度と屈折率の曲線が重なるように軸スケールを調整したGPCチャートを図5に示す。図5の上側の曲線がii)のカチオン性ホモポリマーの溶出曲線であり、下側の曲線がiii)のカチオン性/アニオン性分岐型重合体の溶出曲線である。図5の通り、ブロック化後のUV吸収が跳ね上がっており、ブロック化によってポリマーに芳香環が導入されたことが分かる。
【0102】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−)、δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH)、δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N)、δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH)、δ7.4−7.8ppm(d,0.1H,3−,5−of Aromatic Ring)、(d,0.1H,2−,6−of Aromatic Ring)と測定された。以上より、4分岐型ポリマーのポリマー鎖に252個モノマー単位からなる3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのポリマーブロックと、19個モノマー単位からなる4−ビニル安息香酸のポリマーブロックが導入された4分岐型pDMAPAAm−pCSブロックポリマーが合成されたことが確認された。
【0103】
【化5】

【0104】
iv)遺伝子導入実験
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLへ調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
【0105】
上記iii)にて合成したアニオン性ブロック鎖を導入した4分岐型pDMAPAAM−b−pCSブロックポリマーを遺伝子導入剤として使用した。遺伝子導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数は中和滴定により求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列マップによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
【0106】
この遺伝子導入剤をDNAと150μLのOPTI−MEM中で30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の5倍となるように調整し、0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように溶液を調整し、培養細胞へ加えた。トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。結果を図4に示す。
【0107】
<比較例3>
遺伝子導入剤として、上記実施例4のii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを用いた他は、上記実施例4と同様の手法で遺伝子導入活性を評価した。結果を図4に示す。
【0108】
以上の結果から、本発明の遺伝子導入剤を使用することにより、効率の良い遺伝子導入が可能であることが確認された。遺伝子運搬性能よりもエンドソームからの脱出がpHに応答して疎水化することで効率良く達成された効果であると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施例1〜3、参考例1,2及び比較例1におけるモノマー混合物中の4−VBA比率(モル%)と得られた共重合体中の4−VBA由来の単位成分の比率(モル%)との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1のカチオン/アニオンランダム共重合体溶液のpHとOD値との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1〜3、参考例1,2及び比較例1,2における遺伝子導入活性の評価結果を示すグラフである。
【図4】実施例4及び比較例3における遺伝子導入活性の評価結果を示すグラフである。
【図5】実施例4で合成したポリマーのGPCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐鎖を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、
該分岐鎖は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合鎖を有しており、
該共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数がアニオン性モノマー由来の単位成分の数よりも多く、
該アニオン性モノマー由来の単位成分は酸性官能基を有した側鎖を有することを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記酸性官能基はカルボキシル基であり、側鎖のpkaが1〜6であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項2において、前記アニオン性モノマーは芳香族カルボン酸又はその誘導体よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項3において、前記アニオン性モノマーはビニルベンゼンカルボン酸又はその誘導体よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記共重合鎖におけるカチオン性モノマー由来の単位成分の数がアニオン性モノマー由来の単位成分の数の10〜100倍であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該ポリマー材料の分子量が3,000〜600,000であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ポリマー材料は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも前記カチオン性モノマーと酸性官能基を有したアニオン性モノマーとを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項7において、酸性官能基を有したアニオン性モノマーが4−ビニル安息香酸であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項9】
請求項7又は8において、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、カチオン性モノマーがアクリル系モノマーであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項11】
請求項10において、アクリル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び/又は2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項の遺伝子導入剤と核酸との複合体よりなることを特徴とする核酸複合体。
【請求項13】
請求項12の核酸複合体を基材に担持させてなる遺伝子導入材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−73805(P2009−73805A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4593(P2008−4593)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】