説明

遺伝子治療用初代培養脂肪細胞

【課題】細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞について、従来エクスビボの遺伝子治療に用いられてきた骨髄細胞や肝臓細胞に代わる、遺伝子治療に適した細胞を提供する。
【解決手段】採取及び移植が容易で移植後に取り除くことも可能な、エクスビボでの遺伝子治療に適した初代培養脂肪細胞に、レトロウイルスベクターを用いて外来遺伝子を導入した、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養遺伝子治療用脂肪細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来遺伝子を導入した初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
現在行われている遺伝子治療(豊岡ら、Folia Pharmacol. Jpn. 116:158-162, 2000(非特許文献1))は、(1)治療用遺伝子をコードするウイルスベクターまたはnaked plasmid等を直接患者に投与して遺伝子導入する方法(インビボ)、(2)患者から細胞を一旦取り出し、その細胞に遺伝子を導入して患者に戻す方法(エクスビボ)、の2種類に大別することができる。
【0003】
このうち、インビボの方法は、導入効率や発現の持続、標的細胞への選択的な遺伝子導入という点に大きな課題を残している。一方、エクスビボの方法はこれらの課題をクリアしうる可能性がある。エクスビボにおいては、採取と移植が比較的に容易で患者への負担が少ないことから血液系の細胞(抹消血リンパ球、骨髄細胞)を使った例が大多数を占め(谷ら、最新医学, 56:258-267, 2001(非特許文献2))、また、血液系以外の細胞では肝臓細胞に遺伝子導入し戻す方法(Raper SE et al., Cell Transplant 2(5):381-400, 1993(非特許文献3))が行われているが、そのほとんどが導入細胞自体の機能回復・維持・増強に主眼が置かれている。
【非特許文献1】豊岡ら、Folia Pharmacol. Jpn. 116:158-162, 2000
【非特許文献2】谷ら、最新医学, 56:258-267, 2001
【非特許文献3】Raper SE et al., Cell Transplant 2(5):381-400, 1993
【発明の開示】
【0004】
エクスビボの遺伝子治療に適した細胞を探し出す過程で、本発明者らは、初代培養の脂肪細胞を用いることを考えた。脂肪細胞を用いる利点として、以下の点が挙げられる。
(1) 脂肪細胞から分泌される液性因子が複数報告され、脂肪細胞がホルモン産生・分泌臓器としての機能を有している (Bradley RD, et al., Recent Prog Horm Res, 2001; 56,329-358)。
(2) 皮下にも存在するために採取が容易であり、更に形成外科・美容整形分野等で摘出に関する技術が発達しつつある。また、容易に移植可能である皮下に移植した場合でも、本来そこに存在する細胞であるため異所にならない。
(3) 単離した初代培養脂肪細胞はインビトロでも活発に増殖するため、遺伝子導入などの操作に適している。
(4) 移植後に局所に生着すると予想されるため、移植後に移植細胞を取り出したい場合(すなわち、遺伝子発現を消去したい場合)でも対応可能である。
(5) 脂肪細胞自身が血管新生因子を産生する(Mick GJ, et al., Endocrinology 2002;143(3):948-53)ので、移植後の高い生着が期待できる。
(6) 成体において大きく重量を変動させる臓器であり、摘出/移植による人体への影響が少ない。
(7) 脂肪細胞は余分なもの・邪魔なものという認識が強く、採取の同意を得やすいと予想される。
【0005】
現在、同様の試みとしてケラチノサイトを用いた検討が行われている(J Gene Med 2001 Jan-Feb;3(1):21-31、Histochem Cell Biol 2001 Jan;115(1):73-82)が、初代培養を単離する過程で生体バリアである皮膚を除去することは、感染リスクの点などから問題がある。除去・移植に伴う患者の苦痛も強いと予想され、発現を消すための再摘出(上記4)なども容易ではない。また、2次元でしか移植できないケラチノサイト/皮膚は、移植量の増加を移植平面の面積増加でしか達成できず、立体的に移植可能な脂肪細胞がより有用であると考えられる。
【0006】
本発明者らは、初代培養した脂肪細胞に効率よく遺伝子を導入する方法を考案し、更に導入した遺伝子が移植後も機能していることを確認して、脂肪細胞が遺伝子治療に有効に活用できることを見出した。しかも本発明の方法によれば、導入した外来遺伝子を体内で長期間安定して発現する脂肪細胞を得ることが可能である。移植した成熟脂肪細胞は1年以上にわたって外来遺伝子の発現を持続することができる。また、脂肪細胞を移植後に、外来遺伝子の発現が不要となれば、移植片を取り出すことで外来遺伝子の発現を停止させることも可能である。
【0007】
すなわち本発明は、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞、該細胞の製造方法、該細胞を含む移植組成物、および該細胞の利用等に関し、より具体的には
〔1〕細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞、
〔2〕該遺伝子がレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより該細胞に導入された、〔1〕に記載の脂肪細胞、
〔3〕体内で少なくとも20日以上にわたって該蛋白質を有意に発現する能力を有する、〔1〕に記載の脂肪細胞、
〔4〕該蛋白質を血中に放出させるために用いる、〔1〕に記載の脂肪細胞、
〔5〕該蛋白質がインスリンまたはGLP−1 (Glucagon-Like Peptide 1) である、〔1〕に記載の方法、
〔6〕以下の工程、
(i) 脂肪細胞を初代培養する工程、
(ii) 細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入し、安定に保持させる工程、
を含んでなる遺伝子治療用脂肪細胞を製造する方法、
〔7〕該外来遺伝子をレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより導入する、〔6〕に記載の方法、
〔8〕〔6〕または〔7〕に記載の方法により製造された遺伝子治療用脂肪細胞、
〔9〕細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞、および薬学的に許容される担体を含む、遺伝子治療用の移植組成物、
〔10〕さらに細胞外基質成分を含む、〔9〕に記載の移植用組成物、
〔11〕さらに血管新生因子を含む、〔9〕に記載の移植用組成物、
〔12〕細胞外に分泌される所望の治療蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む、遺伝子治療方法、
〔13〕蛋白質を血中に放出させる方法であって、細胞外に分泌される蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法、
〔14〕該蛋白質を血中20日以上にわたって血中に放出させる方法である、〔13〕に記載の方法、
〔15〕血糖を低下させる方法であって、インスリンまたはGLP−1 (Glucagon-Like Peptide 1) をコードする遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法、
〔16〕細胞外に分泌される蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞が体内に移植された動物、に関する。
【0008】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、まず、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞を提供する。
【0009】
ここで外来遺伝子とは、初代培養脂肪細胞に外から導入された遺伝子を言い、初代培養脂肪細胞が産生していない蛋白質をコードする遺伝子などが含まれる。また初代培養の細胞とは、生体から取り出された組織から培養された細胞で、株化していない細胞を言う。また脂肪細胞 (adipocytes) とは成熟脂肪細胞(mature adipocytes) ならびに前脂肪細胞 (preadipocytes) などの脂肪に分化する能力を有する細胞をいう。すなわち、特に"成熟"脂肪細胞と断らない限り、脂肪細胞には前脂肪細胞も含まれる。成熟脂肪細胞は球形で脂肪を蓄えた細胞であり油滴を含んでいる。成熟脂肪細胞に蓄えられた脂肪はoil red O染色によって確認することができる。成熟脂肪細胞は、一般的にインスリンに応答してレプチン(leptin) を分泌する。前脂肪細胞は、本来、成熟脂肪細胞に分化する前の間質 (stromal) 細胞として存在する。前脂肪細胞は、脂肪組織 (adipose tissue) をコラゲナーゼ処理して単離することができるが、後述する天井培養法によって成熟脂肪細胞が分裂した結果生じる前脂肪細胞を単離することもできる(杉原ら、日本臨床1995、53;115-120、Sugihara H, et al. J Lipid Res. 1987, 28;1038-1045、Zhang HH, et al. J Endcriniol. 2000,164;119-128)。また、脂肪細胞特異的な表面抗原の存在は確認されてはいないが、CD36などは成熟脂肪細胞に強く発現が認められる(Abumrad NA, et al. J Biol Chem. 1993 Aug 25;268(24):17665-8.)。よってこのような分子をマーカーにしてより高い純度で脂肪細胞を回収することも考えられる。前脂肪細胞は、後述する分化誘導によって数日から数週間の間に成熟脂肪細胞に分化することができる (Hauner H, et al., J. Clin. Invest. 84, 1663-1670, 1989; Marko, et al. Endocrinology 136, 4582-4588, 1994)。初代脂肪細胞は所望の組織から単離してもよく、例えば皮下脂肪組織、副睾丸周囲または腸間膜などの内臓脂肪組織から得ることができる。
【0010】
遺伝子治療用とは、外来遺伝子がコードする蛋白質を、その効果を期待して体内において発現させる用途に用いることを言う。また遺伝子治療用細胞とは、エクスビボ投与により外来遺伝子を体内に投与する用途に用いる、さらにエクスビボで投与された体内で該蛋白質を発現する能力を有する、該外来遺伝子を保持する細胞のことを言う。エクスビボ投与とは、脂肪組織または脂肪細胞を個体より取り出し、インビトロで遺伝子導入を行った後、同一または別の個体に移植することを言う。
【0011】
遺伝子治療用細胞は、より好ましくは、ある特定の蛋白質を産生する細胞を移入して疾患を治療するために用いる細胞を言う。好ましくは、ある特定の蛋白質による治療は、その物理的もしくは機能的な不足あるいは欠如により疾患が引き起こされる蛋白質による補充療法、ないしはある病態の発症・悪性化をきたす因子を中和しうる作用を有する蛋白による中和療法が挙げられる。ある特定の蛋白質とは、血流中で活性を示す、もしくは血流中から対象組織に供給され、該組織の細胞表面で作用する蛋白質であり、一定の期間(例えば数日から数週間、またはそれ以上にわたって)持続的な供給を必要とするものが望ましい。すでに蛋白補充療法が施行されている、もしくは有効性が予測されている因子および疾患はすべて対象となり得る。
【0012】
以下に、代表的な対象を分類別に記載するが、用途はこれに限定されるものではなく、類似の目的により類似の因子を使用することは本発明の範疇に含まれる。
補充療法には、ホルモンまたはサイトカインの不足・機能低下により発症・増悪する疾患に対する補充、先天性の遺伝子欠損による疾患に対する補充、病態改善因子の補充、などが含まれる。
【0013】
インスリン/糖尿病、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)/糖尿病・肥満・摂食障害、GLP-2/炎症性腸疾患・癌化学療法などに伴う消化管障害、レプチン/肥満症・脂肪萎縮性糖尿病、アディポネクチン/糖尿病・血管障害、血液凝固第VIII・第IX因子/血友病、リポプロテインリパーゼ(LPL)/LPL欠損症・高トリグリセリド血症、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)/LCAT欠損症、エリスロポエチン/赤血球減少症、アポA-I/低HDL血症、アルブミン/低蛋白血症、心房性ナトリウムペプチド(ANP)/高血圧・心不全、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)/乳がん・前立腺ガン、アンギオスタチン・エンドスタチン/血管新生・転移阻害、モルヒネ受容体作動ペプチド(内因性オピオイドペプチド(エンケファリン等)やダイノルフィン (dynolphin) 等)/疼痛緩和、カルシトニン・骨形成因子 (BMP)/骨粗しょう症、インターフェロン-α・-β/悪性腫瘍、インターフェロン-γ/悪性腫瘍・肝炎・アレルギー、インターフェロン-β1/多発性硬化症、インターロイキン-1α・-1β/悪性腫瘍、インターロイキン-4/乾癬、インターロイキン-10/自己免疫疾患、インターロイキン-12/悪性腫瘍、膵分泌性トリプシンインヒビター/膵炎、スーパーオキサイドディスムターゼ/虚血性心疾患・血管障害、など
【0014】
病態形成因子もしくは悪性化因子の中和療法には、可溶化受容体や中和抗体の部分ペプチド、ドミナントネガティブ型蛋白の産生がこれに含まれる。
腫瘍壊死因子-α(TNF-α)可溶化受容体/慢性関節リュウマチ、可溶化IgE受容体/アレルギー、可溶化IgA受容体/食物アレルギー、可溶化細胞障害性Tリンパ球抗原-4(CTLA4)/自己免疫疾患、可溶化CD40リガンド/免疫疾患、ドミナントネガティブ型血液凝固第VIIa因子/血栓症、繊維芽細胞増殖因子(FGF)可溶化受容体/血管内膜肥厚、など
【0015】
また、本発明の脂肪細胞は、いわゆる「治療」に用いるものに限定されず、所望の分泌蛋白質を体内において発現させるために用いられる細胞が含まれる。例えば、本発明の方法により、ある特定の蛋白質を後天的に発現させてモデル動物とすることが可能である。該方法を用いれば、病態発症因子もしくは悪性化因子を後天性に発現する病体モデル動物の作製が可能であり、該動物を用いて薬物をスクリーニングすることも可能となる。また、病態改善因子を発現させれば、当該因子が病態を改善するという新薬探索の作業仮説の証明にも利用できる。動物としては、所望の非ヒト動物、好ましくは非ヒト哺乳動物(げっ歯類、霊長類などを含む)が用いられる。
【0016】
本発明の初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞は、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持している。「安定に保持する」とは、細胞分裂に伴い、外来遺伝子が娘細胞に受け継がれることを言い、より具体的には外来遺伝子が細胞の染色体に組み込まれていることを言う。本発明の遺伝子治療用脂肪細胞は、好ましくは外来遺伝子が染色体組み込み型のウイルスベクターにより安定に導入されている。より好ましくは、外来遺伝子がレトロウイルスベクターにより導入されている。
【0017】
レトロウイルスベクターは、細胞の染色体に安定にインテグレートされ導入遺伝子を長期間にわたって発現する能力を有しているが、導入効率および導入遺伝子の発現の持続性は細胞種に依存している。例えば、レトロウイルスベクターにより導入した遺伝子は、細胞が増殖している間は発現が持続するが、細胞の増殖が止まると発現が停止することがある (Lund AH, et al., J Biomed Sci 1996; 3:365-378; Niwa, O. et al., 1983, Cell, 32:1105-1113)。外来遺伝子の発現の抑制は、特にインビボまたはエクスビボにより体内に遺伝子を導入した後にしばしば観察される。このような発現抑制には、導入遺伝子のプロモーターまたはコード配列のde novoのメチル化が関与しているといわれている (Jahner D and Jaenisch R, Nature 315: 594-597, 1985; Challita P-M and Kohn DB, Proc Natl Acad Sci USA 91: 2567-2571, 1994; Hoeben RC et al., J Virol 65: 904-912, 1991)。また導入遺伝子のサイレンシングにはヒストンの脱アセチル化も関与している(Chen, W.Y. et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA 97: 377-382,2000; Chen, W.Y. et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA 94: 5798-5803, 1997)。しかしながら、本発明者らがレトロウイルスベクターを介して初代培養の脂肪細胞に外来遺伝子を導入したところ、驚くべきことに導入遺伝子の発現はインビトロおよびインビボの両方において、極めて安定に持続することが判明した。導入遺伝子の発現は、分化前の脂肪細胞でも、成熟脂肪細胞でも安定しており、インビトロ培養においては実験の全期間である80日以上にわたって、また体内に移植された場合は実験の全期間である360日以上にわたって発現が持続することが確認された。従って、外来遺伝子が安定に導入された初代培養の脂肪細胞は、長期間安定して該遺伝子を発現するインプラントとして利用できることが判明した。
【0018】
本発明の遺伝子治療用脂肪細胞は、インビトロで、さらに好ましくはインビボにおいて、少なくとも20日以上にわたって外来遺伝子がコードする蛋白質を有意に発現する能力を有する。有意に発現するとは、例えば外来遺伝子を導入しない場合に比べ、統計学上有意に(例えば有意水準5%またはそれより高い有意性をもって)発現が検出されることである。より好ましくは、本発明の脂肪細胞は、体内に移植された場合、体内において少なくとも30日以上、より好ましくは40日以上、より好ましくは50日以上、より好ましくは60日以上、より好ましくは80日以上、より好ましくは100日以上、より好ましくは150日以上、より好ましくは200日以上、より好ましくは250日以上、より好ましくは300日以上、より好ましくは350日以上にわたって、外来遺伝子がコードする蛋白質を有意に発現する能力を有する。
【0019】
また本発明の遺伝子治療用脂肪細胞は、該細胞が保持する外来遺伝子がコードする蛋白質を、血中に放出させるための細胞として特に有用である。血中に放出させる蛋白質としては、血流中または対象組織の細胞表面で活性を示す所望の分泌蛋白質が含まれ、例えばホルモンおよびサイトカインなどの所望の液性因子および抗体などが例示できる。具体的には、上記のように糖尿病などの治療においてはインスリンおよび/またはグルカゴン様ペプチド-1 (Glucagon-Like Peptide 1; GLP-1) 等の血糖降下ホルモン、血友病などの治療においては血液凝固因子、TNF-αが亢進する慢性関節リュウマチなどの治療においてはTNF-α受容体の可溶化断片または抗TNF-α抗体(FabおよびscFv等の抗体可変領域を含む抗体断片を含む)人工可溶化などが挙げられる。例えばインスリンであれば、効率よく成熟型インスリンを産生できるように開裂部位(site1およびsite2)を脂肪細胞内で発現するプロテアーゼの開裂配列に置換することができる(例えばGroskreutz DJ, et al. JBC, 1994, 269(8), 6241)。また、単鎖型に改変したインスリンアナログを使用することもできる(Lee HC , et al., Nature. 2000 Nov 23; 408(6811): 483-8.)。GLP-1としては、GLP-1受容体(NP_002053, Thorens,B. et al., Diabetes 42, 1678-1682 (1993); Dillon,J.S. et al., Endocrinology 133, 1907-1910 (1993); Graziano,M.P. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 196, 141-146 (1993); Stoffel,M. et al., Diabetes 42, 1215-1218 (1993))のリガントとして作用する所望のペプチドを用いることができるが、例えばGLP-1(7-37)などが挙げられる (Diabetes, 1998, 47:159-69; Endocrinology, 2001, 142: 521-7, Curr Pharm Des., 2001, 7:1399-412, Gastroenterology, 2002, 122:531-44)。
【0020】
また本発明は、以下の工程、
(1) 脂肪細胞を初代培養する工程、
(2) 細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入、好ましくはレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより導入し、安定に保持させる工程、
を含んでなる遺伝子治療用脂肪細胞を作製する方法、および、この方法により作製された遺伝子治療用脂肪細胞、に関する。安定に保持させるとは、外来遺伝子が細胞分裂に伴って娘細胞に受け継がれるように遺伝子を導入することを言い、より具体的には外来遺伝子を細胞の染色体に組み込むことである。外来遺伝子が染色体に組み込まれ安定発現を獲得したことを分子生物学的に証明するためには、サザンブロット法やゲノムDNAを用いたPCR法などを行うことが出来る。また、安定導入細胞をより濃縮するためには、例えば細胞に目的遺伝子と共に発現させたGFPなどを認識させて濃縮するFluorescence Activated Cell Sorter(FACS)などの方法を用いることが出来る。
【0021】
1.初代培養の脂肪細胞を採取する方法
初代培養の脂肪細胞は杉原らの報告(Sugihara H. et al., Differentiation, 31:42-49, 1986)に記載の方法により採取できる。具体的には脂肪組織、好ましくは移植レシピエント自身の皮下脂肪組織、あるいは副睾丸周囲または腸間膜などの内臓脂肪組織より脂肪組織を無菌的に摘出し、例えばPBSで洗浄した後、ハサミあるいは手術用ナイフを用いて細切する。この細切組織を適量の、好ましくは1〜3 mg/mlのコラゲナーゼを含む培地で37℃、適当な時間、好ましくは20〜60分間震盪消化した後、遠心により沈査と浮遊層に分離する。
浮遊層を、好ましくは更に1〜2回の遠心により洗浄した後、培地を充満した培養フラスコに加える。泡を除き、通常の培養面が天上になるようにCO2インキュベータ内に静置して培養する(天井培養)。適当な期間、好ましくは10〜14日間培養後、トリプシン処理によって天井面に接着した細胞を回収し、以降、通常通りの培養系で継代培養する。
初代培養脂肪細胞は遺伝子導入前または後に凍結保存してもよい。これにより、脂肪細胞を一回採取するだけで頻回使用が可能である。
【0022】
2.脂肪細胞への遺伝子導入
遺伝子導入は、遺伝子導入試薬(Fugene 6:Roche社製、Lipofectamin:Invitrogen社製、Cellphect transfection kit (リン酸-カルシウム法):Amersham社製など)、電気的穿孔法(エレクトロポレーション法、Chen H. et al., J Biol. Chem. 1997:272(12), 8026-31)、ウイルスベクター(Kay MA., et al., Nat Med 2001, 7, 33-40)により行うことが出来る。好ましくはウイルスベクターによる導入であり、更に好ましくはレトロウイルスベクター(Arai T. et al., J. Virol., 1998: 72, pp1115-21など)による導入である。
【0023】
プラスミドにより導入する場合は、プラスミドを脂肪細胞にトランスフェクションした後、導入した外来遺伝子を安定に保持する脂肪細胞を選択することができる。このような選択は、例えば外来遺伝子をコードするプラスミドに薬剤耐性遺伝子を保持させておくか、あるいは薬剤耐性遺伝子を持つプラスミドと共にトランスフェクションを行い、トランスフェクトした細胞を薬剤で選択することにより実施することができる。あるいは、トランスフェクトした細胞を限界希釈によりクローン化することによって得ることができる。またプラスミドにより導入する場合は、染色体への挿入効率を高めるために、ファージ由来のインテグラーゼを一過性に発現させる方法を用いてもよい(Mol Cell Biol. 2001 Jun;21(12):3926-34)。
【0024】
ウイルスベクターを用いた脂肪細胞への遺伝子導入としては、アデノ随伴ウイルス (adeno-associated virus; AAV) を用いる方法が挙げられる。AAVとは、パルボウイルス科(Parvoviridae)のDependovirus属に属するウイルスであり、導入遺伝子が染色体に組み込まれる性質を持つ。2つのinverted terminal repeats (ITRs) の間に外来遺伝子を組み込み、アデノウイルスE1、E2A、E4蛋白質の存在下、AAVのパッケージング蛋白質(repおよびcap遺伝子産物)を発現させることで外来遺伝子が取り込まれた組み換えAVVベクターを作製することができる (Muzyczka, N. (1992) Curr. Top. Microbiol. Immunol. 158, 97-29; Kaplitt, M. G. et al. (1994) Nat. Genet. 8, 148-54; Xiao, X. et al. (1996) J. Virol. 70, 8098-108; Kessler, P. D. et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 14082-4087; Xiao, W. et al. (1998) J. Virol. 72, 10222-0226)。
【0025】
本発明においては、より好ましくはレトロウイルスベクターにより外来遺伝子を脂肪細胞に導入する。レトロウイルスとはレトロウイルス科 (Retroviridae) に属するウイルスを言い、オンコウイルス、Foamyウイルス (Russell DW, and Miller AD, J Virol 1996; 70:217-222; Wu M et al., J Virol 1999; 73:4498-4501)、レンチウイルス(例えば HIV-1 (Naldini L et al., Science 1996; 272:263-267; Poeschla E et al., Proc Natl Acad Sci USA 1996;93:11395-11399; Srinivasakumar N et al., J Virol 1997;71:5841-5848; Zufferey R, et al. Nat Biotechnol 1997;15:871-875; Kim VN, e al., J Virol 1998;72:811-816) および ネコ免疫不全ウイルス (Johnston JC et al., J Virol 1999; 73:4991-5000; Johnston J and Power C., J Virol 1999; 73:2491-2498; Poeschla EM et al., Nat Med 1998;4:354-357) 等)などが含まれる。本発明において用いるレトロウイルスベクターは、好ましくはMoloneyマウス白血病ウイルス (Moloney murine leukemia virus; MoMLV) ベクターである (T. M. Shinnick, R. A. Lerner and J. G. Sutcliffe, Nature 293, 543-548, 1981)。
【0026】
レトロウイルスは、自己不活性化型 (self inactivating; SIN) ベクターであってもよい。SINベクターは、ウイルスのパッケージングの際に、3' LTRの一部を欠失させておくことにより作製することができる (Yu SF et al. (1986) Proc Natl Acad Sci USA 83:3194; Yee, J. K. et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:5197-5201; Zufferey, R. et al., 1998, J. Virology, 72, 9873-9880)。レトロウイルス中の外来遺伝子はLTRにより転写させることもできるし、ベクター内部の別のプロモーターから発現させてもよい。例えばCMVプロモーター、EF-1αプロモーター、CAGプロモーターなどの構成的発現プロモーター、または所望の誘導性プロモーターを利用することができる。また、LTRの一部を他のプロモーターに置換したキメラプロモーターを利用してもよい。
【0027】
レトロウイルスにより遺伝子を導入するには、具体的には、パッケージ細胞、例えば293-EBNA細胞(Invitrogen社製)に、導入したい遺伝子を挿入したプラスミド、例えばpBabe CL-SEAP-IRES-GFPを、遺伝子導入試薬等を使って遺伝子導入し、適当な期間、好ましくは1〜3日間培養後、上清中に産生された組換えウイルスを集めて、導入したい脂肪細胞に感染させる。
【0028】
ヒトを含む哺乳動物の脂肪細胞に広く感染するように、レトロウイルスベクターは広いトロピズムを持つエンベロープ蛋白質を有することが好ましい。例えば、アンフォトロピックエンベロープ蛋白質 (例えば 4070Aなど) (Accession K02729; Sorge, J. et al., Mol. Cell. Biol. 4 (9), 1730-1737 (1984)) を用いることができる。本発明においてレトロウイルスは、好ましくは水疱性口内炎ウイルス (vesicular stomatitis virus) のG蛋白質 (VSV-G) (Rose, J.K. and Gallione, C.J., J. Virol. 39 (2), 519-528 (1981)) によりシュードタイプ化されている (Emi, T. Friedmann and J. K. Yee, J. Virol., 65 (3), 1202-1207 (1991); Yee, J.-K. et al. (1994) Methods Cell Biol. 43 43:99-112; Burns, J. C. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 90:8033-8037)。VSV-Gによりシュードタイプ化することにより、脂肪細胞に高率に遺伝子を導入することができる。VSV-Gシュードタイプ化ベクターは、パッケージング細胞にVSV-Gを発現させることにより作製することができる。具体的には、例えばVSV-Gを誘導発現できるパッケージング細胞(Arai T. et al., J. Virol., 1998: 72, pp1115-21など)を好適に利用することができる。
【0029】
作製したウイルスのタイター測定については、段階希釈したウイルス溶液を感染させ、感染細胞のコロニー数を計数することによって決定することができ、詳細にはAusubelら (Ausubel, F.M. et al. Eds. (1995) Current Protocols in Molecular Biology. (John Wiley & Sons, NY)) を参照することができる。あるいは、Byunら (Byun, J. et al. (1996) Gene Ther. 33333:1018-1020)、Tafuroら (Tafuro, S. et al. (1996) Gene Ther. 33333:679-684)、 Miyaoら (Miyao, Y. et al. (1995) Cell Struct. Funct. 20 20:177-183)、Claudioら (Claudio, P. P. et al. (2001) Anal. Biochem. 291: 96-101)、またはCashionら (Cashion, L. M. et al. (1999) Biotechniques 26 26: 924-930) の方法によって決定することもできる。
【0030】
ウイルスベクターを初代培養脂肪細胞へ導入するには、該ベクターを該細胞に接触させればよい。例えば、ウイルスベクターを含む培養液中で初代培養脂肪細胞をインキュベートする。脂肪細胞は、好ましくは前脂肪細胞の状態で感染させる。0.5〜8μg/ml程度のpolybreneを添加することで感染効率を上げることができる。多重感染度(MOI)は特に制限はないが、0.1〜100の間で適宜調節できる。遺伝子導入細胞は、例えばマーカー遺伝子を利用して選択してもよいが、MOIを約2以上、好ましくは約3、4、または5以上で感染させれば、選択しなくても大半の細胞に遺伝子を導入することが可能である。遺伝子導入した脂肪細胞は、そのまま移植に用いることもできるし、場合によっては 3-isobutyl-1-methylxanthine (IBMX)、Dexamethasone、およびインスリンを含む培地で培養し成熟脂肪細胞とすることも許される。この場合、IBMXやDexamethasoneは、主に脂肪細胞のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体-γ(PPAR-γ)を活性化するために用いられるので、同受容体を直接活性化する薬剤(例えばチアゾリジン誘導体であるピオグリタゾン/武田薬品やロジグリタゾン/グラクソ・スミスクラインなど)を同時に添加することも許される。
【0031】
所望の治療遺伝子を持つ本発明の初代培養の脂肪細胞を、免疫学的に適合するレシピエントの体内に移植することにより、該治療遺伝子がコードする分泌蛋白質を体内で発現させることによる遺伝子治療が可能となる。移植する初代培養の脂肪細胞は、好ましくはレシピエントと同一宿主の細胞である。本発明の初代培養の脂肪細胞の移植による遺伝子治療方法は、所望の分泌蛋白質を、その効果を期待して体内において発現させるために適用することができる。例えば疾患に対する治療または予防効果を有する蛋白質をコードする外来遺伝子を保持する本発明の脂肪細胞を移植することにより、該疾患の治療または予防を実施することができる。また本発明は、蛋白質を血中に放出させる方法であって、本発明の初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法に関する。本方法によって、少なくとも20日以上にわたって、好ましくは30日以上、より好ましくは40日以上、より好ましくは50日以上、より好ましくは60日以上、より好ましくは80日以上、より好ましくは100日以上、より好ましくは150日以上、より好ましくは200日以上、より好ましくは250日以上、より好ましくは300日以上、より好ましくは350日以上にわたって、外来遺伝子がコードする蛋白質を血中に有意に分泌させることができる。体内で発現した外来蛋白質は、EIAなどのイムノアッセイ等により検出および/または定量することができる。 なお、移植した細胞を取り出すことによって、所望の時期に投与した外来遺伝子の発現を停止させることが可能である。また場合によっては、誘導型自殺遺伝子(HSV-tkなど)を移植細胞に導入しておくことにより、例えばガンシクロビルを投与することによって移植細胞を消去することも可能である。
【0032】
また本発明は、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞、および薬学的に許容される担体を含む、遺伝子治療用の移植組成物を提供する。用いられる担体としては、例えば生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液、血清、および体液などが挙げられる。また、細胞の足場となる固体またはゲル状の支持体などと組み合わせてもよい。
【0033】
本発明の移植組成物は、好ましくは細胞外基質 (extracellular matrix; ECM) 成分を含んでいる。細胞外基質成分とは、細胞間に蓄積する不溶性の網状または繊維状構造物に含まれる蛋白質またはムコ多糖などの成分を言い、生物から分離されたもの、および人工的に再構成したものであってよい。好ましくは本発明で用いられるECM成分としてはコラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、エラスチン、またはその2種以上の組み合わせを挙げることができる。これらのECM成分はゲル化させて脂肪細胞と混合させることが好ましい。本発明に用いられるECMゲルは、上記成分の少なくとも1種以上が含まれていれば特に限定されないが、好ましくは、少なくともIV型コラーゲン、ラミニン、およびヘパラン硫酸を含んでいる。このようなECMとしては、Engelbreth-Holm-Swarmマウス腫瘍から抽出した基質 (Matrigel (登録商標)) (Becton Dickinson Labware社) が挙げられる(米国特許第4,829,000号)。本発明に用いられるECM成分および脂肪細胞を含む組成物の構造は特に限定されず、例えばゲル状またはペースト状の網構造、繊維状構造、平板(ディスク)状構造、ハニカム状、スポンジ様構造としてよい。ECM成分のゲル化は、常法に従って行うことができる。例えば 0.3〜0.5%程度のコラーゲン水溶液を37℃で10〜30分間インキュベーションすることによりゲル化させることができる。あるいは、ゲル化剤を用いてECM成分をゲル化させることもできる。
【0034】
また、本発明の移植組成物は、好ましくは血管新生因子を含んでいる。血管新生因子を含む本発明の移植組成物は、移植後に周囲に血管が形成され、より高い効率で外来蛋白質を血中に分泌することができる。血管新生因子としては、生体内で血管新生を誘導し得る因子であれば特に限定されないが、例えば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、オステオネクチン(Osteonectin)、アンジオポイエチン(angiopoietin)、肝細胞増殖因子(HGF)などが例示できる。最も好ましくは、bFGFが挙げられる。bFGFはFGF2とも呼ばれ、線維芽細胞の増殖因のみならず、血管内皮細胞、軟骨、骨芽細胞、表皮細胞など様々な細胞の増殖を促進する活性有する(Abraham et al., EMBO J., 5, 2523-2528, 1986; Prats et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 1836-1840, 1989)。本発明において用いられるbFGFとしては、天然の蛋白質のみならず、組み換えDNA技術により遺伝子工学的に製造されたもの、およびそれらの修飾体であってもよい。bFGFとしては、例えばWO87/01728、WO89/04832、WO86/07595、WO87/03885、欧州特許出願公開第237966号、欧州特許出願公開第281822号、欧州特許出願公開第326907号、欧州特許出願公開第394951号、欧州特許出願公開第493737号などに記載のものを例示することができる。あるいは、血管新生因子を一過的に発現する別の発現ベクターを脂肪細胞に導入してもよい(WO97/49827参照)。このように用いられる血管新生因子は、本発明の脂肪細胞から外来蛋白質を効率的に血中に分泌させるために、移植細胞周辺に血管を形成されることが主要な目的であるので、血管誘導因子をコードするベクターを用いて脂肪細胞から血管誘導因子を発現させる際には、一過的に発現するベクター(すなわち染色体に組み込まれないベクター)を用いることが好ましい。脂肪細胞から血管誘導因子を長期間発現させると、移植した脂肪細胞周囲に過剰な血管が形成されたり、全身に副作用を及ぼす懸念があるため、本発明の初代培養の脂肪細胞には血管新生因子をコードする外来遺伝子が安定に導入されていないことが好ましい。
【0035】
3.脂肪細胞の移植
遺伝子導入した脂肪細胞は、適当な細胞濃度、好ましくは 0.2 x 107〜2 x 107/ml、レトロウイルスベクターで導入した場合は 0.2 x 106〜5 x 106/mlに調整し、単体のまま、ないしは効果的な媒体、好ましくはコラーゲンなどの細胞外基質を含む溶液などと混合し、皮下組織や脂肪組織、好ましくは皮下組織内に注入する。脂肪組織への注入は切開して脂肪組織を露出させて行っても良い。成熟脂肪細胞に最終分化させた細胞は、移植後に増殖することなく外来遺伝子を長期間一定のレベルで発現する。移植した体内における外来遺伝子の発現レベルは、移植細胞数に比例することから、移植にあたっては、あらかじめインビトロで測定した外来遺伝子の発現レベルに従って移植する脂肪細胞量を調節すれば、移植した体内で望みの発現量を長期間維持することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0037】
[実施例1]マウス脂肪細胞の初代培養
[方法]
3週齢のICR系雄性マウスあるいは4-5週齢のC57BL/6雄性マウス(いずれもチャールズリバー)をジエチルエーテルで麻酔し、心臓からの全採血により脱血死させた。ついで、鼠蹊部皮下脂肪、あるいは副睾丸周囲脂肪、腸管膜脂肪組織をそれぞれ無菌的に摘出した。摘出した組織をPBSで洗浄した後、ハサミあるいは手術用ナイフを用いて細切し、この細切組織を1mg/mlのコラゲナーゼ(S1 fruction/新田ゼラチン)を含む通常培地(DMEM- high glucose/SIGMA, 10% FCS)で37℃、20-60分間震盪消化した後、遠心(300g, 5min.)により沈査と浮遊層に分離した。
浮遊層はさらに1〜2回の遠心によりコラゲナーゼを希釈除去後、培地を充満したT-25フラスコ (IWAKI) に加えた。泡を除き、通常の培養面が天上になるようにCO2インキュベータで37℃、5% CO2で培養した(天井培養)。10〜14日間培養後、トリプシン処理により天井面に接着した細胞を回収し、通常通りの培養系に移した。以後、1:3〜1:10のratioで継代培養をおこなった。
分化誘導は、6wellプレートでコンフルエントに培養した細胞を誘導培地(0.5 mM IBMX, 0.25μM dexamethasone, 10μg/ml Insulinを添加した通常培地)に交換し48時間刺激した。ついで、成熟培地(10μg/ml Insulinを添加した通常培地)で培養することにより分化を誘導した。成熟培地は3日置きに交換した。
Oil red O染色液は、0.3 gのOil red Oを100 mlのイソプロパノール(99%)に混和した保存溶液と蒸留水を3:2の割合で使用時に混和した。細胞はPBSで洗浄した後に10%中性ホルマリン液(WAKO)で固定した。PBSで再度洗浄後、Oil red O染色液により室温で10分間染色した。PBSにて再度洗浄後に検鏡した。
【0038】
[結果]
3週齢のICRマウス皮下脂肪より単離した初代培養脂肪細胞の顕微鏡写真を図1に示す。天井培養14日後の天井側培養面に脂肪滴を有する脂肪細胞の接着を認めた(A)。これを通常培養系に移すと(B)のように繊維芽細胞様に増殖するが、IBMX、デキサメサゾン、インスリンにより分化を誘導すると再び脂肪滴を有する成熟脂肪細胞に分化した(C)。貯留された脂肪はOilred O染色によって赤色に染色された(D)。本手段により単離される細胞が、分化能を有する初代培養脂肪細胞であることを示した。
【0039】
[実施例2]初代培養脂肪細胞への耐熱性分泌型アルカリフォスファターゼ(AP)遺伝子の一過性導入と、導入脂肪細胞のマウスへの移入
遺伝子発現のモデル系として、AP遺伝子、すなわちSEAP遺伝子(Clontech)またはPLAP遺伝子(Goto M. et al. Mol.Pharmacol. vol.49 860-873 (1996))を初代培養脂肪細胞に導入しAP活性の推移を検討した。(両AP遺伝子産物は耐熱型で、熱処理後することにより、内在性アルカリフォスファターゼと容易に区別することができる。)
【0040】
[方法]
(1) SEAP遺伝子を一過性に導入した初代培養脂肪細胞の作製
APを発現するplasmid(pcDNA3.1-SEAPmh)は、pSEAP2-basic vector(Clontech)を制限酵素Hind III-Xba Iで二重消化して得られるSEAP配列を、哺乳類細胞発現用ベクターであるpcDNA3.1Myc-HisA(Invitrogen)のHind III-Xba I部位に挿入して構築した。
10cm dishへの遺伝子導入あたり500μlのFCS-free DMEM培地と15μlのFugene 6試薬(Roche社製)を混合し、ついで5μgのpcDNA3.1-SEAPmhを加え、室温にて15分間静置した。この混合液を、10cm dish で70〜80% confluentに培養した初代培養細胞(ICR皮下脂肪由来)に加え、CO2インキュベーター内で24時間培養した。
【0041】
(2) アルカリフォスファターゼ遺伝子を導入した初代培養脂肪細胞のマウスへの移入
遺伝子導入した細胞をトリプシン処理により回収し、PBSで2回遠心洗浄後 1 x 107 cells/mlになるようにPBSに懸濁した。動物(ICR系ヌードマウス、術時5週齡)は、ペントバルビタールナトリウム(ネンブタール・大日本製薬)50 mg/kgの腹腔内投与により麻酔した。術部付近を希釈ヒビテン液(住友製薬)にて消毒後、右後肢付け根付近の皮膚を3〜5 mm程度切開し、鼠蹊部皮下脂肪を露出させた。調製した細胞懸濁液0.55 ml(5.5 x 106 cells/head)を1 mlシリンジにて準備し、22G注射針を用いて皮下脂肪内に注入した。対照として、コントロールにはPBSを同部位に注入した。また、蛋白補充法と比較するため、精製AP(Roche)1μgをPBSに無菌的に溶解し、同様に注入した。切開した皮膚を縫合し、術部を手術用イソジン(明治製菓)で消毒した。
移植前(0日)、及び移植後経日的にヘパリンコートのキャピラリー(Dramond)を用いて眼底静脈叢より採血した。全血から2000 g、15分間の遠心により plasmaを得た。この plasma 中のAP活性を、測定キット(SEAP reporter gene assay kit, Roche社製)を用い、添付のマニュアルに従って測定した。
【0042】
[結果]
アルカリホスファターゼ (AP) 発現プラスミドpcDNA3.1-SEAPmhを一過性に導入した初代培養細胞をマウスに移植して得られた血漿中AP活性を図2に示す。比較対照として投与した1μgの精製AP蛋白(Roche)の注入では、血中AP活性は投与後7日の時点で対照レベルまで低下した。一方、一過性遺伝子導入細胞移植マウスでは、移植後4日目をピークとした血中AP活性が確認され、発現期間は14日間であった。一過性に遺伝子導入された細胞移植によるインビボでの発現は、蛋白の注入よりもやや持続するものの期間が短く、血中濃度の変動も大きいことを明らかにした。
【0043】
[実施例3]ウィルスベクターを用いた、APを安定に発現する脂肪細胞の作製
[方法]
(1)AP、および対照であるGFP発現ベクターの構築
PLAP遺伝子は文献 (Goto M. et al. Mol.Pharmacol. vol.49 860-873 (1996)) に記載のpTK-PLAPからHind III, Bgl IIを用いて切り出した。SEAP遺伝子はpcDNA3.1-SEAPmhをHind III/Pme Iで二重消化して得た。GFP遺伝子はpEGFP-N2からNot I-Nco Iにより切り出した。
ウィルスベクター作製に用いるプラスミドpBabeCLXI2Gは、pBabePuro (Morgenstern, J.P. et al. Nucleic Acids Res. vol.18 3587-3596 (1990)) を基として、そこからSV40プロモーターとネオマイシン耐性遺伝子をSal I-Cla Iにより切り出した後 Klenow fragment により平滑化し、そこへ pIRES2-EGFP より Hinc II-Hinc IIにより切り出した脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus (EMCV))のIRES(internal ribosome re-rentry site)とGFP(green fluorescent protein)に置換するとともに、さらにそのLTR(long terminal repeat)から外来遺伝子挿入部分(マルチクローニングサイト)までの部分(Ssp I-Bam HI)をpCLXSN(IMGENEX)の相当する配列(Ssp I-Bam HI)と置換することにより作成したものである。また pBabeCLXI2G の IRES-GFP の部分をIRES-ピューロマイシン耐性遺伝子に置換したpBabeCLXIPも用いた。
上述したPLAP、SEAP、GFPそれぞれのDNA断片をKlenow gragmentによる平滑処理後、Hpa Iにより切断したpBabeCLXIPベクターないしはpBabeCLXI2Gに挿入し、それぞれpBabeCL(PLAP)IP、pBabeCL(SEAPmh)I2G、pBabeCL(GFP)IPを得た。
【0044】
(2)ウィルスベクターの作製
10cm dishへの遺伝子導入あたり以下のように行った。500μlのFCS-freeのDMEM培地にplasmid導入試薬TransIT(Mirus)30μlを混合し室温にて5分間放置した(DMEM/TransIT混合液)。また別のtubeにVSV-Gをコードするベクター(pCALG、 Arai T. et al., J. Virol., 1998: 72, pp1115-21より改変)3.3μg、Gag・Polをコードするベクター(pCLAmpho/ RetroMax system(IMGENEX))3.3μg、及びパッケージシグナルと導入遺伝子を含むベクター(pBabeCL(PLAP)IP、あるいはpBabeCL(SEAPmh)I2G 、あるいはpBabeCL(GFP)IP) 3.3μgの合計9.9μgを混合した(plasmid液)。DMEM/TransIT混合液にplasmid液を加えよく混合した後に、さらに室温にて15分放置した後、前日に2x106cells / 10cm dishで用意し一晩培養した293-EBNA細胞(Invitrogen)に添加した。
添加8時間後に培地を交換し、さらに2日間培養後に培養上清を回収した。回収した培養上清は、夾雑物を除去するため遠心(300 g、5 min)ないしは0.45μmシリンジフィルター(ミリポア社製)により濾過し、この上清をウィルス液として使用した(それぞれ、MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP、MLV(VSV)/ pBabeCL(SEAPmh)I2G 、MLV(VSV)/pBabeCL(GFP)IP)。一部のウィルス液は超遠心(19,500rpm、100分)により濃縮して使用した。
【0045】
(3)初代培養脂肪細胞への遺伝子導入と培養
遺伝子導入に用いる脂肪細胞(ICRマウス皮下脂肪由来、同副睾丸周囲脂肪由来、同腸間膜脂肪由来、C57BL/6マウス皮下脂肪由来)は、導入前日に50-80%コンフルエントになるよう6wellまたは96wellのプレートに準備した。培地をすて、4μg/ml Polybrene(SIGMA)液とウィルス液を等量ずつ細胞に添加することによりウィルスベクターを導入した。導入8時間後に通常培地に交換しさらに培養および継代培養を行った。一部の細胞については、導入4日目の時点で24時間の培養上清を回収しAP活性を測定した(図3)。
継代培養は10cm dishスケールで実施例1に記載した方法に準じて行い、4〜7日間培養してコンフルエントに達したら培地を替え、17時間後の培養上清中のAP活性を測定した。この細胞を継代し続け、適宜同様の操作を行って発現の持続を検討した(図5、6)。なおすべての継代日にAP活性を測定したわけではない。
分化誘導は6wellプレートで実施例1に記載した方法に準じて行った。ただし、誘導培地で3日間処理し、以後成熟培地を3日ごとに交換した。培養上清中のAP活性は各3日間ごとの培養上清を用いて測定し、図の横軸は上清を回収した日で表した。GFP導入細胞については適宜GFP光下での顕微鏡写真を撮影した(図4、6)。なお、非分化誘導条件とは、誘導培地・成熟培地のかわりに通常培地で培養しつづけた条件を意味する。
【0046】
[結果]
図3は、レトロウィルスベクターを用いた場合の、組織由来細胞ごとの遺伝子導入効率の比較を示す図である。ICRマウスの鼠蹊部皮下、副睾丸周囲、腸間膜に存在する各脂肪組織からそれぞれ単離した初代培養脂肪細胞に遺伝子導入を行ったところ、いずれの細胞においても培養上清中にAP活性を認めた。該レトロウィルスベクターによる遺伝子導入は、由来部位に依存せず可能であることを明らかにした。
図4は、GFP発現レトロウィルスベクターを導入した細胞の分化誘導像を示す顕微鏡像である。遺伝子導入13日後に分化誘導を開始し、3週間経過後に写真を撮影した。脂肪滴を含む細胞にGFPの蛍光が観察され、該ウィルスベクターが分化能を有する前脂肪細胞に遺伝子導入可能であること、かつ該ベクターによる遺伝子導入が分化能に影響をおよぼさないことを明らかにした。
図5は、AP発現ウィルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞の継代培養における発現の持続性を示す図である。10 cm dishでコンフルエントに達した細胞の、17時間後の培養上清中のAP活性を測定した。C57BL/6マウス皮下脂肪由来の初代培養脂肪細胞(A)では検討した87日間にわたって、ICRマウス皮下脂肪由来の初代培養脂肪細胞(B)では検討した63日間にわたって、持続的なAP産生を認めた。これらの結果から、該ウィルスベクターの初代培養脂肪細胞への導入により、分裂後の娘細胞にも外来遺伝子が保持される安定発現細胞の作製が可能であることを明らかにした。
図6は、分化誘導した遺伝子導入脂肪細胞における発現の変化を示す写真および図である。ICR皮下脂肪由来のGFP発現脂肪細胞は、通常培養下(A)および分化誘導下(B)のどちらでも強いGFP発現が観察された。また、ICR皮下脂肪由来のAP発現脂肪細胞は、非分化誘導下(非分化)および分化誘導下(分化)のいずれにおいても、持続的なAPの発現が検出された(C)。 該ウィルスベクターにより遺伝子導入された初代培養脂肪細胞は、図5に明示した増殖下のみならず、非分化誘導下すなわち非増殖状態や成熟下といったいずれのフェーズにおいても安定に遺伝子発現を示すことを明らかにした。
【0047】
[実施例4]プラスミドベクターを用いたインスリン安定発現脂肪細胞の作製
遺伝子の導入法は、プラスミドベクターを用いた方法も許容される。
[方法]
(1)ヒトインスリン遺伝子の単離と修飾
ヒト膵臓由来cDNAライブラリー(Stratagene)に対し、表1に示したプライマー(Insulin Fw および Rv)を用いてPCR反応を行い、ヒトインスリン遺伝子断片を得た。得られた354 bpの断片について塩基配列を同定し、nativeインスリンとして、pCR2.1TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。
【0048】
【表1】

【0049】
ついで、脂肪細胞で成熟インスリンを発現させるために、文献(JBC, 1994, 269(8), 6241-)に基づいて遺伝子改変を行った。具体的には、ヒトインスリンB鎖とCペプチドの結合部(site1)および同CペプチドとA鎖の結合部(site2)、およびB鎖10番目のヒスチヂン残基(B10)それぞれの変異をふくむ両方向のプライマーをそれぞれ合成し(表1)、Quikchange mutagenesis kit(Stratagene)により変異体を得た。この反応をsite1およびsite2に対して行ったものをs1s2変異体、site1、site2およびB10に対して行ったものをs1s2B10変異型インスリンとした。得られた改変型ヒトインスリン遺伝子について塩基配列を確認し、pcDNA3.1ベクターに組み込んで遺伝子導入に用いた。
【0050】
(2)初代培養脂肪細胞への遺伝子導入
500μlのFCS-free DMEM培地と15μlのFugene 6試薬(Roche)を混合し、ついで導入プラスミド5μgを加え、室温にて15分間静置した。この混合液を、10 cm dish で70〜80% confluentに培養した初代培養細胞(C57BL/6マウス副睾丸周囲脂肪組織由来)に加え、CO2インキュベーター内で24時間培養した。遺伝子導入4日後に細胞をT225フラスコに継代し、一晩培養した後に0.2 mgU/mlのG418(SIGMA)を含む培地に交換し3週間培養して遺伝子導入細胞を選択した。得られたG418耐性細胞を10 cm dishにまき、培養上清中のインスリンを超高感度インスリンEIAキット(森永)により測定した。なお、本EIAキットは、プロセシングされる前のプロインスリンと成熟インスリンをともに検出する。
【0051】
[結果]
図7は、初代培養脂肪細胞へのプラスミド導入による(プロ)インスリン産生を示す図である。C57BL/6マウス副睾丸周囲脂肪組織由来の脂肪細胞に、nativeヒトインスリン遺伝子 (native)、あるいはsite1/site2/B10改変型(s1s2B10)をそれぞれ組み込んだpcDNA3.1Myc-Hisベクターまたは空ベクター(mock)をトランスフェクションした。G418選択して得られた耐性細胞の培養上清中にヒト(プロ)インスリンが検出された。初代培養脂肪細胞に対する安定遺伝子導入は、プラスミドベクターによっても可能であることを示した。
【0052】
[実施例5]アデノ随伴ウィルスを用いた、AP安定発現脂肪細胞の作製
遺伝子の導入法は、アデノ随伴ウィルス(AAV)を用いた方法も許容される。
[方法]
AAV Helper-Free System (Stratagene)を用いて検討した。実施例2に記載したPLAP断片(HindIII, BglIIを用いて切り出した断片)をpAAV-MCSベクターの同制限酵素サイトに挿入しpAAV-PLAPを得た。
AAVベクターの作製は以下のように行った。OPTI-MEM (Invitrogen) 1.75ml と plasmid導入試薬Fugene 220μlを混合し、ついでpAAV-PLAP、pAAV-RC、pHelperをそれぞれ25μgずつ混合して、室温にて15分放置した (Fugene/plasmid液)。一方293-EBNA細胞を、15cm dishで60-70%コンフルエント状態になるよう用意した。培養液をFCS-freeのDMEMに置換し、そこにFugene/plasmid液を均等に滴下して2-3時間培養した。ついで終濃度10%となるようFCSを添加し、さらに2日間培養した。細胞をトリプシン処理にて回収し遠沈させた後、最終用量が3mlになるよう50 mM Tris-HCL, 150 mM NaCl溶液に懸濁した。この懸濁液に対しドライアイス-エタノール/37℃の凍結/融解を3サイクル行うことで細胞を破砕した。さらにBenzonase (SIGMA) により宿主ゲノムDNAを分解した後に9,000 rpm、30分の遠心を行い、上清をフィルターろ過してウィルス液とした。
初代培養脂肪細胞(C57BL/6マウス皮下脂肪由来)は、遺伝子導入前日に1x104 cells/wellで12 well plateにまき、一晩培養後、40mMのHydroxyureaおよび1mMのButylic acid(いずれもSIGMA)を含む培地で6時間処理した。この培地を除いた後、FCS-freeのDMEMで1/100に希釈したウィルス液を0.5 ml/wellで添加した。1時間培養後、終濃度10%となるようFCS含有培地を添加し、一晩培養した。以後、通常の培地交換を行い、24日目に継代した。
導入1、7、25日目に培地を交換し、それぞれ2日後の培養上清をAP測定に用いた。65℃で20分間加温し、必要に応じて希釈した培養上清10μlに、50μlのアッセイバッファー(16mM NaHCO3, 12mM Na2CO3, 0.8mM MgSO4)と、50μlのルミステイン試薬(CDP-Star Ready to Use with SapphierII, TROPIX)を混和し遮光下で30分間反応させ、ルミノメーターで測定した。
【0053】
[結果]
図8は、AP発現AAVを導入した初代培養脂肪細胞(C57BL/6マウス皮下脂肪由来)における、APの安定発現を示す図である。培養上清中のAP活性は、全試験期間を通して持続的に検出された。初代培養脂肪細胞に対する安定遺伝子導入は、AAVベクターによっても得られることを示した。
【0054】
[実施例6]ヒトインスリンを発現するレトロウィルスベクターの構築と脂肪細胞への導入
[方法]
実施例4で構築したヒト改変型インスリン遺伝子(s1s2B10Ins)を、実施例3の方法に準じて pBabeCLXI2Gベクターに挿入した(pBabeCL(s1s2B10Ins)I2G)。このプラスミドを、VSV-Gをコードするベクター(pVPack-VSV-G/Stratagene)、Gag・Polをコードするベクター(pVPack-gp/Stratageneより改変)とともに、293-EBNA細胞に実施例3の方法に準じて導入し、改変型インスリン発現レトロウィルスベクターを作製した(MLV(VSV)/pBabeCL(s1s2B10Ins)I2G)。10 cm dish 22枚の293-EBNA細胞の培養上清(約200 ml)を回収し、遠心/フィルター処理により不溶物を除いた後に超遠心(19,500 rpm、100分)により濃縮ウィルス液を得た。これを、前日に6wellプレートにまいた初代培養脂肪細胞(C57BL/6皮下脂肪由来)に導入した。
遺伝子導入細胞を6wellプレートにまきなおし、実施例1の方法に準じて分化を誘導した。誘導前3日から誘導開始日の3日間(誘導前)、および誘導14日目から17日目の3日間(誘導後)の培養上清をそれぞれ回収して、実施例4と同じ方法でインスリン量を測定した。また、目的の部位でプロセシングが起こり成熟インスリンが生成されていることを確認するために、成熟インスリンのみを認識するインスリンEIAキット(IBL)の測定も行った。対照は、同時に分化誘導した非遺伝子導入細胞の培養上清を用いた。
【0055】
[結果]
図9は、s1s2B10インスリン発現レトロウィルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞における、分化誘導時のインスリン発現を示す図である。(A)森永製EIAによる結果、(B)IBL製EIAによる結果、をそれぞれ示す。インスリンは、分化誘導前または分化誘導後のいずれにおいても安定に分泌されること、変異型インスリン遺伝子導入によって脂肪細胞から成熟インスリンを産生し得ること、を明らかにした。
【0056】
[実施例7]ヒトglucagon-like peptide-1(GLP-1)を発現するレトロウィルスベクターの構築と脂肪細胞への導入
GLP-1は摂食時に小腸L細胞から産生され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を刺激する作用を有するペプチドである。その他にも、膵β細胞の再生作用や食欲抑制作用、胃排泄抑制作用など、抗糖尿病・抗肥満の多様な作用を有することが明らかにされている(Meier JJ et al. Eur J Pharmacol. 2002, 12;440(2-3):269-79、Drucker DJ.Gastroenterology. 2002;122(2):531-544)。このペプチドはプレプログルカゴン遺伝子から産生されるポリペプチドから組織特異的プロセシングにより生じる、GLP-1のアミノ酸配列として7番から37番(ないし36番のアミド体)のペプチドが主な薬理活性を有することが知られている(Drucker DJ et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1987 May;84(10):3434-3438、Kreymann B et al. Lancet. 1987, 5;2(8571):1300-1304、Mojsov S et al. J Clin Invest. 1987 Feb;79(2):616-619)。この因子を脂肪細胞から産生させるべく以下のような検討を行った。
【0057】
[方法]
実施例3で用いたPLAP遺伝子のシグナルペプチド(17アミノ酸)にヒトGLP-1(7-37)とストップコドンをつないだ配列(コード配列を配列番号:10に示す)を含む計156base pairの塩基の配列を設計し、中央に22merのオーバーラップを持つようにヌクレオチドを合成した(表1中 sPL-GLP-1FwおよびsPL-GLP-1Rv)。これをアニーリングさせPfu polymerase(Stratagene)により二重鎖にさせた後、5'端、3'端のプライマー(表1のGLP-5'およびGLP-3')を用いたPCRにより目的断片を増幅した。この断片をpCR2.1ベクターにサブクローニングした後に制限酵素で切り出し、実施例3と同様にpBabeCLXI2Gベクターに挿入した(pBabeCL(sPL-GLP1)I2G)。これを実施例6と同様の方法で293-EBNA細胞に導入して、GLP-1発現レトロウィルスベクターを作製した(MLV(VSV)/pBabeCL(sPL-GLP-1)I2G)。10cm dish9枚の293-EBNA細胞の培養上清(約90ml)を回収し、遠心/フィルター処理により不溶物を除いた後に超遠心(19,500rpm、100分)により濃縮ウィルス液を得た。これを、前日に6wellプレートにまいた初代培養脂肪細胞(C57BL/6皮下脂肪由来)に導入した。導入した脂肪細胞を12wellプレートにまきなおし、実施例1の方法に準じて分化誘導した。非誘導とは、誘導培地・成熟培地のかわりに通常培地で培養しつづけた条件を意味する。7日後に、1mMのValine-pyrrolidine(GLP-1分解酵素阻害剤、エーザイ(株)にて合成)を含むFCS-free DMEM培地に交換した。18時間後に培養上清を回収し、活性型GLP-1(7-37)量をELISA法(LINCO)により測定した。
【0058】
[結果]
図10は、GLP-1(7-37)発現レトロウイルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞における発現を示す図である。非分化誘導および分化誘導後の脂肪細胞の培養上清に、active formであるGLP-1(7-37)の発現が認められた。プレプロタイプで産生されプロセシングによって切り出されるような因子であっても、本法によって、その因子のみを脂肪細胞から産生させ得ることを明らかにした。
【0059】
[実施例8] AP安定発現細胞のマウスへの移植(試験1)
[方法]
実施例3の方法で作製したAP発現脂肪細胞(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入、C57BL/6皮下脂肪由来)をコンフルエントに培養した後、トリプシン処理により回収しPBSで洗浄した後に、5x107 cells/mlになるように氷温下のマトリゲル (Becton Dickinson) に懸濁した。これをC57BL/6マウス(術時8週齢、チャールズリバー)の背部皮下 (Sc) にマウス一匹あたり0.2 mlの用量(1x106 cells/head)を注入することにより移植した(分化誘導なし)。一方、同細胞をコンフルエントに培養した後、実施例1に示す誘導培地で3日間培養後、同様の処理を行い移植した(分化誘導あり)。実施例2に示す方法で経日的に採血を行い、血漿中のAP活性を測定した。
【0060】
[結果]
図11は、AP発現初代培養脂肪細胞を移植したマウスにおける、血漿中AP活性の推移を示す図である。いずれの移植法によっても約50日間の全試験期間にわたって発現の持続を認めたが、移植前に3日間の分化誘導刺激を与えてから移植した個体(分化誘導あり)の方が、誘導なしで移植した個体に比べ、少ない変動幅で持続した。分化誘導刺激を与えることによって、移植後の生存率を改善し得る可能性を示した。
【0061】
[実施例9] AP安定発現細胞のマウスへの移植(試験2)
[方法]
(1)移植
実施例3で作製したAP発現脂肪細胞(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入、ICR皮下脂肪由来)をコンフルエントに培養した後、トリプシン処理により回収しPBSで洗浄した後に、5x107 cells/mlになるように1μg/mlのbFGF(Genzyme Techne)を添加した氷温下のマトリゲル (Becton Dickinson) に懸濁した。これをICR系ヌードマウス(術時6週齢、チャールズリバー)の背部皮下 (Sc)、鼠蹊部皮下脂肪内 (fat)、腹腔内 (ip)の各部位にマウス一匹あたり0.2mlの用量(1x106 cells/head)を注入することにより移植した。対照として、GFP発現脂肪細胞を同様に処理し皮下に移植した。
またAP発現細胞の一部は、実施例1に示す誘導培地で3日間培養した後に、同様に回収し移植した(Dif)。また一部は誘導培地の後さらに成熟培地で4日間培養し、同様に回収して移植した(Mat)。
またAP発現細胞の一部は、移植と同条件(1x106/0.2 mlマトリゲル-bFGF添加)で8well-Labteckチャンバー(Nunc)にまき、37℃で加温することによって固形化した。この固形化ゲルをマウスの皮下に挿入することで移植した。このとき、固形化後に通常培地で培養したものをpre-fixed (pf)/gr、分化誘導培地で培養したものをpf/difとし、7日間培養後に移植を行った。
移植前(0日)、及び移植後経日的に実施例2の方法に準じてplasma中のAP活性を測定した。
(2)摘出
分化誘導後に移植した群(Dif/Sc)のうち、個体Aについては移植5週後に、個体Bについては移植43週目に、それぞれ移植細胞塊をマトリゲルごと摘出した。対照群の一例についても、移植5週目に摘出した。それぞれ、50 mg/kgのネンブタールを腹腔内投与して麻酔した後に皮膚を切開して、肉眼的に確認しえた移植マトリゲル片を切除した。手術部位は縫合しイソジン(明治)にて消毒し、以後同様に飼育し経日的に採血を行った。
【0062】
[結果]
図12(A)は、AP発現初代培養脂肪細胞を、分化刺激有り・かつbasic FGF添加マトリゲルを用いて移植した際(Dif/Sc群)の、血漿中AP活性の推移を50日間検討した結果である。血中AP活性は約5倍の範囲で49日間にわたって安定に推移した。移植時のbFGF添加により、移植後の生着率をより改善し得ることを示した。また(B)は、同期間内において、移植マトリゲルの摘出による血漿中AP活性の消失(個体A)を示す図である。PLAP導入群の平均値に比べ、摘出個体では著明なAP活性の低下が認められ、血中APは移植細胞由来であること、また移植片の摘出により遺伝子発現は速やかに消去可能であること、を明らかにした。このとき、対照であるGFP導入細胞移植群からも一部摘出を行ったところ、摘出マトリゲル中にGFP陽性細胞を認め、かつその多くは図6(B)のように空胞像を呈した(C)。該方法により移植した初代培養脂肪細胞が、成熟脂肪としてインビボで生着する可能性を示した。
図13は、図12(A)における移植マウス、およびその他さまざまな方法で移植したマウスの血中AP活性をより長期にわたって検討した結果である。PLAP導入細胞の移植群では、いずれの移植部位・移植法によっても明確な血中AP活性の上昇を認めた。血中AP活性は長期にわたって持続し、特ににDif/Sc群(図12(A)に例示した群)は試験期間の1年にわたって安定なAP発現が認められた。その他の移植法においても、いずれも試験期間内(ip群では316日、fat群では54日、Sc群では225日、Mat/Sc群では317日、pre-fixの2群では314日)において持続的にAP産生が認められた。移植後1週以内に認められる活性のピークはip群が最も高く、以下、Sc>fat> Dif/Sc≒pf-dif >pf-gr≒Mat/Scの順で高値であった。また、移植後の変動幅については全群比較可能な13週経過時とピークとの比で見ると、pre-fixの2群で約3倍ともっとも変動が少なく、ip群やDif/Sc、Mat/Sc群で約5倍、Sc群やfat群では約10倍であった。各移植法では移植直後のピーク値や移植後の変動幅が異なっており、これらは用いる遺伝子産物や病態の特徴、手技の簡便性などに応じて使い分けることが可能である。体外で遺伝子を安定導入した初代培養脂肪細胞の移植は、多様な方法で移植可能であること、また移植後は長期に安定なインビボ遺伝子発現が可能であることを明らかにした。
図14は、図12(B)に例示したのと同様の摘出試験を、移植後期に行った結果を示す図である。移植初期に摘出した個体(個体A)のみならず、移植後期に摘出した個体(個体B)においても、摘出後速やかな血中AP活性の消失を認めた。本法により移植された脂肪細胞は移植後長期間にわたって移植部位に局在し、時期によらず必要に応じて摘出することにより遺伝子発現を消去できることを明らかにした。
【0063】
[実施例10] AP安定発現細胞のマウスへの移植(試験3)
移植細胞数の用量依存性を確認するために、次の検討を行った。
[方法]
実施例3で作製したAP発現脂肪細胞(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入、ICR皮下脂肪由来)をコンフルエントに培養した後、実施例1に示す誘導培地で3日間培養した後に、トリプシン処理により回収した。PBSで洗浄した後に、5x107 cells/mlになるようにマトリゲルに懸濁した。AP細胞懸濁液についてはマトリゲルにより5倍ずつの段階希釈を行い、それぞれ1x107 cells/ml、2x106 cells/ml 溶液を調製した。これらに終濃度1μg/mlになるようbFGFを添加し、ICR系ヌードマウスの背部皮下にマウス一匹あたり0.2 mlの用量で移植した(それぞれ高用量:1x106 cells/head、中用量: 2 x 105 cells/head、低用量: 4x104 cells/head)。コントロールとして、GFP発現脂肪細胞を同様に処理し高用量と同条件(1x106 cells/head)で皮下に移植した。
【0064】
[結果]
図15は、AP発現脂肪細胞の移植における、移植細胞数依存的な血中AP活性を示す図である。移植細胞数を変えることにより、持続期間に影響せずに用量依存的な血中AP活性が認められた。特に、中・低用量群では高用量群に見られていた移植早期のピークを示さず、より少ない変動幅で推移した。インビボの発現量が、移植細胞数によって容易に調整し得ること、至適細胞数を整えることで移植後の血中濃度(発現量)をより安定させ得ることを明らかにした。
【0065】
[実施例11] インスリン発現脂肪細胞の移植による、糖尿病モデルマウスの血糖低下作用
[方法]
糖尿病マウスは、8週齢の雄性C57BL/6マウスに対し170mg/kgのストレプトゾトシン(STZ、SIGMA)を10 ml/kgで静脈内投与することにより作製した。STZ投与1、2週後にそれぞれ空腹時血糖値(FBG)を測定し、ともに300 mg/dl以上のFBGを呈した個体を糖尿病とした。なお血糖値は全血を採取直後に過塩素酸処理してグルコーステスト-II(WAKO)を用いて測定した。
実施例6で作製したMLV(VSV)/pBabeCL(s1s2B10Ins)I2G導入脂肪細胞を、実施例10と同様の方法で分化誘導刺激後、5x107/mlになるように1μg/mlのbFGFを添加したマトリゲルに懸濁した。この懸濁液を、一箇所あたり0.2 mlずつ、糖尿病マウスの背部皮下に計4箇所(4x106/head)個移植した。対照群には、非遺伝子導入の脂肪細胞を同様の方法により移植した。移植はSTZ処置19日後に行い、以後経時的にFBGを測定した。統計解析は対照群との比較(unpaired t test)により行った。
【0066】
[結果]
図16はSTZ誘発糖尿病マウスに対する、s1s2B10インスリン発現脂肪細胞の移植による効果を示した図である。対照には非遺伝子導入細胞を移植した。インスリン発現細胞移植群の血糖値は移植7日目から低下傾向を示し、移植13、21日目には有意な血糖低下作用を示した(A)。また、移植20日後の体重はインスリン発現細胞移植群が対照群に比べて有意に高く、糖尿病による体重減少を回復させた(B)。APを用いた検討結果より、この血糖低下作用は長期に持続することが推測される。このように、移植した初代培養脂肪細胞から産生された外来遺伝子産物が、レシピエントの病態修飾に寄与しうることを明らかにしたと同時に、本法による糖尿病治療の可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、エクスビボでの遺伝子治療に適した初代培養脂肪細胞に外来遺伝子を導入する方法が確立され、外来遺伝子を安定に保持する初代培養脂肪細胞が確立された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】3週齢のICRマウス皮下脂肪より単離した初代培養脂肪細胞の顕微鏡写真である。(A)天井培養14日後の天井側培養面に接着した脂肪細胞、(B)通常培養系で増殖させた初代培養脂肪細胞、(C)分化誘導により脂肪滴を貯留した成熟脂肪細胞、(D)分化誘導細胞のOil red O染色像、をそれぞれ示す。
【図2】アルカリホスファターゼ (AP) 発現プラスミドpcDNA3.1-SEAPmhを一過性に導入した初代培養脂肪細胞(ICR皮下脂肪由来)をICR系ヌードマウスに移植して得られた血漿中AP活性を示す図である。
【図3】レトロウィルスベクターMLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IPを、各脂肪組織由来の初代培養脂肪細胞に導入したときの、遺伝子導入効率の比較を示す図である。
【図4】MLV(VSV)/pBabeCL(GFP)IPを導入した初代培養脂肪細胞の分化誘導像を示す顕微鏡写真である。(A)光学顕微鏡写真、(B)Aと同一視野のGFP蛍光写真、をそれぞれ示す。
【図5】AP発現ウィルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞の継代培養におけるAP発現の持続性を示す図である。(A)C57BL/6マウス皮下脂肪由来の細胞にSEAP遺伝子(MLV(VSV)/ pBabeCL(SEAPmh)I2G)またはPLAP遺伝子(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP)を導入した結果、(B)ICRマウス由来脂肪細胞の細胞にPLAP遺伝子(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP)またはGFP遺伝子(MLV(VSV)/pBabeCL(GFP)IP)を導入した結果、をそれぞれ示す。
【図6】分化誘導した遺伝子導入脂肪細胞における発現の変化を示す写真および図である。(A)MLV(VSV)/pBabeCL(GFP)IPを導入したICR皮下脂肪由来初代培養脂肪細胞の非分化誘導下におけるGFP光顕微鏡像、 (B)同、分化誘導下におけるGFP顕微鏡像、(C)非分化誘導下(非分化)および分化誘導下(分化)におけるMLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入初代培養脂肪細胞(ICR皮下脂肪由来)のAP産生、をそれぞれ示す。
【図7】初代培養脂肪細胞へのプラスミド導入による(プロ)インスリン産生を示す図である。
【図8】AP発現AAVを導入した初代培養脂肪細胞(C57BL/6マウス皮下脂肪由来)における、APの安定発現を示す図である。
【図9】s1s2B10インスリン発現レトロウィルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞における、分化誘導時のインスリン発現を示す図である。(A)森永製EIAによる結果、(B)IBL製EIAによる結果、をそれぞれ示す。
【図10】GLP-1(7-37)発現レトロウイルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞における、GLP-1(7-37)の発現を示す図である。各々3点の測定を行い、平均値と標準偏差で示した。
【図11】AP発現初代培養脂肪細胞の移植におけるインビボAP発現に及ぼす、移植前分化誘導刺激の有無による効果を示した図である。
【図12】(A)AP発現初代培養脂肪細胞の、分化刺激有り・かつbasic FGF添加マトリゲルを用いて移植した際の、血漿中AP活性の推移、(B)移植マトリゲルの摘出による血漿中AP活性の消失(個体A)、(C)対照であるGFP導入細胞移植群から摘出したマトリゲルのGFP光顕微鏡像、をそれぞれ示す図および写真である。(A) のPLAP移植群32日目までは、個体別測定値の群平均と標準偏差で、他は平均値で示した。
【図13】図12(A)、およびその他さまざまな方法で移植したマウスの血中AP活性をより長期にわたって検討した結果を示す図である。
【図14】図12(B)に例示したのと同様の摘出試験を、移植後期に行った結果を示す図である。
【図15】AP発現脂肪細胞の移植における、移植細胞数依存的な血中AP活性を示す図である。個体別測定値の群平均と標準偏差で示した。
【図16】STZ誘発糖尿病マウスに対する、s1s2B10インスリン発現脂肪細胞の移植による効果を示した図である。(A)空腹時血糖値に及ぼす効果、(B)体重に及ぼす効果をそれぞれ示す。個体別測定値の群平均と標準偏差で示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞。
【請求項2】
該遺伝子がレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより該細胞に導入された、請求項1に記載の脂肪細胞。
【請求項3】
体内で少なくとも20日以上にわたって該蛋白質を有意に発現する能力を有する、請求項1に記載の脂肪細胞。
【請求項4】
該蛋白質を血中に放出させるために用いる、請求項1に記載の脂肪細胞。
【請求項5】
該蛋白質がインスリンまたはGLP−1 (Glucagon-Like Peptide 1) である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程、
(1)脂肪細胞を初代培養する工程、
(2)細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入し、安定に保持させる工程、
を含んでなる遺伝子治療用脂肪細胞を製造する方法。
【請求項7】
該外来遺伝子をレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより導入する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法により製造された遺伝子治療用脂肪細胞。
【請求項9】
細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞、および薬学的に許容される担体を含む、遺伝子治療用の移植組成物。
【請求項10】
さらに細胞外基質成分を含む、請求項9に記載の移植用組成物。
【請求項11】
さらに血管新生因子を含む、請求項9に記載の移植用組成物。
【請求項12】
細胞外に分泌される所望の治療蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む、遺伝子治療方法。
【請求項13】
蛋白質を血中に放出させる方法であって、細胞外に分泌される蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法。
【請求項14】
該蛋白質を血中20日以上にわたって血中に放出させる方法である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
血糖を低下させる方法であって、インスリンまたはGLP−1 (Glucagon-Like Peptide 1) をコードする遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法。
【請求項16】
細胞外に分泌される蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞が体内に移植された動物。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−131941(P2008−131941A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299377(P2007−299377)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【分割の表示】特願2004−513476(P2004−513476)の分割
【原出願日】平成15年6月18日(2003.6.18)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】