説明

還元金属の製造方法

【課題】移動型炉床炉を用いて還元金属を製造する際に、炉内温度を下げても高品質の還元金属を効率よく生産できるようにすること。
【解決手段】移動型炉床炉1の移動床上11に、金属含有物や固体還元剤および造滓材などからなる混合原料2を粉状もしくは塊成化してから装入し、移動床が炉内を移動する間に加熱し、還元して還元生成物を生成させたのち、溶融してスラグ分を分離することにより還元金属を製造する際に、前記混合原料中に、結晶間距離Lcの大きい炭材を用いる還元金属の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有原料、たとえば鉄鉱石などを移動型炉床炉内に装入したのち移動させながら加熱、還元し、少なくとも一度は溶融させて金属含有物、例えば還元鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粗鋼を製造する方法の1つとして電気炉によって行う方法がある。この方法は、原料を電気エネルギーによって加熱し、溶解して、場合によってはさらに精錬して、所望の鋼とする技術である。また、この方法は、原料として主にスクラップを使用している。しかし、近年、そのスクラップの需給が悪化していることから、スクラップに代わる還元鉄の利用が検討されている。
【0003】
その還元鉄は、例えば、特許文献1に開示されるような方法によって製造される。この方法は、移動型炉床炉内を水平方向に移動する炉床(移動床)上に、主として鉄鉱石と固体還元剤とを積載し、上方からの輻射伝熱によってこの鉄鉱石等の原料を加熱し、還元し、さらには該移動床上に生成する還元生成物を溶融することにより、還元鉄を製造する方法であり、移動炉床炉法とも呼ばれている。
【0004】
この方法に用いられる移動炉床炉とは、移動型炉床炉内に配設される炉床(移動床)が水平方向に移動する過程で、原料を加熱して還元する炉であり、環状の移動床が、図1に示すように回転する形式をとるのが普通であり、それ故に回転炉床炉とも呼ばれている。
【0005】
例えば、代表的な移動炉床炉は、図1に示すように、予熱帯10a、還元帯10b、溶融帯10cおよび冷却帯10dに区画された環状型加熱炉の加熱炉炉体10内に、回転しながら連続的に移動する移動床11を配設してなるものである。そして、この炉は、前記移動床11上に、例えば、鉄鉱石(炭材内装ペレットが用いられることもある)と固体還元剤からなる混合原料12を積載して加熱し、還元し、その後、少なくとも一度は溶融させるようになっている。かかる移動床11は、通常、耐火物でライニングされた炉体10によって囲われているが、特許文献1に開示されているように、炉床耐火物保護のために、混合原料層とは別に、床敷材となる炭材の層が設けられる場合がある。また、この炉体10の上部にはバーナー13が配設され、このバーナー13を熱源として、移動床11上の鉄鉱石等が還元される。なお、図1において、14は原料を移動床11上に装入する装入装置、15は還元物を排出する排出装置である。また、炉体10内の雰囲気温度は還元帯では通常、1300℃程度に調節されているが、溶融帯では1500℃前後の温度に制御される。
【0006】
鉄含有物、例えば鉄鉱石は、その産地によって差はあるものの、多くの脈石成分を含むのが普通である。また、固体還元剤の代表例である石炭、石炭チャー、コークスにもまた灰分等が含まれている。そのために、還元操作のみを行う移動炉床炉法では、脈石分や該還元剤中の灰分が製品である還元鉄中に不可避に混入するという問題がある。しかし、移動型炉床炉法の場合、特許文献1に開示されているように、還元後の原料を一旦は溶融することから、メタルから脈石分であるスラグを容易に分離することができる。ただし、単にそれだけでは、還元鉄の生産性が向上するわけではない。
【0007】
【特許文献1】特開平11−172312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来技術については、その開発傾向に生産性の向上という視点に欠けており、一方で還元鉄の需要は大きく伸びているのが実情であり、解決が求められている。また、その還元鉄を電気炉などで溶解する場合でも、溶解効率の向上をもたらすような、そして電力原単位の削減に寄与でき、経済性の高い操業が担保できるような、還元鉄製造技術の確立が求められている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、移動型炉床炉を用いて還元金属を製造する際に、生産性に優れると共に、電気炉等の精錬炉で使いやすい還元金属を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来技術が抱えている上述した課題を解決するために、発明者らは、還元生成物がメタルとスラグとに分離する条件について研究する中で、還元金属の品質ならびに生産性の向上を図るには、これらの分離をいかに円滑に行わせるために、発明者らは還元金属とくに還元鉄中の炭素濃度をいかに上げるかということが重要なポイントになるとの知見を得て、本発明を開発するに到った。
【0011】
即ち、本発明に係る手段とは、移動型炉床炉の移動床上に、まず、床敷材を積載し、その上に金属含有物、固体還元剤および造滓材を含む混合原料を粉状もしくは塊成化してから装入し、移動床が炉内を移動する間に加熱、還元して還元生成物を生成させ、その後、溶融してスラグ分を分離することにより還元金属を製造する方法において、前記混合原料中に配合する固体還元剤として用いる一部もしくは全部を、結晶間距離Lcが18オングストローム(以下、「Å」と略記する)以上の大きさを有する炭材とすることを特徴とする還元金属の製造方法を提案する。
【0012】
ここで、結晶間距離Lcは、X線回折法によって測定され、参考文献(Metallurgical and materials transaction B : 31B(2000)、P215)に記載されているScherrerの式によって定義されるものを用いる。一般に、結晶間距離Lcが大きいものほど、黒鉛化が進んでいる状態を表わしている。
【0013】
本発明において、混合原料用の前記炭材は、混合原料中の金属量の2mass%以上に相当する量を混合すること、結晶間距離Lcが18Å以上である炭材を用いることと、黒鉛もしくは石油系コークスであることが望ましい。
【0014】
前記金属含有物としては、鉄鉱石などの鉱石、製鉄ダストなどの金属含有ダストあるいは製鉄スラッジなどの金属含有スラッジなどの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0015】
前記固体還元剤としては、黒鉛の他、石炭、石炭チャー、あるいはピッチコークス、オイルコークスなどの石油コークスなどの炭材が用いられ、この炭材はまた、X線回折法によって求められる結晶間距離Lcが18Åよりも大きいグラファイト構造の炭材を、全量もしくは石炭などの黒鉛化度の低い炭材に混合して使う。
【0016】
前記造滓材としては、CaO、MgOおよびNaOのうちから選ばれるいずれか1種または2種以上の鉱物性物質、例えば、石灰石、脱硫スラグ、転炉スラグ、ドロマイト、蛇紋岩あるいは蛍石などのうちの1種あるいは2種以上の混合物が用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、移動型炉床炉によって高品質(高炭素濃度)の還元金属を、効率よく生産することができると共に、還元金属中の炭素濃度を上昇させることができる。その結果、該還元金属の融点が下がり、電気炉などの精錬炉での溶融が容易(溶解効率の向上)になる。また、本発明を適用して製造した還元金属の場合、近年の酸素吹き込み転炉や電気炉の操業において、還元金属の炭素が溶融時の燃料としても利用できるようになり、電気炉等のエネルギー原単位の低下をもたらして、より経済的な炉操業が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下の説明は、還元金属として還元鉄を製造する例を述べるものである。ただし、本発明は、以下に例示する還元鉄の製造だけでなくその他の金属材料の製造技術としてももちろん有効である。
【0019】
初めに、本発明を開発する契機となった実験について説明する。この実験で、発明者らはまず、鉄鉱石、コークスおよび石灰石などからなる混合原料を、移動型炉床炉に代えて、竪型炉内に設置した黒鉛製るつぼ内に装入し、移動型炉床炉の炉内温度パターンを模擬した熱を供給しながら、このるつぼ内混合原料の様子を観察した。そして、昇温途中で中止してその時点での生成物の組成分析等を行った。
【0020】
その結果、混合原料中の鉄鉱石はまず、この混合原料中に混合されている炭材と反応し、少なくとも一部はFeOやFeにまで還元され、その後、溶融してFeO系のスラグを生成する。このとき、炉内では前記炭材による直接還元に加え、このときに発生するCOガスとも還元反応が生じる。これらの反応により、前記混合原料からは還元生成物が得られると共に、この還元生成物からは溶融メタルと溶融スラグが分離生成する。
【0021】
このようにして生成した溶融スラグ中のFeO濃度は、溶融スラグと溶融メタルが分離するとき、30mass%程度と高い状態にある。そのため、溶融スラグと溶融メタルとは互いに濡れやすい関係にあり、このときの溶融スラグは、溶融メタル(液滴)の表面全体を完全に覆う“完全濡れ”の状態になっているものと考えられる。従って、これらがそのまま凝固すると、メタルとスラグは強く密着した状態のままとなり、容易には分離しにくくなることがわかった。
【0022】
そして、溶融スラグ中のFeOの還元がさらに進んで、溶融スラグ中のFeO濃度が10mass%程度以下にまで低下すると、溶融メタルと溶融スラグとの濡れ性は次第に悪くなり、接触角も大きくなって、溶融スラグが溶融メタルの表面からすべり落ちるようになる。そして、両者の密着力が低下して、冷却後はこの両者が容易に分離するようになる。
【0023】
以上のことから、溶融スラグから溶融メタルを効率よく分離させるには、FeOの還元を促すことによって、溶融スラグ中のFeO濃度をできるだけ速く10mass%程度以下に低下させ、メタル粒とスラグ粒とが互いに剥がれやすくなるようにすることが肝要であることがわかった。
【0024】
このことを確かめるために、発明者らは、溶融スラグ中のFeOの還元挙動についてさらに実験を続けた。一般に、溶融スラグ中のFeOの還元は、スラグとメタルとの界面において、溶融スラグ中のFeOが溶融メタル中に溶解している炭素によって還元されるか、還元反応によって生成するCOガスによって還元されることによって進むことが知られている。したがって、溶融スラグ中のFeOの還元を促進させるためには、溶融スラグ中のFeOと接触する還元剤(固体炭素あるいはCOガス)となるメタル中の炭素の供給速度を上げること等の対策が有効になると考えられる。
【0025】
そこで、本発明では、還元剤の供給速度を上げる手段として、混合原料中に含まれる固体還元剤、即ち炭材について検討した。その結果、好ましい炭材の条件としては、X線回折法によって測定される結晶間距離Lcが、18Åよりも大きいグラファイト構造の炭材を少なくともその一部に混合して用いることであることを突き止めた。このような炭材を使用することにより、本発明では、反応初期に発生する固体メタル中への十分な炭素成分の供給を行うことができ、固体鉄の溶融が低温で起こるため、加熱時間の短い初期段階でもメタル中の炭素の拡散が促進され、還元剤である溶融炭素の供給速度が速くなり、ひいては溶融メタルと溶融スラグとの分離が促進されるようになると考えられる。
【0026】
即ち、固体還元剤として前記炭材を用いると、溶融した還元生成物である固体メタルは周囲に存在する黒鉛と接触して、固体金属中での拡散によって浸炭が起こり、内部の炭素濃度が2.1mass%を超えたところで液相を生成して液体金属鉄となり、流動が起こって炭素の拡散速度が飛躍的に高まり、還元剤の供給が促進される。因みに、このような作用効果は、混合原料を塊成化した場合でも同様の効果を生じさせる。
【0027】
このような反応(浸炭)によって溶融メタル中に供給された炭素は、スラグ中のFeO濃度を低下し、濡れ性の低下を招いて溶融メタルと溶融スラグとの分離を誘発する。つまり、溶融メタル中への浸炭を迅速に行い、FeOの還元反応を促進することが、溶融メタルと溶融スラグの分離を促進して生産性の向上という本発明の目的に適う処理が可能となるのである。このことはまた、還元鉄中の炭素濃度を向上させることにもつながる。つまり、還元反応によって、金属鉄中の炭素は消費されるものの、浸炭反応による炭素の供給量はそれに打ち勝つものとなるので、結果的に、還元鉄の炭素濃度が上昇することになる。
【0028】
なお、還元剤(炭素)のメタル中への浸炭速度(K)については、参考文献(Metallurgical and materials transaction volume 31B February(2000)、P215〜216)に、図2に示すような、結晶間距離Lcと浸炭速度との関係として報告されている。その報告によると、黒鉛化度が高く結晶間距離Lcが大きいものほど浸炭反応の速度が大きく、特に18Å以上の炭材については大きいことがわかる。従って、溶融メタルへの浸炭反応を促進するには、その炭材として、少なくともその一部がグラファイト化をしており、結晶間距離Lcの大きい炭材を使用することが有利であり、浸炭反応の促進を通じて、生産性の向上を図ることができる。
【0029】
なお、該当炭材の使用量は混合原料中の金属分(メタル)の量に対して2mass%以上となる質量であればよい。2mass%/メタルとした理由は、鉄炭素系状態図によれば、この量が液相生成炭素濃度と等しく、メタル中に液相を精製させることができれば、メタル液相内での炭素原子の拡散が飛躍的に増加すると考えられるからである。
【0030】
また、配合する炭材は、結晶間距離(Lc)の大きいものだけを用いてもかまわない。この炭材量は、粉原料中の被還元酸素の物質量(金属酸化物に結合している酸素)に対して、1.2倍程度の炭材中炭素の物質量となるように配合され、これが炭材量の上限となる。
【実施例】
【0031】
発明者らは実働プラントにおいて、上記事実を確認すべく試験操業を行った。この試験操業は、移動型炉床炉として図1に示すような回転炉床炉1により、表1に示す成分組成の鉄鉱石、表2に示す化学成分の炭材および、造滓剤として石灰石を表3に示す割合で配合した。そして、表3に示す混合原料2を、炉内の移動床11上に積載した床敷材3の上に装入して堆積させ、最高炉内温度が1500℃となるように移動床11を移動させて、還元鉄とスラグを製造した。なお、この回転炉床炉は、炉中心径7mで炉床の幅は1mの加熱炉である。表4に、この炉のスペックを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
図3に、それぞれの例の生産性を対比して示した。生産性は、移動型炉床炉の単位炉床面積で一日に生産される粒鉄量で示した。また、表5にそれぞれの実施例の下で生産された粒鉄中のC濃度を示した。この図に示すように、黒鉛を本発明に適合する条件で配合することにより、生産性が向上した。また、本発明例に適合する方法のほうが、粒鉄中の炭素濃度が高くなることもわかった。
【0037】
【表5】

【0038】
以上の説明から理解できるように、本発明によれば、メタル粒子(粒鉄)中に含まれる炭素は、溶解時に酸素を吹き込むことで燃料として利用できるため、例えば、電気炉等で溶解を行う場合に、電力の原単位を下げる効果がある。このことにより、粒鉄の市場価値をあげることができ、本発明に従う方法の経済性を向上させる効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、移動型炉床炉によって還元金属、とくに還元鉄を効率よく製造する(高生産性)際の技術を提案するものであるが、その他、鉄以外の還元金属を製造する方法としても適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】移動型炉床炉の概念図である。
【図2】結晶間距離と浸炭反応速度との関係を示すグラフである。
【図3】実施例における生産性の比較グラフである。
【符号の説明】
【0041】
1 回転炉床炉
2 混合原料
3 床敷材
10 炉体
10a 予熱帯
10b 還元帯
10c 溶融帯
10d 冷却帯
11 移動床
12 混合原料
13 バーナー
14 装入装置
15 排出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動型炉床炉の移動床上に、まず、床敷材を積載し、その上に金属含有物、固体還元剤および造滓材を含む混合原料を粉状もしくは塊成化してから装入し、移動床が炉内を移動する間に加熱、還元して還元生成物を生成させ、その後、溶融してスラグ分を分離することにより還元金属を製造する方法において、前記混合原料中に配合する固体還元剤として用いる一部もしくは全部を、結晶間距離Lcが18Å以上の大きさを有する炭材とすることを特徴とする還元金属の製造方法。
【請求項2】
前記炭材は、混合原料中の金属量の2mass%以上に相当する量を混合することを特徴とする請求項1に記載の還元金属の製造方法。
【請求項3】
前記炭材は、黒鉛もしくは石炭、石炭チャー、石油系コークスであることを特徴とする請求項1または2に記載の還元金属の製造方法。
【請求項4】
前記造滓材は、CaO、MgOおよびNaOのうちから選ばれるいずれか1種または2種以上の鉱物性物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の還元金属の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−184682(P2008−184682A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21595(P2007−21595)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】