説明

部位特異的にモノ抱合化されたインスリン分泌性のGLP−1ペプチド

本発明は、酵素による直接的かつ部位特異的なトランスグルタミネーション反応によって生体適合性のポリマー分子にモノ抱合化された、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)およびインスリン分泌性の類似体ペプチド、ならびに2型糖尿病のような代謝異常性の病状における治療に適用するためのこれらの医薬製剤および送達系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素による直接的かつ部位特異的なトランスグルタミネーション反応によって生体適合性のポリマー分子にモノ抱合化された、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)およびインスリン分泌性の類似体ペプチド、ならびに2型糖尿病のような代謝異常性の病状における治療に適用するためのこれらの医薬製剤および送達系に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、数千年前から存在していたことが知られており、現在、世界中で2億人を超える人々を苦しめている疾患である。糖尿病を有する個体の平均余命の減少および生活の質の低下に加えて、この疾患およびこれに関連した合併症は、健康の予算に対する大きな負担となっている。
【0003】
糖尿病のより一般的な型は、遺伝的要素および環境的要素の双方を有し、多因子性で異種起源の障害の群を示す2型糖尿病(すなわち、インスリン非依存性糖尿病)であり、これは、インスリン分泌、インスリン作用、またはその双方における異常の結果として生じ、無制御なまたは高い血糖値をもたらす。
【0004】
先進工業国において、糖尿病を有する個体のうちの約90%は、おそらく食事および身体的な活動レベルの変化の影響を受けて罹患率が過去数十年にわたり劇的に増加している2型糖尿病を有する。
【0005】
2型糖尿病は、通常、45歳を超える過体重の成人において発生する;しかし、(通常、10歳を超える)過体重の小児における2型糖尿病の発生率も急激に増加している。
【0006】
2型糖尿病の管理における現在の療法としては、食事の改善および身体的な運動を通しての生活習慣への介入、ならびに経口または注射による血糖降下剤での治療などが挙げられる;しかし、2型糖尿病を有するすべての個体がこれらの治療に同じように応答するわけではない。
【0007】
食事に対する生理学的な応答の理解が深まったことにより、インクレチンホルモンの発見、および胃腸のホルモン作用の促進に基づいた治療作用を有する新しい作用剤の開発が可能となった[非特許文献1]。
【0008】
これらの療法は、胃内容排出を遅くすること、インスリンの刺激およびグルカゴン分泌の阻害、食後の高血糖の管理の改善、ならびに体重の管理に関連している。
【0009】
インクレチンは、高血糖状態下でインスリン分泌を増強する栄養素によって放出される、消化管由来のホルモンである。ヒトのグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)は、プレプログルカゴン遺伝子に由来して食物摂取後に腸の腸内分泌L細胞から分泌され、グルコース依存的に内因性インスリンの分泌、血中グルカゴンレベルの減少および胃の運動性を遅くすることによる胃内容排出の低下を含む、様々な生理学的な機序を通して強力な血糖降下作用を示す、原型のインクレチンホルモンである。また、GLP−1は、β−細胞塊の増大を導く新しい膵β−細胞の増殖および分化を刺激する[非特許文献2]。
【0010】
循環しているヒトGLP−1の主要な型は、一般にGLP−1(7−36)−アミドとして示される、C末端がアミド化された30アミノ酸残基のペプチドであり(配列番号1)、一般にGLP−1(7−37)として示される、脱アミド化されておらずC末端がグリシンで伸長された31アミノ酸残基の少量の型も、血中で検出可能である(配列番号:2)。双方のペプチドは、同様の生物学的活性を示し、かつ等しい効力を有する。本発明の目的のために、GLP−1ペプチドおよびその類似体は、配列番号1および2で示すように、N末端ヒスチジン残基から始まるペプチド鎖の記数法によって報告する。
【0011】
【表1】

【0012】
GLP−1ペプチドおよび類似体のインスリン分泌性の作用、すなわち、血漿中のグルコースレベルが正常な生理学的な値を超えるときだけのインスリン分泌の刺激により、これらの化合物は2型糖尿病の治療のための可能性のある候補となっている。GLP−1ペプチドは、ランゲルハンス島のβ−細胞内ならびに胃腸管内および心臓、腎臓、肺、脳などの他の組織内で発現される7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体を通してこれらの生物学的効果を発揮する。アラニンスキャニング変異導入法によって行われたGLP−1ペプチドの構造活性相関の研究により、1、4、6、7、9、13、15、22、23および26番目の部位が受容体結合に重要であることが示された[非特許文献3;非特許文献4]。
【0013】
GLP−1類似体の例としては、元来ヒラモンスター(アメリカドクトカゲ(Heloderma suspectum))の毒から単離された2種類の39アミノ酸ペプチドである、エキセンディン−3およびエキセンディン−4などが挙げられ、これらは、GLP−1それ自体と約50%の配列同一性を共有しており、実際にGLP−1受容体のアゴニストである。エキセンディン−4の合成製剤(エクセナチド)は、米国およびヨーロッパの双方で1日2回の皮下注射に基づく2型糖尿病の治療のための補助療法として承認されている[非特許文献5]。
【0014】
都合の悪いことに、GLP−1ペプチドの治療用途は、ポリペプチド鎖からプロリン残基またはアラニン残基以降のN末端ジペプチドを切断するセリン型プロテアーゼである、血漿ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)またはCD26による急激な分解を主な原因とするきわめて短い血漿半減期(例えば、GLP−1−アミドは、静脈内投与後、t1/2<1.5分を有する)によって限定される。天然の循環しているGLP−1ペプチドの生物活性は、実際に、不活性な代謝産物である脱His−Ala−GLP−1ペプチドを生じる、DPP−IVを介したアラニン−2残基におけるN末端の切断によって調節されている。
【0015】
N末端の2番目の部位がGLP−1と異なっているためにDPP−IV耐性を有し、したがって、基本的に糸球体濾過によって排除される、エクセナチドであっても、静脈内注射した場合、血漿中で約30分の半減期を示す。GLP−1ペプチドおよび類似体の急激な不活化および/またはクリアランスは、in vivoでの投与後の天然のGLP−1ペプチドに対して長い作用時間を示す長期作用性で分解耐性のGLP−1受容体アゴニストへの関心を刺激してきた。これらのGLP−1誘導体の例は、科学文献および特許文献の双方において広範囲に報告されている;これらは、とりわけ、以下の手法に従って得ることができる:
【0016】
a)DPP−IV耐性を与える、GLP−1ペプチド鎖における選択的なアミノ酸置換による手法、例えば、血漿安定性およびin vivoでの半減期を有意に増加させると共に、インスリン分泌活性を維持するGLP−1類似体が結果として生じる、N末端の2番目のアミノ酸であるL−アラニンをD−アラニンまたはセリンで置換することによる手法など[非特許文献6;非特許文献7;特許文献1]
【0017】
b)GLP−1およびGLP−1類似体のアミノ酸残基の側鎖に1個または複数の親油性置換基を付加することによる手法。ここで、親油性置換基は、4から40個の炭素原子を含有し、かつアミノ酸に直接にまたはスペーサーを介しての双方にて、化学的に抱合化される。親油性部分で誘導体化されたこれらのGLP−1類似体のうちのいくつかは、天然のGLP−1と比較してin vivoでの作用の遅延性のプロファイルおよび血漿中でのより高い持続性を示した(特許文献2)
【0018】
c)天然に存在するインスリン分泌性のペプチド、例えば、強力なGLP−1受容体アゴニストであることが見出された、元来トカゲの唾液腺から単離された2種類の39アミノ酸のペプチドであるエキセンディン−3およびエキセンディン−4[非特許文献8](またはこれらに相当する合成型のエクセナチド)などを利用することによる手法。2型糖尿病を有する患者における治療有効性も示されたエクセナチドは、GLP−1と約50%の配列同一性を共有している一方、アラニンがグリシン残基によって置換されているN末端の2番目の部位が異なっており、このために生物活性を低下させることなくDPP−IV耐性および比較的より長い半減期を有する。
【0019】
しかし、アミノ酸置換および/または付加を有するヒトペプチドならびに、エクセナチドのような、ヒト以外の由来のペプチドの治療投与は、例えば、30週間のエクセナチド治療により40%を超える患者において抗エクセナチド抗体の生成が誘発されたことを示している臨床試験[非特許文献9]において報告されているように、患者において薬剤有効性を低下させ得るまたは有害事象を誘発し得る、望ましくない免疫応答を引き起こすこともある。
【0020】
d)GLP−1ペプチドをポリ(エチレングリコール)(PEG)に化学的に抱合化して、タンパク質分解耐性の増加および、場合によっては、糸球体濾過の減少による長い生物学的寿命を有する誘導体を得る手法。部位特異的にモノペグ化されたGLP−1ペプチドは、pH4.5で行われる、N末端のHis1残基のα−アミノ基上でのプロピオンアルデヒド官能化されたモノメトキシ−PEG(m−PEG)での選択的な化学的ペグ化によって調製することができる;しかし、結果として生じるモノペグ化されたGLP−1は、DPP−IV分解に耐性であるが、in vitroで生物活性をほとんど有さないことが示された[非特許文献10]。
【0021】
ペプチダーゼ分解に対する耐性とインスリン分泌活性との間の好適な平衡は、リシンのε−アミノ基の無水マレイン酸保護、Lys20およびLys28が保護されたGLP−1異性体のクロマトグラフィー分離、遊離のリシンのε−アミノ基の反応によって各異性体上に独立に行われるプロピオン酸サクシニミジルで官能化された2kDaのm−PEGでの化学的ペグ化、その後の保護しているマレイン基の除去を含む多工程の化学合成によって調製された、Lys20残基上にモノペグ化されたGLP−1−アミドについてならびにLys28上にモノペグ化されたGLP−1−アミドについて示されている[非特許文献11]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】Buckley DIら、米国特許第5545618号明細書
【特許文献2】Knudsen Lら、EP0944648
【特許文献3】米国特許第4179337号明細書
【特許文献4】Veroneseら、国際公開第2005099769号パンフレット
【特許文献5】Kinstler OBら、米国特許第5985265号明細書
【特許文献6】Fuchsbauer Hら、EP1068301
【特許文献7】Takahara Y、EP785276
【特許文献8】Takahara Yら、米国特許第6010871号明細書
【特許文献9】Johansen Lら、国際公開第070468号パンフレット
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Drucker DJ、2001
【非特許文献2】Holst JJ、2007
【非特許文献3】Adelhorst K,ら、1994
【非特許文献4】Gallwitz Bら、1994
【非特許文献5】Davidson MBら、2005
【非特許文献6】Uckaya Gら、2005
【非特許文献7】Ritzel Uら、1998
【非特許文献8】Eng Jら、1992
【非特許文献9】Schnabel CAら、2006
【非特許文献10】Lee SHら 2005
【非特許文献11】Youn YSら、2007
【非特許文献12】Knudsen LBら、2000
【非特許文献13】Bloom M.ら、2003
【非特許文献14】Choi Aら、2004
【非特許文献15】Greenwald RBら、2003
【非特許文献16】Parveen SおよびSahoo SK、2006
【非特許文献17】Davis FFら
【非特許文献18】Nucci MLら、1991
【非特許文献19】Delgado Cら、1992
【非特許文献20】Zalipski S、1995
【非特許文献21】Roberts MJら、2002
【非特許文献22】Kinstler OBら、1996
【非特許文献23】Esposito CおよびCaputo I、2004
【非特許文献24】Ando Hら、1989
【非特許文献25】Kobayashi Kら、1996
【非特許文献26】Kobayashi Kら、1998
【非特許文献27】Yokoyama Kら、2000
【非特許文献28】Ohtsuka Tら、2000
【非特許文献29】Cousson PJら、1992
【非特許文献30】Pastor MTら、1999
【非特許文献31】Fontana Aら、2008
【非特許文献32】Sato Hら、2000
【非特許文献33】Sato H、2002
【非特許文献34】Thornton KおよびGorenstein DG、1994
【発明の概要】
【0024】
本発明は、酵素による直接的かつ部位特異的なトランスグルタミネーション反応によって生体適合性のポリマー分子にモノ抱合化された、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)およびインスリン分泌性の類似体ペプチド、ならびに2型糖尿病のような代謝異常性の病状における治療に適用するためのこれらの医薬製剤および送達系に関する。
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
これらの分解耐性のGLP−1類似体はGLP−1ペプチドの半減期を数分から数時間まで延長するが、糖尿病の治療のためのこれらの治療適用には依然として1日1回または2回の注射が必要とされるため、より長い循環半減期を示しかつより少ない回数の非経口投与を必要とする長期作用剤を開発する必要性が残されている。これらの手法の例は、当技術分野において知られており、とりわけ、以下の手法などが挙げられる:
a)ヒトのGLP−1またはその類似体のアシル化された誘導体、例えば、その中のアシル部分がin vivoで血清アルブミン結合を促進し、効力の減少なく約13〜15時間まで半減期を延長する、リラグルチド、すなわち、{Arg28−Lys20−N−[ε−(γ−Glu{N−α−ヘキサデカノイル})]−GLP−1}[非特許文献12]。
【0026】
b)ヒトアルブミンなどの、大きな血漿タンパク質に組換えDNA技術を通して共有結合で結合されて、例えば、サルにおいて3日の半減期を示すGLP−1−アルブミン融合タンパク質、すなわち、アルブゴンが得られる、DPP−IV耐性のGLP−1ペプチド[非特許文献13]
c)持続したかつ制御された放出速度でGLP−1を送達するための徐放性製剤として働く生分解性ポリマー中へのGLP−1ペプチドの包括によって[非特許文献14]。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明において、本発明者らは、酵素による直接的な部位特異的トランスグルタミネーション反応によって生体適合性ポリマーにモノ抱合化されたGLP−1ペプチドおよびGLP−1ペプチド類似体ならびに2型糖尿病における治療に適用するのに有用なこれらの医薬製剤および送達系の調製を通して、持続性のインスリン分泌性ペプチドの問題に対処している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】GLP−1−アミド(◆);Q17N−A24Q−GLP−1−アミド( )ならびに対応する20kDaのモノペグ化されたGLP−1−アミド(▽黒塗)およびQ17N−A24Q−GLP−1−アミド(◇)の誘導体のin vitroでのDPP−IV分解プロファイル。
【図2】2型糖尿病db/dbマウスにおける20kDa(△)および30kDa(△黒塗)のQ17をモノペグ化されたGLP−1−アミドおよびエクセナチド(□)の腹腔内投与(時間−30分、100μ/kg)ならびにグルコースの経口投与(時間0分;1.5g/kg)の後のグルコース安定化プロファイル
【図3】リン酸緩衝液中37℃でインキュベートした、22%のポロキサマー407を含有する熱可逆性のゲル製剤からの20kDaのモノペグ化されたGLP−1−アミドのin vitroでの放出
【図4】天然のGLP−1−アミド(パネルA)、M−Tgaseによって触媒された、20kDaのm−PEG−アミノでのGLP−1−アミドの直接的なペグ化の室温で16時間後の反応混合物(パネルB)およびイオン交換カラムクロマトグラフィーによって精製されたGLP−1−アミド−Q17−PEG 20kDa(パネルC)のRP−HPLC分析
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、天然のペプチドに対して、治療に有用な生物活性の維持、ペプチダーゼの分解に対する耐性およびより長い循環半減期を特徴とする、例えば、GLP−1ペプチドのような、ポリマーに抱合化されたインクレチン模倣ペプチド、ならびにこれらの類似体および誘導体に関する。これらの新しい化合物は、GLP−1ペプチドのようなインクレチン模倣ペプチド上に天然に存在するグルタミン残基上、または他の天然に存在する残基置換においてGLP−1ペプチド鎖に導入されたグルタミン残基上もしくはGLP−1のペプチド鎖に付加されたグルタミン残基上の双方での、トランスグルタミナーゼ(Tgase)に触媒される直接的な反応を通した、生体適合性ポリマーへの部位特異的なモノ抱合化によって得られる。
【0030】
本発明の目的では、インクレチン模倣ペプチドという用語は、グルコース依存的なインスリン分泌ならびに、例えば、食事に伴うグルカゴン放出の阻害、胃内容排出の速度を遅くすることおよび満腹の促進などの関連する血糖降下作用を増強することによって、天然に存在するインクレチンホルモンGLP−1の作用を模倣する化合物を意味する。
【0031】
高分子量の生体適合性親水性ポリマーへのペプチドまたはタンパク質分子の抱合化は、例えば受容体の認識能のような、当初の抱合化されていない分子の生物学的機能を大部分は維持しながら、結果として生じる抱合化された複合体の物理化学的性質を変えることはよく知られている。同時に、タンパク質およびペプチドの、ポリマー部分との抱合化は、タンパク質と特異的および非特異的の双方のタンパク質分解酵素との間の物理的な接触を妨げて酵素によるタンパク質分解を阻止または低減し得る。治療用タンパク質の抱合化に使用されてきたよく知られているポリマー部分は、約2kDaから60kDaの間の分子量を有する直鎖状または分枝状のポリ(エチレングリコール)(PEG)鎖である。タンパク質分子内の1個または複数の残基へのこうしたポリマーの共有結合による抱合化は、抱合化された複合体のいくつかの機能的な側面を変え、例としては、みかけ上の分子の大きさの増大のための腎クリアランス、酵素分解に対する安定性ならびにタンパク質表面上の免疫原性エピトープのマスキングによる免疫原性の低下などが挙げられる。ポリ(エチレングリコール)−抱合化された(ペグ化された)治療用タンパク質を開発することへの関心が高まっている。その理由は、これらの向上した安定性およびペグ化されていないこれらの対応物よりも少ない投与回数を可能にしているより好適なこれらの薬物動態プロファイルのためである[非特許文献15]。
【0032】
ペグ化された誘導体として市販されている治療用タンパク質の例としては、とりわけ、C型肝炎ウイルスに感染している患者の治療に使用される、PEG−インターフェロン−アルファ、骨髄中での顆粒球の産生および分化を刺激する、PEG−フィルグラスチム(PEG−顆粒球−コロニー刺激因子)、および、先端巨大症の治療に必要とされるペグ化されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストである、ペグビソマントがある[非特許文献16]。
【0033】
以下の基本的な参考文献によって例証されるように、タンパク質およびペプチドのPEGとの化学的抱合化の方法は、当技術分野で知られている:非特許文献17、特許文献3;特許文献4;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21。
【0034】
ペグ化された治療用タンパク質は、理想的には、他のあらゆる薬剤と同様に、構造的特徴および機能的特徴が十分に確定された均質な製品でなければならない。しかし、タンパク質の化学的ペグ化は、求核性残基(最も一般的には、表面のリシン残基のε−アミノ基または側鎖のカルボキシル基)との非特異的な反応に基づいており、異なる程度の抱合化および/またはペグ化された位置異性体の混合物を生じさせ、これらのそれぞれが生物活性および副作用の出現などの臨床適用に重要な特徴にばらつきを生じさせ得る。
【0035】
場合によっては、G−CSFの持続型として市販される、N末端をモノ抱合化されたPEG−フィルグラスチムを製造するのに適用されるように[非特許文献22]、酸性のpHで、N末端残基のアルファ−アミノ基の、アルデヒド官能化されたモノメトキシ−PEG(m−PEG)鎖との優先的な反応性を利用し、次いで、還元性のアルキル化を行うことによって、本質的に部位特異的にモノペグ化されたタンパク質を調製することが可能である[特許文献5]。
【0036】
都合の悪いことに、N末端のヒスチジン残基が受容体の結合および活性化に関与しているという事実のために、N末端に選択的な上記の化学的ペグ化をGLP−1ペプチドに適用すると、部位特異的にモノペグ化された生物活性のない誘導体が得られる;一方、Lys20残基上またはLys28上のいずれかにモノペグ化された生物活性のある誘導体を得るためのGLP−1−ペプチドの2個のリシン残基のうちの1個の選択的な化学ペグ化は、リシンのε−アミノ基の化学的保護、Lys20およびLys28が保護されたGLP−1異性体のクロマトグラフィー分離、各異性体の従来の独立な化学的ペグ化、その後に続く未反応のリシン残基からの保護基の除去を必要とする、低収率で複雑な多工程の方法を通してのみ可能であった[非特許文献11]。
【0037】
上記に報告した化学的手法の制限を克服して生体適合性ポリマーに部位特異的にモノ抱合化されたGLP−1ペプチドならびにGLP−1の類似体および誘導体を調製するために有望な方法は、第一級アミノ基で官能化された生体適合性ポリマーとGLP−1様ペプチドに含有される単一グルタミン残基との間の、トランスグルタミナーゼに触媒される選択的な抱合化の適用を利用することである。
【0038】
トランスグルタミナーゼ(E.C.2.3.2.13;タンパク質−グルタミン γ−グルタミルトランスフェラーゼ;Tgase)は、以下の反応機構に従って、タンパク質を結合したグルタミン残基のγ−カルボキシアミド基と、リシン残基のε−アミノ基または多様な第一級アミン、特に直鎖アルキルアミン、との間のアシル転移反応を触媒する、真核性由来および原核生物由来の双方の酵素である:
タンパク質−CONH2+R−NH2→タンパク質−CONHR+NH3
式中、−CONH2は、アシル供与体として作用する、タンパク質を結合したグルタミン残基のγ−カルボキサミド基であり、かつR−NH2はアシル受容体として作用する多様な第一級アミン(タンパク質鎖中のリシン残基のε−アミノ基を含む)を表す。現在知られている真核生物のトランスグルタミナーゼとしては、とりわけ、血液凝固因子XIIIa、ケラチノサイトTgase(1型Tgase)および遍在性の組織型Tgase(2型Tgase)などが挙げられる。多様な真核生物のTgaseは、いくつかのサブユニットからなりかつ高度な配列類似性および機能特性の双方を共有している1種のファミリーのアイソザイムに属し、約75〜90kDaの分子量および同様なCa2+依存的な触媒の作用機序を有する[非特許文献23]。
【0039】
より最近では、原核生物のトランスグルタミナーゼが、ストレプトマイセス属(Streptomyces)およびバシラス属(Bacillus)の株、ならびに他の多様な微生物で発見され[非特許文献24;非特許文献25]、さらにクローニングされて、組換えタンパク質として発現された[非特許文献26;非特許文献27;特許文献6]。真核生物のTgaseに対して、微生物のTgase(M−Tgase)は、約38〜40kDaの分子量およびCa2+非依存性の触媒活性を有する単量体の酵素である。
【0040】
哺乳動物および微生物のTgaseはいずれも、アシル供与体部分に相当するタンパク質のグルタミン残基の側鎖上に特異的な選択性で作用するが、アシル受容体部分に相当する第一級アミノ基に対しては、選択性がきわめて低いまたはないことが示された。実際に、双方のTgaseは、タンパク質鎖上のリシン残基のε−アミノ基のみと反応するわけではなく、第一級アミノ基を有する化合物または脂肪族アルキルアミンとも反応し、少なくとも4個の炭素原子の直鎖上の第一級脂肪族アミンと好ましくは反応する[非特許文献28]。
【0041】
また、Tgaseに触媒される反応におけるグルタミン特異性の根拠は依然として不明であるが、標的グルタミンの周囲の微小環境が、Tgase基質として作用するその能力に影響を及ぼし得ることが示されている;例えば、グルタミン残基の前または後の正の電荷をもつ側鎖または立体配置的に煩雑な側鎖は、酵素部分上での認識に正の影響を及ぼし得ることが報告されている[非特許文献29;非特許文献28]:一方、正の電荷をもつ2個の残基または2個のプロリン残基の双方の隣接するグルタミン残基を有するタンパク質配列は、Tgaseとの適切な相互作用を阻止する[非特許文献30]。
【0042】
Tgaseに触媒される反応によって修飾されるグルタミン残基の周囲に特異的なコンセンサス部位は同定されていないが、一般に、哺乳動物および微生物の双方のTgaseは、溶媒が近づきやすく、柔軟性があり、かつ局所的に折りたたまれていない、そのグルタミン残基を包含するタンパク質鎖の領域に位置するグルタミン残基を基質として認識することができると考えられている[非特許文献31]。
【0043】
これらの特徴に基づいて、原核生物および真核生物の双方のTgaseに触媒される反応は、アミノ酸配列中に少なくとも1個のグルタミン残基(ここで、グルタミンは、タンパク質鎖中に天然に存在していても、または部位特異的な変異生成によって挿入されていてもいずれであってもよい)を有するペプチドおよびタンパク質にポリマー鎖を共有結合で結合させるためのトランスグルタミナーゼの使用を記載している、特許文献[例えば、特許文献7;特許文献8を参照されたい]および科学論文[非特許文献32;非特許文献33]において報告されているように、アルキルアミノ官能化されたm−PEG鎖などのアミノ官能化された分子のタンパク質への部位選択的な組込みに適用されている。
【0044】
また、上記の開示された例によると、Tgaseに触媒されるこれらの抱合化反応は、グルタミン含有タンパク質基質に対して著しく過剰な、第一級アミノ基官能化されたm−PEG基質の存在下(これは、約100〜1000倍モル過剰に存在した)で行われた。酵素による抱合化の過程を工業規模で実施しなければならない場合、特に、例えば、そうした高い濃度で処理するのが高価かつ困難の双方である20〜60kDaのアルキルアミノ−m−PEGを用いる場合のように、高分子量のアミノ官能化されたポリマーを用いる場合には、これらの条件は、明らかな経済的かつ技術的な欠点を示す。
【0045】
Tgaseに触媒されるGLP−1−ペプチドのペグ化に関する限りでは、最近の特許出願[特許文献9]にこれらの制限を克服するための2工程の方法が教示されている:第1の工程では、官能化された化学的な小部分を、哺乳動物および微生物の双方のTgaseの作用によってGLP−1−ペプチドの単一グルタミン残基上に転移させ、次いで、結果として生じる中間体である官能化されたグルタミンを、Tgaseの触媒作用によって先に導入された官能基と反応し得る反応基を有するm−PEG鎖と化学的に抱合化する。第1の工程は低分子量の化合物に関与するので、酵素によるトランスグルタミナーゼ反応におけるその大過剰での使用は容易に扱うことができる。
【0046】
本発明者らは、現在、驚くべきことに、単一グルタミン残基を有するGLP−1ペプチドおよびインスリン分泌性のGLP−1の類似体および誘導体をアルキルアミノ官能化されたポリマーに高収率で直接に抱合化することができることを見出しており、これは本発明の主な目的を表している;「直接に」という用語は、本明細書中で、その共有結合が、GLP−1ペプチドとアルキルアミノ官能化されたポリマーとの間で、介在するリンカーも必要とすることなく、「直接に」生じることを示すために使用する。好ましくは、これらのアルキルアミンは、2から50kDaまで、好ましくは5から40kDaまで、より好ましくは10から30kDaまで、さらにより好ましくは15から25kDaまでの分子量の直鎖状または分枝状のm−PEGであってもよい;好ましい実施形態では、m−PEGは、約20kDaの分子量を有する。
【0047】
こうしたポリマーは、アルキルアミノ官能化されたポリマーとGLP−1様ペプチドのモル比が1:1から1:100の間、好ましくは1:5から1:35の間、より好ましくは1:15から1:25の間からなる、トランスグルタミナーゼ、好ましくは微生物のトランスグルタミナーゼ(M−Tgase)によって触媒される直接的な酵素反応によって抱合化される;最も好ましい実施形態によれば、このモル比は約1:20である。さらに驚くべきことに、かつ特許文献9の教示に反して、本発明者らは、GLP−1様ペプチドまたはエクセナチドの基質の単一グルタミン残基上のアミノ官能化されたポリマーの転移を触媒するために、モルモット−肝Tgaseのような、哺乳動物のトランスグルタミナーゼを使用した場合には酵素によるGLP−1誘導体の抱合化を達成できないのに対して、M−Tgaseだけがm−PEG−アミンとGLP−1ペプチドまたはインスリン分泌性のGLP−1類似体との間の直接的な抱合化反応を触媒できることを見出した
酵素による直接的な、GLP−1−アミドおよびエクセナチドのモノペグ化のいくつかの実験的研究の結果を表1および表2にまとめる。
【0048】
【表2−1】

【0049】
【表2−2】

【0050】
【表3】

【0051】
したがって、本発明の主な目的は、天然のインクレチンホルモンの生物活性と同様なin vivoでの生物活性を示すことができるという点でインクレチン模倣体として作用するモノ抱合化された誘導体を得るための、GLP−1−ペプチド中およびインスリン分泌性のGLP−1類似体中に含まれる単一グルタミン残基と、例えば2から60kDaまでの分子量の直鎖状または分枝状のアルキルアミノm−PEGのような、アミノ官能化された生体適合性ポリマーとの間の、M−Tgaseに触媒される直接的な反応の方法を提供することである。
【0052】
本発明のもう1つの実施形態は、天然にはGLP−1−アミドもしくはC末端がグリシンで伸長されたGLP−1の17番目の部位に存在する単一グルタミン残基上または天然にはエクセナチドの13番目の部位に存在する単一グルタミン残基上の、M−Tgaseで触媒される直接的な生体適合性ポリマーとの反応によってモノ抱合化されたGLP−1ペプチドによって表される。
【0053】
GLP−1ペプチドおよびインスリン分泌性の類似体ペプチドは水溶液中で定まった構造を有さない[非特許文献34]という事実を、溶媒が近づきやすく、柔軟性があり、かつ局所的に折りたたまれていないタンパク質鎖の領域に位置するグルタミン残基を基質として認識すると報告されているTgaseの能力[非特許文献31]と組み合わせると、Q17N−GLP−1−ペプチドおよびQ17N−GLP−1類似体のペプチド鎖に導入されるグルタミン残基はM−Tgaseに触媒される直接的な生体適合性ポリマーとのモノ抱合化反応の代替の基質を提供するであろうと予想されることもあり得る。しかし、予想外なことに、グルタミンを含有しているこれらのQ17N−GLP−1バリアントのうちのいくつか、例えば、2、5、8、11、12および24番目の部位に単一グルタミン置換を有する誘導体などを、M−Tgaseの存在下で、アミノ官能化されたm−PEGと反応させた場合に、驚くべきことに、例えば表3に報告するように、A24Q/Q17N−GLP−1以外のすべての変異体はM−Tgaseの基質ではなく、かつ結果として、24番目の部位にある単一グルタミン残基上でモノペグ化されたA24Q/Q17N−GLP−1を除き、これらからは期待されたモノペグ化された誘導体は得られないことが見出された。
【0054】
【表4】

【0055】
本発明のもう1つの実施形態は、以下の双方である任意の残基の置換において導入された単一グルタミン残基上での、M−Tgaseに触媒される生体適合性ポリマーとの直接的な反応によって得られる、モノ抱合化されたQ17N−GLP−1−アミドおよびインスリン分泌性のQ17N−GLP−1−ペプチド類似体によって表される:
a) GLP−1−ペプチドの受容体結合に関与しない、すなわち、受容体結合に重要な1、4、6、7、9、13、15、22、23および26番目の部位にあるもの[非特許文献3:非特許文献4]以外の任意の残基
b) グルタミン置換を、M−Tgaseに触媒される直接的なトランスグルタミナーゼ反応においてそれがアシル供与体として作用することが可能な部位に有する。
【0056】
M−Tgaseに触媒される部位特異的で直接的なモノペグ化反応の基質として本発明に従って使用されるGLP−1ペプチドならびにGLP−1ペプチドの類似体および誘導体は、当技術分野でよく知られている従来の化学的な方法によって、例えば、以前に開示されているような固相ペプチド合成によってまたはペプチド断片の縮合反応によって(例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Merrifield B、1986およびKaiser ET、1989を参照されたい)調製することができる。
【0057】
あるいは、グルタミン置換を、受容体結合に関与せず、かつそれらがM−Tgaseアシル供与体基質として作用することが可能な部位にある、任意の残基に有するQ17N−GLP−1類似体を含む、本発明に従って使用されるGLP−1ペプチドならびにGLP−1ペプチドの類似体および誘導体は、当技術分野でよく知られており、かつ以前に開示されている方法(例えば、参照により本明細書に組み込まれているSambrock Jら、1989を参照されたい)に従って組換えDNA技術によって調製することもできる。
【0058】
本発明の直接的な酵素反応は、GLP−1ペプチドまたはGLP−1ペプチドの類似体および誘導体を4から9の間、より好ましくは5から8の間のpHの適切な水性緩衝液に50〜1000μMの間、より好ましくは100μMから500μMの間の濃度で溶解すること、および50倍未満、好ましくは25倍未満モル過剰の直鎖状または分枝状で2から60kDaの間の分子量のアルキルアミノm−PEGおよび0.1から2U/ml、より好ましくは0.2から1U/mlのM−Tgaseを添加すること、ならびに反応混合物を10から50℃の間、より好ましくは15から30℃の間の温度で10時間以上放置することによって行う。M−Tgaseは、例えば、味の素から市販されているActiva WMの標品または同等の活性を有する、天然または組換えの微生物に由来する任意のM−Tgaseの標品であってもよい。M−Tgaseに触媒される反応の動態を、他のあらゆる酵素反応の動態と同様に、温度によってかつ酵素の量によって調節できることはよく知られており、かつ結果として、触媒活性の維持と適合可能な都合のよい任意の組合せの酵素濃度および温度を選択することによって、上記で説明した反応の反応時間を短縮することができる。部位特異的にモノペグ化された本発明のGLP−1類似体は、塩析、透析、限外濾過、等電沈殿、カラムクロマトグラフィーのような従来の方法、例えば実験の節に、記載されている当技術分野において周知な方法に従って精製した。上記に報告したように、Tgaseに触媒される、GLP−1類似体とアミノ官能化されたm−PEGとの間の反応を、哺乳動物のTgaseの製剤の存在下で行った場合には、表1および表2に示すように、ペグ化は達成されなかった。
【0059】
部位特異的にモノペグ化されたGLP−1−ペプチドおよび類似体は、in vitroで37℃で試験されたDPP−IVによる酵素分解に対して、修飾されていないペプチドと比較して、向上した耐性を示した。特に、表4に示すように、N末端ジペプチドの切断によってGLP−1−アミドが37℃で8時間後に完全に不活化されたのに対し、モノペグ化されたその誘導体は24時間のインキュベート後でさえも依然として約70パーセントの活性な構造を維持しており、表4および図1に示すように、より大きな分子量のPEG鎖に抱合化されたGLP−1−アミドはDPP−IV切断に対してより耐性であった。
【0060】
表4および図1に示すように、Q17N/A24Q−GLP−1変異体のモノペグ化された誘導体は、in vitroでのDPP−IV分解に対する同様な耐性を示した。
【0061】
【表5】

【0062】
以下の実験的パラメータを考慮に入れながら、糖尿病マウスにおいて行われた経口グルコース負荷試験で試験したように、モノペグ化されたGLP−1−ペプチド誘導体のin vivoでの生物活性を、グルコースを安定化する全体的な能力の観点から評価した:最高血糖値(mg/dlでのGlumax);血糖値が100(±5)mg/dl(Tglu<100mg/dl))未満に低下するまでの時間および総合的な血糖降下程度の対照生理食塩水に対するパーセント表示(HD%対照=AUC生理食塩水(0-180)−AUC試験(0-180)/AUC生理食塩水(0-180)×100)。これらの結果を表5および図2に示している。
【0063】
【表6】

【0064】
グルコース投与の最初の180分後について算出したグルコースに関連したパラメータは、双方のGLP−1−PEG製品、特にGLP−1−PEG30kDaが、おそらく、同等のDPP−IV耐性のために、エクセナチドの活性と同様な活性を有することを示している。
【0065】
20kDaおよび30kDaのモノペグ化されたGLP−1−アミドによって示される、経口グルコース負荷後8時間までのグルコースを安定化する活性は、おそらく、タンパク質分解安定性の増大およびクリアランスの低下と、エクセナチドによって示されるものと同等のまたはそれよりよい最終的な生物学的有効性との組合せによるものである。
【0066】
本発明のさらなる目的は、本発明に記載の、ペグ化されていないペプチドに対して増大されたタンパク質分解安定性および/またはより長い循環半減期を特徴とし、かつ、したがって、1日1回から週3回までの投与に基づいて2型糖尿病患者の高血糖を低下させるのに適切な、インクレチン模倣特性を有するGLP−1様ペプチドの部位特異的にモノ抱合化された誘導体の投与のための薬学的に許容される製剤を提供することである。
【0067】
これらの製剤中に、モノペグ化されたGLP−1類似体は、0.1から50mg/mlの濃度で存在し、このとき、前記製剤は、5から9まで、より好ましくは7から8までのpHを有する。これらの製剤は、当技術分野において知られている等張化剤およびキレート化剤ならびに保存剤、安定剤および界面活性剤の添加の有無にかかわらず、緩衝系をさらに含有していてもよい。本発明の一実施形態において、こうした製剤は水溶液および/または水性懸濁剤であるのに対し、さらなる実施形態では、これらは任意の許容される方法、好ましくは凍結乾燥(liophylization)によって得られる粉末状の製剤である。
【0068】
本発明のさらなる目的は、生分解性ポリマー中または当技術分野において知られているタンパク質およびペプチドの送達のための任意のポリマー組成物中に組み込むことを通して、モノペグ化されたインスリン分泌性のGLP−1ペプチドの制御されかつ持続した放出を可能にする、週1回から月2回までの投与に基づいて2型糖尿病患者の高血糖を低下させるのに適切な、本発明に記載のインクレチン模倣特性を有するGLP−1様ペプチドの部位特異的にモノ抱合化された誘導体を治療に適用するための送達オプションを提供することである。本発明に記載のGLP−1様ペプチドの部位特異的にモノ抱合化された誘導体の長期送達のための系としては、とりわけ、以下の基本的な参照文献によって例証されるような、当技術分野において知られている有機または無機のポリマーのナノ粒子およびマイクロ粒子、リポソームおよびリポソーム様小胞、脂質ナノ粒子、ヒドロゲルを主成分とするマイクロ粒子、温度応答性ポリマーおよびpH応答性ポリマーならびにマイクロエマルションなどを含む:参照により本明細書に組み込まれる、Kohane DS、2007;Lee KYおよびYuk SH、2007;Singh Sら、2007;Jorgensen Lら、2006;Schmaljohann D、2006;Muller RHおよびKeck CM、2004;Shina VRおよびTrehan A、2003。
【0069】
本発明に例として記載している、インクレチン模倣特性を有するモノペグ化されたGLP−1様ペプチドの徐放性製剤は、pH4の酢酸緩衝液に4℃で溶解したポロキサマー407中の活性成分を組み込むことによって調製することができる。1mlの製剤化されたゲルを1mlの酢酸緩衝液0.2M pH4.0と共に37℃でインキュベートすることによって検討した、0.3mg/mlのGLP−1−アミド Q17−PEG 20kDAを含有する22%w/wのポロキサマー407溶液からのin vitroでの放出の動態を図3に示している。ポロキサマーに基づく製剤は、18℃より高い温度でゲル相に転移することができるので、モノペグ化されたGLP−1−ペプチドの循環における緩徐な放出へと続く皮下注射直後のin situでのゲル化のための適切な系を代表するものである。
【0070】
本発明のよりよい理解のために、以下の定義を示す。
【0071】
本発明の使用に従ったGLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)およびGLP−1類似体という用語は、30アミノ酸のC末端がアミド化されたGLP−1(配列番号1)、31アミノ酸のC末端がグリシンで伸長されたGLP−1(配列番号2)および1個または複数のアミノ酸残基の欠失、付加または置換を有するこれらの生物活性のある型ならびに配列番号2の31アミノ酸のC末端がグリシンで伸長されたヒトGLP−1に関して少なくとも40%の配列同一性を有する合成または天然のインスリン分泌性ペプチドを意味する。
【0072】
特に、GLP−1−ペプチド類似体について本明細書中で使用される場合、生物活性のある型という用語は、in vivoで投与したときに、グルコースによって誘発されるインスリン分泌を増強することができるという点で、それらの製品がインクレチン模倣体として働くことを意味する。
【0073】
本発明の使用に従ったQ17N−GLP−1類似体(ここで、QおよびNはそれぞれ、グルタミンおよびアスパラギンの1文字コード表記である)という用語は、ペプチド鎖の17番目の部位にアスパラギン残基を、かつ他の部位に1個の単一グルタミン残基を含有している、GLP−1−アミドまたはC末端がグリシンで伸長されたGLP−1を意味する。
【0074】
以下に、本発明の適用の分野を限定することなく、本発明の実例を提供する目的で、いくつかの実験的な実施例を示す。
【0075】
本発明の使用に従ったナノ粒子およびマイクロ粒子という用語は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Kohane DS(2007)、Lee KYおよびYuknSH(2007)、Muller RHおよびKeck CM(2004)ならびにShina VRおよびTrehan A(2003)によって記載されているように、活性成分の制御された放出を達成するために薬剤を入れた、10ナノメートルから100マイクロメートルまでの範囲に及ぶ寸法を有する無機および有機のあらゆるポリマー物質を意味する。
【0076】
本発明の使用に従った温度応答性ポリマーという用語は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Singh Sら(2007)、Schmalijohann D(2006)によって記載されているように、in situデポ型薬剤送達系を形成するために、そのゾルからゲルへの転移が温度の上昇によって開始されるあらゆるポリマー物質を意味する。
【実施例1】
【0077】
微生物のTgaseによって触媒される、m−PEG−アミノ 20kDaでの直接的なGLP−1ペプチドの部位特異的なモノペグ化
GLP−1ペプチドを、10mM、pH8.0のクエン酸二水素ナトリウム溶液に、約150μMの濃度に相当する、0.5mgペプチド/mlの濃度で溶解する。次いで、このペプチド溶液に20kDaのm−PEG−アミン(メトキシポリエチレングリコールアミン20000、Iris Biotech)を添加して、20:1のPEG:GLP−1モル比を達成する。次いで、この反応混合物に、微生物のトランスグルタミナーゼ(Activa WM、味の素)を、0.25U/mlの最終濃度まで、添加する。撹拌下、室温で16時間反応させる。
【0078】
反応終了後、溶液を20mM、pH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液中に希釈し、イオン交換カラムクロマトグラフィー(Macrocap Sp)によってNaClの直線勾配(10カラム量にて0から50mMまで)で溶出しながら精製する。モノペグ化されたGLP−1を含んでいる画分プールを濃縮し、脱塩して、凍結乾燥(liophylize)する。酵素によって触媒された直接的なGLP−1ペプチドのモノペグ化の収率は、約60%である。
【0079】
0および16時間の時点で回収した反応混合物、ならびに精製したGLP−1−アミド−Q17−PEG 20kDaの一定分量のRP−HPLCを図4に報告している。
【実施例2】
【0080】
モルモットのTgaseによって触媒される、m−PEG−アミノ 20kDaでの直接的なGLP−1−アミドの部位特異的なモノペグ化の試行。
【0081】
GLP−1−アミドを、50mM、pH7.5のトリス溶液に、約150μMの濃度に相当する、0.5mgペプチド/mlの濃度で溶解する。
【0082】
次いで、このタンパク質溶液に20kDaのm−PEG−アミン(メトキシポリエチレングリコールアミン20000、Fluka)を添加して、500:1のPEG:G−LP−1モル比を達成する。
【0083】
次いで、この反応混合物に、0.3U/mlのモルモットのトランスグルタミナーゼ(Sigma)および10mMのCaCl2を添加し、この混合物を撹拌下、室温で16時間維持する。出発および最終の反応混合物について実施したRP−HPLCは、未反応のGLP−1−アミドの存在を示しただけでペグ化された誘導体の痕跡はなかった。
【実施例3】
【0084】
微生物のTgaseによって触媒される、m−PEG−アミノ 20kDaでの直接的なS12Q/Q17N GLP−1−アミドの部位特異的なモノペグ化の試行
S12Q/Q17N−GLP−1−アミドを、10mM、pH8.0のクエン酸二水素ナトリウム溶液に、約150μMの濃度に相当する、0.5mgペプチド/mlの濃度で溶解する。
【0085】
次いで、このペプチド溶液に20kDaのm−PEG−アミン(メトキシポリエチレングリコールアミン20000、Iris Biotech)を添加して、20:1のPEG:GLP−1モル比を達成する。次いで、この反応混合物に、微生物のトランスグルタミナーゼ(Activa WM、味の素)を、0.25U/mlの最終濃度まで、添加する。撹拌下、室温で16時間反応させる。出発および最終の反応混合物について実施したRP−HPLCは、未反応のS12Q/Q17N−GLP−1−アミドの存在を示しただけでペグ化された誘導体の痕跡はなかった。
【実施例4】
【0086】
微生物のTgaseによって触媒される、m−PEG−アミノ 20kDaでの直接的なQ17N/A24Q−GLP−1−アミドの部位特異的なモノペグ化
Q17N/A24Q−GLP−1−アミドを、10mM、pH8.0のクエン酸二水素ナトリウム溶液に、約150μMの濃度に相当する、0.5mgペプチド/mlの濃度で溶解する。
【0087】
次いで、このペプチド溶液に20kDaのm−PEG−アミン(メトキシポリエチレングリコールアミン20000、Iris Biotech)を添加して、20:1のPEG:GLP−1−ペプチドモル比を達成する。次いで、この反応混合物に、微生物のトランスグルタミナーゼ(Activa WM、味の素)を、0.25U/mlの最終濃度まで、添加する。撹拌下、室温で16時間反応させる。
【0088】
反応終了後、溶液を20mM、pH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液中に希釈し、カラムクロマトグラフィー(Macrocap Sp)によってNaClの直線勾配(10カラム量にて0から500mMまで)で溶出しながら精製する。モノペグ化されたGLP−1変異体を含んでいる画分プールを濃縮し、脱塩して、凍結乾燥(liophylize)する。ペグ化反応の程度ならびに最終のモノペグ化されたGLP−1ペプチド変異体の純度を、RP−HPLCによって確認する。酵素によって触媒された直接的なGLP−1変異体のモノペグ化の収率は、約60%である。
【実施例5】
【0089】
DPP−IVの消化に対するGLP−1−PEG誘導体のin vitroでの安定性の決定
リン酸緩衝食塩水中、(ペプチド含有量を等しいものとして計算した)0.1mg/mlの濃度のGLP−1−アミド、モノペグ化されたGLP−1−アミドまたはモノペグ化されたGLP−アミドの変異体もしくは類似体の溶液を、DPP−IV(ブタ腎臓由来のジペプチジルペプチダーゼIV、Sigma)、5U/mlのペプチド溶液と混合し、37℃でインキュベートした。各時点で一定分量の反応混合物を回収し、DPP−IVによって除去されたN末端ジペプチドHis−AlaをRP−HPLC分析によって検出してGLP−1−ペプチドの分解を測定した。例えば図1に示したように、酵素分解を各試料のHis−Alaタイトルから算出した
【実施例6】
【0090】
GLP−1−アミド、GLP−1ペプチド類似体およびこれらのモノペグ化された誘導体のin vitroでの生物活性の決定。
【0091】
このアッセイは、グルコースならびに種々の濃度のGLP−1ペプチドおよびこれらのモノペグ化された誘導体の存在下における、ラットベータ細胞のインスリノーマに由来するRIN−m5f細胞からのインスリンの放出に基づいている。簡単に説明すると、2×105細胞を6穴プレート中の完全RPMI培地中に播き、37℃で2日間インキュベートする;細胞を洗浄し、より低いグルコース濃度(0.2%)の培地でさらに4時間インキュベートし、次いで、再び洗浄し、GLP−1ペプチドまたはこれらのモノペグ化された誘導体の10mMの溶液と共に1時間インキュベートする。上清を回収し、放出されたインスリンのタイトルをELISAアッセイによって決定する。
【実施例7】
【0092】
GLP−1−アミド−Q17 PEG 5kDa、GLP−1−アミド−Q17−PEG 20kDa、GLP−1−アミド−Q17−PEG 30kDaのin vivoでの生物活性の決定。
【0093】
血漿中のグルコースに対するGLP−1−アミドおよびそのペグ化された誘導体の安定化作用の評価を7から10週齢の糖尿病(db/db)マウスを使用して検討した。グルコース溶液(1.5g/kg体重)の経口投与前の18時間および投与後3時間の間に餌を取り除き、グルコース投与の6時間後に再び餌を取り除いた。40μg/mlの試験する製品および陰性対照(リン酸緩衝食塩水)を、グルコース投与30分間前に、2.5ml/kg体重の量の皮下注射によって投与した。注射前および注射後15、30、60、120、180、240、300、1440分に意識のあるマウスの尾静脈から血液試料を採取し、グルコテスターAscensia Elite(Bayer)によってグルコース濃度を測定した。エクセナチドおよび食塩水の対照と比較した、20kDaおよび30kDaのモノペグ化されたGLP−1アミドで行った実験の結果を図2に示している。
【実施例8】
【0094】
GLP−1−アミド−Q17−PEG 20kDaの持続放出性ポロキサマー製剤の調製およびin vitroでの放出アッセイ
ポロキサマー407の27%溶液を、このポリマーを0.2Mの酢酸緩衝液pH4.0に4℃でゆっくりと溶解することによって調製した。GLP−1−アミド−Q17 PEG 20kDaを添加して最終濃度0.3mg/mlのGLP−1−アミド−Q17 PEG 20kDaおよび22%のポロキサマーを得て、この溶液を4℃で保存した。
【0095】
1mlの形成されたゲルを1mlの酢酸緩衝液0.2M pH4.0と共に37℃でインキュベートすることによって溶解試験を行った。RP−HPLC分析によってGLP−1−アミド−Q17−PEG 20kDaの放出を評価するために、各時点において溶液を回収して等量の緩衝液で置換した。溶解試験の結果を図3に示している。
【0096】
参考文献
【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアミノ官能化されたポリマーに共有結合で結合されたグルタミン残基を有する、インクレチン模倣ペプチドのモノ抱合化された誘導体であって、前記インクレチン模倣ペプチドと前記ポリマーとが直接結合されていることを特徴とする誘導体。
【請求項2】
前記インクレチン模倣ペプチドはグルカゴン様ペプチド−1であることを特徴とする、請求項1に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項3】
前記アルキルアミノ官能化されたポリマーは直鎖状または分枝状のモノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)であることを特徴とする、請求項1に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項4】
前記直鎖状または分枝状のモノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)は第一級アミノ基で官能化されていることを特徴とする、請求項3に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項5】
前記第一級アミノ基で官能化されている直鎖状または分枝状のモノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)は2から50kDaまで、好ましくは5から40kDaまでの分子量を有することを特徴とする、請求項4に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項6】
前記第一級アミノ基で官能化されている直鎖状または分枝状のモノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)は10から30kDaまで、好ましくは15から25kDaまで、より好ましくは約20kDaの分子量を有することを特徴とする、請求項5に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項7】
前記インクレチン模倣ペプチドはGLP−1(7−36)アミド(配列番号1)、グリシンで伸長されたGLP−1(7−37)(配列番号2)、エキセディン−3(exendin-3)およびエキセディン−4(exendin-4)から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項8】
前記GLP−1(7−36)アミド(配列番号1)またはグリシンで伸長されたGLP−1(7−37)(配列番号2)の17番目の部位にあるグルタミン残基は前記アルキルアミノ官能化されたポリマーに共有結合で結合されていることを特徴とする、請求項1および7に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項9】
糖尿病、好ましくは2型糖尿病を治療するためのものであることを特徴とする、請求項1から8に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項10】
糖尿病、好ましくは2型糖尿病を患っている患者において高血糖を低減するためのものであることを特徴とする、請求項1から9に記載のモノ抱合化された誘導体。
【請求項11】
請求項1から8に記載のモノ抱合化された誘導体を少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤,および/またはアジュバントと共に含有することを特徴とする製剤。
【請求項12】
請求項1から8に記載のモノ抱合化された誘導体をポリマーおよび/または脂質のナノ粒子およびマイクロ粒子と共に含有することを特徴とする製剤。
【請求項13】
請求項1から8に記載のモノ抱合化された誘導体を温度応答性ポリマーと共に含有することを特徴とする製剤。
【請求項14】
前記インクレチン模倣ペプチドを前記アルキルアミノ官能化されたポリマーとトランスグルタミナーゼの存在下で反応させるステップを含むことを特徴とする、請求項1から8に記載のモノ抱合化された誘導体の調製のための方法。
【請求項15】
前記トランスグルタミナーゼは微生物のトランスグルタミナーゼであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
グルカゴン様ペプチド−1とアルキルアミノ官能化されたポリマーのモル比は、1:1から1:100の間、好ましくは1:5から1:35の間、より好ましくは、1:15から1:25の間に含まれることを特徴とする、請求項14および15に記載の方法。
【請求項17】
前記反応を4から9の間、好ましくは5から8の間のpHの緩衝液中で行うことを特徴とする、請求項14から16に記載の方法。
【請求項18】
前記トランスグルタミナーゼを0.1U/mlから2U/mlの間、好ましくは0.2U/mlから1U/mlの間の範囲の量で使用することを特徴とする、請求項14から17に記載の方法。
【請求項19】
前記反応を10℃から50℃の間、好ましくは15℃から30℃の間の温度で行うことを特徴とする、請求項14から18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−509291(P2012−509291A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536815(P2011−536815)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064599
【国際公開番号】WO2010/057774
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(508202418)バイオ−ケル ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (4)
【Fターム(参考)】