説明

部分的な複素変調フィルタバンク

【課題】高品質の操作を可能にする信号を出力するための効率的な概念と、歪が少ない状態で信号を削減するための効率的な概念とを提供する。
【解決手段】第1の実数サブバンド信号と第2の実数サブバンド信号とを含む複数の実数サブバンド信号を処理して少なくとも1つの複素サブバンド信号を提供する装置210であって、この装置は、実数中間サブバンド信号を出力するためのマルチバンドフィルタ204と、上記複数の実数サブバンド信号からの実数サブバンド信号と上記中間サブバンド信号とを結合することによって複素サブバンド信号を出力するための計算器215と、上記実数サブバンド信号を遅延させ、この遅延された実数サブバンド信号を上記計算器215へと供給する遅延器203と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にオーディオ信号の符号化及び復号化の分野における、複数の複素サブバンド信号を処理するための装置と方法、及び複数の実数サブバンド信号を処理するための装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、複素−指数変調フィルタバンクがオーディオ信号のスペクトル包絡線を調整するための優れたツールであることが示されている。この機能の1つの適用例としては、スペクトル帯域複製(SBR)に基づくオーディオ符号化がある。複素フィルタバンクの他の有益な適用例には、パラメトリックステレオのための周波数選択的パニング及び空間化(非特許文献2参照)、及びパラメトリックマルチチャネル符号化(非特許文献3参照)が含まれる。これらの適用例においては、複素フィルタバンクの周波数分解能は、サブ−サブバンドフィルタリングによって低周波数においてさらに強化される。これらを用いた組合せのハイブリッドフィルタバンクが達成する周波数分解能は、両耳聴覚系のスペクトル分解能に近似するスペクトル分解能における空間的キューの処理を可能にするものとなる。フィルタリングの追加は、たとえ修正を施したとしてもそれ自体がエイリアシングを導入することはない。そのため、ハイブリッドフィルタバンクの品質は、最初のフィルタバンクのエイリアシング特性によって決定される。
【0003】
計算の複雑さを抑制する意味から、複素指数変調フィルタバンクの利用が妨げられ、コサイン変調された(実数値の)フィルタバンクしか使用されないとすれば、そのようなフィルタバンクがスペクトル包絡線の調整に使用された場合、強烈なエイリアシングを発生させることになる。非特許文献4に示されているように、適応型のサブバンドゲイングルーピング(又はゲインロッキング)は、エイリアシングをある程度まで軽減することができる。しかしながら、この方法が最もよく機能するのは、信号の高周波数成分のみを修正するだけでよい場合である。パラメトリックマルチチャネル符号化におけるパニングを目的とする場合、低周波数におけるエイリアシングを聴き取れなくするために必要なゲインロッキングの量は、フィルタバンクツールの周波数選択性を極度に低下させることになるので、現実的には1つのハイブリッドフィルタバンクの周波数選択性を追加することも不可能となるであろう。その結果、どちらかと言えば音の印象は狭まり、正しい音源配置に問題が生じる。もし複雑な信号処理を聴覚的により重要な低周波数に限定して維持することが可能であれば、品質と複雑さとの遙かに上質の妥協が達成されるであろう。
【非特許文献1】P. Ekstrand “Bandwidth extension of audio signals by spectral bandreplication”「スペクトル帯域複製によるオーディオ信号の帯域幅拡張」, Proc. 1st IEEE BeneluxWorkshop on Model based Processing and Coding of Audio (MPCA-2002), pp. 53-58,Leuven, Belgium, 2002
【非特許文献2】E. Schuijers, J. Breebart, H. Purnhagen, J. Engdegard “Low complexityparametric stereo coding”「低複雑性パラメトリックステレオ符号化」, Proc. 116th AESconvention, 2004, paper 6073
【非特許文献3】J. Herre et al. “The reference model architecture for MPEG spatialaudio coding”「MPEG空間オーディオ符号化のための参照モデル構成」, Proc. 118th AESconvention, 2005, paper 6447
【非特許文献4】O. Shamida et al. “A low power SBR algorithm for the MPEG-4 audiostandard and its DSP implementation”「MPEG-4オーディオ標準のための低パワーSBRアルゴリズムおよびそのDSP構成」,Proc. 116th AES convention, 2004, paper 6048
【特許文献1】PCT/SE02/00626 “Aliasing reduction using complex exponential modulatedfilter banks”「複素指数変調フィルタバンクを用いたエイリアシング低減」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高品質の操作を可能にする信号を出力するための効率的な概念と、歪が少ない状態で信号を削減するための効率的な概念とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1に記載の装置、請求項16に記載の装置、請求項33に記載のシステム、請求項35に記載の方法、請求項36に記載の方法及び請求項37に記載のコンピュータプログラムによって達成される。
【0006】
本発明の第1の態様は、複数の実数サブバンド信号を処理するための装置を提案するものであり、上記複数の実数サブバンド信号は、少なくとも1つの複素サブバンド信号を取得するための第1の実数サブバンド信号と第2の実数サブバンド信号とを含み、上記装置は、上記第1の実数サブバンド信号を濾波(フィルタリング)して第1の濾波されたサブバンド信号を取得し、上記第2の実数サブバンド信号を濾波して第2の濾波されたサブバンド信号を取得し、かつ上記第1及び第2の濾波されたサブバンド信号とを結合して実数中間サブバンド信号を取得し、この中間サブバンド信号を出力するマルチバンドフィルタと、上記複素サブバンド信号の実数部としての上記複数の実数サブバンド信号からの実数サブバンド信号と、上記複素サブバンド信号の虚数部としての上記中間サブバンド信号とを結合することによって複素サブバンド信号を出力する計算器と、上記実数サブバンド信号を遅延させ、この遅延された実数サブバンド信号を上記計算器へと供給する遅延器と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様は、複数の複素サブバンド信号を処理するための装置を提案するものであり、上記複数の複素サブバンド信号は、実数サブバンド信号を取得するための第1の複素サブバンド信号と第2の複素サブバンド信号とを含み、上記装置は、上記第1の複素サブバンド信号から第1の虚数部を抽出し、上記第2の複素サブバンド信号から第2の虚数部を抽出し、かつ上記複数の複素サブバンド信号の上記第1、第2又は第3の複素サブバンド信号から実数部を抽出するための抽出器と、上記第1の虚数部を濾波して第1の濾波された虚数部信号を取得し、上記第2の虚数部を濾波して第2の濾波された虚数部信号を取得し、かつ上記第1及び第2の濾波された虚数部信号を結合して実数中間サブバンド信号を取得し、この中間サブバンド信号を出力するマルチバンドフィルタと、上記実数部信号と上記中間サブバンド信号とを結合することによって実数サブバンド信号を出力する計算器と、上記実数部信号を遅延させ、上記実数部信号を上記マルチバンドフィルタへと遅延された形式で送るための遅延器と、を備える。
【0008】
本発明は次のような知見を基礎とする。即ち、複数の実数サブバンド信号を処理して少なくとも1つの複素サブバンド信号を得ることで、上記複数の実数サブバンド信号の操作よりも高品質の操作が可能になる、という知見である。この場合、上記複数の実数サブバンド信号の処理に掛かる計算はほんの少し複雑になるだけである。より具体的には、本発明は、複数の実数サブバンド信号をマルチバンドフィルタ及び計算器によって処理することで、これら複数の実数サブバンド信号を直接操作する場合に比較して、歪が少なくかつ最小のエイリアシングで遙かに容易に操作することができ、複素サブバンド信号を取得することができる、という事実を基礎とする。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、複数の実数サブバンド信号を処理するための装置は、上記複数の実数サブバンド信号の第1のサブセットから複数の複素サブバンド信号を出力し、上記複数の実数サブバンド信号の第2のサブセットを、対応する数の複素サブバンド信号へと処理することなく、さらなる複数の実数サブバンド信号として出力する。即ち、この実施形態は、部分的な複素変調分析フィルタバンクを表すものであり、上記複素サブバンド信号は、調整レベルやさらなるフィルタリング等の線形で時間不変な修正から生じるエイリアシングが最小でエネルギー推定の安定を保つという点に関し、複素指数変調フィルタバンクからの対応するサブバンド信号と同様の優位性を有することになる。さらに、追加的な優位点として、複素値信号を処理するための複素フィルタバンクに比較して、計算の複雑性が大幅に低減されることが挙げられる。
【0010】
後述するように、本発明の他の実施形態は、時間差及び/又は非線形操作を導入する修正及び修正要素をも含むことができる。このような実施形態の例は、高品質SBRの分野、空間パラメータの様々な適用例及び他の適用例の中に見出すことができる。これらの実施形態では、対応する複素バンクのマニピュレータの効果的な特性は、全て本発明の実施形態に係る部分複素フィルタバンクの複素数部分に含まれる。
【0011】
本発明のさらに他の実施形態では、上記複数の実数サブバンド信号の処理のために本発明の装置によって受け渡される上記さらなる複数の実数サブバンド信号は、本発明の装置により出力される複素サブバンド信号に対する同期性を保証するために、遅延器によって遅延される。
【0012】
本発明の第2の態様は以下の知見を基礎とする。即ち、少なくとも2つの複素サブバンド信号から上記少なくとも2つの複素サブバンド信号の実数値虚数部を抽出することと、抽出器、上記虚数部に基づいて中間信号を出力するためのマルチバンドフィルタ、及び上記実数部信号と上記中間信号とを組み合わせて上記実数サブバンド信号を出力するための計算器を用いて、上記第1、上記第2又は第3の複素サブバンド信号から実数部を抽出することにより、複数の複素サブバンド信号を少ない歪と最小のエイリアシングで実数サブバンド信号へと効率的に削減することができる、という知見である。より具体的には、本発明は、任意選択的な実数部合成に先行して、別のマルチバンドフィルタが複素サブバンド信号を実数サブバンド信号へと変換し戻せば、再構成及び信号処理性能の全体的な品質は複素フィルタバンクの品質に匹敵する、という知見を基礎とする。
【0013】
上記実施形態の具体的な構成に依存するが、もし例えば出力されるべき実数サブバンド信号が1を超える数であれば、抽出器はセパレータとして構成されてもよい。この場合は、全ての複素サブバンド信号からその適切な実数部及び虚数部を抽出することが後の処理にとって有益であるとも考えられる。
【0014】
これとは逆に、たとえ唯一の実数サブバンド信号が3つ以上の異なる複素サブバンド信号を基礎として取得されるべき場合であっても、抽出器はセパレータとして構成されてもよく、この場合のセパレータは、複素サブバンド信号の各々をその実数部及び虚数部の双方に分離するものとなる。この場合は、後の処理において必要でない虚数部信号及び実数部信号を単に無視することができる。故に、本発明の枠組みにおいて、セパレータ及び抽出器という用語は同義的に使用されてもよい。
【0015】
さらに、本発明の枠組みにおいて、虚数部信号と虚数部、及び実数部信号と実数部は、複素サブバンド信号の値の虚数部又は実数部のいずれかに対応する値を有する双方の信号を指す。また、原則として、任意の虚数部信号及び任意の実数部信号は共に実数又は複素数の何れであってもよい点は留意されるべきである。
【0016】
本発明の一実施形態においては、複数の複素サブバンド信号を処理するための本発明の装置に対し、複数の実数サブバンド信号も入力され、上記複数の複素サブバンド信号は先に述べた通りに処理され、上記複数の実数サブバンド信号は上記装置の出力において濾波されない形式で出力される。つまり、この実施形態は部分的な複素変調合成フィルタバンクを形成するものである。この実施形態の主たる優位点は、上記複数の複素サブバンド信号に対する再構成及び信号処理性能の全体的な品質が複素フィルタバンクの品質に匹敵し、かつ上記複数の実数サブバンド信号で表される残りの周波数領域では実数フィルタバンクの品質に匹敵することにある。この実施形態の追加的な優位点として、計算の複雑性が実数フィルタバンクのそれに比べてほんの僅かしか高まらない点も挙げられる。さらにこの実施形態の追加的な優位点として、ある特定のエッジ帯域処理により、上記複数の複素サブバンド信号と上記複数の実数サブバンド信号との両方によって表される2つの周波数領域間の途切れのない遷移が生じる点も挙げられる。さらに追加的な優位点として、計算の複雑性は複素数信号を処理するための複素フィルタバンクに比べて格段に低減される。
【0017】
本発明の他の実施形態は、複数の実数サブバンド信号を処理するための上記装置と複数の複素サブバンド信号を処理するための上記装置とを組み合わせたシステムであって、このシステムにおいては、上記両方の装置はさらなる複数の実数サブバンド信号を受け渡す。上記2つの本発明の装置の間には第1のマニピュレータと第2のマニピュレータとがあり、これらマニピュレータは、複数の実数サブバンド信号を処理するための上記本発明の装置により出力される上記複数の複素サブバンド信号を修正する役割と、上記さらなる複数の実数サブバンド信号を修正する役割とをそれぞれ果たす。上記第1と第2のマニピュレータは、包絡線調整又はフィルタリング等の線形で時間不変な修正を実行することができる。その結果、上述のシステムにおける再構成と信号処理作用の全体的な品質は、上記複数の複素サブバンド信号により表される周波数領域に関しては複素フィルタバンクの品質に匹敵し、上記さらなる複数の実数サブバンド信号によって表される周波数領域に関しては実数フィルタバンクの品質に匹敵するものとなり、上記複数の実数サブバンド信号を直接修正する場合に比べて遙かに高品質の信号操作がもたらされる一方で、計算の複雑さはほんの少し高まるだけである。先に概説しかつ後に詳述するように、他の実施形態におけるマニピュレータは、線形及び/又は時間に不変な操作に限定されるものではない。
【0018】
複数の複素サブバンド信号を処理するための上記本発明の装置のさらに他の実施形態においては、複数の複素サブバンド信号を処理するための本発明の装置により出力される実数サブバンド信号に対して同期性を保証するために、さらなる複数の実数サブバンド信号は、遅延器を使用して遅延された形式で受け渡される。
【0019】
次に、添付の図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に説明するが、これらの説明は本発明の範囲又は意図するものを限定するものではない。
【0020】
下記の実施形態は、本発明による部分的な複素変調フィルタバンクの原理を単に例示するものである。この明細書に記述する装置の修正及び変形が他の当業者にとって可能であることは自明である。従って、本発明は、添付の請求の範囲に記載された範囲によってのみ限定されるべきものであり、本明細書において実施形態を記述しかつ説明する目的で提示した特定の詳細により限定されるものではない。
【0021】
図1は、部分複素分析101及び合成104の各フィルタバンクを用いた部分複素信号処理の原理を示す。デジタルオーディオ入力信号は、部分複素分析フィルタバンク101内へと入力される。この分析バンク101は、合計L個のサブバンド信号のうちから、K個の複素数サブバンド信号と(L−K)個の実数サブバンド信号とを出力する。但し、K及びLは正の整数であり、K≦Lである。第1の修正102は上記実数サブバンド信号に対して実行され、第2の修正103は上記複素信号に対して実行される。これらの修正は共に、時間及び周波数におけるオーディオ信号のシェーピング(整形)を目的とする。修正されたサブバンド信号は、次に部分複素合成フィルタバンク104へと入力され、この部分複素合成フィルタバンク104は、処理されたデジタルオーディオ信号を生成して出力する。
【0022】
図2は、本発明の教示に従った部分複素分析フィルタバンク101の実施形態の構成要素を示す。入力されたデジタルオーディオ信号は、L帯域コサイン変調フィルタバンク201によって分析され、このL帯域コサイン変調フィルタバンク201は、その出力においてL個の実数サブバンド信号を2つのグループに分割する。そのうち、K個の実数サブバンド信号から成る第1のグループはマルチバンドフィルタ204によって濾波され、このマルチバンドフィルタ204の出力は乗算器205において負の虚数単位が乗算され、遅延器203により遅延されたK個の実数サブバンド信号に対して加算器206において加算され、K個の複素サブバンド信号が生成される。これらのサブバンド信号は固定実数ゲイン207によってゲイン調整され、その後、部分複素分析のK個の複素サブバンドとして出力される。(L−K)個の実数サブバンド信号から成る第2のグループは遅延器202へ入力され、この遅延器202の出力は上記部分複素分析の実数サブバンドを構成する。
【0023】
遅延器202及び203の双方における遅延量は、マルチバンドフィルタ204によって導入される遅延を補償すべく調整される。遅延器202、遅延器203、マルチバンドフィルタ204、乗算器205、加算器206及び固定実数ゲイン調整器207は実数から複素数への変換器210を形成し、これに対し、複数のK個の実数サブバンド信号と複数の(L−K)個の実数サブバンド信号とが入力され、K個の複素サブバンド信号と(L−K)個の実数サブバンド信号とが出力される。さらに、乗算器205と加算器206とは計算器215を形成し、この計算器215は少なくとも1つの複素サブバンド信号を出力するものであり、この出力信号は、実数部信号として上記複素サブバンド信号の少なくとも1つの実数サブバンド信号を使用し、かつ虚数部として上記複素サブバンド信号の少なくとも1つの実数サブバンド信号を使用する。
【0024】
図3は、本発明の教示に従った部分複素合成フィルタバンク104の実施形態の構成要素を示す。上記(L−K)個の実数サブバンド信号は遅延器304において単純に遅延され、L帯域コサイン変調された合成フィルタバンク308に対し(L−K)個の入力として入力される。上記K個の複素サブバンドは、まず固定実数ゲイン301によってゲインを調整される。次に、上記複素サブバンド信号の実数部及び虚数部が各々抽出器302及び303において抽出される。上記サブバンドの虚数部はマルチバンドフィルタ306によって濾波され、その出力は、遅延器305により遅延された上記サブバンドの実数部に対し加算器307において加算される。遅延器304及び305の双方における遅延量は、マルチバンドフィルタ306によって導入される遅延を補償すべく調整される。
【0025】
加算器307の出力は、L帯域コサイン変調された合成フィルタバンク308に対し、残りのK個の入力として入力される。実数部抽出器302及び虚数部抽出器303は共に、複素サブバンド信号を実数値実数部信号と実数値虚数部信号とに分離するためのセパレータ309を形成する。具体的には、実数部抽出器302は実数部信号を出力し、虚数部抽出器303は虚数部信号を出力する。図3に示す特定の実施形態においては、セパレータ309はK個の複素サブバンド信号を処理し、K個の実数値実数部信号とK個の実数値虚数部信号とに分離する。
【0026】
しかし、前述したようにセパレータ309は抽出器として実装されもよく、この場合には、複素サブバンド信号のうちの全てを実数部信号又は虚数部信号へと分離しないように適合化された抽出器となる。故に、このセパレータ309は、複素サブバンド信号から実数部信号(実数部)及び虚数部信号(虚数部)を抽出するための抽出器309とも称することができる。
【0027】
固定実数ゲイン調整器301と、実数部抽出器302及び虚数部抽出器303を備えるセパレータ309と、遅延器304と、遅延器305と、マルチバンドフィルタ306と、加算器307とは、合同して本発明の複素数から実数への変換器310を形成し、この変換器310は、K個の複素サブバンド信号をK個の実数サブバンド信号に変換することができ、かつその出力において、(L−K)個の実数サブバンド信号を遅延された形式で出力することができる。
【0028】
図4は、K個の実数サブバンド信号を入力0,1,2,...,(K−1)として取り込み、K個の実数サブバンド信号を出力0,1,2,...,(K−1)として出力するマルチバンドフィルタ401の動作を示す。線形システムの言語においては、これは単なる線形時不変離散時間多重入出力(MIMO)システムである。m番目の出力は、402mの中において、(q(m)+p(m)+1)個の入力(m−q(m)),...,m,...,(m+p(m))を各々フィルタFm,-q(m),...,Fm,0,...,Fm,+p(m)で濾波し、各結果を加算器403mにおいて合計することで生成される。条件(m−q(m))≧0及び(m+p(m))≦K−1は守られなければならない。ここで、
【数1】

【数2】

である。後述するように本発明は、演算複雑性の低いマルチバンドフィルタ204,306を使用することによって、高品質の複素表現を取得する方法を教示するものである。
【0029】
さらに、フィルタFm,-1及びFm,1の類似性を活用することにより、計算の複雑性はさらに低減され得る。
【0030】
(1)及び(2)に記述されているようなq(m)及びp(m)の特に小さな値は、コサイン変調フィルタバンクのプロトタイプフィルタが十分に高い阻止帯域減衰量を有する場合に使用されることができる。これは潜在的に所定の最小長さのプロトタイプフィルタを必要とする。より短いプロトタイプフィルタに対しては、q(m)及びp(m)の値が増大せざるを得ない。しかしながら、本発明が教示する方法は、フィルタFm,rの長さがプロトタイプフィルタの長さに比例することから、計算が効率的であることには変わりがない。
【0031】
マルチバンドフィルタ401には、原則的には、あらゆる種類のフィルタ特性を有するあらゆる種類のフィルタを実装することができる。図4に示す実施形態においては、マルチバンドフィルタFm,0は、指数mを有するサブバンド信号を同じサブバンド指数mを有するサブバンド信号にマップするフィルタであり、典型的には(π/2)に中心周波数を有する帯域通過フィルタである。1つのマルチバンドフィルタが3つのサブバンド信号を組み合せてフィルタバンク信号として1つのサブバンド信号を生成する場合には、他の2つのマルチバンドフィルタFm,-q(m)及びFm,+p(m)は、典型的には高域通過フィルタ又は低域通過フィルタのいずれかであり、それらの正確なタイプはサブバンド指数mに依存する。マルチバンドフィルタ401が3個を超えるサブバンド信号を組み合せ、「境界」サブバンド信号ではない指数mを有するフィルタサブバンド信号を生成するように適合化されている場合には、このマルチバンドフィルタの対応するタイプは、帯域通過フィルタ、高域通過フィルタ、低域通過フィルタ、帯域阻止フィルタ又は全域通過フィルタであってもよい。
【0032】
従って、図1〜図3に示す実施形態は、離散時間オーディオ信号を修正するための方法を記述するものであり、この方法は、
−コサイン変調された分析フィルタバンクを用いて上記信号を濾波するステップと、
−マルチバンドフィルタリングを用いて、サブバンドのサブセットのための複素サブバンドサンプルを生成するステップと、
−実数サブバンドサンプルと複素サブバンドサンプルとの両方を修正するステップと、
−結果的に得られる複素サンプルを、マルチバンドフィルタリングを用いて実数サンプルに変換するステップと、
−上記実数サブバンドサンプルをコサイン変調された合成フィルタバンクを介して濾波するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0033】
図5は、複数のサイン成分を含む原信号の振幅スペクトルの一部を示す。このスペクトルは、ウィンドウ化された離散フーリエ変換を使用して得られたものである。周波数軸は、L=64のとき周波数指数nが(nπ/L)に等しい離散時間周波数と一致するように正規化される。故に、デジタルオーディオ信号のサンプリング周波数がfsであれば、図5に示す周波数範囲は(5/64)・fs/2から(11/64)・fs/2までとなる。この正規化においては、L個のサブバンドを有する複素変調又は実数変調フィルタバンクの指数nを有するサブバンドは、周波数指数nと(n+1)との間に主ローブ(main
lobe)の中心を有するレスポンスを持つ。この規定は、図5〜図9の全てに適用される。
【0034】
換言すれば、各サブバンド又はサブバンド信号は、指数n又はmと対応するサブバンドの中心周波数との両方に関連づけられる。故に、サブバンド信号又はサブバンドは、そのサブバンド信号に関連づけられた中心周波数に従って、例えば指数が増大すればより高い周波数に対応し得るように設定されてもよい。
【0035】
図6は、部分複素フィルタバンク内におけるサブバンド修正を行わず、本発明が教示する途切れのない遷移特性を組み込んでいない分析及び合成により取得された信号のスペクトルを示す。
【0036】
具体的には、フィルタバンク101がL=64個のサブバンドを有する2つのフィルタバンクから構築され、第1のバンクは複素指数変調バンクでありかつ第2のバンクはコサイン変調バンクであるという、より単純な場合について考察する。これらのフィルタバンクは共に、別々に使用される時には完全に近い再構成をもたらすものである。この図で考慮される構成は、第1の複素バンクからK=8個の第1のサブバンドを採用し、第2の実数バンクから残り(L−K)=56個のサブバンドを採用する。入力信号は図5において考慮されている信号と同じであり、図5との比較から分るように、複素サブバンドと実数サブバンドとの間の遷移周波数を表す周波数指数8の近くでエイリアス成分が導入されている。この単純な場合が実際には単一の複素バンクの場合よりも複雑である点を無視して考えたとしても、この例は、複素サブバンドと実数サブバンドとの間の遷移の特別な処理が必要であることを示している。102及び103において何ら修正が行われない場合には、101への入力とは知覚的に区別できないようなデジタルオーディオ出力を、104から出力させるのが好ましい。図2と図3とに示すような本発明の部分複素分析及び合成フィルタバンクは、まさしくこの特徴を有する。具体的には、処理された信号の対応する振幅スペクトルは、図5の振幅スペクトルと同一である。そのため、マルチバンド分析フィルタ又は分析フィルタバンクとマルチバンド合成フィルタ又は合成フィルタバンクとの連結、つまりマルチバンド分析及び合成フィルタリングの連結は、例えば符号反転に至る完璧に近い再構成をもたらす可能性もある。
【0037】
図7は、複素指数変調フィルタバンクのサブバンドドメインにおける修正により取得された信号のスペクトルを示す。この修正は、指数nを有するサブバンドに対し、ゲインg(n)を適用することより成る。但し、g(n)はnの減少関数である。図5と比較すると、サイン成分の振幅は単調に漸次変化している。これは、原信号の等化(equalization)又は包絡線調整の望ましい性能を示している。実数コサイン変調フィルタバンクを用いて同様の修正を実行すれば、図8に示す周波数分析を有する出力信号をもたらす。追加的なエイリアスなサイン成分により、図7が示す望ましい性能からはかけ離れた結果が発生し、歪が可聴信号となる。図4に示すマルチバンドフィルタであって個々のフィルタにつき11個のフィルタタップを有するマルチバンドフィルタにより実現された、図2と図3とにより示される部分複素フィルタバンクの中において、同様のゲイン修正を施すと、図9の振幅スペクトルがもたらされる。この場合もやはりK=8が選択され、図から分るように、出力は周波数指数K−0.5=7.5より下の領域では複素フィルタバンク処理(図7)の品質を有し、この周波数指数より上の領域では実数フィルタバンク処理(図8)の品質を有する。
【0038】
故に、本発明は、ダウンサンプリングされた実数サブバンドフィルタバンクを使用して、オーディオ信号の等化、スペクトル包絡線調整、周波数選択的パニング又は周波数選択的空間化を含むシステムに関するものである。本発明は、選択された周波数領域に対するエイリアシングの抑制を、サブバンド信号の対応するサブセットを複素サブバンド信号に変換することによって可能にする。選択された周波数領域より外部のエイリアシングは注目するに値しないか、又は他の方法によって軽減され得るものであることを考えると、本発明により、複素フィルタバンクを使用する場合に比べて計算労力を大幅に節約することができる。
【0039】
以下に、変調フィルタバンクについて説明する。
【0040】
計算を簡略化するために、ここでは合成波形の式
【数3】

但し、n、kは整数でありかつn≧0であり、
【数4】

である合成波形を使用しながら、連続的時間ウインドウ化された変換により、複素指数変調Lバンドフィルタバンクをモデリングする。
【0041】
ウインドウ関数v(t)は実数値であるものとする。en(t)=cn(t)+isn(t)を実数部と虚数部とに分割すると、コサイン及びサイン変調フィルタバンクのための合成波形が次式で得られる。
【数5】

【0042】
離散時間信号及びL個のサブバンドを有するフィルタバンクの結果は、間隔1/Lを有するt変数の適切なサンプリングによって得られる。信号間の内積を、
【数6】

によって定義する。ここで、アスタリスクは共役複素数を示す。離散時間信号の場合、積分は総和に置き換えられる。そのため、信号x(t)のコサイン及びサイン変調フィルタバンク分析の演算は、
【数7】

で記述される。
【0043】
サブバンド信号を

とすると、対応する合成演算は、
【数8】

となる。
【0044】
離散時間信号の場合、サブバンド指数nに係る総和は(L−1)に限定される。コサイン/サイン変調フィルタバンク及び重複変換の定理から、修正されていないサブバンド信号

について、組み合わされた分析及び合成の演算が完全な再構成yc=ys=xをもたらすように、ウインドウ関数v(t)を設計し得ることは周知である。完全な再構成に近い設計の場合には、これらの等式は近似となる。
【0045】
特許文献1が教示する複素指数変調フィルタバンクの演算は、複素分析により、
【数9】

と記述することができる。但し、gaは固定実数分析ゲイン係数である。
複素サブバンド信号

からの合成は、
【数10】

と定義することができる。但し、gsは固定実数合成ゲイン係数である。
【0046】
複素サブバンド信号が修正されていない

であり、コサイン及びサイン変調されたバンクが完全な再構成を有すると仮定すると、式(8)及び式(9)から、
【数11】

であることが分る。故に、完全な再構成は、
【数12】

であれば達成される。
【0047】
複素サブバンド表示のエネルギー保存をもたらす固定ゲインの中で、特に魅力ある選択肢は、

である。
【0048】
複素数の場合には、式(9)及び式(10)における複素サブバンド信号の修正が相殺されることから、式(4)に記述される特定の修正からの、各サブバンドについての固定位相係数分だけの偏差は、再構成の特性を変更することなく許容され得ることは明らかである。複素指数変調フィルタバンクは、係数2でオーバーサンプリングされる。適正なウインドウ設計を使用すれば、この方法は、特許文献1が示すような実質上エイリアシングのない包絡線調整を可能にする。このような設計は、完全に近い再構成を選択し、上述のように厳密で完全な再構成の枠組みを放棄することで、達成し易くなる場合が多い。
【0049】
以下に、マルチバンドフィルタリングについて説明する。
【0050】
式(7)のコサイン変調されたバンク分析αn(k)のみが利用可能であると仮定すると、対応するサイン変調されたバンク分析βm(l)は、コサインバンク合成ステップとサインバンク分析とを組み合わせることで達成することが可能である。また、
【数13】

であることがわかる。ここで、内積における時変数の変化は次式のようになる。
【数14】

【0051】
故に、式(13)内のkに関する総和はフィルタリングに相当し、全体構成は、図4に示された無限数のバンドを有するマルチバンドフィルタリングの1つの形式として認識される。複素波形の式(14)を書き換えると、
【数15】

になる。

を代入すると、式(15)の最初の項は、
【数16】

に展開することができる。対称ウインドウv(−t)=v(t)により、式(16)における積分の虚数部は消滅する。その結果、
【数17】

となり、
【数18】

が定義される。
【0052】
この式は、μとλとの偶関数である。ウインドウの設計が適切であれば、│μ│>1でhμは消滅すると仮定することができる。離散時間ケースでは、式(18)における積分は、t=(v+θ)/Lである整数v’に渡る総和によって置換されることになる。ここで、Lはサブバンドの数であり、θは0又は1/2のいずれかに等しいオフセット値である。式(18)の離散時間対応部分は、θ=0ではμにおいて周期的であって周期2Lを有し、θ=1/2ではμにおいて反周期的であって周期2Lを有する。式(15)にn=m+rを挿入すると、
【数19】

が得られる。
【0053】
図4の402mを参照すると、上述の計算にL=Kが挿入されれば、fm,s(λ)=<cm+r,sm,λ>をフィルタFm,rのインパルス応答として使用することができる。μ=2Kκ+σであって、κは整数、σ∈{−1,0,1}である場合を除いて、hμは消滅すると仮定すると、式(19)の第2の項は、m=0及びm=(K−1)の時にしか寄与しないことになる。これらのエッジケースは、マルチバンドフィルタ401の反転性への近似の鍵を含んでいることから、重要である。式(19)の些細な変調を除くと、考慮しなければならないものは2つのプロトタイプフィルタh0及びh1のみであり、式(19)を検討すると、h0の奇数サンプルしか関与しないことが分る。さらに、式(19)の独特の変調及びフィルタfm+1,-1とfm-1,1との類似性が、マルチバンドフィルタの多相形式における極めて効率的な実装を可能にすることは、当業者にとって明らかである。このような実施形態に関しては、後段でさらに詳しく説明する。
【0054】
実際の設計では、これらのプロトタイプフィルタの設計の場合、離散化された内積の式(18)を放棄することが効果的である。代わりに、選択された整数Nに関して、フィルタfm,rは最良の近似
【数20】

を与えるように設計される。
【0055】
次の式は、サイン変調されたバンク分析への第2のより直接的な経路を示す。
【数21】

ここで、星印は畳み込みを指す。さらに、サイン合成演算の式(8)に式(20)を挿入することで展開し、コサイン項を集合すると、
【数22】

となる。よって、合成マルチバンドフィルタ306もまた、インパルス応答gm,r(λ)=fm+r,-r(−λ)を有するGm,rで置換されたフィルタを備えた401の構造を有する。同じ結果は、上述の誘導においてコサイン及びサイン変調の役割を交換することによっても導かれるであろう。
【0056】
マルチバンドフィルタの計算の総合的な複雑さは、サブバンドのサンプル周期当たりのN・K演算数、即ち、デジタルオーディオサンプル当たりのN・K/L演算数に比例する。K≪Lのとき、完全な複素変調フィルタバンクに必要な追加的サイン変調に比べて格段の節約をもたらす。
【0057】
純粋な実数又は純粋な複素変調フィルタバンクの適用に比べて、マルチバンドフィルタでは、分析及び合成ステップの双方においてN個のサブバンドサンプルの追加的遅延が導入される。これは、202、203、304及び305において、マルチバンドフィルタを通過しない全てのサブバンドサンプルを、N個のサブバンドサンプルの遅延分だけ遅延させることによって補償される。修正103が非特許文献2に記述されているようなサブ−サブバンドフィルタリングを含む場合では、上記サブ−サブバンドフィルタは、組み合わされたインパルス応答を近似することで合計遅延の低減を可能にするために、マルチバンドフィルタ204と組み合わされてもよい。
【0058】
選択されたK個の複素サブバンドが合計L個のサブバンドのうちの最初のK個であれば、マルチバンドフィルタは、後でK個のサブバンドを持つフィルタバンクによって分析される元のサンプリング周波数のK/L倍の時間ドメインに対して、K個のサブバンドを有するフィルタバンクの合成の効果をエミュレートし、次いでK個のサブバンドを有するフィルタバンクによる分析を行う。このような遠回りな方法では、本発明が教示する設計方法によって達成され得る遅延よりも長いマルチバンドフィルタ遅延が発生するという欠点がある。分析オーディオチャネルの数が合成チャネルの数より遙かに少ない適用例の場合、マルチバンドフィルタの分析遅延は、計算がより複雑になるという代償はあるが、L個のサブバンドを使用する真の複素変調フィルタバンク分析により部分複素分析101を実行し、かつ最後の(L−K)個のサブバンドの虚数部を捨てることによって、完全に回避することができる。しかしながら、図3に示す合成との組合せを、変更のないサブバンドの場合の完全に近い再構成にするためには、指数(K−1)を有するエッジサブバンドの分析を特殊な直接形式のフィルタで置き換え、次いで係数Lによるサブサンプリングを行う必要がある。故に、指数(K−1)を有するエッジサブバンドが唯一の非ゼロサンプルを含み、他のサブバンドが全てゼロである場合では、このフィルタは、図3に示す部分複素合成を考慮することによって達成することができる。複雑性の低減に関しては有用性が少ないが、マルチバンドフィルタの合成遅延は、L個のサブバンドによる真の複素変調フィルタバンク合成により部分複素合成104を実行することにより、同様に回避することができる。この複素変調フィルタバンク合成のために、指数(K−1)を有する入力サブバンドは、係数Lによるアップサンプリングとこれに続く特別の直接形式のフィルタリングとから成る分離した合成演算に配向し直される。次に、(L−1)個のバンドからの複素バンク合成と上記分離した1つのバンド合成との結果が時間ドメインにおいて加算される。
【0059】
本発明は、ダウンサンプリングされた実数サブバンドフィルタバンクを使用し、オーディオ信号の等化、スペクトル包絡線調整、周波数選択的パニング又は周波数選択的空間化を含むシステムに関する。このシステムは、選択された周波数領域に対するエイリアシングの抑制を、対応するサブバンド信号のサブセットを複素サブバンド信号に変換することによって可能にする。選択された周波数領域外のエイリアシングはあまり聞き取られないか、又は他の方法によって軽減され得るものであると仮定すると、本発明のシステムは、複素フィルタバンクを使用する場合に比べて計算努力を大幅に節約することができる。
【0060】
本発明は、選択された周波数領域のための信号の複素表現を実数フィルタバンクの場合よりほんの少し複雑な計算で達成する方法を教示している。実数フィルタバンク分析の選択されたサブバンドに対し、これらサブバンド信号の虚数部を生成するために効率的なマルチバンドフィルタが適用される。その結果、部分的な複素変調フィルタバンク分析が得られる。複素化されたサブバンドは、エネルギー推定の安定性に関して複素指数的な変調フィルタバンクからの対応するサブバンドと同じ優位点を有し、包絡線調整及びフィルタリング等の線形で時間不変な修正から生じる最小のエイリアシングを有する。実数合成に先行して、別のマルチバンドフィルタが複素サブバンドサンプルを実数サブバンドサンプルへ変換し戻す。再構成及び信号処理性能の全体的な品質は、複素化された周波数領域においては複素フィルタバンクの品質に匹敵し、かつ残りの周波数領域においては実数フィルタバンクの品質に匹敵する。本発明が教示する特定のエッジバンド処理により、2つの領域の間の途切れのない遷移を潜在的に生じさせる。
【0061】
修正要素又はマニピュレータ102,103の枠組みにおいては、時間補間されたゲイン又は行列による空間パラメータ(例えばMPEGサラウンド又はパラメトリックステレオ)の時変アプリケーションが検討されてもよい。時間不変な修正又は操作の場合には、エイリアシングを導入しない特徴を有する包絡線調整又は等化への適用が重要である。故に、エイリアシング導入に関する定義は、主に時間不変な場合に焦点が当てられる。
【0062】
しかし、例えば図1に示すマニピュレータ又は修正要素102,103の枠組み内において時間変化を導入すると、エイリアシングを導入しないという特徴の実現がより困難になる場合を生じさせる。実際には、例えば信号の長くて重要なピースは、MPEGサラウンドの枠組みにおいてさえ局部的に時間不変な方法で処理される。後のステップでは、非線形の操作を例えば高品質SBRのように高度な転置方法の枠組み内において考慮することも可能であり、またこれは重要になるであろう。これらの高度な転置方法は時変及び/又は非線形の操作を含んではいるが、最初に時間不変な修正及び操作を考慮すべきであろう。
【0063】
要するに、修正要素又はマニピュレータ102,103の枠組みにおいては、最終的な(部分複素)フィルタバンクの時間周波数分解能を条件とする限り、どのような操作も確実に可能であり、かつ関連性があると言える。故に、対応する複素バンクの操作103の優位点は全て、この部分複素フィルタバンクの複素部分に含まれる。
【0064】
図1〜図3に記述した本発明の実施形態は、次の特徴を有する。即ち、離散時間オーディオ信号を修正するための方法であって、
−コサイン変調された分析フィルタバンクによって信号を濾波するステップと、
−マルチバンドフィルタリングによってサブバンドサブセットのための複素サブバンドサンプルを生成するステップと、
−実数サブバンドサンプルと複素サブバンドサンプルとの両方を修正するステップと、
−結果的に得られる複素サンプルを、マルチバンドフィルタリングを用いて実数サンプルに変換するステップと、
−上記実数サブバンドサンプルをコサイン変調された合成フィルタバンクで濾波して修正された離散時間オーディオ信号を取得するステップと、を含む。
【0065】
次に、空間オーディオツールの低電力タイプの実装について概説する。低電力の空間オーディオツールは、K番目のQMFサブバンド(QMF=直交ミラーフィルタ)より上の実数サブバンドドメイン信号上で動作する。但し、Kは正の整数である。整数Kは意図される実装の固有の必要条件及び仕様に従って選ばれる。言い替えれば、整数Kはビットストリーム情報等の意図される実装の詳細によって与えられる。実数QMFフィルタバンクは、部分複素サブバンドドメイン表現を達成するために、本発明の実数から複素数への変換器と組み合わせて使用される。さらに、上記低電力空間オーディオツールは、実数値処理に起因して導入されるエイリアシングを低減するために、追加的なモジュールを組み込んでもよい。
【0066】
上述の説明に続き、低電力の空間オーディオ符号化システムは、図10に示す時間/周波数変換を使用する。上述の空間オーディオ符号化の時間/周波数変換器は、図10に示すハイブリッドQMF分析バンクを備える。実数QMF分析バンクを処理するハイブリッドQMF分析バンク500は、任意選択のスイッチ510を介して本発明の実数から複素数への変換器520へ接続される。実数から複素数への変換器520はさらに、1つ又は複数のナイキスト分析バンク530へ接続される。
【0067】
実数QMF分析バンク500は、その入力において時間ドメインの入力信号

を受け取り、その出力において実数QMF信号

を実数から複素数への変換器520へと出力する。実数から複素数への変換器520は、このQMF信号を部分複素サンプル

に変換してナイキスト分析バンク530へと出力し、ナイキスト分析バンク530は、次にハイブリッドサブバンドドメイン信号xn,mを生成する。
【0068】
空間オーディオデコーダが時間ドメインサンプル

を用いて設計されるこの時間/周波数変換器の通常の動作モードの他に、例えば低複雑度HE−AACデコーダから、(中間)実数値(QMF)サブバンドドメインサンプル

が取り出されてもよい。さらに具体的には、この場合、ISO/IEC14496-3:2001/AND1:2003に示されているように、HE−AAC QMF合成に先行してサブバンドドメインサンプルが取り出される。また、これらのQMF入力信号

を本発明の実数から複素数への変換器520へと入力できるように、図10に示す時間/周波数変換器には任意選択のスイッチ510が設けられ、適宜切換される。
【0069】
QMF入力信号の形式で入力されるにせよ、実数QMF分析バンク500を介して入力されるにせよ、実数QMFサンプルは実数から複素数への変換器520によって部分複素サンプル

に変換される。この変換器520については、後段で図13を用いて詳述する。さらに追加的な任意選択肢として、可能であれば、図10に示されていない残余の復号モジュールがサブバンドドメインサンプル

をQMF残余入力信号として供給することができる。これらQMF残余信号もナイキスト分析バンク530へと送られるが、任意選択肢である遅延器540が介在する。なぜなら、これらQMF残余入力信号もまた、上記実数から複素数への変換器520に起因して発生する遅延を補償するために、ハイブリッドドメインへ変換され合同してハイブリッドサブバンドドメイン信号xn,mを形成する前に、遅延された形式で送られなければならないからである。
【0070】
図11は、空間オーディオ符号化システムにおいて、周波数/時間変換又は時間/周波数変換を実行するためのハイブリッドQMF合成バンクを示す。このハイブリッドQMF合成バンクは1つ又は複数のナイキスト合成バンク550を備え、その入力にはハイブリッドサブバンド領域信号yn,mが入力される。より具体的には、ハイブリッドサブバンドドメインサンプルyn,mは、ナイキスト合成バンク550により、ナイキスト合成側で部分複素QMFサブバンドドメインサンプル

へと変換される。この部分複素QMFサブバンドドメインサンプルは、次に本発明の複素数から実数への変換器560へと出力され、この変換器560は上記部分複素QMFサブバンドドメインサンプルを実数値又は実数QMFサンプル

に変換する。本発明の複素数から実数への変換器560については、後段で図14を用いて詳述する。これら実数QMFサンプルは、実数QMF合成バンク570へと出力され、このバンク570において時間ドメインサンプル又は時間ドメイン出力信号

の形式で時間ドメインへと変換され、戻される。
【0071】
次に、フィルタバンク又はより具体的には実数QMF分析バンク500と、実数QMF合成バンク570とについて、さらに詳しく説明する。例えば低電力MPEGサラウンドシステムの場合は、実数QMFフィルタバンクが使用される。この場合、分析フィルタバンク500は後に概説するように64チャネルを使用する。上記合成フィルタバンク570も同じく64チャネルを有し、ISO/IEC14496-3のセクション4.6.18.8.2.3に記述されているような低複雑度HE−AACシステムに使用されるフィルタバンクと同一である。以下の説明は64チャネル(整数L=64)に基づいて行うものであるが、本発明及びその実施形態は、64チャネル又はしかるべき数の実数又は複素サブバンド信号を使用することに限定されない。原則として、本発明の実施形態においては、任意数のチャネル、あるいはどちらかと言えば実数又は複素サブバンド信号を使用することができる。しかしながら、異なる数のチャネルが使用されれば、その実施形態の適切なパラメータもまた適宜適合化されなければならないことになる。図10に示す実数QMF分析バンク500は、コアデコーダからの時間ドメイン信号

を64個のサブバンド信号に分割するために使用される。フィルタバンク又は実数QMFバンク500からの出力は、サブバンドサンプル形式の実数値かつ臨界的にサンプリングされた信号である。
【0072】
図12は、C/C++−擬似コード形式の実数分析QMFバンク500により実行される演算を示すフローチャートである。つまり、図12は実数QMF分析バンク500によって実行される方法を示す。フィルタリングは下記のステップを含むが、アレイxは0から639までの間の指数でラベリングされた640個の時間ドメイン入力サンプルを含む。図12では、アレイ又はベクトルの指数を長方形の括弧に入れて示す。時間ドメイン入力サンプルのアレイxへの高次指数は、旧サンプルに対応している。
【0073】
図12は、QMFサブバンドサンプル1に対して実数QMF分析バンク500により実行される方法を示す。ステップS100における本方法の開始後、アレイx内のサンプルはステップS110において64ポジション分だけシフトされ、575から639までの範囲の指数(n=575,...,639)を有する最も古い64個のサンプルが捨てられる。その後、ステップS120において、64個の新たなサンプルがアレイx内の0から63までの指数を有するポジションに格納される。
【0074】
ステップS130において、アレイxのサンプルは、ウインドウ又はウインドウ関数cの係数のセットで乗算される。ウインドウcもまた、n=0,...,639の範囲の指数を有する640個の要素を持つアレイcとして実装されている。この乗算は、ステップS130において、640個の要素を有する新たな中間アレイzを導入することにより、
【数23】

に従って行われる。この場合のウインドウ係数c[0],...,c[639]は、ISO/IEC14496-3の表4.A.87に示されている。
【0075】
次のステップS140では、上記中間アレイzにより表現されたサンプルが、
【数24】

に従って合計され、128要素の新たな中間アレイuが生成される。図12に示すフローチャートでは、式(24)は、この式(24)の公式を表すニーモニックコード(mnemonic
code)として示されている。
【0076】
次のステップS150では、新たな64個のサブバンドサンプルが行列Mを使用する行列演算M・uによって計算される。このとき行列Mの要素は、
【数25】

によって与えられる。次に、ステップS160において、フィルタリング方法が実行される。
【0077】
上述のように、図12のフローチャートに示す各ループが64個のサブバンドサンプルを生成し、その各々が1つのフィルタバンクサブバンドからの出力を表す。上述したように、図12のフローチャートでは、Xreal[m][l]はQMFサブバンドmのサブバンドサンプルlに相当する。ここで、m、l、nは全て整数である。故に、出力Xreal[m][l]は実数サブバンドサンプル

に等しい。
【0078】
図12は実数QMF分析バンク500のフローチャートを示すものであるが、図13は、図10の本発明の実数から複素数への変換器520をさらに詳しく示している。図13に示す実数から複素数への変換器520は64個の実数サブバンド信号を受け取るが、これら64個のサブバンド信号は、K個の実数サブバンドと、(64−K)個の実数サブバンドとの2つの別々のサブセットを形成している。但し、この場合もKは1から64までの間の正の整数である。K個の実数サブバンド信号又はサブバンドからなるサブセットは、複数の実数サブバンド信号を形成し、(64−K)個の実数サブバンドからなる第2のサブセットは、さらなる複数の実数サブバンド信号を形成する。
【0079】
K個の実数サブバンド信号からなるサブセットは、マルチバンドフィルタ600と任意選択的な第1の遅延器610との両方へ入力される。このマルチバンドフィルタ600は、出力においてK個の実数中間サブバンド信号からなるセットを出力し、これら実数中間サブバンド信号は乗算器620へと入力される。乗算器620は、実数中間サブバンド信号の各々に負の虚数単位(−i)を乗算する。乗算器620の出力は加算器630へ入力され、加算器630は遅延器610からもK個の実数サブバンド信号を遅延された形式で受け取る。加算器630の出力は、次に固定ゲイン調整器640へ入力される。固定ゲイン調整器640は、その入力に入力される各サブバンド信号のレベルを対応するサブバンド信号に実数定数を乗じることにより調整する。ここで注意すべきは、固定ゲイン調整器640は任意選択の構成要素であり、本発明の実数から複素数への変換器520に必須の構成要素でないという点である。実数から複素数への変換器520は、固定ゲイン調整器640が実装されていれば固定ゲイン調整器640の出力として、さもなければ加算器630の出力として、K個の複素サブバンド信号又はK個の複素サブバンドを出力する。
【0080】
加算器630と乗算器620とは共に計算器650を形成し、この計算器650は、任意選択的に固定ゲイン調整器640によってゲイン調整をされ得る複素サブバンド信号を出力する。より具体的には、計算器650は、この計算器650が出力する複素サブバンド信号の実数部としての実数サブバンド信号と、マルチバンドフィルタ600が出力する上記複素サブバンド信号の虚数部としての中間信号とを結合させる。
【0081】
ここで注意すべき重要な点として、第1の遅延器610もまた任意選択的な構成要素であって、計算器650がマルチバンドフィルタ600により出力される上記中間信号と実数から複素数への変換器520へ入力される実数サブバンド信号とを結合する前に、マルチバンドフィルタ600に起因して発生する可能性のある時間遅延が正しく考慮されることを保証する役割を持つことが挙げられる。
【0082】
同じく任意選択的な構成要素として、実数から複素数への変換器520は第2の遅延器660も備え、この遅延器660もまた、マルチバンドフィルタ600に起因して発生する可能性のある時間遅延が、さらなる複数の実数サブバンド信号の(64−K)個の実数サブバンド信号の中に現出しないことを保証する役割を持つ。これを実行するために、第2の遅延器660は、実数から複素数への変換器520を変更なしに通過する(64−K)個の実数サブバンド信号の途中に接続されている。ここで注意すべきは、整数Kの値はK=64であってもよく、この場合には、実数から複素数への変換器520を上述のように変更なしに通過する実数サブバンド信号がゼロになるために、上記実数から複素数への変換器520は、変更されていないか又は遅延されただけの形式で送られる実数サブバンド信号を、必ずしも含むとは限らないという点である。
【0083】
このように、実数QMFサブバンド信号は、図13に示すように、実数から複素数への変換器520によって部分複素QMFサブバンドへと変換される。K個の実数サブバンド信号からなる第1のグループは、マルチバンドフィルタ600によって濾波され、乗算器620によって負の虚数単位(−i)が乗算され、加算器630によってK個の遅延された実数サブバンド信号へ加算されて、K個の複素サブバンド信号が生成される。上述したように、K個の実数サブバンド信号を加算器630による処理より前に遅延させる遅延器610は、任意選択的なものである。加算器630又は計算器650により出力されたK個の複素サブバンド信号は、固定実数ゲイン調整器640によってゲイン調整を実行され、この実数から複素数への変換器のK個の複素サブバンドとして、つまり実数/複素変換器520を備える部分複素分析フィルタバンクのK個の複素サブバンドとして出力される。
【0084】
(64−K)個の実数サブバンド信号からなる第2のグループが多少なりとも存在する場合、このグループは、任意選択的な第2の遅延器660によって単に遅延される。任意選択的な遅延器610と660との両方は、マルチバンドフィルタ600によって導入される可能性のある遅延を補償する役割を持つ。この遅延の長さは、典型的には、マルチバンドフィルタ600内に含まれるマルチバンドフィルタのセットの順位に関連する。典型的には、この遅延の長さは、マルチバンドプロトタイプフィルタの順位の半分である。これは、後段において詳記する実施形態においては、任意選択的な2つの遅延器610、660によって生成される遅延は、サブバンドサンプル5個分になることを意味する。上段において、特に図4のマルチバンドフィルタの説明に関連して詳述したように、マルチバンドフィルタは、下記の計算を実行することによって最初のK個のQMFサブバンド信号に作用する。ここで、

は計算器650により出力された複素サブバンド信号の虚数部になるマルチバンドフィルタ600の出力を表し、
【数26】

で与えられる。
【0085】
項fm,r[v]はフィルタ関数を表し、

はマルチバンドフィルタに対して入力される実数サブバンド信号を表す。さらに、QMFサブバンドの総和限界は、
【数27】

及び、
【数28】

によって定義される。
【0086】
フィルタ関数fm,r[v]はマルチバンドフィルタ600の2つのプロトタイプフィルタから導出され、これら2つのプロトタイプフィルタは、主として2つのマルチバンドフィルタプロトタイプ係数av[n]により決定される。但しv=0,1である。より具体的には、フィルタ関数fm,r[v]は関係式
【数29】

を満足する。ここで、マルチバンドフィルタプロトタイプ係数a0[v]は下記の表1で与えられる関係式を満たす。
【表1】

【0087】
さらに、マルチバンドフィルタプロトタイプ係数a1[v]は下記の表2で与えられる関係式を満たす。
【表2】

【0088】
つまり、フィルタ関数fm,r[v]は表1及び2で与えられているプロトタイプフィルタ係数から式(29)を用いて導出される。
【0089】
図13に示すように、マルチバンドフィルタ600の出力

は計算器650により遅延された実数QMFサブバンドサンプル

と結合され、その結果、部分複素QMFサブバンドサンプル

が形成される。より具体的には、出力

は関係式
【数30】

を満足する。ここで、実数QMFサブバンドサンプル

の上付き文字(n−5)の中には、2つの遅延器610、660による影響が表されている。上述したように、この遅延の長さは、典型的には、表1及び表2に示されたマルチバンドプロトタイプフィルタ係数av[n]の順位の半分である。つまり、サブバンドサンプル5個分になる。
【0090】
本発明の他の実施形態では、マルチバンドフィルタプロトタイプ係数av[n]は、v=0,1のとき、下記の表3及び表4で与えられている関係式を満足する。
【表3】

【表4】

【0091】
本発明のさらに他の実施形態では、マルチバンドフィルタプロトタイプ係数av[n]は、v=0,1のとき、下記の表5に示す値を持つ。
【表5】

【0092】
上述の式(18)から式(20)までの数学的背景説明、特に式(18)における式の特性に関する説明の中で、結果的に得られる係数av[n]の構成は幾分かの対称性を含む。具体的には、同じく上述の表5に示される係数でも表すように、係数av[n]はv=0,1及びn=0,...,10について対称関係式
v[10−n]=av[n] (30a)
を満足し、n=0,...,4について対称関係式
0[2n+1]=0 (30b)
を満足する。
【0093】
図11を参照すると、部分複素サブバンドQMF信号は、実数QMF合成570より前に複素数から実数への変換器560によって実数QMF信号へと変換される。図14は、この複素数から実数への変換器560を詳述するものである。
【0094】
図14に示す複素数から実数への変換器560は、K個の複素サブバンド信号と(64−K)個の実数サブバンド信号とを含む64個のサブバンド信号を受け取る。K個の複数の複素サブバンド信号又はK個の複素サブバンドは、複素数から実数への変換器560の任意選択的な構成要素である固定ゲイン調整器700へ入力される。上述したように、Kは1から64までの範囲内の正の整数を表す。また、本発明は64個のサブバンド信号に限定されるものではなく、64以上又は以下の個数のサブバンド信号をも処理することができる。その場合、後述する実施形態におけるパラメータは適宜変更されなければならないことがある。
【0095】
固定ゲイン調整器700は、上述のようにセパレータ710又は抽出器710へと接続される。このセパレータ又は抽出器710は実数部抽出器720と虚数部抽出器730とを備え、これらは共に固定ゲイン調整器700からの出力を入力として受け取る。しかしながら、任意選択的な固定ゲイン調整器700が実装されていなければ、セパレータ710又は抽出器710はK個の複素サブバンド信号を直接的に受け取る。実数部抽出器720は任意選択的な第1の遅延器740へと接続され、虚数部抽出器730はマルチバンドフィルタ750へと接続される。第1の遅延器740及びマルチバンドフィルタ750は共に計算器760へと接続され、この計算器760は出力において、本発明の複素数から実数への変換器560の出力としてK個の実数サブバンド信号を出力する。
【0096】
さらに、複素数から実数への変換器560に対し(64−K)個の実数サブバンド信号が入力される。図14では、これらは実数サブバンドとも呼ばれ、同じく任意選択的な構成要素である第2の遅延器770へと入力される。複素数から実数への変換器560の出力においては、上記(64−K)個の実数サブバンド信号は遅延された形式で出力される。しかしながら、第2の遅延器770が実装されていなければ、(64−K)個の実数サブバンド信号は修正されないまま送られる。
【0097】
図14に示す実施形態では、部分複素QMFサブバンド信号

の複素部分、即ちK個の複素サブバンド信号は、固定ゲイン調整器700によってゲイン調整を実行される。固定ゲイン調整器700は、入力される全ての複素サブバンド信号に対し、例えば1/√2である実数値係数を乗じる。その後、セパレータ710は、実数部抽出器720と虚数部抽出器730とを使用してゲイン調整された信号を
【数31】

に従って実数部信号

と虚数部信号

とに分割する。
【0098】
図14に示す実施形態では、複素サブバンド信号

の前の係数1/√2が固定ゲイン調整器700によって供給される。
【0099】
マルチバンドフィルタ750は、下記の数学演算式
【数32】

を実行することによって、実数値信号である虚数部信号

に対する演算を実行する。
【0100】
マルチバンドフィルタ750は、K個の実数中間サブバンド信号

から成るセットを出力する。式(32)におけるQMFサブバンド総和限界値p(m)及びq(m)は、先述した式(27)及び(28)によって各々定義されている。さらに、フィルタ関数gm,r[v]は、表1及び表2、表3及び表4、又は表5に明示されているようなプロトタイプフィルタ係数から、関係式
【数33】

を用いて導出される。
【0101】
セパレータ710又は抽出器710とマルチバンドフィルタ750とにより処理された、K個の複素サブバンド信号に関連するQMF信号

を取得するために、計算器760は、マルチバンドフィルタ750によって出力された中間サブバンド信号と、遅延器740により遅延された形式で出力された実数部信号とを合計する。
【0102】
残りの(64−K)個の実数サブバンド信号は、第2の遅延器770の影響に起因して遅延された形式で送られる。つまり、図11の実数QMF合成バンク570へ供給されるべきQMF信号

は、演算、
【数34】

を実行することによって取得される。
【0103】
式(30)の説明において既に記述したように、実数部信号

と実数サブバンド信号

との両方の上付き文字(n−5)は、第1の遅延器740と第2の遅延器770とに起因して生じるものであり、典型的には、その遅延の長さは、表1から表5までに示されているマルチバンドプロトタイプフィルタav[n]の順位の半分である。上述の通り、これはサブバンドサンプル5個分に相当する。
【0104】
図13について説明したように、本発明は、64個のサブバンド信号又はK個の複素サブバンド信号の何れにも限定されない。実際には、複素サブバンド信号の数Kが全てのサブバンド信号の数に等しければ(K=64)、図13における第2の遅延器660のように第2の遅延器770も省略することができる。従って、全体的なサブバンド信号の数(整数L=64)は限定的でも必須でもなく、図14に示す構成要素の適正なパラメータを調整することにより、複素数から実数への変換器560への入力として、原則的には任意の数Lのサブバンド信号を使用することができる。
【0105】
また本発明は、サブバンド上での指数mに関連するサブバンド信号の対称的な分布に作用するマルチバンドフィルタ204,306,401,600,750に限定されるものでもない。換言すれば、本発明は、マルチバンドフィルタにより出力された中間サブバンド信号の指数に関して対称的に分布された指数を有するサブバンド信号又は他の信号を結合するようなマルチバンドフィルタに限定されるものではない。例えば指数mと整数m’とを有するサブバンドから開始して、指数m、(m+m’)及び(m−m’)を有するサブバンドを使用することにより信号を結合するようなマルチバンドフィルタに限定されるものではない。非常に小さいか、又は非常に大きな指数を有するサブバンドを使用したために、サブバンド信号の対称的な選択など問題外であるような明らかに制限される場合は別として、マルチバンドフィルタにより出力された中間サブバンド信号の各々について、マルチバンドフィルタはサブバンド信号の個々の結合を使用するように設計されてもよい。つまり、中間サブバンド信号を取得すべく処理されるサブバンド信号の数は3つから外れてもよい。例えば先に指摘したように、異なるフィルタ係数を持つ異なるフィルタが選ばれた場合には、合計で3を超える数のサブバンド信号を使用することも妥当であろう。さらにマルチバンドフィルタは、マルチバンドフィルタへ入力されるサブバンド信号の指数に一致しない指数を有する中間サブバンド信号を供給又は出力するように設計されてもよい。つまり、マルチバンドフィルタが指数mを有する中間サブバンド信号を出力する場合でも、マルチバンドフィルタへ入力されるサブバンド信号としては、必ずしも同じ指数を有するサブバンド信号が必要とされるわけではない。
【0106】
さらに、変換器520、560の一方又は両方を備えるシステムは、追加的なエイリアシング検出器及び/又はエイリアシング等化器又はエイリアシング等化手段を備えてもよい。
【0107】
本発明の方法の所定の実装要件に依存するが、本発明の方法はハードウェア又はソフトウェアのいづれにも実装することができる。実装形態は、デジタル記憶媒体を使用して、具体的には、電子的に読取り可能な制御信号を格納し、本発明の方法が実行されるようにプログラム可能なコンピュータシステムと共働するディスク、CD又はDVDを使用して実行されてもよい。従って、概して本発明は、機械読取りが可能なキャリア上へ格納されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品であり、上記プログラムコードは、上記コンピュータプログラム製品がコンピュータで使用されると本発明の方法を実行すべく動作する。換言すれば、本発明の方法は、上記コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されたとき、本発明の方法の少なくとも1つを実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムである。
【0108】
以上、本発明をその特定の実施形態に関連して説明したが、当業者には本発明の範囲を逸脱することなく形式及び詳細事項に他の様々な変更を行い得ることが理解されるであろう。また異なる実施形態への適合化に際しても、本明細書に開示されかつ添付の請求の範囲に包含される広範な概念を逸脱することなく、様々な変更を行い得ることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】部分複素信号の処理を示す図である。
【図2】部分複素分析フィルタバンクを示す図である。
【図3】部分複素合成フィルタバンクを示す図である。
【図4】マルチバンドフィルタリングを示す図である。
【図5】複数のサイン成分を含む原信号のスペクトルを示す図である。
【図6】部分複素フィルタバンク内におけるサブバンド修正を行わず、本発明が教示する途切れのない遷移特性を組み込んでいない分析及び合成により取得された信号のスペクトルを示す図である。
【図7】複素フィルタバンクのサブバンドドメインにおける修正により取得された信号のスペクトルを示す図である。
【図8】実数フィルタバンクのサブバンドドメインにおける修正により取得された信号のスペクトルを示す図である。
【図9】本発明の教示に従って、部分複素フィルタバンクのサブバンドドメインにおける修正により取得された信号のスペクトルを示す図である。
【図10】空間オーディオ符号化における時間/周波数変換のためのハイブリッドQMF分析バンクを示す図である。
【図11】空間オーディオ符号化における時間/周波数変換のためのハイブリッドQMF合成バンクを示す図である。
【図12】実数分析QMFバンクのフローチャートを示す図である。
【図13】複数の実数サブバンド信号を処理するための本発明の装置の実数から複素数への変換器としての実施形態を示す図である。
【図14】複数の複素サブバンド信号を処理するための本発明の装置の複素数から実数への変換器としての実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素サブバンド信号を取得するため、第1の実数サブバンド信号と第2の実数サブバンド信号とを含む複数の実数サブバンド信号を処理する装置(210;520)であって、
上記第1の実数サブバンド信号を濾波して第1の濾波されたサブバンド信号を取得し、上記第2の実数サブバンド信号を濾波して第2の濾波されたサブバンド信号を取得し、かつ上記第1及び第2の濾波されたサブバンド信号を結合して実数中間サブバンド信号を取得し、この中間サブバンド信号を出力するマルチバンドフィルタ(204;401;600)と、
上記複素サブバンド信号の実数部としての上記複数の実数サブバンド信号からの上記実数サブバンド信号と、上記複素サブバンド信号の虚数部としての上記中間サブバンド信号に基づく信号とを結合することによって、上記複素サブバンド信号を出力する計算器(215;650)と、
上記実数サブバンド信号を遅延させ、この遅延された実数サブバンド信号を上記計算器(215;650)へと供給する遅延器(203;610)と、
を備える装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置(210;520)であって、上記計算器(215;650)から上記複素サブバンド信号を受け取り、かつ上記複素サブバンド信号の値を調整するゲイン調整器(207;640)を備えることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の装置(210;520)であって、上記複数の実数サブバンド信号は実数QMF分析バンク(500)によって出力されることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、低域通過フィルタ特性、高域通過フィルタ特性又は帯域通過フィルタ特性を用いて、上記第1の実数サブバンド信号を濾波し、かつ上記第2の実数サブバンド信号を濾波することを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置(210;520)であって、上記実数サブバンド信号の各信号に対し、その実数サブバンド信号に関連する中心周波数に従って指数mを割り当て、この指数mが増大するにつれて上記実数サブバンド信号をその信号に関連する中心周波数に従って配置し、上記複数の実数サブバンド信号はK個の実数サブバンド信号を含み、Kは正の整数であり、mは0から(K−1)までの範囲内の整数であることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、上記実数中間サブバンド信号に対し、上記第1の実数サブバンド信号に関連する指数mに対応する指数mを割り当てることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、上記複数の実数サブバンド信号からの信号であって指数(m+1)又は(m−1)と関連する1つの実数サブバンド信号を、上記第2の実数サブバンド信号として使用することを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、さらに第3の実数サブバンド信号を濾波して第3の濾波されたサブバンド信号を取得し、上記第1の濾波されたサブバンド信号と上記第2の濾波されたサブバンド信号と上記第3の濾波されたサブバンド信号とを結合することにより上記実数中間サブバンド信号を出力するものであり、上記第2の実数サブバンド信号の指数は(m−m')でかつ上記第3の実数サブバンド信号の指数は(m+m')であるか、又は上記第2の実数サブバンド信号の指数は(m+m')でかつ上記第3の実数サブバンド信号の指数は(m−m')であるかのいずれかであり、m'は正の整数であり、mは上記第1の実数サブバンド信号の指数であることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、さらに第3の実数サブバンド信号を濾波して第3の濾波されたサブバンド信号を取得し、上記第1の濾波されたサブバンド信号と上記第2の濾波されたサブバンド信号と上記第3の濾波されたサブバンド信号とを結合することにより上記実数中間サブバンド信号を出力するものであり、上記第1の実数サブバンド信号の指数は(m−q(m))であり、上記第2の実数サブバンド信号の指数はmであり、上記第3のサブバンド信号の指数は(m+p(m))であり、q(m)及びp(m)は次式
【数1】

及び、
【数2】

で定義されることを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、次式
【数01】

から導かれる値

を有するK個の実数中間サブバンド信号を、上記K個の実数サブバンド信号のためにそれぞれ出力するものであり、nとmとは正の整数であり、指数mは0から(K−1)までの範囲内の正の整数であり、vは0から10までの範囲内の整数であり、フィルタfm,r[v]は次式を満たし、
【数02】

0[v]とa1[v]とはプロトタイプフィルタの係数であり、上記プロトタイプフィルタの各係数a0[v]とa1[v]とは次の関係式、
【表1】

及び、
【表2】

に従うことを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置(210;520)であって、上記マルチバンドフィルタ(204;401;600)は、上記プロトタイプフィルタの係数a0[v]とa1[v]とが次の関係式、
【表3】

及び、
【表4】

に従うように設計されていることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項5乃至11のいずれか1項に記載の装置(210;520)であって、上記計算器(215;650)は、指数m及び次式
【数03】

から導かれる値

を有するK個の複素サブバンド信号を出力するものであり、k、n、mは整数であり、mは0から(K−1)までの範囲内にあり、

は実数サブバンド信号の値を表し、

は実数中間サブバンド信号の値を表し、iは、

である虚数単位を表すことを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項5乃至12のいずれか1項に記載の装置(210;520)であって、(L−K)個の実数サブバンド信号よりなる、さらなる複数の実数サブバンド信号を受け取り、かつ上記さらなる複数の実数サブバンド信号を実数サブバンド信号として出力するものであり、Lは正の整数であり、LはKより大きいか又はKに等しいことを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置(210;520)であって、上記正の整数Lが64に等しくなるように設定されていることを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の装置(210;520)であって、上記さらなる複数の実数サブバンド信号の上記実数サブバンド信号を遅延させるためのさらなる遅延器(202;660)を備え、上記さらなる複数の実数バンド信号を遅延された形式で出力することを特徴とする装置。
【請求項16】
複数の複素サブバンド信号を処理する装置(310;560)であって、上記複数の複素サブバンド信号は実数サブバンド信号を取得するための第1の複素サブバンド信号と第2の複素サブバンド信号とを含み、
上記第1の複素サブバンド信号から第1の虚数部を抽出し、上記第2の複素サブバンド信号から第2の虚数部を抽出し、かつ上記複数の複素サブバンド信号の上記第1、第2又は第3の複素サブバンド信号から実数部を抽出する抽出器(309;710)と、
上記第1の虚数部を濾波して第1の濾波された虚数部信号を取得し、上記第2の虚数部を濾波して第2の濾波された虚数部信号を取得し、かつ上記第1の濾波された虚数部信号と上記第2の濾波された虚数部信号とを結合して実数中間サブバンド信号を取得し、この中間サブバンド信号を出力するマルチバンドフィルタ(306;750)と、
上記実数部と上記中間サブバンド信号とを結合することによって上記実数サブバンド信号を出力する計算器(307;760)と、
上記実数部信号を遅延させ、上記実数部信号を上記計算器(307;760)へと遅延された形式で送るための遅延器(305;740)と、
を備える装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置(310;560)であって、上記複数の複素サブバンド信号のうちの1つの複素サブバンド信号の値

を調整するゲイン調整器(301;700)を備えることを特徴とする装置。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の装置(310;560)であって、上記抽出器(309;710)は、上記第1の複素サブバンド信号から第1の実数部を抽出し、かつ上記第2の複素サブバンド信号から第2の実数部を抽出することを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項16乃至18のいずれか1項に記載の装置(310;560)であって、上記マルチバンドフィルタ(306;750)は、低域通過フィルタ特性、高域通過フィルタ特性又は帯域通過フィルタ特性を用いて、上記第1の虚数部信号を濾波し、上記第2の虚数部信号を濾波することを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項16乃至19のいずれか1項に記載の装置(310;560)であって、上記実数サブバンド信号の各信号に対し、その実数サブバンド信号に関連する中心周波数に従って指数mを割り当て、この指数mが増大するにつれて上記実数サブバンド信号をそれらの信号に関連する中心周波数に従って配置するものであり、上記複数の実数サブバンド信号はK個の実数サブバンド信号を含み、Kは正の整数でありかつmは0から(K−1)までの範囲内の整数であることを特徴とする装置。
【請求項21】
請求項20に記載の装置(310;560)であって、上記抽出器(309;710)は、上記指数mを持つ上記複数の複素サブバンド信号のうち、値

を有する各複素サブバンド信号について、実数値実数部信号には値

を与え、実数値虚数部信号には値

を与えるものであり、指数mは0から(K−1)までの範囲内にあり、

は、次式
【数04】

の関係を満たすことを特徴とする装置。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の装置(310;560)であって、上記抽出器(309;710)は、各虚数部信号及び/又は実数部信号に上記虚数部信号及び/又は実数部信号へ分離される複素サブバンド信号の指数mを関連づけることを特徴とする装置。
【請求項23】
請求項22に記載の装置(310;560)であって、上記マルチバンドフィルタ(306;750)は、上記第1の虚数部信号の指数mに対応する中間サブバンド信号に指数mを関連づけることを特徴とする装置。
【請求項24】
請求項23に記載の装置(310;560)であって、上記マルチバンドフィルタ(306;750)は、指数(m+1)又は(m−1)を有する虚数部信号を上記第2の虚数部信号として使用し、上記指数mは上記第1の虚数部信号の指数であることを特徴とする装置。
【請求項25】
請求項23又は24に記載の装置(310;560)であって、上記マルチバンドフィルタ(306;750)は、上記複数の複素サブバンド信号のうちの第3の複素サブバンド信号の虚数部に対応し、かつ上記抽出器(309;710)から受け取られた第3の虚数部信号を濾波して第3の濾波された虚数部信号を取得し、上記第1の濾波された虚数部信号と上記第2の濾波された虚数部信号と上記第3の濾波された虚数部信号とを結合して上記中間サブバンド信号を取得し、上記第2の虚数部信号は指数(m−m')に、上記第3の虚数部信号は指数(m+m')にそれぞれ関連づけられるか、又は上記第2の虚数部信号は指数(m+m')に、上記第3の虚数部信号は指数(m−m')にそれぞれ関連づけられるか、のいずれかであり、mは上記第1の虚数部信号の指数であり、m'は正の整数であることを特徴とする装置。
【請求項26】
請求項25に記載の装置(310;560)であって、上記マルチバンドフィルタ(306;750)は、各中間サブバンド信号のための上記第1の中間サブバンド信号としての実数中間サブバンド信号に指数mを与えることを特徴とする装置。
【請求項27】
請求項23乃至26のいずれか1項に記載の装置(310;560)であって、上記マルチバンドフィルタ(306;750)は、指数mを有するK個の実数値虚数部信号のために、値

を有するK個の実数中間サブバンド信号をそれぞれ次式により出力することができ、
【数05】

nとmとは整数であり、mは0から(K−1)までの範囲内にあり、vは0から10までの範囲内の整数であり、
【数06】

であり、a0[v]及びa1[v]はプロトタイプフィルタの係数であり、a0[v]及びa1[v]はそれぞれ次の関係式、
【表1】

及び、
【表2】

に従うことを特徴とする装置。
【請求項28】
請求項27に記載の装置(310;560)であって、上記プロトタイプフィルタの係数a0[v]及びa1[v]は次の関係式
【表3】

及び、
【表4】

に従うことを特徴とする装置。
【請求項29】
請求項20乃至28のいずれか1項に記載の装置(310;560)であって、上記計算器(307;760)は、上記実数サブバンド信号の値

と上記中間サブバンド信号の値

とに基づいて、次式
【数07】

により上記実数サブバンド信号に値

を与えるものであり、mは0から(K−1)までの範囲内のサブバンド信号の指数であることを特徴とする装置。
【請求項30】
請求項20乃至29のいずれか1項に記載の装置(310;560)であって、(L−K)個の実数サブバンド信号を含むさらなる複数の実数サブバンド信号を受け取り、上記さらなる複数の実数サブバンド信号を出力することができ、LはKに等しいか又はKより大きい正の整数であることを特徴とする装置。
【請求項31】
請求項30に記載の装置(310;560)であって、上記整数Lは64であることを特徴とする装置。
【請求項32】
請求項30又は31に記載の装置(310;560)であって、上記さらなる複数の実数サブバンド信号を遅延させ、これらの実数サブバンド信号を遅延された形式で送るための遅延器(770)をさらに備えることを特徴とする装置。
【請求項33】
オーディオ入力信号を処理して複数の実数サブバンド信号を取得するための分析フィルタバンク(500)と、
複素サブバンド信号を取得するために、上記複数の実数サブバンド信号を処理する請求項1乃至15のいずれか1項に記載の装置(210;520)と、
上記複素サブバンド信号を受け取り、その複素サブバンド信号を修正された形式で出力するための修正要素(103)と、
実数サブバンド信号を取得するための請求項16乃至32のいずれか1項に記載の装置(310;560)と、
上記実数サブバンド信号を処理してオーディオ出力信号を取得するための合成フィルタバンク(570)と、を備えるシステム。
【請求項34】
請求項33に記載のシステムであって、上記分析フィルタバンク(500)は上記複数の実数サブバンド信号がL個の実数サブバンド信号を含むように構成されており、Lは正の整数であり、
上記複数の実数サブバンド信号を処理する装置(210;520)は、複数の複素サブバンド信号とさらなる複数の実数サブバンド信号とを出力するように構成されており、
上記複数の複素サブバンド信号はK個の複素サブバンド信号を含み、かつ上記さらなる複数の実数サブバンド信号は(L−K)個の実数サブバンド信号を含み、Kは1からLまでの範囲内の整数であり、
上記修正要素(103)は、上記複数の複素サブバンド信号のうちK個の複素サブバンド信号を修正し、K個の複素サブバンド信号を修正された形式で出力するものであり、
上記システムは、上記さらなる複数の実数サブバンド信号を修正し、上記さらなる複数の実数サブバンド信号を修正された形式で出力する別の修正要素(102)をさらに備え、
上記装置(310;560)は、K個の実数サブバンド信号を含む上記複数の複素サブバンド信号と、(L−K)個の実数サブバンド信号を含む上記さらなる複数の実数サブバンド信号とを処理して、最終的な複数の実数サブバンド信号を得るものであり、
上記最終的な複数の実数サブバンド信号はL個の実数サブバンド信号を含み、
上記合成フィルタバンク(570)は、上記最終的な複数の実数サブバンド信号を上記オーディオ出力信号へと処理するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項35】
複素サブバンド信号を取得するために、第1の実数サブバンド信号と第2の実数サブバンド信号とを含む複数の実数サブバンド信号を処理する方法であって、
上記第1の実数サブバンド信号を濾波して第1の濾波されたサブバンド信号を取得するステップと、
上記第2の実数サブバンド信号を濾波して第2の濾波されたサブバンド信号を取得するステップと、
上記第1の濾波されたサブバンド信号と上記第2の濾波されたサブバンド信号とを結合して実数中間サブバンド信号を取得するステップと、
上記複素サブバンド信号の実数部としての上記複数の実数サブバンド信号からの実数サブバンド信号と、上記複素サブバンド信号の虚数部としての上記中間サブバンド信号に基づく信号とを結合するステップと、を含む方法。
【請求項36】
実数サブバンド信号を取得するために、第1の複素サブバンド信号と第2の複素サブバンド信号とを含む複数の複素サブバンド信号を処理する方法であって、
上記第1の複素サブバンド信号から第1の虚数部を抽出するステップと、
上記第2の複素サブバンド信号から第2の虚数部を抽出するステップと、
上記複数の複素サブバンド信号のうち上記第1、第2又は第3の複素サブバンド信号から実数部を抽出するステップと、
上記第1の虚数部を濾波して第1の濾波された虚数部信号を取得するステップと、
上記第2の虚数部を濾波して第2の濾波された虚数部信号を取得するステップと、
上記第1の濾波された虚数部信号と上記第2の濾波された虚数部信号とを結合して中間サブバンド信号を取得するステップと、
上記実数部と上記中間サブバンド信号とを結合して上記実数サブバンド信号を取得するステップと、を含む方法。
【請求項37】
請求項35又は36に記載の方法を実行するため、コンピュータ上で実行可能なコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−102981(P2011−102981A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254493(P2010−254493)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【分割の表示】特願2007−538442(P2007−538442)の分割
【原出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(502112267)ドルビー インターナショナル アクチボラゲット (56)
【氏名又は名称原語表記】Dolby International AB
【住所又は居所原語表記】Atlas Complex,Africa Building Hoogoorddreef9 1101 BA Amsterdam NETHERLANDS
【Fターム(参考)】