説明

部品の加飾装置及び加飾方法

【課題】絵柄に応じた適正な照射条件によってレーザを照射して部品表面の状態を変化させ、外観品質を高めることができる部品の加飾装置を提供すること。
【解決手段】部品の加飾装置10は、レーザ照射装置13と、レーザ照射装置13を制御するための制御装置14とを備える。制御装置14のメモリ32には、絵柄を示す柄データが記憶されるとともに、絵柄を構成する下地の色毎にレーザ照射による状態変化を示す状態変化データが記憶される。制御装置のCPU31は、メモリ32に記憶された柄データと状態変化データとに基づいて、絵柄の色分布に応じたレーザLの照射パラメータを設定し、その照射パラメータに基づいてレーザ照射装置13を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾装置及び加飾方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために樹脂成形体の表面に装飾を加えるようにした加飾部品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。このような加飾部品に装飾を加える加飾方法としては、水圧転写が一般的に用いられている(例えば特許文献1参照)。水圧転写とは、水面上に特殊フィルムを浮かべ、そのフィルムに印刷された所定の絵柄(木目模様や幾何学模様などの絵柄)を水圧によって樹脂成形体の表面に転写する技術である。この技術によれば、三次元曲面への印刷を行うことができる。
【0003】
また、安価で手軽な加飾方法として、レーザ描画が知られている。レーザ描画は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射し、レーザによって与えられた熱(以下、レーザ熱とする)により部品表面の状態を変化させて、絵柄を描くようにした加飾方法である。
【0004】
本発明者らは、水圧転写によって部品表面に印刷層を転写するとともに、その表面にレーザを照射して絵柄を描くようにした技術を開発している。この場合、部品表面において、絵柄の明るさや色彩の変化がつき、意匠性を向上させることが可能となる。
【0005】
因みに、特許文献2〜4等には、樹脂製成形体の表面にレーザを照射して文字をマーキングする技術が開示されている。これらの技術は、樹脂成形体の表面に複数色の文字や記号などをマーキングするための技術であるが、木目模様などのような複雑な絵柄を描くためのものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開平06−297828号公報
【特許文献3】特開平07−165979号公報
【特許文献4】特開平08−127175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一定の照射条件にてレーザを照射してレーザ描画を行う場合、印刷層に含まれる顔料の種類に応じて熱吸収率が異なるため、各顔料に応じた色分布毎に与えられる熱量に差が生じてしまう。具体的には、図8に示されるように、部品1の表面において絵柄を形成する印刷層3は、複数種類の顔料P1,P2を含んで構成されている。また、部品1の表面には、印刷層3を保護するクリアコート層5が形成されている。この印刷層3に一定の照射条件にてレーザLを照射すると、熱吸収率が高い顔料P1(例えば、色の濃い顔料)については、レーザ熱が過剰に加わり必要以上に状態が変化する(図9参照)。一方、熱吸収率が低い顔料P2(例えば、色の薄い顔料)については、レーザ熱が不足して状態変化が不十分となる(図9参照)。このように、部品表面に与えられる熱量に過不足が生じると、求める意匠を有する絵柄を得ることができなくなる。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、絵柄に応じた適正な照射条件によってレーザを照射して部品表面の状態を変化させ、外観品質を高めることができる部品の加飾装置及び部品の加飾方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描くレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置を制御するための制御装置とを備えた部品の加飾装置であって、前記制御装置は、前記絵柄を示す柄データを記憶するとともに、前記絵柄を構成する下地の色毎にレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記柄データと前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の色分布に応じたレーザの照射パラメータを設定するパラメータ設定部とを備えたことを特徴とする部品の加飾装置をその要旨とする。
【0010】
手段1に記載の発明によると、制御装置において、パラメータ設定部により絵柄の色分布に応じたレーザの照射パラメータが設定された後、その照射パラメータに基づいてレーザ照射装置が制御される。この場合、絵柄の色分布に適したレーザ熱を部品表面の描画領域に付与することができる。この結果、レーザ熱による状態変化が絵柄に応じて過不足なく行われ、部品の外観品質を高めることができる。
【0011】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記部品表面における前記絵柄の画像を撮像して前記柄データを取得するための絵柄取得装置をさらに備え、前記絵柄取得装置が取得した柄データを前記記憶部に記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0012】
手段2に記載の発明によると、絵柄取得装置によって絵柄の画像を撮像して取得した柄データが記憶部に記憶される。このように、絵柄の色分布に応じた柄データを取得することができるため、その柄データに応じてレーザの照射パラメータを正確に設定することができる。
【0013】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、前記部品は、その表面に水圧転写によって印刷層が転写されるとともに前記印刷層を保護するクリアコート層が形成された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた下地の色毎に、前記状態変化データを記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0014】
手段3に記載の発明によれば、部品表面には水圧転写によって印刷層が転写される。そして、その印刷層に用いられる顔料の種類に応じた下地の色毎に状態変化データが記憶部に記憶されている。このようにすると、印刷層に含まれる顔料に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、絵柄に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面において、絵柄の明るさや色彩の変化を確実につけることができ、その意匠性を向上させることが可能となる。
【0015】
手段4に記載の発明は、手段1または2において、前記部品は、印刷層と前記印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムが貼り付けられた後、または前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムの印刷層及びクリアコート層が転写された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記下地の色毎に、前記状態変化データを記憶するようにしたことをその要旨とする。
【0016】
手段4に記載の発明によれば、印刷層と印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、部品表面にドライ状態で印刷層を付加することができる。そして、その印刷層に用いられる顔料の種類に応じた下地の色毎に状態変化データが記憶部に記憶されている。このようにしても、印刷層に含まれる顔料に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、絵柄に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面において、絵柄の明るさや色彩の変化を確実につけることができ、その意匠性を向上させることが可能となる。
【0017】
手段5に記載の発明は、手段1乃至4のいずれかにおいて、レーザ照射によって加飾された前記絵柄の画像を撮像して画像データを取得する画像取得装置をさらに備え、前記制御装置は、前記画像データに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生している不良部位を検知し、前記不良部位に対応する前記照射パラメータを補正するパラメータ補正部をさらに備えたことをその要旨とする。
【0018】
手段5に記載の発明によると、レーザ照射による加飾後の絵柄の画像が画像取得装置によって撮像され、その絵柄の画像データが取得される。そして、パラメータ補正部により、絵柄の画像データに基づいて絵柄の描画不良の有無が判断され、描画不良が発生している不良部位については、照射パラメータが補正される。このようにすると、製造初期段階での部品の加飾時に描画不良が発生したとしても次の部品を加飾する際には、描画不良が発生しないようにレーザの照射条件を調整することができる。この結果、加飾部品の歩留まりを向上させることができる。
【0019】
手段6に記載の発明は、部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾方法であって、前記絵柄を示す柄データを取得するステップと、前記絵柄を構成する下地の色毎にレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを取得するステップと、前記柄データと、前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の色分布に応じたレーザの照射パラメータを設定するステップと、前記照射パラメータに応じて前記レーザを照射するステップとを含むことを特徴とする部品の加飾方法をその要旨とする。
【0020】
手段6に記載の発明によると、絵柄を示す柄データが取得されるとともに、絵柄を構成する下地の色毎にレーザ照射による状態変化を示す状態変化データが取得される。そして、それら柄データと状態変化データとに基づいて、絵柄の色分布に応じたレーザの照射パラメータが設定された後、その照射パラメータに応じてレーザが照射される。この場合、絵柄の色分布に適したレーザ熱を部品表面の描画領域に付与することができる。この結果、レーザ熱による状態変化が絵柄に応じて過不足なく行われ、部品の外観品質を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、手段1〜6に記載の発明によると、絵柄に応じた適正な照射条件によってレーザを照射して部品表面の状態を変化させ、外観品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施の形態の自動車用加飾部品を示す平面図。
【図2】一実施の形態の自動車用加飾部品を示す拡大断面図。
【図3】一実施の形態の部品の加飾装置を示す概略構成図。
【図4】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図5】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図6】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図7】別の実施の形態の部品の加飾装置を示す概略構成図。
【図8】従来の部品の加飾方法を示す説明図。
【図9】従来の部品の加飾方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に示されるように、自動車用加飾部品1は、立体形状の樹脂成形体2を備えており、その樹脂成形体2の表面(部品表面)の描画領域に、印刷層3が形成されている。なお、本実施の形態の自動車用加飾部品1は、ドアのアームレストを構成する内装部品である。また、印刷層3には、例えば木目模様の絵柄4が描画されている。さらに、自動車用加飾部品1の最上層となる印刷層3の上面には、印刷層3を保護するためのクリアコート層5が形成されている。
【0025】
本実施の形態において、印刷層3は、水圧転写法を用いて部品表面に転写されるものあり、複数の異なる顔料P1,P2を含んで構成されている。そして、水圧転写にて形成された印刷層3にレーザで熱を与えて、印刷層3に含まれる顔料P1,P2の状態を変化させることで、コントラスト差のある絵柄4が描画されている。本実施の形態において、顔料P1は、例えば、色が濃く熱吸収率が高い顔料である。顔料P1の具体例としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックを挙げることができる。また、顔料P2は、色が薄く熱吸収率が低い顔料である。顔料P2の具体例としては、二酸化チタン、酸化鉄、カドミウム、ストロンチウム、酸化クロム、コバルト、マンガン等と主成分とした無機顔料や、アゾ基(−N=N−)、ニトロソ基(−NO)、ニトロ基(−NO)等を有する有機顔料などがある。
【0026】
ここで、本実施の形態の自動車用加飾部品1を製造するための製造システムについて説明する。この製造システムは、図示しない水圧転写装置、塗装装置、及び図3に示す加飾装置10を備えている。水圧転写装置には、処理水を溜めておく転写槽が設けられている。水圧転写装置は、転写槽の処理水の水面において、基材上に印刷層3を形成してなる転写フィルム(図示略)を浮かべ、その状態で転写フィルムの上方から樹脂成形体2を押し付けることにより、樹脂成形体2の表面上に印刷層3を水圧で転写する。また、塗装装置は、クリア塗料を噴霧することにより、印刷層3が転写された樹脂成形体2の表面にクリアコート層5を塗装する。
【0027】
図3に示されるように、本実施の形態の部品の加飾装置10は、搬送装置11、CCDカメラ12、レーザ照射装置13、及び制御装置14を備えている。搬送装置11は、自動車用加飾部品1を搬送するための装置であり、自動車用加飾部品1を支持する搬送テーブル16やそのテーブル16を移送する搬送コンベア17などを含んで構成されている。また、レーザ照射装置13よりも前方の搬送位置に対向してCCDカメラ12(絵柄取得装置)が配置されている。
【0028】
CCDカメラ12は、レーザ照射装置13によるレーザ照射前の印刷層3の絵柄4の画像を撮影する。CCDカメラ12は、撮像した画像に基づいて絵柄画像データを生成して、その画像データを制御装置14に出力する。
【0029】
レーザ照射装置13は、レーザLを発生させるレーザ発生部21と、レーザLを偏向させるレーザ偏向部22と、レーザ発生部21及びレーザ偏向部22を制御するレーザ制御部23とを備えている。レーザ偏向部22は、レンズ24と反射ミラー25とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ24及び反射ミラー25の位置を変更することにより、レーザLの照射位置や焦点位置を調整するようになっている。レーザ制御部33は、レーザ発生部21及びレーザ偏向部22を制御することで、レーザLの照射強度、レーザLの走査速度などのレーザ照射条件を調整する。
【0030】
制御装置14は、CPU31、メモリ32(記憶部)及び入出力ポート33等からなる周知のコンピュータにより構成されている。制御装置14は、CCDカメラ12及びレーザ照射装置13に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0031】
また、メモリ32には、レーザ照射装置13のレーザ照射条件(レーザLの照射時間、レーザLの照射強度、レーザLのスポット径など)を示すデータが記憶される。さらに、メモリ32には、CCDカメラ12から取得した絵柄画像データが記憶されるとともに、印刷層3の絵柄4を構成する顔料P1,P2の種類に応じた下地の色毎に、レーザ照射による状態変化を示す状態変化データが記憶されている。
【0032】
次に、自動車用加飾部品1の製造方法を説明する。
【0033】
先ず、樹脂材料(例えばABS樹脂)を用いて所定の立体形状に成形した樹脂成形体2を準備する。そして、水圧転写装置を用い、樹脂成形体2の表面に印刷層3を水圧にて転写する(図4参照)。さらに、塗装装置を用いて、樹脂成形体2の表面にクリア塗料を塗装することで、印刷層3を保護するクリアコート層5を形成する(図5参照)。その後、表面に印刷層3及びクリアコート層5が形成された樹脂成形体2が、その表面を上に向けた状態で搬送装置11の搬送テーブル16上(図3参照)にセットされ、搬送コンベア17によってCCDカメラ12と対向する位置に搬送される。
【0034】
制御装置14のCPU31は、駆動信号を生成し、生成した駆動信号をCCDカメラ12に出力する。そして、CCDカメラ12は、その駆動信号に基づいて、印刷層3の絵柄4の画像を撮像する。さらに、CCDカメラ12は、撮像した絵柄4の画像に基づいて、絵柄4を示す絵柄画像データを生成する。その後、CCDカメラ12は、得た絵柄画像データを制御装置14に出力する。制御装置14のCPU31は、CCDカメラ12から取得した絵柄画像データを絵柄4に対応した柄データとしてメモリ32に一旦記憶する。また、CCDカメラ12で絵柄4の画像が撮像された後、搬送テーブル16上の樹脂成形体2が搬送コンベア17によってレーザ照射装置13と対向する位置に搬送される。
【0035】
その後、CPU31は、絵柄4の柄データに基づいて、印刷層3の絵柄4を構成する顔料P1,P2の種類に応じた下地の色を判断し、下地の色毎に状態変化データをメモリ32から読み出す。そして、パラメータ設定部としてのCPU31は、柄データと、状態変化データとに基づいて、絵柄4の色分布に応じたレーザLの照射パラメータを設定する。さらに、CPU31は、照射パラメータに応じた駆動信号を生成し、生成した駆動信号をレーザ照射装置13に出力する。
【0036】
レーザ照射装置13は、CPU31から出力された駆動信号に基づいて、樹脂成形体2表面の印刷層3にレーザL1,L2(図6参照)を照射する。ここで、レーザ照射装置13のレーザ制御部23は、絵柄4の色分布に応じた照射強度のレーザL1,L2をレーザ発生部21から出力させ、絵柄4のパターンに応じてレーザ偏向部22を制御する。この結果、熱吸収率が高い顔料P1を多く含んだ描画領域には、比較的弱い照射強度のレーザL1が照射される一方、熱吸収率が低い顔料P2を多く含んだ描画領域には、比較的強い照射強度のレーザL2が照射される。そして、そのレーザ熱によって印刷層3に含まれる各顔料P1,P2の状態が変化する。具体的には、印刷層3に含まれる各顔料P1,P2が変色して、要求される意匠性を有する絵柄4が描画される。以上の工程を経て自動車用加飾部品1が製造される。
【0037】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0038】
(1)本実施の形態の部品の加飾装置10では、制御装置14のCPU31により絵柄4の色分布に応じたレーザLの照射パラメータが設定された後、その照射パラメータに基づいてレーザ照射装置13が制御される。この場合、絵柄4の色分布に適したレーザ熱を部品表面の描画領域に付与することができる。この結果、レーザ熱による状態変化が絵柄4に応じて過不足なく行われ、自動車用加飾部品1の外観品質を高めることができる。
【0039】
(2)本実施の形態の部品の加飾装置10では、CCDカメラ12によって印刷層3における絵柄4の画像を撮像して取得した画像データが柄データとしてメモリ32に記憶される。本実施の形態のように、水圧転写によって樹脂成形体2の表面に印刷層3を転写する場合、絵柄4のパターンや位置が製品毎に異なる。このような場合でも、CCDカメラ12を用いて絵柄4の色分布に応じた柄データを取得することができ、その柄データに応じてレーザLの照射パラメータを正確に設定することができる。
【0040】
(3)本実施の形態の部品の加飾装置10では、印刷層3に用いられる顔料P1,P2の種類に応じた下地の色毎に、状態変化データがメモリ32に記憶されている。この場合、印刷層3に含まれる顔料P1,P2に応じた適切な照射パラメータを設定することができるため、印刷層3において絵柄4に応じた熱量をレーザ照射によって過不足なく与えることができる。この結果、部品表面において、絵柄4の明るさや色彩の変化を確実につけることができ、その意匠性を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0042】
・上記実施の形態では、樹脂成形体2の表面に水圧転写法にて印刷層3を転写するものであったが、これに限定されるものではなく、例えばインクジェット法等の他の手法で印刷層3を形成してもよい。インクジェット法で印刷層3を印刷する場合、樹脂成形体2の表面における所定の位置に絵柄4を形成することができる。このため、その絵柄4の柄データをメモリ32に予め記憶させておけば、CCDカメラ12で絵柄4の画像を撮像する必要がない。この場合、CCDカメラ12を省略することによって、加飾装置10の簡素化が可能となる。
【0043】
また、水圧転写法のようなウエット状態ではなく、ドライ状態で樹脂成形体2の表面に印刷層3を付加してもよい。ドライ状態で印刷層3を樹脂成形体2の表面に付加する方法としては、印刷層3とクリアコート層5とを有する加飾フィルムを用い、樹脂成形体2の表面に接着層を介して加飾フィルムを貼り付ける手法を採用してもよい。さらに、印刷層3を有する加飾フィルムを金型内に配置し、樹脂成形体2の樹脂成形時に加わる熱及び圧力を利用して樹脂成形体2の表面に印刷層3を転写する手法(インモールド転写法)を採用してもよい。またここで、印刷層3とクリアコート層5とを有する加飾フィルムを用いてもよく、樹脂成形時にて、印刷層3とクリアコート層5とを樹脂成形体2表面に転写してもよい。さらに、印刷層3の転写後にクリア塗料を噴霧してクリアコート層5を形成してもよい。なおこの場合、レーザ照射を行うタイミングとしては、クリアコート層5の形成前または形成後のいずれのタイミングであってもよい。
【0044】
また、図7に示される加飾装置10のように、レーザ照射装置13よりも後方の搬送位置に対向して、CCDカメラ19(画像取得装置)を設けてもよい。このCCDカメラ19は、レーザ照射によって加飾された絵柄4の画像を撮像して画像データを取得し、その画像データを制御装置14に出力する。制御装置14のCPU31は、CCDカメラ19からの画像データを取得し、その画像データに基づいて、絵柄4の描画不良が発生している不良部位を検知する。ここで、絵柄4の描画不良が発生している場合、パラメータ補正部としてのCPU31は、不良部位に対応する描画領域の照射パラメータを補正し、その補正後の照射パラメータをメモリ32に記憶する。また、CPU31は、描画不良がある旨を表示装置(図示略)に表示させる。このように加飾装置10を構成すると、製造初期段階において自動車用加飾部品1の加飾時に描画不良が発生したとしても次の部品1を加飾する際には、描画不良が発生しないようにレーザ照射条件を調整することができる。この結果、自動車用加飾部品1の製品歩留まりを向上させることができる。
【0045】
・上記実施の形態の加飾装置10では、絵柄4の柄データを取得するためにCCDカメラ12を使用していたが、これに限定するものではない。具体的には、例えば、顔料の種類によっては、状態変化前にて無色透明である顔料も存在する。この顔料を使用して印刷層3を形成する場合、CCDカメラ12で撮影した画像データでは、印刷層3における顔料の色分布を判別することができない。このような場合には、X線カメラや赤外線カメラなど別の撮像装置を絵柄取得装置として使用してもよい。
【0046】
・上記実施の形態の加飾装置10では、絵柄4の色分布に応じた照射強度でレーザ照射を行っていたが、これに限定するものではなく、例えば、絵柄4の色分布に応じて、レーザLの走査速度やレーザLのスポット径などの照射パラメータを変更してもよい。具体的には、絵柄4の色分布に応じてレーザLの走査速度を変更する場合、絵柄4における色が濃い部分について、色が薄い部分よりもレーザLの走査速度を速めるように照射パラメータを設定する。
【0047】
・上記実施の形態の自動車用加飾部品1では、印刷層3は、複数種類の顔料P1,P2を含んで形成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、光沢剤や艶消し剤などを含む印刷層3を形成してもよいし、複数種類の染料を含む印刷層3を形成してもよい。また、印刷層3の絵柄4としては、木目模様の絵柄以外に、炭素繊維織物を示す模様の絵柄や、ヘアライン加工が施されたアルミパネルを示す模様の絵柄等であってもよい。
【0048】
・上記実施形態は、自動車用加飾部品1をドアのアームレストに具体化するものであったが、これ以外に、コンソールボックス、インストルメントパネルなどの部品に具体化してもよい。
【0049】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0050】
(1)手段2において、前記絵柄取得装置は、前記部品表面の画像を撮像するCCDカメラであることを特徴とする部品の加飾装置。
【0051】
(2)手段1乃至5のいずれかにおいて、前記照射パラメータは、前記レーザの出力または走査速度を設定するためのパラメータであり、前記パラメータ設定部は、前記絵柄における色が濃い部分について、色が薄い部分よりも前記レーザの出力を抑える、または走査速度を速めるように前記照射パラメータを設定することを特徴とする部品の加飾装置。
【0052】
(3)手段1または2において、前記部品は、その表面にドライ状態で印刷層が付加された後、レーザ照射を行って前記印刷層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記下地の色毎に、前記状態変化データを記憶するようにしたことを特徴とする部品の加飾装置。
【0053】
(4)技術的思想(3)において、前記部品表面に接着層を介して前記印刷層を有する加飾フィルムを貼り付けた後、前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【0054】
(5)技術的思想(3)において、前記部品は樹脂成形品であり、前記印刷層を有する加飾フィルムを金型内に配置し、前記部品の樹脂成形時に加わる熱及び圧力を利用して前記部品表面に印刷層を転写した後、前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【0055】
(6)技術的思想(5)において、前記加飾フィルムは、前記印刷層に加えてクリアコート層が形成されたフィルムであり、前記部品の樹脂成形時にて、前記印刷層と前記クリアコート層とを前記部品表面に転写するようにしたことを特徴とする部品の加飾装置。
【0056】
(7)技術的思想(5)において、前記部品表面にクリア塗料を噴霧して前記印刷層を保護するクリアコート層を形成する前、または前記クリアコート層を形成した後に前記レーザ照射を行うことを特徴とする部品の加飾装置。
【符号の説明】
【0057】
1…部品としての自動車用加飾部品
3…印刷層
4…絵柄
5…クリアコート層
10…加飾装置
12…絵柄取得装置としてのCCDカメラ
13…レーザ照射装置
14…制御装置
31…パラメータ設定部及びパラメータ補正部としてのCPU
32…記憶部としてのメモリ
L,L1,L2…レーザ
P1,P2…顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描くレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置を制御するための制御装置とを備えた部品の加飾装置であって、
前記制御装置は、
前記絵柄を示す柄データを記憶するとともに、前記絵柄を構成する下地の色毎にレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記柄データと前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の色分布に応じたレーザの照射パラメータを設定するパラメータ設定部と
を備えたことを特徴とする部品の加飾装置。
【請求項2】
前記部品表面における前記絵柄の画像を撮像して前記柄データを取得するための絵柄取得装置をさらに備え、前記絵柄取得装置が取得した柄データを前記記憶部に記憶するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の部品の加飾装置。
【請求項3】
前記部品は、その表面に水圧転写によって印刷層が転写されるとともに前記印刷層を保護するクリアコート層が形成された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、
前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記下地の色毎に、前記状態変化データを記憶するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の部品の加飾装置。
【請求項4】
前記部品は、印刷層と前記印刷層を保護するクリアコート層とを有する加飾フィルムを用い、前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムが貼り付けられた後、または前記部品表面にドライ状態で前記加飾フィルムの印刷層及びクリアコート層が転写された後、レーザ照射を行って前記印刷層及びクリアコート層の状態を変化させて前記絵柄が描かれるものであり、
前記記憶部には、前記印刷層に用いられる顔料の種類に応じた前記下地の色毎に、前記状態変化データを記憶するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の部品の加飾装置。
【請求項5】
レーザ照射によって加飾された前記絵柄の画像を撮像して画像データを取得する画像取得装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記画像データに基づいて、前記絵柄の描画不良が発生している不良部位を検知し、前記不良部位に対応する前記照射パラメータを補正するパラメータ補正部をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の部品の加飾装置。
【請求項6】
部品表面の描画領域に沿ってレーザを照射しその表面の状態を変化させて絵柄を描く部品の加飾方法であって、
前記絵柄を示す柄データを取得するステップと、
前記絵柄を構成する下地の色毎にレーザ照射による状態変化を示す状態変化データを取得するステップと、
前記柄データと、前記状態変化データとに基づいて、前記絵柄の色分布に応じたレーザの照射パラメータを設定するステップと、
前記照射パラメータに応じて前記レーザを照射するステップと
を含むことを特徴とする部品の加飾方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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