説明

部品台車及びこれを用いた生産システム

【課題】種々の不都合を来す重りを用いなくても転倒防止を図ることができる部品台車及びこれを用いた生産システムを提供すること。
【解決手段】筐体9に対して該筐体9の前後方向に摺動する一対以上の引き出し8と、対となる引き出しの一方が前記筐体9の前側に引き出されると、対となる引き出しの他方が前記筐体の後側へと引き出されるように、対となる二つの引き出しを連動させる連動機構10とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、組付部品を収容するための複数の引き出しを備えた部品台車及びこれを用いた生産システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用等のエンジンの生産システムとして、図1に示すように、作業者Sが部品台車51から所定の組付部品P(図5等参照)を取り出して組付対象としてのエンジン2に組み付ける組付ライン3と、前記エンジン2に組み付ける各種の組付部品Pを部品台車51に補充する補充ライン4とを備え、前記部品台車51が上記二つのライン3、4を循環するように構成したものがある。
【0003】
ここで、前記組付ライン3では、ベルトコンベア等の搬送装置5によって部品台車51をエンジン2と組にして搬送し、搬送装置5に沿って並んだ作業者Sは、それぞれが部品台車51から所定の組付部品Pを取り出してエンジン2に組み付ける。
【0004】
一方、前記補充ライン4では、作業者Sが部品棚6から所定の組付部品Pを取り出して部品台車51に補充する。尚、この補充ライン4では、部品台車51を手押し等によって走行移動させるのであり、そのために、図5に示すように、各部品台車51の下部には複数(例えば4個)のキャスター7を設けてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各部品台車51は、積み込む組付部品Pの数が多い等の理由から、図5に示すように、組付部品Pを収容する引き出し58を上下にわたって複数段備えている。そのため、組付ライン3において作業者Sが引き出し58を引き出すと、引き出し58自体やその中の組付部品Pに対して働く重力により部品台車51の転倒に繋がるトルクが生じ、部品台車51が不安定な状態になる。そこで、従来、図6(A)及び(B)に示すように、部品台車51の下部に、前記トルクの影響を打ち消し得る程度の重量を有する重り(ウエイト)Wを取り付け、部品台車51の転倒の防止を図っている。
【0006】
しかし、上記従来の転倒防止方法では重りWが部品台車51の重量化を招来し、これが、組付ライン3においては搬送装置5に掛かる負荷を増大させ、補充ライン4においては部品台車51の走行移動に際しての操作性を低下させる。加えて、重りWのサイズ、形状や取付位置等によっては、部品台車51の収容スペースが制限され、組付部品Pの収容スペースを確保するために部品台車51を大型化する必要が生じる懸念もある。
【0007】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、種々の不都合を来す重りを用いなくても転倒防止を図ることができる部品台車及びこれを用いた生産システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る部品台車は、筐体に対して該筐体の前後方向に摺動する一対以上の引き出しと、対となる引き出しの一方が前記筐体の前側に引き出されると、対となる引き出しの他方が前記筐体の後側へと引き出されるように、対となる二つの引き出しを連動させる連動機構とを備えている(請求項1)。
【0009】
また、本発明に係る部品台車において、対となる二つの引き出しが、上下又は左右に並べて配置されていてもよい(請求項2)。
【0010】
さらに、本発明に係る部品台車において、対となる二つの引き出しの一方の前部に第1被係止部を、後部に第2被係止部をそれぞれ設けてあり、対となる二つの引き出しの他方の前部に第3被係止部を、後部に第4被係止部をそれぞれ設けてあり、前記連動機構が、前記二つの引き出しを前後何れにも引き出していない閉状態において前記第1乃至第4被係止部にそれぞれ係止する第1乃至第4係止部を有する無端回動体を備え、該無端回動体が、前記筐体の前後方向に延び無端回動体の回動時には筐体の前後方向において互いに逆向きに動く二つの直線部分と、該二つの直線部分を繋ぐ二つの連結部分とを有し、前記閉状態における無端回動体の一方の直線部分の前後に第1及び第2被係止部に係止する第1及び第2係止部が位置し、前記閉状態における無端回動体の他方の直線部分の前後に第3及び第4被係止部に係止する第3及び第4係止部が位置し、また、各係止部又は各被係止部の一方が、前記閉状態において他方を前後から挟む一対の爪部材によって構成されていてもよい(請求項3)。
【0011】
一方、上記目的を達成するために、本発明に係る生産システムは、作業者が部品台車から所定の組付部品を取り出して組付対象に組み付ける組付ラインと、前記組付対象に組み付ける各種の組付部品を前記部品台車に補充する補充ラインとを備え、前記部品台車が上記二つのラインを循環する生産システムであって、前記部品台車を、請求項1〜3の何れかに記載の部品台車としてある(請求項4)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜4に係る発明では、種々の不都合を来す重りを用いなくても転倒防止を図ることができる部品台車及びこれを用いた生産システムが得られる。
【0013】
すなわち、請求項1に係る発明では、引き出しを引き出しても、その引き出しと対となる引き出しが必ず逆側に引き出されるので、部品台車の重心が殆ど動かず、安定した状態に保たれ、転倒が確実に防止される。そして、従来のように、転倒防止のために重りを用いる必要がないので、部品台車1の軽量化及びコンパクト化を図ることができ、操作性の向上も達成することができる。
【0014】
加えて、請求項2に係る発明では、対となる引き出しをいずれも並べて配置してあるので、対となる引き出しを離して配置した場合に比べてよりバランスを取りやすくなる。
【0015】
また、請求項3に係る発明では、連動機構の構成をシンプルにすることができる。
【0016】
そして、請求項4に係る発明では、上記各効果が得られるのに加え、部品台車の各引き出しが前後のいずれにも開くので、作業者が組付ラインにおいて組付対象の前後いずれの側からでも組付作業を行えるようにすることを可能にするという効果までもが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1は、従来の生産システムの構成を概略的に示す説明図であると共に、本発明の一実施の形態に係る部品台車を用いた生産システムの構成を概略的に示す説明図でもある。
【0018】
ここで、本実施の形態に係る生産システムは、任意の工程において作業者Sが組付対象に組付け等を行い、最終的に製品又は半製品を生産するものである。そして、本実施の形態に係る生産システムは、上述した従来の生産システムと比べて、部品台車51の代わりに部品台車1を用いる点でのみ異なり、他の構成は同一である。そこで、生産システムについて重複する説明を省略するために、以下には、本実施の形態に係る部品台車1の構成について説明する。
【0019】
図2は、前記部品台車1の構成を概略的に示す斜視図、図3は、最上段の引き出し8aを前側に引き出した状態の前記部品台車1の構成を概略的に示す縦断面図、図4は、上から2段目の引き出し8bを前側に引き出した状態の前記部品台車1の構成を概略的に示す縦断面図である。尚、図2〜図4において、図5、図6(A)及び(B)に示す構成要素と共通するものについては、同一の符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0020】
前記部品台車1は、図2〜図4に示すように、筐体9に対して該筐体の前後方向に摺動する一対以上(図示例では2対)の引き出し8a〜8d(以下、各引き出しの個性に着目しない場合は単に引き出し8という)と、対となる引き出し8の一方が前記筐体9の前側(正面側)に引き出されると、対となる引き出し8の他方が前記筐体9の後側(背面側)へと引き出されるように、対となる二つの引き出し8を連動させる連動機構10とを備えている。
【0021】
ここで、部品台車1は、図2〜図4に示すように、上下に並ぶ4段の引き出し8を備え、最上段の引き出し8aと上から2段目の引き出し8bとが対となっており、下から2段目の引き出し8cと最下段の引き出し8dとが対と成っている。すなわち、本実施の形態では、対となる二つの引き出しをいずれも上下に並べて配置してある。
【0022】
また、前記筐体9は、図2に示すように、天壁部9aと、左右側壁部9b,9cと、前記キャスター7が取り付けられる底壁部9dとを備え、前後には壁を持たず、これにより各引き出し8を前後のいずれにも引き出すことができる構造となっている。
【0023】
そして、図2〜図4に示すように、各引き出し8は、左右外側面にガイドレール11を備え、筐体9の左右側壁部9b,9cの内面に設けられたガイド溝(図示していない)を有するガイド体12(図3、図4参照)のガイドにより、筐体9に対してその前後方向への摺動が可能となっている。
【0024】
また、図2〜図4に示すように、対となる二つの引き出しの一方8a,8cの前部に第1被係止部13を、後部に第2被係止部14をそれぞれ設けてあり、対となる二つの引き出しの他方8b,8dの前部に第3被係止部15を、後部に第4被係止部16をそれぞれ設けてある。尚、各被係止部13〜16は、引き出し8の左右外側面に突設したほぼ円柱状の突起である。
【0025】
ここで、本実施の形態の連動機構10としては、図3及び図4に示すように、引き出し8a,8bを連動させる連動機構10と、引き出し8c,8dを連動させる連動機構10とを設けてあり、各連動機構10は、上記第1乃至第4被係止部13〜16に加えて、前記二つの引き出しを前後何れにも引き出していない閉状態(図2〜図4における引き出し8c,8d参照)において前記第1乃至第4被係止部13〜16にそれぞれ係止する第1乃至第4係止部17〜20を有する無端回動体(本実施の形態ではチェーン)21を備えている。尚、各係止部17〜20は、前記閉状態において各被係止部13〜16をその前後から挟む一対の爪部材nによって構成されており、この爪部材nは、無端回動体21に対してアタッチメントとして装着されたものであってもよいし、無端回動体21と一体的に形成されたものでもよい。
【0026】
前記無端回動体21は、図3及び図4に示すように、前記筐体9の前後方向に延び無端回動体21の回動時には筐体9の前後方向において互いに逆向きに動く二つの直線部分22,23と、該二つの直線部分22,23を繋ぐ二つの連結部分(スプロケット26で保持された部分)24,25とを有している。そして、前記閉状態における無端回動体21の一方の直線部分22の前後に第1及び第2被係止部13,14に係止する第1及び第2係止部17,18が位置し、前記閉状態における無端回動体21の他方の直線部分23の前後に第3及び第4被係止部15,16に係止する第3及び第4係止部19,20が位置するように構成してある。
【0027】
したがって、前記部品台車1の対となる二つの引き出し8は、引き出していない場合には、図2〜図4において引き出し8c,8dが示す状態となる。
【0028】
そして、対となる二つの引き出しの一方を引き出した場合には、対となる引き出し8a,8bを例にして説明すると、以下のようになる。すなわち、図3に示すように、一方の引き出し8aを筐体9の前側(図3では左側)に引き出す場合、引き出し8aの前側への移動は、互いに係止する第2被係止部14及び第2係止部18を介して無端回動体21に伝達され、無端回動体21が図3において左回りに回動することになる。そして、この回動が、互いに係止する第3被係止部15と第3係止部19を介して引き出し8bに伝達され、引き出し8bは後側(図3では右側)に移動する。
【0029】
ここで、引き出し8aの前側への移動の初期では、第1被係止部13と第1係止部17も互いに係止しているが、早い段階で第1係止部17が直線部分22から連結部分24に差しかかり、第1被係止部13と第1係止部17の係止は解除される。このことは、第4被係止部16と第4係止部20との係止についても同様であり、引き出し8bの後側への移動の初期では、第4被係止部16と第4係止部20も互いに係止しているが、早い段階で第4係止部20が直線部分23から連結部分25に差しかかり、第4被係止部16と第4係止部20の係止は解除される。
【0030】
そして、引き出し8aの前側への引き出しを継続すると、やがて図3に示す状態となる。
【0031】
逆に、図4に示すように、他方の引き出し8bを筐体9の前側(図4では左側)に引き出す場合、引き出し8bの前側への移動は、互いに係止する第4被係止部16及び第4係止部20を介して無端回動体21に伝達され、無端回動体21が図4において右回りに回動することになる。そして、この回動が、互いに係止する第1被係止部13と第1係止部17を介して引き出し8aに伝達され、引き出し8aは後側(図4では右側)に移動する。
【0032】
ここで、引き出し8bの前側への移動の初期では、第3被係止部15と第3係止部19も互いに係止しているが、早い段階で第3係止部19が直線部分23から連結部分24に差しかかり、第3被係止部15と第3係止部19の係止は解除される。このことは、第2被係止部14と第2係止部18との係止についても同様であり、引き出し8aの後側への移動の初期では、第2被係止部14と第2係止部18も互いに係止しているが、早い段階で第2係止部18が直線部分22から連結部分25に差しかかり、第2被係止部14と第2係止部18の係止は解除される。
【0033】
そして、引き出し8bの前側への引き出しを継続すると、やがて図4に示す状態となる。
【0034】
尚、図3、図4に示す状態の引き出し8a,8bを筐体9内に収まる状態に戻す場合には、それぞれ上記の作用と逆の作用が生じる。
【0035】
上記のように構成した部品台車1では、引き出し8を引き出しても、その引き出し8と対となる引き出しが必ず逆側に同じ程度引き出されるので、部品台車1の重心が殆ど動かず、安定した状態に保たれ、転倒が確実に防止される。そして、従来のように、転倒防止のために重りを用いる必要がないので、部品台車1の軽量化及びコンパクト化を図ることができ、補充ライン4においてもその操作性を向上させることができる。
【0036】
また、前記部品台車1では、各引き出し8が前後のいずれにも開くので、作業者Sは組付ライン3において搬送装置5のいずれの側からでも組付作業を行うことができる。
【0037】
さらに、前記部品台車1では、対となる引き出し8をいずれも並べて配置してあるので、対となる引き出し8を離して配置した場合に比べてよりバランスを取りやすくなっている。
【0038】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々に変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態にはエンジンの生産システムに適用した場合を例示したが、他の車両用部品や車両自体、さらには他の装置等の生産システムにも適用可能であることはいうまでもなく、同様に、組付対象もエンジンに限らない。
【0039】
また、上記実施の形態では、対となる二つの引き出しがいずれも上下に並べて配置されているが、これに限らず、例えば対となる二つの引き出しが左右に並べて配置されていてもよく、この場合にも上下に並べて配置した場合と同様の効果が得られる。しかし、対となる二つの引き出しを並べて配置しなくてもよい。尚、対となる二つの引き出しを左右に並べて配置する場合、例えば、各被係止部13〜16を引き出し8の下面に設け、これに合わせて無端回動体21も横倒しにして設ければよい。
【0040】
さらに、上記実施の形態では、各係止部17〜20を、前記閉状態において突起である各被係止部13〜16をその前後から挟む一対の爪部材nによって構成していたが、逆に、各係止部17〜20を突起とし、各被係止部13〜16を、前記閉状態において各係止部17〜20をその前後から挟む一対の爪部材nによって構成してもよい。
【0041】
加えて、前記無端回動体21は、チェーンに限らず、例えばベルトでもよく、この場合には前記スプロケット26に代えてプーリを用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態及び従来例に係る生産システムの構成を概略的に示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る生産システムに用いられる部品台車の構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】最上段の引き出しを前側に引き出した状態の前記部品台車の構成を概略的に示す縦断面図である。
【図4】上から2段目の引き出しを前側に引き出した状態の前記部品台車の構成を概略的に示す縦断面図である。
【図5】従来の部品台車の構成を概略的に示す斜視図である。
【図6】(A)及び(B)は、転倒防止用の重りを取り付けた従来の部品台車の構成を概略的に示す斜視図及び縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
8 部品台車
9 筐体
10 連動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に対して該筐体の前後方向に摺動する一対以上の引き出しと、対となる引き出しの一方が前記筐体の前側に引き出されると、対となる引き出しの他方が前記筐体の後側へと引き出されるように、対となる二つの引き出しを連動させる連動機構とを備えた部品台車。
【請求項2】
対となる二つの引き出しが、上下又は左右に並べて配置されている請求項1に記載の部品台車。
【請求項3】
対となる二つの引き出しの一方の前部に第1被係止部を、後部に第2被係止部をそれぞれ設けてあり、対となる二つの引き出しの他方の前部に第3被係止部を、後部に第4被係止部をそれぞれ設けてあり、前記連動機構が、前記二つの引き出しを前後何れにも引き出していない閉状態において前記第1乃至第4被係止部にそれぞれ係止する第1乃至第4係止部を有する無端回動体を備え、該無端回動体が、前記筐体の前後方向に延び無端回動体の回動時には筐体の前後方向において互いに逆向きに動く二つの直線部分と、該二つの直線部分を繋ぐ二つの連結部分とを有し、前記閉状態における無端回動体の一方の直線部分の前後に第1及び第2被係止部に係止する第1及び第2係止部が位置し、前記閉状態における無端回動体の他方の直線部分の前後に第3及び第4被係止部に係止する第3及び第4係止部が位置し、また、各係止部又は各被係止部の一方が、前記閉状態において他方を前後から挟む一対の爪部材によって構成されている請求項1または2に記載の部品台車。
【請求項4】
作業者が部品台車から所定の組付部品を取り出して組付対象に組み付ける組付ラインと、前記組付対象に組み付ける各種の組付部品を前記部品台車に補充する補充ラインとを備え、前記部品台車が上記二つのラインを循環する生産システムであって、前記部品台車が、請求項1〜3の何れかに記載の部品台車である生産システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−274848(P2009−274848A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129242(P2008−129242)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000191353)新明工業株式会社 (75)
【Fターム(参考)】