配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法
【課題】ポリ乳酸を延伸操作以外の方法によって、高度にかつ任意の方向に配向させる方法を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂と、式(I)で表されるリン化合物の金属塩とを含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する工程、該ポリ乳酸樹脂材料を、これに一定方向の磁場を付与しながら結晶化させる工程とを含むことを特徴とする、所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立して水素原子、炭素原子数1ないし10のアルキル基、炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基を表し、R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。)
【解決手段】ポリ乳酸樹脂と、式(I)で表されるリン化合物の金属塩とを含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する工程、該ポリ乳酸樹脂材料を、これに一定方向の磁場を付与しながら結晶化させる工程とを含むことを特徴とする、所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立して水素原子、炭素原子数1ないし10のアルキル基、炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基を表し、R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定方向に高度に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法、それから得られることを特徴とするフィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体、及びそれから得られることを特徴とする光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は、バイオマス資源から製造可能であること、自然環境中で生分解可能であること、などの自然環境保護の見地から今後幅広い分野で使用されることが期待されている。さらにポリ乳酸樹脂は、その分子構造としてキラル炭素を含む分子が螺旋状の構造を有することを特徴としている。キラル炭素を含む分子が螺旋状に配列した高分子は、固体状態で、非常に大きな旋光性(光学活性)や圧電性を示すことが知られている。そのためポリ乳酸樹脂は、高度に配向させることにより、高い旋光性、圧電性を有する材料として提供できることが期待されている。こうした旋光性や圧電性を有する材料は、光通信、光計測、光交換などの分野における光学素子として、具体的には旋光子、波長板、偏光板、位相差板、光導波路、レンズ、光ファイバー、発光素子、光スイッチ、光シャッター、光メモリー、各種レーザー、光変調素子、演算素子などとして、また電気材料、音響機器材料、生体医療材料などの分野における圧電素子としても利用できる。さらに高度に配向させたポリ乳酸樹脂は、力学特性や透明性などの光学特性が向上することも期待される。
【0003】
一般に結晶性高分子材料は、フィルムや繊維を得るために行われる延伸操作により配向結晶化させることができるが、この方法では延伸方向のみの配向に限定される。上記の多様な用途におけるニーズを満たすために、延伸操作を行わない成形物において分子配向をさせる方法や、延伸方向以外に所望の方向に分子配向させる方法が望まれている。
任意の方向に分子配向させる方法として、例えば結晶造核剤を配合した結晶性高分子材料に一定方向の磁場を付与しつつ、該材料を熱処理することによって、結晶造核剤を配向させ、造核剤表面で結晶性高分子を所定方向に結晶成長させて配向させる方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は具体的には、結晶性高分子材料としてアイソタクチックポリプロピレンを、結晶造核剤として2,6−ナフチレンジ(シクロヘキシルアミド)を使用する例を開示している。また、アイソタクチックポリプロピレンからなる結晶性高分子組成物に、結晶核剤として特定の有機リン酸エステル金属塩を添加して磁場配向させる方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
一方、ポリ乳酸樹脂を延伸方向以外にも配向させる方法としては、ポリ乳酸樹脂等の圧電性高分子の繊維状物又は成形物を、張力付加方向と異なる方向に捩りを加えることによる方法(特許文献3参照)や、二酸化炭素などの圧縮性流体の超臨界圧力及び超臨界温度下で配向させる方法(特許文献4参照)が提案されている。また、ポリ乳酸系樹脂を磁場中で配向させる方法も提案されており、より高度に磁場中で配向させるために、ポリ乳酸系樹脂へ液晶性化合物、あるいは強磁性体を含有させる方法も開示されている(特許文献5参照)。その他ポリ乳酸に関しては、ポリ乳酸の結晶化を促進させる方法として、ポリ乳酸と特定式で表されるリン化合物からなる結晶核剤との組成物も開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2001−253962号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−68249号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−144545号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2006−276573号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2002−293943号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】国際公開WO2005/097894号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ポリ乳酸樹脂を延伸方向以外に配向させる様々な方法が提案されているが、ポリ乳酸樹脂の旋光性や圧電性をさらに向上させるために、より高度にかつ任意の方向にポリ乳酸を配向させる方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、ポリ乳酸を延伸操作以外の方法によって、高度にかつ任意の方向に配向させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂と特定の結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂材料に磁場を付与しながら結晶化させることにより、ポリ乳酸を高度に配向させることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、第1観点として、ポリ乳酸樹脂と、式(I)で表されるリン化合物の金属塩とを含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する工程、該ポリ乳酸樹脂材料を、これに一定方向の磁場を付与しながら結晶化させる工程を含むことを特徴とする、所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に関する。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立して水素原子、炭素原子数1ないし10のアルキル基、炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基を表し、R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。)
第2観点として、前記金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、スズ塩及びバリウム塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第1観点に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に関する。
第3観点として、前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、前記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を0.01ないし10.0質量部含有するポリ乳酸樹脂材料を用いる、第1観点又は第2観点に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に関する。
第4観点として、第1観点ないし第3観点のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、フィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体に関する。
第5観点として、第1観点ないし第3観点のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、光学素子に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法によれば、ポリ乳酸樹脂と特定の結晶核剤を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融した状態にあるポリ乳酸樹脂材料に対して、一定方向の磁場を付与しながら結晶化させることにより、ポリ乳酸樹脂を所定方向にかつ高度に配向させることができる。
従って、本発明の製造方法に従い製造されたポリ乳酸樹脂材料は、光通信、光計測、光交換などの分野における光学素子の材料として、あるいは電気材料、音響機器材料、生体医療材料などの分野における圧電素子の材料として利用できる。
そして本発明のフィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体並びに光学素子は、前述の製造方法によって所定方向にかつ高度に配向したポリ乳酸樹脂材料からなることから、高い旋光性、圧電性、或いは力学特性や透明性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明において使用するポリ乳酸樹脂材料は、ポリ乳酸樹脂と、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるものである。
【0012】
本発明において使用するポリ乳酸樹脂とは、ポリ乳酸のホモポリマー、コポリマー及びこれらの混合物、さらにポリ乳酸のホモポリマー又はコポリマーを主体とした他の樹脂とのブレンドポリマーを含む。
【0013】
ポリ乳酸としては特に限定されるものではないが、例えばラクチドを開環重合させたものや、乳酸のD体、L体、ラセミ体などを直接重縮合させたものが挙げられる。本発明の所定方向に高度に配向したポリ乳酸樹脂材料を得るには、光学純度が高いポリ乳酸樹脂を使用することが好ましい。例えばポリ乳酸樹脂がポリL−乳酸を主体とする場合、D体含量は10%未満が好ましく、2%未満がさらに好ましい。ポリ乳酸樹脂の数平均分子量は、一般に10,000から500,000程度である。また、ポリ乳酸樹脂を熱、光、放射線などを利用して架橋剤で架橋させたものも使用できる。
【0014】
ポリ乳酸樹脂がコポリマーの場合、コポリマーの配列様式はランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーのいずれであっても良い。
【0015】
上記ポリ乳酸のホモポリマー又はコポリマーを主体とした、他樹脂とのブレンドポリマーである場合、他樹脂とは、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂、汎用合成樹脂、汎用合成エンプラなどが挙げられる。
ポリ乳酸以外の生分解性樹脂の例としては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体などのポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネート/アジペート、ポリブチレンスクシネート/カーボネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレンスクシネート/アジペート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、変性でんぷん、酢酸セルロース、キチン、キトサン、リグニンなどが挙げられる。
汎用合成樹脂の例としては、PE、PP、EVA、EEAなどのポリオレフィン系樹脂、PS、HIPS、AS、ABSなどのポリスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
汎用合成エンプラの例としては、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、PET、PBTなどのポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0016】
本発明において使用する上記式(I)で表されるリン化合物において、式中のR1及びR2を表す置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの炭素原子数1ないし10のアルキル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基が挙げられる。これらの置換基は同一でも又は相異なっていてもよい。
【0017】
本発明において使用する上記式(I)で表されるリン化合物の具体例としては、フェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−エチルフェニルホスホン酸、4−n−プロピルフェニルホスホン酸、4−イソプロピルフェニルホスホン酸、4−n−ブチルフェニルホスホン酸、4−イソブチルフェニルホスホン酸、4−tert−ブチルフェニルホスホン酸、3,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、3,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸、2,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸又は2,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸などが挙げられる。
【0018】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を形成する金属として、1価、2価及び3価の金属を使用することが出来る。また2種以上の金属を混合して使用することもできる。
上記金属塩を形成する金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、スズ、バリウム、アルミニウムなどが挙げられる。これらより形成される金属塩としては2価の金属塩が好ましく、具体的にはカルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、スズ塩、バリウム塩が好ましい。
【0019】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の形成に際し、上記式(I)で表されるリン化合物と金属のモル比は特に制限されないが、一般にはリン化合物/金属のモル比として、1/2〜2/1の範囲で使用すると好ましい。塩化合物中には塩を形成していないフリーのリン化合物や金属を含まないことが好ましい。
【0020】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の製造方法は特に制限されないが、一般にはリン化合物と金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は有機酸塩を、水中又は有機溶媒中で混合反応させ、その後水又は有機溶媒を濾過もしくは留去して、乾燥することにより結晶性粉末として得ることができる。またリン化合物と、金属の塩化物、硫酸塩又は硝酸塩と、水酸化ナトリウムとを水中で混合して反応させることにより、リン化合物の金属塩を析出させ、その後、濾過し、乾燥させることによって得ることもできる。
得られる粉末の形態は、通常は粒状結晶、板状結晶、棒状結晶、針状結晶などとなり、さらにこれらの結晶が積層した形態になることもある。
これらの化合物(結晶性粉末)は市販されている場合には、市販品を使用することができる。
【0021】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の添加量は、前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.01ないし10.0質量部、好ましくは0.02ないし5.0質量部、さらに好ましくは0.03ないし2.0質量部である。上記添加量が0.01質量部未満であるとポリ乳酸樹脂の配向を十分に高めることが困難になる。また10質量部を超えて添加しても、それ以上の配向度の向上を望めない。
【0022】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは5μm以下である。ここで言及する平均粒子径(μm)とは、Mie理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定して得られる50%体積径(メジアン径)である。
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の平均粒子径を10μm以下にするために、上述の方法で得られた結晶性粉末を必要に応じて、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサーなどの剪断力を有する混合機や、ボールミル、ピンディスクミル、パルベライザー、イノマイザー、カウンタージェットミルなどの粉砕機を用いて微粉末とすることができる。また水、水と混合可能な有機溶媒及びこれらの混合溶液を用いたボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー、アトライター等の湿式粉砕機でも微粉末にすることができる。これらの装置における粉砕下限値は、0.05μmである。よって、上
記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の平均粒子径は、好ましくは0.05ないし10μm、さらに好ましくは0.05ないし5μmとなる。
【0023】
前述したように、本発明の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に用いるポリ乳酸樹脂材料は、ポリ乳酸樹脂と、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるものである。
【0024】
本発明において、ポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を配合する方法は、特に制限されることなく、公知の方法によって行うことができる。例えばポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩をそれぞれ各種ミキサーで混合し、単軸あるいは二軸押出機、各種ニーダー、プラストミルなどを用いて混練すればよい。混練は通常150ないし220℃程度の温度で行われる。各成分を高濃度で含有するマスターバッチを生成し、これをポリ乳酸樹脂に添加する方法も可能である。ポリ乳酸樹脂の重合段階で、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を添加することもできる。
こうして得られたポリ乳酸樹脂とリン化合物の金属塩との配合物を後述する所定の溶媒に添加するか、或いは、加熱溶融することにより、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する。
また、後述する所定の溶媒にポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を別々に添加する方法によって、直接、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製してもよい。
【0025】
ここで、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料とは、ポリ乳酸樹脂が溶媒に溶解している状態にあるポリ乳酸樹脂材料をさす。なお、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩はほとんどの溶媒に溶解しないため、通常、ポリ乳酸樹脂の溶液内で分散した状態となる。
ここで使用する溶媒としてはポリ乳酸樹脂を溶解できるものであればよい。具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル系化合物類、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン系化合物類、クロロホルム及びジクロロメタン等のハロゲン系炭化水素類、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性化合物類などが挙げられる。これらの溶媒は一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料において、ポリ乳酸樹脂の濃度は1ないし70質量%の範囲とすることができる。
【0026】
ポリ乳酸樹脂を溶融状態とするには、ポリ乳酸のガラス転移点である約60℃より高温で加熱溶融させればよい。加熱温度としては、60ないし250℃が好ましく、70ないし200℃がさらに好ましい。加熱温度が60℃より低い場合は、磁場を付与してもポリ乳酸を十分に配向させることが困難になり、250℃より高い場合はポリ乳酸が熱分解することがある。
またポリ乳酸樹脂を溶融状態とするのは、磁場付与前又は磁場付与中のいずれであっても良い。
加熱時間は、加熱温度や磁場強度にもよるが、通常は0.1分ないし100時間、好ましくは1分ないし10時間である。
【0027】
本発明の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法は、ポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩である結晶核剤を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解状態又はポリ乳酸樹脂が溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料に対して、磁場を付与することによってポリ乳酸を配向させることを特徴とする。
本発明によって製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料は、ポリ乳酸樹脂の溶解状態又は溶融状態の中で、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩である結晶核剤がまず最初に磁場配向し、その後ポリ乳酸樹脂が結晶化する過程で、結晶核剤表面でポリ乳酸がエピタキシャル的に結晶成長することによって得られると考えられる。
【0028】
磁場は、永久磁石、電磁石、超伝導磁石等により付与することができる。磁場強度はポリ乳酸を配向させることができる範囲であれば特に制限されないが、通常は0.01ないし100テスラ、好ましくは0.1ないし30テスラである。磁場強度が強いほど、ポリ乳酸の配向度や配向速度を向上させる傾向がある。
【0029】
磁場の付与によりポリ乳酸を配向させるには、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で溶媒を揮発させて結晶化させる方法と、ポリ乳酸樹脂が溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で冷却し結晶化させる方法がある。
【0030】
ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で溶媒を揮発させて結晶化させる場合、溶媒を揮発させる方法は、一般的なキャストフィルムを作成する方法に従って行えばよく、溶媒を揮発させる際に加熱してもよいし、揮発後に得られたフィルムを加熱してもよい。
【0031】
ポリ乳酸樹脂が溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で冷却し結晶化させる場合、ここでいう「冷却」とはポリ乳酸のガラス転移点未満の温度に下げることを意味する。冷却方法はゆっくり冷却してもよいし、急速に冷却してもよい。
【0032】
本発明に使用する前記ポリ乳酸樹脂材料には、公知の無機又は有機の充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、例えばガラス繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。有機充填剤としては、たとえばセルロース、キチン、キトサン、炭素繊維などが挙げられる。これらの無機又は有機の充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末のいずれでもよい。これらの無機又は有機の充填剤は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
【0033】
本発明に使用する前記ポリ乳酸樹脂材料には、公知の難燃剤を配合することができる。例えば臭素系や塩素系などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、シリコーン系化合物などの無機系難燃剤、赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼンなどのリン系難燃剤、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩、アルキルホスホン酸メラミン、フェニルホスホン酸メラミン、硫酸メラミン、メタンスルホン酸メラムなどのメラミン系難燃剤、PTFEなどのフッ素樹脂などが挙げられる。これらの難燃剤は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
【0034】
また上記の成分以外にも、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、シラン系、チタン系、アルミニウム系等の各種カップリング剤、その他の各種充填剤、その他の結晶核剤など、一般的な合成樹脂の製造時に通常使用される各種添加剤と併用することができる。
【0035】
本発明に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料は、任意の形状を有する
ことができる。例えば、フィルム状構造体、シート状構造体又はファイバー状構造体の形状を有することができる。成形方法としては、一般の押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形、真空成形、圧縮成形などの慣用の成形法が挙げられ、各種形状の成形品として使用することができる。
【0036】
本発明に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料は、光学素子又は圧電素子として好適に利用することができる。またポリ乳酸の配向制御により、ポリ乳酸樹脂材料の機械特性や透明性などの物性制御も可能となる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例、比較例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
合成例1:フェニルホスホン酸亜鉛塩の合成
フェニルホスホン酸[日産化学工業(株)製]1.58g(10.0mmol)と、酢酸亜鉛二水和物2.20g(10.0mmol)と、水72gを混合し、80℃で3時間撹拌後、スラリーを濾過し、ウェットケーキ中の酢酸を水で充分に洗い流した。その後、150℃で乾燥することで、目的物であるフェニルホスホン酸亜鉛塩2.17g(収率98%)を白色結晶として得た。分解温度541℃。レーザー回折式粒度分布計[マルバーン社製 マスターサイザー2000]による平均粒子径は3.5μmであった。
【0039】
参考例1:フェニルスルホン酸亜鉛の配向挙動
<試料調製>
エポキシアクリレート系AQ9溶液[荒川化学工業(株)製]95mgに、合成例1で得られたフェニルホスホン酸亜鉛塩5mgを配合した溶液を調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置[(株)玉川製作所製 電磁石TM−MV8615MRC−156]にセットした。25℃で、磁場強度2.4Tで10分間、磁場を印加した後に、紫外線[HAYASHI製 UVスポット光源]を照射して、紫外線架橋反応によりAQ9を固化させ、光硬化フィルムを得た。この光硬化フィルム試料について、広角X線回折法によりフェニルホスホン酸亜鉛塩の配向性を確認した。
【0040】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について、広角X線回折装置[理学電機(株)製 MicroMax007、R−AXIA IV++]を用い、40kV、20mAの出力で発生したX線をコンフォーカルミラーにより高輝度化及び単色化し、ピンホールコリメータ径0.2mmΦを介して、試料に3分間露光することにより、カメラ距離150mmのイメージングプレート上にX線回折像を記録してラウエ写真を得た。
ラウエ写真は〔図1〕に示すように繊維図形となり、フェニルホスホン酸亜鉛塩の(100)、(200)、(300)面の反射が磁場方向にアーク状に現れていることから、フェニルホスホン酸亜鉛塩はその結晶a軸が磁場に対して平行に配向していること(磁化容易軸がa軸であること)が確認された。
【0041】
<配向度の評価>
フェニルホスホン酸亜鉛塩の配向度を定量化するための方法として、その回折強度分布の積分幅を用いる方法[角戸正夫,笠井暢民著「高分子X線回折」丸善,p187]を採用し、以下の〔数式1〕により求めた値<P2>を配向度とした。
印加した磁場強度の大きさに対するフェニルホスホン酸亜鉛塩の配向度の結果を〔図2〕に示す。
【0042】
【化2】
(式中、θはブラッグ角、φは方位角、I(φ)は各方位角におけるX線回折強度を表す。)
【0043】
実施例1:ポリ乳酸の配向挙動
<試料調製>
ポリ乳酸樹脂[三井化学(株)製 LACEA H−100]99mgに、合成例1で得られたフェニルホスホン酸亜鉛塩を1mg配合し、この混合物を900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで2時間、磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸系樹脂のフィルムを得た。このフィルム試料について、広角X線回折法及び偏光顕微鏡観察法によりフェニルホスホン酸亜鉛塩及びポリ乳酸結晶の配向性を確認した。
【0044】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図3〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸亜鉛塩の反射に加えてポリ乳酸結晶の反射も繊維図形を示した。更に、ブラッグ角2θ=23°における反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図4〕に示すように、方位角が90°と270°の位置で回折強度が極大を示すことから、フェニルホスホン酸亜鉛塩とポリ乳酸結晶の両者が磁場配向することが確認された。
【0045】
<配向度の評価>
ポリ乳酸結晶の配向度を定量化するための方法として、フェニルホスホン酸亜鉛塩と同様に回折強度分布の積分幅を用いる方法を採用し、〔数式1〕により求めた値<P2>を配向度とした。磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料の広角X線回折におけるブラッグ角2θ=23°における反射の方位角方向の回折強度分布から得られた配向度<P2>は0.3であった。
【0046】
<偏光顕微鏡による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を偏光顕微鏡[オリンパス(株)製 BX−50P]を用いて対物レンズ4倍、クロスニコルで観察した。クロスニコル下で、試料を回転しながら複屈折光強度を測定すると、〔図5〕に示すように回転角度が45°及び135°で複屈折光強度が極大を示す曲線が得られ、フィルム試料はポリ乳酸の分子鎖が配向した構造を形成していることが確認された。
更に、鋭敏色検板(波長λ=530nm)を挿入して同様にフィルム試料を回転させた時の干渉色のスペクトルを測定した。スペクトルは偏光顕微鏡にマルチチャンネルアナライザー[浜松ホトニクス(株)製 PMA−11]を設置して、顕微鏡タングステンランプ強度を6、露光時間300ミリ秒/回の20回積算平均の条件で測定した。スペクトル測定の結果、〔図6〕に示すように磁場印加方向を検板z’軸方向に平行にして測定したときには青から緑色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長480nm)が得られ、両者を垂直にして測定したときには黄色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長600nm)が得られたことから、磁場方向に対して相加のレターデーション変化が認められた。レターデ
ーション法による高分子フィルムの配向評価法(粟屋裕著「高分子素材の偏光顕微鏡入門」アグネ技術センター,p78)により、磁場方向に対して相加のレターデーション変化は、ポリ乳酸の分子鎖が磁場方向に配向していることを示すものであり、ポリ乳酸の結晶c軸は磁場方向に配向していることが確認された。
【0047】
比較例1
<磁場外におけるポリ乳酸の結晶化>
ポリ乳酸樹脂[三井化学(株)製 LACEA H−100]99mgに、合成例1で得られたフェニルホスホン酸亜鉛塩を1mg配合し、この混合物を900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして溶媒が揮発してフィルム化するまで、1時間、25℃に放置した。
このフィルム試料について、広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図7〕に示すように環状の広角X線回折像が得られた。この回折像はデバイシェラー環であることから、ポリ乳酸とフェニルホスホン酸亜鉛塩が共にランダムに配向していることが確認された。
【0048】
比較例2
<結晶核剤を含まないポリ乳酸の磁場印加試験>
ポリ乳酸樹脂[三井化学(株)製 LACEA H−100]10mgを、90mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸の溶液を調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで2時間、磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸樹脂のフィルムを得た。
このフィルム試料について、広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図8〕に示すようなデバイシェラー環を示す広角X線回折像が得られた。すなわちポリ乳酸単独では、磁場印加しても一方向に配向せず、ランダム配向となっていることが確認された。
【0049】
合成例2:フェニルホスホン酸亜鉛(大粒径品)の合成
2Lの反応容器に、酢酸亜鉛二水和物〔和光純薬工業(株)製〕0.44g(2mmol)、フェニルホスホン酸〔日産化学工業(株)製〕0.32g(2mmol)及び水2Lを加えた。この混合物を撹拌して溶解させた後、95℃で24時間加熱し反応させた。反応終了後、室温(およそ25℃)まで冷却した。反応混合物を濾過し、水で充分に洗い流した。得られた湿品を120℃で乾燥することで、白色板状結晶のフェニルホスホン酸亜鉛0.21g(収率47%)を得た。
SEM〔日本電子(株)製 電界放出型走査電子顕微鏡JSM−7400F〕画像観察による、得られた板状結晶の長軸長はおよそ30乃至100μmであった。
【0050】
参考例2:フェニルホスホン酸亜鉛(大粒径品)の配向挙動
<試料調製>
エポキシアクリレート系AQ9溶液[荒川化学工業(株)製]95mgに、合成例2で得られたフェニルホスホン酸亜鉛5mgを配合した溶液を調製した。この溶液を秤量瓶に0.5ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。25℃で、磁場強度2.4Tで5分間磁場を印加した後に、紫外線を照射して紫外線架橋反応によりAQ9を固化させ、光硬化フィルムを得た。この光硬化フィルム試料について、光学顕微鏡観察法と広角X線回折法によりフェニルホスホン酸亜鉛の配向性を確認した。
【0051】
<光学顕微鏡による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について、デジタル光学顕微鏡[ハイロックス(株)製 パワーハイスコープKH−2700]を用いて倍率500倍で観察した。その結果、〔図9〕に示すように、フェニルホスホン酸亜鉛結晶の長軸が、磁場方向に対して
垂直に配向することが確認された。
【0052】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図10〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸亜鉛結晶の(100)、(200)面の反射が磁場方向にアーク状に現れ、参考例1と同様に結晶a軸が磁場方向に対して平行に配向することが確認された。
上記の光学顕微鏡の評価結果とあわせると、板状のフェニルホスホン酸亜鉛結晶の長軸は、a軸と垂直であることが確認された。
【0053】
実施例2:フェニルホスホン酸亜鉛(大粒径品)を用いたポリ乳酸の配向挙動
<試料調製>
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]99mgに、合成例2で得られたフェニルホスホン酸亜鉛1mgを配合し、この混合物を1,900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで2時間磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを得た。このフィルム試料について、広角X線回折法及び偏光顕微鏡観察法によりフェニルホスホン酸亜鉛及びポリ乳酸結晶の配向性を確認した。
【0054】
<広角X線による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図11〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸亜鉛の反射に加えてポリ乳酸結晶α晶の反射も繊維図形を示した。更に、ブラッグ角2θ=16.6°でポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図12〕に示すように、方位角が0°と180°の位置で回折強度が極大を示すことから、フェニルホスホン酸亜鉛とポリ乳酸結晶の両者が磁場配向することが確認された。
【0055】
<配向度の評価>
実施例1と同様にポリ乳酸結晶の配向度を求めたところ、磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料の広角X線回折における、ポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布から得られた配向度は0.25であった。
【0056】
<偏光顕微鏡による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を偏光顕微鏡を用いて対物レンズ50倍、クロスニコルで観察した。クロスニコル下で、試料を回転しながら複屈折光強度を測定すると、〔図13〕に示すように回転角度が45°及び135°で複屈折光強度が極大を示す曲線が得られ、フィルム試料はポリ乳酸の分子鎖が配向した構造を形成していることが確認された。
更に、実施例1と同様に、鋭敏色検板(波長λ=530nm)を挿入して同様にフィルムを回転させた時の干渉色のスペクトルを測定した。スペクトル測定の結果、〔図14〕に示すように磁場印加方向を検板z’軸方向に平行にして測定したときには黄色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長660nm)が得られ、両者を垂直にして測定したときには青から緑色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長480nm)が得られたことから、磁場方向に対して相減のレターデーション変化が認められた。レターデーション法による高分子フィルムの配向評価法により、磁場方向に対して相減のレターデーション変化は、ポリ乳酸の分子鎖が磁場方向に配向していることを示すものであり、ポリ乳酸α晶のc軸は磁場方向に対して垂直に配向していることが確認された。
【0057】
合成例3:フェニルホスホン酸マンガンの合成
2Lの反応容器に、酢酸マンガン四水和物〔和光純薬工業(株)製〕0.49g(2mmol)、フェニルホスホン酸〔日産化学工業(株)製〕0.32g(2mmol)及び水2Lを加えた。この混合物を撹拌して溶解させた後、95℃で24時間加熱し反応させた。反応終了後、室温(およそ25℃)まで冷却した。反応混合物を濾過し、水で充分に洗い流した。得られた湿品を200℃で乾燥することで、白色板状結晶のフェニルホスホン酸マンガン一水和物0.30g(収率65%)を得た。
5%重量減(無水物基準)温度420℃。SEM画像観察による、得られた板状結晶の長軸長はおよそ10乃至30μmであった。
【0058】
参考例3:フェニルホスホン酸マンガンの配向挙動
<試料調製>
参考例2において、フェニルホスホン酸亜鉛を合成例3で得られたフェニルホスホン酸マンガンに代えた以外は同様の操作を行い、光硬化フィルムを得た。この光硬化フィルム試料について、光学顕微鏡観察法と広角X線回折法によりフェニルホスホン酸マンガンの配向性を確認した。
【0059】
<光学顕微鏡による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について、デジタル光学顕微鏡を用いて倍率1,000倍で観察した。その結果、〔図15〕に示すように、フェニルホスホン酸マンガン結晶の長軸が、磁場方向に対して平行に配向することが確認された。
【0060】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図16〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸マンガン結晶の反射は磁場方向対して平行にアーク状に現れた。
上記の光学顕微鏡の評価結果とあわせると、この反射は、板状のフェニルホスホン酸マンガン結晶の長軸に対して、ほぼ平行な結晶面に起因する反射であることが確認された。
【0061】
実施例3:フェニルホスホン酸マンガンを用いたポリ乳酸の配向挙動
<試料調製>
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]90mgに、合成例3で得られたフェニルホスホン酸マンガン10mgを配合し、この混合物を1,900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで1時間磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを得た。このフィルム試料について、広角X線回折法及び偏光顕微鏡観察法によりフェニルホスホン酸マンガン及びポリ乳酸結晶の配向性を確認した。
【0062】
<広角X線による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図17〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸マンガンの反射に加えてポリ乳酸結晶α晶の反射も繊維図形を示した。更に、ブラッグ角2θ=16.6°でポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図18〕に示すように、方位角が90°と270°の位置で回折強度が極大を示すことから、フェニルホスホン酸マンガンとポリ乳酸結晶の両者が磁場配向することが確認された。
【0063】
<配向度の評価>
実施例1と同様にポリ乳酸結晶の配向度を求めたところ、磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料の広角X線回折における、ポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向
の回折強度分布から得られた配向度は0.2であった。
【0064】
<偏光顕微鏡による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を偏光顕微鏡を用いて対物レンズ50倍、クロスニコルで観察した。クロスニコル下で、試料を回転しながら複屈折光強度を測定すると、〔図19〕に示すように回転角度が45°及び135°で複屈折光強度が極大を示す曲線が得られ、フィルム試料はポリ乳酸の分子鎖が配向した構造を形成していることが確認された。
更に、実施例1と同様に、鋭敏色検板(波長λ=530nm)を挿入して同様にフィルムを回転させた時の干渉色のスペクトルを測定した。スペクトル測定の結果、〔図20〕に示すように磁場印加方向を検板z’軸方向に平行にして測定したときには青から緑色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長480nm)が得られ、両者を垂直にして測定したときには黄色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長660nm)が得られたことから、磁場方向に対して相加のレターデーション変化が認められた。レターデーション法による高分子フィルムの配向評価法により、磁場方向に対して相加のレターデーション変化は、ポリ乳酸の分子鎖が磁場方向に配向していることを示すものであり、ポリ乳酸α晶のc軸は磁場方向に対して平行に配向していることが確認された。
【0065】
比較例3:磁場外におけるポリ乳酸の結晶化
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]99mgに、合成例2で得られたフェニルホスホン酸亜鉛1mgを配合し、この混合物を1,900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして溶媒が揮発してフィルム化するまで、1時間、25℃に放置した。
このフィルム試料について広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図21〕に示すように環状のα晶の広角X線回折像が得られた。この回折像はデバイシェラー環であり、さらにポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図22〕に示すように変化が認められないことから、ポリ乳酸結晶とフェニルホスホン酸亜鉛が共にランダムに配向していることが確認された。
【0066】
比較例4:結晶核剤を含まないポリ乳酸の磁場印加試験
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]100mgを1,900mgのクロロホルムに溶解して、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで1時間磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸樹脂フィルムを得た。
このフィルム試料について広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図23〕に示すように広角X線回折像は現れず、本条件下ではポリ乳酸樹脂は非晶性のままフィルム化した。すなわち、ポリ乳酸単独では微結晶が形成せず固化(ガラス化)することが確認された。
【0067】
〔図1〕〜〔図23〕に示すように、本発明の製造方法により得られたポリ乳酸系樹脂フィルム試料は、磁場印加によりフィルム中のフェニルホスホン酸亜鉛塩又はフェニルホスホン酸マンガン塩が一方向に高度に配向し、その結果、ポリ乳酸の結晶が一方向に配向していることが確認された。
以上の結果より、本発明の製造方法によれば、ポリ乳酸樹脂と式(I)で表されるリン化合物の金属塩である結晶核剤を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料に対して磁場を付与させることにより、ポリ乳酸結晶は磁場によってその配向が制御され、磁場方向に結晶配向したポリ乳酸フィルムの提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、参考例1で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料(PPA−Zn/AQ9)について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図2】図2は、参考例1で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料において、印加した磁場強度に対するフェニルホスホン酸亜鉛塩の配向度を示す図である。
【図3】図3は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図4】図4は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図5】図5は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を回転させながら測定した複屈折光強度について、回転角度に対して示した図である。
【図6】図6は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を、鋭敏色検板を挿入し試料を回転させた場合のモデル図及び干渉色のスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、比較例1で作製した磁場印加していないポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図8】図8は、比較例2で作製した結晶核剤を含まないポリ乳酸樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図9】図9は、参考例2で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したデジタル光学顕微鏡写真を示す図である。
【図10】図10は、参考例2で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図11】図11は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図12】図12は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図13】図13は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を回転させながら測定した複屈折光強度について、回転角度に対して示した図である。
【図14】図14は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を、鋭敏色検板を挿入し試料を回転させた場合のモデル図及び干渉色のスペクトルを示す図である。
【図15】図15は、参考例3で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したデジタル光学顕微鏡写真を示す図である。
【図16】図16は、参考例3で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図17】図17は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図18】図18は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図19】図19は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を回転させながら測定した複屈折光強度について、回転角度に対して示した図である。
【図20】図20は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を、鋭敏色検板を挿入し試料を回転させた場合のモデル図及び干渉色のスペクトルを示す図である。
【図21】図21は、比較例3で作製した磁場印加していないポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図22】図22は、比較例3で作製した磁場印加していないポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図23】図23は、比較例4で作製した磁場印加した結晶核剤を含まないポリ乳酸樹脂について撮影したラウエ写真を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定方向に高度に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法、それから得られることを特徴とするフィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体、及びそれから得られることを特徴とする光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は、バイオマス資源から製造可能であること、自然環境中で生分解可能であること、などの自然環境保護の見地から今後幅広い分野で使用されることが期待されている。さらにポリ乳酸樹脂は、その分子構造としてキラル炭素を含む分子が螺旋状の構造を有することを特徴としている。キラル炭素を含む分子が螺旋状に配列した高分子は、固体状態で、非常に大きな旋光性(光学活性)や圧電性を示すことが知られている。そのためポリ乳酸樹脂は、高度に配向させることにより、高い旋光性、圧電性を有する材料として提供できることが期待されている。こうした旋光性や圧電性を有する材料は、光通信、光計測、光交換などの分野における光学素子として、具体的には旋光子、波長板、偏光板、位相差板、光導波路、レンズ、光ファイバー、発光素子、光スイッチ、光シャッター、光メモリー、各種レーザー、光変調素子、演算素子などとして、また電気材料、音響機器材料、生体医療材料などの分野における圧電素子としても利用できる。さらに高度に配向させたポリ乳酸樹脂は、力学特性や透明性などの光学特性が向上することも期待される。
【0003】
一般に結晶性高分子材料は、フィルムや繊維を得るために行われる延伸操作により配向結晶化させることができるが、この方法では延伸方向のみの配向に限定される。上記の多様な用途におけるニーズを満たすために、延伸操作を行わない成形物において分子配向をさせる方法や、延伸方向以外に所望の方向に分子配向させる方法が望まれている。
任意の方向に分子配向させる方法として、例えば結晶造核剤を配合した結晶性高分子材料に一定方向の磁場を付与しつつ、該材料を熱処理することによって、結晶造核剤を配向させ、造核剤表面で結晶性高分子を所定方向に結晶成長させて配向させる方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は具体的には、結晶性高分子材料としてアイソタクチックポリプロピレンを、結晶造核剤として2,6−ナフチレンジ(シクロヘキシルアミド)を使用する例を開示している。また、アイソタクチックポリプロピレンからなる結晶性高分子組成物に、結晶核剤として特定の有機リン酸エステル金属塩を添加して磁場配向させる方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
一方、ポリ乳酸樹脂を延伸方向以外にも配向させる方法としては、ポリ乳酸樹脂等の圧電性高分子の繊維状物又は成形物を、張力付加方向と異なる方向に捩りを加えることによる方法(特許文献3参照)や、二酸化炭素などの圧縮性流体の超臨界圧力及び超臨界温度下で配向させる方法(特許文献4参照)が提案されている。また、ポリ乳酸系樹脂を磁場中で配向させる方法も提案されており、より高度に磁場中で配向させるために、ポリ乳酸系樹脂へ液晶性化合物、あるいは強磁性体を含有させる方法も開示されている(特許文献5参照)。その他ポリ乳酸に関しては、ポリ乳酸の結晶化を促進させる方法として、ポリ乳酸と特定式で表されるリン化合物からなる結晶核剤との組成物も開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2001−253962号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−68249号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−144545号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2006−276573号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2002−293943号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】国際公開WO2005/097894号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ポリ乳酸樹脂を延伸方向以外に配向させる様々な方法が提案されているが、ポリ乳酸樹脂の旋光性や圧電性をさらに向上させるために、より高度にかつ任意の方向にポリ乳酸を配向させる方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、ポリ乳酸を延伸操作以外の方法によって、高度にかつ任意の方向に配向させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂と特定の結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂材料に磁場を付与しながら結晶化させることにより、ポリ乳酸を高度に配向させることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、第1観点として、ポリ乳酸樹脂と、式(I)で表されるリン化合物の金属塩とを含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する工程、該ポリ乳酸樹脂材料を、これに一定方向の磁場を付与しながら結晶化させる工程を含むことを特徴とする、所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に関する。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立して水素原子、炭素原子数1ないし10のアルキル基、炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基を表し、R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。)
第2観点として、前記金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、スズ塩及びバリウム塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第1観点に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に関する。
第3観点として、前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、前記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を0.01ないし10.0質量部含有するポリ乳酸樹脂材料を用いる、第1観点又は第2観点に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に関する。
第4観点として、第1観点ないし第3観点のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、フィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体に関する。
第5観点として、第1観点ないし第3観点のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、光学素子に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法によれば、ポリ乳酸樹脂と特定の結晶核剤を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融した状態にあるポリ乳酸樹脂材料に対して、一定方向の磁場を付与しながら結晶化させることにより、ポリ乳酸樹脂を所定方向にかつ高度に配向させることができる。
従って、本発明の製造方法に従い製造されたポリ乳酸樹脂材料は、光通信、光計測、光交換などの分野における光学素子の材料として、あるいは電気材料、音響機器材料、生体医療材料などの分野における圧電素子の材料として利用できる。
そして本発明のフィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体並びに光学素子は、前述の製造方法によって所定方向にかつ高度に配向したポリ乳酸樹脂材料からなることから、高い旋光性、圧電性、或いは力学特性や透明性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明において使用するポリ乳酸樹脂材料は、ポリ乳酸樹脂と、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるものである。
【0012】
本発明において使用するポリ乳酸樹脂とは、ポリ乳酸のホモポリマー、コポリマー及びこれらの混合物、さらにポリ乳酸のホモポリマー又はコポリマーを主体とした他の樹脂とのブレンドポリマーを含む。
【0013】
ポリ乳酸としては特に限定されるものではないが、例えばラクチドを開環重合させたものや、乳酸のD体、L体、ラセミ体などを直接重縮合させたものが挙げられる。本発明の所定方向に高度に配向したポリ乳酸樹脂材料を得るには、光学純度が高いポリ乳酸樹脂を使用することが好ましい。例えばポリ乳酸樹脂がポリL−乳酸を主体とする場合、D体含量は10%未満が好ましく、2%未満がさらに好ましい。ポリ乳酸樹脂の数平均分子量は、一般に10,000から500,000程度である。また、ポリ乳酸樹脂を熱、光、放射線などを利用して架橋剤で架橋させたものも使用できる。
【0014】
ポリ乳酸樹脂がコポリマーの場合、コポリマーの配列様式はランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーのいずれであっても良い。
【0015】
上記ポリ乳酸のホモポリマー又はコポリマーを主体とした、他樹脂とのブレンドポリマーである場合、他樹脂とは、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂、汎用合成樹脂、汎用合成エンプラなどが挙げられる。
ポリ乳酸以外の生分解性樹脂の例としては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体などのポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネート/アジペート、ポリブチレンスクシネート/カーボネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレンスクシネート/アジペート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、変性でんぷん、酢酸セルロース、キチン、キトサン、リグニンなどが挙げられる。
汎用合成樹脂の例としては、PE、PP、EVA、EEAなどのポリオレフィン系樹脂、PS、HIPS、AS、ABSなどのポリスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
汎用合成エンプラの例としては、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、PET、PBTなどのポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0016】
本発明において使用する上記式(I)で表されるリン化合物において、式中のR1及びR2を表す置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの炭素原子数1ないし10のアルキル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基が挙げられる。これらの置換基は同一でも又は相異なっていてもよい。
【0017】
本発明において使用する上記式(I)で表されるリン化合物の具体例としては、フェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−エチルフェニルホスホン酸、4−n−プロピルフェニルホスホン酸、4−イソプロピルフェニルホスホン酸、4−n−ブチルフェニルホスホン酸、4−イソブチルフェニルホスホン酸、4−tert−ブチルフェニルホスホン酸、3,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、3,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸、2,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸又は2,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸などが挙げられる。
【0018】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を形成する金属として、1価、2価及び3価の金属を使用することが出来る。また2種以上の金属を混合して使用することもできる。
上記金属塩を形成する金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、スズ、バリウム、アルミニウムなどが挙げられる。これらより形成される金属塩としては2価の金属塩が好ましく、具体的にはカルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、スズ塩、バリウム塩が好ましい。
【0019】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の形成に際し、上記式(I)で表されるリン化合物と金属のモル比は特に制限されないが、一般にはリン化合物/金属のモル比として、1/2〜2/1の範囲で使用すると好ましい。塩化合物中には塩を形成していないフリーのリン化合物や金属を含まないことが好ましい。
【0020】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の製造方法は特に制限されないが、一般にはリン化合物と金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は有機酸塩を、水中又は有機溶媒中で混合反応させ、その後水又は有機溶媒を濾過もしくは留去して、乾燥することにより結晶性粉末として得ることができる。またリン化合物と、金属の塩化物、硫酸塩又は硝酸塩と、水酸化ナトリウムとを水中で混合して反応させることにより、リン化合物の金属塩を析出させ、その後、濾過し、乾燥させることによって得ることもできる。
得られる粉末の形態は、通常は粒状結晶、板状結晶、棒状結晶、針状結晶などとなり、さらにこれらの結晶が積層した形態になることもある。
これらの化合物(結晶性粉末)は市販されている場合には、市販品を使用することができる。
【0021】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の添加量は、前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.01ないし10.0質量部、好ましくは0.02ないし5.0質量部、さらに好ましくは0.03ないし2.0質量部である。上記添加量が0.01質量部未満であるとポリ乳酸樹脂の配向を十分に高めることが困難になる。また10質量部を超えて添加しても、それ以上の配向度の向上を望めない。
【0022】
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは5μm以下である。ここで言及する平均粒子径(μm)とは、Mie理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定して得られる50%体積径(メジアン径)である。
上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の平均粒子径を10μm以下にするために、上述の方法で得られた結晶性粉末を必要に応じて、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサーなどの剪断力を有する混合機や、ボールミル、ピンディスクミル、パルベライザー、イノマイザー、カウンタージェットミルなどの粉砕機を用いて微粉末とすることができる。また水、水と混合可能な有機溶媒及びこれらの混合溶液を用いたボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー、アトライター等の湿式粉砕機でも微粉末にすることができる。これらの装置における粉砕下限値は、0.05μmである。よって、上
記式(I)で表されるリン化合物の金属塩の平均粒子径は、好ましくは0.05ないし10μm、さらに好ましくは0.05ないし5μmとなる。
【0023】
前述したように、本発明の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法に用いるポリ乳酸樹脂材料は、ポリ乳酸樹脂と、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるものである。
【0024】
本発明において、ポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を配合する方法は、特に制限されることなく、公知の方法によって行うことができる。例えばポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩をそれぞれ各種ミキサーで混合し、単軸あるいは二軸押出機、各種ニーダー、プラストミルなどを用いて混練すればよい。混練は通常150ないし220℃程度の温度で行われる。各成分を高濃度で含有するマスターバッチを生成し、これをポリ乳酸樹脂に添加する方法も可能である。ポリ乳酸樹脂の重合段階で、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を添加することもできる。
こうして得られたポリ乳酸樹脂とリン化合物の金属塩との配合物を後述する所定の溶媒に添加するか、或いは、加熱溶融することにより、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する。
また、後述する所定の溶媒にポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を別々に添加する方法によって、直接、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製してもよい。
【0025】
ここで、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料とは、ポリ乳酸樹脂が溶媒に溶解している状態にあるポリ乳酸樹脂材料をさす。なお、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩はほとんどの溶媒に溶解しないため、通常、ポリ乳酸樹脂の溶液内で分散した状態となる。
ここで使用する溶媒としてはポリ乳酸樹脂を溶解できるものであればよい。具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル系化合物類、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン系化合物類、クロロホルム及びジクロロメタン等のハロゲン系炭化水素類、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性化合物類などが挙げられる。これらの溶媒は一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料において、ポリ乳酸樹脂の濃度は1ないし70質量%の範囲とすることができる。
【0026】
ポリ乳酸樹脂を溶融状態とするには、ポリ乳酸のガラス転移点である約60℃より高温で加熱溶融させればよい。加熱温度としては、60ないし250℃が好ましく、70ないし200℃がさらに好ましい。加熱温度が60℃より低い場合は、磁場を付与してもポリ乳酸を十分に配向させることが困難になり、250℃より高い場合はポリ乳酸が熱分解することがある。
またポリ乳酸樹脂を溶融状態とするのは、磁場付与前又は磁場付与中のいずれであっても良い。
加熱時間は、加熱温度や磁場強度にもよるが、通常は0.1分ないし100時間、好ましくは1分ないし10時間である。
【0027】
本発明の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法は、ポリ乳酸樹脂と上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩である結晶核剤を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解状態又はポリ乳酸樹脂が溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料に対して、磁場を付与することによってポリ乳酸を配向させることを特徴とする。
本発明によって製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料は、ポリ乳酸樹脂の溶解状態又は溶融状態の中で、上記式(I)で表されるリン化合物の金属塩である結晶核剤がまず最初に磁場配向し、その後ポリ乳酸樹脂が結晶化する過程で、結晶核剤表面でポリ乳酸がエピタキシャル的に結晶成長することによって得られると考えられる。
【0028】
磁場は、永久磁石、電磁石、超伝導磁石等により付与することができる。磁場強度はポリ乳酸を配向させることができる範囲であれば特に制限されないが、通常は0.01ないし100テスラ、好ましくは0.1ないし30テスラである。磁場強度が強いほど、ポリ乳酸の配向度や配向速度を向上させる傾向がある。
【0029】
磁場の付与によりポリ乳酸を配向させるには、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で溶媒を揮発させて結晶化させる方法と、ポリ乳酸樹脂が溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で冷却し結晶化させる方法がある。
【0030】
ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で溶媒を揮発させて結晶化させる場合、溶媒を揮発させる方法は、一般的なキャストフィルムを作成する方法に従って行えばよく、溶媒を揮発させる際に加熱してもよいし、揮発後に得られたフィルムを加熱してもよい。
【0031】
ポリ乳酸樹脂が溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を磁場中で冷却し結晶化させる場合、ここでいう「冷却」とはポリ乳酸のガラス転移点未満の温度に下げることを意味する。冷却方法はゆっくり冷却してもよいし、急速に冷却してもよい。
【0032】
本発明に使用する前記ポリ乳酸樹脂材料には、公知の無機又は有機の充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、例えばガラス繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。有機充填剤としては、たとえばセルロース、キチン、キトサン、炭素繊維などが挙げられる。これらの無機又は有機の充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末のいずれでもよい。これらの無機又は有機の充填剤は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
【0033】
本発明に使用する前記ポリ乳酸樹脂材料には、公知の難燃剤を配合することができる。例えば臭素系や塩素系などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、シリコーン系化合物などの無機系難燃剤、赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼンなどのリン系難燃剤、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩、アルキルホスホン酸メラミン、フェニルホスホン酸メラミン、硫酸メラミン、メタンスルホン酸メラムなどのメラミン系難燃剤、PTFEなどのフッ素樹脂などが挙げられる。これらの難燃剤は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
【0034】
また上記の成分以外にも、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、シラン系、チタン系、アルミニウム系等の各種カップリング剤、その他の各種充填剤、その他の結晶核剤など、一般的な合成樹脂の製造時に通常使用される各種添加剤と併用することができる。
【0035】
本発明に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料は、任意の形状を有する
ことができる。例えば、フィルム状構造体、シート状構造体又はファイバー状構造体の形状を有することができる。成形方法としては、一般の押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形、真空成形、圧縮成形などの慣用の成形法が挙げられ、各種形状の成形品として使用することができる。
【0036】
本発明に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料は、光学素子又は圧電素子として好適に利用することができる。またポリ乳酸の配向制御により、ポリ乳酸樹脂材料の機械特性や透明性などの物性制御も可能となる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例、比較例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
合成例1:フェニルホスホン酸亜鉛塩の合成
フェニルホスホン酸[日産化学工業(株)製]1.58g(10.0mmol)と、酢酸亜鉛二水和物2.20g(10.0mmol)と、水72gを混合し、80℃で3時間撹拌後、スラリーを濾過し、ウェットケーキ中の酢酸を水で充分に洗い流した。その後、150℃で乾燥することで、目的物であるフェニルホスホン酸亜鉛塩2.17g(収率98%)を白色結晶として得た。分解温度541℃。レーザー回折式粒度分布計[マルバーン社製 マスターサイザー2000]による平均粒子径は3.5μmであった。
【0039】
参考例1:フェニルスルホン酸亜鉛の配向挙動
<試料調製>
エポキシアクリレート系AQ9溶液[荒川化学工業(株)製]95mgに、合成例1で得られたフェニルホスホン酸亜鉛塩5mgを配合した溶液を調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置[(株)玉川製作所製 電磁石TM−MV8615MRC−156]にセットした。25℃で、磁場強度2.4Tで10分間、磁場を印加した後に、紫外線[HAYASHI製 UVスポット光源]を照射して、紫外線架橋反応によりAQ9を固化させ、光硬化フィルムを得た。この光硬化フィルム試料について、広角X線回折法によりフェニルホスホン酸亜鉛塩の配向性を確認した。
【0040】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について、広角X線回折装置[理学電機(株)製 MicroMax007、R−AXIA IV++]を用い、40kV、20mAの出力で発生したX線をコンフォーカルミラーにより高輝度化及び単色化し、ピンホールコリメータ径0.2mmΦを介して、試料に3分間露光することにより、カメラ距離150mmのイメージングプレート上にX線回折像を記録してラウエ写真を得た。
ラウエ写真は〔図1〕に示すように繊維図形となり、フェニルホスホン酸亜鉛塩の(100)、(200)、(300)面の反射が磁場方向にアーク状に現れていることから、フェニルホスホン酸亜鉛塩はその結晶a軸が磁場に対して平行に配向していること(磁化容易軸がa軸であること)が確認された。
【0041】
<配向度の評価>
フェニルホスホン酸亜鉛塩の配向度を定量化するための方法として、その回折強度分布の積分幅を用いる方法[角戸正夫,笠井暢民著「高分子X線回折」丸善,p187]を採用し、以下の〔数式1〕により求めた値<P2>を配向度とした。
印加した磁場強度の大きさに対するフェニルホスホン酸亜鉛塩の配向度の結果を〔図2〕に示す。
【0042】
【化2】
(式中、θはブラッグ角、φは方位角、I(φ)は各方位角におけるX線回折強度を表す。)
【0043】
実施例1:ポリ乳酸の配向挙動
<試料調製>
ポリ乳酸樹脂[三井化学(株)製 LACEA H−100]99mgに、合成例1で得られたフェニルホスホン酸亜鉛塩を1mg配合し、この混合物を900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで2時間、磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸系樹脂のフィルムを得た。このフィルム試料について、広角X線回折法及び偏光顕微鏡観察法によりフェニルホスホン酸亜鉛塩及びポリ乳酸結晶の配向性を確認した。
【0044】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図3〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸亜鉛塩の反射に加えてポリ乳酸結晶の反射も繊維図形を示した。更に、ブラッグ角2θ=23°における反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図4〕に示すように、方位角が90°と270°の位置で回折強度が極大を示すことから、フェニルホスホン酸亜鉛塩とポリ乳酸結晶の両者が磁場配向することが確認された。
【0045】
<配向度の評価>
ポリ乳酸結晶の配向度を定量化するための方法として、フェニルホスホン酸亜鉛塩と同様に回折強度分布の積分幅を用いる方法を採用し、〔数式1〕により求めた値<P2>を配向度とした。磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料の広角X線回折におけるブラッグ角2θ=23°における反射の方位角方向の回折強度分布から得られた配向度<P2>は0.3であった。
【0046】
<偏光顕微鏡による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を偏光顕微鏡[オリンパス(株)製 BX−50P]を用いて対物レンズ4倍、クロスニコルで観察した。クロスニコル下で、試料を回転しながら複屈折光強度を測定すると、〔図5〕に示すように回転角度が45°及び135°で複屈折光強度が極大を示す曲線が得られ、フィルム試料はポリ乳酸の分子鎖が配向した構造を形成していることが確認された。
更に、鋭敏色検板(波長λ=530nm)を挿入して同様にフィルム試料を回転させた時の干渉色のスペクトルを測定した。スペクトルは偏光顕微鏡にマルチチャンネルアナライザー[浜松ホトニクス(株)製 PMA−11]を設置して、顕微鏡タングステンランプ強度を6、露光時間300ミリ秒/回の20回積算平均の条件で測定した。スペクトル測定の結果、〔図6〕に示すように磁場印加方向を検板z’軸方向に平行にして測定したときには青から緑色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長480nm)が得られ、両者を垂直にして測定したときには黄色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長600nm)が得られたことから、磁場方向に対して相加のレターデーション変化が認められた。レターデ
ーション法による高分子フィルムの配向評価法(粟屋裕著「高分子素材の偏光顕微鏡入門」アグネ技術センター,p78)により、磁場方向に対して相加のレターデーション変化は、ポリ乳酸の分子鎖が磁場方向に配向していることを示すものであり、ポリ乳酸の結晶c軸は磁場方向に配向していることが確認された。
【0047】
比較例1
<磁場外におけるポリ乳酸の結晶化>
ポリ乳酸樹脂[三井化学(株)製 LACEA H−100]99mgに、合成例1で得られたフェニルホスホン酸亜鉛塩を1mg配合し、この混合物を900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして溶媒が揮発してフィルム化するまで、1時間、25℃に放置した。
このフィルム試料について、広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図7〕に示すように環状の広角X線回折像が得られた。この回折像はデバイシェラー環であることから、ポリ乳酸とフェニルホスホン酸亜鉛塩が共にランダムに配向していることが確認された。
【0048】
比較例2
<結晶核剤を含まないポリ乳酸の磁場印加試験>
ポリ乳酸樹脂[三井化学(株)製 LACEA H−100]10mgを、90mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸の溶液を調製した。この溶液を秤量瓶に0.1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで2時間、磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸樹脂のフィルムを得た。
このフィルム試料について、広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図8〕に示すようなデバイシェラー環を示す広角X線回折像が得られた。すなわちポリ乳酸単独では、磁場印加しても一方向に配向せず、ランダム配向となっていることが確認された。
【0049】
合成例2:フェニルホスホン酸亜鉛(大粒径品)の合成
2Lの反応容器に、酢酸亜鉛二水和物〔和光純薬工業(株)製〕0.44g(2mmol)、フェニルホスホン酸〔日産化学工業(株)製〕0.32g(2mmol)及び水2Lを加えた。この混合物を撹拌して溶解させた後、95℃で24時間加熱し反応させた。反応終了後、室温(およそ25℃)まで冷却した。反応混合物を濾過し、水で充分に洗い流した。得られた湿品を120℃で乾燥することで、白色板状結晶のフェニルホスホン酸亜鉛0.21g(収率47%)を得た。
SEM〔日本電子(株)製 電界放出型走査電子顕微鏡JSM−7400F〕画像観察による、得られた板状結晶の長軸長はおよそ30乃至100μmであった。
【0050】
参考例2:フェニルホスホン酸亜鉛(大粒径品)の配向挙動
<試料調製>
エポキシアクリレート系AQ9溶液[荒川化学工業(株)製]95mgに、合成例2で得られたフェニルホスホン酸亜鉛5mgを配合した溶液を調製した。この溶液を秤量瓶に0.5ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。25℃で、磁場強度2.4Tで5分間磁場を印加した後に、紫外線を照射して紫外線架橋反応によりAQ9を固化させ、光硬化フィルムを得た。この光硬化フィルム試料について、光学顕微鏡観察法と広角X線回折法によりフェニルホスホン酸亜鉛の配向性を確認した。
【0051】
<光学顕微鏡による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について、デジタル光学顕微鏡[ハイロックス(株)製 パワーハイスコープKH−2700]を用いて倍率500倍で観察した。その結果、〔図9〕に示すように、フェニルホスホン酸亜鉛結晶の長軸が、磁場方向に対して
垂直に配向することが確認された。
【0052】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図10〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸亜鉛結晶の(100)、(200)面の反射が磁場方向にアーク状に現れ、参考例1と同様に結晶a軸が磁場方向に対して平行に配向することが確認された。
上記の光学顕微鏡の評価結果とあわせると、板状のフェニルホスホン酸亜鉛結晶の長軸は、a軸と垂直であることが確認された。
【0053】
実施例2:フェニルホスホン酸亜鉛(大粒径品)を用いたポリ乳酸の配向挙動
<試料調製>
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]99mgに、合成例2で得られたフェニルホスホン酸亜鉛1mgを配合し、この混合物を1,900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで2時間磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを得た。このフィルム試料について、広角X線回折法及び偏光顕微鏡観察法によりフェニルホスホン酸亜鉛及びポリ乳酸結晶の配向性を確認した。
【0054】
<広角X線による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図11〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸亜鉛の反射に加えてポリ乳酸結晶α晶の反射も繊維図形を示した。更に、ブラッグ角2θ=16.6°でポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図12〕に示すように、方位角が0°と180°の位置で回折強度が極大を示すことから、フェニルホスホン酸亜鉛とポリ乳酸結晶の両者が磁場配向することが確認された。
【0055】
<配向度の評価>
実施例1と同様にポリ乳酸結晶の配向度を求めたところ、磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料の広角X線回折における、ポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布から得られた配向度は0.25であった。
【0056】
<偏光顕微鏡による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を偏光顕微鏡を用いて対物レンズ50倍、クロスニコルで観察した。クロスニコル下で、試料を回転しながら複屈折光強度を測定すると、〔図13〕に示すように回転角度が45°及び135°で複屈折光強度が極大を示す曲線が得られ、フィルム試料はポリ乳酸の分子鎖が配向した構造を形成していることが確認された。
更に、実施例1と同様に、鋭敏色検板(波長λ=530nm)を挿入して同様にフィルムを回転させた時の干渉色のスペクトルを測定した。スペクトル測定の結果、〔図14〕に示すように磁場印加方向を検板z’軸方向に平行にして測定したときには黄色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長660nm)が得られ、両者を垂直にして測定したときには青から緑色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長480nm)が得られたことから、磁場方向に対して相減のレターデーション変化が認められた。レターデーション法による高分子フィルムの配向評価法により、磁場方向に対して相減のレターデーション変化は、ポリ乳酸の分子鎖が磁場方向に配向していることを示すものであり、ポリ乳酸α晶のc軸は磁場方向に対して垂直に配向していることが確認された。
【0057】
合成例3:フェニルホスホン酸マンガンの合成
2Lの反応容器に、酢酸マンガン四水和物〔和光純薬工業(株)製〕0.49g(2mmol)、フェニルホスホン酸〔日産化学工業(株)製〕0.32g(2mmol)及び水2Lを加えた。この混合物を撹拌して溶解させた後、95℃で24時間加熱し反応させた。反応終了後、室温(およそ25℃)まで冷却した。反応混合物を濾過し、水で充分に洗い流した。得られた湿品を200℃で乾燥することで、白色板状結晶のフェニルホスホン酸マンガン一水和物0.30g(収率65%)を得た。
5%重量減(無水物基準)温度420℃。SEM画像観察による、得られた板状結晶の長軸長はおよそ10乃至30μmであった。
【0058】
参考例3:フェニルホスホン酸マンガンの配向挙動
<試料調製>
参考例2において、フェニルホスホン酸亜鉛を合成例3で得られたフェニルホスホン酸マンガンに代えた以外は同様の操作を行い、光硬化フィルムを得た。この光硬化フィルム試料について、光学顕微鏡観察法と広角X線回折法によりフェニルホスホン酸マンガンの配向性を確認した。
【0059】
<光学顕微鏡による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について、デジタル光学顕微鏡を用いて倍率1,000倍で観察した。その結果、〔図15〕に示すように、フェニルホスホン酸マンガン結晶の長軸が、磁場方向に対して平行に配向することが確認された。
【0060】
<広角X線回折による評価>
上記の磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図16〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸マンガン結晶の反射は磁場方向対して平行にアーク状に現れた。
上記の光学顕微鏡の評価結果とあわせると、この反射は、板状のフェニルホスホン酸マンガン結晶の長軸に対して、ほぼ平行な結晶面に起因する反射であることが確認された。
【0061】
実施例3:フェニルホスホン酸マンガンを用いたポリ乳酸の配向挙動
<試料調製>
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]90mgに、合成例3で得られたフェニルホスホン酸マンガン10mgを配合し、この混合物を1,900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで1時間磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸系樹脂フィルムを得た。このフィルム試料について、広角X線回折法及び偏光顕微鏡観察法によりフェニルホスホン酸マンガン及びポリ乳酸結晶の配向性を確認した。
【0062】
<広角X線による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真(〔図17〕)に示すとおり、フェニルホスホン酸マンガンの反射に加えてポリ乳酸結晶α晶の反射も繊維図形を示した。更に、ブラッグ角2θ=16.6°でポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図18〕に示すように、方位角が90°と270°の位置で回折強度が極大を示すことから、フェニルホスホン酸マンガンとポリ乳酸結晶の両者が磁場配向することが確認された。
【0063】
<配向度の評価>
実施例1と同様にポリ乳酸結晶の配向度を求めたところ、磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料の広角X線回折における、ポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向
の回折強度分布から得られた配向度は0.2であった。
【0064】
<偏光顕微鏡による評価>
上記の磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を偏光顕微鏡を用いて対物レンズ50倍、クロスニコルで観察した。クロスニコル下で、試料を回転しながら複屈折光強度を測定すると、〔図19〕に示すように回転角度が45°及び135°で複屈折光強度が極大を示す曲線が得られ、フィルム試料はポリ乳酸の分子鎖が配向した構造を形成していることが確認された。
更に、実施例1と同様に、鋭敏色検板(波長λ=530nm)を挿入して同様にフィルムを回転させた時の干渉色のスペクトルを測定した。スペクトル測定の結果、〔図20〕に示すように磁場印加方向を検板z’軸方向に平行にして測定したときには青から緑色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長480nm)が得られ、両者を垂直にして測定したときには黄色の干渉色のスペクトル(最大吸収波長660nm)が得られたことから、磁場方向に対して相加のレターデーション変化が認められた。レターデーション法による高分子フィルムの配向評価法により、磁場方向に対して相加のレターデーション変化は、ポリ乳酸の分子鎖が磁場方向に配向していることを示すものであり、ポリ乳酸α晶のc軸は磁場方向に対して平行に配向していることが確認された。
【0065】
比較例3:磁場外におけるポリ乳酸の結晶化
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]99mgに、合成例2で得られたフェニルホスホン酸亜鉛1mgを配合し、この混合物を1,900mgのクロロホルムに溶解してポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして溶媒が揮発してフィルム化するまで、1時間、25℃に放置した。
このフィルム試料について広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図21〕に示すように環状のα晶の広角X線回折像が得られた。この回折像はデバイシェラー環であり、さらにポリ乳酸α晶の(110)面の反射の方位角方向の回折強度分布は、〔図22〕に示すように変化が認められないことから、ポリ乳酸結晶とフェニルホスホン酸亜鉛が共にランダムに配向していることが確認された。
【0066】
比較例4:結晶核剤を含まないポリ乳酸の磁場印加試験
ポリ乳酸樹脂[トヨタ自動車(株)製 トヨタエコプラスチックU’z S−09]100mgを1,900mgのクロロホルムに溶解して、ポリ乳酸樹脂が溶解状態にあるポリ乳酸樹脂材料(溶液)を調製した。この溶液を秤量瓶に1ml滴下し、秤量瓶に蓋をして磁場装置にセットした。この溶液に25℃で、磁場強度2.4Tで1時間磁場を印加しながら溶媒を留去し、ポリ乳酸樹脂フィルムを得た。
このフィルム試料について広角X線回折のラウエ写真を撮影したところ、〔図23〕に示すように広角X線回折像は現れず、本条件下ではポリ乳酸樹脂は非晶性のままフィルム化した。すなわち、ポリ乳酸単独では微結晶が形成せず固化(ガラス化)することが確認された。
【0067】
〔図1〕〜〔図23〕に示すように、本発明の製造方法により得られたポリ乳酸系樹脂フィルム試料は、磁場印加によりフィルム中のフェニルホスホン酸亜鉛塩又はフェニルホスホン酸マンガン塩が一方向に高度に配向し、その結果、ポリ乳酸の結晶が一方向に配向していることが確認された。
以上の結果より、本発明の製造方法によれば、ポリ乳酸樹脂と式(I)で表されるリン化合物の金属塩である結晶核剤を含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料に対して磁場を付与させることにより、ポリ乳酸結晶は磁場によってその配向が制御され、磁場方向に結晶配向したポリ乳酸フィルムの提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、参考例1で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料(PPA−Zn/AQ9)について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図2】図2は、参考例1で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料において、印加した磁場強度に対するフェニルホスホン酸亜鉛塩の配向度を示す図である。
【図3】図3は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図4】図4は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図5】図5は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を回転させながら測定した複屈折光強度について、回転角度に対して示した図である。
【図6】図6は、実施例1で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を、鋭敏色検板を挿入し試料を回転させた場合のモデル図及び干渉色のスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、比較例1で作製した磁場印加していないポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図8】図8は、比較例2で作製した結晶核剤を含まないポリ乳酸樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図9】図9は、参考例2で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したデジタル光学顕微鏡写真を示す図である。
【図10】図10は、参考例2で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図11】図11は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図12】図12は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図13】図13は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を回転させながら測定した複屈折光強度について、回転角度に対して示した図である。
【図14】図14は、実施例2で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を、鋭敏色検板を挿入し試料を回転させた場合のモデル図及び干渉色のスペクトルを示す図である。
【図15】図15は、参考例3で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したデジタル光学顕微鏡写真を示す図である。
【図16】図16は、参考例3で作製した磁場印加した光硬化フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図17】図17は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図18】図18は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図19】図19は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を回転させながら測定した複屈折光強度について、回転角度に対して示した図である。
【図20】図20は、実施例3で作製した磁場印加したポリ乳酸系樹脂フィルム試料を、鋭敏色検板を挿入し試料を回転させた場合のモデル図及び干渉色のスペクトルを示す図である。
【図21】図21は、比較例3で作製した磁場印加していないポリ乳酸系樹脂フィルム試料について撮影したラウエ写真を示す図である。
【図22】図22は、比較例3で作製した磁場印加していないポリ乳酸系樹脂フィルム試料における回折強度分布を示す図である。
【図23】図23は、比較例4で作製した磁場印加した結晶核剤を含まないポリ乳酸樹脂について撮影したラウエ写真を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂と、式(I)で表されるリン化合物の金属塩とを含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する工程、該ポリ乳酸樹脂材料を、これに一定方向の磁場を付与しながら結晶化させる工程とを含むことを特徴とする、所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
【化1】
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立して水素原子、炭素原子数1ないし10のアルキル基、炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基を表し、R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、スズ塩及びバリウム塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、前記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を0.01ないし10.0質量部含有するポリ乳酸樹脂材料を用いる、請求項1又は請求項2に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、フィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、光学素子。
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂と、式(I)で表されるリン化合物の金属塩とを含有し、ポリ乳酸樹脂が溶解又は溶融状態にあるポリ乳酸樹脂材料を調製する工程、該ポリ乳酸樹脂材料を、これに一定方向の磁場を付与しながら結晶化させる工程とを含むことを特徴とする、所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
【化1】
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立して水素原子、炭素原子数1ないし10のアルキル基、炭素原子数1ないし10のアルコキシカルボニル基を表し、R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、スズ塩及びバリウム塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、前記式(I)で表されるリン化合物の金属塩を0.01ないし10.0質量部含有するポリ乳酸樹脂材料を用いる、請求項1又は請求項2に記載の所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、フィルム状構造体、シート状構造体及びファイバー状構造体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のうち何れか一項に記載の方法に従い製造された所定方向に配向したポリ乳酸樹脂材料から得られる、光学素子。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図13】
【図14】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図1】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【図23】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図13】
【図14】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図1】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【図23】
【公開番号】特開2010−132899(P2010−132899A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255013(P2009−255013)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(508333099)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(508333099)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
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