説明

配向膜の製造方法

【課題】所望の液晶配向性を有する配向膜を効率良く成膜する。
【解決手段】本発明の配向膜製造方法は、第一の成膜圧力で底面層をせいまくした後、真空槽51内部の圧力を第一の成膜圧力よりも高い第二の成膜圧力に上昇させて、底面層の表面に表面層を積層し、底面層と表面層との積層膜で配向膜を構成する。底面層は低圧力で形成されるため、表面層と同じ傾斜角度で成膜した場合であっても屈折率が高い。屈折率が高い程バリア性が高いので、本発明により成膜される配向膜はバリア性と配向性を兼ね備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示装置を製造する製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば負の誘電異方性を有する液晶分子を、一対の基板間に垂直配向するように封入したVA(Vertically Aligned)モードの液晶表示装置が広く知られている。
VAモードの液晶表示装置では、電界無印加時に液晶分子が基板主面に対してほぼ垂直に配向し、電界印加時には基板主面に対して傾斜配向する。
【0003】
垂直配向時には、光は偏光面がほとんど変化せずに液晶層を通過し、傾斜配向時には、複屈折率性により入射光の偏光面が回転する。
垂直配向時において光を遮断するように偏光板を配置しておくと、TNモードの液晶表示装置に比較して高いコントラストを実現できると言われている。
【0004】
各液晶分子の配向の変化方向を一定にするために、液晶は配向膜上に配置され、この配向膜によって、液晶分子はあらかじめ微小な斜頚角度(プレチルト角)を持って配向されている。
【0005】
この配向膜には、従来よりポリイミド等の有機材料が広く知られている。しかし、有機材料からなる配向膜は耐光性や耐熱性に劣るため、近年ではSiO等の無機材料からなる耐光性、耐熱性に優れた無機配光膜の開発が進められている。無機配向膜の形成には、従来より斜方蒸着が用いられている。
【0006】
斜方蒸着は、SiO2、SiO、Al22などの無機材料を入射角が斜めに入るよう基板を斜頚させて蒸着を行う方法で、蒸気の入射角、成膜中の圧力(酸素などのガス導入)によりプレチルト角がコントロールされる。(特開2004-163921)
しかしながら、このようにして作製された配向膜は密度が低いため、バリア性が低く、この配向膜上に液晶を配置したときに、液晶中に含まれるイオンが配向膜中を透過し、配向膜の下層に位置する透明導電膜に進入すると、表示不良が生じてしまう。
【0007】
そこで成膜工程を垂直蒸着と斜方蒸着2段に分け(特許公開2005-77901)、バリア性が高いバリア層を形成する方法が提案されているが、二台の成膜装置を使用し、その間を搬送すると処理時間が長くなり、また、一台の成膜装置内で垂直蒸着と斜方蒸着を行なうと、発塵や、リークガスの問題が生じるおそれがある。
【特許文献1】特開2004−163921号公報
【特許文献2】特開2005−77901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、液晶を所望のプレチルト角で配向可能であり、かつ、化学的安定性の高い配向膜を成膜することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
配向膜のバリア性に関し、配向膜の膜密度が高い程バリア性は高くなる。配向膜の膜密度の大きさは、配向膜の屈折率を測定すれば間接的に求めることができる。
配向膜を蒸着法で形成する場合、入射角度が35−60°の範囲、6×10-3〜3×10-2Paの圧力範囲では、入射角度が大きくなるほど、また、成膜圧力が高くなるほど形成される配向膜の構造が平滑なものから柱状に変化し、配向膜の表面に、液晶を傾けるために必要な凹凸が表面に形成され、その結果、入射角度が大きい程、また、圧力が高い程、プレチルト角は大きな値となる。
【0010】
入射角度を大きくするためには、基板を水平面から傾け、傾斜させて蒸着すればよく、成膜圧力を変えるためには、真空槽中に導入する酸素の量を変え、真空槽中の酸素圧力を変えればよい。
【0011】
本発明の発明者等は、バリア性の要求とプレチルト角の要求を両立させる配向膜を形成するため、成膜圧力と、屈折率及びプレチルト角の関係を測定した。
基板を水平状態から45°傾斜させ、二酸化ケイ素からなる蒸着材料を真空雰囲気中で溶融、蒸発させ、基板表面に二酸化ケイ素膜から成る配向膜を形成したときの成膜圧力と屈折率の関係を下記表1及び図3に示し、成膜圧力とプレチルト角の関係を表2及び図4に示す。成膜速度は5Å/秒、膜厚1000Åであった。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
図3、4から、成膜圧力が異なる場合、屈折率は成膜圧力が小さい程大きく、逆に、プレチルト角は成膜圧力が高い程大きい。
また、基板の水平面に対する傾斜角度を大きくすれば、プレチルト角を大きくすることができるが、斜め方向から入射する蒸気によって配向膜が形成されると、膜密度が低下し、バリア性が悪くなる。
従って、大きなプレチルト角を得るための傾斜角度と成膜圧力を設定すると、バリア性が得られなくなる。
【0015】
本発明者等は、液晶のプレチルト角には、配向膜の表面の膜質が影響しており、配向膜の下層の部分の膜質は影響しないことに基づき、プレチルト角とバリア性が両立する配向膜を得るためには、プレチルト角を得るための傾斜角度を設定し、先ず、その傾斜角度でバリア性が得られる圧力で配向膜を形成した後、圧力を変化させ、傾斜角度を変化させずにプレチルト角を得られる膜質の配向膜を形成すればよいことを見いだし、本発明を創作するに到った。
【0016】
係る知見に基づいて成された本発明は、基板上に透明導電膜と二酸化ケイ素を主成分とする配向膜が形成され、前記配向膜表面に液晶が配置される液晶表示装置の前記配向膜を製造する製造方法であって、前記配向膜を形成する工程は、前記透明導電膜が形成された基板を水平面に対して所定の傾斜角度で傾斜させた状態で真空雰囲気中に保持し、前記真空雰囲気中に酸素を導入し、前記真空雰囲気の酸素圧力を第一の成膜圧力にした状態で二酸化ケイ素を主成分とする蒸着材料を溶融させ、前記蒸着材料の蒸気を放出させ、前記透明導電膜表面に前記配向膜の底面層を成長させた後、前記真空雰囲気の酸素圧力を、前記第一の成膜圧力よりも高い第二の成膜圧力にし、前記配向膜の表面層を前記底面層上に形成する配向膜の製造方法である。
本発明は配向膜の製造方法であって、同一の真空槽内で、前記底面層と前記表面層を成長させる配向膜の製造方法である。
本発明は配向膜の製造方法であって、前記傾斜角度は、前記底面層を形成する間と前記表面層を形成する間で同じにする配向膜の製造方法である。
本発明は配向膜の製造方法であって、前記真空雰囲気中に窒素ガスを導入する配向膜の製造方法である。
本発明は配向膜の製造方法であって、前記表面層の膜厚をが10nm以上にする配向膜の製造方法である。
【0017】
表面に膜厚1000Åの透明導電膜(ITO膜)がスパッタ法で成膜された基板を用意し、傾斜角度(基板表面と水平面の成す角度)40°、45°、50°、圧力2×10-2Pa、2×10-3Paの条件を組み合わせ、それぞれ配向膜を形成した。各配向膜は、屈折率をエリプソメータによって測定し、更に各配向膜に液晶(メルク(株)社製の商品名「MLC6608」)を配置し、クリスタルローテーション法でプレチルト角を測定した。
傾斜角度と圧力以外の成膜条件を下記表3に示し、測定結果を下記表4、5に示す。
【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
【表5】

【0021】
図5は、上記測定結果から求めた傾斜角度と屈折率の関係を示すグラフであり、符号L1に示す曲線は2×10-2Paの圧力で形成した場合、符号H1に示す曲線は、2×10-3Paの圧力で形成した場合である。
【0022】
図6は、上記測定結果から求めた傾斜角度とプレチルト角の関係を示すグラフであり、符号H2に示す曲線は、2×10-2Paの圧力で形成した場合、符号L2示す曲線は、2×10-3Paの圧力で形成した場合である。
図5、6から分かるように、基板の水平面からの傾斜角度が大きくなるほど屈折率が小さく、プレチルト角が大きくなっている。
【0023】
本発明は、必要なプレチルト角が得られる圧力の値と傾斜角度の値の組み合わせのうち、同じ傾斜角度で圧力を小さくした場合に、必要な屈折率が得られる傾斜角度を予め求めておき、先ず、必要な屈折率が得られる第一の成膜圧力で蒸着して配向膜の底面層を形成し、次いで、圧力を第一の成膜圧力よりも高い第二の成膜圧力に変更し、必要なプレチルト角が得られる表面層を形成している。
【発明の効果】
【0024】
本発明により成膜された配向膜はバリア性と配向性を兼ね備えるので、異なる成膜装置によってバリア膜を配向膜と別に成膜する必要が無い。
本発明で形成される配向膜はSiO2を主成分とするため、配向膜に樹脂膜を用いた場合に比べ、液晶表示装置は耐光性、耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1の符号5は本発明方法に用いることができる成膜装置の一例を示している。
この成膜装置5は、真空槽51を有している。真空槽51の内部には、基板ホルダ57が配置されている。また、真空槽51の内部には回転軸55が水平に配置され、基板ホルダ57はこの回転軸55に取り付けられており、回転軸55が回転すると、基板ホルダ57は水平面に対して所望角度傾斜できるように構成されている。
図1の符号11は、基板ホルダ57に保持され、表面Sが水平面Hに対して傾斜角度θ(0<θ<90°)傾いた状態の基板を示している。
【0026】
真空槽51内部の基板ホルダ57の真下位置には、蒸着容器52が配置されている。蒸着容器52の内部には、蒸着材料54が配置されている。
真空槽51には真空排気系59が接続されている。真空排気系59によって真空槽51内部を真空排気し、電源4から不図示のヒータに通電して蒸着容器52内の蒸着材料54を加熱溶融させると、真空槽51内に蒸着材料54の蒸気が放出され、蒸着材料54の蒸気が基板11表面上に到達する。
【0027】
真空槽51にはガス供給系58が接続されている。ガス供給系58には不図示のタンクが設けられており、タンク内に収容された補助ガスを流量制御しながら真空槽51内部に導入できるように構成されている。
【0028】
真空槽51には、圧力センサ67と膜厚センサ63が設けられている。圧力センサ67は制御装置2に接続され、膜厚センサ63は、膜厚計6を介して制御装置2に接続されており、圧力センサ67によって真空槽51内部の圧力を測定し、膜厚センサ63によって基板11表面上に成長する薄膜の膜厚を測定できるように構成されている。
【0029】
制御装置2は、圧力センサ67と膜厚センサ63の測定値に基づいて、下記のようにガス導入系58から真空槽51内に導入する補助ガスの量を制御する。
即ち、制御装置2は一乃至複数の圧力値を記憶するように構成されており、記憶された圧力値の中から、一の圧力値が選択されると、制御装置2は、圧力センサ67によって測定された真空槽51内の圧力の測定値が選択された圧力と等しくなるように、ガス導入系58を制御する。ここでは、後述するように、第一の成膜圧力と、それよりも高圧の第二の成膜圧力が記憶されている。
【0030】
また、制御装置2には、膜厚基準値が記憶されており、膜厚センサ63の測定値が膜厚基準値よりも小さいときには、第一の成膜圧力が選択され、膜厚基準値以上になると、第二の成膜圧力が選択される。
【0031】
次に、この成膜装置5を用いて配向膜を成膜する工程について説明する。
液晶表示装置に要求されるプレチルト角の範囲は予め分かっており、上述したように、成膜圧力を変えた場合に、必要なプレチルト角と屈折率を得ることができる傾斜角度θを予め求めておき、その傾斜角度で蒸着したときに、必要な屈折率が得られる成膜圧力と、必要なプレチルト角が得られる成膜圧力を、それぞれ第一の成膜圧力と第二の成膜圧力として、制御装置2に記憶させておく。
【0032】
また、形成する配向膜の底面層の膜厚を基準膜厚として制御装置2に記憶させておく。
蒸着容器52内に二酸化ケイ素を主成分とする蒸着材料54を配置し、ガス供給系58に補助ガスとして酸素ガスを配置し、真空排気系59を動作させて真空槽51内部に真空雰囲気を形成する。
【0033】
図1の符号10は成膜対象物である積層基板を示している。積層基板10は基板11と、基板11表面に配置された透明電極膜12とを有しており、表面に透明電極膜12が露出している。
【0034】
真空槽51内の真空雰囲気を維持したまま、積層基板10を真空槽51内部に搬入し、透明電極膜12が露出する面(成膜面)を蒸着容器52に向け、水平な基板ホルダ57に保持させた後、基板ホルダ57を傾け、基板11の表面Sと水平面Hとの角度が予め求めた傾斜角度θになるよう積層基板10を傾ける。
真空槽51の内部には加熱ヒータ61が設けられており、加熱ヒータ61に通電し、積層基板10を所定温度に加熱する。
【0035】
蒸着容器52との基板ホルダ57の間にはシャッタ68が設けられており、シャッタ68を閉じた状態で蒸着容器52の蒸着材料54を加熱し、蒸気を放出させ、真空槽51内に酸素ガスを導入し、第一の成膜圧力で安定したところで、シャッタ68を開け、積層基板10を所定温度に維持したまま、蒸着材料54の蒸気を積層基板10の成膜面に到達させ、配向膜の底面層を成長させる。
底面層の膜厚が基準膜厚に到達したところで、一旦シャッタ68を閉じ、酸素導入量を増加させ、真空槽51内を第一の成膜圧力から第二の成膜圧力に変化させる。
【0036】
真空槽51内の圧力が第二の成膜圧力で安定したところで、シャッタ68を開け、底面層上に、配向膜の表面層を成長させると、所望の屈折率の底面層と、所望のプレチルト角が得られる表面層を有する配向膜が形成される。
表面層が所定膜厚に達したところで、シャッタ68を閉じ、蒸着材料54の加熱を停止し、蒸気放出を停止させた状態で、積層基板10を真空槽51の外部に搬出する。
【0037】
次に、配向膜が形成された積層基板10を組み立てて液晶表示装置を製造する工程について説明すると、上述した工程で成膜面に配向膜が形成された2枚の積層基板10、20を、配向膜15、25が形成された面を対面させて、不図示のスペーサを挟み込み、積層基板10、20を封止部材33で貼り合せて、積層基板10、20の間に液晶31を配置し、基板11、21の配向膜15、25が形成された側と反対側の面に偏光板17、27を配置すれば、図2に示すような液晶表示装置1が得られる。
【実施例】
【0038】
<試験1>
上記成膜装置5により、傾斜角度を42°に維持したまま、2×10-3Pa(第一の成膜圧力)で底面層を成膜し、2×10-2Pa(第二の成膜圧力)で底面層の表面に表面層を積層し、合計膜厚500Åの配向膜を成膜する際に、配向膜の底面層の膜厚と表面層の膜厚の比を50/450、100/400、200/300、300/200、400/100、500/0に変えて6種類の配向膜を別々の積層基板10の成膜面に形成した。
【0039】
各配向膜の表面に液晶(メルク(株)社製の商品名「MLC6608」)を配置し、クリスタルローテーション法によりプレチルト角を測定した。
尚、配向膜の成膜速度は5Å/秒、加熱手段(ヒータ)への投入電力は150×7(mA、KV)とし、蒸着容器52と基板11間の距離は1000mmとした。配向膜全体の膜厚のうち、表面層の膜厚と、表面層の膜厚に対応するプレチルト角の値を下記表6に示し、表面層の膜厚と、プレチルト角の関係を図7に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
表6と図7から、表面層の膜厚が100Å(10nm)未満と薄すぎると、傾斜角度θと成膜圧力が同じであっても、底面層の影響を受けてプレチルト角が小さいが、表面層が10nmあれば膜厚が厚い場合と同じプレチルト角が得られた。
【0042】
<試験2>
上記「試験1」で成膜した6種類の配向膜について、見かけ上の屈折率を測定し、表面層の膜厚と屈折率との関係を調べた。尚、見かけ上の屈折率とは、表面層と底面層を足した配向膜全体の屈折率のことである。配向膜全体の膜厚のうち、表面層の膜厚と、測定された屈折率との関係を図8に示す。
表面層の膜厚が減り、底面層の膜厚が増える程、屈折率が高い層の割合が増えるから、図8に示されるように、配向膜全体の屈折率が高くなることが分かる。
【0043】
図8と、上記図7から、例えば、表面層の膜厚が100Å(10nm)、底面層の膜厚が400Å(40nm)の配向膜は、高い屈折率(約1.45)を維持したまま、約3°のプレチルト角を持ち、配向膜が配向性とバリア性の両方に優れている。
【0044】
<試験3>
表面にITOからなる透明電極膜12が形成された積層基板10を用意し、上記「試験1」と同じ条件で、配向膜全体の膜厚は変えず、表面層の膜厚と底面層の膜厚を変えた配向膜を別々の積層基板10に成膜した。
【0045】
成膜された各配向膜上に液晶を配置して5種類の液晶セル(液晶表示装置1)を作製し、液晶セルの耐光特性評価試験を行った。その評価試験の結果を、底面層の膜厚及び表面層の膜厚と一緒に、下記表7に記載する。
【0046】
【表7】

【0047】
底面層の膜厚がゼロであり、表面層だけで配向膜を構成した液晶セルは、800時間で画面の焼きつきが発生したが、配向膜に底面層を100Å(10nm)以上設けた液晶セルでは、2000時間以上焼きつきが発生しなかった。
【0048】
焼きつきは透明電極膜12、22由来のイオンが配向膜を通って液晶に進入することで発生するから、透明電極膜12、22に、ITOのようにイオンを放出する透明導電材料を用いても、底面層の膜厚が10nm以上あれば長時間安定した画像表示可能な液晶表示装置が得られることが分かる。
【0049】
以上は、配向膜を成膜する時に、圧力を二段階に変える場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも表面層が高い圧力で成膜され、表面層以外の少なくとも一部が表面層よりも低い圧力で成膜されるのであれば、圧力を3段階以上に変えてもよい。また、圧力は段階的に変えずに、最終的に表面から所定膜厚深さまでを成膜する時に、高い圧力になるように、連続的に増加させてもよい。
また、真空槽51内部の圧力を第一の成膜圧力から第二の成膜圧力へ増加させる間も、蒸着材料54の蒸気を基板11上に到達させ、配向膜の成長を続けてもよい。
【0050】
蒸着材料54を溶融させる方法は特に限定されず、EBガンから電子ビームを蒸着材料54に照射して加熱する方法、蒸着容器52にヒーターを取り付け、蒸着容器52をヒータで加熱し、熱伝導で蒸着材料54を加熱する方法等を採用することができる。
基板11はガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。
【0051】
透明電極膜の成膜方法は特に限定されず、スパッタ法、蒸着法等の一般に用いられる成膜方法で成膜することができる。透明導電膜は成膜後、必要に応じてパターニングしてから配向膜を成膜してもよいし、パターニングせずに配向膜を成膜してもよい。
【0052】
透明電極膜を蒸着法で成膜する場合であって、成膜後にウェットエッチングやドライエッチングによるパターニングが不要な場合には、真空槽51内部で、透明導電材料を主成分とする蒸着材料を蒸発させて透明電極膜を成膜した後、同じ真空槽51で、無機材料を主成分とする蒸着材料を蒸発させて配向膜を形成することもできる。この場合、大気に晒すことなく透明電極膜と配向膜を連続して成膜可能なので、透明電極膜と配向膜の膜質が良くなる。
【0053】
透明電極膜を構成する透明導電材料としては特に限定されず、ITO(インジウム錫酸化物)と、ZnO(酸化亜鉛)と、酸化錫と、酸化錫カドニウムとからなる群より選択されるいずれか1種類以上の透明導電材料を用いることができる。ITOと、ZnOと、酸化錫と、酸化錫カドニウムのいずれを透明電極膜に用いた場合でも、配向膜の屈折率が低いと透明導電材料のイオンが液晶に進入するが、本発明のように配向膜に屈折率の高い底面層を設けることで、イオンが液晶に進入することが防止される。
【0054】
偏光板17、27の配置は特に限定されず、偏光板17、27を偏光方向が互いに直交するよう配置すれば、一方の偏光板17側から入射した光は、オン状態で偏光板27を通過して発光し、オフ状態で偏光板27に吸収される。また、偏光板17、27を偏光方向が互いに平行になるように配置すれば、一方の偏光板17側から入射した光は、オン状態で偏光板27に吸収され、オフ状態で偏光板27を通過して発光する。
【0055】
以上は、基板11、21が水平になるよう基板ホルダ57に保持させてから、傾斜角度θが設定角度になるよう回転させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、予め基板ホルダ57を傾斜角度θが設定傾斜角度になるよう傾けておき、その基板ホルダ57に基板11、21を保持させてもよい。
【0056】
また、第二の成膜圧力と、必要なプレチルト角が変更せず、傾斜角度θを変える必要が無い場合には、基板ホルダ57に回転軸55のような回転手段を取り付けず、基板ホルダ57を、傾斜角度θが設定角度になるよう傾けた状態で固定してもよく、装置の構造がより簡易になる。
【0057】
VA方式の液晶表示装置1の場合、実用的なプレチルト角は2°以上5°以下と言われている。プレチルト角が2°未満であると、オフ状態からオン状態に切り替えた時の応答性が悪く、逆にプレチルト角が5°を超えるとオフ状態でも光の偏光が起こり、光が漏れ出してしまう。従って、第二の成膜圧力で配向膜を成膜した時のプレチルト角が2°以上5°以下の範囲なる傾斜角度で、配向膜を成膜することが望ましい。
【0058】
傾斜角度は第二の成膜圧力とプレチルト角との関係で決まるので、特に限定されないが、傾斜角度が35°未満であると、第二の成膜圧力を高くしても配向特性を得るのが困難であり、傾斜角度が50°を超えると成膜速度が極端に遅くなるので、傾斜角度は35°以上50°以下が望ましい。
【0059】
傾斜角度が35°以上50°以下の範囲おいて、第二の成膜圧力は5×10-3Pa以上3×10-2Pa以下の範囲であれば、上述した実用的なプレチルト角の範囲が得られ、また、第一の成膜圧力は1×10-4Pa以上3×10-3Pa以下であれば実用的なバリア性が得られる。
【0060】
以上は補助ガスを酸素ガスで構成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、補助ガスとして酸素ガスと一緒に、N2とArのいずれか一方または両方を真空槽51内に導入し、その補助ガスの導入量を制御することで、第一、第二の成膜圧力を形成することもできる。
【0061】
真空槽51に酸素ガス、又酸素ガスとArを導入すれば、SiO2を主成分とする配向膜が得られ、酸素ガスとN2、又は酸素ガスとN2とArを導入すれば、SiO2とSiONの両方を含む配向膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】配向膜の成膜に用いる成膜装置を説明するための断面図
【図2】本発明の液晶表示装置の一例を説明するための断面図
【図3】成膜圧力と屈折率との関係を示すグラフ
【図4】成膜圧力とプレチルト角との関係を示すグラフ
【図5】傾斜角度と屈折率との関係を示すグラフ
【図6】傾斜角度とプレチルト角との関係を示すグラフ
【図7】表面層の膜厚とプレチルト角との関係を示すグラフ
【図8】表面層の膜厚と屈折率との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0063】
1……液晶表示装置 5……成膜装置 11、21……基板 12、22……透明電極膜 15、25……配向膜 31……液晶 51……真空槽 54……蒸着材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に透明導電膜と二酸化ケイ素を主成分とする配向膜が形成され、前記配向膜表面に液晶が配置される液晶表示装置の前記配向膜を製造する製造方法であって、
前記配向膜を形成する工程は、
前記透明導電膜が形成された基板を水平面に対して所定の傾斜角度で傾斜させた状態で真空雰囲気中に保持し、
前記真空雰囲気中に酸素を導入し、前記真空雰囲気の酸素圧力を第一の成膜圧力にした状態で二酸化ケイ素を主成分とする蒸着材料を溶融させ、前記蒸着材料の蒸気を放出させ、前記透明導電膜表面に前記配向膜の底面層を成長させた後、
前記真空雰囲気の酸素圧力を、前記第一の成膜圧力よりも高い第二の成膜圧力にし、前記配向膜の表面層を前記底面層上に形成する配向膜の製造方法。
【請求項2】
同一の真空槽内で、前記底面層と前記表面層を成長させる請求項1記載の配向膜の製造方法。
【請求項3】
前記傾斜角度は、前記底面層を形成する間と前記表面層を形成する間で同じにする請求項2記載の配向膜の製造方法。
【請求項4】
前記真空雰囲気中に窒素ガスを導入する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の配向膜の製造方法。
【請求項5】
前記表面層の膜厚を10nm以上にする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の配向膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−170668(P2008−170668A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3135(P2007−3135)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】