配向膜形成用溶媒、それを用いた配向膜材料および液晶表示装置の製造方法
【課題】
高品質な、イミド化率が向上し、表面異方性が大きく、アンカリング力が強い液晶配向膜を作製することができる配向膜形成用溶媒を提供する。
【解決手段】
液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記配向膜の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含む。
高品質な、イミド化率が向上し、表面異方性が大きく、アンカリング力が強い液晶配向膜を作製することができる配向膜形成用溶媒を提供する。
【解決手段】
液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記配向膜の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高コントラストで低残像特性を示す液晶表示装置を製造する際に用いる配向膜形成用溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は表示品質が高く、且つ薄型、軽量、低消費電力などといった特長からその用途を広げており、携帯電話用モニター、デジタルスチルカメラ用モニターなどの携帯向けモニターからデスクトップパソコン用モニター、印刷やデザイン向けモニター、医療用モニターさらには液晶テレビなど様々な用途に用いられている。この用途拡大に伴い、液晶表示装置には更なる高画質化、高品質化が求められており、特に高透過率化による高輝度化、低消費電力化が強く求められている。また液晶表示装置の普及に伴い、低コスト化に対しても強い要求がある。
【0003】
通常、液晶表示装置の表示は一対の基板間に挟まれた液晶層の液晶分子に電界を印加することにより液晶分子の配向方向を変化させ、それにより生じた液晶層の光学特性の変化により行われる。電界無印加時の液晶分子の配向方向は、ポリイミド薄膜の表面にラビング処理を施した配向膜により規定されている。従来、画素毎に薄膜トランジスタ(TFT)等のスイッチング素子を備えたアクティブ駆動型液晶表示装置は、液晶層を挟持する一対の基板のそれぞれに電極を設け、液晶層に印加する電界の方向が基板面に対してほぼ垂直になる、所謂縦電界になるように設定され、液晶層を構成する液晶分子の光旋光性を利用して表示を行う。縦電界方式の代表的な液晶表示装置として、ツイステッドネマチック(TN:Twisted Nematic)方式や垂直配向(VA:Vertical Alignment)方式が知られている。TN方式やVA方式の液晶表示装置においては視野角が狭いことが大きな課題の一つである。そこで、広視野角化を達成する表示方式としてIPS(In-Plane Switching)方式やFFS(Fringe-Field Switching)方式が知られている。IPS方式およびFFS方式は、一対の基板の一方に櫛歯状の電極を形成し、発生する電界が当該基板面にほぼ平行な成分を有する、所謂横電界方式の表示方式であり、液晶層を構成する液晶分子を基板とほぼ平行な面内で回転動作させ、液晶層の複屈折性を用いて表示を行う。液晶分子の面内スイッチングにより従来のTN方式に比べて視野角が広く低負荷容量である等の利点があり、TN方式に代わる新たな液晶表示装置として有望視され、近年急速に進歩している。
【0004】
液晶表示素子は、液晶層中の液晶分子の配向状態を電場の有無によって制御する。すなわち、液晶層の外部に設けられた上下の偏光板を完全直交状態にして、中間の液晶分子の配向状態により位相差を発生させて明暗の状態を形成する。液晶に電場を印加しない状態の配向状態を制御するためには、基板表面に配向膜と呼ばれる高分子薄膜を形成し、その高分子の配列方向に界面での高分子鎖と液晶分子とのファンデルワールス力による分子間相互作用に液晶分子を並べることによって実現している。この作用は配向規制力または液晶配向能の付与、配向処理とも呼ばれる。液晶ディスプレイの配向膜にはポリイミドが用いられることが多い。その形成方法は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を各種溶媒に溶かして、基板上にスピン塗布または印刷によって塗布し、基板を200℃以上の高温で加熱することで、溶媒を除去すると共に、ポリアミド酸をポリイミドにイミド化閉環反応させる。この時の膜厚100nm程度の薄膜である。このポリイミド薄膜表面をラビング布により表面を一定方向に擦ることで、表面のポリイミド高分子鎖をその方向に配向させ、表面高分子の異方性の高い状態を実現する。しかしながら、ラビングによる静電気や異物の発生、基板表面の凹凸によるラビングの不均一等の問題があり、ラビング布との接触を必要としない、偏光した光を用いて分子配向を制御する光配向法が採用されつつある。
【0005】
液晶配向膜の光配向法には、アゾ色素のように偏光した紫外線を照射することで分子内の幾何学的配置が変化する光異性化型、ケイ皮酸やクマリン、カルコン等の分子骨格同士が偏光した紫外線によって化学結合を発生させる光二量体化型、等があるが、高分子を偏光した紫外線を照射することで、その方向に並んでいる高分子鎖のみ切断分解し、その偏光方向に垂直な方向の高分子鎖を残留させる光分解型が、液晶配向膜として信頼と実績のあるポリイミドの光配向には適している。このような光配向方法は、古くは1994年に〔非特許文献1〕にその最初原理が開示されている。この手法は各種液晶表示方式で検討がなされたが、そのうちIPS方式に関しては、初期配向方向の変動による表示不良の発生を低減、安定な液晶配向、量産性、かつコントラスト比を高めた高品位の画質を有する液晶表示装置として、〔特許文献1〕に開示されている。この中では、シクロブタンテトラカルボン酸2無水物および又はその誘導体と芳香族ジアミンからなるポリアミック酸またはポリイミドを、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射,電子線照射,放射線照射のうち少なくとも一つの二次処理を施す配向処理により前記配向制御能が付与されていることを示している。そして、特に、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射,電子線照射,放射線照射のうち少なくとも一つの処理を偏光照射処理と時間的な重なりをもって行うことにより本発明はさらに有効に作用すること、配向制御膜のイミド化焼成処理と偏光照射処理を時間的な重なりをもって行うことによっても有効に作用することが示されている。特に、液晶配向膜に偏光照射に加え、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射,電子線照射,放射線照射のうち少なくとも一つの処理を行う場合に、配向制御膜の温度が100℃〜400℃の範囲であること、さらには150℃〜300℃の範囲であることが望ましく、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射の処理は配向制御膜のイミド化焼成処理と兼用することも可能であり有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−206091号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】長谷川雅樹、平洋一「ポリイミドの光分解によるネマチック液晶のホモジニアス配向」第20回液晶討論会予稿集、232〜233頁、1994年
【非特許文献2】P. Gass, H. Stevenson, R. Bay, H. Walton, N. Smith, S. Terashita, and M. Tillin「垂直配向LCD用パターン化光配向」シャープ技報第85号(2003)24-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、配向膜の形成は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の段階で高極性溶媒に溶解し、塗布乾燥させて薄膜化した後、加熱によってイミド化反応をさせていた。しかし、イミド化が進行するにつれて高分子鎖の直線性が増大していくが、同時に粘度も増加するため、一定度以上のイミド化が進行しなかった。このため、部分的に屈曲した部位を含むポリイミドとなるため、表面異方性を与える分子骨格自身の異方性が低下し、高いアンカリング力を与えることが困難であった。
【0009】
また、事前に希薄溶液中でイミド化反応させたものを塗布、乾燥させて薄膜化させる場合は、事前に高イミド化すると、溶媒への溶解性が低下し、所望の薄膜を形成することが困難であった。
【0010】
本発明は、より高品質な、イミド化率が向上し、表面異方性が大きく、アンカリング力が強い液晶用配向膜を作製することができる配向膜形成用溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の配向膜形成用溶媒は、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記高分子を塗膜し、配向膜を形成する成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の配向膜形成用溶媒は、前記配向膜の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の配向膜材料は、前記の配向膜形成用溶媒と、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含むことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の液晶表示装置の製造方法は、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜の形成工程として、前記の配向膜形成用溶媒に高分子を溶かした溶液を基板に塗布するステップと、前記塗布した高分子をイミド化焼成するステップと、前記配向膜形成用溶媒中に含まれる前記可変性化合物の化学構造を変化させるステップと、化学構造が変化した溶媒を除去するステップと、残された高分子薄膜に光配向用の偏光した光を照射するステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、液晶配向膜の品質、例えばポリイミドのイミド化率が向上し、高分子鎖直線性が高まり、光配向処理時に強い表面異方性、アンカリング力が得ることができ、かつ得られたポリイミドのガラス転移温度も向上するために、力学的強度が高まり、液晶表示装置の残像を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の、可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒の基本概念を示す図。
【図2】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の形成過程での構造変化の説明図。
【図3】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の薄膜の面内異方性の説明図。
【図4】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の薄膜の表面異方性測定系の説明図。
【図5】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の薄膜を用いた液晶セルのアンカリング力測定系の説明図。
【図6(a)】本発明に関わる液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図。
【図6(b)】液晶表示パネルの1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図。
【図6(c)】液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式平面図。
【図6(d)】図6(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図。
【図7】本発明によるIPS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図。
【図8】本発明によるFFS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図。
【図9】本発明によるVA方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図。
【図10】発明による配向膜形成用溶媒の沸点測定のための重量変化プロファイルの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
最初に、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記高分子を塗膜し、成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物の基本的構造について、図表を用いて説明する。
【0019】
図1の(a)には、本発明の配向膜形成用溶媒に溶解させた高分子として、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液の溶液状態を模式的に示した。本発明の配向膜形成用溶媒には、以下に説明する特異な機能を実現する可変性化合物と、それ以外の溶媒分子とが含まれており、これらによってポリアミド酸は溶液状態に保たれている。
【0020】
図1の(b)には、本発明の配向膜形成溶媒を用いて、ポリイミドの光配向膜を形成する過程のブロック図を示した。最初に、目的のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を本発明の配向膜形成溶媒に溶かして、溶液を調製する。次に配向膜を形成する下地基板の上にスピンコート、フレクソ印刷、インクジェット印刷等の湿式方法により、溶液を塗布する。次に塗布した溶液の膜厚が表面張力や下地の凹凸により著しく平坦性が乱されないように予備乾燥する。このような状態にして、基板温度を高温にして、ポリアミド酸の分子構造を熱変化させてイミド化焼成する。次に、本発明の配向膜形成用溶媒中に含まれる可変性化合物の化学構造を変化させるために、紫外線を照射する。次に、このような変化をさせた後、溶媒を除去する。次に、残されたポリイミド薄膜に光配向用の偏光紫外線を照射して、ポリイミド主鎖中の偏光方向に揃ったシクロブタン骨格を光分解し、ポリイミド鎖を切断する。最後に、紫外線によるポリイミドの光分解物を除去する。このようにして、光配向したポリイミド配向膜を作製することができる。
【0021】
次に、本発明の配向膜形成溶媒を用いることにより、光配向に適した高品質なポリイミド薄膜が得られることを、図2を用いて説明する。
【0022】
図2の(a)には、一例として、シクロブタン誘導体の酸無水物とフェニルジアミンから合成されたポリアミド酸高分子の分子骨格を示した。ポリアミド酸高分子には、アミド結合−NHCO−が高分子主鎖上にあり、この場合は−シクロブタン−CONH−フェニレン−NHCO−シクロブタン−のような繰り返し構造となっている。このアミド結合の部分は、シクロブタン−CO間の炭素−炭素一重結合、アミド結合内部の炭素−窒素一重結合、フェニレン−NH間の炭素−窒素一重結合の周りで、自由に回転することができるため、アミド結合を中心に高分子主鎖のコンフォメーションが変化し、ポリアミド酸高分子全体で見ると、屈曲性の高い高分子となっており、折れ曲がった紐のようなイメージの高分子となっている。
【0023】
図2の(b)には、このシクロブタン誘導体の酸無水物とフェニルジアミンから合成されたポリアミド酸高分子が、完全にイミド化した場合の、ポリイミド高分子の分子骨格を示した。アミド結合がイミド化閉環すると、平面性が高く、剛直なイミド骨格(C−CO−N−CO−Cの五員環)が形成される。このため、自由に回転できる主鎖上の結合は、イミド環の窒素−フェニル環の炭素間のみとなり、ポリイミド主鎖全体は、剛直で直線性の高い高分子となる。
【0024】
図2の(c)には、この完全なポリイミドが偏光した紫外線によって光分解された構造を示した。主鎖上にフェニル環を持つポリイミドでは、この主鎖方向に強い双極子モーメントを有するため、この方向に平行な紫外線を強く吸収し、垂直な方向の紫外線は吸収しない。このフェニル環の吸収は波長220〜240nm付近にピークを持つ強い吸収として現れるが、この波長の光を吸収すると、フェニル環が光励起され、その励起エネルギが隣接するイミド環に移動、活性化し、元々分解しやすい骨格であるシクロブタン骨格を分解する。このため、高分子主鎖のシクロブタン部分で解離していく。偏光した紫外線で分解していくことから、例えば偏光方向に完全なポリイミドが配向している場合には、すべてのシクロブタン骨格が分解していくが、垂直な方向の完全なポリイミドは分解されない。このようにして、垂直な方向のポリイミドが残留することにより、その方向に伸びたポリイミド主鎖からなる配向膜表面が形成される。
【0025】
このように完全なイミド化が進行した場合には、最終的に得られる配向膜表面のポリイミド主鎖もまた特定方向に長く伸びた高分子となっている。しかしながら、実際には以下のような理由で完全なイミド化が実現できないことがわかる。すなわち、図2の(a)のごとく、最初のポリアミド酸は屈曲性高い高分子であり、その中のアミド結合部分は自由に折れ曲がっている。このようなポリアミド酸の溶液を塗布して、予備乾燥し、ある程度の一定膜厚とした状態でも、ポリアミド酸は屈曲性の高い高分子のままであり、無数のポリアミド酸高分子が互いに絡み合った状態で、ある程度固まって膜の形態を保持している。この状態で加熱することによりイミド化焼成すると、イミド化が進行した部分から直線性の高い骨格にコンフォメーションが変化していくが、濃厚に絡み合った屈曲性の高分子が完全に直線性の高分子に変化することは困難である。したがって、イミド化が進行するためには、アミド結合がイミド骨格に閉環、直線化していくための自由空間と、低い粘度が必要であるが、それでも完全なイミド化を行うことは困難である。また、従来のイミド化反応では、N-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP、沸点202℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide, 略称DMF、沸点153℃)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、略称DMSO、沸点189℃)、γ-ブチロラクトン(ガンマブチロラクトン、英: Gamma-Butyrolactone、略称: GBL、沸点204℃)のような高極性溶媒を用いているが、十分なイミド化を加熱によって行うためには200℃以上の加熱が必要であり、イミド化の進行と共に、溶媒そのものも蒸発していくために、ますます高粘度となり、完全なイミド化を阻害する。従って、出来上がったポリイミドは部分的には直線性の高いイミド骨格を持つが、屈曲性の高いアミド結合部分はイミド化できずに残ったような、不完全なポリイミドとなっている。このような不完全なポリイミドに対して偏光紫外線を照射し、光分解を行った場合、その偏光方向に揃ったイミド環部分は光分解できるが、屈曲性が高くアミド結合として残っていた部分はフェニル環からのエネルギ移動が抑制され、光分解されずに残る。従って、1本のポリイミド高分子の中で、部分的に切断された状態となり、残される偏光方向に垂直なポリイミドも、部分的に切断された状態となる。したがって、完全なポリイミドに比べると、表面異方性が小さな配向膜となり、表面異方性に関連の深い液晶配向膜としてのアンカリング特性が悪化する。
【0026】
仮に、イミド化の段階では溶媒として残留可能な、より高沸点の溶媒を用いると、従来の溶媒を用いた場合に比べて、高温でもポリアミド酸主鎖が動き得る自由空間が形成されてイミド化は更に進行するが、通常の高沸点溶媒ではイミド化が終わった段階でも溶媒のまま残留するために、その溶媒を除去する方法がない。そのためには過度に高温化、例えば400℃以上にするとか、極めて高い真空排気(10−3Torr以下)するとかの手段が必要になる。このようなプロセスの採用は、液晶ディスプレイに過剰な設備を必要とすることになり、高コスト化の要因となってしまう。
【0027】
ところが、本発明の配向膜形成溶媒では、イミド化焼成の段階までは高沸点の溶媒であるが、それが完了した後に、配向膜形成溶媒中に含まれる可変性化合物の化学構造を変化させて、揮発性の高い溶媒に変化させてやることで、過度の高温や排気手段を用いることなく、溶媒除去が可能となる。更に、光配向とは異なる波長の光によって可変性化合物の化学構造変化をさせることで、配向規制力に影響を与えることなく、溶媒除去が可能となる。また、光配向に用いる紫外線光源の光を分光して利用すれば、光配向用と可変性化合物の化学構造変化用の2種類の光を同一の光源から得ることができ、新たな光源設備を導入する必要もなく、低コスト化が実現できる。
【0028】
次に、このような可変性化合物の基本構造について説明する。
【0029】
本発明は、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記高分子を塗膜し、成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒にある。また、前記配向膜形成用溶媒において、液晶表示装置用の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする配向膜形成用溶媒にある。
【0030】
このような化学構造を変化させることができる可変性化合物の一例は〔化1〕で示される化学構造であることを特徴とする配向膜形成用溶媒にある。
【0031】
【化1】
【0032】
ここで、R1=芳香族炭素化合物、R2=脂肪族炭素化合物を表す。
【0033】
R1の一例としては、〔化2〕で示されるようなフェニル基、〔化3〕で示されるようなナフチル基があげられる。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
ここで、X1またはX2=置換基。
【0037】
或いはそれ以上の分子量を有する芳香族炭素化合物、例えばアントラセン、テトラセン、ペンタセン、インデン、アズレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン等の縮合ベンゼン環を元とする芳香族炭素化合物、またはビフェニル、ターフェニル、セキシフェニル等の複数のベンゼン環が結合した構造を元とする芳香族炭素化合物、またはフラン、ピロール、ピラゾール、ピラゾリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、ベンジイミダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、クマリン、シノリン、キノザリン、ジベンゾフラン、カルバゾール、アクリジン、フェナントロリン、フェノチアジン、フラボン、等の複素共役系化合物を元とする芳香族炭素化合物、等があげられる。
【0038】
また、R2の一例としては、直鎖状のアルキル鎖として、〔化4〕で示されるようなものがあげられる。
【0039】
【化4】
【0040】
例えば、−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH2CH3等があげられる。また、分岐したアルキル鎖として−CH(CH3)2、−C(CH3)3、−CH2CH(CH3)2、−CH2C(CH3)3、等があげられる。或いは、後に述べるような化学構造に変化を阻害しないような位置に不飽和結合−C=C−、−C≡C−が含まれていてもよく、そのアルキル鎖の途中に、−O−、−S−、−NH−等のヘテロ原子が含まれていてもよい。
【0041】
これらR1について、〔化2〕に対してX1、〔化3〕に対してX2で示すような置換基を適宜導入してもよく、X1またはX2の一例としては、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−SH、−CHO、−COOH、−NH2、−N(CH3)2、−SO2OH等の置換基をあげることができる。また、R1に対しては、脂肪族炭素化合物からなる置換基を導入することも可能であり、逆に、R2に対しては、芳香族炭素化合物からなる置換基を導入することも可能である。これら置換基は、後に述べるような化学構造に変化を阻害しないような位置に適宜導入することが可能である。
【0042】
これらR1の中でも、〔化2〕で示されるようなフェニル基、〔化3〕で示されるようなナフチル基が望ましい。また、これらR2の中でも、Y=−Hの場合はn=1から3が望ましく、Yの中に更にハロゲン元素−F、−Cl、−Br、−Iのいずれかが含まれる場合は、n=1から5が望ましい。
【0043】
また、本発明の配向膜形成用溶媒は、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が、化学構造変化させた後の状態の沸点よりも高い可変性化合物からなることを特徴としている。すなわち、図1の(b)に示すような配向膜形成の過程において、イミド化焼成の段階までは液体状態にあって、ポリアミド酸に対しては溶媒として作用し、加熱によってイミド化が進行しても、溶媒が残留できるためにポリアミド酸に十分な自由体積を与え、通常の方法よりも、高いイミド化率を与えることが可能となる。更に、イミド化と共に高分子主鎖の直線性が増加させることが可能となる。しかしながら、光配向時に溶媒が残留すると、高分子主鎖の熱ゆらぎが容易となって、配向が乱れやすくなるために、表面のオーダパラメータや液晶のアンカリング力、液晶セル状態での輝度緩和定数等の特性が悪化する。このような化学構造変化の前後における沸点の変化としては、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が220°C以上である可変性化合物からなることを特徴とする配向膜形成用溶媒が望ましく、これは加熱によって十分なイミド化が進行するのは200℃以上、特に望ましいのは220℃以上であるためである。これらの物性の変化は、イミド化率、オーダパラメータ、アンカリング力、輝度緩和定数によって特徴づけることができ、その評価方法については、後に説明する方法が一例としてあげられる。
【0044】
また、本発明の配向膜形成用溶媒中の可変性化合物が示すべき化学構造変化の一例には、〔化5〕で示されるようなカルボニル化合物のNorrish分解反応を利用することができる。
【0045】
【化5】
【0046】
このような化合物を用いると、化学構造変化前の状態であるブチロフェノンは融点11〜13℃、沸点が228〜230℃であるため、例えばイミド化焼成温度を220℃で行っても液体として存在するが、光(紫外線で、波長350nm以下)を照射すると、〔化5〕によりアセトフェノンとエチレンに分解する。エチレンの沸点は-104℃であるため、通常は直ちに気化し、アセトフェノンは融点19〜20℃、沸点202℃であるため、同じイミド化焼成温度である220℃においても、更に紫外線を照射することでこの分解反応が進行し、分解物であるアセトフェノンも気化させることが可能である。従来のイミド化反応では、N-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP、沸点202℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide, 略称DMF、沸点153℃)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、略称DMSO、沸点189℃)、γ-ブチロラクトン(ガンマブチロラクトン、英: Gamma-Butyrolactone、略称: GBL、沸点204℃)のような高極性溶媒を用いており、ポリアミド酸の成膜性を保つために、これら従来型の適宜混合溶媒とすることが望ましく、これらの溶媒が気化してしまう高温においても、なお液状成分として残留するために、所望の機能を果たすことができる。すなわち、本発明の配向膜形成用溶媒において、気化させるための化学構造変化する前の状態の分子量は、化学構造変化させた後の状態の分子量よりも高い可変性化合物であることに特徴があり、また、気化させるための化学構造変化する前後で極性が異なる可変性化合物であることに特徴がある。このような化学構造の変化には、カルボニル化合物の脱カルボニル化反応、アゾ化合物の脱窒素反応、ニトロベンジル基を有するシランカップリング反応、ビスフェニルジスルフィド化合物の二光子吸収分解反応等を利用することも可能である。このような光反応を利用する物質を用いる場合には、その最適となる可変性化合物の基本構造も〔化1〕以外のものが選ばれる。いずれの場合も、本発明の配向膜形成用溶媒においては、光を外部から照射することにより化学構造変化する可変性化合物であることを特徴としており、望ましくは波長400nm以下の光を外部から照射することにより化学構造変化する可変性化合物であることが望ましい。
【0047】
また、本発明の配向膜形成用溶媒において、前記可変性化合物を化学構造変化させた後の化合物を除去するための手段としては加熱することにより気化させることが望ましく、特に先にも述べたように、加熱によるイミド化の温度以下の温度で加熱除去できることが望ましく、具体的には、室温以上230℃以下で加熱することにより気化させることが望ましい。また、より効果的に化学構造変化させた後の化合物を除去するために、減圧することにより気化させることも可能であり、特に1mmTorr以下に減圧することにより気化させることが望ましい。或いは、効果的に化学構造変化後の化合物を除去するために、適当な温度の気流を膜表面に流すことも有効である。或いは、全く別の溶媒で化学構造変化させた後の化合物を除去することも可能であるが、別の溶媒を必要とする点ではコスト面で有利とは言いがたい。
【0048】
また、前記配向膜形成用溶媒において、前記配向膜形成用溶媒を気化させた後に、液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒である。特に、その配向規制力を付与する方法として、偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となることが望ましい。更に、前記配向膜形成用溶媒において、可変性化合物の化学構造を変化させる光とは異なる波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒となることが望ましく、また、可変性化合物の化学構造を変化させる光の波長よりも短い波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることが望ましい。このように選択的に照射する光を選ぶことで、同じ基板加熱温度で、光の切り替えだけで成膜プロセスを制御することが可能となる。
【0049】
また、本発明の配向膜形成用溶媒において、偏光した光によって主鎖の一部が切断されることにより、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることが望ましい。このような材料を選ぶことで、液晶配向膜として実績のあるポリイミドを用いることが可能である。
【0050】
また、本発明の配向膜形成用溶媒において、前記可変性化合物の化学構造を変化させた構造の一部が、配向膜形成用溶媒を気化させる際に、配向膜中に残留することが可能な化学構造であることが最終的な配向膜の高機能化にとっては望ましい場合がある。例えば、配向膜中に残留することが可能な化学構造として、可視光に対しては透明であるが、紫外光に対して吸収を有する化学構造を用いると、配向膜自身に紫外線フィルタの機能を付与することが可能となる。
【0051】
また、本発明の配向膜形成用溶媒においては、これまでに述べたように配向膜形成用溶媒を気化させた後に、液晶の配向規制力が膜面内に液晶を配向させる規制力を付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることが望ましい。或いは、その配向規制力が膜面内に30度以上立った方向に液晶を配向させる規制力を付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒であることが望ましい。これら配向規制力の方向は、後に述べるような液晶ディスプレイの各種表示方式にとって望ましい方向となるように設定されるが、その配向方向を更に高めるために、或いはプレチルト角を誘起するために意図的に前記可変性化合物の化学構造を変化させた構造の一部を配向膜中に残留させることも可能である。また、本発明の配向膜形成用溶媒を用いて液晶表示装置を製造することにより、従来方法以上の高アンカリング、高コントラスト、低残像な液晶表示装置を提供することが可能となる。
【0052】
本発明の配向膜形成用溶媒により高品質化された配向膜の性質は、その膜のイミド化率、オーダパラメータ、アンカリング力、輝度緩和定数によって特徴づけることができる。
【0053】
まず、その配向膜のイミド化率は、図2の(a)と(b)を比べると明らかなように、アミド結合付近の1H−NMRを使用して測定した。すなわち、固体NMRを用い、ポリアミド酸付近のカルボン酸のプロトン由来のピーク積分値またはアミド結合部分のプロトン由来のピーク積分値を求め、全くイミド化していない初期の膜の値をイミド化率0%、このピーク強度が0となる場合をイミド化率100%として、その閉環率を算出した。
【0054】
また、その配向膜のオーダパラメータは、以下の方法で測定した。
一つの方法は配向膜の膜面内の吸収異方性を測定する方法である。図3の(a)には、光配向処理によって膜面内に異方性を誘起された配向膜のモデル図を示した。偏光した紫外線によってポリイミド鎖が切断される場合、その高分子のフェニル環の主鎖方向に遷移モーメントを有するため、その方向の光が強く吸収され、その方向の高分子主鎖のシクロブタン環が開環し、主鎖が切断される(図2の(c)参照)。これに対して、偏光した紫外線に垂直な方向の主鎖は切断されないため、高分子のまま残留する。この結果、光配向処理を終えた配向膜は、この偏光した紫外線照射方向に垂直な方向に高分子主鎖が残り(この方向をL−L’とする)、平行な方向の高分子主鎖が切断され(この方向をV−V’とする)、これらは膜の中心点Oの回りで90度の関係にある。光配向処理を終えた配向膜に対して、偏光光源を用いた分光光度測定を行った一例を図3の(b)に示した。偏光光源の偏光方向と高分子主鎖が残った方向(L−L’)が平行な場合(図中「平行」と記載)と、薄膜を中心点Oの回りで90度回転させて偏光光源の偏光方向と高分子主鎖が残った方向(L−L’)が垂直な場合(図中「垂直」と記載)の吸光度の波長依存性を示している。この波長233 nmをピークとする吸収が見られるが、その強度は「平行」の場合が「垂直」の場合よりも強い。このピーク波長における吸光度をそれぞれ、I平行、I垂直とすると、膜の光吸収によるオーダパラメータS膜は次式で与えられる。
【0055】
【数1】
【0056】
このように、膜単独での吸収スペクトルが測定可能な時は、その吸光度の異方性からオーダパラメータを求めることができる。
【0057】
もう一つのオーダパラメータを測定する方法は、膜の光電子放出の異方性を利用するものである。前段で述べた方法は膜の吸収に依存する方法であり、特に紫外線領域の光吸収であるため、配向膜を担持する基板は紫外線を透過可能な材質、例えば合成石英でなければならない。また、実際の液晶パネルでは配向膜と基板の間に、TFT回路や層間絶縁膜、配線等の各種部材が高密度に実装されている。このため、配向膜単独での吸収スペクトルを測定することが困難である。そこで、この高分子主鎖方向のフェニル環の異方的吸収によって、その方向に励起状態を生成し、そこに第2の光を照射することで更に高エネルギ状態に遷移させて、光電子放出させることで、配向膜表面のオーダパラメータを評価した。図4の(a)に示すように、具体的には、低エネルギ電子分光装置(理研計器製AC−2)を用い、光源には分光光源(重水素ランプを回折格子で分光、波長364〜200 nm、光量を50 nW、励起エネルギの低い方から高い方へスキャン)と定常光源(He-Neレーザ、波長632.8 nm、光量2 mW)を用い、両者をコリメートして同一光路とし、偏光子を用いて、一方向に偏光した光としたものを励起光源(2)、配向膜(1)の表面に向けて照射された光を励起光(3)とした。ここでは、励起光(3)の偏光方向をP−P’とし、P−P’が膜面と平行となり、かつ(特には図示していないが)分光光源と定常光源の強度がその偏光方向で最大となるように分光光源、定常光源の光学的配置を最適化した。このようにして励起光(3)を配向膜(1)に照射すると、分光光源の波長がある波長よりも短い光から光電子(4)が放出され始め、その光電子を配向膜直上に設けた光電子検出器(5)によって単位時間当たりの光電子数を計数したものを光電子検出量とした。図4の(b)には、得られる光電子検出量の平方根と分光光源の励起エネルギ(=1240/分光光源の波長[nm]、単位eV)の概略を示した。例えば、図3の(b)に例示したようなポリイミドからなる配向膜では、定常光がない場合は波長215 nmよりも分光光源の波長が短くなると光電子が検出され始める(S0の位置)が、定常光を用いるとそれよりも長波長の波長310 nm付近から光電子が検出されはじめる(S1の位置)。これは励起光源単独では通常の光吸収は起こるが、膜から光電子を放出させるエネルギが不足しているが、定常光源を付加することで光吸収により励起された電子が更に高エネルギまで励起されて、光電子放出にいたるためと考えられる。オーダパラメータ評価のためには、励起光源の波長を、吸収スペクトルの異方性が最大となる波長、例えば図3の(b)に示した材料の場合はそのピーク波長である232 nmに固定し、定常光のある状態で、励起光の偏光方向P−P’と配向膜の光配向方向L−L’を平行にした時の光電子検出量の平方根J平行と、励起光の偏光方向P−P’と配向膜の光配向方向に垂直な方向V−V’を平行にした時の光電子検出量の平方根J垂直を測定し、次式によって配向膜のオーダパラメータS表面を決定した。
【0058】
【数2】
【0059】
このような光電子放出の脱出深さは数nm程度とされるので、膜表面だけの高分子主鎖の異方性が検知でき、下地の影響を受けない。また、製品として液晶が封入された場合でも、その液晶パネルを解体し、配向膜表面に付着した液晶をヘキサン等配向膜を侵さない溶媒で洗浄してから測定することで、そのオーダパラメータを評価することが可能である。
【0060】
次に、アンカリング力は次の方法で測定した。すなわち、2枚一組のガラス基板に配向膜を塗布して光配向処理を行い、その2枚の配向膜の配向方向が平行となるようにして、適当な厚みdのスペーサを介在させて、評価用ホモジニアス配向液晶セルを作製する。これに材料物性が既知のカイラル剤入りネマチック液晶材料(らせんピッチp、弾性定数K2)を封入し、配向を安定化させるために一度液晶等方相に評価用セルを保持した後、室温に戻し、以下の方法でツイスト角φ2を測定する。次に、空気の圧力または遠心力でセル内の大部分の液晶を除去し、セル内を溶媒洗浄、乾燥させてから、同じ液晶でカイラル剤のないものを封入し、同様に配向を安定化させてから、ツイスト角φ1を測定する。この時、アンカリング強度は次式によって与えられる。
【0061】
【数3】
【0062】
また、ツイスト角は、図5に示すような光学系を用いて測定した。すなわち、可視光源(6)とフォトマル(10)を同一直線上にコリメートし、その間に偏光子(7)、評価用セル(8)、検光子(9)の順に配置する。可視光源(6)にはタングステンランプを用い、まず偏光子(7)の透過軸と検光子(9)の吸収軸を評価用セル(8)の配向膜の配向方向(L−L’)とほぼ平行に合わせる。次に、偏光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。次に、検光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。以下、同様に偏光子のみの回転、検光子のみの回転を繰り返し、角度が一定になるまで繰り返す。最終的に収束した時点での偏光子の透過軸回転角度φ偏光子と、検光子の吸収軸回転角度φ検光子に対して、ツイスト角φ=φ検光子−φ偏光子と定義する。ここで、測定の読み取り誤差は用いる液晶の屈折率異方性Δnと液晶セルの厚みdとを調節することで低減できる。
【0063】
次に、輝度緩和定数は以下の方法で決定した。後に詳細に述べるような手順によって、配向膜を含む各種液晶表示素子を作製する。この液晶表示装置に、白黒のウィンドウパターンを所定時間連続表示後(これを焼付け時間と称する)、直ちに全画面中間調のグレーレベルの表示電圧に切り替え、ウィンドウパターン(焼き付き、残像ともいう)が消失する時間を計測する。理想的は配向膜においては、液晶表示装置のいずれの部分にも残留電荷が発生せず、配向規制力方向も乱されることがないため、表示電圧の切り替えと共に、直ちに全画面グレーレベルの表示になるが、駆動の伴う残留電荷の発生や配向規制力方向の乱れ等によって、明領域(白パターンの部分)は実効的な配向状態が理想的なレベルからずれるために、輝度が異なって見えてしまうが、この中間調表示の電圧で更に長時間保持すると、この電圧での残留電荷や配向規制力方向にやがて落ち着くことになり、均一表示に見えてくる。液晶表示素子の面内輝度分布をCCDカメラによって測定し、均一表示になるまでの時間を焼き付き時間とし、この焼き付き時間をもって、その液晶表示素子の輝度緩和定数とした。
【0064】
次に、本発明の配向膜形成用溶媒により高品質化された配向膜を作製された液晶表示装置について、説明する。
【0065】
図6(a)から図6(d)は、本発明に関わる液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図6(a)は、本発明に関わる液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。図6(b)は、液晶表示パネルの1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。図6(c)は、液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式平面図である。図6(d)は、図6(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0066】
本発明の配向膜形成用溶媒により高品質化された配向膜は、たとえば、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置に適用される。アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、携帯型電子機器向けのディスプレイ(モニター)、パーソナルコンピュータ用のディスプレイ、印刷やデザイン向けのディスプレイ、医療用機器のディスプレイ、液晶テレビなどに用いられている。
【0067】
アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、図6(a)に示すように、液晶表示パネル(101)、第1の駆動回路(102)、第2の駆動回路(103)、制御回路(104)、およびバックライト(105)を有する。
【0068】
液晶表示パネル(101)は、複数本の走査信号線GL(ゲート線)および複数本の映像信号線DL(ドレイン線)を有し、映像信号線DLは第1の駆動回路(102)に接続しており、走査信号線GLは第2の駆動回路(103)に接続している。なお、図6(a)には、複数本の走査信号線GLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル(101)には、さらに多数本の走査信号線GLが密に配置されている。同様に、図6(a)には、複数本の映像信号線DLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル(101)には、さらに多数本の映像信号線DLが密に配置されている。
【0069】
また、液晶表示パネル(101)の表示領域DAは、多数の画素の集合で構成されており、表示領域DAにおいて1つの画素が占有する領域は、たとえば、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLとで囲まれる領域に相当する。このとき、1つの画素の回路構成は、たとえば、図6(b)に示すような構成になっており、アクティブ素子として機能するTFT素子Tr、画素電極PX、共通電極CT(対向電極と呼ぶこともある)、液晶層LCを有する。またこのとき、液晶表示パネル1には、たとえば、複数の画素の共通電極CTを共通化する共通化配線CLが設けられている。
【0070】
また、液晶表示パネル(101)は、たとえば、図6(c)および図6(d)に示すように、アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)の表面に配向膜(606)および(705)を形成し、それら配向膜の間に液晶層LC(液晶材料)を配置した構造になっている。また、ここでは特に図示していないが、配向膜(606)とアクティブマトリクス基板(106)の間、または配向膜(705)と対向基板(107)の間に、適宜中間層(例えば位相差板や色変換層、光拡散層等の光学的中間層)を設けてもよい。このとき、アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)とは、表示領域DAの外側に設けられた環状のシール材(108)で接着されており、液晶層LCは、アクティブマトリクス基板(106)側の配向膜(606)、対向基板(107)側の配向膜(705)、およびシール材(108)で囲まれた空間に密封されている。またこのとき、バックライト(105)を有する液晶表示装置の液晶表示パネル(101)は、アクティブマトリクス基板(106)、液晶層LC、および対向基板(107)を挟んで対向配置させた一対の偏光板(109a),(109b)を有する。
【0071】
なお、アクティブマトリクス基板(106)は、ガラス基板などの絶縁基板の上に走査信号線GL、映像信号線DL、アクティブ素子(TFT素子Tr)、画素電極PXなどが配置された基板である。また、液晶表示パネル(101)の駆動方式がIPS方式などの横電界駆動方式である場合、共通電極CTおよび共通化配線CLはアクティブマトリクス基板(106)に配置されている。また、液晶表示パネル(101)の駆動方式がTN方式やVA(Vertically Alignment)方式などの縦電界駆動方式である場合、共通電極CTは対向基板(107)に配置されている。縦電界駆動方式の液晶表示パネル(101)の場合、共通電極CTは、通常、すべての画素で共有される大面積の一枚の平板電極であり、共通化配線CLは設けられていない。
【0072】
また、本発明に関わる液晶表示装置では、液晶層LCが密封された空間に、たとえば、それぞれの画素における液晶層LCの厚さ(セルギャップということもある)の均一化するための柱状スペーサ(110)が複数設けられている。この複数の柱状スペーサ(110)は、たとえば、対向基板(107)に設けられている。
【0073】
第1の駆動回路(102)は、映像信号線DLを介してそれぞれの画素の画素電極PXに加える映像信号(階調電圧ということもある)を生成する駆動回路であり、一般に、ソースドライバ、データドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、第2の駆動回路(103)は、走査信号線GLに加える走査信号を生成する駆動回路であり、一般に、ゲートドライバ、走査ドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、制御回路(104)は、第1の駆動回路(102)の動作の制御、第2の駆動回路(103)の動作の制御、およびバックライト(105)の輝度の制御などを行う回路であり、一般に、TFTコントローラ、タイミングコントローラなどと呼ばれている制御回路である。また、バックライト(105)は、たとえば、冷陰極蛍光灯などの蛍光灯、または発光ダイオード(LED)などの光源であり、当該バックライト(105)が発した光は、図示していない反射板、導光板、光拡散板、プリズムシートなどにより面状光線に変換されて液晶表示パネル(101)に照射される。
【0074】
図7は、本発明によるIPS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板(106)は、ガラス基板(601)などの絶縁基板の表面に、走査信号線GLおよび共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層(602)が形成されている。第1の絶縁層(602)の上には、TFT素子Trの半導体層(603)、映像信号線DL、および画素電極PXと、それらを覆う第2の絶縁層(604)が形成されている。半導体層(603)は、走査信号線GLの上に配置されており、走査信号線GLのうちの半導体層(603)の下部に位置する部分がTFT素子Trのゲート電極として機能する。また、半導体層(603)は、たとえば、第1のアモルファスシリコンからなる能動層(チャネル形成層)の上に、第1のアモルファスシリコンとは不純物の種類や濃度が異なる第2のアモルファスシリコンからなるソース拡散層およびドレイン拡散層が積層された構成になっている。またこのとき、映像信号線DLの一部分および画素電極PXの一部分は、それぞれ、半導体層(603)に乗り上げており、当該半導体層(603)に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。ところで、TFT素子Trのソースとドレインは、バイアスの関係、すなわちTFT素子Trがオンになったときの画素電極PXの電位と映像信号線DLの電位との高低の関係によって入れ替わる。しかしながら、本明細書における以下の説明では、映像信号線DLに接続している電極をドレイン電極といい、画素電極に接続している電極をソース電極という。第2の絶縁層(604)の上には、表面が平坦化された第3の絶縁層(605)(オーバーコート層)が形成されている。第3の絶縁層(605)の上には、共通電極CTと、共通電極CTおよび第3の絶縁層(605)を覆う配向膜(606)が形成されている。共通電極CTは、第1の絶縁層(602)、第2の絶縁層(604)、および第3の絶縁層(605)を貫通するコンタクトホールCH(スルーホール)を介して共通化配線CLと接続している。また、共通電極CTは、たとえば、平面における画素電極PXとの間隙Pgが7μm程度になるように形成されている。配向膜(606)は以下の実施例に記載された高分子材料が塗布され、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(ラビング処理等)が施されている。一方、対向基板(107)は、ガラス基板(701)などの絶縁基板の表面に、ブラックマトリクス(702)およびカラーフィルタ(703R,703G,703B)と、それらを覆うオーバーコート層(704)が形成されている。ブラックマトリクス(702)は、たとえば、表示領域DAに画素単位の開口領域を設けるための格子状の遮光膜である。また、カラーフィルタ(703R,703G,703B)は、たとえば、バックライト(105)からの白色光のうちの特定の波長領域(色)の光のみを透過する膜であり、液晶表示装置がRGB方式のカラー表示に対応している場合は、赤色の光を透過するカラーフィルタ(703R)、緑色の光を透過するカラーフィルタ(703G)、および青色の光を透過するカラーフィルタ(703B)が配置される(ここでは一つの色の画素について代表して示している)。また、オーバーコート層(704)は、表面が平坦化されている。オーバーコート層(704)の上には、複数の柱状スペーサ(110)および配向膜(705)が形成されている。柱状スペーサ(110)は、たとえば、頂上部が平坦な円錐台形(台形回転体ということもある)であり、アクティブマトリクス基板(106)の走査信号線GLのうちの、TFT素子Trが配置されている部分および映像信号線DLと交差している部分を除く部分と重なる位置に形成されている。また、配向膜(705)は、たとえば、ポリイミド系樹脂で形成されており、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(ラビング処理等)が施されている。
【0075】
また、図7の方式の液晶表示パネル(101)における液晶層LCの液晶分子(111)は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、ガラス基板(601),(701)の表面にほぼ平行に配向された状態であり、配向膜(606),(705)に施されたラビング処理で規定された初期配向方向に向いた状態でホモジニアス配向している。そして、TFT素子Trをオンにして映像信号線DLに加えられている階調電圧を画素電極PXに書き込み、画素電極PXと共通電極CTとの間の電位差が生じると、図中に示したような電界(112)(電気力線)が発生し、画素電極PXと共通電極CTとの電位差に応じた強度の電界(112)が液晶分子(111)に印加される。このとき、液晶層LCが持つ誘電異方性と電界(112)との相互作用により、液晶層LCを構成する液晶分子(111)は電界(112)の方向にその向きを変えるので、液晶層LCの屈折異方性が変化する。またこのとき、液晶分子(111)の向きは、印加する電界(112)の強度(画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさ)によって決まる。したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える階調電圧を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行うことができる。
【0076】
図8は、本発明によるFFS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板(106)は、ガラス基板(601)などの絶縁基板の表面に、共通電極CT、走査信号線GL、および共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層(602)が形成されている。第1の絶縁層(602)の上には、TFT素子Trの半導体層(603)、映像信号線DL、およびソース電極(607)と、それらを覆う第2の絶縁層(604)が形成されている。このとき、映像信号線DLの一部分およびソース電極(607)の一部分は、それぞれ、半導体層(603)に乗り上げており、(ここでは奥行き方向に隠れて図示されないが)当該半導体層(603)に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。また、図8の液晶表示パネル(101)では、第3の絶縁層(605)が形成されておらず、第2の絶縁層(604)の上に画素電極PXと、画素電極PXを覆う配向膜(606)が形成されている。画素電極PXは、第2の絶縁層(604)を貫通するコンタクトホールCH(スルーホール)を介してソース電極(607)と接続している。このとき、ガラス基板(601)の表面に形成された共通電極CTは、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLで囲まれた領域(開口領域)に平板状に形成されており、当該平板状の共通電極CTの上に、複数のスリットを有する画素電極PXが積層されている。またこのとき、走査信号線GLの延在方向に並んだ画素の共通電極CTは、共通化配線CLによって共通化されている。一方、図8の液晶表示パネル(101)における対向基板(107)は、図7の液晶表示パネル(101)の対向基板(107)と同じ構成である。そのため、対向基板(107)の構成に関する詳細な説明は省略する。
【0077】
図9は、本発明によるVA方式液晶表示パネルの主要部の断面構成の一例を示す模式断面図である。縦電界駆動方式の液晶表示パネル(101)は、たとえば、図9に示すように、アクティブマトリクス基板(106)に画素電極PXが形成されており、対向基板(107)に共通電極CTが形成されている。縦電界駆動方式の1つであるVA方式の液晶表示パネル(101)の場合、画素電極PXおよび共通電極CTは、たとえば、ITOなどの透明導電体によりベタ形状(単純な平板形状)に形成されている。このとき、液晶分子(110)は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、配向膜(606),(705)によりガラス基板(601),(701)の表面に対して垂直に並べられている。そして、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差が生じると、ガラス基板(601),(701)に対してほぼ垂直な電界(112)(電気力線)が発生し、液晶分子(111)が基板(601),(701)に対して平行な方向に倒れ、入射光の偏光状態が変化する。またこのとき、液晶分子(111)の向きは、印加する電界(112)の強度によって決まる。したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える映像信号(階調電圧)を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行う。また、VA方式の液晶表示パネル(101)における画素の構成、たとえば、TFT素子Trや画素電極PXの平面形状は、種々の構成が知られており、図9の方式での液晶表示パネル(101)における画素の構成は、それらの構成のいずれかであればよい。ここでは、その液晶表示パネル(101)における画素の構成に関する詳細な説明を省略する。
【0078】
本発明は、上記のようなアクティブマトリクス方式の液晶表示装置のうち、液晶表示パネル(101)、特に、アクティブマトリクス基板(106)および対向基板(107)において液晶層LCに接する部分およびその周辺の構成に関する。そのため、本発明には直接関係しない第1の駆動回路(102)、第2の駆動回路(103)、制御回路(104)、およびバックライト(105)の構成についての詳細な説明は省略する。
【0079】
これら液晶表示装置を製造するためには、既に液晶表示装置に用いられている各種配向膜材料や配向処理方法、各種液晶材料等を用いることが可能であり、それらを液晶表示装置に組立加工する際の各種プロセスを適用することも可能である。
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0081】
最初に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒として、前記高分子を塗膜し、成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物に〔化6〕の化学構造有する物質ブチロフェノンを含む配向膜形成用溶媒を用いることにより、イミド化率が向上した例について説明する。
【0082】
【化6】
【0083】
用いる配向膜用高分子としては、イミド化によって最終的に〔化7〕に示すようなポリイミドとなるようなポリアミド酸を原料に用いた。
【0084】
【化7】
【0085】
まず、20 wt%ポリアミド酸をN-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP、沸点202℃)に溶解させた溶液に、更に10wt%γ-ブチロラクトン(ガンマブチロラクトン、英: Gamma-Butyrolactone、略称: GBL、沸点204℃)を添加したものをポリアミド酸の原液とした。この原液を用いると、スピンコート法や印刷法で均一な薄膜を形成することが可能である。この原液に対して、0〜90wt%の割合で、〔化6〕の可変性化合物を添加したものを混合液とした(この化合物は融点11℃、沸点230℃であり、イミド化までの成膜過程の途中で固体として析出する危険性がなく、均一な薄膜を得るのに適している。)。但し、一連の成膜プロセスでは可変性化合物が外光の紫外線により反応することを防止するために、イエローランプ下で作業を行った。事前の膜厚分布等の検討で、この割合で可変性化合物を添加しても、均一な薄膜が得られることは別途確認した。これら原液及び混合液をガラス基板上に膜厚100 nmスピンコート法で塗布し、80℃で10分間仮乾燥した後、180℃から250℃の範囲で温度を変えて、10分間イミド化した。得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を表1にまとめた。まず、比較例となるべき添加量0 wt%について、イミド化温度とイミド化率の関係を見ると、温度180℃では9.5%とほとんどイミド化が進行しないが、200℃以上から急速にイミド化が進行し、250℃でイミド化率は56.7%となった。ちなみに、表中には示していないが、350℃でイミド化した時のイミド化率は57.1%であり、250℃でほとんど上限に達していることがわかった。これに対して、混合物のイミド化率を見ると、いずれの温度でも添加量が増加するにつれてイミド化率が向上している。但し、イミド化温度が180℃では高々10%台であり、添加剤濃度が高いとしても、十分なイミド化は得られない。一方、50%以上のイミド化が達成できる温度を見ると、添加剤0wt%では230℃以上のイミド化温度が必要であるが、添加剤を加えると、220℃以上で十分となり、特に40wt%以上の添加では210℃でもよいことがわかる。このように可変性化合物の添加量が多い程有効であることがわかるが、添加量100%、すなわちこの可変性化合物そのものに原料のポリアミド酸が溶解しないかを検討したが、本実施例の高分子の場合、溶解させることはできなかった。しかしながら、このことは別の高分子に対しては溶解しえないことを意味するものではない。
【0086】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒を用いることにより、イミド化率が向上することが確認された。
【0087】
【表1】
【実施例2】
【0088】
次に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒の溶媒としての沸点が、外部から紫外線を照射する前後で変化するかどうかを検討した。溶媒の沸点測定には熱重量測定装置を用いた(特にことわっていないが、これらの測定もまたイエロールーム下で行った)。図10には代表的な熱重量測定時の重量変化のグラフを示す。一定量の溶媒を入れ、1分間に1℃ずつ温度上昇させた時に重量が初期に比べて95%減少した温度を光照射前の沸点とした。紫外線を溶媒に照射するには、熱重量測定容器に所定の量試料溶媒を入れ、チラーで10℃に保持した状態で、紫外線ランプ(高圧水銀灯)と干渉フィルタを組み合わせた波長330nmの紫外線を集光照射(集光部の全光量5mJ/cm2)した。そのまま、熱重量測定装置にセットして、同様の手順で光照射後の沸点を測定した。その結果を表2に示す。これを見ると、比較例となる添加量0wt%の溶媒は紫外線を照射しても沸点198℃と変化しないが、添加量が増加するにつれて光照射前の沸点は上昇する。ところが、光照射後の沸点はいずれも光照射前よりも低下している。この中で、実施例1で示したように40wt%以上の添加では210℃でも50%以上のイミド化が達成できたが、その場合の光照射前の溶媒の沸点は220℃以上となっていた。
【0089】
【表2】
【0090】
別途、薄膜の試験片を用意し、外部から紫外線を照射可能な特別な捕集管に挿入したものを、ガスクロマトグラム−質量分析装置に取り付け、試料を温度を少しずつ上昇させて、発生するガス成分の分子量を追跡した。その結果、加熱温度190℃付近から、薄膜形成に用いた通常の溶媒(N-メチル-2-ピロリドン=99.12、γ-ブチロラクトン=86.09)に対応した成分が検知されたが、紫外線を照射しない場合は228℃からこれらとは別の分子量成分が発生し、配向膜形成用溶媒の分子量成分(148.20)に対応したものであることがわかった。次に、別の薄膜試料を用意し、加熱しながら、途中から紫外線を照射すると、室温以上の紫外線照射直後から全く新しい分子量成分し、エチレン(28.05)に対応したものであることがわかった。より高温にすると、同様に190℃付近から通常の溶媒成分が検知されたが、この中により分子量の大きな成分も含まれ、アセトフェノン(120.15)に対応したものであることがわかった。更に高温まで加熱しても、今度は分子量成分(148.20)は見出されなかった。このことから、紫外線照射によって、配向膜形成用溶媒がより小さな分子量のフラグメントに分解したことが確認された。
【0091】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、化学構造変化する前の沸点が化学構造変化させた後の沸点よりも高く、特に沸点が220℃以上の場合にはイミド化率が向上することが確認された。
【実施例3】
【0092】
次に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒の溶媒を用いて、配向膜を形成した際の配向特性について説明する。
【0093】
基板には合成石英基板を用い、実施例1に示した通りの手順で、表1に示した組成にて、配向膜原料の原液及び混合液の塗布、仮乾燥、イミド化焼成を行った(特にことわっていないが、これらもまたイエロールーム下で行った)。すなわち、これら原液及び混合液をガラス基板上に膜厚100 nmスピンコート法で塗布し、80℃で10分間仮乾燥した後、210、230、250℃の範囲で温度を変えて、10分間イミド化した。これらイミド化した薄膜に対して、実施例2に示したような紫外線ランプ(波長330 nm)で紫外線を基板温度230℃にて膜全体に均一に照射(全光量5mJ/cm2)した。ここで、比較のために可変性化合物の添加量0 wt%のものについては全くこの紫外線を照射しないものも用意した。特にこの状態で薄膜の吸収スペクトルを評価すると、波長300nm以下で光吸収があり、262nmにピークが見られた。次に、別の紫外線ランプ(低圧水銀灯)とワイアグリッド偏光子、干渉フィルタにて、偏光化した紫外線(主波長280nm、偏光度80:1)を、基板温度を室温に戻して、膜全体に均一に照射(全光量5mJ/cm2)した。(ここまで処理を終えた膜を「光配向のための偏光紫外線照射が完了した膜」とする)しかる後、基板を230℃に大気中で20分間加熱した。
【0094】
光配向の処理が完了した膜に関して、その前後での分子組成の変化を確認するため、液体クロマトグラフィ−質量分析によって、膜中の分子フラグメントの分子量を調べたところ、〔化7〕の高分子鎖中のシクロブタン環が開裂したビスマレイミド誘導体(2,2’-dimethyl-1,1’-(4,4’-phenylene)bismaleimide、分子量296)やその二量体由来と思われる成分(分子量593,625,657)等が検知された。これらの分子量に着目して、紫外線照射前、紫外線照射直後、紫外線照射後に加熱時間を変化させた場合等の試料を再度用意し、各試料中のこれらのフラグメント成分の量を追跡したところ、紫外線照射前の試料からは全く検知されず、紫外線照射直後に最大量のフラグメント成分が検知され、加熱時間の増加と共に、これらの成分が減少した。
【0095】
【表3】
【0096】
このようにして得られた配向膜の膜オーダパラメータと表面オーダパラメータを測定した。その結果を表3にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、高い膜オーダパラメータ、表面オーダパラメータが与えられる傾向にあり、同じ条件で見ると、膜オーダパラメータよりも表面オーダパラメータの方が高い値を示す。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、オーダパラメータはほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線に対してはここで用いたポリイミドは反応しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合のオーダパラメータを見ると、添加量の増加と共にオーダパラメータは増加しており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、得られる配向膜のオーダパラメータが増加することがわかる。特に、可変性化合物を添加しない場合、オーダパラメータが0.5以上となるためには、250℃での加熱が必要であるが、本発明の溶媒を用いると、添加量20 wt%以上ならば230℃、添加量50 wt%以上ならば210℃でもオーダパラメータが0.5以上となり、加熱プロセス温度の低減に有効であることがわかる。(念のため、偏光していない同じ波長の紫外線も照射してみたが、この場合はオーダパラメータは0となり、全く配向していないことを確認した。)
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜の品質が向上することが確認された。
【実施例4】
【0097】
次に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒の溶媒を用いて、配向膜を形成した際のアンカリング特性について説明する。
【0098】
基板にはガラス基板を用い、実施例3に示した通りの手順で、表1に示した組成にて配向膜を形成し、同様の手順にて光配向のための偏光紫外線照射が完了した膜を得、同様の手順にて、基板を230℃に大気中で20分間加熱した。これを2枚一組として、その配向処理方向を平行にしてアンカリング特性評価用の液晶セルを作製した。
【0099】
【表4】
【0100】
このようにして得られた液晶セルのアンカリングを測定した。その結果を表4にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、高いアンカリング強度が与えられる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、アンカリング強度はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線に対してはここで用いたポリイミドは反応しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合のアンカリング強度を見ると、添加量の増加と共にアンカリング強度は増加しており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、得られる配向膜のアンカリング強度が増加することがわかる。特に、可変性化合物を添加しない場合、アンカリング強度が3 mJ/m2以上となるためには、230℃以上での加熱が必要であるが、本発明の溶媒を用いると、添加量50 wt%以上ならば210℃でもアンカリング強度が3 mJ/m2以上となり、加熱プロセス温度の低減に有効であることがわかる。
【0101】
また、これらの液晶セルを用いて、その内部の液晶のプレチルト角を測定したところ、いずれも0度であり、膜面内に液晶を配向させる規制力を付与された状態にあることが確認された。
【0102】
次に、光配向のための偏光紫外線照射の角度を変化させた場合に、それら配向膜から得られる液晶セルについて、その内部の液晶のプレチルト角を測定した。具体的には、通常は基板面に対して垂直に紫外線を照射する(偏光軸は膜面内にある)が、ここでは紫外線照射時に基板を傾けて照射した。このようにして得られた配向膜からなる液晶セルのプレチルト角は基板の傾き角とほぼ同じ角度であり、膜面に対して立った方向に液晶を配向させる規制力を付与された配向膜であることがわかった。特に、プレチルト角を30度以上にした場合は、実質的に初期は垂直配向状態に近いため、この液晶セルの上下から、互いに直交した偏光軸を持つ偏光板で挟んだ場合には特に偏光板の偏光軸方向を著しく意識することなく暗視野状態を形成することができる。
【0103】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜を液晶セルに組み立てた際の品質が向上することが確認された。
【実施例5】
【0104】
次に、実施例4で示した配向膜を用いて、図7に示したIPS方式の液晶表示素子を作製し、その透過率を評価した結果を示す。
【0105】
液晶パネル作製は、通常の製造プロセスにおいて、配向膜材料を本発明の配向膜形成用溶媒を採用する以外は同一のプロセスにて製造する。例えば、IPS方式の液晶表示装置の代表的な製造方法の場合、事前に配向処理まで終えたアクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)とを張り合わせて液晶材料を封入してセル組みするが、この時、アクティブマトリクス基板(106)の配向膜(606)の初期配向方向と、対向基板(107)の配向膜(705)の初期配向方向とは、互いにほぼ並行になるようにしておく。また、封入する液晶材料は、たとえば、誘電異方性Δεが正で、その値が10.2(1kHz、20℃)であり、屈折率異方性Δnが0.075(波長590 nm、20℃)、ねじれ弾性定数K2が7.0pN、ネマティック−等方相転移温度T(N−I)が約76℃、比抵抗が1×10+13Ωcmのネマティック液晶組成物Aを用いる。またこのとき、アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)は、液晶層LCの厚み(セルギャップ)が柱状スペーサ(110)の高さとほぼ同じ値、たとえば、4.2μmになるように張り合わせる。このような条件で製造された液晶表示パネル(101)のリタデーション(Δn・d)は、約0.31 μmである。リタデーションΔn・dは、0.2 μm≦Δn・d≦0.5 μmの範囲が望ましく、この範囲を超えると白表示が色づいてしまうなどの問題がある。アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)とを張り合わせて液晶材料を封入したら、たとえば、ガラス基板(601),(701)の外周の不要な部分(余白部分)を切断除去し、偏光板(109a),(109b)を張り合わせる。偏光板(109a),(109b)を張り合わせるときには、一方の偏光板の偏光透過軸をアクティブマトリクス基板(106)の配向膜(606)および対向基板(107)の配向膜(705)の初期配向方向とほぼ平行とし、他方の偏光板の偏光透過軸をそれに直交するようにする。その後、第1の駆動回路(102)、第2の駆動回路(103)、制御回路(104)、バックライト(105)などを接続してモジュール化すると、実施例5の液晶表示パネル(101)を有する液晶表示装置が得られる。なお、実施例5の液晶表示パネル(101)は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が小さい場合は暗表示(低輝度表示)になり、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が大きい場合は明表示(高輝度表示)になるノーマリークローズ特性にしている。他の方式の液晶表示装置の場合も、それぞれの方式での通常の製造を行い、暗表示と明表示が可能な状態にする。
【0106】
【表5】
【0107】
このようにして得られた液晶表示素子の焼き付き時間を測定した。その結果を表5にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、焼き付き時間が短くなる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、焼き付き時間はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線照射は液晶表示素子の性能に影響しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合の焼き付き時間を見ると、添加量の増加と共に焼き付き時間は短くなっており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、低残像になることがわかる。
【0108】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜をIPS方式の液晶表示素子に組み立てた際の性能が向上することが確認された。
【実施例6】
【0109】
次に、実施例4で示した配向膜を用いて、図8に示したFFS方式の液晶表示素子を作製し、光透過率を評価した結果について説明する。FFS方式はその素子構造がIPS方式に似た点があり、上下の下地基板の片側にのみ画素電極PXと共通電極CLが形成されており、液晶はその間の電場の有無に応じて、面内で回転する。従って、電場が印加されていない初期の配向状態もIPS方式と同様であり、その配向膜(606)(及び(705))に施すべき配向方向同様にすればよく、用いる液晶も、誘電異方性Δεが正のものを使うことができる。
【0110】
【表6】
【0111】
このようにして得られた液晶表示素子の焼き付き時間を測定した。その結果を表6にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、焼き付き時間が短くなる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、焼き付き時間はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線照射は液晶表示素子の性能に影響しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合の焼き付き時間を見ると、添加量の増加と共に焼き付き時間は短くなっており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、低残像になることがわかる。
【0112】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜をFFS方式の液晶表示素子に組み立てた際の性能が向上することが確認された。
【実施例7】
【0113】
次に、実施例4で示した配向膜を用いて、図9に示したVA方式の液晶表示素子を作製し、光透過率を評価した結果について説明する。VA方式はIPS方式やFFS方式とは異なり、上下の下地基板に画素電極PXと共通電極CLが形成されており、誘電異方性Δεが負であるVA方式用の液晶材料が用いられ、電場が印加されていない初期の配向状態は液晶分子が基板面に対してほぼ垂直となるように配向処理されねばならない。このため、通常のラビングを用いることが困難である。ここでは、〔非特許文献2〕を参考に、斜め方向から偏光紫外線照射した光配向処理を行った。
【0114】
【表7】
【0115】
このようにして得られた液晶表示素子の焼き付き時間を測定した。その結果を表7にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、焼き付き時間が短くなる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、焼き付き時間はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線照射は液晶表示素子の性能に影響しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合の焼き付き時間を見ると、添加量の増加と共に焼き付き時間は短くなっており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、低残像になることがわかる。
【0116】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜をVA方式の液晶表示素子に組み立てた際の性能が向上することが確認された。
【実施例8】
【0117】
次に、別の化学構造の配向膜形成用溶媒を用いた場合の特性を検討した結果について説明する。
【0118】
これまでは〔化6〕の配向膜形成用溶媒を用いて検討してきたが、ここでは以下の〔化8〕、〔化9〕の配向膜形成用溶媒を用いた。その他、配向膜成分や、その主たる溶媒、それらの配向膜形成過程については、実施例1と同じものを用いた。イミド化率の評価方法等も実施例1と同様である。
【0119】
【化8】
【0120】
【化9】
【0121】
表8には、〔化8〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、イミド化温度が230℃以上では余り差がないように見える。これば別途測定したこの化合物の沸点が220℃程度であったため、余り高温ではこの化合物が蒸発してしまい、添加した効果が無くなるためと推定される。
【0122】
【表8】
【0123】
また、表9には、〔化9〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、実施例1の〔化6〕の材料を用いた場合にその向上効果はより高く、最大83%のイミド化率が得られている。これば別途測定したこの化合物の沸点が245℃程度であったため、より高い温度まで溶媒としてこの化合物がイミド化焼成までは残留するためと推定される。
【0124】
【表9】
【0125】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒を用いることにより、イミド化率が向上することが確認された。
【0126】
次に、実施例4に示したようなアンカリング強度評価用の液晶セルを組み立て、液晶分子の配向性能の有無を確認したところ、これらの配向膜形成溶媒から得られた配向膜からなる液晶セルでは均一な液晶配向が得られていることが偏光顕微鏡観察から確認できた。
【0127】
次に、これらの溶媒を用いて、添加量を70%、イミド化焼成温度を210℃に固定し、実施例5から7に示したような3種の液晶表示素子を形成し、添加しなかった場合の液晶表示素子も作製して、それらの焼き付き時間を比較すると、いずれも添加しなかった場合に比べて焼き付き時間が短くなり、残像特性が向上していることが確認された。
【実施例9】
【0128】
次に、別の化学構造の配向膜形成用溶媒を用いた場合の特性を検討した結果について説明する。
【0129】
ここでは以下の〔化10〕の配向膜形成用溶媒を用いた。その他、配向膜成分や、その主たる溶媒、それらの配向膜形成過程については、実施例1と同じものを用いた。イミド化率の評価方法等も実施例1と同様である。
【0130】
【化10】
【0131】
【化11】
【0132】
表10には、〔化10〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、実施例1の〔化6〕の材料を用いた場合にその向上効果はより高く、添加量60%でも最大77%のイミド化率が得られている。このイミド化焼成まで完了した時点での薄膜の紫外可視吸収スペクトルを測定すると、330〜340nm付近にピークを持ち、約360nm付近まで伸びている。この配向膜形成溶媒を加えない場合には、300nm台には吸収ピークは存在せず、この吸収は配向膜形成溶媒に由来するものである。この薄膜に実施例3に示した方法と同様の手順で、光配向処理を施したところ、この吸収ピークは10%程減少したが、なお強い吸収ピークが紫外線域に残留した。更に、光配向処理を終えた配向膜を用いて、実施例4に示した方法で配向膜表面のアンカリング強度を測定したところ、添加量20〜50%ではアンカリング強度が3 mJ/m2以上となったが、60%では2.4〜2.8 mJ/m2に低下した。そこで、光配向のための偏光紫外線照射が完了した後の大気中での加熱乾燥過程を、1mmTorr以下に減圧にしたチャンバ内で同様の温度で加熱したところアンカリング強度が3 mJ/m2以上と良好な特性を示すようになった。
【0133】
【表10】
【0134】
また、表11には、〔化11〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、実施例1の〔化6〕の材料を用いた場合にその向上効果はより高く、添加量60%でも最大77%のイミド化率が得られている。このイミド化焼成まで完了した時点での薄膜の紫外可視吸収スペクトルを測定すると、340〜360nm付近にピークを持ち、約380nm付近まで伸びている。この配向膜形成溶媒を加えない場合には、300nm台には吸収ピークは存在せず、この吸収は配向膜形成溶媒に由来するものである。この薄膜に実施例3に示した方法と同様の手順で、光配向処理を施したところ、この吸収ピークは10%程減少したが、なお強い吸収ピークが紫外線域に残留した。更に、光配向処理を終えた配向膜を用いて、実施例4に示した方法で配向膜表面のアンカリング強度を測定したところ、添加量20〜50%ではアンカリング強度が3 mJ/m2以上となったが、60%では2.4〜2.8 mJ/m2に低下した。そこで、光配向のための偏光紫外線照射が完了した後の大気中での加熱乾燥過程を、1mmTorr以下に減圧にしたチャンバ内で同様の温度で加熱したところアンカリング強度が3 mJ/m2以上と良好な特性を示すようになった。
【0135】
【表11】
【0136】
次に、実施例4に示したようなアンカリング強度評価用の液晶セルを組み立て、液晶分子の配向性能の有無を確認したところ、これらの配向膜形成溶媒から得られた配向膜からなる液晶セルでは均一な液晶配向が得られていることが偏光顕微鏡観察から確認できた。
【0137】
次に、これらの溶媒を用いて、添加量を70%、イミド化焼成温度を210℃に固定し、実施例5から7に示したような3種の液晶表示素子を形成し、添加しなかった場合の液晶表示素子も作製して、それらの焼き付き時間を比較すると、いずれも添加しなかった場合に比べて焼き付き時間が短くなり、残像特性が向上していることが確認された。
【実施例10】
【0138】
次に、別の化学構造の配向膜形成用溶媒を用いた場合の特性を検討した結果について説明する。
【0139】
実施例9で用いた光配向性溶媒には、その一部骨格が配向膜中に残留し、紫外線を吸収する特性を付与することが可能であったが、添加量は60%が上限で、それ以上添加するとポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を溶解させる際に溶解性が低下して、ポリアミド酸が析出してしまった。そこで、〔化12〕から〔化19〕に示したような分子骨格の一部にハロゲン元素を含む配向膜形成溶媒を選び、これら溶媒を実施例9の溶媒に対して10から最大40wt%添加した混合配向膜形成溶媒にしたところ、実質的な実施例9の溶媒の添加量を85%まで高めても配向膜が均一に形成させることができた。このように実施例9の溶媒添加量を増加させることができたことにより、最終的に配向膜中に残留した紫外線吸収成分の濃度を高めることができ、実施例9の場合に比べてより高効率な紫外線膜を得ることができた。また、これら〔化12〕から〔化19〕由来の成分が最終的な配向膜に残留していないことは、膜の元素分析によって、ハロゲン元素が見出されないことで確認した。
【0140】
【化12】
【0141】
【化13】
【0142】
【化14】
【0143】
【化15】
【0144】
【化16】
【0145】
【化17】
【0146】
【化18】
【0147】
【化19】
【0148】
これらの新たな配向膜形成溶媒の効果を確認するために、配向膜形成溶媒の構造変化を引き起こすための紫外線を照射する前後での、薄膜の誘電率を以下の手順で測定した。すなわち、石英基板上にパターニングされたITOからなる1mmφの画素電極とそれを0.1mmの間隔を開けて取り囲むガード電極を形成し、この上にこれまで同様にポリイミド薄膜を形成する。ここではイミド化焼成まで施し、紫外線照射は行わない。次に、薄膜上に画素電極からガード電極までカバーできるように対抗電極を金の蒸着によって形成する。このようにして誘電率測定用の試料を準備し、その誘電率を測定し、これを紫外線照射前の誘電率とする。次に、配向膜形成溶媒の構造変化を引き起こすための紫外線を基板側から薄膜に照射し、同様に誘電率を測定し、これを紫外線照射後の誘電率とした。このようにして、実施例9の〔化10〕だけの時の誘電率を調べたところ、紫外線照射前は比誘電率が周波数100〜10kHzの範囲で3.8であったが、紫外線照射後は3.2に減少し、薄膜の極性が変化した。また、本実施例の〔化10〕から〔化19〕を添加した場合は、紫外線照射前の比誘電率は、Cl、Br、Iが導入された場合には4.0〜4.2に増加し、Fが導入された〔化19〕では3.6に減少、両方が入った〔化17〕と〔化18〕ではほぼ同等であった。これらに対して、紫外線照射後の比誘電率はいずれも3.2に減少し、薄膜の極性が変化した。配向膜を形成する溶媒の段階では極性の高い状態にしておくことは、ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の溶解性を高める点で有利である。しかしながら、通常の溶媒で極性を高めることは溶媒の沸点も高くするために、溶媒除去に高い加熱温度や長い加熱時間を必要とし、場合によっては液晶表示装置のTFT部分やカラーフィルタ等、他の部材部分の耐熱性の点で適用できない場合が多い。本発明のような極性が変わる溶媒を用いることで、除去が容易な溶媒を提供することができる。
【0149】
次に、実施例4に示したようなアンカリング強度評価用の液晶セルを組み立て、液晶分子の配向性能の有無を確認したところ、これらの配向膜形成溶媒から得られた配向膜からなる液晶セルでは均一な液晶配向が得られていることが偏光顕微鏡観察から確認できた。
【符号の説明】
【0150】
1…配向膜、2…励起光源、3…励起光、4…光電子、5…光電子検出器、6…可視光源、7…偏光子、8…評価用セル、9…検光子、10…フォトマル、
101…液晶表示パネル、102…第1の駆動回路、103…第2の駆動回路、104…制御回路、105…バックライト、106…アクティブマトリクス基板、107…対向基板、108…シール材、109a,109b…偏光板、110…柱状スペーサ、111…液晶分子、112…電界(電気力線)、601…ガラス基板、602…第1の絶縁層、603…(TFT素子の)半導体層、604…第2の絶縁層、605…第3の絶縁層、606…配向膜、607…ソース電極、608…導電層、609…突起形成部材、609a…(突起形成部材の)半導体層、609b…(突起形成部材の)導電層、701…ガラス基板、702…ブラックマトリクス、703R,703G,703B…カラーフィルタ、704…オーバーコート層、705…配向膜、
GL…走査信号線、DL…映像信号線、Tr…TFT素子、PX…画素電極、CT…共通電極、CL…共通化配線、LC…液晶層(液晶材料)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高コントラストで低残像特性を示す液晶表示装置を製造する際に用いる配向膜形成用溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は表示品質が高く、且つ薄型、軽量、低消費電力などといった特長からその用途を広げており、携帯電話用モニター、デジタルスチルカメラ用モニターなどの携帯向けモニターからデスクトップパソコン用モニター、印刷やデザイン向けモニター、医療用モニターさらには液晶テレビなど様々な用途に用いられている。この用途拡大に伴い、液晶表示装置には更なる高画質化、高品質化が求められており、特に高透過率化による高輝度化、低消費電力化が強く求められている。また液晶表示装置の普及に伴い、低コスト化に対しても強い要求がある。
【0003】
通常、液晶表示装置の表示は一対の基板間に挟まれた液晶層の液晶分子に電界を印加することにより液晶分子の配向方向を変化させ、それにより生じた液晶層の光学特性の変化により行われる。電界無印加時の液晶分子の配向方向は、ポリイミド薄膜の表面にラビング処理を施した配向膜により規定されている。従来、画素毎に薄膜トランジスタ(TFT)等のスイッチング素子を備えたアクティブ駆動型液晶表示装置は、液晶層を挟持する一対の基板のそれぞれに電極を設け、液晶層に印加する電界の方向が基板面に対してほぼ垂直になる、所謂縦電界になるように設定され、液晶層を構成する液晶分子の光旋光性を利用して表示を行う。縦電界方式の代表的な液晶表示装置として、ツイステッドネマチック(TN:Twisted Nematic)方式や垂直配向(VA:Vertical Alignment)方式が知られている。TN方式やVA方式の液晶表示装置においては視野角が狭いことが大きな課題の一つである。そこで、広視野角化を達成する表示方式としてIPS(In-Plane Switching)方式やFFS(Fringe-Field Switching)方式が知られている。IPS方式およびFFS方式は、一対の基板の一方に櫛歯状の電極を形成し、発生する電界が当該基板面にほぼ平行な成分を有する、所謂横電界方式の表示方式であり、液晶層を構成する液晶分子を基板とほぼ平行な面内で回転動作させ、液晶層の複屈折性を用いて表示を行う。液晶分子の面内スイッチングにより従来のTN方式に比べて視野角が広く低負荷容量である等の利点があり、TN方式に代わる新たな液晶表示装置として有望視され、近年急速に進歩している。
【0004】
液晶表示素子は、液晶層中の液晶分子の配向状態を電場の有無によって制御する。すなわち、液晶層の外部に設けられた上下の偏光板を完全直交状態にして、中間の液晶分子の配向状態により位相差を発生させて明暗の状態を形成する。液晶に電場を印加しない状態の配向状態を制御するためには、基板表面に配向膜と呼ばれる高分子薄膜を形成し、その高分子の配列方向に界面での高分子鎖と液晶分子とのファンデルワールス力による分子間相互作用に液晶分子を並べることによって実現している。この作用は配向規制力または液晶配向能の付与、配向処理とも呼ばれる。液晶ディスプレイの配向膜にはポリイミドが用いられることが多い。その形成方法は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を各種溶媒に溶かして、基板上にスピン塗布または印刷によって塗布し、基板を200℃以上の高温で加熱することで、溶媒を除去すると共に、ポリアミド酸をポリイミドにイミド化閉環反応させる。この時の膜厚100nm程度の薄膜である。このポリイミド薄膜表面をラビング布により表面を一定方向に擦ることで、表面のポリイミド高分子鎖をその方向に配向させ、表面高分子の異方性の高い状態を実現する。しかしながら、ラビングによる静電気や異物の発生、基板表面の凹凸によるラビングの不均一等の問題があり、ラビング布との接触を必要としない、偏光した光を用いて分子配向を制御する光配向法が採用されつつある。
【0005】
液晶配向膜の光配向法には、アゾ色素のように偏光した紫外線を照射することで分子内の幾何学的配置が変化する光異性化型、ケイ皮酸やクマリン、カルコン等の分子骨格同士が偏光した紫外線によって化学結合を発生させる光二量体化型、等があるが、高分子を偏光した紫外線を照射することで、その方向に並んでいる高分子鎖のみ切断分解し、その偏光方向に垂直な方向の高分子鎖を残留させる光分解型が、液晶配向膜として信頼と実績のあるポリイミドの光配向には適している。このような光配向方法は、古くは1994年に〔非特許文献1〕にその最初原理が開示されている。この手法は各種液晶表示方式で検討がなされたが、そのうちIPS方式に関しては、初期配向方向の変動による表示不良の発生を低減、安定な液晶配向、量産性、かつコントラスト比を高めた高品位の画質を有する液晶表示装置として、〔特許文献1〕に開示されている。この中では、シクロブタンテトラカルボン酸2無水物および又はその誘導体と芳香族ジアミンからなるポリアミック酸またはポリイミドを、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射,電子線照射,放射線照射のうち少なくとも一つの二次処理を施す配向処理により前記配向制御能が付与されていることを示している。そして、特に、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射,電子線照射,放射線照射のうち少なくとも一つの処理を偏光照射処理と時間的な重なりをもって行うことにより本発明はさらに有効に作用すること、配向制御膜のイミド化焼成処理と偏光照射処理を時間的な重なりをもって行うことによっても有効に作用することが示されている。特に、液晶配向膜に偏光照射に加え、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射,電子線照射,放射線照射のうち少なくとも一つの処理を行う場合に、配向制御膜の温度が100℃〜400℃の範囲であること、さらには150℃〜300℃の範囲であることが望ましく、加熱,赤外線照射,遠赤外線照射の処理は配向制御膜のイミド化焼成処理と兼用することも可能であり有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−206091号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】長谷川雅樹、平洋一「ポリイミドの光分解によるネマチック液晶のホモジニアス配向」第20回液晶討論会予稿集、232〜233頁、1994年
【非特許文献2】P. Gass, H. Stevenson, R. Bay, H. Walton, N. Smith, S. Terashita, and M. Tillin「垂直配向LCD用パターン化光配向」シャープ技報第85号(2003)24-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、配向膜の形成は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の段階で高極性溶媒に溶解し、塗布乾燥させて薄膜化した後、加熱によってイミド化反応をさせていた。しかし、イミド化が進行するにつれて高分子鎖の直線性が増大していくが、同時に粘度も増加するため、一定度以上のイミド化が進行しなかった。このため、部分的に屈曲した部位を含むポリイミドとなるため、表面異方性を与える分子骨格自身の異方性が低下し、高いアンカリング力を与えることが困難であった。
【0009】
また、事前に希薄溶液中でイミド化反応させたものを塗布、乾燥させて薄膜化させる場合は、事前に高イミド化すると、溶媒への溶解性が低下し、所望の薄膜を形成することが困難であった。
【0010】
本発明は、より高品質な、イミド化率が向上し、表面異方性が大きく、アンカリング力が強い液晶用配向膜を作製することができる配向膜形成用溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の配向膜形成用溶媒は、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記高分子を塗膜し、配向膜を形成する成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の配向膜形成用溶媒は、前記配向膜の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の配向膜材料は、前記の配向膜形成用溶媒と、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含むことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の液晶表示装置の製造方法は、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜の形成工程として、前記の配向膜形成用溶媒に高分子を溶かした溶液を基板に塗布するステップと、前記塗布した高分子をイミド化焼成するステップと、前記配向膜形成用溶媒中に含まれる前記可変性化合物の化学構造を変化させるステップと、化学構造が変化した溶媒を除去するステップと、残された高分子薄膜に光配向用の偏光した光を照射するステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、液晶配向膜の品質、例えばポリイミドのイミド化率が向上し、高分子鎖直線性が高まり、光配向処理時に強い表面異方性、アンカリング力が得ることができ、かつ得られたポリイミドのガラス転移温度も向上するために、力学的強度が高まり、液晶表示装置の残像を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の、可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒の基本概念を示す図。
【図2】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の形成過程での構造変化の説明図。
【図3】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の薄膜の面内異方性の説明図。
【図4】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の薄膜の表面異方性測定系の説明図。
【図5】本発明の、可変性化合物を含むポリイミド配向膜材料の薄膜を用いた液晶セルのアンカリング力測定系の説明図。
【図6(a)】本発明に関わる液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図。
【図6(b)】液晶表示パネルの1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図。
【図6(c)】液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式平面図。
【図6(d)】図6(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図。
【図7】本発明によるIPS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図。
【図8】本発明によるFFS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図。
【図9】本発明によるVA方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図。
【図10】発明による配向膜形成用溶媒の沸点測定のための重量変化プロファイルの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
最初に、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記高分子を塗膜し、成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物の基本的構造について、図表を用いて説明する。
【0019】
図1の(a)には、本発明の配向膜形成用溶媒に溶解させた高分子として、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液の溶液状態を模式的に示した。本発明の配向膜形成用溶媒には、以下に説明する特異な機能を実現する可変性化合物と、それ以外の溶媒分子とが含まれており、これらによってポリアミド酸は溶液状態に保たれている。
【0020】
図1の(b)には、本発明の配向膜形成溶媒を用いて、ポリイミドの光配向膜を形成する過程のブロック図を示した。最初に、目的のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を本発明の配向膜形成溶媒に溶かして、溶液を調製する。次に配向膜を形成する下地基板の上にスピンコート、フレクソ印刷、インクジェット印刷等の湿式方法により、溶液を塗布する。次に塗布した溶液の膜厚が表面張力や下地の凹凸により著しく平坦性が乱されないように予備乾燥する。このような状態にして、基板温度を高温にして、ポリアミド酸の分子構造を熱変化させてイミド化焼成する。次に、本発明の配向膜形成用溶媒中に含まれる可変性化合物の化学構造を変化させるために、紫外線を照射する。次に、このような変化をさせた後、溶媒を除去する。次に、残されたポリイミド薄膜に光配向用の偏光紫外線を照射して、ポリイミド主鎖中の偏光方向に揃ったシクロブタン骨格を光分解し、ポリイミド鎖を切断する。最後に、紫外線によるポリイミドの光分解物を除去する。このようにして、光配向したポリイミド配向膜を作製することができる。
【0021】
次に、本発明の配向膜形成溶媒を用いることにより、光配向に適した高品質なポリイミド薄膜が得られることを、図2を用いて説明する。
【0022】
図2の(a)には、一例として、シクロブタン誘導体の酸無水物とフェニルジアミンから合成されたポリアミド酸高分子の分子骨格を示した。ポリアミド酸高分子には、アミド結合−NHCO−が高分子主鎖上にあり、この場合は−シクロブタン−CONH−フェニレン−NHCO−シクロブタン−のような繰り返し構造となっている。このアミド結合の部分は、シクロブタン−CO間の炭素−炭素一重結合、アミド結合内部の炭素−窒素一重結合、フェニレン−NH間の炭素−窒素一重結合の周りで、自由に回転することができるため、アミド結合を中心に高分子主鎖のコンフォメーションが変化し、ポリアミド酸高分子全体で見ると、屈曲性の高い高分子となっており、折れ曲がった紐のようなイメージの高分子となっている。
【0023】
図2の(b)には、このシクロブタン誘導体の酸無水物とフェニルジアミンから合成されたポリアミド酸高分子が、完全にイミド化した場合の、ポリイミド高分子の分子骨格を示した。アミド結合がイミド化閉環すると、平面性が高く、剛直なイミド骨格(C−CO−N−CO−Cの五員環)が形成される。このため、自由に回転できる主鎖上の結合は、イミド環の窒素−フェニル環の炭素間のみとなり、ポリイミド主鎖全体は、剛直で直線性の高い高分子となる。
【0024】
図2の(c)には、この完全なポリイミドが偏光した紫外線によって光分解された構造を示した。主鎖上にフェニル環を持つポリイミドでは、この主鎖方向に強い双極子モーメントを有するため、この方向に平行な紫外線を強く吸収し、垂直な方向の紫外線は吸収しない。このフェニル環の吸収は波長220〜240nm付近にピークを持つ強い吸収として現れるが、この波長の光を吸収すると、フェニル環が光励起され、その励起エネルギが隣接するイミド環に移動、活性化し、元々分解しやすい骨格であるシクロブタン骨格を分解する。このため、高分子主鎖のシクロブタン部分で解離していく。偏光した紫外線で分解していくことから、例えば偏光方向に完全なポリイミドが配向している場合には、すべてのシクロブタン骨格が分解していくが、垂直な方向の完全なポリイミドは分解されない。このようにして、垂直な方向のポリイミドが残留することにより、その方向に伸びたポリイミド主鎖からなる配向膜表面が形成される。
【0025】
このように完全なイミド化が進行した場合には、最終的に得られる配向膜表面のポリイミド主鎖もまた特定方向に長く伸びた高分子となっている。しかしながら、実際には以下のような理由で完全なイミド化が実現できないことがわかる。すなわち、図2の(a)のごとく、最初のポリアミド酸は屈曲性高い高分子であり、その中のアミド結合部分は自由に折れ曲がっている。このようなポリアミド酸の溶液を塗布して、予備乾燥し、ある程度の一定膜厚とした状態でも、ポリアミド酸は屈曲性の高い高分子のままであり、無数のポリアミド酸高分子が互いに絡み合った状態で、ある程度固まって膜の形態を保持している。この状態で加熱することによりイミド化焼成すると、イミド化が進行した部分から直線性の高い骨格にコンフォメーションが変化していくが、濃厚に絡み合った屈曲性の高分子が完全に直線性の高分子に変化することは困難である。したがって、イミド化が進行するためには、アミド結合がイミド骨格に閉環、直線化していくための自由空間と、低い粘度が必要であるが、それでも完全なイミド化を行うことは困難である。また、従来のイミド化反応では、N-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP、沸点202℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide, 略称DMF、沸点153℃)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、略称DMSO、沸点189℃)、γ-ブチロラクトン(ガンマブチロラクトン、英: Gamma-Butyrolactone、略称: GBL、沸点204℃)のような高極性溶媒を用いているが、十分なイミド化を加熱によって行うためには200℃以上の加熱が必要であり、イミド化の進行と共に、溶媒そのものも蒸発していくために、ますます高粘度となり、完全なイミド化を阻害する。従って、出来上がったポリイミドは部分的には直線性の高いイミド骨格を持つが、屈曲性の高いアミド結合部分はイミド化できずに残ったような、不完全なポリイミドとなっている。このような不完全なポリイミドに対して偏光紫外線を照射し、光分解を行った場合、その偏光方向に揃ったイミド環部分は光分解できるが、屈曲性が高くアミド結合として残っていた部分はフェニル環からのエネルギ移動が抑制され、光分解されずに残る。従って、1本のポリイミド高分子の中で、部分的に切断された状態となり、残される偏光方向に垂直なポリイミドも、部分的に切断された状態となる。したがって、完全なポリイミドに比べると、表面異方性が小さな配向膜となり、表面異方性に関連の深い液晶配向膜としてのアンカリング特性が悪化する。
【0026】
仮に、イミド化の段階では溶媒として残留可能な、より高沸点の溶媒を用いると、従来の溶媒を用いた場合に比べて、高温でもポリアミド酸主鎖が動き得る自由空間が形成されてイミド化は更に進行するが、通常の高沸点溶媒ではイミド化が終わった段階でも溶媒のまま残留するために、その溶媒を除去する方法がない。そのためには過度に高温化、例えば400℃以上にするとか、極めて高い真空排気(10−3Torr以下)するとかの手段が必要になる。このようなプロセスの採用は、液晶ディスプレイに過剰な設備を必要とすることになり、高コスト化の要因となってしまう。
【0027】
ところが、本発明の配向膜形成溶媒では、イミド化焼成の段階までは高沸点の溶媒であるが、それが完了した後に、配向膜形成溶媒中に含まれる可変性化合物の化学構造を変化させて、揮発性の高い溶媒に変化させてやることで、過度の高温や排気手段を用いることなく、溶媒除去が可能となる。更に、光配向とは異なる波長の光によって可変性化合物の化学構造変化をさせることで、配向規制力に影響を与えることなく、溶媒除去が可能となる。また、光配向に用いる紫外線光源の光を分光して利用すれば、光配向用と可変性化合物の化学構造変化用の2種類の光を同一の光源から得ることができ、新たな光源設備を導入する必要もなく、低コスト化が実現できる。
【0028】
次に、このような可変性化合物の基本構造について説明する。
【0029】
本発明は、液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、前記高分子を塗膜し、成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒にある。また、前記配向膜形成用溶媒において、液晶表示装置用の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする配向膜形成用溶媒にある。
【0030】
このような化学構造を変化させることができる可変性化合物の一例は〔化1〕で示される化学構造であることを特徴とする配向膜形成用溶媒にある。
【0031】
【化1】
【0032】
ここで、R1=芳香族炭素化合物、R2=脂肪族炭素化合物を表す。
【0033】
R1の一例としては、〔化2〕で示されるようなフェニル基、〔化3〕で示されるようなナフチル基があげられる。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
ここで、X1またはX2=置換基。
【0037】
或いはそれ以上の分子量を有する芳香族炭素化合物、例えばアントラセン、テトラセン、ペンタセン、インデン、アズレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン等の縮合ベンゼン環を元とする芳香族炭素化合物、またはビフェニル、ターフェニル、セキシフェニル等の複数のベンゼン環が結合した構造を元とする芳香族炭素化合物、またはフラン、ピロール、ピラゾール、ピラゾリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、ベンジイミダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、クマリン、シノリン、キノザリン、ジベンゾフラン、カルバゾール、アクリジン、フェナントロリン、フェノチアジン、フラボン、等の複素共役系化合物を元とする芳香族炭素化合物、等があげられる。
【0038】
また、R2の一例としては、直鎖状のアルキル鎖として、〔化4〕で示されるようなものがあげられる。
【0039】
【化4】
【0040】
例えば、−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH2CH3等があげられる。また、分岐したアルキル鎖として−CH(CH3)2、−C(CH3)3、−CH2CH(CH3)2、−CH2C(CH3)3、等があげられる。或いは、後に述べるような化学構造に変化を阻害しないような位置に不飽和結合−C=C−、−C≡C−が含まれていてもよく、そのアルキル鎖の途中に、−O−、−S−、−NH−等のヘテロ原子が含まれていてもよい。
【0041】
これらR1について、〔化2〕に対してX1、〔化3〕に対してX2で示すような置換基を適宜導入してもよく、X1またはX2の一例としては、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−SH、−CHO、−COOH、−NH2、−N(CH3)2、−SO2OH等の置換基をあげることができる。また、R1に対しては、脂肪族炭素化合物からなる置換基を導入することも可能であり、逆に、R2に対しては、芳香族炭素化合物からなる置換基を導入することも可能である。これら置換基は、後に述べるような化学構造に変化を阻害しないような位置に適宜導入することが可能である。
【0042】
これらR1の中でも、〔化2〕で示されるようなフェニル基、〔化3〕で示されるようなナフチル基が望ましい。また、これらR2の中でも、Y=−Hの場合はn=1から3が望ましく、Yの中に更にハロゲン元素−F、−Cl、−Br、−Iのいずれかが含まれる場合は、n=1から5が望ましい。
【0043】
また、本発明の配向膜形成用溶媒は、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が、化学構造変化させた後の状態の沸点よりも高い可変性化合物からなることを特徴としている。すなわち、図1の(b)に示すような配向膜形成の過程において、イミド化焼成の段階までは液体状態にあって、ポリアミド酸に対しては溶媒として作用し、加熱によってイミド化が進行しても、溶媒が残留できるためにポリアミド酸に十分な自由体積を与え、通常の方法よりも、高いイミド化率を与えることが可能となる。更に、イミド化と共に高分子主鎖の直線性が増加させることが可能となる。しかしながら、光配向時に溶媒が残留すると、高分子主鎖の熱ゆらぎが容易となって、配向が乱れやすくなるために、表面のオーダパラメータや液晶のアンカリング力、液晶セル状態での輝度緩和定数等の特性が悪化する。このような化学構造変化の前後における沸点の変化としては、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が220°C以上である可変性化合物からなることを特徴とする配向膜形成用溶媒が望ましく、これは加熱によって十分なイミド化が進行するのは200℃以上、特に望ましいのは220℃以上であるためである。これらの物性の変化は、イミド化率、オーダパラメータ、アンカリング力、輝度緩和定数によって特徴づけることができ、その評価方法については、後に説明する方法が一例としてあげられる。
【0044】
また、本発明の配向膜形成用溶媒中の可変性化合物が示すべき化学構造変化の一例には、〔化5〕で示されるようなカルボニル化合物のNorrish分解反応を利用することができる。
【0045】
【化5】
【0046】
このような化合物を用いると、化学構造変化前の状態であるブチロフェノンは融点11〜13℃、沸点が228〜230℃であるため、例えばイミド化焼成温度を220℃で行っても液体として存在するが、光(紫外線で、波長350nm以下)を照射すると、〔化5〕によりアセトフェノンとエチレンに分解する。エチレンの沸点は-104℃であるため、通常は直ちに気化し、アセトフェノンは融点19〜20℃、沸点202℃であるため、同じイミド化焼成温度である220℃においても、更に紫外線を照射することでこの分解反応が進行し、分解物であるアセトフェノンも気化させることが可能である。従来のイミド化反応では、N-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP、沸点202℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide, 略称DMF、沸点153℃)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、略称DMSO、沸点189℃)、γ-ブチロラクトン(ガンマブチロラクトン、英: Gamma-Butyrolactone、略称: GBL、沸点204℃)のような高極性溶媒を用いており、ポリアミド酸の成膜性を保つために、これら従来型の適宜混合溶媒とすることが望ましく、これらの溶媒が気化してしまう高温においても、なお液状成分として残留するために、所望の機能を果たすことができる。すなわち、本発明の配向膜形成用溶媒において、気化させるための化学構造変化する前の状態の分子量は、化学構造変化させた後の状態の分子量よりも高い可変性化合物であることに特徴があり、また、気化させるための化学構造変化する前後で極性が異なる可変性化合物であることに特徴がある。このような化学構造の変化には、カルボニル化合物の脱カルボニル化反応、アゾ化合物の脱窒素反応、ニトロベンジル基を有するシランカップリング反応、ビスフェニルジスルフィド化合物の二光子吸収分解反応等を利用することも可能である。このような光反応を利用する物質を用いる場合には、その最適となる可変性化合物の基本構造も〔化1〕以外のものが選ばれる。いずれの場合も、本発明の配向膜形成用溶媒においては、光を外部から照射することにより化学構造変化する可変性化合物であることを特徴としており、望ましくは波長400nm以下の光を外部から照射することにより化学構造変化する可変性化合物であることが望ましい。
【0047】
また、本発明の配向膜形成用溶媒において、前記可変性化合物を化学構造変化させた後の化合物を除去するための手段としては加熱することにより気化させることが望ましく、特に先にも述べたように、加熱によるイミド化の温度以下の温度で加熱除去できることが望ましく、具体的には、室温以上230℃以下で加熱することにより気化させることが望ましい。また、より効果的に化学構造変化させた後の化合物を除去するために、減圧することにより気化させることも可能であり、特に1mmTorr以下に減圧することにより気化させることが望ましい。或いは、効果的に化学構造変化後の化合物を除去するために、適当な温度の気流を膜表面に流すことも有効である。或いは、全く別の溶媒で化学構造変化させた後の化合物を除去することも可能であるが、別の溶媒を必要とする点ではコスト面で有利とは言いがたい。
【0048】
また、前記配向膜形成用溶媒において、前記配向膜形成用溶媒を気化させた後に、液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒である。特に、その配向規制力を付与する方法として、偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となることが望ましい。更に、前記配向膜形成用溶媒において、可変性化合物の化学構造を変化させる光とは異なる波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒となることが望ましく、また、可変性化合物の化学構造を変化させる光の波長よりも短い波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることが望ましい。このように選択的に照射する光を選ぶことで、同じ基板加熱温度で、光の切り替えだけで成膜プロセスを制御することが可能となる。
【0049】
また、本発明の配向膜形成用溶媒において、偏光した光によって主鎖の一部が切断されることにより、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることが望ましい。このような材料を選ぶことで、液晶配向膜として実績のあるポリイミドを用いることが可能である。
【0050】
また、本発明の配向膜形成用溶媒において、前記可変性化合物の化学構造を変化させた構造の一部が、配向膜形成用溶媒を気化させる際に、配向膜中に残留することが可能な化学構造であることが最終的な配向膜の高機能化にとっては望ましい場合がある。例えば、配向膜中に残留することが可能な化学構造として、可視光に対しては透明であるが、紫外光に対して吸収を有する化学構造を用いると、配向膜自身に紫外線フィルタの機能を付与することが可能となる。
【0051】
また、本発明の配向膜形成用溶媒においては、これまでに述べたように配向膜形成用溶媒を気化させた後に、液晶の配向規制力が膜面内に液晶を配向させる規制力を付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることが望ましい。或いは、その配向規制力が膜面内に30度以上立った方向に液晶を配向させる規制力を付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒であることが望ましい。これら配向規制力の方向は、後に述べるような液晶ディスプレイの各種表示方式にとって望ましい方向となるように設定されるが、その配向方向を更に高めるために、或いはプレチルト角を誘起するために意図的に前記可変性化合物の化学構造を変化させた構造の一部を配向膜中に残留させることも可能である。また、本発明の配向膜形成用溶媒を用いて液晶表示装置を製造することにより、従来方法以上の高アンカリング、高コントラスト、低残像な液晶表示装置を提供することが可能となる。
【0052】
本発明の配向膜形成用溶媒により高品質化された配向膜の性質は、その膜のイミド化率、オーダパラメータ、アンカリング力、輝度緩和定数によって特徴づけることができる。
【0053】
まず、その配向膜のイミド化率は、図2の(a)と(b)を比べると明らかなように、アミド結合付近の1H−NMRを使用して測定した。すなわち、固体NMRを用い、ポリアミド酸付近のカルボン酸のプロトン由来のピーク積分値またはアミド結合部分のプロトン由来のピーク積分値を求め、全くイミド化していない初期の膜の値をイミド化率0%、このピーク強度が0となる場合をイミド化率100%として、その閉環率を算出した。
【0054】
また、その配向膜のオーダパラメータは、以下の方法で測定した。
一つの方法は配向膜の膜面内の吸収異方性を測定する方法である。図3の(a)には、光配向処理によって膜面内に異方性を誘起された配向膜のモデル図を示した。偏光した紫外線によってポリイミド鎖が切断される場合、その高分子のフェニル環の主鎖方向に遷移モーメントを有するため、その方向の光が強く吸収され、その方向の高分子主鎖のシクロブタン環が開環し、主鎖が切断される(図2の(c)参照)。これに対して、偏光した紫外線に垂直な方向の主鎖は切断されないため、高分子のまま残留する。この結果、光配向処理を終えた配向膜は、この偏光した紫外線照射方向に垂直な方向に高分子主鎖が残り(この方向をL−L’とする)、平行な方向の高分子主鎖が切断され(この方向をV−V’とする)、これらは膜の中心点Oの回りで90度の関係にある。光配向処理を終えた配向膜に対して、偏光光源を用いた分光光度測定を行った一例を図3の(b)に示した。偏光光源の偏光方向と高分子主鎖が残った方向(L−L’)が平行な場合(図中「平行」と記載)と、薄膜を中心点Oの回りで90度回転させて偏光光源の偏光方向と高分子主鎖が残った方向(L−L’)が垂直な場合(図中「垂直」と記載)の吸光度の波長依存性を示している。この波長233 nmをピークとする吸収が見られるが、その強度は「平行」の場合が「垂直」の場合よりも強い。このピーク波長における吸光度をそれぞれ、I平行、I垂直とすると、膜の光吸収によるオーダパラメータS膜は次式で与えられる。
【0055】
【数1】
【0056】
このように、膜単独での吸収スペクトルが測定可能な時は、その吸光度の異方性からオーダパラメータを求めることができる。
【0057】
もう一つのオーダパラメータを測定する方法は、膜の光電子放出の異方性を利用するものである。前段で述べた方法は膜の吸収に依存する方法であり、特に紫外線領域の光吸収であるため、配向膜を担持する基板は紫外線を透過可能な材質、例えば合成石英でなければならない。また、実際の液晶パネルでは配向膜と基板の間に、TFT回路や層間絶縁膜、配線等の各種部材が高密度に実装されている。このため、配向膜単独での吸収スペクトルを測定することが困難である。そこで、この高分子主鎖方向のフェニル環の異方的吸収によって、その方向に励起状態を生成し、そこに第2の光を照射することで更に高エネルギ状態に遷移させて、光電子放出させることで、配向膜表面のオーダパラメータを評価した。図4の(a)に示すように、具体的には、低エネルギ電子分光装置(理研計器製AC−2)を用い、光源には分光光源(重水素ランプを回折格子で分光、波長364〜200 nm、光量を50 nW、励起エネルギの低い方から高い方へスキャン)と定常光源(He-Neレーザ、波長632.8 nm、光量2 mW)を用い、両者をコリメートして同一光路とし、偏光子を用いて、一方向に偏光した光としたものを励起光源(2)、配向膜(1)の表面に向けて照射された光を励起光(3)とした。ここでは、励起光(3)の偏光方向をP−P’とし、P−P’が膜面と平行となり、かつ(特には図示していないが)分光光源と定常光源の強度がその偏光方向で最大となるように分光光源、定常光源の光学的配置を最適化した。このようにして励起光(3)を配向膜(1)に照射すると、分光光源の波長がある波長よりも短い光から光電子(4)が放出され始め、その光電子を配向膜直上に設けた光電子検出器(5)によって単位時間当たりの光電子数を計数したものを光電子検出量とした。図4の(b)には、得られる光電子検出量の平方根と分光光源の励起エネルギ(=1240/分光光源の波長[nm]、単位eV)の概略を示した。例えば、図3の(b)に例示したようなポリイミドからなる配向膜では、定常光がない場合は波長215 nmよりも分光光源の波長が短くなると光電子が検出され始める(S0の位置)が、定常光を用いるとそれよりも長波長の波長310 nm付近から光電子が検出されはじめる(S1の位置)。これは励起光源単独では通常の光吸収は起こるが、膜から光電子を放出させるエネルギが不足しているが、定常光源を付加することで光吸収により励起された電子が更に高エネルギまで励起されて、光電子放出にいたるためと考えられる。オーダパラメータ評価のためには、励起光源の波長を、吸収スペクトルの異方性が最大となる波長、例えば図3の(b)に示した材料の場合はそのピーク波長である232 nmに固定し、定常光のある状態で、励起光の偏光方向P−P’と配向膜の光配向方向L−L’を平行にした時の光電子検出量の平方根J平行と、励起光の偏光方向P−P’と配向膜の光配向方向に垂直な方向V−V’を平行にした時の光電子検出量の平方根J垂直を測定し、次式によって配向膜のオーダパラメータS表面を決定した。
【0058】
【数2】
【0059】
このような光電子放出の脱出深さは数nm程度とされるので、膜表面だけの高分子主鎖の異方性が検知でき、下地の影響を受けない。また、製品として液晶が封入された場合でも、その液晶パネルを解体し、配向膜表面に付着した液晶をヘキサン等配向膜を侵さない溶媒で洗浄してから測定することで、そのオーダパラメータを評価することが可能である。
【0060】
次に、アンカリング力は次の方法で測定した。すなわち、2枚一組のガラス基板に配向膜を塗布して光配向処理を行い、その2枚の配向膜の配向方向が平行となるようにして、適当な厚みdのスペーサを介在させて、評価用ホモジニアス配向液晶セルを作製する。これに材料物性が既知のカイラル剤入りネマチック液晶材料(らせんピッチp、弾性定数K2)を封入し、配向を安定化させるために一度液晶等方相に評価用セルを保持した後、室温に戻し、以下の方法でツイスト角φ2を測定する。次に、空気の圧力または遠心力でセル内の大部分の液晶を除去し、セル内を溶媒洗浄、乾燥させてから、同じ液晶でカイラル剤のないものを封入し、同様に配向を安定化させてから、ツイスト角φ1を測定する。この時、アンカリング強度は次式によって与えられる。
【0061】
【数3】
【0062】
また、ツイスト角は、図5に示すような光学系を用いて測定した。すなわち、可視光源(6)とフォトマル(10)を同一直線上にコリメートし、その間に偏光子(7)、評価用セル(8)、検光子(9)の順に配置する。可視光源(6)にはタングステンランプを用い、まず偏光子(7)の透過軸と検光子(9)の吸収軸を評価用セル(8)の配向膜の配向方向(L−L’)とほぼ平行に合わせる。次に、偏光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。次に、検光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。以下、同様に偏光子のみの回転、検光子のみの回転を繰り返し、角度が一定になるまで繰り返す。最終的に収束した時点での偏光子の透過軸回転角度φ偏光子と、検光子の吸収軸回転角度φ検光子に対して、ツイスト角φ=φ検光子−φ偏光子と定義する。ここで、測定の読み取り誤差は用いる液晶の屈折率異方性Δnと液晶セルの厚みdとを調節することで低減できる。
【0063】
次に、輝度緩和定数は以下の方法で決定した。後に詳細に述べるような手順によって、配向膜を含む各種液晶表示素子を作製する。この液晶表示装置に、白黒のウィンドウパターンを所定時間連続表示後(これを焼付け時間と称する)、直ちに全画面中間調のグレーレベルの表示電圧に切り替え、ウィンドウパターン(焼き付き、残像ともいう)が消失する時間を計測する。理想的は配向膜においては、液晶表示装置のいずれの部分にも残留電荷が発生せず、配向規制力方向も乱されることがないため、表示電圧の切り替えと共に、直ちに全画面グレーレベルの表示になるが、駆動の伴う残留電荷の発生や配向規制力方向の乱れ等によって、明領域(白パターンの部分)は実効的な配向状態が理想的なレベルからずれるために、輝度が異なって見えてしまうが、この中間調表示の電圧で更に長時間保持すると、この電圧での残留電荷や配向規制力方向にやがて落ち着くことになり、均一表示に見えてくる。液晶表示素子の面内輝度分布をCCDカメラによって測定し、均一表示になるまでの時間を焼き付き時間とし、この焼き付き時間をもって、その液晶表示素子の輝度緩和定数とした。
【0064】
次に、本発明の配向膜形成用溶媒により高品質化された配向膜を作製された液晶表示装置について、説明する。
【0065】
図6(a)から図6(d)は、本発明に関わる液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図6(a)は、本発明に関わる液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。図6(b)は、液晶表示パネルの1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。図6(c)は、液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式平面図である。図6(d)は、図6(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0066】
本発明の配向膜形成用溶媒により高品質化された配向膜は、たとえば、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置に適用される。アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、携帯型電子機器向けのディスプレイ(モニター)、パーソナルコンピュータ用のディスプレイ、印刷やデザイン向けのディスプレイ、医療用機器のディスプレイ、液晶テレビなどに用いられている。
【0067】
アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、図6(a)に示すように、液晶表示パネル(101)、第1の駆動回路(102)、第2の駆動回路(103)、制御回路(104)、およびバックライト(105)を有する。
【0068】
液晶表示パネル(101)は、複数本の走査信号線GL(ゲート線)および複数本の映像信号線DL(ドレイン線)を有し、映像信号線DLは第1の駆動回路(102)に接続しており、走査信号線GLは第2の駆動回路(103)に接続している。なお、図6(a)には、複数本の走査信号線GLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル(101)には、さらに多数本の走査信号線GLが密に配置されている。同様に、図6(a)には、複数本の映像信号線DLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル(101)には、さらに多数本の映像信号線DLが密に配置されている。
【0069】
また、液晶表示パネル(101)の表示領域DAは、多数の画素の集合で構成されており、表示領域DAにおいて1つの画素が占有する領域は、たとえば、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLとで囲まれる領域に相当する。このとき、1つの画素の回路構成は、たとえば、図6(b)に示すような構成になっており、アクティブ素子として機能するTFT素子Tr、画素電極PX、共通電極CT(対向電極と呼ぶこともある)、液晶層LCを有する。またこのとき、液晶表示パネル1には、たとえば、複数の画素の共通電極CTを共通化する共通化配線CLが設けられている。
【0070】
また、液晶表示パネル(101)は、たとえば、図6(c)および図6(d)に示すように、アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)の表面に配向膜(606)および(705)を形成し、それら配向膜の間に液晶層LC(液晶材料)を配置した構造になっている。また、ここでは特に図示していないが、配向膜(606)とアクティブマトリクス基板(106)の間、または配向膜(705)と対向基板(107)の間に、適宜中間層(例えば位相差板や色変換層、光拡散層等の光学的中間層)を設けてもよい。このとき、アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)とは、表示領域DAの外側に設けられた環状のシール材(108)で接着されており、液晶層LCは、アクティブマトリクス基板(106)側の配向膜(606)、対向基板(107)側の配向膜(705)、およびシール材(108)で囲まれた空間に密封されている。またこのとき、バックライト(105)を有する液晶表示装置の液晶表示パネル(101)は、アクティブマトリクス基板(106)、液晶層LC、および対向基板(107)を挟んで対向配置させた一対の偏光板(109a),(109b)を有する。
【0071】
なお、アクティブマトリクス基板(106)は、ガラス基板などの絶縁基板の上に走査信号線GL、映像信号線DL、アクティブ素子(TFT素子Tr)、画素電極PXなどが配置された基板である。また、液晶表示パネル(101)の駆動方式がIPS方式などの横電界駆動方式である場合、共通電極CTおよび共通化配線CLはアクティブマトリクス基板(106)に配置されている。また、液晶表示パネル(101)の駆動方式がTN方式やVA(Vertically Alignment)方式などの縦電界駆動方式である場合、共通電極CTは対向基板(107)に配置されている。縦電界駆動方式の液晶表示パネル(101)の場合、共通電極CTは、通常、すべての画素で共有される大面積の一枚の平板電極であり、共通化配線CLは設けられていない。
【0072】
また、本発明に関わる液晶表示装置では、液晶層LCが密封された空間に、たとえば、それぞれの画素における液晶層LCの厚さ(セルギャップということもある)の均一化するための柱状スペーサ(110)が複数設けられている。この複数の柱状スペーサ(110)は、たとえば、対向基板(107)に設けられている。
【0073】
第1の駆動回路(102)は、映像信号線DLを介してそれぞれの画素の画素電極PXに加える映像信号(階調電圧ということもある)を生成する駆動回路であり、一般に、ソースドライバ、データドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、第2の駆動回路(103)は、走査信号線GLに加える走査信号を生成する駆動回路であり、一般に、ゲートドライバ、走査ドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、制御回路(104)は、第1の駆動回路(102)の動作の制御、第2の駆動回路(103)の動作の制御、およびバックライト(105)の輝度の制御などを行う回路であり、一般に、TFTコントローラ、タイミングコントローラなどと呼ばれている制御回路である。また、バックライト(105)は、たとえば、冷陰極蛍光灯などの蛍光灯、または発光ダイオード(LED)などの光源であり、当該バックライト(105)が発した光は、図示していない反射板、導光板、光拡散板、プリズムシートなどにより面状光線に変換されて液晶表示パネル(101)に照射される。
【0074】
図7は、本発明によるIPS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板(106)は、ガラス基板(601)などの絶縁基板の表面に、走査信号線GLおよび共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層(602)が形成されている。第1の絶縁層(602)の上には、TFT素子Trの半導体層(603)、映像信号線DL、および画素電極PXと、それらを覆う第2の絶縁層(604)が形成されている。半導体層(603)は、走査信号線GLの上に配置されており、走査信号線GLのうちの半導体層(603)の下部に位置する部分がTFT素子Trのゲート電極として機能する。また、半導体層(603)は、たとえば、第1のアモルファスシリコンからなる能動層(チャネル形成層)の上に、第1のアモルファスシリコンとは不純物の種類や濃度が異なる第2のアモルファスシリコンからなるソース拡散層およびドレイン拡散層が積層された構成になっている。またこのとき、映像信号線DLの一部分および画素電極PXの一部分は、それぞれ、半導体層(603)に乗り上げており、当該半導体層(603)に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。ところで、TFT素子Trのソースとドレインは、バイアスの関係、すなわちTFT素子Trがオンになったときの画素電極PXの電位と映像信号線DLの電位との高低の関係によって入れ替わる。しかしながら、本明細書における以下の説明では、映像信号線DLに接続している電極をドレイン電極といい、画素電極に接続している電極をソース電極という。第2の絶縁層(604)の上には、表面が平坦化された第3の絶縁層(605)(オーバーコート層)が形成されている。第3の絶縁層(605)の上には、共通電極CTと、共通電極CTおよび第3の絶縁層(605)を覆う配向膜(606)が形成されている。共通電極CTは、第1の絶縁層(602)、第2の絶縁層(604)、および第3の絶縁層(605)を貫通するコンタクトホールCH(スルーホール)を介して共通化配線CLと接続している。また、共通電極CTは、たとえば、平面における画素電極PXとの間隙Pgが7μm程度になるように形成されている。配向膜(606)は以下の実施例に記載された高分子材料が塗布され、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(ラビング処理等)が施されている。一方、対向基板(107)は、ガラス基板(701)などの絶縁基板の表面に、ブラックマトリクス(702)およびカラーフィルタ(703R,703G,703B)と、それらを覆うオーバーコート層(704)が形成されている。ブラックマトリクス(702)は、たとえば、表示領域DAに画素単位の開口領域を設けるための格子状の遮光膜である。また、カラーフィルタ(703R,703G,703B)は、たとえば、バックライト(105)からの白色光のうちの特定の波長領域(色)の光のみを透過する膜であり、液晶表示装置がRGB方式のカラー表示に対応している場合は、赤色の光を透過するカラーフィルタ(703R)、緑色の光を透過するカラーフィルタ(703G)、および青色の光を透過するカラーフィルタ(703B)が配置される(ここでは一つの色の画素について代表して示している)。また、オーバーコート層(704)は、表面が平坦化されている。オーバーコート層(704)の上には、複数の柱状スペーサ(110)および配向膜(705)が形成されている。柱状スペーサ(110)は、たとえば、頂上部が平坦な円錐台形(台形回転体ということもある)であり、アクティブマトリクス基板(106)の走査信号線GLのうちの、TFT素子Trが配置されている部分および映像信号線DLと交差している部分を除く部分と重なる位置に形成されている。また、配向膜(705)は、たとえば、ポリイミド系樹脂で形成されており、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(ラビング処理等)が施されている。
【0075】
また、図7の方式の液晶表示パネル(101)における液晶層LCの液晶分子(111)は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、ガラス基板(601),(701)の表面にほぼ平行に配向された状態であり、配向膜(606),(705)に施されたラビング処理で規定された初期配向方向に向いた状態でホモジニアス配向している。そして、TFT素子Trをオンにして映像信号線DLに加えられている階調電圧を画素電極PXに書き込み、画素電極PXと共通電極CTとの間の電位差が生じると、図中に示したような電界(112)(電気力線)が発生し、画素電極PXと共通電極CTとの電位差に応じた強度の電界(112)が液晶分子(111)に印加される。このとき、液晶層LCが持つ誘電異方性と電界(112)との相互作用により、液晶層LCを構成する液晶分子(111)は電界(112)の方向にその向きを変えるので、液晶層LCの屈折異方性が変化する。またこのとき、液晶分子(111)の向きは、印加する電界(112)の強度(画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさ)によって決まる。したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える階調電圧を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行うことができる。
【0076】
図8は、本発明によるFFS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板(106)は、ガラス基板(601)などの絶縁基板の表面に、共通電極CT、走査信号線GL、および共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層(602)が形成されている。第1の絶縁層(602)の上には、TFT素子Trの半導体層(603)、映像信号線DL、およびソース電極(607)と、それらを覆う第2の絶縁層(604)が形成されている。このとき、映像信号線DLの一部分およびソース電極(607)の一部分は、それぞれ、半導体層(603)に乗り上げており、(ここでは奥行き方向に隠れて図示されないが)当該半導体層(603)に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。また、図8の液晶表示パネル(101)では、第3の絶縁層(605)が形成されておらず、第2の絶縁層(604)の上に画素電極PXと、画素電極PXを覆う配向膜(606)が形成されている。画素電極PXは、第2の絶縁層(604)を貫通するコンタクトホールCH(スルーホール)を介してソース電極(607)と接続している。このとき、ガラス基板(601)の表面に形成された共通電極CTは、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLで囲まれた領域(開口領域)に平板状に形成されており、当該平板状の共通電極CTの上に、複数のスリットを有する画素電極PXが積層されている。またこのとき、走査信号線GLの延在方向に並んだ画素の共通電極CTは、共通化配線CLによって共通化されている。一方、図8の液晶表示パネル(101)における対向基板(107)は、図7の液晶表示パネル(101)の対向基板(107)と同じ構成である。そのため、対向基板(107)の構成に関する詳細な説明は省略する。
【0077】
図9は、本発明によるVA方式液晶表示パネルの主要部の断面構成の一例を示す模式断面図である。縦電界駆動方式の液晶表示パネル(101)は、たとえば、図9に示すように、アクティブマトリクス基板(106)に画素電極PXが形成されており、対向基板(107)に共通電極CTが形成されている。縦電界駆動方式の1つであるVA方式の液晶表示パネル(101)の場合、画素電極PXおよび共通電極CTは、たとえば、ITOなどの透明導電体によりベタ形状(単純な平板形状)に形成されている。このとき、液晶分子(110)は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、配向膜(606),(705)によりガラス基板(601),(701)の表面に対して垂直に並べられている。そして、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差が生じると、ガラス基板(601),(701)に対してほぼ垂直な電界(112)(電気力線)が発生し、液晶分子(111)が基板(601),(701)に対して平行な方向に倒れ、入射光の偏光状態が変化する。またこのとき、液晶分子(111)の向きは、印加する電界(112)の強度によって決まる。したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える映像信号(階調電圧)を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行う。また、VA方式の液晶表示パネル(101)における画素の構成、たとえば、TFT素子Trや画素電極PXの平面形状は、種々の構成が知られており、図9の方式での液晶表示パネル(101)における画素の構成は、それらの構成のいずれかであればよい。ここでは、その液晶表示パネル(101)における画素の構成に関する詳細な説明を省略する。
【0078】
本発明は、上記のようなアクティブマトリクス方式の液晶表示装置のうち、液晶表示パネル(101)、特に、アクティブマトリクス基板(106)および対向基板(107)において液晶層LCに接する部分およびその周辺の構成に関する。そのため、本発明には直接関係しない第1の駆動回路(102)、第2の駆動回路(103)、制御回路(104)、およびバックライト(105)の構成についての詳細な説明は省略する。
【0079】
これら液晶表示装置を製造するためには、既に液晶表示装置に用いられている各種配向膜材料や配向処理方法、各種液晶材料等を用いることが可能であり、それらを液晶表示装置に組立加工する際の各種プロセスを適用することも可能である。
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0081】
最初に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒として、前記高分子を塗膜し、成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物に〔化6〕の化学構造有する物質ブチロフェノンを含む配向膜形成用溶媒を用いることにより、イミド化率が向上した例について説明する。
【0082】
【化6】
【0083】
用いる配向膜用高分子としては、イミド化によって最終的に〔化7〕に示すようなポリイミドとなるようなポリアミド酸を原料に用いた。
【0084】
【化7】
【0085】
まず、20 wt%ポリアミド酸をN-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP、沸点202℃)に溶解させた溶液に、更に10wt%γ-ブチロラクトン(ガンマブチロラクトン、英: Gamma-Butyrolactone、略称: GBL、沸点204℃)を添加したものをポリアミド酸の原液とした。この原液を用いると、スピンコート法や印刷法で均一な薄膜を形成することが可能である。この原液に対して、0〜90wt%の割合で、〔化6〕の可変性化合物を添加したものを混合液とした(この化合物は融点11℃、沸点230℃であり、イミド化までの成膜過程の途中で固体として析出する危険性がなく、均一な薄膜を得るのに適している。)。但し、一連の成膜プロセスでは可変性化合物が外光の紫外線により反応することを防止するために、イエローランプ下で作業を行った。事前の膜厚分布等の検討で、この割合で可変性化合物を添加しても、均一な薄膜が得られることは別途確認した。これら原液及び混合液をガラス基板上に膜厚100 nmスピンコート法で塗布し、80℃で10分間仮乾燥した後、180℃から250℃の範囲で温度を変えて、10分間イミド化した。得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を表1にまとめた。まず、比較例となるべき添加量0 wt%について、イミド化温度とイミド化率の関係を見ると、温度180℃では9.5%とほとんどイミド化が進行しないが、200℃以上から急速にイミド化が進行し、250℃でイミド化率は56.7%となった。ちなみに、表中には示していないが、350℃でイミド化した時のイミド化率は57.1%であり、250℃でほとんど上限に達していることがわかった。これに対して、混合物のイミド化率を見ると、いずれの温度でも添加量が増加するにつれてイミド化率が向上している。但し、イミド化温度が180℃では高々10%台であり、添加剤濃度が高いとしても、十分なイミド化は得られない。一方、50%以上のイミド化が達成できる温度を見ると、添加剤0wt%では230℃以上のイミド化温度が必要であるが、添加剤を加えると、220℃以上で十分となり、特に40wt%以上の添加では210℃でもよいことがわかる。このように可変性化合物の添加量が多い程有効であることがわかるが、添加量100%、すなわちこの可変性化合物そのものに原料のポリアミド酸が溶解しないかを検討したが、本実施例の高分子の場合、溶解させることはできなかった。しかしながら、このことは別の高分子に対しては溶解しえないことを意味するものではない。
【0086】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒を用いることにより、イミド化率が向上することが確認された。
【0087】
【表1】
【実施例2】
【0088】
次に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒の溶媒としての沸点が、外部から紫外線を照射する前後で変化するかどうかを検討した。溶媒の沸点測定には熱重量測定装置を用いた(特にことわっていないが、これらの測定もまたイエロールーム下で行った)。図10には代表的な熱重量測定時の重量変化のグラフを示す。一定量の溶媒を入れ、1分間に1℃ずつ温度上昇させた時に重量が初期に比べて95%減少した温度を光照射前の沸点とした。紫外線を溶媒に照射するには、熱重量測定容器に所定の量試料溶媒を入れ、チラーで10℃に保持した状態で、紫外線ランプ(高圧水銀灯)と干渉フィルタを組み合わせた波長330nmの紫外線を集光照射(集光部の全光量5mJ/cm2)した。そのまま、熱重量測定装置にセットして、同様の手順で光照射後の沸点を測定した。その結果を表2に示す。これを見ると、比較例となる添加量0wt%の溶媒は紫外線を照射しても沸点198℃と変化しないが、添加量が増加するにつれて光照射前の沸点は上昇する。ところが、光照射後の沸点はいずれも光照射前よりも低下している。この中で、実施例1で示したように40wt%以上の添加では210℃でも50%以上のイミド化が達成できたが、その場合の光照射前の溶媒の沸点は220℃以上となっていた。
【0089】
【表2】
【0090】
別途、薄膜の試験片を用意し、外部から紫外線を照射可能な特別な捕集管に挿入したものを、ガスクロマトグラム−質量分析装置に取り付け、試料を温度を少しずつ上昇させて、発生するガス成分の分子量を追跡した。その結果、加熱温度190℃付近から、薄膜形成に用いた通常の溶媒(N-メチル-2-ピロリドン=99.12、γ-ブチロラクトン=86.09)に対応した成分が検知されたが、紫外線を照射しない場合は228℃からこれらとは別の分子量成分が発生し、配向膜形成用溶媒の分子量成分(148.20)に対応したものであることがわかった。次に、別の薄膜試料を用意し、加熱しながら、途中から紫外線を照射すると、室温以上の紫外線照射直後から全く新しい分子量成分し、エチレン(28.05)に対応したものであることがわかった。より高温にすると、同様に190℃付近から通常の溶媒成分が検知されたが、この中により分子量の大きな成分も含まれ、アセトフェノン(120.15)に対応したものであることがわかった。更に高温まで加熱しても、今度は分子量成分(148.20)は見出されなかった。このことから、紫外線照射によって、配向膜形成用溶媒がより小さな分子量のフラグメントに分解したことが確認された。
【0091】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、化学構造変化する前の沸点が化学構造変化させた後の沸点よりも高く、特に沸点が220℃以上の場合にはイミド化率が向上することが確認された。
【実施例3】
【0092】
次に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒の溶媒を用いて、配向膜を形成した際の配向特性について説明する。
【0093】
基板には合成石英基板を用い、実施例1に示した通りの手順で、表1に示した組成にて、配向膜原料の原液及び混合液の塗布、仮乾燥、イミド化焼成を行った(特にことわっていないが、これらもまたイエロールーム下で行った)。すなわち、これら原液及び混合液をガラス基板上に膜厚100 nmスピンコート法で塗布し、80℃で10分間仮乾燥した後、210、230、250℃の範囲で温度を変えて、10分間イミド化した。これらイミド化した薄膜に対して、実施例2に示したような紫外線ランプ(波長330 nm)で紫外線を基板温度230℃にて膜全体に均一に照射(全光量5mJ/cm2)した。ここで、比較のために可変性化合物の添加量0 wt%のものについては全くこの紫外線を照射しないものも用意した。特にこの状態で薄膜の吸収スペクトルを評価すると、波長300nm以下で光吸収があり、262nmにピークが見られた。次に、別の紫外線ランプ(低圧水銀灯)とワイアグリッド偏光子、干渉フィルタにて、偏光化した紫外線(主波長280nm、偏光度80:1)を、基板温度を室温に戻して、膜全体に均一に照射(全光量5mJ/cm2)した。(ここまで処理を終えた膜を「光配向のための偏光紫外線照射が完了した膜」とする)しかる後、基板を230℃に大気中で20分間加熱した。
【0094】
光配向の処理が完了した膜に関して、その前後での分子組成の変化を確認するため、液体クロマトグラフィ−質量分析によって、膜中の分子フラグメントの分子量を調べたところ、〔化7〕の高分子鎖中のシクロブタン環が開裂したビスマレイミド誘導体(2,2’-dimethyl-1,1’-(4,4’-phenylene)bismaleimide、分子量296)やその二量体由来と思われる成分(分子量593,625,657)等が検知された。これらの分子量に着目して、紫外線照射前、紫外線照射直後、紫外線照射後に加熱時間を変化させた場合等の試料を再度用意し、各試料中のこれらのフラグメント成分の量を追跡したところ、紫外線照射前の試料からは全く検知されず、紫外線照射直後に最大量のフラグメント成分が検知され、加熱時間の増加と共に、これらの成分が減少した。
【0095】
【表3】
【0096】
このようにして得られた配向膜の膜オーダパラメータと表面オーダパラメータを測定した。その結果を表3にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、高い膜オーダパラメータ、表面オーダパラメータが与えられる傾向にあり、同じ条件で見ると、膜オーダパラメータよりも表面オーダパラメータの方が高い値を示す。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、オーダパラメータはほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線に対してはここで用いたポリイミドは反応しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合のオーダパラメータを見ると、添加量の増加と共にオーダパラメータは増加しており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、得られる配向膜のオーダパラメータが増加することがわかる。特に、可変性化合物を添加しない場合、オーダパラメータが0.5以上となるためには、250℃での加熱が必要であるが、本発明の溶媒を用いると、添加量20 wt%以上ならば230℃、添加量50 wt%以上ならば210℃でもオーダパラメータが0.5以上となり、加熱プロセス温度の低減に有効であることがわかる。(念のため、偏光していない同じ波長の紫外線も照射してみたが、この場合はオーダパラメータは0となり、全く配向していないことを確認した。)
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜の品質が向上することが確認された。
【実施例4】
【0097】
次に、本発明の液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒の溶媒を用いて、配向膜を形成した際のアンカリング特性について説明する。
【0098】
基板にはガラス基板を用い、実施例3に示した通りの手順で、表1に示した組成にて配向膜を形成し、同様の手順にて光配向のための偏光紫外線照射が完了した膜を得、同様の手順にて、基板を230℃に大気中で20分間加熱した。これを2枚一組として、その配向処理方向を平行にしてアンカリング特性評価用の液晶セルを作製した。
【0099】
【表4】
【0100】
このようにして得られた液晶セルのアンカリングを測定した。その結果を表4にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、高いアンカリング強度が与えられる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、アンカリング強度はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線に対してはここで用いたポリイミドは反応しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合のアンカリング強度を見ると、添加量の増加と共にアンカリング強度は増加しており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、得られる配向膜のアンカリング強度が増加することがわかる。特に、可変性化合物を添加しない場合、アンカリング強度が3 mJ/m2以上となるためには、230℃以上での加熱が必要であるが、本発明の溶媒を用いると、添加量50 wt%以上ならば210℃でもアンカリング強度が3 mJ/m2以上となり、加熱プロセス温度の低減に有効であることがわかる。
【0101】
また、これらの液晶セルを用いて、その内部の液晶のプレチルト角を測定したところ、いずれも0度であり、膜面内に液晶を配向させる規制力を付与された状態にあることが確認された。
【0102】
次に、光配向のための偏光紫外線照射の角度を変化させた場合に、それら配向膜から得られる液晶セルについて、その内部の液晶のプレチルト角を測定した。具体的には、通常は基板面に対して垂直に紫外線を照射する(偏光軸は膜面内にある)が、ここでは紫外線照射時に基板を傾けて照射した。このようにして得られた配向膜からなる液晶セルのプレチルト角は基板の傾き角とほぼ同じ角度であり、膜面に対して立った方向に液晶を配向させる規制力を付与された配向膜であることがわかった。特に、プレチルト角を30度以上にした場合は、実質的に初期は垂直配向状態に近いため、この液晶セルの上下から、互いに直交した偏光軸を持つ偏光板で挟んだ場合には特に偏光板の偏光軸方向を著しく意識することなく暗視野状態を形成することができる。
【0103】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜を液晶セルに組み立てた際の品質が向上することが確認された。
【実施例5】
【0104】
次に、実施例4で示した配向膜を用いて、図7に示したIPS方式の液晶表示素子を作製し、その透過率を評価した結果を示す。
【0105】
液晶パネル作製は、通常の製造プロセスにおいて、配向膜材料を本発明の配向膜形成用溶媒を採用する以外は同一のプロセスにて製造する。例えば、IPS方式の液晶表示装置の代表的な製造方法の場合、事前に配向処理まで終えたアクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)とを張り合わせて液晶材料を封入してセル組みするが、この時、アクティブマトリクス基板(106)の配向膜(606)の初期配向方向と、対向基板(107)の配向膜(705)の初期配向方向とは、互いにほぼ並行になるようにしておく。また、封入する液晶材料は、たとえば、誘電異方性Δεが正で、その値が10.2(1kHz、20℃)であり、屈折率異方性Δnが0.075(波長590 nm、20℃)、ねじれ弾性定数K2が7.0pN、ネマティック−等方相転移温度T(N−I)が約76℃、比抵抗が1×10+13Ωcmのネマティック液晶組成物Aを用いる。またこのとき、アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)は、液晶層LCの厚み(セルギャップ)が柱状スペーサ(110)の高さとほぼ同じ値、たとえば、4.2μmになるように張り合わせる。このような条件で製造された液晶表示パネル(101)のリタデーション(Δn・d)は、約0.31 μmである。リタデーションΔn・dは、0.2 μm≦Δn・d≦0.5 μmの範囲が望ましく、この範囲を超えると白表示が色づいてしまうなどの問題がある。アクティブマトリクス基板(106)と対向基板(107)とを張り合わせて液晶材料を封入したら、たとえば、ガラス基板(601),(701)の外周の不要な部分(余白部分)を切断除去し、偏光板(109a),(109b)を張り合わせる。偏光板(109a),(109b)を張り合わせるときには、一方の偏光板の偏光透過軸をアクティブマトリクス基板(106)の配向膜(606)および対向基板(107)の配向膜(705)の初期配向方向とほぼ平行とし、他方の偏光板の偏光透過軸をそれに直交するようにする。その後、第1の駆動回路(102)、第2の駆動回路(103)、制御回路(104)、バックライト(105)などを接続してモジュール化すると、実施例5の液晶表示パネル(101)を有する液晶表示装置が得られる。なお、実施例5の液晶表示パネル(101)は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が小さい場合は暗表示(低輝度表示)になり、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が大きい場合は明表示(高輝度表示)になるノーマリークローズ特性にしている。他の方式の液晶表示装置の場合も、それぞれの方式での通常の製造を行い、暗表示と明表示が可能な状態にする。
【0106】
【表5】
【0107】
このようにして得られた液晶表示素子の焼き付き時間を測定した。その結果を表5にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、焼き付き時間が短くなる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、焼き付き時間はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線照射は液晶表示素子の性能に影響しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合の焼き付き時間を見ると、添加量の増加と共に焼き付き時間は短くなっており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、低残像になることがわかる。
【0108】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜をIPS方式の液晶表示素子に組み立てた際の性能が向上することが確認された。
【実施例6】
【0109】
次に、実施例4で示した配向膜を用いて、図8に示したFFS方式の液晶表示素子を作製し、光透過率を評価した結果について説明する。FFS方式はその素子構造がIPS方式に似た点があり、上下の下地基板の片側にのみ画素電極PXと共通電極CLが形成されており、液晶はその間の電場の有無に応じて、面内で回転する。従って、電場が印加されていない初期の配向状態もIPS方式と同様であり、その配向膜(606)(及び(705))に施すべき配向方向同様にすればよく、用いる液晶も、誘電異方性Δεが正のものを使うことができる。
【0110】
【表6】
【0111】
このようにして得られた液晶表示素子の焼き付き時間を測定した。その結果を表6にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、焼き付き時間が短くなる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、焼き付き時間はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線照射は液晶表示素子の性能に影響しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合の焼き付き時間を見ると、添加量の増加と共に焼き付き時間は短くなっており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、低残像になることがわかる。
【0112】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜をFFS方式の液晶表示素子に組み立てた際の性能が向上することが確認された。
【実施例7】
【0113】
次に、実施例4で示した配向膜を用いて、図9に示したVA方式の液晶表示素子を作製し、光透過率を評価した結果について説明する。VA方式はIPS方式やFFS方式とは異なり、上下の下地基板に画素電極PXと共通電極CLが形成されており、誘電異方性Δεが負であるVA方式用の液晶材料が用いられ、電場が印加されていない初期の配向状態は液晶分子が基板面に対してほぼ垂直となるように配向処理されねばならない。このため、通常のラビングを用いることが困難である。ここでは、〔非特許文献2〕を参考に、斜め方向から偏光紫外線照射した光配向処理を行った。
【0114】
【表7】
【0115】
このようにして得られた液晶表示素子の焼き付き時間を測定した。その結果を表7にまとめて示す。まず、全体的にイミド化温度が高い程、焼き付き時間が短くなる傾向にある。次に、添加量0 wt%について見ると、紫外線ランプ(波長330 nm)の光の照射の有無に関わらず、焼き付き時間はほぼ同じ値となっており、この波長の紫外線照射は液晶表示素子の性能に影響しないことがわかる。次に、可変性化合物を添加した場合の焼き付き時間を見ると、添加量の増加と共に焼き付き時間は短くなっており、本発明の配向膜形成用溶媒の溶媒を用いることで、低残像になることがわかる。
【0116】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒は、配向膜溶液を基板上に塗布した後、光を外部から照射することによっても化学構造を変化させることができ、得られる配向膜をVA方式の液晶表示素子に組み立てた際の性能が向上することが確認された。
【実施例8】
【0117】
次に、別の化学構造の配向膜形成用溶媒を用いた場合の特性を検討した結果について説明する。
【0118】
これまでは〔化6〕の配向膜形成用溶媒を用いて検討してきたが、ここでは以下の〔化8〕、〔化9〕の配向膜形成用溶媒を用いた。その他、配向膜成分や、その主たる溶媒、それらの配向膜形成過程については、実施例1と同じものを用いた。イミド化率の評価方法等も実施例1と同様である。
【0119】
【化8】
【0120】
【化9】
【0121】
表8には、〔化8〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、イミド化温度が230℃以上では余り差がないように見える。これば別途測定したこの化合物の沸点が220℃程度であったため、余り高温ではこの化合物が蒸発してしまい、添加した効果が無くなるためと推定される。
【0122】
【表8】
【0123】
また、表9には、〔化9〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、実施例1の〔化6〕の材料を用いた場合にその向上効果はより高く、最大83%のイミド化率が得られている。これば別途測定したこの化合物の沸点が245℃程度であったため、より高い温度まで溶媒としてこの化合物がイミド化焼成までは残留するためと推定される。
【0124】
【表9】
【0125】
このように、本発明の可変性化合物を含む配向膜形成用溶媒を用いることにより、イミド化率が向上することが確認された。
【0126】
次に、実施例4に示したようなアンカリング強度評価用の液晶セルを組み立て、液晶分子の配向性能の有無を確認したところ、これらの配向膜形成溶媒から得られた配向膜からなる液晶セルでは均一な液晶配向が得られていることが偏光顕微鏡観察から確認できた。
【0127】
次に、これらの溶媒を用いて、添加量を70%、イミド化焼成温度を210℃に固定し、実施例5から7に示したような3種の液晶表示素子を形成し、添加しなかった場合の液晶表示素子も作製して、それらの焼き付き時間を比較すると、いずれも添加しなかった場合に比べて焼き付き時間が短くなり、残像特性が向上していることが確認された。
【実施例9】
【0128】
次に、別の化学構造の配向膜形成用溶媒を用いた場合の特性を検討した結果について説明する。
【0129】
ここでは以下の〔化10〕の配向膜形成用溶媒を用いた。その他、配向膜成分や、その主たる溶媒、それらの配向膜形成過程については、実施例1と同じものを用いた。イミド化率の評価方法等も実施例1と同様である。
【0130】
【化10】
【0131】
【化11】
【0132】
表10には、〔化10〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、実施例1の〔化6〕の材料を用いた場合にその向上効果はより高く、添加量60%でも最大77%のイミド化率が得られている。このイミド化焼成まで完了した時点での薄膜の紫外可視吸収スペクトルを測定すると、330〜340nm付近にピークを持ち、約360nm付近まで伸びている。この配向膜形成溶媒を加えない場合には、300nm台には吸収ピークは存在せず、この吸収は配向膜形成溶媒に由来するものである。この薄膜に実施例3に示した方法と同様の手順で、光配向処理を施したところ、この吸収ピークは10%程減少したが、なお強い吸収ピークが紫外線域に残留した。更に、光配向処理を終えた配向膜を用いて、実施例4に示した方法で配向膜表面のアンカリング強度を測定したところ、添加量20〜50%ではアンカリング強度が3 mJ/m2以上となったが、60%では2.4〜2.8 mJ/m2に低下した。そこで、光配向のための偏光紫外線照射が完了した後の大気中での加熱乾燥過程を、1mmTorr以下に減圧にしたチャンバ内で同様の温度で加熱したところアンカリング強度が3 mJ/m2以上と良好な特性を示すようになった。
【0133】
【表10】
【0134】
また、表11には、〔化11〕を用いた時の得られた薄膜のイミド化率を計測した結果(百分率表示)を示した。実施例1と同様に、本発明の配向膜形成溶媒を用いない場合に比べて、添加量が多い程イミド化率が向上しているが、実施例1の〔化6〕の材料を用いた場合にその向上効果はより高く、添加量60%でも最大77%のイミド化率が得られている。このイミド化焼成まで完了した時点での薄膜の紫外可視吸収スペクトルを測定すると、340〜360nm付近にピークを持ち、約380nm付近まで伸びている。この配向膜形成溶媒を加えない場合には、300nm台には吸収ピークは存在せず、この吸収は配向膜形成溶媒に由来するものである。この薄膜に実施例3に示した方法と同様の手順で、光配向処理を施したところ、この吸収ピークは10%程減少したが、なお強い吸収ピークが紫外線域に残留した。更に、光配向処理を終えた配向膜を用いて、実施例4に示した方法で配向膜表面のアンカリング強度を測定したところ、添加量20〜50%ではアンカリング強度が3 mJ/m2以上となったが、60%では2.4〜2.8 mJ/m2に低下した。そこで、光配向のための偏光紫外線照射が完了した後の大気中での加熱乾燥過程を、1mmTorr以下に減圧にしたチャンバ内で同様の温度で加熱したところアンカリング強度が3 mJ/m2以上と良好な特性を示すようになった。
【0135】
【表11】
【0136】
次に、実施例4に示したようなアンカリング強度評価用の液晶セルを組み立て、液晶分子の配向性能の有無を確認したところ、これらの配向膜形成溶媒から得られた配向膜からなる液晶セルでは均一な液晶配向が得られていることが偏光顕微鏡観察から確認できた。
【0137】
次に、これらの溶媒を用いて、添加量を70%、イミド化焼成温度を210℃に固定し、実施例5から7に示したような3種の液晶表示素子を形成し、添加しなかった場合の液晶表示素子も作製して、それらの焼き付き時間を比較すると、いずれも添加しなかった場合に比べて焼き付き時間が短くなり、残像特性が向上していることが確認された。
【実施例10】
【0138】
次に、別の化学構造の配向膜形成用溶媒を用いた場合の特性を検討した結果について説明する。
【0139】
実施例9で用いた光配向性溶媒には、その一部骨格が配向膜中に残留し、紫外線を吸収する特性を付与することが可能であったが、添加量は60%が上限で、それ以上添加するとポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を溶解させる際に溶解性が低下して、ポリアミド酸が析出してしまった。そこで、〔化12〕から〔化19〕に示したような分子骨格の一部にハロゲン元素を含む配向膜形成溶媒を選び、これら溶媒を実施例9の溶媒に対して10から最大40wt%添加した混合配向膜形成溶媒にしたところ、実質的な実施例9の溶媒の添加量を85%まで高めても配向膜が均一に形成させることができた。このように実施例9の溶媒添加量を増加させることができたことにより、最終的に配向膜中に残留した紫外線吸収成分の濃度を高めることができ、実施例9の場合に比べてより高効率な紫外線膜を得ることができた。また、これら〔化12〕から〔化19〕由来の成分が最終的な配向膜に残留していないことは、膜の元素分析によって、ハロゲン元素が見出されないことで確認した。
【0140】
【化12】
【0141】
【化13】
【0142】
【化14】
【0143】
【化15】
【0144】
【化16】
【0145】
【化17】
【0146】
【化18】
【0147】
【化19】
【0148】
これらの新たな配向膜形成溶媒の効果を確認するために、配向膜形成溶媒の構造変化を引き起こすための紫外線を照射する前後での、薄膜の誘電率を以下の手順で測定した。すなわち、石英基板上にパターニングされたITOからなる1mmφの画素電極とそれを0.1mmの間隔を開けて取り囲むガード電極を形成し、この上にこれまで同様にポリイミド薄膜を形成する。ここではイミド化焼成まで施し、紫外線照射は行わない。次に、薄膜上に画素電極からガード電極までカバーできるように対抗電極を金の蒸着によって形成する。このようにして誘電率測定用の試料を準備し、その誘電率を測定し、これを紫外線照射前の誘電率とする。次に、配向膜形成溶媒の構造変化を引き起こすための紫外線を基板側から薄膜に照射し、同様に誘電率を測定し、これを紫外線照射後の誘電率とした。このようにして、実施例9の〔化10〕だけの時の誘電率を調べたところ、紫外線照射前は比誘電率が周波数100〜10kHzの範囲で3.8であったが、紫外線照射後は3.2に減少し、薄膜の極性が変化した。また、本実施例の〔化10〕から〔化19〕を添加した場合は、紫外線照射前の比誘電率は、Cl、Br、Iが導入された場合には4.0〜4.2に増加し、Fが導入された〔化19〕では3.6に減少、両方が入った〔化17〕と〔化18〕ではほぼ同等であった。これらに対して、紫外線照射後の比誘電率はいずれも3.2に減少し、薄膜の極性が変化した。配向膜を形成する溶媒の段階では極性の高い状態にしておくことは、ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の溶解性を高める点で有利である。しかしながら、通常の溶媒で極性を高めることは溶媒の沸点も高くするために、溶媒除去に高い加熱温度や長い加熱時間を必要とし、場合によっては液晶表示装置のTFT部分やカラーフィルタ等、他の部材部分の耐熱性の点で適用できない場合が多い。本発明のような極性が変わる溶媒を用いることで、除去が容易な溶媒を提供することができる。
【0149】
次に、実施例4に示したようなアンカリング強度評価用の液晶セルを組み立て、液晶分子の配向性能の有無を確認したところ、これらの配向膜形成溶媒から得られた配向膜からなる液晶セルでは均一な液晶配向が得られていることが偏光顕微鏡観察から確認できた。
【符号の説明】
【0150】
1…配向膜、2…励起光源、3…励起光、4…光電子、5…光電子検出器、6…可視光源、7…偏光子、8…評価用セル、9…検光子、10…フォトマル、
101…液晶表示パネル、102…第1の駆動回路、103…第2の駆動回路、104…制御回路、105…バックライト、106…アクティブマトリクス基板、107…対向基板、108…シール材、109a,109b…偏光板、110…柱状スペーサ、111…液晶分子、112…電界(電気力線)、601…ガラス基板、602…第1の絶縁層、603…(TFT素子の)半導体層、604…第2の絶縁層、605…第3の絶縁層、606…配向膜、607…ソース電極、608…導電層、609…突起形成部材、609a…(突起形成部材の)半導体層、609b…(突起形成部材の)導電層、701…ガラス基板、702…ブラックマトリクス、703R,703G,703B…カラーフィルタ、704…オーバーコート層、705…配向膜、
GL…走査信号線、DL…映像信号線、Tr…TFT素子、PX…画素電極、CT…共通電極、CL…共通化配線、LC…液晶層(液晶材料)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、
前記高分子を塗膜し、配向膜を形成する成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項2】
請求項1に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記配向膜の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項3】
請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が、化学構造変化させた後の状態の沸点よりも高いことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項4】
請求項3に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が220℃以上であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項5】
請求項3に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化させた後の状態の沸点が室温以上230℃以下であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項6】
請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前の状態の分子量が、化学構造変化させた後の状態の分子量よりも高いことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項7】
請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前後で極性が異なることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、〔化1〕で示される化学構造を備えることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【化1】
ここで、R1=芳香族炭素化合物、R2=脂肪族炭素化合物。
【請求項9】
請求項8に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、〔化1〕で示される化学構造のうち、R1が〔化2〕または〔化3〕であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【化2】
【化3】
ここで、X1またはX2=置換基。
【請求項10】
請求項8に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、〔化1〕で示される化学構造のうち、R2が〔化4〕であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【化4】
ここで、Y=-H、-F、-Cl、-Br、-Iのいずれかであり、すべての置換位置におけるYは同一でなくともよい。また、n=1から3の整数。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、配向膜原料溶液を基板上に塗布薄膜化した後、光を外部から照射することにより化学構造変化することを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項12】
請求項11に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、波長400nm以下の光を外部から照射することにより化学構造変化することを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項13】
請求項1から12の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒において、
前記配向膜形成用溶媒を気化させた後に、液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項14】
請求項13に記載の配向膜形成用溶媒において、
偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項15】
請求項14に記載の配向膜形成用溶媒において、
可変性化合物の化学構造を変化させる光とは異なる波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項16】
請求項15に記載の前記配向膜形成用溶媒において、
可変性化合物の化学構造を変化させる光の波長よりも短い波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項17】
請求項14に記載の配向膜形成用溶媒において、
偏光した光によって主鎖の一部が切断されることにより、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項18】
請求項1から17の何れか1つに記載の前記配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物の化学構造を変化させた構造の一部が、配向膜形成用溶媒を気化させる際に、配向膜中に残留することが可能な化学構造であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項19】
請求項18に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記配向膜中に残留することが可能な化学構造が可視光に対しては透明であるが、紫外光に対して吸収を有する化学構造であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項20】
請求項1から19の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒と、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含むことを特徴とする配向膜材料。
【請求項21】
液晶表示装置用の高分子を含む配向膜の形成工程として、
請求項1から19の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒に高分子を溶かした溶液を基板に塗布するステップと、
前記塗布した高分子をイミド化焼成するステップと、
前記配向膜形成用溶媒中に含まれる前記可変性化合物の化学構造を変化させるステップと、
化学構造が変化した溶媒を除去するステップと、
残された高分子薄膜に光配向用の偏光した光を照射するステップと
を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項22】
請求項21記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記配向膜形成用溶媒に溶かす高分子が、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項23】
請求項21または請求項22記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記可変性化合物の化学構造を変化させるステップが、光を照射することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項24】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記化学構造が変化した溶媒を除去するステップが、化学構造が変化した溶媒を加熱することにより気化させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記化学構造が変化した溶媒を加熱する温度が、室温以上230°C以下であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項26】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記化学構造が変化した溶媒を除去するステップが、化学構造が変化した溶媒を減圧することにより気化させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項27】
請求項26に記載の液晶表示装置の製造方法において、
1mmTorr以下に減圧することにより気化させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項28】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記配向膜が、液晶の配向規制力が膜面内に液晶を配向させる規制力を付与するものであることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項29】
請求項28に記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記液晶表示装置が、IPS方式の液晶表示装置であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項30】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記配向膜が、液晶の配向規制力が膜面内から30度以上立った方向に液晶を配向させる規制力を付与するものであることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項1】
液晶表示装置用の高分子を含む配向膜を形成するための配向膜形成用溶媒において、
前記高分子を塗膜し、配向膜を形成する成膜工程の途中で化学構造を変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項2】
請求項1に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記配向膜の高分子がポリイミドを含み、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸を塗膜し、イミド化焼成する成膜工程中は液体であるが、イミド化焼成後に気化させるための化学構造に変化させることが可能な可変性化合物を含むことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項3】
請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が、化学構造変化させた後の状態の沸点よりも高いことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項4】
請求項3に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前の状態の沸点が220℃以上であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項5】
請求項3に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化させた後の状態の沸点が室温以上230℃以下であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項6】
請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前の状態の分子量が、化学構造変化させた後の状態の分子量よりも高いことを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項7】
請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、気化させるための化学構造変化する前後で極性が異なることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、〔化1〕で示される化学構造を備えることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【化1】
ここで、R1=芳香族炭素化合物、R2=脂肪族炭素化合物。
【請求項9】
請求項8に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、〔化1〕で示される化学構造のうち、R1が〔化2〕または〔化3〕であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【化2】
【化3】
ここで、X1またはX2=置換基。
【請求項10】
請求項8に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、〔化1〕で示される化学構造のうち、R2が〔化4〕であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【化4】
ここで、Y=-H、-F、-Cl、-Br、-Iのいずれかであり、すべての置換位置におけるYは同一でなくともよい。また、n=1から3の整数。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、配向膜原料溶液を基板上に塗布薄膜化した後、光を外部から照射することにより化学構造変化することを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項12】
請求項11に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物が、波長400nm以下の光を外部から照射することにより化学構造変化することを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項13】
請求項1から12の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒において、
前記配向膜形成用溶媒を気化させた後に、液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項14】
請求項13に記載の配向膜形成用溶媒において、
偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項15】
請求項14に記載の配向膜形成用溶媒において、
可変性化合物の化学構造を変化させる光とは異なる波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項16】
請求項15に記載の前記配向膜形成用溶媒において、
可変性化合物の化学構造を変化させる光の波長よりも短い波長の偏光した光によって、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項17】
請求項14に記載の配向膜形成用溶媒において、
偏光した光によって主鎖の一部が切断されることにより、前記液晶の配向規制力が付与された配向膜となるポリイミドの形成溶媒であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項18】
請求項1から17の何れか1つに記載の前記配向膜形成用溶媒において、
前記可変性化合物の化学構造を変化させた構造の一部が、配向膜形成用溶媒を気化させる際に、配向膜中に残留することが可能な化学構造であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項19】
請求項18に記載の配向膜形成用溶媒において、
前記配向膜中に残留することが可能な化学構造が可視光に対しては透明であるが、紫外光に対して吸収を有する化学構造であることを特徴とする配向膜形成用溶媒。
【請求項20】
請求項1から19の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒と、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含むことを特徴とする配向膜材料。
【請求項21】
液晶表示装置用の高分子を含む配向膜の形成工程として、
請求項1から19の何れか1つに記載の配向膜形成用溶媒に高分子を溶かした溶液を基板に塗布するステップと、
前記塗布した高分子をイミド化焼成するステップと、
前記配向膜形成用溶媒中に含まれる前記可変性化合物の化学構造を変化させるステップと、
化学構造が変化した溶媒を除去するステップと、
残された高分子薄膜に光配向用の偏光した光を照射するステップと
を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項22】
請求項21記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記配向膜形成用溶媒に溶かす高分子が、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項23】
請求項21または請求項22記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記可変性化合物の化学構造を変化させるステップが、光を照射することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項24】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記化学構造が変化した溶媒を除去するステップが、化学構造が変化した溶媒を加熱することにより気化させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記化学構造が変化した溶媒を加熱する温度が、室温以上230°C以下であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項26】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記化学構造が変化した溶媒を除去するステップが、化学構造が変化した溶媒を減圧することにより気化させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項27】
請求項26に記載の液晶表示装置の製造方法において、
1mmTorr以下に減圧することにより気化させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項28】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記配向膜が、液晶の配向規制力が膜面内に液晶を配向させる規制力を付与するものであることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項29】
請求項28に記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記液晶表示装置が、IPS方式の液晶表示装置であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項30】
請求項21から請求項23の何れか1つに記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記配向膜が、液晶の配向規制力が膜面内から30度以上立った方向に液晶を配向させる規制力を付与するものであることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図6(c)】
【図6(d)】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図6(c)】
【図6(d)】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−113212(P2012−113212A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263429(P2010−263429)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
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