説明

配管肉厚測定装置およびこれに用いられるシース型センサ

【課題】低コストで簡単に製造することができる、常設可能な配管肉厚測定装置およびこれに用いられるセンサを提供する。
【解決手段】強磁性を有する配管Pの肉厚を測定する配管肉厚測定装置2において、配管Pの周囲にコイル状に巻回された励磁巻線10と、この励磁巻線10に低周波数の励磁電流を印加する電流印加部61と、励磁巻線10とともに配管Pの周囲にコイル状に巻回された検出巻線11と、励磁電流に基づきこの検出巻線11に生じる誘導起電圧を測定する電圧測定部62とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性を有する配管の肉厚を測定する配管肉厚測定装置およびこの配管肉厚測定装置に用いられるシース型センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントなどの各種プラントには流体等を流通させるための種々の配管が用いられており、これらの配管は、一般的にエロージョンやコロージョン等に基づき使用に伴って減肉する。これらの配管の減肉をそのまま放置しておくと破断して配管内部を流通する流体などが漏出することから、これらの各種プラントでは当該配管の減肉状況を定期的に検査しており、配管の肉厚が所定の限界肉厚に達した時点で当該配管を交換するものとなされている。
【0003】
この配管の肉厚は、種々の配管肉厚測定装置を用いて測定されている。この種の配管肉厚測定装置の中には、電磁誘導を利用して配管の肉厚を測定するものがある(例えば特許文献1)。
【0004】
すなわち、特許文献1に記載の配管肉厚測定装置は、保温材を介して外装鋼板に覆われた配管の肉厚を外装鋼板の上から測定する装置であり、予め設定される低周波正弦波の励磁電流により励磁される励磁コイルが設けられた基準プローブおよび検出プローブを有する円筒状の検出ユニットが設けられ、これらの各プローブに励磁電流が印加されることにより生じるインダクタンス値を各プローブで検出して、これらの検出値の差または差分に基づいて配管の肉厚を測定するように構成されている。
【0005】
この特許文献1に記載の検出ユニットには、基準プローブが固定的に設けられ、一方、検出プローブは配管の軸方向および周方向に移動する移動手段に取り付けられている。そして、この移動手段によって検出プローブを配管の周方向および軸方向に移動させることにより配管の各所における肉厚を測定するように構成されている。しかも、この検出ユニットには移動用車輪が装備され、このユニット自体を配管の軸方向に沿って移動可能に構成されており、所定範囲の配管肉厚を測定した後は検出ユニットを配管の軸方向に沿って移動させることができるようになっている。
【特許文献1】特開平11−337304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記配管肉厚測定装置は、配管の周方向の一部の肉厚を測定して検出プローブを当該周方向に移動させながら全周に亘ってその肉厚を測定しなければならず、上記移動手段を設けなければならない。したがって、上記配管肉厚測定装置では、装置が大型化してその取扱が不便になるとともにコスト増を招くという不都合がある。
【0007】
ところで、上記配管においては、弁の下流や分岐管、或いはオリフィスの下流側等の乱流が生じ易い箇所が特に減肉し易いことが知られている。したがって、配管におけるこれらの減肉し易い箇所は頻繁に減肉検査を行うことが好ましいが、その都度、上記肉厚測定装置をセットしなければならず、その労力が必要となる。この場合に、複数個の上記装置をこれらの減肉し易い箇所に常設しておくことも考えられるが、装置の大きさや経済性等の面から現実的には困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低コストで簡単に製造することができるとともにその取扱が容易である常設可能な配管肉厚測定装置およびこれに用いられるセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る配管肉厚測定装置は、強磁性を有する配管の肉厚を測定する配管肉厚測定装置において、上記配管の周囲にコイル状に巻回された励磁巻線と、この励磁巻線に低周波数の励磁電流を印加する電流印加手段と、上記励磁巻線とともに上記配管の周囲にコイル状に巻回される検出巻線と、上記励磁電流に基づきこの検出巻線に生じる誘導起電圧を測定する電圧測定手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、励磁電流が印加される励磁巻線およびこの励磁電流に基づく誘導起電圧を生じさせる検出巻線が配管の所定箇所に巻き付けられるとともに、各巻線にそれぞれ電流印加手段または電圧測定手段が接続されているだけであるので、低コストで簡易に製造することができる。この電流印加手段によって励磁巻線に低周波数の励磁電流を印加すると、この励磁電流に基づき検出巻線に誘導起電圧を生じ、この誘導起電圧は配管の肉厚によって変化するので、電圧測定手段によって検出巻線に生じた誘導起電圧を測定するだけで、容易に配管の肉厚に基づく情報を得ることができる。また、各巻線は配管に巻回されているので、配管の肉厚に関する情報を全周に亘って得ることができる。
【0011】
しかも、励磁巻線および検出巻線がそれぞれ配管に巻回されることによって当該装置を配管にセットすることができ、装置を配管にセットするにあたっての費用および労力を軽減することができる。また、上記したように低コストで製作することができ、その取付も容易にできることから、これらの巻線を配管に常設することができる。このように巻線を配管に常設した場合には、配管の肉厚測定にあたってその都度装置をセットする必要もなく、また保温材を介して外装板によって配管が覆われている場合でも、巻線は予め配管にセットしておけば、配管の肉厚測定にあたって、当該外装板および保温材を取り外す必要がない。このため、この配管肉厚測定装置を使って容易に、かつ頻繁に配管の肉厚を測定することができる。
【0012】
この発明において、上記電圧測定手段の測定結果に基づいて上記配管の平均肉厚を算出する肉厚算出手段をさらに備えるのが好ましい(請求項2)。
【0013】
このように構成すれば、この肉厚算定手段によって上記電圧測定手段によって測定した誘導起電圧に基づいて配管の平均肉厚を算出することができ、配管の肉厚に関する情報をより具体的に得ることができる。
【0014】
上記電流印加手段は、その励磁電流の周波数が低周波数となるように設定されていればよく、好ましくはその励磁電流の周波数が1〜60Hzの範囲内で設定されているのが好ましい(請求項3)。
【0015】
すなわち、上記電流印加手段による励磁電流の周波数が低すぎると、ノイズが大きくなって電圧測定手段において正確な誘導起電圧の測定が困難になる。一方、上記励磁電流の周波数が高すぎると、いわゆる表皮効果によって測定可能な肉厚の限界が低くなる。したがって、上記電流印加手段による励磁電流の周波数は上記範囲内に設定されるのが好ましい。より好ましくは、2〜15Hzの範囲内に設定されるのがよい。
【0016】
上記電流印加手段による励磁電流の実効値は特に限定されるものではないが、この実効値が高すぎると励磁巻線の発熱に伴う抵抗変化に基づき当該励磁電流が安定しなくなる。したがって、上記電流印加手段は、その印加する励磁電流の実効値(A)が当該実効値(A)と上記励磁巻線の巻数(回)との乗数が5.0以下の値となるように設定されているのが好ましい(請求項4)。より好ましくは上記乗数が4.0以下の値となるように設定されているのがよい。なお、ここではこの励磁電流の実効値はアンペア(A)を単位とするものである。
【0017】
上記励磁巻線および検出巻線の具体的構成は特に限定されるものではないが、上記励磁巻線と上記検出巻線とは、相互に電気的に絶縁された状態でシース管に収納されているのが好ましい(請求項5)。
【0018】
このように構成すれば、各巻線が収納された上記シース管を配管に巻回すことにより励磁巻線および検出巻線の双方を配管に装着することができ、各巻線の取付作業性を向上させることができる。しかも、各巻線はシース管に収納されているので、耐熱性に優れ、例えば高温の流体が流通する配管にも装着することができる。
【0019】
本発明に係るシース型センサは、強磁性体を有する配管の肉厚を励磁電流による誘導起電圧に基づいて算出する配管肉厚測定装置に用いられるシース型センサであって、相互に絶縁され一方に低周波数の励磁電流が印加されるとともに他方にこの励磁電流に基づく誘導起電圧が生じるように構成された一対の素線と、この一対の素線を収納するシース管とを備え、上記配管の周囲に巻回し可能に構成されることを特徴とするものである(請求項6)。
【0020】
この発明によれば、励磁電流が印加される素線と励磁電流に基づく誘導起電圧を生じさせる素線とが単一のシース管内に収納されているので、このシース管を上記配管周りに巻回すだけで、一対の素線がともに配管に巻回された状態となる。しかも、各素線がシース管内に収納されているので、このセンサの耐熱性を向上させることができ、高温の流体が流通する配管に対しても適用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の配管肉厚測定装置は、低コストで簡易に製作することができるとともに、配管の所定箇所に容易にセットできるという利点がある。また、このように低コストで製作することができるとともに容易に取り付けることができることから、これらの巻線を配管に常設することができる。したがって、配管の肉厚測定にあたってその都度装置をセットする必要もなく、また保温材を介して外装板によって配管が覆われている場合でも、巻線が配管に常設されているので、わざわざ当該外装板や保温材を取り外す必要がなく、この配管肉厚測定装置を使って容易に、かつ頻繁に配管の肉厚を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1はこの配管肉厚測定装置を示す概念図であり、図2はこの装置のシース型センサを示す斜視図であり、図3はこの装置の構成図である。
【0023】
当実施形態では、配管肉厚測定装置を、原子力プラントの設備であって、高温の水および蒸気が流通する炭素鋼製の配管に適用する場合について説明するが、この装置は、減肉が生じる配管であって強磁性を有するものに広く適用することができる。
【0024】
この配管Pは、上記したように、所定径を有する炭素鋼からなる配管であって、高温水および高温の水蒸気が流通するようになっている。この配管Pは、図2に示すように、保温材P1を介して外装板P2によって覆われている。
【0025】
上記配管肉厚測定装置2は、図1に示すように、配管Pに所定回数巻回されたシース型センサ4と、このシース型センサ4にケーブル9を介して接続された検出ユニット6と、検出ユニット6にケーブル17を介して接続された肉厚算出ユニット8とを備える。なお、検出ユニット6と肉厚算出ユニット8は、一体的に設けられているものであってもよく、また、各ユニット6,8をさらに細分化してもよい。
【0026】
シース型センサ4は、電磁誘導を利用して配管Pの平均肉厚を検出するもので、配管Pの外周面に所定回数(例えば40回)巻回されている。したがって、このシース型センサ4は保温材P1および外装板P2の内側に配設されている。
【0027】
シース型センサ4は、センサ取付部19によって配管Pに取り付けられている。このセンサ取付部19によるシース型センサ4の配管Pへの取付構造を図2に基づいて説明する。シース型センサ4は、上記したように、配管Pの外周に所定回数(例えば40回)巻回され、その両端部が保温材P1および外装板P2に設けられた挿通孔P6を通して外部に露出され、各端部がスリーブ16によって結束されている。シース型センサ4の配管Pに巻回された部分は、止着帯20で配管Pに押さえ付けられており、その軸方向および周方向に沿った移動が拘束されている。止着帯20は、配管Pの軸方向に沿って細長い帯状体であり、長手方向中間部の配管側の面が配管Pの径方向外方に突出してこの突出部分の内面と配管Pの外周面との間でシース型センサ4を配管Pに圧着するように構成されている。すなわち、この突出量は、シース型センサ4の直径に比べて僅かに小さくなるように寸法設定されており、止着帯20によってシース型センサ4を配管Pに押し付けることができるようになっている。
【0028】
この止着帯20の両端部は、配管Pに巻回された取付バンド21にボルト止めされてその移動が拘束されている。取付バンド21は、配管Pの周囲に巻回されて縛り付けられ、配管Pに締め付けられた状態でその両端部がバックル部材22で止着されている。なお、図2では、単一の止着帯20が表されているが、この止着帯20を配管Pの周方向に沿って複数個設けるものとしてもよい。この場合には、各止着帯20は、シース型センサ4を安定的に固定するために、配管Pの周囲に均等に配置されるのが好ましい。この説明からも分かるように、止着帯20、取付バンド21およびバックル部材22が上記センサ取付部19を構成している。
【0029】
このシース型センサ4は、配管Pにおける減肉が生じやすい箇所、例えば、オリフィスの下流側や分岐管、弁の下流側などの乱流が生じやすい箇所に設置される。例えば、配管Pにオリフィスが設けられている場合には、シース型センサ4は、配管Pの直径をDとするとオリフィスの下流側の距離D〜2Dの範囲内に設置される。
【0030】
このセンサ取付部19によって配管Pに取り付けられるシース型センサ4は、図4(A)および図4(B)に示すように、両端が開口するシース管41と、このシース管41にその軸線方向に沿って挿通された一対の素線42と、シース管41の内部に充填され一対の素線42を互いに電気的に絶縁する絶縁部43と、シース管41の軸方向両端部を封止するシール部44とを備え、いわゆるMIケーブルとして構成されている。
【0031】
シース管41は、非磁性体、例えばオーステナイト系ステンレス鋼により構成されるのが好ましい。すなわち、このシース管41が磁性体により構成された場合には、このシース管41に発生する磁束量が増大して配管Pの肉厚変化による誘導起電圧の変化割合が小さくなるとともに配管Pに達する磁気が減少するため、測定感度が低下するからである。したがって、シース管41は、非磁性体、或いは磁性が小さいものを素材として形成されるのが好ましい。
【0032】
また、このシース管41は、非常に細い鞘状部材として構成され、その外径は、配管Pの径等を考慮して、当該配管Pに巻回し可能に寸法設定されている。このシース管41の径は、可撓性の観点から2mm以下に設定されるのが好ましい。当実施形態では、配管Pの径が約140mmであるのに対し、シース管41の径は、約1.6mmに設定されている。
【0033】
このシース管41の内部には、一対の素線42がシース管41の開口端縁から所定長さ突出する状態で挿通されている。これらの素線42は、シース型センサ4が配管Pの外周面に巻回されることにより巻線10,11を構成するものであり、一方の巻線(励磁巻線)10には励磁電流が印加され、他方の巻線(検出巻線)にはこの励磁電流に伴う誘導起電圧が生じるように各素線42(巻線10,11)が検出ユニット6に接続されている(図3参照)。この素線42は、非磁性体や磁性の低い素材、例えば銅線によって構成されている。このように素線42を非磁性体等で形成する理由は、上記シース管41と同様であるので、ここではその説明を省略する。なお、これらの一対の素線42は、同一素材から構成されているものであっても、異種素材から構成されているものであってもよい。
【0034】
各巻線10,11のピッチ等の具体的巻き方は特に限定されるものではなく、全節巻、分布巻等いずれの巻き方であってもよい。当実施形態では、シース型センサ4が重ならないように、かつ、配管Pの外周面において隣接するシース型センサ4の所定部分が密着するように当該センサ4が配管Pの所定箇所に巻回されている(具体的に図示せず)。
【0035】
各素線42は、相互に電気的に絶縁された状態で配設され、この電気的絶縁は、シース管41の内部に充填された上記絶縁部43により達成される。
【0036】
絶縁部43は、マグネシア、アルミナ等の絶縁粉体としての無機粉体により構成され、当実施形態ではこの絶縁部43の容積に対して絶縁粉体が高密度(絶縁部43の容積に対する絶縁粉体の充填率は本実施形態では70〜80%程度)で充填されている。また、絶縁部43は、その長手方向両端部において、上記シース管41の開口端縁から僅かに退入して設けられ、この退入部分がシールのためのエポキシ樹脂貯留用の充填部45として形成されている(図4参照)。
【0037】
上記充填部45には硬化前のエポキシ樹脂が充填され、このエポキシ樹脂が硬化することによってシール部44が形成されている。なお、このシール部44を構成するエポキシ樹脂の中に適宜ガラス等を含めてもよい。また、充填部45に充填された硬化前のエポキシ樹脂を一部絶縁部43に積極的に含浸させてこの含浸部分を硬化させるようにしてもよい。このシール部44は、シース管41の内部への水分の侵入を防止するものであり、一対の素線42の相互絶縁をより確実に達成するものとなされている。
【0038】
このシース型センサ4の長手方向両端部においては、両端部の2本がスリーブ16に通され、このスリーブ16をかしめることにより束ねられている(図2参照)。各端部では、一対の素線42がシース管41から露出して設けられている。この素線42の露出部分には、シリコンゴム等の絶縁材12で被覆され、相互の短絡を防止するものとなされている。この露出部分の先端には図示していないがケーブル9が接続されている(図3参照)。
【0039】
一方、検出ユニット6は、図3に示すように、励磁巻線10に励磁電流を印加する電流印加部61と、上記励磁電流に基づき検出巻線11に生じる誘導起電圧を測定する電圧測定部62とを備え、各々、各巻線10,11に対応する素線42が上記ケーブル9を介して接続されている。
【0040】
電流印加部61は、交流電源63と、この電源63による電流(電圧)の大きさ等を調整するレギュレータ64とを備え、このレギュレータ64にケーブル9が接続されることにより交流電源63からの励磁電流を励磁巻線10に印加するように構成されている。
【0041】
電源63は、商用電源(50Hzまたは60Hz)を用いるものであってもよいが、より低周波数の電流(励磁電流)を励磁巻線10に出力するために商用電源の周波数よりも低い周波数の電流を出力可能な電源や、この出力する電流の周波数を任意に切換可能な周波数切換型の電源を用いるものであってもよい。商用電源以外の電源63を用いる場合には、この電流の周波数は1〜60Hz内の範囲で適宜設定される。
【0042】
すなわち、上記電流印加部61による励磁電流の周波数が低すぎると、後述の式(3)に示すように、誘導起電圧が小さくなり、測定電圧に対してノイズが相対的に大きくなって電圧測定部62において正確な誘導起電圧の測定が困難になる。一方、上記励磁電流の周波数が高すぎると、いわゆる表皮効果によって測定可能な肉厚の限界が低くなる。
【0043】
ここで、励磁電流の周波数と測定可能な肉厚の関係を調べたところ、図5に示すような結果を得た。この図5によれば、励磁電流の周波数が低いほど測定可能な最大肉厚が増大することが分かる。ただし、上記したように、励磁電流の周波数が低くなりすぎると、誘導起電圧がノイズ内に紛れ込んで正確な測定が困難になるため、上記電流印加部61による励磁電流の周波数は上記範囲(1〜60Hz)内に設定されるのが好ましく、より好ましくは、2〜15Hzの範囲内に設定されるのがよい。なお、当実施形態では、励磁巻線10に出力される電流の周波数はこの電源63において調整されるものとなされているが、レギュレータ64で調整するものとしてもよい。
【0044】
レギュレータ64は、交流電源63から入力された電圧を調整することによって励磁巻線10に入力される電流の実効値を制御するものである。当実施形態では、レギュレータ64によって励磁巻線10に入力される電流の実効値(A:アンペアー)が、この電流実効値(A)と励磁巻線の巻数(回)との乗数が5.0、好ましくは4.0以下の値となるように設定されている。例えば、励磁巻線10の巻数が40回の場合には、電流の実効値は0.125(A)、好ましくは0.1(A)に設定されている。すなわち、レギュレータ64による励磁電流の実効値は特に限定されるものではないが、この実効値が高すぎると、鉄損の影響による誤差や励磁巻線10の発熱に伴う抵抗変化に基づき当該励磁電流が安定しなくなることから、その印加する励磁電流の実効値を制限するのが好ましい。このレギュレータ64は、公知のレギュレータであり、具体的な説明についてはここでは省略する。
【0045】
一方、電圧測定部62は、交流電圧測定器65と、この交流電圧測定器65で測定された電圧を表示する表示部66とを備え、検出巻線11に接続されるケーブル9が交流電圧測定器65に接続されている。
【0046】
この交流電圧測定器65は、励磁電流に伴って検出巻線11に生じる誘導起電圧の実効値を測定するものであり、微小電圧(例えば0.001(V))であってもこれを増幅して測定できるものとなされている。交流電圧測定器65によって測定された誘導起電圧は指示器などの表示部66において表示される。
【0047】
上記構成の検出ユニット6には、ケーブル17を介して肉厚算出ユニット8が接続されている。肉厚算出ユニット8は、上記交流電圧測定器65によって測定された誘導起電圧に基づいて検出巻線11が配置されている配管Pの平均肉厚を算出するものである。この肉厚算出ユニット8は、CPU、メモリ等を有し、このメモリにデータやプログラム等が記憶されており、CPUがこれらのデータやプログラム等を実行することによって、上記平均肉厚を算出する。
【0048】
この平均肉厚の算出方法は、次の過程で求められる。図6に示すように、配管Pの横断面積をA0、この配管Pの透磁率をμ0、この配管Pの流通路Rの横断面積をA1、この流通路Rの透磁率をμ1とすると、励磁巻線10の内側に存在する物質の平均透磁率をμ(H/m)は次式(1)で表される。
【0049】
【数1】

【0050】
ここで、流通路Rには、水ないし空気が存在し、その透磁率μ1は、配管Pの透磁率μ0に比べて非常に小さい。また、配管Pは減肉して肉厚が薄くなるものの、励磁巻線10によって囲まれる領域の面積Atは一定であるので、上式(1)は次式(2)に近似することができる。
【0051】
【数2】

【0052】
一方、電磁誘導の法則を用いると、検出巻線11に生じる誘導起電圧V0(V)は、円周率をπ、励磁巻線10の内側に存在する物質の平均透磁率をμ(H/m)、励磁巻線10の巻き半径をa(m)、励磁巻線10の巻数をN、励磁巻線10に印加する励磁電流の実効値をI(A)、励磁巻線10に印加される励磁電流の周波数f(1/s)、励磁巻線10の配管Pに対する軸線方向の巻長さをb(m)とすると、次式(3)で表される。
【0053】
【数3】

【0054】
この式(3)と式(2)とから次式(4)を導き出すことができる。
【0055】
【数4】

【0056】
この式(4)中、配管Pの透磁率μ0、励磁巻線10によって囲まれる領域の面積At、誘導起電圧V0、円周率π、励磁巻線10の巻き半径a、励磁巻線10の巻数N、上記励磁電流の実効値I、上記励磁電流の周波数f(1/s)、巻長さbは、それぞれ既知であることから、配管Pの横断面積A0が算出される。したがって、配管Pの外径は既知であるので、これにより配管Pの内径が算出でき、これに基づいて配管Pの肉厚も算出できる。なお、配管Pの透磁率μ0は、温度によって変化することから、この透磁率μ0の温度変化も予め肉厚算出ユニット8に記憶されている。
【0057】
肉厚算出ユニット8では、上記肉厚算出過程が実行され、これにより配管Pの肉厚が算出される。当実施形態では、この肉厚算出ユニット8にも表示部(図示せず)が設けられ、この配管Pの肉厚が表示されるようになっている。なお、配管Pの破断の虞がある危険平均肉厚を予め実験等によって算出して、この危険平均肉厚をユニット8のメモリに記憶させ、算出結果がメモリに記憶されている危険平均肉厚に達した時点で報知する報知手段をこの肉厚算出ユニット8に備えるようにしてもよい。すなわち、肉厚算出ユニット8は、配管Pの肉厚が破断の危険性がある限界肉厚に達したことを警告する警報手段を機能的に有するように構成してもよい。
【0058】
以上の構成の配管肉厚測定装置2によれば、電流印加部61によって励磁巻線10に低周波数の励磁電流を印加すると、この励磁電流に基づき検出巻線11に誘導起電圧が生じる。この誘導起電圧は配管Pの肉厚によって変化するものであり、この誘導起電圧を電圧測定部62で測定することにより配管Pの肉厚に関する情報を得ることができる。そして、当実施形態の配管肉厚測定装置2によれば、肉厚算出ユニット8によってこの誘導起電圧から配管Pのシース型センサ4が配設されている箇所の平均肉厚を算出することができるので、当該平均肉厚を得ることができる。すなわち、従来の装置のように、配管Pの周方向に沿ってセンサを移動させる必要がなく、配管Pの全周に亘る肉厚情報を一挙に得ることができ、これによりセンサの配管Pの周方向の移動手段を省略することができ、装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0059】
しかも、この配管肉厚測定装置2は、上記したように、励磁電流が印加される励磁巻線10およびこの励磁電流に基づく誘導起電圧を生じさせる検出巻線11が配管Pの所定箇所に巻き付けられるとともに、各巻線10,11にそれぞれ電流印加部61または電圧測定部62が接続されているだけであるので、低コストで簡易に製造することができる。
【0060】
また、シース型センサ4の配管Pに対する巻き付けは、いわゆるMIケーブルを配管Pに巻き付けるだけであるので、この巻き付けに伴う費用および労力を軽減することができる。また、このシース型センサ4を巻き付けるだけで、励磁巻線10および検出巻線11が一挙に構成されるので、各巻線10,11を個別に巻き付ける必要がなく、この点においても労力の軽減を図ることができる。
【0061】
しかも、シース型センサ4は低コストで製造することができることから、一旦シース型センサ4を配管Pに巻き付けた後はこのシース型センサ4を配管Pに常設することができる。このようにシース型センサ4(巻線10,11)を配管Pに常設した場合には、配管Pの肉厚測定にあたってその都度装置2をセットする必要もなく、また保温材P1を介して外装板P2によって配管Pが覆われている場合でも、シース型センサ4が予め配管Pに設置されているので、配管Pの肉厚測定にあたって、当該外装板P2および保温材P1を取り外す必要がない。このため、この配管肉厚測定装置2を使って容易に、かつ頻繁に配管Pの平均肉厚を測定することができる。
【0062】
さらに、検出ユニット6および肉厚算出ユニット8がケーブル9に対して着脱自在に接続され、或いはケーブル9とシース型センサ4とが着脱自在に接続されていれば、複数箇所に配置されたシース型センサ4について各ユニット6,8を移動させることにより共通のユニット6,8を用いることができ、このように構成すれば、ユニット6,8の台数を減らすことができ、よりコストを削減することができる。
【0063】
なお、以上に説明した配管肉厚測定装置2は、本発明に係る装置の一実施形態であって、装置の具体的構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、変形例を以下に説明する。
【0064】
(1)上記実施形態では、肉厚算出ユニット8は電圧測定部62によって測定された誘導起電圧に基づいて配管Pの平均肉厚を算出するように構成されているが、例えば予め実験により誘導起電圧と配管Pの肉厚との関係を示す線図を求めておき、この線図に基づいて誘導起電圧から配管Pの肉厚を求めるようにしてもよい。
【0065】
例えば、シース型センサ4の巻数、励磁電流の周波数、励磁電流の実効値を実際の測定条件に合わせて設定し、この条件で予め実験を行って上記式(1)〜(4)に基づいて図7に示すような誘導起電圧と配管の平均肉厚との関係を示す線図を求める。そして、この線図に基づいて配管Pの平均肉厚を求めるように構成してもよい。この場合にも、配管Pの透磁率は温度によって変化することから所定の温度範囲毎に上記線図を設定してもよい。
【0066】
(2)上記実施形態では、シース型センサ4が配管Pに単層巻されたものについて説明したが、配管Pにおいてこのシース型センサ4を配設するためのスペースが少ない場合等、このシース型センサ4を2層ないし複数層にわたって設けるものとしてもよい。
【0067】
(3)配管Pの肉厚測定は、配管Pの当初の肉厚を測定可能に構成されているものの他、配管Pの当初の肉厚を測定できなくても破断の虞のある限界肉厚を測定可能に構成されているものであってもよい。すなわち、本発明に係る配管肉厚測定装置の測定可能な肉厚上限は、配管Pの当初の肉厚を下回っているものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】当実施形態に係る配管肉厚測定装置を示す概念図である。
【図2】同装置のシース型センサを示す斜視図である。
【図3】同装置の構成図である。
【図4】図(A)はシース型センサの断面図であり、図(B)は図(A)のB−B線断面図である。
【図5】同装置によって測定可能な配管の最大肉厚と励磁電流の周波数との関係を示すグラフである。
【図6】同装置が取り付けられた配管を概念的に示す縦断面図である。
【図7】誘導起電圧と配管の平均肉厚との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
2 配管肉厚測定装置
4 シース型センサ
6 検出ユニット
8 肉厚算出ユニット
10 励磁巻線
11 検出巻線
41 シース管
42 素線
43 絶縁部
44 シール部
61 電流印加部
62 電圧測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性を有する配管の肉厚を測定する配管肉厚測定装置において、
上記配管の周囲にコイル状に巻回された励磁巻線と、この励磁巻線に低周波数の励磁電流を印加する電流印加手段と、上記励磁巻線とともに上記配管の周囲にコイル状に巻回された検出巻線と、上記励磁電流に基づきこの検出巻線に生じる誘導起電圧を測定する電圧測定手段とを備えたことを特徴とする配管肉厚測定装置。
【請求項2】
上記電圧測定手段の測定結果に基づいて上記配管の平均肉厚を算出する肉厚算出手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の配管肉厚測定装置。
【請求項3】
上記電流印加手段は、その励磁電流の周波数が1〜60Hzの範囲内で設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の配管肉厚測定装置。
【請求項4】
上記電流印加手段は、その印加する励磁電流の実効値(A)が当該実効値(A)と上記励磁巻線の巻数(回)との乗数が5.0以下の値となるように設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の配管肉厚測定装置。
【請求項5】
上記励磁巻線と上記検出巻線とは、相互に電気的に絶縁された状態でシース管に収納されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の配管肉厚測定装置。
【請求項6】
強磁性体を有する配管の肉厚を励磁電流による誘導起電圧に基づいて算出する配管肉厚測定装置に用いられるシース型センサであって、相互に絶縁され一方に低周波数の励磁電流が印加されるとともに他方にこの励磁電流に基づく誘導起電圧が生じるように構成された一対の素線と、この一対の素線を収納するシース管とを備え、上記配管の周囲に巻回し可能に構成されていることを特徴とするシース型センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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