説明

配線基板

【課題】外部接続用パッドに信号用貫通導体を介して信号配線導体を接続される配線基板において、25GHzを超えるような高周波信号を良好に伝送することが可能な配線基板を提供する。
【解決手段】上層の接地または電源用導体層8および下層の接地または電源用導体層9との少なくとも一方は、信号用配線導体5に対向して第1の開口部8aまたは第2の開口部9aの内側に延びる帯状の突起部8b,9bを有することを特徴とする。信号用配線導体5における第1および第2の開口部8a,9aに対応する部分でも信号用配線導体5と接地または電源用導体層8,9との間に容量成分が形成されるので、信号用配線導体5の特性インピーダンスが急激に増大することはなく、その結果、25GHzを超えるような高周波信号を極めて効率よく伝送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に現在の電子機器は、高速化、大容量伝送化が顕著になってきている。それに伴い電子機器に使用される配線基板は高周波伝送における電気的ロスの少ない形態が要求されている。そのため、高周波信号を伝送する伝送路を有する配線基板は、図4に示すように、例えば絶縁板101の下面に複数の絶縁層102,103が積層されて成る絶縁基板104の絶縁層102と103との間に高周波信号を伝播するための帯状の信号用配線導体105を設けるとともに、信号用配線導体105の上下に絶縁層102や絶縁層103を挟んで信号用配線導体105と対向する接地または電源用導体層106,107を設け、さらに絶縁層102と103との間に信号用配線導体105を取り囲むようにして接地または電源用導体層108を設け、信号用配線導体105の上下左右を接地または電源用導体層106,107,108により所定の間隔で取り囲むことにより信号用配線導体105の特性インピーダンスを所定の値としている。そして、信号用配線導体105の端部を、絶縁層103を貫通する信号用貫通導体109により絶縁層103の下面に形成された信号用外部接続パッド110に接続することにより、信号用配線導体105が信号用貫通導体109および信号用外部接続パッド110を介して絶縁基板104の下面に電気的に導出されることとなる。なお、実際の配線基板においては、絶縁板101の上面側にも絶縁層および導体層が積層されるが、説明の簡略化のため省略する。
【0003】
接地または電源用導体層106,107,108には、図5(a),(b)に示すように、信号用外部接続パッド110に対応する位置に信号用外部接続パッド110よりも大きな円形状の開口部106a、107a、108aが形成されている。開口部107aは、接地または電源用導体層107と信号用外部接続パッド110との間の電気的な絶縁を保つためのものである。また、開口部106a,108aは、接地または電源用導体層106,108と信号用外部接続パッド110との間の静電容量を低減させることにより外部接続用パッド110における信号の反射を抑制して高周波信号を効率よく外部に伝送可能とするためのものである。
【0004】
しかしながら、このような従来の配線基板によると、信号用配線導体105は、開口部106a,107aに対応する部分では、その上下に接地または電源用導体層106,107がないため、この部分では接地または電源用導体層106,107との容量成分が減少するので特性インピーダンスが急激に増大してしまう。その結果、例えば信号用配線導体105に25GHzを超える高周波信号を伝播させると、開口部106a,107aに対応する部分における特性インピーダンスの不整合に起因して信号の反射損および挿入損が増大して信号を良好に伝送することが困難となるという問題点を誘発する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−343554公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、絶縁基板における絶縁層間に配設された信号用配線導体を絶縁基板の下面に形成された信号用外部接続用パッドに信号用貫通導体を介して接続して成る配線基板において、信号用配線導体に25GHzを超えるような高周波信号を良好に伝送することが可能な配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配線基板は、上層の絶縁層および該上層の絶縁層の下面に積層された下層の絶縁層を含む複数の絶縁層が積層されて成る絶縁基板と、前記絶縁基板の下面に被着された信号用外部接続パッドと、前記上層の絶縁層の上面に被着されており、前記信号用外部接続パッドに対応する位置に該信号用外部接続パッドより大きな第1の開口部を有する上層の接地または電源用導体層と、前記下層の絶縁層の下面に被着されており、前記信号用外部接続パッドに対応する位置に該信号用外部接続パッドより大きな第2の開口部を有する下層の接地または電源用導体層と、前記上層の絶縁層と前記下層の絶縁層との間に前記上層の接地または電源用導体層および前記下層の接地または電源用導体層と対向するように配設されており、一端部が前記信号用外部接続パッドに対応する位置まで延在する帯状の信号用配線導体と、少なくとも前記下層の絶縁層を貫通して設けられており、前記信号用配線導体の前記一端部と前記信号用外部接続パッドとを接続する信号用貫通導体とを有する配線基板において、前記上層の接地または電源用導体層および前記下層の接地または電源用導体層の少なくとも一方は、前記信号用配線導体に対向して前記第1の開口部または第2の開口部の内側に延びる帯状の突起部を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の配線基板によれば、信号用配線導体の上層の接地または電源用導体層および下層の接地または電源用導体層の少なくとも一方が、信号用配線導体に対向して第1の開口部または第2の開口部の内側に延びる帯状の突起部を有することにより、信号用配線導体における第1および第2の開口部に対応する部分でも信号用配線導体と接地または電源用導体層との間に容量成分が形成されるので、信号用配線導体の特性インピーダンスが急激に増大することはなく、その結果、25GHzを超えるような高周波信号を信号用配線導体に伝播させたとしても、信号の反射損および挿入損が低減され、それにより高周波信号を極めて効率よく伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の配線基板における実施形態の一例を示す要部概略断面図である。
【図2】(a)は、図1に示す配線基板の絶縁板2、および絶縁層3,4を省略した要部概略斜視図であり、(b)は(a)の一部断面斜視図である。
【図3】図3(a)、(b)は、本発明および従来の配線基板における実施形態の一例のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】図4は、従来の配線基板における要部概略断面図である。
【図5】(a)は、図4に示す配線基板の絶縁板101、および絶縁層102,103を省略した要部概略斜視図であり、(b)は(a)の一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の配線基板における実施形態の一例を説明する。図1に示されているように、本例の配線基板は、例えば絶縁基板1を形成する絶縁板2とその下面に積層された絶縁層3,4と、絶縁層3と4の間に配設された高周波信号を伝播させるための帯状の信号用配線導体5と、信号用配線導体5の端部に対応して絶縁基板1の下面に形成された円形の信号用外部接続パッド6と、絶縁層4を貫通して信号用配線導体5の端部と信号用外部接続パッド6とを接続する信号用貫通導体7と、信号用配線導体5に対向するように絶縁板2と絶縁層3との間に形成されているとともに信号用外部接続パッド6に対応する位置に信号用外部接続パッド6よりも大きな開口部8aを有する接地または電源用導体層8と、信号用配線導体5に対向するように絶縁基板1の下面に形成されているとともに信号用外部接続パッド6を取り囲む開口部9aを有する接地または電源用導体層9と、信号用配線導体5を取り囲むように絶縁層3と4との間に形成されているとともに信号用外部接続パッド6に対応する位置に信号用外部接続パッド6よりも大きな開口部10aを有する接地または電源用導体層10とを具備している。なお、実際の配線基板においては、絶縁板2の上面側にも絶縁層および導体層が積層されるが、説明の簡略化のため省略する。
【0011】
絶縁板2は、厚みが50〜1000μm程度であり、絶縁層3,4は、それぞれの厚みが例えば5〜50μmである。これらの絶縁板2および絶縁層3,4は、種々の樹脂系絶縁材料やセラミックス系絶縁材料により形成することができる。また、信号用配線導体5、信号用外部接続パッド6、接地または電源用導体層8,9,10は、それぞれ厚みが10〜30μm程度であり、信号用貫通導体7は、直径が30〜200μm程度である。これらの信号用配線導体5、信号用外部接続パッド6、接地または電源用導体層8,9,10および信号用貫通導体7は、金属箔や金属めっき、金属ペースト等の種々の導電性材料により形成することができる。
【0012】
図2(a),(b)に示すように、信号用配線導体5は、幅が10〜50μm程度の細い帯状のパターンで絶縁3と4との間に延びている。この信号用配線導体5には例えば25GHzを超える高周波信号が伝播される。なお、信号用配線導体5の端部には信号用貫通導体7と接続するための円形状のランド5aが形成されている。
【0013】
信号用外部接続パッド6は、直径が400〜800μmの円形であり、信号用配線導体5の端部に対応する位置にその外周部が位置するようにして絶縁基板1の下面に形成されている。
【0014】
信号用貫通導体7は、信号用配線導体5の端部と信号用外部接続パッド6の外周部とを電気的に接続しており、それにより信号用配線導体5が信号用貫通導体7および信号用外部接続パッド6を介して絶縁基板1の下面に電気的に導出される。
【0015】
信号用配線導体5の上層に位置する接地または電源用導体層8は、絶縁層3を挟んで信号用配線導体5と対向するとともに信号用外部接続パッド6に対応する位置に、信号用外部接続パッド6よりも直径が100〜300μm程度大きな円形状の開口部8aを有するようにして絶縁板2と絶縁層3との間に所謂ベタ状のパターンで形成されている。開口部8aは、接地または電源用導体層8と信号用外部接続パッド6との間に不要な容量成分が形成されるのを防止するためのものであり、この開口部8aを設けることにより信号用外部接続パッド6における信号の反射を低減することが可能となる。
【0016】
また、信号用導体層5の下層に位置する接地または電源用導体層9は、絶縁層4を挟んで信号用配線導体5と対向するとともに信号用外部接続パッド6に対応する位置に、信号用外部接続パッド6よりも直径が100〜300μm程度大きな円形状の開口部9aを有するようにして絶縁基板1の下面に所謂ベタ状のパターンで形成されている。開口部9aは、信号用外部接続パッド6と接地または電源用導体層9との電気的な絶縁を良好に保つためのものである。なお、信号用配線導体5と上下の接地または電源用導体層8,9とで所謂ストリップライン構造が形成されて信号用配線導体5が上下から電磁的にシールドされるとともに特性インピーダンスが所定の値に調整される。
【0017】
信号用配線導体5と同じ層に位置する接地または電源用導体層10は、信号用配線導体5の両側を10〜50μmの所定の幅で囲むとともに信号用外部接続パッド6に対応する位置に、信号用外部接続パッド6よりも直径が100〜300μm程度大きな円形状の開口部10aを有するようにして絶縁層3と4との間に所謂ベタ状のパターンで形成されている。開口部10aは、接地または電源用導体層10と信号用外部接続パッド6との間に不要な容量成分が形成されるのを防止するためのものであり、この開口部10aを設けることにより信号用外部接続パッド6における信号の反射を低減することが可能となる。この接地または電源用導体層10と信号用配線導体5とで所謂コプレナーライン構造が形成されて、それによっても信号用配線導体5が左右から電磁的にシールドされるとともに特性インピーダンスが所定の値に調整される。
【0018】
そして、本例の配線基板においては、信号用配線導体5の上下層の接地または電源用導体層8,9のそれぞれに、信号用配線導体5に対向して開口部8aまたは9aの内側に延びる帯状の突起部8b,9bが形成されている。これらの突起部8b,9bは、信号用配線導体5と絶縁層3または4を挟んで対向することにより、信号用配線導体5の開口部8a,9a内に延びる部分における特性インピーダンスが急激に増大するのを防止するためのものであり、突起部8b,9bと信号用配線導体5との間に容量成分が形成されることにより、信号用配線導体5の開口部8a,9a内に延びる部分における特性インピーダンスの急激な増大が防止される。したがって、本例の配線基板によれば、25GHzを超えるような高周波信号を信号用配線導体5に伝播させたとしても、信号の反射損および挿入損が低減され、それにより高周波信号を極めて効率よく伝送することができる。
【0019】
なお、上層の接地または電源用導体層8の突起部8bは、その幅が信号用配線導体5の幅よりも10μm程度広い20〜60μmの範囲であることが好ましく、開口部8a内には信号用貫通導体7の端部よりも100〜200μm手前の位置まで延在していることがこのましい。他方、下層の接地または電源用導体層9の突起部9bは、その幅が信号用配線導体5の幅よりも10μm程度広い20〜60μmの範囲であることが好ましく、開口9a内には、信号用外部接続パッド6に20〜50μm程度まで近づく位置まで延在していることが好ましい。
【0020】
ここで、本発明の実施形態の一例およびこれに対応する従来技術をモデル化した場合のシミュレーションにおける信号の反射および透過に対する周波数特性を図5(a),(b)に、グラフで示す。なお、本発明の実施形態の一例によるモデルでは、図1に示す配線基板において、絶縁板2の厚みを400μm、絶縁層3,4のそれぞれの比誘電率を3.34、厚みを33μm、信号用配線導体5の幅を28μm、厚みを15μm、先端部のランド5aの直径を120μm、信号用外部接続用パッド6の直径を620μm、厚みを15μm、上層の接地または電源用導体層8の厚みを21μm、突起部8bの幅を40μm、長さを200μm、下層の接地または電源用導体層9の厚みを15μm、突起部9aの幅を40μm、長さを50μm、開口8a,9a,10aの直径を820μmとした場合をモデル化した。また従来技術のモデルとしては、上述の本発明の実施形態の一例によるモデルにおける突起部8b,9bを削除した場合をモデル化し、それぞれを電磁界シミュレーターによりシミュレーションした。
【0021】
図3(a)は、信号用外部接続用パッド6からみた反射損の周波数特性のグラフを示し、図3(b)は、信号用配線導体5からみた挿入損の周波数特性のグラフを示す。これらのグラフにおいて、実線で示した周波数特性が本発明の実施形態の一例によるモデルをシミュレーションした結果であり、破線で示した周波数特性が従来技術によるモデルをシミュレーションした結果である。図3(a),(b)に示されているように、本発明の実施形態の一例によるモデルの反射損および透過損は、信号の周波数が25GHzを超えたところから、従来技術によるモデルと比べて減っている。したがって、本発明の実施形態の一例によれば、25GHzを超えるような高周波信号を信号用配線導体に伝播させたとしても、信号の反射損および挿入損が低減され、それにより高周波信号を極めて効率よく伝送することができることがわかる。
【0022】
以上、本発明の配線基板における実施形態の一例について説明したが、本発明の配線基板は上述した実施形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更は可能である。例えば上述の実施形態の一例では、信号用配線導体5の上下の接地または電源用導体層8,9の両方に突起部8b,9bを設けたが、突起部8bまたは9bはそのどちらか一方だけを設けてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 絶縁基板
2 絶縁板
3 上層の絶縁層
4 下層の絶縁層
5 信号用配線導体
6 信号用外部接続パッド
7 信号用貫通導体
8 上層の接地または電源用導体層
8a 上層の接地または電源用導体層の開口部
8b 上層の接地または電源用導体層の突起部
9 下層の接地または電源用導体層
9a 上層の接地または電源用導体層の開口部
9b 上層の接地または電源用導体層の突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層の絶縁層および該上層の絶縁層の下面に積層された下層の絶縁層を含む複数の絶縁層が積層されて成る絶縁基板と、前記絶縁基板の下面に被着された信号用外部接続パッドと、前記上層の絶縁層の上面に被着されており、前記信号用外部接続パッドに対応する位置に該信号用外部接続パッドより大きな第1の開口部を有する上層の接地または電源用導体層と、前記下層の絶縁層の下面に被着されており、前記信号用外部接続パッドに対応する位置に該信号用外部接続パッドより大きな第2の開口部を有する下層の接地または電源用導体層と、前記上層の絶縁層と前記下層の絶縁層との間に前記上層の接地または電源用導体層および前記下層の接地または電源用導体層と対向するように配設されており、一端部が前記信号用外部接続パッドに対応する位置まで延在する帯状の信号用配線導体と、少なくとも前記下層の絶縁層を貫通して設けられており、前記信号用配線導体の前記一端部と前記信号用外部接続パッドとを接続する信号用貫通導体とを有する配線基板において、前記上層の接地または電源用導体層および前記下層の接地または電源用導体層の少なくとも一方は、前記信号用配線導体に対向して前記第1の開口部または第2の開口部の内側に延びる帯状の突起部を有することを特徴とする配線基板。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−96953(P2011−96953A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251471(P2009−251471)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(304024898)京セラSLCテクノロジー株式会社 (213)
【Fターム(参考)】