説明

配線接続用銅合金の評価支援装置、配線接続用銅合金の評価方法、並びに、電源端子台の評価方法

【課題】複雑な装置を用いることなく、実際の不完全接続に近い状態を模擬することで配線接続用銅合金の適正評価を支援する配線接続用銅合金の評価支援装置を提供する。
【解決手段】評価支援装置10は、カム3の回転動作によって、導線20と配線21に接続されている端子材料60aとを接触させて電気を導通させ、端子材料60aと銅線20とを非接触にして電気の導通を遮断させる動作を所定回数繰り返し、端子材料60aと銅線20との接続部近傍に亜酸化銅を生成させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気配線を接続する接触端子となる配線接続用銅合金の適正評価を支援するための配線接続用銅合金の評価支援装置、配線接続用銅合金の評価方法、並びに、配線接続用銅合金で構成されている接触端子が備えられた電源端子台の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気配線(以下、単に配線と称する)を差し込むだけで接続できる速結端子台が普及している。この速結端子台には、差し込まれた配線を圧接する板バネが設けられている(たとえば、特許文献1参照)。この板バネは、銅合金で構成されることが多く、速結端子台に差し込まれた配線を圧接するだけでなく、配線同士を電気的に接続する接触端子としての役目も担っている。速結端子台の電源端子台の配線接続において接触圧力の低下による不完全接続が発生すると、接触抵抗の増加に伴う発熱及び微小な振動を起因としたグロー放電による発熱により、異常な高温状態から、やがて発火・焼損に至る現象が知られている。
【0003】
つまり、銅合金で構成されている接触端子は、配線との接続部分が劣化すると、発熱を経て、発火・焼損してしまう可能性が高くなるのである。この発熱は、速結端子台内における配線と接触端子との接続部分に亜酸化銅(Cu2 )が生成されることで起こることが分かっている。亜酸化銅は、配線と接触端子とが不完全接続又は不完全接続に近い状態となり、配線と接触端子とが相対的に移動することでグロー放電が生じ、これが原因となって増殖されるとされている(たとえば、特許文献2参照)。この亜酸化銅が、数アンペアの電流でも導体を溶断に至るほどの高熱を発し、電気火災の原因となる。
【0004】
そこで、配線と接触端子との接続不良を検出するようにした技術が提案されている。そのようなものとして、「挿入された電線を係止して抜け止めを図る係止金具を備え、当該係止金具と端子金具とで前記電線を挟持して電気的接続が成される速結端子の接続不良を検出する接続不良検出装置であって、前記係止金具と前記端子金具の間に両者の接触を防ぐためのセパレータを配置し、前記係止金具と前記端子金具との間に発生する電位差から前記電線と電器端子金具との接続不良を検出する接続不良検出回路を設けた」ものが開示されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0005】
また、電源端子台の配線接続における評価方法としては、「環境試験方法(電気・電子)ヒータによる不完全接続耐火性試験方法(JIS C 0062)」がある。この評価方法では、電源端子台の内部に接触端子の替わりにヒータを設け、配線と接触端子との不完全接続による発熱をヒータで模擬するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−22848号公報(第4図等)
【特許文献2】特公昭58−19733号公報(第1図等)
【特許文献3】特開2009−26545号公報(第1図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているような速結端子台においては、製造性やコスト性から樹脂で形成される場合が多い。そうすると、速結端子台内における配線と接触端子との接続部分で発生する発熱は、火災に繋がる可能性があり、何らかの対策が必要になる。速結端子台を火災に強い材質(たとえば、金属や陶器等)で構成すればよいのであるが、製造性やコスト性の他、取り扱い性でも有利ではなく、実際にそのような材質で構成されているものは少ないと考えられる。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、グロー特性(グローの発生しにくい性質)及び増殖特性(亜酸化銅増殖が起こりにくい性質)に優れた合金を実験的に見出すようにしている。しかしながら、そのような合金で接触端子を構成したとしても、亜酸化銅が完全に増殖されなくなるわけではない。つまり、特許文献2では、亜酸化銅増殖が起こりにくい材質の選定をしているだけで、実際に発生してしまう可能性のある火災に対する対策として十分であるとは言えない。また、特許文献2に記載の技術では、接続不良を模擬しているが、合金の実際の使用状況とはかけ離れており、実験結果が必ずしも妥当であるとは言えない。
【0009】
さらに、特許文献3に記載されている技術では、接続不良を早期に検出できるものの、接続不良検出回路を速結端子台と一緒に設けなくてはならず、速結端子台だけでの取り扱いはできない。加えて、特許文献3に記載されている技術は、接続不良が実際に発生した場合の対策であり、接続不良の発生を未然に防ぐようにしたものではなく、速結端子台そのものの火災に対する対策としては十分であるとは言えない。
【0010】
さらにまた、「環境試験方法(電気・電子)ヒータによる不完全接続耐火性試験方法」(JIS C 0062)では、試験結果のバラツキがないという有利な点はあるが、その反面、不完全接続による発熱をヒータで模擬するため、実際の現象とは大きく異なり、試験結果をそのまま受け入れることはできず、ヒータを取り付けるための細工を試料となる電源端子台に施す必要があるため、余計な手間やコストがかかってしまうという課題があった。
【0011】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、複雑な装置を用いることなく、実際の不完全接続に近い状態を模擬することで配線接続用銅合金の適正評価を支援する配線接続用銅合金の評価支援装置、配線接続用銅合金の評価方法、並びに、電源端子台の評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る配線接続用銅合金の評価支援装置は、回転軸を回転駆動するモーターと、前記回転軸に偏心して取り付けられ、前記回転軸の回転動作に伴い回転駆動するカムと、先端部に銅線が設けられ、前記カムの回転動作によって上下左右に移動可能なアームと、前記アームを遊びを設けて支持するアーム支持部と、を有し、前記カムの回転動作によって、前記銅線と配線に接続されている銅合金とを接触させて電気を導通させ、前記銅合金と前記銅線とを非接触にして電気の導通を遮断させる動作を所定回数繰り返し、前記銅合金と前記銅線との接続部近傍に亜酸化銅を生成させるものである。
【0013】
本発明に係る配線接続用銅合金の評価方法は、上記の配線接続用銅合金の評価支援装置を用いて、評価対象の銅合金に応じて変化する亜酸化銅の生成の容易度を比較することで、前記銅合金の耐火性を評価するものである。
【0014】
本発明に係る電源端子台の評価方法は、上記の配線接続用銅合金の評価支援装置で生成された亜酸化銅を、電源端子台に搭載される接触端子と配線との接続部に設置して、前記配線を介して電気を導通することで、前記接触端子と前記配線との不完全接続による発熱を模擬し、前記電源端子台の耐火性を評価するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る配線接続用銅合金の評価支援装置によれば、複雑な装置を用いることなく、実際の不完全接続に近い状態を容易に模擬することができる。したがって、本発明に係る配線接続用銅合金の評価支援装置を用いれば、電源端子台に搭載される接触端子として用いられる配線接続用銅合金の適正を容易に評価することができることになる。
【0016】
本発明に係る配線接続用銅合金の評価方法によれば、上記の配線接続用銅合金の評価支援装置を用いているので、この配線接続用銅合金の評価支援装置によって数値化され、配線接続用銅合金に応じて変化する亜酸化銅の生成の容易度を比較することで、その配線接続用銅合金の適正が容易に評価できることになる。
【0017】
本発明に係る電源端子台の評価方法によれば、上記の配線接続用銅合金で生成した亜酸化銅を利用しているので、実際の発熱現象に近い状態を再現できることになり、評価の信頼性が著しく向上することになる。また、電源端子台や接続部の構成を改造することなく評価試験ができるので、余計な手間やコストを省略できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る配線接続用銅合金の評価支援装置の外観構成を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る配線接続用銅合金の評価支援装置の電気回路構成を示す概略回路図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る配線接続用銅合金の評価支援装置の動作状態を簡略化して示す概略側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る配線接続用銅合金の評価支援装置に流れる電流(縦軸)と時間(横軸)との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に係る配線接続用銅合金の評価支援装置が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】配線接続用銅合金に用いられる材質の特性を示す表である。
【図7】配線接続用銅合金に用いられる材質の特性を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態に係る電源端子台の評価方法を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る配線接続用銅合金の評価支援装置10(以下、単に評価支援装置10と称する)の外観構成を示す概略斜視図である。図2は、評価支援装置10の電気回路構成を示す概略回路図である。図3は、評価支援装置10の動作状態を簡略化して示す概略側面図である。図4は、評価支援装置10に流れる電流(縦軸)と時間(横軸)との関係を示すグラフである。図5は、評価支援装置10が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。図6は、配線接続用銅合金に用いられる材質の特性を示す表である。図7は、配線接続用銅合金に用いられる材質の特性を示すグラフである。図8は、電源端子台50の評価方法を模式的に示す模式図である。
【0020】
本発明の実施の形態に係る評価支援装置10は、配線(図8に示す配線51、配線52)を接続する接触端子(図8に示す接触端子60)となる配線接続用銅合金60a(以下、単に端子材料60aと称する)の評価を支援するものである。図1〜図8に基づいて、評価支援装置10の構成、動作及び特徴について説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、明細書全文に表わされている構成要素の形態は、あくまでも例示であって、これらの記載に限定されるものではない。
【0021】
評価支援装置10は、電源が供給されることで回転動作を実行するモーター1と、モーター1の回転動作をカム3に伝達する回転軸2と、回転軸2に偏心して取り付けられ、回転軸2とともに回転駆動するカム3と、カム3に接触し、カムの回転動作によって上下左右に移動可能になっている第1アーム(アーム)4と、第1アーム4に一方の先端に取り付けられている第2アーム5と、第1アーム4を上下左右に移動可能なように第1アーム4の他方の先端を支持するアーム支持部6と、を有している。なお、第1アーム4と第2アーム5とを一体としてもよく、第2アーム5を設けなくてもよい。
【0022】
第2アーム5の先端部(第1アーム4側ではない方の先端部)には、銅線20が下方に折り曲げられて取り付けられている。銅線20は、一般的に市販されているものを使用している。銅線20の先端部(第2アーム5側ではない方の先端部)の下方には、端子材料60aが載置されている。図1では、端子材料60aがステージ25に載置されている状態を例に示している。なお、端子材料60aとしては、たとえば銅やSUS(ステンレス鋼)、黄銅等を選定する(図6及び図7参照)。また、図1では、第1アーム4を介して銅線20に配線22が接続されている。
【0023】
評価支援装置10の動作を説明する。
モーター1に電源が供給されることで、評価支援装置10は動作を開始する。モーター1が回転動作を開始すると、回転軸2も回転を開始する。回転軸2の回転動作に伴い、カム3も回転する。カム3は、回転軸2に偏心して取り付けられているので、カム3が回転すると、第1アーム4が上下方向に移動することになる。第1アーム4は、アーム支持部6に遊びを設けて支持されているため、上下方向に加え、左右方向(第1アーム4の長手方向)にも移動する。つまり、第1アーム4は、カム3の動作に応じて、上下方向に移動したり、左右方向に移動したりするようになっている。
【0024】
ところで、ステージ25には、評価したい端子材料60aが載置される。この端子材料60aには、配線21が接続される。また、第2アーム5には、銅線20が取り付けられている。第1アーム4の下方向の移動に併せて銅線20も下方向に移動して、銅線20と端子材料60aとが接触する。そうすると、電気回路(図2参照)が導通し、電気が流れるようになっている。次に、第1アーム4の上方向の移動に併せて銅線20も上方向に移動して、端子材料60aから離れ、銅線20と端子材料60aとが非接触になる。そうすると、電気回路が遮断され、スパーク現象が生じるようになっている。評価支援装置10は、銅線20と端子材料60aとの接触、非接触動作を所定回数繰り返す。
【0025】
評価支援装置10は、銅線20と端子材料60aとの接触、非接触動作を繰り返すとともに、電気回路に流れている電流値の計測を行なっている。図4には、計測した電流値の一例をグラフにして表している。図4(a)が亜酸化銅が生成する前の状態の電流値を、図4(b)が亜酸化銅が生成した後の状態の電流値を、それぞれ示している。なお、図2では、銅線20を正(プラス)側、端子材料60aを負(マイナス)側とし電気回路を構成している場合を例に示しているが、正負を逆にしてもよい。
【0026】
評価支援装置10は、銅線20と端子材料60aとの接触、非接触動作を繰り返し、銅線20と端子材料60aとの接続部を不完全接続として模擬することで、接続部近傍に生成される亜酸化銅の生成過程を観察することで、端子材料60aの適正を評価できるようにしている。上述したように、配線接続において接触圧力の低下による不完全接続が発生すると、接触抵抗の増加に伴う発熱に、微小な振動を起因としたグロー放電による発熱が加わり、異常な高温状態を経て、発火・焼損に至る現象が知られている。すなわち、評価支援装置10は、このような現象を応用し、端子材料60aの発熱状態を模擬するようにしたものである。なお、図3では、銅線20に亜酸化銅が生成されている状態を例に示している。
【0027】
図4から、亜酸化銅の生成前では亜酸化銅の生成後に比較して電流値が高く、亜酸化銅の生成後では亜酸化銅の生成前に比較して電流値が低くなっていることが分かる。このことから、評価支援装置10は、電流値の変化によって亜酸化銅の生成の有無を検出可能になっている。電流が小さく変化した所で再び銅線20と端子材料60aとの導通を連続(モーター1を停止し接触状態を継続維持)させると、亜酸化銅が増殖する現象に移行する。つまり、評価支援装置10は、亜酸化銅を生成及び増殖することで、端子材料60aの適正(特に耐火性)についての評価を支援しているのである。
【0028】
亜酸化銅を生成する方法としては、接続部に対して上下方向の往復運動や振動を加えるようにした方法がある(たとえば、特許文献2参照)。しかしながら、このような方法では、接続部に過度な衝撃が加わってしまい、できはじめた亜酸化銅が破壊され、亜酸化銅が増殖し難いという問題がある。そこで、評価支援装置10では、モーター1の回転運動を用い、回転軸2の中心から偏心させたカム3を介して上下方向の運動に変換することで、接続部に振動を与える方法を用いるようにしている。
【0029】
また、接続部への振動を弱めれば端子材料60aと銅線20とが接着してしまう溶着現象が起こりやすくなる。それに比べ、評価支援装置10では、第1アーム4がアーム支持部6に遊びを設けて支持されているため、左右方向へのスライドも加わり、端子材料60aと銅線20とが溶着することなく接続部に継続して振動を与えることができるようになっている。つまり、銅線20と端子材料60aとが一点のみで接触・非接触を繰り返すのではなく、銅線20と端子材料60aとが所定の範囲内をもって接触・非接触を繰り返すことになる。
【0030】
さらに、評価支援装置10によれば、端子材料60aを接触端子60として電源端子台50に実際に組み込まなくても、亜酸化銅の発生の容易度を観察できるようになっている。換言すれば、評価支援装置10を用いれば、電源端子台50の完成前の工程で、接触端子60として用いられようとしている端子材料60aの適正が簡易に評価できることになる。つまり、評価支援装置10を用いることで、耐火性に優れた端子材料60aを容易に選定することができるのである。
【0031】
図3に示すように、評価支援装置10では、直流電源を用い、銅線20を正側、端子材料60aを負側とした条件としたが、このような条件とすると、銅線20側に亜酸化銅を早く生成させることができるということが実験的に分かった。また、電源はDC100V、電流は2A、接触頻度は50〜400回/分とすると、亜酸化銅が最も生成しやすい状態となることも分かった。なお、亜酸化銅を確実に増殖させたい場合には、接触頻度を少なく(50回/分に近い方に)し、亜酸化銅を早期に生成させたい場合には、接触頻度を多く(400回/分に近い方に)すればよい。また、モーター1の回転に応じて重さを変化できるような錘等を第1アーム4に設けるようにしてもよい。
【0032】
図5〜図7に基づいて、評価支援装置10が実行する制御処理の流れを具体的に説明する。なお、図示してしないが、評価支援装置10は、モーター1の回転駆動を制御する制御手段、及び、電流値を測定する電流測定手段を備えている。なお、制御手段及び電流測定手段を一体的に設けるようにしてもよく、別体で設けるようにしてもよい。また、図7では、横軸が時間を、縦軸が累積エネルギーを、それぞれ表している。
【0033】
評価支援装置10は、評価支援装置10を使用する使用者によって、銅線20と端子材料60aとを接触した状態で電源ONされることによって、動作を開始する(ステップS101)。電源ONされた評価支援装置10の制御手段は、モーター1を回転させ、銅線20と端子材料60aとを非接触(スパーク)にする(ステップS102)。制御手段は、モーター1を継続して回転させることで、銅線20と端子材料60aとを接触にする(ステップS103)。
【0034】
それから、電流測定手段によって、電気回路に流れている電流値を測定する。この測定された電流値は、データとして制御手段に送られるようになっている。電流値を受け取った制御手段は、この電流値が初期の電流値よりも低下したかどうか判断する(ステップS105)。電流値が低下していないと判断した場合(ステップS105;No)、制御手段は、銅線20と端子材料60aとを非接触にする(ステップS102)。一方、電流値が低下したと判断した場合(ステップS105;Yes)、制御手段は、モーター1を停止させ、銅線20と端子材料60aとの接触を継続させる(ステップS106)。
【0035】
つまり、制御手段は、電流値が初期電流値よりも低下した場合、つまり亜酸化銅によって抵抗値が上昇した場合、亜酸化銅が生成したと判断して、この亜酸化銅の増殖を実行するのである。その後、制御手段は、亜酸化銅が確実に増殖するまで、モーター1を停止させたままの状態とする(ステップS107)。制御手段は、実際の計測値が規定値以下であると判断した場合(ステップS107;規定値以下)、銅線20と端子材料60aとを非接触にする(ステップS102)。一方、制御手段は、実際の計測値が規定値以上であると判断した場合(ステップS107;規定値以上)、亜酸化銅が確実に増殖したものと判断して一連の制御処理を終了する。
【0036】
このようにして、評価支援装置10は、簡便かつ高確率で亜酸化銅を生成及び増殖することができる。したがって、評価支援装置10を用い、端子材料60aに応じて変化する亜酸化銅の生成の容易度を比較することで、その端子材料60aの適正が容易に評価できることになる。亜酸化銅が生成しにくい場合、端子材料60aが耐火性に優れた材料であると評価することができ、亜酸化銅が生成しやすい場合、端子材料60aが耐火性にあまり優れていない材料であると評価することができる。この評価結果に基づいて、端子材料60aを選定すれば、耐火性に優れた接触端子60を形成できることになる。
【0037】
図6及び図7には、端子材料60aとして用いる3つの材料(SUS、黄銅、銅)の特性を示している。端子材料60aとしてSUSを用いた場合、亜酸化銅が生成するまでの時間が短く、亜酸化銅が生成するまでに消費された電気エネルギー量を表す累積エネルギーも少ないということが分かる。また、端子材料60aとして黄銅を用いた場合、亜酸化銅が生成するまでの時間がSUSよりも長いが銅よりは短く、亜酸化銅が生成するまでの累積エネルギーがSUSよりも多いが銅よりは少ないということが分かる。さらに、端子材料60aとして銅を用いた場合、亜酸化銅が生成するまでの時間が長く、亜酸化銅が生成するまでの累積エネルギーも多いということが分かる。
【0038】
図6及び図7に示す結果から、SUSや黄銅は、銅と比べて、接触端子60に用いる端子材料60aとしては好ましくないということが分かる。端子材料60aに与える累積エネルギーは、ほぼ時間に比例するが、少ない累積エネルギーで生成する材料ほど端子材料60aとしては好ましくないということになる。このようにして種々の材料の適正を評価すれば、接触端子60として搭載される予定の電源端子台50に好ましい材料を選定できることになる。
【0039】
なお、亜酸化銅が確実に増殖したかどうかの判断は、実際の計測値(たとえば、電流値や経過時間、端子材料60aに与えた累積エネルギーの総和等)と、予め設定してある規定値と、の比較で判断すればよい。この規定値は、制御手段に予めデータとして記憶させておけばよい。
【0040】
以上のように、評価支援装置10によれば、複雑な装置を用いることなく、実際の不完全接続に近い状態を容易に模擬することができる。したがって、評価支援装置10を用いれば、電源端子台50に搭載される接触端子60として用いられる端子材料60aの適正を容易に評価することができることになる。すなわち、評価支援装置10は、端子材料60aの適正を容易に評価できるように支援するようになっているのである。
【0041】
また、評価支援装置10を用いた端子材料60aの評価方法によれば、評価支援装置10によって数値化され、端子材料60aに応じて変化する亜酸化銅の生成の容易度を比較することで、その端子材料60aの適正が容易に評価できることになる。
【0042】
図8に基づいて、電源端子台50の評価方法について説明する。図8(a)が本発明の電源端子台50の評価方法の一例を模式的に示しており、図8(b)が従来の電源端子台50’の評価方法の一例を模式的に示している。なお、従来の電源端子台50’の評価方法としては、ヒータを用いた方法(「環境試験方法(電気・電子)ヒータによる不完全接続耐火性試験方法」(JIS C 0062))を例に挙げている。
【0043】
従来の電源端子台50’の評価方法は、電源端子台50’にヒータ55’を搭載し、ヒータ55’の両端にワニグチクリップ56’を接続し、ヒータ55’に通電することで、不完全接続による発熱をヒータ55’で模擬するようになっていた。そのため、実際の発熱現象とは大きく異なり、試験結果をそのまま受け入れることはできなかった。また、ヒータ55’を取り付けるための細工を電源端子台50’に施す必要があるため、余計な手間やコストがかかってしまっていた。図8(b)に示すように、電源端子台50’内には2つの接触端子60’が組み込まれるようになっているが、ヒータ55’を搭載するため、1つの接触端子60’を取り外さなければならなかった。
【0044】
これに対し、電源端子台50の評価方法は、評価支援装置10で生成した亜酸化銅を、電源端子台50に搭載される接触端子60と配線51(又は/及び配線52)との接続部に設置して、配線51及び配線52を介して電気を導通することで、不完全接続による発熱を模擬するようにしている。このようにして、電源端子台50の耐火性の評価をすることができる。なお、亜酸化銅が、数アンペアの電流でも導体を溶断に至るほどの高熱を発し、電気火災の原因となることは上述した通りである。なお、接触端子60は、適正評価を行なった端子材料60aで構成してもよく、適正評価を行なっていない端子材料60aで構成してもよい。
【0045】
したがって、電源端子台50の評価方法によれば、従来の電源端子台50’の評価方法に比べ、実際の発熱現象に近い状態を再現できることになり、評価の信頼性が著しく向上することになる。また、電源端子台50や接続部の構成を改造することなく評価試験ができるので、余計な手間やコストを省略できることになる。
【0046】
以上のように、評価支援装置10を使用することにより、簡便かつ高確率で亜酸化銅を生成及び増殖することができ、亜酸化銅の生成の容易度を比較することで、端子材料60aの適正評価を行なうことができるだけでなく、生成された亜酸化銅を利用することで、接触端子60が組み込まれる電源端子台50の適正評価も行なうことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 モーター、2 回転軸、3 カム、4 第1アーム、5 第2アーム、6 アーム支持部、10 評価支援装置、20 銅線、21 配線、25 ステージ、50 電源端子台、50’ 電源端子台、51 配線、52 配線、55’ ヒータ、56’ ワニグチクリップ、60 接触端子、60’ 接触端子、60a 端子材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転駆動するモーターと、
前記回転軸に偏心して取り付けられ、前記回転軸の回転動作に伴い回転駆動するカムと、
先端部に銅線が設けられ、前記カムの回転動作によって上下左右に移動可能なアームと、
前記アームを支持するアーム支持部と、を有し、
前記カムの回転動作によって、前記銅線と配線に接続されている銅合金とを接触させて電気を導通させ、前記銅合金と前記銅線とを非接触にして電気の導通を遮断させる動作を所定回数繰り返し、前記銅合金と前記銅線との接続部近傍に亜酸化銅を生成させる
ことを特徴とする配線接続用銅合金の評価支援装置。
【請求項2】
前記銅合金と前記銅線とを接触させて電気を導通させた際の電流値を計測し、
前記電流値の変化により、
前記亜酸化銅が生成されたかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の配線接続用銅合金の評価支援装置。
【請求項3】
前記亜酸化銅が生成したと判断したとき、
前記モーターの回転動作を停止させ、前記亜酸化銅を増殖させる
ことを特徴とする請求項2に記載の配線接続用銅合金の評価支援装置。
【請求項4】
電流値、経過時間、又は、前記銅合金に与えた累積エネルギーの総和が、予め設定してある規定値以上となるまで前記亜酸化銅を増殖させる
ことを特徴とする請求項3に記載の配線接続用銅合金の評価支援装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の配線接続用銅合金の評価支援装置を用いて、
評価対象の銅合金に応じて変化する亜酸化銅の生成の容易度を比較することで、前記銅合金の耐火性を評価する
ことを特徴とする配線接続用銅合金の評価方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の配線接続用銅合金の評価支援装置で生成された亜酸化銅を、
電源端子台に搭載される接触端子と配線との接続部に設置して、前記配線を介して電気を導通することで、前記接触端子と前記配線との不完全接続による発熱を模擬し、前記電源端子台の耐火性を評価する
ことを特徴とする電源端子台の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−204449(P2011−204449A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70217(P2010−70217)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】