説明

酒類の精製方法

【課題】醸造酒、蒸留酒等の酒類から、独特の香りをより強く残したり癖のある味を残したりしつつ、アルデヒド類と無機塩類を除去する。
【解決手段】酒類20を、HSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂層14に通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂との混床層18に通液する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類、例えば穀物類などを原料として作られる醸造酒、蒸留酒等の精製方法に関し、特に穀物類を原料とした蒸留酒の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酒類には、主成分であるアルコールのほかに、香り成分、味成分、色素成分、ミネラル成分、アルデヒド類、無機塩類等が含まれている。これらの内のアルデヒド類、無機塩類は、精製によって除去することが好ましい。従来、酒類からアルデヒド類、無機塩類を除去するための精製装置として、イオン交換樹脂を用いた焼酎精製装置が知られている。特に、HSO3形強塩基性アニオン交換樹脂を用いたアルデヒド除去装置と、このアルデヒド除去装置の後段に設けられたH形強酸性カチオン交換樹脂およびOH形強塩基性アニオン交換樹脂の混床を用いた脱塩装置とからなる焼酎精製装置は広く用いられている(特許文献1)。この焼酎精製装置によれば、香りを若干は残しつつ、辛味、渋味、苦味を除去して軽快な飲み口の焼酎を得ることができる。
【0003】
最近では、いろいろな種類の本格焼酎が市場に出まわるにつれて、特徴的な香りや味を有する本格焼酎を好む人が増えてきた。しかし、前述した特許文献1記載の焼酎精製装置は、香り成分や味成分の除去性能が高いため、香りを強く残したり、癖のある味を残したりした焼酎の精製にはほとんど用いられていなかった。その理由は、H形強酸性カチオン交換樹脂とOH形強塩基性アニオン交換樹脂との混床を用いた脱塩装置を使用した場合、無機塩類の除去時に、香り成分である酢酸エチル等のエステル類や味を決める成分の一種である有機酸類も多く除去されてしまうからである。
【0004】
そのため、香りを強く残したり、癖のある味を残したりした焼酎を特許文献1記載の従来装置を用いて得ようとする場合は、エステル類や有機酸類の除去性能を下げるために、酒類とアルデヒド除去装置および脱塩装置のイオン交換樹脂層との接触時間を短くしたり、アルデヒド除去処理および脱塩処理を行った酒類と、これらの処理を行わない原液とを混合したりしていた。しかし、これらの方法では、アルデヒド類や無機塩類の除去が不十分になることがあった。
【0005】
これに対し、本発明者は、醸造酒、蒸留酒等の酒類から、独特の香りを強く残したり癖のある味を残したりしつつ、アルデヒド類と無機塩類を効果的に除去することができる酒類の精製方法として、酒類をHSO3形スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂層に通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂および遊離塩基形弱塩基性スチレン系またはアクリル系アニオン交換樹脂の混床層に通液する酒類の精製方法を提案している(特許文献2)。この方法によれば、精製後の酒類におけるエステルの残存量が格段に増える。
【0006】
【特許文献1】特公昭36−12194号公報
【特許文献2】特開2005−102554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の精製方法でも、酒類の独特の深みのある香りが依然として除去されることがあった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、醸造酒、蒸留酒等の酒類から、独特の香りを特許文献2の精製方法よりもさらに強く残したり癖のある味を残したりしつつ、アルデヒド類と無機塩類を効果的に除去することができる酒類の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するため、酒類をHSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂層に通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂との混床層に通液することを特徴とする酒類の精製方法を提供する。
【0010】
本発明の特徴は、前段のアルデヒド除去用のアニオン交換樹脂として、HSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂を用いるとともに、後段の脱塩用のアニオン交換樹脂として、遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂を用いた点にある。これにより、本発明では、精製後の酒類における香り成分や味成分の残存量、特に香り成分の残存量を多くすることができ、酒類の個性をより多く残しつつ、アルデヒド類と無機塩類を効果的に除去することが可能となる。
【0011】
すなわち、本発明では、精製に用いるアニオン交換樹脂を全てアクリル系樹脂に変更することで、疎水性の高い香り成分の除去率が低下するために、処理液に香りが強く残るものと考えられる。しかしながら、香りや味は微量成分の含有やマスキング成分の有無による影響もあるために、この考えは推測の範囲を超えていない。
【0012】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明では、前段のアルデヒド除去工程において、酒類をHSO3形(亜硫酸形)アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂層に通液する。上記HSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標、以下同じ)IRA458、IRA958、レバチット(登録商標、以下同じ)AP−247A、Purolite(登録商標、以下同じ)A−850等をHSO3形にしたものを用いることができる。
【0013】
本発明では、後段の脱塩工程において、酒類をH形強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂との混床層に通液する。上記H形強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIRA120B、IRA124、200CT、252、ダイヤイオンSK1B、SK112、PK212、PK216等を用いることができる。また、遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIRA67、ダイヤイオンWA10等を用いることができる。
【0014】
後段の脱塩工程におけるH形強酸性カチオン交換樹脂:遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂の容量比は、1:1〜1:4程度(ただし、容量比は強酸性カチオン交換樹脂はNa形基準、弱塩基性アニオン交換樹脂は遊離塩基形基準での比率)とすることが適当である。
【0015】
本発明において、各イオン交換樹脂層(HSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂層、H形強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂との混床層、以下同じ)への酒類の通液温度は、−10〜40℃の範囲とすることが望ましい。アルコール濃度にもよるが、通液温度が−10℃未満になると、液が凍ったり、液の粘性が増したりするため、酒類と樹脂との効率的な接触が行えなくなって、アルデヒド類や無機塩類の除去性能が低下する。通液温度が40℃を超えると、香り成分の蒸発や変性が起こるため望ましくない。
【0016】
また、本発明において、酒類の各イオン交換樹脂層への通液速度は、全樹脂量に対してSV0.1〜50の範囲とすることが好ましい。通液速度がSV0.1未満であると、単位時間あたりの処理液量が少なくなってしまう。通液速度がSV50を超えると、酒類と樹脂との効率的な接触が行えなくなって、アルデヒド類や無機塩類の除去性能が低下する。
【0017】
本発明によれば、原液から主にアルデヒド類と無機塩類が除去されるが、そのほかにアミノ酸類も除去されるため、本発明はアミノ酸類が多く含まれる醸造酒の精製よりも蒸留酒の精製に適している。特に、減圧蒸留よりも香りが強く残る常圧蒸留による蒸留酒の精製に適している。しかし、近年では窒素成分をほとんど含まないほど精製した穀物原料を醸造した酒類、例えば吟醸酒などもあり、これらの場合には本発明による精製を行っても求める味によっては問題がないと考えられる。なお、上記酒類の穀物原料としては、例えば、麦、芋、米、そば、黒糖、ごま、とうもろこし、こうりゃん、粟および酒粕から選ばれる1種以上が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、酒類の原液の香りをより強く残したり、独特の癖のある味を残したりしつつ、酒類の原液からアルデヒド類および無機塩類を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の実施に用いる酒類の精製装置の一例を示すフロー図である。図1において、10は濾過器、12はHSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂の単床層14を備えたイオン交換装置(アルデヒド除去装置)、16はH形強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂との混床層18を備えたイオン交換装置(脱塩装置)を示す。本例の精製装置は、酒類の原液20を濾過器10、アルデヒド除去装置12、脱塩装置16に順次通液することにより、アルデヒド類および無機塩類が除去された処理液22を得るものである。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
日本の焼酎よりも香りの強い蒸留酒である二鍋頭酒(中国産白酒の一種)の原液を、HSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂層(アンバーライトIRA458にNaHSO3溶液を通液してHSO3形にしたもの)60mlに通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトIR120B)20mlと遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂(アンバーライトIRA67)40mlとの混床層に通液温度20℃、通液速度300ml/hrで1500ml通液した。原液と処理液の分析結果および官能評価を表1に示す。なお、官能評価では、6名のパネルによる官能試験によって香りおよび口当たりを評価した。
【0022】
(比較例1:特許文献2の方法)
実施例1と同じ二鍋頭酒の原液を、HSO3形スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂層(アンバーライトIRA404にNaHSO3溶液を通液してHSO3形にしたもの)60mlに通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトIR120B)20mlと遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂(アンバーライトIRA67)40mlとの混床層に実施例1と同じ条件通液した。原液と処理液の分析結果および官能評価を表1に示す。
【0023】
(比較例2:特許文献1の方法)
実施例1と同じ二鍋頭酒の原液を、HSO3形スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂層(アンバーライトIRA404にNaHSO3溶液を通液してHSO3形にしたもの)60mlに通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトIR120B)20mlと遊離塩基形スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL)40mlとの混床層に実施例1と同じ条件で通液した。原液と処理液の分析結果および官能評価を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
本実験結果より、アルデヒド除去用アニオン交換樹脂としてHSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂、脱塩用アニオン交換樹脂として遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂を用いた本発明によれば、脱塩用アニオン交換樹脂としてOH形強塩基性アニオン交換樹脂を用いた特許文献1の方法(比較例2)と同様にアルデヒド類や導電性の塩類を除去できること、また、アルデヒド除去用アニオン交換樹脂としてHSO3形スチレン系強塩基性アニオン交換樹脂を用いた特許文献2の方法(比較例1)に比べてより強く香りを残した処理を行えることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施に用いる酒類の精製装置の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0027】
10 濾過器
12 アルデヒド除去装置
14 強塩基性アニオン交換樹脂の単床層
16 脱塩装置
18 強酸性カチオン交換樹脂と弱塩基性アニオン交換樹脂の混床層
20 原液
22 処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒類をHSO3形アクリル系強塩基性アニオン交換樹脂層に通液した後に、H形強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形アクリル系弱塩基性アニオン交換樹脂との混床層に通液することを特徴とする酒類の精製方法。
【請求項2】
酒類が蒸留酒類であることを特徴とする請求項1に記載の酒類の精製方法。
【請求項3】
蒸留酒類の原料が麦、芋、米、そば、黒糖、ごま、とうもろこし、こうりゃん、粟および酒粕から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の酒類の精製方法。

【図1】
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