説明

酢酸ビニルの製造方法

本発明の主題は、1つの反応器中でエチレンを酢酸及び酸素と反応させ、及び
a) 主に、エチレン、酢酸ビニル、酢酸、水、二酸化炭素及び他の不活性ガスを含有する生成物ガス流を分離し、及び
b) エチレン及びCO2を含有する循環ガス流を、前記反応器中に返送し、その際、
c) 前記循環ガス流を、前記反応器中へ返送する前に、循環ガス圧縮機で圧縮し、及び
d) 前記循環ガスの部分流を前記循環ガス圧縮機の吸込側又は圧縮側に分岐させ、CO2スクラビングに供給し、及び
e) 前記CO2スクラビングの前に、ウォータースクラバー中で洗浄することによる不均一系触媒を用いた連続気相プロセスでの酢酸ビニルの製造方法において、
f) 前記部分流を、前記CO2スクラビングの後に噴射式圧縮機によって、噴射ガスとしてのエチレンと一緒に、前記循環ガス圧縮機の圧縮側でかつCO2スクラビングのための部分流の取り出し部の下流側で、前記循環ガスに供給し、及び/又は
g) 前記塔底生成物を前記ウォータースクラバーから直接、前脱水塔に供給する、
ことを特徴とする、酢酸ビニルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの反応器中でエチレンを酢酸及び酸素と反応させ、この場合に得られた生成物流の後処理がエネルギー的に最適化される、不均一系触媒を用いた連続的な気相プロセスでの酢酸ビニルの製造方法に関する。
【0002】
酢酸ビニルは、精製された生成物流を返送しながら連続的方法で製造される(循環ガスシステム)。この場合、不均一系触媒を用いた気相プロセスにおいて、エチレンを酢酸及び酸素と、固定床触媒にて反応させ、この固定床触媒は一般にパラジウム塩及びアルカリ金属塩を担体材料上に含み、さらに金、ロジウム又はカドミウムがドープされていてもよい。
【0003】
出発物質のエチレン、酸素及び酢酸は、発熱反応で、一般に1〜30barの圧力で、130℃〜200℃の温度で、固定床管状反応器(又は流動層反応器)中で酢酸ビニルに変換される:
24 + CH3COOH + 1/2 O2 → CH3COOCH=CH2 +H2
副反応の場合には、エチレンはCO2に酸化される:
24 + 3 O2 → 2 CO2 + 2 H2
酢酸ビニルの製造の場合に、主にエチレン、二酸化炭素、エタン、窒素及び酸素からなるガス混合物を循環させる。このガス流に、固定床管状反応器の前方で、反応体の酢酸、エチレン及び酸素を添加し、熱蒸気で運転される熱交換器を用いて反応温度にもたらされる。この循環ガスに酢酸を添加することは、固定床管状反応器の前方で、通常では、熱蒸気で運転される酢酸飽和装置(酢酸蒸発器)を用いて行われる。
【0004】
この反応器から搬出される生成物流は、主に、酢酸ビニル、エチレン、酢酸、水、酸素、CO2並びに不活性ガスの窒素、アルゴン、メタン及びエタンを含有する。この反応後に、反応生成物の酢酸ビニル、未反応の酢酸、水及び他の凝縮可能な成分を、循環ガスから凝縮し、後処理に供給する。凝縮されない酢酸ビニルは、酢酸を用いて運転されるスクラバー中で洗浄される。凝縮された生成物の酢酸ビニル及び水、並びに未反応の酢酸は、多様な、通常では熱蒸気で運転される蒸留プロセス中で互いに分離され、残留するエチレン含有の循環ガスは圧縮後に返送される。
【0005】
循環ガスの部分流を、反応器中へ返送する前に、循環ガス圧縮機の圧縮側に分岐させ、CO2除去のためにCO2スクラバー(CO2吸収/脱着)に供給し、CO2除去後に再び上記圧縮機の吸込側に返送する。このCO2除去の前にこの部分流を通常では塔(ウォータースクラバー)中で酢酸及び水の添加により酢酸ビニルを除去する。この塔の、水、酢酸及びVAMを含有する塔底生成物は、プロセス蒸気で加熱される共沸塔中で分離される。
【0006】
CO2スクラビングのためのプロセス工程の場合に、この部分流をスクラビングの際に生じる圧力損失に基づき吸込側に返送することが必要となることが問題であり、この全体の部分流をもう一回圧縮しなければならないことが欠点である(圧縮機の付加的な負荷)。この吸込側への返送は、このために、すでに精製された部分流の圧縮の後に、再び精製されていない循環流に供給し、部分的に再びCO2スクラビングに供給することを必要とする。
【0007】
CO2スクラビングのために今まで実施されたプロセス工程の他の欠点は、このスクラビングの後に循環ガススクラバー中に生じる粗製酢酸ビニルの共沸塔中での分離のためのエネルギーコストである。
【0008】
この背景から、CO2スクラビングのために分岐される部分流の後処理をエネルギー的に最適化するという課題が生じた。
【0009】
DE 10 2006 038 689 A1からは、CO2スクラビングの際に二酸化炭素脱着器から得られた水蒸気により飽和されたCO2流の熱量単位を、純酢酸ビニル塔(Reinvinylacetatkolonne)の塔底の加熱のために使用することは公知である。この場合、ガス状の伝熱媒体の使用の際に熱伝達が悪いことが問題である。さらに、このCO2流の熱量単位は、水蒸気の割合が比較的低いために、極めて低い。
【0010】
本発明の主題は、1つの反応器中でエチレンを酢酸及び酸素と反応させ、及び
a) 主に、エチレン、酢酸ビニル、酢酸、水、二酸化炭素及び他の不活性ガスを含有する生成物ガス流を分離し、及び
b) エチレン及びCO2を含有する循環ガス流を、前記反応器中に返送し、その際、
c) 前記循環ガス流を、反応器中へ返送する前に、循環ガス圧縮機で圧縮し、及び
d) 前記循環ガスの部分流を循環ガス圧縮機の吸込側又は圧縮側に分岐させ、CO2スクラビングに供給し、及び
e) 前記CO2スクラビングの前に、ウォータースクラバー中で洗浄することによる不均一系触媒を用いた連続気相プロセスでの酢酸ビニルの製造方法において、
f) 前記部分流を、前記CO2スクラビングの後に噴射式圧縮機によって、噴射ガスとしてのエチレンと一緒に、前記循環ガス圧縮機の圧縮側でかつCO2スクラビングのための部分流の取り出し部の下流側で、前記循環ガスに供給し、及び/又は
g) 前記塔底生成物を前記ウォータースクラバーから直接、前脱水塔に供給する、
ことを特徴とする、酢酸ビニルの製造方法である。
【0011】
酢酸ビニルの連続的製造の場合、有利に、固定床触媒で被覆されている管状反応器中で作業する。この触媒は、一般に、貴金属(塩)及び助触媒でドープされた担体触媒、例えばパラジウム及び金及びカリウム塩でドープされたベントナイト球である。この反応器には、エチレン、酸素及び酢酸が供給され、この反応は有利に8〜12bar絶対の圧力で、かつ有利に130℃〜200℃の温度で実施される。
【0012】
有利に固定床管状反応器中での130℃〜200℃の反応温度は、沸騰水冷却を用いて1〜30bar絶対の圧力で調節される。この場合、120℃〜185℃の温度で、1〜10bar絶対、有利に2.5〜5bar絶対の圧力で、水蒸気、いわゆる内部蒸気(Eigendampf)が形成される。この反応器から搬出される生成物流は、主に、酢酸ビニル、エチレン、酢酸、水、酸素、CO2並びに不活性ガスの窒素、アルゴン、メタン及びエタンを含有する。
【0013】
一般に、固定床管状反応器から搬出されるガス混合物は前脱水塔中に導入され、この塔の塔底で生じる液相、主に酢酸ビニル、酢酸、酢酸エチル及び水は、粗製酢酸ビニル捕集容器に供給される。後方に配置された共沸塔中で、塔頂生成物として酢酸ビニルモノマー(VAM)及び水に、塔底生成物として酢酸に分離される。この酢酸は、酢酸飽和装置中に導入され、このプロセス中に返送される。塔頂生成物として取り出されたVAMは、脱水塔を介して純酢酸ビニル塔に送られ、そこでVAM及び酢酸に分離される。
【0014】
前脱水塔の塔頂で取り出されたガス状の生成物混合物は、主にエチレンとCO2とからなり、この生成物混合物は循環ガススクラバー中で全ての凝縮可能な成分を除去される。循環ガススクラバーの塔頂で取り出された循環ガス流を、循環ガス圧縮機中で、反応循環路中で生じる有害な圧力損失を補償するために圧縮し、再び循環ガスとして上記の反応器内へ返送する。この循環ガスの圧力水準は、有利に8〜12bar絶対である。凝縮可能な割合の酢酸ビニル、酢酸及び水を循環ガススクラバー中で分離した後に、この循環ガスは有利に12〜18体積%のCO2を含有する。
【0015】
この循環ガスの部分流は、循環ガス圧縮機の吸込側又は圧縮側で、有利に圧縮側で分岐させ、CO2除去のためにCO2スクラビングに供給し、CO2除去後に再び圧縮側で圧縮機に返送される。循環ガス圧縮機で取り出された部分流は、全体の循環ガスの約8〜12体積%である。分岐の後でかつCO2スクラビングの前に、この取り出された部分流を塔(ウォータースクラバー)中で水及び酢酸の供給下で洗浄する。この液体の塔底生成物を粗製酢酸ビニル容器中に捕集することができ、後方に配置された共沸塔中で分離することができる。このウォータースクラバーのガス状の塔頂生成物である、主にエチレン及びCO2を、CO2スクラビングに供給する。
【0016】
この循環ガス部分流(ウォータースクラバーの塔頂生成物)は、有利に炭酸カリウム水溶液で運転されるCO2吸収/脱着内に案内される。CO2スクラビングの後に、この循環ガス部分流は、有利に2〜6体積%のCO2を含有する。循環ガススクラビング及びCO2吸収/脱着の後の圧力損失は、一般に2〜4barである。
【0017】
この循環ガス部分流は、CO2スクラビングの後に、循環ガス圧縮機の圧縮側で、かつCO2スクラビングのための部分流の取り出し箇所の下流側で、循環ガス流中へ返送される。この圧力損失の補償のために、この循環ガス部分流を、前記精油所から20〜25bar絶対の圧力で生じるエチレンを用いて、この循環ガスの圧力を有利に0.5〜2bar上回る圧力水準にもたらし、この循環ガス流に供給する。有利に、この循環ガス部分流は必要量のエチレンと共に、噴流式圧縮機(エジェクタ、インジェクタ)を介して、有利に吸収ノズルに供給される。有利な実施態様の場合に、反応器の前で循環ガスに供給される全体のエチレン供給物を、噴流式圧縮機を介して供給するように行うこともできる。
【0018】
循環ガス部分流の返送のこの方法とは別に、又はこれに対してさらに、本発明の場合にウォータースクラバーの運転をCO2吸収/脱着の前に配置するように行うこともできる。このウォータースクラバーは、有利に8〜12bar絶対の圧力で、有利に18〜30℃の温度で運転される。この循環ガス部分流は、ウォータースクラバー中で、酢酸を用いて、VAMが除去され、水を用いて、同伴された酢酸が除去される。この塔頂では、循環ガス部分流のガス状の残留割合が取り出され、CO2スクラビングに供給される。
【0019】
本発明によるこの変更の場合に、ウォータースクラバーの塔底で生じる液相の、主に酢酸ビニル、酢酸、酢酸エチル及び水は、もはや粗製酢酸ビニル捕集容器中に供給せずにかつ共沸蒸留塔中で分離せずに、前脱水塔に直接供給される。有利に、この塔底生成物は、この場合、熱交換により反応器から排出されたガス状の生成物流を用いて温められる。この前脱水塔中では、外部の蒸気を使用せずに、VAM−水−共沸混合物を得て、引き続き相分離器中で分離させる。ウォータースクラバーに供給される水の除去のためにこの手段を用いて達成される蒸気の節約は、約2:1の蒸気/水の質量比である。この手段を用いて、大規模工業プラント中で、1時間当たり水300〜500kgの水流で、1時間当たり約1トンの蒸気の節約を共沸塔に関して達成される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】このプロセスの概略図を示す:
【0021】
エチレン含有の循環ガスは、酢酸飽和装置1中で酢酸を用いて送られ、その後で酸素を添加し、蒸気で加熱された導管2を介して管状反応器3に供給した。この反応器から搬出された、主にエチレン、酢酸ビニル、酢酸、二酸化炭素、酸素並びに不活性ガスを含有する循環ガス混合物を、導管4を介して前脱水塔5に供給した。この前脱水塔5中でこのガス混合物を分離し、その際、主にVAM、酢酸及び水を有する塔底生成物は導管8を介して粗製酢酸ビニル容器17に供給し、導管18を介して共沸塔19に移した後にVAM画分と酢酸画分に分離し、これらをそれぞれ図示されていないプロセス工程でさらに後処理した。
【0022】
この前脱水塔5の塔頂生成物を取り出し、後方に配置された循環ガススクラバー6中で酢酸を用いて洗浄することによりガス状のVAMを分離した。このガス混合物(循環ガス)は、循環ガススクラビングの後で、主に、約12体積%含有されるCO2割合を有するエチレンからなり、循環ガス圧縮機7で約3bar高く圧縮した。この循環ガスの大部分を、導管14を介して酢酸飽和装置1中に返送した。
【0023】
この循環ガスの約12質量%の割合を、この循環ガス圧縮機7の圧縮側に分岐し、導管8を介してウォータースクラバー9に移し、そこで残りの酢酸ビニルを除去するために、酢酸及び引き続き水で処理した。酢酸、水及び酢酸ビニルを含有する塔底生成物を、導管15を介して前脱水塔5中へ直接導入した。(この破線で示す導管16は、先行技術において通常の実施態様を示し、この場合、ウォータースクラバー9の塔底生成物を粗製酢酸ビニル容器17へ移し、引き続き共沸塔19で分離される)。
【0024】
このウォータースクラバー9の塔頂生成物を、導管10を介して、CO2スクラバー11に移し、これを通常の方法で、炭酸カリウムが充填された吸収ユニット及び脱着器を介して供給する。CO2スクラビングの後に、この循環ガス部分流は2体積%のCO2含有量及び9〜11bar絶対の圧力を有していた。この循環ガス導管14中へ導管12を介して返送する前に、噴流式吸引器13を介して、全体のエチレン供給物を20〜25bar絶対の圧力で吸引する。
【0025】
この循環ガス圧縮機7でのエネルギー節約は、1年当たり約1000MWhであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの反応器中でエチレンを酢酸及び酸素と反応させ、及び
a) 主に、エチレン、酢酸ビニル、酢酸、水、二酸化炭素及び他の不活性ガスを含有する生成物ガス流を分離し、及び
b) エチレン及びCO2を含有する循環ガス流を、前記反応器中に返送し、その際、
c) 前記循環ガス流を、反応器中へ返送する前に、循環ガス圧縮機で圧縮し、及び
d) 前記循環ガスの部分流を前記循環ガス圧縮機の吸込側又は圧縮側に分岐させ、CO2スクラビングに供給し、及び
e) 前記CO2スクラビングの前に、ウォータースクラバー中で洗浄することによる不均一系触媒を用いた連続気相プロセスでの酢酸ビニルの製造方法において、
f) 前記部分流を、前記CO2スクラビングの後に噴射式圧縮機によって、噴射ガスとしてのエチレンと一緒に、前記循環ガス圧縮機の圧縮側でかつCO2スクラビングのための部分流の取り出し部の下流側で、前記循環ガスに供給し、及び/又は
g) 前記塔底生成物を前記ウォータースクラバーから直接、前脱水塔に供給する、
ことを特徴とする、酢酸ビニルの製造方法。
【請求項2】
f) 前記部分流を、CO2スクラビングの後に噴流式圧縮機によって、噴射ガスとしてのエチレンと一緒に、前記循環ガス圧縮機の圧縮側でかつCO2スクラビングのための部分流の取り出し部の下流側で、前記循環ガスに供給するか、
又は
g) 前記塔底生成物を前記ウォータースクラバーから直接、前脱水塔に供給することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
f) 前記部分流を、CO2スクラビングの後に噴流式圧縮機によって、噴射ガスとしてのエチレンと一緒に、前記循環ガス圧縮機の圧縮側でかつCO2スクラビングのための部分流の取り出し部の下流側で、前記循環ガスに供給し、
及び
g) 前記塔底生成物を前記ウォータースクラバーから直接、前脱水塔に供給することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記反応器の前方で前記循環ガス流に供給される全体のエチレン供給物を、噴流式圧縮機を用いて供給することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ウォータースクラバーからの前記塔底精製物を、前記循環ガスを用いる熱交換器で加熱し、前記前脱水塔に供給することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−524757(P2012−524757A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506502(P2012−506502)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055348
【国際公開番号】WO2010/124985
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】